怨讐の地、オルレアン(作者 ツヅキ)
#火刑戦旗ラ・ピュセル
#オルレアン戦争~敵の戦力増強を阻止せよ
#オルレアン
#オルレアン戦争
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残酷な物語の作り方をキマイラウィッチはよく知っている。人というのは面白い。自分の知らぬ者が死んでもかわいそうにと言うだけなのに、身近な者の命を目の前で奪われた時にはまったく違う反応を見せてくれる。
「やめろ! やめてくれ!」
半人半馬のトループス級が殺したばかりの母親の腕の中を探り、まだ生きている幼子を摘まみ上げた。父親らしき男が懸命に命乞いする。殺すなら俺を殺せ、子どもだけは助けてくれ……だが、手も足も動いてくれない。妻子を守ろうと歯向かった結果、半殺しの状態で転がされているのだ。
「この子が死ぬのは貴様が弱かったからだ。貴様に『力』がなかったからだ。呪うならば、無力な己を呪うがいい……」
幼子を宙へ放り投げ、槍の穂先がそれを受け止めた時、男の絶叫が燃え盛る街に響き渡った。
「攻略旅団の提案によって、ジル・ド・レ配下の軍勢との戦いとは別にオルレアン攻略のための作戦が行われることになったの。この二面作戦が成功すればオルレアン攻略時の作戦を優位に進めることができるんだって」
中山・ネフ(NN・g03318)によれば、オルレアン近郊の集落にてキマイラウィッチによる一般人への襲撃や拷問が発生しているらしい。
目的は集落の人々の復讐心を煽り、血の涙を流して復讐を誓う一般人をキマイラウィッチへ覚醒させること。人倫に悖る行為であるだけでなく、放置すればキマイラウィッチの戦力を増やすことにも繋がる。
「あちらもディアボロスの襲撃に備えて戦力を増強しておきたいんだろうね。今すぐにこの集落へ向かって、一般人のキマイラウィッチ化を阻止してもらいたいの」
集落には惨劇を引き起こしたキマイラウィッチの姿もあるが、ディアボロスが現れたらすぐに逃げ出していくようだ。撃破する必要はないが、逃がしてやる理由もない。
「それにキマイラウィッチを撃破するところを見せれば、一般人の説得にも有効かもしれない。説得に失敗すれば一般人はキマイラウィッチに覚醒して倒す以外の道はなくなるよ」
もしも覚醒してしまった場合、キマイラウィッチとして撃破するしかない。他に救う方法がない以上、それがせめてもの弔いとなるだろう。
キマイラウィッチの行為はまさしく蛮行、という他ない。
「この命令を出しているのが、オルレアンを拠点とするジェネラル級キマイラウィッチ『ジル・ド・レ』。ジル・ド・レを倒さない限り、悲劇は終わらない」
ジル・ド・レを討ち取り、オルレアン戦争に勝利するためにも退けない局面であった。
「あ、あ、あ……」
トループス級が槍に刺さった幼子の遺体を地面に投げ捨てるのを、男はほとんど忘我のまま見つめていた。浴びせかけられた言葉が脳裏をぐるぐると過る。
力がなかったからだ。
俺が弱いから守れなかった。
何度も何度も冷たい地面を殴る。
爪が剥がれ、皮膚が破ける。
ほら、弱い。
もっと頑丈な体が欲しい。
善悪によらず己の意志を貫けるだけの強い心がほしい。
力があれば、力があれば、力があれば……!!
「力……力をくれ……俺の命も魂もくれてやるから、復讐するための力を寄越せ……おぉぉ、おおおお
……!!!!!!」
リプレイ
空木・朱士
※アドリブOK
もしも俺があの人と同じ立場だったら、やっぱり同じように発狂して自分の弱さを呪って呪って
……堕ちていたかもしれない。
だからこそ強く思う。
絶対に復讐心に囚われたキマイラウィッチになんてさせたくないし
お前ら魔女達は…逃げるなんて許さない。
した事の報いはここで必ず受けてもらう。
怒りはすこぶる強い。
でもそれで判断力を誤ったり視野が狭まってちゃ意味ねぇな。
つか寧ろ、怒りが過ぎて頭の芯が冷える感覚すらするわ。
【泥濘の地】で魔女達の動きを鈍らせつつ、逃げようとする退路を塞ぐように立ち回り丸鋸を飛ばして攻撃。
何より逃げようとする奴が優先。
それから相対してる敵、手負いなんかを確実に倒していく。
誰一人逃がすつもりはない。
反撃に対しては疾走してきた相手に籠手を前でクロスして踏ん張って耐える。
仮に吹っ飛ばされて、多少ダメージ負うくらい屁でもねぇ!
直ぐに跳ね起きてやる!
……痛いかよ。
この集落の人達はもっと痛かったし、もっと苦しかった…っ。
もっと、もっと、もっと!
あるはずだったんだ!
幸せが!
ディアボロス――現場へ駆けつけた空木・朱士(Lost heart・g03720)の気配を察した騎兵隊はすぐさま踵を返した。
否、帰そうとしたと言った方が正しいか。
ジル・ド・レの命令はあくまで勢力を増やすこと。ディアボロスとの戦闘は任務外のつもりなのだろう。だが、朱士はそんな相手の思惑を無視した。
ありていに言えば、すこぶる強い怒りというものを丸鋸状に凝縮したエネルギーに乗せて叩きつけてやったのだ。
「――!?」
突如、足元を泥濘に囚われた騎兵隊は何が起こったのかを理解する前に胴体を切り裂かれ、その場に頽れる。
……もしも、俺があの人と同じ立場だったなら。
地獄のような慟哭を背に受け止め、ふと思う。
やはり同じように発狂して自分の弱さを呪い続けながら堕ちていたかもしれないと。ゆえに逃がさない。視野が狭まって判断力を失うどころか、怒りが過ぎて頭の芯が冷えてゆくほどに。
「そこをどけ!」
雷鳴と共に突撃する騎兵隊はしかし、梃子でも動かない朱士の前に止められる。交差した籠手で受け止め、地面を踏みしめ、耐え抜いた。
「この……ッ」
また別の個体がぶつかってくる。
吹き飛ばされて地面を転がる。だが、すぐに跳ね起きる。痛みがどうした。この集落の人達はもっと痛かったろう。もっと苦しかったろう。
「……っと」
「何?」
「もっと、もっと、もっと! あるはずだった幸せを、てめぇらは根こそぎ奪いやがった。許さねぇ。お前等魔女達がした事の報いを受けやがれッ……!」
「ぐあ――!?」
伸ばした手のひらからほとばしる刃閃が騎兵隊を薙ぎ払い、天罰が如く、命を断ち切る。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【泥濘の地】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
四葩・ショウ
わたしに聖歌をおしえてくれた
イブせんせい(伊吹さん/g10846)と
――ちがう!
なにもかも、ぜんぶ
貴女たちがしたことだ、キマイラウィッチ……!
燃え盛る怒りのまま白焔を纏い
魔女達のもとへ走り、硝子のレイピアを揮う
逃げ出すなんてゆるさない
させるものかと剣を向けるけど
諫めるみたいなせんせいの声に、我にかえって
ごめんなさい
――いけます
おおきく息をすって、いつも通りをとり戻したなら
わたしに復讐を果たしてごらん
それとも、自信がないのかな?騎兵隊のレディ達
せんせいに声をかけ、連携をはかって
いちばんふかく傷つく魔女から狙い討つ
白焔で雷鳴に対抗しながら蹂躙にも怯まず切っ先で貫く
ピンチには硝子のレガリアが、せんせいの魔力が咲いて
痛手を防いでくれるって信じて
膝をつく前に止めを刺して傷を癒す
せんせいをディフェンスする
駆けつけて、護ってみせる
敵数が減ってきたら
強行突破しようとする敵の動きを警戒して
退路を阻む立ち位置をとる
多少の無茶だって、魔女を斃しきれるなら
どうってことない
うばわれた命は
もう、帰ってこないのだから
伊吹・祈
同行者:四葩くん(g00878)
目的:敵の全撃破
……まるで降頻る雨の日の、嘗ての絶望を想起するようだ
駆出すあの子の瞳を塞ぐ事さえ赦されない
遅れをとらぬよう現実を改竄する
「四葩くん」と強い口調で制止し
果たしましょう。復讐者たる僕等の責務を
後衛より二色の青き眼にて敵味方の立ち位置と動作を観察
父親と、母子の遺骸を巻き込まぬ様
なれど幼子の遺骸を腕に抱え護るのは止しましょう
戦闘に身を置く僕の側では傷付けてしまいかねないから
テノールの歌声で響かせるアンセムは鎮魂歌
その悪しき魂を罪の意識で蝕んでみせよう
オレンジの片割れと永劫に引裂かれる感覚の味は、如何だい?
狙いを揃え、優先順は逃走を企てる>撃破可能>一番負傷する敵
反撃を受ける多さを念頭に、交錯の都度黄金のガントレットで負傷軽減を図る
撃破に伴う【グロリアス】の恩恵で自分の体力管理と四葩くんが無茶をしない様アシストし乍
残念ですが、あなた方の作戦は何一つ叶わない
僕等はその為に、在る
……最もその程度では贖罪にもなりはしないが
その生き様に、相応しい凄惨な最期を
雷鳴の中を疾駆するキマイラウィッチの禍々しさといったら、魔女という呼び名が何と似つかわしいのだろう。
「――ちがう!」
四葩・ショウ(After the Rain・g00878)は断じて否定する。力がなかったから? 何という都合のよい唆し方だろうか。
なにもかも、ぜんぶ、貴女たちがしたことなのに。
「キマイラウィッチ……!」
略奪と暴虐の証のように街を飲み込む炎が硝子の刃に映り込む。逃げ去ろうとするキマイラウィッチの退路に立ちふさがり、無我のままにその切っ先を差し向けた時だった。
「――四葩くん」
伊吹・祈(アンヘル・g10846)の静かな、しかし強い呼び声がショウの耳に届いた。はっとして息を呑む。せんせい、と微かな声で呻くみたいに。
「ごめんなさい」
さっきまであれほど燃え滾っていた白焔が一瞬、祈の前で恥じらうように揺らめいた。その純粋な瞳を塞いで見なかったことにしてやれたなら、どんなによいか。
(「……あの日を思い出す。降頻る雨の日の、嘗ての絶望を想起するかのような光景だ……」)
祈は教え子の傍へ歩み出しながら、楽園の幻想に喘ぐキマイラウィッチを一瞥する。祈の口ずさんだアンセムの一節に精神を侵され、苦しめられているのだ。
「もう大丈夫ですね」
「――はい、いけます」
「では、果たしましょう。復讐者たる僕等の責務を」
祈は色合いの異なる青眼に敵を宿す。
既に1体が倒れ、残りは2体か。
しかも片方は手負いだ。
さりげなく、慟哭する者の家族から距離を取る……本当は今すぐにでも幼子の遺骸を抱いてこれ以上の冒涜から護ってやりたいくらいだ……それが為せぬからこそ、せめて母と共にこれ以上の傷を受けないように。
ショウは胸いっぱいに息を吸い、高らかに告げた。
「わたしに復讐を果たしてごらん。それとも、自信がないのかな? 騎兵隊のレディたち」
挑発に反応した隙を突き、レイピアで深々と突き刺してやる。蹂躙するならしてみろ、と言わんばかりの鋭い切れ味で。轟く雷鳴よりもそれに抗う白焔の方がずっと美しかった。
「鎮魂歌よ。その悪しき魂を罪の意識で苛みたまえ」
どうやら、楽園は悪しき魂の君らにとって高嶺の花であったらしい。騎兵隊は呻きを上げ、転げまわるように地面を這いつくばった。
「オレンジの片割れと永劫に引裂かれる感覚の味は、如何だい?」
かつてショウに聖歌を教えてくれた声色が、今は辛辣に敵の罪を断罪する。
狂ったようにのたうち回るキマイラウィッチの反撃をショウはひるむことなく迎え撃った。大丈夫。何があろうと彼の魔力が咲いて、硝子のレガリアがこの身を守ってくれるだろう。
「せんせい、大丈夫?」
庇われた祈が、吐息交じりの微笑みを浮かべる。
「無茶は……」
「それでも、せんせいには触れさせない」
「……君はそういう子だったね」
ふたりで息を合わせ、同時に攻撃を当てて倒す。
戦場に残留する栄光の輝きと治癒の活性化は祈とショウに対する加護となり、受けた傷を埋め合わせる。騎兵隊の盾の何度も撃ち合い、身を護ってくれた『HOD』の表面を軽く撫で、祈は歌う。
「残念ですが、あなた方の作戦は何一つ叶わない」
その為に『僕等』は在るのだ。
贖罪にはならないとわかっている。『彼等』の罰には死など軽すぎる。それでもせめて、凄惨な最後を。その生き様に相応しい終焉を。
「ちっ」
息絶えた仲間を踏み越え、逃亡を果たそうとした最後の1体の前にショウが立ちはだかる。
「そうすると思ってた」
交錯の衝撃を和らげたのは胸に咲く硝子の花。歯を食いしばり、渾身の力でレイピアを突き出した。胴体を穿たれた騎兵隊の姿は奇しくも、さっき幼子を惨殺した自身の行為に重なる。もはや何をどうしても帰ってこないうばわれた命のことを思えば、こんな痛みなんてどうってことなかった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【グロリアス】LV1が発生!
「力……力をくれ……もう二度と、大切なものを奪われないための力を!!」
――道というのは、必ず袋小路に行き着く前に幾つかの分岐点があるものだ。決してそのタイミングを違えてはいけない。時は決して戻らないのだから。
一度間違えた選択はやり直せない。
既に通り過ぎた分岐点を後で振り返っても遅い。
男はまさにその分岐点にいた。
片方は無力な自分のままに家族の死を受け入れるという道。
もう片方はキマイラウィッチに覚醒し、己が望む力を手に入れるという道である。
空木・朱士
この人は…あの日の俺だ。
3年前の8月、世界が崩壊し海に呑まれた日。
何が起きたのか訳も分からず、呆然とし失ったものに泣き叫び何も出来ずにいた。
そっと近寄り目の前にしゃがみこむ。
おい、奥さんと子供あのままにしとくつもりか。
今、あんたが手を伸ばそうとしているその力はあんたが思ってるようなものじゃない。
それは守るためじゃなく何もかもを壊すための力だ。
憎くて憎くてたまらないキマイラウィッチと同じモノになる。
そして今度はあんたが誰かの大事な幸せを踏みにじるんだ。
それは本当にあんたが望んでる事か?
このまま復讐心に塗り潰されてしまったら守りたかった大事な人の事、嬉しかったり歓び合ったりした思い出さえ掻き消されてしまうんだぞ。
それこそ哀しいよ。
いくらだって泣いたって、苦しさにのたうち回っても良い。
ゆっくりで良いから人の心を手放さないまま、また立ち上がってほしい。
(……俺がそうだったように)
その方があの魔女達は悔しがるだろうしな。
手当てさせてくれよ。
それから、奥さんと子供の埋葬しよう。
俺にも手伝わせてくれ。
四葩・ショウ
レイピアを大地につき立て
【活性治癒】の力を巡らす
――ねぇ、立って
力が欲しいのなら
わたしを斃してみせて
見ていたでしょ?
わたしには魔女を斃す力がある
わたしを傷つけることさえ出来ないなら
復讐なんて、出来っこない
怨嗟が燻る今のままじゃ
わたしの言葉は届かないかもしれない
だからあえて、立ちはだかる
心を折りたい訳じゃない
どこへもいけない想いを受け止め
冷静さをとり戻せるように
……貴方は弱くありません
そんな力を望まなくても
でも
その力では復讐も、大切なものを護ることも、叶わない
手鏡で血の涙をながす姿を映して
貴方が憎悪する魔女と、おなじ
誰かの大切なものを奪うだけ
何度、同じ誓いを立てただろう
それでも今日も――真摯に魂に誓う
わたし達はすべての魔女を滅ぼします
貴方と、貴方が愛する家族の分も
背負って、擁いて、かならず果たします――だから
貴方が希った想いを
なかったことにはさせません
燃え盛るその復讐のすべてを
わたしに託してください
復讐より、思い出も痛みも
すべてを背負って生きていく方がずっと、辛いです
それでも、どうか――
空木・朱士(Lost heart・g03720)は思い出していた。この人はあの日の俺なのだ――忘れもしない、3年前の8月のことだった。
世界は崩壊し、街は海に呑まれた。
何が起きたのかもわからない、どうしてこうなってしまったのかも知らない、呆然と泣き叫ぶことしかできなかったあの日の。
失ったものの大きさが、あまりにも大き過ぎて……。
「おい、奥さんと子供あのままにしとくつもりか」
男の元へ静かに近づいた朱士は膝をつき、苦悶に歪む彼の顔を覗き込んだ。
「今、あんたが手を伸ばそうとしているその力の正体。そいつは守るためじゃなく何もかもを壊すための力なんだ。決してあんたが思ってるようなものじゃない。受け入れたら、あんたが憎くて憎くてたまらないキマイラウィッチと同じモノになる……そういう力だ」
つまり、彼に降りかかった災難を与える側に回るのと同じこと。
いいのか、と朱士は繰り返す。
「今度はあんたが誰かの大事な幸せを踏みにじるんだぞ……!」
いまにもクロノヴェーダに姿を変えてしまいそうな男の肩をぐっと掴み、朱士は力を込めて訴えかけた。既に彼は人であることを捨て去ろうとしている。
ここで引き留めなければ、新たな悲劇が生まれるのは間違いなく。
「そんなの、あんたが望んでることじゃないあろう。思い出せよ、守りたかった大事な人の事を。嬉しかったり歓び合ったりした思いでさえ掻き消されてしまうなんて、それこそ哀しいじゃないか」
「う、うう……」
男の手放しかけた理性が、朱士の呼びかけによって打ち震えた。
「助けてくれ……」
朱士の腕にしがみつき、彼は泣き喚いた。
「あんたの言ってることは正しい。だが、どうしても憎い。妻と子の仇をこの手で取ってやりたい。そのための力が手に入るのなら、たとえ、他の誰をも犠牲にしたって――」
はっと、彼の目が眼前に突き立てられた硝子に引き寄せられる。いつしか体の痛みが消えていた。活性治癒の残留効果が渦巻く中で、四葩・ショウ(After the Rain・g00878)が優しく手を差し伸べる。
「――ねぇ、立って」
「え……?」
「力が欲しいんでしょう。なら、わたしを斃してみせて」
ショウの伏せていた瞼が上がり、決意を秘めた眼差しが男のそれを射抜いた。戦え。それほどまでに力を欲するのならば、その想いのままに立ち上がり、この身にぶつけなさい。
「見ていたでしょ? わたしには魔女を斃す力がある。そのわたしを傷つけることさえ出来ないのなら復讐なんて、ゆめのまたゆめ――……」
「う、うああっ!!」
何かが男の中で切れた。
それまで抑え込まれていた衝動を拳に込め、滅茶苦茶に殴り掛かる。何度も何度も、自分の拳が地にまみれるまで。ショウは言葉通りにそれを受け止める。
(後で、また先生に怒られちゃうかな……でも、わたしはどうしてもこうしたかったから。ごめんなさい)
殴られた頬に痣ができ、切れた唇から血が伝う。
だが、それだけだ。
ディアボロスに一般人が太刀打ちできるわけがない。
どうか、どこへもいけない想いを受け止めることで、彼が冷静さを取り戻してくれますように。
「はぁ、はぁ……」
やがて男は疲れたのだろう、息を切らせながらその場によろめいて膝をついた。もう手に力が入らない。人の身ではこの程度が限界なのだ。
「くそっ、くそ……俺は無力だ。俺なんて……」
「いいえ、貴方は弱くありません。そんな力を望まなくたって」
ショウは首を振った。
「だって、そうやって得た力は誰かの大切なものを奪うだけだから。それこそ、貴方が憎悪する魔女と同じ存在になってしまう。復讐どころか、大切なものを護ることすら叶わない」
「じゃあ、どうすればいい!?」
「わたし達がすべての魔女を滅ぼします」
何度、同じ誓いを立てただろう。
それでも今日も――ショウは、真摯に、純粋に、魂にかけて誓う。彼と彼が愛した家族の分まで背負い、擁いて、かならず約束を果たすと。
「――だから、踏みとどまって。貴方が希った想い、燃え盛るその復讐のすべてをわたしに託してくださいませんか」
「う、うう……」
諦めたように四つん這いで蹲り、嗚咽を漏らす男の背中を朱士が撫でる。いくら泣いたって構わない。苦しさにのたうち回ったって。
「ゆっくりでいいんだ。人の心さえ手放さなければ、また立ち上がれる日がやってくると、そう信じて」
……俺が、そうだったように。
それが、なによりもキマイラウィッチへの復讐になるはずだ。奴らの目的は仲間を増やすことなのだから、それが失敗したとなれば悔しがるに決まっている。
「傷、まだ治りきってないのがあるな。よければ手当させてくれないか? それから、奥さんと子供の埋葬しよう。手伝うぜ、最後までな」
朱士に励まされ、立ち上がる男の背中をショウは尊いものを見るような視線で見守った。復讐よりも、思い出も痛みもすべてを背負って生きていく方がどれだけ辛いことか。
「それでも、どうか――」
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】がLV3になった!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【ロストエナジー】がLV2になった!