妖刀を授ける鬼

 攻略旅団の調査・探索提案に基づき、妖刀の鬼狩人となる武士に、妖刀を与えている存在の探索を行います。
 武士に妖刀を授けているのは、『天の魔焰』立烏帽子 という名の鬼であるようです。
 彼女は『妖怪の圧倒的な力の前に心を折られた武士』に、『妖怪を倒すことが出来る妖刀』という力を授け『妖刀・縁斬り』に変えています。
 彼女が狙っている武士に、彼女よりも先に接触して身柄を確保、やってくる『天の魔焰』立烏帽子を迎え撃ち、撃退しましょう。

 『天の魔焰』立烏帽子は、平安鬼妖地獄変のジェネラル級クロノヴェーダの一体で、現時点で撃破するのは難しいですが、ディアボロスが、彼女の強力な一撃を耐え抜く事ができれば、呼び出した配下に後を任せて撤退するようです。

 多くの武士を彼女の魔の手から救い、『天の魔焰』立烏帽子を挑発することが出来れば、彼女と決戦し、彼女が引き起こす妖刀の事件を終息させることが出来るかもしれません。

无望ノ禍(作者 藤野キワミ
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#平安鬼妖地獄変  #妖刀を授ける鬼  #妖刀 


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 護れなかった。また死なせてしまった。刃が届かなかったのは、すでに鬼に折られていたからだ――否、折れたのはその後のことではなかったか――否、それは記憶違いだ。そもそも私は刀を持っていたか。
 混濁し混乱し錯乱し錯綜する。
「お前の刀はこれよ」
 そうだ。
 私は護ろうにも刀を持っていなかった。刃を持たぬ武士が、なにを護るというのか。
 朦朧とする意識下では、深い霧の中にいるようで、わあんと響く女声に、ただただ導かれる。
「さあ、これを抜きなさい。そうすれば、もう、お前は惨めな思いをしなくて済むからね」
 差し出された刀を受け取る。鞘の中の刃がいま抜けさあ抜けとせっつくようだ。柄を握れば長年使い込んだように手にしっくりとくるようで、彼は血に汚れた頬に笑みを刻み込んだ。


 銀灰の長い前髪の奥で昏く光る橙の双眼が、ホームに集まった復讐者たちを見た。
 今件の時先案内人である不破・天晴(橙の陰陽師・g03391)である。薄い唇がじわりと開く。
「平安鬼妖地獄変にて、武士に『妖刀・縁斬り』を授けている存在が判明いたしました。三本の妖刀を持つ強大な鬼の名は――」
 ジェネラル級クロノヴェーダ『天の魔焰』立烏帽子。
 これまで接触した武士からは「武士から妖刀を授けられた」との情報もあったが、おそらく立烏帽子が鬼であることを隠し武士と接触し、鬼を「妖刀を持つ武士」と誤認したのが原因だろう――武士の一縷の望みすら弄ぶようだ。
「貴方には、『天の魔焰』立烏帽子を撃退してほしいのです」
 今まさに『妖刀』を与えられそうになっている若い武士がいる。彼が『妖刀・縁斬り』に変容してしまわぬよう、鬼よりも先に彼に接触し身柄を確保してほしいと、天晴は静かに言葉を紡ぎ続ける。

「まず、鬼に狙われている武士、名を山路・鉄とおっしゃる方の安全を確保してください」
 彼は戦友を眼前で喪い、守ろうとした人たちをも守り切れずに、打ちひしがれている。
「山路さんは、それでも多くの人の希望となりました。彼がいなければ、もっと多くの人死にが出たことでしょう」
 まして、彼が相手にしていたのはクロノヴェーダ。それに立ち向かうということの困難さも過酷さも――復讐者ならば想像に難くなかろう。
 今一度の戦う気力を熾すことは叶わずとも、生きることを諦めぬよう、なんとか彼を立ち直させることが出来れば、なお良いだろう。
 まずは人命優先。
 救える命を見捨てるわけにはいかない。
「その後、『天の魔焰』立烏帽子と相対することになりましょう。かの鬼は貴方に対し、自慢の妖刀で排除しようとしてきます。油断ならない強烈な一撃となりますが、予め判っている攻撃であれば耐え抜くことも可能となりましょう」
 それがどれほど危険なことか判っている――しかし、リスクを冒して得られる益は少なくない。
「『天の魔焰』立烏帽子は、格下と思っている貴方が攻撃を耐え抜いたことで一目置くようになり、連れている配下の『金童子』という鬼を仕向け撤退していくことでしょう。このとき、立烏帽子を挑発することが出来れば、彼女を決戦の場に引き摺り出して撃破することも出来るかもしれません」
 されど一矢報いるのは、今ではない。しかしやられっぱなしも癪に障るではないか。ならばせめて、口撃するのも一興。
 それでも撤退していく立烏帽子を深追いすることは出来ない。それを阻止するよう配下のクロノヴェーダが襲ってくるからだ。
 血気盛んな鬼で、まさに修羅。燃えるような戦いを求め襲いかかってくる。それのみならず、金棒鬼の軍勢が肉壁となって押し寄せる。これらを撃破し、これ以上の惨事を食い止めてほしい――彼は、そこまで一気に語った。

「『天の魔焰』立烏帽子は、アヴァタール級である『妖刀・縁斬り』を次々と増やしてゆく特殊な能力を有しておりますゆえ――ジェネラル級の中では、戦闘力は高くないようなのです。されど、並みのクロノヴェーダとは一線を画す実力であることは、明々白々」
 天晴は白髪頭を少し下げ、橙の双眼に瞼を下ろす。
「なにとぞ、貴方のお力添えを」


 こんなことがあってたまるか。
 易々と地獄が訪れてなるものか。
 それでも、鉄の眼前の光景は、いくら否定しようとも拒絶しようとも覆ることはなく、そこには亡骸が横たわっている。
「傅介、すまない、傅介」
 無惨にも食いちぎられた肢体を前に頭を垂れた。哀れな姿に涕泗は容易く溢れる。嗚咽は呼吸を奪い、なんとか保っていた心の均衡は大きく揺らぐ。
 友を護れなかった。
 友に庇われた。
 鉄を庇ったから傅介は喰い殺された。
 砕けた刀ではもはや鬼に太刀打ちできない。否、端から誰も護れなかった。誰一人、護ってやることは出来なかった。
 励ましてくれる友は、もういない。
 この場から立ち上がる活力すら湧かない。
 鬼に家族を殺され、里を奪われ、そのうえ友すら喪った――もはや、生きる意味すら見出せない。
 死の足音が聞こえる。もう構わない。このちっぽけな命が消えて誰が悲しむというのか。誰が泣いてくれるというのか。そのような者など、とうの昔になくなった。
「傅介……私を置いて逝くな、後生だ……ともに、つれていってくれ……」
 からからに乾いた地に、血涙が浸み込んでいく。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【士気高揚】
4
ディアボロスの強い熱意が周囲に伝播しやすくなる。ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の一般人が、勇気のある行動を取るようになる。
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【強運の加護】
1
幸運の加護により、周囲が黄金に輝きだす。運以外の要素が絡まない行動において、ディアボロスに悪い結果が出る可能性が「効果LVごとに半減」する。
【一刀両断】
3
意志が刃として具現化する世界となり、ディアボロスが24時間に「効果LV×1回」だけ、建造物の薄い壁や扉などの斬りやすい部分を、一撃で切断できるようになる。
【神速反応】
3
周囲が、ディアボロスの反応速度が上昇する世界に変わる。他の行動を行わず集中している間、反応に必要な時間が「効果LVごとに半減」する。
【隔離眼】
1
ディアボロスが、目視した「効果LV×100kg」までの物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)を安全な異空間に隔離可能になる。解除すると、物品は元の場所に戻る。
【書物解読】
1
周囲の書物に、執筆者の残留思念が宿り、読むディアボロスに書物の知識を伝えてくれるようになる。効果LVが高くなる程、書物に書かれていない関連知識も得られる。
【ハウスキーパー】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の建物に守護霊を宿らせる。守護霊が宿った建物では、「効果LV日」の間、外部条件に関わらず快適に生活できる。
【パラドクス通信】
1
周囲のディアボロス全員の元にディアボロス専用の小型通信機が現れ、「効果LV×9km半径内」にいるディアボロス同士で通信が可能となる。この通信は盗聴されない。
【建物復元】
1
周囲が破壊を拒む世界となり、ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の建造物が破壊されにくくなり、「効果LV日」以内に破壊された建物は家財なども含め破壊される前の状態に戻る。

効果2

【能力値アップ】LV5 / 【命中アップ】LV5(最大) / 【ガードアップ】LV2 / 【アヴォイド】LV1 / 【ダブル】LV1

●マスターより

藤野キワミ
藤野キワミです。耐える戦いをお届けします。
戦いましょう。

以下シナリオ補足になります。オープニングにある通りとなりますが、今一度。

●勝利条件
クロノヴェーダ・アヴァタール『火烈な悪鬼『金童子』』の撃破

●NPC
山路・鉄(ヤマジ・マガネ)
目の前で友を鬼に殺された若い武士。
彼への対応が必要になるかと思われます。

●『天の魔焔』立烏帽子
撃破はできません。今は彼女の攻撃を耐え忍ぶことしかできません。

●最後に…
みなさまの熱いプレイングをお待ちしております。
どうぞよろしくお願いします。
22

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


ソラス・マルファス
鬼がまだいるなら、まずは鉄を庇いつつ鬼を切り伏せよう
その後、友人の亡骸の傍らに膝をついて黙とうを捧げる

「辛ぇよな。力があれば……って思うか?」
少しだけ大剣を見せよう
呪詛を纏う、悪魔殺しの剣

「俺は、この剣を取った。そして俺はこの剣で、大切な兄貴を殺そうとした」
力を望んだわけじゃねぇし、天使に乗っ取られて自由は利かなかった
だがそんなことは些細なことだ
俺はあの瞬間に『怒れなかった』

「その後、目の前で(天使に)妻と息子を殺された……この剣を振るうことも出来なかった。死にてぇと思ったさ。だが俺にはまだできることがある。やり遂げるまでは、死ぬわけにはいかねぇ」
手を差し伸べる
立ち上がれるまでいくらでも待とう


一騎塚・喜一
私も家族を奪われ、それでも今こうして生きています
山路さんが絶望するお気持ちも分かる。とは言い切れませんが
僅かでも再起の一助となれましたら

武士を目指す者として何事があったのか、お話を伺えないかお尋ねしてみます
傅介さんというお方は立派な方だったのですね
恐怖に負けず身を挺して友である貴方を助けたのですから
そんな傅介さんが生きて欲しいと、命を賭して願ったのが貴方なのです
そんな貴方が生きる意味を見出せず亡くなってしまったら傅介さんの覚悟も思いも無に帰してしまいます
今すぐに立ち直れとは言いません、人には悲しみに浸る時も必要です
辛くても、残された我々が生きて彼らの思いを繋いでいくことで恩に報いて参りましょう


七社・小瑠璃
※アドリブ連携歓迎

死を考えた者には殴り飛ばすくらいしか対処が思いつかぬのだがな。
まあまずは静かに諭すとしよう。

死は別れではあるが、終わりではない。
お主は今一人となった、だが逆に言えばもうお主一人しかおらぬのだ。
わしはお主の友の名を知らぬ。
今ここでお主が死ねば誰の記憶にも残ることなく
この世から消え失せることとなろう、それが本当の終わりじゃ。
友と過ごした思い出を大切に思うなら生きよ。
せめて弔って名を残してやらねば、このまま野ざらしで朽ちさせては
この者も浮かばれまい。

向こうが何か語る気があるのなら耳を傾けるのもやぶさかではないぞ。


神山・刹那
友に先に死なれたか
そりゃ心が折れるには十分な理由だ
けどな、お前まで死んじまったら、誰がそいつのことを覚えてるんだ?
人が死ぬ時は命を失った時じゃない。人に忘れられた時、人は死ぬんだ
お前の友は、お前を苦しませたくて死んだんじゃない。ただ、自分の命よりお前の命が目の前で奪われることが嫌だっただけだ
そいつの魂はお前の中に残ってるはずだ。失ったものもある、けど守れたものだってある
お前がここで死んだら、友人の死は無駄死にだ。だから、お前は生きなきゃいけないんだ。死んだ友のためにも、生き抜かなきゃいけないんだよ!
代わりと言っちゃなんだが、お前たちの無念、俺がそいつらに刻んでやる。必ずな。


奉利・聖
……平安のディヴィジョンは、この手の哀しい事件が多すぎます
せめて僕に出来ることあらば、助けたいところです
その後…必ずゴミは掃除してやりましょう
ジェネラル級を仕留め切るのはできぬのが口惜しいですが
やれるだけ、出来るだけ…やってみせます

──『硬気功』 盾になってみせましょう
僕が決して攻撃を通しませんから、どうか皆さんで安全な場所へ
大丈夫、この身は鋼…砕けるものですか

…よく、頑張りました
必至で立ち向かったのでしょう 恐怖も、痛みもあった
貴方は敗けてなどいない 確かに守ったのです 失われるはずだったものを
だからどうか、貴方も失われないでください
生きていれば出来ることもあります
後は…我々にお任せを



「傅介、頼む……後生だ、逝くな……私を、置いて逝くな……」
 血涙が滲み込んだ冷たい地に突っ伏して、ただ独り生き残ってしまったことを後悔する男こそ、山路・鉄そのひとだ。
「逝くなら、私もともに連れていけ……でんすけ……!」
 彼の傍らには、無惨な姿の亡骸が横たわっている。心を引き絞られる慟哭に引き寄せられるのは鬼――小石を踏み潰す不快な音が近寄ってくる。
 しかし、彼は動かない。動けない。そこに彼の生への執着はなかった。すべてを諦念し、放棄し、亡骸に縋りつく。
 その姿の、なんと痛ましいこと――悲痛を叫ぶ鉄らを背に庇うよう、奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)が立ちはだかる。
(「この手の哀しいことばかりじゃないですか……」)
 出来ることがあるならば助けたい。助からなかった命は、戻らなくとも――せめて、彼の命の火を消させまいと聖は、伏せた瞼を開く。
 爛と光る黒瞳が、元凶を睨めつける。
「……必ずゴミは掃除してやりましょう」
 吐き出す呼気に決意を混ぜて、【硬気功】で己の力を高めた聖は、彼らを振り返る。
「今のうちに安全な場所へ」
 鉄の傍らに座り込み、離脱を促すのは一騎塚・喜一(一騎刀閃・g04498)だったが、彼は聖を見つめ小さく首を振った。
 今の鉄は動けない。
 今の鉄に友から離れることはできない。
「……わかりました。大丈夫、この身はもはや鋼……砕けるものですか」
「共にゆこう。一人より二人の方が護りやすいだろ」
 ソラス・マルファス(呪詛大剣・g00968)の言下、腹の奥底から士気が上がる。担ぎ上げる大剣を構えれば、なお上がる。
 【戦覇横掃】――駆けゆく背を追うよう、聖も駆けた。
(「やれるだけ、出来るだけ……やってみせます」)
 決して攻撃を通さない。この身は盾だ。タトゥーの入った頬を引き締めた。


(「死を考えた者か――殴り飛ばすくらいしか対処が思いつかぬのだがな」)
 嘆息を飲み込んで、喜一に背を撫でられ、宥められる鉄を見る。物理的な一喝で生気を取り戻してくれれば、どれほど楽だったか。
 七社・小瑠璃(よどみに浮ぶうたかた・g00166)は、慟哭を聞きながら、彼の眼前へと回り込む。
「死は、――死は別れではあるが、終わりではないぞ」
 鉄の肩が震える。彼の背を撫でる喜一の手は相変わらず優しくとも、嗚咽は止まらない。その肩に触れたのは、神山・刹那(梟雄・g00162)だった。
 剣を振るう肩だ。生と死を賭け戦い抜いて来た肩だ。それが悄然と落ち震える。刹那の青眼は、静かに燃える。
「人が死ぬときは、命を失ったときじゃない。人に忘れられたとき、人は死ぬんだ」
 聞いているかは判らない――否、心が拒絶していなければ、彼らの声は届いている。
「お前まで死んじまったら、誰がそいつのことを覚えてるんだ?」
「おぬしは今、ひとりとなった……だが、逆に言えばもうお主ひとりしかおらぬのだ」
 静かに諭すように、言葉を紡ぐ。鉄は小瑠璃を見ない。彼の眼差しは亡骸から動かない。
「私の友は、もう、答えぬ……笑わぬ……心の臓は破れ、腹も裂かれた――これは……死んだのだ……」
 震える声は聞き取りづらくとも、自責に満ちた音が鉄から漏れる。
「私のせいで、死んだのだ――友は、傅介の生は終わった……私が死なせた……!!」
 悲哀に叫べば叫ぶほど、鉄は自身の心を粉微塵に擂り潰しているようだ。
(「友に先に死なれりゃ……心が折れるには十分な理由だ」)
 翳らせた青瞳は、言葉を探してゆらと揺れる。眼前で喰い殺されたのだ。折れて道理――砕けて道理だ。
「お前の友は、お前を苦しませたくて死んだんじゃない。ただ、自分の命より……お前の命が目の前で奪われることが嫌だっただけなんだ」
 それは互いに思っていたことだろう。
 鉄が傅介を護ろうとしたように、傅介もまたそうだったのだ。だから、己の命を賭して鉄を護った。
 残された鉄が、己の無力に打ちひしがれ、今に後を追いそうなほどに憔悴し、絶望することになるとは思っていたかは――死人に口なし。想像する他ない。
「わしは、お主の友の名を知らぬ。今ここでお主が死ねば誰の記憶にも残ることなく、この世から消え失せることとなろう……それが本当の終わりじゃ」
 弱きことが悪ではない。強きことが善でもない。
 涼やかな眼は、黄金に燃えた。鉄が小瑠璃を見たのだ。顔を上げ、今に涙で融けてしまいそうなほどに濡れた黒瞳に、小瑠璃を映した。
「友と過ごした思い出を大切に思うなら生きよ」
「――傅介との、思い出……」
「そいつの魂は、お前の中に残ってるはずだ」
 ゆっくりと鉄は刹那を振り返る。
「私の中に、傅介の魂が宿ったと……?」
「そう考えれば、お前は簡単に死のうと思うか?」
 鉄は唇を噛み締め、また項垂れた。嗚咽は止まない。
 思い直せ。もう脅威と戦わなくてもいい。だが、生きろ。生きろ。刹那は言葉を紡ぐ。
「失ったものもあるだろう、けどよ、守れたものだってあるんだ」
 天秤では決して釣り合わせることのできないものだ。記憶はとめどなく溢れ、押し寄せ、微塵に砕けた心では受け止めきれず、あっという間に決壊する。
 ぼたぼたと涙が鉄の顔を濡らす。伝い落ちた涙の粒は、物言わぬ傅介の鼻先を濡らした。


「私も、傅介も、同じ村の出だった……妖怪に村を蹂躙され、家族を殺された……」
 ぽつりと言葉を漏らし、傷ついた指先で傅介の頬を撫でる鉄をじっと見つめる。
 なにかを語るつもりでいるのか――小瑠璃は言葉を挟まずに耳を傾けた。
「あの日、私たちは互いに生き残った。なにかの運命であると、二人でみなを弔いながら、復讐を誓った。同時に我等のような、悲しき者を増やさぬようにと、互いに研鑽した……」
 互いに、互いの墓は造らぬようにと約束をした。互いに生き抜こうと約束をしたのだ。
 その約束を破らせてしまったのは、鉄だ。
「私も似たようなものです。私も家族を奪われ、それでも今こうして生きています。山路さんが絶望するお気持ちも判る……――なんていうのは、おこがましいでしょうか」
 喜一と鉄を比べて、どちらが不幸か、どちらが不運であったか――そんな話をするつもりはない。
 武士を目指す者として、无望の禍に飲まれる前はどんな偉丈夫だったか聞いてみようと思った――何事があって、このような事態になったのか――傅介との想い出を語れば、悲しみはいや増すだろうが、それ以上に数々の約束も、決意も、覚悟も思い出すだろうと見込んで。
 しかし、鉄は喜一の鮮やかな翠の眼を見返し、唇を震わせ、悄然として項垂れた。
「どんな方でしたか、貴方のご友人は」
「……でんすけは……とても、腕の立つ男だ……私なんかよりも、ずっと強く、疾く、賢く……私は、傅介を越えようと必死だった」
 彼よりも優れているところはないと言い切る鉄の言葉を鵜呑みにすることはできない。彼は傷心の最中。その言葉は自責と自虐と卑下を孕んでいる。
 鉄の顔は涙でぐしょぐしょに濡れてしまって、嗚咽は一向に止まらない。
「そのように、泣かれては傅介さんが浮かばれません」
 宥めるように背を撫でていた喜一の声音は、穏やかに鉄の耳朶に触れた。
「傅介さんというお方は、立派は方だったのですね」
 喜一の言葉に何度も何度も頷いて、慟哭を噛み殺す。
「山路さん……あれは、怖いですか? 見ることができますか?」
 示すのは、聖が引き付けた最後の鬼をソラスが討ち取るところだった。
「我々も、あれと対峙するのは、怖いです」
 どれほどの信念を掲げようとも、どれほどの死線をくぐろうとも、生死がかかる戦いだ。恐怖がないわけではない。
 戦場に静寂が訪れた。
 あるのは、生を叫ぶ呼吸の音と、こちらに戻ってくる二人の足音。
 ソラスは、なんの躊躇いもなく傅介の傍らに膝をつき黙祷を捧げた。考えても詮無い後悔を振り切って、ソラスの赤瞳は鋭く光る。
「辛ぇよな。力があれば……って思うか?」
 鉄に力があれば――あのとき、刀が折れていなければ――あのとき、足が動いていれば――あのとき……押し寄せるとめどない後悔は、首肯の度に溢れ出る。
 ソラスも肯き、呪詛を纏う大剣を地に刺した。禍々しくも美しい黒の刀身に、憔悴しきった鉄の顔が映った。
「俺は、この剣を取った。そして俺は、この剣で――大切な兄貴を殺そうとした」
 この悪魔殺しの大剣でだ。鉄がソラスの告白に息を飲んだ。
「あんとき、力を望んだわけじゃねぇし、天使に乗っ取られて自由は利かなかった――だがそんなこたぁ些細なことだ……俺はあの瞬間に『怒れなかった』」
 この独白が彼にどう響くかは未知数だ。しかし、すべての不幸を背負ったように錯覚してしまっている彼の目を醒まさせるには、必要だろう。
 『あのとき』、ソラスの眼前で、天使に妻と息子を殺されたことは、どんなことがあっても忘れることはない。
「助けられなかった……この剣を振るうことも出来なかった。死にてぇと思ったさ。今のお前と一緒だ……俺なんかが生きててなにになるって、死んでしまった方がって……けどよ、俺にはまだできることがある」
 肝心な場面で動けなかった後悔は後を絶たない。それでも、ソラスはすべてを受け入れた。時には崩れてしまいそうになることもあるけれど。
「それをやり遂げるまでは、死ぬわけにはいかねぇ」
「……そなたは、芯が強いのだ……だから、立ち上がれるのだ……私には、到底……できぬ」
 《呪詛の大剣》と、ソラスの赤眼を交互に見た後、彼はまた亡骸を撫でる。喰われなかった片方の手を握り、返事はなくとも名を呼ぶ。
「……よく、頑張りました」
 その痛ましい姿を、聖は認めた。
 ソラスと喜一のように似た境遇を語ることもできないが、鉄を無条件で肯定して認めることはできる。
 聖の言葉はやわく鉄の耳朶を打った。
「貴方だって必死に立ち向かったのでしょう。恐怖も、痛みもあったのに。貴方は敗けてなどいない」
 ゆっくりと首を振る。
 それでも聖はやめてやらない。
「貴方は確かに守ったのです。失われるはずだったものを」
「私は、なにも、守れなかった……!」
「それは違う。貴方は多くの人の希望となりました。貴方は人の心を守ったし、いまこうして生きているじゃないですか」
 いのちをひとつ、繋いでいるではないか。
「だからどうか、貴方も失われないでください」
 唇がひん曲がる。顔は赤く染まって、眉間に皺が寄った。大きく首を振って、涙を散らす。
「のうのうと生きさらばえるより、ここで果てるべきだと……私は無力だ、非力だ! だのに! そなたらは! こんな私に生きよと!」
「そうだ、生きなきゃならねえ」
「お前は、友のために生き抜かなきゃいけないんだよ!」
 漆黒の眼に涙が溢れる。零れ落ちる。まるで子供のように泣き咽ぶ姿であろうとも――ソラスに、刹那に言い返した。
「それが、どれほどの苦痛か判らぬか……私は、生きるに値せぬ腑抜けぞ……!」
 もう動かない傅介の頬を撫で、彼の血は鉄の涙で流れていく。
「そなたらは、こんな私に、生きろというのか……!」
 先の呆然としていた鉄ではない。悲しみと怒りと恐怖に震えているが、そこには生気があった。
「生きて、恥をさらせと……家族も、友も守れなかった私に……なにができる! 私は、でんすけに、どう、わびて……どんなかおをして……――いきればよい?」
 絶望で塗り固められていた黒瞳に生気が宿る。滂沱と流れる涙は、傅介を洗う。
「傅介さんが生きて欲しいと、ご自分の命を賭して願い救ったのが、貴方なんです」
 どんな顔もなにもない。悲しみに崩れ落ちようとも、後悔に鬱ぎこもうとも生きて立てば良い。それを自ら絶とうなど――喜一の淀みない声は鉄を響かせる。
「傅介さんが恐怖に負けず、身を挺して助けた貴方が生きる意味を見出せず亡くなってしまったら、傅介さんの覚悟も思いも無に帰してしまいます」
「そうだ。お前がここで死んだら、そいつの死は無駄になる。判るか、無駄死にだ。そんな悲しいことにさせていいのか! よくないだろう? だからお前は生きなきゃいけないんだ」
 生きて、生きて、しつこく生きて――傅介の分まで、もう動かぬ彼のためにも生き抜かなければならない。
 ディアボロスの言葉は熱を帯びて、鉄を奮い立たせる。
 気の済むまで泣けばいい。しかし自死は赦さない。ここで野垂れ死ぬことも、むろん彼をクロノヴェーダに変えてしまうこともだ。
 立烏帽子の好きにはさせない。
「今すぐではありません。貴方の傷は深い……すぐに癒えるはずもございません。でも時間はたくさんある。ゆっくり休みましょう」
「それにまだ、貴方にはやるべきことがあるでしょう」
 聖の言葉に、鉄はしゃくりを上げる。彼の瞳に、鉄が映り込んだ。
「誰が、傅介さんを弔うのですか」
 死者を弔い、かの安楽の旅路を見送るのは、生きる者の定めだ。
「さあ立つのじゃ。弔って名を残してやろう。このまま野ざらしで朽ちさせるつもりか?」
 それこそ、傅介は浮かばれないだろうて。小瑠璃が言えば、鉄はゆっくり頷いた。額を撫で、頬を撫で、別れを惜しむ仕草は、ひどく憐憫を誘う。
 悲しみに浸る時間も必要だ。
 弔い涙するその時間こそ、生者には必要なのだ。
「辛くても、残された我々が生きて、彼らの思いを繋いでいくことで――恩に報いて参りましょう」
「泣くなとは、申さぬのか……」
「もちろんだ、泣け。泣いて泣いて、弔ってやれ」
 気の済むまで泣け。
 好きなだけ悔いろ。
 泣け、泣け。
 誰も止める者はいない。鉄の目がとけるまで、涸れ果てて疲れ喘ぐまで。泣いて泣いて、涙と共に絶望をその身から出してしまえ。
 最後に前を見据え、立ち上がればそれでいい。
 大事なひとを喪った悲しみは、過ぎる時間がゆっくりと癒してくれる。それまでは、いくらでも泣いていい。
 ソラスは手を差し伸べる。
 その無骨な手を見つめた鉄の双眸は、友の亡骸を再び映す――すっかり冷たくなってしまったのは、寒空の下にいるからだ。
 差し伸べられた手を握れなかったのは、生者に触れるのが怖かったからだ。死者を抱く手で、彼に触れていいか判らなかったからだ。
 鉄の逡巡を、ソラスは微笑すら浮かべ、受け入れた。
「時間はたっぷりある。立ち上がるのは、もう少し後でもかまわねえ」
「お前たちの無念、俺がそいつらに刻んでやる。必ずな」
 鉄からすべてを奪っていった鬼――たとえその個体ではないとしても、これより来たる鬼は、憎き鬼に違いない。
 刹那の青眼は強く輝く。決意を見せ、しっかと肯く。引き受けよう。出来るなら、きっと鉄自身で仇をとることができればいいのだろうが、彼の刀は砕けている。
「後は……我々にお任せを」
成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​
効果1【士気高揚】LV2が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【神速反応】LV1が発生!
【建物復元】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV2が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!

●『天の魔焰』立烏帽子
 ディアボロスの言葉によって自死を選ぶことのなくなった鉄は、それでも今はまだ悲しみの奥底にいて、立ち上がることは能わず。
 だったとしても、それは一時のもの。
 彼は自棄を起こすことはないだろう。
 傳介を弔うまで。そして、彼に顔向けできるような死に様を迎えるまで。
 だから今は、最期の別れを――
「あらあら」
 それは、唐突に訪れた。
 否、ディアボロスは知っていた。
「折角良い具合に折れた武士がいると思ったのに、邪魔が入ったようね」
 烏帽子、赤い巫女服、長い黒髪、艶然と笑む高飛車な女。
「折角愉しめると思ったのに……でもいいわぁ、お前たちで遊んであげる」
 暇つぶしにはなりそうと、蠱惑的に様相を崩す。
 そうして、三振りの刀のうちの一振りの柄へと指を滑らせる。
「ご覧、これはアタシの自慢の刀のひとつ《大通連》――三明の剣が一振り。とっておきの一振りさ。これで遊んであげようね」
 折れていない武士に用はない。
 意のままにならぬ玩具はいらない。
 愉しみの邪魔をした者どもには、それなりの報いを受けてもらわなければならない。
 立烏帽子の余裕な態度は、悠然として艶めく。足音は軽やかに、ディアボロスを斬殺せんと近寄ってくる。
 ここで退くわけには、いくまい。
 別れを終えていないのだから。命を繋ぎ、それでも憔悴しきった鉄がいるのだから。
「アタシの邪魔をした報いだよ」
神山・刹那
ネメシスモード・光太郎絵師のDC参照

お前が立烏帽子か
ずいぶん回りくどいことやってんな
まぁいい。お前の企みは全部俺らが潰す。その妖刀全部へし折ってやるよ

覇龍を抜き鉄に当たらないよう弾き、方向を変える
刀で防げないものは自分の体を盾にして防ぎ、後ろの鉄には絶対に攻撃を届かせない
「頑丈さが頼りでな。まだいけるぞ。その程度かよ?」


一騎塚・喜一
漸くお会いできましたね
人の心の弱みにつけこみ妖刀・縁斬りを生み出した元凶……!

凄まじい威圧感に押し潰されそうですが
どんなに敵が恐ろしくとも対峙せねばならぬ時があります
辛くとも生きることを選んで下さった山路さんから私も【勇気】を貰いました
彼らの元へは行かせません

仲間と連携しながら【戦闘知識】【観察】【看破】持てる力の全てをもって剣技を受け流し耐え凌ぎます
仲間に攻撃が向かうようなら【両断】【薙ぎ払い】で僅かでも意識を逸らしに
致命傷だけ避ければよし、です

耐えられたら【呼吸法】で息を整え頑張って平静を装います
なんだ、お遊びにもなりませんね
貴女が鈍刀を授けていた武士たちの方がよっぽど強かったです


奉利・聖
───正念場でしょうか
耐えるというのは、結構得意なんですよ
何しろ何度も死んだ身ですからね
経験済みの死は、それこそ山のようにある

<戦闘知識>と<観察>を用いて、どう立ち回るべきか瞬時に考えます
これだけは受けちゃいけない攻撃というものがあるやもしれません
そうでないのなら──<捨て身の一撃>にて耐え、報復をしましょう
『死に適応する者』──不死を相手にしてもらいますよ

なぜ斬られても死なないか…不思議に思うがいいでしょう
どのような攻撃もノータイムで耐え抜き、反撃してみせます
僕が避けないと、そう思い込んだ段階で
【神速反応】で受け流し、今日一番の反撃で<強打>
死に慣れ過ぎた人間を殺すのは、易くはないですよ



 肩にかかる鴉の濡れ羽色を背へと流し、妖艶な繊指は妖刀の柄を握った。
 いやに綽然とした態度に、神山・刹那(梟雄・g00162)は蒼眼を眇める。
 冬風に血の匂いは流れ去る――されど、すぐさま沈殿するのは、鬼の威圧。
「ずいぶん回りくどいことやってんな」
 それを跳ねのけるよう刹那の身に発露する底知れぬ力は、彼の四肢を変化させる。
(「相も変わらず……バカのひとつ覚えか」)
 胸中で吐き棄て、《覇龍》の柄巻の感触を確かめる。いつでも抜き放つことできるよう鯉口を切った。
「――正念場でしょうか」
 鉄を背に庇い、彼に見栄をきった奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)は、敢然と立烏帽子へと向き直る。
 先に言った言葉に嘘はない。ここからは、ディアボロスの仕事だ。
「漸くお会いできましたね。人の心の弱みにつけこみ妖刀・縁斬りを生み出した元凶……!」
「あらあら。アタシに会いたいなんて思ってくれていたなんてねぇ。あはっ、なんと愛いことを言う」
 しゃらり。
 妖刀が抜かれた。
 凄絶な威圧感に圧し潰されそうな錯覚――一騎塚・喜一(一騎刀閃・g04498)だったが、ここで気圧されることはない。
 武士たるもの、どんなに敵が強大で凶悪であろうと、己の恐れを踏み潰し対峙せねばならぬ時がある。
 それが今だ。
 帯刀するのは、《紫羅欄刀》――敬愛する父から受け取った刀だ。柄を握れば、総身が奮い立つ。
「辛くとも生きることを選んで下さった山路さんから私も勇気を貰いました。彼らの元へは行かせません」
 言葉にすれば、恐れが薄まるようだ。しかも、ともに立つ仲間がいる。ひとりではない。
「遊び相手になってくれるんだってな。遊んでくれよ」
「耐えるというのは、結構得意なんですよ」
 獰猛に頬に笑みを刻んだ刹那は、じりじりと鬼との距離を詰める――鉄らから距離をとろうとする。
 それを瞬時に感じ取って、聖もまた立烏帽子の気をこちらに向け続けるよう、歩む。
 聖にとって、死は隣にあるものだ。
「何しろ何度も死んだ身ですからね。経験済みの死は、それこそ山のようにある」
「粋がってもいいけれど、口だけにならなければいいわね!」
 弾けるように笑った立烏帽子は、聖へと向かいくる――振るわれた妖刀は、瞬間的に無数の刀刃へと分裂した。
「これはね、アタシの意のままに舞うのさ。美しいでしょう? さあ、お前たちを斬り刻んであげようね!」
 まさに剣刃の豪雨。自在に舞いながら、三人を蹂躙せんと襲い掛かる。
「その妖刀、全部へし折ってやるよ!」
 発破に発露する刹那の烈気は、柄に触れる指先にまで巡りゆく。未だ鞘に包まれた刀身へと烈々と漲る。
「お前の企みは全部俺らが潰す!」
 向かいくる凶刃は目にも止まらぬ速度で奔る――躱すことなんぞ出来まい。しかし、【神風】が吹いた。
 神速の抜刀。刃は空を斬り、真空刃を創り出す。舞い狂う妖刀とぶち当たって、木っ端に散れども、鉄らへと迫ることはない。
 一つの刃を凌げば、もう一刀。それを受ければ、さらに一閃。
 鉄にさえ被害が及ばなければいい。これ以上、彼は傷つかなくていい。
(「こんなもん、ひとたまりもないだろうしな!」)
 耐えうるかぎり、耐え。凌ぎうるかぎり、凌ぐ。
 剣刃の閃きの中に、赤が混じる。
 翠の瞳は、一途に鬼を見据え続けた。まともに斬られてしまえば、致命傷は免れないだろう。だからこそ、その眼は鬼の動向を見逃さない。
 この状況を変えてしまう瞬間を見つけようと、そろりと忘れていた息を吐いた。
(「致命傷だけ避ければよし、です!」)
 奥歯を噛み締め、痛みに耐えて喜一も刀を振るう。剣閃に迷いはない。これまで培った経験が、彼の糧となっているのだ。
 立烏帽子の愉しそうな笑い声を聞きながら、迫りくる刃を弾き受け流す――しかし、それはくるりと軌道を変えて、聖へと向かった――瞬間、喜一は渾身の一閃で、一刀を打ち砕く。
「いま、私以外を狙いましたね」
「当たり前だ。でなければ面白くないだろう?」
 くつくつと喉の奥で笑いながら、鬼。その笑みの最中、聖の真上から刃が迫る。
「次はどうやって防ごうっていうんだ?」
「その必要は、ありませんよ」
 聖の言下、凶刃は問答無用に四肢へと突き刺さった。続々と向かってくる刃の一切を躱すことも、それに抗うこともせずに受け止める。
 【死に適応する者】になった聖は、その身がいくらも傷つこうとも、何事もなかったかのように立ち続けるのだ。
「なぜ、斬られても死なないか……不思議に思うがいいでしょう――不死を相手にしてみて、いかがですか?」
 ぼたぼたっと、聖の血が大地を染め上げた。それでも、彼の黒瞳は爛と輝き、力を失わない。
「使い古しの死じゃ、僕の終わりは訪れません」
 この鬼を斃すことは難しい――否、今はできない。それと判っていながら、どうしたって、体は反撃の瞬間を狙って動く。
 掃除だ。これ以上ない汚れだ。これをキレイにしなければ――デッキブラシを手に踏み込む。
 聖渾身の強打を放つ。強烈な衝撃、その一撃は妖刀に弾かれ、一瞬バランスを突き崩される、来る、来た、燃えるような鋭い痛みが体を支配する。
「……いい、ました、よね。死に慣れ過ぎた、僕を殺すのは、易くないですよ」
「しゃらくさいね!」
 耐えられたことを面白がるように、鬼は嗤った。
 ならばと剣刃の雨は彼へと降り注ぐ――それを刀身と、その身で受け止めたのは、刹那。
 彼に倒れられるわけにはいかないのだ。
 その後ろには、鉄がいる。
「あいにくと……頑丈さだけが頼りでな」
 痛みが灼熱となって襲い来れども、刹那の頬から笑みが消えることはない。強く強く笑む。
 必ず守る。必ず耐える。必ず退かせる――その気概は刹那の集中を高めていく。
「まだいけるぞ。その程度かよ?」
「生意気なことを」
 その瞬間、喜一の烈声が上がった。
 これ以上、仲間を傷付けられてたまるか。振り抜いた一閃は、まやかしごと斬り捨てる渾身の一振り。確実な手ごたえが、柄に伝わり、肩へと突き刺さる。
 最後の妖刀が、真っ二つに両断され、斬り落とされた。
 乱れた息を整え、負った傷の痛みの烈しさを押し殺し、震えそうな声を腹に力を入れて誤魔化す。
「なんだ、お遊びにもなりませんね」
 喜一の言葉に立烏帽子の眉根が寄った。
「貴女が鈍刀を授けていた武士たちの方がよっぽど強かったです」
「ほんと、しゃらくさいね」
 吐き棄てた鬼は、傷まみれになっても立っている男たちを流し見て、
「しつこい男は嫌われるんだよ、覚えておきな。でもアタシの一撃に耐えたのは褒めてあげる。楽しみが増えたわ」
 鬼の見せた不愉快そうな態度は、果たして、すぐにゴキゲンになる。
「アタシの剣に耐えたんだ。なら、この程度で死ぬわけないな? あはっ、お前たち、あとは好きにしてしまいな」
 鬼は踵を返す。
 彼女の帰路を守るように現れたのは、赤い赤い集団。
成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​
効果1【一刀両断】LV2が発生!
【飛翔】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV3になった!
【ガードアップ】がLV2になった!


 一息入れさせる気もないか。
『殺シあッテいいンだッテなあ!』
 やたら嬉しそうな声がした。
 燃えるような赤毛の鬼だ。
 身の丈ほどもある棍棒を肩に担ぎ、赤鬼の大群を引き連れている。
『俺ノ名ぁ? どウだッテいいだロウ! はは! 火烈に殺シテやルよ!』
 烈々と哄笑した悪鬼は、力なく蹲る鉄を見ることもなく(もとより興味がないのだろう)、ただただディアボロスを標的にしている。
 『天の魔焰』の一撃を耐えた男どもだ。
『来いよ! 早ク!』
 赤鬼もまた、大きな唸り声をあげて、血気盛んに喚いた。威嚇するような足踏みは、地鳴りを起こさせるような激しさだ。
 赤毛の悪鬼、金童子。
 赤い大群の、金棒鬼。
 すべて鬼は、今、ディアボロスたちを斃さんと迫りくる。
神山・刹那
ネメシスモード・光太郎絵師のDC参照

次はテメェらか
俺はな、たいそうなお題目を唱えるつもりはない。ただ、人の幸せを、命をゴミ同然に扱う、お真裏みたいな奴が心底嫌いだ
大義もクソもいらねぇ。命を、魂を塵芥としか考えてないお前らを、俺は必ず斬り捨てる!必ずな!

鬼の行進で棍棒を振り回しながら迫られても、焦ることも怯えることもなく、自身の経験と技量に裏付けされた戦闘行動をとり、鬼たちを一刀の元に斬り捨てる
「おい、何時まで踏ん反り返ってる。殺してやるから、さっさとかかって来い!」


七社・小瑠璃
こやつらもひょっとしたら人だった者が変じた姿やもしれぬ。
しれぬが……すまんな、わしはいま機嫌が悪い。警告は一度だけじゃ。
疾く失せよ、失せぬなら塵一つ残さず消え失せるがいい。

心は怒りで燃えようとも頭は冷静にじゃ。
攻性式神結界を敵集団に打ち込んで連携を乱し分断、その後に
孤立した敵や弱った敵から仕留める。
味方で突出した者がいれば結界術を付与して防御を固める等、
優先的に援護して危機に陥ることが無いよう気を配っておくぞ。
トループス級相手に要らぬ節介かもしれぬが、本命がまだ控えているのでな。
それから一応助けた武士の事も気にかけておこうかの。
今自力では動けぬじゃろうから狙われたら身を張ってでも庇うとしよう。


一騎塚・喜一
鬼の群れ……そうか、彼らも嘗ては人だったのかもしれませんね
もう元に戻せぬならば、罪を重ねる前に今此処で倒すのが最善です
傷ついた身なのでどこまでお役に立てるか分かりませんが
出来る限りのことは致しましょう

相手が力任せで来るならば、こちらは速さで対抗致しましょう
…と言うのは建前で、正直に申し上げると体が辛いので早く終わらせてしまいたいのです
パラドクスは【幻月】にてお相手致します
囲まれないように注意しながら金棒の一撃は【精神集中】し【神速反応】で回避優先
頑丈さだけが取り柄とは言え、これ以上傷を負うのも御免ですから
深手を負った場合は味方を巻き込まぬように注意しながら後ろに下がることに致します


奉利・聖
さて──耐え忍ぶのは、これにてお終いでございます
ここからは攻める時間 ゴミが二度とこの世を侵さぬように、排除せねば
ジェネラルでも殺せなかったこの命を奪いたいというのなら
死に絶える覚悟をするのですね

・・・…やれやれ、巨大化をすれば強いと思ってるのですか
的が大きくなっただけですね
【神速反応】にて攻撃を寸でで避け、【飛翔】で飛び上がって<グラップル>
組み付くようにして、狙う大きくなった眼…そこに貫手の<強打>
脳まで貫いてあげましょう

仕留めたら金棒を回収
巨大化してるもう一体の脛に、これでもかと何度も何度も<強打>の<連撃>
堪らず頭を垂れたなら、頭蓋を粉砕してお終い
さぁ──掃除も終わらせる時が来ましたよ


ソラス・マルファス
鉄の様子を見よう。狙われていないとはいえ、鬼を目の当たりにしちゃぁ恐ろしいだろうさ。士気高揚を使っておこう。蛮勇にはならない程度に、だが目を向けるだけの勇気が出るように。
「心配するな、何があっても護ってやる。もし叶うなら、今日のことを誰かに話してやってくれ。お前と同じ弱者に、『生きてさえいれば助けは来る』、ってよ」
排斥力で忘れちまうかもしれねぇが、それまでの生きる目的になってくれりゃ重畳だ。

鬼の一撃を受け流し、でかくなった敵の脇をすり抜けて背後へ。軽く斬りつけてこちらへ注意を引付けよう。鉄を巻き込むわけにはいかねぇ。
距離を離したら大剣に呪詛を纏わせ、横なぎに薙ぎ払って両断するぜ。



「次はテメェらか」
 ざんっ。
 重い足音が揃ったのは、その一瞬だけだった。あとは、なんの統率もなく破壊衝動のままに距離を詰めてくる金棒鬼ども。
 その群れを前に、神山・刹那(梟雄・g00162)は《覇龍》を鞘に納めながら、またいつでも抜刀術にて斬り伏せられるよう、蒼眼を尖らせた。
 破壊の限りを尽くし、奪うままに奪い、暴れたいよう暴れてきたからなのか――言語を失したように唸る音だけを撒き散らしている。
「こやつらもひょっとしたら人だった者が変じた姿やもしれぬ。しれぬが……」
「そうか、彼らも嘗ては……」
 七社・小瑠璃(よどみに浮ぶうたかた・g00166)の言葉に、一騎塚・喜一(一騎刀閃・g04498)ははっと息を飲んだ。
 人だったかもしれない。
 どっと心臓が大きく鼓動する。そうだったとして、喜一にできることは、あまりない。
「もう元に戻せぬならば、罪を重ねる前に今此処で倒すのが最善です」
 湧いた覚悟に、じりじりと魂は焼ける。この傷ついた身でどこまで役に立てるだろう――よぎる弱気を踏み潰して、《紫羅欄刀》を握る。
「出来る限り、私もお相手致しましょう」
『死に損ないが粋がりやがッテ! テめえら! はッ! いまにぶち殺シテやルぜ!』
「そのセリフ……そっくりそのまま返してやろう」
 心が燃えるほどの怒りを発露した小瑠璃の琥珀色の瞳は、炯々と赤毛の鬼を――赤鬼の巨躯を睨みつけた。
「わしはいま、機嫌が悪い……警告は一度だけじゃ」
『ああ!?』
「疾く失せよ。失せぬなら塵一つ残さず消え失せるがいい」
『おお! おお! ツええ! ツええ!』
 げたげたと下品な金童子の哄笑につられるよう、金棒鬼も咆哮する。
『やッテみロよ!』
 金童子が言い終わるやいなや、金棒鬼が猛然と小瑠璃たちに向かって走り込んでくる。
「――すまんな、手加減はできんのじゃ」
 怒りで心は燃え盛れども、小瑠璃の思考は冴える。《陰陽符》が奔り、金棒鬼どもを【攻性式神結界】の中に閉じ込め、式神が結界内を縦横無尽に翔け、鬼を八つ裂きにしてしまう。
 金棒鬼の群れのど真ん中に展開された小瑠璃の結界で、右左翼へと群れは分断された。数による有利があちらにあるだろうが、満足な連携も、有能な指揮もいない軍勢だ。
 出鼻を挫いた小瑠璃の術で、鬼は断末魔を上げる。
 その喧しさに動揺したか、一瞬の隙――痛む体に鞭を打つ。これは、意義のある痛みだ。喜一は分断された左方へと駆けた。
 同時に動くのは、鮮やかな金髪。
 奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)だ。耐えるしかできなかった戦いは終わった。漸う攻め入ることができる。漸う汚れを拭うことができる。
(「ゴミが二度とこの世を侵さないように、掃除しないといけません」)
 立烏帽子ですら奪えなかったこの命だ。たかが鬼に奪えるはずもない。終わらせることもできまい。
「それでも、僕の命を奪うというのなら、死に絶える覚悟をするのですね」
 聖の集中力は突き崩せない。鬼の一挙手一投足を感覚し、ほとんど脊髄反射のように振り抜かれた鬼の一撃を寸でのところで躱し、乗ったスピードそのままに、鬼の背後へと駆け抜け飛び上がった。はっと振り返った鬼の顔は真正面にある。遠慮はない。聖は貫手に手を固めた。
「脳まで貫いてあげましょう」
 次の瞬間、聖は大量の返り血を浴びた。


 鬼どものけたたましい哄笑は、恐怖を呼び起す。鉄の茫漠とした黒瞳に映ったのは、ソラス・マルファス(呪詛大剣・g00968)の優しくも頼もしく強い微笑だった。
「大丈夫だ。俺たちがいる」
 その言葉は、蛮勇とはならない程度の――それでも前を見据えることができるだけの勇気が出るような温かさで、鉄へと沁み込んでいく。
(「たしかに鬼は鉄を見てねえし、狙おうともしてねえ……でも、これだけの鬼を目の当たりにしちゃぁ恐ろしいだろうさ」)
 心に大きな傷を負っているのだ。まほうのように癒えて消えてハイ元気とはいかないのだ。だのに、ソラスにしてやれることは、こんなにも少ない。だからこそ、彼の言葉は強く重く、あたたかい。
「心配するな、何があっても護ってやる。もし叶うなら、今日のことを誰かに話してやってくれ。お前と同じ弱者に、『生きてさえいれば助けは来る』、ってよ」
「あ……おう……」
 小さな約束だ。叶うか否か――こればかりは、排斥力で忘れてしまうかもしれないが、それまで鉄の生きる支えとなってくれれば。
「重畳だ」


 駆けた聖の後を追うように、鉄を巻き込まぬようにと離れるソラスは《呪詛の大剣》を抜く。
 接近を真正面から受け返り討ちにするつもりか――振り下ろされた金棒の一撃は、大剣によって受け流され、大地を大きく抉った。
 威風堂々たる勢いで、ソラスの覇気を伝播させる一刀が閃く。【鬼の一撃】に備え巨大化した鬼の四肢が、一瞬ソラスを隠した――その隙を彼は見逃さない。鬼の背後へと素早く回り込み、その背を斬りつける。
「鬼さん、こちら!」
 ソラスの揶揄うような声に振り向いた。
 《大剣》に禍々しくも猛々しい呪詛が発露した。底知れぬ殺意が芽生えれども、翻弄されることはない。
「もう、あいつを巻き込ませねえぜ!」
 凄愴と打ちひしがれた鉄は、前を向いたのだ。これ以上、彼を悲しませてやることはない。
 重厚な踏み込み、圧迫に耐えられずに地にめり込む石の悲鳴が靴裏に刺さる。
 渾身の力で振り抜かれた真横への一閃は、眼前の鬼の胴を両断し――その勢いのままに、体を捻りソラスは、目の端にいる鬼の胴をも真っ二つに斬った。
 どさどさっと血を噴出させながら鬼が崩れた。
「ツええじゃねえか! おお! ツええ!」
 下卑た嗤い声に眉を顰めた聖は、真新しい血だまりを踏みつけた。
「(ああ、汚れてしまいましたね……)」
 うっそりと呟き、持ち主のいなくなった金棒を拾い上げ、驀地に鬼との距離を詰めた。
 【鬼の一撃】が繰り出されるより先に、聖は金棒を打ち据える。
「巨大化すれば強いと思っているのですか。的が大きくなっただけですね」
 何度も。
 何度も。
 息もつかせぬ連撃のすべてが凄絶な破壊力で、無慈悲に等しい。
 ひしゃげた呻き声を聴きながら、金棒を振るう。
 『掃除』に必要なものは、聖の躰ひとつでかまわない。道具はそこかしこにあるのだ――
「さあ、――掃除の時間も終わらせるときがきましたよ」
 たまらず蹲る赤鬼の頭へ、狙い澄ましたかのような渾身の一撃が入る。
 頭蓋は割れて、それはその場で事切れた。


 鬼の群れの勢いは凄まじい。
 烈気は渦を巻いて、破壊衝動に興奮しきりだ。
 喜一は、ふうっ深く息を吐く――断末魔が上がる。それは鬼のものだ。慌て焦ることはない。
 鬼どもが力任せに迫りくるならば、喜一としてはそれを往なす風のように、スピードでもって対抗したいところ。
(「……なんて建前を教えて差し上げることもありません」)
 傷に障ることは判っている。立烏帽子の斬撃の嵐を耐えたばかりだ。喜一を蝕む痛みは強い。しかし、黙っていられなかった。手は勝手に刀を握り、足は気づけば地を踏んでいた。
 己の限界は判っている――だからこそ、速く決着をつけるべきだと、白磁の頬を引き締めた。
「速やかに終わらせてしまいましょう」
 金棒を振り回しながら仲間と共に歩み来る鬼を見据え、決して囲まれぬように位置取りに注意を払う。力任せに振り下ろされる最初の金棒を、寸でのところで躱したあと迫りくる二撃目――屈めた上体を起こしざまに抜刀された剣が、鬼の腕を斬り落とした。返す刀で銀弧を描く。
 上げた烈声の残滓が消えるころ、鬼はぐらりと上体を揺らして、二体が折り重なるように斃れた。
「喜一殿、一服めされてはどうじゃ?」
 確実に鬼を討った。その血の匂いにさらに興奮して、ぶんぶんと金棒を振り回している鬼がいる。
 小瑠璃がお守りと言わんばかりに投げた《陰陽符》だけでは、さすがに彼を護りきることは難しい。それを判っていない喜一でもなく、こくりと肯いた。
 いかに頑丈さが取柄とはいえ、これ以上の傷を負うわけにはいくまい。
「そうですね……少し、疲れました」
「よいよい、しばし下がっておるのじゃ」
 鬼どもは血気盛んであるし、それを煽り立てる赤髪の金童子がまだ健在だ。
 深手を負う前の前線離脱に、金童子は盛大に舌打ちをしてきた。
『ツまンねえなあ! もッと斬りかかッテこいよお! テめえノ刀は鈍かあ!?』
 言い返しかけて、小瑠璃の符が目につく。
「こんな赤鬼相手に要らぬ節介やもしれぬが、まだ本命が控えておるでな」
「ええ、そうですね……大丈夫です、ありがとうございます」
「なに、構わぬよ」
 小瑠璃が気にかけたのは、喜一だけではない。傷を負いながら戦う聖しかり、刹那しかり――そうして、ソラスが強く心配していた鉄だ。
 万が一があってはならぬと、最後方へと気をやっていたが、鬼の攻撃は鉄にまで届かない。
(「自力では動けぬじゃろうと思うておったが……わしが身を張って庇わんでも良さそうじゃな」)
 ディアボロスがそれをさせないのだ。
 それほどの怒涛の攻撃に、鬼どもは手一杯になる。
「……そんな挑発にのってやるほど、易かねえんだ」
『はッはあ! いいねえ、いいねえ! ソういうノ俺あ好きだぜ!』
「俺はな、たいそうなお題目を唱えるつもりはない……ただ、人の幸せを、命をゴミ同然に扱う、お前みたいな奴が心底嫌いだ!」
 金童子に行きつく前に立ち塞がる鬼どもへと突進――刹那は刀を抜く。
「大義もクソもいらねぇ」
 心が怒りに煮えたぎる。
 こういう手合いがいるから、こういう非道がまかり通るから、今件のような被害者が生まれるのだ。
 ありとあらゆる人が涙を流し、血を流し、絶望に容易く染まる。
 刹那はふっと鋭く呼気をひとつ。
 示現流にある剣技のひとつ【分身剣】――煌然と蒼く輝く黒髪がざわりと揺らぐ。爛と光る蒼眼がぶれる――否、それは、とてつもない速さで生まれた刹那の分身へと成る。
「命を、魂を塵芥としか考えていないお前らを! 俺は必ず斬り捨てる! 必ずな!」
 【鬼の行進】に怯むことはない。その凄惨な威力に焦ることもなく。刹那の培ってきたすべての経験がものをいう。
 まるで実体を得たかのような分身は、一分の隙もない神速の剣を閃かせ、鬼どもを一刀のもとに斬り伏せた。
 どうっと斃れた鬼を見下ろす。
 刹那の身を焦がすほどに支配するのは、激しい怒りだった。人の生命を弄ぶ鬼の在り方に、吐く息は灼熱のように燃える。
 だらだらと血で大地を穢していく赤鬼から視線を上げ、刹那らの目は、金童子のみに注がれる。
「おい、いつまでふんぞり返ってる。殺してやるから、さっさとかかって来い!」
 刀身についた血を振るった刹那は、烈しく吶喊した。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【神速反応】がLV3になった!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
【強運の加護】LV1が発生!
【士気高揚】がLV3になった!
効果2【命中アップ】がLV5(最大)になった!
【能力値アップ】がLV4になった!
【アヴォイド】LV1が発生!

●火烈な悪鬼『金童子』
 その言葉は、金童子を喜ばせた。
 赤鬼を斬り伏せた実力に、はやく戦いたいと足が疼いた。
『粋がりやがッテ、おもシれえ!』
 心底愉しそうに獰猛に嗤う。
 燃え盛るような赤髪を揺らし、赤鬼の屍を踏みつけて、金童子は迫りくる。
『八ツ裂きにシテえなあ! 燃やシ盡シテやりテえなあ! なあああ!!』
 逆立たせた赤髪は、一直線にディアボロスへと向かってくる。好戦的に、野蛮に、かえって無邪気に。
『殺りあおうぜ、俺と!』
神山・刹那
ネメシスモード・光太郎絵師のDC参照

早く戦いたいって?
悪いな、今の俺は機嫌が悪くてよ。お前と楽しく戦う気はない
お前も、その後ろで糸を引いてるやつも、仲良く地獄に送ってやる!

無頼・百烈脚で蹴りの壁を造られても、一度伸ばした足は戻さなければ次の蹴りはだせないので、グラップルでその隙を逃さず距離を詰め、渾身の一太刀で斬り捨てる
「お前に用はねぇ。だから、さっさと死ね」


ソラス・マルファス
戦闘狂、ってやつかねぇ。鬼ってのはそういうもんなのかもしれねぇが。
鉄の様子を軽く見てから、巻き込まないように位置取りつつ戦いに集中しよう。味方の消耗も激しいだろう。敵の目を引きつけておきたい。

「いいぜ、相手してやるよ」
正直強さに自信はねぇが、引くわけにはいかねぇ。守るもんがあるんでね。大剣を構え、殺気を放って挑発。渾身の一撃は大剣で真っ向から受け止める。多少の怪我はなんてことねぇ、鉄も、傅介の身体も、万が一にも傷つけさせるわけにゃいかないんでね。

「こいつが、今の俺の全力だ」
飛翔で飛び込み大剣で薙ぎ払うように両断する。

戦闘後、弔いに手が必要なら手伝おう。


一騎塚・喜一
少し休ませて頂いたおかげでまだ動けそうです
それに皆様の戦いぶりを見ていたら、このまま何もせずにはいられません
痛みを堪え、今一度刀を握ると致しましょう

傷を負っている身としては敵の攻撃は可能な限り避けたいところですが
生憎今は冷静さより怒りが勝っております
この状況を楽しんでいる金童子に
不甲斐ない私自身に
その一撃、受けて立ちましょう

【神速反応】をお借りして棍棒の一撃を受け止め防御
耐えきれたらそのまま着地の隙を【悪鬼粉砕撃】で反撃致します
吹き飛ばされたら仲間を巻き込まないよう【飛翔】で体制を整え
まだ動けるようなら【ダッシュ】で距離を詰め再度攻撃を試みます
動けなくとも刀は離しません、敵の注意を逸らす為にも


七社・小瑠璃
戦いを楽しむのは結構じゃが、やっておることが
悪巧みが大好きな女狐の下で使い走りではな。程度が知れるというものよ。

【飛翔】で空中に陣取りつつ伝承戦術で陰陽符を投じて攻撃
他の者は近接戦を挑むようなのでわしは距離を取って
横から皆を援護する形で戦う感じになるかの。
味方が攻撃を受けたらそのまま押し込まれぬよう
すぐ攻撃を差し込んで妨害するよう気を伺っておく。
こっちにはおそらく部下をけしかけてくるじゃろうが空なら逃げ場もあろう、
【神速反応】も利用して迅速に飛び回って回避するとしよう。

最後に武士に余計なことを吹き込もうとするやもしれぬ、油断せずきっちり止めも刺す
それから……せめて埋葬までは見守るとしようかの。



 その鬼は身の丈ほどもある棍棒を、軽々と振り回してみせた。
 浅黒い頬に、いまに人を喰らってしまいそうな凶悪な笑みを刻んでいる。
 下ろした瞼が次に上がった瞬間に襲ってきそうな金童子の様子は、眉間に刻まれた皺を深くするに十分すぎた。
 血気に逸る鬼は、いっそ無邪気か――否だ。いじらしさも愛らしさも皆無。それはディアボロスの怒りを煽り立てる。
 烈気を噴く神山・刹那(梟雄・g00162)は、その気勢を煽るように、またガス抜きさせるように、「早く戦いたいって?」と呟いた。
『ソうだ! 殺りあおうぜ! テめえが死ぬまで!』
「……悪いな、今の俺は機嫌が悪くてよ」
 炯々と尖った蒼い双眸――爛々と烈しく光り、金童子を睨めつける。
 鬼と丁々発止を繰り広げ、愉しませ、あまつさえ満足させてやるつもりは毛頭ない。
「死ぬのはお前だ。お前も、その後ろで糸を引いてるやつも、仲良く地獄に送ってやる!」
『おお! ソりゃいいぜ! ははッ! たノシませテクれよ!』
「……戦いを楽しむのは結構じゃが、やっておることが、下っ端も下っ端……ただの使い走りじゃ。程度が知れるというものよ」
 《陰陽符》の端で口元を隠し、凛乎たる琥珀色だけで嘲りを――七社・小瑠璃(よどみに浮ぶうたかた・g00166)は、戦場をよく見渡せるようにと空中に陣取る。
 ともあれ、空中にいるからといって戦闘において有利になることがないのは百も承知だが、仲間たちは鬼と斬り結ぶ闘いになるだろうから、見渡し、隙をつき、無駄なく討つために小瑠璃は空中を踏んだ。
 実際、疾風のように走り接敵、一等最初に斬り込んだのは、刹那だ。
 咄嗟に棍棒で防いだ金童子に対して、彼は表情を崩さない。
「どうした、戦うんだろ」
『あたりまえだ!』
 棍棒を振って、刹那を退けようとする――その気配を察して、刀を振り上げた。渾身の力を込めて振り下ろす刹那の一太刀を寸でのところで躱した金童子は、軽やかにステップ、苛烈な蹴撃を放つ。
 ひとたび当たれば、いかに頑丈だと自負のある刹那でも――あるいは、かの立烏帽子の攻撃を耐えた刹那ならば――否、これをむやみやたらに受けてやる義理はない。
 絢爛に咲き乱れる百烈脚の猛襲は、刹那を蹴り飛ばさんと迫りくる。
 しかし、この猛襲、蹴り出す脚を封じてしまえば、次撃を繰り出すことはできないのではないか。考えるが先か――咄嗟に掴まんと伸ばされた手は、見事に踏み抜かれ、鮮やかに蹴り上げられる。
(「なんでもうまくいくとは思ってねえよ!」)
 しかし、刹那の手で、金童子のリズムが崩れる。最後の着地の瞬間を狙って、《覇龍》は閃く。
 大上段からあらん限りの力で振り下ろされる渾身の【雲耀の太刀】は、金童子の額を裂いた。
『ぐあッ!?』
 燃えるような赤髪が仰け反り、噴き上がる血を撒き散らした。
 間髪を容れず幾枚もの《陰陽符》が投じられる。
 小瑠璃の霊気が込められた符は、すぐさま力を解放して金童子へと雪崩れこんんだのだ。
 距離を取り見渡すことが出来れば、小瑠璃としてもやりやすい。【伝承戦術】のひとつだ。
 力の奔流の中で、口汚く金童子は罵る。
 大地を焦土と化すかのような号令が金童子から発せられることなく――それが出来ないほどに、凄絶な痛みに襲われているのだ――小瑠璃の聖性が溢れる符によって身を灼かれる。
『クそ……! テめえ……叩き潰シテやル……!』
「やってみせよ。わしも相応の力で応戦してやろうぞ」
 放たれた言葉にあっけらかんと返した小瑠璃の冷ややかな双眼を、金童子は睨め上げた。


「そっちにばかり気をやってると、足元を掬われるぜ」
 ソラス・マルファス(呪詛大剣・g00968)は、小瑠璃に気を取られた金童子へと接敵、呪詛を纏う大剣を抜き放つ。
 こちらに注目していなかったとは思えない身のこなしでひらりと躱した金童子は、赤瞳にソラスを映し、隠しもせずに舌打ちをした。
 ここまでの戦いで、仲間たちの消耗も見てとれる。出来る限りこちらに目を向けさせることができれば、彼らが鬼を斬りやすくなるのではないか。
 そう考えるのに、時間はかからなかった。
「引くわけにはいかねぇ。守るもんがあるんでね……俺が相手してやるよ」
『いいなあ! 楽シもうぜ!』
(「戦闘狂、ってやつかねぇ……ただ、」)
 これ以上傷つけない。それは、生を諦めなかった鉄と、その彼を守り通した傅介へのせめてもの手向けだ。
 鉄も、傅介も――戦うということを選んだからには、己の最期は想像していただろう。喪う覚悟も出来ていただろう。しかし人の心は、時に強固で時に移ろいやすく、容易く壊れる。
 これを予期して予見して予知して――完璧に回避できるはずがないのだ。
 突然訪れた避けようのなかった絶望は、災厄だったけれど。
『守ルもンテなぁ、ソノ死に損ないノことかあ!?』
「誰が、死に損ないだ……」
『ソノ弱えムシケラなンざ、守ッテなンになル!』
「少なくともてめぇより強え!」
 烈しい殺気を孕んだ怒号は腹に響く。
 驀地に走り込んでくる金童子は、ソラスの烈気に触発されたように巨大な棍棒を振り上げた。
 瞬間、激しく打ち鳴らされる金属の衝突音は耳に突き刺さる――拮抗。ぎちぎちと得物同士は悲鳴を上げて、どちらも退くことはない。
 多少の怪我は、些末なこと。
 この身の後ろには、守るべき者がいる。
 鉄も、傅介の躰も――『ふたり』とも、守ると決めたのだ。傷をつけさせるわけにはいかない。
『弱々シク、地に這いツクばル、ソンなムシケラより、俺が弱え?』
「当然だ!」
 苛立ちを隠すこともしない金童子の力がさらに増す。しかしソラスは無理に押し返すことはなかった。
 吸気の瞬間、ソラスは拮抗していた力を抜いて鬼のバランスを崩した。
『なぁッ!?』
 つんのめるようになった鬼の首を刎ねんと奔った銀閃は、一騎塚・喜一(一騎刀閃・g04498)の抜いた刀だ。
「黙っていろという方が、難しいですね」
 ほんの少しだが、休むことが出来た。まだまだ動けそうだ――それに、眼前で繰り広げられる戦闘の熱にあてられた。
 聡く翠に光る双眼は、覇気を宿したままだ。
 痛みを堪えていることを微塵も感じさせない敢然たる面構えに、金童子は、己の頸に迫った刃を面白がるように喜一へと標的を変えた。
「生憎今は、怒りが収まりません」
 この状況を愉しんでいる金童子の振る舞いに、喜一は冷静さよりも憤怒が湧く。それは、不甲斐ない己自身への苛立ちも含まれていた。
「その一撃、受けて立ちましょう」
 研ぎ澄まされる感覚は、名状しがたい瞋恚を灼く。
 歓喜にも似た喊声を上げ、振り下ろされる凄絶な棍棒の一撃を真正面から受けた。
 骨がぎしりと軋む。
 それでも、その場に漂う力の残滓が喜一の反応を鋭敏にする。急所へのダメージは避けることが出来た。刀がぎちぎちと鳴るが、思い切り振り抜けば、
『ちぃッ!』
 忌々しげに舌を打って、金童子は喜一から離れる――好機はそれだった。全身の膂力を籠め、地を蹴り一足で離れた間を詰める。
「逃がしません」
 一瞬での接敵、研ぎ澄まされた一閃。
 赤髪の鬼を斬り刻み、粉砕し、その醜悪に彼らが二度と曝されることのないように。
 肉を斬り、骨を断つ確かな抵抗が刀を通して感じ取った。
 金童子の断末魔とともに、棍棒を握る腕が落ちた。


「騒がしいな。死に損ないのお前に用はねぇ」
 それは鬼が先刻放った言葉だ。生を選んだ鉄へと放った許し難い言葉だ。
「だから、さっさと死ね」
 命を蔑ろにする鬼への怒りが纏わりつく。蒼い揺らめきは、刹那の憤りが可視化したネメシスそのもの。
 華麗な剣技は鋭く、金童子を追い詰める。彼らの無念を鬼どもに刻んでやると約束をしたのだ。徹底的に、恐怖と、非業と、憤怒をこの赤鬼に刻んでやらねばならない――金童子だけではない。根源たるあの高飛車な鬼をも見据え、《覇龍》を振るう。
 金童子も負けじと持ち直した棍棒で刹那の斬撃を弾き、後退しながら悪態を吐く。だが、刹那はそれを聞いてやることはしない。こんな鬼の戯言なぞに付き合ってやることはしない。
 小瑠璃の放った《陰陽符》から放出される衝撃波が、隻腕となった金童子の動きを鈍らせた。
「問答無用じゃ。わしらは、油断せぬ」
 そこに躍り出るは、ソラス。
 戦場の覇者の如き烈気を放ち、大剣を振るい薙ぎ払う。渾身の一閃が金童子の腹を斬り裂いた。
 途端、歪な断末魔が木霊する。耳を劈く大音声は、流れ出る命とともに乾いた大地に吸い込まれていく。
「こいつが、今の俺の全力だ」
 ソラスは赤眼を金童子から逸らすことなく、威風堂々と大剣を振って血を飛ばした。
 身体を支配する痛みは、それを上回る興奮で抑え込んできた喜一がそろりと息を吐く。
 最後まで――鬼の最期まで、油断なく、いつでも剣技を放てるように正眼に刀を構え続けたが、漸く納刀することができた。
 柄頭を撫でた手から、肩から、やっと力を抜くことが出来た。
 ふうと息と吐くのは、刹那も同じだった。刀が鞘に収まる瞬間――張り詰めていた心はわずかだが確かに弛んだ。
 中空から戦況をみきわめていた小瑠璃も、地を踏む。符を懐に仕舞いながら、小さく安堵の吐息。
 そうして、彼の琥珀色の瞳は、事切れた鬼から、ふたりを映した。
 

「……おわった、のか……」
 鉄の声は、出会った瞬間のそれよりも、随分と落ち着きを取り戻していた。
 それは、ディアボロスたちが献身的に彼を――彼らを守った証拠だ。
「わしらは、じきに行かねばならんのじゃ」
「鉄よぉ、手がいるなら手伝うぜ」
「……そうじゃな、せめて」
 埋葬までは見守らせてくれ。
 小瑠璃の静かな声に、ソラスのあたたかな声に、鉄は首を振った。
 震える喉で言葉を絞り出し、震える唇に力を入れて、これが人前で流す最後の涙だと誓う。
「大丈夫だ……ありがとう。傅介を、とむらうのは……っ、……私の、役目だ」
 无望之禍に襲われ曝され生を諦めかけた男は、そこにはいない。
 鉄は、不器用に笑ってみせた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【一刀両断】がLV3になった!
【士気高揚】がLV4になった!
【隔離眼】LV1が発生!
【書物解読】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV5になった!

最終結果:成功

完成日2022年02月03日