リプレイ
ゼロファスト・ニーレイ
【奴崎組】(連携・アドリブ歓迎 仲間のことは苗字呼び)
カンザカの身内を取り戻す、か……
“妹”という存在には少々思うところはあるので、こちらも協力に応じよう
館の中を潜入ということで、変装として使用人の姿を身に纏う
後続の潜入・合流の助力として【モブオーラ】を発動しつつ、救出と調理を担当する者達で厨房を目指す
穏便に厨房へ潜入出来るのであれば僥倖。出来なかったなら……その場にいた奴等は鳩尾をどついて気絶させ、適当な場所に転がしておくとするか
その後、この時代のカンザカ……いや、『ニコライ』と言ったか。奴を早急に保護しておく
奴等を誤魔化す『料理(かわり)』の用意は任せたぞ
こちらは捌くことは出来ても、味付けや火加減でもれなく惨劇を巻き起こすのでな?
……調理工程の方を見届けたら後はニコライを安全圏に避難、ないしは事が済むまで見張りの役目を担うとしよう
そういう訳だ。後のことは託したぞ、貴様ら
特にカンザカ、貴様は決着のために己のやりたいことを突き詰めると良い
――ちゃんと助けてやれよ? その“妹”とやらを、な
神坂・雷
【奴崎組】(アドリブ歓迎)
絶対、助ける…ライサがあんなことになったのは、おれのせいだから
大丈夫、今度のおれは、ひとりじゃない
…みんな、ありがとだ
【パラドクス通信】を使用し、仲間と情報共有
目立たない服装に加え、フードで顔を隠し、【光学迷彩】を借りて姿を隠し、厨房に潜入
念の為、物陰に隠れたり、仲間の間に紛れる立ち位置を心掛ける
…顔見られたら、「食材が逃げた!」って騒ぎになっちゃうかもだし…(自分で言っておいて複雑)
仲間が穏便に、仕事を引き継ぐ形で料理人達を帰らせる事ができればよし
渋られたりうまくいかないようなら、不意打ちで当身をくらわせて料理人達を気絶させ
【アイテムポケット】を借りて持ち込んだロープで拘束
(「こいつらがおれを料理して、ライサに出したのか」と思うと一発ぶん殴りたい気持ちはあるが、穏便に済んだ場合は我慢)
(助け出された過去の自分は、驚くほど小さく見えて、新宿島に漂着してから自分が成長したのを知る)
(緊張の面持ちではあるが、出来上がった料理には「おいしそう」と割と暢気に涎を垂らす)
水上・鏡夜
【奴崎組】
アドリブ歓迎
迎えに行くと、辿り着いたのならば、手助けを
ボクも助けてもらったから、ね
まずはやるべきことをやろうか
【光学迷彩】を借りて姿を消して潜入を
まぁ、もしもの為に【平穏結界】も使用しつつ移動の方が安全、かな
厨房内に侵入後も維持、本命はここからだしね
もしもの荒事の音は全て外に出さないようにしないとだ
手が足りないならどつく手伝いするけど……充分足りてるよね、コレ
料理に関しては任せるよ
下手に手伝ってダメにしては申し訳ないからさ
得意な面々がいてくれて何よりだ
気を失っているニコライ少年を安全圏まで運ばないとね
厨房内が安全ならすぐ見つからないように隠せばいいけど……
まぁ、護衛がつくならそれでいいか
手が届くところまで来たん
キミの声はまだ届く、大事なのはこれからどうするか、じゃないかな
鴻・刃音
【奴崎組】
※アドリブ、連携可
受けた借りは返させていただきます。勿論その為に力を奮うのだから。
けれど……このままでは少し心配。神坂さんがちゃんと向き合えるか……
せめてその時間が取れる様、迅速かつ丁寧な行動を心掛けよう。
服装は質素な調理人の様なものを着用。
潜入については味方の効果を利用しながら静かに侵入、厨房に入り次第【プラチナチケット】の効果を利用しあたかも関係者の様に声をかける。
「申し訳ないですが、本日調理の担当が変わりました。つきましては皆さまは速やかに調理場を出て、この館から去る様にお願いします」と。
万が一抵抗があれば……そちらの方が味方に任せ、此方は調理の方に入ろう。
基本的な調理はコリーンさんにお願いし、火力担当のヴェルチさん、そして食材を捌く私とそれぞれ分担し行う。
食材は兎も角、調理道具はここのは使えない。包丁の類は自分で持って行こうかな。これでも剣客、刃物の扱いは慣れているからね。
さぁ……これでようやく前準備が終わり。
神坂さん。私が言えることは一つだけ。
――前だけ見て。
ヴェルチ・アリ
【奴崎組】
…家族、か。俺にはまるで縁がなかったけど、今は妹分が出来ちゃったしな。実際に血が繋がってるわけじゃないけど…それでも、十分に大事な存在って事くらいはわかる。俺にとっての、妹分の様に。
良いだろう。救いに行こうじゃないか、雷。
【パラドクス通信】を使い、味方との連携は常に確実に。
【光学迷彩】を使い、こっそりと潜入。
【おいしくなあれ】を使い、どうせなら、料理はおいしいものを食べてもらう。
まずは味方と一緒に、隠れながら潜入。他の味方に説得はしてもらって、それでも納得がいかない相手がいれば隠れている状態からちょっと拘束させてもらおう。大丈夫。動くと火傷しちゃうかもだから、大人しくしていてほしいだけなんだ。
料理になれば、自らの火炎使いとしての本領をフル活用し、火加減調整はばっちり行う。基本的な食材関係は、コリーンと刃音にお任せ。
さて、この先俺に何が出来るかと言えば、君の目の前の障害を焼き尽くす事くらいだろうけど…それでも。君の導きに少しでもなれるなら、ってね。
アドリブ、絡みを歓迎します。
リューロボロス・リンドラゴ
【奴崎組】
ふん。妹思いの兄の献身を嘲笑う悪魔の所業、許せるわけがなかろう。
安心せよ、雷よ。
かつてのぬしの頑張りを無駄にはせぬ。
ぬしの妹を人食いとして終わらせはせぬよ。
征くぞ、幼子の涙を拭いに。
ライサとニコライ――ずっと血の涙を流してきたぬし自身も救いにの。
【アイテムポケット】の容量には限りがあるであろうが。
うまい具合に食材だけでなく、調理器具も持ち込みたいの。
何せ食人儀式など行う奴らだ。
厨房の器具とて、これまで何に使われたのか分からぬ。
人肉を避けたところで、そのようなもので調理した料理を幼子に食わせるなぞ言語両断よ。
精神面だけでなく衛生面でも悪かろうしの。
コリーン達、調理担当と話し合って、上手い具合に容量を工夫しようぞ。
【光学迷彩】と【モブオーラ】等を用いて侵入よ。
我は料理は家庭科レベルだからの。
荒事要員よ。鎮圧や護衛は任せるが良い。
気を失ったニコライには持ち込んだ毛布をかけてやりたいの。
約束する。ぬしが目覚めし時、悪夢は終わっているのだと。
我らが、そして雷が。終わらせよう。
コリーン・アスティレーゼ
【奴崎組】
大切な家族を理不尽に奪われる痛み。……私にもわかります。
だからこの機会を逃すわけには行かない。
必ず妹様をお助けしましょう、雷様。
侵入の算段は他の皆様にお任せします。料理の方はお任せ下さい。
刃音様、ヴェルチ様と共に厨房に入り次第、リューロボロス様の
アイテムポケットから食材と調理器具を取り出します。
何を調理したかもしれない、ここの道具は使いたくありませんからね……
今回作るのはロシアでもよく食べられるという鹿肉のステーキ。
柔らかくレアで仕上げ、野趣溢れる血のソースをかけます。
鹿肉の塊を刃音様に捌いていただき、調味料を揉みこんで馴染ませた後、
ヴェルチ様に低温で火を入れていただきます。
その間に私は鹿の血と赤ワイン、バターで作ったソースを煮詰め、
肉の中心がロゼ色に仕上がった頃に赤いソースをかけて仕上げます。
本来『食材』が載せられるはずだった皿には、鹿の角を載せましょう。
(雷の様子に微笑みかけて)
雷様、今はお預けですよ。
帰ったらまたお作りしますから、皆でいただきましょう。
今度は妹様も一緒に。
括毘・漸
【奴崎組】
おやまぁ、まだ食人儀式を執り行うとする輩がいましたか。
親しき人を食わせて、吸血貴族に覚醒させるその手管…終わらせましょうか。
それに、身体を張って家族を守ろうとしたその行動は褒められることで、決して下されることではありませんから。
【光学迷彩】を用いて、館に侵入しましょうか。
こういう豪華絢爛を謳う貴族の館には玄関の他に裏口の一つや二つありましょうから。
表に出せぬ仄暗い行いを成すための目立たぬ裏口が、ね。
光学迷彩があるとは言え、侵入するのです足音を立てないように、そして館の人間に見られないように厨房へと進みましょうか。
まぁ厨房であれば『食材』の搬入をしやすいように外に面する場合もありますが人を具材にするのです、奥まった所の場合もありますからね、それは自分の鼻を信じて、匂いを辿りましょう。
幸い、ここには雷さんがいますからね、辿るのは容易いです。
もし、館の人間を排除しないと行けない時は、少々手荒になって申し訳ないのですが時間も持て余していないので、拳を振るい気絶させましょう。
●列車は雪原に停車する
「こっちだ」
パラドクストレインを降りた、ディアボロス一行。神坂・雷(赤雷・g11092)は迷うことなく一方へ足を向けた。
試みと戯れに費やされた、この命。新宿島に漂着してからは目新しく夢中になることばかりであったが……降りしきる雪に包まれると「あのとき」の恐怖と怒りとが、蘇ってくる。
「絶対、助ける……妹が、ライサがあんなことになったのは、おれのせいだから」
雷の眉間には、深い皺が刻まれていた。
「カンザカの身内を取り戻す、列車の旅……か」
「大切な家族を理不尽に奪われる痛み……私にも分かります」
ゼロファスト・ニーレイ(漆黒(くろ)の彼岸・g11308)が呟く隣で、コリーン・アスティレーゼ(カーテシー・g02715)も顔をしかめている。彼女もまた、ゾルダートの襲撃によって家族を失っていた。
「だから、この機会を逃すわけにはいかないということも」
「そうだな。『妹』という存在には、少々思うところもある。協力しよう」
ゼロファストは目を閉じ、頷いた。
「家族、か。俺にはまるで縁がなかったけど」
ヴェルチ・アリ(GE-07・SOL01847・g03614)が分厚い雲に覆われた天を仰いだ。
「でも、今は妹分ができちゃったしな」
実際に血が繋がっているわけではないが、それでも大切な存在だとヴェルチは感じている。
それが、幼少の頃から苦楽をともにし……自らの命を捧げてでも守りたいと思う実の妹ならば、なおさらであろう。
クロノヴェーダによって家族を失った者、新宿島に漂着して新たな家族を得た者、それは様々であるが、いずれにせよ心の深いところで繋がっている存在には違いない。
「……いいだろう。救いに行こうじゃないか、雷」
雷に追いついたヴェルチは、後ろから肩を叩いた。
いささか力が強かったか、雷がたたらを踏む。振り返った雷の眉間からは皺が消え、生来の陽気さがのぞいていた。
雷は、自分を心配そうに見つめている鴻・刃音(夢現・g06022)に向かって、ニィッと犬歯を見せて笑った。
「大丈夫、今度のおれは、ひとりじゃない。みんな……ありがとだ」
「お礼なんて」
刃音も笑顔を見せ、かぶりを振った。雷が自らの宿縁と向き合えるかどうか、案じていたのだ。けれども、彼ならば必ず大丈夫と刃音は確信を持てた。
「受けた借りを返させていただくだけです。もちろん、そのために力を振るうのですから」
「そうだね。ボクも助けてもらったから、ね」
水上・鏡夜(添星・g09629)が目を細める。
「迎えに行くとたどり着いたのならば、手助けを……ってこと」
「ふん」
リューロボロス・リンドラゴ(ただ一匹の竜・g00654)は鼻を鳴らし、偉そうにふんぞり返る。
「安心せよ、雷よ。かつてのぬしの頑張りを、無駄にはせぬ。ぬしの妹を、人喰いとして終わらせはせぬよ」
そう言って顎を上げ、仲間たちの顔を見渡すリューロボロス。
「妹思いの兄の献身を嘲笑う悪魔の所業、許せるわけがなかろう!
征くぞ、幼子の涙を拭いに。ライサとニコライ……ずっと血の涙を流してきた、ぬし自身も救いにの!」
●血塗れの厨房
「おやまぁ。まだ食人儀式を執り行おうとする輩がいましたか」
村の外れ、坂道の上にある吸血貴族の館を見上げ、括毘・漸(影歩む野良犬・g07394)は笑みを浮かべた。その笑みは優しげであったが……『吸血ロマノフ王朝』に生きた血塗られた過去のせいか、瞬間、館を見つめる瞳の奥にギラリとした光が見えた。
「このような寒村には不釣り合いな館ですね」
「侵入できそうですか?」
コリーンの問いに、漸はもとの優しげな笑みを浮かべて頷いた。
「こういう豪華絢爛を謳う貴族の館には、正面の玄関の他に裏口のひとつやふたつ、ありましょうから……表に出せぬ仄暗い行うを為すための目立たぬ裏口が、ね」
「なるほど……」
コリーンが眉を寄せる。
そのとおり、裏手に回ると木立の中に目立たぬ小さな門があった。
「……おれが連れ込まれたのも、ここだ」
雷が記憶をたどりながら、呟いた。皆の表情が固くなる。
雷が漸を振り返ると、漸は頷いた。雷の顔を見下ろして、微笑む。
「体を張って家族を守ろうとしたその行動は、褒められるべきことです。決して卑下されることではありません。
親しき人を食わせて吸血貴族に覚醒させるその手管……終わらせましょう」
「あぁ」
雷は意を決し、門扉を叩く。
「……どなたさまですか?」
門の向こうから、門番のくぐもった声が聞こえた。しかし門番が首を傾げるには、そこには誰もいないのである。門扉を叩いた雷たちは、すぐに路傍に身を潜めていた。【光学迷彩】が施されたディアボロスたちの姿を門番は見つけることができず、門を開いて外に出て辺りを見回してみたものの、やはり誰もいない。
しかし、漸はすでに門番のすぐそばまで忍び寄っていたのである。
「う……ぐッ……!」
「手荒になってしまって、申し訳ない。時間もあまりないもので」
腹を殴られて悶絶した門番を見張り小屋の隅に転がして、一行は先を急ぐ。
「さぁて、彼が目覚める前にかたをつけないとね」
慎重に裏庭を進む鏡夜の足取りは、まるで凄腕の狩人のようであった。気配というものをほとんど感じさせず、建物に張り付く。窓に面した廊下に誰もいないことを確かめると、中に踏み込んだ。
しばし聞き耳を立てる。窓を壊した音は外に漏れなかったようである。
「もしも荒事になったときの音は、漏らさないようにしないとだ」
廊下は僅かな明かりしかなく、暗い。鏡夜はキョロキョロと前後を見渡した。【平穏結界】の効果があるとはいえ、あまり時間はかけられない。
「ニコライは……厨房はどこだろうね?」
「厨房であれば、食材の搬入をしやすいように外に面している場合もあるでしょうが……なにせ、『食材』が食材ですからね」
漸は雷に近づいて、すんすんと鼻を鳴らした。
「あ?」
「はは……臭いますよ。いえ、雷さんがではなく」
しばらく辺りを探し回ったディアボロスたちは……それは鼻が利くという漸でなくともすぐにわかる、強い血の臭いがする方向へと向かった。そこが、厨房であった。
「さて……ここからが本命だ」
鏡夜が足音を忍ばせて、様子を窺う。
中にいるのは5、6人ほどであろうか。いずれも吸血貴族どもに仕える人間たちのようだった。
それと、もうひとり。
「ちくしょう、ここから出せッ! ライサをどこへやったぁ!」
厨房の隅に置かれている檻に入れられているのは、ニコライであった。
雷が、顔を隠すフードをさらに引っ張った。そうして、刃音とゼロファストの後ろに隠れる。
「……顔を見られたら、『食材が逃げた』って騒ぎになっちゃうかもだし」
なるほどと頷いた刃音であったが、その雷が口をへの字に曲げているのに気づき、問いかけた。
「……どうしました、神坂さん?」
「いや、自分で言っておいてなんなんだけど」
己を食材呼ばわりするのは、なんとも複雑な気分である。
刃音は苦笑し、
「では、ウチの後ろで」
と、襟を正す。いつもは某高校のものに手を加えた『改造女子高生服』を着て神聖なる光の剣をその手に握る刃音だが、今はコックコート……と言うほど大層なものでもないが、料理人にしか見えない白い服である。そしてゼロファストは、使用人然とした服装に身を包んでいた。
開いたままの厨房の扉をノックした刃音は中に入り込むと、
「申し訳ないですが、本日の調理担当が私に変わりました」
と、料理人たちを見渡した。
「あぁ?」
中にいた者たちは怪訝そうに刃音を振り返ったが、「こういう奴もいたかなぁ?」といった程度の反応である。内心で安堵しつつ、刃音は言葉を続ける。
「つきましては、皆様は速やかに調理場を出て、この館から去るようにお願いします」
何人かの料理人たちは安堵の表情を浮かべて、肩を落とした。檻の中の少年を「調理」する羽目にならずに済むのである。
しかし2人の男は、
「ふざけるな。このガキは俺が捌くんだよ! 血の一滴まで最高のソースにしてやるからな!」
「この楽しみは譲れねぇなぁ。てめぇこそ引っ込んでろ!」
と、肉切り包丁を突きつけてきた。
「ふん……そうか、貴様らはそれが楽しいのか」
無愛想なゼロファストの呟き。密かに、料理人どもの意識の外から踏み込んでいた。
「ぐえッ!」
その鳩尾に拳が叩き込まれ、料理人は悶絶しながら気を失う。
「うぐ……!」
もうひとりも同様である。こちらはリューロボロスによるものであった。2本の肉切り包丁が床に転がる。
鏡夜は拳をにぎにぎとしながら、
「……十分に手は足りてるよね、これ」
と、苦笑した。イカれた料理人ふたり程度、鏡夜が手を出す必要もなかったらしい。
「ふふ。我は荒事要員よ。鎮圧は任せるがよい。料理に関しては、家庭科レベルだからの」
「こちらは捌くことはできても、味付けや火加減ではもれなく惨劇を巻き起こすのでな?」
リューロボロスとゼロファストが揃って肩をすくめる。
とはいえ鏡夜も、ふたりと大差はない。
ともあれゼロファストは気絶していた男が腰から下げていた鍵で檻を開き、中にいた少年を引っ張り出す。
「この時代のカンザカ……いや、ニコライと言ったか」
「……!」
ニコライはゼロファストの、いや、その後ろでフードを目深に被った少年を見上げた。
その顔を見たニコライは疲労のためか安堵したためか、意識を失って倒れた。ゼロファストが、その身を支える。鏡夜が辺りを見渡し、
「どうする? 事が終わるまでここに隠していてもいいけれど……」
と言ったが。
「いや、俺が避難させよう。あとは託したぞ、鏡夜。それに貴様らも」
「護衛がつくなら、いいか。任された」
仲間たちに後を託したゼロファストがニコライを担ぎ上げようとしたが。
「待て。そのままでは寒かろう」
リューロボロスが、薄汚れ、細く折れてしまいそうな身体を毛布でくるんでやる。
その金の髪をそっと撫で、
「約束する。ぬしが目覚めしとき、悪夢は終わっているのだと。
我らが、そして雷が。終わらせよう」
ゼロファストも頷き、ニコライを担ぎ上げた。
「カンザカ。貴様は決着のために、己のやりたいことを突き詰めるといい。
……ちゃんと助けてやれよ? その『妹』とやらを、な」
「あぁ。『おれ』を頼む」
頷いた雷に対して口の端を持ち上げ、ゼロファストはもと来た道を戻っていった。
気を失ったニコライの表情からは険が消えていて、あどけなさがあった。
「……そっか。俺、成長してたんだな」
広げた両手を見つめる雷。その手のひらはニコライよりも大きく、分厚い。
大きく息を吐いた雷は、気絶した料理人どもを見下ろした。
「こいつらがおれを料理して、ライサに出したのか……!」
ゼロファストとリューロボロスに出遅れた格好の雷。いっそぶん殴ってやれば溜飲が多少は下がったのかもしれない。奥歯を噛みしめるギリリという音は、思いのほか大きかった。
「ひぃ」
残った料理人たちが恐れて腰を抜かすが、雷は慌てて両手を振る。
「心配しないでくれ。『おれ』を調理しないなら、おれは手荒なことはしない」
意味がわからない料理人たちは首を傾げたが、
「ただ、大人しくはしていてもらいたいな。まだ、騒ぎになってもらっちゃ困るんだ」
と、ヴェルチが顔を見渡すと、料理人たちは慌てて口を引き結んだ。
「これ、使ってくれ」
「あぁ」
ヴェルチは雷に手渡されたロープで、気絶した者も大人しくした者も、料理人たちを手早く縛り上げていった。
「動かないで。動くと火傷しちゃうかもだから」
大人しくした者たちは厨房の隅にまとまってもらい、気絶した者はいささか乱暴に床に転がしていく。
「さて。それではいよいよ、メインディッシュの用意に取り掛かりましょうか」
刃音が厨房を見渡した。
●上等の肉を
「はい。料理の方はお任せください」
コリーンが進み出る。周りを見渡してみると、流石に貴族の邸宅、なかなかに設備は整っているが……。
「ここの調理器具なぞ、何に使われてきたのかわからぬ。なにしろ、食人儀式なぞ行う奴らだ」
リューロボロスが顔をしかめる。
「人肉を避けたところで、そのようなもので調理したものを幼子に喰わせるなぞ、言語道断よ」
精神面でも衛生面でも、ろくなものではない。
「ですよね」
頷いた刃音は、持ち込んだ自分の包丁を広げた。
「ここの道具は使いたくありませんからね……リューロボロス様、お願いします」
「任せよ」
頷いたリューロボロスは【アイテムポケット】から割烹の道具一式、それに塊の肉を取り出した。
「これは?」
雷が目を輝かせる。コリーンは微笑んで、
「鹿のロースです。今回はこれを、ステーキにしましょう」
と、清潔なまな板の上にその塊肉を置いた。
「食材を捌くのは任せて。これでも剣客。刃物の扱いは慣れているからね。
コリーンさんは基本的な調理を。火力の調整はヴェルチさん、お願いできますか?」
鮮やかに肉を切り分けながら、刃音はふたりを振り返った。
「お任せください」
コリーンは他の食材を台に並べていく。
「火炎使いの本領をフル活用するよ」
笑ったヴェルチが、ストーブに火を入れた。
刃音の捌いた鹿肉に、コリーンは塩胡椒を振る。しばらく置いたのち、
「ヴェルチ様、まずは強火で」
オイルを引いたフライパンに手をかざし、温度が十分であると確認したコリーンは肉を置く。ジュウッという快い音が響いた。
「……そろそろいいですね。ヴェルチ様、今度は弱火に」
「了解」
全体に焼色のついた肉に、弱火でじっくりと熱を加えていく。
「そろそろいいんじゃない?」
ヴェルチが鹿肉を火から下ろし、休ませる。
「その間に、ソースを作りましょう」
コリーンは鹿肉を焼いたフライパンにバターと赤ワイン、そして瓶詰めにして持ち込んでいた鹿の血を加えた。焦げ付かぬよう木べらで底から混ぜつつ、煮詰めていく。
だんだんとソースも煮詰まってきた。
「そろそろでしょうか?」
コリーンの言葉に頷いて、刃音が休ませていた肉を切り分ける。中は赤みが残りつつ、しっかりと火は通っている……絶妙な焼き加減であった。
それを盛り付けたコリーンは、仕上がったソースをかけて一皿を仕上げた。
「完璧ですね」
「おぉ……!」
刃音とヴェルチが目を輝かせる。
ずいぶん静かだと思って雷の方を振り返れば、
「おいしそう……」
と、口の端から盛大によだれを垂らしていた。
コリーンは微笑んで、
「雷様、今はお預けですよ。
帰ったらまたお作りしますから、皆でいただきましょう。……今度は、妹様も一緒に」
「……うん、そうだな!」
よだれを拭い、表情を引き締める雷。
「さて」
厨房の隅で調理を眺めていた料理人たち。その縄をコリーンはほどき、
「これを運んでください」
と、有無を言わせず皿を持たせる。ふと、厨房の隅にある蓋付きの皿に気がついた。
「これが、本来『食材』が乗せられるはずだった皿ですか。なら、やはり食材を乗せておくべきですね」
ふたつの皿を手に、厨房を出ていった料理人たち。
その姿を見送りながら、刃音はコックコートのボタンを外した。
「さぁ……これでようやく、前準備が終わり。
神坂さん、私が言えることはひとつだけ……前だけ、見て」
「このさき俺に何が出来るかと言えば、君の前の障害を焼き尽くすことぐらいだろうけど」
ヴェルチがニヤリと笑う。
「それでも、君の導きに少しでもなれるなら、ってね」
「手が届くところまで来たんだ。キミの声は、まだ届く。過去のことはいい。大事なのは、これからどうするか、じゃないかな」
そう言ったのは鏡夜である。
「あぁ。みんな、頼むよ!」
雷は仲間たちを見渡して、力強く頷いた。
「おれは絶対に、ライサを助ける!」
そう言って雷は、拳を高々と突き上げた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【モブオーラ】LV2が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【平穏結界】LV1が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
【おいしくなあれ】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【リザレクション】LV2が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
【アクティベイト】LV1が発生!
「……もう料理を?」
館の主が、皿を捧げ持つ料理人たちを睨みつけた。
「誰が命じたのだ」
気が早い。ヴァンパイアノーブルとして覚醒する素質を持った娘と、その兄。
ボロ布のような兄を衆目に晒し余興とするつもりであったのだが……。
「興ざめではないか」
首をすくめる料理人たち。しかし居並ぶ他の青年貴族たちの前で叱責するのはいかにも不格好であり、主は、
「準備が整ったようだ」
と、場を取り繕ってラウンジから食堂へと皆を誘った。
その首座に、やはり別室から連れてきたライサを座らせる。
「……おにい、ちゃんは?」
「じきにわかる。それよりも、まずは食べるといい」
ライサはたどたどしくナイフを動かして肉を切り分けると、おずおずと小さな肉片を口に運んだ。
「……おいしい」
それを聞いた館の主は目を細め、
「シェフも腕を振るった甲斐があるというものだ。その『食材』は……お前の、兄だがな!」
「お、にい……? あああッ!」
ライサは叫び、口を押さえた。目の端から、ボロボロと涙がこぼれる。
「さぁ、お目覚めなされ我らが主。
そうだ、召し上がった『食材』も、お目にかけよう」
テーブルに置かれた金属の皿に歩み寄った館の主は、笑いながらその蓋を取った。
しかし。
「な、なんだこれは!」
鴻・刃音
【奴崎組】
※アドリブ、連携可
さて、ここからが本番。まずはこの有象無象を蹴散らさないと、神坂さんが十分な対話に移れない。
元々戦う方が得意だから、こっちの方が向いている。
まぁ……そもそも気に食わない。だから教えてあげよう。
強者だと思っている愚か者たちに、更なる強者に蹂躙される恐怖を。
扱う得物は二刀一対の柳葉刀。それぞれを逆手に構え、特異な体勢を取り、己の雷の力を瞬時に纏わせる。
濃く、激しく、しかし洗練とされた電撃の魔力は次第に虎を模す。
後はやることは単純。目の前にいる血に飢えた獣を刈り尽くすだけだ。
立ち回りはひたすらに戦場を搔き乱すこと。先陣を切って敵集団のど真ん中へと飛び込み蹴散らしに掛かる。
そして何より神坂さんへの被弾を極力避ける事。派手に動き回ることでこちらに集敵し向こうへ手が及ばない様にしたい。
自分への攻撃については致命打にならない限り避けるそぶりは見せない。
何をやっても無駄であると思い込ませ、委縮させる立ち回りを出来れば名を良し。
水上・鏡夜
【奴崎組】
アドリブ歓迎
さてと、舞台は整った
後はやるべきことをやるだけだね
外野には退場していただかないと
感動の再会なんだ、邪魔立てをしないでおくれ?
雷殿(g11092)をディフェンス
怪我の無い状態で向き合って欲しいからね
雷殿の立ち回りの邪魔にならない範囲でフォローしにいこう
影があればそこはボクの間合いだ
足元からの串刺し、握って白兵戦、どちらでも立ち回ってみせよう
相手の攻撃には影の刃にて切っ先を逸らそうか
それくらいなら何とかなるだろう
これくらい問題ない
キミには前を向いて、向かう先をみてほしい
ここからが正念場なんだぞ?
ちゃんと迎えに行っておいで、お兄ちゃん
神坂・雷
【奴崎組】の皆と参加(アドリブ歓迎)
(服の上から、首に残る傷跡に触れる)
…「ニコライ」には、この先はなかった。この先を見られなかった
おれが選んだことで、おれの知らないところで、ライサはあんなに泣いてたんだ
そんなこと望んだんじゃ、なかったのに
(「かつての自分の首を斬り落とした剣」に対する恐怖はあるが、怒りで振り払う)
声かけと【パラドクス通信】で、仲間と連携・情報共有を行う
はやる気持ちや敵への怒りはあるが、突出し過ぎないように注意
【電光鉄火】使用、電撃を纏っての回転体当たり
撃破可能な敵を最優先に狙い、「確実に手早く敵の数を減らす」を目標に、思いきり暴れる
敵の攻撃はつるはしで振り払ったり、体当たりで吹き飛ばして距離を取る事で対応
細かいケガは気にしないけど、無理はしない。ここでやられるわけにはいかないもんな!
おれがおまえらにあげちゃった、おれとライサの「この先」を、返してもらう
手が届くとこまできたんだ。守ってもらって、ここにいるんだ。絶対に、つかみ取る!
ジャマするなら、おまえらみんなぶっとばす!
ヴェルチ・アリ
【奴崎組】
さーてと。女の子を泣かせてるのはだーれだ。
悪趣味なやつはだーれだ。
つまらない事を楽しみにしてるふざけた奴はだーれだ。
お ま え た ち か ?
【パラドクス通信】を使い、味方との連携は確実に。
【火炎使い】と【呪詛】を使い、周囲に満ちる血の空気、誰か嘆き、悲しみ、怒り、負の感情をひとまとめに集め、パラドクスの溶岩として解き放ち、敵を焼き尽くす。
趣味が悪けりゃ性格も悪いし。外見だけ無駄にイケメンしてるってのが最高にむかつくよね。ヨシ燃やす。燃やし尽くす。焼き尽くし燃やし熔かす。
溶岩を展開し、味方と連携して相手を包囲するような動きから、追い詰めて確実に燃やす。
敵の集団へ飛び込む刃音も援護。斬り開くなら、そこへ更に灼熱をつぎ込んで道を作り上げよう。
相手の攻撃は溶岩で壁を作り上げて迎撃、それを乗り越えてくる攻撃には重装甲で受け止めて防御していく。
どれほどの数、血を流した?怨念と無念を撒き散らし、その中心で優雅な振りをしてきた?
焼き尽くす。弔いの火を、ぶち上げろ。
アドリブ、絡みを歓迎します。
コリーン・アスティレーゼ
【奴崎組】
ニコライ様とライサ様に行ったこと、許せません。
あなたたちはこれまでも同じような非道を数えきれないほど行ってきたのでしょう。
でも、もうそれも終わり。私たちが舞台の幕を下ろします。
皆様との戦いで集団からはぐれた者を狙います。
一体ずつ確実に叩きましょう。
「一曲踊っていただけますか」
目標と定めた吸血鬼に手を差し伸べ、品の良い言葉で挑発します。
乗せられた吸血鬼が悪口雑言を並べても聞き流し、
つかず離れず至近距離でダンスの様にステップを踏んで幻惑します。
屋内への潜入作戦でしたので、サイドカーは外に置いてきています。
料理のため今回戦闘用の強化パーツは装着していませんが、
むしろ生身の人間の様な外観で油断を誘えるかも。
無手の相手に翻弄され、苛立ってブラッディレターを放ってきた時が狙い目。
神速で懐に滑り込み、隠し持った小型拳銃を急所に全弾撃ち込みます。
「終幕です」
これくらいで贖える罪ではないでしょうが、せめて地獄で反省してもらいましょう。
慇懃にカーテシーで消えゆく吸血鬼を見送ります。
括毘・漸
【奴崎組】
はてさて、仕込みが露わになって奴らは大慌てですな。
見てください文字通り、血相を変えて慌ててますよ。
全部が全部、お前たちの思い通りになると思わないことです。
それが、悲劇を成すものであれば………それを食い止めるものが現れることを刻み込んでやります。
雷さんを妹さんに対面させるためにも、邪魔者にはいなくなってもらいましょう。
両手にナイフを握り、口にサーベルを咥える異形の三刀流を構えて、敵を威嚇するように好戦的な笑みを浮かべながら床を蹴り上げ、接近する。
敵を追い込むように味方との動きを合わせつつ、一歩踏み込み距離を詰めていき、刃を振るう。
そら、最期の晩餐は楽しめましたかぁ?
お前たちが見る血は、自分の血で最後ですよ!
三振りの刃を翻し【猟犬之斬・惨斬禍】を発動させて、獣の爪痕のような荒々しい斬撃を放ち、敵を斬り裂き溜め込んだ血を解放させるように刃を振り抜く。
敵の攻撃に対しては、敵の剣に向けて刃を打ち込み、鍔迫り合いに持ち込んでそのまま押し込んで、生じた隙に刃を差し込みその身を穿つ。
「な、なんだこれは!」
声を張り上げた館の主が、皿を運んできた料理人たちを睨みつけた。そこには『食材』が、クロノス級として覚醒するライサの兄としてはあまりに薄汚い人間の首が、そこには乗せられているはずであったのに。
皿の上に乗っていたのは、実に見事な鹿の角であった。と、いうことは……!
館の主が、いや他の青年貴族までも、涙を流すライサの方を振り返る。
「はてさて。仕込みが露わになって、大慌てですな」
バン、と大きな音をたてて扉を開け放ち、括毘・漸(影歩む野良犬・g07394)が食堂へと乗り込んでくる。青ざめた顔の料理人たちを外に逃がしてやりつつ、
「見てください、文字通り血相を変えて慌ててますよ」
と、愉しげに仲間たちを振り返る。
「女の子を泣かせてるのは、だーれだ? 悪趣味なやつはだーれだ? つまらないことを楽しみにしてる、ふざけた奴はだーれだ?」
続いて乗り込んできたヴェルチ・アリ(GE-07・SOL01847・g03614)はおどけたように言うが、不意にギロリと吸血貴族どもに視線を向けて。
「お ま え た ち か?」
緑色の瞳に燃え上がらんばかりの怒りを込め、睥睨した。
「ディアボロス……ッ!」
ライサの有り様に戸惑っていた血の記述者どもが椅子を蹴って立ち上がり、剣を抜く。
吸血貴族どもの後ろで、ライサは頭を抱えて嗚咽していた。
「あああ、あああ……ッ!」
「ライサッ!」
神坂・雷(赤雷・g11092)が思わず声を張り上げる。が、ライサにその声は届かなかったらしく反応はない。ならばと手を伸ばそうとしたが、それをコリーン・アスティレーゼ(カーテシー・g02715)が押し留めた。
「雷様」
「……うん」
正面から見つめられた雷は頷いて、
「そうだな。まずはこいつらを片付けるのが、先だ」
と、血の記述者どもを睨みつける。
鴻・刃音(夢現・g06022)が一対の『柳葉刀』を抜いて応戦の構えを見せ、
「ここからが本番。まずはこの有象無象を蹴散らさないと、神坂さんが話もできません
「ですね。雷さんを妹さんと対面させるためにも、邪魔者にはいなくなってもらいましょう」
と、漸は両手に刃を構えた。
「舞台は整った。あとはやるべきことをやるだけだね。外野には退場していただかないと」
水上・鏡夜(添星・g09629)は薄笑いを浮かべ、得物も抜かず煙管を傾ける。
「邪魔なのは、貴様らの方だディアボロス! よくも儀式の邪魔をしてくれた!」
青年貴族どもは整った顔を眉間に刻んだ深い皺で歪め、斬り掛かってくる。
「もともと戦うほうが得意だから……こっちのほうが向いている。わかりやすくて」
敵の剣を刃で跳ね上げた刃音はいったん跳び下がり、ふた振りの刃を逆手に構え直して両手を床につけた。刃から離れた人差し指と中指は、まるで獣の爪のようである。
「まぁ……そもそも気に食わない。だから教えてあげよう。強者だと思っている愚か者たちに、さらなる強者に蹂躙される恐怖を!」
異形の構えとともに、刃音が飛びかかった。その身に虎の形を取る稲妻を纏い、敵群に躍りかかる。
「く……ッ!」
記述者どもの手のひらに浮かび上がる魔力の塊は、まるで鮮血のよう。それらは鋭い切っ先をもつ匕首となって刃音に襲いかかったが、
「竜が最強と言うのなら、私は虎。竜の天敵たる、地に立つ虎! 目の前にいる、血に飢えた獣を刈り尽くすだけだ!」
眉間に飛来したものだけをわずかに身を捩って避け、いくつもの刃が肩や二の腕に食い込むことを恐れもせず、刃音は敵中に飛び込む。
「おのれ、図に乗りおって!」
吸血貴族どもが刃音を狙うが、
「偽証展開、ナックラヴィー!」
ヴェルチの声とともに床が大きく割れ、地の底より溶岩が吹き出した。それはヴェルチ自身の怒りでもある。そして荒れ狂う亡霊のようでもある。
その炎熱に照らされた顔でヴェルチは、吸血貴族どもを見渡す。
「どれほどの数、血を流した? 怨念と無念を撒き散らし、その中心で優雅なふりをしてきた?」
溢れる溶岩はなおも荒れ狂い、大波となって記述者どもに襲いかかる。
「滴る涙よ全てを熔かせ! 終わらぬ渇きよ世界を融かせ! 弔いの炎を、ぶち上げろ!」
「ぎゃああッ!」
整った顔も白い肌も、すべては溶岩によって爛れ焼き尽くされていく。
混乱する敵の真ん中を駆け回る刃音。「前足」が敵を打てば、「爪」は敵の喉元を斬り裂いた。
「ち」
舌打ちした館の主は刺突剣を構えつつライサの方を振り返った。
「中途半端とはいえ、儀式が行われたことは間違いない。あの娘は我らの主として覚醒したであろう。
ならば、こやつらを殺しその血を捧げれば……すべて同じことよ!」
と、剣を閃かせて襲いかかってくる。
「う、ん……」
雷が顔をしかめ、そっと首元を手で撫でる。そこにくっきりと残る傷跡は、彼が首を落とされたときのものである。
あの剣によって。
細身の拵えであるが切れ味も十分であることは、嫌というほど承知している。
身震いした雷ではあったが、
「……『ニコライ』には、この先はなかった。この先を見られなかったんだ。
おれが選んだことで、おれの知らないところで、ライサはあんなに泣いてたんだ。そんなこと望んだんじゃ……なかったのに!」
それを思えば沸々と怒りが湧き上がってくる。
「よくも、ライサを泣かせたな!」
つるはしを握りしめた雷の全身を、赤い電撃が包む。床を蹴った雷は回転しながら、敵群に飛び込んだ。突進を受けた館の主は跳ね飛ばされて壁に打ち付けられ、周りにいた血の記述者どもも遠心力をともなったつるはしを叩きつけられ、胸に大穴を開けられた。
敵の反撃が雷の脇腹を浅く裂いていたが、
「これくらい、大丈夫。でも、無理はしないぞ。ここでやられるわけにはいかないもんな!」
「く……もう一度、料理してやれ!」
館の主が顔を歪ませながら声を張り上げると、
「その首、今度は私が斬り落としてやりましょう」
「ならば私は、臓物を引き抜いてくれようか!」
と、記述者どもは嗜虐的な笑みとともに襲いかかってくる。
その刃もまた雷を狙ったが、
「この後には感動の再会が待ってるんだ、邪魔立てしないでおくれ?」
鏡夜はその前に、相変わらず得物も抜かずに立ちはだかった。
得物を握らないのはコリーンも同じで、
「ニコライ様とライサ様に行ったこと、許せません」
それにも関わらず、コリーンは緑の瞳で青年貴族を睨みつけた。
吸血貴族どもは、思わず吐息が漏れてしまうほどの美男子ではあるのだろう。
しかし、
「あなたたちはこれまでも、同じような非道を数え切れないほど行ってきたのでしょう」
それ故にいっそう、分かり合えぬ魔物だとコリーンは感じた。
「ふん。人間が我らの役に立てるのなら、光栄に思うべきだな」
「つくづく、あなたたちは……」
コリーンが柳眉を逆立てる。しかし、内心で煮えたぎる熱は大きなため息に変えて吐き出した。
「ふん、愚かなのは貴様らよ。まさか、その身を盾とでもする気か?」
「ははは、麗しい同胞愛よ。愚かにもほどがある」
嘲笑する血の記述者ども。
「まさか。影があれば、そこはボクの間合いだ」
鏡夜は笑い、燭台の灯りに照らされてゆらゆらと揺らめく自分の影を見下ろした。
そしてコリーンは悠然と、
「一曲踊っていただけますか?」
と、手を差し伸べた。
「気でも狂ったか!」
斬り掛かってくる血の記述者。
迎え撃つ鏡夜は煙管を逆さまにして椅子の肘掛けに打ち付け、上等な絨毯の上に灰を落とす。自身の影と呪詛とを混ぜ合わされれば、それは刃となって鏡夜の手中にあった。
「な……!」
吸血貴族どもが驚愕する間もあればこそ、煙管とは逆の手に握るそれを振るえば、斬撃は飛んで血の記述者の胸を斬り裂く。
「ひらり、くるり、舞い踊れ」
体勢を低くして間合いを詰めた鏡夜は、さらに一振りしてもう1体の脇腹を抉った。
「ぐあッ!」
「おのれ!」
記述者は激昂したが、
「あら、お相手はしていただけないのですか?」
と、コリーンは付かず離れず、敵を挑発した。
「ならば貴様から殺してやろう!」
罵詈を発しつつ繰り出された刺突剣の切っ先を、コリーンは紙一重で避けた。まるで踊るようなステップで。
「鬱陶しい奴め!」
敵はコリーンの胸を貫かんと大きく剣を振りかぶったが、
「でも、もうそれも終わり。私たちが舞台の幕を下ろします」
半身になってその切っ先をかわすコリーン。素早く懐に差し込まれた手は、小型拳銃を握りしめていた。ダンスパートナーのように密着し、驚愕の表情を浮かべる吸血貴族の顎下に銃口を突きつけ、引き金を引く。
「終幕です。
……生身の人間のようだからと、油断でもしましたか?」
「む、むむ……!」
残された吸血貴族どもはわずかに数名。館の主は口の端から血が垂れるほどに歯を噛みしめる。
「何をやろうと、無駄ですよ」
テーブルクロスで『柳刃刀』の返り血を拭った刃音が、睨みを効かせている。
それがかえって癪に障ったのか、血の記述者どもは飛びかかってきた。
「おのれ、おとなしく贄となれディアボロス!」
館の主が繰り出す切っ先がヴェルチの肩を抉り、血の文字が刻まれる。
「ごめんだね!
趣味も悪けりゃ性格も悪い。外見だけ無駄にイケメンしてるってのが、最高にムカつくね」
顔をしかめつつも跳び下がり、再び溶岩を放つヴェルチ。これには敵も追撃できず、距離があく。
「たとえ不細工でも、許しはしないがね?」
クックッと笑う鏡夜。
「ちがいない」
ヴェルチも口の端を持ちあげ、肩をすくめた。
「これまでは好き放題やってきたのでしょうが……全部が全部、お前たちの思い通りになると思わないことです」
飛び込んだ漸は両手に刃を握り、振り下ろされる剣を一方のナイフで打ち払いつつ、逆の刃を繰り出す。館の主は紙一重のところで跳び下がった。
「それが悲劇を成すものであれば……それを食い止める者が現れることを、刻み込んでやりましょう」
血の記述者どもが左右から斬り掛かってくるが。
「斬撃連結―――壱頭・弐顎・参首―――慚愧は戦慄の眼光となり、意志を剣と成せ」
漸の背から、猟犬の首がふたつ生え出た。漸がナイフを軽く放ると、血と炎で形作られた猟犬の首はそれを空中で受け止めて咥える。そして漸自身も銀のサーベルを口に咥え、絨毯に皺を作りながら敵へと躍りかかった。
「ぎゃッ!」
「ぐわッ!」
左右の敵が、1体は首筋を斬られ、もう1体は脇腹を貫かれて絶命する。
「そら、最期の晩餐は楽しめましたかぁ? お前たちが見る血は、自分の血で最後ですよ!」
「おのれぇッ!」
その眉間を貫こうとした館の主であったが、漸は咥えたサーベルで、それを受け止めた。
たたらを踏んだ館の主の胸を、漸のサーベルが裂く。しかし浅かったようで、敵は跳び下がった。
「逃がすかッ!」
雷が追い打ちをかける。
「おれがおまえらにあげちゃった、おれとライサの『この先』を、返してもらう!」
「死にぞこないが!」
館の主の剣は雷に狙いをつけたが、刃音の刀がその切っ先を弾く。そればかりか、腕は肘から斬り飛ばされた。
「な……!」
痛みを感じるのはしばらく後のことである。瞬間、館の主はただ驚愕した。鏡夜の影から生み出された刀が、そこに伸びていたのである。
鏡夜は目を細め、雷を見下ろした。
「さぁ、雷殿。キミには前を向いて、向かう先を見てほしい」
「あぁ、わかってる!
手の届くとこまで来たんだ。守ってもらって、ここにいるんだ! 絶対につかみ取る!
ジャマするなら……ぶっとばす!」
「おお……おッ!」
赤い電撃を纏った雷の突進に、腕の傷口を押さえた館の主は吹き飛ばされた。その首はあり得ない向きに曲がり、すでに事切れていることは明らかであった。
「これくらいで贖える罪ではないでしょうが……せめて、地獄で反省してもらいましょう」
コリーンはスカートをつまみ、片足を引いて慇懃に一礼した。
「ああ……!」
跪いて嗚咽するライサの傍らに、血の塊が湧き出てきた。それはどんどん大きくなって人型となる。
ライサは縋るような目でそれを見上げ、
「мой брат(わたしのおにいちゃん)……」
と、呟いた。
雷の背を、鏡夜が強く叩く。
「ここからが正念場なんだぞ? ちゃんと迎えにいっておいで、お兄ちゃん」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【通信障害】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
【パラドクス通信】がLV2になった!
【水中適応】LV1が発生!
【神速反応】LV1が発生!
【アイテムポケット】がLV2になった!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【命中アップ】がLV3になった!
【ガードアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV2になった!
神坂・雷
(アドリブ歓迎)
(ライサを怯えさせないように、細心の注意を払う)
ライサ、にーちゃんだぞ
料理なんてされてないぞ、ほら、元気だ
…ちょっと変わっちゃったとこもあるけど
おれはずっと、ライサのにーちゃんだ
ごめんな、ライサ。おれ、いけないことした
ライサが無事ならそれでいい、なんて思って、手を離した
ライサをこんなこわいとこに、置いていって…つらい思いをさせた
悪いのはにーちゃんだ、ライサは悪くないんだ
(あいつらに命をあげたこと、本当は納得なんかしてなかったんだ。だから、おれは新宿島に流れ着いた)
(「家族のためにした事」って、みんなは言ってくれた。
だけど、おれはただ、ライサに「いけないこと」を押し付けて逃げただけなんじゃないかって、思う)
(…だから、今度はまちがえない。「つらい」も「いけないこと」も、ライサに押し付けないために)
ライサ、こっちを見ろ。にーちゃんはここだ
悪いやつもこわいものも、にーちゃんがぶっとばしてやる
こんなイヤなところ、ぶっ壊して出ていこう
…いっしょに行こう、ライサ!
(手を伸ばし、握る)
「おにいちゃん、おにいちゃん……!」
血の涙を流し続ける『ひとくいライサ』に、
「ライサ、にーちゃんだぞ」
と、神坂・雷(赤雷・g11092)は穏やかに声をかけた。
「にーちゃん、料理なんてされてないぞ、ほら、元気だ」
ライサはこちらを振り向いたが、すぐにかぶりを振る。
「ちがう……」
「うん、ちょっと変わっちゃったところもあるけど、おれはずっと、ライサのにーちゃんだ」
ライサ以上に、雷の表情のほうが苦しげであった。ライサを怯えさせまいと懸命に笑顔を作るが、それがいっそう、雷の表情を痛ましいものにしている。
「ごめんな、ライサ。おれ、いけないことした。ライサが無事ならそれでいいなんて思って、手を離した。ライサをこんな怖いとこに置いていって……つらい思いをさせた」
「こわいよ……つらいよ……おにいちゃんを、わたしは……!」
ライサが嗚咽するのに合わせて、血の塊が蠢く。それは雷を拒絶するように。
雷の顔がゆがむ。新宿島の皆は「家族のためにしたことだ」と認めてくれた。
けれども、本当はただ、妹に「いけないこと」を押し付けて逃げたのではないか?
「あいつらに命をあげたこと、おれも本当は納得なんてしてなかったんだ。だから、俺は新宿島に流れ着いた。
今度はもう、間違えない。『つらい』ことも『いけないこと』も、ライサには押し付けない!」
雷が近づこうとすると、血の塊は棘を生やして威嚇してきた。それでも雷はライサに近づいていく。その棘が雷の手に突き刺さる。
仲間たちが駆け寄ろうとするが……雷はそれを押し留めて、
「ライサ、こっちを見ろ。にーちゃんはここだ」
と、微笑みを向ける。
「悪いやつもこわいものも、今度こそにーちゃんがぶッとばしてやる。こんなイヤなところ、ぶッ壊して出ていこう」
血の塊は蠢き、雷に覆いかぶさろうとする。それでも雷は手を伸ばし、
「……いっしょに行こう、ライサ!」
と、妹の手を握りしめた。記憶と寸分たがわない、細く小さな手である。
「……ッ!」
いやいやとかぶりを振っていたライサが振り向いて、雷を正面から見つめた。
その双眸から溢れ出たのは、澄んだ涙だった。
「おにい、ちゃん……」
「ライサ!」
雷の表情がパッと輝いた。
しかし血の塊は蠢き続け、雷にぶつかってその身体を吹き飛ばした。
「おにいちゃん!」
「だいじょうぶ……にーちゃんに、任せろ」
雷はすぐに立ち上がる。希望は、見えた。
🎖️🎖️🎖️🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!
神坂・雷
【奴崎組】の皆と参加(アドリブ歓迎)
ライサを助けるためなら、なんでもする。それはウソじゃない
だけど、おれの命は、あげられない。誰の命もあげられない
ここで「おれや誰かの命と引き換えても」っていったら…それはおれが一度「まちがえた」のと同じで、きっと、ライサが泣くのを止められない
仲間とは声を掛け合い連携、お互いの隙を減らす立ち回りを心掛ける
【狼突猛進】使用、血で出来た人型に真正面から突撃、つるはしでぶん殴る
【ダメージアップ】を乗せ効率よく敵の体力を削る
ライサのにーちゃんはおれだ!ニセモノは、どかーんだぞ!
敵の攻撃は、赤い電撃のオーラとつるはしで振り払う
自分や仲間の血をできるだけ人型に取り込ませないように、回避と【ガードアップ】を借りての防御を心掛ける
ライサが傷つくのはイヤだ。おれの仲間が傷つくのもイヤだ
ライサが、おれの仲間を傷つけるのも、すごくイヤだ
ここはイヤなことばっかりだ
でも、おれ、強くなったから!ライサといっしょの明日を、持って帰るんだ…!
見せたいもの、いっぱいあるんだ。一緒に行こう!
水上・鏡夜
【奴崎組】
アドリブ連携歓迎
良い啖呵だ
それでもこそ、だよ
じゃあ、最後の障害も退けて取り戻そうか
二人で一緒に過ごす未来をこの先に、ね
影があればそこはボクの間合いだ
四肢を拘束して動きの妨害を
積極的な攻めよりは味方のフォローを優先
致命を与えられるのは避けないとね
彼女に不要な咎を背負わせる必要はなんだから
トドメは可愛らしい子に任せるよ
縁を手繰り寄せてここまで来た
その手を繋ぐのは彼しかいないからね
反撃には鉄扇で庇える分は庇うよ
被弾は少ないほうがいいからね
【ガードアップ】も使って耐えるよ
最後まで見届けられたら満足さ
可愛らしい子達、兄妹のこれからに祝福を
ニコライと呼ばれる彼とになるかもしれないけれどそれでも可愛らしい子に違いはないからね
この地でも彼の地でも幸せにおなりなさい
括毘・漸
【奴崎組】
さーてさて、ご兄妹の完全なる再会まであと少し。
雷さんの手を届かせるために、悲劇から大事な人を取り戻すお手伝いを最後までさせてもらいますよ〜!
…大事な家族が奪われるのを目の前でやらせる訳にもいきませんからねぇ、ボクも全力ですよ。
銀のサーベルを鞘から引き抜き、切先を血の人形に向ける。
さてはて、雷さんを妹さんに向かわせるのにはあの人形が厄介ですねぇ………斬り分けますか。
雷さんをディフェンス対象にして守りつつも人形の相手を引き受けましょうか。
あの人形………影のようなものでしょうか?
なれば………血影を分けましょうか。
人形に向かって虚を突くように一歩踏み込み、床を踏み抜く勢いの震脚を以て姿勢を整えながら【影光拝み】を発動させ、人形とライサさんを斬り離すように銀のサーベルを斬り上げて、雷さんから人形を遠ざける。
人形が繰り出す突き刺す棘の攻撃は、サーベルで棘を捌き、血を取り込もうとしたらこちらも【吸血】を仕掛けて血を取り込むのを妨害します。
良き兄妹仲ですねぇ。
この光景だけでもボクは満足ですね。
鴻・刃音
【奴崎組】
※アドリブ、連携可
さぁ……舞台は整った。主役の二人は正しくその舞台に立ち、終幕へと向かおうとしている。
だったら私達脇役がその最後の時まで届けてあげる事、それが何よりの仕事。
雷さん。手を伸ばせば届く位置に求めたものがある、貴方はただ必死に掴み取る事だけを考えて。
余計なことは私達が切払うから。
私のやることは露払い。雷さんに迫る攻撃を可能な限り庇い、弾き、受け止める。そして道を創る事。
血で出来た人型を相手取り、雷さんへ向かわせない様切り払っていこう。
ただの剣なら効果も薄いかな。けれど、雷撃を纏わせた剣ならば焼き切れるでしょう?
恐らく最後の盤面になれば攻撃も苛烈になって来る。時間が立てばこちらの損耗も多くなり周りも見えなくなってくる。
その隙を突かれない様、常に冷静でいることを心掛ける。
死ななければ問題ないしね。幾らでも盾になるよ。
それで未来を掴めるのなら……安いものだから。
コリーン・アスティレーゼ
【奴崎組】
雷様、もう少しです。
あなたの手はもう届いている。
後はライサ様に握り返してもらうだけ。
だから、邪魔しないで下さい。(血液の人型に真っ直ぐ向かい)
「こちらです!」
通信後、壁を破って現れるサイドカー『風の馬』。
側車が変形し四肢に強化パーツとして装着されます。
『天使鎧装プログラムアクティブ! 力よ、此処に!!』
パラドクスで四肢の強化パーツが華奢な体躯に似合わぬ巨大さに変形、超怪力を発揮します。
覆いかぶさろうとしてくる血液の人型には怪力を活かして攻撃。
分厚いテーブルを摘まみ上げ、盾にしたり振り回したり。
直接殴りつけて粉々にしたり、両掌に挟み打って飛散させたり。
神速反応で攻撃も防御も確実に対処します。
仲間の立ち位置も意識し、攻撃が繋がるように立ち回ります。
「クロノス級はお引き取りを。もう出番はありません」
戦闘が終わったらライサ様に毛布を。
世の中辛いことが多いけれど、こんなやり直しがあってもいい。
兄妹の絆に幸あれと願います。
帰ったら皆で食卓を囲みましょう。組の料理自慢が待っていますよ。
ヴェルチ・アリ
【奴崎組】
…本当に何が正しかったのかなんて。きっと誰にもわかりやしないんだろう。
違う選択肢を選んだらどうなった?何が変わる?何が救われて、何が救われなかった?わからない。わかりやしない。結局、今の一瞬一瞬、このひと時こそが正解だ。もしもなんていくらでも考えてしまえるのだろうけど、そもそもそのもしもの土台を、かつての記憶を失っている僕には、それもまた縁がない。
だが今この瞬間、誰かを救えるならば。それだけは正しい事だ。
存分に使ってくれ。この、焼き尽くし燃やし熔かすだけの炎を。
【火炎使い】と【爆破】と【全力魔法】を使い、血の塊の中にパラドクスの灼熱を生み出し一気に発火。噴き出す爆炎を引きずり出すように奪い取る。
飛び出す血の棘には重装甲でガード、むしろこっちから掴み返す勢いでカウンターを狙う。
復讐には恩讐を。悲嘆には激情を。この炎をもって君の内のよくない衝動を焼き尽くし燃やし熔かす。
その感情を、衝動を血が流すというのなら。その悪い血を煉獄と劫火の果てに連れていく…!!
アドリブ、絡みを歓迎します。
フェルン・ゾーンビーン
・【奴崎組】
・しれっと参上雑魚ゾンビ。どうも俺です。かなりの遅刻ですが我らが奴崎組の少年の正念場だけに参加をお許しください赦してくれるねグッドディアボロス。
・さてそうは言いましたが割と真面目に誰かを救うとかいう雑魚ゾンビにはあまりにも不釣り合いで光栄が過ぎる戦いなので連携してしっかり相手に立ち向かいましょうね。
・とはいえ最早心の決着はついている様子であるならばあとは喧嘩するしかないでしょう全力で邪魔な血の人型をぶっ飛ばして差し上げましょう。
・【呼吸法】と【オーラ操作】で充分に全身の力を溜めた上で、ギロチンにパラドクスの力を宿して【両断】します。
・「首を出せ血の塊いや首どこかわかりませんのでとりあえずぶった切りますね」
・「キェェェェェ喰らえ必殺チェストゾンビ万象断!!」
・相手がごり押しで潰そうとしてくるんならゾンビもごり押しするんだよアンデッド古参種族であるゾンビ舐めんじゃねぇぞオラァン!
・人の幸せの為に戦えるなんてゾンビにもいい時代になったもんですまったく。
・アドリブや絡みを大歓迎です。
リューロボロス・リンドラゴ
よくぞ言った、雷よ。
我儘、欲張り、大いに結構。
幼子なのだ、多くを望んで良い。
ぬしも、ライサも。
沢山、沢山、願って良い、望んで良い、欲して良いのだ。
我はぬしらの望みに応えよう。
我は龍、我こそはドラゴン、我ら奴崎組。
ぬしらの友である!
――幼子よ、もう大丈夫だ。駆け付けるは竜である。
我が采配にて雷の願いを叶えよう。
ライサが我らを傷つけぬよう、皆を護ろう。(【ガードアップ】)
我が龍眼にて棘を捌いていこうぞ。
どれだけ棘を身に纏おうとも、棘である以上凹凸故の針の無い箇所もあるしの。
そこを突き穿っていこうぞ!
雷が棘で覆われたライサの心を救い出したようにの!
くははは、ま、パラドクス相手に理屈は通じぬがそれはそれよ!
我が采配もまたパラドクス故に!
さあ、助け出せ、雷よ。
ニコライの願いものせて!
クロノヴェーダという檻から妹を解き放つのだ!
ライサよ、ぬしを囚える檻は我らが木っ端微塵に粉砕しようぞ!
●ひとくいライサ
「おにいちゃん……!」
クロノス級ヴァンパイアノーブル、ひとくいライサ。彼女は今、澄んだ涙を流しながら神坂・雷(赤雷・g11092)を見上げていた。
しかしその傍らにある血の塊はライサから離れることなく、「おにいちゃん」という言葉に応じて蠢いた。
「ライサのにーちゃんは、おれだ! ニセモノはどかーんだぞ!」
雷はつるはしを握りしめ、声を張り上げる。
だが、血の塊は「ライサの求めに応じて」雷に襲いかかり覆いかぶさろうとしてくる。
「くそーッ!」
雷の闘気が赤く輝く。それは自身の昂ぶりに呼応してバチバチと激しく放電し、血の塊とぶつかり合った。雷がつるはしを振り回すと、血の塊は跳び下がるようにそれを避ける。
「ライサを助けるためなら、なんでもする。それは、ウソじゃない。
だけど、おれの命はあげられない。誰の命もあげられない。ここで『それと引き換えても』って言ったら……それは、おれが一度『まちがえた』のと同じで、きっとライサが泣くのを止められないから!」
ライサの目をまっすぐに覗き込み、雷は声を張り上げる。
「よい啖呵だ。それでもこそ、だよ」
水上・鏡夜(添星・g09629)が『黒鉄の扇』を広げて口元を隠しながら、目を細めた。扇の下で、その口元はほころんでいるのだろう。
「……本当に何が正しかったのかなんて、きっと誰にもわかりやしないんだろう」
ヴェルチ・アリ(GE-07・SOL01847・g03614)が顔をしかめる。
「違う選択肢を選んだらどうなった? 何が変わる? 何が救われて、何が救われなかった?
もしもなら、いくらでも考えてしまえる」
ヴェルチにはかつての記憶がなく、振り返る土台さえ持っていない。うつむくヴェルチ。
しかしだからこそ、だ。
「……そんなものはわからない。わかりやしない。結局、今の一瞬一瞬、このひと時こそが正解だ。
この瞬間に誰かを救えるならば。それだけは正しいことだ」
顔を上げたヴェルチは緑色の瞳で雷を見つめ、
「存分に使ってくれ。この、焼き尽くし燃やし溶かすだけの炎を」
と、頷いてみせた。
ディアボロスたち全員の目、慈しむような励ますような視線が、雷に集まっていた。
「みんな!」
顔を輝かせる雷。
「頼りにしてるぞ!」
「じゃあ、最後の障害も退けて、取り戻そうか。ふたりで一緒に過ごす未来をこの先に、ね」
鏡夜は、ゆらゆらと燃え続ける明かりが作り出す自らの影に視線を落とす。
「さーてさて、ご兄妹の完全なる再会まで、あと少し。雷さんの手を届かせるために、悲劇から大事な人を取り戻すお手伝い、ボクも最後までさせてもらいますよ~!」
銀のサーベルを鞘から抜き放ち、血の塊へと突きつける括毘・漸(影歩む野良犬・g07394)。
「大事な家族が奪われるのを、目の前でやらせるわけにもいきませんからねぇ、ボクも全力ですよ」
鴻・刃音(夢現・g06022)も『聖ゲオルギウスの長剣』を構え、
「雷さん。余計なことは、私たちが切り払います。貴方はただ、必死に掴み取ることだけを考えて。手を伸ばせば届く位置に……求めたものがある!」
舞台は整った。主役であるふたりはすでにその舞台に立ち、終幕へ向かおうとしているのだ。
……私がやることは、露払い。
私たちは、脇役。ならばその役割は、主役のふたりを最後の時まで届けてあげること。
「それが、なによりの仕事!」
刃音は全身に電気を纏いつつ、床を強く蹴って間合いを詰めた。ライサは恐れを抱いた眼差しでこちらを見上げてくるが……。
「ライサ! ちょっとのあいだ、我慢してくれ!」
襲い来る血の塊を、雷はつるはしで受け止めた。
ライサを傷つけることは、嫌だ。そんなことは言うまでもない。
しかしライサの身体はクロノス級のそれへと変じており、現に血の塊はライサに繋がって離れないのだ。まずは血の塊を、そして場合によっては、ライサの身体を傷つけることも厭うてはいられない。最後に、人の姿を取り戻すことを信じて。
「……ここは、イヤなことばっかりだ!」
それでも妹につるはしを突き立てることは憚られたのか、雷は拳を握りしめてライサの腹を打った。
血の塊が鎧うように、間に滑り込む。無論、雷の心を慮ってではない。自身の「本体」を守らんがためである。
「つくづく、悪趣味な……!」
刃音は可能な限り血の塊を狙い、切りつけた。ただの剣では効果は薄かろう。しかし電撃を纏う刃音のパラドクスはその血の塊を焼き切り、傷つける。
「あああ……!」
ライサが悲鳴を上げた。「正気」を保つことは難しいか、彼女は血の塊にすがるように助けを求める。血の塊はそれに応じて、刃音に覆いかぶさってきた。その重みに耐えかね、
「ぐ……ッ!」
刃音が顔をしかめる。
「つくづく厄介な人型ですねぇ……ならば、血影を斬り分けましょうか」
床を踏み抜くような震脚。漸の踏み込みである。
隙あり、虚あり、気抜きあり。血の塊が刃音に襲いかかっている隙に、漸は姿をかき消し気配を殺し、ライサの背後に回っていた。そして一気に間合いを詰め、凄まじい震脚とともにサーベルで斬り上げたのだ。
それはライサと血の塊との間を両断し、両者はそれぞれによろめいた。血に呑まれぬように。漸はサーベルを振って血を飛ばしつつ、敵の出方を窺う。
だが、一度切り分けても、血の塊は再びライサと繋がって襲いかかってくる。
その狙いは雷である。
血の塊にとって、ライサに過去を思い出させるその存在はよほどに邪魔なのか。
刃音と漸は雷を庇うように立って、襲い来る血の塊、そして伸びてくる棘を打ち払っていく。
先ほど覆いかぶさられたときに、抉られ、血肉を啜られたか。気がつけば刃音の左腕は赤く染まっていたが、
「死ななければ、問題ないし。いくらでも盾になるよ。それで未来をつかめるのなら道を創れるのなら……安いものだから!」
鋭い棘が、漸の脇腹に食い込んだ。漸の血を巻き込んで血の塊は質量を増していくが、
「血を取り込むつもりなら、ボクだってねぇ!」
彼もまた、吸血鬼。棘によって血を啜られながらも、逆に【吸血】を仕掛けて一歩も譲らない。
「たすけて、たすけて……ッ!」
ライサはなおも悲しげな悲鳴を上げ、その求めに応じるかのように、血の塊は襲いかかってくる。
●我ら、奴崎組
「こちらです!」
その時、壁を突き破ってコリーン・アスティレーゼ(カーテシー・g02715)のサイドカー『Windpferd(風の馬)』が、側車に搭載した武装で壁を突き崩しながら飛び込んできた。
「ああ……ッ」
血の塊の方がライサ本人を引っ張るようにして、退く。後輪を横に滑らせつつ、停車するサイドカー。その側車から、フェルン・ゾーンビーン(雑魚も群れれば砕けにくい・g11501)がひょいッと飛び出した。
「しれッと参上雑魚ゾンビ。どうも、俺です。
「かなりの遅刻ですが、我らが奴崎組の少年の正念場だけに、参加をお許しください。
許してくれるね、グッドディアボロス?」
少しも許しを請うようには見えない表情、ぺろりと舌を出して、フェルンは目を眇めた。
「もちろんだ、来てくれてありがとな!」
雷から満面の笑みを向けられたフェルンは、
「うわ、まぶし」
と、大げさにのけぞってみせる。
「聞こえておったぞ、雷よ。よくぞ言った」
コリーンの背にしがみついていたリューロボロス・リンドラゴ(ただ一匹の竜・g00654)も降りて、通信機をはめた耳をつつきながら、ニヤリと笑う。
「我儘、欲張り、大いに結構。幼子なのだ、多くを望んでよい。ぬしも、ライサも。
沢山、沢山、願ってよい。望んでよい。欲してよいのだ」
ふたりに向けるリューロボロスの眼差しは、この上なく慈愛に満ちたものであった。
「幼子よ、もう大丈夫だ。駆けつけるは龍である。我は、ぬしらの望みに応えよう。我は龍、我こそはドラゴン。
そして、我ら奴崎組……ぬしらの友である! 皆よ、そうであろう?」
リューロボロスの問いかけに、ディアボロスたちはそれぞれに「応」と返してきた。
それが気に入らぬと言うわけでもあるまいが、血の塊は全身に棘を生やしてリューロボロスに襲いかかってきた。
「我が采配は奇才と知れ! 我が采配にて雷の願いを叶え、ライサが我らを傷つけぬよう、皆を護ろう!」
リューロボロスは『龍眼』をギョロリと動かして、その1本1本を見極める。
「幼子の敵よ」
万象を見通す龍の瞳は、それを見逃すことはない。
リューロボロスの腕を守る『竜の爪』から、鋭い爪が生える。その爪で襲い来る棘を打ち払い、
「どれだけ棘を身に纏おうとも、凹凸はある。針のない箇所を狙うのみよ」
鋭い爪が、その隙を穿った。
「さぁ、コリーンよ、フェルンよ! 続けて突き穿っていこうぞ! 雷が、棘で覆われたライサの心を救い出したようにの!」
「はい! 天使鎧装プログラムアクティブ! 力よ、此処に!」
コリーンの跨っていたサイドカーが変形する。それは四肢を覆う強化パーツとなった。
「行きましょう、フェルン様」
「えぇ、えぇ。人の幸せのために戦えるなんて、ゾンビにもいい時代になったもんです、まったく」
分厚い刃を持つ、まるで大鉈のような鎌をフェルンは握りしめる。
「真面目に誰かを救うとかいう、雑魚ゾンビにはあまりに不釣り合いで光栄がすぎる戦いですからね。しっかりやりましょうかね」
血の塊はフェルンに覆いかぶさり、血を啜らんと襲いかかってくる。フェルンは真っ向からそれを迎え撃ち、振り払われる大鎌によって辺りには鮮血が飛び散った。
しかし血の塊は元来が不定形であり、飛び散った血も再びひとつの塊へと戻って来る。
「効いていない?」
コリーンは『FlammenJagdhunde(炎の猟犬)』の大出力を用いて、鹿肉が載ったままのテーブルの足を掴んで持ちあげ、叩きつけた。飛びかかってこようとした血の塊がそこに衝突し、またしても血が飛び散る。
「いや。通じぬはずはあるまい」
戦況を見渡し、リューロボロスが頷く。
「ただの刃ならばそうもなろうが……くはは! パラドクス相手に理屈は通じぬゆえ!
ライサよ、ぬしを囚える檻は、我らが木ッ端微塵に粉砕しようぞ!」
あれは、怯え泣いている幼子よ。そう思えば、リューロボロスには相手がどのような出方をしてくるか、よく分かる。その采配もまた、パラドクス。
その助けを得て、フェルンとコリーンとは一気に間合いを詰める。
「心の決着がついているんなら、あとは喧嘩するしかないでしょう。どこが首かもわかりませんので……とりあえず、ぶッた切りますね」
「まぁ……そうなりますね」
限界突破した、ゾンビのパワー。フェルンはのしかかってくる血の塊を押し返し、敵の「手足」を斬り捨ててさらに間合いを詰める。
コリーンもテーブルを敵に叩きつけながら、飛び込んでいく。
「そっちがゴリ押しで潰そうとしてくるんなら、ゾンビもゴリ押しするんだよ! アンデッド古参種族であるゾンビ、舐めんじゃねぇぞオラァンッ!」
フェルンが、大鎌を大上段に振り上げた。
「キェェェェェッ! 喰らえ必殺チェスト『ゾンビ万象断』ッ!」
「ひ……」
ライサが引きつった顔で見上げてくるのは、いささか哀れにも思えたが。
「クロノス級を討つまではお許しを、ライサ様。
……さぁ、クロノス級はお引き取りを。もう出番はありません!」
フェルンの振るった大鎌は切り裂くというよりも引き千切るように血の塊の「首」を飛ばした。そこに、コリーンの大きく振りかぶった拳が襲いかかる。強化パーツに覆われた腕に装着されたパイルバンカーは切断された「首」に叩きつけられ、それは水風船のように割れて四方に飛び散った。
●ライサの炎
飛び散った血は元の塊へと戻ることはなく、絨毯を真っ赤に染め上げている。「首」を失った血の塊は再び蠢いて人の姿を取り直したが……その大きさは、一回り小さくなっている。
「このまま削り続けてやる!」
飛びかかる雷であったが、
「来るぜ!」
鏡夜が鋭い声を発した。強い警戒が込められた声に、とっさに横に飛ぶ雷。
一方で鏡夜は自らの影から漆黒の茨を伸ばす。それはうねり絡みつき合いながら、血の塊へと迫った。
四肢を押さえつけられた血の塊が、ブルリと震えた。かと思えば、それは激しく飛び散ったではないか。その勢いは弾丸のごとく周囲に襲いかかり、室内の調度を粉砕し、天井近くで揺れる明かりを消し飛ばした。
幸い、跳躍した雷に傷はない。
「よく避けたね、可愛らしい子」
目を細める鏡夜であったが、その肩からは血が流れていた。そして、鉄扇にも血が付着している。いや、鉄扇の血はクロノヴェーダのものである。襲いかかる血の弾丸を鉄扇で弾き返したのだが、1発だけは避けきれなかった。飛び散った鏡夜の血を取り込みながら、クロノヴェーダは元の塊へと戻っていく。
「鏡夜ちゃん」
ヴェルチが駆け寄って支えようとするが、
「大したものじゃない。
そう咎と背負う必要もないよ。気にしなくていい」
そう言って、
「ああ、あ……」
怯えたように口元を抑えるライサに微笑む。
「そうは言っても、辛くないはずもないね……」
ヴェルチは炎を操り、消えた明かりを再び灯した。ライサはクロノス級の支配を受けつつも一方で抗い、正気と狂気の間にあると言ってよい。
その心の内を思い、ヴェルチはかぶりを振った。
鏡夜は鉄扇に付着した血を拭い、目を細める。
「ボクがもう一度抑え込む。……二の矢は任せた。
縁を手繰り寄せて、ここまで来た。その手を彼に繋いでもらうために、ね」
「了解」
ヴェルチが飛び込み、鏡夜は漆黒の茨を伸ばす。
「冥き陰より咲くは、漆黒の茨なり」
伸びてくる漆黒の茨を、血の塊は跳躍して避けようとした。しかし、茨は鏡夜の影と繋がった、粉砕されたテーブルの影からも伸びていく。
「……ッ!」
茨はライサ本人へと絡みつき、その動きを縛りつけた。
「苦しいかもしれないけれど……君の内にあるよくない衝動を焼き尽くすから、辛抱してくれ!」
拳を握りしめ、ヴェルチはライサへと迫る。
復讐には、恩讐を。
「輪廻の灯火、沸き上がる情念の亡霊よ。お前を、灼熱と劫火の彼方へ連れていく!」
敵の内に潜む復讐や憎悪といった強い感情が、炎となって一気に燃え上がり、臓腑を焼き焦がす。
というものであったが。
「……これが、彼女の心か」
ライサの心の内は、怒りよりも悲しみで満ちていた。兄の命が失われたこと、その原因が自分にあること。ヴェルチはその心の内を、さらに探る。怒りといえば、ヴァンパイアノーブルどもが兄を傷つけたことであった。
それは猛々しい炎ではなく、優しい炎。炎はライサ自身ではなく、その内に潜むクロノヴェーダのみを焼き焦がすだろう。復讐という感情は、ヒトの手に余る代物だ。しかし、この温かな炎であれば。
血の塊はヴェルチとライサとの間に割って入るように飛び出して、全身から鋭い棘を発した。
しかしヴェルチは装甲の厚いところでそれを受け止めつつ、その塊を鷲掴みにした。
「その悪い血だけを、煉獄と劫火の果てに連れて行く……ッ!」
そして逆の拳で、クロノヴェーダの腹を打つ。小さな身体は血の塊とともに吹き飛ばされ、弾けた血の塊によって全身は朱に染まった。
●わたしのおにいちゃん
よろよろと「立ち上がらされる」ライサ。
クロノス級へと覚醒したライサの心の内にあった、兄を失った悲しみと後ろめたさ。それが歪んだ形として現れたのが、この血の塊なのであろう。しかしライサにまだ正気が残されている今では、その主客は逆転し始めているようにも見えた。
「好き勝手して……許せねぇんですよ」
フェルンは相変わらずふざけたような口ぶりだが、荒々しく大鎌を振るって血の塊を弾き返すところには本音が漏れ出ているようにも思える。
「雷様、もう少しです! あなたの手はもう届いている。あとは、ライサ様に握り返してもらうだけ」
「うん! わかってる!」
コリーンに向かって雷は頷き、
「もうすぐだ、もうすぐだぞライサ!」
と、なおも妹に呼びかけた。
クロノヴェーダに向き直ったコリーンは、四肢パーツの出力を上げて敵を押し戻す。
「だから、邪魔しないでください!」
「もはや最後の盤面……!」
しかしディアボロスにも、疲労の色は濃い。刃音の額には汗が滲んでいる。荒くなる呼吸を努めて整え、刃音はなおも襲いかかってくる血の塊に立ち向かった。
伸びてくる「腕」を、聖別された長剣で斬り飛ばす。
「雷さんへは向かわせません。端役は、いい加減に退場してもらわなければ!」
「ならば今度こそ、ライサさんと切り離してやりましょう」
またしても敵の側背を突いて、漸が踏み込んだ。
敵は血の棘を伸ばすが、
「電光石火、見てからでは遅いんですよ!」
同時に、電気を纏った刃音も踏み込んでいる。襲い来る棘も覆いかぶさる血の塊もその速さには及ばず、血の塊が切り離された。
「さぁ、こちらの相手はボクたちが引き受けますよ。雷さんは、妹さんの方へ!」
と、漸は促す。
血の塊は再びライサと融合しようとするも、鏡夜が伸ばした漆黒の茨が絡みついて思うようにはいかない。
「トドメは、可愛らしい子に任せるよ」
「さぁ、助け出せ雷よ。ニコライとしての願いものせて! クロノヴェーダという檻から、妹を解き放つのだ!」
戦機はこの一瞬にある。リューロボロスは声を張り上げ、雷の背を押す。
その言葉が終わるよりも前に、雷は飛び出していた。彼の嗅覚が、それ以上に妹を想う心が、この一瞬にしか好機はないと感じ取っていた。
ライサが傷つくのはイヤだ。おれの仲間が傷つくのもイヤだ。ライサがおれの仲間を傷つけるのも、すごくイヤだ。
本当にここは、イヤなことばっかりだ。ライサも、そう思うだろ?
「でも、おれ、強くなったから! ライサといっしょの明日を、持って帰るんだ……ッ!」
「うん、おにいちゃん……!」
伸びてきた血の塊が、頬を裂く。しかし雷はそんなことに見向きもせず、渾身の力でつるはしを振り下ろした。
「ぶッとべーッ!」
血は室内のすべてを赤く染めるほどに飛び散り……二度と塊とはならなかった。
「ライサ!」
微笑みをたたえたまま、ゆっくりと崩れ落ちるライサ。雷は慌てて駆け寄り、その身体を受け止めた。
ライサの全身からは力が抜け、動かない。ディアボロスたちは固唾をのんで、その姿を見守った。
「みなさん!」
ライサの身体に毛布をかけてやろうとしたコリーンが、皆を振り返った。透き通るような白い肌のライサだが、その肌が赤みを増してきたのだ。
それは生命の、赤だ。
「やった……!」
「やりましたね……よかった……!」
ヴェルチと刃音とが表情を輝かせて、顔を見合わせた。
「本当に、よかった」
刃音が再度、しみじみと呟く。掴めたのだ、未来は。
ライサのまぶたが、ゆっくりと開く。
「ライサ!」
「うん」
まだぎこちないが、ライサは雷の膝に身を委ねながら、微笑んだ。
「ライサ……ッ!」
雷が袖で、目元を拭う。ライサの目からも、透き通った涙がこぼれ落ちた。
「よき兄妹仲ですねぇ。この光景だけでも、ボクは満足ですね」
「ボクも満足さ。最後まで、見届けられたからね」
漸が微笑む隣で、鏡夜も笑う。
「この可愛らしい子たちのこれからに、祝福を」
しかしリューロボロスが、雷の前に立って見下ろしてきた。
「さて。そうのんびりともしてはおられんぞ。まもなく、この世界は崩壊を始めよう。それに……」
ニヤリと笑う、リューロボロス。
「新宿島に帰ったら、祝勝会が待っておろう。いや、それとも歓迎会か?」
「そうですよ、雷様! 帰ったら、皆で食卓を囲みましょう。組の料理自慢が待っていますよ!」
と、コリーンが両手をぱちんと合わせた。
「おぉ、そりゃあいいですねぇ。今どきのゾンビは、美味いものにも目がないんですよ」
フェルンがピアスの光る舌を大げさにぺろりとさせると、ディアボロスたちからは笑いが漏れた。
「ライサ。おれ、見せたいもの、いっぱいあるんだ! 一緒に行こう!」
笑った雷が、ライサの身体を抱き上げた。その力強さは、ライサの記憶にはなかったものである。
しかしライサは幸せそうにその腕の中に身を委ね、微笑んだ。
「うん、мой брат(わたしのおにいちゃん)……!」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】がLV3になった!
【浮遊】LV1が発生!
【平穏結界】がLV2になった!
【パラドクス通信】がLV3になった!
【熱波の支配者】LV1が発生!
【エイティーン】LV1が発生!
【神速反応】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!
【反撃アップ】がLV3になった!
【命中アップ】がLV4になった!
【能力値アップ】がLV3になった!
【リザレクション】がLV3(最大)になった!
【ガードアップ】がLV2になった!
最終結果:成功 |
| 完成日 | 2025年05月01日 |
| 宿敵 |
『ひとくいライサ』を撃破!
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