リプレイ
花鶴・景臣
周囲への警戒を怠らず、迷宮を進む
この調子じゃ花すら朽ちきってそうで気が滅入る
花…浮かぶ、人影が三つ
形すら成さぬそれに、何故か心を乱される
刹那、身を焦がす炎の温度
そして肉や花が焼ける、酷い臭い
炎に包まれた影が微笑む――優しげに、哀しげに
殴る様な頭痛に込み上げる嘔気と、罪悪感
――何故、共に死なせてくれなかった?
…んな事、知るもんか
勝手に人様の過去を穿り回しやがって
たとえ望まれずとも、復讐を成し遂げてやる
失った全てをこの手に取り戻すんだ
偽りを斬り捨てる前、不意に影を抱き寄せる
炎がこの身を焼いてでも、そうしたかった
愛おしさで、思わず泣きそうになるのをぐっと堪える
感傷に浸るにはまだ早い
迷わず、進まねえと
●面影
かの日、かの時代。王家の栄華は既に去り、寂れた気配がこびりついていたとしても、勢を尽くした庭園の名残は、形だけは美を漂わせていた。
それだけに、無残だった。放置された花々は枯れて地に落ち、踏み荒らされてしまった緑には枯色が混ざる。
それらを一瞥した花鶴・景臣(灰に帰すまで・g04686)は忌々しげに舌打ちし、眉間に皺を寄せた。
花、植物――そういったものが、記憶を揺さぶるのは解っている。知らぬ花の名がつらつらと浮かぶように。伴う頭痛は、無意識の警鐘だ。
だからといって周囲への警戒は怠れぬ。結果、否が応でも庭園の情景をまじまじと眺めることになる。不機嫌さに拍車が掛かる、彼の視界に――ふわりと、花が浮かんで、落ちた。
身構えるのも忘れ、景臣は息を呑む。
花冠が不意に落下する、不気味なイメージの後、幻の花が人の輪郭を描いて、滲む。
人影が三つ。
認めるや、強い動悸に身が竦む。同時、声も出せぬ程の熱に襲われていた。
――身体が燃えている。
否、燃えてはいない。だが、彼の身体は焼け落ちそうな熱に襲われ、嗅覚は肉が焼ける臭いを――花が焦げる酷い臭いを拾っている。
燃えているのは彼ばかりでなく、あの、人型。人の輪郭――思い出せない、面影が。一緒に燃えている。
(「……笑っている?」)
景臣はそれが『微笑んでいる』と理解した。貌も見えぬのに。
途端、殴られたような頭痛に襲われ、目を開けていられない。迫り上がる嘔吐感と、胸を痛めつける――罪悪感。
制御できぬ感情は、激しい苦痛で彼を苛む。
(「――何故、共に死なせてくれなかった?」)
疑問は、声に出来なかった。
ただ惑う紫の視線を受け止めるのは、やはり変わらぬ、慈悲の微笑み。
……ハァ?
無意識に、そんな息を溢していた。景臣の内側で蜷局を巻く復讐の炎が、苦痛を糧に大きく育っていく。
「……んな事、知るもんか」
絞り出した声は、思いの外、確りと響いた。
柄に手をかける。ひやりとした感触が、彼を現実に引き戻す。
「勝手に人様の過去を穿り回しやがって――たとえ望まれずとも、復讐を成し遂げてやる」
痛みに愚図る身体を無視して、無理矢理、地を蹴る。
(「――失った全てをこの手に取り戻すんだ」)
喩え、望まれていなくとも。
武器に宿る呪いをもって、幻影に躍りかかりながら――景臣は、抜き身の剣をそれへと振り下ろさず、影を抱き寄せた。
幻が纏う炎が、景臣に移ってくる。熱がある。灼ける痛みがある。けれど――何時とも知らぬあの日には、戻れない。
愛おしい。
けれど、伏せた紫の双眸が、滲んでしまうまえに。
刹那の抱擁は、銀の閃きと共に終わる。残された彼は、頬に掛かった髪も払わず、呟く。
「……進まねえと」
大成功🔵🔵🔵
効果1【腐食】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
虹空・アヤ
現れた敵に
悪魔め、と無意識に零す
あの時、オレが「いなかった事」にされた日
恩人が大切にしていた人達を殺し、恩人を乗っ取って、そして……
記憶は鮮明に、心は朧げなまま
対峙したデーモンは恩人の顔で嗤う
腹の中を掻き混ぜるような感覚、血の気が引き震える体
それを恐怖と怒りだと理解したなら、次に襲うのはどうする事もできなかった後悔
何故、と何度問うても答えは一つも返る訳もなく
自棄気味に【骸喰】で鋭い爪伸ばし斬り付けても届かず
瞬間、あの時の恩人の顔が重なる
生きろ、とオレに言った
だから……
今一度爪を向ける
そうだ、喰らったあんたは「ここ」にいる
許せだなんて言えないが、それでも
あんたの残したものは、オレが守ってみせる
●悪魔
不思議な感覚だった。庭園から突入先した先は、一続きの庭園のようにそっくりなのに、何もかもが違う。だが、何処がおかしいのかは、説明できない。
そういう、歪んだ空間だった。だから、その邂逅も――違和感しかないが、そういうものなのだ、という妙な説得力をもっていた。
目の前に立ち塞がった影に――虹空・アヤ(彩・g00879)は、悪魔め、と無意識に零す。
忘れもしない。忘れてしまった、あの日の再現。
或いは続き、なのだろうか。
基準時間のベルサイユ宮殿から、過去の庭園へと時を遡って来たように。
(「あの時、オレが『いなかった事』にされた日――恩人が大切にしていた人達を殺し、恩人を乗っ取って、そして……」)
不思議と、記憶は鮮明だった。何が起こったか、それはアヤは今でもこうして思い出せる。
然し、伴う感情が、希薄だった。何もかもが、他人事のように朧気だ。
悪魔が嗤う――恩人の顔で。
その瞬間、アヤは総毛立つ、という感覚を思い出した。
――他人事の様に朧気だと。とんでもない。
腹の中を掻き混ぜられるような、血の気が引いて身体が震える。凍えるような、焼き切れそうな、脳裏を明滅する光。
これは、怒りと、恐怖だ。
デーモンの所業。齎された悲劇。憤怒すると同時に、喪失に怯える自分を自覚する。
――そして、失意。後悔。
「……何故」
問うて、何になろう。知っているが、既に放った言葉を、無かったことにはできぬ。
小さな罵倒とともに、自棄と駆る。
悪魔に向かい、でたらめに爪を振るう――喰らった力で作る硝子の煌めきは、確かに空に軌跡を描いた。
が、それらは悉く、悪魔に届かなかった。
泣きたいような感覚が胸を支配した。無力さに、怯みそうになる。敵を睨み付けているつもりで、どれだけ情けない貌をしているだろうか。
思わず、敵を頼るように見上げてしまったのは、恩人の面差しがあるからだろうか――。
『生きろ』
刹那――思い出す。あの日の恩人の顔と、言葉を。
ああ、吐息を零したアヤは軽やかに飛び退き――爪を見下ろす。
喰らった、力。
「そうだ、喰らったあんたは『ここ』にいる――許せだなんて言えないが、それでも……」
囁きかけて、構え直す。再び上げた貌から、紫の瞳から、先程までの動揺は消えていた。
悪魔の貌は嗤った儘だ。
まだそれに、いつもの笑みで対峙することは難しいが。アヤは迷わず、地を蹴って、深く、その懐へと跳び込む。
硝子の爪撃を連続で叩き込むと、手応えもなく、悪魔は掻き裂かれて消えていった。
影を踏みしめ、目を伏せたアヤは、そこにいる面影に語りかける。
「あんたの残したものは、オレが守ってみせる」
大成功🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
苺ヶ谷・紬
目の前に浮かぶのは、おじいちゃんが死んだ日のこと
仕事で留守にしがちなお父さんとお母さんの代わりに、私とお兄ちゃんを育ててくれた大好きなおじいちゃん
大往生だったと思います
でも、辛くて悲しくて
おじいちゃんの周りのお花があんまりにも綺麗だったから
ずっとずっと涙が止まりませんでした
今でも胸が張り裂けそうなくらいです
でも、それさえも「無かったこと」にされてしまいました
家族の写真、新宿島にいる私とおばあちゃん以外消えてしまったんです
そんなの許せません!
悲しい思い出だって、今を作る大切なピースのひとつ
だから、取り戻さなきゃ
お願い、フランボワーズ!
ミニドラゴンのブレスで道を切り拓いてもらいます
●別離
寂しい場所、苺ヶ谷・紬(Sucré fraise・g04322)は庭園に入って、そう思った。
それはただの寂しさではない。心細くなり、世界にただひとり取り残されたような――絶望的な空虚さに、ミニドラゴン――フランボワーズをぎゅっと抱きしめた。
怖くない、言い聞かせるようにフランボワーズの背を撫でながら、懐かしい故郷の豊かな自然を思い出す。
するすると連想されるように思い出すのは、祖父が死んだ日のことであった。
今でも優しい眼差しを、憶えている。
(「仕事で留守にしがちなお父さんとお母さんの代わりに、私とお兄ちゃんを育ててくれた大好きなおじいちゃん……」)
大往生だったと、紬も納得している――けれど、それで悲しみが消えるわけではない。
「でも、辛くて悲しくて……」
思わず、言葉を漏らすと、フランボワーズが首を傾げた。
その様を、胡桃色の瞳を柔らかに細めて見つめて、語りかける。
「おじいちゃんの周りのお花があんまりにも綺麗だったから……ずっとずっと涙が止まりませんでした」
色とりどりの花を、思い出す。まるで生前の笑顔のように、優しい光景だった。
思い出を語る紬の周囲、ざわざわと庭木が揺れて、曖昧な影が生み出される。
親しい人の死という経験は、客観的にはまだ幼い紬の深淵。
死は、恐ろしい。それ以上に、死は、悲しい。
「今でも胸が張り裂けそうなくらいです」
その記憶が、獣のような、人のような――よくわからない。クレヨンで描かれたような、できそこないの怪物の姿となって、立ち塞がる。
こっちにおいでというかのように腕を伸ばしてくる敵に、思わず、紬は一歩退いた。腕の中で敵へ威嚇する小竜のぬくもりを、手放す勇気が出せなかった。
先に行かなければならないのに、どうしても足が竦んでしまう。
大きな瞳でそれを見つめながら、紬は――自分がディアボロスであることを、そうなった経緯を、思い出す。
「――でも、それさえも『無かったこと』にされてしまいました。家族の写真、新宿島にいる私とおばあちゃん以外消えてしまったんです」
彼らが存在していたという事実や、過去を振り返ることすら奪われた、あの日の絶望。
「そんなの許せません! 悲しい思い出だって、今を作る大切なピースのひとつ……だから、取り戻さなきゃ」
きっと彼女なりに睨み付けて、少女は叫ぶ。
「お願い、フランボワーズ!」
名を呼び、小竜を解き放つ。
影が、うんと伸ばした腕に、フランポワーズは甘いブレスを吐きつけた。
それは懐かしい匂いを伴って、怪物を消し去ってしまう。呆気ない――だが、胸の奥の傷を引っ掻かれたような居心地の悪さは残る。
少女は、毅然と前を向き、告げる。
「行きましょう」
大成功🔵🔵🔵
効果1【浮遊】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
日金・陽洋
過去のトラウマか
記憶喪失の俺にはどんなもんが見えるやら、な
…現れたのはくせっ毛の少年の…リターナー…か
それが強力な武術で、魔術で、俺を殺しにかかってくる
ああ、俺はこいつを知っている
名前はまだ思い出せねえが、互いによく笑っていた、近くにいた、親しかった相手だ
それが無表情で俺を殺そうと…なるほど、一つ思い出したはいいが、なかなかのトラウマだ
もう一つ…
俺が殺された時、あいつが涙を流したんだ
そうだ
あいつを操って、そうさせたクロノヴェーダの奴等が赦せなかったんだ
だからきっと、俺は新宿島にやってきた
クロノヴェーダの奴等にはもう好き勝手させねえ
【捨て身の一撃】…スコルピオンスティングはその誓いだ
・アドリブ可
●断片
「過去のトラウマか――記憶喪失の俺にはどんなもんが見えるやら、な」
日金・陽洋(陽光・g05072)は、自嘲気味に呟く。
彼の進路に立ち塞がっていたのは――くせっ毛の少年だった。
えらく具体的だな、と他人事の様に思ったのは、一瞬だけ。不意に、陽洋の中に懐かしさと、形容しがたい不安が浮かぶ。
胸の傷が痛んだような錯覚に、金の瞳を眇めた。
「……リターナー……か」
何故かは解らないが、そうである気がした。
少年は、戸惑う陽洋に向かって、真っ直ぐに躍りかかってきた。
鋭い拳を躱そうとすれば、風塵が舞い、陽洋の四肢を絡め取ってくる。踏鞴を踏む間に、横蹴りが来る――腕を構えて受け止めたが、じんと痺れる。
混乱から自分の身体が思うように動かないのもあるが、少年の迷いのない攻撃は、すべてが完璧に研ぎ澄まされていた。
「ああ、俺はこいつを知っている――」
名前は、思い出せない。
だが、笑顔は思い出した――そうだ、こいつは笑うのだ。俺も一緒に笑っていた。とても親しかった相手だと、締め付けるような胸の痛みが訴えている。
しかし、襲いかかってくる彼は、無表情だ。
何もかも抜け落ちた人形のように、踏み込んでくる斬撃に飛び退きつつ、陽洋は辛く笑う。
「……なるほど、一つ思い出したはいいが、なかなかのトラウマだ」
親しい相手から、再度殺されそうになりながら、反撃の糸口も見つけられぬ。
むしろ、親しかったこと、その笑顔を思い出して――身が竦むのだ。
過去の自分も――一度死んだ自分も、そうだったような気がする。
不意にひとつのヴィジョンが浮かぶ。頬を伝う、透明な滴。自分を見下ろす、少年の涙。
(「もう一つ思い出した……俺が殺された時、あいつが涙を流したんだ」)
死にかけの朦朧とした意識の中で見た、最後の光景。
悔しさと無念さ、そして怒りに震えながら――陽洋はその生を終えたのだ。
「――そうだ。あいつを操って、そうさせたクロノヴェーダの奴等が赦せなかったんだ……だからきっと、俺は新宿島にやってきた」
彼は、堅く拳を握る。
身を低く構えて、無表情の少年が疾駆する姿を真っ直ぐ見つめる。
俺は逃げねぇ、そのまま来い。
念じるような眼差しに応え、少年は拳を振り抜いた。刃のように鋭い貫手――これに、闘気を纏った体だけで、陽洋は自ら突っ込んでいった。
喉狙いの手は、彼の頬を裂き、黒い肌から鮮血が溢れた。
されど――陽洋の蠍が如き猛毒を宿らせた拳は、少年の胸の中央を、突き破っていた。
「クロノヴェーダの奴等にはもう好き勝手させねえ――これはその誓いだ」
手を払い幻を振り払う。
色々思い出せたのは収穫だと嘯きつつ、嘆息した。
――まったく、嫌な気分だ。
大成功🔵🔵🔵
効果1【罪縛りの鎖】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
東禅寺・征緖
コードも入れて頂戴、春一ちゃん!(g00319)
アタシはシスター・スノーコードよ!
同じ方向に向かってたはずだけど……いつの間にか逸れちゃったわ
いいわ、逸れてしまってもアタシ達ディアボロスの思いは一つ
行き着く先もきっと同じよ
それにしてもどす黒い人みたいなの、これがアタシのトラウマ?
そうね、アタシのシスターを殺った奴の姿は暗くて見えなかったもの
だから真っ黒で当然よ
あの日の悲しみも苦しみも忘れたことはないわ
でも同様に、それ以上に、アタシの原動力となるのは
……そいつをぶっ潰してやるって怒り
トラウマなんかでアタシの怒りは消えやしない
粉砕と破壊の力を込めた悪鬼粉砕撃による一撃
早く春一ちゃんと合流しましょ
樹・春一
いざ! 参りますよシスター・スノー!(g01483)
シスター・スノー?
いきなり迷子とか困りますよー!
ひとり寂しいじゃないですか!
うう、実際ひとり寂しいじゃないですかあ
事の始まりだってそうです!
知らない翼は生えてるし神父様はいませんし、テレビもラジオも物言わず
人々の混乱が聞こえる中、知らない土地でたったひとり……
あのような体験はもうごめんです!
しかし姉は言っていました
理不尽には原因があるから絶対見つけて殴れと
この理不尽の原因のひとつがここにあることは明確!
孤独は恐ろしい闇でありましょうが! 照らす術を持った拳に敵なし!
神と姉の言葉がある限り、ただでかいだけの闇などに屈しはしません!
粉砕です!!!
●聖拳
「いざ! 参りますよシスター・スノー!」
樹・春一(だいたいかみさまのいうとおり・g00319)が先導するように、東禅寺・征緖(シスタースノーコード・g01483)に声をかけると、ノンノン、と征緖は注意する。
「コードも入れて頂戴、春一ちゃん! アタシはシスター・スノーコードよ!」
「え、そうでしたっけ」
そう返して振り返った春一は、あれ、と首を傾げた。見失うはずもない巨躯が消えていた。
「シスター・スノー?」
呼びかけても、返答はない。聞こえていれば、距離があろうと、大音声で『スノーコード!』と返してくるに違いない。
「いきなり迷子とか困りますよー! ひとり寂しいじゃないですか!」
まだ状況が信じられなくて、春一は大声で訴えた。
だが、寂れた庭園に響くのは己の声ばかり。きょろきょろと周囲を見渡しても、頼りになる姿は影も形もない。
ひとりぼっちだ。
「うう、実際ひとり寂しいじゃないですかあ……」
気を紛らわせるため――或いは無意識に、春一はぶつぶつと零す。
「事の始まりだってそうです! 知らない翼は生えてるし神父様はいませんし、テレビもラジオも物言わず――」
世界から様々なものが奪われたあの日。
春一は突然、ひとりになった。身に覚えがあろうはずもない角や翼が生えていて、これからどうなるのかと震えた。
「人々の混乱が聞こえる中、知らない土地でたったひとり……」
思い出して、再び身震いする。己の身体を掻き抱いて、黒い瞳は不安げに、周囲を探る。
「あのような体験はもうごめんです!」
誰か。誰か。
辺りは不気味なほど静まりかえっている。だが、春一の背後に、黒い大きな影が重なった。
「シスター・スノー? ……!」
己の影に重なるような背高の影に、連れではないかと、春一は無防備に振り返った。
そこにいたのは、歪んだ影であった。テレビのノイズのようなものを走らせた、不安の塊。巨大で、春一を覆い隠してしまいそうな孤独の闇。
思わず息を呑む。何でこんな目に逢うんだろう――ポジティブなはずの彼の心が、僅かに揺らぐ。
だが、何時でも――そんな瞬間に、背中を教えてくれる声がある。
(「しかし姉は言っていました――理不尽には原因があるから絶対見つけて殴れと」)
悪は物理で粉砕せよと、神より盲信してるきらいのある姉の言葉。それは今も、春一に勇気を与えた。
「この理不尽の原因のひとつがここにあることは明確! 孤独は恐ろしい闇でありましょうが! 照らす術を持った拳に敵なし!」
ぱっと身を翻して、拳を握る。光の力がぼうと周囲を照らして、闇を怯ませる。
「神と姉の言葉がある限り、ただでかいだけの闇などに屈しはしません! 粉砕です!!!」
ハレルヤ!
祝福を唱えながら、振り抜けば。光条と共に闇は弾けた。
きりりとした表情で彼は進路を見つめる。孤独の闇が、再び己の心を曇らせる前に。
「早くシスター・スノーと合流しなきゃ」
「春一ちゃん?」
一方で――見失うはずがない、目の前にいた片割れを見失ったことで、征緖は怪訝そうに眉を上げた。
「同じ方向に向かってたはずだけど……」
時間すら捻じ曲げて突入した迷宮だ。そういうこともあるだろう、と彼はひとり頷く。
少しだけ気になるのは、この迷宮では過去のトラウマに襲われるという問題だが、春一も立派なディアボロスだ。ひとりになったとして、後れは取らぬだろう。
「いいわ、逸れてしまってもアタシ達ディアボロスの思いは一つ。行き着く先もきっと同じよ」
ねえ、そうは思わない――。
征緖は余裕を滲ませ笑い、立ち塞がる黒い影に尋ねた。
それは紛れもなく、人の形をしている。ただ、顔立ちや身体的特徴は一切不明だ。
「これがアタシのトラウマ?」
――まるで漫画に出てくる黒塗りの犯人像だ。
そんな連想に、くすりと笑う。
「そうね、アタシのシスターを殺った奴の姿は暗くて見えなかったもの。だから真っ黒で当然よ」
大仰に肩を竦め、ひたと見つめる。
その表情に恐怖は微塵もないように見えるが――橙色の瞳の奥には、悲しみが揺れている。
「あの日の悲しみも苦しみも忘れたことはないわ」
征緖にとって、絶対的な存在だったシスター。生きていく希望を失ったような、膝から崩れ落ちそうな絶望を覚えた日。
――数多な思いに塗りつぶされた中に、きっと、恐怖もある。
喪失への絶望を形にすれば、きっとコイツになるだろう。
犯人の影は征緖にゆっくりと近づいてくる。凶器は不明だ。だが、人を殺すに充分な武器を手にしているはずだ。人を殺した存在なのだから。
征緖に、逡巡はないはずだった。出会ったら、復讐を遂げる。神が天罰を下さぬのなら、アタシが代わりに。
ぎゅ、と彼の手元で、黒手袋が軋む。
「でも同様に、それ以上に、アタシの原動力となるのは……そいつをぶっ潰してやるって怒り――トラウマなんかでアタシの怒りは消えやしない」
すっと息をはく。腹の底に燃える怒りに集中すれば、身を縛る最後の躊躇いは消えた。何せ、幻だ。今限りの虚像に過ぎぬ。
征緖は――全身の膂力を持って、どうと躍りかかった。黒い風が旋風と、黒の虚像を巻き込んで、その頭部を拳で強か撃つ。
殴打によって、影は爆ぜ飛ぶ。隙のないフォームを解くや、シスターの長い裾を翻し、駆け出す。
「早く春一ちゃんと合流しましょ」
庭園の果ては、既に見えていた――喧噪絶えぬ、処刑場へ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【隔離眼】LV1が発生!
【活性治癒】がLV2になった!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【ドレイン】がLV2になった!
処刑場には人々が詰め寄り、遠き処刑台を囲んで声を上げている。
基本は、王妃に対する聴くに堪えぬ悪罵だ。
オーストリアの売女、地獄に落ちろ、俺達の怒りを知れ――。
象徴的な処刑台を前に、どろどろに煮詰まった呪詛が殷々と響く。
クロノヴェーダどもは、それを満足そうに見つめている。ああ、処刑台を守るものが、自動人形であれ淫魔であれ――彼らは、それを不自然と感じる事もない。
熱狂の坩堝の中へ放り出されたディアボロス達が、なすべきことは。
日金・陽洋
大勢の人前で堂々話すのは柄じゃねえんだが…
思う事を話すくらいならやってやるよ
ちっと声を張ってだな…
市民さん達よ、俺も王妃に関する話はいろいろ聞いている
だが、それは本当に事実か?
誰かに誇張された間違いの話っつー事はねえか
王妃に関する悪い話があるから、皆こうして集まって思う事を言ってんだろうが、王妃に関するいい話を聞く者、王妃が皆に良い影響を与えた事はなかったか
そして…皆、この国に思う所があるからこの場に集まってる、違うか
それは、この王妃を一人殺して解決することなのかい
本当なら、例えばそこらの物騒な奴らをぶっ飛ばして国ごとまるまる変えねえといけねえ…もしそう思うなら、俺も手伝ってやるよ
・アドリブ可
リナ・ターナー
ああ五月蝿い。熱狂の声も、私の幻聴も一緒に広場に反響し。民集の怒りも、王妃処刑の妥当性も知った事か。ただ静かになってほしい。
人々の前で舞い、炎で効果1を起動。注目を集め、叫びを。
王妃が可哀相です!大陸軍の遠征費は王室より出てる筈!それを連勝続きとなればお払い箱となされるのですか!
軍の思惑に利用されないで下さい!王妃憎しなら自ら革命すべきです!フランス人は高潔なのでしょう!?
史実との最大の違いは偽大陸軍の存在。費用の出処も改編で思考停止状態なので、ほんの一瞬の【勇気】で「何故に軍が出資者の王室の処刑を?」と訝って頂ければ結構。民集による本来の革命でなく断片の王の都合なので矛盾は生じましょう。
●煽動と沈静
(「ああ五月蝿い――」)
リナ・ターナー(狂気と正気のはざまで・g04038)は眉根を寄せた。
斃せ斃せ斃せ――脳内で反響するような幻聴と重なる、民衆の声がとにかく不快であった。
(「怒りも、王妃処刑の妥当性も知った事か」)
言葉に出さず、リナは苛立っていた。ただ、それを堪えて、前を向く。耳を塞いだところで、幻聴は消えぬのだ。
狂瀾で一色に染まったような世界だった。義憤、興奮、熱狂――歪んで束ねて、一直線に、白き衣を纏う王妃への憎悪に酔っている。
生半可な声では、届かぬ気がする――広場中を鎮めるのは、無理だとわかっているのだが。
これだけの感情を向けられるのも、堪ったもんじゃねえだろうな、と日金・陽洋(陽光・g05072)は嘆息した。
(「大勢の人前で堂々話すのは柄じゃねえんだが……」)
しかしさて、まずは処刑台に向かって、他の群衆など目に入らぬものたちに、どう切り出すか。
すっと呼気を整え、声を張り上げようと構えた、陽洋の視界に。
小さな火の粉がふわふわと、舞っていった。
次に、黒髪の女が――人々の間を縫うように優雅に、舞っていた。
腕を伸ばし、脚をぴんと掲げて、転回する。その四肢に炎を纏わせ、招くような指先から、幻影の如き焔を吹きつける。
その時点で、民衆は彼女――リナに注目した。そして彼らは、罵声を放つという行為を忘れていた。
その中心で舞を止めた彼女は大きく腕を広げ、息を吐く。遠くまで届くよう――あらん限りの声で、異を唱えた。
「王妃が可哀相です! 大陸軍の遠征費は王室より出てる筈! それを連勝続きとなればお払い箱となされるのですか!」
場は、ざわついた。
だが反論も罵声も困惑も割り込む隙は与えぬというように、陽洋が口を開く。
「市民さん達よ、俺も王妃に関する話はいろいろ聞いている――だが、それは本当に事実か?」
張り上げた声は、静まった一帯に響き渡る。
その事実を意識しすぎぬよう、陽洋は詰め寄ってきていた人々を一瞥する。
「誰かに誇張された間違いの話っつー事はねえか!」
「……」
知るはずはない。貴族とはそういうもので。自分達の暮らし向きが貧しいのは施政者のせいだ。
絢爛豪華な日々の浪費。無駄に豪奢な城。明日食べるパンもなく、子供が飢えて喘ぐ――それは王の所為である。それ以外の情報など、ただの群衆は、知らぬ。
「王妃に関する悪い話があるから、皆こうして集まって思う事を言ってんだろうが、王妃に関するいい話を聞く者、王妃が皆に良い影響を与えた事はなかったか」
陽洋は気にせず、続ける。
あったはずだ――少なくとも、現代に残る記録では、慈善事業も行っていたはずだ。今此所に集うものたちや、この時代に、そんな事実があったかは解らぬが。
だが、そんなことはどうでもいい、と彼は句を次ぐ。
「そして……皆、この国に思う所があるからこの場に集まってる、違うか? それは、この王妃を一人殺して解決することなのかい」
吹かしやがる、黙れ、そんな声が遠くから響く。だが、興が削がれた、というような表情の者達がいた。つまり、それでいいのだろうと彼は判断し、リナもまた、言葉を重ねる。
気弱そうな印象を捨てたその様は――狂気か、正気か。
「軍の思惑に利用されないで下さい! 王妃憎しなら自ら革命すべきです! フランス人は高潔なのでしょう!?」
リナの言葉は、根拠があるわけではない。
だが、民衆の思考の流れを変えられれば、充分だ。実際「そうだよな」「考えてみれば……」と、疑問を覚えたらしいものが首を捻る。
あっという間に流される彼らの賢愚は兎角、リナには都合が良い。
「勇気をもってください!」
改めて、革命を謳う。きっと彼らが願うものだから。
君臨する者に委ねていいのか。圧政の主が王宮から、大陸軍へ、首を挿げ替えるだけのことではないか――。
滅相もない、と顔を赤くして怒るものもいるが、処刑に向けた熱狂は吹き飛んでいるようだ。
そうだ、と同意すように陽洋は金の双眸を細めて語りかける。
「本当なら、例えばそこらの物騒な奴らをぶっ飛ばして国ごとまるまる変えねえといけねえ……もしそう思うなら、俺も手伝ってやるよ」
誘われ、前に出る者はおるまい。
気まずそうに、じりじりと後じさる民衆の様子を満足そうに見つめたのであった――。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【エアライド】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!
苺ヶ谷・紬
「私たちの歴史」での彼女が善い人だったのか悪い人だったのかはわかりません
けれど今はクロノヴェーダの犠牲者
そしてどんなに心無い言葉を浴びせられても、
怒りや悲しみや無念を押し込めてしゃんと背筋を伸ばして断頭台に向かう姿
昔読んだ本の挿絵そのままです
だから、
助けたい
一般の方々の説得は他の方にお任せして、私はバイオリニスト達を蹴散らしましょう
万一にも一般の方々を巻き込まないような位置を心掛け、【飛翔】しての空中戦からリングスラッシャーを放ちます
体力の少ない相手から狙い、数を減らすことを重視します
傷の重い仲間がいたら【ディフェンス】を試みましょう
少し怖いけれど、みんなで無事に帰るためです
花鶴・景臣
一世一代の旋律を奏ろよ?
それが最期に奏でる音楽になるんだからな
適当に拾ってきた鉄パイプを手に突撃
身を屈め、殺気を潜め
死角からの不意打ちを狙う
敵や味方、周囲の挙動には常に気を配り、曲を奏でる動作を見せた奴へナイフを投擲
復讐者だけじゃなく民衆を襲おうものなら
声掛けと…近くにいるなら庇うくらいいけるか
兎に角被害を減らす事が優先事項だ
降り注ぐ旋律は忍耐力で何とか耐える
俺の中、燻る炎がこの程度で消えるとでも?
これは呪詛だ…死に損ないの、俺自身に対しての
ああ…だが敢えて遊んでやるのも一興
効いてる演技で敵を引き寄せた後
愛刀を抜刀し、捨て身の一撃を仕掛ける
…散々人心を弄んで満足したか?
なら、そろそろ死んどけや
樹・春一
改めて! 参りますよシスター・スノー! コード!(g01483)
今度はばっちりですよ! ちゃんと仲間もおりますし!
音楽が随分お上手であるようですが、拳の前には何もかもが無意味!
いやでも実際割と好みの曲……はっ、これはもしかして敵の罠!
そうですよねシスター・スノー! ちょっとリクエストしてみたいですが!
この神の使途である身に秘めたる欲望など!
欲望など……
貴方のそのツラを見るも無残な形にして地面に這いつくばせてやりたいくらいしかありません!
特に我慢する必要なし! この程度で動きが止まると思ったら大間違いです!
仮に止まったとして呪縛ごと殴り捨ててやりましょう!
解放された神の拳を思い知るがいいのです!
東禅寺・征緖
行くわよ、春一ちゃん!(g00319)
数は多いけど私達も加わるんだから問題はないわ
さっさと片付けちゃいましょ
音楽ねぇ……聴くなら、大人しく聴いていたいものだわ
こういう騒がしい戦いの時なんかじゃなくてね
駄目よ、春一ちゃん
私達のリクエストが来る前に倒しちゃうもの
全く……処刑にBGM用意するなんてホント悪趣味
人の命をパフォーマンスにするなんて、それこそ天罰よ天罰
春一ちゃんが狙う敵と同じのを狙うわ
幻影も出た際は周囲を巻き込むようにして一層しましょ
大金棒で粉砕したり、近くに殴れる道具があればストリートストライク
アナタの楽器も武器になりそうね
あれよ、過激なパフォーマンスでギターを壊すとかあるじゃない
虹空・アヤ
さあて、観客が静かになった所で
コッチはコッチで派手にぶちかまそうか
頼んだぞ、手鞠
声掛けると同時「蹴鞠」を宙へ蹴り出し【飛翔】
*空中戦の要領で繰り時に手鞠と打ち合い敵の気を引いて攪乱していこう
さあ、演奏家なら手毬唄のひとつでも奏でてみろよ
手足の先に*光と*電撃纏い攻撃と見せかけ、気を逸らした隙狙ったり
かと思えば真っ直ぐに手鞠に突撃させトリッキーに動こうか
幻影がどんなモンだか知らねぇが、生きて守るとの誓いを強く思い出し
ソレが幻だと*看破できたなら怖れも、揺らぎもしない
用があんのは演者でね
それとも、直にヤり合うンじゃご不満かい?
自分が倒れねぇのも大事だが
ヤバそうな仲間がいたら【ディフェンス】しとくな
●彩るのは、旋律ではなく
「おお、民衆の心乱す音を奏でるはディアボロスか――」
芝居が掛かった言葉と、憂いを湛えた眼差し。優男と呼ぶに相応しい淫魔達が、ディアボロス達と群衆の間に割り込んだ。
「惑わせてもらっては困るな?」
クロノヴェーダ、欲望のバイオリニスト達がそれぞれ流し目をくれようと、ディアボロス達には通用しない――。
いらえは、鼻であしらうような、小さな吐息。
「一世一代の旋律を奏ろよ? それが最期に奏でる音楽になるんだからな」
既にその背後に跳びかかっていた花鶴・景臣(灰に帰すまで・g04686)が、言葉とともに鉄パイプを振り下ろす。
「おっと」
それを、淫魔はバイオリンで受ける。痛みはあれど、傷はつかぬ――ゆえの余裕だろう。
景臣は舌打ちひとつ、また素早く駆けて、距離を取った。
そこに――おや、始まっていますよ、と明るい声が響く。
「改めて! 参りますよシスター・スノー! コード!」
樹・春一(だいたいかみさまのいうとおり・g00319)は、東禅寺・征緖(シスタースノーコード・g01483)の望む通り名を――思い出したように付け足すと。征緖は及第点といったような笑みを浮かべた後、淫魔どもへと向き合った。
「行くわよ、春一ちゃん! 数は多いけど私達も加わるんだから問題はないわ――さっさと片付けちゃいましょ」
「今度はばっちりですよ! ちゃんと仲間もおりますし!」
賑やかなやりとりを交わしつつ、二人は猪突と突っ込んでいく。
「神よ! 我らを護りたまえ!」
腕を守る程度の盾を作り出した春一が、容赦なく殴りかかる。
征緖もまた大金棒を振り回し、周囲の淫魔を牽制する――同時、取り巻きの群衆を遠ざけるのにも一躍買った。
「戦いやすくなったわね」
不敵に笑う征緖と、流石ですと絶妙なタイミングで返答する春一の、ほど近く。
軽やかに駆けた青年が、速度を乗せて跳躍した――。
「さあて、観客が静かになった所で、コッチはコッチで派手にぶちかまそうか」
虹空・アヤ(彩・g00879)は、自分に先んじるかのように、柔らかな身体で転がるように飛び出そうとする相棒に、笑みを向けた。
己の戦意にモーラット・コミュの手鞠が応え――確りと意思の疎通ができている証のようで、面白い。
「頼んだぞ、手鞠」
魔力を相棒に託し、アヤは蹴鞠を蹴り出す。
放たれた綾織の球体に、じゃれるように手鞠も共に跳ねて、淫魔達の列へと跳び込んでいく。
衝撃から逃れるように散開した彼らを、アヤ自身も一度地を蹴って加速し、雷撃纏った拳で殴りかかる。
「ふ、そんな目立つもの――」
気障ったらしい言葉に、アヤは口元に笑みを浮かべるだけだ。
彼らの背後から、高く放物線を描いて、手鞠がとって返す。背から追撃された淫魔は、呻いて倒れ込んだ。
「さあ、演奏家なら手毬唄のひとつでも奏でてみろよ」
手元に戻ってきた蹴鞠と、相棒を一抱え、悪魔の翼を軽く羽ばたかせ、アヤは挑発する。
「……くっ、ならばお望み通りに」
バイオリニストは、弦に弓を当てると、滑らかに指を動かした。淀みない演奏と、胸を締め付けるような切ない旋律。
敵ながら、思わず聞き入ってしまうような――演奏技術だけは、確かに素晴らしかった。
旋律に呼応し浮かび上がったのは、半透明な幻影。
悲劇を投影した幻影は――アヤにとって見覚えのある悪魔の姿で、迫る。迷宮での邂逅を想起させるが、今度こそ、アヤは笑って見せた。
「改めて見比べると、チープだな」
実際、あの迷宮で掻き乱された程には、悲劇的な香りも、絶望的な嗅覚も働かぬ。
(「――生きて守るとの誓いがある」)
それを思い出したアヤにとって、この程度の幻影、既に薄っぺらにしか映らない。
翼を広げ、大仰な爪を振り上げ、躍りかかってくる幻に、
「用があんのは演者でね――それとも、直にヤり合うンじゃご不満かい?」
軽やかに問うて、容赦なく蹴鞠を叩き込む。無論、その一撃は――蹴鞠を狙って頭上から落下する手鞠が、幻ごと、演奏に熱中する淫魔を打ちのめす。
彼方此方でバイオリンの旋律が響き出す。
踊り出したくなるような軽快な音楽に、盾を構えていた春一が眉を寄せた。
「音楽が随分お上手であるようですが、拳の前には何もかもが無意味! ――……いやでも実際割と好みの曲……はっ、これはもしかして敵の罠!」
今にも殴りかかろうとしていた気を削がれたと、はっとして、目を瞬く。
そんな春一の様子を横目に、征緖は憂いの溜息を吐く。
「音楽ねぇ……聴くなら、大人しく聴いていたいものだわ。こういう騒がしい戦いの時なんかじゃなくてね」
大金棒をぶんと薙いで、嘆く。
「そうですよねシスター・スノー! ちょっとリクエストしてみたいですが!」
「駄目よ、春一ちゃん、私達のリクエストが来る前に倒しちゃうもの」
ノン、とフランスっぽく否定する征緖の瞳は、剣呑な色を帯びていた。
「全く……処刑にBGM用意するなんてホント悪趣味――人の命をパフォーマンスにするなんて、それこそ天罰よ天罰」
優雅な音楽も、楽しい音楽も――或いは、悲愴な旋律も。戦場を彩るだけならば、まだ許せよう。
しかし、処刑を盛り上げるために彼らがいるのだとすれば、許しがたい。
「さて、皆様には好評いただいておりますが――」
含みがあるような笑みを浮かべて、淫魔はバイオリンの演奏を続ける。欲望を引き出す、自由な旋律が、春一を誘う。
「この神の使徒である身に秘めたる欲望など! 欲望など……」
忍耐一瞬、彼は、すぐさま、にっこりと笑みを浮かべると、軽やかに地を蹴った。
「貴方のそのツラを見るも無残な形にして地面に這いつくばせてやりたいくらいしかありません!」
より、神の使徒から離れたような気もするが――。
光る盾で、頬を張り倒す。小柄な身体からは想像のつかぬ勢い任せの殴打であるが、淫魔は派手に吹き飛んでいった。
「高そうなバイオリンね」
淫魔が落としたバイオリンを拾い上げた征緖が、ルージュの唇を笑みで歪めると、一気に距離を詰め、それを振り上げる。
腫れ上がった無様な顔を哀れむこともなく、征緖はバイオリンを垂直に叩き込む。
木片が飛び散って、血と混ざり合う。
「わあ、シスター・スノー、豪快ですね!」
「あれよ、過激なパフォーマンスでギターを壊すとかあるじゃない――あと、スノーコードよ、春一ちゃん」
壊れたバイオリンを放り投げながら、苦笑交じりに指摘した。
天使の羽で飛翔した苺ヶ谷・紬(Sucré fraise・g04322)は、まだ近づけぬ処刑台をちらり見る。
マリー・アントワネット――遠くに見える姿は、白く儚い。引き立てられて尚、口を結び、何も語らぬ。尋ねようにも、声も届かぬ。白い、粗末なドレスの裾を靡かせていることしか、まだ解らぬ。
垣間見えた彼女の心を、思う。
(「……『私たちの歴史』での彼女が善い人だったのか悪い人だったのかはわかりません。けれど今はクロノヴェーダの犠牲者です」)
死に臨む恐怖はあるだろう。
憎しみを顕わにした群衆前への恐怖もあるだろう。
しかし、その眼差しは……。
(「どんなに心無い言葉を浴びせられても、怒りや悲しみや無念を押し込めてしゃんと背筋を伸ばして断頭台に向かう姿――昔読んだ本の挿絵そのままです」)
紬は、胸に手を当て、ゆっくりと告げる。
「だから、助けたい」
救いの手を届かせるために。
胡桃色の瞳に強い意志の力を滾らせ、力を解き放つ。
天使の翼を羽ばたかせた紬の周囲に回転する無数の光の輪がいくつも浮かび上がる。
輝く輪は大きな弧を描きながら、次々と飛来し、淫魔達のバイオリンの弦を斬り裂く。
欲望を呼び起こす旋律が、紬を襲うが――『助ける』という一念に徹して、耐えると、次の光を放つ。
羽ばたきが生み出した輝く輪は、雨あられと降り注ぎ、戦場を眩く染めていく。
輝きが生み出す闇に乗じ、邪魔な淫魔を蹴り飛ばした景臣だったが――、甘い音色で闘争心を削ごうというバイオリニストの前で、急に立ち止まるや、呆然と淫魔を見つめた。
まるで、魅入られたかのように。
「そうです。その物騒な武器を捨てるのです」
果たせるかな、彼は指示通り、鉄パイプを放り出した。その様をみて満足そうに微笑んだ淫魔は無遠慮に近づいてくる――敵愾心を削ぎ、いずれ廃人に落とすほどの精神攻撃である。
――景臣の内側で、確かに、不快な力が暴れていた。
それをより濃厚に効かせようと、淫魔が距離を詰めてきたところで。
紫の眼差しが、鋭利に細められた。
「俺の中、燻る炎がこの程度で消えるとでも?」
問い掛けに、吃驚する間も与えぬ。
ふわりと、漆黒の髪が躍り、黒い影が沈み込む。
「……散々人心を弄んで満足したか? なら、そろそろ死んどけや」
冷ややかな声音と共に、景臣の腰で鯉口を切る音がする。
鞘を滑り走った白刃は、双方の間で閃いた。
次に淫魔が聴いたのは、鍔鳴りの音だろう――猛毒宿した一閃は、袈裟斬りに淫魔の身体を裂き――バイオリンごと、両断していた。
傷を隠す手袋に包まれた左手を、強く握りしめ、彼は目を伏せた。
(「これは呪詛だ……死に損ないの、俺自身に対しての」)
――遠巻きに逃げた群衆達を割って、自動人形が現れる。
少女の姿をしたそれは、冷ややかな青き瞳で、ディアボロス達を捉えるや、厳かに告げる。
「狼藉はそこまでです、ディアボロス――尊き処刑に害をなすものどもよ。このメリザンドが慈悲の裁きを与えましょう」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】LV2が発生!
【罪縛りの鎖】がLV2になった!
【照明】LV1が発生!
【強運の加護】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV2になった!
【ロストエナジー】がLV2になった!
【反撃アップ】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV3になった!
日金・陽洋
さて、クロノヴェーダ共のお出ましか…
トループス級の相手は足りてそうか、なら…相手しようか、アヴァタール級
市民や王妃は巻き込まねえようにしねえとな
攻撃にも回避にも、使えるなら【浮遊】や【エアライド】、それに残留効果は活用させてもらおう
【ジャンプ】や【空中戦】ならちったぁ心得てる
動きをできるだけ見定めて、向こうが急接近してくるなら…こっちもその動きを利用してスコルピオンスティング、【捨て身の一撃】をぶちかます
全力は尽くさせてもらう
仲間と連携できれば心強いぜ
随分物騒な姿をしたもんだ
それでてめぇらにとっての罪人を処刑してきたってわけかい
慈悲深いってんなら…罪のない罪人達の分、てめぇも苦しめ
・アドリブ可
苺ヶ谷・紬
誰かが命を散らす悲劇が
尊いだなんて、ある筈がないのです
彼女が青薔薇で接近を阻むのなら
私はアイスエイジブリザードを放ちましょう
花弁を散らし、凍らせる吹雪で彼女への道筋を作ります
この魔法は広範囲に降り注ぐものですから
彼女自身に届くダメージは心許ないかもしれません
でも、一緒に戦うディアボロスさんが攻撃を届かせる切欠になれば
そして、この先にいるマリーさんを助けるための一歩となれば
たしかに青薔薇は昔、「不可能」という言葉を冠していたそうです
でも今は、「夢は叶う」って素敵な言葉に変わったんですよ
変えられてしまった歴史を取り戻すこと
不可能なんかじゃないはずです
●貫くは、意思
「狼藉はそこまでです、ディアボロス――尊き処刑に害をなすものどもよ。このメリザンドが慈悲の裁きを与えましょう」
自動人形、慈悲深きメリザンドは厳かに告げる。
「誰かが命を散らす悲劇が……尊いだなんて、ある筈がないのです」
それを――苺ヶ谷・紬(Sucré fraise・g04322)は強い眼差しで否定する。
紬を……ディアボロスを、哀れむような様子で、メリザンドは溜息を吐く。
「今日が革命の記念すべき日となる――この群衆の喜びが解りませんか? これぞ――」
「自由、とでもいうつもりか。クロノヴェーダが」
仰々しい口上を遇って、日金・陽洋(陽光・g05072)はその金眼で、人形を鋭く見据えた。
冷酷な印象を与えるメリザンドの貌は、更に冷ややかなものになる。
「元より理解していただこうとは思っておりませんが、嗚呼、嫌なこと――早々に切り刻んで、終わりにいたしましょう」
「ああ、……相手をしてやる」
陽洋は構えて挑発する。
(「とはいえ、周りは巻き込めない、な」)
群衆は遠巻きにしている――或いはクロノヴェーダどもに戦場となる空間から離れているようにいわれているのか――が、あまり広範囲に引っ張り回すわけにはいかぬだろう。
軽く思案し、駆け出す。
陽洋が跳躍すると、その身体は空に浮かび、蹴り上げる度に、高度や距離を変えた。
メリザンドは凶器である多腕を揺らめかせ、彼を見失わぬよう、追ってくる。
(「振り切れるほどの速度は、出ないか」)
その時、ぱちりと紬と目があった。
任せて欲しいという意思を感じ、身を退くように進路を預けると、深く頷いた紬は苺をあしらった大きな杖を手に、魔力を解き放つ。
吹雪が舞う。凍えた空気が、一筋にメリザンドを呑み込んで、凍らせる――人形は凶刃含めた腕で、身を包むようにして防御すると、紬に向けて手を向けた。
指向に従い、青薔薇が放たれる。視界を埋め尽くすような青い花弁が、紬を拒む。同時に、陽洋の頭上にも同じものが襲いかかる。
それは当然、触れるだけで苦痛を伴う力でもある。
この青き薔薇は、とメリザンドは淡々と告げる。
「不可能、を意味する。お前達の反逆は、なしえない――王妃の処刑は行われるのです」
対し、紬は。
杖へと更に魔力を籠めて、吹雪を維持しながら、柔らかに微笑んだ。
「たしかに青薔薇は昔、『不可能』という言葉を冠していたそうです……でも今は、『夢は叶う』って素敵な言葉に変わったんですよ」
空に漂う花弁が、白く凍り付いていく。
(「この力が、みんなの力に……この先にいるマリーさんを助けるための一歩となれば」)
押し返せるのは一カ所でいい――紬は細い指先が白くなるほど強く、杖を握る。
「変えられてしまった歴史を取り戻すこと――不可能なんかじゃないはずです」
メリザンドの頭上に、影が躍る。
凍った花弁を裂きながら、鋭い蹴撃で、陽洋がその背を撃った。
硬質な感触は、なるほど人形だ。感心まじりの陽洋であるが、油断はせぬ。
「誅罰です」
足元で、長く伸びた鋭利な爪で、内臓を狙う応酬が閃く。これに、空で一蹴り、駆け上がった。それでも太腿辺りに掛かったらしい、細い血の筋が走る。
「随分物騒な姿をしたもんだ――それでてめぇらにとっての罪人を処刑してきたってわけかい」
嘲りは頭上で響いた。人形が振り返ると、既に陽洋の姿は消えている。
彼は動きを止めず、即座と空中で切り返すと、人形の背にひらりと舞い降りていた。
堅い地面を踏みしめ一瞬で呼気を整えると、無防備な背に、蠍の如き猛毒を叩き込む。
闘気を纏った拳は、その背の中央を貫き、冷ややかに告げる。
「慈悲深いってんなら……罪のない罪人達の分、てめぇも苦しめ」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【罪縛りの鎖】がLV3になった!
【使い魔使役】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV2になった!
樹・春一
見てください! シスター・スノーコード!(g01483)
青いバラですよ! 僕初めて見ました!
ひとつ持って帰ってもバレませんかね! 姉さん好きかなって!
でもちょっと邪魔ですね……真に用があるのはバラではなく向こうの方なのですが!
拳を主体にしております故、近付けないと話にならない!
シスター! 何か策はありますか!
僕はひとつあります!
花びらを全部ぶっとばして進むのです!
殴って散らない花はありません! あっても散らすのです!
前進! そして前進! 進み続けていればそのうち手が届くでしょう!
その時に一撃食らわせてやればいいのです!
死が慈悲というのなら貴女にも慈悲を捧げましょう!
死をもって! アーメン!
東禅寺・征緖
やっとちゃんと呼んでくれたわね、春一ちゃん!(g00319)
そういえば青い薔薇の花言葉は……
昔は「不可能」だったけど、今は「夢が叶う」に変わったのよね
まるでアタシ達みたい!
お土産に持っていってもいいんじゃないかしら
花を摘む前に、あの花と邪魔する奴を倒さなきゃね
春一ちゃん、何か方法はあるの?アタシも考えてる所があるんだけど……
そう、邪魔なら蹴散らしてしまえば良いのよ!
鬼神変の破壊と粉砕の力で薔薇を払ってしまいましょ
そのまま突破して敵を目指すわよ!
それにしても尊き処刑?慈悲の裁き?
やっていることはただの殺しよ
綺麗な音楽奏でて、尊いだの慈悲だの言葉で繕ったって
血も肉も綺麗になんかならないんだから
●冷たき人形
「見てください! シスター・スノーコード!」
樹・春一(だいたいかみさまのいうとおり・g00319)が突然声を弾ませた――否、いつものことか。
しかして東禅寺・征緖(シスタースノーコード・g01483)は、目を輝かせた。
「やっとちゃんと呼んでくれたわね、春一ちゃん!」
漸く再三要求していた呼び名を覚えてくれたことに、感動している。
春一は頓着せず、敵の頭を無邪気に指さす。
「青いバラですよ! 僕初めて見ました!」
深く、しかし澄んだ青空が如き色は、まさに理想的な青薔薇。
双眸を細めた征緖は、感慨深く頷く。
「そういえば青い薔薇の花言葉は……昔は『不可能』だったけど、今は『夢が叶う』に変わったのよね――まるでアタシ達みたい!」
はてさて、春一は彼の言葉を聴いているのかいないのか、じっと青薔薇を見つめて、そわそわしている。
曰く。
「ひとつ持って帰ってもバレませんかね! 姉さん好きかなって!」
「お土産に持っていってもいいんじゃないかしら」
征緖の相槌に、ああ、でも――春一は眉を寄せて、声も低く囁く。
「ちょっと邪魔ですね」
そんな勝手な会話が聞こえていたかいないか。
傷つけられた身体の動作確認を終えたらしい慈悲深きメリザンドは、冷淡な眼差しで二人を見つめていた。
逃すまい、通すまいと、凶刃備える腕を広げ、出方を窺っている。
(「……真に用があるのはバラではなく向こうの方なのですが!」)
春一は唸る。
何はともあれ障害たるこの人形を乗り越えて行かねばならぬ――先程見た、あの青薔薇の蹂躙を越えて、この拳を届かせねばならぬ。
「花を摘む前に、あの花と邪魔する奴を倒さなきゃね」
顎に指を当て零した征緖へ、春一は拳を構えつつ問う。
「シスター! 何か策はありますか! 僕はひとつあります!」
「春一ちゃん、何か方法はあるの? アタシも考えてる所があるんだけど……」
隣り合う双方の視線が、一瞬、ぶつかる。
「花びらを全部ぶっとばして進むのです!」
「そう、邪魔なら蹴散らしてしまえば良いのよ!」
――以心伝心。まあ、結局、作戦というか、思考が似ているからこそ、こうして組んでいるのだ。
不敵に笑った春一の拳が輝き出す。
「殴って散らない花はありません! あっても散らすのです!」
その通りよ、征緖も微笑み、鬼の血を覚醒させる。硬化した鬼人の両腕が立ちはだかるものを粉砕するのに向いた形となる。
彼らがその距離を詰めてくる姿に、メリザンドは侮蔑の眼差しを向けてくる。
「――愚かな」
青薔薇が視界を遮るように降り注ぐ。
突風に晒された花吹雪のように、二人の身体に纏わり付く――見た目は美しくも幻想的な光景であろうが、内部に跳び込んだ者にとっては、息も出来ぬほどの圧力が掛かっている。
(「ああ、どれもこれも――こんな場所で、そんな目的のための力でなければ、美しいのに」)
両腕で掻き裂きながら、征緖は辛く思う。
春一は息を止め、それが続く限り、拳を打ち込み、時に蹴り込み、花片の海を貫いていく。
(「前進! そして前進!」)
止まらず、前へと進めば、必ず辿り着く。それは姉の教えであり、紛れもない真実だ。
体力を奪う青き薔薇先に潜り抜けたのは、征緖であった。
駆け抜けた速度をそのままに、メリザンドへと堅く握った拳――巨大化した、鬼の鉄拳を叩きつける。
人形の華奢な躰は、異音を立てて歪む。
「執行――!」
同時に、征緖の頭上で刃が落ちる。神速の刃は、彼のうなじを正確に狙って落下する――その脇腹に、素早く滑り込む、黒い影。
しかし、鋭く放たれた拳は――正視できぬほど眩い光に包まれていた。
「死が慈悲というのなら貴女にも慈悲を捧げましょう! ――死をもって! アーメン!」
聖句と共に放たれた春一の強烈な一撃が、今度こそ、メリザンドを吹き飛ばす。
刃はでたらめに空を掻いたが、征緖は身を低くして、回避する――。
打撃音は金属を打ったように、堅かった。
メリザンドは姿勢を保てず、路地を横滑りしたが、その躰から血は流れず、ただ陶器のような白膚は、欠けてぽろぽろと穴を開けただけだった。
「それにしても尊き処刑? 慈悲の裁き? やっていることはただの殺しよ」
直ぐには起き上がれぬメリザンドへ、征緖は冷ややかな侮蔑の視線を返す――そして、僅かな寂寥感を湛えた笑みを浮かべて囁く。
「綺麗な音楽奏でて、尊いだの慈悲だの言葉で繕ったって――血も肉も綺麗になんかならないんだから」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】がLV3になった!
【怪力無双】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV3になった!
花鶴・景臣
尊き処刑?
慈悲の裁き?
人形にしては滑稽な冗句を思いついたもんだ
流石に首を落とされちゃ動きようがねえ
執拗に狙ってくるなら…首回りは特に守りを固める必要がある
最初は守りに徹してでも人形の挙動を注視
全身にある刃の軌道を観察
極力その間合いに入らないよう立ち回る
それでも凶刃が俺を捉えんとするなら
発生させた炎で視界を遮りつつ
残像で撹乱してやんよ
地味にえぐい業が多いからな
他の復讐者との連携は惜しまず
確と死角を補い合って不意打ちを阻止
逆に人影に紛れて闇討ちくらいはしてやらねえとな
生の苦しみ?
…はっ、どうせ死んでも生きても苦しいなら
無様に足掻いてやるのも乙ってもんだ
撤退する前、叶うなら
王妃の姿を目に納めておこう
虹空・アヤ
勿体ぶってのお出ましにしちゃ随分チープだコト
慈悲だと言うからにゃ、楽しませてくれるンだろ?
手鞠へ*光と*電撃纏わせ、気を引き撹乱するよう指示
自分は五指を【刺硝子】で細く長い刺突武器へと変え
*戦闘知識から踏み込む隙、効果的な攻撃箇所を探しだし*ダッシュで踏み込もう
その勢いのまま刺突からの*斬撃で*解体するよう攻撃
反撃に備え*一撃離脱で宙へ飛翔、*空中戦へ持ち込む
コッチにとっても、尊い食事の時間ナンでね
くれてやるつもりはねぇンだよ
敵の攻撃は戦闘知識で軌道読み
手鞠と合わせたトリッキーな動きで躱し致命傷を避けていこう
ココで処される訳にゃいかねぇし
仲間が深手負いそうなら【ディフェンス】してくよ
●玻璃と炎獄
はっ、と吐き捨て、花鶴・景臣(灰に帰すまで・g04686)は表情を歪める。
「尊き処刑? 慈悲の裁き? ――人形にしては滑稽な冗句を思いついたもんだ」
それは不快さであり、嫌悪。
冗句と言いつつ、その貌、紫の双眸は笑みとは正反対の剣呑さを湛えていた。
「勿体ぶってのお出ましにしちゃ随分チープだコト」
解りやすく首を傾げた虹空・アヤ(彩・g00879)は、嘲るように評する。
そのまま、試すような眼差しを傷ついた自動人形に向け、問う。
「慈悲だと言うからにゃ、楽しませてくれるンだろ?」
視線は、敵に向け――アヤは、相棒の名を小さく呼んだ。
同時、景臣が駆け出す。
その視線はメリザンドに向かったまま。彼女の様子を観察する――ディアボロス達の攻撃を受け、その躰はかなり痛んでいる。
しかし、酷く損傷した両脚がふらつく様子も無ければ、均衡を失っている様子も無い。
凶刃備える腕も、確りと此方を隙無く狙っているのが解る。
(「流石に首を落とされちゃ動きようがねえ」)
間合いを測る。恐らく、景臣の『得物』よりは長いだろう。異質な人形の腕は、かなり大きな可動域をもっているようだ。
彼が糸口を探る中、不意に、光を纏う手鞠が飛び込んだ。雷撃をぱちぱちと柔らかな毛から放ちながら、メリザンドの周囲を素早く飛び回る。
――その力が人形を直接追い詰めることはなくとも、邪魔なのは変わるまい。少なくとも、アヤを行動不能にせねば、手鞠を幾度振り払おうと、けろっとして戻ってくる。
手鞠に向き合った瞬間を狙って、悪魔の羽を広げ加速したアヤが――その五指を貫手のように束ねると、指先は長く尖った硝子の突剣と変じていた。
人形が振り返ったのは、激しい衝撃を覚えた後。
ガラ空きの脇を抉られ――その胸元まで届いた硝子の輝きを見るまで、気付かなかった。
不敵に笑うとアヤは跳躍し、飛翔する勢いで剣を乱暴に引き抜いた。
メリザンドとて、一方的にやり込められるだけではない。アヤに手が届く僅かな時間を見過ごさず、応酬の爪を走らせる。
ただし臓腑には程遠い。その爪が引っ掻いたのは表面ばかり、その程度の創は歯牙にもかけず、
「コッチにとっても、尊い食事の時間ナンでね――くれてやるつもりはねぇンだよ」
空へと逃れたアヤは、改めて玻璃の爪を振い、嘯く。
小鞠は相変わらずメリザンドの周囲を駆け巡る。
されど、彼女は――アヤを見失った事を反省し、自分に向けられる純然たる殺気に、集中を向けた。
その刃の腕が、滑り込んだ白刃を止めたのは、奇跡的なタイミングであった。
へぇ、と景臣は冷ややかに目を細めた。それくらいはできるのか、言外に語るような表情で、鋼を抑え込まれた儘、平然と。
「――燃え尽きろ」
猛り狂う紅き地獄を生み出す。灼熱は人形の躰を容赦なく包み、焼く――その熱に、悲鳴をあげるような事は無かったが、表情を苦しげに歪めた。
反撃のため、景臣の刀身を抑え込んでいた腕を跳ね上げる。その流れで、即、景臣の首を狙った弧を正確になぞったのは、自動人形ならではの妙技だろう。
果たせるかな、その精緻な動きこそ、景臣の予測に沿った軌道――揺らめく陽炎越しに、身を躍らせ、炎を纏う刃で弾いた。
「お、おのれ……」
メリザンドは呻く。炎はますます人形を内側から焼き、苛む。
「生の苦しみ? ……はっ、どうせ死んでも生きても苦しいなら、無様に足掻いてやるのも乙ってもんだ」
言い放って、軽やかに身を翻し、鋭利な一閃を放つ――同時、メリザンドの背を貫く硝子の鋒が、腹から覗いた。
飛燕が如く襲いかかったアヤの一撃に吃驚したまま、メリザンドの首は、彼方に跳ね飛んだ。
紅き炎を纏う刀に断たれたそれは、地獄の炎に包まれて、形も残さず灰と化す――。
「サテ、引き上げ時かね」
静かに納刀する景臣の頭上で、手鞠を抱えたアヤがそう呟いて――何かに気付いたかのように視線を上げる。景臣も彼に倣って――輪の向こうを眺めた。
王妃。
人々の影の間、白き粗末なドレス纏うマリー・アントワネットの姿が、見えたような気がした。あっという間に人垣に遮られてしまったが、そこにいる、と強く感じた。
彼女が今、何に耐え、何を考えているかは解らない――しかし。
(「……ああ、無様だろうと――足掻いてやる」)
彼女を救って何が変わるのか、まだ未知数だ。しかし、何処までも、抗い続ける事を誓ったのだ。
景臣に限らず、ディアボロス達は皆――失われたものを取り戻すために。
果たして、ここに集う群衆も、曾ての革命前夜、斯様な心境であったのだろうか――醜悪な熱狂を背に、ディアボロス達は恙無く撤退したのであった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【熱波の支配者】LV1が発生!
【飛翔】がLV3になった!
効果2【ロストエナジー】がLV4になった!
【アヴォイド】がLV2になった!