リプレイ
凍雲・雪那
……百歩譲って、出前迅速は、まあ良いとして。
全品半額は、一体何の関係、が……?
まさか、商品が捌けるのが早い、とか言わないよね?
まあ、そんな戯言は、どうだって良いんだ。
お前達が今、頭を必死こいて、回して考えるべき事は。
――どうすれば、楽に死ねるか、だけだからな。
氷竜還零、起動。吹き掛ける吐息は荒れ狂う氷嵐と化し、やがて大いなる竜の姿を象る。
冷たき風の竜よ、知恵者を自称する愚か者に、静寂の慈悲を。
幾ら知恵熱の光線を束ねたところで、『竜』を超える事など、出来るものかよ。
……ボクの友が、尊敬する戦友が、授けてくれた力、だ。
貴様等如きには、勿体無いくらい、だな?
茹った頭脳を、冷やしてやったぞ。
感謝の言葉の、一つも無いのか?
……ああ、そもそも何かを、呟く事すら、出来なかったか。
さて、喚くだけの、能無しに囲まれる前に、さっさと帰ろうか。
氷嵐の竜を自壊させ、嵐の壁を生み出して目晦ましにする、よ。
その隙に、撤退だ。
鳴神・雷羅
※アドリブ、連携歓迎
あー、ハイハイ。頭の回転(物理)って奴ね?
性欲お化けな亜人共の恥性、もとい知性なんざたかが知れてると思ったが
上等だぜ。そんなに頭の回転とやらがご自慢なら
こっちもそれ以上の力で圧倒してやるぜ!
いくぜ、鬼神変!
仲間とも連携し、油断してそうな奴から狙い各個撃破
敵襲に対しては巨大化した鬼の腕で敵の振り回す巻物を白刃採り(?)して武器を奪う
グラップルで敵の身体ごとむんずと掴み
そのままジャイアントスイングでブンブン大回転させ投げ飛ばす!
弱肉強食!
悪党撲滅!
天罰覿面!
仏恥義理!!
いつもより多くテメェのドタマを回転させてやるぜ!
ある程度数を減らしたら無理せず、頃合いを見計らって撤収だ!
一ノ瀬・綾音
……いや、あの、さ。
四字熟語乱発したところで賢さが見えるかって言うと、その、うん。
出前迅速とか全品半額って意味わかって言ってるの?
本当に頭が良かったりするなら、こういうことにも耐えられるよね?
孤立している奴を狙って無情なる渦潮で引きずり込みを狙うよ。
ちなみにこの渦潮の速さと君達の頭の回る速さ、どっちが速いんだろうね。これってトリビアに……ならないか。
相手の情報ぶつけは……もうどうしようもないから耳塞いで苦しんでる素振りは見せつつ、それで相手が油断したところ狙って少し叫んでみたりするかな?うるっさーい!って。
そんな言葉を意味もなく乱発するのが頭の良さなの!?
あーもうじゃあいいよじゃあ綾音ちゃんもそっちに合わせますよーだ。
全力全開!
復讐上等!
亜人殲滅!
綾音無双!
最後変?気にしてはいけない!
程よく退治したらアキレウスが来る前に撤退するとしようか。
迅速果断とはまさにこのことだよ。あと臨機応変もかな?
覚えておくんだね!
●序幕
集落もなければ、街道もない。馬車の轍すら刻まれていない。文明から隔絶された不毛の荒野。
そこにJR山手線の車両に似た列車が停まっていた。
異様な光景ではあるが、その列車がパラドクストレインとなれば、話は別だ。
「今回の敵は普通の亜人とは毛色が違うみたいだね」
車両側面に並ぶ黄緑色の扉が一斉に開き、涼しげな色合いのセーラー服を着た少女がそのうちの一つ降り立った。
スノウメイジの凍雲・雪那(報仇雪恨の皓巫姫・g07783)である。
「きゅい!」
と、列車の乗降口で鳴いたのはダンジョンペンギンの『ルリム』。雪那のサーヴァントだ。
その後方に、緑色の髪をした小柄な少女――一ノ瀬・綾音(色彩に溢れし少女・g00868)が姿を現した。
「うん。令震の話からすると、なにやら知性派っぽいね」
綾音はルリムを抱き上げ、一緒に列車から降りた。
そして、苦笑を浮かべて付け足した。
「もっとも、『自称』っていう枕詞がつくタイプの知性派だろうけど……」
「まあ、自信があるからこそ、自称できるんだろうが……上等ってもんだ!」
三人目のディアボロスである鬼人の女が鼻息も荒々しく降車した。
鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)だ。その身を包むのは、フレイムパターンが描かれたライダースーツ。
「性欲お化けな亜人どもの恥性……もとい、知性なんざ、たかが知れてると思ってたけどよぉ。おつむの回転がそんなにご自慢なら、こっちはそれ以上の力で圧倒してやるぜ!」
●一ノ瀬・綾音(色彩に溢れし少女・g00868)
パラドクストレインを後にして駆け出すこと数分。敵の陣営が見えてきた。
いかにもマニュアル通りに設営しましたって感じの馬防柵(馬の突撃は防げても、パラドクスは防げないだろうね)の向こう側にいるのはオーガの群れ。綾音ちゃんたちの姿は見えているだろうけど、誰一人として慌てず騒がず、余裕ムーブをかましてる。
「おやおや? ディアボロスどもが突撃してきましたよ」
「いや、『突撃』と言うには鈍すぎるでしょう。アキレウス様の駿足振りを見慣れている我々からすれば、あんなものは亀の歩みも同然ですよ」
「きっと、脳味噌の出来も亀並みですな。見るからに低能!」
「無知蒙昧!」
「浅薄愚劣!」
「軽佻浮薄!」
「週休二日ぁーっ!」
……いや、あのさ。亀並みじゃない脳味噌の出来を披露したいんだろうけど、四字熟語を乱発したところで賢く見えるかっていうと、その……うん。てゆーか、なぜに週休二日? 意味わかって言ってる?
綾音ちゃんの右隣を走ってる雪那も同じ疑問を持ったらしく、呆れたような声をぼそりと漏らした。
「週休二日って……この状況になんの関係が?」
でも、『ぼそり』というレベルだったのはその言葉だけ。次に口を開いた時、声量はアップしていた。きっと、余裕ムーブ継続中のオーガたちの耳にも届いたはず。
「まあ、そんな戯言はどうだっていい。おまえたちが今、頭を必死こいて回して考えるべきことは『どうすれば、楽に死ねるか』だけだ」
その挑発にオーガたちが反応するより先に――
「考えても無駄だけどな」
――と、綾音ちゃんの左隣を走る雷羅が断言した。
「どんなに頭を捻ったところで、楽に死ねるわけがねえ。アタイたちの手にかかって逝くんだからよぉ」
雷羅の両腕がもりもりと急成長していく。鬼人お得意のパラドクス『鬼神変』。これは確かに楽には死ねないわー。
「笑止千万! 楽に死ねないのはそちらのほうですよ!」
一体のオーガが叫びざまに馬防柵を飛び越え、綾音ちゃんたちに向かって突進してきた。
他のオーガたちも次々と後に続いた。悪口っぽい四字熟語を吐きながら。
「無学浅識!」
「頑鈍無恥!」
「無芸大食!」
「年中無休ぅーっ!」
例によって、意味わかんないのも混じってるけど……。
●鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)
敵陣へと突っ込むアタイらに対して、オーガどももまた突っ込んできやがった。
チキンレースの様相を呈してきたが、アタイは先にブレーキを踏むようなシャバい真似はしないぜ。かといって、あいつらと正面衝突ってのもぞっとしねえ。
だったら、やることは一つだよな?
四字熟語を吐きまくってる敵の中から最も調子こいてそうな奴に狙いをつけて――
「電光石火!」
「疾風怒濤!」
「勇猛果敢!」
「臨時特……ぶべらっ!?」
――『鬼神変』の腕で以てストレートパンチを顔面にブチ込めば、四字熟語(たぶん、『臨時特売』だろうな)は三文字で途切れた。ついでにそいつの人生も途切れた。
他のオーガどもは一斉に急停止。いきなり仲間が殺られちまったもんだから、ビビったんだろう。
アタイたちも急停止したが、もちろん、ビビったからじぇねえ。
「……氷竜還零(リバイアサン)、起動」
雪那が呟き、すうっと息を吸い込んだ。
そして、すぐに吐き出した。
霰混じりの冷気のブレスを。
いや、『冷気』なんて言葉でかたづけられるようなレベルじゃねえ。オーガどもに倣って四文字で印象を表すなら、『極寒地獄』って感じか? 猛暑にはもってこいのパラドクスだが、あれを浴びせられるくらいなら、アタイは暑さを我慢するほうを選ぶね。
もっとも、標的となった何匹かの連中に敵に選択の余地なんざありゃしねえ。『極寒地獄』をモロに食らい、あっという間に全身がカチンコチンに凍りついちまった。しっかし、汚ねえ氷像だぜ。雪まつりとかに出したら、運営に撤去されること間違いなし。
「きゅいっ!」
雪那の足下でルリムが胸を張った。表情に乏しい主人に代わってドヤってみせたのかもしれない。
で、ドヤられた汚ねえ氷像どもは――
「か、寒気凛冽ぅーっ!」
――とかなんとか叫びながら、カチンコチン状態の体を強引に動かし、雪那に反撃した。脳天から光線を発射するという珍妙なパラドクスで。
だが、その程度のことで形勢逆転とはいかねえ。雪那が光線に対処している間に綾音がパラドクスを繰り出したからな。
「本当に頭が良かったりするなら、こういうことにも耐えられるよね?」
マジックアイテムの類であろう羽ペンを走らせて魔法陣を宙に描くと、そこから水がドバドバと流れ出し、グルグルと回り出した。鳴門海峡でもお目にかかれないような激しい渦潮だ。
光線を乱射していた汚ねえ氷像どものうちの二匹がその渦潮に呑み込まれ――
「回ざっ……」
――四字熟語を発する間もなく、攪拌されて粉々になった。
●凍雲・雪那(報仇雪恨の皓巫姫・g07783)
「首尾皆救! 私に続けぇーっ!」
頭から湯気を噴きながら、新たなオーガの一団が敵陣から飛び出してきた。言っとくけど、『頭から湯気』っていうのは比喩の類とかじゃないよ。本当に湯気が出てるの。かなりの熱を帯びているみたい。
「光輝燦然!」
「上下天光!」
「光明赫奕!」
「初回無料ぉーっ!」
茹であがったタコを思わせる頭から放たれる光線群。
それらを躱しつつ、ボクはブレスで反撃した。こんな奴らに使うにはもったいないパラドクスのような気もするけどね。これはボクの友が……そう、尊敬する戦友が授けてくれた力だから。
もったいない力を浴びたことによって、オーガどもの小汚い体はたちまちのうちに白い霜で覆われた。
「茹でった頭を冷やしてやったぞ。感謝の言葉の一つもないのか?」
ブレスを吐き終えて、ボクはそう問いかけた。
まあ、当然のことながら、オーガどもは感謝の言葉なんか口にせず――
「不撓不屈!」
――懲りずに攻撃を仕掛けてきた。でも、殴ったり蹴ったりとかいった攻撃じゃない。手に持っていた巻物を広げてみせただけ。
「うっ!?」
と、巻物を見た綾音さんが呻き声を漏らした。ちょっとわざとらしいような気がする。
「ぐぐぐっ……」
耳を塞ぎ、顔を伏せて、苦しげに体をよじってるけど……やっぱり、わざとらしい。
そのわざとらしさにオーガどもは気付いてないみたい。広げた巻物を持ったまま、じりじりと綾音さんに迫っていく。
「絶対無敵!」
「一騎当千!」
「気炎万丈!」
「強力若素ぉーっ!」
若素(わかもと)って、なんなの? ……まあ、どうでもいいか。
これだけ油断を誘えれば充分と判断したのか、あるいは敵のノリにうんざりしたのか、綾音さんは小芝居をやめて――
「うるさぁーい!」
――叫びとともにパラドクスの渦潮を発生させた。
「この渦潮の速さと君たちの頭が回る速さ、どっちが速いんだろうね?」
オーガどもとしては後者と答えたかったんだろうけど(ボクは前者だと思う)、それは無理な話。答える前に渦潮に引きずり込まれたから。
渦潮の横では別のものが回転していた。回しているのは雷羅さん。
「いつもより多めに回してやるぜぇーっ!」
傘の上で鞠を転がしているかのような台詞だけど、彼女が回しているのは傘じゃなくてオーガだよ。巨大化した腕で足をひっつかみ、ジャイアントスイングを決めているの。
「て、天地無用ぉーっ!?」
ぐるぐる回された挙げ句に放り投げられたオーガの断末魔の絶叫。
「あー、もう! そうやって四字熟語を無意味に乱発することが頭の良さだと思ってるわけ?」
顔をしかめつつ、綾音さんがまた渦潮を生み出した。
「じゃあ、いいよ。綾音ちゃんもそっちに合わせますよーだ」
「おう!」
と、応じたのは雷羅さん。
「アタイもつき合うぜ!」
そして、二人はパラドクスでオーガどもを倒しつつ、阿吽の呼吸で交互に四字熟語を叫んだ。
「全力全開!」
「弱肉強食!」
「復讐上等!」
「悪党撲滅!」
「亜人殲滅!」
「天罰覿面!」
「綾音無双ぉーっ!」
「仏恥義理ぃーっ!」
……色々とツッコみたい。
でも、ボクはぐっと堪え、ツッコミの代わりにブレスを吐いた。
オーガどもめがけて。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
効果1【冷気の支配者】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【水中適応】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
エリザベータ・シゲトヴァール
●心情
東洋の孫子の兵法にも『兵は拙速を聞く、未だ功の久しきを覩ざるなり』とある。
亜人の知性はさておいても、判断の早い事は決して悪い事ではないわ。
でもそれなら、更に速さで上回るまでの事よ。
●行動
【飛翔】し【空中戦】技能と【戦闘知識】を活かして空対地攻撃。
攻撃行動は全てパラドクス。
『未来の』戦史に倣って、電撃戦をお見舞いしてやるとしましょう。
どれだけ速かろうと、地を這う限り空には決して追い付けやしないわ。
【地形の利用】を応用した地形追随飛行で接近。
会敵と同時に引き起こし肩越し爆撃へ。
熱線の射線を外しつつループ機動に入り、頂点で爆撃槌を投擲と同時に機銃に持ち変えて急降下。
敵を【制圧射撃】で爆撃槌の予想落着ポイントへ追い立てる。
……脳天にでも当たってくれるかしら?
随分と東洋の四文字熟語が好きみたいだけれど、それならこんな言葉はご存知?
『軽挙妄動』に『軽率短慮』。貴方達にピッタリでしょ。
撤退時は殿軍を勤め、【制圧射撃】による足止めの後、速力を活かして離脱。
ラト・ラ
マティアス(g00097)と
ええ、確かに過去に誓いました
出会った人々の思いを、わたしたち復讐者が背負い――未来に繋いでいくと
さて、どちらに神々の雷が落ちるかしら
まずは夜を呼び込み、星々を形成する
真っ直ぐ流れる【星影】は
駆け出すマティアスにも加護を込めて煌めく
知恵比べをしたいのですか?
ではここでひとつ問題です
今あなたの置かれている状況をなんと呼ぶでしょう――
【パラドクス通信】でマティアスと連携
敵を挟み撃ちにするように
正解は“飛んで火に入る夏の虫”
的確に撃ち込まれた彼の一撃に片目を閉じて
いいえ、騎士〈ナイト〉さまがいるから怖いものなしなのです
自ら知恵熱を起こす方たちに無知呼ばわりされたくないですね…
情報の処理に勤しみつつ攻撃の手は緩めない
生憎マルチタスクは得意なほうなので!
長い尾で巻物を叩き落とし、
先ほどより増し増しの星を降らせ【ダメージアップ】を狙う
そのまま寝込んでいてください、まったく
削れるところまで戦力を落とせたら
冷静に周囲を見渡し、撤退は足並みを揃えて
復讐者たちの本気はこれからですよ
マティアス・シュトローマー
ラト(g00020)と
初めてイスカンダルを訪れた時は、人々を取り巻く劣悪な環境に言葉を失った事もあったっけ
出会った人々の思いも乗せてこの前哨戦もやり切ろう!
ラトの攻撃に続いてパラドクスを発動。星影を追って自陣から最も近い敵陣へと飛び込み、密集する敵を足蹴に跳躍。複数体の敵を巻き込める方向を見定めて衝撃波を伴う一撃をお見舞いするよ
ラトとは狙いを統一し、傷を負った個体から集中的に攻撃。確実に敵の数を減らしていこう
また【パラドクス通信】で声を掛け合い、お互いの死角を潰すよう立ち回る
ありがとう、修道女様のお導きがあれば勝ったも同然だね
頭で考えるよりも感覚で動いてみなよ
適材適所って言葉の意味はわかる?
熱線が放たれるのは敵の頭部。後頭部から狙われる事は無いと踏んで、敵の視界から逃れるよう【エアライド】で背後に回る
それでも防ぎ切れないものは構えたライオットシールドで往なし、ガードアップの効果も合わせてダメージを最小限に抑えたい
敵の戦力を十分に削ったら撤退を
本番では俺達について来れるよう鍛え直してきてね
●幕間
「こいつらは頭の回転の速さが自慢なんだとか……そういえば、孫子の兵法にも『兵は拙速を聞くも、未だ功の久しきを覩ざるなり』とあったわね」
堂々たる足取りで戦場を突き進んでいるのは、航空突撃兵の装備で固めた娘。
エリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)である。
「まあ、亜人の知性の程度はさておくとして、判断力が速いのは決して短所とは言えないわ。でも、それなら……更に速さで上回るまでのことよ!」
フライトユニットが起動し、一瞬にしてエリザベータの姿は地上から消えた。
「雷霆万鈞!」
「光陰如箭!」
「射将先馬!」
「牛歩戦術ぅーっ!」
エリザベータの宣戦布告に対抗するかのようにオーガたちが吠えた。あいかわらず、意味が判らない。鬨の代わりなのかもしれない。
「光陰如箭って言葉に触発されたわけでもないけれど……初めてイスカンダルを訪れた時を思い出しちゃうなあ」
オーガたちの咆哮を右から左へと聞き流しながら、濃灰色のスーツジャケットに身を包んだ少年が言った。
機械化ドイツ帝国のマティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)。
拳銃を使って戦うことの多い彼ではあるが、今回の武器は鋼鉄の籠手。パラドクスによって生成されたものだ。
「あの頃は、人々を取り巻く劣悪な環境に言葉を失ったりしたっけ」
「はい」
マティアスの横で頷いたのは、ドラゴンの角や翼と尻尾を有した女――ラト・ラ(*☽・g00020)。
叫び続けているオーガたちをじっと見据えて、彼女は述懐した。
「しかし、言葉を失ったままでは終わりませんでした。誓ったのです。この地で出会った人々の思いを、わたしたち復讐者が背負い……未来につないでいく、と」
「うん。じゃあ、その思いを乗せて、この前哨戦も乗り切ろうか!」
マティアスは左右の拳を打ち合わせ、パラドクス製の籠手を鳴らした。
●ラト・ラ(*☽・g00020)
戦場は混沌の坩堝と化しています。
そうなった要因の一つは、敵であるオーガたちの振る舞いでしょう。彼らはパラドクスを使う度に……いえ、パラドクスを使っていない時も、大声で四字熟語を発しているのです。
「霹靂閃電!」
「鬼出電入!」
「紫電一閃!」
「電電公社ぁーっ!」
実に耳障りですね。それに意味も判りません。デンデンコーシャとは?
「たはははは……『電』がつく言葉を辞書から手当たり次第に引いてきたって感じだな」
鋼の籠手に覆われた拳で敵を打ち払いながら、マティアスが苦笑しました。全身が返り血にまみれていますが、その表情や声音からは余裕が感じられます。混沌の坩堝の中にあっても、いつもの自分を見失ってはいないようですね。
「頭の良さをアピールしてるつもりなのかもしれないけど、却ってバカっぽく見えるよね」
「そうですね」
マティアスの言葉に頷きつつ、パラドクスを発動。きらきらと輝く無数の八芒星が流星群さながらに降り注ぎ、敵のうちの一体を撃ち抜き、斬り裂き、バラバラにしました。
『綺麗な光ね』
耳に填めたパラドクス通信機から聞こえてきたのはエリザベータの声。
『それに比べて、あいつらの光線の汚いこと……』
戦場を翔ける彼女の勇姿が視界に入りました。限りなく『駆ける』に近い『翔ける』です。高度を低く保ち、地形の曲面をなぞるように飛んでいるのですから。
「ふふん!」
と、エリザベータを目にとめたと思わしきオーガが得意げに鼻を鳴らしました。
「あれは『NUE』という飛び方ですな。私は軍事方面にも造詣が深いので、よぉーく知っております」
よく判りませんが……たぶん、間違ってますね。
「はいはい。私も存じておりますとも」
と、別のオーガがしたり顔で頷きました。
「東洋の魑魅魍魎にあやかって、『鵺』と名付けられたのですよ」
よく判りませんが……絶対に間違ってますね。
当然のことながら、彼らは知識(間違った知識ですが)をひけらかすだけでは満足せず、他の数体のオーガとともにエリザベータめがけて光線を発射しました。
「百発百中!」
「迅雷風烈!」
「撃排冒没!」
「同担拒否ぃーっ!」
そう、彼女に『汚い』と評された光線を……。
●マティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)
戦場に居並ぶオーガたちのハゲ頭はどれもかなり熱くなっているらしく、てっぺんで陽炎がゆらゆらと生じている。
それらからビビビッと怪光線が発射される光景は実に滑稽だった。いや、『滑稽』なんて言葉で済ますことができたのも、エリザベータがひらりひらりと躱したからこそだけどね。
もちろん、躱して『はい、おしまい』ってわけじゃない。彼女は即座に反撃に転じた。手にしていた爆撃槌を無造作に投げ捨てたかと思うと、軽機関銃に素早く持ち替えて、地上めがけて連射。
「星離雨散!」
オーガたちは蜘蛛の子を散らすように四方八方に駆け出して銃撃を回避した。なかなかの反応速度だ。でも、なによりも驚くべきは自分たちを恥ずかしげもなく星や雨に例えられる図太さかな?
まあ、なんにせよ、反応速度も図太さも報われることはなかった。
弾雨を躱すことができたにもかかわらず、彼らは――
「のえぇーっ!?」
――と、絶叫を響かせることとなったんだ。
エリザベータが投げ捨てた爆撃槌が落ちてきたからだよ。いや、『落ちてきた』なんてもんじゃない。それは何度もバウンドし、酔っぱらった蛙みたいに跳ね回って、オーガたちを蹂躙した。銃弾で穴だらけになっていたほうがまだマシだったかもね。
『そう、正しくは『NOE』よ。よく覚えておきなさい』
オーガたちに向けられたエリザベータの言葉がパラドクス通信機から聞こえてきた。よく判らないけど、さっきの絶叫に対するリアクションらしい。
『もっとも、正しい知識を覚えたところで、それを披露する機会はもうないけどね』
エリザベータが付け加えた。
その非情な予言を現実に変えるべく、ラトがパラドクスを発動させた。
「あなたがたは頭の回転の速さがご自慢だそうですね? では、この問いにも答えられるはず」
空から落ちてくる八芒星の雨。それは一体のオーガに集中して降り注ぎ、無惨な死体に変えた。
「今、あなたたちが置かれているこの状況をなんと呼ぶでしょう?」
残されたオーガたちに対して、ラトは問いを投げかけた。敵の命を奪ったばかりとは思えないほどに静かな声で。
もっとも、解答者たちのほうは静かじゃなかった。
「生気溌剌!」
「酒池肉林!」
「快食快便!」
「偏向報道ぉーっ!」
静かじゃない上に正解でもないというね。
●エリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)
一仕事終えた爆撃槌を回収し、ほんの少しだけ高度を上げ、次の獲物を探す。
候補は、ラトさん(私より一回りほど年上らしいけど、とてもそうは見えない)と対峙してる連中。そのうちの何体かは頭から血を流している。爆撃槌の『一仕事』の標的になった奴らだから。
『……どれも違います』
と、解答者たち(オーガ)に告げる主題者(ラトさん)の声がパラドクス通信機越しに聞こえた。
『正解は、飛んで火に入る――』
『――夏の虫だよ!』
後を引き取ったのはマティアス君。オーガたちが珍妙な解答を披露している間に彼は後方に回り込んでいた。
鋼の拳による強烈な攻撃が繰り出され、それを背中に受けた二体のオーガが地に沈んだ。
他のオーガたちが瞬時に振り返り……そして、そのうちの一体が息絶えた。ラトさんが降らせた八芒星でズタズタに斬り裂かれて。
「ありがとう、ラト」
礼を述べつつ、残ったオーガたちに拳を叩きつけるマティアス君。
「修道女さまのお導きがあれば、勝利は確約されたも同然だね」
「いえ、頼れる騎士さまがいるからこそ、まっすぐ導くことができるのです」
修道女と騎士の息はぴったり。言葉をかけあい、互いの隙と死角をフォローして、オーガたちの死体で地面を舗装していく。
もちろん、私も舗装作業を続けた。爆撃槌を投下し、軽機関銃を連射して。
「君たち、知性派を気取ってるみたいだけどさー。頭で考えるよりも感覚で動いてみなよ」
殴り倒し、あるいは殴り飛ばし、あるいは殴り潰しながら、マティアス君はオーガたちを挑発した。
「適材適所って言葉の意味は判る?」
「判りますとも!」
と、一体のオーガが怒鳴るように答えた。
「簡潔明瞭! 私たちこそが適材であり、この戦場こそが適所なのです!」
「はいはい」
めんどくさげに頷きながら、ラトさんが尻尾を一振り。敵が持っていた巻物を叩き落とすと同時に例の八芒星をまた降らせた。
「あなたたちの知能の程度はよく判りましたから、そのまま寝ててください。まったく……」
ラトさんの希望通り、そのオーガは眠りについた。
でも、眠るつもりのないオーガはまだ山ほど残ってる。
そのうちの一体が叫んだ。
「妬賢嫉能! 凡俗の嫉妬は見苦しいですよ! 我らの高い知性を素直に認めなさーい!」
そういうことは素直に認められるようなものを一つでも提示してから言いなさい。
「随分と四文字熟語が好きみたいだけれど……それなら、こんな言葉はご存知?」
そう問いかけながら、私は爆撃槌を投下した。
「軽挙妄動に軽率短慮。貴方たちにピッタリでしょ?」
意思ある者のように爆撃槌が跳ね回り、『軽挙妄動』かつ『軽率短慮』なオーガたちの脳天が叩き割られた。
でも、彼らはなんとか耐え抜き、流血を拭いもせずに私のほうを見上げ、口々に叫んだ。
「言語道断!」
「怒髪衝天!」
「激憤慷慨!」
「高額転売ぃーっ!」
やれやれ……。
●終幕
「機甲戦記!」
「銀河漂流!」
「特装騎兵!」
「超時空世紀ぃーっ!」
ただでさえ意味不明だった四字熟語が支離滅裂の度合いを増している。五字の熟語まで混じっている始末。それほどまでにオーガたちは疲労し、士気も低下していた。
しかし、頭数だけは残っている。
「ここが引き際ね。殿は私に任せて」
土と血にまみれた爆撃槌を投げながら、エリザベータが仲間たちに言った。
それに従い、撤退を始めるラトとマティアス。
「復讐者たちの本気はこれからですよ」
「本番では俺たちについて来れるよう鍛え直してきてね」
両者が残した捨て台詞に対して、一体のオーガが懇親の四字熟語を返した。
「優っ! 勝っ! 劣っ! 敗ぃーっ!」
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
効果1【飛翔】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV2が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!