新宿疑似ディヴィジョンの探索
攻略旅団の提案によって、大天使ヘルヴィムがいる疑似ディヴィジョン(と思われる空間)に向かう『特別なパラドクストレイン』が出現していました。
ですが出現したパラドクストレインは、まるで『出発地点と目的地』が同一であるかのように動き出す事がありませんでした。
天正大戦国奪還戦の為に新宿島が天正大戦国へ転移するのを受け、この『特別なパラドクストレイン』が動き出そうとしています。
特別なパラドクストレインに乗り込み、ヘルヴィムが潜伏している可能性のある空間へ向かって下さい。
現地での調査、そして可能であれば大天使ヘルヴィムからの情報収集を行えると良いでしょう。
19
翼持つ者達の王に告げる(作者 真壁真人)
#最終人類史(新宿島)
#新宿疑似ディヴィジョンの探索
#TOKYOエゼキエル戦争
#大天使ヘルヴィム
#新宿区
#天正大戦国奪還戦
#次回判定は12/23(火)朝時点のプレイングで行います
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#次回判定は12/23(火)朝時点のプレイングで行います
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●大天使ヘルヴィムの元へ
天正大戦国奪還戦の当日、日本時間の午前9時。
新宿島が天正大戦国へ転移するのと同時に、戦場へ向かうパラドクストレインが新宿駅のホームへ次々と現れ、ディアボロス達を乗せて戦場へと向かい始める。
そこから少し離れた場所では、ホーム1つを占有していた白い列車が動き出そうとしていた。
通常の山手線と異なる、白亜の神殿のような雰囲気を持つパラドクストレインだ。
この列車は11月、かつてのTOKYOエゼキエル戦争の断片の王『大天使ヘルヴィム』がいる空間(疑似ディヴィジョン)を求めるディアボロスの意志により出現した。
だが、そのまま動き出すことなく、傍迷惑にも長い間ホームを占有していたのである。
動き出さなかった原因は、『目的地の座標が出発地である新宿駅と完全に一致している』こと。
そして、新宿島が他ディヴィジョンへ転移し、座標の変わる『歴史の奪還戦』において、列車はついに動き出せるようになった。
「ヘルヴィムの隠れ場所は、新宿駅と時間、空間を同一にする疑似ディヴィジョンだった」
「まさに新宿区の影だな。そこから虎視眈々と最終人類史を狙って雌伏していたのか……?」
「でも、私達が居場所を突き止めた以上、何を考えてようと好きにはさせない!」
ディアボロス達を乗せてパラドクストレインは動き出し、異なる時空へと旅立つのだった。
●『2013年8月15日新宿区』
パラドクストレインが一瞬の後に停車する。列車の窓の外に広がるのは、新宿のJRホームの光景だ。
だが、そこには誰一人おらず、静まり返っていた。
駅の電光掲示板や掲示物には、『2013年8月15日』の文字が見えた。疑似ディヴィジョンへ辿り着いたのだと、ディアボロス達は理解する。
『2013年8月15日』。
それはTOKYOエゼキエル戦争で『新宿決戦』が発生したとされる日だ。
TOKYOエゼキエル戦争のディアボロスはクロノス級によって抹消されず、放置されていた。
劣勢にあった現地のディアボロス達は、『2013年8月15日』のこの日、全力を投じ新宿区へ乗り込んだのだ。
とはいえ、それは明らかに無謀で、敗北が約束された蜂起のはずだった。
ヘルヴィムに忠実な区の支配者の中にさえ、参戦しない者も何人もいた程だ。
だが、優勢だった大天使ヘルヴィムは何故かディアボロスを滅ぼさず、消えた。
この決戦の結果、TOKYOエゼキエル戦争の新宿区は同面積の塩水湖となり、残る『二十二区』は王の座を巡る『区の支配者』達の果てしない戦争の舞台となったのだ。
『新宿決戦』の最終局面でヘルヴィムでどのような判断をして自ら奇妙な結果を招いたのか、新宿島へ漂着したTOKYOエゼキエル戦争出身者も、何故か誰一人として記憶していない。
だが最終人類史に『新宿島』が残された事実と、新宿決戦の結末は確実に関連していると思われた。
パラドクストレインのドアが開き、ディアボロス達は警戒しながら速やかに列車を降りる。
「人っ子一人いないようだね」
「いや、人どころか生き物の気配が全く無い……。風の音すらしないな」
パラドクストレインから降りたディアボロスは、周囲を警戒しつつ探索を開始した。
新宿駅の構内に敵の気配が感じられない事で、ディアボロスの一人が【飛翔】して周囲を確認する。
仮に攻撃を受けたなら、敵の存在が確認できるのだから、問題は無い。
ディアボロスは上空から【パラドクス通信】で仲間達に報告する。
『新宿区と他区の境界に光の壁がある。この疑似ディヴィジョンは新宿島と同面積しか無いんだろう』
先の調査でもグランドターミナルと重なって疑似ディヴィジョンが存在しているという事前の推測があったが、この疑似ディヴィジョンの範囲が新宿区を再現しているらしかった。
『空から見た限り、動く物は何も無かった。道路には車があるが動いてはいない。
最終人類史に奪還済みで未帰還の地域と、同じ状況と考えるべきだろうな』
上空から周囲を見たディアボロスが、続けてそう報告する。
「つまり、この疑似ディヴィジョンの時間は止まっているという事だね」
「何か、ヘルヴィムがいそうな場所とかあった?」
『……とりあえずここまで飛んで来てくれ。一目瞭然だ』
指示に従い【飛翔】したディアボロス達は、新宿駅の西側に、輝かんばかりの白亜の聖堂を見る。
そこにはディアボロス達も慣れ親しんだ東京都庁に代わり、スペインのサグラダ・ファミリアをさらに巨大にしたかのような、荘厳なカテドラル(大聖堂)が鎮座しているのだった。
●新宿カテドラルの王
あからさまに大天使の拠点らしきカテドラル。
まずはここを重点調査しなければならないと判断したディアボロスは、手分けして内部の調査を行っていた。
『みんな、上層の……何階だろここ。
とにかく展望室の位置に集まって。ヘルヴィムを発見した……と思う』
そのうちの1チームからの通信が届く。
カテドラル化の影響で階層数が都庁と異なっていたが、都庁45F展望室に当たる位置に存在したホールに集まったディアボロス達は、そこに翼持つ人物を目撃する。
多数の翼と、そこについた多数の『目』らしき器官。
それらは、この人物が、人ならざる存在である事を示していた。
「間違いなく、ジェネラル級以上の高位の大天使だろう」
「ということは、あれがTOKYOエゼキエル戦争の『断片の王』、大天使ヘルヴィムか」
「だけど、あの『槍』は一体?」
ヘルヴィムの閉ざされた瞼からは血液が涙のように滲み、しかしその血涙は床に落ちることはない。
この疑似ディヴィジョン内にある他の物体と同様、ヘルヴィムの時間は止まっていた。
だが奇妙な事に、彼の肉体は何本もの黒い光で出来た槍に貫かれている。
まるで咎人が磔にされるかのように、大天使ヘルヴィムはこの場所に縫い留められていたのだ。
「それに、あのヘルヴィム……」
「断片の王にしては……弱すぎない?」
TOKYOエゼキエル戦争滅亡時の断片の王たる大天使ミカエルよりも、ずっと弱い。
《戴冠の戦》が開戦した今から、断片の王として勝利を目指すには、明らかに力不足だ。
その事実が、ヘルヴィムが最終勝利者になろうとしていると考えていたディアボロス達を困惑させる。
だが、ここまで来た以上、真実を知らねばならない。
意を決し、ディアボロス達は大天使ヘルヴィムとの接触に臨む。
リプレイ
ラキア・ムーン
さて、まずは現場保存だな
アレの現状を全方位から撮影して、現状を把握
後は接触の為に必要な情報を集めよう
先ずは直には触りたくないし、様子見も兼ねて持って来た棒で羽と体
それから槍と鎖を突こう
時間が止まっている以上、どうともならんだろうな
無いとは思うが、近付いて発動する罠があっては困る
持って来たボールを数個ヘルヴィムにぶつけて様子を見よう
大丈夫だとは思うが
大丈夫そうなら接近して、心臓から一番遠い部分にある槍を手に取り抜けないか試すか
触った時に違和感等あればすぐに離せるように気を付けつつ、問題無ければぐりぐりと弄り抜けそうなら抜いてみよう
空いてた穴が閉じないように、抜くと同時に先程使用した棒を代わりに突っ込み穴の保持に使用
抜けた部分に変化は無いか、またこの槍について何か情報は無いかを確認
ついでに抜いた部分の周囲の時間が動き出す等、変化が無いかも確認しておこう
下手に現状を変えて藪蛇にはしたくは無いが……まあ、何かを得るにはある程度リスクが必要か
しかし、こうして見世物にさせられているのも気の毒だな
音羽・華楠
……いえ、真面目な状況なのは重々承知なんですけどね?
…………これだけは言わせて下さい――
――ヘルヴィムこいつ何で全裸なんですかー!?
せめてっ、下半身には何か……!
翼は服の代わりにはならないんですよ!!
……色々とあれですが、ヘルヴィムの姿をスマートフォン型式神霊柩丸で撮影。
その映像がエゼキエルの残党関連で役に立つかもしれませんし。
……とにかく、如何にしてヘルヴィムの時間を動かすか、ですよね?
奴に突き刺さってる黒い光の槍が怪しいですが――
……これ、私たちが触れても大丈夫なんでしょうか?
曲がりなりにも元・断片の王。
その座を退いてもジェネラル級相当の力はあったはずのヘルヴィムをここまで弱体化させてるのが、或いはこの槍かもしれないわけです。
……私たちだと、下手をすると触れただけで本当に死亡するだけの威力があるかも……?
ヘルヴィム、それにこの疑似ディヴィジョンの状況は、帰還前の奪還地域にも似てますよね?
なら、【勝利の凱歌】で時間を動かせる可能性はないでしょうか?
私はそれに期待して歌ってみます。
ラウム・マルファス
エゼキエル出身として思うところが無いわけじゃないケド、今は一旦置いておこウ
ボクは決戦前に新宿島に流れちゃったし、得られる情報は、とても大切だからネ
まずはゆっくり近づいて状態を観察
時は止まっているらしいけど、槍との関係性が気になるネ
時を止めるのが槍の効果なのか、それともココへ来て何者かに襲撃され、『自身と周囲の時が止まっている』ディヴィジョンを作って延命したのカ
ヘルヴィム以外の仕業なら、罠とか盗聴装置があるかもしれないからネ
鎖と槍は同じ存在の力なのか別物なのかもできれば調べタイ
もし死にかけてるなら延命を試みるヨ
情報貰うまで死なせるわけにはいかないからネ
心臓エネルギーでなんとかなりそうなら注いでみよウ
信仰が必要なら……嫌だけど何人か手伝ってもらって形式だけでも祈ってみようカ
時間を動かすのは、鍵が必要なら無鍵空間を使ウ
信仰や祈りが必要なら、頑張って対応しよウ
槍と鎖の権能なら、反応を見ながら少しずつ抜くヨ
ディヴィジョン自体の性質なら、ボク達がいることで排斥力が低下するから、そのうち目覚めるだろウ
●黒き『槍』と『鎖』の謎
大天使ヘルヴィムを含めた疑似ディヴィジョン内の時間は停止している。
この現象は、最終人類史に奪還済みで未帰還の地域と同様の状況と考えられた。そして、この疑似ディヴィジョンは最終人類史の影のような存在だ。
「人々を『帰還』させる時と同じように【勝利の凱歌】を使えば、大天使ヘルヴィムの時間も動き出すでしょうか?」
そう考えるディアボロスは、音羽・華楠(赫雷の荼枳尼天女・g02883)をはじめとして複数いた。
【勝利の凱歌】で時間を動かす範囲はディアボロスの任意である程度限定できる。
今月はロシアでスターシティの施設だけを動かしている他、全面『帰還』がままならない時期に、各国から有用なごく一部の人員だけを『帰還』させていた時期もあった。疑似ディヴィジョンのその他のエリアに影響を及ぼさずに、ヘルヴィムの時間だけを動かすことは可能だろう。
華楠とラキア・ムーン(月夜の残滓・g00195)は接触の前に、まず状況を保存しようと撮影を行っていた。
「断片の王だった者が、こうして見世物のようになっているというのも、気の毒といえるかもな」
ヘルヴィムの今の姿は、彼が冒した何かの『リスク』の結果かもしれないと、ラキアは考える。そんな中、華楠は耐えきれなくなったように、それまで誰も触れなかったことを口にした。
「――ヘルヴィム――何で全裸なんですかっ!?」
華楠は照れと怒りの入り混じったような表情を作りつつ、スマートフォン型式神霊柩丸のカメラをヘルヴィムへ向ける。ラキアは室内を撮影しながら、淡々と応じた。
「宗教画に近い姿だろう。それに、大天使やアークデーモンには……いや、クロノヴェーダには露出度が高いの、色々いないか……?」
「そうかもしれませんがっ……! でもせめてっ、下半身には何か……! 翼は服の代わりにはならないんですよ!!」
特にアークデーモンは鱗で覆われていたり、紫肌だったりもするので、露出度がよく分からない個体も色々といる。そうした敵については、戦闘時に気にはしないが、人間に近い姿だと意識してしまう点かもしれない。
賑やかに撮影を終え、いざ接触という段になって、華楠はぽつりと呟いた。
「……これ、私たちが触れても大丈夫なんでしょうか?」
黒い『槍』や『鎖』の存在は、どうしても考慮しなければならない部分だった。
「曲がりなりにも元・断片の王。その座を退いてもジェネラル級相当の力はあったはず……」
だが、今のヘルヴィムはパラドクスの使用もままならないほどに弱体化している。
その原因であろう『槍』や『鎖』に、華楠は強い危険性を感じ取っていた。
「下手をすれば、触れただけで死ぬんじゃ……?」
「では、まずこれを使ってみるか」
そう言って、ラキアは準備よく持参していた長い木の棒を、指先で軽く持った。
ラキアの手にした棒の先端が、ヘルヴィムの心臓から一番遠い部分にある『槍』に僅かに触れる。
その瞬間だった。
『槍』に触れた棒の先端が、泡のように弾けて消えた。
変化は先端に留まらない。泡化は一瞬のうちに、ラキアが棒を掴んだ部分へ及ぶ。
「ラキアさん!」
「……ッ!」
咄嗟にラキアが棒を捨てた直後、棒の全体が泡となって消える。だが泡への変化は指先に及んだ。舌打ち一つ、ラキアはパラドクスを発動させる。
「炎弾(フレイムバレット)!!」
炎がラキアの掌中で炸裂した。自らのパラドクスで指の第一関節から先を吹き飛ばしたのだ。
華楠のスマートフォンのカメラは、吹き飛ばされた指の先端が床に落ちるより早く、棒と同様、泡となって消えるのを捉えていた。
「変化、止まってますか!?」
「ああ……幸いな。少し休めば治るだろう。だが、厄介な状態だぞ」
ラキアが平静な表情を作って言う。
一瞬の出来事を見ていたディアボロス達も理解した。
「時間を動かせば、ヘルヴィムの体が一気に泡にされて消えるということですか……?」
「おそらくだが……。あの『槍』や『鎖』は見え方が違うだけで、性質は同一だろう。
いずれも、尋常でなく強い、具現化された『排斥力』だ。
触れればディヴィジョンから追い出されるばかりか、存在そのものが無に帰すほどの……」
ラキアは自身の体感した感覚を説明する。
華楠は触れたら即死する可能性を警戒していたが、不用意に触って全身を泡にされていたら、新宿島に漂着できない『完全な死』を迎える可能性すらあっただろう。
ラキアは遅れてやって来た痛みと共に、そう感じていた。
「その排斥される瞬間が、泡となって消えるように見えている……ということカナ」
ラウム・マルファス(研究者にして発明家・g00862)は、改めて状況を捉え直す。TOKYOエゼキエル戦争の出身者として断片の王に思うところはあるにせよ、今は必要なことを為さねばならない。
「大天使ヘルヴィムは、『槍』と『鎖』のせいで死にかけていル。
どうやら時間が止まっているのは、ヘルヴィムにとって幸いのようダ。
彼は『自身と周囲の時が止まった疑似ディヴィジョン』を作って延命したのカナ?」
『槍』に貫かれ、『鎖』に縛られ、なおヘルヴィムが存在を保っているのは、むしろ奇跡的と言って良いかもしれない。
「いずれにせヨ、彼をさらに延命しないと、情報をあまり引き出せそうにないネ」
時間を動かしたところで、一瞬でヘルヴィムが『排斥』され消滅してしまっては意味がない。そこで、ラウムはクロノ・オブジェクトの使用を提案する。
「『巨大神像の心臓』を持って来ようカ」
大天使は『信仰』の感情をエネルギーとする種族だ。
『円卓の間』に集まる世界中の『信仰』のエネルギーをクロノ・オブジェクト『巨大神像の心臓』で注げば、ヘルヴィムから情報を引き出すまでの時間を稼げるかもしれない。
「『槍』をどうにかする手段が、今後見つかるかどうかも分からなイ。
ここまで、散々手間をかけさせてくれたんダ。情報を貰うまで、死なせるわけにはいかないヨ」
何としても、ヘルヴィムから情報を引き出してみせる。
それは、この場にいるディアボロス達の総意に違いなかった。
●翼持つ者達の王は告げる
疑似ディヴィジョン内の時間は止まっており、最終人類史に戻って『巨大神像の心臓』を準備して来るのにも支障は無かった。エネルギー供給準備を整えると、ディアボロス達は【勝利の凱歌】を歌う。
ヘルヴィムの行いに感謝する者。歌声に『信仰』の感情を乗せようとする者。逆に渋々歌う者。
様々な感情の籠もった歌声が、ホールを満たしていく。
「いいネ、反応しタ……!」
ラウムが快哉を上げる。『巨大神像の心臓』に満たされていたエネルギーが減っていく。
それは『信仰』をエネルギーとする存在……大天使ヘルヴィムの時間が、【勝利の凱歌】を受け、再び動き出そうとしている証拠だった。
前触れのようにヘルヴィムの瞼から流れる血の雫が滴り、落下した床を赤く染める。
反応するように『槍』と『鎖』がヘルヴィムを消し去らんとするも、『信仰』のエネルギーはそれを阻止した。
急激な消滅を免れたヘルヴィムが、かすかに身じろぎする。
いまだ自由な身動きは出来ないまま、彼は安堵の混じった声音で、周囲で【勝利の凱歌】を歌っていたディアボロス達に言葉をかける。
「嗚呼、この力は……あなた達は、新宿区のディアボロスですね。
あなた達が、これ程までに強くなり、私に『信仰』の力をもたらすとは……」
ヘルヴィムは感慨深げに深く息をついた。そして想像を絶する苦痛に耐え、ディアボロス達がここに至るまでの道程を労るよう、穏やかな笑みすら浮かべて言葉を続ける。
「どうやら、我が子達は正しい選択を為せたようです。
あなた達、ディアボロスが生き延びた事も、私は祝福しましょう。
あなた達が、ここに来たという事は、《戴冠の戦》が始まろうとしているタイミングでしょうか。
さて、あなた達ディアボロスの主は、誰が務めているのですか?
アルケーか、セノイか、あるいはラミエルか。他の者でも構いません。
大至急、この場に呼び寄せてください。
これからの事を話し合わねばなりません」
(((──いや、何言ってんだコイツ)))
ディアボロス達は怪訝な表情を浮かべないよう、表情筋に力を入れつつ確信する。
(「大天使ヘルヴィムの意図と、最終人類史の迎えている現状は、大きく食い違っている……」)
ヘルヴィムは『大天使がディアボロスを率いている』のが、当然の前提であるかのように言った。
彼の意図したところでは、彼が姿を消した後、そうなるはずであったのだ。
だが、ただ単にヘルヴィムの言を否定していても埓が空かない。
『信仰』エネルギーには限りがある。
ヘルヴィムが消滅する前に、知る情報を引き出さねばならないだろう。
そのためには、どのように話を進めれば良いか……。
神妙な表情を作りつつ、ディアボロス達は考えを巡らせるのだった。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
効果1【未来予測】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV1が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV2が発生!
又平・衣玖
アドリブ歓迎
これがTOKYOエゼキエル戦争の新宿区を再現した疑似ディヴィジョン、ですか
ヘルヴィムとの会話は気にはなりますが、私は私で気になることがあるので捜索します
敵もいないのなら【飛翔】して移動時間の短縮を狙いましょう
私が探索するのは新宿断層碑文が発見された各所です
断層碑文がもしもヘルヴィムと関係あるのなら、断層碑文が発見された場所にはなにかあるはずです
何も無いならないで、それはそれで空振りだろうとなんらかの判断材料にはなるでしょう、たぶん
此方の新宿駅もパラドクストレインの秘密があるかもしれないので気にはなりますが、最初にこの疑似ディヴィジョンに着いた時には特に違和感などはなかったのですよね?
まぁ新宿駅の地下など探せばなにかある可能性もゼロではないですかね?
なにかしら得た情報はトランシーバーかなにかでヘルヴィムと会話している皆様に逐次報告します
逆にヘルヴィム対応側からの情報から捜索のヒントがあるかもですけどね
又平・衣玖(お色気デーモンシスター・g09547)は、新宿区内の各所……他区との境界近くにいた。
「ここも無し……と。次へいきましょうか」
持って来たリストにチェックを入れると、彼女は翼を翻して飛び立つ。
衣玖は新宿区内を【飛翔】で飛び回っていた。彼女が巡っていたのは『新宿断層碑文』が発見された場所の数々だ。
2021年8月15日から、新宿島と他区の境界だった場所で、断層碑文は次々と発見された。それらの位置は過去の調査で把握されている。
光の壁で遮られ、新宿区外へ出ることはできない。断層を外側から調べることは出来ないが、そこは勝手知ったる新宿だ。
断層碑文が発見されたのと同じ場所へ赴いて地面を掘ったり、地下鉄線路であれば線路を歩いたりといった形で移動し、衣玖は碑文が無いことを次々に確認していた。
「断層碑文は、一種のクロノ・オブジェクトだと判明していますね。
そして、おそらく最終人類史に送っているのは南極にいる『絶滅人類史』の『観測者』……」
『新宿断層碑文』については、過去にもワイルド・カード主導での調査が行われ、何者かが発見されるように送ったらしいと判明していた。
そして《戴冠の戦》開戦時に行われた強行偵察で、南極に赴いたディアボロス達は『観測者』を名乗る存在と遭遇していた。僅かな時間しか接触できなかったが、そこで得られた情報は、ディアボロスの推測を裏付ける内容も含めた、非常に大きなものだ。
「そして観測者は、碑文伝達機能というものを使えるのですよね」
単独で送っていたのかは不明だが、観測者が断層碑文を送っていた一員であること自体はほぼ確実だろう。
「ですが……やはり、TOKYOエゼキエル戦争の時点では、まだ送られていなかったようです」
光の壁のせいで調べられない場所も何箇所もあったが、おそらく同様だ。
初期の『新宿断層碑文』には巨大なものも複数ある。
このディヴィジョン……TOKYOエゼキエル戦争の新宿区にも送られていたのであれば、幾つかは発見できたはずだ。
「観測者が断層碑文による情報支援を始めたのは、最終人類史の確立以降と考えて良さそうです。特別扱いされているのは、最終人類史に辿り着いたディアボロスだけなのでしょう」
ディアボロスが生き残り、死を経ずに直接合流したディヴィジョンとしては、火刑戦旗ラ・ピュセルも存在する。だが、彼らが断層碑文を現地で見たという話は聞いたことが無い。他のディヴィジョンの出身者達も同様だ。
「私のような他のディヴィジョン出身者も、最終人類史に来る前と後で大きく変化しています」
成長の速さと戦闘力の高さ。
ジョブとパラドクスの豊富さ。
一般人を『帰還』させると、成長限界が上がる現象。
攻略旅団でディアボロスが支持した内容で、自分達ばかりか最終人類史の人々の行動にまで良い影響を及ぼしうる能力。
致命的なダメージを受けても、最終人類史に漂着する形で蘇生できる能力。
『断層碑文』による情報的な支援。
時空を越える『パラドクストレイン』と、その情報を読み取れる時先案内人の存在。
そして本拠地にして決戦兵器である『新宿島』。
いずれも、他のディヴィジョンで滅ぼされたディアボロスには無いものだ。
それらのうち「単に他のディヴィジョンでは得る機会が無かっただけのもの」「最終人類史のディアボロスの特殊性ゆえに得られたもの」はそれぞれどれなのか?
観測者が最終人類史にだけ肩入れしている理由と、逆に観測者が肩入れした結果として得られたものは?
今の衣玖には、ただちに正確に判断することは難しかった。
「各ディヴィジョンの確立前に滅ぼされた、現地のディアボロス。
最終人類史のディアボロス。
そしてディアボロスに近い存在と思われる『絶滅人類史』と……《刻逆》を使った者達」
ディアボロスといっても、様々だ。
『新宿決戦』は、ディアボロスの変化にどれほど関係しているのか?
それを突き止めるための問答は、衣玖の見上げる新宿カテドラルの上層で行われようとしていた。
成功🔵🔵🔵🔴
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ
ヘルヴィムに跪き、頭を垂れ臣下の礼節と大天使への信仰と敬意を示そう
ヘルヴィム様、お会いしたく存じました
復讐の力持つ我々を迎え入れられたこと
貴方様の慧眼であらせられました……
主たるラミエル様(主の名は先の方に合わせる)には、既にご報告申し上げましたが
戴冠の戦という大局に面し、参られるには時間がかかりましょう
その間にも、急ぎ我々がお伝え出来る事をお伺いします
しかし、おいたわしいお姿……一体何者が貴方様にそのような仕打ちを……?
我々はイレギュラーたる存在……
もしや、我々を迎え入れることが罪であったというのでしょうか
会話の主題は
『ヘルヴィムが槍打たれた理由と、槍を打った存在』について
彼は消失を避けるため他の区を切り離し、ジェネラル達に王の座を競うよう言い残したとして
今の瀕死の状態さえ加味していたように思える
黒い槍はおそらく外部の強烈な力、なら
何者の仕業か
彼が槍打たれるに至ったものが禁忌なら、何であったのか
ディアボロスとはそれほどまでに価値あったのか
復讐だけならキマイラウィッチも強力であったが……
イシュア・アルミゴス
これは…仕方ない。
片膝をつき、頭を垂れて敬意をもって嘘をつこう。
まず状況を共有いたします。
戴冠の戦は既に始まり、我らの王はラミエル様です。
我々は大天使の方々の麾下、多くの敵と相対してまいりました。
しかし現在、イレギュラーたるアルタン・ウルクの苛烈な侵攻により
防衛および一時的同盟を結ぶための交渉に追われ、
王を含め、この場へ赴くことは叶いませんでした。
その為僭越ながら我々が伝言役を務めます。どうかご容赦ください。
本題なのですが新宿決戦の際、貴方様は勝利も敗北も選ばず
ディアボロスを滅ぼさず、王座を他へ委ねられました。
それは慈悲でも、敗北の結果でもないと認識しております。
故にお尋ねいたします。貴方様は一体、何を見られたのでしょうか。
何を成した結果として、そのようなお姿になられたのか。
幾つかの偶然が重なり、我々は今回、貴方様を発見。
救出に動きましたが、信仰の力は永続せず
王すら排斥し得るその力に我々は抗う術を持ちません…。
どうかそのお心を、今なお帰還を待つ方々へ伝えさせてください。
四葩・ショウ
(――そういうことなら)
ばさりとペリース翻して
すぐさま跪く
その通りだ。大天使ヘルヴィムさま
(まずは、
大天使の思惑通りの使徒を演技してみせよう
『黒き槍』の正体を識るためにも)
わたし達は新宿区のディアボロス
われわれの主に代わって、ヘルヴィムさまを迎えにきた
残念だけど、すでに戴冠の戦は始まっている
今は2017年12月、残るディビジョンは4つ
わたし達TOKYOエゼキエル戦争は
13のディビジョンに勝利を納めた
(もしも
新宿断層碑文とヴェーダ・クロニクルがなくて
導き手として大天使があらわれたなら
新宿島のわたし達は、かれらの使徒になってただろうけど
そうならなかったのは、何故?
そのヒントが槍と鎖にあるはず)
ヘルヴィムさま
貴方を縛める、忌々しきその槍と鎖は
誰の仕業なのかな? 強力な排斥力のようだ
一刻も早く貴方を解放しなければ
齟齬で訝しがられるなら臨機応変に
新宿決戦後大天使さま方からも、貴方の真意が失われてしまった
だからわたし達は戴冠の戦に間に合わなかったんだ
意図的な排斥力が働いたのかもしれない
って誤魔化そう
●演技開始
「その通りだ。大天使ヘルヴィムさま」
ヘルヴィムの告げた内容を聞き、咄嗟にペリースを翻し跪いたのは、四葩・ショウ(After the Rain・g00878)だった。
「わたし達は新宿区のディアボロス。われわれの主に代わって、ヘルヴィムさまを迎えにきた」
「ヘルヴィム様、こうしてお会いできたこと、誠に光栄です」
「しかし現在、イレギュラーたるアルタン・ウルクの苛烈な侵攻により、防衛および一時的同盟を結ぶための交渉に追われ、王を含め、この場へ来ることは叶いませんでした」
エトヴァ・ヒンメルグリッツァ(韜晦のヘレーティカ・g05705)とイシュア・アルミゴス(守護星蟲・g00954)が、ショウに続いた。信徒が信仰と敬意を示すかのように跪き、話を合わせる。
「残念だけど、すでに《戴冠の戦》は始まっている。
残るディヴィジョンは4つ。わたし達は、13のディヴィジョンに勝利を収めた」
「主たるラミエル様には、既にヘルヴィム様の発見をご報告いたしております。
ですが、《戴冠の戦》という大局に面し、このディヴィジョンへ到達するには時間がかかりましょう」
「その為、僭越ながら我々が伝言役を務めます。どうかご容赦ください」
「私という王無しで、そこまでの大勝利を……?」
ヘルヴィムは、凄まじい大戦果の報告に、疑問を抱いたようだった。
エトヴァは話を逸らすように、痛ましげにヘルヴィムへ告げる。
「しかし、おいたわしいお姿……。一体何者が貴方様にそのような仕打ちを……」
「全く、ヘルヴィムさまを縛めるとは忌々しい……! その槍と鎖は誰の仕業なのかな? 強力な排斥力のようだ。一刻も早く貴方を解放しなければ」
「一体、何を見られ、何を成した結果として、そのようなお姿になられたのか」
「我々はイレギュラーたる存在……。もしや、我々を迎え入れることが罪であったというのでしょうか」
口々に言い、ヘルヴィムを心の底から案じているように問うディアボロス達。
ヘルヴィムはひとまず疑問の追求を止め、ディアボロス達の疑問に応える姿勢を見せる。
「ジェネラル級達にあなた達を導くよう命じ、新宿区を私のディヴィジョンから分離させ、あなた達ディアボロスへ私の力の一部を譲渡する……。
私にとってはつい先程のことですが、短時間に為さねばならないことは多く、ごく限られた情報しか伝えることはできませんでした。
《戴冠の戦》が既に大詰めであるならば、改めて説明できることもあるでしょう」
(「今すごいこと言わなかった!?」)
(「分かってるフリで! 『新宿決戦』で起きたことを、当然お互いに知っていると思われている!」)
イシュアとエトヴァは叩き込まれた情報に混乱しつつも頷いておく。
ヘルヴィムの瞼が閉ざされているのは、幸いであったかもしれない。
「戦の後に備える必要もある。繰り返す時間も惜しい。録音して、ラミエル達にも共有して下さい」
「勿論です。どうかその御心を、今なお帰還を待つ方々へ伝えさせて下さい」
21世紀の東京を統治していた断片の王らしい指示を出したヘルヴィムは、イシュアの促しを受け、話を始めた。
●裁きの理由
「さて、あなたは『罪』と言いましたが……『ルール違反』というべきかも知れません。
最も大きなものは、私があの時、戦いに関する様々な事実を『思い出してしまった』ことです」
ヘルヴィムは、先程のエトヴァの言葉に対する回答を口にする。反応したのはショウだ。
「事実を、思い出してしまった? もしやヘルヴィムさまにも、南極の『絶滅人類史』の者達と同様の制約が?」
類似した現象を、《戴冠の戦》開戦時の遭遇で、ディアボロス達は知っていた。
ショウをはじめ、南極へ強行偵察に赴いたディアボロス達は《戴冠の戦》の開戦時、南極に潜む『絶滅人類史』の観測者を名乗る存在と遭遇している。
その際、観測者は最終人類史のディアボロスに味方する姿勢を見せつつも、情報伝達に著しい制約をかけられていたのだ。
「既に彼らと接触していましたか……!」
「はい、一時的な遭遇でしたが。流石はヘルヴィムさま。彼らのことをご存知とは」
「ところで『絶滅人類史』と名乗ったのですか? 自虐的ですね。いえ、自覚的でしょうか……」
ショウとヘルヴィム、双方が驚いた様子だったが、ヘルヴィムが南極勢力こと『絶滅人類史』のことを知っているのは確定的だった。
それもまた、『思い出してしまった』事実の一部なのだろう。
「わたし達の遭遇した『絶滅人類史』の者は、何らかの制約でまともな会話もままならない状況でした。
もしや、ヘルヴィム様のその『槍』は、制約を破ってしまった故に……?」
「彼らのことを知っているのであれば、その想像は正しいでしょう。
ですが、どこまで話せるか……。未来の情報を持ち込めば排斥される。『断片の王』になった者には、排斥力に一定の耐性がありますが、それでも、まだ条件の厳しい早期に受けたのは拙かった……」
排斥力の『槍』が軋む。ヘルヴィムの表情が、痛みに歪んだ。
(「つまり『槍』は直接的に誰か攻撃して来たわけではなく、断片の王に科された制約の発動? でも、何故?」)
ヘルヴィムが何を考え、『新宿決戦』で何をしたのかを改めて知る必要がありそうだと、ディアボロスは判断する。
●『新宿決戦』の顛末
イシュアは話をヘルヴィムが姿を消した『新宿決戦』へ向ける。
「……『新宿決戦』の際、貴方様は勝利も敗北も選ばず、ディアボロスを滅ぼさず、王座を他へ委ねられました。あの行為は単なる慈悲でも、まして我らに敗北すると思われたからでもないと認識しておりますが……」
「あの戦いは、そう呼ばれているのですね。
そもそも、私が断片の王として有した知識は『あなた達ディアボロスもまた、真の敵に対抗する力となりうる存在である』ということでした。
それ故に、クロノス級によるディアボロス絶滅を行うことはしませんでした」
そればかりかヘルヴィムは、クロノヴェーダを人間に憑依合体させ、天使とデーモンという『異種族』が生まれることも許している。
異種族はクロノス級以上の強力なクロノヴェーダになりやすい一方、人口比で見た時、明確にディアボロスにもなりやすい。
「ディアボロスとクロノヴェーダが一時的に敵対したとて、いずれ《刻逆》の先にある戦いを知れば、融和は叶うはずでした」
ディアボロス達はヘルヴィムの言葉を受け、もし彼が言ったように自分達がTOKYOエゼキエル戦争の傘下に入っていたら、その戦い方はどうなっていたかを想像する。
ディアボロスは『効果を残留させて積み重ね、仲間全員が利用可能にする』能力を持つ。残留効果は、本来圧倒的な力の差がある強敵達との戦いを勝利に導くほどに強い。
クロノヴェーダは、この蓄積が行えないが、パラドクスの効果自体は使える。
では、クロノヴェーダとディアボロスが完全に仲間として協力し合えば、どうなるか。
「個体戦闘力で勝る大天使様達を、ディアボロスが残留効果で支援する……十全に協力しあえば、我らに勝てるクロノヴェーダ種族など存在しません」
エトヴァの断言に、ヘルヴィムは感心したような表情を作る。
それこそが、ヘルヴィムの思い描いた最強の布陣だったのだろう。
「ですが……あの戦いの中で、私は重要な『別のルール』を思い出していました。
ディヴィジョン分割の確定前に、『復讐』の感情が鎮まらなければ、《刻逆》発動時のディヴィジョンとして確立できない、と」
「なんと……!」
それはおそらく、『絶滅人類史』の二の轍を踏まないための措置だろうと推測できた。
(「火刑戦旗ラ・ピュセルにもディアボロスはいたが、ジャンヌ・ダルクは『一時的にディアボロスを完全勝利させて復讐対象をなくす』『キマイラウィッチ全てを仮死状態にする』という大博打で、このルールをクリアしたのか。……いや、理屈がついても無茶だな……」)
火刑戦旗ラ・ピュセルの断片の王の血塗られた笑みが、エトヴァの脳裏を過ぎった。
「ですが、あの時、ヘルヴィム様は私達を滅ぼすのではなく、別の道を選んで下さいました」
「そうです。《戴冠の戦》の後に待ち受ける『真の敵』と戦うため、私達は力を合わせねばならないのですから……。私の元に辿り着いたディアボロスは、停戦に応じてくれましたね」
「はい。騙されるだけではないかという者もおりましたが……貴方様の言葉を信じたのは幸いでした」
イシュアは話を合わせておく。
新宿決戦の最終局面において、ヘルヴィムは戦うのを止め、配下にも攻撃停止命令を出した。
どうやらディアボロスの側も、攻撃を止めていたらしい。
(「まあ、僕達を『当時直接会話したディアボロス本人ではない』と見て言葉を飾ってるよね。拒否すれば死ぬから、乗らざるを得ない状況だったんじゃないか?」)
イシュアは当時の現地ディアボロスの心境を思うが、実際に覚えているディアボロスがいない以上、予想するしかなかった。
「もっとも、長く話す暇はありませんでした。
一つの記憶を呼び水として、私は連鎖的に多くを思い出し、世界から排斥されようとしたのです。
それに単なる対話程度で、ディアボロスの『復讐』の感情を完全に鎮めるなど、不可能であるとも分かっていました」
ヘルヴィムも断片の王とはいえ、自分の弁舌に盲目的な自信を持ってはいなかったらしい。
「私と共に、私のディヴィジョンが完全に消える……それは避けねばならない。
故に、私は各区のジェネラル級に後事を託し、あなた達を導くよう指示した。その後、『新宿区』を私のディヴィジョンから切り離し、同時にその影たるこのディヴィジョンを形成したのです」
「わたし達に力の一部を与えられたのも、その時だね」
先程のヘルヴィムの言葉を繰り返すショウに、ヘルヴィムは肯定の言葉を返す。
「そうです。集団を王にし、ましてやクロノヴェーダですらない相手への譲渡……。
何が起きるのかは分かりませんでしたが、あなた達からは、他のディヴィジョンの気配も感じる。
他のディヴィジョンの力も取り込めたのですか?」
「まさしくその通りです!」
「なるほど、その力があればこそ、多数のディヴィジョンに打ち勝てたのですね」
「ええ、『復讐』の力持つ我々に力を与えられたこと、貴方様の慧眼であらせられました……!!」
都合よく解釈するヘルヴィム。
エトヴァは顔を伏せ、ヘルヴィムを激賞しつつも、別のことを考えていた。
(「他のディヴィジョンで滅ぼされたディアボロスの漂着もそうだが、ヘルヴィムの意図していない事象が多々起きているようだな……」)
ヘルヴィムが切り離した新宿区は、彼が思っていたような、単なる『ディアボロスのディヴィジョン』にはなっていない。
新宿区のディアボロス達はクロノヴェーダでなく断片の王もいない。
自分達に有利となる都合の良い歴史改竄などは、当然行えなかっただろう。
その結果、新宿区は《刻逆》発動時に、ディヴィジョン化の影響を免れた。
本来の歴史の人々と共に『最終人類史』として維持され、ディアボロスが漂着する地となったのだ。
イシュアは顔を伏せ、ヘルヴィムのことを皮肉げに評価する。
(「ディアボロスの大恩人、僕達に滅ぼされたクロノヴェーダにしてみれば大戦犯だね」)
「《戴冠の戦》が始まれば、私に科せられた排斥力も弱まる。
その後に私を解放するよう伝えていましたが……。数々のディヴィジョンに勝利を治めているとは。
実に喜ばしいことです」
TOKYOエゼキエル戦争の滅びも知らぬままに告げられる言葉を、ディアボロス達はそれぞれに、何とも言い難い表情で受け止めた。
●排斥される意志
「しかしあなた達の主が、ラミエルとは……。
元々融和を訴えていた彼女なら、切り替えは早かったのかもしれませんが」
「……新宿決戦後、大天使さま方からも、貴方の真意が失われてしまっていました。
それ故、わたし達が来るのもここまで遅れた。
もしかすると『意図的な排斥力が働いた』のかもしれません」
ヘルヴィムに誤魔化して答えながら、ショウは別の確信を抱いていた。
(「ヘルヴィムは、わたし達ディアボロスを『大天使やアークデーモンの傘下勢力』として考えていた。
もし、『新宿断層碑文』とシメオン・グランツさんの持つ『ヴェーダ・クロニクル』がなかったなら。
TOKYOエゼキエル戦争の大天使達が、新宿区が別のディヴィジョンになっていると最初から気付き、《刻逆》発動の直後に霧を渡って現れ、わたし達を導いていたなら……。
新宿島のわたし達は、かれらの使徒になっていた可能性は高い」)
だがヘルヴィムの意志は、TOKYOエゼキエル戦争のジェネラル級達にまともに伝わらなかった。
新宿決戦に参戦したはずのディアボロスは、そこで起きたことの記憶を失った。
ヘルヴィムが送ったと言っている各区への伝令は、後に影響を及ぼしていない。
各区の支配者も、直属軍も、誰もヘルヴィムの真意を理解していない。
ヘルヴィムがディアボロスをあえて滅ぼさなかった意図も謎となった。
幾らなんでも、不自然なことが重なり過ぎている。
そして、ディアボロス達は、こうした不自然な情報の喪失を起こしうる原因を知り、目にしていた。
(「《刻逆》の真相を思い出したヘルヴィムの意図を阻害するよう、排斥力が働いたんだ!」)
ショウは『槍』を見る。先程、彼女自身の言ったことが真相の一端だろう。
『都合の悪い記憶や情報を消す』のは、排斥力の基本的な作用の一つだ。
各ディヴィジョンに働く排斥力は、ディアボロスの存在を直接関与した一般人からすら忘れさせ、行為の影響をも失わせる。そうした現象をディアボロス達は幾度となく経験し、対策を講じてきた。
(「断片の王すら世界から排斥する程の強烈な排斥力が働いた時、その王に関係した者は影響を受けなかったか? ……無理だね。影響を受けるに決まっている」)
ヘルヴィムが『槍』を受けた影響は本人のみならず、新宿決戦に参戦したディアボロスや、ヘルヴィムに仕えたクロノヴェーダ達の記憶、各種情報にまで及んでいる。
それこそが、ヘルヴィムにまつわる情報の混乱の原因に他ならなかった。
●今、問うべきことは
「ラミエル達は、まだ来ないようですね。
で、あるならば、私は再び時を止め、眠りにつくべきでしょう。
あなた達の強さと戦果は、私の想像を大きく上回っている。
ならば、あなた達が知るべきことを伝えるべきでしょう。
既に《戴冠の戦》が大詰めなのであれば、《刻逆》の先について、あなた達は知らねばなりません。
ですが、制約は私を蝕んでいる……質問には慎重にお願いします」
ヘルヴィムは間違いなく《刻逆》と、その先にある戦いについて多くを知っている……。
だが、真相を直接的に口にしたが最後、今度こそヘルヴィムは消え去るだろう。
彼がまたしても自身の発言で自爆しないよう、ディアボロス達はより的確な質問をする必要があるようだった。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
効果1【照明】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
【クリーニング】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】がLV3になった!
【リザレクション】LV1が発生!