リプレイ
陳・桂菓
エルフリーデ(g00713)と一緒に行動。
【アイテムポケット】を使って、必要な具材は新宿から持ち込めるだけ持ち込むものとする。
米はエルが張り切って炊くようだし、私はおにぎりの具を用意しておくか。
まあ何でも良いのだろうが、なるべくなら排斥力に見逃してもらえるようなものを使うに越したことはあるまい。
まず定番の梅干し、鰹節。
刻み沢庵漬けと胡麻を混ぜ込んだおにぎりも良いよな。
秋らしい味覚も振る舞いたいな。舞茸を刻んで炒めつつ味噌と合わせたものも作っておくか。米に合いそうだ。
それから川魚――ニジマスあたりを塩でウンとしょっぱくしつつ蒸して、ほぐし身を具にしよう。
米にしろ具材にしろ持ち込める量には限りがあるが、まあ一種類につき一個ずつでもできればいい。
おにぎりができあがったら、【口福の伝道者】の出番だ。食べて増やしていき、祭りになるにふさわしいだけの量を確保しよう。
「んむ、米も具も悪くない味だ」
「ま、この甲殻だ。米が熱かろうが何だろうが、問題なく握ってみせようさ……っと、あとは海苔を巻いて完成だな」
エルフリーデ・ツファール
桂菓(g02534)と。
【アイテムポケット】に羽釜と米と水、それと桂菓が使う分の食材とあと『氷』を持ち込んでおく。何に使うかは後になってのお楽しみさ。
私は今回は米炊きメインだ。
米の品種はよくわからんのでおにぎりに向いてるやつを店の人に選んでもらったぞ。
先ずは米をきっちり計量。今回桂菓が作るおにぎりの量を考えれば三合くらいかァ。そして手早く研ぎ、水を捨てるを3回繰り返すぜ。
そして30分程度米に水を浸透させる。その間に火の準備だ。
薪なんかはあるようだからそいつをちょいと拝借させて貰おう。
米の吸水が終わったなら羽釜の中に米と水、『氷』をぶち込むぜ。
氷を入れる事で常温時から沸騰までの時間が長くなり、米の温度が上がるのにも時間が掛かるようになる。
そうするとデンプンがしっかり糖分に分解され、甘くてモチモチした米に炊き上がるって寸法さ。
そして火加減。これこそ炎を使う私の領分だ!
じっくりと炊き上がるまで炎と対話して過ごしてやるさ!
さあ、後は桂菓! お前の握るおにぎり次第ってな!
西堂・千衛蔵
豊臣秀吉はよく知らないので見過ごすところだったが、自分もおにぎりのクロノオブジェクトを持ち歩く身の上、おにぎり祭りと言われれば放っては置けない!
持ち込むのは竹の籠、普通なら数人がかりで抱えるような大釜、釜に見合った量の燃料、米と水、そして塩と……醤油に味醂と出汁を合わせた作り置きのタレだ
【口福の伝道者】で増やしてもいいんだが、敢えて【怪力無双】で大釜を運び込む
人が集まりやすそうな広い場所に大釜を置く
赤煙の炎の「ブレス」で燃料に着火して釜で飯を炊き、塩を手に付けて握る、握る、握る!
ある程度握ったら、醤油だれを塗って焼く!
「今日は祭りだ! どんどん食ってくれ! お代はいらねえ、その代わり村中の人を呼んできな!」
祭りと言うからには、人を集めなきゃならない
釜のでかさと、醤油が焼けるうまそげな匂いで人を集めるんだ!
赤煙にも、籠に焼きあがったおにぎりを入れてぐるっと村を回って貰おう
「欲しがる人がいたら遠慮なくくれてやれ」
●序幕
刈り入れが済んで間もない乾田に、JR山手線の車両に似た列車が停まっていた。
異様な光景ではあるが、その列車がパラドクストレインとなれば、話は別だ。
「荷物に漏れはないだろうな?」
「大丈夫だ。『アイテムポケット』にたっぷり詰め込んできたぞ。釜に米に水に諸々の食材。それに氷もな」
車両側面に並ぶ黄緑色の扉が一斉に開き、二人の女がそのうちの一つから降り立った。
クマバチの特徴を有したインセクティアの陳・桂菓(如蚩尤・g02534)と、魔女を思わせる唾広の帽子を被ったエルフリーデ・ツファール(紫煙の魔術師・g00713)だ。
「他はともかく、氷の必要性が理解できないのだが?」
「それは後のお楽しみってやつだ」
訝しげな顔をする桂菓に対して、エルフリーデはニヤリと笑いかけた。愛嬌ある笑みに見えないのは、口から覗く鋸の刃のごとき山切り状の歯のためか。あるいは目の下の濃い隈のためか。
「よいしょ!」
背後で大声が響いた。
パラドクストレインのほうに振り返った桂菓とエルフリーデの目に入ったのは、がっしりとした体格の青年。
鬼人の西堂・千衛蔵(竜燈鬼・g01901)である。
車両から降りようとしている彼の姿はインパクトに満ちたものだった。それは硬化した腕や額の角という鬼人の特徴のせいではないし、頭に灯籠を乗せるという独特のファッションのせいでもない。いわんや、太い首に巻きついている東洋龍型のミニドラゴン『赤煙』のせいでもない。
二抱えはありそうな大きな釜を前面に担いでいるからだ。
「あ? このままだと横がつっかえて出られないな。じゃあ、こうしてっと……」
千衛蔵は慎重な手付きで釜を九十度に傾けた。
そして、ようやく降車した。
●陳・桂菓(如蚩尤・g02534)
私はエルフリーデとともに別の乾田へと移動し、屋外用の簡易厨房(ようは屋台だ)を設けた。
千衛蔵も例の大釜を運び込み、米の炊ぎ洗いを始めている。釜が大きいだけあって、米の量も多い。『アイテムポケット』に収まるはずの釜を直に持ち運んできたのは、ポケット内が米等に占有されていたからだろう。
それだけ大きな釜にそれだけ多くの米を投入したとなれば、研ぎ洗いも重労働だ。傾けた釜に肩まで片腕を突っ込んでかき回している様は工業製品の洗浄でもしているかのよう。もっとも、当人はちっとも苦しそうではない。鼻歌まじりとまではいかないが、汗一つかかずに澄まし顔を維持している。
「祭りに相応しい豪快な光景ではあるけども――」
機械的に腕を回し続けている千衛蔵を見やり、エルフリーデが苦笑を浮かべた。
「――そんなに沢山の米を炊く必要はないだろ。『口福の伝道者』を利用したほうが効率的だぜ」
「ぎゃうぎゃーう」
と、千衛蔵の首に巻きついている赤煙がしたり顔で頷いた。
「確かに『口福の伝道者』のほうが手っ取り早い」
作業の手を止めずに千衛蔵が答えた。
「だけど、この大釜みたいに目立つものがあったほうが人出が見込めるだろう? 祭りというからには人を集めなくちゃいけないからな」
「ぎゃうぎゃーう」
と、赤煙が再び頷いた。どっちの味方だ?
なんにせよ、千衛蔵の思惑は上手くいったようだ。いつの間にやら、集落の住人たちが田圃の外れにちらほらと集まり、余所者である私たちのことを遠巻きに眺めている。
「目立つものだけじゃなくて、鼻立つものも持ってきたぞ」
おかしな造語を口にしながら、千衛蔵は足下に向けて顎をしゃくった。『アイテムポケット』に入れて運んできたであろう瓶が置いてある。
「……酒じゃなかろうな?」
私が警戒気味に確認すると(恥ずかしながら、私はほんの一杯で正体をなくしてしまうのだ)、千衛蔵はかぶりを振った。
「いや、特製のタレだよ。醤油に味醂と出汁を合わせたんだ」
「そいつぁ、美味そうだな」
エルフリーデがぺろりと舌なめずりをした。
そして、私に向かって言った。
「こっちも負けずに美味いものを作るとするか」
「うむ。おにぎりは私が握ろう。米炊きは任せていいのだな?」
「もちろんだ。大船に……いや、大釜に乗ったつもりでいろよ」
エルフリーデは自信満々に断言すると、『アイテムポケット』から釜(千衛蔵のそれと違い、普通の大きさだ)や米を取り出し、米炊きの準備を始めた。
「たぶん、この米は美味いぜ。おにぎり向きの品種らしいからな」
「どうして『たぶん』や『らしい』がつくんだ?」
私の問いに対して、エルフリーデはまたもや自信満々な語調で答えた。
「お米屋さんの受け売りだからだ!」
心強いことだな。
●西堂・千衛蔵(竜燈鬼・g01901)
地面を掘り返し、浅くて広い窪みをつくる。
その周囲に土と石を盛り上げ、破線状の土手を築く。
これで即席の竈の出来上がり。赤煙のブレスで以て窪みに焚き火を起こし、土手に大釜を乗せれば、あとは炊きあがりを待つばかり。
「頼むぞ、赤煙。『はじめちょろちょろなかぱっぱ』ってやつだ」
「ぎゃうぎゃう」
火加減への気配りを赤煙に任せて、自分は仲間たちの様子を見てみた。
桂菓は屋台に様々な食材を並べ、具を仕込んでいる。
エルフリーデのほうは『シャッ、シャッ、シャッ』という小気味よい音を立てて米を研いでいたが、それを炊き始める段になって、奇妙なことをおこなった。釜の中に米と水だけでなく、氷を入れたんだ。
「それが『あとのお楽しみ』というやつか?」
桂菓が問いかけた。
「そのとおり」
エルフリーデは胸を張り、氷の役割について語り出した。
「氷を入れることで、沸騰するまでの時間が長くなり、米の温度が上がるのにも時間がかかるようになる。そうすると、デンプンがしっかり糖分に分解され、甘くてモチモチした米になるって寸法さ」
「なるほど」
と、二人の横で自分は頷いた。
「ぎゃうー?」
赤煙が横目でこっちを見た。『意味、判ってるのか?』と問いかけてるのかもしれない。実を言うと、さっぱり判らん。
だが、火加減のことは判るから、忠告しておこう。
「知ってるか、エルフリーデ? はじめちょろちょろなかぱっ……」
「いや、アドバイスはいらないよ!」
と、エルフリーデは自分の言葉を遮り、ギザギザの歯を剥き出してニヤリと笑ってみせた。
「米炊きの火加減は、炎の使い手たる私の領分だ! じっくり炊き上がるまで炎と対話して過ごしてやるさ! そして、炊き上がった後は――」
エルフリーデの指が桂菓に突きつけられた。
「――桂菓! おまえの握るおにぎり次第ってな!」
「私のおにぎり次第か……これはまた責任重大だな」
やがて米が炊き上がると、戦場に臨む武将のごとき面持ちで桂菓はおにぎり作りに取り掛かった。水に濡らした手に塩を擦り込み、そこに適量のご飯を乗せ、用意した具を中央に置き、包み込むように握っていく。うん。実に手際がいい。
「しかし、炊き立ての熱々ご飯をよく平気で握れるもんだなあ」
エルフリーデが感嘆の呟きを漏らすと、桂菓は手を休めて、インセクティアの腕を軽く掲げてみせた。
「まあ、この甲殻だ。熱かろうと冷たかろうと、問題なく握ってみせようさ」
その点は自分の手も同じだ。鬼人だからな。
さあ、握って、握って、握りまくるぞ!
●エルフリーデ・ツファール(紫煙の魔術師・g00713)
桂菓のおにぎりが出来上がった。数は五つ。
「具はなんでもよかったのだろうが、排斥力に見逃してもらえそうなものにしておいたぞ。これとこれは――」
桂菓は二つのおにぎりを続けて指し示し、そのうちの一つを手に取った。
「――定番の梅干しと鰹節だ」
「いただきまーす」
残った一つを私も手に取り、かぶりついた。それは鰹節(最終人類史では『おかか』という可愛い俗称で呼ばれている)のおにぎりだった。ふっくらした米の微かな甘みが怒濤のごとく口の中に進撃してきたかと思うと、次の瞬間には鰹節の旨味が容赦なく追撃! シンプルな美味さの波状攻撃だ! これは堪らんぜ!
桂菓はおにぎりを食べ終えると(私のは鰹節だったから、彼女のは梅干しだったんだろうな)、手つかずの三種のおにぎりを次々と指し示した。もっとも、手つかずだったのは一瞬のこと。指し示される度に私が手をつけていったからな。
「このおにぎりには刻み沢庵漬けと胡麻を混ぜ込んでみた」
「いただきまーす」
「こちらの具は、刻んで炒めた舞茸を味噌と合わせたものだ。秋らしい味覚もあったほうがいいと思ってな」
「いただきまーす」
「このおにぎりの具にはニジマスのほぐし身を使った。塩でウンとしょっぱくして蒸したやつだ」
「いただきまーす」
あっという間に私は完食した。
にもかかわらず、目の前にはまだ数百のおにぎりが群れをなしている。そう、『口福の伝道者』によって増殖したんだ。
それらのうちの一つを桂菓は取り、先程と同じようにかぶりついた。
そして、満足げに頷いた。
「……うむ。米も具も悪くない味だ」
うんうん。炊飯担当の私とおにぎり作り担当の桂菓、どちらが欠けてもこれほどの成果は出なかっただろうな。あと、ベストな米を教えてくれたお米屋さんにも感謝だ。
「さて、私たちの準備は完了したが、あちらは……」
と、桂菓が目を向けた相手は千衛蔵。
彼は大釜の傍でおにぎりを黙々と作っていた。桂菓と同様に手が硬質化しているから、熱さは苦にしていないだろう。問題は熱よりも量だ。大釜のサイズがサイズだけにご飯の量もハンパない。それらを以ておにぎりを一つ一つ作っていくのは結構しんどいはず。しかし、『やっぱ、『口福の伝道者』を使っとけばよかったぁ』などと零すことなく、力強くも丁寧な手付きでおにぎりを作り続けている。
その姿はさながら――
「――こだわりのおにぎり職人といったところだな」
私の心中を代弁するかのように桂菓が呟いた。
「いや、べつに職人を気取るつもりはないが……おにぎり作りに妥協はできない」
桂菓の声が聞こえたのか、千衛蔵がそう言った。視線を手中のおにぎりに向けたまま。
「おにぎりのクロノ・オブジェクトを常に持ち歩いてる身としてはな」
どんなクロノ・オブジェクトなんだろう? 機会があったら、食べさせてほしいもんだな。
●幕間
緩やかな秋風に香ばしい匂いが混じり始めた。
千衛蔵がおにぎりに特製の醤油だれを塗り、焼いてるのだ。
距離を置いて様子を見ていた村人たちのうちの何人かがふらふらとした足取りでディアボロスたちに近付いていく。焦げた醤油の香りに釣られたのだろう。いや、醤油ばかりではない。桂菓の手による多彩な具の香りやエルフリーデの炊いた米の輝くような色艶も誘引剤となっているはずだ。
「ぎゃうー!」
赤煙が千衛蔵から離れて飛び立った。
その小さな手に下げられた籠には、焼きあがったばかりのおにぎりが詰め込まれていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【口福の伝道者】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV2が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
白・明江
祭りを盛り上げる……っても、まあ普通におにぎり食べてりゃ、勝手に盛り上がりそうな雰囲気やな。
村の人も腹減らしとるみたいやし。
んで、まあ色々と種類があるみたいやけど、できれば全種類一個ずつで制覇したいところや。
……食べ過ぎか? いや、口福の伝道者で増やしまくっとるみたいやし、少々食べたところで村人の分がなくなるっちゅーこともないやろ。
醤油の焼きおにぎり、シンプルやけどうまいな。米のほのかな甘みに醤油のしょっぱさがよーく馴染んどる。
あと個人的には、ニジマスの塩蒸しのおにぎりもヒットやな。多分、釣った後にちゃんと綺麗な水の生け簀で泳がせたとか、そんなんやろな。泥臭さがあらへん。前に自分で釣って食べたことあるけど、天地の差やわ。これは嬉しい。
ってか、他のも負けず劣らずいい味のもんばっかりやね。
……ん? 何か、降って湧いたみたいなおにぎり屋台に警戒してる人もおるか?
いや、何もビビることあらへんよ。ただ単に気前の良い奴らがおるっていうだけの話や。
だまされたと思って食べてみ? うまいで。
イルフェリア・グリーズ
まあ、いい香り
準備をされる皆様を見守っていたのですけれど
それぞれ工夫されていらして感心しておりますの
いかに素材の味を引き出すか
人々の興味を引くか
そして、この時代に受け入れてもらうか
時代に受け入れてもらえるということは現地の方々にも馴染みがある味ということ
ただでさえ食べ物が少ない環境に食べ慣れたものはとてつもなく甘美なご馳走となるでしょう
さっそくおひとついただきます
鰹節にいたしましょうか
――ああ、ご飯が美味しいですわ
鰹節もご飯の味を引き立ててくださいます
次は職人さんの焼きおにぎりをいただきましょう
にこにこ食べさせていただきまして、現地の方が集まってきた頃に声をかけます
「秋のおにぎり祭りですわ。皆様も召し上がれ」
この状況を疑う方もいらっしゃるでしょうね
危機管理ができていて素晴らしいですわ
けれどどう納得していただきましょう?
そうですわ、ねこさんが食べても大丈夫なところをお見せしましょうか
警戒心が高い動物が食べても大丈夫なのです、安心なさって、と
…ねこさんが動物で無いことは言わないお約束ですのよ
●幕間(承前)
「釜茹での刑でも始めるんかーい! ……と、ツッコみたくなるほどデッカい釜やなあ」
おにぎり祭りの会場となった乾田に鎮座する大釜。
その前に漢服姿の青年が立っていた。
大戦乱群蟲三国志出身のディアボロス――白・明江(腥紅狼・g11020)である。
「かなりの人出やけども、こんだけデッカい釜で炊いた上に『口福の伝道者』まで使うとるみたいやから、足りんくなることはないわな。当然、俺が遠慮なく御相伴しても問題なしっちゅうことや」
明江が言うように祭りは『かなりの人出』であった。おにぎりが出来上がった直後は数人だったが、今は三桁に達している(会場の傍の集落だけでなく、他の集落からも人が集まってきたらしい)。
その三桁に含まれているのは人間だけではない。金眼黒毛のスフィンクスもいた。より正確に言うと、金眼黒毛白隈のスフィンクスである。目の縁が白く彩られているのだ。
サーヴァントたるスフィンクスがいるからには、その主もいる。
洒落た日傘を手にした赤毛の少女――吸血鬼のイルフェリア・グリーズ(rouge・g07941)だ。
彼女は目を閉じて鼻をほんの少しだけ突き出すようにして、そこかしこから漂ってくるおにぎりの芳香を楽しんでいた。
やがて目を開き、翼をはばたかせて傍らに滞空しているスフィンクスに語りかけた。
「いい香りですわね、ねこさん」
「にゃー」
●イルフェリア・グリーズ(rouge・g07941)
何種類ものおにぎりが何百個も並んでいます。
そのどれもが工夫を凝らされてたものであることは香りからも明らか。一目瞭然ならぬ一鼻瞭然です。とはいえ、香りだけで料理を味わうことはできません。テイスター役をお鼻からお口にバトンタッチさせましょう。
「お一ついただきます」
おにぎりを手に取り、食べてみると……ああ、ご飯が美味しいですわ。鰹節もご飯の味を引き立てています。
「うーん」
と、すぐ近くにいた明江さんが賞賛の唸りを発しました。彼もまたおにぎりを食べていますが、私のそれと違って鰹節のものではありません。こだわり職人さんの手による焼きおにぎりです。
「シンプルやけど、うまいな。米のほのかな甘みに醤油のしょっぱさがよーく馴染んどる」
美味しそうですね。わたくしもいただきましょうか……あら? 確かにこれはシンプルながらも深い味わい。素晴らしいですわ。
わたしくが焼きおにぎりを賞味している間に明江さんは標的を別のおにぎりに変更したらしく――
「このニジマスの塩蒸しのおにぎりもお勧めやで」
――と、声をかけてきました。
「川魚やのに泥臭さがあらへん。たぶん、釣った後の処理をちゃんとしてるんやろうな。前に自分で釣って食べたことあるけど、天地の差やわ」
「では、お勧めに従い、『天地』の天を味あわせていただきます」
焼きおにぎりを食べ終えたわたくしはニジマスのおにぎりを取りました。
それを口に運ぼうとした時、甲高い悲鳴が横手から聞こえてきました。
「ぶべぇーっ!」
見てみると、そこにいたのは十歳前後と思われる男の子。口の周りを米粒だらけにして、おにぎりを頬張っています。とても幸せそうな顔。どうやら、先程の奇声は悲鳴ではなく、『美味ぇーっ!』という感動の叫びだったようですね。
その子の傍では、少し年下であろう女の子(顔立ちが似ていますから、兄妹なのかもしれません)がおにぎりを食べていました。男の子のように叫び声こそ発していませんが、同じように幸せそうな顔をしています。
「おうおう。ええ食いっぷりやなあ」
明江さんが子供たちを見て笑いました。
●白・明江(腥紅狼・g11020)
絶品のニジマスおにぎりを食べつつ、俺はイルフェリアに言った。
「まあ、誰も彼も腹すかせとるみたいやから……もぐもぐ……食いっぷりが良くなるのも当然か……もぐもぐ……この分やったら、俺らが無理に盛り上げへんでも……もぐもぐ……ええかもしれんな」
「いえ、そうでもありませんよ」
イルフェリアは異を唱え、周囲を見回した。
おにぎりの最後の一欠を口に放り込んで、俺も視線をぐるりと巡らせた。
会場にはぎょうさんの人が集まっとる。せやけど、よく見てみると、全員がおにぎりを食べとるわけやなかった。疲れ切った顔して立ち尽くしてとる人や、不安げに身を縮こませとる人や、おにぎりを手に取ったものの口に運ぶことを躊躇しとる人もおった。
「ふーむ。空腹や好奇心よりも戸惑いや警戒心のほうが勝っとる人も少なくないっちゅうことか」
「危機管理ができていて素晴らしいですわ。いえ、感心している場合ではありませんね。なんとかして、皆様にお祭りを楽しんでいただかないと……」
「せやな」
俺は両手をいきなり『パン!』と打ち合わせて、周囲の人々の注意を引きつけた。
そして、できるだけ陽気な声を出して語りかけた。
「ちょっと退き気味の人もおるようやけど、なんもビビることあらへんよ。ただ単に気前のええ奴らがおるっていうだけの話や。騙されたと思って、食べてみ? めっちゃ美味いでー」
「その『めっちゃ』な美味しさのほどを御覧に入れましょう」
と、イルフェリアもまた人々に語りかけ、手に持っていたおにぎりを差し出した。
スフィンクスのねこさんに向かって。
「にゃおーん」
イルフェリアが持っとるおにぎりにねこさんが飛びつき――
「うみゃうみゃうみゃうぅ~っ!」
――食事中の猫特有の唸り声を発しつつ、もしゃもしゃと貪った。わざと大袈裟に振る舞っとんのか素でやってんのかは判らんけど、さっきのお子ちゃまたちに勝るとも劣らぬ食いっぷりや。
「このとおり、猫まっしぐらです」
にっこり笑うイルフェリア。
更にお子ちゃまたちを始めとする『空腹&好奇心>戸惑い&警戒心』な面々も楽しげに笑いながら、『戸惑い&警戒心>空腹&好奇心』な面々におにぎりを勧めた。
ほどなくして、その優しい圧に後者は屈し、おっかなびっくりといった感じでおにぎりを食べ始めた。ただし、おっかなびっくりなのは最初のうちだけ。一口目で美味しいさを実感できたらしく、二口目からは物凄い勢いでガツガツと食らっとる。これまたええ食いっぷりや。
さーて、俺も至福のお食事タイムを再開させてもらおうかな。
全種類のおにぎりを制覇するでー。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【狼変身】LV1が発生!
【照明】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
エヴァ・フルトクヴィスト
おにぎりは手軽に食べれてお腹が満たされるだけでなく、色々な味が楽しめる。
『おにぎりは大変いい良いものです』
そんな私に力を託してくれた天正大戦国の武将だった者もそう思っていた様子。
ここは彼女の姿を借りつつ、皆さんとおにぎりを堪能しつつ、お祭りを盛り上げましょう。
おにぎりの準備をしてくれたディアボロスの方々に感謝をしつつ、老若男女の方々に駅弁売り形式でおにぎりを配っていきますよ。
「さあ、腹が減ってはなんとやらです。ここは皆さんでおにぎりを食べて、楽しんで。今日の、そして明日の活力にしていきましょう!」
私も様々なおにぎりを頂いて、ご飯粒を口の端に付けながら頬張りますよ!
「美味しいですね……。おかかも焼きおにぎりも、梅干しに沢庵、ニジマス入りも、手が止まらない!?」
最後は場を盛り上げる為、童話を合唱したり、勝利の凱歌の効果を乗せた即興の歌を披露して勇気と希望を以って貰いましょう。
圧政から彼の地を解放するという、力を託してくれた彼女に向けた誓いとして。
「心に勇気と希望の灯火宿せば、照らし路と為る」
●幕間
「さあ、腹が減ってはなんとやらです」
祭りに集まった人々の間を青髪の女が忙しなく歩き回っていた。
ミスティックウィッチのエヴァ・フルトクヴィスト(星鏡のヴォルヴァ・g01561)である。
今は昔の駅弁販売員よろしく首掛け式の番重を抱えているが、その上に並んでいるのは駅弁ではなく、おにぎりだ。
「皆さんでおにぎりを食べて、楽しんで、今日の活力に――」
あちこちから手が伸び、番重のおにぎりが減っていく。
それに合わせてエヴァの足取りは軽くなり、声はより大きくなっていく。
「――そして、明日の活力にもしていきましょう!」
言い終えた時には番重は空になっていた。
エヴァは満悦の表情を浮かべ、くるりとターンし、新たなおにぎりの補充に向かった。
●エヴァ・フルトクヴィスト(星鏡のヴォルヴァ・g01561)
おにぎりを配るために会場を歩き回ったことで確信できました。
このお祭りは大成功だった、と。
だって、どこに行っても、笑顔しか見えないのですから。私たちのことを警戒している人はもう一人もいないようです。皆様の不安を解いてくれた仲間たちに感謝。そして、美味しいおにぎりを作ってくれた仲間たちにも感謝。
『美味しそう』ではなくて『美味しい』と言い切ったのは根拠なき軽薄口などではありません。皆様に配っている合間合間に私もおにぎりをいただいたのです。おかかに梅干し、沢庵、ニジマス、刻み舞茸に焼きおにぎり……どれも本当に美味しい!
しかし、おにぎりを配って/食べてばかりというのも芸がありませんね。もっと別の形で盛り上げてみましょうか。
私は会場の中央まで移動して――
「~~~♪」
――古き良き童謡を歌い始めました。
『古き良き』といっても、この時代では未知のものでしょう。にもかかわらず、半数ほどの人々は聞き慣れぬ楽曲に戸惑う様子も見せず、耳を傾けてくださっています。残りの半数には不評というわけではありません。彼らや彼女らは耳を傾けるだけでなく、ハミングで唱和されているのですから。
こうなると、歌い手のほうも興が乗るというもの。童謡以外の楽曲も披露させてもらいましょう。
「心に勇気と希望のぉ♪ 灯火宿せばぁ♪ 照らし路となるぅ♪」
歌詞もメロディも即興ですが、人々の反応は上々。ハミングも大きくなりました。もう半数ではありません。
ここに集まった皆様が天魔武者の暴政から完全に解放されるのはほんの少し(ええ、『ほんの少し』ですとも)先のことでしょうが、今だけは苦しみを忘れられますように……。
そう祈りながら、私は歌い続けました。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
●幕間
「クリスが新宿島に流れてきたのって、いつ頃だったっけ?」
「二年半ほど前ですね」
「じゃあ、もうワショクにも慣れたもんだね」
「ある程度は慣れました。でも、飽きてはいませんよ。実に奥が深いですから」
おにぎりを片手に言葉を交わしているのはアーデルハイト・ベールケ(サイボーグの航空突撃兵・g03315)とクリス・ルトゥーチ(吸血鬼のダークハンター・g07182)。
かたや、航空突撃兵の装備に身を固めたサイボーグの女。かたや、貴族服を着こなした吸血鬼の青年。そして、両者ともに銀髪紅眼(クリスの髪は銀色よりも灰色に近いが)。天正大戦国の一般人の中にあっては浮いているどころのレベルではないが、ディアボロスの特質が働いているため、誰からも奇異の目を向けられてはいない。
「どのおにぎりも本当に美味しいです」
「うんうん」
クリスの言葉に頷くアーデルハイド。
だが、彼女の傍にいる飛行服姿のオラトリオ『エーリカ』は反応を示さなかった。
無視したわけではない。
一心不乱におにぎりを貪っているため、二人の言葉がまったく耳に入っていないのだ。
●アーデルハイト・ベールケ(サイボーグの航空突撃兵・g03315)
エヴァの歌声が流れ、赤煙とねこさんが飛び回る中、エルフリーデと桂菓と千衛蔵が作ってくれたおにぎりをイルフェリアや明江と一緒に食べる――そんな一時を天正大戦国の人々は楽しんでくれたみたい。
だけど、そろそろお開きかな? あんなに沢山あったおにぎりもいつの間にか残り僅かになってるし(その気になれば、『口福の伝道者』でいくらでも増やせるけど)、日もかなり傾いてるしね。
そういう空気をクリスも読みとったらしく、ぽつりと言った。
「日本には『おもしろうてやがてかなしき云々』というハイクがあると聞きましたが……」
「うん。かなしき時間が来ちゃったみたいね」
私は手の中のおにぎりを音速でかたづけ(エーリカはまだむしゃむしゃ食べ続けてる)、指先についた米を光速で嘗め取った後、周囲の人々に大声で告げた。
「みんなー! 宴もたけなわではあるけども、これにて終了ってことでお願いするわ! 日が完全に沈んじゃったら、帰り道が大変なことになるからねー!」
私がすべてを言い終える前から、人々は(名残り惜しそうな顔をしながらも)帰り支度を始めた。ぶうぶう文句を垂れる人はいないし、腰が重そうに振る舞う人すらいない。乱世に生きているだけあって、『いつまでもお祭り気分に浸っていることはできない』という非情な事実をよく心得ているのかもしれない。
頼もしいけれど、可哀想でもあるかな。
●クリス・ルトゥーチ(吸血鬼のダークハンター・g07182)
「私はこの人たちを送ってくね」
遠出してきた村人たちの引率役をアーデルハイトさんが(おにぎりをまだむしゃむしゃ食べてるエーリカさんとともに)買って出てくれました。
彼女たちが会場から去り、近場の村人たちも帰途につき、残されたのはディアボロスのみ。
「では、撤収作業を始めましょう」
仲間たちと一緒に後片付け。
屋台を解体したり、大釜を洗ったり、即席の竈を崩して地面を均したり、『口福の伝道者』で増えた器をまとめたり……もちろん、ゴミ拾いも忘れてはいけません。『春先の冬眠穴には熊の体臭すら残っていない』という諺もありますからね(日本では『立つ鳥、跡を濁さす』と言うのだそうです)。熊が本当に綺麗好きなのかどうかは知りませんけど。
作業が終わった時、アーデルハイトさんとエーリカさんが戻ってきました。
「おかりなさい。丁度、後片付けが済んだところです」
「いいえ。まだ片付けなくちゃいけない物があるみたいよ」
アーデルハイトさんは鋭い眼差しを彼方の雑木林に向けました。エーリカさんも同じような仕種をしましたが、眼差しが鋭いかどうかは判りません。透明度の低い防風ゴーグルに隠されているので。
「あっちの方で天魔武者の小規模な斥候部隊みたいなのを見かけた。向こうもこっちに気付いたようだけれど、こっちに気付かれたことまでは気付いてないと思う」
「なるほど。では――」
この手の後片付けに向いている大きめの清掃道具を私は『アイテムポケット』から取り出しました。
愛用のC型狙撃銃です。
「――祭りの後のかなしき思いをそいつらにも味わってもらいましょうか」
「うん」
アーデルハイトさんもまた道具を構えました。航空機用らしき機関銃です。
さて……きっちり片付けましょう。
冬眠明けの熊のように。
●終幕
村の外れの雑木林で銃火器の咆哮や断末魔の絶叫が続けざまに響いたにもかかわらず、それらを耳にした村人は一人もいなかった。
皆、久々の満腹感に誘われて早々に寝入っていたのだ。
こうして、秋のおにぎり祭りは静かに幕を閉じた。
善戦🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
効果1【アイテムポケット】がLV2になった!
【防空体制】LV1が発生!
効果2【ラストリベンジ】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV2になった!