「零式英霊機」漂着
~最終人類史・江戸川区葛西臨海公園付近~

「あれは、サイボーグか?」
 漂着していた人型の機械を最初に発見したのは、葛西臨海水族園を拠点に防衛を行うディアボロス南雲・葵だった。
 葵は、団員や近くを防衛する他の旅団に一報を入れると、問題の機械に近付き引き上げる。
「いや、これは……改造されたんじゃなくて、元々ロボットなのか?」
 葵の直観は、意識のない男性の姿にサイボーグとの差異を感じ取っていた。
 どうやら機械化改造された人間というよりも、人型機械の外観が人間のようになっているらしい。

「葵、その人が?」
「ああ。まあ『人間』じゃなさそうだけどな」
 文字通り飛んで来たミレイ・ドリムータに葵が返答する。
 そうするうち、男性の瞼が開いた。駆動音を立てて起き上がった男性は、折り目正しく2人に感謝を述べる。
「救助していただいたようですね。ありがとうございます」
「そっちもディアボロスだろ? 助け合いってことで。俺は南雲・葵、こっちはミレイ・ドリムータだ」
「自分は潮矢・鋼四郎と申します。あなた方もディアボロス……それに、ここは……」
 鋼四郎と名乗った男性が目覚める前に幾つかの残留効果を試し、ディアボロスであろうことは判断できている。落ち着かない様子で2人や周囲の様子を見渡している鋼四郎に、ミレイが問いかける。
「唐突で悪いけど、生まれは西暦何年?」
「西暦だと1925年生まれとなるでしょうか。22歳となります。零式英霊機ですので、素体に宿る魂の年齢になりますが」
 平静に答える鋼四郎。その返答に、葵とミレイは顔を見合わせた。
冥海機ヤ・ウマトの人ね。最終人類史へようこそ!」
「地名は分かるか? まずは区役所だな。案内するぜ」
「置いてあるディアボロス向けの手引書を【書物解読】すると必要な手続きとか大体分かるから」
 手早く新たなディアボロスの受入手続を進める葵とミレイに、目を白黒させる鋼四郎。
《刻逆》の発動から1年と9ヶ月以上を経て、ディアボロスという超常の存在に支えられる最終人類史は、その受入にも順応しつつあるのだった。