リプレイ
シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ・連携は歓迎だよ
随分熱烈だね。この勢いで最終人類史に突入されると、ちょっと面倒だなぁ。
今のうちに発散させてあげないとかな。
この勢いで来てて、まさか私たちを無視して先にはいかないよね?
突撃してくる群に、『蹂躙者』で突撃だ。
……とは言っても、さすがにこれ相手に真正面からどーん、はいくらなんでもしんどそうだ。
横っ腹を食い破るか、斜めに切り裂いて抜けるか、どっちかが出来ればいいんだけどね。
相手の攻撃は、落ちる前に駆け抜け切れれば一番だけど、そう甘くは無いよねぇ……
埋められたところを『蹂躙者』が弾けた勢いで押し退けて脱出、くらいは出来そうか。
何にしても、相手はあんまり頭がよくない。
群の中で暴れ回って引っ掻き回してあげるのは、案外難しくないんじゃないかな?
そうして撹乱しながら体勢整えてまた『蹂躙者』で突撃する機を伺う。
そんな風にして群を削っていこう。
文月・雪人
【雨月】
※アドリブ連携歓迎
故郷を奪われた怨念は、そう易々と消えるものじゃない。
元より大怨霊として知られる早良親王だ、
高野山に入ったと聞いてから、この機に動くだろうとは思っていたよ。
だが勿論、思い通りになんてさせはしない。
奈良へは一歩も立ち入らせない、ましてや殺戮なんてさせるものか!
【パラドクス通信】で長巻や仲間と連携し、協力して迎え撃ちたい。
素早く地形を確認し、敵の侵攻ルートを予測して、
見通しが良く多数相手に此方が戦い易い場所を迎撃ポイントとして選定する。
パラドクスの幻影で敵の動きを誘導、撹乱し、仲間の攻撃へと繋げていこう。
『幽玄の霧』のパラドクスを使用。
有明月の名の竜笛を吹き鳴らし、幽玄の霧を生み出して、
殺意の高い敵に対して逃げ惑う人々の幻で注意を引き付けて、動きを誘導し撹乱する。
幻影に対して攻撃させる形で敵の攻撃の直撃を回避して、【エアライド】で態勢を保ちつつ、
死角から【命中アップ】の力と共に、パラドクスの力を込めた氷雪の呪符で凍結、粉砕し、
仲間と共に攻撃を重ねて敵を殲滅していこう。
鈍・長巻
【雨月】
※アドリブ連携歓迎
これまたやけに殺気の高い連中だな。
肥後に漂着したキマイラウィッチ達とは気が合いそうで、奴らがこっち方面に来なかったのは幸いだ。
しかし土中を進む妖怪ってモグラかよ、そういや漢字だと土竜と書くのだったか。
地下に潜ったり陥没させたりと厄介な敵だが、
知恵がないなら動きも単純になりがちだろうか。
仲間と連携して此方のペースに引き込むのが良さそうだ。
地面からの攻撃には【エアライド】も役に立つだろうか。
【パラドクス通信】で雪人達仲間と連携して戦おう。
雪人の幻影による誘導と撹乱に合わせる形で、『孫呉黒黄旋』のパラドクスを使用。
妖刀を振り回して発生させた黄黒二色のオーラの渦で、広範囲の敵を呑み込み、殲滅する。
派手に叩けば後続の敵もこっちを狙ってくるだろうかね。
本来は回避の難しい攻撃も、此方の誘いに乗せる形で動きを誘導。
食らいつこうとする反撃を【エアライド】も使って回避して、
再び刀を旋回させてオーラで飲み込み倒していこう。
嘗ては式神だったらしいが面影無しか、大人しく調伏されろ妖怪共!
氷渡・秋水
(トレインチケット)
橡・広志
(トレインチケット)
徳世・縁
(トレインチケット)
●この恨み、晴らさでおくべきか
「…………」
『闇尾咬』、その巨体がのたくる様は、さながら……怨みつらみがその動く源となっているかのよう。……まさしく、悪夢のような姿だった。
『闇尾咬』の姿は、一見すると巨大な『蛇』または『龍』。
しかし、そう述べるのは不正確。
人の世の、どんな存在とも似ていなかったのだ。他に似ている、形容できる存在が他に無く、『蛆』や『長虫』、『蚯蚓』や『恐竜』に比べ、いくらか『蛇』や『龍』に近いように見える……それだけだった。
手足が無く、長く伸びた尻尾と、太い胴体、そして頭部は、確かに大蛇めいていた。
しかし、その背中を覆う鱗は、一つ一つが巨大な甲羅のようで、腹を覆う蛇腹ですらも、堅牢そうな甲殻状のそれ。
その頭部は、蛇よりも龍に似た顎を兼ね備え、口回りには自在に動く牙状の器官があった。
眼らしきものはなく、後頭部に水晶状の短い角が、鼻先には剣のように伸びた角が付いており……奇妙にきらめいていた。
そんな怪物……妖怪が、一匹だけでなく、数匹、十数匹が、群れを成し、地中に潜行し、大地を蹂躙しつつ進んでいる。
「……確かにこれは、『悪夢』だな」
文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)が、遠くからその様子を見つつ呟く。
正直、近づきたいとは思わない光景だが……近づかなければならない。
「……随分、熾烈だね」
雪人の隣に居る、シエルシーシャ・クリスタ(水妖の巫・g01847)が、感想を述べる。
「……この勢いで、最終人類史に投入されると、確かにちょっと……面倒だなぁ」
「確かにな。だが、面倒ではあっても、不可能ではないだろう?」
「……確かに」
その通り、少なくとも、この進軍する妖怪に対抗できる力を、自分たちは有している。
故に……それを振るう時。
「で、雪人、シエルシーシャ。作戦は?」
鈍・長巻(ある雨の日の復讐者・g03749)が、二人の隣から問いかける。
その後ろには、他のディアボロスたちの姿もあった。
「ああ、作戦は……」
「……ここなら、地形的にも良さそうだな。クダ吉?」
クダキツネ・クダ吉に語り掛ける雪人は、
開けた地形を臨む場所に立っていた。
敵の……闇尾咬の群れが侵攻するルート上であり、ここならば戦いやすい。
既に、大蛇の妖怪たちが迫ってくる。
「奴らには、目が無いが……視覚は有り、感じ取る事は出来るようだ。それゆえに……」
パラドクスの幻影で、敵を誘導させる。
そして、
「『有明月』……これの出番だ」
雪人は、携えていた『竜笛』を取り出し、それを吹き始めた。
済んだ音色が、周囲に響く。それはまるで、晴れた日の、有明の空の如き調べ。
だがその調べがもたらすのは、晴れた空ではなく、『霧』。
発生した霧は、闇尾咬の群れの前に大きく広がり、邪悪な闇尾咬の群れを包み込んだ。
「……『幽玄の霧』、この霧が見せる幻影で……注意を引きつける!」
その意図通り、荒っぽいが、それなりに整然と進んでいた闇尾咬の群れは、
何かを発見し、それを追うかのように、動きを乱し始めた。
「……まずは。『幽玄の霧』の幻影、『逃げ惑う人々』の幻を見せ、注意を引く。そして……」
その幻影の人々を用い、誘導する。
まるで、鼻先に人参を差し出された暴れ馬のように、闇尾咬たちの進行方向が、乱れていった。
「……次は、俺の番だな!」
【パラドクス通信】で、雪人からの連絡を受けた長巻が進み出る。その手に握るは、『妖刀』。
手にした『妖刀』を、演舞がごとく振り回した長巻は、……その刀身より、オーラを、黄色と黒の二色のオーラを発生させた。
そのオーラは、『幽玄の霧』で誘導された、闇尾咬の群れを包み込む。
「……『孫呉黒黄旋』。さあ、くるがいい!」
長巻の呟きを聞いたかのように、
闇尾咬らは、地中から地上にその姿を現すと、長大な身体をくねらせ、身もだえた。
シエルシーシャは、
闇尾咬の群れを認めると、そいつらへ、『横の方から』向かっていた。
角ある大蛇の妖怪たちは、彼女の存在を感知し……その動きを止める。
「……そして、私たちの出番! 行くぞ、ナックラヴィー! 呪え、鎧え、踏み躙れ!」
シエルシーシャは、人馬の内部に隠れ、闇尾咬の群れへと突進していたのだ。
四腕の巨大な人馬『ナックラヴィー』。
それは、呪具を、宝玉を核とし、呪詛からその姿を象り出現した存在。その大きさは闇尾咬には及ばないが、纏う凶悪な気配は、決して劣らない。
咆哮とともに、ナックラヴィーが突進する!
「『限定開封:狂瀾怒濤の蹂躙者(リアライズ・ナックラヴィー)』! 食い破る!」
そして、
「いざ!」
彼女の、シエルシーシャの後ろから、また別のディアボロスが、その後からともに突進していた。
「……『戦覇横掃』。行きますよ、『羅威迅』!」
無双馬『羅威迅』に跨るは、無双武人・徳世・縁(静寂なる憤怒を忍ばせている・g05815)。
ナックラヴィーと、無双馬、それらを操るディアボロスを、雪人と長巻は見守る。
そして、それとともに、
地震が、闇尾咬たちが地中で暴れるがゆえに起こった地震が、その場に発生した。
地面が揺れるが、ナックラヴィーと羅威迅の疾走は、止まる事は無い。
そのまま、
「行け! ナックラヴィー!」
シエルシーシャの号令一発、闇尾咬の群れへ、ナックラヴィーの体当たりを食らわせる!
一体の横腹が打撃を受け、そのまま倒れる。その横をすり抜け、群れに突入したシエルシーシャは駆け抜け、跳び、群れを翻弄した。
「……貴様ら、隙だらけだ!」
混乱するその群れに、やはり馬上の縁が羅威迅で突撃。
その手の『青龍偃月刀』が、力強き斬撃を放つ! あたかもその姿、三国志演舞における、関羽雲長が再来したごとく。
喉笛を深く切り裂かれ、また一匹の闇尾咬が引導を渡された。
これらの攻撃、群れ全体からしたら、些細な事。
だが、知性が、知能が低い彼らにとっては、些細では済まなかった。
すなわち、混乱し、進軍を止めると……、
整然と進むのを止め、デタラメにあちこちへと向かうようになってしまったのだ。
「……誘導と、撹乱は……作戦通りだが……」
「このまま、各個撃破……できるか?」
雪人と長巻は、安堵するとともに、不安も覚えていた。今のところ……概ねは自分達の作戦通りに、事が進んでいる。
だが、同時に、
『このまま、全てがうまく行くとは限らない』
そういう予感もまた、生じるのを実感していた。
果たしてこれら敵を、全て討伐できるか?
闇尾咬たちの咆哮が、ディアボロスたちの不安を助長し、挑発するかのように。
不気味に、山間部に響き渡っていた。
●恨みは呪いと化し、それは消えずに在り続ける
『三方向』
闇尾咬の群れは、当初の進行方向からして、
そのまま『正面』を、前進し続ける群れと、
『右側』の、木々が生い茂る山中の森林地帯に向かう群れ、
『左側』の、谷部分へと向かう群れ、大まかに、この三つに分かれていた。
分散したのは、やや予想外。しかし……、
「しかし……分散したということは、その分集団の攻撃力も分散したという事!」
氷渡・秋水(秋空の陽動人・g05481)と、
「こちらで、一体ずつを相手できる……ってなもんだ」
アッシュ・アーヴィング(傭兵・g01540)。そして、
「そうです! 私たちは……『右側』を叩きますね!」
エーリャ・アジーモヴァ(冬の天使・g01931)が、森林地帯へと向かい、
「……なら、俺たちは『左側』の、谷の方に行くぜ……中々、アートな状況と風景だな!」
橡・広志(理不尽への叛逆・g05858)と、
「エレイン、ラヴェイン、僕らも……谷の方へと向かうよ」
アンリ・カルヴァン(氷華の人形遣い・g03226)……人形遣いにして、ダンジョンペンギンを連れた銀髪の青年も、駆け出した。
「……シエルシーシャ、私は貴様とともに、『正面』の、あの集団を叩こうと思う。再び……いざ行かん!」
「承知したよ、縁! さあ、ナックラヴィー……ここからが本番だ!」
無双馬と魔馬を駆る二人は、再び騎馬の矛先を、
闇尾咬の群れへと向け直し、突進した。
「こちらエーリャ! 右側に逃げた闇尾咬たちを、森林地帯に【制圧射撃】で追い込んでます!」
空中を飛翔し、エーリャは闇尾咬たちを、森の中へと追い込んでいく。
木々が、大木が生い茂る森の中。大蛇めいた姿の闇尾咬たちは、森の中をくねらせつつ進むが……、どこか、動きがおぼつかない。
「へっ、そのでかい図体で……平地のように地中に潜りこんだりできるとでも思ってんのか? この、でかい大木の根がびっしりのこの場所でよ!」
と、木々に隠れつつ、アッシュが不敵に笑みを浮かべ、
「にしし~♪ 動けないトコを、こっちが動き回り、一方的に攻撃! ん~、私にぴったりの、卑怯度百パーセントな戦い方ですねえ」
と、秋水もまた、嬉しそうに笑みを。
だが、それにこたえるかのように、
いきなり、アッシュと秋水の足元近が、陥没した。
「! 『龍脈崩し』か!」
「って、私に劣らず卑怯! おのれ闇尾咬!」
崩れ落ちるその地面に足を囚われ、二人は……地面に、地中に飲み込まれつつあった。
「! アッシュさん、秋水さん! 今助け……きゃあっ!」
飛翔しているエーリャが、急降下し救出せんとするが、
別の地面を割って、長く伸びた尻尾が、空高く、空中へ、エーリャへと伸び……、
彼女を叩き落とした!
『左側』
谷は、浅い川が流れており……、
その流れに乗り、川そのものを破壊するかのように、一体の闇尾咬が周囲の地面を抉り、のたうち回る。
「ちっ! 美しい自然の風景が台無しじゃねーか! 自然が作り出したアートを破壊してんじゃあねーぞ!」
「……僕も、この光景は気に入らないな。エレインが映える、美しい自然を穢すとは……」
谷底の川辺で、広志とアンリが、闇尾咬を迎え撃つ。
アンリの前には、「麗しき青薔薇『エレイン』」、自動人形が、その六本腕で武器を手に身構え、
エレインの隣には、『ラヴェイン』……ダンジョンペンギンも、並び立っていた。
「来やがれ! ここをてめえらの墓場にしてやんよ!」
と、バウンサーらしく、鉄パイプを握りつつ、吠える広志。
「……おや?」
だが、広志より冷静なアンリが、『違和感』を覚えた。
「……どうした? 奴らがどうかしたか?」
「いや……こちらに来たのが、一体だけなわけはない。他の個体は……」
アンリがそこまで言った、その時。
「! 下だ! 地面の下から来やがる!」
広志の言葉と同時に、足元の地面が割れ、川そのものが割れ、
二体の闇尾咬が、地面を割って鎌首を振り上げてきた。
『龍脈齧り』……地中から出現した闇尾咬の鎌首は、顎を開け食らいつかんとする。
鎌首の回避は……不可能! 至近距離まで迫られ、広志はそいつの口臭を……血と腐臭、そして恨みの悪臭がない交ぜになったそれを嗅いだ……。
●骨に染み込んだ恨みの呪い、それは周囲にしみわたり……
「……! 奴は、どこに……?」
『正面』。そこを進む群れ。それらの姿を、縁とシエルシーシャは見失っていた。
闇尾咬は今、ほぼ全部の個体が地中に潜行してしまい、その姿を消していた。
地面が多少は揺れ動くが、それだけで……その長大な身体を出現させようとしない。
『龍脈崩し』のように、地面が陥没させられたら多少危ういが、
『龍脈齧り』や『龍脈刻み』のように、いきなり顔を出して攻撃して来たら、こちらも反撃は可能。
だが、果たして攻撃するにしても、どこからやってくるか。
まだ、長巻と雪人がいてくれるだけあり、多少は有利かもしれないが……、
シエルシーシャがそう思った、その時。
「……来る! 足元だ!」
縁が叫び、
彼の無双馬……羅威迅の足元が崩れ、巨大な鎌首が出現した!
そして、そのまま。
頭部の鼻先の、巨大な角で突きかかる。
『龍脈刻み』……その角の刺突は、突進する巨獣の頭突きにも等しいそれ。
その一撃が、無双馬とナックラヴィーに襲い掛かった……。
『右側』山間部。
「きゃあああっ!」
悲鳴とともに、尻尾の一打を受け、空中から叩き落とされたエーリャは、墜落し……、
「……いいや、まだまだあっ!」
地面に叩き付けられそうになったが、そうなる前に空中でぎりぎり姿勢を戻す!
「秋水さん! アッシュさん! 捕まって!」
そしてそのまま低空飛行しつつ、穴に引きずり込まれそうになった二人の手を取り、強引に地上へと引っ張り戻した。
「わーっ、たったったっ!」
「……助かったぜ、エーリャ!」
地上を転がり、土を舐めるが……それでも、闇尾咬の陥没から逃れた二人は、
「ええ、助かりました! 後は……卑怯な仕返しを奴らにしてやりますよ!」
「おう……二度と、同じ手は食わねえぜ」
再び立ち上がり、不敵に身構えた。
地を割り、再び地上に出現した闇尾咬は、鎌首をもたげ、噛みつかんとするが、
「おおっと、アッシュさんとわたしを攻撃する前に、自分の首元を注意した方がいいですよ~♪ にしし~♪」
イヤミたっぷりに、秋水が言い放つ。
彼女に反応し、闇尾咬の動きが止まった。
「……気が付きました? キミの首や胴体に、『鎖』が巻きついてるのを! そして、その鎖……爆導索には、小型爆弾がたっぷり取り付けられてるんだなーこれが!」
そのまま、爆発! 一体目の闇尾咬は、爆弾で吹き飛び、肉片を散らかしつつ……息絶えた。
周囲に爆風とともに、爆弾の欠片がばらまかれるが、
二体目、三体目、それ以降が、姿を現し身体をくねらせ、ディアボロスたちへと襲い掛かる!
「さあさ、敵はこっちですよぉ? 来たければ、来てこちらに攻撃してもいいですよぉ? ほれほれ、はよ来たんさい♪」
が、
襲い掛かって『来ない』! いきなり起こった新たな小さな爆発が何度も起こり、それとともに、
闇尾咬たちの身体は、地面やお互いが、『くっついて』しまっていた。
「襲い掛かかれない、ですよねえ? これぞ、わたしのパラドクス『ブラストヒューズ・ランドマイン』! 最初の爆発だけじゃあなく、その後の破片も、攻撃の一部だったわけですよ。見抜けないなんて、流石はざぁこ♪」
まさに彼女の、秋水の言う通り。
最初の爆導索の大量小型爆弾、その爆風でダメージを与えた後、
同時に、その爆弾の破片に偽装した『威圧型トリモチ地雷』を、爆風でばらまく……という、二段構えの効果を持ったパラドクスだったのだ。
「へっ、卑怯だな。それじゃあ、次は俺が行くぜ! 狩りを始める!」
と、アッシュがバーナーブレードを手に、切り込んだ。
トリモチで動きが取れない闇尾咬、その群れは、なんとか反撃や防御をせんとするも、
『凶暴化』したアッシュの前には、防御などできなかった。
その動き、普通の人間のそれを凌駕している。
『ホットブラッド』、薬物で一時的に身体強化を行う、アッシュのパラドクス。
闇尾咬へ、突進した彼は……、
跳躍し、バーナーブレードの熱き一閃を、その大蛇の顔面へと叩き込む!
縦に頭部を割られ、二体目の闇尾咬が引導を渡された。返す刀で、三体目も捌かれる。
だが、トリモチは強力だが、地中を進めばその効果はない。
そして、アッシュと秋水の後方に、
新たな闇尾咬が、地中から躍り出た。が、
「地中を潜り、後ろから不意打ちですか! でも……わたしが居ることをお忘れなく!」
と、空中からエーリャが、種々雑多な『槍』を実体化させ、投擲する。
これぞ『復讐の刃』。具現化され、顕現された『武器』を、敵へ投擲するパラドクス。
今回顕現したのは『槍』。急降下とともに投擲されるその攻撃は、まさしく軍用機の急降下爆撃のごとく!
「うわっとっとっと……! ありがとう、エーリャちゃん!」
「ふっ、闇尾咬どもが串刺しだ。やるな!」
秋水が感嘆し、アッシュは感心する。
「さてと、どうやらこっちに来た奴らは、私たちで倒せそうだねっ」
「ああ、とっとと片付けてやるか」
「ええ! 行きましょう!」
レジスタンス諜報員、バウンサー、航空突撃兵は、
再び、山間部森林内を舞い、闇尾咬たちへと向かっていった。
●……そして、無関係の者も、その恨みの標的となる
『左側』、谷底。
広志に迫った闇尾咬、その一体の大顎は、
「……エレイン!」
アンリの六本腕の人形、エレインの持つ槍に、貫かれていた。
そのままエレインの腕が持つ、剣が一閃! 闇尾咬は首を落とされ、引導を渡される。
しかし、二体目、三体目の闇尾咬が出現し、エレインに襲い掛かるが……、
エレインを操る、本体たるアンリの姿、アンリとともに居るラヴェインの姿、そして広志の姿が、消えていた。
眼が無くとも、その存在を視認している闇尾咬は、消えた彼らを探し、
「……エレインに見とれているところ、悪いけど……こちらだよ」
アンリが、隠密魔術を解き……死角に現れた。
そのまま、プレシオジテ……護身用ナイフの一閃が、二体目の闇尾咬の急所を切り裂き、止めを刺す。
これぞ、『大隠朝市(コン・ソネラ・トン・ラ・モーァ・ドュ・ソネゥル)』。エレインで陽動し注意を引き、隠密魔術で隠れたアンリが死角から攻撃するパラドクス。
「エレイン!」
そして、三体目にもエレインの攻撃が放たれ、
「とどめは、俺のアートだ! 『リアライズペイント』!」
広志が空中に『敵』を、視界にとらえた『闇尾咬』を、絵筆で描く!
途端に、描かれた複製が出現し、本物の闇尾咬へと襲い掛かった。
「俺の作品、どんなもんだ? 中々芸術的だろう?」
広志の複製の攻撃が、本物に止めを刺し、そいつの命も断たれていった。
「……まだ居るが、どうやらこっちの蛇どもも、片付きそうだな」
「そうだな、広志。エレイン、ラヴェイン、君らももう一仕事、頼むよ!」
広志とアンリの言う通り、こちらも殲滅するのは時間の問題だった。
『正面』
シエルシーシャが内部に隠れた、ナックラヴィー。それに迫った闇尾咬の角は、
「はーっ!」
縁の『戦覇横掃』による突進と、薙刀の一撃で切断された。
「! 今だ!」
その隙に、シエルシーシャが攻撃する。呪いで象られたナックラヴィーの腕や蹄が、闇尾咬の巨体を攻撃し、ダメージを与えていくが……やはり、一度の攻撃で倒すのは至難の業。
かろうじて、一体は倒せたが、まだ残る数体が地面から出現する。
「くっ……多いね!」
流石に、焦りを覚えてしまうシエルシーシャ。いかにナックラヴィーの力を有していても、やはり『差』があるのは否めない。
戦力『差』、体格『差』、そして恨みの『差』。
縁と羅威迅も、疲労の色が見て取れる。
「……まだまだ、ここで倒れるつもりはない! だろう? 羅威迅!」
無双馬も、主人に同意するかのようにいななく。が……このままでは押し切られるのも事実。気合と士気だけで勝てる程、戦いは甘くはない。
それを示すかのように、目前に三体の闇尾咬が、地面を破り地中から出現する。
三つの頭部が、迫りくるが、
「……シエルシーシャ! 縁! 二体はこちらが受け持つ!」
「そちらは、一体に集中してくれ!」
パラドクス通信が、雪人と長巻からの通信が、二人に届いた。
「「承知!」」
二人は承諾、真ん中の一体のみに集中し、突進する!
「ほら、こっちだ!」
両脇の、二体の闇尾咬には、
雪人の『幽玄の霧』が再び包み込み、翻弄させ、
「さあ、来てみろ! 敵はこっちにいるぞ!」
長巻もまた、【エアライド】を用いて敵前に姿を現し、誘い出す。
二体のうち一体を、長巻はエアライドでその眼前で空中を跳躍し、敵を誘い出し、
雪人のほうも、一体の闇尾咬を、霧で前後不覚にする。
「……ふん、嘗ては式神だったらしいが……」
逃げながら、闇尾咬の顔を一瞥しつつ、長巻は想う。
「……その面影は、もう無いか。ならば……大人しく、調伏されろ。妖怪としてな!」
その言葉を聞き取ったかのように、牙だらけの口を開き、長巻の背中に迫る闇尾咬。
ひと咬みし、ひと呑みせんとした大蛇は、
「おおっと、足元も、その他もご用心ってねー!」
いつしか、秋水の『ブラストヒューズ・ランドマイン』のトリモチ地雷源に入り込み、爆発とともに、地面にくっついてしまっていた。
戸惑うような咆哮をあげる闇尾咬に、
「これで……」
「終わりだ!」
エーリャの『復讐の刃』を上から、
アッシュの『ホットブラッド』による斬撃を下から、それぞれ受け、
止めを、刺されていた。
霧と、クダ吉の誘導も手伝い、
雪人を追う闇尾咬は、雪人からの呪符……氷雪の符を受け、身体の一部を凍結、粉砕させていた。
だがそれでも、そいつらは死なずに雪人を追い続ける。
「……俺の攻撃で倒れないか! なら!」
雪人に変わり、
「……俺たちの攻撃なら!」
広志と、
「多少は効くか!?」
アンリが戻り、攻撃をしかける。
「エレイン!」
アンリの操る、エレインの攻撃と陽動が闇尾咬を動揺させ、混乱させ、
「おらっ! 『リアライズペイント』! 俺が描いた複製のお前だ!」
広志の描いた複製の闇尾咬が、本物と絡み合い、本物をかみ殺し……引導を渡していた。
そして、最後の一体は、
「はーっ!」
縁が、羅威迅とともに突進。偃月刀で切り付けた後、
「行くぞ!」
シエルシーシャのナックラヴィーが、突進する。
が、最後の闇尾咬は、ナックラヴィーの突進を受け止めると、その身体を巻きつかせ、包み込むように締め上げた。
動きを止められ、動けないシエルシーシャ。だが、
「……そう来たか。でも、それも正直……『想定内』だよ。ナックラヴィー!」
慌てる事無く、そのまま……
ナックラヴィーを、『爆裂』させた。それとともに、闇尾咬の身体が、
大きく弾けて爆裂すると、その身体を抉り……命も、消し飛ばしていた。
「……『狂瀾怒濤の蹂躙者』。暴れ尽くした後、強制的かつ爆発的に解ける事で、周囲に更なる破壊をもたらすってパラドクスさ。お前を倒すのに、十分な爆発だったようだな」
言い放ったシエルシーシャを、事切れた闇尾咬の顔が、悔し気に見つめていた。
●人を恨まば、穴二つ
「……さて、なんとか倒せたようだが……」
再び集まったディアボロスたちは、周囲を見回していた。
あれだけ図体の大きな相手だが、まだ見逃しがあるかもしれない。
「わたしは、空からもう一度探してみますね」
「私も、山間部の方をもう一度回って、確認してみます」
エーリャと秋水が申し出て、
「なら、俺も他の方を見てこよう」
「あれだけの群れ、生き残りが一・二体居たとしてもおかしくないだろうからね」
アッシュとアンリも申し出た。
「俺も見回って来るぜ。あいつら、地面に潜ってるからな。まだ地上に出てねえ奴がいるかもしれねーし」
「見つけ次第、僕たちがエレインとともに、速やかに排除しましょう」
広志と縁も、参加する様子。
「……なら、俺たちは……」
「……闇尾咬に続き、やって来るトループス級、アヴァタール級を迎え撃つための作戦を練っておくか」
「そうだね。……次の敵は、やや小さくなっているものの……それでも人間以上の体格を有し……知恵も回り、何より……『残酷さは、負けず劣らず』らしいからね」
長巻と雪人、シエルシーシャが呟いた。
まさに、今の敵との戦いは、前半戦を終えたようなもの。本当の戦いは、これから。
ディアボロスたちは、新たなる戦いに備えるべく、気を引き締めるのだった。
善戦🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
効果1【スーパーGPS】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
【トラップ生成】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【液体錬成】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV2が発生!
【命中アップ】LV2が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【能力値アップ】LV2が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ・連携は歓迎だよ
さすがに大仕事だった。トループス級とは言え、巨体相手は厄介。
それにしてもこいつらもさっきのも、ドラゴンじゃないのにドラゴンっぽい顔して。
ちょっと複雑。
まぁ足元はそう気にしなくてもよくなったし、サイズ差は縮まった。
知恵はついたと言っても、条件は案外悪くないね。
相手が来る前に一度隠れようか。一回奇襲できるってだけでも案外馬鹿にならないし。
【光学迷彩】に【平穏結界】で、適当に隠れやすそうな所に身を潜めよう。
【トラップ生成】で大声で脅かすだけの罠を使って、見当違いな方向に注意を引いたうえで攻撃だよ。
【完全視界】でもあれば煙幕も張るんだけど。
見つかったらせいぜい目立って煽って、敵意を引き付けつつ戦おう。囮役だ。
のんびりしすぎじゃない?
ペットの蛇たちはもう片づけちゃったよ。
あー、もしかして私たちよりあいつらの方が嫌いだったとか?
敵の攻撃は盾や拳甲で受ける。砕けてもすぐ再構築しよう。
余裕があれば目や口の中を狙って攻撃。
食い意地張ってるみたいだね、私の欠片(結晶片)、食べてみる?
文月・雪人
※アドリブ連携歓迎
先の敵が東洋の竜のイメージなら、今度は西洋の竜のイメージかな。
体格差や数だけでなく、怨みの強さが厄介だけど、
此方にも仲間が重ねてくれた残留効果がある。
厄介な敵であればこそ、使って行かない手は無いね。
了解、【完全視界】は俺が用意するよ。
【トラップ生成】で『煙幕とその中を動くダミー人形の罠』を生成して、敵の動きを惑わせつつ、
その煙幕の中に【光学迷彩】で身を隠し【完全視界】で見通せば、
此方からの攻撃は仕掛け易く、向こうからの集中攻撃を受ける可能性を低く出来そうだ。
【パラドクス通信】で仲間同士の連絡も取り合いつつ、
仲間が過度なダメージを溜めない様に、状況に応じて囮役と攻撃役を交代しながら、
連携して攻撃を重ねていこう。
『無明轟刃』のパラドクスを使用。
敵を倒す事に集中し、煙幕の中でも敵の姿を見通して、疾風の如く薙ぎ払う。
敵の反撃にも煙幕に紛れて敵の目測を誤らせ、熱レーザー攻撃の直撃を避けつつ敵の動きを読み、
怨み全開で体の一部を喰らいにくる敵に刃を合わせ、その怨みごと敵を断ち切ろう。
鈍・長巻
※アドリブ連携歓迎
モグラの次はトカゲかよ、次から次へと厄介な連中だ。
しかしサイズ差が縮まっても八尺はあるとかな、地中に潜らんだけまだマシか。
地上なら【泥濘の地】も使えるし、多少は足止めになるといいが。
何れにしてもこの先へ、人々の元へは行かせない!
蓄積した効果も活用させて貰いつつ、引き続き仲間と連携して対処に向かいたい。
【平穏結界】【光学迷彩】で木や岩の影に潜みつつ、【完全視界】で敵の進行状況を確認。
仲間の奇襲作戦に合わせて、【命中アップ】の力と共に『ツールインパクト』のパラドクスを使用する。
雨礫の手榴弾を地面に叩きつけ、戦場の地面を【泥濘の地】へと変えて多数の敵を飲み込ませる。
敵も反撃してくるだろうが、高速で接近する敵の足を鈍らせつつ、
此方は【エアライド】を駆使して敵の攻撃から一歩下がって直撃を回避。
敵が俺の肉体目掛けて喰らいつこうとするタイミングに合わせて、
肉の代わりに雨礫を滑り込ませてパラドクスの力と共に敵に喰らわせる。
生憎と化け物に食わせる肉は無いんでな、榴弾で我慢しておいてくれ。
ソル・スクルド
(トレインチケット)
アイザック・グレイ
(トレインチケット)
錢鋳・虎児
(トレインチケット)
百鬼・運命
(トレインチケット)
西園寺・真哉
(トレインチケット)
●災禍の龍、出現
「……さて」
シエルシーシャ・クリスタ(水妖の巫・g01847)は、刻々と近づいてくる、新たなる敵の事を思い、
そして、今しがた倒した『闇尾咬』……巨大な蛇または龍の姿をしたトループス級の死体の一部へ目を落とし、
次なる戦いへの『対策』を練っていた。
「ったく、モグラの次はトカゲかよ。次から次へと、厄介な連中だ」
鈍・長巻(ある雨の日の復讐者・g03749)が、ぼやき口調で文句を口にし、
「……で? どうする? 奴らをどうやって迎え撃つ?」
文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)が、シエルシーシャに問う。
「そうだね……」
言われて、考え込んだシエルシーシャだが、
「よう! 助太刀に来たぜ!」
と、少年の……というより、悪ガキめいた元気な声がその場に響き渡った。
「トレインん中で聞いたけどよ、要は未怨龍とかいうドラゴンみてーなうじゃうじゃいる怪物どもを、端からぶん殴りブチのめし、そのケツに弾丸ブチ込んでぶち殺せばいいんだろ?」
錢鋳・虎児(無敵の御ガキ様・g00226)が、いささか下品な表現で言い放つ。
「はっ、そりゃまた……最低最悪な任務だな。俺好みだ」
彼の隣には、ミニドラゴンを引き連れた中年の男性がいた。外套に身を包み、サングラスをかけているが、その眼差しが放つ眼光は鋭いそれ。
「俺はアイザック・グレイ(竜狩り・g01717)、こっちの小さいのは『チビ助』。ま、こんなのを連れていても、ドラゴン殺しは俺の仕事でね。今回相手すんのは、ドラゴンに似たツラをしてると聞いてな。ブチ殺すんなら力になるぜ」
気だるげにぼやくアイザック。
そして、彼らに続き、
「……ああ、それで君が……シエルシーシャさんだね? 私はリン・エーデルリッター(爆弾魔のテロリスト・g01691)。見ての通り、バウンサーだ」
黒髪で、赤い瞳を持つ女性と、
「妾は、ソル・スクルド(御狐暗黒太陽魔法少女ソル・クロノレジェンディア・g02818)。妾が来たからには、大船に乗ったと思って頼りにするがいい! 呪われたトループス級のクロノヴェーダ程度、妾が残さず片付けてくれようぞ!」
呵々大笑するは、妖狐のレジェンドウィザード。その二人の後から、
「……まあ、それでシエルシーシャさん。そういうわけで、俺達が追加メンバーだ。俺は西園寺・真哉(人間のカースブレイド・g03199)。よろしく」
誠実そうな顔立ちの青年と、
「俺は、百鬼・運命(ヨアケの魔法使い・g03078)。同じく追加メンバーだ。ひとつよろしく頼むよ」
整った顔立ちの、メガネの青年とが姿を現し、挨拶した。
「それで? 俺たちはどう行動すれば良い?」
アイザックが、シエルシーシャにぶっきらぼうな口調で訊ねる。
「そうだね。今『作戦』を考え付いた、それは……」
と、問われたシエルシーシャは、
『作戦』を口にした。
やがて、いましばらくの時間が経過し。
山の中、山道に、『気配』がやって来た。
殺意の気配、破壊の気配、邪な気配、危険な気配。
あらゆる『悪意』の気配が、徐々に移動し……山道を移動している。
そして……、
『気配』の主たちが、その姿を現した。
(「……ちっ」)
シエルシーシャは、山道の近く、古い倒木の陰に隠れ、そいつらを近くで見る。
(「……【光学迷彩】に、【平穏結界】で、隠れられたのはいいけど……」)
正直、この作戦は上手く行くか……という確信が揺らいでいた。それだけ、そいつらの姿が、気配が、衝撃的だったのだ。
遠目であっても、改めて見た『禍ツ災禍ノ眷族『未怨龍』』は、『出して』いた。
……ただそこに存在するだけで、周囲を蝕むような『怨み』の気配。それを強く、濃く、『出して』いたのだ。
その姿、翼を無くした西洋のドラゴンが直立したかのようだが、その大きさは先刻に戦った闇尾咬に比べれば、はるかに小柄だった。
しかし小柄とはいえ、その身長は3mほどだろうか。頭部からは、前向きに生えた、ドリルのようならせん状の直角が数本。全身を覆う鱗は頑強そうで、背中からは背びれのように炎が燃え上がっていた。
そんな怪物が、一体だけでなく、十数体……いや、数十体が行列を作り、歩いている。
正直、闇尾咬の群れと比べ、戦いやすくなった……などとは到底思えない。むしろ……かえって不利になったんじゃないかとも思ってしまう。
(「……確かに、西洋竜のイメージだ。体格差が縮まったのはいいが……改めて、恨みの強さが……厄介だな」)
と、シエルシーシャとともに隠れる雪人は想う。
彼の近くには、主人を勇気づけんとしているかのように、クダ吉が控えている。
そして、雪人とともに、長巻も、
(「……先刻の、シエルシーシャと一緒に決めた『作戦』……今更だが、うまく行くか不安になって来たぜ」)
などと、考えてしまっていた。いたが……、
(「……だが、そんな事を考えるより……まずは、目前の戦いだ。いずれにしても……この先へ……人々の元へは行かせない!」)。
不安を抑え込み、彼は……動き出すその時を待ち続けた。
そして、
(「……さて、【トラップ生成】の罠、効くかな?」)
その姿を隠したまま、シエルシーシャが向けている視線の先に、
未怨龍たちの、最初の一体が、『その地点』に、
足を踏み込んだ。
次の瞬間。
『!?』
未怨龍は『声』を聴くとともに、『煙幕』が発生し、そして……、
その煙幕の中に、『人影』が動くのを見た。
『なんだっ!? 敵か!』
『敵だ! 応戦しろ!』
未怨龍たちは、ある方向へと……ディアボロスたちが居る場所……
とは異なる方向の場所へと、向かっていく。
『この煙の中に! 何かが見えた! 追え!』
『ディアボロスの罠か! 奴らを逃がすな!』
走り出す未怨龍たち、そのすぐ脇で、
(「……いいぞ、うまく行った!」)
シエルシーシャと雪人、長巻、そしてディアボロスたちは、見つかることなく、
未怨龍たちが、狙っていた方向へと向かうのを、【完全視界】で見届けていた。
そこは、山間部の丘陵地。緩やかな谷型になった地形の空き地で、
そちらにも、雪人たちはトラップを仕掛けていた。煙幕が晴れかけたところで、また新たな煙幕が爆発音とともに発生し、周囲を煙で包み込む。
『作戦」それは、
『煙幕を張り、煙幕の中にダミーの人影を放つ』。
そして『煙幕で視界を阻み、戦いやすい場所へと誘い込む』。
『誘い込んだ後、【完全視界】で視覚を確保しつつ、各自で攻撃」。
……というもの。
今のところ、うまくいっている。このままうまく行けばいいがと、雪人は心の中で祈っていた。
『おのれ! 敵はどこだ!』
『ディアボロス共! どこに隠れている!』
『我らの、恨みの爪と牙が、お前達を引き裂いてくれよう!』
それが罠と気付かぬまま、未怨龍たちは向かっていく。
そして、
『な、何者だ!』
『また新たな爆発と煙だ! 人影も見えたぞ!』
『敵だ! くそっ、やはり罠か!』
新たな爆発と煙幕、煙の中に動く人影……ダミー人形の罠を目の当たりにして、
未怨龍たちの間に、同様と混乱が生じていた。
●災禍の龍へ、強襲
(「……まだか?」)
(「……まだだ……!」)
アイザックと真哉は、それぞれ煙幕の中。攻撃をしかけんと、木々の陰に隠れ、待ち伏せていた。
(「……敵も、焦っているな……」)
(「……今、下手に動いたら、こっちが危ない……!」)
リンと運命も、煙幕の中で息をひそめている。彼等自身は【完全視界】で、敵の動きがはっきりと見えているが……、
それ故に、敵たちが、いかに動いているのかが見えるため、こちらも焦ってしまう。
(「……あーっ、でも……アセるぜーっ!」)
(「……堪えぬか! ここで焦ってヘマをしたら、全て台無しじゃぞ!?」)
虎児を抑えるソルだが、彼女も……己の中の焦燥を禁じ得ない。
短く、同時に長い時間が過ぎ、
(「……3」)
ディアボロスたちは、いつしか、
(「……2」)
カウントダウンして、そして……、
(「……1」)
刹那、
「……ゼロ! いけーっ!」
攻撃を開始した。
『! こっちか!』
声が聞こえた方向へ、未怨龍の数体が向かい、攻撃を仕掛ける。声のあった方へと、その剛腕と鉤爪とを振るうが……煙を掻くのみで、空振り。
それも然り。シエルシーシャの【トラップ生成】の中には、『大声を出し、敵を見当違いの方向に向かわせる』罠も含まれていた。
そちらに注意を引かれ、向かっていった未怨龍たちに対し、
「……『ツールインパクト』! 足元にご注意、ってな!」
自身の武器……雷雨を地面にたたきつけた。
途端に、地面がぬかるむ。戦場の地面を、時間稼ぎに適したそれに変化させるパラドクスは、【泥濘の地】の効果を発動させ、
未怨龍たちは、足元がおぼつかなくなったことに気付かされた。
『!? な、なんだこれは! 地面が!』
『敵の手妻だな! くそっ! どこに居る!』
『臆して逃げたか!? おのれ!』
「……なわけねーだろ! タコどもが!」
と、その数体の真後ろから、
「……ぶちのめすッ!」
『竜狩りの大鉈』を振りかぶった、アイザックが煙の中から現れ、その刃を振り下ろした。
『現れたか! 敵だ!』
『殺せ! 我が怨みを……』
しかし、チビ助が周囲を飛び回り翻弄し、
「がたがたうるせえ、黙って殺されろ!」
今度は横薙ぎに一閃、そして再び殴りつけ、刃を叩きつけ、容赦無き一撃を与えていく。
これぞ、パラドクス『竜骨砕き』。グレイ家に伝わる対竜戦法であり、斬撃ではなく打撃によって敵を骨の髄まで砕き潰す、『剛』の剣技。
だが、後方から襲い掛かる未怨龍までは、対処できなかった。
「……ちっ、不覚をとったぜ!」
しかし、彼は焦っていなかった。
そいつに対し、背中を預けた仲間が……真哉が妖刀を用い、迎撃し、斬撃を食らわせたのだ。
『がっ! ……こ、この刃は……っ!』
「……『神蝕呪刃』。俺の武器に宿るこの呪いを解放し……斬撃とともに侵食するパラドクスだ!」
まさに然り、真哉の妖刀からの呪いが、切り付けた未怨龍の身体を侵していき、そして、
その歪んだ命をも、断っていた。
「やるな、流石だぜ」
「そちらも、見事です」
互いに背中合わせになりつつ、二人はまだ煙幕内に蠢く未怨龍たちへと、互いの得物を向ける。
それらの刃が振るわれるとともに、呪いの竜人たちは次々に倒され、果てていった。
『!? 敵だ! 警戒しろ!』
と、別の場所に居た未怨龍たちが、襲撃に気付き周囲を警戒する。
だが……、
「…………」
煙幕の中、白銀の刃『雪月花』を構えた雪人を見ると、
『そこか! 我らの光線、受けるがいい!』
数体の未怨龍は、頭部の角を高速回転で『共振』させ、高熱を発生させた。
『受けてみろ!『超高出力共振砲』!』
そのままその高熱を、高出力レーザーとして発射する!
「! ……さすがに、受けるとまずいな……」
クダ吉の警告を受け、紙一重でそれをかわした雪人は、
直撃せずとも、その威力を『肌』で感じていた。
だが彼は、それに臆することなく、
「……こちらの攻撃も受けてみるがいい! はーっ!」
踏み込み、駆け出し、その視線を敵へ、未怨龍たちへと切り込む雪人。
だが、
『莫迦め、隙ありだ!』
『もらった! お前の命、もらい受ける!』
『このまま三方向に引き裂いてやる! 死ね!』
前方と真横の三方向から、三体の未怨龍が襲い掛かる! 六本の腕の爪が、雪人へと食い込まんとするが……、
「……『もらった』? 悪いが、『もらわれる』わけには……いかないな!」
最初から、そのような攻撃が放たれる事など承知とばかりに、
雪人はそれらの攻撃を、まるで微風や涼風が流れるがごとく、軽やかに躱し……、
「……はーっ!」
そして、疾風の如く、雪月花の刃で薙ぎ払う!
「……『無明轟刃』。既にその動き、把握している」
今の彼は、雑念を払い……その目に映る、全ての敵の動きを『把握』し、どのように動くかは……見切っていた。
たちまちのうちに、三体の未怨龍は首を飛ばされ、引導を渡されていた。
「さて……次にこうなりたいのは、誰だ?」
不敵に言い放ち、雪人は雪月花を構え直した。
だが、それとともに、
その場を覆っていた煙幕が、徐々に晴れてきたのを、クダ吉は知った。
「……ちっ、どうやらトラップの煙幕が……」
「……そろそろ消えてきたか。思ったより、晴れるのが早い」
長巻とシエルシーシャが、焦るように呟いた。
【光学迷彩】も、煙幕で見えないだろうとすでに解けている。だが、その煙幕が消えかかっている。
このまま攻撃を続行するか? それとも、一旦引いて攻撃し直すか?
その一瞬の逡巡は、
「……さあ、俺はこっちだぜ! 鬼さんこちら!」
百鬼・運命が駆け出し、未怨龍たちを翻弄する様子を見る事で途切れた。
『逃がすか! 恨みの炎に焼かれて! 死ね!』
と、未怨龍の数体が、
全身に発火させた、火炎をその身に纏った。そのまま高速で飛び出し……
運命へと一気に接近した。
「……おおっと、かなり素早いな! それに……熱っ!」
『その肉、喰らわせろ! 生者の肉さえ喰らえれば、我らは救われる!』
爪のある手が掴みかかり、ドラゴンを思わせる顎が噛みつかんとする。
運命の目前で顎が閉まり、恨みの悪臭が突き刺さるように散布される。
『……『丑三ツノ命狩リ』! 咬ませろ! 焼かせろ! 喰らわせろ! 我らを救うために!』
更なる数体が、運命の周囲に回り込み、その顎を開いた。その身体は既に火炎が包み込み、まるで炎が直立しているかのよう。
火炎の怪物たちに囲まれるも、運命は焦ることなく、
「……あいにくだが、君らを救うつもりはないんでね。だが、『助ける事』は、してもいいかな」
『助ける? 戯言を……ひっ!』
「……『無明轟刃』。おう、助けてやるとも。妾たちで地獄に落とす手助け、やってやろうぞ!」
囲んだ未怨龍の何体かは、ソルが後方から放った攻撃……煌陽杖ソルヴァテインを用いた攻撃で薙ぎ払われ、倒されていた。
後方からの攻撃で、足並みが崩れたその隙に、
「……喰らいたいっていうんなら、まずはこれを食らうといい……!」
運命は自分の周囲に、無数の『黒き羽』を生じさせ、具現化させた。
「行け! 『黒翼の嵐』!」
そのまま、羽根を発射する! 無数の『黒き羽』は、まるで弾丸の如く放たれ、周囲に居る未怨龍へ、恨み骨髄な燃える怪物たちへと放たれ、突き刺さり、その歪んだ生命を奪っていった。
まるで針刺しにでもなったかのように、次々に倒れていく未怨龍。しかし、
『……舐めるなあっ!』
倒れた者たちの後ろから、新たな未怨龍が現れた。そいつらは、身体をそのままドリルのごとく、凄まじく回転させ……、
『我らで逆に、貴様らを地獄に落としてくれよう! 『定メヲ決メル羅針盤』ッ!』
そのまま、突撃し、突進し、突貫する!
「! なっ……!」
まさに、ミサイルがそのまま回転し、巨大なドリルと化して発射されたかのよう。その回転の前には、『黒き羽』は弾かれ……、
「ぐっ……あああああっ!」
接触した運命の身体をもえぐり、弾き飛ばす!
「!? ……運命!」
なんとかソルが、彼の身体を受け止める。
「お主、大事ないか!」
「……くっ、大丈夫。なんとか身をよじって躱せたけど……」
傷自体は、掠っただけでそう深くはない。しかし……、
「……あれを二度三度と放たれたら、ちょっときついかも」
「……そうじゃな」
敵の恐ろしさを、今更ながら……運命とソルは実感させられていた。
そして、他の皆も、
「! ちっ! 痛えっ!」
「……ぐっ……だめだ、近づけない!」
アイザックと真哉は、接近しようとしても下がられ、距離を取られた状態で『超高出力共振砲』を放たれていた。
回避はできるが、こちらの攻撃を当てさせてくれない。
「あの野郎ども……俺たちをあの角ビームで狙い撃ち、近づけさせねえ。このまま躱させ続けて疲れさせ、ドリルでとどめさすつもりだ」
アイザックの予測通り、前から後ろから、共振砲が放たれ、それをかわすだけで精いっぱい。
「……少しばかり、骨が折れるな」
真哉は、苦り切った口調でそう呟いた。
「運命、ソル、大丈夫か?」
と、二人の元に、雪人が駆けつける。
こちらも、共振砲と羅針盤……ドリル攻撃で、負傷と疲労が激しかった。
「問題ない……と言えば嘘になるけど、今のところ……大丈夫」
「妾もじゃ。しかし……そろそろ、限界かもしれん」
二人の言葉が、弱音に聞こえる。
「……なら、そろそろ作戦・フェーズ2と行こうか……シエルシーシャ! 長巻! それに虎児とリン!」
雪人の言葉が響くとともに、
「了解したよ、雪人」
「ああ、任せろ」
シエルシーシャと長巻から、パラドクス通信で返答が。そして、
「うっひょーっ! 待ちに待ってた、出番が来たぜ!」
「ここは一発、逆転ホームランって感じだねっ!」
虎児とリンの声が、戦場に響いた。
●災禍の龍、猛攻
煙幕は、既に晴れていた。
そして、ディアボロスたちの姿も露わに。
『煙が晴れたか! ふん、それっぽっちの手数で我らに対抗しようとはな!』
『だが、この目くらましも晴れた! このままお前達を見逃す事無く、襲い掛かり食らってやる!』
猛る未怨龍たちに対し、
「……のんびりしすぎじゃない? ペットの蛇たちは、もう片づけちゃったよ」
冷静に、姿を現したシエルシーシャは言い放つ。
『蛇? 闇尾咬どもの事か?』
『まさか! あやつらを殺すなど、出来るわけが……』
嘲りかけた彼らに、
「出来るし、出来たんだよね。あー、もしかして私たちよりあいつらの方が嫌いだったとか? だから、殺されたって言ったところで信じないとか?」
逆にこちらからも、嘲ってやる。
『戯言を! 貴様如きが、我らを見下すか!』
『この手で、直接喰らってやる!』
未怨龍たちが、ディアボロスたちへと突進する。『羅針盤』も使わず、『共振砲』で撃つ事もしない。
『丑三ツノ命狩リ』、全身に火炎を纏い、そのまま八つ裂きにせんと高速で接近したのだ。
「……圧倒的にこちらが有利。だからそのまま突っ込んで攻撃……そう判断したんだろうが、それは『命取り』だ」
シエルシーシャは、突進してくる未怨龍へと静かに言い放つと、
「……思いっきり……」
彼女は、自身の左肩の結晶に手を伸ばし、『パキリ』という音とともに、折り取り、そして……。
「……いくよ」
その結晶を、投げつけた。
少女の細腕……でなく、鬼人の、それも赤い水晶の両腕で、剛力を以て投げつける。
それは、接近していた未怨龍へと命中し、その肉体を抉り、貫きつつ、
『……!』
……そいつを吹き飛ばし、その命すらも穿っていた。
「『紅晶の飛礫(アカノツブテ)』。単純な、投擲の攻撃だけど……単純ゆえに強力。単純に『こちらの力の強さ』を、見せつけられる」
まさに、シエルシーシャの言う通り。あっさり倒された未怨龍を前に、仲間の未怨龍たちは、
言葉を失いながら立ち止まった。
『……こ、この小娘……いや、鬼か?』
『な、なんて奴だ! 我らの攻撃を、いともあっさりと……!』
攻めあぐねるように、彼女へと視線を、今度は警戒した視線を向ける。
「……オラっ! 立ち止まるなんざ、余裕だな!」
と、長巻が『雷雨』で別の方向から射撃。
『ちっ! 下がれ! 離れろ!』
そのまま、未怨龍共は後ろに下がっていく。
その様子を見て、
「へっ、やるじゃねえか。水晶投げただけで奴らをビビらせるとは、大したもんだ」
「ああ。俺たちも……ここでへたれている場合じゃないな」
アイザックと真哉は、闘志を新たにする。
雪人もまた、
「……二人とも、立てるか?」
生じたその隙に、運命とソルを助け出す。
「ああ、立てるぜ」
「妾もじゃ。だが……これからどうやって攻める?」
ソルが疑問を口にすると、
「俺がやるぜーっ! ソルねーちゃん、見ててくれ!」
と、空中から声が響いた。
「ようやく俺の出番だぜ! とあーっ!」
その背中に、悪魔の翼を広げて飛翔する虎児。
そして、飛翔しつつ、
「……カッコよく、俺が決めるぜ! 『双欲魔弾』!」
魔力の弾丸を、空中から放つ!
『ひっ! ぎゃああああっ!』
『お、おのれ! 空からの攻撃だと!』
空中からの攻撃に、きりきり舞いする未怨龍たち。さらには、空中からの魔力弾をかわした……と思っても、
『がはっ! な、なぜだ!』
弾丸はその軌道を空中で曲げ、目標たる未怨龍を追いかけ、目標にぶち当たる!
「なぜだって言ったか? 俺の『双翼魔弾』は、ホーミング機能が付いてんだよ! 敵を追いかけ続け、確実に当たるぜーっ!」
得意気に叫ぶ虎児。
『ならば! 撃ち落としてやる!』
と、数体の未怨龍が、『共振砲』を発射せんと身構えたが、
「その前に、まずは『味わって』ほしいな。その辺りにあるはずだから、さ」
余裕な態度で、リンが、
彼らの目前に姿を現した。
『まだ居たか! この『共振砲』で、お前も消し炭に……』
「だからさ。その辺に『ある』から、味わってよ。……『爆弾』の、爆発の威力を!」
『!?』
こいつ、乱心したか? 爆弾など、どこにも……、
そう思った未怨龍は、いきなり自分たちの至近距離で、
強烈な爆発が起こったのを知った。
「……言い忘れてたけど、その爆弾。不可視なんだよね。私のパラドクス、『大体全部機雷になる(ワールドイズマイン)』。中々のものだろう?」
リンの問いかけに、答えられる未怨龍は居なかった。
虎児の空中からの攻撃と、リンの不可視の爆弾。これらが、作戦のフェーズ2。
それらの攻撃は、この場に居る未怨龍の半数以上を減らし、戦局を完全に……ディアボロス側へと傾けていた。
『お、おのれおのれおのれおのれェェェっ! お前ら如きに、我らの恨みが! 呪いが! 消されてたまるかああああああっ!』
アイザックと真哉。二人を囲っていた未怨龍の中から、大柄な個体が進み出ると、
『まずはお前らから、抉り、貫き、吹き飛ばす! 『定メヲ決メル羅針盤』!』
ドリルと化し、突撃!
だが、
「……それはこっちの台詞だ。てめえら如きに、俺達が倒されて……たまるかってんだ!」
アイザックが『竜狩りの大鉈』を構え直す。
ドリルが、アイザックの命をえぐり取らんと迫りくる。
「ぶちのめす! はーっ!」
気合一閃、腰を入れた強力な大鉈の振り下ろしが、
未怨龍の『羅針盤』と、ドリル攻撃と、ぶつかり合った。
ドリルと大鉈、勝ったのは、
『ぐっ……がああああああっ!』
……『竜骨砕き』を放った、アイザック。
「……この技は、『己が得物を、魂の限りに叩き付ける』技だ。俺の魂の一撃が、てめえらの恨みに負けるか!」
バラバラになった未怨龍の身体を一瞥し、アイザックは言い放った。
アイザックに続き、
「はーっ!」
雪人の『無名轟刃』と、
「ふんっ!」
真哉の、『神蝕呪刃』が、未怨龍を切り裂き、
「さて、雑魚の大掃除だ!」
地上からは、運命の『黒翼の嵐』……具現化し解き放たれた『黒き羽』が撃ち込まれ、
「ほらほら! もう一発! うんっ、俺ってカッコいいぜ!」
空中からは、虎児の『双翼魔弾』の攻撃が容赦なく撃ち込まれる。
『く、くそっ! 一時撤退……』
しようとしても、足元は泥濘で動きづらく、
離れたところで、
「あーっと、逃げてもその先に……有ったかな?」
その先には、リンの『ワールドイズマイン』による、不可視の爆弾による爆発が。
更に時間が経過し、
「……どうやら、敵の殲滅に、成功したと見て良さそうじゃの」
ソルの言う通り、最後の未怨龍は崩れ落ち……その場には、ディアボロスだけが立っていた。
●災禍の龍、終焉
「……『禍ツ災禍ノ眷族『未怨龍』』、殲滅を確認。……ちょっと、疲れたね」
シエルシーシャは、疲労とともに溜息をつく。
「ああ、そうだな。あの巨大な蛇ども……闇尾咬たちも強敵だったが、こっちも負けず劣らずだった。倒せたのは、皆のおかげだ」
「だな。改めて礼を言うぜ」
雪人と長巻が、皆へと頭を下げる。
「まあな。楽勝……とは言えないが、なんとか奴らのケツを地獄に蹴り飛ばしてやれたぜ。な、チビ助」
アイザックは、チビ助を撫でつつ笑みを浮かべる。
「へっへっへー! 俺、カッコよかったろ? カーちゃんたちに褒めてもらえるっかなー?」
虎児は得意気に、鼻高々。
「けど、撃ち漏らし、撃ちこぼした生き残りが居るかもしれないからね。これから周囲を偵察してから、トレインに戻るよ」
「そうだな。ここでやっつけた奴ら以外にも、まだいるかもしれない。少し休んだら……調べるとしよう」
運命と真哉の言葉に、
「じゃな。いたとしても僅かじゃろうが、調べるに越したことはない」
「ええ。発見したら、確実に爆弾で吹っ飛ばしましょう」
ソルとリンも頷く。
彼らの言葉を聞いた後、雪人は、
「じゃあ、俺たちはさっきと同じく……今度は、アヴァタール級を討伐する準備と対策をするとしようぜ」
しかし、シエルシーシャと長巻は、
「ええ。でも……今度の相手はアヴァタール級。単体とはいえ、未怨龍以上の力を持つのは確実よね」
「だな。『神楽』と『琴』、それらを用いた呪術が得意なようだが……どう対策を立てるべきか、正直、思いつかん」
不安げに呟く。
が、
「……でも、だからと言ってくじけるつもりはないけどね。とっとと倒し……この侵攻を止めてみせる!」
「ああ、覚悟ならすでにできてるってもんだ!」
すぐに、その不安を吹き飛ばすように言い放った。
雪人はそれに、満足げに頷く。
この戦いも、後はアヴァタール級のみ。
『アメノカグユミ』、間違いなく強敵だろうが……必ず、倒してみせる。
絶望を越えた、魔性の煌めきが皆の瞳の中に灯る。
ディアボロスたちは、改めて、
戦いに対し、気を新たにするのだった。
善戦🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
効果1【平穏結界】LV1が発生!
【完全視界】LV2が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
【水中適応】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV4になった!
【命中アップ】がLV4になった!
【ダメージアップ】LV4が発生!
【ラストリベンジ】LV1が発生!
シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ・連携は歓迎だよ
ついに、こっちの部隊の指揮官のご登場かな。
アヴァタール級を甘く見るつもりはないよ。でも、無暗に、必要以上に恐れることもない。
闇尾咬や未怨龍にあった群れの怖さがないのも事実だからね。
さあ、あと少しだ。奈良の町を守るよ。
日本の舞はよく知らないけど、演奏や呼吸の間、踊るリズム。
ある程度型に嵌まってるなら当てるタイミングも読めなくはないはず。
まあ慣れるまでは翻弄されそうな気もするけど……
倒されるよりも先に、鬼神変の膂力で思いっきりの一撃をたたきつけて、相手のリズムを力づくで断ち切ろう。
精神攻撃はなかなか強力だけどね。私にはナックラヴィーの呪いの方が、よっぽど重く感じるかな。
今のところ判明してる早良親王の手勢はひとまずこれで全部潰したね。
次はどんな手を打ってくるかな。できれば先手先手で潰しておきたいけど。
紀伊と高野山が後ろで戦力蓄えてるのは厄介だし。制圧できないかなぁ。
鈍・長巻
※アドリブ連携歓迎
この部隊の親玉の登場か。
精神攻撃とは厄介さはこれまで以上だが、だからこそ通す訳にはいかない。
確実にここで打ち倒す!
俺は漂着前の記憶の多くが欠けている。
それでも俺が出会った最終人類史の人々は、俺を俺として受け入れてくれた。
そのためか、俺自身もまた彼の地を故郷のように感じている部分もあるのだろう。
今俺が戦場に立つのは、彼らを護りたいからだ。
勿論そんな事は恥ずかしさで口になんて出来やしないが、その思いを行動へ、力へと変えていく。
いつしか背中の翼が消えてネメシス形態に。
『竜殺しの栄光』のパラドクスを使用。
竜の親玉相手には丁度いいだろう?
腰に携えた妖刀を抜き放ち、敵の首を断ち切らんと迫りつつ、
意表を突く形で地面を打ち砕いて【命中アップ】、敵の舞いの続行を盛大に邪魔してやろう。
【ダメージアップ】など重ねられた残留効果も山盛り乗せて、血色の吹雪と氷の礫を放つ。
精神攻撃も【反撃アップ】で兆候を見破り、
【グロリアス】と折れぬ意志で耐え抜いて、
仲間と共に此方のリズムで攻勢へと転じていこう。
文月・雪人
※アドリブ連携歓迎
いよいよ戦いも大詰めだね。
元より退けぬ戦いだ、気を引き締めて挑むとしよう。
アメノカグユミ、奴が大蛇達の親玉であるならば、
此方もまた、古の大蛇退治の神楽歌でも披露させて貰おうか。
『居待月』の名を持つ古びた琵琶を手に、『レジェンダリースマイト』のパラドクスを使用する。
【反撃アップ】で舞い踊る敵の動きの先を読み、
【命中アップ】で絶妙なタイミングを見出して、
琴の音色を打ち消す様に琵琶の音を響かせて、敵の神楽舞を妨害する。
呪術による精神攻撃を【ガードアップ】【グロリアス】で凌ぎつつ、歌に込めるは【勝利の凱歌】。
人々の命を、紡ぐ未来を守りたい。
自身や仲間それぞれの、心の奥にある思いを揺さぶって、その胸に勇気と希望の光を灯す。
琵琶の音と歌声に宿した【ダメージアップ】な破魔のパラドクスの力で敵を縛り上げ、
仲間と連携協力して、悪しき妖を退治しよう。
そうさ俺達は一人じゃない。
例え一人では抗う事の難しい相手でも、仲間と支え合う事で折れる事なく戦える。
古より歌い継がれてきた数多の英雄達の様に。
●魔の神楽、伏鉦の拍子で始まり
「……!?」
ディアボロスたちは、『聞いた』。
否、ただ聴覚を感じ取ったわけではなく、音の響きを、琴の音色を、その耳に、神経に、精神そのものに……『聞かされた』。
美しい琴の調べが、今まで戦場だった場所に響き渡る。それはあまりにも似つかわしくなく、そして同時に不吉さをも生じ、
「……どうやら、お出ましのようだね」
シエルシーシャ・クリスタ(水妖の巫・g01847)は、悟った。
『アヴァタール級が、近づいてきた』事を。
彼女とともに、
「ああ、そのようだ。この部隊の……親玉の登場か!」
鈍・長巻(ある雨の日の復讐者・g03749)も、それに感づく。
「……流石は、アヴァタール級。この、禍々しい空気の濃さは……闇尾咬や未怨龍とは、比べ物にならないな」
文月・雪人(着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850)は、接近してくるその気配に当てられ、戦慄を覚えていた。その足元でも、クダギツネのクダ吉が警戒するように一点を睨み付ける。
やがて、
未怨龍たちがやって来た方向から、彼女が、
『アヴァタール級』の彼女が、
『アメノカグユミ』が、静かに歩み寄って来た。
その姿は、妙齢の女性……20代くらいの、巫女のような衣服を着た美しい女性。
怨念を有したトループス級……未怨龍に闇尾咬といった、妖怪たちを率いた者とは一見したら思えない。
それほどその外見は、穏やかで、奥ゆかしく、たおやか。
携えたその琴が、『宙に浮いている』事で、僅かに彼女を、魔性の者、クロノヴェーダである事を示している。
彼女……アメノカグユミは。瞳を閉じたままで、宙に浮く琴を演奏しつつ……歩いていた。
歩き方もまた、地面を滑るかのような、優雅なそれ。静かに、ディアボロスたちの方へと進んでいくと、
『……そなたらが、我らの『敵』か?』
距離を置いて立ち止まり、演奏も一旦止めて……問いかけた。
その声も、涼やか。これから戦う相手……その事実を、シエルシーシャから一瞬忘れさせてしまうほどに、澄んだ声だった。
「……いかにも」
『ならば……死合おうぞ』
そう言って、彼女は再び琴を演奏し始める。
憎しみどころか、感情すら感じさせないその口調。いや、それすらも美しく、人を超越した『何か』、神々しい大自然の様な『何か』を連想させた。
だが、それは同時に、ディアボロスたちに『恐ろしい』と感じさせていた。
感情が読めず、敵の心理も読めない。戦い方を誤れば……それは、敗北につながる。
そして、それとともに、
「……美しい、調べ……」
シエルシーシャの、最初の感想。それは、『美しい』だった。
琴の旋律は、ひたすらに美しかった。それは、例えるならば『宝石』。
まるで『輝く宝石が、音と化した』よう。そんな事を確信させるほど、アメノカグユミの琴の音色は……素晴らしいものだった。
……もっと、聞いていたいな。心が癒され、落ち着く。いや……もっと聞くべきだ。そもそも、自分たちはこんなあくなき戦いに参加しているのだから、醜い光景を見るだけでなく、汚らしい音ばかりを聞かされてきた。
せめてこれくらいは、この演奏位は聴いても……ああ、舞い始めた。
なんという、美しい舞だろう。人体があんな風に舞うだなんて、一種の芸術……いや、芸術そのものだ。もっと見ていたい。もっと……この美しい幻想に、この身を……、
「おい、シエルシーシャ!」
「……え?」
「気を付けろ! あの音色は危険だ! 気をしっかり保て!」
と、長巻に一喝され、彼女は我に返った。彼の隣では、雪人が琵琶をかき鳴らし、音を相殺しようと試みている。
「そ、そうだった! 恩に着る!」
くっ、まさかここまであっさりひっかかるとは……考えている以上に、この『アメノカグユミ』……強敵!
この精神攻撃、確かに強力。ナックラヴィーの呪いの方が重く、恐ろしさを感じさせるが……、
こちらは……実に『心地良かった』。
傷を負っても、痛みの代わりに快感が生じるようなもの。それだけでなく、闘志自体も萎えてしまい、戦意も喪失させていく。つまりそれは、致命的なダメージを負ったところで、気にならず、むしろ『もっと受けてしまいたくなる』。それと同様。
ナックラヴィーの呪いとは、別方向に『恐ろしい』。その事を、理屈ではなく感覚で理解『させられた』。
シエルシーシャは、それを改めて実感し、戦慄し、
改めて、闘志を燃やした。
その様子を見た、敵……アメノカグユミは、
『……ふむ。『太々神楽舞』で、その心手折れないとはな。少しは、手ごわい相手のようだ』
静かに呟き、再び琴を奏で始める。
『ならば、これはどうか』
今度の旋律は、より強く、より鋭い音が重なり合う。
「……こいつ。演奏が……まったくぶれない。それに……」
音で妨害しようとしても、思った以上にうまく行かない。雪人は焦りを感じざるを得ず……クダ吉の心配そうな視線を感じてしまう。
そして、
「……来るぞ!」
長巻が叫び、シエルシーシャも身構えた。
「くっ……日本の『舞』も、『琴』も、良く知らないけど……!」
知らないそれらを見極めないと、この戦い『負ける』。それを、本能的に思い知る。『理解』させられている。
(「ならば、先手必勝で、こちらから攻撃する?」)
そう思って、『鬼神変』にて、その腕を変形させたシエルシーシャは、
踏み出そうとするも……本能的に、危険を感じていた。
何か、『来る』!今ここで、踏み出して攻撃を仕掛けるのは……『危険』!
立ち止まった彼女に、
『……参る。『神代御弓舞』』
アメノカグユミは、舞いつつ、攻撃を放っていた。
途端に風が吹き……、
「! 真空の『刃』!」
それは、シエルシーシャへと襲い掛かっていた。
●戦い、大太鼓の響きが如く
その『真空の刃』。
まるで、熟練の忍者が放つ手裏剣の乱れ撃ちがごとく。
見えない風の刃が、真空の刃が、シエルシーシャを中心に、ディアボロスたちへと容赦なく襲い掛かる!
「!……ぐっ……ああっ!」
頬が切られ、手に、腕に切り傷を負い、足に切り込まれる。
(「……もしも、『鬼神変』を用いていなかったら……腕が切断されていた……!」)
だが、その異形の鬼の巨腕もまた、深い切り傷がいくつも刻み込まれている。そして今も、切り傷は止まらず、撃ち込まれている!
「させるか! 雪人!」
「おう!」
彼女の前に長巻と雪人が立ちはだかり、真空の刃を、実体の刃を用い、受け止め弾き飛ばした。
長巻の妖刀と、雪人の雪月花は、御弓舞の直撃を辛くも弾いたが……
「……畜生……」
「くっ……やはり、無傷とはいかなかったか……」
……刃が止んだ後。ディアボロスたちが負った傷は、決して浅くもなく、少なくもなかった。
『……『神代御弓舞』で、作り出した刃。よくぞ躱せたな』
と、アメノカグユミは、
涼し気に言い放つ。
『ならば……これはどうだ。刃を受けて躱せても、音色とまじないは……躱せまい』
そして、再び新たなる舞いを。今度のそれは……ふわり、ふわりと宙を舞う、特徴的なそれ。
「……まるで、『蝶』のように舞うけど……これ以上はさせない!」
と、これ以上攻撃を受けるかとばかりに、シエルシーシャは駆け出し、突進した。
「……待て! そっちには、何もない! 敵はこっちだ!」
長巻は、まるで見当違いの方向に向かうシエルシーシャに叫ぶ。
(「……こっち? 二人とも、向かっているその方向には……『何もない』ぞ!」)
雪人は叫ばず、琵琶の音を、『居待月』の音をかき鳴らした。
間違いない、今度は……肉体ではなく精神に攻撃を仕掛けている。
見当違いの方へと二人を向かわせ、惑わせている。
自分はどうやら、なんとか術中にかからずに済んだようだが……このままでは時間の問題!
だが! 楽器には楽器! 音色には音色だ!
『居待月』を、その琵琶の弦をバチで弾き、音をかき鳴らし、
雪人は、対抗とばかりに演奏した。
『……『胡蝶神楽舞』。神羅万象、夢、幻の如く。それすなわち、胡蝶の夢……』
甘き幻想の舞いと唄とが、アメノカグユミから放たれると、
「……復讐の悪魔と人の言う、弔いの鐘の音が似合う者たち。その戦いは如何なる者のため? 愛のため、戦い忘れた人々の、戦う牙持たぬ者たちのため!」
雪人もまた、楽曲と、歌とを奏で、歌い始める。
それを聞き、二人の動きが止まった。
「……渡れ! 血の大河を涙とともに! 走れ! 死の荒野を明日の希望とともに! 鬨の鐘、闇を追い払い、明日の夜明けを告げよ! ……其は何者ぞ? 其は戦士、其は勇者、其は英雄、其は……あらゆる時と場所から集まりし、勇士たち!」
歌われるは『伝承詩(サーガ)』。その一幕を再現するかのように、
クダ吉とともに駆け出した雪人は、
荒野を走る死の戦士が如く、アメノカグユミへと切り付ける。
その攻撃をかわした彼女だが、時間さで飛び掛かったクダ吉により……
舞いは乱れ、琴の演奏も中断させられた。それとともに……、
「……え?」
「……俺は? 一体……?」
立ち尽くしていたシエルシーシャと長巻は、正気に戻った。
「……『レジェンダリースマイト』。二人とも、大丈夫か?」
親指を立て、返答とする二人。
『……なるほど。そちらも我と同じく、唄と舞を用いるか。我が『胡蝶神楽舞』を破るとは』
アメノカグユミは、相変わらず口調は変えない。が、
その言葉の節々に、どこか……『警戒心』が含まれると、雪人は感じていた。
『……ならば、そなたを先に倒す』
と、再び琴を奏でるアメノカグユミ。その途端、
「させるかよ! 何度も……同じ手を喰らうか!」
妖刀を手にした長巻が、構え、駆け出していた。
(「……俺は、『欠けている』」)
戦場を駆けつつ、長巻は考える。
……俺は、漂着前の記憶が、それも多くの記憶が、『欠けている』。
記憶が欠けて、失われているって事は、単に『過去は覚えてない。そんな昔の事なんざ忘れたぜ』程度で済ませられる、軽い事じゃあない。
記憶を失うとは、『自分とは何者か』。その思いが失われた事と同意。
自分がどんな奴か、どんな体験や経験を経て自分になったのか、それらのデータが全て失われた事と同じ。
そして、良くも悪くも、有ったかもしれない『思い出』を、思い出せなくなる。
『思い出』があるからこそ、人はそこから学び、勇気が生じ、他者を大事に出来、心を成長させる『何か』が得られる。たとえそれが、思い出したくもない悪い思い出、嫌な思い出、つらい思い出であってもだ。生きる事とは、『思い出を作っていく事』だからな。
俺は、記憶が欠けている事から、それらも無くしちまったんじゃあないかと思っていた。
……だが、俺が漂着し、俺が出会った『最終人類史の人々』は、そんな俺を迎え入れてくれた。そこから、俺は……彼の地を、故郷のように感じている。
最終人類史の人々が、新たなる『思い出』を、新たな『記憶』を、俺に与えてくれた。死にかけていた俺の精神は、皆のおかげで……『新たな記憶』を皆からもらった事で、新たに蘇った。新しい『俺』、新型の『俺』だ!
そうとも。だからこそ、俺は今ここに、戦場に立てるし、立っていられる。立ち続けていられる。
……彼らを、護りたいから。死にゆくだけだった俺を生き返らせてくれた彼らを、護りたいから。
ったく、こんなの俺のキャラクターじゃあないぜ。口にしたら、それこそ恥ずかしくて死んじまう。
だから……これは心の中で、とどめておく。
俺の『思い出』として、欠けた記憶を埋める『新たな記憶』として、心の中に仕舞っておく。
そしてこの思いを! 今ここで、『行動』へ、『力』へと変化させる!
俺の、新たな故郷を、新たな『思い出』をくれた人々を護るために!
「……いっくぜぇ!」
背中の翼がいつしか消え、『ネメシス形態』へと変化した長巻は、
妖刀を手に、駆け出し、アメノカグユミに切りかかった。
●猛攻、篠笛が旋律とともに
『……ふっ』
意気込みは認めよう。だが、そんな勢い任せの雑な攻撃で、我を倒すなど……、
そう考えていたアメノカグユミは、
「……この程度でお前を倒せるなどとは思ってねーよ! これは……囮だ!」
『!?』
アメノカグユミが気を取られたその時、死角から、
「まさにその通り! 胡蝶とか言ってたけど……蝶になる前に! 芋虫の内に叩き潰す!」
いつの間にか接近していたシエルシーシャの、鬼と化した巨腕がカグユミに猛襲する!
『!』
ガッ……と、打撃音とともに、アメノカグユミへに一撃!
「……今まで、ただ翻弄されてるだけ、精神攻撃を受けてるだけと思ったら大間違いだよ! その『舞』、見切った!」
『演奏』、『呼吸の間』、『踊るリズム』、『型』。
シエルシーシャは、それらを観察し、攻撃するタイミングを読み、
長巻とともに、攻撃を仕掛けたのだ。
「お前の舞と唄も、俺の『レジェンダリースマイト』で抑える!」
「ああ……覚悟してもらうぜ」
長巻と雪人もまた、互いに身構える。
『……ふむ』
その表情を、僅かに曇らせ、同時に、僅かに『感心した』とばかりに、目を細めたアメノカグユミは、
『よかろう。ならば、全力でかかってくるがいい。私はそなたらのような、力ある者、強き者に、敬意を表する。たとえそれが、ディアボロスであろうとな』
そう言い放つと、新たな『舞』を舞い、新たな『唄』を唄い、新たな『旋律』を奏で始めた。
「……ちっ! リズムや足運び、変更しやがったな!」
妖刀とともに、再び長巻が切りかかる。
(「……今度の唄と琴の調べ! 『レジェンダリースマイト』でも……邪魔しきれない!」)
雪人は感じ、聞き取った。
自身が奏でる琵琶、『居待月』の調べが、敵の琴の調べに、『弾かれている』事を。
「! くっ! このっ! またリズムと、タイミングが……っ!」
『どうした。先刻の意気込みはもう終わりか?』
体術めいた舞の動きで、ひらり、ひらりと、蝶のように舞い踊ったアメノカグユミは、
シエルシーシャを翻弄し、長巻をやり過ごし、
『……そなたらを……切り刻む!』
先刻と異なる舞で、先刻と同じ、そして先刻以上の『真空の刃』を放たんと、『神代御弓舞』を舞い始めた!
「させるか!」
その首元へ、断ち切らんと長巻が切りかかったが、
『……遅い』
やはり、ひらりとかわされた。しかし、
「……『回避できた』。そう思っているだろうが……違うな!」
刹那、長巻は不敵ににやりと笑みを見せつける。
「……リズムや舞を変えられたが……対処できない……ほどじゃあない! はーっ!」」
そして、更に見せつけた。妖刀で『地面を打ち砕く』ところを。
(『……外したな。『対処できない』は、ただのハッタリか』
そう思っていたアメノカグユミだったが、
次の瞬間。『困惑』し、『驚愕』した。
打ち砕かれた地面から、血の色の『吹雪』と、『氷の礫』とが放たれるのを見たのだ。
『予想外』。まさしく予想などできなかったその攻撃は、
アメノカグユミへと直撃した。
『! これ……は!?』
「『竜殺しの栄光』! 闇尾咬に未怨龍といった連中を手下に従えていた、竜の親玉たるお前相手には丁度いいだろう?」
まさに然り。長巻はこのパラドクスを最初から狙っていた。
赤き血潮の『吹雪』の冷気が、アメノカグユミを凍えさせ、凍らせ、その動きを鈍らせる。
そして氷の礫が、アメノカグユミの身体に弾丸のように撃ち込まれ、貫き、破壊していく。
それでも、なんとか距離を取り、
『……新たな、舞で攻撃を……』
仕掛けんとしたが、出来なかった。
「いいや、やらせない! 言ったはずだ、お前の舞と唄も、俺の『レジェンダリースマイト』で抑えると!」
琵琶『居待月』の音が更に響き、舞とその旋律を消すように響く。
そして、
「……もう一度、喰らいなさい!」
再び、『鬼神変』で両腕を異形巨大化させたシエルシーシャが、
その腕を振るう!
斧の如く、右腕の肘を叩きつけ、
鉄槌のように、左腕も続き叩き付ける!
ダブルラリアットが、アメノカグユミの整った顔に直撃し、彼女の顔を歪ませた。
それに巻き込まれ、琴も破壊。吹き飛ばされ……、
アメノカグユミは、強烈に地面に叩き付けられ、転がり、土にまみれると、
『……ふっ、ふふふ……』
傷だらけになりながら、よろけつつ、
笑みを浮かべつつ、立ち上がった。
『……我が率いる、この妖怪どもの進撃を止めるとは……』
言い放つ彼女は、まだ戦うつもりなのか。よろめきながらディアボロスたちに歩み寄る。
「…………」
シエルシーシャは、追撃せんとしたが……それは必要ない事を悟った。
既にそいつは、満身創痍。
身体中が、シエルシーシャの打撃と、長巻の『竜殺しの栄光』の吹雪と礫とで、傷を負い……戦うどころか、立つだけで精いっぱいだったのだ。
回復の手段があるのかと、長巻と雪人も警戒したが、どうやらそれはない様子。
『お前達、三人ごとき。我の力で倒せると……そう思っていたが……見事だ……』
その口調も、苦し気なそれ。
「……そうさ。俺たちは一人じゃない」
雪人は、そいつに言葉を返した。
「お前は、確かに強力だった。だが……例え一人では抗う事の難しい相手でも、仲間と支え合う事で、折れる事なく戦える。そう……古より歌い継がれてきた、数多の英雄達の様に」
彼に続き、
「そうとも。お前に対し、俺らが一人だけで向かって行ったら……確実にやられていただろうよ」
長巻と、
「ええ。……私も、さっき翻弄されたからね」
シエルシーシャも、言葉を重ねていた。
彼らに対し、
『……そうか。仲間がいたから、そなたらは強くあり……勝つことが、出来たのだな』
穏やかな口調で、アメノカグユミは……呟いた。
●終焉、締太鼓の音色が紡ぐ
「…………」
シエルシーシャは、彼女に話しかけんとしたが……できなかった。
討つべき敵であり、勝負はついた。恨み節の一つでも口にしてもいいはずなのに……、アメノカグユミからは、何の恨みも、敵意も、漂ってこなかったのだ。
あるのはただ、穏やかな感情。背負わされ続けた重荷を、ようやく下ろせるとでも言いたげな、解放と安堵の感情だった。
『……我にも、過去の我にも、そなたらのような仲間がいたのなら……このような怨念の妖怪たちを、率いずに済んだのかも、しれぬな……』
長巻と雪人も、彼女に何か言葉をかけようとしたが……やはり二人も、できなかった。
目前のこいつはクロノヴェーダ。奈良県へと攻め込み、奈良の人々を虐殺する任を受けていた、恐るべき敵。倒したそいつに、なぜ言葉の一つもかけられない?
その理由も判らぬまま、沈黙が続き、そして、
『……この傷では、もう助からぬ。死にゆく我の願いを、ひとつだけ……聞いてはくれぬか』
懇願された。
「……願い? 言ってみて」
シエルシーシャの返答に、
『……そなたらの、名前を教えてくれ』
彼女は、死の間際の願いを、口にした。
「……私は、シエルシーシャ・クリスタ」
「俺は、鈍・長巻だ」
「文月・雪人。こちらは、クダ吉」
三人と一匹の名前を知り、
『……我は、アメノカグユミ。感謝するぞ、シエルシーシャ・クリスタ、鈍・長巻、文月・雪人よ……。これ、で……やっと……我、は……』
アメノカグユミは、そのまま倒れ……その動きを、止めた。
その顔は、静かなそれ。先刻まで、戦い合い、殺し合いをしていたとは思えない表情で……、
微笑みすら、浮かんでいた。
しばらくの間、死した彼女を見つめていたディアボロスたちだったが、
「…………アヴァタール級クロノヴェーダの討伐……完了。さあ、戻ろう」
動かない事を確認すると、敵だった者の骸に……背を向けた。
(「……今のところ、判明している早良親王の手勢。ひとまずは、これで全部潰せたけど……」)
シエルシーシャは、勝利した喜びを味わおうとしたが、できなかった。
なぜ喜べない? 同情している? 哀れんでいる? いや、違う。違うが……
いや、止めておこう。倒した敵へ想いを馳せるなど、そんな贅沢が許される状況ではない。まだ危急の敵はいくらでもいる。そいつらと戦い、勝たねばならない。あれこれ考えるのは、その後にすべきだ。
長巻と雪人も、考えている事は同じようだった。二人とも、神妙な面持ちで……トレインに向かっていく。
最後に一度だけ、シエルシーシャは振り向き、アメノカグユミへ視線を向けようとしたが……、
しなかった。そのまま前を向き、戦場を後にしていった。
それは、アメノカグユミに対する……シエルシーシャなりの弔意だった。
ディアボロスが去った後。
戦場だった場所に、静寂が戻って来た。
そして、アメノカグユミの亡骸へ。どこからか舞ってきた蝶が、静かに……、
その顔に止まり、羽根を休めていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】がLV2になった!
【寒冷適応】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV5になった!
【グロリアス】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!