復讐の狼煙(作者 九連夜
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#大戦乱群蟲三国志  #樊城の戦い:蜀  #蜀 

 血しぶきが舞った。
 幼児、老人、老人、老人、最後にまた幼児。
 いずれも肩から袈裟懸けに斬られ、次々に声も無く地面に倒れ伏していく。
 最後の子の母親らしき女が半狂乱の悲鳴を上げたが、血まみれの一刀を下ろした四腕の奇怪な兵士は、別の手で持った盾の先端を容赦なくその腹にぶち込んだ。
「う……ぐ……」
 うずくまり怨嗟の声と共に己を見上げる女に目をくれもせず、どこか虫を思わせる異形の兵士は兜で覆われた首をぎこちなく巡らせた。
「足手マトイハ処分シタ。出発スル。焼ケ」
 ほぼ同じ姿形の兵士たちが一斉に動き出し、ほどなくして周囲の建物に火の手が上がる。元からかろうじて形を保っていた程度の陋屋の連なりはあっという間に全てが炎の柱と化し、縄でつながれた呆然とする人々を照らし出した。その様子を感情の無い眼で眺めた兵士はどこか鳴き声めいた声を発した。
「立ッテ歩ケ。関羽サマノ役ニ立テヌノナラバ、死ネ」

 ――それは一つの過去、あるいは未来。
 復讐者たちが訪れなかった歴史における、ありふれた場面の一つ。

「わざわざ来てもらってすまんの。孫・浩然(人間の破軍拳士・g01370)じゃ。故あって時先案内人を務めておる」
 拳法着に手甲、隙の無い身のこなし。一目で手練れとわかる白髪の老人拳士は、集まったディアボロスたちに軽い拱手の礼をとった。
「今回、皆に救援をお願いする改竄歴史――ディヴィジョンというやつじゃが、その対象は『大戦乱群蟲三国志』になる。知る者も多いと思うが、『三國志』の名で知られる中国の古代の歴史が改竄された世界じゃな」
 西暦の開始を挟む400年余の統治の後に崩壊した漢帝国の後継の座を巡り、魏・呉・蜀の三国が中華の地で繰り広げた覇権争い。それは単なる史実に留まらず、様々な物語となって人々を楽しませている……が。
「クロノヴェーダの介入のせいで全てが台無しじゃ。蜀の名将、関羽の名を騙る蟲どもの軍が支配下の荊州の村を襲っておる。元の史実が参考になるとすれば『樊城の戦い』が近い頃でな。魏との戦いに備えた兵隊狩りが目的やも知れん」
 田畑を焼かれ住居を失い生きていく術が無くなれば、人はクロノヴェーダの手先の兵士となって命を繋ぐしかない。そして明日の無い兵士たちが増えれば増えるほど戦乱は広がり世界の混迷の度は増していく。まさにクロノヴェーダの思うつぼだろう。

「というわけで連中の頭を潰すのはもちろんじゃが、周辺を巡回しているものを含めた配下の蟲どもの討滅を頼む。それから可能な限りではあるが、襲われた村の支援活動も……貧窮を放置すれば、結局は同じ結果にならんとも限らんでな」
 まずは村を襲う先遣隊の兵隊蟲どもを討ち滅ぼすこと。
 また近くを巡回中の護衛隊への対処。
 この悲劇の司令塔である地区の頭『張任』率いる本隊の撃破。
 そしてできれば村人たちの信頼を得て、その生活が後々も立ち行くようにすること。
 その全てをとは言わないが、たとえ一部だけでも達成することが出来れば関羽軍に加わる兵士の数が減り、先々の展開に影響を与えるだろう。
 穏やかな調子でそれらのことを語ると、浩然は唐突に鋭い目になってディアボロスたちを見回した。
「説明は以上じゃ。だが最後に、わしから個人的にお願いさせてもらおう」
 急にその背丈が伸びたように見えた。声の張りも増した。

「そう、関羽も張任も本来は義侠の徒として知られた漢たちじゃ。だが同じ名を持つクロノヴェーダどもは市井の人々を守るどころかただの道具として無惨に使い潰し、かつての英雄たちの名を無惨に汚しておる。それが許せるか? 『復讐者』たちよ」
 背筋を伸ばした拱手の姿勢のまま、浩然は宣言するように言い放った。
「これは我々の反撃の第一歩、時を操る侵略者どもへの復讐の狼煙じゃ。お主らの闘いの歌を存分に聴かせてくれい!」

 具足をつけた無数の脚が、ようやく収穫時の近づいた畑を踏み荒らす。粗末な井戸が打ち砕かれる。
 農作業をしていた村人たちは振りかざされた剣の輝きに追われ、留まって抵抗を試みた者は容赦なく打たれ蹴られ地面に倒れたところを引きずって行かれた。数十を数える蟲めいた兵士の群れに、復讐者ならぬ人々たちは抗する術も無い。
 陋屋に囲まれた広場とも言えぬ空き地に追い立てられた人々は、兵によって二つの集団に分けられる。少なくとも一兵士としてなら戦える可能性のある者と、それすら叶わぬ弱き者たちに。後者の群れを蟲兵士の一体が感情無く見つめた。
「関羽サマノ軍ニ加ワレヌ者ハ要ラヌ」
 無情の刃が振り上げられた。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【士気高揚】
2
ディアボロスの強い熱意が周囲に伝播しやすくなる。ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の一般人が、勇気のある行動を取るようになる。
【水源】
3
周囲に、清らかな川の流れを出現させる。この川からは、10秒間に「効果LVトン」の飲用可能な水をくみ上げる事が出来る。
【強運の加護】
1
幸運の加護により、周囲が黄金に輝きだす。運以外の要素が絡まない行動において、ディアボロスに悪い結果が出る可能性が「効果LVごとに半減」する。
【一刀両断】
1
意志が刃として具現化する世界となり、ディアボロスが24時間に「効果LV×1回」だけ、建造物の薄い壁や扉などの斬りやすい部分を、一撃で切断できるようになる。
【託されし願い】
1
周囲に、ディアボロスに願いを託した人々の現在の様子が映像として映し出される。「効果LV×1回」、願いの強さに応じて判定が有利になる。
【熱波の支配者】
1
ディアボロスが熱波を自在に操る世界になり、「効果LV×1.4km半径内」の気温を、「効果LV×14度」まで上昇可能になる。解除すると気温は元に戻る。
【モブオーラ】
1
ディアボロスの行動が周囲の耳目を集めないという世界法則を発生させる。注目されたり話しかけられる確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【平穏結界】
1
ディアボロスから「効果LV×30m半径内」の空間が、外から把握されにくい空間に変化する。空間外から中の異常に気付く確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【スーパーGPS】
2
周囲のディアボロスが見るあらゆる「地図」に、現在位置を表示する機能が追加される。効果LVが高ければ高い程、より詳細な位置を特定できる。
【活性治癒】
1
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【建造物分解】
1
周囲の建造物が、ディアボロスが望めば1分間に「効果LV×1トン」まで分解され、利用可能な資源に変化するようになる。同意しない人間がいる建造物は分解されない。
【口福の伝道者】
1
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。
【ハウスキーパー】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の建物に守護霊を宿らせる。守護霊が宿った建物では、「効果LV日」の間、外部条件に関わらず快適に生活できる。
【通信障害】
2
ディアボロスから「効果LV×1,800m半径内」が、ディアボロスの望まない通信(送受信)及びアルタン・ウルク個体間の遠距離情報伝達が不可能な世界に変わる。

効果2

【能力値アップ】LV3 / 【命中アップ】LV1 / 【ダメージアップ】LV2 / 【ガードアップ】LV2 / 【フィニッシュ】LV1 / 【反撃アップ】LV5(最大) / 【ラストリベンジ】LV1 / 【ドレイン】LV1 / 【アヴォイド】LV1 / 【ロストエナジー】LV1

●マスターより

九連夜
 マスターの九連夜です。チェインパラドクスの世界へようこそ! これからプレイヤーの皆様と一緒に素晴らしい歴史を紡いで行ければと思います。
 以下、状況に関する業務連絡。

【襲撃を受けた村について】
・選択肢によりますが、最速で本文の最後の状況に対するアクションが可能です
・今回の襲撃以前から様々なトラブルに遭遇しており、特に建物に関しては大規模修繕が必要な状態が長く続いています(11日前以前から)
【護衛隊について】
・対他国兵への警戒と索敵、本隊の護衛が主任務です。対復讐者は想定していません
・状況がどうあれ、本隊が襲撃を受けた場合はそちらの援護に駆けつけます
【本隊について】
・隊長である張任(複製型)を倒せば本シナリオの任務完了です
・村に向かって接近中です
・隊長以外もいますがディアボロス相手には雑魚なので隊長のみ対策すれば問題なしです
14

このシナリオは完結しました。



発言期間は終了しました。


リプレイ


横芝・光
クロノヴェーダ(以降、敵と呼称)は許せねえ!
俺のモットーは「食べないなら殺さないし、殺してしまったら食べる」だぜ!
カカカー!(哄笑)。
おっとり刀で本隊を襲撃し、パラドクスを主軸に戦うぜ。
まずは初撃で敵の足の腱を斬り裂く。身を屈めて部位狙いをするわけだから、多少の負傷は覚悟する。向う傷は武士の本懐!
次の刹那に「へッ軽い得物だぜ!」と、武器を無数に繰り出し翻弄する。
連係上等。「料理は心だけでも技術だけでも駄目なんだぜ」
堅実に敵を削ったうえで、他の参加者にバトンをつなげる。
ただ、まあ、俺が同席したタイミングで止めをさせたら残骸は美味しく料理させていただきます。
さあ皆で食おうぜ。げぷー。
ちゃんちゃん♪


 緑豊かな木々の合間を、無骨な鎧に身を固めた異形の集団が進んでいた。金属がこすれあって立てる耳障りな音以外には会話一つなく粛々と進むその姿はどこか餌場へと向かう蟻の群れめいて見え、輝く陽光が照らしだす夏の風景をそこだけ異様な空間へと変じさせていた。
「ム?」
 群れの先頭を進む巨漢が唐突に足を止めた。その頭部は蜘蛛のそれ、瞬かぬ複眼がじっと道の先を見つめる。決して狭くは無い道の真ん中に人影があった。明らかに意図して集団の進路を塞ぐように、そのままじっと立ち尽くしている。
「確認しマす、張任サま」
 配下の兵士らしき四腕の甲冑男が進み出、人影に向かって急ぎ足で歩み出す。やがて向き合った男の誰何らしき声が聞こえ、慌てたように剣を振りかざし……倒れた。剣戟の音すら立てぬまま、仰向けに。
「!!」
「!?」
 蟲めいた兵士たちが無言のざわめきを発するなか、己が倒した兵士を無造作に踏み越えて、「彼女」はゆっくりした足取りで近づいていた。
「……女?」
 蜘蛛男のかすれた声が不審げに響き、兵士たちが一斉に剣を構えて警戒態勢をとる。
 近づくにつれて姿が露わになった。ゆったりした漢服をまとった肉感的な女性の容姿は特に珍しいものではなかったが、右手に提げた大包丁と、背後に従う山羊のような奇妙な生き物は一同の警戒心を高めるに十分なものだった。
「お前ハ、なンだ」
 10メートルほどの間をとって足を止めた女に向かって、蜘蛛の巨漢はところどころ掠れた声をかけた。女は奇妙な笑みを浮かべて応じた。
「俺は横芝・光(人間の特級厨師・g03838)。と言ってもわからないか。モットーは『食べないなら殺さないし、殺してしまったら食べる』。ただ殺すだけってのはよろしくないな、クロノヴェーダの張任さん」
「魏や呉の者でハ、無いようダな」
 クロノヴェーダとわざわざ名指しした光の言葉に蜘蛛男……張任は警戒を深めたようだった。
「ちょっと違うな。あえて言うなら」
 大包丁を体の前で水平に構える。
「復讐者だ!」
 光は一気に飛び込んだ。狙いは蜘蛛男の脚部。陽光を反射しつつ翻った刃の先端が足首に迫った。
「ぬぅ!」
 かろうじて皮一枚で飛び下がった蜘蛛男が手にした矛を振り下ろす。かなりの力のこもったそれを、光は大包丁で受け止めた。
「へッ軽い得物だぜ!」
 払いながら放った言葉は本音かそれとも挑発か。再度踏み込み続けざまに連撃を見舞おうとする光に向かって左右から蜘蛛男を守るように兵士たちが殺到する。
 だがその剣が届く前に横合いから白い小柄な獣が飛び込んできた。光の使い魔たるメーラーデーモンだ。振り回された得物の前に兵士たちは倒れあるいは体勢を崩し、光と張任、デーモンと兵士たちとの形で戦場が二分される。
「ムッ!」
 戦況の変化を見て取った蜘蛛男は一瞬で判断を切り替えた。
「伝令! 行ケ!」
 叫ぶと兵士たちのうちの何人かが手にした剣と盾を捨て、身軽になって走り出した。進行方向前方と側方の二方向へ。
「そうは……」
 させねえ。言いかけて跳んだ光に向かって白い糸が伸びた。蜘蛛男が手と口から放ったものだ。
「ちぃっ!」
 振り払いつつ返す一刀で走る兵士の一人の背を割ったが、次は張任が凄まじい勢いで叩きつけてきた矛を防ぐのに使われた。横目で見ると文字通りに逃げ散る蟻のような兵士の全てをデーモンでは追い切れず、何体かは森の中へと駆け込んでいた。
「急を知らせに行ったか。ま、いい」
 要はこいつを倒すことだと一瞬で切り替え、光は再び目の前に迫る蜘蛛男に向き直った。小さく笑った。左手を宙に掲げた。続いて大包丁を手にしたままの右手も。
「じゃあお次はこいつを喰らってもらおうか」
 光が口の中で紡ぐ咒言と共に現れた光輝が彼女の周囲で揺らめき躍り、次第に形を成して立体的な曼荼羅を形作る。
 水天真言。
「ヌゥ……関羽さマ、我ニ力を!!」
 叫んだ蜘蛛男の矛が次の瞬間に巨大化した。
「!!」
 光の曼荼羅から溢れ出した水流が蜘蛛男を直撃するのと、巨大矛の斬撃がかろうじて受け止めた光の片膝をつかせたのがほぼ同時。
「……それなリに、やるよウだナ」
「まあな」
 軽く答えつつ、光は未だ十分な戦闘力を残した敵に向かって大包丁を構え直した。
成功🔵​🔵​🔴​
効果1【水源】LV1が発生!
効果2【ラストリベンジ】LV1が発生!

オイナス・リンヌンラータ
・心情
無辜の民を狩り立て、兵士として捨て駒の様に使い、敵の領土を奪う。
そんなの、傲慢で利己的な獣心であって、義侠心では断じてないのです!
ましてや戦う力がないからと無慈悲に命を奪うなんて事、許せる話ではないのです!
絶対に思い通りになんてさせないのです!

・行動
ボクは弱い人達を守るために動くのです。
少しでも安全を確保する目的で、相手の注意をこちらに引きつけるために、青龍偃月刀で大立ち回りするのです。
まずは何より一般の人たちの安全が最優先。場合によっては庇いに入る事も躊躇しないのです。
離散されて援軍を呼ばれても厄介ですので、サーヴァントのプロイネンには相手を逃がさない為、囲い込む様に行動させるのです。


峰谷・恵
「兵を賄うには村から上がる税収が不可欠。それを自分から潰すなんて正に蟲の脳みそ」
・心情
理に合わず目先の手駒を増やすためだけに村の日常を破壊する敵集団に怒りと敵対心だけでなく嫌悪も抱いている。
・行動
村人を襲う蜀軍剣蟻兵に村人を巻き込まないよう炸裂気功撃を撃ち込みそのまま突撃、炸裂して不規則に跳ね回る闘気の塊に敵が対処する間に距離を詰めて竜骸剣での追い打ちで敵が態勢を整える前に畳み掛ける。
回避できない敵の攻撃はLUSTオーラシールドで防御。
「こんな横暴を働いておいて『義侠』なんて笑いも取れやしないよ」(←敵のパラドクスの蜀漢義侠剣という名前について)


美空・旭
 力なき一般人を襲撃する、というのは腹立たしい行為ですね。顔に出す性質ではありませんが、静かに怒りを燃やしましょう。
「わかってはいましたが、雑兵……それも蟲に義や誇りなどありませんか。しかし、考えようによっては好都合ですね……おかげで私も何の情も持たずに潰せます」
 目的は民の保護。敵を減らす事と並行できるのが最良ですね。ここは青龍水計を活用しましょう。敵の数を減らすにも向いていますし、何より【水源】が重要です。飲み水に農作に掘、水はいくらでも用途があります。反撃アップで仲間の反撃の補助も狙えますしまさにおあつらえ向きです。
「どうせ狙うならば一石二鳥。蟲退治と一緒に、水も確保してしまいましょう」


匡・雪花
◇心情
大義無き暴力、好きにはなれませんね。
ともあれ護衛であれば得意分野です、私は私の戦いを行わせて頂きましょう。

◇行動
まずは襲撃に割り込み、攻撃されている一般人を鉄扇でディフェンスしましょう。
接近戦では分が悪いかもしれませんね、「吹き飛ばし」で距離を保ちつつ「衝撃波」で撃ち合いに持ち込みたい所です。
使用パラドクスは「玄武氷牢陣」にしておきましょうか、他の復讐者と連携し上手く『水源』に合わせる事が出来れば、氷の技はより効果的なはず。
…「ハウスキーパー」で復興を支援するにしても、まずは安全の確保が最優先ですね。確実に行きましょう。

◇その他
流血可、アレンジ可、性的表現不可


呂・伯魚
一度は敗れ死した身なれど、何の因果か死の淵から蘇った。
となれば、また蟲どもと戦うのみだ。なぁ、絶鬼。

片手に偃月刀、片手に愛馬「絶鬼」の手綱を握り、無辜の民を襲う蟻の兵士に突っ込む。
縦横無尽に敵陣を駆け、すれ違い様に一体ずつ斬り伏せて行こう。

たやすく蹴散らせれば良し。そうでなくとも、意識を民では無くこちらに向けさせることはできるだろうね。
それに戦うのは、俺一人じゃない。
上手く敵陣を蹂躙し、乱すことができれば他のディアボロスが戦いやすくなる手助けにもなるだろう。


●復讐者と害蟲退治
「関羽サマの軍ニ加ワレヌ者ハ要ラヌ」
 無情な宣告と共に振り下ろされた蜀の兵士の刃は、標的にされた老人の体に触れることはなかった。寸前で飛び込んできた颶風のような影に受け止められ跳ね上げられ、兵士は体勢を崩して数歩下がる。
 地面にへたり込んだ老人の視界に、鉄扇を構えた娘の横顔が映った。気遣うように老人に軽く会釈をすると、娘は異常事態の発生に警戒態勢を取る兵士の群れを見やった。
「近寄らせませんよ」
 宣言した匡・雪花(は従者である・g02618)が軽く手を振ると、使い手の名前そのままに周囲に花びらのごとき無数の氷の薄片が現れた。
 玄武氷牢陣。
 舞い狂う氷片は蟲兵士たちの体に次々に貼り付きその動きを鈍らせ、あるいは互いにぶつかり合って小型の氷弾と化して兵士の顔面を胴を続けざまに打った。
「敵、敵襲! この小娘ヲ打ち倒セ! 捕虜どもを早く本隊ニ……」
 陣の外にいた兵士が下がりながら声を張り上げたが、それも最後までは続かなかった。
「兵を賄うには村から上がる税収が不可欠。それを自分から潰すなんて正に蟲の脳みそ」
 真後ろから響いた嘲弄の言葉に振り向いた兵士が見たのは、やや小柄ながら豊満な肢体を持った娘の笑顔。
「破ァッ!!!」
 峰谷・恵(フェロモン強化実験体サキュバス・g01103)が容赦なく放った闘気の塊の一つは至近距離から兵士の顔面を直撃した。残る2つが不規則に揺れ動きながら、新たな敵の出撃に驚く兵士たちに向かって飛んでいく。
「よっと」
 顔面を押さえてのたうち回る兵士を容赦なく踏み倒すと、恵は竜骸剣を手にして己の闘気を追うように突進した。集まり態勢を整えようとする兵士たちの間に割って入り、縦横無尽に動いて攪乱する。四方から殺到する何本もの剣を、あるものは避けあるものは闘気の盾で受けて捌いた。完全に無傷とはいかず幾つかの浅い傷をその身に受けたが、致命傷は一つもない。
「……お、来たね」
 そんな激しい闘いの中、恵は何かに気づいたようにひょいと首を巡らして小さく笑った。
 オイナス・リンヌンラータ(焔狐の刃・g00613)、緑の鉢巻きにリストバンド、白いパンツァーハウンドを従えた元気少年が己の身長の倍近くはある青龍偃月刀を振り回しながら突っ込んでくる。
「戦う力がないからと無慈悲に命を奪うなんて事、許せる話ではないのです! 絶対に思い通りになんてさせないのです!」
 本来は蜀の国のお家芸たる義憤をためらわず口にしつつ、群がる蟲兵士どもを刃で斬り裂きあるいは石突きで吹き飛ばし、派手な立ち回りを続けつつ恵までの道を自ら切り開いた。
「あっちの敵、頼むね!」「了解なのです!」
 簡素な指示は信頼の証。時には背中合わせに違いを守り、時には片方の援護で片方が斬り込み、即席コンビであるはずの二人は昔から対の舞い手であるかのように華麗に戦場を席巻し兵士たちを翻弄し続けた。
「お見事です。しかし……」
 敵と比べて仲間たちの戦力に不足は無し。そう判断して建物の影から戦況を伺っていた美空・旭(悪辣軍師・g02138)は眼鏡に人差し指を当てて小声で呟いた。
「このままだと守り切れないかも知れませんね」
 その視線の先には雪花がいる。危うく斬り殺されるところだった老人を守り以後も幼児と老人の一団をかばって戦い続ける彼女だったが、兵士たちの攻撃の対象が次第にそちらに移りつつある。オイナスと恵は兵士たちの眼を引きつけるように故意に目を引く形の奮闘を続けていたが、雪花の目的が弱い者たちの保護であることは観察していれば容易にわかる。明確な指導者不在ながらもある種の感覚に秀でた蟲兵士たちは、次第に本能でその事実を悟り仲間同士で共有しつつあった。
「わかってはいましたが、雑兵……それも蟲に義や誇りなどありませんか。さすがは群体生物、効率優先で結構なことです」
 旭は嘆息すると、奇妙に冷え冷えとした目つきになった。
「しかし、考えようによっては好都合ですね……おかげで私も何の情も持たずに潰せます」
 建物の影から歩み出る。敵の剣の一撃を鉄扇で受け流したばかりの雪花が、視線だけ動かして旭の姿を捉えた。青い眼と眼鏡の間で瞬間のアイコンタクト。
「(そちらをお願いします)」
「(了解。……青龍水計!)」
 繰り出す技はいずれも水に縁深きもの。老人と子供を狙う素振りを見せた兵士たち3体を再び舞った雪花の氷片が覆い、突如地面から湧き出した水は旭の指の動きに従い宙空でうねり、そのまま雪花を狙う兵士たちを直撃した。
「どうせ狙うならば一石二鳥。蟲退治と一緒に、水も確保してしまいましょう」
 すでに傷を負っていた2体の兵士が己の攻撃で地に倒れ伏したのを確認し、どこか歌うような調子でそう口にした旭はさらに歩を進めた。「多少は戦闘力がある」と見なされた人々が身を寄せ合うその前に立ち、守るようにくるりと背を向けた。
「村の方々はこちらで守ります。敵の掃討をお願いします」
「ありがとうなのです!」
 元気に応じたのはオイナスだった。
「うん。それじゃ、あとは競争かな」
 ちょうど彼と背中合わせの位置に戻っていた恵の、サキュバスの黒い瞳が奇妙な色に染まった。熱さよりも冷たい嫌悪感を帯びた言葉が続く。
「どちらが多くの蟲どもを狩り尽くせるか……」
 兵士たちの注意を惹きつけ人々を守るための戦いから、互いの命を賭した純粋な闘争へ。一瞬で切り替えた二人は弾かれたようにそれぞれの方向へ飛び出した。鋭く突き出されたオイナスの青龍偃月刀の切っ先は容赦なく敵の喉首をえぐり、放つ闘気と一体化したように突撃する恵が進路上の敵の次々と薙ぎ倒していく。
「ギっ……こノ……蜀の兵士を、舐めルなッ」
 わめいた兵士が叩きつけてきた強烈な斬撃を、恵は左腕の発振器から具現化した闘気の盾で受け止める。
「蜀漢義侠剣、だっけ? こんな横暴を働いておいて」
 相手の顔に己の顔を突きつけるように踏み出した。
「『義侠』なんて笑いも取れやしないよ!」
 鎧ごと両断する勢いの竜骸剣の一撃を受け、兵士はたまらず地に伏した。明らかな劣勢を自覚した残りの兵士たちが浮き足立つ。一部が剣を捨てて村の外へと駆けだした。
「逃がさないなのです。プロイネン!」
 白い毛並みのパンツァーハウンドがオイナスの号令一下、走り出す。敵兵の先へと回り込みその進路を妨害し、文字通りの猟犬のごとく敵を狩り場へと追い戻す。
 だが。
「蜘蛛の子を散らす、というやつですか。少々種類が違いますが」
 残敵掃討のため水の陣を再度展開しながら、旭が見たままの光景を口にした。仲間の逃亡を目にした兵士たちが、我先にと方向を定めず走り出していた。四方八方に逃げ散る敵を抑え込もうとプロイネンが疾駆するが、さすがに全ては抑えきれない。
 戦闘目的は達成。しかし敵の一部は逃亡。そんな結果となるかに見えた。
「グワッ!」
 村の裏側に向かった兵士が急にのけぞり、倒れた。その前方に二つの影。人と馬だった。
「もはや出番はないかと思ったが、まだ俺にも果たせる役が残っていたようだ」
 蟻のごとき兵士を一撃で斬り伏せた偃月刀を下ろし、呂・伯魚(未だ大鵬には至らず・g03243)は傷のある顔を傍らの巨馬に向けて語りかけた。
「一度は敗れ死した身なれど、何の因果か死の淵から蘇った。となれば、また蟲どもと戦うのみだ。なぁ、絶鬼」
 慣れきった動作で軽々と馬に跨がり、次の瞬間、凄まじい速度で加速した。
「ハッ!」
 人馬一体。その凄まじい突進と馬上から繰り出される強烈な斬撃に、兵士たちはさらなる混乱状態に陥った。逃げる背は真っ先に追われて討たれ、足を止めて対抗しようとすれば他の復讐者たちの攻撃を受ける。速度だけなら他の復讐者たちも負けてはいないが、何より人馬の共演が生み出す凄まじい迫力が完全に敵の戦意を奪い尽くした。
「また、おいしいところを持って行ってくれますね……」
 村人たちはもう大丈夫と判断し自身も攻勢に回った雪花が思わず苦笑したほどの、それは強烈な活躍ぶりだった。そして続く皆の攻撃により敵は急激にその数を減らしていく。
「あと二体!」
 村の縁を大きく回って疾駆した伯魚が叫び、同時に林に逃げ込む寸前の兵士を無造作に斬って捨てた。
「プロイネン! 撃つです!」
「ガウ!」
 牽制から攻撃に切り替えたパンツァーハウンドの砲撃が、これも逃げる兵士の背に炸裂した。残る最後の兵士は逆に村の中央へと駆け戻り、再び村人を盾にしようと試みたが。
「護るのが私の戦いですから」
 あくまで護衛を己の任務としていた雪花が即座に前に立ち塞がり。
「終わりです」
 その敵のあがきも計算に入れていた旭が背後を塞いだ。
 雪片が宙を彩り、水流が荒れ狂う。その両者が消えたとき、もはや立っている兵士はどこにもいなかった。

「あ、あの、ありがとうございます……」
 そこまでただ呆然と戦いの成り行きを眺めていた村人たちの、その代表と見える壮年の男が恐る恐る立ち上がって雪花たちに近づいてきた。
「その、皆様方は……」
「連絡! 連絡! 本隊に襲撃あリ! 襲撃あリ!」
 恩人の正体を問う言葉を、村の入り口、街道側から響く甲高い声がかき消した。復讐者たちが振り向くと、3体の蟲の兵士が走り込んでくる姿が見えた。
「選別隊はただチに使える捕虜ヲまとめ……て……」
 その脚が止まった。村の各所に累々と横たわる仲間の死骸。村人たちとは明らかに異なる、武器を手にした数名の男女。状況はあまりにも明白だった。
 くるりと背を向け、全力で逃亡を開始した兵士たちの姿を見て伯魚は肩をすくめた。
「さらにもう一幕あったか。行くぞ、絶鬼」
 再び馬上の人となった彼の背に旭が続く。
「せっかくだし、完勝を目指さないとね」
 他の者たちも一拍遅れて駆けだした。全力疾走のさなかで旭が一度だけ振り返り、新たに村に入ってきた人影に向かって大声で叫んだ。
「すいません、後はお任せします……!」
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【士気高揚】LV1が発生!
【通信障害】LV1が発生!
【水源】がLV2になった!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
【スーパーGPS】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV2が発生!
【反撃アップ】LV3が発生!

先旗・水景
まずは、復興の支援をするわ
相手さん、村人相手に厄介なことを考えているみたいだし、きちんと対策しておかないとね
まずは、食料を持ち込んで村人と交流、ある程度仲良くなりましょう
そして、もう使えなさそうな建物とかはさくっと解体して、資源に。今必要な家などに再利用ね

最後はやっぱり農作業のお手伝いね
井戸の補強や、収穫できるものから手早く済ませていければいいかしら
みんなと一緒になって畑仕事すれば、きっと復興も早く進むし、いざ敵がやってきたとしても即座に対応できるわ
村人を逃がしたり守ったりする時間はしっかりとれるように、仕事に精を出しながら見回るわよ


匡・雪花
◇心情
追撃は皆様動かれるようですし、私は当初の予定通り復興支援に向かいましょうか。食い詰めて軍に下るような人が出てはいけませんからね。
◇行動
幸いにも死者は出ていませんし、動ける人には協力を仰ぎつつ壊れた家から資材を回収して天幕を張りましょう。「ハウスキーパー」を用いれば最低限の拠点にはなるはず。
炊き出しも行いましょうか。畑が踏み荒らされてしまったとはいえ、多少は食べられる部分も残っているはず。まだ食べられる部分を集めて「水源」の水で煮込んで粥にし、「口福の伝道者」で増やして提供します。
…これで少しは落ち着いて復興に前向きになって頂けると良いのですが。
◇その他
流血可、アレンジ可、性的表現不可


「はい、任されました」
 かけられた言葉に落ち着いた声を返し、先旗・水景(静寂の景・g01758)は去りゆく仲間たちを軽く手を振って見送った。さて、と小さく息を吐いて村の中心の方に向き直る。
 蟻兵士の群れによって半ば打ち砕かれ住居とは呼びがたい姿になった小屋の連なり。麦とおぼしき植物が茂った畑はその半分近くが踏み荒らされ乱雑に刈りとられている。元は井戸だったらしきものはほぼ完全な残骸と化し、復旧にはかなりの手間がかかりそうだ。
「……まあ、半分は大丈夫とも言えるかしらね。まだ残っている食料をかき集めてもらって、あとは手持ちを足せば当面は何とか」
 水景は自身の左手の先、やや大きめのキャリーバッグを見下ろした。中には日持ちする非常食が限界まで詰め込まれている。「時空を超えて怒れる復讐者を運ぶ列車の形をした何か」たるパラドクストレインをただの貨物列車代わりに使うことはその存在の定義からして不可能だが、これは常識的な手荷物までなら行けるだろうと踏んで持ち込んだものだ。
「あの、先ほど助けてくださった皆様の、仲間の方でしょうか?」
「え? ああ、そうよ。村の復興を手伝いに来たの」
 つい復興計画の立案に向きかけた思考を現実に引き戻し、水景は遠慮がちにかけられた声の主に向き直った。よく鍛えられた体を持つ壮年の男は自分がこの村の村長だと名乗り、蜀の兵士の横暴から救ってくれたことへの感謝の言葉を述べる。
「いいのよ、気にしないで。それより今後のことだけれど、まずは一緒に食事でもどうかしら。食材は多少ならこちらでも提供できるし。足りないかも知れないけれど……」
 恐る恐る集まってきた村の住人たちをぐるりと見回し、水景はざっと人数を計算する。全部で百名に少し満たない程度と踏んだ。
「それなら大丈夫です。私の【口福の伝道者】で増やせますから。もちろんずっとは無理ですが」
 突然後方からかけられた声に、水景は即座に振り向いた。少し先に見えたのは、つい先ほどまで村人を護って激闘を繰り広げていた青い瞳の娘の姿。
「ええと、雪花さんでしたよね。敵を追いかけて行ったんじゃ?」
 匡・雪花(は従者である・g02618)は水景に向かって歩を進めながら軽く頷いた。
「追撃は皆様で十分なようでしたし、私はもともと復興支援に参加するつもりでしたから。食い詰めて軍に下るような人が出てはいけませんからね。……そうそう、まずはこちらでしょうか」
 雪花はふと気づいてUターン、適当な地形を見定めるとトン、とつま先で地面を叩いた。途端に足先の土が崩れて下から豊かな水が噴水のように迸り、地面の窪みに合わせて小川となって流れ出す。仲間が残したパラドクスの残留効果【水源】の力だ。
「井戸を直すまでの代用です」
 おお、と村人たちがどよめいた。先の雪花の活躍を間近で見ていたこともあり、口々に感謝の声が上がる。
(……あれ?)
 しかし当たり前と言えば言えるそんな光景に、水景はなぜか微かな違和感を感じた。首を振ってそれを頭から追い出すと声を張り上げる。
「じゃあ、一緒に始めましょう」
 それから行われたのは、まさに災害発生時の緊急対応そのままの光景だった。水景の指示で再生困難と判断された建物の廃材を集め組み立てて臨時の天幕を構築し、残留効果【ハウスキーパー】の力を呼び込んで雨風を十分に凌げる丈夫なものに仕立て上げる。雪花は倒れた麦から使える分を集めさせ、先ほどの水源から汲んだ水と水景の荷物から出した調味料を合わせて大鍋で煮込んで素朴な麦粥を仕立て上げる。【口福の伝道者】の力で住民全員分の食事を楽々と賄う奇跡に、怯えていた住民たちが次第に笑顔になっていく。ちょっとした宴会となり、雪花と水景を囲んだ住民たちはそれまでの暮らしのことや戦争や周辺を荒らす兵士たちへの恐怖を口々に語った。人狩りに関しては何とかすると雪花が請け合ったこともあり、村長を中心として自分たちで村を立て直そうという方向に次第に話が進んでいく。
(どうやら前向きになってくれたようですね。それは良いのですが……)
 雪花は村人たちの言葉に受け答えしながら、水景に視線を向けた。
(ええ、何というか、この人たちには「視えていない」みたいね)
 水景が先ほど感じた違和感の理由。それが復興についての計画……つまりは村の未来を語る会話の中で次第に明らかになってきていた。効果が目立たぬ【ハウスキーパー】はともかくとして、先ほどから二人が利用した【水源】に【口福の伝道者】。状況次第ではとんでもない奇跡だと認識され、それを起こした二人も生き神様か教祖様として祭り上げられても不思議ではないものだ。だが村人たちは一瞬驚くことはあっても次の瞬間には当たり前のこととしてそれを受け入れる。何が本来の世界の姿であり、何がおかしなことなのか。彼らにはそれが一切視えていない。おそらくは蟲と化したかつての三国の英雄たちと、その兵士たちについても、
(改竄歴史。改竄されたのは歴史だけじゃないのね。むしろ人々の心の方が)
 水景はパラドクストレインに乗る前に、「それが許せるか」と問いかけた時先案内人の顔を思い浮かべた。本来、この世界の主人公は村人たちであり自分たちは助っ人のはずだ。だが時空の侵略者クロノヴェーダが存在する限り、彼らが決して主役に戻ることはない。抵抗の意思も気力も全ては正しい認識を元に生まれる以上、彼らは命を賭して抗う術すら奪われているのだ。それを覆せるのは自分たち《復讐者》だけ。侵略者たちに復讐の鉄槌を下し、世界を「当たり前」の姿に戻せるのは。
「……うん。災害救助はむしろ助ける方が力をもらうって聞くわね」
「同感です」
 思わずこぼれた水景の台詞を、同様の結論に至った雪花が力強く肯定した。
「……? 何か気になることでも……?」
「いえこちらの話です」
 村長が挟んだ疑念の声を雪花は軽く受け流した。粥の残りを一気に喉の奥に流し込んで立ち上がり、談笑する人々の笑顔をむしろ好ましげに見やった。たとえ今は無力な存在だとしても、いつか主役に戻るその日に向けて、彼らにはやり遂げてもらわなければならないことがある。
 生き抜くことだ。
 雪花は村人たちに向かって告げた。
「ゆっくりしてもらいたいところですが、まず必要な作業を済ませてしまいましょう。天幕はあと幾つか必要だと思いますし、壊された家の復旧が終わるまでもたせるには補強も必要です」
 長い髪を後ろに払いながら水景が並んで立ち上がる。
「井戸の復旧と、農作業の再開の準備をする人は私について来てもらえるかしら。私たちがここを立ち去っても、この先もずっと……」
 期せずして二人の声が重なった。
「「皆さんが生きていけるように」」
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【強運の加護】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!

横芝・光
前回と同じくパラドクス(以下、必殺技)を主軸に戦う。
サーヴァントと隙無く連係し、切れ目無い攻撃を行う。
その際、一撃一撃に己の全体重を乗せて敵に打ち込む。
攻撃を受け止めた敵の武器を破壊する意図を以て行う。
ひょっとすると、必殺技の攻撃対象の数を見抜かれているかもしれないが、ダメ元で敵とサーヴァントが同じ射線にいるタイミングで必殺技を使用。
対象はもちろん敵。味方を巻き添えにして止めをさしにきたと認識を誤認させるのが目的。
「へっ。その怯みいただき!」
魅せる戦いなどしない。
畳み掛けるように技能で吹き飛ばす。
卑怯という言葉は「何かさ、そういうのはどうでもいいや。お前ら、どいつもこいつも消えちゃえ」と返す。


 ギィン、と鈍い金属音が響き渡った。復讐者とクロノヴェーダ、横芝・光(人間の特級厨師・g03838)と張任、大包丁と矛の何度目か何十度目かになる激突だ。
「ったく。粘りやがるな」
「雑魚かと思ウたが、意外と、やル……」
 己とサーヴァントのメーラーデーモン『猫』。主従が切れ目無く繰り出す攻撃はたびたび蟲の将軍の甲冑を貫き手傷を負わせ、しかし思わぬ速さで伸びる張任の矛も光をかばう『猫』の体を何度か傷つけている。
 もう一度金属音が鳴り響き、巨大化した矛の横薙ぎを避けて大きく飛び下がった光の左右から警護の蟲兵士たちが同時に跳びかかる。
「おっと」
 片足だけ着地した不安定な状態のまま、光は無造作に大包丁を振った。
「ぐガっ」「ゲッ」
 悲鳴の声が同時に上がる。切っ先の描く円弧にまとめて喉を斬り裂かれた兵士たちが血を吐いて膝から大地に崩れ落ちた。
「……待テ!! お前らは下がれ。もう出ルな!」
 味方の屍を乗り越えてなお光に四方から襲いかかろうとする配下の兵士たちを制止し、張任は複眼を奇怪な色にきらめかせて光を見た。
「我らの同類、のようダな」
 時空を操り戦うクロノヴェーダ。その特殊な能力の前に数の優位は意味を減じ、全ての戦いは無数の1対1の積み重ねとなる。それと同じ特性が目の前の敵にもあると彼は理解したようだった。
「同類ね」
 光は鼻で笑った。
「じゃあ、こんなのはどうだい?」
 大包丁と逆の腕を軽く上げる。躍る指先に誘われるようにして宙空に曼荼羅の煌めき。水天真言。すでに何度か見たその技に対応しようと張任は動きかけ。
「ヌッ」
 予想される軌跡を横切るように斜めに突進してきた『猫』。主が繰り出す技をその背に受けることを前提とした動きに、わずかに張任の動きが鈍る。
「へっ。その怯みいただき!」
 曼荼羅から溢れ出た水流は容赦なく張任を撃ち後方へと吹き飛ばした。『猫』は無傷……意図せぬ限り攻撃が味方に当たらぬのも時空を巡る戦闘の特徴だ。
「この外道めがっ!!!」
 妙にはっきりした声で張任が叫んだ。あるいはその名の元となった英雄の何かが刺激されたのか、矛を振りかぶると全身全霊を賭ける勢いでで突っ込んでくる。
「外道? 何かさ、そういうのはどうでもいいや」
「おおおォォォっっ!」
 猛獣のような突撃に向かって、光はその場でわずかに腰を落とした。空いた左腕を軽く突き出す左前の半身の構え、右手に握った大包丁は頭の後ろ、引き絞った弓のように大きく振りかぶって。
「お前ら、どいつもこいつも……」
 矛が巨大化。目前に迫る。吐き出すように告げた。
「消えちゃえ!」
 宙に斬線。音は無い。
 自身を護るよりも相手を潰すことを優先した二人の斬撃は、共に深々と相手の体に食い込んだ。そのまま体当たりのように両者の体がぶつかり、弾け飛ぶ。
「……つぅ」
 カウンターの形になった自身の攻撃の方がやや強い。衝撃に落ちかかる膝を支えながら、光はそう冷静に判断した。自身の力のみではない。いわゆる残留効果。おそらくは他の戦場で戦う他の復讐者たちが勝ち得たパラドクスの力が加わっている。だが、それでも。
「…………」
 光は改めて値踏みをするように傷ついた敵の姿を見た。背後の蟲の兵士たちを護るように立つ姿を。
 ここまでの打ち合いで、戦いの技量で自分が大きく劣ることは無いとわかった。残留効果も助けになる。しかしクロノヴェーダの体力は未知数であり、今の斬撃を受けても特に弱った様子も見られない。己一人で最後まで押し切れるかというと疑問だった。
(「……どうでもいいか」)
 軽く頭を掻き、顔を上げてなおも戦意を失わぬ敵将と相対する。合わせたように互いに息を吐き出し、打ちかかろうとしたとき。
 光の耳に後方からの何かの音が飛び込み、次いで疾風がその頬を叩いた。
苦戦🔵​🔴​🔴​

峰谷・恵
「護衛と連携されると厄介だからね、まずは取り巻きを片付けようか」

通信障害の効果で敵同士の連絡を禁じ、物陰伝いにできる限り接近、気付かれる前にパラドクスで奇襲を仕掛け、敵が態勢を立て直す前に突撃し竜骸剣で追撃。その後は囲まれないよう立ち回りながら敵の攻撃を避けるか盾で防ぎ竜骸剣か闘気+LUSTクンフーブーツによる蹴り(盾で防いだ瞬間など剣で攻撃するには間合いが近過ぎる時、あるいは敵が剣の攻撃に慣れてきたときに奇襲気味に)での攻撃を叩き込んで一体ずつ確実に数を減らす。戦闘中も通信障害の効果で敵同士の声掛けや伝令を阻害して連携を取りにくくさせる。

「腕はそっちが多いんだし足癖が悪いくらい良いでしょ?」


美空・旭
引き続き青龍水計を用いて追撃。ただし、今回は【計略】技能を活用してより効率的に。【水源】はどれだけあっても困りませんし、反撃アップはこの際最大限まで効率を高めて敵将に備えましょう。
「先ほどは連携で補えましたが、まだ非効率でしたね。復興支援に人を割ける程度には、効率化を図りましょうか」
ついでに実験がてら、水に巻き込まれる敵兵を観察。昆虫は気門で、人間は肺で呼吸しますがクロノヴェーダはどちらなのでしょうね? それによって今後効率的な戦術も見えるかもしれません。そこに限らず、味方との戦闘の様子も余力があればしっかりと見ておきます。数だけは多いようですからせいぜい【戦闘知識】の足しにさせてもらいます。


オイナス・リンヌンラータ
相手は「本隊に援軍を」と言ってたのです。
つまり、本隊襲撃が始まっているという事なのです。
そちらはそちらで心配なのですが、ここは相手の合流を阻止する事が本体攻撃の援護にも繋がる……はずなのです!

先回りができれば張飛よろしく仁王立ちで待ち構えれるのですが、
できないなら迅速に追跡するしかないのです。
相手と接敵したら、敵陣に飛び込んで戦覇横掃で薙ぎ払ってやるのです。
プロイネン、援護射撃は任せたのです。
仲間との連携を重視しつつ、少しでも進軍を遅らせてやるのです。


●森林の追撃戦
 深く茂った森の中を、一群の兵士たちが進んでいた。
 獣道よりはマシという程度の整備状態の悪い道を、急ぎ足の二列縦隊で粛々と歩を進めるその様は、己の巣へと帰還する蟻の行進のようにも見えた。先頭と最後尾を行く兵士たちが左右の森の様子を油断なく警戒するなか、その視線を避けるように草木の影に身を潜めて行進の様を眺めていた人影は、やがて一つうなずくと音も無く身を翻し――。

「見つけたよ、この先を進軍中だね。知らせを受けて本隊に帰還中って感じかな」
 手分けして敵の動向を探っていた峰谷・恵(フェロモン強化実験体サキュバス・g01103)は仲間たちと合流するなり、獲物を見つけた狩人の表情でそう告げた。
「了解です。敵の様子はどんな感じでしたか?」
 お団子二つの髪型に眼鏡の小柄な娘――美空・旭(悪辣軍師・g02138)が思案する表情で問い返す。
「ん、きちんと周囲を警戒していたね。ただ真ん中辺りの兵士はそうでもない感じだった。もしボクが狙うなら……」
 奇襲。森の中に隠れたまま極力近づき、群れの中央を食い破るように一気に突撃。そんな案を口にした恵に、旭に軽くうなずいてみせた。
「妥当な判断です。先ほどの戦闘では連携で補えましたが、まだ非効率でしたしね。今回はきちんと陣形を……というほどの人数もいませんが、位置取りと分担を決めておきましょうか」
「あの、もし先回りができるなら、張飛よろしく仁王立ちで待ち構えたいのです」
 オイナス・リンヌンラータ(焔狐の刃・g00613)が本家『三國志』の故事を引いて自身の希望を告げた。
「あの兵士の言ったことが本当なら、もう本隊襲撃が始まっているという事なのです。そちらはそちらで心配なのですが、ここは相手の合流を阻止する事が本体攻撃の援護にも繋がる……はずなのです!」
 少年が力説すると、傍らのパンツァーハウンド『プロイネン』が賛同するように小さく吠えた。
「前を塞ぎに行く、ですか。確かに合流阻止にはそれが最適ですが……」
 眼鏡に指を当てて考える旭に、恵が小さく肩をすくめて見せる。
「悪くない案だけど、途中で見つかる危険も高くなるよね。何より奇襲じゃなくなるし」
「……ですね。前もそうですが、後ろにも逃がしたくはありません」
 旭の脳裏にふと、先に敵の襲撃を防いだばかりの村とその住民たちの姿が浮かんだ。守り抜いたとはいえ、村を捨てて流民とならざるを得ないその一歩手前の惨状だった。
(「復興支援に人を割ける程度には、効率化を図りましょうか。今度こそは」)
 心の中で呟くと、オイナスと旭の顔を見ながら言った。
「ではこんな感じでどうでしょう? 3人が別行動になるのでタイミングが重要ですが……」

 森の中。
 群れの中程でただひたすらに足を前に運んでいた兵士たちの動きをわずかに乱したのは、脇の森の中から聞こえた微かな物音だった。人の足音だと判別したときには、もうそれは目前に迫っていた。
 挑戦的な黒い瞳に前傾姿勢で強調された豊満な胸。纏った闘気と腰まで届く漆黒の髪を、まるで翼のように後方になびかせて。
「ナ……」
 虫めいた掠れた声で驚きの感情を表す間もなく、すれ違いざまに振られた剣に半ば胴体を両断され、虫めいた兵士の体は地に伏した。
「ふっ」
 己の戦果を一顧だにせず、恵は吐気と共にさらに一歩踏み込んだ。事態を把握できていない別の兵士の懐に潜り込み、しゃがみ込む。体をひねった。
「ぐガッ!」
 真下から天に向かって突き上げるような強烈な蹴りに顎を打ち抜かれ、仰向けに倒れる兵士。ようやく敵襲と理解した兵が慌てて横から振り下ろす。その剣を自身の剣で軽々と打ち返すと、恵はお返しとばかりに急接近し、真正面から容赦のない蹴りを叩き込んだ。
 相手の金的――股間のど真ん中に。
 4本の腕すべてで股間を押さえ、前のめりに倒れたその虫男をどこか色っぽい目つきで一瞥すると、恵は思わずどん引き状態になった周囲の兵士たちをぐるりと見回して笑顔で挑発した。
「腕はそっちが多いんだし、足癖が悪いくらい良いでしょ?」

「始めましたか」
 遠くに響く恵の声を耳にした旭は隠密行動を止めて全力で加速、藪をかき分けて一気に森の中から躍り出た。やや先、軍団の先頭にいた兵士がめざとく姿を認めて警告の叫びを上げる。
「遅いです!」
 叩きつけるような言葉と共に手にした羽扇を一閃させると、敵の足下の大地がひび割れ水流が噴出する。そのまま手首を返して見張り兵を指すと、荒れ狂う水流は一気に彼とその周囲の兵士をまとめて巻き込んだ。残った兵士たちが慌てたように寄り集まる。先ほど旭が喚んだ水流のように土中からいくつもの岩が立ち上がり、即席の防壁を構築する。
(「確か蟻巣岩窟陣でしたか? ならば良し、ですね」)
 そこから投じられる岩を避けあるいは羽扇でたたき落としながら、旭は内心で安堵の息をついた。先にオイナスが指摘したとおり、敵の先頭部分が離脱して一部がそのまま本隊に向かうことを危惧していたが、どうやらその心配はなさそうだ。
「一応は軍隊蟻、ということでしょうか。そう、昆虫は気門で、人間は肺で呼吸しますがクロノヴェーダはどちらなのでしょうね?」
 再び羽扇を一振り。岩石の合間から吹き上がる水流が再び兵士たちの姿を飲み込んだ。
「どれどれ。……ふむ、影響無しのようですね。雑兵とは言え、クロノヴェーダの眷属には間違いないようです」
 水に包まれれば普通の虫や人は当然その物理的な影響を受けるが、クロノヴェーダやディアボロスの戦いを決するのは主にパラドクスという別次元の力の優劣だ。ダメージを受けつつも特に苦しむ様子の無い敵の姿を観察しながら、旭はちらと後方に目をやった。遙か列の後方で騒ぎが起きている。そしてそれは徐々に近づいてくる。
「本命が動いたようですね。これで作戦は成功……っと。油断大敵です」
 周囲から投げられ続ける岩の一つが軽く頬を掠め、旭は苦笑した。先の戦いでわかったことは、少なくとも今の復讐者たちは1対1なら一般兵士レベルのクロノヴェーダにはほぼ負けないという単純な事実だ。怪我はしても戦線離脱がないなら、戦闘における連携は必須ではない。むしろ効率からいえば各個人ができるだけ多くの敵を相手取って撃破していく戦術レベルでの連携が望ましい。だからこの戦いにおいて、彼女は3人が別々に行動することを提案した。旭ができるだけ敵の前方に忍びより、先行されないように引きつけ塞ぐ。恵が中央を食い破り掻き乱す。
 そして……。

「出番です。プロイネン、援護射撃は任せたのです!」
 主の言葉に力強く吠え返す愛犬にうなずき、オイナスは荒れた道を全力で走り抜けた。
前方の騒ぎに気を取られ、背を向けたままの兵士たちに躍りかかると、青龍偃月刀の一閃でまとめて2体を斬って捨てる。そのまま己の進路の左右の敵を薙ぎ払い進み続け、ようやく構えをとった敵の前で足を止めるとくるりと振り返る。
「!?」
 一瞬の躊躇を見せた兵士の顔面が直後に爆発した。プロイネンが放った砲弾だった。顔を押さえて苦悶する兵士を尻目にオイナスは再び加速、先ほど倒しきれなかった敵を次々に叩き伏せた。愛犬の砲声が続けざまに轟く中で再び刃を掲げて往復を繰り返すと、地面は十数体の敵兵の屍で舗装されもはや後方には動くもの無き状態となっていた。
「第一段階、完了なのです。あとは……」
 己のパラドクスの効果に自身も高揚を憶えつつ、オイナスは戦闘意欲に満ちた眼で残る兵士の群れを見つめた。彼に与えられた役割は敵の追跡ならぬ追撃。要は「後方から全ての敵を駆逐していくこと」。討ち漏らしがあれば救出した村に再び敵の魔の手が伸びることになる。
「そのためのボクたち、なのです」
 自身に言い聞かせるように呟くと、屍を乗り越えオイナスは突進する。道に沿って兵士たちを端から蹂躙していく。逃げに回った兵士はプロイネンの砲撃で狙い、仕留めきれなければその牽制のもと、主たるオイナスが仕留める。二段構え三段構えで一体の敵の逃亡すら許さず着実に屍を積み重ねていくうちに、前方に黒髪の少女の姿が見えてきた。
「破ァッ!!!」
 闘気の炸裂で一気に3体の敵を吹き飛ばした恵も、緑のハチマキ姿の少年の姿に気づいて声を上げる。
「全部倒したみたいだね。それじゃ、ここからは」
「一緒にやるのです!」
 2人と1匹。村での戦いを再現するように刃と闘気と砲弾の協奏曲が鳴り響き、凄まじい勢いで敵の群れを刈り取っていく。そして視界に残る兵士もわずかとなった頃。
「遅かったですね」
 旭が近づいてくるオイナスと恵に少し不機嫌そうに言った。見れば手足と頬に掠り傷が増えている。先鋒の敵の足止め、持久戦に徹していた代償だった。彼らの間に残る敵の2体が婁宿――オイナスの手にした偃月刀に、1体が恵の竜骸剣に斬り倒されたのを見届けると、旭は残る敵の岩石陣に向き直り、羽扇を掲げて宣言した。
「トリはいただきます」
 岩石でできた陣と、虫の兵士の群れと。全てを巻き込んだ水の奔流が、戦いの終わりを告げる豪華な噴水のように上空に向かって吹き上がった。

「さて。これで取り巻きは片付いたね」
 恵がひと運動したとばかりに目を閉じて大きく伸びをする。
「プロイネン、お疲れなのです」
 走り寄ってきた愛犬の白い毛皮を、オイナスが愛おしげに撫でる。そんな仲間たちの様子を少し眺めてから、旭は森の彼方に続く道の先の方に目を向けた。
「これで敵の手足はもぎ取りました。後は……」
 復讐者たちの戦い。
 残るは敵の頭、張任のみだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【通信障害】がLV2になった!
【水源】がLV3になった!
【士気高揚】がLV2になった!
効果2【反撃アップ】がLV5(最大)になった!
【能力値アップ】がLV3になった!

呂・伯魚
他の人らが護衛を蹴散らしたのを見て、本隊を強襲しよう。
後は、ここで将を討てば終わりだ。

騎乗したまま両手を手綱から離し、弓に矢を番える。
敵の攻撃を避けるのは、愛馬「絶鬼」の意思に任せよう。これまでもいくつもの戦場を共に駆けた戦友だ。
信頼しているよ。

新宿に流れ着き、別の世界におけるこの時代の歴史を読んだのだがね。
そこでの張任は、蜀を侵略する劉備に対抗した忠義者だったそうだ。
それがこの世界では、劉備の軍門に下り、その配下の関羽に対して忠義を誓うとはね。

ああ、いや。これはただの独り言だ。蟲の返事は求めていない。
貴様は「張任」と名乗るただの侵略者。
ならば、俺はその侵略者を討つため、この矢を放つのみだ。


 鉄蹄の響き。聞き慣れたものながら、どこか懐かしく感じられる。
(「この状況故か」)
 己のサーヴァントたる愛馬「絶鬼」を全速で駆りながら、呂・伯魚(未だ大鵬には至らず・g03243)は心の中でそう呟いた。森の中の道を抜けて急に開けた視界の先には、蜘蛛のごとき上半身を甲冑で固めた異形の将がいた。その背後には蟻によく似た四腕の兵士たちが展開している。かつての、そして今再び己の宿敵となったクロノヴェーダの軍団だ。その前にただ一人立ちはだかり、剣らしきものを振るって大立ち回りを繰り広げている娘がいた。自身と同じ《復讐者》らしい。
(「征くぞ、我が戦友。回避は任せた」)
 伯魚はポンと絶鬼のたてがみを軽く叩くと、ためらわずに戦場の中心に馬首を向けた。ちょうど将と打ち合った娘が大きく飛び下がったその脇を全速で駆け抜け、絶鬼を跳躍させる。敵将の斜め上を飛び抜ける形になった。
「ナ……」
 伯魚は足だけで体を固定すると手綱から手を離し、驚いて見上げる将に大きく引き絞った弓を向けた。
「―――捉えた」
 宣告のような呟きと共に放たれた矢は風を裂いて一直線に飛んだ。喉首を貫く寸前、とっさに体をひねった将の肩に深々と突き刺さる。
「! そノ娘の仲間カ! 我ガ忠義にかけて、負けヌ! 関羽様!」
 咆哮のような声と共に凄まじい速さで反撃の矛が伸びた。しかし着地した絶鬼は再度跳躍、反瞬の差でその切っ先を逃れる。
 振り切られた矛の動きが止まるのと、再度着地した絶鬼の馬首を返して向き直ったのがほぼ同時。互いが互いを見たまま、共に動かず口も開かぬ奇妙な対峙が続いた。
「忠義。忠義ね」
 その静寂を先に破ったのは伯魚の方だった。自身の傷のある顔を敵に向け、感慨とも皮肉ともつかぬ奇妙な声色で語りかけた。
「俺は新宿に流れ着き、別の世界におけるこの時代の歴史を読んだのだがね」
「?? 何ヲ、言ッて……」
 将が戸惑いの声を発したが、伯魚は構わず言葉を続けた。
「そこでの張任は、蜀を侵略する劉備に対抗した忠義者だったそうだ。それがこの世界では劉備の軍門に下り、その配下の関羽に対して忠義を誓うとはね」
「…………」
 対する敵将――『張任』の反応は沈黙だった。あくまで油断なく伯魚と絶鬼を蜘蛛の眼で見つめつつ、しかし自身から仕掛けることもしない。
(「何かしらの影響は残っているようだな」)
 伯魚は心の中で溜息をついた。微かに浮かんだ憐憫の情を飲み下し、努めて明るい声を出した。
「ああ、いや。これはただの独り言だ。蟲の返事は求めていない。貴様は『張任』と名乗るただの侵略者」
 再び右手の弓を持ち上げる。鞍に下げた矢筒から矢を引き抜いた。
「ならば、俺はその侵略者を討つため、この矢を放つのみだ」
「……みセろ」
 小さな掠れた声が聞こえた。
「ん?」
 つい聞き返した伯魚の声に応じるように、『張任』の蜘蛛の手足が一斉に動き出した。まるで何かに対する怒りを示すように。
「この『張任』を倒せるもノなら、倒して見セろ!!」
 一閃。
 先の一撃よりさらに速い矛の斬撃を、伯魚は今度はかわせなかった。弓を盾にして受け止めるが、殺しきれぬ衝撃が全身を貫く。
(「なるほど」)
 敵の力と意思を十分に感じた伯魚の顔に笑みが浮かんだ。
「良かろう。己の意思は口舌では無く武技で示すのが我らの習い」
『張任』の一瞬の隙を突いて絶鬼が走り出した。距離を取ると伯魚は弓を掲げて敵将に向き直り、そしてどこか楽しげに叫んだ。
「さあ、決着をつけようか!」
成功🔵​🔵​🔴​
効果1【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!

オイナス・リンヌンラータ
残すは張任の本体のみ。
ここは攻めの一手。一気に殲滅するのです!
先に本体と戦ってる人達は大丈夫でしょうか。

「ボクはオイナス!いくのです!」
と短く名乗って突っ込みます。
プロイネンにはボクだけじゃなく、味方の援護をする様に指示するのです。
基本は武器で戦いつつ、敵の隙と射線などを見計らい、
鳩尾にある動力炉から、奥の手のメタリックプロミネンスをぶっ放すのです。
撃つときはせめて羽織ってる上着だけでも脱いでおきましょ。

この戦いを無事に終わらせるために頑張るのです。


峰谷・恵
「もう軍は無い。後はお前一人。やっぱり軍師がいてくれると違うね」

先行して張任とやりあっているディアボロスを急いで追いかけ、張任へ不意打ち気味に竜骸剣でのLUSTSLASH!を叩き込み、剣に乗せたフェロモンに追加で忠義の臣についての疑問をぶつけ張任の忠義演技へ揺さぶりをかける。

「忠義と言うけれど主である関羽のその主が治める領土から無理やり人を引きずって荒廃させ目先の援軍ノルマだけ満たすどこが忠義の臣?ただのコマか後先考えないゴマすり子分のやることでしょ。忠義を騙るなら無理な援軍をしなくていいようそれこそ『忠告』くらいするもの」

敵の攻撃は後ろに跳びながらLUSTオーラシールドで防ぐ。


匡・雪花
復興支援もひとまずは落ち着きましたので、最後の憂いを断つとしましょうか
先に戦って居られる方々と合流し張任を倒す事を目指します

攻撃も大事ですが防御も欠かせません。
大きなダメージを受けた、或いは受けそうな味方を対象にディフェンスを行います。
ある程度のダメージは覚悟の上です。
可能な限り【結界術】で攻撃を防御しつつ、大振りな薙ぎ払いが隙になる瞬間を伺いましょう。
「無様ですね。言われたまま盲目的に従う事が忠義だとでも?」
主君は違えど主に仕える身として、こんなものが忠義だとは呼びたくありませんね。
隙を見て懐に飛び込み、鉄扇を使った【玄武衝】を叩き込みましょう。


先旗・水景
復興支援も護衛部隊戦も万全ね
他の方々と合流し、平和を脅かす輩を排除するわ
残るは張任のみ、となれば私も突撃。仲間と連携して一気に撃破しましょう


敵の動きに注意して糸を避けつつ一気に接近、避けれそうになければ、手持ちの魔導書で受けるわ。身を守るのは知識よね

そのまま本で強打し、ダメージを重ねていきましょう。ヒット&アウェイを忘れずに、深入りしないわ
しっかりと敵を見て、ここぞの時に吶喊、左腕を変異させての魔骸連刃を叩き込んでやるわ。狙えるならば、後頭部や蜘蛛脚の部分ね
蜘蛛の足やらをバラバラに解体してやれば、糸も減るんじゃないかしら
「私、平和のためなら容赦しないって決めてるのよ」


呂・伯魚
引き続き張任の相手をしよう。

もう俺の方から張任に言うことは何もない。
やるべきは、この勝負に決着を着けることだけさ。

絶鬼に跨り矢を放ちながら、まずは到着した他の復讐者たちの援護といこう。
距離を取りながら牽制をするように矢を放つ。傷を負わせた先ほどの一射が頭をよぎれば、そうそう無視はできないのではないかな。

味方が張任を崩して好機が訪れれば、獲物を弓から偃月刀に持ち替え、一気に接敵。
跳躍するように駆ける絶鬼と共に、張任を両断しようか。

容易い相手では無いだろうが、その忠義とやらに揺らぎがでれば、十分勝機はあるだろうね。


美空・旭
最早策と呼んで良いのかと思いますが囲んで棒で叩く、というのは効果的ですね。サッサと終わらせてしまいましょう。クロノヴェーダに常識は通じないと言っても、地に足をつけて戦っている以上機動力を支えているのは足でしょう……単純な威力なら手持ちのパラドクスの中で最も高い達人撃で足を狙い動きを封じます。ここまで来て逃がすわけには行きませんし、少しでも動きが鈍れば、他の方が確実に仕留めてくれるでしょう。
正直相手の規模が規模だけにこの程度は一方的に勝っておきたいのですが、そこは現実はままならないし自身も未熟、ということで素直に受け入れます。先が思いやられますが、勝利できたのなら初戦としては十分でしょう。


横芝・光
絡み上等。連係歓迎。
『グラップル』で顔面を殴りつけて『吹き飛ばし』、敵を『料理』する。
足りない&応用が必要な個所は『戦闘知識』で補い、縦横無尽の大活躍さ!
機を見て敵に先んじ、ベストなタイミングでパラドクスで攻撃する。
「ほーら、我が軍隊の美しい幾何学模様の陣形が出来ているだろう?」
「まず、軍隊の一斉射撃で撹乱し、ガードにまわした腕を砲撃し、隙をついて足元を地雷で爆破する!
お前の反撃のタイミングでミサイルを撃ちこみフィニッシュさ♪」
とびきりセクシーな表情で宣言し、その言葉通りに実行する。
もちろん、そつなく集中砲火で敵の武器は砕いておく。
これで倒せれば御の字だが…。倒した敵は事後、料理の食材にする。


 剣戟の響きが聞こえた。
 金属がぶつかり合う様々な高さの音を続けざまに響く爆発音が塗りつぶし、人の発する怒号と悲鳴がそれに入り交じる。
 俗に戦場音楽と称されるその複雑な音の響きが前方の木々の合間から漏れ聞こえてくるのを耳にした匡・雪花(は従者である・g02618)は、獣道を進むペースを小走りに変えつつ口を開いた。
「本隊の戦闘はまだ続いているようですね」
「ええ。本当に『わかっていた通り』で間違いなさそう」
 舗装もされていない森の中の細い道を数歩遅れで雪花に続いていた先旗・水景(静寂の景・g01758)は、小さく頷きながら《復讐者》ならではの言葉を返した。クロノヴェーダと同様に時空を操り戦う《復讐者》たちに通常の時間の流れは適用されず、さらにそれは《復讐者》同士の連携にも及ぶ。同じ改竄歴史(○○○○○○)内の動きに対して同時に対処に向かった仲間の状況は、たとえ離れていても一定レベルで把握できる。彼女らは事前に時先案内人からそう説明を受けていたわけだが。
「復興支援も護衛部隊戦も万全ね。あとは……」
 水景はふっと息を吐き出した。時先案内人の言葉と自身の感覚が一致した以上、解決すべき課題も確定した。『張任』を名乗る蟲の将軍率いる本隊の撃滅のみ。水景は戦闘準備だというように右手で左腕の半ばを軽く叩くと雪花に告げた。
「戦法を決めておきましょうか。私は仲間の邪魔をしないようにヒット&アウェイで」
「了解しました。私はダメージを受けそうな味方がいればそちらの援護に回ります」
 雪花は振り向かずに声だけで応じると、一気に足を速める。
 森を抜けた。街道に出ると状況が一望できた。自分たちに背を向けた形で戦い続ける蜘蛛の姿の将軍と、それを取り巻くように控える蟻に似た4腕の兵士たち。将軍と向かい合うのは刃物を手にした娘と騎馬の男。先行した仲間たちだ。
「…………」
 雪花の足がさらに速まる。姿勢を低くしての全力疾走へ。群れる兵士たちを無視してその間をすり抜ける。気配に気づいて振り向きかけた『張任』の前で急停止すると、そっとその腰に両手を添えた。
「……!」
 無言のまま全身の力を込めた勁と氷のパラドクスの力を同時解放。氷塊の直撃を受けたように吹き飛ばされ体を半回転させた張任は、かろうじてそこで踏みとどまった。反撃の構えを取りつつ唸るような声を上げる。
「こヤつらの仲間カ! でぃあぼろすトかいう……」
「正解ね」
 回答は上空から降ってきた。雪花の疾走の軌跡をなぞるように、その背に隠れるように走り寄った水景は、蟻の兵士を容赦なく踏み台にして高々と張任の頭上に跳躍していた。刃に変じたその左腕が陽光の輝きを受けて燦めく。
「ふっ!」
 空中遊泳のような降下と共に共に振り下ろされた光の刃は、反射的にのけぞった敵将の顔のすぐ脇を薙いだ。断たれた蜘蛛の脚2本が宙に舞い、黄色がかった体液が断面から漏れ出す。
「~~ッ!!!」
 張任は数歩下がってようやく体勢を立て直した。着地と共に飛び離れる水景に向かって蜘蛛の脚を伸ばして糸を放出しようとしたとき、その脚を縫い止めるように一本の矢がかすめて飛んだ。とっさに下がった張任が顔を上げると、馬上で弓を手にした呂・伯魚(未だ大鵬には至らず・g03243)と視線が合った。
(「仲間たちとの戦いは久々だ。もう二度と失わぬよう……」)
 伯魚は口の端に微かに笑みを浮かべると、無双馬『絶鬼』の腹を軽く蹴った。走り出すと同時にさらに弓に矢をつがえる。
「ヌぅ。仕方なィ。お前たち、先ノ2人の動きを封じロ! ワシは新手2人を片付けル!」
 張任の号令が飛び、それまで背後に控えていた蟻めいた兵士たちが一斉に動き出した。
「ふん。復讐者4人の相手は自分一人じゃ荷が重い。弱い兵士でも数に任せれば時間稼ぎや戦力分断には使える……ってとこか?」
 新たな仲間たちの乱入を受けて、いったん攻撃の手を止めて戦況を読み直していた横芝・光(特級厨師・g03838)は、自分に向かって迫り寄る兵士の群れを見て少し馬鹿にしたような口調で言った。
「ま、これまでの相手ならそれで十分だったんだろうな。だが間違いだ」
 光は無造作に兵士の群れに歩み寄った。接敵の直前に瞬間的に加速、体を掠る幾つかの刃を完全に無視してそのまま敵軍を突き抜けた。同時に彼女を取り巻くように地面から何かが浮き上がり形を取る。水景と雪花を相手に接近戦を繰り広げていた張任の後ろで光は足を止め、トン、と軽く地面を蹴って後方に飛び下がった。代わりに前に出たのは、彼がパラドクスで形作った小さな軍隊だった。膝下にも届かぬミニチュアサイズながら、数十体の兵士に戦車、ヘリコプターまで備えたそれは、一斉に蜘蛛将軍に銃口を向ける。
「ほーら、我が軍隊の美しい幾何学模様の陣形が出来ているだろう? まず、軍隊の一斉射撃で撹乱し……」
 銃声の合唱。玩具めいた軍隊からパラドクスの力を宿した銃弾が次々に放たれ、回避しきれぬ将軍の鎧に食い込んでいく。それを振り払うように張任の腕が振られた。
「お前の反撃のタイミングでミサイルを撃ちこみフィニッシュさ。……っと」
 敵の指先から次々に伸びる蜘蛛の糸を光は器用にかわしたが、最後の一本が右手首に絡みつき皮膚の一部を剥ぎ取った。しかし己の傷口から溢れ出す赤い色を目にした光は、艶然と笑って言い放った。
「そう。つまりはアンタだ、張任。こんな兵士どもはどうでもいい」
 己の血潮を見せつけるように張任に腕を突き出すと、それが第2射の合図のごとく再びミニチュア兵士の号砲が鳴り響く。
(「そういうことか」)
 一連の攻防を見届けた伯魚は、己に向かってきた兵士に向かって矢を放ちつつ心の中で呟いた。この戦場で最初から戦い続けていた光は、敵の戦力を最も把握している復讐者だ。彼は兵士たちが「まず頭数を減らす」戦闘の常道すら不要な程度の戦力だと見切り、張任本体に圧力をかけることを選んだのだろう。ただしそれは自身に向かった兵士を放置し、その動きが読めなくなるという不利を背負うことでもあるわけだが。
「そこは俺に丸投げというわけか。いいだろう、寄せられた期待には武人として応えねばな!」
 伯魚は大きく馬首を返すと敵軍の周りを走り抜け、光に迫る兵士たちの真ん中に馬を乗り入れた。弓につがえる矢を1本から2本に増やすと続けざまに放ち、敵を片端から屠っていく。
「私たちも」
「ええ」
 雪花の青と水景の紫、見交わし合った二人の目も再び張任に注がれ、鉄扇と刃が続けざまに張任に打ち込まれる。己の劣勢を感じたか、張任が言葉を発しなくなった。3人の攻撃に対応しながら、周囲の森の1点にときどき眼を向ける。
(「護衛部隊の援軍待ち? それは」)
 張任が放つ糸を手持ちの魔導書で払いながら水景が内心で笑ったとき。その森の中から何かが飛び出した。

●包囲
「もう軍は無い。後はお前一人」
 森の中から姿を現すなり高らかに宣言したのは、小さな二つの角と蝙蝠の翼を生やしたサキュバスの娘――峰谷・恵(フェロモン強化実験体サキュバス・g01103)。想定と反対の事態に張任のみならず周囲で戦う兵士たちの動きまで停止する。
「一気に張任を片付けたいところですが……そちらは心配なさそうです。一人も逃がさないようにまとめて囲んで、足を止めてしまいましょう」
 護衛部隊を片付けてからここまで急行してきた美空・旭(悪辣軍師・g02138)は軽く汗を拭うと戦況全体を見渡し、即座にそう断じた。
「じゃあ右側から攻めようかな。いや、やっぱり軍師がいてくれると違うね」
 恵は軽口で応じるとそのまま足を止めずに突進、大きく回り込むと兵士たちの中に飛び込んだ。新手の出現に対応しきれぬ雑兵たちを、闘気を具現化したピンク色の盾で当たるを幸い薙ぎ倒して行く。
「ボクは左側に回るのです。いくのです、プロイネン!」
 きちんと答えてから走り出し、恵とは逆側に回り込んだのはオイナス・リンヌンラータ(焔狐の刃・g00613)。己の愛犬に味方の援護を指示し、自身は偃月刀を手にして敵の真ん中に斬り込んだが。
「……さっきの兵士よりも、弱いです」
 まとめて屠ってきた護衛部隊の兵士よりも手応えがない。そう思いながらもオイナスはあくまで己の役割に専念し、偃月刀の一振りでまとめて2体の敵を片付ける。
「ナ? 何が……」
「護衛部隊を当てにしていたようですが、もう来ませんよ。私たちが全て倒しました」
 ここは動揺を誘う一手とばかりに、悠然と眼鏡をかけ直しながら旭が告げると、張任の動きが明らかに鈍った。
「隙を見せましたね?」
 縦横に放たれる蜘蛛糸をその一瞬でくぐり抜けた雪花の、鉄扇の先がそっと張任の胸に当てられる。再び強烈な勁が放たれ、その位置を中心に冷やされた空気が氷雪となって舞った。
「く……無理カ。お前たち、退け! 退ケ!!」
 張任が叫ぶが、包囲された兵士たちにその余裕はない。
「ふん。判断は間違っちゃいないが」
「手遅れですね」
 光と旭の呟きが重なる。オイナスと恵を両翼として旭が正面から兵士たちの動きを封じ、その囲みから逃げ出す兵をプロイネンの砲撃と伯魚の矢が仕留めていく。数十名を数えた兵士たちは見る間に数を減らしていき。
「はい、これで最後」
 恵が盾でぶちのめした兵士が崩れ落ちたのを最後に、もはや動く者はいなくなった。残るは張任ただ一人。
「なんの、負けぬ、負けヌ! 関羽将軍よ、我ガ忠義をご覧あレ!!」
 孤軍奮闘となった張任が吠える。巨大化した矛が雪花に、恵に、さらには偃月刀を手に接近戦に切り替えた伯魚に次々に叩きつけられる。しかし。
「無様ですね。言われたまま盲目的に従う事が忠義だとでも?」
 強烈な一撃を鉄扇で受け止めた雪花が、間近に迫った張任の複眼に冷たい眼を向けた。
「主が治める領土から無理やり人を引きずって荒廃させて」
 そんな軽い技は効かないとばかりにあえて敵の攻撃を避けず、恵が反撃で繰り出した技は『LUSTSLASH!』。唐竹割りの一刀が蜘蛛脚の1本を切り飛ばし。
「目先の援軍ノルマだけ満たすのの、どこが忠義の臣?」
 そのまま横薙ぎに変化した一刀が深々と胴鎧に食い込んだ。
「勝機、なのです。奥の手、なのです!!」
 オイナスが叫び、上着を脱ぎ捨てた。体の中心、鳩尾に仕込まれた動力炉の蓋が開いて赤い輝きが漏れ出す。
「ボクはオイナス! いくのです!」
 敵将へ向けての律儀な名乗りから間を置かず吹き出したのは紅蓮の炎。それはプロイネンが放った砲弾と一つになって張任の顔面を直撃した。反撃の余裕すらなくのけぞった張任の膝が落ちかかり、地に着く直前で止まった。倒れない。
「なんの、我が忠義ハ、忠義は疑ワせぬ」
 縋るように呟く相手の言葉から「関羽」という目的語が抜けたことに気づき、水景は小さく溜息をついた。
「私、平和のためなら容赦しないって決めてるのよ」
 軌跡は逆袈裟。左腕が変じた刃が、宣言通りに張任の体を深々と斬り裂いた。
「では改めてフィニッシュさ」
 光が再度喚びだしたミニチュア軍隊『極悪中隊(バッド・カンパニー)』、その戦車とヘリからミニサイズのミサイルが放たれ、傷口をさらにえぐる。
「なん……ノ……まだ、この『張任』の、忠義は……潰えハ……」
 よろめく敵が弱々しく吐いた糸を旭は首を曲げてかわし、肩を竦めて真正面から歩み寄った。かがんだ巨体の心臓のあたりに無造作に手を当てた。同時に馬が駆ける音が響く。偃月刀を大きく振りかぶった伯魚だった。
 蜘蛛の首を跳ね飛ばす一閃と、心臓を貫き潰す衝撃のどちらが早かったか。いずれにせよ命を失った『張任』の体は音を立てて大地に倒れ伏した。

●勝利の余韻
「ふう」
 命を失った敵将の姿を眺め、旭はどこか憮然とした表情で息をついた。
「正直、相手の規模が規模だけに、この程度は一方的に勝っておきたかったのですけれどね」
 そんな旭の背中を、笑顔の恵の手がパンと叩いた。
「勝ちは勝ち。そんな顔してないで今は素直に喜んだら?」
 傍らで水景が頷いた。
「みんな大した怪我もしてないし、まあ上出来じゃないかしら」
「ええ。彼の『忠義』も打ち砕けましたしね」
 胸に手を当て、何かを思う風に雪花が言う。
「そうだ、倒した奴は喰っておかないとな」
 光がふと何かを思い出した顔をした。大包丁を手にして張任の死骸に歩み寄る。
「――待て。敵とはいえ最後まで戦い抜いた武人だ。丁重に葬れとまでは言わぬが、手をかけることはまかり成らん」
 状況によっては人も食材となる。中華出身の伯魚は即座に光の意図を理解し、素早く馬から下りるとその前に立ち塞がった。
「いや、命を奪ったら喰うのが礼儀だろう」
「わからんでもないがな。しかし……」
 狩人ないし厨師の礼儀と武人の礼儀。二つの礼儀がぶつかり合って小さな諍いを引き起こすかに見えたが、その解決は意外な形で訪れた。
「……消えやがった」
「死して屍は遺さず、か」
 しばしの言い争いの後、張任の屍にいま一度目を向けた二人は、そこには何もないことに気がついた。体だけではなく、その身に纏っていた鎧も、矛も何もかもすべて。あらためて戦場を見回すと、倒した兵士たちの屍もかなり数が減っていた。
「……時間差があるみたいですね」
「消える範囲は持ち物のどこまでかしら?」
 旭と水景を中心に早速クロノヴェーダの性質に関する議論に入った仲間たちの姿を眺めると、オイナス・リンヌンラータは地面に腰を下ろして手招きで愛犬を呼び寄せた。軽くその頭を撫でながら、優しい表情で告げる。
「これが勝利です、プロイネン」
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【熱波の支配者】LV1が発生!
【一刀両断】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【スーパーGPS】がLV2になった!
【平穏結界】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【ガードアップ】がLV2になった!
【ダメージアップ】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2021年09月13日

樊城の戦い:蜀

 『蜀』のジェネラル級クロノヴェーダ・関羽の命令により、荊州の民衆狩りが行われています。
 この民衆狩りは、来るべき『魏』との決戦である『樊城の戦い』の為の雑兵を集める事が目的です。
 蜀軍は、収穫間近な畑を焼き払ったり、村を焼くなどして、人々を難民化させる事で雑兵を増やし、樊城の戦いを大戦乱にしようとしているのです。
 民衆狩りのクロノヴェーダを撃破し、村人たちが兵士となって殺し合いをしなくて済むように助けてあげてください。

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#大戦乱群蟲三国志
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#蜀


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選択肢『復興支援』のルール

 クロノヴェーダの襲撃などで困窮している人々を救う、復興支援を行います。
 事件で破壊された直後の建物の修復はパラドクスで行う事ができるので、事件以前から壊れていた建物の修復、食料の支援、農地の開墾などの支援を行ってください。  どのような支援が必要であるかは、オープニング及びリプレイで確認してください。

 オープニングやマスターよりに書かれた内容を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 なお、この選択肢には、特殊ルールはありません。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👾一般人を襲うトループス級『蜀軍剣蟻兵』のルール

 周囲の一般人を襲撃するトループス級クロノヴェーダ(👾)と戦闘を行います。
 放置すると村や町を破壊したり一般人を虐殺してしまうので、被害が拡大する恐れがあるでしょう。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 記載された敵が「沢山」出現します(現れる敵の数は、オープニングの情報やリプレイの記述で提示されます)。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『この選択肢の🔵が👑に達すると、この敵集団を倒す。完結までにクリアしていない場合、この敵集団は撤退する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👾護衛するトループス級『蜀軍剣蟻兵』のルール

 事件の首魁であるクロノヴェーダ(👿)を護衛するトループス級クロノヴェーダ(👾)と戦闘を行います。
 👾を撃破する前に👿と戦闘を行う場合は、👾が護衛指揮官を支援してくるので、対策を考える必要があるでしょう。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 記載された敵が「沢山」出現します(現れる敵の数は、オープニングの情報やリプレイの記述で提示されます)。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『この選択肢の🔵が👑に達すると、この敵集団を倒す。完結までにクリアしていない場合、この敵集団は撤退する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👿アヴァタール級との決戦『張任』のルール

 事件の首魁である、アヴァタール級クロノヴェーダ(👿)と戦います。
 👿を撃破する事で、この事件を成功で完結させ、クロノヴェーダの作戦を阻止する事が可能です。
 敵指揮官を撃破した時点で、撃破していないクロノヴェーダは撤退してしまいます。
 また、救出対象などが設定されている場合も、シナリオ成功時までに救出している必要があるので、注意が必要です。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 記載された敵が「1体」出現します。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、敵を倒し、シナリオは成功で完結する。ただし、この選択肢の🔴が🔵より先に👑に達すると、シナリオは失敗で完結する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※このボスの宿敵主は「シメオン・グランツ」です。
※クロノヴェーダには、同じ外見を持つ複数の個体が存在しますが、それぞれ別々のクロノヴェーダで、他の個体の記憶などは持っておらず、個体ごとに性格なども異なっています。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。