【独】熱のキオク
火撫・穂垂 2023年3月14日
――これは、いつの頃だったか。
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火撫・穂垂 2023年3月14日
左腕が、ひりひりと痛い。
その一方で、冷たさも感じるのは、腕に冷えた手拭いが巻かれているからだ。
火撫・穂垂 2023年3月14日
世界が暗い。
うすぼんやりと、木の天井が見える。灯りはついていない。
襖の隙間から、かすかに光と、声が漏れてくる。
火撫・穂垂 2023年3月14日
「……穂垂の様子は」
父上の声だ。
「一先ずは落ち着いたようで。今は横になっておられます」
「そうか」
相手の声は、里の呪術師だ。
里の中でも腕の立つ男で、修行に付き合ってもらうことも多かった。
だから、この声はよく知っている。
火撫・穂垂 2023年3月14日
意識はあるが、身体が重いし思考も重い。
起きてるよ、と声をかけることもできず、聞こえてくる声も、半分くらいは右から左へと抜けていく。
火撫・穂垂 2023年3月14日
「未だ、火を御するには至らぬか」
「お言葉ですが、姫様はまだ修業を始めたばかり。そうそう直ぐにはいきますまい」
「判っておる、俺もあんなものだった。責めるつもりは毛頭ない」
「では、何ゆえそのようなお顔を」
火撫・穂垂 2023年3月14日
「……」
「……里長?」
「…………八咫よ」
火撫・穂垂 2023年3月14日
「幸いというべきか、あれの内にある八咫は、力を示す兆候はない……が、これからもそうだという保証はない。
なればこそ、穂垂には早く火を御することを身に着けてもらわねばならん」
「心を静め、乱されず。……姫様はよく解るお方です。会得まで、そう時間はかからぬでしょう」
「あぁ……」
火撫・穂垂 2023年3月14日
「まだ十にも満たぬというのに、幼子として自由に振舞うことすら満足にさせられぬとは……」
火撫・穂垂 2023年3月14日
声が、遠くなっていく――。