リプレイ

●繋ぐ一手
　機械化ドイツ帝国の西ポーランドに築かれた、大要塞タンネンベルク。
　来るべき、吸血ロマノフ王朝との戦争のため準備を進めて来ていた要所だが、首都ベルリンを失い、後方支援を失ったルーデンドルフの勢力は押されつつあった。
　何とか奮戦してはいるものの、その戦線はヴァンパイアノーブルによって、ジワリジワリと押されつつある。
　死をも恐れないラスプーチンの勢力は、鮮血を撒き散らし見目にながらも艶やかに、使える主の為ならばと、美しい見目に微笑を浮かべ進軍し。
　対する、ラクーン・ブリッツは強靭な体躯に銃火器化したアームでスクラムを組むように、前線は肩を並べ耐えている状態だ。
　それを支援するよう後衛部隊が、銃撃で応戦するも死しても大した事ではないように、次から次へとヴァンパイアノーブルが姿を現していた。
「吸血鬼とロボの闘いとは、いよいよ訳がわからんくなってきたぜ」
　どっちも倒すべき敵ってのだけは、ハッキリしてるけどなと、眉立・人鳥（鳥好き兄ちゃん・g02854）は戦況を眺め、氷のように蒼く煌めく刃の〈蒼氷晶剣【混乱】〉を手に。
「元々お前達の物でも無いというのに、我が物顔で奪い合いとは笑えない冗談ね。
その妄執ごと斬り捨ててあげるわ」
　アイネリス・レナリィ（黒鉄の魔女・g01781）は〈黒鉄の刃片〉をパラドクス『解き放つ応報』による念動力で操り強大な剣刃を生成しながら。
　二人はラクーン・ブリッツの部隊後方に向かって一気に斬り込んでいく。
「……というわけで、ここは皆でハイエナと行きますか。先行するぜ！」
　接近する気配に、数体のラクーン・ブリッツが反応し銃口を向ける。
「さて、成層圏からディヴィジョン一つ巻き込んで飛び降り自殺とは……また傍迷惑なことだね。ドイツ奪還のためにも、少しでも兵力を削っておこう」
　右手を仲間に向かって突き出していたラクーン・ブリッツの足元に、百鬼・運命（人間のカースブレイド・g03078）は、パラドクス『トラッピング』による落とし穴を召喚し開かせた。
　何も無い所に突如現れた罠に、抗う術は無い。
「さて……狩りの時間だ」
　敵のピンチはこちらのチャンス、見逃さないのは当然だと、霧宮・悠希（小さき復讐者・g02383）は、パラドクス『オーバーライト』で上書きし、戦場を塗り変える。
　不意の襲撃に切り替えが遅れている、ラクーン・ブリッツに身の丈を超える巨大な剣刃がアイネリスによって振り下ろされ、凄まじい爆炎と衝撃が広がり。
　空気を震わす衝撃に銃火器の狙いは乱され、その隙に剛魔の眼を発現させた人鳥は弱点を暴き魔力を帯びた拳を叩き込む。
「超魔爆砕撃、信念の拳を以って切り……開くッ！」
　パラドクス『超魔爆砕撃』の拳は、強靭なラクーン・ブリッツの胸に風穴を開け、その身を爆砕させた。
　虚をつかれたラクーン・ブリッツは足並みを乱す。
　さすがに後方には本陣とルーデンドルフが控えている。真後ろからの挟撃とは成らなかったが、ラクーン・ブリッツにとっては正面からのラスプーチンの軍勢に気を取られていた分、先手で受けた強力な攻撃による動揺は大きい。
「ヨアケのコンビネーション、冥土の土産に見せてやろうじゃねえのよ」
　斬り込んでいった人鳥とアイネリスは互いの背を庇うように位置取り、『狙撃陣形・剛』より攻撃を仕掛けてくるラクーン・ブリッツに身構えた。
　元より体制を整える前に、仕掛けられるだけ斬り込むつもりだ。
　多少の弾丸は受けるだろうが、こうして背を預けられるだけでも動きやすい。
　二人はその勢いのまま、次の敵へと向かっていった。

　何とか止めなければと、突然現れた相手に対応しようとしたラクーン・ブリッツは、違和感を感じ視線を落とした。
　膝のあたりに何かが絡まり、動きを阻害している。
　それは三苫・麻緒（ミント☆ソウル・g01206）が、パラドクス『穿つ鎖』で伸ばした、魔力翼の一部。
　あちこち動き回る敵を一度に沢山相手取るのは面倒だから、まずは動けないようにしようかなと密かに発動させた力。
「まるで、そこは自分たちの場所だと言わんばかりの働きぶりだなぁ。なんかこっちが悪者になったみたい。だけど元々は私たちのもの、邪魔をするなら容赦しないよ！」
　伸ばされた魔力翼はラクーン・ブリッツの内にまで入り込み、電流のような強力な魔力を一気に流し込んだ。
「こういうのは外側より内側の方がデリケートかつ重要だよね」
　スパークするように内部機器をショートさせ、麻緒はその動きを奪う。
「押されているとなれば便乗しないわけにはいかないね」
　黒野・茉莉奈（サキュバスのレジェンドウィザード・g02229）が放った、パラドクス『青龍水計』が敵群を膨大な流水へと呑み込む。
「よっし、みんなで突撃すれば怖くない！　その水全部凍らせて、足を捕らえて動けなくしてあげましょう♫」
　追い打ちとばかりに、アオイ・ダイアログ（響き合う言霊の繰り手・g02687）がパラドクス『エフェクトボイス：フィンブルヴェトル』を発動。
「世界を氷に閉ざしましょう」
　アオイは、太陽の意匠が施されマイクが仕込まれた杖〈エフェクトボイス・サンライトスタッフ〉に凍結の言霊を重ね一気に解放する。
「冷凍氷、冷えろ氷れ凍てつけ凍えろ凍れ凍れ凍れ凍れ氷り付け！！」
　青龍水計に呑まれていた辺りが一瞬氷の世界に閉ざされ、四体のラクーン・ブリッツが氷柱に囚われた。
「削れるところから削るのは戦略の基本、ここからは私たちのターンです！！」
「卑怯？　戦争に卑怯も辣韭もないよ？」
　抗議の声をあげるように『狙撃陣形・疾』を取り、仕掛けてきた茉莉奈とアオイを狙い右手の銃火器で撃ち込んでくる。
　反撃までの対応が、そろそろ早く成って来ただろうか。
　銃撃してくるラクーン・ブリッツだが、その動きが再び阻害される。
（「押されているとはいえ大軍勢、連携が取れた守り。脅威だが……」）
　悠希は戦場の一部を塗り潰して“上書き”する。
（「その意志を折ってやる。その鋼の身体を、銃火器を、使い物にならなくしてやる。
ディアボロスとしての力と意志で……」）
　その心に渦巻く衝動と祈りと狂気をぶつけるように。
「オーバーライト……！」
　鉄の意志は折り、その身は錆びつかせ、悠希は年代物の両手剣〈執行人（エグゼクター）〉を振るい、ラクーン・ブリッツを狩った。
　まだまだ狩り足りないが、頃合いだろうか。
　敵の動きを見ていた運命と人鳥が合図を取り合う。
「残念だが、時間切れのようだ」
　超魔爆砕撃で一体ラクーン・ブリッツをぶち抜きながら、人鳥は撤退の合図代わりに小さな光りを放った。
　アイネリスは槍を模した刃〈黒鉄の槍刃〉を舞わせながら行動を阻害し牽制するよう穿たせ、トラップ生成による煙幕を運命は周囲に放った。
　ラクーン・ブリッツは後を追おうとしたが、煙の内にアオイによる氷山がいくつか作られており。
　全てが晴れる頃には、ヨアケのメンバー達の姿は消えていた。

最終結果:成功
完成日	2022年04月12日