アヴァタールの小神殿

 アヴァタール級クロノヴェーダ(👿)が、自らをたたえる為の小神殿を作らせています。
 小神殿には、👿を祀る神像があり、その神像に定期的に生贄を捧げる事で、ボス敵の戦闘力が大きく増大しているようです。
 この小神殿のある街に潜入し、神像を破壊してボス敵を撃破してください。
 なお、神像を破壊するには、街の住民の👿への信仰心を下げる必要があるようです。

韜晦のピラミディオン(作者 夕狩こあら
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#獣神王朝エジプト  #アヴァタールの小神殿  #タウエレト 


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 ナイル河のほとりにある街のひとつ。
 肥沃な大地が齎す農産物と、巨石をも運べる海運によって豊かさを得た人々は、これらの恵みをくれた神々を熱心に信仰しており、折に獣頭人身の威容が街中に現れた時には、深く頭を垂れて礼拝するのが習いだった。
 車輪の音を聞くや身を屈めた若夫婦も、そうだったろう。
 数日前に初子を出産したばかりの婦人は、真っ白な布に包んだ赤子を抱いて跪いたが、彼女の前で馬車を止めたカバ頭の川神『タウエレト』は、目を細めて赤子を覗き込んだ。
 女性や子供の守護神として信奉される川神は、周囲にも聞こえる大声で言おう。
「ああ、ナイルに浸したように瑞々しい赤子よ! 何と愛らしい!」
 大仰な手振りで赤子の誕生を祝うタウエレト。
 ギョロリと大きな目玉を注ぎ、嬰児の無垢なる表情を愛でた川神は、この場に居る全ての者に知らしめるよう声を張り上げた。
「この子に水の祝福を! タウエレトに愛される者は、渇きを知らぬ者となる!」
 丸太のように太い腕が天に掲げられるや、街の人々が力いっぱい手を叩く。
 其は小さな命を慈しむ女神に対する尊敬であり、賛美であり、感謝であり……揺ぎ無い信仰が、万雷の拍手となって大通りに響き渡る。
 その割れんばかり音を聞いたタウエレトは、歪に口の端を持ち上げるのだった。


「獣神王朝エジプトを支配するクロノヴェーダ『エンネアド』は、古代エジプト人が信じていた獣頭人身の神々を名乗り、彼等の姿を模すことで、多くの信奉者を集めています」
 古代エジプト人が信じる神話を実現した世界に改竄した事で、信仰を集めやすくしたのだと説明するは、ファナン・トゥレイス(人間の風塵魔術師・g01406)。
 民はエンネアドが神話に登場する神々だと信じているし、死後の世界も信じている為、彼等に信仰を捧げ、犠牲を払うのも已む無しと考えているのだが、その信仰心を崩すことが出来れば、エンネアドの弱体もかなう筈だとファナンは言う。
「そこで皆さんには、エンネアドの一体『タウエレト』を信仰する小神殿がある街に向かって頂き、街を支配するボスを撃破して欲しいのです」
 此度の首魁は、カバ頭の川神「タウエレト」を名乗るエンネアド。
 女性や子供の守護神として、また川や水の神として崇められている彼女は、まさにその「信仰」をエネルギーとしているので、これを切り崩すのが今回の作戦だ。

「先ずは小神殿のある街へ潜入し、タウエレトを信仰する街の人から情報を得て下さい」
 活気ある市街を訪れ、タウエレトに関する情報を集める。
 タウエレトは自身に集まる信仰を高める為に、折に街に降りてきて民と会話・交流することがあるので、街に潜入すれば、視察中の彼女と接触することが出来る。
 タウエレトとの会話を通じて、彼女がクロノヴェーダである疑いを増し、神話の神々でない事を示すことが出来れば、人々の信仰が弱まり、戦いが有利になるだろう。
「この時、タウエレトは場が不利になると、悪態を吐いて小神殿に逃げ帰るでしょう。人々が大勢集まる大通りで剣を交えるのは難しくとも、神がみっともなく逃げだす姿は、信仰を疑わせるに十分な効果を得られます」
 強大な敵に対し、エネルギー源である信仰を弱めるのが効果的だと言うファナン。
 彼女は更に説明を続けて、
「タウエレトが街から引き返したら、彼女を奉る小神殿に乗り込む事になります」
 小神殿には「タウエレトの像」が飾られており、この像がある限り、敵は高い戦闘力を維持する。
 可能ならこの像から破壊するのが得策とは、ファナンの語気が示して、
「タウエレトの像は、小神殿の中にある四つ柱の先端に設置されたピラミディオン(四角錐)が結界を敷いて護っていますが、街の人々の信仰が失われていればいるほど、結界は弱まり、破壊が容易になります」
 逆に、街の人々の信仰が強固な儘ならば、神像を破壊する事は難しいので、強大な敵と正面から戦う事になってしまう。この場合はかなり苦戦を強いられるので、負傷を覚悟で戦うしかない。
 小神殿に突入後、すぐにタウエレトが居る祭壇の中央へ攻め込む事も可能だが、出来るだけ隠密に、四つの方柱を探して結界を解き、神像を破壊するのが望ましかろう。
「タウエレトは女性や子供の守護神を名乗っていますが、戦闘時は本来の神と異なる邪悪な本性を剥き出しに、強靭な膂力より繰り出る槌撃や、驚異的な水流を叩き付けて来ますので、十分にお気をつけ下さい」
 特に、己の信仰を揺るがす復讐者に一切の慈悲は無い。
 此度、戦う相手は「クロノヴェーダアヴァタール」、クロノヴェーダクロノスが造り出した分身体だが、十分な用意と戦術が無ければ苦戦は必至。

 ファナンは凛々しい双眸に光を湛えて、
「初めて獣神王朝エジプトに向かう方、初めてエンネアドと戦う方が多いかと思います。決して無理をせず、確実に、ご自身が出来る事を行って勝利を掴んで下さい」
 と、睫を落とすや深々と礼をした。


 ――時に。
 街中にけたたましい拍手が起こる中で、手を叩かない者が居た。
 赤子を抱いた婦人と、さほど変わらぬ年齢の女性だ。
「…………」
 荷物を抱えているから手を叩けないという訳でも無かろう。
 彼女は自らの意志で荷物を抱えたまま、拍手の嵐を耐えていた。
「タウエレトさま……どうして……」
 賑々しく立ち並ぶ店の物陰に隠れた女性は、タウエレトの馬車からは見えないが、かの川神から祝福を受けた若夫婦をじっと睨んでいるよう。
(「……私の子供は生贄に連れていかれたのに……」)
 数週間前、己も彼女のように赤子を抱いていた。
 この手には小さくて温かな命があったのに、我が子は生贄に神殿へ連れられ、いま手に抱える麻の袋が悲しくて仕方ない。
(「どうして……どうして……っ」)
 脣を噛み締め、荷物に顔を埋めて泣く。
 市中の人々がタウエレトに注目する中、止め処なく溢れる涙を知る者は、誰一人として居なかった――。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【士気高揚】
1
ディアボロスの強い熱意が周囲に伝播しやすくなる。ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の一般人が、勇気のある行動を取るようになる。
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【強運の加護】
1
幸運の加護により、周囲が黄金に輝きだす。運以外の要素が絡まない行動において、ディアボロスに悪い結果が出る可能性が「効果LVごとに半減」する。
【現の夢】
1
周囲に眠りを誘う歌声が流れ、通常の生物は全て夢現の状態となり、直近の「効果LV×1時間」までの現実に起きた現実を夢だと思い込む。
【腐食】
1
周囲が腐食の霧に包まれる。霧はディアボロスが指定した「効果LV×10kg」の物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)だけを急激に腐食させていく。
【友達催眠】
1
周囲の一般人を、誰にでも友人のように接する性格に変化させる。効果LVが高いほど、昔からの大切な友達であるように行動する。
【隔離眼】
1
ディアボロスが、目視した「効果LV×100kg」までの物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)を安全な異空間に隔離可能になる。解除すると、物品は元の場所に戻る。
【エアライド】
1
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【光学迷彩】
3
隠れたディアボロスは発見困難という世界法則を発生させる。隠れたディアボロスが環境に合った迷彩模様で覆われ、発見される確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【モブオーラ】
1
ディアボロスの行動が周囲の耳目を集めないという世界法則を発生させる。注目されたり話しかけられる確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【過去視の道案内】
1
移動時、目的地へ向かう影が出現しディアボロスを案内してくれる世界となる。「効果LV×1日以内」に、現在地から目的に移動した人がいなければ影は発生しない。
【無鍵空間】
1
周囲が、ディアボロスが鍵やパスワードなどを「60÷効果LV」分をかければ自由に解除できる世界に変わる。
【活性治癒】
1
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【植物活性】
1
周囲が、ディアボロスが指定した通常の植物が「効果LV×20倍」の速度で成長し、成長に光や水、栄養を必要としない世界に変わる。
【土壌改良】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の地面を、植物が育ちやすい土壌に変える。この変化はディアボロスが去った後も継続する。
【口福の伝道者】
1
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。

効果2

【能力値アップ】LV2 / 【命中アップ】LV1 / 【ダメージアップ】LV2 / 【ガードアップ】LV2 / 【凌駕率アップ】LV1 / 【フィニッシュ】LV1 / 【反撃アップ】LV1 / 【アクティベイト】LV1 / 【ドレイン】LV1 / 【アヴォイド】LV4 / 【ロストエナジー】LV2

●マスターより

夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 こちらは、アヴァタール級クロノヴェーダが民々に小神殿を作らせている街に潜入し、邪悪な力を増幅させている神像を破壊して、ボス敵を撃破するシナリオ(難易度:普通)です。

●現地の情報
 獣神王朝エジプト、ナイル川付近に広がる街のひとつ。
 肥沃な大地が齎す農産物と、発達した海運によって交易が盛んに行われており、大通りの市場では、沢山の商人が商いをしています。
 小神殿には、タウエレトの力を増幅する「神像」と、神像を守る為に「四本の方尖柱」が結界を敷いていますが、詳細は不明です。神殿建築に関わった工夫や、生贄を捧げた事のある民なら、内部構造を知っているかもしれません。

●敵の情報
 ボス戦『タウエレト』
 古代エジプトの、カバ頭の川神タウエレトの名を持つエンネアドです。
 女性や子供の守護神として、また川や水の神として『信仰』されていますが、戦いとなれば本来の神と異なる邪悪な本性を剥き出しにします。

●シナリオ情報
 当シナリオは「街に潜入し、情報収集する」「タウエレトと対話する」「小神殿に行き、神像を破壊する」「タウエレトと決戦」という流れで進行する予定ですが、復讐者の選択によって変わる場合があります。

●シナリオ攻略のコツ
 タウエレトの力の源は、人々から集められる「信仰」です。
 決戦の前に人々の信仰心を弱められるよう、タウエレトとの対話で話術を工夫すると良いでしょう。

 以上が復讐者が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ



 路上に轉がる石粒のひとつひとつさえ影を持つ、日差しの強い日。
 砂漠の民なら渇きに嘆くところ、ナイル川の豊かな水に恵まれた街の人々は生き生きと、船や駱駝が運び込む各地の名産や珍品を見て回ろうと、客の呼び込みで賑わう店々を歩く。
 凡そ「ナイルの賜物」とは云うたものだ。
 店先には色鮮やかな織物が並び、瑞々しい野菜が置かれ、「選び取る自由」を与えられた人々は、喧噪の中を笑顔で行き交っている。
 ――傍目には、何ら問題ない街であった。
カルン・ティミド
・心情
賑わいがすごい…素敵な街ですね。
この街の神様なら神殿の宝も期待できそうです…。

・行動
まずは【飛翔】で空から神殿の大まかな形や邪魔になりそうなものがないか確認。
お宝がありそうな場所とかも特定したいけど…神殿だから中はあまり見えないかな?無理はしない

その後は街の酒場で休憩…じゃなくて情報収集です。
現地の神様に詳しくない旅人のふりをして情報を聞き出します。
お酒の力で本音が漏れたらラッキー。沢山飲ませて私も飲みます。
カバの神様ですか…。太ってるし神殿の中に財宝もいっぱい貯めてそうですね。羨ましい…。

怒られそうですが物欲のままに話しちゃいます。
神殿に収められた宝や生贄について聞けたら嬉しいですね。


 初めてこの街を訪れた者は、溢れる活気に驚こう。
「人々の賑わいがすごい……素敵な街ですね」
 喫驚に開いた紅脣から感嘆の息を零す。
 佳聲の主は、漆黒の竜人カルン・ティミド(歪刃竜カルン・g00001)。
 パラドクストレインを降りて件の街に入った彼女は、煌々と輝く黄金色の双眸に人々の活き活きとした暮らしぶりを映しつつ、喧噪に滿つ街を見回っていた。
「これだけ豊かな街なら、神殿に集められるお宝も期待できそうです……」
 強欲な科白が零れたのは、晴朗の空から。
 彼女は【竜翼翔破】――漆黑の竜翼に風を集めて空を飛んでおり、この街がナイル川の東岸に位置する事、東に行くにつれ小高くなっており、街を見渡せる丘に件の神殿が建っている事を確認する。
「神殿は南北に伸びた長方形型で、入口は上空から見る限りでは西側にひとつ……」
 街の大通りから続く道に特段の障害物は無し。
 馬車すら通れる整然とした砂路を進めば難なく辿り着けよう。
 神殿の規模としてはやや小さく、大量に奴隷や神官を収容した居住地という雰囲気は無し、主に儀式を行う爲の神殿と考えた方が良いだろうか。
 カルンは悠然と帆翔しながら観察を続け、
「お宝がありそうな場所とかも特定したいけど……中はあまり見えないかな?」
 蓋し無理はしない。
 佳人は神殿の位置や距離を確認した後、敵に見つからぬ裡に双翼を翻して戻った。
「ふー……生き返りますね……」
 酒場にてビールを一杯、グッと流し込む。
 これも情報収集の爲、咽喉が渇いては喋れまいと舌を潤したカルンは、初めてこの街を訪れた旅人のふりをして、街の人々からタウレウトに関する話を聞く事にした。
「こんにちは。豪快な飲みっぷりの貴方は、一仕事終えたところですか?」
「おうともさ! 今日も神殿に奉納の品を運び終えたところさね」
「それはそれは、お疲れ様でした。ではもう一杯、これは私から労いの気持ちです」
 沢山飲ませて饒舌を引き出す。勿論、自身も付き合う。
 酒は心を開放的に、本音を滲ませるもの。カルンは担夫と話す裡、タウレウトが本物の神に代わって信仰の証を――奉納の品を受け取っている事を聞き出した。
「カバの神様ですか……。丸々太ってるし、神殿の中に財宝もいっぱい貯めてそうですね」
 羨ましい……と、グラスを飲み干すカルン。溢れる物欲がしっかり漏れている。
 小神殿へ突入した時には、この担夫が運び込んだであろう品もあるだろうと、口角に微咲(えみ)を湛えた佳人は、また一杯、彼にビールを勧めるのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!

縹木・勒哉
初依頼。深呼吸をして、落ち着いて
俺に出来ることを果たすんだ

信仰者を弄ぶ、胸くそ悪い外道の所業だ
その信仰…失墜させてやる

俺は情報収集を行い、小神殿の方柱の場所を探りたい
敵を避けて街中を移動
会話に耳をそばだて、心から信仰している人物に話し掛け
俺も熱心な信仰者を装い話を合わせよう
「タウエレト様、素晴らしいですよね」
「恥ずかしながら、俺はまだ神殿に行った事が無いんです」
「礼拝時、特別な作法や神殿内で入ってはいけない場所などありますか?」
…その場所の先に方柱があるかもしれないからな

「色々と教えて下さりありがとうございます」
丁寧に礼を告げて
嘘をついた事に罪悪感を覚えつつ
やるべき事は一つだけ
覚悟を決めたんだ


 カルンが空から偵察する中、地上でも復讐者が動き出す。
 街の喧噪に踏み入る、縹木・勒哉(白亜・g02929)がその一人だ。
 人通りの多い大路、異國情緒溢れる馨を肺腑いっぱいに吸い込んだ彼は、深呼吸をひとつ、而して後に睫を持ち上げ、ナイル川が齎した文明の隆盛を見る。
(「……落ち着いて。俺に出来ることを果たすんだ」)
 初めての世界で、初めての依頼。
 灰色の瞳には様々な人や物品が鮮やかな色彩で飛び込んで來るが、勒哉は心を靜かに、己を此處に運ばせた感情のうねりを辿った。
「一見、平穏に見えるこの街に、信仰者を弄ぶ、胸くそ悪い外道が居る」
 神を騙り、本来の神々に捧げられる「信仰」を奪う者が居る。
 エンネアド然り、クロノヴェーダは人々から何食わぬ顔で搾取する――と白眉を顰めた勒哉は、佳脣を擦り抜ける聲を鋭くした。
「その信仰……失墜させてやる」
 爪先が向かうは、大通りから少し離れた広場。
 其處には人々が歓談する場所があり、主に婦人や年寄りなどが多く集まっている。
「秋にはまた神殿に収穫物を捧げに行かんとなぁ」
「うむ。エンネアドさまに護られておる故、今年も豊作に違いあるまい」
 周囲の会話に耳を欹て、心から信仰していると思しき人物を探る。
 熱心な信仰者を装えば、自然と話の輪に入れようか、
「タウエレト様、素晴らしいですよね」
 勒哉がそう云えば、人々はコックリと首肯を揃え、秋の奉納についての話し合いに加わる事が出来た。
「實は俺、まだ神殿に行った事が無いんです」
「ふむ、そうか。それなら神殿ではキョロキョロせず、祭壇だけを見るのじゃ」
 頭は深く垂れるべし、とアドバイスする老爺にヒントを得る。
 人々にそう教えているのは、神殿内を詳しく見るなという警告であろうと予想を立てた彼は、更に熱意溢れる様子で訊ねた。
「礼拝時、特別な作法や神殿内で入ってはいけない場所などありますか?」
「中央の廊下から左右対称に奥へと広がる空間は、神域だからダメじゃぞ」
 ならば、その場所に『方柱』があるだろうか。
 まだ見ぬ神殿に隠された『攻略の鑰』にアタリを付けた勒哉は、丁寧に一礼し、
「色々と教えて下さりありがとうございます。ご助言は必ず活かします」
 嘘をついた事に罪悪感を覚えつつ、一方で、覚悟を決める。
 やるべき事は一つだけだと、再び頭を持ち上げた青年の瞳は、烱々と冱えていた――。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【隔離眼】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!

クィト・メリトモナカアイス
この世界に神などいない。
神を名乗る者がいたとして。
我はそれを認めない。

我は知っている。
アレはただ人を祝福するだけの存在じゃない。

町に出たタウエレトを見る人々の様子を見て、タウエレトに対していい感情を抱いていない人を探します。
探せばアレを良く思っていない人もいるはず。
町にでたアレを見た反応で分かるかも。

探し当てたらタウエレトを討つために活動していることを話し、その理由を聞きだします。
アレは我に取っても敵。
アレへの信仰を揺らがすため、汝の助けが必要。

無事に聞き出せたなら、タウエレトへの会話にも付いてきて直接糾弾してくれるか頼んでみます。
我が勝てば汝は安全。仮に負ければ汝も死。
汝に覚悟はある?


エーブリム・ボウマン
カバ顔のヒロインとラブトークしようにも
まずは台本(じょうほう)が無きゃどうにもならねぇ
大根役者は辛いね

オレが探すのは拍手や賞賛をしてねえヤツだ
タウエレトの見える範囲で『わかってて』賞賛しない
つまりあのカバがやべーヤツだって知ってそうなヤツを探し
カバに見えないよう注意しつつひっそりと声をかけるぜ

オレはエーブリム
皆も知っての通り、神をも恐れぬ男さ!
え、知らない?

まぁいいや
恐れ知らずなオレは…あのカバの本性を暴きたくてね
良けりゃ、知ってる事を教えてくれねぇか?
Everybody Has Bullet、アンタの言葉がヤツへの『トドメの一撃』になるかもしれねぇんだ
オレという銃を手にもっちゃくれないかい?


奉利・聖
信仰を崩すのは並大抵のことではありません!
しかしながら歪な信仰の裏には、必ず「不満」があるはずなのです
大きい声に搔き消され、うやむやにされてしまう不信感…情報を得るならまずはそこでしょうか

いるはずですよ、ゴミに対して負の視線を向ける人…信仰篤く迎えない人。
『影気功』でこっそり近づいて、お話を聞くために接触です
話しを聞いたら再度影に溶け…そうですね
タウエレトの持ち物なんか探ってみたいところですね
何かくさいものが出てくるかもしれません

出来れば生贄の末路も把握しておきたいですね
生贄を捧げた誰か…あるいはそれに関する事に触れた人
死体処理人とか居るんでしょうかね
…まぁ、とにかくなんでも拾い集めなくては


ジズ・ユルドゥルム
さて、雪辱戦の始まりだな。

群衆は信者達ばかりだ。信仰に迷いがある素振りは目立つ。
そんな素振りの者を探し当てたら、目立たないために一緒に祈るフリをするように伝える。彼らには酷かもしれないが…。

自分の素性は、「私も偽の神に子供を奪われた者だ」と、奪われた側の人間だと伝える。なに、ウソはついていない。

私は、奴の非道な行為を糾弾し、あれが偽物の神であると皆知らしめたいんだ。
そのためには、あなたの助けが必要だ。
詳しく話を聞かせてくれないか。

聞き出せたなら、偽神を糾弾する際に協力してくれるか頼んでみよう。

私は…いや、私達は、偽神どもに生命を踏み躙った代償を払わせるために来た。
どうか協力してほしい。


 カルンは小神殿の位置を、勒哉は方柱の情報を探る裡、民に根付く信仰に触れた。
 多くの者はタウエレトを篤く信仰しているが、然しこの街の何處かに、必ず、かの者に疑念を抱いている者が居る、と――幾人かの復讐者が烱眼を絞る。
「信仰を崩すのは並大抵のことではありません! しかし偽りの神、歪な信仰の裏には、必ず『不満』がある筈なのです」
 礼儀正しくハキハキと話すは、奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)。
 見た目はピアスバッチバチ、タトゥーもクールにキメたヤンキーだが、この街には淸らかならざる者に心を穢された人が居ると、澄んだ黑瞳を雑踏に注ぐ。
 傍らのジズ・ユルドゥルム(ひとつぼし・g02140)も靜かに首肯を置いて、
「ああ、群衆の殆どは熱心な信者ばかりだ。信仰に迷いがある素振りはかなり目立とう」
 譬えば、と琥珀色の双眸を空に投げる。
 今は淸々しい青が広がる空も、黄昏が夕赤と紫紺に色を分けるように――何かが切欠となり、心の搖らぎが顕れるだろうと、五感を研ぎ澄ませる。
 而してその切欠を、復讐者は知っている。故に待つ。
 太鼓の音が雄々しく鳴り響いた時、聖とジズはつと視線を結んだ。

「タウエレトさまの、おなーりー!」
 小神殿の方角から走り来る馬車がラッパを鳴らし、その音を聽き拾った者が力強く太鼓を打つ。
 街中に響き渡る鼓聲が神の降臨を報せよう。
 人々は商いの手を止め、大通りに集まり、跪礼して馬車を迎え始めた。
「タウエレトさま! 我等の女神よ!!」
「水のお恵みを、命の萌芽に感謝します!」
 藤籠を抱えた娘達が花葩を降り注ぎ、美しく彩られた砂路を二頭立ての馬車が通る。
 豪奢に装飾された馬車に乗る者こそ、河馬頭の川神『タウエレト』であった。

「この世界に神などいない。神を名乗る者がいたとして。我はそれを認めない」
 熱狂の中に涼やかな佳聲を置くは、クィト・メリトモナカアイス(モナカアイスに愛されし守護者・g00885)。
 俄に流れを得た人波に楔の如く立った銀髪の少女は、人々が我先にと向かう大通りに烱瞳を注ぎ、凛乎と言つ。
「我は知っている。アレはただ人を祝福するだけの存在じゃない」
 其は獣頭人身の異形、エンネアド――。
 力の根源たる「信仰」を集めに來たのだと、翡翠色の佳瞳に光を湛えれば、その隣、飄然と壁に寄り掛かっていたエーブリム・ボウマン(人間の映画俳優・g01569)が、ヒラリと掌を払った。
 随分と美人が來たようだと、歓聲の方へ鼻梁を向けた彼は、クッと口角を持ち上げ、
「――扨て、カバ顔のヒロインとラブトークしようにも、台本が無きゃどうにもならねぇ」
 大根役者は辛いね、と皮肉をひとつ。
 ここで彼が云う台本とは「情報」だ。
 麦秋と輝く金髪をオールバックに、一縷と影に遮られぬ双眸を眼尻へ滑らせた彼は、この先の展望を得るべく、壁に預けていた身を起こした。

  †

 目的を同じくした復讐者が動き出す。
 彼等は大通りの賑わいを映しながら、視野は広く人を探して、
「この中には、アレを良く思っていない人もいるはず」
「ええ、いるはずですよ。ゴミに対して負の視線を向ける人……信仰篤く迎えない人が」
 黄昏が空の色を別つように、タウエレトが出現した事で人々の信心と不信心が見分けられるようになる、と周囲を見渡す。
「アレが片方を祝福し、片方を生贄にする気紛れを見せたのは、多分、今回が初めてじゃない」
「そうですね……大きい声に搔き消され、うやむやにされてしまう不信感……情報を得るならまずはそこでしょうか」
 顔色の變化や仕草を見れば当該の人物が見つかるだろうと、クィトが怜悧に翠瞳を巡らせる中、聖は【影気功】(コッソリオソウジモード)――存在感を極限まで希薄に、我が姿影を風景に馴染ませ、雑踏に溶けていった。
 音も匂いも辿れまいが、彼に手を振って別れたエーブリムも踏み出し、
「そうだ、探すのは拍手や賞賛をしてねえヤツ……タウエレトが見える範囲で『わかってて』そうしない、つまりあのカバがやべーヤツだって知ってそうなヤツだ」
 熱狂に鎖がれぬ復讐者なら、その人物を見つける事は難しくない。
 彼等は、喧噪が喝采に變わった今もその場に立ち止まり続ける婦人に目を止めると、川神の視界に入らぬよう注意しつつ、そっと話し掛けた。

「立った儘では目立つ。酷かもしれないが、祈るフリだけでも出来るか」
「――ッ」
 限りなく小さく、眼配せして囁くは、ジズ。
 その科白ひとつで、婦人の信仰の搖らぎに気付いた、婦人と同士である事が理解ろう。
 不意に喫驚した婦人が抱える袋を落とせば、中身が零れるより速く手を差し伸べたエーブリムが、荷物を取って渡した。
「オレはエーブリム。皆も知っての通り、神をも恐れぬ男さ!」
「神をも恐れぬ……えぇと、どなたで……」
「え、知らない? まぁいいや」
 片眉を上げて咲む彼の隣、クィトは婦人が鸚鵡返しにも口にした言を聞き逃さず、やおら進み出る。
「アレは汝の敵。我にとっても敵」
「アレとは、ま……まさか……!」
「アレへの信仰を揺るがすため、汝の助けが必要」
 少女が憚りもせず偽りの神を討つ爲に活動していると云えば、婦人は物騒を口にすべきでないと目を泳がせるが、彼女の動揺を推し量ったジズがここに言を重ねる。
「私も偽の神に子供を奪われた側の人間だ」
「! ……そんな、あなたも……」
 蓋し嘘では無い。
 歴史を改竄され、愛子が繋げた血脈を消された佳人は、子を喪った哀しみを滲ませる婦人を前に、まだ光を失わぬ瞳を注ぐ。
「私は、奴の非道な行爲を糾彈し、あれが偽物の神であると知らしめたいんだ」
「……此處はタウエレトさまの街。そのような事が……」
「その爲には、あなたの助けが必要だ」
 詳しく話を聞かせてくれないかと、美し烱瞳が婦人を映せば、彼女は「女性や子供の守護神」たるタウエレトが、時により女子供の生贄を求めること、己がその犠牲者であることを、一筋の涕涙を以て話した。
 かの河馬頭の異形が神話の神でないと知る復讐者なら、彼奴がエネルギーを効率的に得る爲に人の生死を操っているのが理解るが、大切なものを奪われた悲哀や苦悩が、理解できるから収められるものでないとは、彼等自身が経験していよう。
 故に、婦人を涙で終らせは爲まい。
 エーブリムは幾許の沈默に婦人を慰めると、穩やかなバリトンを紡いで、
「……恐れ知らずなオレ達は、あのカバの本性を暴きたくてね。良けりゃ、知ってる事を教えてくれねぇか?」
 傍目には気紛れと思われる生贄の要求が、これまでどれだけあったか。
 婦人と同じように家族を亡くした者が、他にも居るか。
 その人数によっては、衆目の見るところでタウエレトへの疑念を膨らませる事が出来ると云えば、婦人は少し躊躇いつつも、己が知る限りの事件と人物を話した。
 畢竟、哀しみに呉れる者は一人では無い――。
 実際にタウエレトと対話した時には、より大きな波紋を広げられようと確信を得たジズとクィトは、婦人に協力して貰えないか頼んでみる。
「私は……いや、私達は、偽神どもに生命を踏み躙った代償を払わせる爲に来た。どうか共に來て欲しい」
「我等が勝てば汝は安全。仮に負ければ汝も死。汝に覚悟はある?」
 タウエレトに聲を上げるのは無理かもしれない。
 然し、多く寄せられる賛美の中に、其を否定する「沈默」があったなら、偽神に大きな打撃を與える事が出来ると二人が云えば、エーブリムも言を添えて、
「Everybody Has Bullet、アンタという存在がヤツへの『トドメの一撃』になるかもしれねぇんだ。どうだろう、オレという銃を手にもっちゃくれないかい?」
 瞳に湛えられる光の何と眩しいこと――。
 瞳の色こそ違えども、各人の星眸(まなざし)に救いの光を見た婦人は、腰を屈め、頭を垂れて言った。
「……分かりました。わたしは皆樣を信じます」
 而して再び顔を持ち上げた時の婦人の瞳も玲瓏と輝いていたろう。
 復讐者は小気味よく咲んで手を差し伸べ、
「よっし、そうこなくっちゃ!」
「雪辱戰の始まりだな。お互いに」
「汝の覚悟に相應しい未来を導こう」
 と、踏み出る爪先を揃えるのだった。

  †

 扨て、【影気功】で迷彩を纏いつつ、密かに婦人と仲間達の会話を聽いていた聖は、大通りに出るまでにもう少し情報を得る事にした。
(「……ご婦人は愛子を神殿に連れていかれたと言っていましたから、出来ればその後も把握しておきたいですね」)
 生贄として捧げられた後、死者はどうなるか――。
 街ゆく人々の会話を聞き拾ったところでは、死者は『死者の家』に運ばれるという。
 獣神王朝エジプトでは、神話の神々は実在し、死者は蘇るものと信じられているので、死体は埋葬せず、『死者の家』と呼ばれる寺のような所に安置されるようなのだ。
(「死後に然るべき道があるなら、それなりの……死体処理人とか居るんでしょうかね……」)
 死体は神殿に無し。なればとタウエレトが現れた大通りへと向かった聖は、彼女の持ち物で何かくさいものが出てくるかと探りを入れる。
 然し彼女は、その自信を示すように何も所持していなかった。
 この街で己に抗う者は居ないと確信しているのか、丸太のような腕を黄金の肘掛けに預けたタウエレトは、人々より注がれる「信仰」を満足気に受け取っている。
 その威容を見た聖は、成る程と合點して、
「これだけ目が薄汚れていたら、人々の信仰が一枚岩でない事も、復讐者が紛れている事も見えませんか」
 と、仲間が動き出す瞬間を待つのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【光学迷彩】LV2が発生!
【強運の加護】LV1が発生!
【過去視の道案内】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV3が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!

震天無双・大和
※戦闘を行わない

生贄とか今時流行んねぇだろ…
しかし直接敵と接触出来るのはイイ機会だ
ちょっくら民衆の前で揺さぶってみるか

「おおタウエレト様!女子供に水の祝福をいつもありがとうございます」
街に潜入し、仰々しく讃える演技をして接近
周囲に人が多い状況を狙う
「タウエレト様の神力はまさしく我らの渇きを潤すもの。ですがどうにも不可解なことが御座います。…なんでも神殿へ連れられ帰らぬ者がいると。それも小さな赤子だと」
笑顔は崩さず、朗らかな口調で問いかける
「子供の守護神であらせられる御方、その赤子は『どうなった』のですか?まさか生贄、なんて違いますよね?」

【士気高揚】で民衆に心情の変化が起これば良いが…。


樹・春一
わあ~! 本物の神って初めて見ました!
ああっ、言葉を交わせるなんて恐れ多い! でも嬉しい!

神よ! 貴女は全ての人々に祝福を与えているのですね!
全てを愛し、全てを幸福に導く! 素晴らしいです神よ!

ですが神よ。実は先ほど、苦しんでおられる女性をお見掛けしました。
とても悲痛なご様子で、声すらかけられなくて……
神は彼女を愛しておられないのですか?
実はその、悪しきものは神の名を騙るという話を聞いておりまして
だってそうじゃないですか。神のふりをしたほうが悪いことしやすいですから
神が本当に神であるなら、彼女にこそ救いの手を伸ばすべきです!
できますよね! 神の奇跡見れますよね!
ま、まさか救えないのですか!?


シアン・キャンベル
「貴様は子供を愛しく思う神と聞く。ならば私との会話の中でその『所以』を存分に揮い給え――人間味をこめて」
「さて。水を祝福とするならば貴様はどうして胎水の重要性を解かないのだ。河馬の姿で有るならば神意、一語一句が明白でなければならない」
「それで……あの女(ひと)を見るのだよ。何故に顔色が悪いのだ。貴様、もしや古くからある、馬鹿げた『儀式』など行っていないな……?」
「貴様の悪いところを指摘してやろう。もしも、悪いところがないならば素直に頭を垂れてやる――さあ。貴様に平穏(ホテプ)の意味が解るのか、貌を晒し給え――」
「では。これにて対話は終いだ。神様、如何か我等に言辞を――は、は、は!」


 目下、大通りでは太鼓が雄々しく鳴り響いている。
 神の降臨を告げる鼓聲を聽いた人々が集まれば、藤籠を抱えた娘達が花を降らせる中を、二頭立ての馬車が通る。
 その馬車に乗る者こそ、河馬頭の川神『タウエレト』。
 人々は跪礼して馬車を迎えると、口々に彼女を賛美した。
「タウエレトさま! 我等の女神よ!」
「水のお恵みを、命の萌芽に感謝します!」
 多くの者が沿道に留まって跪礼する中、馬車に近付く者は稀だろう。
 大きな車輪が音を立てて砂路を踏み進む中、幾つかの影が神の行進を遮った。

「わあ~! 本物の神って初めて見ました! ああっ、間近で拝める上に言葉を交わせるなんて恐れ多い! でも嬉しい!」
 硝子のように澄み切った、晴れやかなテノール。
 聲の主は樹・春一(だいたいかみさまのいうとおり・g00319)。
 神の存在を疑う彼ではないが、目に見える奇跡には感動を隠せぬか、射干玉の黑瞳はタウエレトを映して煌々と輝く。
 興奮を隠さず賛美を口にする春一に、彼女も気を良くしよう。
『……ふむ、随分と熱心な者が居るもんだね』
 ゆったりと肘掛けに身体を預けた彼女は、春一に饒舌を許した。
『馬車を止めたって構わないよ。喋りな』
「感謝します、神よ! 貴女は全ての人々に祝福を与えているのですね! 全てを愛し、全てを幸福に導く! 素晴らしいです!」
 此れこそ神の姿であると言う大きな聲を止めはしない。
 彼の科白は人々の信仰を代辨したものと、この時は思ったからだ。

 春一が「此處に神在り」とばかり聲を張れば、更に賛辞が連鎖する。
 皆々が跪礼する中で、悠然と近付く長躯を際立たせた震天無双・大和(フォーチュンキラー・g00853)――彼もまた復讐者だ。
 大和は眩しそうに細めた青藍の瞳に、ゆったりと構えたタウエレトを映して、
「おお、タウエレト様! 女子供への祝福を、水の恵みをいつもありがとうございます」
『ワタシは皆を愛しているからね。誰一人渇くことが無いように見守っているよ』
「……絶えず注がれる慈愛に感謝を」
 両手を広げ、衆目を集めながら博愛を讃える。
 上背のある彼の仰々しい仕草は否應にも目立とうが、こうして「信仰」の形が見える事は、タウエレトにとっても得であり、彼女は最後に訪れたシアン・キャンベル(妖蟲・g01143)の、我が足許を掬いかねぬ対話も受け容れる事となった。

「女子供の守護神にして川や水を司る神、タウエレトよ。子を愛しく思うなら、私との会話の中でその『所以』を存分に揮い給え――人間味をこめて」
 宛ら金字塔の前に立ち開かる、謎の塊の如き語調。
 タウエレトの冠の頂から爪先まで見つめたシアンは、その視線を捺擦るように人差し指を突き立てながら言った。
「扨て。水を祝福とする神は如何して胎水の重要性を説かないのだ。河馬の姿で有るならば神意、一語一句が明白でなければならない」
 ナイルの水の如く滔々と滑る言が、疑問に滿ちた冒瀆とは、民はまだ理解らない。
 人々が不遜な指先にざわめく中、タウエレトは漸う馬車から身を乗り出すと、聲色を落として言を返した。
『……神と問答するつもりかい?』
 ギョロリとした目を細め、シアンを見定めんとする偽神。
 僅かにも邪悪な本性を滲出した眼光は、刹那、スッと動き出した指先に導かれた。

「それで……あの女(ひと)を見るのだよ。何故に顔色が悪いのだ」
 繊指が示すは、店々の陰に身を隠していた婦人――エーブリムやジズ、クィトらに支えられて大通りまでやってきた女性で、彼女は毅然と立った儘、衆目に耐える。
 時に春一はハッとした様子で口をつき、
「あなたは、僕が先程お見掛けしたご婦人……! 何やら苦しんでおられて、とても悲痛なご様子でいらっしゃいましたから、聲すらかけられませんでしたが……」
 言って、「ああ!」と掌を打つ。
 何か閃いたか、春一はタウエレトに深々と礼をして願い出た。
「タウエレトさまが本当に神であられるなら、今こそ彼女に救いの手を伸ばすべきです! できますよね! 神の奇跡、見られますよね!」
 ご婦人を笑顔にして欲しい、と――。
 然し其こそ叶わぬ願いとは、タウエレト自身が痛感しよう。
 彼女の愛子を奪ってしまった今、衆人の前で祝福しようが、黄金の馬車に据えようが、タウエレトは彼女の口元に微笑すら浮かべられまい。
 川神が返答に鈍るほど、春一は聲を大きくして、
「おや、神は彼女を愛しておられないのですか? ま、まさか救えないのですか!?」
『……いいや、救えなくは……ないさ……』
 どうして悲しんでいると、問えば墓穴を掘る事になる。
 彼女が真実を告げようとも、押し默ろうとも、人々の信仰を搖るがすに違いないのだ。
 而して周囲の人々もタウエレトの言を待つ中、大和はこの靜粛にこそ口を開いて、
「タウエレト様の神力は、まさしく我らの渇きを潤すもの。疑いようもありません」
 擁護か。いや違う。
 彼は更に一石を投じよう。
「ですが、どうにも不可解なことが御座います。……なんでも神殿へ連れられ帰らぬ者がいると。それも小さな赤子だと」
 一瞬、緊張に震えた空気が大きく波打つ。
 彼の言う不可解を知る者が、疑心を抱いている者が潜在しているからだ。
 生贄として連れられたのは婦人の子が初めてという訳では無く、辺りは愈々靜かに――気付けば太鼓の音も消えている。
 大和はあくまでタウエレトを信じようと、笑顔を崩さず、朗々と問い掛けて、
「子供の守護神であらせられる御方、その赤子は『どうなった』のですか?」
「貴様、もしや古くからある、馬鹿げた『儀式』など行っていないな……?」
 ここにシアンの佳聲も重なれば、人々の心は大いに搖さぶられよう。
 張り詰めた靜默に復讐者の聲はよく通って、大和、春一、シアンの三者は、其々の方向から波紋を広げた。
「慈愛の神が生贄を求めるなんて、まさか、違いますよね? 今時流行りもしない、神を騙った蛮行でしかありませんのに」
 凄艶のハイ・バリトンが雄辨を振う。
「その、実は僕も、悪しきものは神の名を騙るという話を聞いております。だってそうじゃないですか。神のふりをしたほうが悪いことしやすいですから」
 次いで透徹のテノールが共響する。
「貴様という川の澱みを指摘してやろう。手で掻き混ぜても濁らぬなら、素直に頭を垂れてやる――さあ。貴様に平穏(ホテプ)の意味が解るのか、貌を晒し給え――」
 貌を! と再びタウエレトを指し示す一指は誰にも止められぬ。
 タウレウトさえも忌々しげに大きな口を歪めるのみにて、水を打ったような靜けさに布擦れの音を掠めたシアンは、雄大に両手を広げた。
「では。これにて対話は終いだ。神様、如何か我等に言辞を――は、は、は!」
 呵々と嗤う聲が、重苦しい靜粛を刻むようだった。

 復讐者の言葉は宛ら槍の如く、タウエレトを唖に突き堕とし、衆目に醜態を晒させた。
 嘗てない「口撃」を受けた彼女は、苦し紛れに吐く言葉も的外れに、その陳腐さも人々の疑心を広げたろう。
『――ああ、理解った。アンタ達は砂漠から來た旅人だね? 渇いた風しか知らないなら、ワタシの事も、この街の勝手も知らない。そうだろう?』
 道理で話が通じない、とヒラリ手を翻して遣り過す。
 其を合図に再び馬車を前進させたタウエレトは、復讐者に擦れ違い様、捨て科白を吐いて神殿に戻った。
『……今夜、この街で泊まれる宿はないだろうよ。寒々しい砂漠へ帰りな』
 而して彼女が去った後には。
 車輪に敷かれた花片が儚げに横臥っていた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【士気高揚】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
【植物活性】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!


 小神殿に帰還した川神『タウエレト』は、無論、穩やかでは無かったろう。
 吹き抜けの天井には、彼女の怒聲が幾重にも反響していた。
『何者だい、アイツ等は! ワタシに恥をかかせるなんて、街の連中じゃあないね!』
 ドスドスと荒々しい跫音を響かせて神殿内を歩いた彼女は、中央階段を昇りきった先、最も美しく装飾された祭壇が常の居場所であったが、不図、階段の奥へ回り込む。
『まさか……弱まってないだろうね……』
 少々の懸念を零しつつ、目視にて確かめる。
 小神殿の奥部、冷暗所に鎮座するは『タウエレト神像』――これこそ彼女が人々から集めた「信仰」によって戰闘力を強化する『クロノ・オブジェクト』であり、神がかった力を発揮するパワーソースである。
(『……これがあれば、ワタシは神としてあり続けられるんだ……!』)
 大きな目をギョロリと動かし、周囲を見渡す。
 神像は四本の方柱、その先端に設置されたピラミディオン(四角錐)が放つ輝きによって厳重に護られているが、幾許か輝きが失せたような……いや、タウエレトは認めない。
『……ワタシも莫迦だね。突然、現れた奴等に何も出来やしないさ』
 人々は神話の神々を信じている。
 そして、神話の神々に姿を似せた己にも、熱心に信仰を注いでいる。
 その信心こそ、何者をも淘汰し得るエネルギーとなる。
『連中、今頃はボコスコに殴られて、街を追い出されているだろうさ』
 人々に根付いた信仰が、己でなく彼等を排除するだろうと嗤笑したタウエレトは、踵を返して祭壇へ――より人々が信奉するよう豪華な黄金の首飾りを付けると、心を落ち着けるのだった。
奉利・聖
それでは──そろそろ反撃のお時間といきましょうか
ゴミ掃除にはまだまだ下準備が必要ですが、これは確かに痛烈な一撃にあなるはずですよ
さてさて、皆さんの情報を見ると…神殿内の神域と呼ばれる場所が大いに臭いのでしたか
ならばまずはそこを目指しつつ──『探気功』

気の網を張り巡らしましょう
タウエレトの功績がやけに濃い部分が当たりでは無いでしょうか?
意外と小心者のようですし…逐一確認して安心を得たいのかも
見つけてやりましょう、その安心の源を

見つけられたのなら早速破壊開始です!
<呼吸法>で練り上げた気を纏わせ、蹴りによる<強打>でぶっ壊してあげます!
こうして安心を剥ぎとって、ゴミを恐怖させてあげなくては!!


クィト・メリトモナカアイス
我は今夜は暖かいベッドで眠ると決めている。
だから、夜までにアレを討つ。

ひとつ、神殿では祭壇だけを見ること。
ふたつ、中央の廊下から左右対称に奥へと広がる空間へは入らないこと。
怪しいのはこの辺り。

我は祭壇の方へ行く。
タウエレトを警戒し「喧騒へ捧ぐ宵の峰」でさらに【光学迷彩】を重ねて小神殿に侵入します。

これで見えれば楽。
【過去視の道案内】で目的地へ向かう影があればそれについていき、なければ隠れながら祭壇の近くを探索します。

方柱とピラミディオンを発見したなら黄金猫拳打棒で叩き壊します。
発見したのが神像なら、まだ結界が解かれていなければ他の復讐者によって結界が解かれるのを待って叩き壊します。


カルン・ティミド
私も神殿で方柱を探します。
【光学迷彩】で体を隠して侵入。
向かうのは中央廊下左右の神域の…豪華な輝きを感じる方に欲のままに突き進みます。

途中で鍵がかかってる部屋があったら【無鍵空間】でこっそり解錠を狙います
方柱や神像が見つからなくてもお宝があったら嬉しいですしね…ふふ…。
(食べ物や生贄には興味なし)

方柱を見つけられたら尻尾(刃尾)を突き刺して別の脆い材質に変えることでぶっ壊しちゃいます。
とっても綺麗に輝いてて勿体ないですが…今は我慢です…。


縹木・勒哉
事前に得た情報に倣い、周囲に不審に思われないよう
神殿内では祭壇の方向を見て移動

…なるほど。
これだけ大層なつくりだと偽りの威光がまかり通るのも納得だ

左右通路の場所まで来たなら、
他の皆が向かっていない方柱の通路へ侵入開始
モブオーラを纏い、もし通路の見張りが居るなら
目線が逸れた隙に通路へ滑り込む
方柱までは、光学迷彩を纏って柱や物陰に身を隠しつつ
発見されないようピラミディオンの輝きを探そう

これが人々の信仰が集った輝き…
…こんなに綺麗なのに、利用する奴の性根は腐ってるんだよな

発見したら、小型拳銃で四角錐を容赦なく破壊
まだ未破壊の四角錐があれば再度隠密に探し破壊へ向かう
これで、神像破壊もやり易くなるはずだ


 偽神『タウエレト』を乗せた馬車は匆惶(そそくさ)と小神殿へ向かったが、直ぐに追う必要は無い。
 復讐者は既に調査した神殿の座標を共有しており、其處へ向かう道程も把握していたからだ。

「旅の巡礼者かね?」
「はい。この街で暮らす叔父に、タウエレト樣に御挨拶して來るよう言われました」
 ナイル川東岸に位置する街から更に東へ、小丘に立つ小神殿の西門に至る。
 巡礼者を装って小神殿を訪れた縹木・勒哉(白亜・g02929)は、偶然にも聲を掛けてきた神官にそう答えると、一礼して下げた頭はその儘、身を低くして敷居を跨いだ。
 老爺に教わった事を倣えば、不審には思われまい。
「うむうむ、神殿内での作法を學んでいるとは感心した。くれぐれも川神樣に失礼の無いように」
 行きなさい、という聲に背を押された勒哉は、冷ややかな神殿の中へ。
 外の暑さからは想像も出来なかった涼しい空間は地下にも掘り込まれているのか、足許には冷気を感じる程で、小さな跫音も響かせる石床の、極限まで磨き上げられた光澤も麗々しい。
(「……なるほど。これだけ大層な造りだと、偽りの威光がまかり通るのも納得だ」)
 灰色の瞳を足許に滑らせながら、勒哉はそれから何處まで歩いたろう。
 気付けば彼は、【アサシネイトキリング】――跫音を消し、気配を殺して神官らの意識の外へ、冷たい空気に交じ入る風の如くとなっていた。

 ――中央の廊下から左右に通路が伸びる……此處からが『神域』か。
 ――この先に『方柱』が隠されています。手分けして破壊しましょう。

 默した儘、勒哉と通じ合わせたのは、カルン・ティミド(歪刃竜カルン・g00001)。
 勒哉が神官と会話する隙に中へ侵入した彼女は、我が身に【光学迷彩】を施して姿を隠し、タウエレト神像を護っているという方尖柱を探しに掛かる。
(「……慥か、柱頂のピラミディオンが結界を張っているんでしたね……」)
 臆病な筈が、向かう足がぎゅんぎゅん急くのは、凡そピラミディオンが黄金で装飾されていると知っているからだ。
 自ずと「おたからのにおい」のようなものを嗅ぎ取った彼女は、豪華な輝きを感じる方へ、我欲に從って突き進む。
(「この方向に方柱や神像が見つからなくても、お宝があったら嬉しいですしね……ふふ……」)
 何せ、日々に信仰の証として新鮮な果物や装飾品が届く場所だ。
 お宝以外に興味は無いが、鍵が掛かった部屋があれば【無鍵空間】で解錠する用意も出来ているカルンは、今こそ黄金色の瞳をピカピカと、暗く冷たい石床の廊下を駆け走った。

 そして、勒哉の蔭に隠れて侵入した者がもう一人。
 カルンと同じく迷彩を纏って侵入を果たしたクィト・メリトモナカアイス(モナカアイスに愛されし守護者・g00885)は、先に聞いた神殿内での作法を振り返りつつ、心靜かに『神域』へ視線を向けた。

 ――ひとつ、神殿では祭壇だけを見ること。
 ――ふたつ、中央の廊下から左右対称に奥へと広がる空間へは入らないこと。

(「怪しいのはこの辺り」)
 特定の所作を強いるのは、其處に弱点が隠されているからだと翠瞳を鋭くしたクィトは、先を急ぐより「方法」があると、そっと石床に屈むや繊指を翳した。
「これで見えれば樂」
 白銀の睫を伏せて願うは【過去視の道案内】――此處に居る神官なら、神域に隠された方柱の管理もしている筈だと地面に呼び掛ければ、正しく読み通り、方柱を定期的に見回っている神官の影が現われ、目的地まで案内してくれる。
 別動隊も動いているなら早めに破壊しておきたいと、少女は漆黑の指が示す方向へ、爪先を彈いた。

 而してクィトが方柱までの道を辿る一方、別なる手段で秘鑰に迫る者が居る。
 門前の神官の視線を逃れた三人目の侵入者、奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)だ。
「さてさて、皆さんの情報を纏めると……神殿内の『神域』と呼ばれる場所が大いに臭うのでしたか」
 ここから先が然うだと、明鏡と澄める黑瞳に奥部を映した聖は、【探気功】(ゴミサガシモード)――練り上げた氣を網の如く張り巡らせるや、研ぎ澄ませた知覚能力を以て、周囲に隠れる痕跡を探り始めた。
「まずは現場を知らなければ、掃除は始まりませんから!」
 掃除好きな聖には、塵埃の動きから各人の動きが映し取れる。
 一際巨大な足跡がタウエレトのものだろうが、中央の階段と裏側を往復した痕跡を見つけた彼は、その足取りに滲む戸惑いか焦燥のような感情を慥かに読み取った。
(「意外と小心者のような……偽っているからこそ、逐一確認して安心を得たいのかもしれません」)
 中央階段を回り込んだ奥に、自ら足を運ぶ程に大事な何かがある――。
 其處にタウエレトの功績がやけに濃い部分がある筈だとアタリを付けた聖は、極限まで集中して、
(「……見つけてやりましょう、その安心の源を!」)
 と、靜かに踵を蹴った。

  †

 神像と方柱の破壊は、隠密に徹する必要がある。
 勿論、中央階段を昇ってタウエレトの元へ向かった仲間が此方の存在を隠して呉れているが、稼げる時間は限られており、いずれ彼等は劣勢に追い遣られてしまう。
(「――急ごう」)
 上階で響く劍戟に神官達が慌てふためく中、勒哉は四方を泳ぐ視線を掻い潜って疾る。
 神殿内が騒然とするほど冷靜に、柱や物陰に身を隠しつつ神域を探索した彼は、穹窿型に繰り抜かれた石門の奥に輝かしい光を見つけると、其を潜った先、粛然と打ち立てられた方柱の頂に、閃爍燦々たるピラミディオンを見つけた。
「これが、人々の信仰が集った輝き……こんなに綺麗なのに、利用する奴の性根は腐ってるんだよな……」
 曇り無き輝きに感嘆が零れると同時、遣る瀬無い溜息が漏れる。
 實に美しい造形だが、これこそ人々の想いを糧と貶める装置にて、交睫ひとつして凛然を萌した彼は、ジャケットから小型拳銃を取り出すと、迷いなく銃爪を引いて射撃――! 螺旋を描いて繰り出た鐵鉛が、黄金で箔された側面を打ち砕いた!
 罅割れた四角錐がガラガラと崩れ落ちれば、神像に光は送れまい。
「……これで、神像の破壊もやり易くなるはずだ」
 勒哉は硝煙の匂いを鼻に掠めながら、まだ未破壊の方柱が無いかと影を疾走らせた。

 一方、神官の幻影に嚮導を得ていたクィトも、別なる方柱に辿り着いている。
 道中、紅脣は秘呪を詠唱していたろうが、其は誰にも聽こえず、
「我を見ること聞くこと能わず。我の前に汝の目は瞽となり、耳は聾となる」
 迷彩を纏った上、【喧騒へ捧ぐ宵の峰】――特殊な歩法により影も音もなく神域を歩いた少女は、人知れず石室に至ると、嚴然と聳立する方柱の先、煌々と燦くピラミディオンに視線を結んだ。
「我は今夜は暖かいベッドで眠ると決めている。だから、夜までにアレを討つ」
 決然と言ち、繊手に握れる純金製の鈍器『黄金猫拳打棒』を構える。
 爪先を彈くや輕々と跳躍したクィトは、見上げていた黄金の四角錐をあっという間に眼下に敷くと、振り被って一閃ッ!
 棒の先端に飾るモッチリとした肉球を振り下ろし、その頂を破壊した!!
「黄金の箔が砕ける。光が零れる」
 強烈な「ねこパンチ」を喰らったピラミディオンが崩壊し、石床にパラパラと渇いた音を叩き付ける。
 着地と同時にその欠片を組み敷いたクィトは、次は神像の破壊に掛からんと、直ぐに移動を始めるのだった。

 ――そして。
 カルンの研ぎ澄まされた財宝アンテナも光耀の方向を摑み、見事に三本目の方柱を見つけていたのだが、佳人は我が瞳を虜にする眩さに、少しだけ戸惑っていた。
「……ま、まぶ……眩しい……」
 漆黑の竜翼を得る前、カルンはこの輝きを護る爲に戰っていた。
 数多の財宝が保管された宝物庫も、一縷と翳らぬ輝きに滿ちていたが、正にこの樣であった。
 その己が黄金に箔されたピラミディオンを破壊するのは少し気が引けたが、当初の目的を忘れるほど目は眩んでいない。
「とっても綺麗に輝いてて勿体ないですが……今は我慢です……」
 むぐぐ、と佳脣を引き結び、石床に竜尾を打つ。
 この時、「ジン」の力は黄金の刃尾に宿ったか、強靭を得た尻尾を方柱に突き刺したカルンは、【強制変化】(タグイール)――黄金の四角錐の別の脆い材質に變え、石製の方柱ごと破砕した!
「ぶっ刺して、捏ね繰り回して、ぶっ壊しちゃいます!」
 漸う翳りを失う黄金と訣別する。
 同時に、別口で奪えば良いのだと確信を得る。
 聡き耳は上階より響く劍戟を拾い、尚も残れるお宝の気配に強欲を増すのだった。

  †

「神像に結ばれていた最後の光が消える」
「勒哉さんが四本目の方柱を破壊されたようですね」
 クィトが光の減衰を確認し、カルンが奥で響いた銃聲を辿る。
 先に到着した二人に続き、勒哉も少し遅れて合流すれば、中央階段を回り込んだ奥に「タウエレト像」を見つけていた聖が、今こそ結界が完全に取り払われたと教えてくれた。
「これが、クロノ・オブジェクト……」
「先程まで煌々と輝いていましたが、こうして光を失うと、なんとも汚らしい像ですね」
 まるでタウエレトのミニチュアだと言う勒哉の隣、まるでゴミだと言い切った聖は、早速破壊しようと呼吸を整える。
 肺腑に滿たした氣は血管を通じて全身へ、肌膚を鋼鐵の如くすると、巡り廻った氣は極限まで練り上げられて右脚の脛へ、一気に収斂されて戰槌の如くとなる。
「それでは――そろそろ反撃のお時間といきましょうか」
 ゴミ掃除には手順がある。
 まだまだ始末は叶わないが、これが確かな一撃になると確信を得た聖は、痛烈な蹴撃を一発ッ!
 黑々と艶めいた神像の横腹に、鞭と撓った右脚を叩き込んだ!
「こうして安心を剥ぎとって、ゴミを恐怖させてあげなくては!!」
 清掃活動に従事する時の聖は活き活きと、その熱意は凄まじい。
 ぞんっと空気を波打たせた衝撃は神像を穿つや粉々に、インパクトの瞬間に五体を破裂させた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【口福の伝道者】LV1が発生!
【光学迷彩】がLV3になった!
【無鍵空間】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
効果2【凌駕率アップ】LV1が発生!
【アヴォイド】がLV4になった!
【能力値アップ】がLV2になった!
【フィニッシュ】LV1が発生!

 その變化は、神像に強化を得ていた本人でなくとも感じられよう。
 神氣と言うべきか、「信仰」という淸らかな光が絶たれた今、タウエレトは神を騙る異形へと堕ちゆく――。
 見事、彼女のエネルギー源たる神像を破壊した復讐者は、程なくして高い天井を突き上げる絶叫に、烱眼を結ぶのだった。

 小神殿には立入禁止の区域こそあれ、中に入る事自体は制限されていない。
 担夫は日々に奉納の品を運び込んでいるし、隊商などは街に入るより前に此處で礼拝を捧げる。
 諸有る「信仰」を受け容れる小神殿は誰の來訪を拒まず、小神殿で奉公する神官たちも、「タウエレトさまにご挨拶を」と中央階段を昇る復讐者の背を追いはしなかった。
エーブリム・ボウマン
「ヘロー、女神様
アンタに弾丸(キス)をブチこみに来たぜ
オレは皆も知っての通り、神をも恐れぬ男だからな!

隠れず堂々突撃
序盤はミッシングファイアで牽制するぜ
目的は柱組のための時間稼ぎ
祭壇(地形)の影に隠れ水流を防ぎつつ挑む

「悪いな女神様。この戦いに挑む前に台本は完成済なんだ

オレは戦闘前に街で『死者の家の中に死体が無かった。喰われて骨だけだった』と告発するビラをばらまいておくぜ
幸運にも誰かの目に留まれば信仰を弱め柱組の補助になるしな

結界が解除されたら反撃の時間さ
演出用銃ではなく拳銃を持ち
思いを乗せた一撃で決めるぜ

全部終わったら死者の家を確認
オレの流したのはデマさ
この台本が…フィクションだと良いんだが


樹・春一
神ー! 会いに来ましたよー!
なに拗ねてるんですか神よ! 神ならもっと堂々と構えて!
そして僕の拳を受け止めてください! 愛をもって!

水流は飛翔とエアライドで跳び越えます
天井まであふれるようなのはさすがに無理ですが! その時は物陰か部屋の外まで退避ですね!
結界が解除されるまでは結界を殴りつつ、神槌の回復効果で体力を温存していきます
射線には気を付けませんとね! フレンドリーファイアは回避です!
結界がなくなったらボディに強く叩き込みますよ!
女性の顔を殴ってはいけないと姉に教わっておりますので!

僕は神のこと信じてますよ?
幸福になっていた民も確かにいたのですから
なので次は善い神になれますよう願いを込めて!


ジズ・ユルドゥルム
先ほどは今夜の宿の心配をありがとう。
だが心配は無用だ。
わからないか?すぐに終わらせる、と言っているんだ。

破壊工作中の仲間に気取られないよう、奴の目前にサンドストームを起こして視界を奪いつつ気を引こう。

水の質量攻撃は、私の技でぶつかり合っては圧し負けるな。
私自身の姿を砂嵐で隠して撹乱し、像の破壊が完了するまではそのまま回避と撹乱に徹する。

破壊工作が完了後は、仲間とともに攻撃を畳み掛ける。

倒すことができたら…可能なら首級を衆目に晒し、偽神の死を知らしめよう。
死を隠匿してよからぬ事を考える輩が現れんとも限らん。
この街に対して義理はないが…奴の死骸を目にすることで、少しは溜飲が下がる者もいるだろう。


シアン・キャンベル
貴様に脳髄が詰まって在るとは思い難いが、少なくとも洟垂れ程度には『でる』事を祈っているぞ。は、は、は!
翅の不快音と同時に鞭を伸ばしパラドクス発動、河馬の頭蓋骨の内側を掻き乱してやろう。現の夢に捕らえれば水流も届かない
本物の神とは人の上でも下でもない、左右も知れない域に聳える泡だ。冷たくて心地の良いアイデアを齎すだろう、素晴らしい平穏(ホテプ)の連鎖と知れ。嗚呼、古臭い儀式と証明(つ)げて悪かった
貴様等は信仰を集めなければ弱るのだろう、神とは『その程度』の人間だったのか――豚と同列と謂える
私は貴様の漿液を啜りたくてたまらなくなった
最早、水を司る術など要らない

その馥郁(ふはい)したものを捧げ給えよ


震天無双・大和
かーっ、やっと本性見せやがったな
醜悪なツラしてやがる。これで神を名乗ってたんだから笑えるぜ
さて、ナイルの恵みはお前の力じゃない。それを此処で証明するっ!

寒ぃ寒ィ、凍えるなぁ……なーんて言うとでも思ったか?
生憎寒いのは妹の術で慣れてんだよ。このくらい涼しいくらいだね!
そんでもって俺の剣は炎属性。水とは相性が悪いなんて考えは甘いな。地獄の炎は水なんか蒸発させんだよっ!

【ダメージアップ】でより勢いを増した炎の剣で切りつける。今まで篤い信仰受けてきたんだろ?その熱量のお返しを受け取りなっ!

神を失った民に話しかけられるなら一言。
「川も人も自然の一部、自分の権威の為に利用するようなのは録なもんじゃねぇさ」


 冷たい石床を打つ靴音が、高い天井に残響を広げる。
 靜粛に沁みる佳い音だと、柔い微咲を浮かべつつ中央階段を登ったエーブリム・ボウマン(人間の映画俳優・g01569)は、祭壇の最奥部、獣脚の椅子に座った巨魁に、銃を向けながら輕く挨拶をした。
「ヘロー、女神樣。アンタに彈丸(キス)をブチこみに來たぜ。オレは皆も知っての通り、神をも恐れぬ男だからな!」
『……アンタは……あの女の隣に居た、異邦人……!』
 何食わぬ顔で参拝者を迎える筈だったタウエレトが目を瞠る。
 エーブリムの事は全く聽き知らぬが、この男が件の婦人の隣で飄々たる視線を注いでいたのはよく憶えており、先の狼狽が再び頭を擡げた川神は、怪訝を露わに双眉を歪めた。
 次いで現れた佳人の姿影も記憶に新しい。
 戞々と階段を登り來たジズ・ユルドゥルム(一つ星・g02140)は、かの婦人が立ち続けられるよう支えていた一人で、無言を貫いていた彼女も、ここに沈默を破る。
「先ほどは今夜の宿の心配をありがとう。だが心配は無用だ」
『……ワタシは“砂漠に帰れ”って云った筈だがね』
 タウエレトが忌々しそうに悪態を吐けば、ジズは搖れる前髪の奥、琥珀色の麗瞳に巨影を射止めた。
「わからないか? すぐに畢らせる、と言っているんだ」
 アカシアの杖を突き付ける樣も堂々たるもの。
 エーブリムもジズも、神像の破壊に掛かる仲間の動きは気取らせまいと、己に敵意を集めるべく大胆に振る舞う。

 次いで響き渡ったテノールも、嫌な記憶を思い出させたに違いない。
 二段跳びで溌溂と階段を駆け上がった樹・春一(だいたいかみさまのいうとおり・g00319)は、透徹の黑瞳に映した川神を大いに喫驚させた。
「神ー! 会いに來ましたよー!」
『この聲、この口調……先刻は善くも恥を掻かせてくれたね!』
「なに拗ねてるんですか神よ! 神ならもっと堂々と構えて!」
『やかましい! 誰の所爲でこんな目に遭ったって言うんだい!』
 春一こそ先の対話でタウエレトの面目を潰した一人にて、彼が足取り輕やかに祭壇に至れば、川神は巨木の如き両脚を石床に打ち付けて怒気を示す。
 祭壇を訪れた彼等が共謀者――グルだったとは、シアン・キャンベル(妖蟲・g01143)の登場で確定しよう。
 冒瀆を秘めた黑瞳の耀きはあの時の儘、ぬらり影を滑らせるように現れた彼女は、エーブリムの構える銃口が川神の額へと結ばれるのを見ると、吃々と竊笑して云った。
「平穩(ホテプ)を識らぬ脳髄を鐵鉛に屠らせるか。私が啜る分は残し給えよ」
 河馬の脳味噌に興味があると言う妖蟲に、飄然たる瞥見を注ぐ役者を見れば、最早、仲間である事は明白。
 川神は矗然(すっく)と立ち上がると、大の男より一回りも二回りも大きな図体を露わに、復讐者を見下した。
『……砂漠から來た連中にしては可怪しいと思ったが、全てアンタ達が仕組んだ罠だったって訳だね』
 聲色を落とし、片眼を斜(ゆが)める。
 次いで戰鎚と盾を取った川神は、心火を燃して大喝した。
『その不信心、直々に矯正してやるよ!』
 慈愛の神、恵みの神らしからぬ形相には、震天無双・大和(フォーチュンキラー・g00853)が快哉の笑みを浮かべて、
「かーっ、やっと本性見せやがったな! 思った以上に醜悪なツラしてやがる。これで神を名乗ってたんだから笑えるぜ」
 これこそ神を騙る姦邪の姿と、獄炎の劍『インフェルノ』を構える。
 先に見せた礼節は無し、銀の刃に宿る炎を赫々と熾え上がらせた大和は、鋩を向けるや爪先を蹴り、
「ナイルの恵みはお前の力じゃない。それを此處で証明するっ!」
 と、時を同じくして踏み出る復讐者と共に、邪氣迸る巨塊へ駆け走った――!

  †

『神官よ、川神に齒向かった者がどうなるか見ておきな!』
 劍呑を察した神官らが階下に集まるが、その場に留める。
 人々の信仰を繋ぐ彼等に見届けるよう指示した河馬頭の異形『タウエレト』は、颯爽と駆け來る復讐者を迎撃した。

「破壊工作中の仲間がまだ動いている。私が砂嵐で視界を奪いつつ気を引こう」
「砂嵐か。それじゃオレは銃彈の嵐も混ぜよう。きっと派手になる」
 ジズがアカシアの杖に砂と風を紡いで【サンドストーム】――巨躯をも包む砂嵐を生み出せば、エーブリムは同時に銃聲を轟かせ、巨邪の周囲に小爆発を起こして牽制を敷く。
 砂塵の壁が爆熱を取り込みながら囲繞すれば、川神は盾を構えて之を禦ぎ、逆手に振り上げた戰鎚で蹴散らすか――。
 刹那、暴風の切れ目に復讐者が肉薄した。
「神よ、僕の拳を受け止めてください! 堂々と、愛をもって!」
『ッ!』
 光耀を閃かせるは春一。
 魔力を籠めた拳で【神槌】一閃、全き物理で殴り掛かった彼は、戰鎚と嚙み合って鋭い衝撃を突き上げる。
 この角逐の瞬間には、大和が邪の脇腹目掛けて炎劍を振り被り、
「的が大きくて助かるぜ!」
『ッッ……次から次にッ!』
 下段より抉るように繰り出た灼撃は盾で塞がれたものの、轟然と喊ぶ炎が双方を明々と照らす。
 爆発を伴う砂嵐に身動きを阻まれながら、拳撃に戰鎚を合わせ、斬撃を盾を禦ぐ川神は慥かに強かったろう。
 シアンはその神がかった力を品定めするよう瞶めて、
「貴樣に脳髄が詰まって在るとは思い難いが、少なくとも洟垂れ程度には『でる』事を祈っているぞ。は、は、は!」
 双翅の不快音を伴い、【君の頭の中に蔓延った、冷たくて心地の良いアイデア】(シャッガイ)を貪るべく鞭を伸ばす。
 冠を払い落した鞭はその儘、河馬の頭部に蜷局を巻いた。

『随分と生意気をして呉れるじゃないか!!』
 激痛を拒むように足を踏み鳴らしたタウエレトが、その聲量で神殿を搖らす。
 巨躯を大きく捻轉して『妖蟲の鞭』を払った川神は、怒聲を上げながら春一と大和を跳ね返すと、遠くはジズとエーブリムをも押し流さんと海嘯を引き起した!

 然し、彼女の力の根源たる「信仰」の搖らぎを見た復讐者に恐怖は無い。
 エーブリムは濤と溢れる飛瀑が躯を攫うより迅く動いて、
「おっと危ない。足許を掬われちまう」
『ッ! 何てトコロに登ってんだい! 降りて來な!!』
「近付きたいのは山々だが、コイツ(銃)が濡れるのは嫌だってさ」
 大胆にも奉納の品を並べる祭壇に足場を拝借した彼を叱り付けんとすれば、眼路の脇に過る春一は激流を輕々と飛び渡り、宙空から屈託の無い聲を降らせる。
「神よ、これだけの水量を操ったなら、これが信仰を元にしたパラドクスとはいえ、人々は『神力』と讃えたでしょう!」
『騙ったんじゃないさ。これが神の力なんだよ!』
 これに齒切りした巨邪が更に奔流を放てば、烈しく逆巻く渦動を見極めたジズが杖を振り翳し、
「ぶつかり合っては圧し負けるな。像の破壊が完了するまでは耐えよう」
 と、巨躯を囲繞していた砂塵を手元に寄せて身を隠す。
 結界が解除されるまで回避と撹乱に徹さんと佳人が動けば、その傍らで双翅を羽搏かせたシアンが、己を摑まえんと蹴上げる飛沫を躱しながら囁いた。
「本物の神とは人の上でも下でもない、左右も知れない域に聳える泡沫だ。“冷たくて心地の良いアイデア”を齎すだろう、素晴らしい平穏(ホテプ)の連鎖と知れ」
 嗚呼、古臭い儀式と証明(つ)げて悪かった――と、佳脣を滑る科白が愉悦を帯びる。
 誰ひとり水を呑まぬ苛立ちに巨眼を歪めた邪は、なればと盾を掲げ、生ける者の体温を奪わんと氷雪を繰り出した。
『御託はよしな! 此處に在るワタシが神、真実はそれだけだよ!』
 目に見えぬ神を信じるより簡單だと、氷柱の如き涙雨が復讐者に襲い掛かる。
 刹那、大劍を盾にして禦いだ大和は、炎立つ劍の陰でクッと口角を持ち上げた。
「……寒ぃ寒ィ、凍えるなぁ……なーんて言うとでも思ったか?」
『ッ!』
「生憎、寒いのは妹の術で慣れてんだよ。寧ろ涼しいくらいだね!」
 絶対零度の獄檻に較べれば、この程度、足止めにもならぬ。
 痛い寒いと泣き言を云って踏み止まる男でも無し、獄炎の劍を一振りして凍気を払った大和は、力強く拇指球を踏み込むや一気に前進したッ!
「そんでもって俺の劍は炎属性。水とは相性が悪いなんて考えは甘いな。地獄の炎は水なんか蒸発させんだよっ!」
『何度やっても同じさ! ワタシは、神は、傷一つ負いはしない!』

 鋩は届くか。
 噫、赫き刃は鮮々と血を噴かせたろう。
『――ぜぁぁ嗚呼アア唖唖唖ッッ!!』
 目下、神域に隠されていた方柱が破壊され、頂のピラミディオンが耀きを喪う。
 人々の信仰を光に變えていた結界が霧散し、無防備となった「神像」が打ち砕かれたのだ。

『何故だッ、どうしてワタシが外見(みっとも)なく血を流している……!?』
 事態が呑み込めぬと、石床に斑を落す鮮血を瞠るタウエレト。
 勒哉、カルン、クィト、聖ら四人の復讐者が方柱と神像を破壊したのだと、ジズは階下の仲間の健闘を讃えて、
「人々の信仰を道具にするクロノ・オブジェクトが消失した」
 誰よりも其が理解る筈だと、砂嵐の陰から佳聲を滑らせる。
 未だ愕然とする巨邪には、シアンの翅音が生々しく迫り、
「貴樣等は信仰を集めなければ弱るのだろう? 畢竟、神とは『その程度』だったのか――豚と同列と謂える」
 信仰を喰らう豚。
 蓋し豚の脳味噌は旨いと食欲を萌した妖蟲は、ジズが砂嵐を前方に展開するのに合わせて攻勢に轉じた。
 シアンの鞭と共に間合いに入った春一は、盾の上から拳を叩き付け、
「神よ、まさか信仰を失ってしまったのですか? まさか唯の河馬になった訳ではないでしょう!」
『ッッ……有り得ない……信仰が途絶えるなど……!』
 莫迦な、馬鹿な!
 不測の事態に焦った川神は、更に大和の火勢を増した劍撃に押し込められ、不本意にも後退を強いられる。
「今まで篤い信仰受けてきたんだろ? その熱量のお返しを受け取りなっ!」
『ッッ!』
 鈞ッと嚙み合う戰槌にも力は無し。
 危機を過らせた巨邪は、その隙に一發、エーブリムが撃った鐵彈を肩口に沈めた。
「悪いな女神樣。この戰いに挑む前に台本は完成済なんだ」
『ッ……アンタ……今、何て……』

 視線(カメラ)を向けられれば、映画俳優は科白を捺擦ろう。
「オレは此處に來る前、街で『死者の家の中に死体が無かった。喰われて骨だけだった』と広めて來たぜ」
『な……っ!?』
 ビラを撒いて來たのだと、肩を竦める彼の手には拳銃。
 気付けば演出用銃から拳銃に持ち替えていた彼は、硝煙を棚引かせながら言を足して、
「もしやと思った奴は、死者の家に走るだろう」
 幸運にも識字の適う者の目に留まったなら、信仰心が限りなく弱まった今、虚実は真実となって走り出す。
 之に川神は大いに狼狽え、
『とんだ流言だよ! ワタシが信仰を高める爲に生贄を要求しても、死者を喰い荒らすなんて真似はしないと、街の者達なら知ってるさ!』
「ああ、オレが流したのはデマさ。勿論、この台本がフィクションであって欲しいと願っているが……なぁ、女神樣、繊弱くなったヒロインに、慰みにも信仰は集まるかい?」
『ッ……ッッ……!』
 畢竟、沈默こそ雄辨に語ろう。
 大通りで疑心を兆した人々の、タウレウトに対する信心は完全に失せた。
 その証拠に己を強化する術を無くした川神は、復讐者から傷を受け取って血を流し続ける、河馬の異形と成り果てる。

 而して刻下、エーブリムが訣別(わかれ)のキスを置く。
「ここから先はフィクションじゃないぜ」
 聲色を落した撃手は、【EverybodyFires】(アツイエイガノワンショット)――涕涙の婦人の思いを乗せて銃爪を引くと、鐵彈は美し螺旋を描いて規定の軌道へ、今度は逆の肩口から血を繁吹かせた!
『ぐッッ、ッ!!』
 悪態を吐く猶予は無い。
 川神の歪める視界には、彈丸と共に肉薄した春一が迫っており、彈丸の如き拳が煌々と光を帯びて打ち付けられる――!
「神よ、今こそ高らかに賛美します、ハレルヤ!」
『げェッ、ぁあ嗚呼ッッ!!』
 紛う事なきグー!
 戰場に残留する空中機動性を活かして激流を翔けた春一は、黑瞳に讃える光を帯と引きながら一気躍進し、自分もちょっと眩しすぎるかなーと思うほど発光する拳を、川神の腹部にメリ込ませた!
「女性の顔を殴ってはいけないと姉に教わっておりますので! 全力でボディです!」
『~~ッ!』
 春一の姉は斯く云った。悪しきものを全力で殴ってミンチにすべしと。
 その姉は行方知れずだが、彼女の教えが宿った拳は凄まじい衝撃に巨躯を折り曲げると、洶涌と光を溢れさせ、其を浴びる己と仲間を癒す。
 臓腑を掻き混ぜられた巨邪が悶絶する中、彼は淸冽の耀きに白皙を白ませながら云って、
「勿論、僕は神のこと信じてますよ? 幸福になっていた民も確かにいらしたのですから。なので次は善い神になれますよう願いを込めて!」
 右拳で殴ったら、左拳でも丁寧に殴る――!
 大通りで対話した当初から偽りは無し、春一は讃美の拳打を叩き込むと、遂にその過重極まれる躯を押し退けた!

「畳み掛けよう。直ぐに畢らせると云ったからには、偽りがあってはならない」
 川神を更なる劣勢に追い込むはジズ。
 繊指に握れる杖を一振り、その所作は餘りに嫋やかであったが、砂嵐は猛然と逆巻いて刃の如くとなると、河馬の厚みある肌膚を削ぎに掛かる。
『ぐッッ!』
 川神も盾を構えて砂塵を禦ぐが、砂の礫はその盾も削らんほど。
 人々の信仰によって強度を上げていた盾は、新たな力も獲得できぬ今、全方向より吹き荒れる砂嵐に屠られる儘となる。
 其が無惨に拉げたのは間もなくのこと。
『! バカな、ワタシの盾が……!』
 反撃に氷雪を繰り出そうにも、不断に叩き付けられる砂粒に摩耗しては敵わぬ。
 ジズは琥珀色の麗瞳に邪の動搖を映しつつ、轟と呻れる嵐に佳聲を混ぜた。
「その首級を衆目に晒し、偽神の死を知らしめよう」
『ッ、なんだって!?』
「この街に対して義理はないが、死骸を目にする事で、少しは溜飲が下がる者もいるだろう」
 思い起こすは、タウエレトに信仰を試された者達。
 件の婦人が笑顔を取り戻すのは難しくとも、偽神の死を以て真実を識る事は、犠牲者達の魂を慰め、安められようと――。
 斯く云う間に佳人は玲瓏の彩を烱々と、砂塵の勢いを強くする。

『砂嵐め、川神は渇きには喘がないよ!』
 盾で禦げぬなら戰鎚で叩切ってやると、忌々しげに怪腕を振り上げるタウエレト。
 巨鎚が嵐を別けた刹那、猛風の切れ目に炎劍を突き入れた大和が、身ごと懐へ侵襲した。
『ッ――!』
「神官達、見ているんだろう? もうコイツがどんな奴か、理解った筈だぜ!」
 スッと通った鼻梁は巨邪に向けた儘、張り上げた聲を吹き抜けに響かせる。
 精悍なるカヴァリエ・バリトンが呼び掛けるは、階下で死闘を見守る神官達だ。
 タウエレトがここまで追い込まれた今、不信心な侵入者を排除すべく動いても良かろうに、彼等が未だ動きを見せぬのは、川神の正体を見極めようとしているのだろう。
 大和は獄炎を纏った銀刃を巨邪に打ち付けながら、神官らに向かって聲を投げつける。
「川も人も自然の一部。この街に溢れた水と命は、自然から恵まれたものさ!」
『噤みな! 默らないなら水を呑ませるよ!』
「そして其を自分の権威の爲に利用するようなのはロクなもんじゃねぇ!」
 劍戟が幾合と角逐する中、叫ぶように語り続ける大和。
 刹那、鏗鏘たる音と火華を潜った彼は、鎚撃が己を砕くより迅く刃鳴一閃すると、柄を握る怪腕を切り離し、あらぬ方向へ巨鎚を追い遣った!

『ズゥ……ッッ……ッ!』
 腕ごと別れた戰鎚を目に追った巨邪が齒切りする。
 盾も鉾も失った今こそ追撃を許してはならぬと、彼女は残れる巨腕を突き出して激流を放たんとするが、その脇を潜る様に伸びた鞭に頭部を捕らえられた瞬間、凪が訪れた。
「平穩(ホテプ)と秩序(アザトート)を讃えよ。かの嚴粛には水流も届くまい」
『な、ん……っ、くぁぁあああ嗚呼!』
 川神の力は二度と行使されぬ、と絶叫の中に鞭を締めるはシアン。
 河馬の頭蓋骨の内側に干渉した妖蟲は、川神の精神こそ澎湃に滿たされるよう怒涛を流し込み、正気と狂気の氾濫状態へと突き堕とす。
 神経を蹂躙された脳には、今や小さな雑音すら爪を立てよう。
 河馬が悶絶する中、鞭の緊張を辿るように近付いたシアンは、怖ましい健啖を覗かせ、
「私は貴樣の漿液を啜りたくてたまらなくなった。――最早、水を司る術など要らない」
『……やめ、ッッ……ッ……!』
 頭部を両手の五指に摑み、舌を舐め擦る。
 而して彼女は美しく嗤ったろう。
「さぁ、その馥郁(ふはい)したものを捧げ給えよ」
 耳を劈く絶叫すら馳走と、神を騙った者は屠られた。

  †

 復讐者の戰いを見守った神官達は、瞳に映ったものを真実と捉えたろう。
 獣頭人身の異形を神と崇めていた過ちに気付いた彼等は、直ぐにも街へと走り出す。
 小丘を駆け出す馬が人々に何を伝えに行くか、聽かずとも知れた復讐者は、正しき神を信じる「未来」へ進み出した者達の背を見送り、小神殿を後にするのだった――。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【友達催眠】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【土壌改良】LV1が発生!
【現の夢】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
効果2【アクティベイト】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV2が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2021年09月01日