めりくりーす（作者 質種剰）

9

リプレイ

●和洋折衷
　新宿島。
「フハハハ、我が名は世界再征服を企む悪の秘密結社ラグナロクが大総統！！」
　大総・統（秘密結社ラグナロクの大総統・g00589）は、相変わらず秘密にしたいのか吹聴したいのかわからない堂々たる名乗りを上げていた。
「心菜は、日頃よりの案内役ご苦労だ」
　それでもパーティ会場の設営を終えた心菜を労う態度は、なるほど大総統と称するだけの威厳や風格を感じられなくもない。
「それにしても心菜は、小さいな……まるで狐の様じゃないか！！」
　これで、心菜を彼女の頭の上のクダギツネと間違えて語りかけていなければ、もっと格好ついたのだろうが、この辺り、やっぱりいつもの統なのだった。
「ありがとう存じます。大総統様、小さいだなんて、何よりの褒め言葉で嬉しいわ」
　とはいえ心菜本人は思わず満面の笑みを浮かべるぐらいに喜んでいるので、結果オーライである。
「さあ、第一次東京奪還戦の勝利を祝し、皆でクリスマスパーティを楽しもうじゃないか！！」
　そんなこんなで、大総統の音頭によって、ついに始まったクリスマスパーティ。
「ほう、テーマはクリスマスリースか……成程、勝利という良き流れに肖って験を担ぐというわけだな！」
　早速、ヒイラギの葉などの材料を見やって、統は思案を巡らせる。
「任せよ！　この先何が起ころうとも私が永劫の吉兆と未来を約束しよう！！」
　ディアボロスとしてはとても頼もしい宣言だが、世界再征服してもたらすのが吉兆とは。
（「……善政を敷く名君を目指してるみたいね」）
　秘密結社の首魁としてそれで良いのだろうか、と内心ツッコむ心菜だ。
「フハハハ！　見よ！　我が秘密結社に相応しいクリスマスリースが完成したぞ！」
　そんな疑惑を持たれているとは知らない統は、高らかに笑っていつのまにやら完成したクリスマスリースを掲げている。
「クリスマス……リース？」
　自信満々らしい完成品を目の当たりにして、思わず首を傾げた心菜。
　何故なら統の手にしたそれは、正月用の注連飾りにも見えるからだ。
　円環に整えた太い注連縄。
　その天辺に飾ったヒイラギの葉っぱ。
　リボンがわりに結ばれた紅白の水引き。
　クリスマスリースに使うにしては細かく数も多い南天の実。
「へぇ、リースにも注連飾りになるなんて便利ね。しかも可愛い」
　そう。統が作ったリースは、クリスマス当日に玄関先へでも飾っておけばそのままお正月まで使えて大変便利な、締め飾りリースであった。
　一方。
「ククク、クリスマスリース作りとはの」
　ソル・スクルド（御狐魔法少女ソル・クロノレジェンディア・g02818）は、煌びやかに飾りつけられたパーティ会場を眺めて、不敵な笑みを浮かべた。
　中二病を続けに続けた結果、突如、お狐魔法少女もとい妖狐のレジェンドウィザードとして覚醒してしまったとは本人の弁。
　中二病を続けた期間——即ち年齢については触れてはいけないそうな。
「ココは妾の力を封じた最高峰の魔法道具を作成……厄を退散させるのとは逆転の発想で……」
　ともあれ、そんな年季の入った中二病のソルだけにクリスマスリース作りも気合いが入っている。
（「……って、フリッカ姉がいるのじゃ！？」）
　だが、ソルの勢いは長くは続かなかった。
「まさかこの時代でクリスマスを祝えるとは思わなかったわ」
　フリッカ・ウルズ（立体蜘蛛蛾・g01122）が、これも楽しそうにパーティ会場を見渡していたからだ。
「新宿だけでもすっかり様変わりしちゃったし、これが時の流れなのかしら？」
　２０１３年——TOKYOエゼキエル戦争出身のフリッカからしてみれば、確かに現代の新宿島は、何もかもが新鮮に映るだろう。
「それに、あの子たちも私と同じぐらいの年齢に……」
　元々、再会する前から統やソルと親しかったらしいフリッカは、成長した２人を遠巻きに眺めて、しみじみと呟いている。
　ただ、統は記憶を失っている上に、
（「前々から、向こうが何か色々と察しているような雰囲気な分、なんとなく、き、気まずいのじゃ…」）
　ソルはソルで、ちらちらとこちらを窺って気まずそうにしているのを、気づかないフリッカでもない。
「……まぁ、歴史改竄前に『私』絡みで何かあったような雰囲気よね……心当たりあるけど、今はもう『無い』し……」
　自分のことは自分がよくわかっているから——と内心苦笑するフリッカ。
（「……あ、でも全てが元に戻ったらどうなるのかしら？」）
　そんな姉貴分の諦念を知ってか知らずか、勝手にパニクって飽和状態になったソルは、
「ソウルメイト、ヘルプ！！　ウチには重荷じゃ！　記憶の無いお主ならきっと神対応をしてくれるに違いない！」
　と、素直に統へ助けを求めていた。
「あ、心菜殿は、クリスマスパーティの準備おつかれなのじゃ！」
「ありがとうございます。どうぞ楽しんでらしてくださいね」
「突然、神対応を求められたのだが……神……なるほど、この注連飾りリースが欲しいのだな？」
　統は統で、神の意味を取り違える見事なボケをかましていた。
（「って、未来の事なんて気にしたら負けよね。今を全力で駆け抜ける……私があの二人に教えた事だもの」）
　その賑やかなやりとりを横目に見つつ、フリッカはいよいよクリスマスリース作りに取り掛かる。
「そうと決まったら、可愛いリース作るわよ♪」
　彼女が選んだ素材は、常緑樹の緑を模した土台の輪っかと、赤いベルベットのリボン、金色のベル、ヒイラギの葉っぱ。
　それらから生まれた完成品は、クリスマスリースのスタンダードとでも言うべきデザインの、シンプルなリースだ。
「まぁ、何にせよ、先の事を言うと鬼が笑うと昔から言うからの。今は、この時を楽しむべきじゃな！」
　そして、ソルもまた、期せずしてフリッカと同じ結論に達していた。
　まるで、フリッカの教えが無意識のうちに彼女の中へ根づいているかのごとく。
「そうと決まれば、リース作りじゃ」
　ソルが選んだ素材は、黒のシダーローズで作られた艶やかな松ぼっくりリース。
　ちなみにシダーローズとは、ヒマラヤ杉の松ぼっくりを乾燥させて、傘を開かせたものだ。
　その上に紫のレースのリボン、白い陶製のベル、黒く染めたヒイラギの葉、白いシュガーパール、白と紫のキャンディケーンなどを飾りつけていく。
　かくて、現代に生きる魔法少女らしい、ゴシック調で華やかなクリスマスリースが完成したのだった。






●相棒勢揃い
　同じ頃。
「異国の文化だが、祝いの席に植物を飾り付けるのはどこも同じだな」
　テクトラム・ギベリオ（砂漠の少数民族・g01318）は、会場に所狭しと飾られたクリスマスリースやツリーを眺めて、感慨深そうに頷いた。
「光と植物の共演……とても素晴らしい」
　殊に、パーティ会場の中央にどーんと鎮座したクリスマスツリーは、本物のモミの木が持つ重厚な存在感にLEDライトの色とりどりな電飾が、豪華さと賑やかさを添えている。
　かようにテクトラムが装飾に見惚れている一方で。
「期せずして、各々相棒を連れている身、少々親近感など抱くともなのです。むふん」
　金刺・鞆（虚氏の仔・g03964）は、奴崎組の中でもこの日集まった３人が全員、サーヴァント連れという偶然に気づいて、口元を綻ばせた。
「言われてみれば、皆サーヴァントがいるな。いぬに毛玉も、毛がフワフワとして可愛らしい……」
　レント・オルトマン（エンデクーゲル・g01439）も頷いて、鞆のいぬとテクトラムの毛玉を褒めている。
　……それにしても、モーラット・コミュにいぬと名づける鞆、スフィンクスに毛玉と名づけるテクトラム２人のド直球なネーミングセンスは、もはや一周回って素晴らしい。
「どうしたタケノコ、なぜ睨んでくる？」
　その傍ら、竹管に入っていたからとクダギツネをタケノコと名づけるレントもまた、斜め上の捻り具合をしたナイスなネーミングセンスといえよう。
「鞆とレントはどの様な『りーす』を作るのだ？」
「リースを作るのは幼少以来だ、期待はするな」
　テクトラムに問われてレントが謙遜する反面、
「わたくしは、稲藁で輪っかをつくりたい、です！」
　完成品の明確なビジョンを描いてきたらしい鞆が、やる気に満ち満ちた声で宣言する。
「豊穣祈願でもある、と聞きましたゆえ。これは是非とも作らねば、と」
「なるほどな。俺は小枝を使ったシンプルなリースにするか」
　レントは白樺風に白く染められた枝の中から、太さのある枝を幾つか見繕い、器用にワイヤーで繋ぎ始めた。
　そうしてできた輪っかを土台に、次は装飾っぽく短い小枝を載せて固定していく。装飾は天辺に細いリボンを結ぶだけにして、枝を殊更強調する構えだ。
「りーす作りのご経験がおありの、レントさまのりーす。素朴ながらも、くりすますの雰囲気を感じます」
　鞆はレントが作り上げた小枝リースの素朴さとスタイリッシュさの融合に見惚れつつ、稲藁編みの手も休めない。
　敢えて稲の穂先を残すように根元だけを三つ編みにすれば、稲藁単体でも他のクリスマスリースに引けを取らない、ふさふさと華やかな見た目になった。
　リボンの代わりに幣へ使う紙垂を折って垂らせば、いかにも豊穣祈願のご利益がありそうな、和風クリスマスリースの完成。
「ふむ……2人とも白を基調とするか。では私は王道のモミの木をベースにしよう」
　２人の作業を興味深そうに観察していたテクトラムは、クリスマスカラーのモールやフェルトを使って、リースの飾りを自分で作るつもりらしい。
「経験者のレントも居るし、ある程度細かい装飾も自分で作れるだろう」
　とのことだ。
　モミの木の葉を密集させたリースの土台へ、赤いフェルトを切って作った靴下を白い刺繍糸で適当に縫いつける。
　同じ要領で緑のツリー、白い雪だるまなどを縫いとめればひときわメルヘンチックになった。
　クリスマスカラーのモールも敢えてうねりや波を揃えずにリースへ巻きつけて，温かみの溢れるクリスマスリースの出来上がり。
「あとあと、いぬを模した飾りも作りたいのです」
　３人のリースが出揃ったところで、鞆が興奮さめやらぬ様子で提案する。
「それなら……鞆、この綿花などいぬに合うのではないか？」
「ありがとうございます……いぬ、参考にするので、すこしじっとして」
　テクトラムから受け取った綿を手に、じっといぬを見据える鞆。
　いぬもどことなく緊張した様子で、きちっと空中静止しているのが微笑ましい。
「毛玉とタケノコも作れるでしょうか」
「タケノコをモデルにか……」
　レントもタケノコを見やって思わず苦笑い。
「こいつきっちり止まって、ポーズまでつけているな」
　そんな相棒の期待に応えるべく、レントはタケノコの首飾りを模した装飾をリボンとモールで作ってやった。
「テクトラムさまも、手伝ってくださいますか？」
「細かい作業はあまり得意では無いが……そうだな。モデルが目の前にいるなら話は別だ」
　テクトラムも綿を詰めたフェルトをざっくりと縫い合わせて、毛玉のぬいぐるみを手早く作った。
　それらをテクトラムのモミの木リースへぶら下げれば、他の綿やフェルトの飾りと違和感なく馴染んで可愛らしい。
「とも、お米が好物、ゆえ。あらたな年でもよい米が収穫できますように」
　鞆がぱんぱんと手を合わせて、壁へ吊るした稲藁リースに拝んでみせる。
「祈りか。するりと出すのは苦手だが、そうだな。今後もこういった祝い事を続けられる事を願う」
「鞆は豊穣、レントは未来への願掛けか。では私は……」
　レントも倣って願掛けするのへ、頷くテクトラムだが。
「いや止めておこう。内緒と言うやつだ」
　ふと思い直して、願望を口に出すのをやめてしまった。
「ギベリオ、内緒とは随分気になる事を言うな？」
「仔細を秘せども、きっとご加護がありましょう」
　果たして彼の願いとは何なのか、思い思いに想像しながら微笑むレントと鞆だ。




●寄り添う幸せ
　クリスマスリース作りに湧くパーティ会場。
「そうだな……飾るものだし、スタンダードなものにしよう」
　霧原・瑶蓮（無銘の拳士・g04575）は、その精悍な顔へ真剣さを顕にして、リースの素材を選んでいた。
　まずは樅の枝を器用に針金で繋ぎ合わせて土台にする。
「彩りはやはり、赤と緑と金がいい」
　要所要所に拘りを見せて赤地に金の縁取りのリボンをふわりと巻きつけ、柊の葉もバランスを考えて散りばめていく。
「配置もバランスやセンスが問われるのものだな……こうしたことを普段からこなす職人の仕事にはまったく頭が下がる」
　そして、クリスマスリースには欠かせないベルを選ぶ段階になって、初めて瑶蓮の手が停まった。
（「頂点に飾るとしても、大きいのを一つにするか小さいのを二つにするか、悩みどころだな」）
　瑶蓮が沈思黙考を始める、その傍らでは。
「心菜ちゃんいつもありがとうですよう♪」
「こちらこそ、いつもご贔屓にしてくださって」
　心菜と話していた白木・鞠花（月夜の白菊・g04664）が、いよいよクリスマスリース作りに取り掛かる。
「可愛いのがいいですね、折角なので」
　豊富な材料にあれこれと目移りする中、少し幅広のリボンを選ぶ鞠花。
　柄は赤緑金のタータンチェックで、クリスマスカラーを意識したと判る。
「どうせだからリボンを目立たせるようにしてみたいですねぇ？」
　余程チェックの幅広リボンが気に入ったのか、鞠花は敢えて葉をつけない蔓を幾重にもリングへ巻きつけて土台にしようと決めた。
　そこへ幅広リボンをふんわりと絡めて頂点で大きく蝶結びすると共に、金色のベルを吊り下げる。
「うーん……」
　リボンが主役のリースは充分華があるものの、装飾がリボンとベルのみというのはちょっぴり寂しいかもしれない。
　そんな風に考えたのか、鞠花は新たな飾りを足すことにした。
「もう少しにぎやかにしましょうか……木の実なんかどうでしょう？？」
　見つけてきたのは、金色に塗られた木の実や銀色の松ぼっくり。
　照明を淡く反射してパッと目を惹くそれらを、案配よく幾つか飾りつけて、今度こそ出来上がりだ。
「どうした鞠花」
「瑶蓮さんの作ったのと交換してくださいな♪」
「……交換か、構わないぞ」
　早速喜び勇んで瑶蓮へ完成品を見せれば、彼もちょうどベルを結び終えたところだった。
「そういえば、リースには何を願掛けしたんだ？」
「私のですか？　瑶蓮さんとずーっと一緒に居られるように願掛けしたですよ♪」
　何気なく尋ねた問いへ花も恥じらう笑顔で即答されて、一瞬言葉を失う瑶蓮。
「――俺も同じだ」
　だが、照れていても始まらないと素直に自作のリースへこめた想いを吐露する。
「だから鈴は俺と鞠花が一緒にいられるように、中くらいのと少し小さいのを並べた」
　きっと２人とも、リースを作る段階から既に、互いのことを想いながら作業していたのだろう。
　リースを受け取った鞠花の顔の前で、大きさの違う２つのベルが音色を奏でつつ寄り添っていた。






●Advents　kranz
　さて、こちらは３人で協力しながらドイツの横置きクリスマスリース『アドベントクランツ』を作っている面々。
　輪っかの土台はモミの木で作り、各々へ１／３ずつ割り振って飾りつけすることにしたらしい。
「よし蜘蛛。お前の糸でこの辺縛れ」
　さらっと命令するエルフリーデ・ツファール（紫煙の魔術師・g00713）だが、その両手に煌びやかなオーナメントボールが握られているだけで、途端に微笑ましい空気が漂う。
　相当目つきが悪く物言いもぶっきらぼうで怖い印象を受ける彼女は、実際のところ、外見に比べれば余程お人好しな性格なのだとか。
　人は見た目によらないを地でいくタイプである。
「全く人使いの荒い……」
　黄泉王・唯妃（灰色の織り手・g01618）が苦笑いしつつも、自ら生み出した糸を撚り合わせて手早く土台を縛りつけていく。
　豊かな黒髪と黒いセーラー服がトレードマークのインセクティアの美女。
　蜘蛛らしき触角もまるで髪飾りのように艶やかで、例えるならやはり女郎蜘蛛か。
「蜘蛛の糸……縁起的にどうなのだ？　いやまあ、蜘蛛は益虫だが」
　陳・桂菓（如蚩尤・g02534）はそんなツッコミを入れる傍ら、こちらも器用に細竹を割っている。
　クマバチのインセクティアで誇り高い無双武人の桂菓。
　鋭い眼光に違わず普段は凛然としている彼女だが、何かのきっかけで緊張の糸が切れると途端にへにょるのだとか。
「まあドイツじゃよく見るやつだな」
　さて、綺麗にモミの木が縛りつけられたところで、松ぼっくりや乾燥オレンジ、シナモンスティックに薔薇のプリザーブドフラワーをテグスで結びつけ固定していくエルフリーデ。
　一方桂菓は、割った竹をより合わせて土台に縛りつけた上から、笹の葉、松の葉も盛りつけて豪勢な緑に仕立てていく。
　次いで、梅の花の造花と松ぼっくりを交互にしつらえて、大層賑々しく飾りつけた。
　当人曰く、歳寒三友——いわゆる松竹梅をベースにデコったとのこと。
　出身ディヴィジョンと年末年始という時節柄から思いついたそうな。
　他方。
「ちょっとシンプルかもしれませんけど、他の２人とのバランスを考えるとこれくらいでいいでしょう」
　唯妃は赤いポインセチアの造花をメインに、ブドウや青りんごの実、ヒイラギの葉を落ち着いた風情で固定させると、後はリボンも可愛らしく結えつけた。
「こっちは完成したぜ。……キメラ感すげぇなこれ」
　かくて、三者三様の土台が完成したところで、キャンドル台を固定。
「……なんか桂菓のところだけ中華風というか和風というか、注連飾り？」
　蝋燭に火を点けながら、思い思いの感想を述べるエルフリーデと唯妃。
「そんなに似てるか？　あの白いひらひらした紙も、橙も使ってないのに」
　と、首を傾げる桂菓は、日本の正月の風習にもすっかり詳しい。
　ちなみに、注連縄や御幣につける白いひらひらは紙垂（しで）という。
「うちの薬店に置くのはダメだ。キャンドルの匂いが調薬の邪魔になるからな。だから……行きつけの喫茶店にでも置いとこうぜ」
「なら、わざわざキャンドルなど使わなければよかったものを……」
「まあ、あの喫茶店ならお邪魔にはならないでしょうから。いいんじゃないですかね」
　どうやら引き取り手の決まったらしいアドベントクランツは、４つの灯りを揺らめかせて幻想的に周囲を照らしていた。


●信心
　同じ頃。
「クリスマスとな？」
　文月・雪人（着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850）は、物珍しそうにパーティー会場を見渡していた。
「先日のハロウィンも面白かったけど、こちらもまた興味深いね」
　新宿島、ひいては現代日本で初めて迎えるクリスマスなのだ。
　雪人にとっては、あらゆるクリスマスの定番が初体験、きっと殊の外新鮮に映るに違いない。
「ふむふむ、これがクリスマスリースなるものか？　正月用の注連飾りみたいだね」
　そして、皆やはり思うことは同じらしい。
　今回のクリスマスリース作りにおける、注連飾り兼用リースの思いもかけぬ人気たるや。
　新宿島の人たちも、正月の準備の手間が少しでも省けて便利だと、こぞって真似するほどであった。
「魔除けの柊には馴染みがあるよ。節分の準備には欠かせない。あとは鰯の頭を……」
　そして、もはや正月通り越して節分のための魔除けを始めそうな雪人へ、
「いや、鰯の頭は流石に無いから」
「使わない？　そうなの？」
「使いたくなるお気持ちもわかるけどね」
　思わず心菜がツッコんだ。
　ともあれ、雪人はシンプルさと華やかさを兼ね備えた柊の輪へリボンとビーズで飾りつけを始める。
　リボンは赤く幅広な繻子織のもの、そして和飴や金平糖を模したビーズを選んだ。和風な趣が親しみ深いからだろうか。
　手先が器用なおかげか、当人曰く美的センスに自信が無いとは思えないほど、柊リースの見映えはよくなった。
（「でも何かが足りないような……あ！」）
　何かアクセントが欲しいと、小分けされた材料の箱を眺めていた雪人の目にふと飛び込んできたもの。
「お魚型の飾りを発見！」
　それは——先程の鰯ではないが——魚の形に切り抜かれた薄いコルク材の飾りだった。
「ほら、意外と合うかも♪」
　柊リースへ金銀のお魚を何匹か泳がせて、雪人は楽しそうに笑み崩れる。
「心菜さんのはどんな感じかな？」
「注連飾りリースの輪っかへ、そのお魚の飾りを縦に突き刺して、頭だけ見えるようにしてみたわ……」
　見ると、注連縄の輪っかの天辺から魚の頭が突き出ていて、それを挟むように柊の葉があしらわれている。
「あ、柊鰯」
「……さっき聞いた話が頭から離れなくて、つい」
　よかったら魔除けにどうぞ、と渡されて、雪人も何か思い出したように手を叩いた。
「そうそう……メリークリスマス！　いつも本当にありがとう」
　日頃お世話になってるからと、予め用意してきた美味しいチョコレートを心菜へプレゼントする雪人。
「わぁ、嬉しい……どうもありがとう」
　柊鰯にチョコ……何だか２月が待ち遠しくなる組み合わせだと、心菜が笑う。
「こちらこそ。これからもどうぞ宜しくね」
「ええ。よろしくお願いします」
「来年はどんな年になるだろうね」
「良い年にしたいわね」
　魔除けの柊のご利益が、新宿島に住まう全ての人々へありますように。


●宴もたけなわ
　さて、クリスマスパーティと言うからには、もちろん定番のご馳走やケーキも所狭しと用意してある。
「うまい」
　李・令震（飛天大虫・g03313）も、クリスマスケーキに舌鼓を打つ参加者のひとりだ。
　大戦乱群蟲三国志から新宿島に漂着してからというもの、現代の暮らしに馴染むべくあらゆる知識や常識を吸収していった令震。
　もちろんその中には、古代中国とは比べ物にならないほど豊かになった食事もあったはずなのだが、いかんせんボキャブラリーに乏しいせいで、
「うまい」
　以外の感想が口をつくことは無いらしい。
　それでも、何でも美味しいと感じる馬——失敬、『幸せ舌』と大食漢のコンボは、たとえ味に関する感想がなくとも、料理人を満足させるだけの良い食べっぷりへと繋がるのだった。
「……」
　だから、気を利かせたつもりで猫ちゃんクッキーを差し入れしようとしている心菜や、パーティのために張り切ってクリスマスケーキを焼いた一般人たちは、誰も知る由がなかった。
　ちなみに令震が食べているのは、白いマロンペーストと銀のアラザンの配色がお洒落なツリー型モンブランやリース型ホールケーキ。
（「どれもうまいケーキだが、特に蛇っぽい味はしないな。黒焼きの粉末とかが入ってるわけでは無いのか？」）
　多少なりと天然ボケの気のある令震が、これらのケーキを……あろうことか白蛇を模したものだと勘違いしているなど。
　知る由がなかった。

最終結果:成功
完成日	2021年12月25日