リプレイ

●空の戦い
　空を、市街地を、埋め尽くし集結する『静謐のクリアホワイト』達。ビルの陰に隠れながらもその光景を見つめて、エトヴァ・ヒンメルグリッツァ（韜晦のヘレーティカ・g05705）は僅かに眉を寄せた。
「……天使の行軍とは異様だな」
　見た目は美しき天使達だが、この地を支配しようとするクロノヴェーダであることを彼は知っている。旅団『*Nyx*』の仲間である赦蜘・九朗（死んでも社畜・g03801）もまた、腰の刀に手をやりながらもその口元を歪めた。
「天使……なぁ。神は死んだ……って言いたなるな」
　くい、と刀に添えたのと反対の手で中指を立てて見せながら。九朗にとって、どんなに祈っても助けてくれぬモノなど祈り損。只の空飛ぶ人程度の存在だ。
　紡ぐ言葉にカラカラと笑って頷いたのは、今咲・栄華（ゲットワイルド退職・g00910）。
「世界有数の無宗教国家に天使の統治たァ解釈違い甚だしー」
　可笑しそうに続けながら、彼女は二人に目線で合図を送ると腰のフライトデバイスのスイッチを入れた。ふわりと空中に浮かんだ栄華に続き、エトヴァも虎ノ門の上空目指して翼を羽ばたかせる。
　狙うは祈りに集中してこちらに気付いていない集団、数は五体。近付きながらもひらりと掌返して、エトヴァは無数の光の輪を出現させた。回転する輪は白き天使達に高速で近付くと、その身を切り裂き三体を無力化し地へと落とした。
　敵にとっては完全なる不意打ちのパラドクス。残りの二体は、ディアボロス達の姿を認めると静かに口を開く。
「ああ、私達を傷付ける者よ」
「哀れな人よ、その心を浄化しましょう。カマエル様に祈りましょう」
　一体は歌い、一体は小さな光弾を生み出している。静謐ながら慈悲はないその挙動に、栄華は思わず口の端を吊り上げた。
「アタシを撃ち落とそうッてかァ」
　呟きながらさらに高度を上げれば、自然と天使は彼女を見上げる。その隙こそが、栄華の狙いだ。彼女の視点では、見上げるクリアホワイトの背後から静かに近付く仲間が見える。
「……行くで《鋼》、出番や」
　悠々と空を飛ぶ敵に、憎々しげに舌打ちしてから。九朗は手元の有刺鉄線型した武器へと声掛けて、力強く地を蹴った。跳躍するその先に、《鋼》が素早く足場を作る。繰り返せば、翼持つ者にも劣らぬ機動力が出せる。そのまま彼は仲間と対峙するクロノヴェーダの背後へ近付いて――『長脇差し《鳴烏》』を閃かせ、その身へと斬りつけた。
「――！」
　反撃の余地すらなく倒れる天使の傍を瞬時に離れて、もう一体には《鋼》の攻撃を。ぐらり、敵が体勢を崩せば、そこへ栄華が突撃する。急降下の勢い乗せた銃剣はクリアホワイトの身体へ深々と突き刺さり、最後の一体を落下させた。
「……随分混じり気のある白じゃないか」
　ため息交じりにエトヴァが呟くが、息つく間は僅かだ。見れば襲撃に気付いた天使達の小隊が、こちらへと近付いてきている。
　まだ、余裕がある。ある程度の数を削るまでは、ここで敵を引き付けるのがいいだろう。言葉交わさずとも方針揃えて、栄華は不敵な笑みでアサルトライフルを構え直した。
「そのうっとおしい手羽元もいでスープにしてやンよ！」
「……スープの味は気になる。俺の羽はもがないでな？」
　返る言葉に、ちらりと仲間の蒼い翼を見る。
　エトヴァの羽も厚みがあって食べるとこ多くありそうだがな――軽口もまた、次なる戦いへの高揚感から零れたか。
　自在に空駆け、連携攻撃で敵を撹乱して。三人は確実に敵を撃破し、静謐の天使の数を減らしていくのだった。

●地の戦い
　三人のディアボロス達が空での戦いを始めるのとほぼ同時、地上でもまた静謐のクリアホワイトとディアボロス達の戦いが始まっていた。
　ビルの合間を静かに駆けて、敵を探すのは万隅・燈哉（屑物商い・g03778）。彼は突出している天使一体を素早く見つけると、瞬時にその懐へと潜り込んで得物による一撃を喰らわせた。
「外道非道の交わる先は行く手も見えぬ応報の辻」
「ぐっ……！？」
　よろめく白き天使へ、後退すると見せかけて次は拳を突き出す。フェイント織り交ぜた連撃は敵に反撃の祈りを捧げる間すら与えないが、周囲の天使は異変に気付いた様子。
「私達へ攻撃しますか、愚かな人よ」
「私達は、祈りましょう。哀れな者にもどうか救いを」
　空より降下する天使達が、口々に唱えて接近してくる。しかし、それは燈哉の狙い通り。空で戦う仲間達へ敵が集中しないよう、こちらに注意を向けさせたのだ。
　奪われた全てを取り戻す――これは、そのための第一歩。
「まあ、荒事は不得手なんだが……まずは景気良くぶちかましていこうか」
　口元は柔らかく笑いながらも、黒き瞳には静かな怒りが燃えている。そんな燈哉の元へ天使達が到達する前に、颯爽と現れる少女がいる。
「暴れられるのはばっちこい！　って感じだね」
　明るく声を上げながら、秋風・稲穂（剣鬼・g05426）は二つの剣を抜き放つ。漆黒の『Burn the dark』と白銀の『L・デルフェス』。構えてそのまま駆け出して――妖狐の騎士は、狙う天使へと突撃した。
「まずは前哨戦。寄らば斬る、寄ってこないなら……寄って斬る！」
　ここで削れるだけ削れれば、戦争でのジェネラル級撃破に近付くだろう。思えば彼女の戦意はさらに高揚して、白き天使への剣戟も勢いを増す。しかし、敵は後退しながらもその手を組み合わせる。
「私達へ剣を向けますか。そんな貴方のためにも祈りましょう」
　天使の翼から生まれる光弾、それは反撃の準備。稲穂もわかっている、ただの剣戟ではクロノヴェーダは倒せない。彼女のそれはあくまで牽制――後退した天使が他の一体と接近する、その瞬間こそが狙いだ。
　パラドクスの力を発動すれば、剣がバチバチと音立て光り出す。刀身に乗せるは雷の力。大きく揮うと、それは二体のクリアホワイトへと襲い掛かった。
「――！？」
「剣士だからって、飛び道具が無い訳じゃない！」
　凛と戦場に響く稲穂の声、敵を包む雷撃。遅れて反撃の光弾が彼女へ飛んでくるが、それは剣で起こした風圧をぶつけて直撃を免れた。
　そうしてそのまま、妖狐の剣士は地を蹴りクロノヴェーダと距離を取る。瞬間、二者の間に滑り込む人物が一人。その身に雷の力宿した、宇都宮・行（一般的な地方公務員・g03895）だ。
「雷様の力で駆け抜けます！」
　言葉と共に、閃かせるは黄金色の魔剣。一体、二体、三体――すれ違いざまに斬りつけた竜骸剣『日光』は、敵の身に電撃残してその動きを一時的に封じた。そのまま稲妻の如き速度で距離取れば、天使の光弾も追いつけない。重ねた攻撃で白き天使を撃破した行は、ひとつ息をついて敵の群れを眺めた。一見聖女のような風体のクリアホワイト。しかしその本質は、人間とは決して相容れぬ存在だ。
「地方公務員として、地域住民が被害に遭わぬよう可能な限り数を減らしたい所です」
「そうだね、私も同感！　さあさあ、大暴れといくよ！」
　短く会話し、周囲より集まる天使達へ再びパラドクスを発動していく。クリアホワイト達もまた、光の剣や光弾を祈りで生み出し襲ってくるが――突如、そこで銃撃が雨のように降り注いだ。
「まだいるのですか、愚かな者よ」
　敵もディアボロスも視線を向ければ、その先にいたのは無双馬の上でマスケット銃を構えるエトワール・ライトハウス（執行人・g00223）だった。涼やかな藍色の瞳で敵集団を見据え、再び引き金引きながらレオンを駆る。それはパラドクスの攻撃ではないけれど、敵の意識を向けさせるには十分だった。
「本格的な戦いの前に敵戦力を削り、離脱。騎馬兵の得意分野だ、任せてくれ！」
　声を張り上げ戦場を奔る、彼に力をくれるのは新宿島に住まう人々だ。流れ着いたエトワールにも、いつもよくしてくれている。そんな彼らの故郷を取り戻すための戦いと思えば、やる気も湧いてくるというもの。
　銃撃は脅威でないと見て、白き天使がエトワールへ接近してくる。レオンの動きを止めることを狙っているのだろうが、敵は恐らく気付いていない。騎士の男は、慢心生んでそう動くよう誘い込んだのだ。
「こういう御伽噺みたいな力は慣れないんだが……」
　呟きながらも、エトワールがその掌を天へと突き上げる。瞬間、パラドクスの力は落雷となって二体の天使へ降り注いだ。もう一方の手にはマシンピストル。電磁加速弾を連射すれば、反撃の光の剣も届くことなく天使達はくずおれた。
　続けて、他のクリアホワイトを――狙い定めようとエトワールがぐるり戦場を見渡すが、そんな彼に行が近付いてくる。
「そろそろ撤退しましょう。敵が集結してきています」
「ああ、損害も十分に与えられたしね」
　頷き横に並ぶのは燈哉。次の瞬間、彼は目の前に煙幕を張って敵の視界を遮った。エトワールも稲穂も、仲間の行動の意味を理解しすぐに駆け出し、ビルの合間へと消えていく。
　追いすがる天使達には、行が雷のパラドクスで斬りつけて。動き阻害し撤退する時間を稼ぎながら、男は煙の向こうの市街地を眺めた。
（「この戦場の先の千代田区は、国会議事堂がある日本の中枢。奪還する価値は非常に高いはず」）
　天使達が祈りを捧げる、大天使『カマエル』。彼女が支配するという千代田区も、此度の戦争で取り戻せる可能性があるのだ。
　一人の日本人として、改めて奪還を強く誓いましょう――。決意を胸に、行は仲間のディアボロス達を追ってパラドクストレインの待つ地点まで後退していく。
　歴史の奪還戦（ディアボロス・ウォー）の日は、目前。彼らのこの地での戦いも、来る日によい影響を及ぼすことは間違いないのだった。

最終結果:成功
完成日	2021年12月17日