リプレイ
オズワルド・ヴァレンティ
2)小舟で町を巡る
秋のフェスタに花舞う町に…
少しばかり興味も抱いたから
自身の足と眼で確かめに行こうかと
山間にある小さな町だと聞いていたので
ほんのり赤や黄に色付いた木々もよく見えて
色鮮やかな季節を感じとれるのも
また取り戻せた日常を感じるようで
うつくしいものだと思えもするし
…ああ、町を囲むように流れる小川を船で行くのも
収穫された花や果実の気分も味わえそうだが
渡されたダリアの花も飾り
僕は今日この為に訪れたディアボロスだからね
勿論楽しませて貰うとも
小川の流れと舟に身を委ねて見本市を眺め
時折舞い踊るフラワーシャワーには微笑み浮かんで
幸いを願い、収穫を喜び
不運を払う為に花弁を降らせると聞いた話に
また賑やかな事や祭り好きな町の人々は…
どんな世界でも変わらずにある
人の心のうつくしさは好ましく想えるもので
…賑やかな日常を取り戻せる象徴と成れているのか
己自身に確かな自信は未だ抱けぬままだけれど
ただ共に楽しむだけでも小さな歩みとなれるなら
その幸いが長く続くよう願いも込めて
花踊る此の光景がいつまでもあるようにと
●色付く世界に
秋の心地良い風に顔を上げれば、さぁあ、と山間の木々の揺れる姿が見えた。黄色にオレンジ、キラキラと輝くさまに、青年は翠の瞳を緩めた。
「うつくしいものだな」
ほう、と零す息と共に、オズワルド・ヴァレンティ(砂塵の彼方へ・g06743)は足を止める。少しばかりの興味を抱き、自分の足で確かめようとやってきた町は賑わいの時を迎えていた。小さな町は、話に聞いていた通りくるりと見渡すだけでも山々の黄葉を見ることが出来た。ほんのりと黄色やオレンジに色付いた木々に、秋の花。色付く木々の金色を、黄金と謳う者もいれば、花の名を告げる者は、店の呼び込みだろう。
(「こうして色鮮やかな季節を感じとれるのも、取り戻せた日常を感じるようだな」)
爽やかに甘い香りはこの季節特有だろうか。人々の営みに、ふと、感じた眩しさにオズワルドは顔を上げた。
「……」
その煌めきと花びらに伸ばしかけた指先は、空に止まり――やがて、落とす息と共に青年は緩く首を振る。二度目、落とした息は「おや、お客さん」と明るい声にひろわれた。
「この町は初めてかい? 市の方を見て回るのも良いが、そこの小舟で見てみるのも良いもんだぜ?」
ま、問題は小舟がなぁ、と店主の男は笑う。
「観光用のぺっかぺかの船ってもんでもないからな。運ばれちゃう花の気分になれちゃうってやつでな。でも、景色は良いぜ?」
そう言って見せられたのは、小舟に乗る客に渡されるという花飾りであった。美しき誉れのダリア。重なった花びらと共に美しい紫がオズワルドの掌にこてり、と座った。
「兄さんにきっと似合うぜ?」
人受けの良い笑みを浮かべてそう言った店主に、ふ、と吐息を零すようにしてオズワルドは嗤った。
「……ああ、町を囲むように流れる小川を船で行くのも収穫された花や果実の気分も味わえそうだが」
手にした花飾りを髪に挿す。ふわりと零れた甘い香りに、ゆるりと浮かべた笑みで言ったのは少しばかり驚かせることになると分かっていたからか。
「僕は今日この為に訪れたディアボロスだからね
勿論楽しませて貰うとも」
「……おいおいあんた、そうだったのか! はは、ならまずはこの町にようこそ!」
あんたの今日って日が、幸せであるように。
ふわり、と踊らされた花びらに見送られ、乗り込んだ小舟は花柄のクッションの置かれた、華やかでこそ無いが綺麗な小舟だった。きぃ、と船頭のオールでゆっくりの町を巡る川へと滑り込んでいく。少しばかり低くなった視点で、見上げるように眺める花の見本市は鮮やかな花畑に紛れ込んだかのようだ。
「あの花は……」
ふと見知った花に僅かに腰を浮かせれば、オズワルドの頬に影が落ちた。橋にある石像だろう、と顔を上げた瞬間、ふわりと舞い踊るのは金色の花弁。爽やかに香るフラワーシャワーに、ぱち、と瞬いた後に青年は微笑んだ。
「幸いを願い、収穫を喜び。不運を払う為に花弁を降らせる、か……」
賑やかな事や祭り好きな町の人々は、どんな世界でも変わらずにある人の心のうつくしさは好ましく想えるもので。
「……」
花弁の一片に手を伸ばす。ふわりと触れた花弁に、賑やかな日常を取り戻せる象徴と成れているのか己自身に確かな自信は未だ抱けぬままだけれど。
「ただ共に楽しむだけでも小さな歩みとなれるなら……」
ぽつり、と小さく零して、橋を抜けた先、受けとった花びらを空に放つ。その幸いが長く続くよう願いも込めて。
「花踊る此の光景がいつまでもあるように」
囁くように空に告げた。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【フライトドローン】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
刈谷・テテ
2)ダリアの花飾りをつけ、小舟で花弁の舞う町を巡る
婆に丹精込められた華やかな装飾は似合わない。
が、無下にするほど野暮でもない。在り難く受け取って。
ダリアの花飾りは手にしたノンラー(べトナム、円錐形、ラタニアの木の葉で
できた帽子)につけておく。
小舟へ乗り下りの際には、船頭に黙礼。
川の流れに従って、年経た目に映るのは紅葉に彩られた山々。
住民とディボロス混じって賑やかな見本市。
澄み切った爽やかな空気の中。橋をくぐるごとに降る降る、花弁が降り落ちる。
音もなく、はらはらと。
撒く人々は笑顔と時折の歓声。
お返しにと己も籠に盛られた花弁を投げ上げる。
秋の空の色の対比も楽しく美しい。
元来、川と聞いて片隅で釣りでもと、どうでも良い理由で足を運んだが。
郷にいては郷に従え、と当たり前のことを思い出す。
街には連綿と続いてきた、そしてこれからも続いてほしい光景が在る。
皺の刻まれた顔には、常と変わらぬいかつい表情しかないけれど。
柄にもなく。誰かに言葉を紡ぐ代わり、胸の奥で平穏を祈ろう。
●日々を辿るように
心地良い秋の風が、頬を撫でる。爽やかに甘く香るのは、見本市に並べられた花たちだろう。鮮やかな黄色に、オレンジ。黄葉した山々と同じように金色の木々を鉢植えで扱う店もあれば、艶やかな赤の花を扱う店も見える。花を乗せた荷車と共に歌うのは村の運び屋たちだろう。年嵩の男が歌をうたい、花屋の婆が楽器を取り出す。拍子を踏む足音を遠くに見ながら、僅かばかり鬼人は瞳を細めた。
「……」
年の頃はあの楽器を持つ婆と己は変わらないだろうか。節々の痛む一般人だった頃をふと思い出すようにして、刈谷・テテ(鬼人のおばあ・g11446)は息をついた。今や上がりに上がった身体能力のお陰で、この町にもやってくることになった。
「この花をどうぞ。白いダリアなんて、お姉さんに似合いですよ」
黙って一礼をして乗り込んだ小舟の上、船頭に差し出されたのは八重咲きに美しいダリアを使った花飾りであった。
「……」
お姉さん、というのは船頭の常の言葉なのだろう。明るい男は、どう見てもテテよりは年下ではあったが、何か悪意があるわけでもなく――恐らく、あの通りで楽器を弾いていた女性にも同じように言うのだろう。
「婆に丹精込められた華やかな装飾は似合わない」
が、とテテは言葉を切る。
「無下にするほど野暮でもない」
「はは、そうこなくっちゃな。良かった良かった。ありがとな、おねえさ……、お客さん。さぁ、小川の旅にご招待だ」
「……」
視線ひとつ、向けたところで笑うに終えた船頭はそのうちまた、お姉さんだなんだと客の皆に言う軽口を叩くのだろう。若者を揶揄うよりは受けとったダリアの花飾りをテテは、ノンラーにつける。つい、と縁を持ち上げれば、通りを見上げる形となった。町をぐるり、と回るようなコースでもあるからだろう、川面に映る金色は、山々の色づきと街路樹の色だ。
「……」
もう少しばかり視線を上げれば、町を囲む山々が随分と大きく見えた。年を経た瞳に映るのは、黄葉に彩られた山々。通りを行くのは、町の人々と、テテと同じようにこの町にやってきたディアボロスの姿だった。観光客に交じって花を買い、カフェで一休みしながら、黄葉を楽しむ。澄み切った爽やかな空気の中、ふいに落ちた影にテテは顔を上げた。
「橋だね」
「えぇ、つまり……ほら来ますよ!」
今日が良い日になりますように!
歌うような賑やかな声と共に、はらはらと花弁が舞う。
「……」
降り落ちる色彩に、テテは吐息をひとつ零すようにして顔を上げた。音もなく、はらはらと舞う花に、花の主たちは歓声と共に幸いを告げる。
「お返しだ」
小さく、口の中でそう言葉を作ってテテは籠に盛られた花弁を投げ上げる。
「わぁ……!」
「お花がいっぱいだ!」
秋空いっぱいに広がる花びらに、賑やかな子供達の声。美しい景色の中、小舟は滑るように進んでいく。
(「川と聞いて片隅で釣りでもと、どうでも良い理由で足を運んだが……、郷にいては郷に従え、だね」)
当たり前のことを思い出し、川面に触れる。町には連綿と続いてきた、そしてこれからも続いてほしい光景が在る。
「……」
川面に映った皺の刻まれた顔は、常と変わらぬいかつい表情でしかないけれど。柄にもなく、誰かの言葉を紡ぐ代わり、胸の奥で平穏を祈った。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【アイテムポケット】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
八上・霞
ジェームズ(g10136)と一緒に【1】に。
お花いっぱいだね〜。私お花好き。ふふ。
お花は幸せを願って撒くんだって。私もたくさん撒いちゃう。
……わっ。いっぱい降ってきた。
それ撒いてるっていうのかなあ?
私もジェームズに向かってお花を撒いて。えいっ。
……手を握られたらもうお花撒けないんだけど……まあいいか……いっぱい撒いたし……。
大人しく彼について行く。
カフェテーブルに着くまでにもうお花まみれ。ふふ。
ジェームズもお花ついててかわいいかわいい。
私も林檎のモクテルにしよう。甘くていい匂い。
君、りんご好きだもんねえ。私もまた今度作るね、アップルパイ。
そういえば、吸血鬼は大切な人がいるとお花の精気だけで生きていけるんだって、何かで見た。本当?
……んん、んーん……そう、そうなの?
そもそも吸血鬼より長生きって出来るのかな……。
え?うん、行くよ?旅行好きだし。
君のお国も行ったことない。きっといいところだよね〜。楽しみ。
※アドリブ歓迎
ジェームズ・クロサワ
霞(g00118)と【1】。
幸いを願って、か……。
花弁を一掴みして、霞の頭の上から振りかける。
自分の撒いた花まみれになってる彼女を見るのは不思議と気分がいい。
……払うな、せっかく付けたんだから。
彼女の手を握って歩き出す。
……彼女が俺だけに花を撒いてくれたらいいのにと、思わなくもない。口には出さないが。
少し歩くだけでも随分花まみれになった……まあ、そういう祭りなんだが。
酒……は今日はやめとくか……。(比較的最近やらかした失敗の記憶……)
林檎のモクテルを貰って一服。甘くて飲みやすい。好きな味だ。
……ん。(嬉しそうにする)
……花だけでは無理だろう。
お前がいないと、生きていけない。俺は。
だから長生きしてくれないと、困る。花の命は短すぎる。
霞の手を取って、手の甲に口付ける。
この細い指に指輪を贈りたいと、ずっと思っている。
なあ、霞。
いつか俺の故郷を取り戻した時、連れて行くから、一緒に着いて来てくれるか?
……まあ、そうだな、旅行で。
※アドリブ歓迎
●花よりもなお
吹き抜ける風が、秋の空気を運んでいた。町の通りを駆け抜ける人々の頬を撫で、背を押すように山間から吹き降りる風は花の甘く爽やかな香りを運んでいた。
「お花いっぱいだね~。私お花好き」
ふふ、と娘は笑みを零す。結い上げられた黒髪が、花の香りを纏う風と一緒に揺れた。くるり、と町中から見渡した先、通りには様々な花を扱う見本市が立っていた。
「ほら、折角だからお二人さん。この花びらをどうぞ」
「わーありがとう!」
八上・霞(閃光・g00118)が店主から受けとったのは、花びらがこんもりと入った籠であった。白にピンク、紫に黄色。花びらは皆、見本市で扱っている花のものだろう。形も種類も様々に、籠に入れてまいているから通りはいつも色鮮やかなのだ。
「お花は幸せを願って撒くんだって」
これ、と籠を片手に霞は手の中に収めた花びらを空に放り投げた。ひらり、ふわり、と花びらが舞う。花の一片、頬に触れた擽ったさに笑いながらもうひと掴みして空に撒く。
「ははお客さん、良い撒きっぷりだ! ほら、あんたさんらも良い日になるように!」
荷車で花を運んでいた店主が、笑って花びらを撒く。金色の花びらがきらきらと舞う中、ふいに霞の視界に影が落ちた。
「……」
「……わっ。いっぱい降ってきた」
思わず顔を上げて頭に触れれば、落とした影の主は僅かばかり眉を寄せた。
「……払うな、せっかく付けたんだから」
「それ撒いてるっていうのかなあ?」
ジェームズ・クロサワ(遺薫・g10136)の言葉に霞は眉を寄せる。頭に触れた手は、結局行き場を失ったまま。ゆらりと落ちるだけでは、触れた花びらの色も知れない。爽やかに甘い香りは、ダリアだろうか。それとも果樹の花か。
(「それなら……」)
一人、何故か妙に納得したような顔をしている彼に、霞はつい、と背を伸ばす。踵を浮かして、カツン、とつま先が振れた先、ぱち、と瞬いた彼に笑う。
「えいっ」
精一杯、ジェームズに向かって花びらを撒く。ひらり踊る花は薄紅とまっ白なダリア。ちょこん、とひとつジェームズの頭に乗った花びらに、ふふ、と霞は笑った。
「付けちゃったよ……って」
「……」
言葉ひとつ真似てみせれば、何を言い返されることなくむんずと手を掴まれる。
「……手を握られたらもうお花撒けないんだけど」
「もう良いだろ」
何がどう良いのか。言い返すより先に、ずいと一歩歩き出した人に、むぅ、と膨らませた頬はほんの少しのことで。珍しい背中を見た気分になりながら霞は息をついた。
「……まあいいか……いっぱい撒いたし……」
沢山の花びらがいた籠はすっかり軽くなって。甘い香りだけが指先と、花冠のように黒髪に残っていた。
「……」
花の香りが、随分としていた。あの時、霞に撒かれた分だろう。頭もそうだが、スーツの肩に花びらが残っているし、何なら背中にもあるんだろう。
(「……それでも」)
結局、溜息をつくより気分の良い自分をジェームズは自覚していた。
『幸いを願って、か……』
自分の撒いた花まみれになっている彼女を見るのは不思議と気分が良かった。
(「……彼女が俺だけに花を撒いてくれたらいいのにと、思わなくもない」)
口に出すことの無い思いを、舌の上に溶かして飲み干す。甘ったるさを感じなかったのは、大人しく手を握られたままで彼女がいるからだろうか。振り返れば艶やかな黒髪には花びらが乗って。律儀に払わずにいた彼女に、ジェームズはふ、と笑った。
「……ねぇねぇ、頭みて笑ってない?」
「いや?」
それより、とジェームズは握った手を引く。手を繋ぐなんて言葉より、むんずと掴んだに近いというのに抗議の声も無いまま――ただ、はらはらと舞う花びらに霞が口元を綻ばせるようにして笑った。
「わ、すごい。カフェテーブルに着くまでにもうお花まみれだね」
「……あぁ」
溜息を零しながら、ジェームズはカフェを何処にするのかと聞くのは止めて、手近な店を選んだ。椅子にも花の飾りがあるのは、今日という祭りが故だろう。軽く椅子を引けば、ひらひらとさっきより随分と花びらが落ちてくる。
「少し歩くだけでも随分花まみれになった……まあ、そういう祭りなんだが」
「ジェームズもお花ついててかわいいかわいい」
「……」
ふふ、と楽しげに笑う霞の頭の上、見知らぬ花びらがひどく単純に気分が揺れた。子どもかティーンか。舌の上に溶かした悪態は己についてか、花びらにか。ねぇねぇ、とテーブルに着いた霞がメニューをみせてきた。
「何にする?」
にこ、と浮かべた笑みはジェームズの沈黙を見ていてか。それとも、何も無くただそう――そんな応えを手渡されたのか。ふ、と落とす息ひとつ、落ちてきた髪を軽く払ってジェームズはメニューを辿る。
「酒……は今日はやめとくか……」
そう、比較的最近やらかした失敗の記憶がある。
「林檎のモクテルを」
「私も林檎のモクテルにしよう」
そうしてやってきたのは、赤い林檎の色をしたモクテルだった。カクテルグラスを手にすれば、その赤が指先に触れる。ちょこん、と飾られているのは林檎の花だろう。
「甘くて飲みやすい。好きな味だ」
「君、りんご好きだもんねえ」
知らず零れた笑みは小さくとも、彼女には見えたらしい。ふふ、と笑うようにして霞が顔を上げる。
「私もまた今度作るね、アップルパイ」
「……ん」
――嬉しそうだな、と霞は思った。かわいい、と今度は一応声には出さないで、ひらひらと肩から滑り落ちてきた花びらを捕まえる。花びら一片、手の中で転がしていれば――ふと、聞いた話を思い出した。
「そういえば、吸血鬼は大切な人がいるとお花の精気だけで生きていけるんだって、何かで見た。本当?」
「……花だけでは無理だろう」
吐息ひとつ、零すようにしてジェームズは言った。
「お前がいないと、生きていけない。俺は」
目が合う。黒い瞳はもう、あの時のように逃げるように逸らされはしない。
「……んん、んーん……そう、そうなの?」
ただ、ぱちぱちと瞳を瞬かせる霞を見る。今ひとつ話の全貌が掴みきれないと訴えるような瞳に、今は構わずジェームズは言葉を寄せた。
「だから長生きしてくれないと、困る。花の命は短すぎる」
そう、と手を伸ばす。指先に触れて、ぴくり、と震えたその手ごと取って――ひく。手の甲に唇を寄せた。
(「この細い指に指輪を贈りたいと、ずっと思っている」)
僅かに伏せた男の瞳が、霞の細い指を見ていた。その付け根をなぞるようにゆるり、と顔を上げる。手の甲に口付けたまま。かちり、と出会った視線の先、霞は考えるように眉を寄せていた。
「そもそも吸血鬼より長生きって出来るのかな……」
「……」
らしいな、とそういう言葉を、単純に使う気は無いが、今日ばかりはそんなことを思う。吐息一つ零すようにして、ジェームズは言った。
「なあ、霞。いつか俺の故郷を取り戻した時、連れて行くから、一緒に着いて来てくれるか?」
「え? うん、行くよ? 旅行好きだし」
さらりと返された言葉と共に、霞は笑みを零した。
「君のお国も行ったことない。きっといいところだよね~。楽しみ」
「……まあ、そうだな、旅行で」
さて、その日が訪れた時、旅行の意味を知った彼女はどんな顔をするのか。ひらり、と舞う花が二人の幸いを祈るように揺れていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【トラップ生成】LV1が発生!
【防衛ライン】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【アヴォイド】がLV2になった!
ギィース・エレクレ
【彩縁筆】2
イタリア!凄いね!
俺もそうそうは来ないか紅葉は初めてかも!
花、花!町中がお花!
お花畑の中で歩いてる感じがして良いね!
うん!レジーナちゃん行こうか!
わぁー!本当に通路に水が流れてる
ゴンドラ!船が普通なんて不思議な光景!
ヨイショと先に乗った後
レジーナちゃん、俺の花飾りと花籠も受け取って
受け取ったレジーナちゃんをひょいと両手で抱えて船へ
ふふっ、レジーナちゃん花売りの可愛い人みたい
ん?レジーナちゃんも可愛いのに
ゆっくりも良いね
船ってぶーーーん!速く走るのしか乗った事ないから
だって捕まったら大変でしょ?
えっ?何をしかったって?
んー?悪い人の悪いモノを回収??なーんてね
ありがとう!無理はしないよ!
何みてるの?
俺?髪に花?わぁわぁ!本当だ
こんなに花がついてるの気づかなった!
レジーナちゃんとって!とって!
参加するの?
わぁーーー!!俺花まみれに
俺の幸せ?ありがとう
俺も君の幸せを願って
レジーナちゃんに仕返しだ!!
こちらも花弁を撒いていく
わぁ!!また来たー
あははっ、花弁の中に笑う君はとっても眩しい
レジーナ・ネイサン
【彩縁筆】2
イタリアの紅葉は初めて見たかも
いい色だ
でもって町中は鮮やかな花の色だらけ
ワクワクするような彩だね
浮かれない方が勿体ないってモンだ
さ、行こう!ギィース
ゴンドラだって
のんびり景色を楽しめそうでいいね、乗ってみようよ
ダリアの花飾りと花籠を受け取って
あなたの分も?いいけど…うわ揺れる!
ビックリした!けどありがとう
はは!花売りさんはもっと可愛い格好してるって
ほら、彼処の人とか
空に舞う花弁がうつくしいね
揺れる感覚もいい感じ
ぶーん…モーター付きの?
捕まるって一体何をしたのさ
あーコレ詳しく聞かない方がいいヤツだ!
ま、でも危ないのは程々にしなよ?
心配する側の身がもたないから
…ふふ
ギィースの頭、どんどん花びらが乗ってってる
あなたが花まみれ、色まみれになっていく様をじぃ、と見守る
ン?いや、好い景色だなって思っただけ
良いじゃないかそのままで
私も花弁撒きに参加しようかな
両手いっぱいの白の花弁をギィースの頭にふりかける
これ、幸せを願って撒くのでしょう?
あ、うわ!
花弁が口の中入った!
負けるか、更にお返し!
●君と行く彩りの道を
通りを吹き抜ける風が、舞い踊る花びらを誘って駆け出していく。わぁ、と子供達が声を上げ、追い掛けていく姿に思わず目を奪われていれば、バルコニーからひらり、はらはらと花びらが舞う。
「イタリア! 凄いね!」
つい、と軽く青年はサングラスを持ち上げる。色とりどりの花びらと共に瞳に映ったのは通りを彩る花々だった。背の高い果樹を見上げれば町を囲む山々が黄色に染まっているのが見えた。サングラス越しに見た黄金にギィース・エレクレ(誘惑の道化師・g02447)が笑みを零せば、ほう、と吐息一つ零すように隣で声が落ちた。
「イタリアの紅葉は初めて見たかも」
舞い踊る花びらに手を伸ばし、その色彩を辿るように一片を指先で持ち上げる。薄紅の向こう、瞳に映るのは黄色にオレンジに色付いた山々。通りに視線を落とせば小さな黄色い花を咲かせた草木がレジーナ・ネイサン(灰色キャンバス・g00801)の靴先にちょこんと乗っていた。
「いい色だ。でもって町中は鮮やかな花の色だらけ。ワクワクするような彩だね」
そっと足を引いて花を見送って口元、笑みを敷いた彼女にギィースは頷くように顔を上げた。
「俺もそうそうは来ないか紅葉は初めてかも!」
くるり、と辺りを見渡すように身を回しながら、ギィースは両の手を広げる。
「花、花! 町中がお花! お花畑の中で歩いてる感じがして良いね!」
「浮かれない方が勿体ないってモンだ」
雲一つ無い空の下、色鮮やかな花びらは舞って、通りの全てを彩るように花が咲いて。賑やかな町を見守るように山間の金色が水面に映る。
「さ、行こう! ギィース」
踊る心を隠すこと無く、とん、と進めた一歩で隣に立つ。ふわりと揺れた灰色の髪に笑って、ギィースは頷いた。
「うん! レジーナちゃん行こうか!」
進む一歩は重なって、右に左に興味の向かうがままに二人は進んでいく。色鮮やかなダリアの花びらの下をくぐり抜ければ、見えたのは町を囲うように流れている川であった。
「わぁー! 本当に通路に水が流れてる」
水深の深さは、元々外へと花を運び込む為にあるのだという。山間の町を通る小川は、町中を抜ければ外に出るのだ。
「お兄さんお姉さん、小舟で町を巡るのはどうですかい?」
そうギィース達に声をかけてきたのは船頭の男であった。
「今日はふかふかのクッションも置いて、良い舟だぜ?」
「ゴンドラだって。のんびり景色を楽しめそうでいいね、乗ってみようよ」
ゴンドラ! とレジーナの言葉にギィースは笑みを見せた。
「船が普通なんて不思議な光景!」
いいね、乗ろう。選んだ小舟にヨイショとギィースは先に乗る。船着き場を軽く蹴って、ひょい、と乗る姿は「ヨイショ」と口から零れた言葉より随分と器用に見える。少しばかりズレたサングラスをつい、と上げるとギィースはレジーナを見上げた。
「レジーナちゃん、俺の花飾りと花籠も受け取って」
「あなたの分も? いいけど……」
パチ、と瞳を瞬かせた彼女が腕いっぱいに花を抱えた姿に瞳を緩めると、すい、とギィースは彼女に手を伸ばした。
「?」
両の手を、それはそれはぐいっとずいっと伸ばせば、レジーナの背に届く。そのままきょとんとしている彼女をギィースはひょい、と両手で抱えた。
「うわ揺れる!」
ふふ、とギィースは笑みを零す。ひょい、と乗り込んだ先、レジーナの腕の中で花が揺れた。
「ビックリした! けどありがとう」
「ふふっ、レジーナちゃん花売りの可愛い人みたい」
ひらり、ふわり、零れた花びらが肩に触れて。鼻にちょこん、と乗って。灰色の髪を薄紅の花びらが撫でていく。
「はは! 花売りさんはもっと可愛い格好してるって。ほら、彼処の人とか」
吹き出すようにして笑った彼女が指差す先には可愛らしい花売りのお嬢さん。他の人ばかりを差す彼女に、ギィースは小さく笑うようにして瞳を細めた。
「ん? レジーナちゃんも可愛いのに」
吐息一つ零すようにして告げた男の言葉は、水面に揺れて。ひらりと舞い落ちてきた花びらと賑やかな声が二人を包んでいた。
「空に舞う花弁がうつくしいね。揺れる感覚もいい感じ」
ほう、とレジーナは息を落とした。そう、と伸ばした指先に触れた花びらはコスモスだろうか。自然の齎す美しい色彩に瞳も緩む。知らず口元が弧を描けば、ゆっくりも良いね、と柔らかなギィースの声が耳に届いた。
「船ってぶーーーん!速く走るのしか乗った事ないから」
「ぶーん……モーター付きの?」
思い付いたのは所謂ボートというやつだ。観光用にそういうのを使う場所があるのかもしれない、とそんなことをレジーナが思っていれば、さらり、と目の前のひとが言った。
「だって捕まったら大変でしょ?」
「捕まるって一体何をしたのさ」
「えっ? 何をしかったって?」
「……」
レジーナ・ネイサンは思った。これはダメなやつだと。やばいとかそういうのじゃなく――……。
「あーコレ詳しく聞かない方がいいヤツだ!」
「んー? 悪い人の悪いモノを回収? なーんてね」
声を上げた先、笑うように返された言葉と重なって、レジーナは息をついた。
「ま、でも危ないのは程々にしなよ? 心配する側の身がもたないから」
「ありがとう! 無理はしないよ!」
「……」
小さく落とす息は舌の上に溶かして、顔を上げる。秋の風が、ギィースの赤い髪を揺らしていた。さわさわと揺れる髪が淡い影を頬に落とし、ひらりと舞う花びらがそこに色彩を添える。
「……ふふ」
視線に気が付いたのだろう、パチ、とギィースの瞳が瞬いた。
「何みてるの?」
「ギィースの頭、どんどん花びらが乗ってってる」
「俺? 髪に花? わぁわぁ! 本当だ」
思わず腰を浮かせれば、頭の上に乗った花びらがひらひらと舞い落ちる。
「こんなに花がついてるの気づかなった!」
ふいに落ちた影は川沿いにある家々のバルコニーに近づいたのだろう。せーの、の一声で、落としたはずの花びらに新しい仲間たちがやってくる。
「わぁ!」
ひらひらと舞う花びらがまた、ギィースに触れて。花冠のように残る。
(「あなたが花まみれ、色まみれになっていく」)
その姿をじぃ、とレジーナは見守っていた。
「レジーナちゃんとって! とって!」
「ン? いや、好い景色だなって思っただけ」
ふ、と笑ってレジーナは言った。
「良いじゃないかそのままで。私も花弁撒きに参加しようかな」
「参加するの?」
素直に返された言葉に笑って、レジーナは両手いっぱいの白の花弁をギィースの頭に振りかけた。
「わぁーーー!! 俺花まみれに」
花かごから白が舞う。青空の下、純白の色彩を両手いっぱいに踊らせてレジーナは笑った。
「これ、幸せを願って撒くのでしょう?」
「俺の幸せ? ありがとう」
ひらり、ひらりと花弁が舞う。幸いを願って、日々を願って。色彩踊る町で、ギィースは白い花びらを髪に、肩に乗せたまま花かごに触れる。
「俺も君の幸せを願って」
手の中、いっぱいに拾った花びらを持ち上げる。
「レジーナちゃんに仕返しだ!」
ギィースは薄紅に染まる花びらを空に、レジーナに降り注ぐように撒いた。ひらはらと舞う花びらは、キラキラと輝いて舞い降りて頬に、髪に触れていく。それはそれはちょっとばかし量も多かったりするので、鼻についたりするわけで。
「あ、うわ! 花弁が口の中入った! 負けるか、更にお返し!」
「わぁ! また来たー」
甘い香りの花の中、小舟の上も変わらず賑やかに。
「あははっ、花弁の中に笑う君はとっても眩しい」
幸せな時間が流れていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【友達催眠】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【ドレイン】がLV2になった!
梅指・寿
ウィリディスさんと一緒に参加するわ。(ウィリディス・ファラエナ g08713)
1)花弁の舞う町中を散策し、林檎のお酒やモクテルを楽しむ
ここで行動するわ。
ダリアの見本市を巡って素敵な花束やダリアの苗を買い込んでカフェで一休み。
カフェではオレンジのジュースを頂けたら嬉しいわ。
ウィリディスさんはノンアルコールなのね、お腹がすくなんて何だか心がホンワカしちゃうわ。
そうだわ、花束を買った時小さなお花もいくつか貰ったの。
これをこうして…(自分の指にくるくると巻き付けて花の指輪を作る)
ウィリディスさんも指を出してみて。
親指や人差し指はよく使うから…小指や薬指に花の指輪を作るわ。(楽しそうに笑っている)
花の指輪も作ってドリンクで気分転換も出来た所で、花弁を撒こうかしら。
良い事がありますようにー。
あら、上の階の人から花びらシャワーを貰っちゃったわ。(花びらだらけになったヒルコの出来上がり)
指輪のお礼だなんて照れちゃうわ。でも…あ、このダリアの苗はどうかしら。白くてポンポン咲いてかわいいわ。
ウィリディス・ファラエナ
梅指さん(梅指・寿g08851)と出かけよう
美味い飲み物と花の女王とやらにお目にかかりたいんでね、花塗れになるくらい軽い軽い
遠景の山々と街並みの中で舞い踊る花弁ってのは色彩に溢れて見応えがある。見える山々も街並みも見慣れたものではなく、花弁もまた然り。だがこういう趣が異なるものもいい
見本市も見応えがあるなあ。そうだ、梅指さんはこれがうちにあったらいいってのはあるかい?折角なら梅指さんの好みのやつを植えたい。これの礼もあるしな、指輪なんざ初めてもらったよ
見本市で買い物を済ませたら花に溢れた中をそぞろ歩いてカフェで一休みしよう
飲み物は果物のノンアルコールで。花のジャムもあるならそれも頼む。実は花の香りの中にいると腹が減ってな…虫の本能かこれ
さて、仕上げはもらった花籠の中身を盛大に撒くとしよう。おっ、あそこのあと一歩進めなさげなお二人さんに激励と祝福だ、そら!
おっと?こっちも食らってしまったか。あらら、梅指さんが花塗れだ。そのまま花に埋もれないように気を付けないとな
●舞い踊る花の下で
ひらり、ふわりと爽やかな秋の花の香りが通りを包んでいた。町を囲むようにある山々は黄色やオレンジに染まり、黄葉した木々が日の光を受けてきら、きらと光る。通りで見た市場にあった黄色に黄葉した木々は、あの山の木と似たものなのかもしれない。通りを彩るのは市場の花だけではない。身をずっしりと付けた果樹に、金色の花を咲かす小さな草花。野花も皆、美しく花を咲かせていた。
「ようこそ、花の町へ」
「さぁ、花の季節がやってきたよ。金色の山々がお出迎えだ!」
そして何より、目を引くのはひらひらと振りまかれる花びらであった。家々のバルコニーに橋の上、あちこちで踊らされる花びらは晴れ渡った空の下でキラキラと光ってみえた。
「……」
その光景に、男は足を止める。はたはたと黒の衣が、秋の風に揺れた。
「遠景の山々と街並みの中で舞い踊る花弁ってのは色彩に溢れて見応えがある。見える山々も街並みも見慣れたものではなく、花弁もまた然り」
ほう、とウィリディス・ファラエナ(毒虫・g08713)は息を零す。
「だがこういう趣が異なるものもいい」
「ウィリディスさん、待たせてしまったかしら?」
やわく落ちた声に顔を上げれば、店主と話を終えたらしい少女の姿が見えていた。見目こそ少女の背丈ではあるが、彼女がそうではないことをウィリディスは知っている。
「いやぁ、このお嬢さんはすごいよ。随分と花に詳しい娘さんだ」
しきりに誉める店主にゆるりと首を振って、梅指・寿(不沈の香・g08851)は花束と一緒にダリアの苗を持った。随分と買い込んだのか、買い物用に、とサービスで渡された買い物籠の中に苗が収まっていく。
「梅指さん、少しカフェで一休みしないか? 花も重いだろう」
「ありがとう、ウィリディスさん。それじゃぁ……あそこはどうかしら?」
見つけたのは通りの先にあった、品の良いカフェであった。今の時期はバルコニー席が主になっているのか。大きな窓硝子の仕切りは開け放たれ、柔らかなクッションの置かれた椅子に腰を下ろす。
「お客様、何になさいますか?」
「オレンジのジュースを頂けたら嬉しいわ。ウィリディスさんは……」
「果物のノンアルコールで。花のジャムもあるならそれも頼む」
店員が下がっていった後、ノンアルコールなのね、と落ちた寿の声に、ウィリディスは軽く肩を竦めた。
「実は花の香りの中にいると腹が減ってな……虫の本能かこれ」
秋の花々がこれ程に集まって、舞い踊る町。美味い飲み物と花の女王とやらにお目にかかりたいんでね、とやってきた時は、花塗れになるくらい軽い軽いと思っていたが――……。
(「予想外だな」)
抑制できない程ではなく、ただひどく――そう、そんな自分がウィリディスにとって予想外なのだ。ふ、と息を落とせば、ふふ、と柔らかな声が擽るように響く。
「腹がすくなんて何だか心がホンワカしちゃうわ」
そうだわ、と寿は、ぽん、と手を叩いた。
「花束を買った時小さなお花もいくつか貰ったの。これをこうして……」
くるくると自分の指に巻き付けていけば、綺麗な花がこちらを向く。これでよし、と寿は作り上げた花の指環に笑みを零した。
「すごいなあ」
「ウィリディスさんも指を出してみて」
「俺もか……?」
僅か、眉を寄せたひとに寿は、ふ、と微笑んで頷いた。そう、と差し出された手を取って、買い物籠の中から花を選んでいく。
「親指や人差し指はよく使うから……小指や薬指に花の指輪を作るわ」
黒い布の隙間から見える瞳が興味深そうに寿の指先を折っていた。小さく咲いた花は小指に、薬指には金色の花を寄せて。楽しそうに笑いながら、寿はウィリディスの小指と薬指に花の指環を作り上げた。
「はい。完成」
ふわりと纏う花の香りは甘く、爽やかに。紫の花弁が、淡い影と共にウィリディスに触れていた。
――わぁ、と賑やかな声がカフェまでやってくる。表の通りを眺めるこの場所からも、ひらひらと舞う花びらが見えていた。
「……」
この町は、花びらを撒くのが好きなのだと。辿り着いたその時に二人に教えたのは、運び屋の老人だった。
『祭りとなったら心が躍ってしまうのさね』
そんな言葉を寿が思い出したのは、あの花びらを見たからだろう。あの賑わいを思えば、きっとここも花が舞う地になる。
「そろそろ行きましょうか」
花の指輪も作ってドリンクで気分転換も出来た所で、花びらを撒くために。
「良い事がありますようにー」
白い手の中、紫に薄紅、オレンジに染まった様々な花びらを、寿は空に撒く。ひら、ひらと舞い落ちる花びらは風に乗り、わぁ、と楽しげな声を生む。
「おっ、あそこのあと一歩進めなさげなお二人さんに激励と祝福だ、そら!」
花籠の中身をウィリディスが盛大に撒く。片手で掴んだ花びらは、弧を描くようにして町行く二人に降り注いだ。
「はは、それならお兄さんにも!」
「幸せがありますように!」
「おっと? こっちも食らってしまったか」
薄いピンクの花びらが、ひらひらと舞う。祝福の込められた花の甘い香りに、小さく笑みを零していればまた違う花びらが舞うのが視界に映った。
「貴方達にも良いことがありますように!」
「梅指さん」
ウィリディスが声をかけたのと、寿が舞い落ちてくる花びらに出会ったのは――同時であった。
「あら、上の階の人から花びらシャワーを貰っちゃったわ」
淡く落ちた花の影と共に、白に薄紅に舞い踊る花びらが寿に触れた。見事に花びらだらけのヒルコの出来上がりだ。
「あらら、梅指さんが花塗れだ。そのまま花に埋もれないように気を付けないとな」
艶やかな黒髪に花びらが乗って、花冠を乗せたかのような姿を彼女は気が付いているだろうか。楽しげな声が溢れる通りを抜けていけば、見本市の賑わいに再び出会う。果実も増えてきたのだろう。ちょこんと置かれた林檎と南瓜も見える。
「見本市も見応えがあるなあ」
ほう、と一つ息を落として、ウィリディスは隣を見た。
「そうだ、梅指さんはこれがうちにあったらいいってのはあるかい? 折角なら梅指さんの好みのやつを植えたい」
言いながら、ウィリディスは指を飾る花の指環にそっと触れた。
「これの礼もあるしな、指輪なんざ初めてもらったよ」
「指輪のお礼だなんて照れちゃうわ」
ふふ、と笑って寿は顔を上げる。
「でも……あ、このダリアの苗はどうかしら。白くてポンポン咲いてかわいいわ」
「なら、それにしよう」
そうしてひとつ、選ばれた白いダリアが二人の連れとなった。爽やかに甘い花の香りと共に、二人はあと少し賑やかな町を歩いて行った。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】がLV2になった!
【完全視界】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
アレクシさん(g11410)と
2へ
若人に舟を任せていいの?
じゃ、後で代わるよ
ムキムキって程では……(腹筋見る)
たぶんそこそこ
知らぬ間に鍛わったものだな
帰還を果たした大地の光景、市の賑わい、人々の歓喜を浴びて
……美しい
なんて美しいのだろうな
世界に見入り、相槌を
……ああ。奪還の為に、戦い続けてきた
沢山の事を考えていた
戦って、戦って、戦って……
この景色を見られるのは万感の思い
ん、今も役に立ってると思うぞ
人々と親睦を深めるのも大切な事だし
……君にできる事をやっていれば、世界はきっと変わる
俺にできる事があるのなら
それが、俺が流れ着いた意味なのだと……
漂着したその日から、歩み続けている
じきに三年か
掌に舞い降りる花弁を迎えて
揺れる小舟にたゆたうように
ヴァイオリンを肩へ、翼を広げ
音色で帰還の祝いを伝えよう
華やかなアリア
豊かなパストラーレ
音色とともに降り注ぎ、踊る花弁に、心からの笑みのせて
街の人々へ贈ろう
世界よ、色彩豊かであれ
笑顔豊かであれ
祝福に満ちてあれ
戦い続けるから、どうか背を押してくださいと、祈って
アレクシ・タルヴィティエ
エトヴァ君(g05705)と【2】に参加するよ
ダリアの花飾りをつけたら、誇らしい気分になるね
町の人たちが僕らを迎えて入れてくれるんだって
ゴンドラみたいな小船なんだね。船を漕ぐのは任せて
ディアボロスになったんだから、体力はあるよ
君ほど筋肉ムキムキじゃないけど!
秋に色づく山々は、花冠の王女様かあ
僕の故郷じゃ短い秋のあとに、長い冬が来る
良い季節だよね。景色が真っ白に染まる前に、美しく着飾るみたいにさ
冬が来る前の輝きは、生命力に満ちていて
山が祝福してくれるみたいだね
僕らは、この景色を取り戻せたんだね
僕はまだディアボロスになったばかりで、君が遠い存在に見えてしまうよ
どうしたら、みんなの役に立てるディアボロスになれるかなあ
……そうなのかな?
エトヴァ君の演奏を聴きながら、口ずさんで船を漕ぐよ
町中の人たちに笑顔で手を振る
風に翻る花びらは魔法みたいだ
橋の下を潜る頃には、もう花まみれかなあ
わあ、ダリヤの花弁が雪みたいだね
僕たちも、空へ向かって花びらをまこう
みんなに幸いと安らぎが届きますように
●無垢なる祈りよ
秋の心地良い風が、頬を撫でる。金色に色付いた山々から吹き降りる風はどこかひんやりと心地良い。良い季節なのだろう。黄葉した木々に、町中で咲き誇る花々。ほう、と息を落とすようにして青年は微笑んだ。
「すごいね」
アレクシ・タルヴィティエ(紡人・g11410)は息を落とす。氷のように煌めく瞳を僅かに細め、笑みを零した青年に船着き場の案内人は嬉しそうに笑った。
「良かった。お客さんを迎えるにちょーど良い感じに花も咲いたとこでさ。山は黄色に染まっただろ? 良いことがあるって言うんだよ」
だからまぁこいつはおまけだ、と案内人は笑って、ダリアの花飾りを手渡した。
「八重咲きのとっておきさ。折角来てくれたんだ、良いことがあるようにな、お客さん方!」
ぽてり、と渡され、二人分、こんもりとアレクシの手に乗ったダリアの花は美しい八重咲きの白と淡いオレンジ。えっと、と振り返れば、ふ、と長身の彼が笑った。
「渡されてしまったな。良いんじゃないか? そのままつければ」
年上らしく微笑んだエトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)に、アレクシは軽く肩を竦めて頷いた。
「そうだね。ちょっと大きいけど……うん。綺麗だね」
きっと、あの案内人はアレクシ達がディアボロスであると気が付いてたのだろう。彼からの感謝を込めて、渡された花飾りをつければ爽やかな甘い香りがアレクシを包んだ。
「ダリアの花飾りをつけたら、誇らしい気分になるね」
綺麗に咲いた花だ。町の人々に大切に育てられ、この日を迎えた花なのだろう。
「町の人たちが僕らを迎えて入れてくれるんだって」
そう、と指先で触れて船着き場で案内された舟の方を見る。そう違うものも無いだろうが――オールもアレクシの知っているタイプのものだ。よし、とひとつ頷く。
「ゴンドラみたいな小船なんだね」
「若人に舟を任せていいの?」
緩く首を傾げて見せたエトヴァに、オールを引き寄せたアレクシは頷いた。
「船を漕ぐのは任せて」
「じゃ、後で代わるよ」
ふ、と小さく笑うようにして顔を上げれば、む、と少しばかり若人は頬を膨らませた。
「ディアボロスになったんだから、体力はあるよ。君ほど筋肉ムキムキじゃないけど!」
「ムキムキって程では……」
言われて、エトヴァは自分の腹筋を見た。ぺらりと上げた服の下、別にこう六つに割れたとかそんな感じはしないが――……。
「たぶんそこそこ」
ぺたり、と触れて思う。あの頃とはきっと変わったのだろう。
「知らぬ間に鍛わったものだな」
小さく呟き落とす。流れた年月をふいに思ったのは舞いあがった花びらを見たからだろうか。白にオレンジ、黄色に赤。ただただ日々を祝い、色彩を踊らせる空。滑るように進み出した舟の上、町は花と楽しげな声に溢れていた。
「秋に色づく山々は、花冠の王女様かあ」
水面を撫でるようにアレクシはオールを進めていた。映り込んだ金色は、色付いた山々だ。この色彩を黄金と謳い、良いことがあるよ、と町の人々は笑うのだ。
「僕の故郷じゃ短い秋のあとに、長い冬が来る」
北欧フィンランドの秋は、色付く木々が秋と長い冬の前触れを告げる。紅葉を告げる土地の言葉を唇に謳うように唇に乗せて青年は顔を上げた。
「良い季節だよね。景色が真っ白に染まる前に、美しく着飾るみたいにさ」
ひらり舞い降りてきた花びらに手を伸ばす。手の甲を滑って、衣の上に座った花びらは美しい金色。ふ、とアレクシは笑った。
「冬が来る前の輝きは、生命力に満ちていて、山が祝福してくれるみたいだね」
わぁ、と上がる声が耳に届く。ふと、顔を上げれば風に乗って花びらが川の方まで届いてきていた。白に薄紅、オレンジの花びらはダリアに、コスモスだろうか。
「……美しい」
感嘆と共に、エトヴァは町へと視線を向けていた。銀の煌めき秘めた蒼穹は、舞い踊る花びらを映して、帰還を果たした大地の光景を、人々の賑わいを捉え、そうして人々の歓喜をその身で浴びていた。
「なんて美しいのだろうな」
世界に見入るようにして落ちた言葉に、アレクシは頷く。
「僕らは、この景色を取り戻せたんだね」
「……ああ。奪還の為に、戦い続けてきた」
通りに咲いた花を少女が撫でている。果樹を見上げる子猫がいて、見本市では今日という日に再会した人々が声をかけあう。笑い合う声は、舟で町を眺める二人にも届いていた。
「僕はまだディアボロスになったばかりで、君が遠い存在に見えてしまうよ」
花びら一片、腕に残った子をそう、と撫でる。この手の中に残った色彩と共に、アレクシは悩むように息をついた。
「どうしたら、みんなの役に立てるディアボロスになれるかなあ」
「ん、今も役に立ってると思うぞ。人々と親睦を深めるのも大切な事だし」
思い悩む青年の顔を、エトヴァは見る。駆け抜けてきた日々を思い出しながら。
「……君にできる事をやっていれば、世界はきっと変わる」
「……そうなのかな?」
「あぁ」
迷い揺れる瞳を、知らない訳では無い。沢山の事を考えていた。
(「戦って、戦って、戦って……」)
この身の痛みなど置いて。思い悩む事が無かった訳では無い。だが、それでも全力を以てこの身を費やしてきた。
——ふいに、舟に影が落ちた。橋に掛かったのだろう。
「せーの!」
「幸せいっぱいどーぞ!」
わぁっと、楽しげな子ども達の声と共に、花びらが降り注ぐ。わ、と声を上げたアレクシの頭に花冠のように花びらが残り、エトヴァの羽根に花びらが触れていく。
「……」
あぁ、賑やかで平和な景色だ。
万感の思いで、エトヴァは町を見る。
(「俺にできる事があるのなら、それが、俺が流れ着いた意味なのだと……漂着したその日から、歩み続けている」)
じき三年か。
「そうだな」
小さく呟いてエトヴァはヴァイオリンを手に取った。舞い踊る花弁たちを迎え、揺れる小舟にたゆたうように。翼を広げたエトヴァは音色で帰還の祝いを伝える。
華やかなアリア、豊かなパストラーレ。
音色とともに降り注ぎ、踊る花弁に、心からの笑みのせて、街の人々へ贈る。
「……ねぇ、ほらあそこ!」
「わぁ、ヴァイオリンだ!」
音色に誘われるように町の人々が姿を見せる。拍手と共に舞い踊る花びらに、合いの手のように誰かが鈴を鳴らす。ふ、と笑みを零して、アレクシは歌を口ずさむ。エトヴァの演奏を聴きながら、町の人々に笑顔で手を振る。
「風に翻る花びらは魔法みたいだ。橋の下を潜る頃には、もう花まみれかなあ」
「そうだな」
ふ、とエトヴァが笑った先で、また花びらが舞う。どうやら町の人々はこのゴンドリエと楽士の紡ぐ音楽に心奪われたらしい。
「さっきのヴァイオリン、兄さんだろう? 良い音色だった。ありがとね」
「お兄さんの歌声も素敵だったよ、ありがとう!」
良い日になりますように!
そう言って、町の人々がアレクシとエトヴァに向かって花びらをまく。ひらりひらり、とふわふわと。花弁は甘い香りと共にやってくる。
「わあ、ダリヤの花弁が雪みたいだね」
結局、花びらの花冠はどちらも似たようなものなのか。一曲、アンコールに応じた先で、二人は花びらを手に取る。
「僕たちも、空へ向かって花びらをまこう。みんなに幸いと安らぎが届きますように」
両手いっぱいに取った花びらを、アレクシは空にまいた。橋から見守る人々に届くように、風に乗って町の人々みんなに――この町に届くように。
「世界よ、色彩豊かであれ。笑顔豊かであれ、祝福に満ちてあれ」
両手にすくった花びらを、エトヴァは空に踊らせる。舞い踊る色彩に思いを込めて、戦い続けるから、どうか背を押してくださいと、祈った。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【液体錬成】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
シモン・ディマンシュ
【然しも】行動:②
おや、まあ。随分と華やかな。花の雨みたいですねぇ。
君は花より団子でしょうけど、楽しむための提案ひとつ。美味しい飲み物は後で、せっかくなんでゴンドラ乗りません?
不安定なんで気を付けてと、彼女を誘い。
鬼は外やったら、子火ちゃん外になってまうでしょ。頼むから落ちたりはしないでくださいね。
ボクはこっち。ひとり遊び得意やったから作り慣れてるんです。花々で、いくつか花かんむりを作り。船頭さんや、橋に近づいた際にいる人々へ投げ掛けます。
理由ですか。特段ないんですけど。
殺風景なとこに居たので…鮮やかなものに惹かれるんですかねぇ。土から色を集めて育ち、散る頃には周囲に色を還すでしょ。その流れが美しいな、と、思うてるんです。
話しつつ、水路近くに花売りさんが居たら、舟の上から売ってもらって。真っ赤なダリアでもう一つおまけの花かんむり。子火ちゃんの角に掛けて、お誕生日のお祝いです。……この歳で浪漫言われるのは結構恥ずかしいなぁ。
ひと思いに散る花びらに笑い。
君が秋の女王様みたいやな
篝・子火
【然しも】
行動:2
花が好きというシモンを連れてきた
秋の祝いとは良いな。子火は秋が好きだぞ。山粧う美しい季節だからな。
もちろん飲みたいのは山々だが。それはもう本当に。
だが舟は乗ったこと無いからな。行こう、行こう。
子火は泳げんからな。大人しくシモンに従う。
さて、撒くぞ!花籠装備して準備万端。
少し撒いてみる。追儺の豆まきみたいじゃないか?鬼は外………は違うか。
シモンは……随分器用さんだな。花で編む。どんな芸当だ。わからん。
そういえば、なぜ花が好きなんだ?
ふむ。その在り方に惹かれると。自然の循環は美しいからな。
何だ、輪投げみたいに……子火も良いのか!ふふ。これは嬉しい。冠を受け取った人々が笑顔になるのも分かる。お前はロマンチストさんだな。
さて、礼をせねばなるまい。子火はそう器用でないからな。
舞う花びらがおまえの幸いとなりますよう。
花冠代わりにシモンの頭上に向けて、いっぱいの花弁を撒いてやろう!
●薫る花と秋の辿り
「おや、まあ。随分と華やかな。花の雨みたいですねぇ」
甘く爽やかな花の香りがしていた。ふと、足を止めた男の横、鬼人は機嫌良く笑みを零す。連れが、花が好きだということは知っていたのだ。
「秋の祝いとは良いな。子火は秋が好きだぞ。山粧う美しい季節だからな」
通りから視線を上げれば、篝・子火(天高し・g02594)の瞳に山々の金色が映る。町を守るようにある山から吹き降りる風が、心地良く肌を撫でた。子火の知る山よりは、少しばかり暖かいのだろうか。寒さを感じることは無く――ただ、町中を歩いてきた身にはひんやりとした風が心地良く。機嫌良く零した笑みと進めた一歩に、ひらりと舞う花びらに出会う。
「花の季節にようこそ!」
「さぁ楽しんでってくれ! 今日の山は、綺麗に金色だ。お客さんたちはきっとラッキーさ!」
賑やかな声と共に、わぁっと花びらを撒くのは見本市に花を運び込んでいる人々だった。店主に運び屋、町の人々はバルコニーからひらり、ふわりと花びらを踊らせる。
「おぉ」
子火の目をひいたのは景気の良い撒きっぷりか、風に乗った花びらの下にあったカフェの方か。思わず止まった足に、傍らから声が届く。
「君は花より団子でしょうけど、楽しむための提案ひとつ」
振り返った子火に、シモン・ディマンシュ(紫門の怪・g06086)は口元に笑みを浮かべて問うた。
「美味しい飲み物は後で、せっかくなんでゴンドラ乗りません?」
「もちろん飲みたいのは山々だが。それはもう本当に。だが舟は乗ったこと無いからな。行こう、行こう」
進む一歩だって、跳ねるように変わってしまう。シモン、と呼ぶ声ひとつ、物憂げな顔をした連れが吐息一つ零すようにして笑った。
そうして辿り着いた船着き場は、今日という日の為に用意された小舟と共に花で彩られていた。
「放っておけばリボンだってつけちゃいそうだったのさ。観光の町のぺっかぺかな舟ほどじゃぁないが、乗り心地は保証するよ」
そう言って二人を出迎えたのは船頭の男であった。
「お客さん、ダリアの花飾りをどうぞ」
人好きのする笑みを浮かべた船頭から花飾りを受けとると、先に、トン、とシモンが舟に乗る。
「不安定なんで気を付けて」
「うん」
差し出された手の誘いを取ったのは、子火は泳げないからだ。大人しくシモンに従って乗り込んだ舟の上、ふかふかのクッションと一緒に花びらの沢山入った籠が見えた。
「さて、撒くぞ!」
両手で花籠を抱えて、準備万端。水面を滑り出した舟が通りに触れるその前に子火は手の中に入れた花びらを少しだけ撒いてみた。てやっと、前に。風に巻かれて花びらは飛ぶのだが――こう、何かが違う。
「追儺の豆まきみたいじゃないか? 鬼は外………は違うか」
「鬼は外やったら、子火ちゃん外になってまうでしょ」
溜息一つ、そう言ったシモンが船端まで乗り出していた子火を見遣る。首根っこを掴んで引き戻すようなことをするつもりはないが、一応ひとつ。
「頼むから落ちたりはしないでくださいね」
泳げないんですよね、という言葉はおまけでつけないで置いた。
ひらり、ふわりと花が舞う。空に放るように投げる方法を子火が思い付いた頃には、舟の中にも花びらが迷い込むようになっていた。子火がまいたものもあれば、ふいに落ちた影と共に橋の上からまかれたものもある。
『良い日になりますように!』
謳うように、願うように紡がれた言葉と共に落ちてきた花びらがシモンの手の上に残っていた。
「……」
甘く香る花弁は、人々の祈りと願いが込められているのだろう。暇があれば花々を愛でる夢魔は、その花弁に指先で触れる。吐息ひとつ、零すようにして落とした笑みはどんな色をしていたのか。金色の瞳を僅かに伏せ、指先で手の中のものを進める。
「シモンは何をつくってるんだ?」
「ひとり遊び得意やったから作り慣れてるんです」
それは、町の花々で作り上げた花冠だった。ひとつ、ふたつと慣れた手つきで仕上げていく。白い花で彩る花冠に、ダリアを寄せた少し大きな冠。甘い香りが指先に残り、ひらり舞う花びらと共に見掛けた橋にいた子ども達に先に投げる。
「どうぞ」
「わぁ花冠だ! すごい!」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
受けとった子ども達が、わぁわぁと声を上げる。こりゃぁすぐに大人気になりますよ、と笑う船頭の頭にもシモンの作った花冠があった。
「シモンは……随分器用さんだな」
ひとつ、またひとつと花冠を作り上げていく姿に、子火はぱちぱちと瞳を瞬かせた。
「花で編む。どんな芸当だ。わからん」
くるくると花を寄せて、こう回して。じっと見ていても分からなくて眉を寄せながら、子火はふと思い出したように顔を上げる。
「そういえば、なぜ花が好きなんだ?」
「理由ですか。特段ないんですけど」
手の中の花冠を撫でるようにしてシモンは一つ息を落とす。
「殺風景なとこに居たので…鮮やかなものに惹かれるんですかねぇ。土から色を集めて育ち、散る頃には周囲に色を還すでしょ。その流れが美しいな、と、思うてるんです」
季節の訪れを告げるように花々は色を添える。大地と共に色付き、散るときも名残のように、そこにあった記憶と共に花弁を残していく。そうしてまた、次の命と色彩へ還るのだ。
「ふむ。その在り方に惹かれると。自然の循環は美しいからな」
ほう、と息を零すようにして子火は頷いた。この町を彩る花々も、山の黄葉した木々もこれから迎える季節と共に巡り行くのだろう。だからこそ、この花の一時を人々は祝い、祝福を紡ぎ、次に訪れる季節の為に祈る。この自然の中で、生きていくからこそ。
「……ん?」
そんなことを思っていたら、角に何かがかさり、と触れた。シモンの作った花冠だ。さっきまで通りの人々に投げていたのとは違う。そういえば、まっ赤な花を橋にいた花屋から買っていた気がしたが――……。
「何だ、輪投げみたいに……」
もう作ったのか、というちょっとした驚きと、角にかけられた真っ赤なダリアの花冠に眉を寄せれば、シオンが静かに微笑んだ。
「お誕生日のお祝いです」
「子火も良いのか! ふふ。これは嬉しい。冠を受け取った人々が笑顔になるのも分かる」
両の手で、そっと花冠に触れる。優しく甘く香る花。水面に映る姿に、子火は笑みを零した。
「お前はロマンチストさんだな」
「……この歳で浪漫言われるのは結構恥ずかしいなぁ」
少しばかり揺れた金色の瞳に、子火は笑う。弧を描いた金色は正面の彼とは違う色彩をして――けれど、今日は同じ色を映す。舞う花びら、賑わう人々の姿。
「さて、礼をせねばなるまい。子火はそう器用でないからな」
よし、と軽く腰を浮かす。ぱち、と瞬いたのは今度はシモンの方で、危ないですよ、と声が届くより先に子火は両の手で花びらを取った。
「舞う花びらがおまえの幸いとなりますよう」
「――!」
花冠の代わりに、シモンの頭の上に向けていっぱいの花弁を撒いた。舞い踊るは白に赤、紫に黄色。金色は、この地では黄金とも言うのであったか。キラキラと光る金色も、空の青も今日は全部二人の下に。
「君が秋の女王様みたいやな」
花の香りと、幸いを招く子火の姿にシモンはそう言って笑った。
——花が舞う。秋の風と共に幸いを願うように。美しい花と共に黄葉を迎えた町の祭りは、空に星が輝くときまで続いていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【現の夢】LV1が発生!
【おいしくなあれ】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】がLV2になった!
【リザレクション】LV1が発生!