【ラ・ピュセル奪還戦】⑰伏魔殿パンデモニウム

 このシナリオは【火刑戦旗ラ・ピュセル奪還戦】に関連する特別シナリオです。
 最終人類史の戦場は、奪還戦が開始するまで攻撃する事は出来ない為、火刑戦旗ラ・ピュセルのフランス全域に散らばるジェネラル級キマイラウィッチに対して、戦闘を仕掛けます。
 この戦闘によって、敵の戦力を削ることが出来ます。
 勝利したシナリオ数に応じて、対応する戦場の敵の数が減少し、戦いを有利に進めることが出来るようになります。
 また、火刑戦旗ラ・ピュセルの周囲は全て最終人類史の領域である為、今回の奪還戦では他ディヴィジョンからの横やりが入る事はありません。

 このシナリオの攻撃対象は【⑰伏魔殿パンデモニウム】の軍勢です。
 伏魔殿パンデモニウムは、超巨大なジェネラル級であり、キマイラウィッチの移動拠点としての役割を持っています。
 断片の王ジャンヌ・ダルクに勝利したとしても、パンデモニウムが健在の場合、キマイラウィッチ勢力が集結してディアボロスに対抗する可能性も高い為、可能な限り撃破するべきかもしれません。

「成功したシナリオ数×5%」だけ、「⑰伏魔殿パンデモニウム」の敵残存率を低下させます。

【ラ・ピュセル奪還戦】嗤う都市(作者 音切
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 石畳の街並みを、巨大な影が過ぎてゆく。

 鳥のように速く。
 しかし、それよりも大きく。
 五つもの翼を有する異形――トループス級クロノヴェーダ『フェザートルーパー』が、春の日差しを陰らせるがごとく。群れを成して飛ぶ。

「――、――」
 彼女達が交わし合う囁きは、人の耳には聞き取れず。
 鳥の声にも、耳障りな金属音にも似た奇怪な音にしかならないが。しかし。
 鳥の嘴のような仮面の向こうで、彼女らの赤い唇は弧を描く。

 それは恐らく、侮蔑と嘲笑。
 あるいは、余裕。
 ディアボロスが、此処まで来られる筈がないと。
 あるいはもし辿り着いたとしても、無事で済む筈がないと。
 そんな感情が込められた、紛れもない笑顔だった。
「―、―――!」
 不揃いな五つの翼が、ばさりと音を立て。
 美しい翡翠のドレスを翻し、フェザートルーパー達が高く舞い上がる。
 太陽を遮り。更に大きさを増した巨大な影が、石畳の街並みに落ちるけれど。
 悠然とそれを受け止める、この街は。この都市は――超巨大ジェネラル級『伏魔殿パンデモニウム』は。
 彼女達以上に、不気味な笑みを浮かべているのだった。


「『火刑戦旗ラ・ピュセル奪還戦』発生を示す断層碑文が出現したよ」
 集うディアボロス達を見回して、綴・稀夜(妖狐の魔導忍者・g08573)は説明を始める。
「いつもなら、こっちが奪還しに向かって。横槍を入れてくる勢力にも対処して、って感じだけど……」
 今回は少し勝手が違うのだと、稀夜は言う。
「断片の王ジャンヌ・ダルクが、復讐祭の卵を使用した大儀式で最終人類史に攻めてくるんだよ」
 つまり、奪還戦と同時に最終人類史の防衛も行わなければならない状況なのだ。

「幸い……と言っていいのか分からないけど、火刑戦旗ラ・ピュセルの周囲は最終人類史が囲んでいる状態だから、奪還するにあたって、他の勢力が横槍を入れてくる事はないよ。ただ……」
 火刑戦旗ラ・ピュセルを支配するキマイラウィッチ達は、復讐を力とするクロノヴェーダ。
 復讐対象であるディアボロスとの決戦では、本来以上の戦闘力を発揮してくる事だろう。
 攻めるにしても、守るにしても。熾烈な戦いになる事は想像に難くない。

「でもまぁ……」
 こうなった以上、後はやれる事をやるしかないのだと。
 開き直るように稀夜は顔を上げる。
「きっちり決着付けてやろーじゃん、って事で。このパラドクストレインは『伏魔殿パンデモニウム』の戦場に向かうよ」
 ジェネラル級『伏魔殿パンデモニウム』は、キマイラウィッチの移動拠点としての役割を持つ超巨大なクロノヴェーダだ。
 縦横高さのいずれも1kmを超える、正に動く都市。
 もし断片の王ジャンヌ・ダルクに勝利したとしても、このパンデモニウムが健在であった場合、キマイラウィッチ勢力が集結してディアボロスに対抗する可能性が高い為、出来れば撃破しておきたい相手だ。

「という訳で、皆にはパンデモニウムの周辺に展開してる『フェザートルーパー』ってトループス級の一団を叩いて来て欲しいんだ」
 五つの翼を持つ女性型のトループス級『フェザートルーパー』は、単体での実力はそれ程高くはない。
 だが、同種同士では言葉を使わず連携が取れるという彼女たちの実力は、集団戦でこそ発揮される。
「不用意に飛び込むと、集中攻撃されたりするからね」
 本番の奪還戦の前に大怪我をする事のないように。
 相手の連携力に対して、どのように対抗するのか。あるいは、どのようにそれを崩すのか。
 しっかり対策を考えて向かって欲しい。

「それから、パンデモニウムについて捕捉しておくけど……」
 戦場へ向かえば、背景が一面パンデモニウムという状況だ。
 もしも『フェザートルーパー』の一団を片付けてなお、ディアボロス達に余裕があるのであれば。
 しようと思えば、パンデモニウムを攻撃する事も出来るだろう……が。
「こっちが攻撃すれば、当然反撃が飛んでくるからね。相当な理由と覚悟がない限り、僕はあんまりおススメしないよ……って、一応言っておくよ。皆が無事に帰ってくる方が大事だからさ」
 稀夜はそう言うけれど。
 どちらの選択肢を選ぶのか、あるいは選ばないのか。
 全ては、現場に赴くディアボロス次第だ。

「……とりあえず、説明する事は以上かな」
 復讐心を糧とするキマイラウィッチ達を相手に、奪還すること。防衛すること。その先のこと。
 状況は、色々と厳しいけれど。
「復讐祭の卵による儀式の準備も不十分だったし、まだ絶望的な状況って訳じゃないからね」
 今は出来る事を、やるべき事を一緒に頑張ろうねと。

「まずは前哨戦、気を付けて行ってきて」
 稀夜は、ディアボロス達を送り出すのだった。


→クリア済み選択肢の詳細を見る


●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【水源】
1
周囲に、清らかな川の流れを出現させる。この川からは、10秒間に「効果LVトン」の飲用可能な水をくみ上げる事が出来る。
【怪力無双】
1
周囲が、ディアボロスが怪力を発揮する世界に変わり、「効果LV×3トン」までの物品を持ち上げて運搬可能になる(ただし移動を伴う残留効果は特記なき限り併用できない)。
【プラチナチケット】
1
周囲の一般人が、ディアボロスを関係者であるかのように扱うようになる。効果LVが高い程、重要な関係者のように扱われる。
【書物解読】
1
周囲の書物に、執筆者の残留思念が宿り、読むディアボロスに書物の知識を伝えてくれるようになる。効果LVが高くなる程、書物に書かれていない関連知識も得られる。

効果2

【能力値アップ】LV1 / 【ダメージアップ】LV1 / 【ガードアップ】LV1 / 【フィニッシュ】LV1

●マスターより

音切
 音切と申します。
 火刑戦旗ラ・ピュセル奪還戦のファーストアタックシナリオをお届けに上がりました。
 このシナリオは、集団戦一章のみの特別シナリオになります。
 お目に留まりましたら、よろしくお願いいたします。
20

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


阿南・達多
アドリブ連携歓迎。
師(釈迦)は言いました。嫌い憎しみ怒る「瞋恚(しんに)」は煩悩の一つであると。
私が貴方達を正しましょう。
●行動
パンデモニウムからは距離を取り、フェザートルーパーのみへ御業(パラドクス)が当たるよう心掛けます。
今、彼の巨体を怒らせても得はしませんので。煩悩が溜まるのみです。
相手の技を見極め、反撃は許容出来る程度は受け入れつついなします。
飛翔していても聖なる御仏の偶像は貴女方を捉える事でしょう。

貴方達キマイラウィッチはこれから不殺生を破り一般人を危険に晒そうとしていますね?
それは大変業の深い事でございます故、私の御業で止めきれれば……と思うのですが、貴女方を倒してもジャンヌ・ダルクへと返還されるのでしたね。ううむ。

必要な数を浄化させきれたら撤退致しまする。

私は復讐者ではありますが、師の教えはしかと守っております。
故に断片の王を倒し、貴女方の輪廻を止められるよう、尽力致しましょう……。


ルチル・クォンタム
アドリブとか色々問題ないです歓迎します

どんな敵であろうとも。問題はないです。
だって、最後に勝てばいいんだよ。僕らは勝って取り戻すんだから!

敵に対してPD攻撃発動。まとまってる所に対して打ちます。
纏めて全部押し流してあげるよ。スルース・ニードル!

相手の反撃はガードアップや自分が纏ってる魔力(aura de lumière et d'obscurité)や針水晶の籠手等の装備、魔力障壁を張り致命傷を抑えつつ耐えてみせます。

そしたら再度攻撃!どんどん攻撃して敵の数を減らしていこう。
そしてある程度倒せたら撤退。名残惜しいけど此処で戦う手を減らせないからね。本番はこの後だから。


天破星・巴
【心情】
復讐者の諦めの悪さや往生際の抵抗の強さはほかならぬディアボロスが分かっておる。
こっちが攻勢を仕掛けることで復讐心で強化されるとは厄介極まりない存在じゃ。
ここは復讐心が湧きあがらぬように心を折って倒すしかないかのう。
(幼い見かけだが一世紀以上生きているが脳筋思考である)

【基本方針】
仲間と連携を取りつつ一体一体確実に倒し戦力を削っていく

ジェネラル級が出現したら冷静に戦力を分析しつつ速やかに撤退
(POW・SPD・WIZ・平均どのタイプか推察)
脳筋思考ではあるが経験則による直感には自信あり

【トループス級】
笑顔でなりかかる
(笑顔ではあるが威圧感が半端ではない)
わらわの慈悲の拳で極楽に逝かせてあげるのじゃ。

大地と接吻するが良いのじゃ
(掴んで地面に叩きつける)

鬼神変:全ての鬼人が使える基本にして奥義ともいえるパラドクス
力を籠めて殴る「しんぷるいずべすと」じゃ

【パンデモニウム】
耐久性に優れた隙の無い個体のようじゃのう
勢力を収容できてしまう移動要塞、推し量れぬ価値を感じるのう


シャルロット・アミ
アドリブ、連携歓迎です
稀夜さん、ご心配ありがとうございます
いってきますね

さて
連携に強い敵にはこちらも連携を
それが私たち「復讐者」の強さだから
ご一緒の皆様の動きを見ながら
攻撃をしかけて参りましょう

バイオリンを構えて
奏でる歌は勇ましい曲
さあ、私の白馬の騎士たち、出ておいで
これは逆説連鎖戦
空を飛ぶ敵にも騎士の攻撃は当たるわ

狙うのは突出して出てくる敵
または防御の薄いポイント
しっかりモラさんと見極めて(「もきゅー」)
敵の作戦には引っかからないように
突出した敵を叩いたら
後ろから大群が来た…なんて作戦、好きそうな敵だもの

パンデモニウムを狙うのは早いわね
貴方は決戦でしっかり決着をつけてあげる
今は、このフェザートルーパーの大群の数を
減らすことが大事
全滅よりも、皆が怪我なく帰ることが大事

だから引き際はしっかりと見極めるわ
パンデモニウムが動いたとか
増援が現れたとか
不利になったら皆に伝えて戻りましょう
殿は務めるわ
決戦は、預けておくわね?


「なんとまぁ、これは……」
 これから戦場となる地に降り立ち、開口一番。
 距離感が狂うのぅ、と。
 天破星・巴(反逆鬼・g01709)は、怪訝そうに眉根を寄せる。

 遠くを見つめる青い瞳が映すのは、石畳の街並み……それだけであれば、このディヴィジョンに相応しい都市の風景であったのだが。
 幾本もの昆虫じみた足を持ち、不気味に嗤う顔を張り付けたそれは、紛う事なきジェネラル級クロノヴェーダ――。

「――あれが、『伏魔殿パンデモニウム』」
 パラドクストレインは、敵陣から十分離れた場所に停車した筈なのに。
「すごい威圧感ね」
 これだけ離れていてもなお、ディアボロス達の視界から見切れる程の巨体に、シャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)は息を呑む。
 パラドクストレインの発車間際まで、無理はしないようにと。
 時先案内人が念を押していたのは、決して、ディアボロス達の実力を甘く見ていたのではなく。
(「……ご心配ありがとうございます」)
 今回の敵が、それだけ特異な存在であったからなのだと。こうして目の当たりにしてみれば、よく分かる。

「あれ程の巨体となれば、勢力を収容できると言うのもハッタリではないようじゃな」
 それ自体が意思を持ち、攻撃能力を有する移動要塞だと言うのなら。敵にとっても推し量れぬ価値を持つことだろう。
 此度の奪還戦で、出来る事ならば討ち取っておきたい相手だが……。
「しかしあれを壊すとなると、ちと骨が折れそうじゃ」
 こと破壊に関しては一家言ある巴の目から見ても、一筋縄ではいかなそうな相手だと。
 数多の戦いを知る直感が、そう告げている。

「まぁ、いま彼の巨体を怒らせても得はしませんので」
 そちらへの対処は、また後で考えましょう……と。
 阿南・達多(多聞第一・g11464)が、静かに声を掛ける。
 復讐――達多の言葉で表すならば、その『煩悩』こそキマイラウィッチ達の糧。
「あの巨大な目で、どれ程の距離を見通しているのかは分かりませんが……」
 避ける事はできずとも、せめて流れる血は。溜まる煩悩は最小限に止められるようにと。
「彼には近づき過ぎないよう、最大限注意してまいりましょう」
 静かな黒い眼差しは伏魔殿パンデモニウムではなく、今回相対するべき相手を捉えていた。

「どんな敵でも、状況でも。問題はないです」
 達多の言葉に頷きながら。
 大鎌を握り直すルチル・クォンタム(加護の外に出た守り人・g10515)は、緊張した空気を和らげるように。穏やかに笑ってみせる。
 確かに敵は、バカみたいに大きくて。復讐がどうとか、状況は色々と難しいけれど。
「だって、最後に勝てばいいんだよ」
 どれほど敵が強大であろうとも、状況が困難であろうとも。
 ある少年から引き継いだ『思い』が、ルチルが胸に刻んだ『決意』が、それによって揺らぐ事はないのだから。
「僕らは勝って取り戻すんだから!」
 行きましょう、と。朗らかに声を掛ける。
 真っ直ぐに先を見据える、黄金の瞳に迷いの色はなく。
 頷き合ったディアボロス達は、ルチルを先頭に戦場へと飛び込んでゆく。

 彼女等の視線の先に居るのは、伏魔殿パンデモニウムの周囲に展開する一団。
 かの巨体と比べれば、あまりに小さな小鳥達――トループス級クロノヴェーダ『フェザートルーパー』達だった。


「女神様……僕に力をお貸しください」
 手にする大鎌――『デスサイズ』を介して。紡ぐ祈りが力となって、ルチルの周囲に満ちる。
 自分の引き継いだ思いが、『貫く』べきものであるならば。
(「その力を以て僕は敵を倒します!」)
 それを受け取ったルチルの決意は、そのパラドクスは。
 周囲に満ちた力を『貫く』形へ――針の形へと変えてゆく。

「スルース・ニードル!」
 上空に飛び交う一団の、より密集したところへ。
 大鎌を振るい。ルチルの撃ち出したエネルギーは、さながらウォータージェットの如く。
 敵軍の中央に穴を穿つ。
「――ッ! ――!!」
 直後。人語に代わって上がるのは、金属音に似た耳障りな鳴き声。
 訳すならば、敵襲と叫ぶ声だろうか。
「流石に、一撃では倒しきれませんか」
「じゃが瀕死じゃ」
 大きく翼を削られ、虫の息で落ちて来るフェザートルーパーへ向かって。巴が地を蹴った。
 相手がどれ程の高所に居ようとも、関係ない。
 巴の体に流れる鬼人の血が、パラドクスが。世界の法則を書き換えれば。
「一体ずつ確実に削ってくれようぞ!」
 振り抜く。異形巨大化した拳は、フェザートルーパーの体を確実に捉える。

「――!」
 仲間がやられた事で、いきり立ったか。
 一層高く鳴き声が響いた直後、一斉に。
 フェザートルーパーの放つ羽の雨が、ディアボロス達へ降り注いだ。

「――っ」
 咄嗟に前に構えたルチルの両の腕に。痺れにも、震えにも似た衝撃。
 羽の一つ一つの衝撃は小さくとも、それが雨の如く降るとなれば。
 それは、丈夫な『針水晶の籠手』で受けてなお、一歩。二歩。ルチルの足を後退させる。
「集中攻撃とは、やってくれますね。でも……」
 大鎌を一振り。風圧で、纏わりつく羽を払い落とせば。受けた傷は、思ったほど深くはない。
 事前に聞いていた通り、個々の実力差ではディアボロスに分があるのだと分かれば。
「これくらいは許容範囲です。どんどん行きますよ」
 押された分は、再び押し返すまでだと。気丈に前へ出ようとするルチルに。
「ですが無理はなさらず。相手の狙いを散らしましょう」
 共に並び立つように前に出た達多は、フェザートルーパー達へと語り掛ける。

「師(釈迦)は言いました」
 それは、多くが欠落し、曖昧になってしまった達多の記憶の中に。それでもなお消えずに刻まれていた言葉。
「嫌い憎しみ怒る『瞋恚(しんに)』は煩悩の一つであると」
 ならばこの地は今、あまりにも多くの煩悩で満ちていると言える。
 荒れ狂い、濁りきった大河のように。
 このフェザートルーパー達もまた、大きな煩悩の流れに飲み込まれているというのなら。
「私が貴方達を正しましょう」
 両の手を合わせ、達多は腹の底から声を響かせる。
「羯諦、羯諦……」
 経典の一語一語が。大気を震わせる一音一音が、煩悩の凝る空気を切り裂いて。
「いざ、祓いましょう」
 現れた聖なる仏像の拳は、天空を裂く稲妻の如く。
 空を往くフェザートルーパーを、慈悲の拳を以て叩き落とす。

「――、――ッ」
 その衝撃に、蜘蛛の子を散らすように。
 広く散開したフェザートルーパー達の、一層甲高い鳴き声が響き渡った。
 それが号令であったか。
 一斉に羽ばたく。
 フェザートルーパー達の生み出す風が弾丸となり、ディアボロス達へと降り注ぐ。

(「鳴き方が……変わった?」)
 次々と上がる砂煙の中。弾丸の雨を何とかすり抜けながら。
 耳に感じた違和感に、シャルロットは目を細めた。
 人が奏でる音に、歌に。感情が表れるように。
 言葉は分からなくとも、フェザートルーパー達の声にも、それは感じられるから。
 あの鳴き方には、きっと意図がある。
 『何かしてくる』という直感が、シャルロットの感覚をより鋭敏にさせる。
 仲間達の激しい攻撃に、一見、散り散りになって飛んでいるように見える。フェザートルーパー達の動きは……。

「……分隊行動?」
 よくよく観察すれば、いつの間にか複数の小さな群れが出来上がっている。
 まるで軍隊のように。
 空を飛び交う群れの一つ一つが役割を持ち、こちらに仕掛けてくるのだとしたら――。
「不意を突かれないよう警戒していきましょう。みなさん!」
 仲間達に背を預ける形で、シャルロットは全神経を研ぎ澄ます。
「モラさんも一緒に、警戒をお願いね」
「もきゅっ!」
 連携する事の強さは、自分たちディアボロスこそが最もよく知っているつもりだ。
 最終人類史に、断片の王はいない。強力な『個』を持たない復讐者達は、『群』の力でそれらに対抗してきたのだから。
 けれど、今この場に置いては、個々の実力はディアボロス達の方が勝っている。
 普段とは、立場が逆……だからこそ。

「「「――!!」」」
「おっと。あの群れ、正面突破してくる気かな?」
 けたたましい声を上げ、大仰な動きで向かってくるフェザートルーパーの群れに。ルチルが迎撃の構えを取るけれど。
 誰もの視線を、耳を引き付ける。この愚直過ぎる動きの意図が、シャルロットには分かる。

(「恐らく、陽動!」)

「もきゅー!!」 
「気を付けてください。本命はそちらです!」
  モーラット・コミュ――『モラさん』からの合図に、シャルロットの声に。
 ディアボロス達の反応は早かった。

「では、陽動の方は私が……」
 仲間達の背を守る形で進み出る達多に、フェザートルーパー達の敵意が突き刺さる。
「貴方達キマイラウィッチは、これから不殺生を破り一般人を危険に晒そうとしていますね?」
「――、――!!」
 けたたましい鳴き声が、何と言っているのかは分からないけれど。
 彼女達の周囲で再び形成されてゆく、風の弾丸――明確な攻撃の意思こそ、達多への返事なのだろう。
(「私の御業で止めきれればと思うのですが……」)
 今ここで祓ったとしても、即座に解決する訳ではない。
 その事実が、少しだけ達多の動きを鈍らせた。その隙。
 一手早く撃ちだされたフェザートルーパーの風の弾丸が、達多の身を穿つ。
(「このような力を一般人に……」)
 傷は、思った程深くはなく。元より、多少の怪我は覚悟の上。
 更に仲間が場に刻んでくれた守りの加護が、達多の傷を軽くしてくれているが。それは達多が復讐道に身を置く者――ディアボロスだからこそ。
「貴女方の輪廻を止められるよう、尽力致しましょう……」
 斯様な凶悪な力が、一般人に振るわれる前に。
 彼女たちがこれ以上の業を重ねる前に、大本を断たねばならないと。
「――南無三!」
 振るわれる御仏の慈悲の拳が、今度は風の弾丸ごとフェザートルーパーを叩き伏せてゆく。

「本命だろうと何だろうと、纏めて全部押し流してあげるよ!」
 御仏の威光に背を守られて。
 ルチルが呼び出すのは女神の威光。
 さっきのお返しだと、大鎌を握る手に力が籠れば。
 ルチルの気合に応えるように、エネルギーの針もまたより大きく。鋭く。
 絶えぬ水の流れの如く、フェザートルーパーへ伸びてゆく。
「えぇ、押し返しましょう。私の白馬の騎士たち、出ておいで!」
 その様まるで、空中を流れる勇壮な大河のようだと。
 ルチルの技にリズムを合わせて、呼吸を合わせて。シャルロットがバイオリン――『シャコンヌ』を奏でれば。
 現れる幻影の騎士たちは、エネルギーの流れに乗って。
 勇ましく中空を駆け、フェザートルーパーの群れを飲み込んでゆく。

「得意の連携とやらも、ここまで崩されてしまえば形無しじゃな」
 不意打ちを狙っていた群れは、既に半壊状態。
 随分と見通しがよくなったと。巴の顔に、迫力のある笑顔が浮かぶ。
 その、幼く見える容姿に似つかわしくない迫力に慄いたか。それとも体制を立て直そうとしたか。
 身を翻して距離を取ろうとする残党を見逃す程、巴は甘くない。

(「復讐心で強化されるとは厄介極まりない存在じゃが……」)
 なれば、どうするか。
 巴の中では、既に答えは出ている。
「わらわの慈悲の拳で、極楽に逝かせてあげるのじゃ」
 青白く透き通るような異形の手に、力を籠める。
 力があれば、大抵のものは壊す事が出来るのだ。
 壊せぬ時は、壊す力が足りぬだけというのが、巴の持論。
 だから、もっと力を――。

 巴の気合に、心臓が高鳴り。
 全身を巡る鬼の血が、熱く応える。
 一足。二足。足が大地を捉える度に、世界の法則が書き換わり。
 三足で。常識外の速さで、巴の体はフェザートルーパーを射程に収めていた。
「諦めよ」
 異形巨大化した手を握る。
 自身の、ありったけの力を籠めて。
 戦場に刻まれた世界からの祝福と、怒りと殺意――残留効果も、全て籠めたなら。
 鬼神変――鬼人にとって基本と言えるその技は、同時に奥義となる。

 二度と立ち上がれぬように。復讐しようなどと思えぬように。
 叩き込む。
「大地と接吻するが良いのじゃ!」
 周囲で目撃していたフェザートルーパー達の、心さえも打ち砕く。
 一瞬にして命を砕く。慈悲深い程に、無慈悲な威力の一撃を――。


 開幕から戦況は優勢。
 元より、個々の力量はディアボロス達が上回っており。
 更にディアボロス達が場に刻んだ残留効果が、その実力差を決定的なものにしていた。
 加えて、連携という強みを打ち砕かれた今、フェザートルーパー達に勝機は無く。
「皆さん、怪我は大丈夫ですか?」
「僕はまだまだいけるよ」
 達多の問いに、大鎌を振るいながらルチルが余裕の笑みで答える。
 まだ戦える。もっと敵を削る事が出来ると。そう確信する空気が、ディアボロス達を包んでいた。

「……ぁ」
 達多の問いに答えようと、シャルロットが顔を上げるまで――遠く『巨大な赤い瞳』と、目が合うまでは。

「っ!!」
 シャルロットが警告を発しようとするよりも、先に。
 伏魔殿パンデモニウムの巨大な口が開く。

「なんじゃこれは!?」
「マグマ!?」
 瞬間。ディアボロス達の視界は、一変した。
 伏魔殿パンデモニウムより吐き出されたマグマが、ディアボロスごと辺り一面を焼き尽くしてゆく。
「みなさん、動けますか!?」
 退きましょうと。シャルロットが叫ぶ、その間にも。
 煌々と燃えるマグマが。肺まで焼き付くほどの熱が、ディアボロス達を蝕んでゆく。

「……あいつに目を付けられちゃったか」
 それなら、撤退も仕方がないと。
 ルチルの声には、僅かに残念そうな響きが乗るけれど。
「それだけ多くを浄化出来たと言う事でしょう」
 取るに足りぬと思われていれば、わざわざ攻撃はして来ないだろうと。
 幸いにも、仲間達全員が何とか膝を折る事無く、自分の足で立っているのを見て取って。
「撤退致しまする」
 努めて冷静を保ちながら、達多もまた撤退を支持する。

「うむ。目的を果たしたなら、長居は無用じゃ」
 退路を拓くと。
 体の上げる悲鳴。熱傷の痛みを無視して、巴は地を蹴った。
(「今の攻撃は……いや、分析は後じゃ」)
 どんな情報も、持ち帰れねば意味がない。
 今は仲間達と共に帰還する。その一点に集中して。
「凱旋じゃ。道をあけよ!」
 残る力を振り絞り、巨碗を振るう。

「うん。此処で戦う手を減らせないものね」
 本番はこの後なのだと、ルチル自身もよく分かっているから。
 共に退路を拓かんと巴の背を追い走りだすルチルに、達多も続く。

(「……決戦は、預けておくわね?」)
 殿を務めるシャルロットの、小さな呟きだけを残して。
 変わり果てた灼熱の地を駆け、ディアボロス達は速やかな帰還を果たすのだった――。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【書物解読】LV1が発生!
【水源】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
効果2【フィニッシュ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!

最終結果:成功

完成日2025年04月16日