理容タソガレ

毎週日曜日は怪文書の日③

墨乃・しるし 2021年9月19日
 グーチョキパーで作れるものがあるとしたら勝者と敗者ではないですか?
 はい、貴様の目に映るは我ですよ。
 恐らく、心なしか我の輪郭もはっきりしたところで、軽くお話ししましょうか。

 刻逆なんのその、繁栄を維持せんと今もこの地にはたくさんの旅団が居を構えているじゃないですか。割とその屋号、というか名称をひとつひとつ見比べていくのも楽しいものですよ。
 我なんかは夜警をしつつ散策するのが趣味みたいなとこがあるので、よく通りを歩きながら観察しているものです。何、逆に観察し返される時もありますがそれはそれ。深淵を覗く者は得てして深淵に気を持たせてしまうものです。「あいつ、絶対気があるな……」なんて思ってるのかもしれませんが、まあそれもまた信仰。世の中は思いやりで動いているのですねえ。
 さて、そんな中最近我の中でくすぶっている疑問なんですが、「狐の~」とか、「龍の~」とか、そういう旅団の名前って結構あるじゃないですか。いいですよねあれ。なんかあの冠詞? をつけるだけで絵本の世界っぽくなりますもんね。ここも今からでも狐の理容店になりませんかね。ならない? じゃあ理容店 of FOXは? 20世紀FOXっぽくて駄目? 人間はいつも細かいことを気にする……だがそれも人の業。人の子はかわいいですねえ。
 ええ、そんなかわいい人の子なんですけれど、何故「人の~」とか「人間の~」いう旅団は無いのですかね。確かに全体に占める割合で言えば人間は未だ最大多数かもしれませんが、こと現在に至り多様性を得るこの社会において、「人の理容店」とかが無いのはあれですかね? やはりこの世は人間を中心に回っているという人の傲慢が形になった結果ですか? 我良くないと思いますよそういうの。
 でも、刻逆が解消されれば、全ては元通り……この世はまた人の世に戻るのでしょう。そうなったときに、我のような口やかましい存在はおらず、そもそもが無問題になります。そこはもう、人の、人による、人のための、居場所なのですから。ええ、たまにいるのです。こうやって、大して問題でもないことをさぞ大きな問題のように語り始め、結果として誰も幸福にならない活動をする人が。我はその、チュートリアル的存在、とでもいいますかね……。

 はい、それでは人間の理容店と狐の理容店、どちらがお気に召しましたか?
 ええ、そこに優劣を競うことなどまるで意味がないことと、回答するのがチュートリアルのゴールです。

 故に、貴様は我の仕事に満足した。

 理論上そうなりますよね、人間のお客様?




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