リプレイ

●チョコがいっぱい
　街いっぱいに溢れる甘い香りと一緒に、それぞれが思い思いの武装を身に付けたり、水着姿の人や、逆にいっぱい着込んだ人が街に集ってくる。
「ふむふむ。つまり、あたし色に染めればいいのかな？」
「今回の勝利条件、敗北条件はチームのマスコットが相手のチョコに染まりきったら、なんですね」
　白猫チームの陣地で、お祭りのルールを確認していた月下部・鐶（さいつよのお姉ちゃん・g00960）は、既に騎士の如き甲冑姿で万全の準備で、月下部・小雪（おどおどサマナーところころコダマ・g00930）を守るべく気合十分だ。
「今日のあたしはお姉ちゃんを全力で遂行すべく、いつものへそだしルックを捨てるよ！」
「お姉ちゃんがフルアーマーお姉ちゃんにパワーアップ、しています！？」
　トレードマークのような服装を封印し「小雪ちゃんを守るぞー！」と、
「相手チームの人やマスコットを染めるだけでなく、攻撃の仕方や護り方も得点になるみたい、です」
「それって芸術点ってやつだね！」
　任せてと鐶は頼もしいが、このままではマスコットではなく小雪だけを全力で守りそうだ。
　もきゅもきゅと、尋ねてくるのは小雪のサーヴァント。モーラット・コミュ『コダマ』である。
　自分もマスコット。しかも白いと毛並みをアピールして来るが、今日の祭りのマスコットは、奥に鎮座している猫だ。
「えと、コダマもマスコットさんですが、きょ、今日のマスコットはあっちの白猫さんです。コダマも頑張って守ってあげて、くださいね」
　いや、もしかするとコダマこそ守らないといけないかもしれない。
　なんたって白いフワフワ毛並みなのだから。
　開始を告げるラッパが高らかに鳴り響き、チョコレート戦争の幕が切って落とされた。
　人々が、チョコの入った水鉄砲や水風船を手に、勢いよく飛び出していく。
　たちまち街が白と黒に染まっていく。
　黒犬チームの人が近づいて来れば、ここは通さんぞと、前に出つつ鐶は水風船が山盛りの樽を横に置き、弾幕の如き勢いで水風船をポイポイ。
　大量の水風船が向かって来れば、相手は被害を最小にしようとガード体制になったり盾を掲げたりしながら身を低くしたり。
　だが油断大敵。そこにはガンマンとなったコダマが二丁の拳銃を構え。小雪と合わせて四丁の拳銃が待ち構えている。
「で、でも、ボクも守られているばかりじゃありません」
　目の前に迫る黒猫チームの人に、ホワイトチョコの四重撃を浴びせたら、そのまま横へ飛んで後ろの人にもチョコをお見舞い。
　なんて駆け回っていれば、無防備な小雪のとこに水風船が大量投下。
　ピーンチ！
　なんて思っていれば、颯爽と鐶とコダマがとび出し、小雪がチョコまみれになるのをガード。代わりに二人はいっぱいチョコを被っちゃった。
「ビターだけど、けっこうまろやか……じゃなくて！」
　その隙に、黒犬チームの人達がマスコットに迫る。
「はっ！？　……守るのは小雪ちゃんじゃなくてマスコットの方だった！」
「お姉ちゃん、白猫さんに近づく相手をバンバンチョコまみれにしちゃいましょう！」
「小雪ちゃんとコダマちゃんの、水鉄砲フル装備姿のなんという頼もしさ！」
　あたしも続くよと、今度は上空も警戒しながら鐶もマスコットのガードへ。
「今度は上から白猫を狙ってくるふとどきものがいても、全部察知して、全力投球の水風船をお見舞いするよ！」
　気分はまるで対空砲。
「いくよー、小雪ちゃん！」
「はい、お姉ちゃん！」
　コダマも―ともっきゅもきゅ掛け声をあげながら三人は、いっぱいチョコをバラ撒いてチョコをいっぱい浴びて。終わる頃にはコダマがすっかり色黒モーラットに。　
「コダマも白猫さんを守った名誉の負傷でチョコダマになっちゃい、ましたね」
「キュー？」
　おいしいよと言いたげにコダマは小雪に小首を傾げ、ぶるるッと身体を震えば、まさかの伏兵。小雪にもチョコが追加でいっぱい。
　お顔についたチョコに鐶と小雪は顔を見合わせ、声をあげて笑ってしまった。
「けっきょくみんなそろってチョコレートだらけになったけど、楽しかったので二重丸、だよ！」
「えへへ、結局チョコレートだらけになっちゃいましたが、とっても楽しかった、です」
　後は、どちらのチームが勝ったのか報告を楽しみに、今日の活躍に大成功をつけるのであった。












●どちらのチョコがお好き？
　高らかに開始を告げるラッパが響く。
　黒白どちらのチームも勢いよくとび出した。
「勝ち負けがあるンなら、そりゃァ勝ちを獲りにいきてェよなァ」
　先に攻撃を仕掛けたのは黒犬チームの伏見・萬（錆びた鉄格子・g07071）だ。
　何故か片手にスキットルを持ち酒を煽りながら、その手の中でぐにぐにとチョコ入り水風船を弄び、相手に直接叩きつけるが如き勢いで振りかぶる。
「あ？　何で黒犬チームかって……俺、イメージカラーってェの？どっちかってと白よか黒だよなァと思ってな」
　ぐびりと答えながら酒を探し込み、もう一度ルールを再確認。
「……で、コイツを相手にぶつければいいんだよな」
　手の握力で弾けそうなほど弄ばれてた水風船は、今度は豪速で白猫チームの元へと飛んでいった。
「こんなバレンタインもあるのね」
　まずは味見をと、水鉄砲に装備される前のチョコレートを孫・リア（勇武と炎を胸に秘めて・g03550）は口にしにっこりと表情を緩めた。
「……うん！ビターな味わいが美味しい！じゃあ白猫を黒猫にしちゃいましょう！　ちょっとやってみたい事あるのよね……」
　そう言って、リアは無双馬『星星』の首に水風船入りの籠をかけさせ、「じゃん！」と両手に水鉄砲を持ち騎乗した。
「水鉄砲二丁流！　これで縦横無尽に戦うわよー！」
「やるからには勝ちに行くつもりじゃないとな」
「当然。頼りにしてるわよ喩嘉殿」
　戦争と名がつくならば、軍師としての喩・嘉（瑞鳳・g01517）の才は頼りになるに違いない。後ろは任せたと、リアは星星と共にチョコレート飛び交う戦場へと躍り出ていく。
「要請がありゃァ、その通り動くぜ。おめェが軍師だ、喩嘉」
　そう萬からも期待され、リアの背がチョコの嵐に消えてくのを見送り、喩嘉が取り出したるは弓矢。
　この距離なら、十分届くと番えた矢に水風船をつけ、後方より直接相手のマスコットを狙おうというのだ。
「俺は水鉄砲よりもこっちの方が慣れてるんでな」
　もちろん一般人も居るので、当たっても痛くないような威力の低いものにしているが、その狙いは正確だ。
　萬が派手に水風船を相手にぶつけ、ビターチョコを撒き散らし目くらましにした瞬間、放たれた喩嘉の矢が隙間を抜けていく。
「危なっ！？」
　横を掠めた矢に守都・幸児（祥雲・g03876）がヒヤリとし、次の瞬間しまったと焦り振り返った。
「これじゃ一面しか守れねえし、猫のほうがでかいから水風船が素通りだ」
　マスコットを守るべく白猫チームの幸児は、その正面に立ち塞がっていたわけだが、喩嘉
の一矢は容赦ない。
　その実力は良く知っているが、敵に回すと厄介だと言うことも心得ている。
　体のでかい俺がマスコットの前に立って壁になればと、立ち塞がっていたわけだが。一面を守るには十分だが、それ以上に塞がっていても彼の矢が隙間を抜けていってしまう。
　こうなってしまっては、ただ壁になるだけでは防ぎきるのは不可能だ。
「幸児殿、安心してください。護りは完璧ですよ」
　間に合いましたとシャムス・ライラ（極夜・g04075）が一息ついたそこには、ビニールシートに覆われた白猫のマスコットが鎮座していた。その姿はまるで防護服を纏ったようにも見える。
　しかも、何故か三体に増えていて。
　一体何がと思えが、増えた白猫がゆらゆら。
「分身の術、なんてね？　ほら、こうすれば狙いも付け難くなるかもだし……」
　着ぐるみの中から文月・雪人（着ぐるみ探偵は陰陽師・g02850）が、楽しそうに言う。
「お二人とも、私より素早いですね」
　隙が無いと手旗信号を振るうダンジョンペンギン『フラート』を守りながら、️ルゥルゥラナ・レイラ（宵闇の刃・g08924）が感心したように息を吐いた。
　何があったかというと、開始と同時にシャムスは迷わずマスコットの防護に動いていた。
　勝利条件と明確に示されているのは、マスコットの染め具合。他にも点数は至るとこで換算されるが、敗北が決まるなら守るのは必然。
　アイテムポケットから取り出したるビニールシート（透明）で覆ってしまえば、白猫さんは防護服に守られ暫くはビターチョコの猛威から逃げられるという寸法だ。
「これも幸児殿が正面を護って下さったおかげです」
　とはいえ、短い時間で仕上げたのは匠の技ともいえよう。ルゥルゥラナが関心して、仕上がりを見てると雪人が着ぐるみの中から声をかけてくる。
「ルゥルゥとフラートも、白猫仲間だよろしくね！」
「よろしくお願いします。雪人さんは着ぐるみなんですね」
「お祭りでマスコットと言えば、やっぱりこれは欠かせないと思うんだ。白猫マスコットにそっくりな、白猫着ぐるみ姿でどーん！　もう一体、小さめの着ぐるみの中にはクダ吉が入ってるよ」
　その言葉の通り小さい方の白猫ぐるみから、クダギツネ『クダ吉』がこんにちは。
「かわっ……！」
　あまりの可愛さにルゥルゥラナは言葉を失い。ヤキモチをやくようにフラートがその足をつついていた。
「着ぐるみ着たかっただけだろうなんて、キノセイキノセイ♪」
　とっても楽しそうな雪人の様子に苦笑を浮かべつつも、この守りがいつまでも破られない訳ではない。白猫チームも反撃開始だ。
「隠密を旨とする職業でございます故、ここからは忍んで参ります。そういえば、ルゥルゥ殿も同じでしたね」
「ええ、行きましょう。相手はかなり手ごわそうですね」
　後方から喩嘉が指揮をとっているのか、リアや萬を筆頭に、だんだん黒犬チームの動きに統制が生まれつつある。
　これは時間をかけるほど、相手が手ごわくなってしまうかもしれない。
　そう判断したシャムスは水鉄砲を懐に、黒茶系の迷彩を纏い戦場へと忍んでいく。
　祭りは既に大賑わいで、チョコの嵐のように白と黒が広場を飛び交い、あたりは甘い匂いに溢れていた。
「チョコをかけ合う祭りか。なんだかチョコが勿体ねえ気もするが、豊穣を祝う祭りの捧げ物みてえなもんか」
　甘いと聞いていたが、一休憩とホワイトチョコを味見。
「ホワイトチョコ好きなんだよな。ん、甘くて美味い」
　薄くなってるとはいえ、その味は口の中に広がりとっても美味しい。
　いやいや、今はこんなことをしている場合ではなかった。こうしている間にも、黒犬チームは、何だか軍のように纏まって攻めて来ている。
「シャムが防護してくれたビニールが活躍しているうちに、攻めに行くか。雪人、クダ吉も防御ありがとうな……攻撃は任せろっ！」
　幸児が前へと動くを喩嘉は見逃さない。そろそろ頃合いだろうと、萬に合図すれば正面から打ち合うように彼らが対峙する。
「的を覆うたァ策士じゃねェか。あんなの、覆いを引っぺがすか穴でもあけて、中に水風船ぶっこめば終わりだろ」
「ははっ。試してみるか。その前に俺が通さねえぞ」
　豪快に水風船を萬と幸児は水風船を叩きつけ合い、黒と白のチョコがシャワーのようにどちらのチームとか関係なく降り注ぐ。
　チョコレートの飛沫が飛び交う中、萬と幸児は水風船を再びぶつけ合い、今度は組み合った。
　これで暫く互いに攻めることは出来ない。
　その隙に、星星と共に颯爽とリアが二丁拳銃で撃ちながら、二人を飛び越えていく。
「リアの二刀流格好いいな……って感心してる場合じゃねえ」
「どんどんビターチョコ撃ち込んで黒猫にしちゃうわ！」
「ははっ、楽しいなあ」
　顔面に掛かったチョコに、うわあーと慌てていれば、なるほどビターチョコも美味しいと幸児は思わず口元をペロリ。
　次にリアの前に立ち塞がるのはシャムス。
「リア殿、二丁拳銃とは！　しかし、あの黒犬をせめてダルメシアンにするまで諦めません！　すいません、雪人殿、クダ吉、猫さんの守りはお願いしました！」
　攻める方に集中と再びシャムスは人混みに紛れ、リアはその姿を追い切れず見失い。こちらも攻めるのみと、追うのは諦め突き進むことに。
「幸児、シャムス、攻撃は任せた！」
　さあ、かかってこい。本物はどれかなとシャッフルしてみたり惑わしながら待ち構えれば、黒犬チームの精鋭は同時に水鉄砲を構える。
　これは一斉斉射というやつではないか。
　喩嘉の合図で放たれた銃撃が、雪人とクダ吉の入った着ぐるみをビターに染めていく。
「纏めて狙えばいいって？　にゃー！　待って待ってー！！」
　このままやられる訳にはと、水風船を撃墜しようと動けば、すかさず次の号令が飛ぶ。
　動いてしまえば、着ぐるみとマスコットの区別は一目瞭然。
　切り込んできたリアが、二丁の水鉄砲で雪人とクダ吉の着ぐるみに狙いをつけ。その間に、守りの薄くなったマスコットへと喩嘉の矢が飛ぶ。
　あえなく白猫を守ってた防護ビニールシートは破れ、再び無防備に。
　必死に雪人は横跳びし、白猫を守りながらお返しの水風船も忘れない。
　更にチョコレート戦争は激化し、辺りは白も黒も関係なく甘い匂いと大勢の歓声に包まれた。
　そろそろ、勝敗がつくだろうか。
　混雑している一帯を抜けた幸児は、今度こそと狙いを定め飛んできた喩嘉の矢を水鉄砲で撃ち落とし、その間にシャムスが黒犬と喩嘉の前まで一気に距離を詰める。
　ここは盛大に。大量の水風船をバラまけば全てを防ぐことは出来ないだろう。
　避ける素振りの喩嘉は黒犬を庇うようにしながら、真正面から受けとめチョコまみれに。
「この戦の勝敗には、俺がいくらチョコレートに当たろうが関係ないからな！」
　やはり大きな勝敗の分かれ目は、マスコットにどれだけチョコを届けられたかになるだろうから。
「いくわよ。とっておきの隠し玉！　スナイパー用の水鉄砲！」
　こちらも最後にと、退きかけていたリアが一撃を放ち――。
　終了の合図が広場に響いた。
　白なのか黒なのか。気付けばみんなチョコレートに染まっていて。互いの姿を見れば、思わず笑みが零れる。
　雪人の着ぐるみもイメチェンしたかのように黒猫、黒ぶち猫に。
　すごかったねーと出て来れば、忘れた頃に落ちてくる水風船が雪人の上にベチャリ。
　そんなこともあるのかと、声を上げて笑えば垂れてきたチョコが口の中へ。
「にゃふふ、白黒どっちも美味しいね！」
「ああ……」
　顔についたホワイトチョコを軽くぬぐいつつ、口元に垂れてきたのを嘗めればその甘さに喩嘉は思わず表情を綻ばせる。
「うん、甘い。俺が黒犬チームを選んだのはな、ホワイトチョコレートの方が好きだからだったんだよ」
「喩嘉殿は甘い方がお好きなのですね。ええ、私も白猫を選んだのはビターの方が好みだからです」
　同じような考えでしたねとシャムスがにっこりと笑えば、その手があったかっと幸児はハッとした。
「喩嘉殿なるほどね〜……」
　それは一理ある。
　確かに受ける方になれば、好きな味のチョコがいっぱい向かってくる。
　だけど味見もできたし、きっとどちらになっても同じように美味しく楽しめたのだろう。
「あ、でもこの黒いチョコもけっこう美味い、かもっ」
　ではビターチョコとホワイトチョコなら。リアは同時にペロリと舐めれば、マイルドになったチョコが口の中で広がった。
「うん！　どっちも美味しい！」
「しかし……甘ッ……なンかもう全身甘ッ……甘いモンも、嫌いって程じゃねェがよ……酒飲みてェ……」
　俺のスキットルはと、祭りとは違うダメージを受けていた萬が探し出し手にすると一気に呷った。
　……が、中身は何故か求めていた酒ではなくチョコで。
「あ、あまッ……」
　広がる素敵な甘さに、萬は意識を失いその場に倒れ仲間が心配そうに駆け付ける。
　その片隅で、転がったスキットルをシャムスは拾い上げ、
「悪戯心が過ぎたでしょうか。どんな顔をするか見たかったのですが」
　そう小さく呟き、シャムスは元のお酒の入ったスキットルをアイテムポケットの中から取り出し戻しておくのであった。
　きっと今度こそ酒が萬の着付け薬になるだろう。
　後は、結果を待つだけ。楽しかったと笑顔に包まれながら、賑やかにその時を待つのであった。

最終結果:成功
完成日	2025年02月21日