【蹂躙戦記イスカンダル奪還戦】弟王の盾と槍(作者 坂本ピエロギ)
#蹂躙戦記イスカンダル
#【蹂躙戦記イスカンダル奪還戦】タウリカの略奪王
#蹂躙戦記イスカンダル奪還戦
#⑤スパルトコス2世
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『おい、聞いたか? 王の話じゃ、もうじきディアボロスと決戦らしい!』
『おお、聞いたぜ! こいつは、待ちに待った大チャンスじゃねぇか!』
蹂躙戦記イスカンダル、タウリカ半島某所。
スパルトコス2世の軍勢が展開するその地にて、『オークファランクス兵』たちは常以上に戦意を滾らせていた。
その源は、復讐者たちへの尽きること無き怒りだ。吸血ロマノフ王朝で略奪を邪魔し、多くの同胞たちを殺した憎き敵。そんな奴らにお礼参りする機会とあっては、張り切るなという方が無理な話である。
そうして――オークたちの世間話は、次第に復讐者との戦いに勝利した未来の話へと及び始めた。
『ぐふふ……ディアボロスを撃退したら、奴らの領土で略奪し放題だな!』
『ああ、腕が鳴るぜ! 待ちきれねえなぁ、奴らとの戦がよお!』
自分たちが敗北する可能性など、トループス級亜人たる彼らの頭には一片も存在しない。
この戦いは、もう勝ったも同然――ファランクス兵たちは下品な笑みを交わし合い、蹂躙の友である槍と楯を意気揚々と掲げるのであった。
『りゃーくだつ!』『りゃーっくだつ!』
『『ヒャッハアアアァァァァァァ!!』』
●新宿駅グランドターミナル
「お疲れ様です、皆さん。蹂躙戦記イスカンダル奪還戦の前哨戦、もうすぐ折り返しですね!」
涯辺・こより(人間のガジェッティア・g03387)は元気な笑顔を復讐者たちに浮かべ、作戦の説明を開始した。
亜人勢力の起死回生を図るべく、神威断罪ギガントマキアの力で決戦を挑む断片の王・イスカンダル。彼と雌雄を決する歴史の奪還戦に向けたファーストアタックは、現在も着々と進んでいる状況だ。
複数の戦場で敵戦力を削り、イオニア諸島制圧にも成功。ここから更に成功を重ねれば、奪還戦の当日には更なる有利を得られることだろう。
「そこで今回、皆さんに襲撃を頼みたいのは『タウリカ半島』の亜人たち――スパルトコス2世の軍勢です」
スパルトコス2世は、ディアドコイ評議会の一角を担うパイサリデス1世の弟王を名乗る亜人である。
吸血ロマノフ王朝への略奪を主導し、現地で蹂躙を行った亜人勢力の長。そんな彼の軍勢が、今回の襲撃目標だ。
現地に到着後、現地に展開する『オークファランクス兵』の一団へ襲撃を行い、可能な限りの敵を撃破する――それが、作戦の目的となる。
「ただし、敵は大軍です。前哨戦で全滅させることは無理ですから、敵の応援が現れたら無理せず撤退して下さいね!」
迅速に襲撃し、迅速に撃破し、迅速に撤退。
それが本作戦の肝だと復讐者たちに伝えて、こよりは作戦の説明を終えた。
隣接するディヴィジョンを滅ぼすたび、繁殖により戦力を増大させる亜人勢力。
その厄介極まりない特性は、ある意味でアルタン・ウルクを凌ぐとすら言えるかもしれない。
「幸い、獣神王朝エジプト奪還戦では多くの地域が強奪される事態は防げました。ですが今後、タウリカ半島が亜人勢力の手に落ちることがあれば……」
それは、いずれ亜人が戦力を復活させる萌芽となりかねない。
断片の王・イスカンダルを滅ぼせても、危険な火種となって残ることだろう。大王のディヴィジョンが劣勢となっている今は、そんな事態を防げるまたとない好機なのだ。
「亜人勢力を、ここできっちり倒し切って……奪われた大地を取り戻しましょう。頑張りましょうね、皆さん!」
罪なき人々の血と涙、そして数えきれない命。
それらを糧に育った亜人のディヴィジョン、蹂躙戦記イスカンダル。
悲劇と戦乱に満ちた世界に今こそ終止符を打つべく、こよりは復讐者たちをタウリカの地へと送り出すのだった。
リプレイ
クロエ・アルニティコス
仮に私たちを撃退したところで、直接的にこいつらが得るものなどないのですけれどね。
吸血ロマノフ王朝は国境防衛を放棄していますから、私たちが動けなくなればそういう意味では得られるものがあるかもしれませんが。
いずれにせよ、最終人類史で言うところの「絵に描いた餅」というものです。お前たちが勝利を得ることはありません。
【セイレーン・カンパニュラ】を使用し、セイレーンを象った植物の怪物を作り出します。
ファランクス陣形を作る敵に対し、身を引き裂く悲鳴を響かせ、盾を越えて攻撃を行います。
タウリカ半島からロマノフにやってきた亜人どもは「生まれたばかり」の者が多くいました。
つまり、そういうことでしょう。
暴虐の報いは冥府で受けることです。
反撃の伸びるサリッサによる攻撃は三相の杖で払い防御を。
もし応援が出てきた、出て来そうなら撤退を。
お前たちを殺し切るのはまだ先です……あと数日、焦ることもありません。
月下部・鐶
モチを描くならあたしにお任せ!
だけど、描いたモチなんてあいつらには勿体ないから、描くならぐるぐる乱気流~……
スケッチブックにぐるぐるを描きながら敵を観察。情報収集、攻撃タイミングは他のディアボロスさんに合わせるよ
密集陣形、盾をかまえて集まって、槍を向けていっせーので突撃!
映画でみたよそういうの!
かっこいい、だけどあたしは真面目に相手してあげない!
身ながらスラスラとスケッチで描いた、盾を構えた兵士たちに、ぐるぐる回る乱気流
重力のくびきから解き放たれて、バラバラに吹き飛んじゃえ!
捕まらないように下がりながら戦列を乱して動きを止めて、他のみんなの攻撃を援護するね
そろそろ本格的に敵が準備を整えたら撤退!
みんなに声をかけながら【飛翔】で一気に後退、槍に気を付けて戦場から離脱するよ
アドリブ連携大歓迎!
戦場の大地は、濁った空気に満ちていた。
亜人の放つ臭気と、淀んだ欲望――幾百幾千という軍勢のそれが、ここタウリカ半島の一角を覆っている。
戦場の片隅に展開するのは、オークファランクス兵の一団だ。蹂躙と略奪という本能の赴くまま、復讐者との戦いを待ちわびるスパルトコス配下の兵士たちを、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は冷めた眼で見澄ましていた。
「ディアボロスを撃退し、最終人類史に侵攻し、思うがままに略奪する……ですか」
彼ら亜人に向けるクロエの殺意は、ことのほか鋭く、冷たいものだ。
復讐者を撃退したところで、元より奴らが得るものなど無い。吸血ロマノフ王朝が国境防衛を放棄している今、復讐者が動けなければ話が変わる可能性はあるが――いずれにせよ話に左程変わりはない。この地の亜人勢力を、クロエたち復讐者は奪還戦で抹殺するつもりなのだから。
「奴らの望みは、しょせん最終人類史で言うところの『絵に描いた餅』。叶わぬ夢ということです」
そう呟く間も響いて来るファランクス兵の下卑た笑いに、クロエの復讐心は否が応でも高まる。
自身の勝利を疑わず、略奪を夢想する亜人たち。奴らには一体でも多く、この作戦で相応しい死を与えてやろうと。
そんな彼女の横では、月下部・鐶(さいつよのお姉ちゃん・g00960)が愛用のスケッチ帳にペンを走らせながら、ふふんと自身に満ちた笑みを浮かべる。
「モチを描くならあたしにお任せ! だけど、描いたモチなんてあいつらには勿体ないね!」
A4サイズのスケッチ帳に彼女が描いたのは、ぐるぐるの渦巻き模様――乱気流の絵だった。
ひとたび戦いが始まれば、それは亜人たちを蹴散らす頼もしい武器となるだろう。戦闘準備を着々と整えながら、鐶は敵の様子を遠巻きに見遣る。
ファランクス兵の群れは頭数こそ多いが、そこに張り詰めたような気配はない。警戒もろくに行わず、規律や統率を感じさせないその有様は、軍隊と言うより野盗集団のそれだ。とはいえ――襲撃を行う鐶ら復讐者にとって、それは甚だ好都合でもあった。
「よしっ、準備オッケー。いつでも行けるよ!」
「では、行きましょう。亜人どもを殺しに」
鐶と共に駆け出すと、クロエは戦場に展開する敵群を見遣る。
蹂躙を求め、群れ成すオークたち。標的を睨む双眸の殺意が迸る中、戦いの幕が開ける。
疾風の如き速さで、二人の復讐者が敵陣めがけ殺到する。
戦いが始まれば、そこから先は時間との勝負だ。戦場を撤退するまでに、一体でも多くの敵を倒さねばならない。
先陣を切った鐶が一秒たりとも迷うこと無く、先頭のファランクス兵を狙う。絵の描かれたスケッチ帳に、パラドクスで命を吹き込み、戦闘開始の合図と為した。
「あたしは知ってる、自由な空を。だけど空には掴まるものも地面もなにもないってことも!」
『……なっ、ディアボロスだと!?』『向こうから来やがったか! おい、叩き潰してやれ!』
迫りくる鐶の姿に、敵はようやく襲撃に気づいたらしい。
すぐさま撃退を開始すべく、組み始めたのは密集陣形による迎撃態勢である。盾と盾とを組み合わせ、矢の一本も通さぬような緻密な守りで、生意気な復讐者を吹き飛ばす気なのだろう。
だが――彼らは知らない。それこそ正に、鐶が待ち詫びた瞬間であったことを。
「映画でみたよそういうの! かっこいい、だけどあたしは真面目に相手してあげない!」
鐶はスケッチ帳に筆を走らせ、乱気流に更なる絵を足していく。
描かれるのは密集陣形を組んだファランクス兵たちと、彼らが踏みしめる地面。その両者を繋ぐのは、現実には無い想像の鎖。そして次の刹那、筆先に塗りつけた白色の絵具で鎖を消すことで、『作品名【重力】』は完成する。
「オマエなんて鎖をなくして飛ばされちゃえ!」
『う、うおおおおぉぉぉ!?』
絵具で鎖を断ち切ると同時、重々しいファランクス兵の肉体が、重力のくびきを失って次々に宙へと放り出された。
瞬く間に生じた乱気流の力に弄ばれ、玩具のように五体をバラバラに吹き飛んでいくファランクス兵たち。先手を打った復讐者側の攻撃で、亜人の軍勢は俄かに混乱を生じ始める。
『怯むんじゃねぇ、ぶち殺せ!』『数はこっちが上だ、まとめてかかれ!』
「ふふーん、鬼さんこちら!」
「亜人は皆殺しです。種子に宿るは我が憂い、芽吹け『セイレーン・カンパニュラ』!」
伸縮する長槍の嵐を前に戦場を駆け回り、直撃を避け続ける鐶。挑発に乗ったファランクス兵が追撃に動き出そうとした矢先、戦場にけたたましい金切り声が木霊する。
声の主はセイレーンを象った怪物――クロエが生み出した植物をパラドクスで変貌させたものだ。
「お前たちの行先はただ一つ、冥府だけです。死になさい」
『ひっ……ぎゃああああぁぁぁ!!』
怪物の悲鳴に身を引き裂かれ、亜人たちが絶叫を響かせる。
復讐者たちの激しさを増す猛攻によって、混乱の渦はファランクス兵の隅々まで伝播していった。
「ほらほら、どんどん吹き飛ばしちゃうよ!」
軍勢の混乱がいっそう激しさを増す中、鐶の絵筆はなお止まらない。
敵に捕らわれぬよう巧みに戦場を駆け回りながら、めぼしい戦列を見出してはパラドクスで攻撃。クロエを支援することに徹した動きで、ファランクス兵の戦列を押し込んでいく。
『ぐおぉ!』『ぎゃあっ!』
「戦列開いた! チャンスだよ!」
「援護に感謝を。このまま攻めましょう」
鐶のパラドクスで亜人たちが巨体を吹き飛ばされ、陣形が強引にこじ開けられる。
そこへ合わせ、クロエは植物の怪物をけしかけた。彼女の魔力と、鬱々たる想いを秘めて芽吹かせたカンパニュラの種。それがセイレーンを象った姿となって飛び回り、絹を引き裂くような金切り声をファランクス兵に浴びせかける。それは、聞いた者の肉体を物理的に引き裂く、死の悲鳴だ。
『がっ、ぎゃああぁぁ!!』
たちまち四肢をバラバラに断たれたファランクス兵たちが、血飛沫をまき散らして絶命する。
どれほど守りに優れた盾も、音を阻むことは叶わない。反撃で伸びる長槍を三相の杖で払いながら、クロエは一層熾烈にセイレーンの叫びを敵の群れへと浴びせていく。
「この地からロマノフにやってきた亜人どもは『生まれたばかり』の者が多くいました。つまり、そういうことでしょう」
蹂躙された人々の無念と悲しみを思い、杖を握る手に力が籠る。
目の前の亜人には、報いを与えねばならない。
悲劇を繰り返さぬ為にも、大王との戦には勝利せねばならない。
増幅する怒りを映すように、怪物の金切り声が激しさを増して響く中、引き裂かれていく亜人へクロエは言い捨てた。
「暴虐の報いは、冥府で受けることです」
イスカンダルも、スパルトコスも、クロエが亜人を送る先はそこを除いて存在しなかった。
彼らを殺し切る奪還戦まであと僅か、焦ることもない。
いまだ敵増援が到着する気配を見せぬ中、復讐者の攻撃はいっそう激しさを増してファランクス兵を呑み込んでいった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【通信障害】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
ソラ・フルーリア
※連携アドリブ歓迎します!
ついにイスカンダルの奪還戦!
ホント厄介な特性を持ったクロノヴェーダだから、此処で絶対に終わらせなきゃいけないわよね!
本番をしっかり決めるためにも、リハーサルは入念にしておかないと!
敵は大群だから、全体を相手するのは無理そうね!
一部だけ釣り出して細かく撃破していくってのが良さそうかしら!
それじゃアタシの杖兼マイク、『レゾネイト』で挑発して釣り出すわ!
あら、負ける事を考えもしないだなんて、相変わらず亜人は幸せそうね!
ほらほら、アタシ達で略奪の練習でもしてみる?
……そのスカスカ頭で出来るならの話だけど!
相手は密集陣形で迫ってくるらしいけど、下からの攻撃には対応できるかしら?
【白熱と灼熱の気焔万丈!】! その下衆な脳内ごと焼き尽くしてあげるわ!
それでも迫ってくる相手にはアイスシールドを展開して防御しつつ、【気焔万丈!】で追撃よ!
敵に囲まれちゃう前に無理せず撤退!
リハーサルは此処まで! あとは本番のライブを楽しみにしてなさい!
伏見・萬
(連携アドリブ歓迎)(仲間は苗字呼び)
威勢がいい、イキがいい。わかりやすい奴は嫌いじゃねェ
さァて、できるだけ齧り取って、さくっと帰るかァ
攻撃開始・撤退開始のタイミングは仲間と合わせる
周囲の仲間と協力、仲間の死角をカバーするよう心掛け、戦場で孤立しない・させないように注意
【地を覆え、黒き波】使用。身体からどす黒い触手を生やして地面を崩し(【泥濘の地】)、動きが鈍った敵を絡め取って喰らう
撃破可能な敵個体を最優先に狙って効率よく数を減らすが、
該当する敵個体が攻撃範囲内にいなければ、敵の連携や陣形を乱すべく、敵が密集している所を狙う
敵の攻撃も触手で受けるが、基本的に自分の負傷は然程気にしない
【ドレイン】の利用で耐えながら、動ける限りは攻撃を優先
…お前らガいくノは、もっと暗イ所だ
冷たクて、静カな
…悪くネェぞ、大体皆、すっかり馴染ンデ戻ッテ来ネェ
お仲間モ、どんどン来ルだろウしナァ…安心シテ、喰ワレロヨォ…
撤退時は【泥濘の地】で追って来る敵を足止めし、その場にいる味方が全員離脱したのを確認してから撤収
「ついにイスカンダル奪還戦! 亜人のヤツらの特性は厄介だし、此処で絶対に終わらせなきゃいけないわよね!」
激戦が続くタウリカの戦場。混乱の広がる敵群を見定めて、ソラ・フルーリア(歌って踊れる銀の星・g00896)は弾けるような笑顔で言った。
作戦終了までの期日が3日を切っている今、ここで成功を更なる重ねる意味は大きい。この戦いはソラにとって、本番前のいわばリハーサルとも言うべきものなのだ。
「敵はうまく連携が取れてないみたいだし……ここは手頃な数を釣り出して、各個撃破が良さそうね!」
果たしてソラが見遣る先、ファランクス兵の群れは未だ混乱の最中にあった。
練度に劣る亜人が復讐者たちの熾烈な攻撃に曝されれば、この結果はいわば必然といえる。この好機を逃す手は無いと、ソラは相棒の拡声杖『レゾネイト』の調整を手早く完了。大軍勢を相手に目を引いての大暴れ――アイドルの頂点を目指す彼女にとっては、実に心躍る戦場だ。
「よし、今日も調子はバッチリね! じゃあ、張り切っていきましょう!」
「おう。できるだけ齧り取って、さくっと帰るかァ」
煌くオーラを帯びて微笑むソラとは対照的に、陰のある空気を纏った伏見・萬(錆びた鉄格子・g07071)もまた、敵陣を見遣って頷く。
今回戦うファランクス兵は、蹂躙を好み知性が低く、数を武器に戦う敵――ある意味で最も亜人らしい敵だ。心置きなく蹴散らせるとあって、萬の復讐心はふつふつと滾りを見せている。
「威勢がいい、イキがいい。わかりやすい奴は嫌いじゃねェ」
そう、萬にとって、今回の作戦は至ってシンプルなものだ。
全力で攻め、全力で殺す。
そして頃合いが来たら即撤退。
無論、離脱時の準備も怠る彼ではない。かくして全ての準備が完了したことを確認すると、
「……んじゃ、行くかァ」
「ええ! 本番前の戦い、とことん暴れてやるわ!」
萬とソラは、ファランクス兵が群れる戦場へ一直線に駆け出した。
『ディアボロスども、やってくれるじゃねぇか……!』
一方その頃、手負いのファランクス兵は怒り心頭の様子であった。
戦場に転がる同胞たちの骸に略奪の甘い夢などとうに消し飛び、今や周囲を満たすのは亜人の怒号と絶叫だ。
状況は劣勢だが、ここで応援を待って逃げ回ろうものならスパルトコスから不興を買うことは避けられない。何とか形勢を逆転せねば――そう彼が判断した、しかし次の刹那である。
「あら、その様子じゃ、ディアボロス相手に勝つ気でいたのかしら? 相変わらず亜人は幸せそうね!」
『……なにぃ!?』
拡声杖を介したソラの挑発に、亜人の全身が怒気に染まった。
混乱の最中、次々に同胞が討たれていく中で追い詰められた彼の精神は、それが復讐者の誘いであると理解する冷静さを失っている。
一方、アイドルを目指すソラにとって、そうした相手の感情を読むことは容易い。知性に乏しく練度の低いトループス級亜人なら猶更だ。戦場で孤立していることも忘れ、ソラの言葉に亜人たちの眼が次々と怒りに染まり出す。火を噴きそうな程に熱い空気を肌で感じながら、彼女は特大の燃料となる一言をぶちまけた。
「アタシたちで略奪の練習でもしてみる? ……そのスカスカ頭で出来るならの話だけど!」
『てめぇ!!』『ブッ殺す!!』
亜人たちは咆哮を響かせ、衝動の赴くままに突撃を開始した。
彼らの頭にあるのは、生意気な復讐者を叩き殺すことのみ。
果たして先頭の一帯が、盾のスパイクでソラを捉えたかに思えた、しかし次の刹那、
「――逃がさねェぞ」
『っ!?』
亜人たちの足元が突如、音を立てて崩れ落ちた。
ぽっかりと口を開けた穴の底、待っていたのは無数の蠢くもの。萬の『地を覆え、黒き波』が生み出した、獲物を喰らう触手の群れであった。
「お前モ、暗イ所に、行ケ」
『――ひっ』『うぎゃあああああぁ!!』
元より手負いであった亜人たちに、攻撃を防ぐ術など無い。
たちまち全身を齧られ、血を吸い尽くされ、地の底に二つの骸が転がった。次の刹那、落下を免れた亜人が放つスパイクで負傷するのも構わず、萬は陰気な笑いを深め、挑発するように手招きを送る。
「さァて。次はどいつだァ」
『吹っ飛ばしてやるぁぁ!』
いっそう怒りを煽られ、隊列を組んで殺到する亜人たち。
そうして誘い出した敵を、萬とソラは更なる連携プレーで迎撃していった。
誘き出し、挑発し、撃破。
そうして再び敵群を捉え、誘き出して撃破――。
ソラが多数の敵を攻撃し、絶命を免れた個体を萬が確実に始末し、ファランクス兵の数は更に減り続けていた。
『おらァっ!』
「ふん、痒いじゃねェか」
萬は先程から全身の触手を武器に、敵の足元を崩しては喰らいつき、周囲に亜人の屍を山と積み上げている。
被弾に頓着しない彼は、逆説連鎖戦の度に傷を刻まれているが、ドレインの力で癒した肉体は未だ健在だ。動ける限りは殺し続けると言わんばかり、触手をかざして陰気に笑う。
「……お前らガいくノは、もっと暗イ所だ。冷たクて、静カな……悪くネェぞ、大体皆、すっかり馴染ンデ戻ッテ来ネェ」
『く、くそっ
……!』『女の方から狙え!』
「お仲間モ、どんどン来ルだろウしナァ……安心シテ、喰ワレロヨォ……」
地獄の底から響くような萬の声を、しかし彼らは懸命に振り切ると、密集陣形を組んで突撃態勢を整え始めた。
自分たちが負ける筈は無い。何の裏付けも無い、単なる過信に基づいたファランクス兵たちの突撃は、ソラに僅かな傷を刻み――当然のように、そこで食い止められた。
「ずいぶん足掻いてくれたけど……それも、もう終わりよ!」
愛用するアイスシールドを敵の盾とかち合わせながら、ソラが勝利を宣言する。
果たして彼女が発動したパラドクスは、今まさにファランクス兵を捉えたところであった。盾という守りを誇る相手の、大きな弱点。すなわち足元を狙って放つ『白熱と灼熱の気焰万丈!』の一撃である。
『なっ……地面が!?』
「ようやく気付いた? その下衆な脳内ごと焼き尽くしてあげるわ!」
亜人たちの足元に展開した魔方陣は、盾の防御を許さない。
赤、白、青、黄――ステージ演出のごとく立ち昇るカラフルな火柱が命中アップの光に誘われ、激戦のクライマックスを彩るように敵群を呑み込んでいく。
『あ、ぁ……』『うがあぁっ!!』
「よし。片付いたわ!」
自身の愚かさの代償を払うように、亜人たちの断末魔が響く。
そうしてソラは敵の撃破を確認すると、萬と笑顔でサムズアップを交わした。
戦場の彼方に増援部隊の到来が確認されたのは、それから程なくのことだった。
萬は追撃を阻むように泥濘の地を発動すると、すぐさま仲間たちへ合図を送る。
そろそろ退却の潮時だ。無事に全員で帰るまでが作戦である以上、引き際を見誤ることは許されない。
「殿は引き受けた。時間がねェ、急げ」
退却を促す言葉と共に、仲間の復讐者たち――クロエが、鐶が、そしてソラが、次々に戦場を離れていく。ソラは最後に一度だけ後方を振り返り、拡声杖の音量を最大にして叫んだ。
「リハーサルは此処まで! あとは本番のライブを楽しみにしてなさい!」
敵の怒号をかき消さんばかりの声を置き土産に、駆け出すソラ。
そんな彼女が離脱を終えたのを確かめて、萬もまた追撃を受けることなく撤収を完了する。
「全員無事だな。よォし、作戦完了だ」
タウリカ半島を巡る、スパルトコス2世の軍勢への襲撃。
その作戦は、こうして復讐者たちの大成功で締め括られるのであった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【熱波の支配者】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!
【ドレイン】LV1が発生!