リプレイ
フルルズン・イスルーン
んー、懐かしいようなそうでもないような。
北欧じゃないからかな?
とりあえずそうだねぇ、土地を肥やしつつ行ってみようか。
プロト・ゴーレムくん出番だよー。
まずは、ゴーレムくんの錬成と同時にゴーレムくんを作る素材で氷の壁の下をくり抜く。壁下トンネル!
ちゃんと地面下まで施工してたら、「やるではないか!」と氷の壁を作った術者を褒めて、ゴーレムくんでバキバキと壁を破壊。
村についたら、開口一番。
「壊れたものはないかー! 直したいものはあるかー! 全部修理するぞー!」
と呼びかけて、拠点構築、発明、アート、砂使いを駆使して取り組むのだ。
一度負けて忘れられてるから信頼もなにもないもんね。
真摯に声をかけるしか無いさ。
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携、アドリブ歓迎
雪上迷彩のロングコートに帽子、手袋で防寒対策
荷物には持てるだけの登山用ブランケットを入れておく
偵察以来のロシアだ……ここから本格的に攻略開始か
様子が明らかになってみれば、やはりクロノヴェーダは碌なことをしでかさないな
一番権力を握らせてはいけないタイプを……地で行くとは
不必要な痛み、苦しみを生みだすか
どこぞのゾルダートを思い出す
……必ず、解放しよう
氷壁の対処へ
【平穏結界】を展開、仲間達の壁越えを支援しよう
壁の下方に一人分の穴を空けたい
皆の安全確保し
装備使用
炎の力籠めた塗料をクロスボウの矢に番え
火炎使いで火力集中させつつ壁を局所破壊
グレネードも検討
仲間の策を手伝う
村人挨拶を
リップ・ハップ
クソだな
あいつら趣味まで最悪と来てる
まそれがここの吸血鬼共の性質なのはわかっけど、んなことまで知らねーよ
反吐が出る分、倍乗せでぶっ潰してやる
ちこーっとね。私一人通れる分だけ氷壁はぶっ壊す【破壊】【粉砕】【解体】
いやマジでちこっとだから。加減すっから。とりまデコピン辺りから徐々に上げてって……
中入ったら住民と接触しつつ情報収集
今にも愛が凍えちまいそうになってるやつがいねいか、限界来そうな家庭がねいか、そいを探る
一緒に、会う住人にゃハグをプレゼント
寒さに参っちまってんならせめて私の熱を、愛を分けてやる
愛が凍えちまったとして、でもそいは無くなったわけじゃねい
大丈夫、愛はそんなにやわじゃねいよ
レナータ・ペトリェンコ
連携・アドリブ歓迎
村人同士を裏切らせ引き裂いて容易に抗えないようにしていると…
とんだ外道もいたものです
介入しましょうか
事前に防水マッチや大きめの耐寒コート等を何着か持っていきます
サイズが合わなくてもブランケット代わりに纏えば寒さを凌げるはずです
私はこのジャケットが耐寒用なので
静かに近づきつつ氷壁はブラッククローバーで”破壊”してさっさと通ります
中では情報収集です
村人を見つけてお手伝いを
物を一緒に運ぶも、家屋の簡単な修理などお手伝いをしたりで地道に信頼を得ます
信頼を得られたなら
何が起こっているのか、今必要なものなどを聞きます
食糧、耐寒などの事情や他の人の事情等を聞けるといいですね
下準備はしっかり
レイラ・イグラーナ
裏切りを促し結束を揺らがすことも、自分ひとりであれば楽になれる道を残すことも、人民に団結をさせず支配するには良い手段ですね。
その支配、私たちという異物が街に入り込んでもなお揺らがぬものか試して差し上げます。
【コウモリ変身】で氷の壁を飛び越え街へ侵入し、内周街と外周街で手が足りなさそうな方へ向かいます。
新宿島で仕入れた食べ物やカイロを配りながら、しばらくしたら広場で大々的に物資の配布をするとお伝えして次への布石を打ちます。
他の方のところも回る必要がありますから今お渡しできるのはこれだけですけれど、この後広場で同志たちと規模を増やした物資の配布を行います。そちらにもぜひいらしてください。
茶神・十愛
――愛を裏切った代償は大きいと教わりました。
だからこその分断、だけど。
それを仕組んだ人がいるのならば。
……止めないと。
まずは潜入ですね。バレにくさ重視で、氷壁は透明度の低いところを選んで木とかの影になってる部分にイグジストハッキングで静かに穴をあけましょう。クラック……分解。
皆さんも寒い思いをしてるでしょうから寒さ対策はほどほどに、目立たない服装で。
凍ってないパンをいくつかと、日持ちのいいお砂糖を持ち込みましょう。派手な交流は残りのディアボロスに任せて、わたしは苦しそうな方にこちらから声掛けを。お話を聞かせてもらうとっかかりになれば。
今はこれだけですが、この先、もっと沢山持ってきますから……!
●
陽も見えぬ薄曇り。吹き荒れる風で周囲は白く煙り、時さえも不明瞭になる。パラドクストレインはすぐに白い闇へと消え、吐息は白く凍てついて肌は針を刺すようにかじかむ。
「んー、この空気、この景色……懐かしいようなそうでもないような。北欧じゃないからかな?」
フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)が周囲を見渡して、仲間たちの位置を確認する。復讐者に救援機動力が無ければ、すぐ側を歩む仲間とさえはぐれてしまいそうだ。
「とりあえずそうだねぇ、土地を肥やしつつ行ってみようか。プロト・ゴーレムくん出番だよー」
目を閉じて土なる者へと呼びかけると、凍てついた地表にひびが入る。氷を割って出て来るのは、岩石や土で作られたゴーレム。白い縞の入った土像は仲間たちの先頭へ出て、向こう風に歩み始める。
(「……んー、出来上がったゴーレムくんを見る限り、里の周辺は積った雪と永久凍土か。街の中に畑があるなら、その辺には効果あるかな」)
しかし、周辺の大地への効き目は薄そうだ。問題は土ではなく、寒さでそれが凍ることにある。
それを確かめると、フルルズンはゴーレムを仲間たちの先頭に立たせた。エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)を始め、仲間たちはゴーレムの背に入って、深く息を吐いた。
「ありがとう。幾分か寒さが和らぐよ」
ぎゅっとコートの襟を握る。皆、防寒対策は整えてきたが、この寒さは肺が痛いほどだ。
「偵察以来のロシア……ここから本格的に攻略開始だが。様子が明らかになってみれば、これか」
「クソだな。あいつら趣味まで最悪と来てる。ま、それがここの吸血鬼共の性質なのはわかっけど、んなことまで知らねーよ」
反吐が出る、と、リップ・ハップ(Reaper Harper・g00122)が舌を打つ。本当に唾棄したところで、この地ではそれさえも凍て付くのだが。
「ああ。やはりクロノヴェーダは碌なことをしでかさないな。一番権力を握らせてはいけないタイプを……地で行くとは」
やがて前面に、聳える壁が見え始める。かつての復讐者がアイスクラフトで作り上げたもの。現代技術を用いたとしても創造不可能だろう氷壁が、凍てついた滝のように行く先を塞いでいた。
レナータ・ペトリェンコ(“Klyk”(クルィーク)・g01229)が、耐寒ジャケットの襟を立てながら目を細める。
「この向こう。隔絶された世界の中で、村人同士を裏切らせ引き裂いて容易に抗えないようにしていると……とんだ外道もいたものです」
「裏切りを促し結束を揺らがすことも、自分ひとりであれば楽になれる道を残すことも、人民に団結をさせずに支配するには良い手段ですからね」
冷えた目を伏せたまま、レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)がぽつりと漏らす。その言葉を受けて、茶神・十愛(イニシャライズペインター・g00682)はこの地の人々の過酷な運命を嘆くように目を閉じる。
「……愛を裏切った代償は大きいと教わりました。だからこその分断、だけど。それを仕組んだ人がいるのならば……止めないと」
そうでしょう? と問うた十愛に、仲間たちは強い決意を返す。
レイラが顔を上げた時には、復讐者たちの瞳には静かに燃える火が灯っていた。
「ええ。その支配、私たちという異物が街に入り込んでもなお揺らがぬものか試して差し上げます」
「では……介入を始めましょうか」
レナータの一言で、各々は氷壁へと挑みかかる。まずは、この壁を超えなければならない。
●
氷壁は凄まじく高く、そして途切れることなく続いている。パラドクスで保全されているわけではないが、この気温では溶けることがないのだ。まさしく街を護る城壁であり、同時に外界から隔絶する檻とも言えた。
「まずは潜入ですね。バレにくさ重視で行きましょう。氷壁の透明度は……」
十愛が表面に積った雪を掃って氷壁を透かし見る。だが向こう側は全く見えず、青白い闇が光を呑み込むばかり。相当に分厚いようだ。
「内側の様子は不明。抜けた先に遮蔽があるかもわからないとなれば……地下から壁を潜るように穴をあけるのが賢明ですね。クラック……分解、開始します」
大地に向けて広げた手が、イグジストハッキングで凍てついた雪を分解していく。やがて凍土の底土が露わになると、そこで分解は止まった。
「よーし、土が見えたな。じゃ、まずは穴を掘るぞ。壁下トンネルだ、ゴーレムくん!」
フルルズンの合図で土人形たちが更に数を増やし、大地を掘り始める。本来は、戦闘よりもこういった大雑把な土木作業などをさせるものが伝承上のゴーレムだ。さすがに穴掘りの速度は速い。
が、ちょうどいいところでゴーレムが穴から顔を出し、ふるふると首を振った。
「お? 地面下まで施工してあった? 設計した術師も、やるではないか!」
ふふん、と鼻を鳴らしてフルルズンは施工者を褒める。と言ってもそれは、この時代でクロノヴェーダに抗った復讐者であるから、広い目で見ればかつての仲間。彼らは隙のない拠点を構築していたようだ。数メートル下の地下に潜れば、確かにそこにも硬い氷の壁が顔を出している。
派手に砕くと音が出るだろうか? と、フルルズンが少し悩んだところで、リップが氷壁に手を添えた。
「地面下までの施工つーか、土台じゃねーかね、これは。んじゃ、こっからはちこーっと、一人が通れる分だけぶっ壊していくか。加減しつつ、慎重に……」
「助勢する。隠匿は任せてくれ」
エトヴァがその翼を広げると、平穏結界が周囲を覆っていく。周辺から気配が絶えて、自分たちの存在自体が霞み始めたのを感じ取って、エトヴァは銃を抜いた。
「お、助かるね。加減すっけど、マジでちこっとって難しいから。とりまデコピン辺りから徐々に上げてって……」
身構えたリップの体から発する熱が急激に上昇していく。少女の体内を巡る血流が赤熱し、吐く息が蒸気と化して水気と弾ける。踊るように振るった一撃が氷壁に突き刺さると、そこからすさまじい白煙が溢れ出した。
「よっし、いい感じ! さあ、静かに溶けていけよー……あちち! その辺の硬いの頼む」
「任せてください。砕きます」
レナータが横から入り、愛用の金梃を振り下ろす。亀裂が穿たれた以上、ガンガン砕いていくのが速いとばかりに、彼女はエトヴァの銃と共に白く煙る熱の中でどんどん氷を砕いていく。砕けた破片は、フルルズンのゴーレムたちがぽいぽいと外へ放り投げる。
快調に進む掘削作業の現場に、一匹の蝙蝠が飛んできた。すぐさまその姿はレイラのものへと変わって。
「あと、五メートルほど掘り進んでください。廃小屋の後ろに出られるので、目立たないと思われます」
「コウモリ変身ですか?」
「ええ。夜間ならそのまま潜入も考えましたが、日があるうちは目立ちそうですからね」
蝙蝠の姿で壁を上から乗り超えた彼女は、一足先に内部を偵察したのだ。
全員の力を合わせて氷壁を溶かし、土をくり抜いて上への穴を開く。
頷き合った復讐者たちは、壁の向こうへと滑り込んだ。
●
「人に接触しないといけない。平穏結界を解くぞ」
エトヴァが言うと、舞台の幕を上げるように復讐者たちの気配が明瞭になった。
吹きすさぶ白闇は、街の中には見当たらない。風が遮られて熱がこもった結果、壁外と比べればぎりぎりで人が住める体感気温になってはいる。しかしそれでも、凍えるような温度には変わりがない。周囲には畑が広がっているが、この冷えた土地ではそれほど多くの実りは得られないだろう。弱々しく項垂れる草木があるばかりだ。
「これは……」
人家と思しき影に近づいていくと、その中に虚ろな目を伏せて俯く人々が見えた。何故、家の外から中が見えるのかと言えば、もうそれは家というよりその形骸に近かったからだ。それでも人々はどうにか暖を取るべく、無言のまま身を寄せ合っている。
床板や壁板は、少しずつ切り崩して燃やされているようだが、火を熾す道具自体がほとんどないようだった。燃料が尽きるか、先に体力が尽きるか……いずれにしても待ち受けるのは凍え死ぬさだめのみ。道端には、すでに息絶えたまま何日も放置されているのだろう、凍てついた人の身体が転がっていて、埋葬されることもないままになっていた。
(「不必要な痛み、苦しみを生みだすか。どこぞのゾルダートを思い出す……」)
エトヴァが、痛々しい様子に眉を寄せた時だった。不意に、少年が声を掛けてきたのは。
「おにいさんたち……だれ?」
「やあ。こんにちは。みんな随分と寒そうにしているね」
「うん……ぼくたちは、家族に捨てられたんだって」
その目には運命を受け入れた者特有の諦観が宿るばかり。リップは、小さな命をそっと抱きしめた。手から伝わってくる熱はほとんどない。少年の体は、冷え切っていた。
「寒さに参っちまってんな。せめて私の熱を分けてやるよ」
「おねえさん、あったかいや……」
(「愛が凍えちまったとして、でもそれは無くなったわけじゃねい。愛はそんなにやわじゃねいよ。それを証明してやる」)
痛ましい姿に、復讐者たちの舌の上に苦い味が走る。
「何をしに来たの……あなたたちは誰……」
ゆらりと現れた影は、少年の母親だろうか。その背後から、外周街の人々が居並んでやって来る。その目を一様に暗い絶望に染めて。
「皆さんを助けに来た。この寒さ、苦しさから、必ず、解放しよう」
エトヴァの第一声に続いて、レナータが声を張り上げる。
「私たちは外から来ました。今、ここでは何が起こっているのでしょう。必要なものはありますか。食糧や耐寒装備、マッチもありますよ」
「た、食べものだと?」
「マッチ? マッチがあるのか!」
その一言で、数人が顔を上げた。
十愛とレイラが荷物を置く。その中から取り出すのは食料や耐寒具だ。
「わたしは凍ってないパンをいくつかと、日持ちのいいお砂糖を持ってきました。今はこれだけですが、この先、もっと沢山持ってきますから……!」
「こちらはカイロです。他の方のところも回る必要がありますから今お渡しできるのはこれだけですけれど……この後は同志たちと規模を増やした物資の配布を行おうと思います」
更に工具を広げたフルルズンが続ける。
「壊れたものはないかー! 直したいものはあるかー! 全部修理するぞー! ……って、まず材料が必要かな、これは」
人々がざわつきながら集まって来る。疑うような目をしつつも、目の前に出された温かい食事や、ぬくい懐炉の誘惑に抗える者などいない。魔法瓶に入っているスープを一口啜って、涙を流す者もいる。先ほどの少年とその母も、震える手で食事を貪っていた。
微かな癒しと、そして悲痛さを感じる光景に復讐者たちは顔を見合わせる。
だが、少年の母はやつれきった視線を落としながら、こう言った。
「それで……今度は誰を売り渡せばいいの……?」
後ろ暗い気持ちを抱えながら、人々は虚ろな目を向ける。
その瞳にはまだ、希望はない……。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【土壌改良】LV1が発生!
【平穏結界】LV1が発生!
【熱波の支配者】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【コウモリ変身】LV1が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV2が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV2が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
●
外周街の人々は、上目遣いに復讐者たちを見る。卑屈に歪み、罪悪感や怯えに曇った眼で。
「あなたたちも、施しをした後は何かを命じて来るんでしょ?」
「だ、誰を売り渡せばいいんだ。ここは街の一番外側だ……」
「どいつか、壁の外にでも放り出せばいいか……? そしたら、屋根や壁のある家に戻してもらえるか?」
人々は暗い目でそう尋ねる。食事や暖かな寝床の代償に、裏切りを強要されることが、この街の人々に植え付けられた共通認識。思いやりや友愛は圧し潰され、希望が尽きかかっている。
「そこの人たち! 何をしている……!」
否定しようとした時、街の奥から十人ほどの影がやって来た。襤褸よりもまともな服を着た人々だ。その一行を率いる一人は、金糸で刺繍が施された煌びやかな衣裳を纏っていた。恐らく、まだまともな内周街に住む人々と、館の使用人だろう。全て人間で、クロノヴェーダは一人もいない。
「パパ……」
使用人は、襤褸を纏った少年が語りかけた言葉を無視した。ギッと口を結び顔を歪めて、復讐者たちを睨む。
「領主さまや貴婦人がたの許しもなくこんなことを……君たち、どうなるかわかっているのか?」
乱暴な弾圧者の顔……とは、少し違う。彼の瞳もまた恐怖に凍て付き、内周の人々も怯えた目で、指揮官であるはずの使用人や、周囲の仲間の挙動をじっと睨んでいる。恐らく情けを見せれば、それを裏切りと見做して告発するために。この街の全ては、人のつながりを否定するように出来ている。
「その食料や防寒着を渡してもらおう。領主さまが管理する」
彼は高圧的な身振りで人々を後ろに下げると、小声で語った。
(「頼むよ。従ってくれ……あの方々を怒らせれば、君達も同じ目に遭う。俺の……家族と……」)
その目は、本当は誰も貶めることなどしたくないのだと語っていた。裏切った者たちにも、根っからの悪人などいないのだろう。
そう。愛する者を裏切り続ける罪悪感を抱いて、なお“従順”になるしかない。血の貴族たちは、その葛藤を求めているのだから。
騒ぎを聞きつけ、街の奥から更に人が集まり始めている。
ただ飢えや寒さを凌がせるだけでは、まだ足りない。
彼らの心に繋がりを戻し、僅かでも希望を灯すか。
それとも強引にここを突破し、館に巣食う血の貴族を討ち取るか。
復讐者たちの決断は……。
フルルズン・イスルーン
ま、無私の援助で恐怖を払拭するのは上手くいかないものさ。
領主の首とったぞーでも良いんだろうけど、支配者が変わるだけだろうし、
何よりそーゆーのボクが嫌なのだ!
じゃ、話をする場所を整えようか。ブロッケン・ゴーレム。
まずはズォオオと【寒冷適応】で集まった人を楽にしようね。
あ、ゴーレムくんはあっちの方で背景しててねー。
さて、少なくともボクらが只者じゃないのはわかったと思うけど。
力があるからだけじゃここには来てないのさ。
その目さ。
生きることを諦めたくないその目があるから来たのさ。
厳しい自然も恐ろしい領主もボクには変わらない。
ゴーレムで取り立てを踏み倒す為にここに来た。
都合よく、自由に生きたくはないかい?
リップ・ハップ
絶望を助長すんのが寒さってなら、熱を希望にしてやる
体温上げて人間ヒーターだ。【熱波の支配者】も最大限に
街の人らの眼を見て痛感した。吸血鬼共の支配はガチガチだ。腸煮えくり返る程
この支配が崩れると思ってもらえなきゃ話になんねい
だから力を示す必要がある、そんための熱よ
私らが唯の人間じゃねーっつーわかりやすいデモだ
少しだけ想像してみてよ
何にも恐れる事なく家族と暮らせる日常ってのをさ
どう?
いいって思ったっしょ?
そうしたいって思ったんじゃない?
そう思えたなら、大丈夫
あんたの愛はまだそこにある
もう誰も裏切らなくていいようになる
家族や仲間と信じあって過ごせる日々が来る
私らがラブとピースを取り戻してくんよ
信じて
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携、アドリブ歓迎
残留効果を活用
熱波の支配者を重ね広げ、あれば寒冷適応も
まずは希望を持ってほしいと話を
フルートの音を奏で【活性治癒】を居合わせた者へ
……自然が厳しくとも、人を信頼し、大事な者といる幸福は知っていただろう
今一度、思い出せと
まずは……よく耐えた
こんな事は、いつまでも続かない、続けさせない
あなた方のせいではない
あなた方の心さえ操り、非道を煽った奴がいる……
その吸血貴族を倒してくる
それまで、今暫く耐えてくれ
ほんのわずかで良い、俺達を信じてほしい
希望を持つことだ
いつかそれは、すべてを暖める火種となるだろう
持ち込んだ毛布と
協力して物資の配布や生活の立て直しを行う
俺は怪我人や病人の治癒も行う
レナータ・ペトリェンコ
連携・アドリブ歓迎
信じる心を取り戻す為、他の方と協力し彼等の良心に訴えかけます
何も言わず彼らから物を取り上げなかったのは後ろめたさがあるからです
裏切りを強要される環境…
互いに辛かったでしょう
パラドクスで料理を振る舞いつつ、外周や内周に暮らす皆様に家族への本音をぶつけ合ってもらいます
私達ができるのはわだかまりを解く手助けまでです
本当は家族で心から笑える生活を望むはず
服従は求めません
この現実を許せないと思うなら…
今この理不尽に抗う意志、希望をどうか私達に託してください
私達なら敵も打ち倒せます
皆様が直接戦う必要はありません
皆が互いを信じ幸せである光景を見せつけるのが何よりの領主達への復讐になるのです
レイラ・イグラーナ
【士気高揚】を使用
〇外周の人向け
革命とは人民のためにあるものであり、革命家もまた人民のためにあるもの。上にいるものを討った後に人民をまた苦しめるようなことはいたしません。
あなた方を苦しめるような要求はしないと誓いましょう。
〇内周の人向け
・目的:内周の人に領主を打ち倒すことへの支持を表明してもらい、外周の人が内周の人を見る目を良化させる
私たちはこれより、ここの領主を討ちます。
革命を起こし、ともに戦って欲しいとは言いません。
ただ、支持をして欲しいのです。
仮に私たちが負ければ、あなた方も外周どころか、もっと悲惨な目に合うかもしれません。
ですが……いえ、だからこそ、立ち向かう決断をして頂きたいのです。
茶神・十愛
――売ってもよかったんですよ。わたし達のこと。
どこの馬の骨ともわからない、ぴったりなお人好しの6人が目の前にいるじゃないですか……?
ですが、皆さんは、それをしなかった。
その勇気に敬意を。
……でも、一人では、勇気ではなく蛮勇になってしまうのでしょう。
辛いときは、誰かに頼っていいのだと、教わりました。
わたし達が、吸血鬼とかけちょんけちょんにしてきますから!
その間、見て見ぬふりを――
……いえ、それはもう嫌、ですよね?
信じてくれるだけでいいんです。
自分を信じることって難しいから、まず、誰かから。
その次で、いいんです。
勇気を。
と、お話を。
あとは先程の延長で衣食住の確保を。
腹が減っては戦はできませんもの!
●
「何だ一体……?」
「誰かが施しをしてるらしい」
「まさか……止めないと罰を受けるぞ」
噂が街を駆け巡り、人々が集まりつつある。最初に語り掛けてきた使用人が後ろを振り返って。
「早くするんだ……今なら穏便に済ませられる」
リップ・ハップ(Reaper Harper・g00122)が、仲間たちと顔を見合わせる。
(「街の人らの、この眼……。痛感するね。吸血鬼共の支配はガチガチだ。腸煮えくり返る程に」)
(「ま、無私の援助で恐怖を払拭するのは、上手くいかないものさ」)
フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)が肩を竦めた。
さあ。希望の灯を燈そう。
レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)が、すでに集まっている外周の人々へと向き直る。
「まずは誓いましょう。私たちは、あなた方を苦しめるような要求はしないことを」
その声は高らかに耳朶を打った。気力がなかった人々が、はっと顔を上げるほどに、凛と。
「革命とは人民のためにあるものであり、革命家もまた人民のためにあるもの。上にいるものを討った後に人民をまた苦しめるようなことはいたしません」
「君、何を……」
使用人が、慌てて振り返る。だが茶神・十愛(イニシャライズペインター・g00682)は、彼が何か叫び出す前に、声を重ねた。
「すぐに売ってもよかったんですよ。わたし達のこと。どこの馬の骨ともわからない、ぴったりなお人好したちが目の前にいたじゃないですか……? ですが皆さんは、それをしなかった」
「それは、ただ動く気力も……」
「いいえ。それは勇気です。人のことを売らずにいた皆さんに、敬意を払います。……でも抗う力がなくては、それは蛮勇になってしまうのでしょう」
「皆……よく耐えた。こんな事は、いつまでも続かない。続けさせない。この状況はあなた方のせいではないからだ」
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)がそう続け、大きく手を振るった。
「……もう、黙るんだ!」
使用人は復讐者たちの身柄を拘束しようとする。それを、レナータ・ペトリェンコ(“Klyk”(クルィーク)・g01229)がそっと制して。
「何も言わず皆から物を取り上げなかったのは後ろめたさがあるからです。裏切りを強要される環境……あなたたちも、辛かったのではないですか」
使用人と内周街の面々が、喉を詰まらせたように動きを止める。士気高揚で、復讐者の言葉はより心に刺さるのだ。
その隙に、エトヴァは高らかに宣言した。全ての人に聞こえるように。
「あなた方の心さえ操り、非道を煽った奴がいる……俺たちは、その吸血貴族を倒すために、ここへ来た」
「なっ……何を!」
使用人の男は、肝を潰されて動きを止める。街の人々にどよめきが走り、怯えたように一歩退いた。
フルルズンが、うんうんと頷いて。
「ここの皆を突き飛ばして領主の首とっても良いんだけど。それじゃただ、支配者が変わるだけだろうし。何よりそーゆーの、ボクが嫌なのだ! さ。ちょうど人も増えてきたし、話をする場所を整えようか」
微かな地鳴りと共に、人々の間から大きな霜のゴーレムが生えて来る。人々が慌ててゴーレムから距離を取るが……。
「あれ? お母さん、なんだか寒さが和らいだよ?」
「え、ええ?」
それは周囲の寒さを吸収し、寒冷適応の結界を張っていく。更に、リップが両こぶしを握り、己の気合と体温を高めて。
「絶望を助長すんのが寒さってなら、熱を希望にしてやる……この支配が崩れると思ってもらえなきゃ話になんねい。だから……その力を、示す!」
彼女が拳を振り上げると、結界の中を暖炉の前にいるような暖かさが満たした。すぐ傍にいた使用人の男が、その熱に驚いて腰を落とすほどに。
(「これは私らが唯の人間じゃねーっつー、わかりやすいデモだ。これで安易に手出しはできねーだろ」)
人々は暖かさと騒ぎを察して、外周から内周、そして使用人たちまで、次々と集まって来ている。
演説台代わりに、フルルズンがゴーレムの手に乗って。
「さて、少なくともボクらが只者じゃないのはわかったと思うけど。力があるからだけじゃここには来てないのさ。その目さ。絶望に曇っていても、生きることを諦めたくないその目があるから来たのさ」
人々を見渡せば、彼らは立場を問わずこちらに目を釘付けにしていた。圧倒的なパラドクスを見せつけることは言葉よりも雄弁だ。
初手は上々。
次は人々の心に張った霜を、溶かし去らねばならない。
●
人々が忘れ果てていた、身を優しく包む暖かさ。その中で、フルートの優しい音色が響き始める。
「私の怪我が……治ってる」
茫然と掌の擦り傷を見つめる少年の母。人々は、未だ戸惑いの中にいる。その間に、可能な限りその心を掴まなければ。
「私たちはこれより、ここの領主を討ちます。革命を起こし、ともに戦って欲しいとは言いません。ただ、支持をして欲しいのです」
レイラが、声を張る。外周の人々は最初に施しを受けたことや、失うものが少ないこともあるのか、反発する様子はない。次に向くのは、遠巻きにこちらをみる内周の人々。彼らはまだ、状況に不安を覚えている。
「正直にいいます。仮に私たちが負ければ、あなた方も外周どころか、もっと悲惨な目に合うかもしれません。ですが……いえ、だからこそ、立ち向かう決断をして頂きたいのです」
癒しの調べを奏でていたエトヴァが、人々が十分に集まったのを確認して、そっと唇を放した。
「俺たちが、この街の支配者を倒してくるまで、今暫く耐えてくれ。ほんのわずかで良い、俺達を信じてほしい。希望を持つことだ。いつかそれは、すべてを暖める火種となる」
「支配者たちを、倒してくれるの?」
「ほんとに?」
「厳しい自然も、恐ろしい領主も、ボクらには変わらない。このゴーレムで取り立てを踏み倒す為にここに来た。都合よく、自由に生きたくはないかい?」
フルルズンの呼び掛けに、人々は巨大なゴーレムや、灼熱を発するリップの勇姿、癒された傷を見る。
外周の人々の目に燈った微かな希望が、内周の人々の間にもゆっくりと燃え移っていく。しかし使用人たちは、その言葉に反発した。
「確かに凄い力だが……あの方々に逆らえば、死ぬだけだぞ!」
「あんたたちは、伝承の笛吹のように我々を破滅に導くだけだ!」
使用人たちは、クロノヴェーダに近いがゆえに、恐れも強いらしい。内周の人々は、まだ迷いの中にある。
「……辛いときは、誰かに頼っていいのだと、教わりました。吸血鬼とか、わたし達がけちょんけちょんにしてきますから! その間、見て見ぬふりを……いえ、それはもう嫌、ですよね?」
そこに語り掛けるのは、十愛だった。その手を祈るように組み合わせて、精一杯の気持ちを語る。
「信じてくれるだけで、いいんです。自分を信じることって難しいから、まず、誰かから。その次で、いいんです。勇気を……」
ほんの少しだけの勇気を。自分たちに。
内周の人々は互いに向き合った。彼らもまた、死なずに済むという程度の扱い。内心ではこちらのことを信じたいという気持ちに溢れている。
「本当に……信じていいんだな?」
「この人たちなら……もしかして」
「ぼ、ボクは信じるぞ。この人たちを」
傾いていく天秤。街の人々は不安を覚えつつも、復讐者たちへ取りすがり始める。だが使用人たちは、必死にその前に立ちふさがった。
「よ、よせ! みんな! 殺されるぞ!」
「例え外周でも、生きていてくれた方が……」
だが数で劣る使用人たちに、膨れ上がる反抗の気運を留めることはもう出来ない。人々は憎しみも露わに、使用人たちに石を投げ始める。
「う、うわあ! みんな、よせ!」
上がる悲鳴。石打ちにされかかり、しゃがみ込む使用人たち。だが、彼らに石は飛ばなかった。二者の間に、復讐者たちが割って入っていたから。
暴徒と化しそうな人々を宥めつつ、エトヴァが使用人たちに向き直って。
「……自然が厳しくとも、人を信頼し、大事な者といる幸福は知っていただろう。今一度、思い出せ」
彼が差し出すのは、毛布。皆に、これを共に配ろうと、その目で語る。それを取って、声を重ねるのは、リップ。
「少しだけ想像してみてよ。何にも恐れる事なく家族と暮らせる日常ってのをさ……どう? いいっしょ? そうしたいって思ったんじゃない?」
使用人たちは、泣きそうな顔で顔を見合わせる。少年の父が、項垂れながら呟いた。
「できるのなら……誰だってそうしたいさ」
「そう思えたなら、大丈夫。あんたの愛はまだそこにある。もう誰も裏切らなくていいようになる。家族や仲間と信じあって過ごせる日々が来る。私らが取り戻してくんよ。あんたたちも、そいつを信じてくれればいい」
「だが俺たちに……その資格は、もう……」
「それを決めるのは、あなたではありませんよ」
そういうのは、レナータ。使用人たちの前に、暖かなシチューを差し出して。
「私一人では、一度に百皿が限界ですが……ご家族で分け合えば、少しだけお腹も膨れるでしょう。皆さんが本当に家族で心から笑える生活を望むのなら、わだかまりを解く手助けができます」
それは彼女のパラドクス。口福の伝道者の効果によって、百皿ほどが使用人たちの前に出現する。
「独り占めするのか、仲間たちに分けるのかは、皆さんの自由です。私たちは服従を求めません。この現実を許せないと思うなら……今この理不尽に抗う意志、希望を、どうか私達に託してください」
少年の父親は、しばらく項垂れていた。やがて、差し出された毛布やシチューを取り、使用人たちの群れを離れて自分の妻子のところへ歩む。
「……すまなかった」
涙を零して食事と毛布を届けて、彼は妻子に跪く。裏切り者へ石を投げようとしていた妻は、哀れな夫を見つめて押し黙った。
「皆様が直接戦う必要はありません。しかし、皆が互いを信じ、幸せである光景を見せつけるのが何よりの復讐になる……私は、そう信じます」
そう結んだレナータの言葉に。
暖かな食事から漂う優しい匂いに。
妻は幸せだったころを思い出したのだろう。許すとは言えずとも、持っていた石を落として、食事の皿を受け取る。
「そうね……助けてくれる人たちの足を、私が引っ張るわけにはいかないわ」
泣き崩れる夫に対し、妻はため息を落としてその背をさする。そして少年は、久しぶりに家族が揃ったことに無邪気な笑顔を見せた。
殺気立っていた街の人々も、身動きが取れずにいた使用人たちも、その光景を見て身構えていた腕をゆっくりと降ろす。
「わ、わかったよ……望んでこんなことをしたんじゃないし」
「私がみんなに、許してもらえるかは、わからないけど……」
「あんた達に、賭けてみるよ」
使用人たちはおずおずと毛布や食料を受け取っていく。
「そうしてくれ。この街の内情に通じた人の協力が必要だ」
「皆に行き渡るように物資を配るには、あんた達がやるのが一番だし」
街の人々の間に、助け合いの心とかつての暖かさが戻っていく。
憎しみの炎は、消えたわけではない。
心身の傷は、一朝一夕には癒えはしない。
それでも、今だけはそれを忘れて……。
●
「怪我人や病人の方は申し出てくれ。少しだが、楽にできるだろう」
「お食事はまだまだ出します! 腹が減っては戦はできませんもの!」
エトヴァのフルートが癒しを奏で、十愛は配給の使用人たちに混じり忙しく立ち働く。フルルズンのゴーレムが、閉ざされていた倉庫をこじ開けて。
「蓄えてる食料、発見ー。さ、どんどん運び出しちゃおう」
「皆さんはこれをレナータさんの所へ。調理してくれるはずです」
「料理の腕の、見せどころですね」
レイラが陣頭指揮を執って食料や物資を運びだし、レナータが次々と調理する。
命の熱が街を走り、反旗の結束が街の人々を強く結んで、かつての希望が燃え上がる。領主の意に反し、街には人々が身を寄せ合うための灯りが、次々に燈る。
「ラブとピースが狼煙ってわけだ。さて……そろそろ、気付くころかね」
リップが、顔を上げる。その背後に、希望を託した人々を背負って。
「情けないが、お願いするしか出来ない……それでも」
「皆さんを信じるわ。この街の人は、みんな!」
「お願い! 悪い人たちを、懲らしめて!」
集った復讐者たちは、人々の声援の中、熱を帯びた息を吐いた。
向かう先は、白く霞む地に未だ暗く凍り付いた場所。
……領主館だ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【寒冷適応】LV1が発生!
【熱波の支配者】がLV2になった!
【活性治癒】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
【建物復元】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】がLV4になった!
【ドレイン】がLV2になった!
【ガードアップ】がLV2になった!
【ダメージアップ】LV2が発生!
●
赤い火に照らされてなお薄暗い館の中。
令嬢はお気に入りの温室から、氷のように冷え冷えとした視線を落としていた。今やこの屋敷よりも明るく灯を燈した、己の領地を。
『ご報告いたしますわ、お館様』
背後で扉が開き、冴え冴えとした女の声がそう告げた。領主は背を向けたまま、指でくいっと先を促す。
『やはり館の中にも周囲にも、人間どもの姿がありません』
こつこつと集う足音は三つ、四つ……十人……いや、それ以上。皆、一様に仮面を被り目元を隠した貴婦人たちが、その背後に居並んで。
『使用人どもまでが示し合わせ、反乱に加担したようですわ』
『お館様の慈悲ある統治を拒むとは、愚かな連中ですわね』
『しかしこんな大それたことを街の者だけでしでかせるとは』
『お館様の読み通り、扇動した者がいるかと……』
領主は二十人ほどの貴婦人に背を向けたまま、紅い液体の入ったグラスを煽る。顎に緋色の筋が垂れてもなお、一息の内にそれを飲み干して、告げた。
『……殺しなさい』
貴婦人たちは、一斉に裾をつまんで礼をする。
『『畏まりました』』
蝋燭を吹き消した時のように、その気配が消えた。
大きな扉が軋みながら開いていき、仄暗い屋敷が復讐者たちを迎え入れる。エントランスの奥には、広大なホールが広がっていた。Yの字に分かれて二回へ続く大階段。吹き抜けになった天井。巨大なシャンデリア……。
塔のように高い建物であったから、領主がいるのは上か。
だが一歩を踏み出したその時。階段の踊り場にあった燭台に、一斉に火が付いた。
『私たちの仮面舞踏会へようこそ……ディアボロス』
『まだ生き残りがいたなんてね。しぶとい連中』
『でも、ゴキブリのような生命力も、ここで終わりよ』
影のように現れる、仮面の貴婦人たち。血の色のオーラがその周囲を渦巻いている。
『磔にして、血を啜ってあげるわ。街の連中と同じようにね……!』
一面から迫り来る、けたたましい笑い声。それは甲高い蝙蝠の鳴き声となって、復讐者たちに迫り来る。
標的は、この仮面の群れの先。
全てを片付けて駆け上がるか。
妨害をものともせずに駆け抜けて、頭を討つか。
さあ。血の舞踏を舞う時間だ……!
フルルズン・イスルーン
ふむん、ヴァイキングのお面でもしておこうかな?
ま、ディアボロスを憶えてるのは殊勝な心がけだね。
負けて追い出されたのに偉そう? 今勝てば良かろうものなのだ!
歓迎ご苦労! 返礼としてアイス・ゴーレムくんの錆になることを許そう!
こんな極寒の環境でゴキブリを例えとして出せるような生活しよってからに。
少しは寒さを思い出しても良いんじゃない?
ゴーレムくん。血が大好きな彼女らに液体は凍るものだと教えてあげるのだ。
身も心も凍てつかせた後は、もれなくゴーレムくんがぶっとばす!
なあに、キミらがやってきたことに比べれば可愛いものさ。
さて、隠れる所隠れる所。
ゴーレムくん頼みだから囲まれるとフツーに危ないのだ。
レイラ・イグラーナ
文字通り領民の血を食い物にする領主とその配下など、当然追われるべきです。秩序の上に居座り退こうとしないのであれば、革命によってその秩序ごと砕くまでです。
舞踏会がお望みならば、そのように。
吸血コウモリの群れを『ダンス』を踊るように躱し、躱しきれない場合も群がられないよう足を止めずに敵中へ入り込みます。
敵中へ入り込んだなら【手製奉仕・舞】。舞うようにしながら放つ「銀の針」の『投擲』でブラッドメイガスたちを貫きます。
あなた方が流した人民の血は、ただあなた方の血によってのみ贖われます。
血による終わり以外、革命には存在しません。
●
復讐者たちは身を転がして無数の蝙蝠を避け、吹き抜けの大ホールを駆け抜ける。
「ふむん、荒っぽい仮面舞踏会だ。これでも被ればいいかな?」
フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)がヴァイキングの面をかぶる。口元を扇子で隠し、くすくすとこちらを嘲笑する貴婦人たちを指さして。
「歓迎ご苦労! ディアボロスを憶えてるのは殊勝な心がけだね。負けて追い出されたのに偉そうにさせてもらうけど、ま、今回で勝てば良かろうものなのだ……っとと!」
蝙蝠を躱して、フルルズンは飛び退る。その蝙蝠が血の染みになって弾けたのを見て、レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)が眉を寄せた。
「ええ。舞踏会がお望みならば、そのようにいたしましょう」
ステップを踏むように、彼女は階段を駆ける。
「文字通り領民の血を食い物にする領主とその配下など、当然追われるべきです。秩序の上に居座り退こうとしないのであれば、革命によってその秩序ごと砕くまで」
敵もまた、ふわり、ふわりと絹を揺らして、レイラに近寄られぬよう距離を取った。優雅に隠した口元に、白牙をちらつかせて。
『ディアボロス風情が大きな口を……無様に血だまりに沈みなさい』
舞うように攻め、そして誘うように逃げる貴婦人たちとの、舞踏会の始まりだ。
レイラは牽制も兼ねて逃げる影へ銀針を放つが、無数の蝙蝠が目をくらます。
『あらあら、稚拙な投げ芸だこと?』
『端女はしおらしく針仕事でもやっていなさい』
大蛇のように寄り集まった蝙蝠の群れが、レイラに迫った。掠るだけでも、その翼と牙が白い皮膚に紅が滲ませる。
しかし、けらけらと嗤う女たちに対し、レイラの瞳は冷淡。うねりを増して迫る蝙蝠の群れをひらりと躱して、囁いた。
「ええ。私の針仕事はこれからですから……まずは、布をひとところに集めませんと」
貴婦人たちが訝しんだその時、階下から巨大な影がぬうっと立ち上った。フルルズンの作り出した冷気のゴーレムが、祈るように合わせた拳を振り上げて。
「歓迎の返礼だ! アイス・ゴーレムくんの錆になることを許そう! いっけー、ゴーレムくん!」
『フンッ……こんな鈍い氷塊に何ができて?』
渾身の振り下ろしが、踊り場の一部を砕く。だが、貴婦人たちは余裕を以て跳び退り、フルルズンに血の呪い送り込んだ。瞬間、彼女の手首の一部が裂けて、血が鞭のようにしなる刃と化す。
『さあ、ステップを踏みなさい。首無しでね!』
だが、己の血の一部を操られていながら、フルルズンは笑みを浮かべる。ギロチンよろしく首に迫った刃は、その寸前で止まっていた。
『……!』
「こんな極寒の環境でゴキブリを例えとして出せるような生活しよってからに……少しは寒さってもの思い出してもいいんじゃない? 液体は凍るものだと、教わらなかった?」
フルルズンは、凍てついた血液をぱきりと折って投げ捨てる。瞬間、四つん這いになっていたゴーレムが、咆哮をあげた。それは突風と化して、周囲の敵の脚を凍てつかせる。
『うっ!』
「にぶちんで結構。身も心も凍てつかせた後に、もれなくゴーレムくんがぶっとばす! さて、ボクは隠れるとするよ。ゴーレムくん頼みだから囲まれるとフツーに危ないのだ」
大いに敵をからかった後、さっとゴーレムの後ろに身を隠すフルルズン。ゴーレムが再び拳を振り上げる中、貴婦人たちは舌を打って足を凍てつかせる氷を砕いた。
『こんな程度で、足を止められるとでも……!』
「思っていませんよ。それは私の役目ですから」
互いに、相手の一打の為に。逃げ回る敵にも、協力すれば追い付ける。貴婦人たちがハッと振り返ったとき、そこに舞い跳んでいたのは。
「存じ上げなかったようですが、あなた方が流した人民の血は、ただあなた方の血によってのみ贖われます」
レイラが身を舞わせた瞬間、八方に散った銀閃が貴婦人たちを貫いた。踊るような回転は、二度、三度と続き、その度に空を銀が跳ねる。
『ぐっ!』
『こ、こんな、ちゃち、な!』
『針、如き、で!』
一撃一撃は、致命には程遠い、小さな銀針。しかし続く連撃は、ミシンに掛けられた布よろしく、貴婦人たちをその場に縫い付ける。貴婦人たちがハッと気付いた時には、すでにゴーレムは拳に渾身の力を溜めていて。
『……ひっ!』
「血による終わり以外、革命には存在しないのです……では」
レイラが舞い終えるように跳んだ時。その傍らを渾身の拳が降り抜いていった。悲鳴さえ呑み込む轟音が、ホールを揺らして床が砕ける。
降り立ったレイラの隣で、フルルズンが、そーっと砕けた床を覗き込んで。
「はは。なあに、キミらがやってきたことに比べれば可愛いものさ」
瓦礫を染める緋色の染みに別れを告げて、二人は再びいくさ場を駆けるのだった。
成功🔵🔵🔵🔵🔴🔴
効果1【使い魔使役】LV1が発生!
【士気高揚】がLV2になった!
効果2【能力値アップ】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV3になった!
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携アドリブ歓迎
完全視界と寒冷適応も使用
危険があれば建物復元を
……伝承の笛吹きのイメージを上げておきたい所
領主の館が、いつまでも安全とは思わぬことだ
民を蔑ろにする主ならば、足元を掬われるだろう
……そうは思わないか?
奇遇だ、仮面舞踏会なら馴染みがある
貴婦人方は、良いご趣味のようだな
(皮肉だが)
相手の動きを観察し、攻撃動作や隙を看破
戦況を把握し、仲間と連携
【飛翔】し上空へ戦場を分散
飛び回り、死角から光の環を撃ち攻撃
味方の援護をしつつ、狙いを合わせ各個撃破
コウモリにも注意を
反撃には魔力障壁を展開、呪いに対抗
建物を撃ち、攻撃集中できないよう撹乱
飛翔の機動力で回避
舞踏会はおしまい
領主のもとへ通して頂こう
レナータ・ペトリェンコ
アドリブ・連携歓迎
あの場で出来ることはしました
あとは彼等次第
そしてここからは、私の得意な≪お掃除≫の時間です
貴婦人の皆様に出迎えていただけるそうなので
少し手荒にはなりますが鉛弾のお礼をしましょう
気分で”ステラードレス”も着ていきますね
動き回られても面倒ですし、[地形の利用]で遮蔽を活かし”RPM-21”の[弾幕]で釘付けにして相手をよく観察します
援護射撃をしつつ、味方を襲いそうな敵は”秘密の棘”の[投擲]で牽制です
吸血コウモリを放つなら『銃弾の大嵐』でコウモリごと彼女たちに弾丸を浴びせましょう
住民にしてきた行いの報いとしては、慈悲がある方だと思いますよ?
全身に穴が開く程度で済むのですから
リップ・ハップ
やっと身体動かせるってもんだ
さ。一曲踊ろうか、怪物共
お前らにとっちゃ最後の舞台だ。精々気張りなよ
撹乱と陽動狙いで突っ込むぜ【ダッシュ】【突撃】
サシに拘らず目に付いた奴をパラドクスで斬りつけてく
壁や柱に調度品、そこらのもんを足場に跳んで宙に居る奴にも刃を届ける【臨機応変】
浅かろうが手傷を負わしたらこっちのもんよ
心にゃ深々と恐怖を刻み込んでやんぜ【精神攻撃】
恐れろ。震えあがれ。お前らの終わりが来たぞ
飛んでくる弾丸、致命傷になりそなもんは伯爵の柄で打ち落としてく【強打】【吹き飛ばし】
多少のダメージは無視無視【忍耐力】
そいに敵中に突撃出来てんなら同士討ち嫌って狙いにくかろ
立ち回りはその辺も意識してくぜ
茶神・十愛
あら……生命力のほうお褒めいただいてありがとうございます。
でも皆さんも中々のものですよ? 本当ならこの館なんて、突入前に燃やしてもよかったのですから。
落とし前の付け方にしては少々優雅ですが……仮面をつけないと(心が)醜くて顔も合わせられない皆さんには、丁度いいですかね?
派手な踊りは皆さんにお任せして、確実にラストダンスになるように心がけましょうか。
狙いを合わせまして、各個撃破を。
さぁお手をどうぞ。と言わんばかりに距離を詰めましょう。直接触れたほうがドキドキするでしょう?
クラック……書き換え。ゆっくり血に還りましょう。
反撃には体内情報もちょっと書き換えつつ。
温存は考えずに、最後の一人になるまで。
●
先陣を切ったレイラとフルルズンが、踊り場を砕き落とす。その背後で、レナータ・ペトリェンコ(“Klyk”(クルィーク)・g01229)は正門の外を振り返った。
胸の内に燈ったほんの僅かな希望を託し、屋敷の外で祈る人々のことを。
(「あの場で出来ることはしました。あとは彼等次第。そして……」)
一階に転げ落ちた貴婦人たち。その生き残りをレイラとフルルズンに任せて、復讐者たちはホールの大階段を駆け上がる。
「やっと身体動かせるってもんだ。さ、一曲踊ろうか。怪物共」
「奇遇だ、仮面舞踏会なら馴染みがある。貴婦人方は、良いご趣味のようだな」
リップ・ハップ(Reaper Harper・g00122)がけたたましくなく蝙蝠どもを払いのけ、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が砕けた踊り場を跳び越える。
二人の皮肉を受けるのは、まだ二階に残っていた貴婦人たち。
『……調子づいた害虫ども』
『そのしぶとい息の根、止めてやるわ』
舌を打ち、牙を軋ませた彼女たちの顔には、憎悪と嫌悪が溢れている。仲間を討ち取られ、その目にもう油断はない。だが、突っ込んでいく復讐者たちの勢いは揺るがない。
「あら……生命力をお褒めいただいてありがとうございます。でも皆さんも中々のものですよ?」
茶神・十愛(イニシャライズペインター・g00682)は、その静かな目に焔を宿して、彼女たちを睨む。その隣に、レナータが立って。
「ええ。しぶとい害虫はどちらでしょうね。ここからは、私の得意な≪お掃除≫の時間です」
さあ、開演だ。血の舞踏会の。
金切声と共に飛び掛かって来る蝙蝠。リップが、大鎌【伯爵】の刃が踊らせて迎え討つ。
「随分、歌うじゃんか。お前らにとっちゃ最後の舞台だ。精々気張りなよ。私はサシにゃ拘らねえぜ?」
『誰が正面から相手するというの。馬鹿な小娘』
『追い付くことも出来ないまま、死になさい』
刃の障壁も、降り注ぐ蝙蝠の全てを防ぐには至らない。網をすり抜ける弾丸のように、一匹、また一匹とリップの身を削いでいく。
しかし。
「こんな程度じゃ止まらねえよ。あと言葉の意味、わかってんのか? サシじゃねえのは、こっちもだぜ」
ニヤリと笑ったリップの背後から、藍色のドレスが跳躍する。リップの頭上に翻った裾から突き出されるのは、装いに似合わぬ軽機関銃の銃口。
『……!』
「貴婦人の皆様、丁重なお出迎えありがとうございます。こちらからもお礼をいたしましょう。少し手荒になりますが」
レナータが、RPM-21の引き金を引き絞る。蝙蝠の大半が攻撃に専念した隙を突く“銃弾の大嵐”。主を護ろうとする蝙蝠が弾け飛び、銃弾は次々と貴婦人たちを貫いていく。
『ちっ……! あの女を落とすのよ、蝙蝠たち!』
「動き回られても面倒です。弾幕にて牽制、援護いたします。先へどうぞ」
弾ける銃の反動をコントロールして、レナータは空中で身を躱す。同時に、逃げようとする貴婦人たち目掛けて、銀閃を飛ばした。小さなダガーが彼女たちの脚を穿ち、その場に転ばせる。
つんのめり、起き上がろうと身を起こした女の首筋に、ひたりと喰いつくのは。
「よお。追い付いたぜ……?」
『ひっ』
リップが白刃を引くと、鮮血が噴き出した。続けざまに振るう一撃で、もう一人の貴婦人の胸元から紅が迸る。咄嗟に身を退いた敵は致命傷を免れはしたが……。
『うっ、こ、これは……何? まさか、毒?』
猫の悲鳴のような声をあげながら貴婦人はのたうち、喉元を掻きむしりながら倒れ伏した。
「浅かろうが手傷を負わせたらこっちのもんよ。心に深々と恐怖を刻み込んでやんぜ……さあ、恐れろ。震えあがれ。お前らの終わりが来たぞ」
目を笑みに歪ませ、リップは死神のように鎌を持ち上げる。切り傷から染み込む、死の恐怖を滴らせて。
「住民にしてきた行いの報いとしては、慈悲がある方だと思いますよ? 全身に穴が開く程度で済むのですから」
怯えたように下がる貴婦人たちを挟み込み、レナータが銃の弾倉へと弾を叩き込んだ。
『こ、この……!』
牙を剥き出した貴婦人たち。ホールの二階で、それを穿つ銃弾と鎌とが踊る。
『あの連中の勢い……! 以前の害虫どもとまるで違う!』
『ひ、退くのよ! お館様の御身を護らなければ……!』
一階、二階で闘う同類を置き去りに、七人ほどの貴婦人たちが吹き抜けの階段を駆け上がる。聞こえはいいが、その目的は明らかに保身だ。
だがその足は、三階に到達したところでぴたりと止まった。
「領主の館が、いつまでも安全とは思わぬことだ。民を蔑ろにする主ならば、足元を掬われるだろう……そうは思わないか?」
敵の眼前に降り立った人影。広げた翼を仕舞い、艶やかな目を持ち上げたのは、エトヴァ。更に背後の階段から、柔らかな絨毯を踏みしめる音が響いて。
「本当ならこの館なんて、突入前に燃やしてもよかったのですけど。そうしたら街に散ってしまうかもしれませんから」
仮面をつけないと、その醜い心根の故に顔も合わせられないような“害虫”が。
と、言外の意味を込めて語るのは、十愛。
挟み込まれた敵は怯えたように前後を見回し、苛立たし気に拳を握る。
『たった二人で……! その首、お館様への手土産にしてやる!』
エトヴァはやれやれと首を振って飛翔し、十愛はくるりと踊るように距離を取る。
「……手柄もなく帰還すれば主から叱責を受ける、というだけのことだろう。まあ、こちらも伝承の笛吹きのイメージを上げておきたい所だ。気持ちは理解しよう」
「派手な踊りは皆さんにお任せします。確実なラストダンスを舞いましょう」
エトヴァに向かう蝙蝠たちが、無数の光輪に斬りはらわれる。翼が羽ばたくと同時に、それは尾を引く軌跡を描いて貴婦人たちへと飛翔した。貴婦人たちはそれを避けると、全周に血の呪いを放って対抗する。
『血だまりに沈め……!』
エトヴァが張った障壁にひびが入り、呪詛がしみ込む。身を躱した十愛と共に、片目からつっと血が雫となって滴り、ふるふると動き出して身を裂こうとしてくる。
だが。
「反撃に集中していていいのか? 俺の手番は、終わったわけではないが」
『なに?』
貴婦人たちが目を剥く間もなく、弧を描いて階下に回り込んだ光輪が床を裂いた。飛び出した光の刃に、貴婦人たちは悲鳴をあげて切り裂かれる。辛うじて身を退いた一体が、逃げ腰になって振り返ると。
「さぁお手を。直接触れたほうがドキドキするでしょう?」
片目から紅い筋を引いて柔らかく微笑んでいたのは、十愛。いつの間にか、その手を重ねて。
『……ッ!』
「クラック……書き換え」
反応するより速く、貴婦人が悲鳴をあげてのけ反った。その目鼻から鮮血が迸り、喉を鳴らすような音を立てながら、震える肢体がぐずぐずと崩れて、紅い染みへと変わっていく。
「さあ。ゆっくり血に還りましょう。皆さんがしたことに対する落とし前の付け方にしては、少々優雅ですが……付き合いますよ」
最後に、ぽたりと手袋が血だまりに落ちる。敵を血で上書きし、振り返る十愛。追い詰められた貴婦人の踵が三階の手すりにぶつかった。その背後には、すでに羽ばたくエトヴァがいて。
『な、何なの! こんな……こんな!』
三階から、ホールを満たす悲鳴が轟く……。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
効果1【飛翔】LV1が発生!
【完全視界】がLV2になった!
【腐食】LV1が発生!
【無鍵空間】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV5になった!
【ダメージアップ】がLV4になった!
●
轟音と、土煙が静まっていく。
一階では、土煙の中から二つの影が立ち上がる。
「よーし、今ので最後だな、ゴーレムくん! よくやったぞ」
「階上も、概ね静かになりましたね。行きましょう」
フルルズンとレイラが見上げれば、戦闘音は止んでいた。駆けあがる二人が見たのは、リップとレナータ。そしてその周囲に散る、恐怖に顔を歪めたまま倒れた貴婦人たち。
「一階ごとに敵は、六、七人ずつか。もうちょっと歯応えがあるかと思ったがな」
「こちらが以前のディアボロスとは違うこともわかっていなかったようですからね」
この地は外界から隔絶された実験区域。恐らく、ラスプーチンらが持ち帰った“危険視すべき復讐者”の情報も、届いていなかった。
だからこそ巣穴に籠っているうちに、悉くを始末する必要がある。
「舞踏会はおしまいだ。領主のもとへ通して頂こう」
三階に駆け上がる復讐者たちの前で、最後の貴婦人が悲鳴と共に階段を転げ落ちた。首だけが更に階下に転げ落ちていく。光輪を構えたエトヴァが仲間たちを一瞥し、廊下から十愛が顔を出して。
「皆さん、こちらです。敵はこの向こうに逃れようとしていました」
指さす先は、妙に長く伸びた廊下。恐らく、館から伸びた渡り廊下だろう。領主は、そこにいるはずだ。
頷き合った復讐者たちは、暗い廊下を駆け抜ける。
観音開きの大きな扉に、慎重に手を掛けた……次の瞬間だった。
鋭い殺気に気付いた復讐者たちが左右に散る。
それと同時に緋色の茨がドアを串刺しにして、吹き飛ばした。
「……!」
崩れていく茨の向こうは、屋敷から突き出した硝子張りの空中温室。様々な色の薔薇の花が咲き乱れ、生温かな風がゆるりと頬を撫ぜる。ほの甘い薔薇の香気と、暖かく湿った土の香り。
『なんてことなのかしら。人間だけじゃなく、あの子たちさえ何の役にも立たなかった……』
凛と澄ました声は、温室の奥から。そこに立つ令嬢は、輝く紅い目に冴えた怒りを宿し、紅い翼で床を蹴る。
『私が丹精込めて血を注いだ薔薇園に、踏み入れられるなんてね』
だが、部屋へ入った復讐者たちは、強大な敵の気配に気を張りながらも、その視線を脇に逸らしていた。咲き乱れる薔薇の花壇。匂い立つ香気の後ろで、微かに鼻腔をくすぐる錆の臭いに。
「これは……!」
毒々しいほどに花開く薔薇から、血が香る。裏切りに裏切りを繰り返させて館の使用人となった人々……それが溢れかえらなかったのは、用済みとなった前任がこの薔薇園の土と変えられてきたからだ。
最初からこの女は、誰一人助けるつもりなどありはしなかったのだ。
『ま、いいわ。あなた達をここの土に埋め込んだら、次を派遣してもらうから』
外はすでに夜も更け、月を背負って夜翼令嬢は翼を広げる。その背後に茨が広がり、浮かんだ血は弾丸となって復讐者たちへと向いた。
『まずは地べたに広がる、緋色の薔薇におなりなさい……!』
領主が両手を広げると同時に、血風が巻き起こって地面を穿った。
復讐者たちは、各々で跳躍する。
おぞましき血の貴族の支配に、幕を引くために……!
フルルズン・イスルーン
うひー。全く良い趣味してるのだ。
こんな状態でしっかりと薔薇の芳香がわかるのはすごいけど、積み重なった呪詛もすごそう。
まったく後の弔いが大変そうで困るね。
薔薇になれって? むしろキミが最後の薔薇になるがいいさ。
冒涜者より死者を取り戻せ、コフィン・ゴーレム!
呼び出すは浮遊する船葬墓。空の船に収められしは、戦乙女を似姿とした霊体のゴーレム達!
翼を持つ相手とて、空征く船からは逃れること能わず!
さあ剣と槍を持ち、斬りかかり突きを撃ち、勇壮なる戦いを再演せよ!
ということでゴーレムくんたちは牽制兼足場だ。
相手への距離を詰めて常にまとわりつく攻撃役を担ってもらうのだ。
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
連携、アドリブ歓迎
完全視界、寒冷適応使用
ああ、人を人とも思わぬ所業は
叩き潰した帝国を思い出すな……
この国も相当おかしい
【飛翔】し空中戦
敵の動きを観察
相手を飛び回らせないよう、上空からクロスボウで牽制しつつ攻撃
一射で貫通撃、二射で爆破
仲間と好機を作りあい
過たず狙い、射貫こう
残念だ……ここの薔薇は美しくない
薔薇は二度と咲かないだろう
惜しいか?
温室を破壊して挑発し戦う
崩落の危険があれば建物復元
Eis-Spiegelを空中に配置し、棘の軌道を阻害
反撃は魔力障壁を展開し、飛翔の機動力で回避
棘には棘を
負けはしない
戦闘後は犠牲者達に祈りを捧げる
解放された人々が、手を取り合い
希望の灯が揺るぎなくあるように……
レナータ・ペトリェンコ
連携・アドリブ歓迎
……これで”アレ”を遠慮なく始末できますね
『SVS』で戦います
高火力でも連射力が低いので無駄撃ちできません
他の方の攻撃に合わせ行動
目立ちにくい方が都合が良いですからね
隠れて【光学迷彩】で周囲に溶け込みつつ攻撃
数発は令嬢ごと温室のガラスを撃ち”破壊”します
飛翔に影響が無くとも、空気が乱れて風を使う攻撃はしづらくなるはず
パラドクスは”ジャンプ”や”ダッシュ”で回避
敵を消耗させつつ《ステルス・ストライク》であえて真正面に移動して銃弾を叩き込みます
周りに気を取られていては、普通気付く場所にすら意識が向かなくなりますからね
幕引きの時間です
貴女の血で舞台を彩ってから降りていただきましょう
リップ・ハップ
お前に次なんてもんはもう来ねいよ
そう易々と間合いにゃ入れねいだろうけど圧は掛けてく、意識をこっちに向けさせる
気ィ抜けばざっくりだってな【殺気】
飛び回ってようが距離詰めて伯爵を振ってくぜ【跳躍】【突撃】
全部本気だし、全部陽動でもいい。仲間が動きやすくなりゃ十分よ【臨機応変】
飛んでくる弾丸はなるだけ回避狙い【ダッシュ】
躱し切れねいもんはフィジカル任せに伯爵を振って、力技で逸らす【薙ぎ払い】【衝撃波】【吹き飛ばし】
もしどこかで私から気が逸れたら、そこが伯爵の喰らいつく時だ
刃が届けばパラドクスで血を啜ってやる【斬撃】【吸血】
街も愛もこれ以上穢させっか
血の一滴残さず果てていけ、怪物
レイラ・イグラーナ
薄々予感はしていましたが……
彼らの弔いは後程町の方々とともに。
まずは悪辣極まりない領主を引きずり下ろしましょう。
貴女の手で人民の血が流れたことが全ての始まり。
ならば、全ては貴女の血でのみ贖われる。
ネメシス形態で【天上奉仕・革命】、針状の細剣「惨禍鬼哭血革針」の剣術で戦闘を行います。
血色の風は部屋の柱や装飾、イスルーン様が呼び出したゴーレムなどに隠れて回避し、血の風を受けて意識が切れそうになった場合は針で自身を刺すことで痛みによって覚醒を促します。
その他の攻撃に対しても致命傷は回避しつつも攻撃を優先、私や他の方が流した血で強化された切れ味で敵を穿ちます。
戦いが終わったら村の方もお呼びし、弔いを。
茶神・十愛
……戻ってこなかった人がどうなったのかは、知っていましたさ。
血を注いだーーという言葉がそのままの意味なことに、期待通り、期待を裏切られましたが。
弔いにもなりませんが、こんな温室はもう必要ありませんね?
【アイスクラフト】の壁で冷やすだけ冷やして、片っ端から倒して壊してしまいましょう。
……人は、いつか土に還る、けれど。
でもね、眠る場所ぐらいは選べるんです。
誰とともに眠るのかも。
あなたの血は……ここで薔薇にするのすら、烏滸がましい。
今日の氷の武器は、農具の山にしましょう。
薔薇になった皆さんの、声が聞こえますか?
傷口が、出た血が凍るぐらい、
ここに眠る人の数以上の武器で。ボコボコに。
●
へし折れた扉が木の葉のように飛んでいく。薔薇の芳香は、皐月の終わりと水無月の始まりを告げる香り。それに混じる鉄錆の香調に、フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)が、口元を押さえて。
「うひー。全く良い趣味してるのだ。こんな状態でしっかりと薔薇の芳香がわかるのはすごいけど、積み重なった呪詛もすごそう……」
「ああ、人を人とも思わぬ所業は、叩き潰した帝国を思い出すな……この国も相当おかしい」
落ちてくる紅薔薇を一枚握りしめて、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)が視線を上げる。隣に並ぶ、茶神・十愛(イニシャライズペインター・g00682)は祈るように目を閉じて。
(「……知っていましたさ。戻ってこなかった人がどうなったのかは。血を注いだ……なんて言葉がそのままの意味なことには、期待通り、期待を裏切られましたが……」)
血を啜る者の所業は悪鬼の如く、永遠の冬に閉ざされた世界を蝕む。目の前の領主は、そこに巣食う病巣の化身。ならば。
「薄々予感はしていました……彼らの弔いは後程、町の方々とともに。まずは、悪辣極まりない領主を引きずり下ろしましょう」
レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)の一声に、復讐者たちは前進で応じる。
血の貴族の領主からは、貴婦人の全てを束ねても敵わぬ力を感じる。それでも、退く者など一人もいない。リップ・ハップ(Reaper Harper・g00122)は鎌刃を回し、レナータ・ペトリェンコ(“Klyk”(クルィーク)・g01229)は狙撃銃を持ち上げて。
「ああ。お前に次なんてもんはもう来ねいよ。街も愛も、これ以上穢させっか」
「これで”アレ”を遠慮なく始末できますね。幕引きの時間です。貴女の血で舞台を彩ってから降りていただきましょう」
下がった一歩は、進む二歩への布石。
薄嗤う紅瞳へ、その怒りを叩きつけろ……!
殺気を燃え上がらせて、リップが先陣を切る。長柄の刃を纏うかの如き跳躍。常人であれば反応も出来ぬ首刈りの一刃は、しかし領主の残像を斬った。
リップの目が即座に横を追い、硝子のはまった鉄枠を蹴る。
「おっと、逃がさねいよ。次々行くぜ」
『逃げる? 馬鹿ね』
続けざまの一撃を霞のように避けた瞬間、血の貴族は間合いの内に入り込んだ。吹き荒れた血風がリップの身を打ち、その意識さえも吹き散らそうとする。
「……ッ」
『優雅に舞う花弁を乱雑な振り回しで、捉えられるワケないでしょ? 陽動にもならなかったわね』
嘲笑の中、白く染まろうとする意識。
だがリップは鎌を握りしめ、強引にそれを引き戻す。
「全部本気だし、全部陽動でいいんだぜ。仲間が動きやすくなりゃ十分よ。どんだけ飛び回ろうが、距離詰めてコイツを振るのみだ……!」
裂帛の気合を込めて、リップは再び壁を蹴った。大鎌【伯爵】は、咄嗟に防御に回った血の茨を貫通し、令嬢の肩口に喰い込む。
『ちっ』
「気ィ抜けばざっくりだぜ? さあ、今だ」
瞬間、復讐者たちの攻撃が血の貴族へと集中する。舌を打った令嬢は全身を覆うように茨を展開してそれを防ぎつつ。
『こんな程度、で……?』
茨の隙間を縫うように突き出された銃口に、目を見開いた。
「陽動、助かります。これは高火力でも連射力が低いので、無駄撃ちできませんから」
空間に走ったノイズの中から浮かび上がるのは、身を逆さにした人影。光学的な迷彩で周囲に溶け込んだレナータは、リップの攻撃で敵の動きが止まる瞬間を狙ったのだ。
「頭上を跳び越えて射手が肉薄してくるとは思いませんでしたか? 周りに気を取られていては、普通気付く場所にすら意識が向かなくなりますからね」
濃密に歪んだ時の中、上下が逆に視線が絡む。狙撃銃【ルサールカ】の銃口が火を噴いて、紅い翼は血風を放つ。
『……やってくれるわね』
至近弾に身を逸らした令嬢から緋が跳ねて、背面の硝子が砕け散る。レナータは全身を引き裂く突風を銃身で受け止め、着地した。互いに、落ちる紅に構いはしない。続けざまのリロードで敵ごと背後の硝子を撃ち抜くと、飛び散る花びらが温室の外へと舞い上がった。冷気が一気に雪崩れ込む中、リップが跳ね回るように鎌を振るって肉薄する。
「血の一滴も残さず果てていきな……怪物」
「敵の動きを乱します。流れを掴ませないでください」
遠近、二人掛かりの攪乱。舌打ちした敵がそれを掃った時。再び敵の頭上を取っていたのは……。
「ああ。過たず狙い、射貫こう」
エトヴァが、弩を放った。その一射は黄金の軌跡を周囲に撒き散らし、舞い散る花びらに更なる色彩を添える。しかし。
『ふん、二度も上を取らせはしないわ。惜しかったわね……!』
敵は身を躱し、即座に迸った紅の茨が、濁流の如くエトヴァを包み込む。浮かべた氷片の障壁で直撃こそ避けたものの、茨はまるで巨大な手のように障壁を締め上げた。やがてその隙間から蛇のように進入し、エトヴァの皮膚を裂き始める。
『このまま潰して、綺麗な薔薇にしてあげる』
けたけたと嗤う血の貴族。弩を持つ腕にも茨が巻き付き、すでに狙いは定まらない。だが、つぶれかかる障壁の中でも、エトヴァの視線は静かに敵を見据えたまま。
「残念だ……ここの薔薇は美しくない。そしてご領主……あなたは二度と薔薇を咲かせることは出来ないだろう。ここには、俺の薔薇が咲くからな」
その指が、弩の引き金を絞る。茨の包囲を飛び出た矢は焔を宿し、舞い飛ぶ黄金の粉へ……いや、発火性の魔力媒体へと引火した。敵の笑みが引き攣った瞬間、金色の爆炎がその身を包み込む。黄金の薔薇の如くに。
「棘には棘を……負けはしない」
エトヴァが茨を裂いて中空へ脱すると同時に、敵は血の弾丸を乱射して爆炎を裂いた。
『よくも……この、虫けらども! もう許さない!』
その目に憎悪の焔を宿し、血の貴族は高貴さの仮面をかなぐり捨てて咆哮する。
リップの鎌が血の弾丸を切り落とし、レナータの弾丸とエトヴァの矢が射撃戦を繰り広げる。硝子は砕け、吹き荒れる冷気に薔薇の花々は全て散った。代わりに入り込むのは、亡霊を思わせる白い冷気。
「……まったく後の弔いが大変そうで困るね。ボクたちに薔薇になれって? むしろキミが、最後の薔薇になるがいいさ」
フルルズンは静かに、翼を広げる魂を呼び始める。吹き込む冷気が形を成して、呼び出されるのは浮遊する船葬墓。
「冒涜者より死者を取り戻せ、コフィン・ゴーレム!」
浮かび上がる船団。その一つ一つから、翼を広げた戦乙女の似姿がゆらりと立ち上がる。向かう先は、咆哮を上げて荒れ狂う血の貴族だ。
「空の船に収められしは、霊体のゴーレム達! 翼を持つ相手とて、空征く船からは逃れること能わず! さあ剣と槍を手に、勇壮なる戦いを再演せよ!」
戦乙女たちは、一斉に斬りかかり、突きを放つ。血の貴族は身を躱し、放たれた切っ先を掴むと、忌々しげに嗤った。
『こんな雑魚ども!』
迸った血の茨が、攻め掛かる戦乙女たちを貫き散らした。生き延びたゴーレムたちはどうにかそれを避けて打ち掛かるが、鞭のようにしなる茨が邪魔をする。やがて鋭く伸びた茨は、後方で指揮するフルルズンの腕を掴んで。
『失った分、その血を貰うわよ!』
「……ゴーレムくんたちへの指令は、距離を詰めて常にまとわりつき攻撃することなのだ。でもその役目は、とどめを刺すことじゃない。牽制兼足場を担ってもらうのだ……!」
『何?』
「イスルーン様……お呼びのゴーレム、お借りします」
戦乙女の群れに紛れる、一つの影。翼持つゴーレムたちを足場にしたのは、復讐神の加護を宿したレイラ。変幻自在の刺突で血の貴族に襲い掛かる。
「貴女の手で人民の血が流れたことが全ての始まり。ならば、全ては貴女の血でのみ贖われる」
『このっ! いちいち抵抗せず、とっとと死になさい!』
竜巻の如く血風が巻き上がり、敵の周囲を薙ぎ払った。翼のあるゴーレムたちは咄嗟に離れたものの、突っ込んだレイラがそれを避けられるはずはない。にやりと笑んだ血の貴族は、襤褸切れのように落ちる死体を探して、下を見る。
だが。
「それは血によって始まり、血によって成され、血によって終わるもの……」
血風の唯一の死角、頭上からの声。刺すような殺気に、敵はハッと顔を上げる。流れた血を、針状の細剣【惨禍鬼哭血革針】へと集約し、レイラが天井へ足をつけていた。
「血が欲しいと仰るなら、差し上げましょう」
紅き閃光が、空を裂く。渾身の刺突が敵の胸を貫通し、細い肢体が縺れあうように温室の床を穿ち抜いた。口から盛大に血を噴き上げて、床に紅い薔薇を描いたのは、領主。
『がっ……! ああああッ!』
(「心臓を貫いたというのに。さすがにしぶとい……ですが」)
もつれ合うレイラを弾き飛ばし、血の貴族は突き刺さったままの細剣を掴む。
『殺す! 殺してやる! 村のゴミどもも、アンタ達も! 一人残らず、殺……!』
だが串刺しにされた敵に、即座にフルルズンのゴーレムたちが殺到していく。暴れ狂う血の貴族を取り押さえる中、その傍らに立ったのは。
「……人は、いつか土に還る。でもね、眠る場所ぐらいは選べるんです。誰とともに眠るのかも」
十愛が、冷えた色の瞳のまま、周囲の冷気を呼び集める。それは鎌や三叉といった農具の形を取って、憎悪に暴れる女の上に浮かび上がった。女から迸る茨がその細首に巻き付いても、血が流れ滴っても、その視線は動かない。
(『な、なんなのコイツら! 皆、捨て身で……イカレてるわ! 放さないなら、このま、ま……ッ!?』)
血が吸えないことに気付いて吸血貴族が視線を下げると、すでに冷気のゴーレムと農具に押さえつけられた血の茨は、根元から凍て付き始めていた。
「さっきも言ったけど。血は凍るのだ。植物も。残念だったね」
フルルズンが肩を竦めた時、初めて敵の目には動揺が浮かんだ。標本にされた蟲よろしく、何も出来ない自分に気付いて。
「薔薇になった皆さんの、声が聞こえますか? 聞けないなら、聞かせてあげます。傷口から出た血が、全て凍るぐらいに。あなたの血は……ここで薔薇にするのすら、烏滸がましい……!」
『い、厭よ……放しなさい! は、放し……ッ!』
氷の三叉が、その首の上に落ちる。次に鎌が。次に鍬が。次に……次に、と。生成される氷の農具が敵の身を貫く。その度に敵の体が震え、もがき、痙攣して、動かなくなって……それでも、氷の刺突はやまず、降り注ぎ続ける。
やがて、その断末魔さえ凍てついたころ。
床には白く凍てついた染みのような跡以外、残っていなかった。
●
闘いは終わった。
ため息をついて屋敷を出たリップが、きょとんを目を見開く。そこには。
「か、勝ったのか! 本当に!」
「おいおい。寒い中、みんなで待ってたのかい? 待てよ、今あっためるから」
寒い夜空の下で、人々は屋敷から出て来る復讐者たちを迎えていた。すでに全員に、毛布やコートが行き渡っている。人々は、すでに持つ物を分かち合う心を取り戻していた。レナータはそれを確認し、皆の前に立つ。
「血の貴族の支配は、ここに幕を下ろしました。郷は解放され、皆さんは自由の身となったのです」
解放宣言を受け、ある者は涙を流し、ある者は膝を折って、人々はお互いの身を抱きしめる。だが、歓声を上げることは出来ない。
お互いを慰め合う人々の前に立って、十愛が頭を下げる。
「でも……救い切れなかった人もいました。先に使用人になっていた人たちは……もう」
「ええ。さっき聞いたわ。先任だった人から、殺されて行ったって……」
「パパはそれで逆らえなかったんだって」
愛を裏切り使用人の身分を手にした結果は、後任が来れば確実な死が待つさだめ。人々はこの街を覆う狂気の全容を理解していた。
「まあ、それももう終わり。これからのことを大事にしてほしいのだよ。街は直すからさ」
重機のようにゴーレムを従えたフルルズンの言葉に、人々は弱々しくも頷く。傷つきながらも出来る限り互いを許し合うことを、彼らはすでに誓っていた。
「まずは……領主館のものを運び出し、弔いをいたしましょう。手を取り合い、未来へ進むために」
レイラの導きで、人々は動き出す。
暖かな部屋の多い領主館を弱った人々の施療院とし、外周街は畑に変えてはどうか……そんな会話を交わしながら、復讐者たちは街の人々を手伝う。長くはいられないが、パラドクスを用いれば様々な支援が出来る。
やがて、進入してきた穴から戻る時、エトヴァは言った。
「この穴は塞いでくれ。ディアボロス以外、誰も入れないように」
人々はそれを固く約束して、復讐者たちを見送る。その背に、感謝の言葉を送りながら。
「これからは物資は皆で分けるよ」
「みんなのこと、忘れない」
「ありがとう……ございました」
閉じられた領域であるこの地は、吸血ロマノフ王朝からの隠れ里として、しばしの安寧を得られるだろう。
静かな帰路。エトヴァは、祈る。
(「願わくば、犠牲者達に安らかな眠りを……そして」)
復讐者たちは誓う。
広大な氷原に燈った、小さな希望の灯。
それが揺るぎなくあるよう……守り抜こうと。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
効果1【フライトドローン】LV2が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【一刀両断】LV1が発生!
【傀儡】LV1が発生!
【アイスクラフト】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV3が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!