夢見る羊と黒猫の秘密の鍵(作者 秋月諒)
#最終人類史(新宿島)
#最終人類史のバレンタイン2024
#バレンタイン2024
⊕
●居眠り羊と黒猫
ねぇ、知っている? 居眠り羊のことを。
もこもこの毛を揺らして、人生は楽しむものだよ、なんて笑う羊たちのことを。
「なにせ、きょうもとびっきり良い天気なんだから。人生楽しんだもの勝ちって二本の脚で忙しそうにしてるのも言っているだろう?」
「それと牧場の日向で寝てばっかりなのは話が違うんだよ。少しは動き回ったらどうだい?」
牧場に住む黒猫は、牧羊犬の代わりに居眠り羊たちについて回っていたのですから、居眠り羊たちには困っておりました。春はふかふかの緑の草の上、夏は日陰でお昼寝ばかりするのですから。
「まったく、君ってきたら。いつもそうやって役目だ、仕事だって言うんだから! 気ままに過ごしたらどうだい?」
「お前達がちゃんと運動すれば僕だって困りはしないんだよ」
「なに、動き時はちゃんと動くさ。なにせ今は幸せな季節なんだからね。素敵な夢を届けなきゃ」
もこもこもふもふの毛で、ぽん、と跳ねるように草の上に飛び込んで居眠り羊は言いました。
「そうだ、君にこの鍵をあげよう」
「鍵?」
「そう、幸せに繋がる素敵なチョコレートの鍵さ。甘いチョコレートなんて、みんな幸せな気分になっちゃうだろう?」
そう言って居眠り羊は黒猫の頭に、不思議な鍵をのせたのでした。
●夢見る羊と秘密の鍵
「ま、そんなこと言いながら、甘いの苦手な人もいるけどね、とか言って梯子はずしてくるのがこの羊なんだけどな」
肩を竦めるようにして笑うとシーア・フィティア(アウフヘーベン・g07719)は集まったディアボロス達を見た。
「んーで、バレンタインの季節が来たってやつよ。節分で地獄変のエネルギーをチャージできたように、バレンタインにも特別な力があるってわけだ」
多くのディアボロスや、住民達が最終人類史のお祭りを楽しむ事で、最終人類史の力が高まったのだ。そうしてディヴィジョンの排斥力を弱めることができた。
「なら、やっぱバレンタインイベントだろ? 折角のバレンタインだしな、チョコ作りしてみるのも良いだろ。本命相手でも、普段から世話になっている相手でも」
んで、さっきに羊の話に戻るわけだが、とシーアはディアボロス達を見た。
「あれは、居眠り羊と黒猫って話でな。オーストラリアの牧場にほんとにいた羊と黒猫がモデルになっててなー、みんな好きなように話を増やしてく中で、バレンタインの話も生まれたって訳よ」
オーストラリアにおいて、バレンタインは 大切な人、愛する人に感謝をする日だ。
「どっちがプレゼントする方、ってのも特に無いんだが、チョコを作るっていう日本の話を聞いたみたいでな。生チョコ作りをバレンタインイベントでやるから遊びに来ないかって聞いてな」
作るのは生チョコレートで作るチョコバーだ。長方形に作った生チョコレートを調度良いサイズに切り分けて、チョコバーのように形を整える。
「そこに、鍵の飾りを挿して持ち手にするってわけ。まーみためは棒アイスみたいなやつだが、ぽいだろ? 居眠り羊が頑張り屋の黒猫に渡した『幸せに繋がる鍵』にさ」
貴方の幸せをひらく鍵となるように。
貴方の心をひらく鍵となるように。
「チョコに刺してんじゃねぇか、ってのは置いておくとして。
甘い鍵ってことだな。とびっきりのチョコレートと一緒に、ってな。感謝を伝え、幸いを願う。大切な相手には、ま、そう思うからな」
シーアはそう言って、レシピの説明が載った紙を置いた。
「生チョコも切って形を整えはするが、後からコーティングするからな。飾りつけもあるし、多少見た目になんか在ろうががいける」
そう言ったのは、今、オーストラリアが夏であるからでもある。
「向こうは真夏なんだが、作業用にテントを用意してくれててな。キッチンスペース完備ってやつで、チョコも溶けねぇから心配はしなくてオッケーってことでな」
大切にチョコを作る時間を過ごしても、その後、夜の牧草地でチョコレートを渡しても良いだろう。
「なにせ、向こうは夏だからなー。夜更かしで外にいても寒くは無いってこと」
羊たちも夜になれば戻っているし、今代の猫も彼らと同じ家で眠りについている頃だろう。
嘗ての居眠り羊が、黒猫に誘ったように。
「あぁ、そうだ。一般の参加者も結構来てるみたいだからな、チョコを配っても良い。喜ぶと思うぜ?」
勿論、大切な人に贈るのも良いだろう。
「ま、折角のバレンタインだからな、楽しんでくれ。居眠り羊じゃないけどな、気ままに過ごす時があったって良い訳だからな」
さぁ、楽しもうぜ? そう言って、シーアは出かけの時を告げた。
●もこもこ羊とつんつか黒猫
「さて、どうにかテントも無事に日差しを防いでるなぁ……。最近は、色々優秀だな」
「この時期にチョコレートなんて言いだした時は、どうしようかと思ったけど。みんな、楽しそうで何よりだわ」
クーラーも問題なし、と言う牧場の女性に、牧場主の男性は嬉しそうに笑った。
「居眠り羊の話で見た時から、ずっとやってみたかったんだよ」
「はいはい。……でも、そうね。みんな、バレンタインにチョコレートを作って贈るって聞いて、楽しんで集まってきてくれたみたいだし。レシピもそう難しいものじゃないものね」
「最初は鍵の形のチョコを作りたかったけど、上手くいかなかったからなぁ」
「でも良いんじゃない? 幸せに繋がる鍵なんでしょ?」
居眠り羊たちの中で、たった一匹だけ。黒猫に鍵を渡した羊は、本当に幸せに繋げるつもりだったのだろう。
「……私も貴方が幸せそうなら、それでいいか」
「アンジェラ?」
「いいえ。何でもないわ。小さな子たちも来てるから、見てくるわね」
「……?」
幼馴染みの背を見送って、牧場主の男は首を傾ぐ。めぇえ、と遠く羊たちの賑やかな声が聞こえてきていた。
『どうしてあの黒猫にかまっているんだい?』
『いつもにゃぁにゃぁ、ちゃんとしろってうるさいじゃないか』
『そりゃぁね、僕は羊なんだから。あの子にだってとびっきり幸せな夢だってみてもらわないと! バレンタインさ! チョコレートの甘い季節だよ!』
そう、僕は諦めの悪い羊だからね!
『甘い鍵はね、幸せに繋がる鍵でもあるんだから!』
リプレイ
八上・霞
ジェームズ(g10136)と【2】
生チョコレート作るの楽しかったね~。
ちょっと表面にドライフルーツを散らしてみたりなんかして。
鍵の飾りもかわいい。
牧場の柵に腰掛けて、星を眺める。
暑いけど、バレンタインだもんねえ。
……。
はい、ハッピーバレンタイン。(チョコを渡す)
君もくれるの?やったー。
食べよ食べよ!
(チョコレートもぐもぐ)生チョコはストレートにチョコ!って感じがいいよね~美味しい~。
え?そんなことはない、と思うんだけど。
(ばっ、と彼の口元を手で押さえる)
えっと……君を信用してないわけじゃなくて、私の覚悟が決まってないだけ。
それはもうちょっと……待ってほしいな、とか……ごめん。
押さえていた手を離して、彼の指を握る。
あのね、ジェームズ。
私、先に進みたくない訳じゃないんだよ。
だから、その、見限らないで……。
……あったかいなあ。信じても、いいのかな。幸せを求めてみてもいいのかな。
恐る恐る、彼の背に手を回した。
※アドリブ歓迎
ジェームズ・クロサワ
霞(g00118)と【2】
生チョコレートはまあ、無難な仕上がりに。
初めてやったにしては上出来では。
柵にもたれ掛かり、一緒に星を眺める。
ん……。
……ありがとう。(嬉しい)
ほら、お前にも。
自分の作ったチョコを渡し。
貰ったチョコレートを食べる。世辞抜きで美味かった。材料は同じはずなんだが。
こういう食べ物に関する気遣いというか、遊び心があるんだよなこいつは……。
手元に残った、持ち手の鍵の飾り。鍵、鍵か。
……俺はまだお前の信用に値しないか、霞。
(彼女の顔に己の顔を近づける)(押し戻される)
……いや……俺が悪かった。気を急きすぎた。怖がらせたかった訳じゃない。
……ん。
誰が見限るか。もう鬱陶しいって言われても着いて行ってやる。
腕を伸ばして、彼女の細い体を抱きしめる。
お前も、あまり自分のことを語りたがらないから、どういう経緯かはよく知らないが、
愛情を向けられることに不慣れなことは分かる。
そっと額に口付けた。
好きだ、霞。
※アドリブ歓迎
●朝も夜も月の下も
夜の風が、芝生を揺らしていた。さぁああ、と小高い丘を風が抜けていく。星空の煌めく夜となれば、昼間は賑やかにしていた羊たちの寝所の中だ。見廻り、羊の背に乗ったりと忙しそうにしていた猫たちの姿も見えないのはどの子も眠りについたのか。身を寄せ合うようにして昼寝をしていた姿を思い出すようにして八上・霞(閃光・g00118)は、ふ、と息を零す。くぅ、と背伸びをすれば昼よりも随分と心地よい風が頬に触れていた。
「生チョコレート作るの楽しかったね~」
くぅ、と背を伸ばす。テントの中の調理スペースより、やっぱり夜の牧場は広い。満天の星空を見上げるようにして、指先で星を囲む。昼間はチョコだらけだった手も、今は綺麗なまま。ちょっと表面にドライフルーツを散らしてみたりなんかして、作り上げたチョコレートバーは、綺麗な姿でラッピングの袋に収まっていた。
「……まあ、無難な仕上がりにはな。初めてやったにしては上出来では」
「無難なんだ」
「……無難だろう」
ふふ、と小さく息を零すようにして霞は笑う。昼間のキッチン風景を思い出したのか、さくり、と芝を踏んだ彼の足音が小石を蹴るように強く響いた。
「……」
傍らに、すぐ側にジェームズ・クロサワ(遺薫・g10136)の姿があった。牧場の柵に腰掛けて、手が触れる訳でも肩が触れる訳でもなかったけれど、近い距離に、いる。
「暑いけど、バレンタインだもんねえ」
「ん……」
小さく零れるように聞こえた頷きに、霞は空を見上げた。満天の星空。きらきらと光って見せるのはどこも変わらないというのに、やっぱりちょっと違うとは思えるのだから不思議だ。
夏の夜。
バレンタインの夜。
「……」
牧場で見上げる夜空の向こう、一際強く瞬いた星を見送るようにして霞は隣を見た。
「はい、ハッピーバレンタイン」
「……ありがとう」
差し出したチョコレートに、ゆるりと赤い瞳が弧を描く。瞬き程の驚きも無く――ただ、下げたままの片手がふいに持ち上げられた。
「ほら、お前にも」
「君もくれるの? やったー」
ひょい、と高い所から差し出されたチョコレートが、霞が両手を作った先にやってくる。ちょこん、と置かれれば、ふわりと甘いチョコの香りがした。
「食べよ食べよ!」
夜の牧場で散歩がてらと出ていた分、目は随分と夜の闇に慣れていたらしい。月明かりもあるのだろう。帯のように白く伸びた光が、広い牧場を照らしている。
「生チョコはストレートにチョコ! って感じがいいよね~美味しい~」
「そうだな」
ん~、と機嫌良く笑みを見せる霞を見ながら、一口、貰ったチョコレートを食べる。ドライフルーツが表面に散らされたチョコレートは見た目も華やかで、甘すぎずに調度良い。
――そう、美味しいのだ。
(「世辞抜きで美味かった。材料は同じはずなんだが。こういう食べ物に関する気遣いというか、遊び心があるんだよなこいつは……」)
ふんふん、と機嫌良く、ジェームズが初めて作ったチョコレートを眺めながらぱくり、と食べる霞を見る。
「……」
夜の風が、さわさわと黒髪を揺らしていた。夏の夜。あの日と変わらぬ、冬ではない世界。告げた言葉を思い出しながら、ジェームズは手の中に残った鍵の飾りに目をやった。
(「鍵、鍵か」)
物語曰く、羊は幸せに繋がる鍵を渡したという。黒猫の心をひらく鍵を。
「……俺はまだお前の信用に値しないか、霞」
肺腑の底から、吐き出すような言葉だった。我ながら、とそう思いながら向き合うように視線を向けた。
「え? そんなことはない、と思うんだけど」
「……」
その声が戸惑っていたのも、迷いが滲んでいたのも分かっていたというのに。柵に片手を残したまま、傾ぐようにして身を寄せる。月明かりからこいつを隠すように、奪うように。顔を寄せるように距離を詰めれば、己で作った影の下で、出会ったのは小さく息を飲むような――目を瞠る霞の姿だった。
「――!」
「――」
あぁ、これはダメだと。
驚きを、確かに見せた瞳に思う。そんな顔をさせたかった訳ではないのだと、口を開くその前に、ばっと伸びてきた手がジェームズの口元を押さえ込んだ。
その瞳に、驚きを確かに滲ませた彼女に気が付いた時、ばっと、その手がジェームズの口元を押さえるように伸びてきた。
「えっと……君を信用してないわけじゃなくて」
迷うように瞳が揺れていた。己が作ってしまった影の下、言葉を探すように霞の瞳が揺れる。二度、三度、はくはくと開いた唇が「私の」の擦れるような音を紡いだ。
「私の覚悟が決まってないだけ。
それはもうちょっと……待ってほしいな、とか……ごめん」
そう告げた後、泳ぐように下を見た瞳は――だがゆっくりとこちらに戻ってきていた。泳いだままでも、余所へとふらりと消えるのでは無く――ただ、口元を押さえていた手が、そっと離される。
「……いや……俺が悪かった。気を急きすぎた。怖がらせたかった訳じゃない」
問い詰めるようなことを言うつもりも、怖がらせたかった訳でも無かった。それでも、揺れた瞳をジェームズは覚えている。霞、と名を呼んだ先、口元を押さえ込んでいた手がするり、とジェームズの指に触れた。
「あのね、ジェームズ」
指先に触れて、そう、と握る。約束事のように、その熱に触れるように。
「私、先に進みたくない訳じゃないんだよ」
「……ん」
柔らかく届く頷きに、霞はジェームズを見上げた。彼の作った影の下、遠くに星空を見ながら――今は、目の前の彼だけを見る。
「だから、その、見限らないで……」
心の奥底に、ある想いがある。揺れる裡は理解していてもどうしようもならなくて、だから、漸く紡げたその言葉と共に彼の指を握る。
「誰が見限るか。もう鬱陶しいって言われても着いて行ってやる」
「――」
気が付けば、伸びてきた腕にとらわれていた。抱きよせるように、繋いだ指先からつい、と引かれて背に回された腕がきつく霞を抱きしめる。とん、と頬はジェームズの胸に触れて、抱きしめる彼の声が肩口に、耳元に落ちてくる。
「お前も、あまり自分のことを語りたがらないから、どういう経緯かはよく知らないが」
愛情を向けられることに不慣れなことは分かる。
それは、夏の夜風に消えた言葉か、滲むように聞こえた言葉か。ゆるゆる、と霞は顔を上げる。腕の中、結い上げた髪が乱れたのか、ふ、と笑うようにしてジェームズの指先が霞の髪に触れる。指先で軽くはらって、そうして額に口付けが落ちた。
「好きだ、霞」
「――」
その柔らかな言葉を思う。腕の中の暖かさを。
(「……あったかいなあ。信じても、いいのかな」)
幸せを求めてみてもいいのかな。
恐る恐る、彼の背に手を回す。ほんの少し驚いたような、それでいてひどく優しい声でジェームズが自分を呼んだ。
「――霞」
すきだ、と。囁くように甘く。
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【完全視界】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
咲樂・祇伐
🌸樂祇
②
幸せをひらく鍵のチョコレート
唱えるだけで心の裡が暖かくなるような心地がする
私はお兄様の鍵にする
丁寧に切り分けた生チョコはどこか羽の意匠を感じさせるように
ビターなチョコでコーティングして、小さなオランジェットとオレンジの花を模したチョコを飾るのよ
純粋で美しいお兄様に祝いを添えて……オレンジの花言葉と絡めたのは秘密
作ってた時もだけど
…お兄様の鍵は本当に美しくてさすが器用ねと感嘆の息が零れるわ
愛……なら私だって負けてないわ…口には出来ないけれど
そ、そんなことないもん
込めた想いが伝わってるのが嬉しい
でも素直になれなくて唇尖らせそっぽを向く
桜の鍵は優しくて綺麗で、蕩けるように切なくて愛しくて…
真っ直ぐで純粋なあなたの心が、嬉しい
…わたしの扉の鍵はとうに…あなたが開けたじゃない
じわりと沁みるような熱を感じる
これが倖いだというならば…
あなたごと、逃がさないように…この鍵で捉えて仕舞いたくなるわ
だから、牧草地の風にも攫われないように
確かに密やかに
あなたにだけ届くように──あなたの「名」を呼ぶの
咲樂・神樂
⚰️樂祇
②
甘くて蕩けて、消えてしまう…鍵のチョコレート、なんてロマンチックね!
鍵はあたしの愛する祇伐とも縁深いアイテムであるし…気合いが入るわ
あたしが作るのは祇伐の鍵
生チョコを整えて…コーティングは桜チョコレート
ブルーベリーのチョコを重ねて、祇伐の髪の色みたいなグラデーションに
仕上げは桜型の琥珀糖を飾り付け!
夜の牧草地は広大で、開放感もあっていいわね!
鍵を渡すのにぴったりだわ
どう?
かぁいらしい、祇伐みたいでしょう?
当然よ、愛をたんと込めているからね
そうかしら、祇伐の鍵だってとっても美味しそうで綺麗よ
何より、私を想いながら作ってくれた、というのが……たまらないな
ひらくなら、祇伐の心の扉がいい
甘いは幸せ……昔は意味がわからなかったけど、今ならわかる
甘いは幸せ、苦いも仕合わせあなたと一緒ならば。
鍵と錠はふたつで一つ──倖いをひらくも、厄をとざすも私の鍵だけがいい…そんな独占欲と一緒に、受け取って
祇伐から貰ったオランジェットの鍵
逢魔が時を開いて絆ぐ──噫、私は
君に出逢うために、生まれてきたのだな
●フルール・メロディ
夏の、風が吹く。さぁあ、と吹き抜けた風に牧草地の芝生が揺れていた。さく、さくと進む一歩が心地よくて、くるり、と咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)は回って見せた。
「お兄様」
くるり、ふわり舞うように夜風を撫でていた掌が、誘いに似た白い手に受け取られる。そう、と触れた手のひらから指先に熱を移すようにして昼間の甘やかな香りを思い出す。
「夜の牧草地は広大で、開放感もあっていいわね! 祇伐」
ふふ、と笑う兄が指先をひく。ふたり影を重ねるようにして立てば、昼間のチョコレートが甘く香った。
(「幸せをひらく鍵のチョコレート。唱えるだけで心の裡が暖かくなるような心地がする」)
昼の、まだ随分と暖かな――暑いとも言える空気の中、辿り着いたテントの中は、エアコンも良く効いていた。
真夏のバレンタイン。
此処がオーストラリアだとよく分かる。
晴れ渡った青い空に、真夏の空気。羊たちは牧草地の一角に作られたテントに興味津々なのか壁に作られた窓までやってきては猫たちに散歩に出るようにと尻尾でてしてしと合図をされていた。
『私はお兄様の鍵にする』
よし、とエプロンをきゅ、と結んで、まっ白なキッチンの前に立つ。今日は隣のキッチンで咲樂・神樂(離一匁・g03059) は作業をしていた。手馴れた様子で用意されていく材料を見ながら、祇伐も丁寧に生チョコ用のチョコレートを用意していく。
『サイズは……ん、これで大丈夫』
丁寧に切り分けた生チョコは、どこか羽の意匠を感じさせるように、そう、とビターなチョコでコーティングしていく。小さなオランジェットとオレンジの花を模したチョコは、飾りの為だ。
(「純粋で美しいお兄様に祝いを添えて……」)
初夏に清らかな花を咲かせるオレンジを思い出しながら、その花言葉を絡めるように添える。祇伐だけの秘密の想いだった。
「鍵を渡すのにぴったりだわ。どう?」
繋いだ手の先、そう、っと開くようにして、ちょこん、とラッピングされた神樂のチョコレートが祇伐の掌に乗った。
「かぁいらしい、祇伐みたいでしょう?」
「作ってた時もだけど、……お兄様の鍵は本当に美しくてさすが器用ね」
ほう、と感嘆の息を零せば、悪戯っぽく神樂が笑った。
「当然よ、愛をたんと込めているからね」
愛おしさを滲ませるようにして紡がれた言葉に、小さく目を瞠る。その言葉に驚いたからじゃなくて「愛……なら」と思ったからだ。
(「愛……なら私だって負けてないわ……」)
口には出来ないまま、想いは舌の上に溶ける。甘く、苦く。上手く言葉に出来ないままで居れば、さらりと告げる言の葉が祇伐の耳に届いた。
「そうかしら、祇伐の鍵だってとっても美味しそうで綺麗よ」
ぱち、と瞬く。顔を上げるようにして見た先、微笑むように神樂が告げた。
「何より、私を想いながら作ってくれた、というのが……たまらないな」
「そ、そんなことないもん」
込めた想いが伝わってるのが嬉しくて。じんわり、染まる頬は花咲く桜のように。でも、素直にはなれなくて唇を尖らせて祇伐はそっぽを向いた。
「……」
かぁいらしい、と小さく紡いで神樂は吐息を零すようにして笑う。大切に作った神樂のチョコレートは祇伐の鍵だった。桜のチョコをコーディングにした生チョコレート。
『甘くて蕩けて、消えてしまう……鍵のチョコレート、なんてロマンチックね!』
簡単なレシピから細かなアレンジ方法まで、用意されていたポストカードには見学に回って貰って、神樂は手際よく生チョコレート作りを始めていた。
(「鍵はあたしの愛する祇伐とも縁深いアイテムであるし……気合いが入るわ」)
ブルーベリーのチョコを重ねて、祇伐の髪の色みたいなグラデーションにして。仕上げは桜型の琥珀糖と決めていた。
「……」
ぱくり、と小さな一口。届いたチョコの鍵に、ふわり、と祇伐が笑みを零す。美味しい? と聞くのはいじわるだろうか。照れるようにそっぽを向いたままだった祇伐の名を、やわく呼ぶ。
「祇伐」
「……お兄様」
ゆるり、と向いた瞳に出会う。桜咲く柘榴の眸。月明かりの下、見失うことの無い色彩に請うように願い紡ぐ。
「ひらくなら、祇伐の心の扉がいい」
「――」
瞬きがあった。その瞬きを美しいと思いながら神樂は祇伐に紡ぐ。彼女だけに紡ぐ言葉を。
「甘いは幸せ……昔は意味がわからなかったけど、今ならわかる」
甘いは幸せ、苦いも仕合わせあなたと一緒ならば。
「……わたしの扉の鍵はとうに……」
囁くようにやわく神樂の言の葉は祇伐に届く。
「……あなたが開けたじゃない」
桜の鍵は優しくて綺麗で、蕩けるように切なくて愛しくて……真っ直ぐで純粋なあなたの心が、嬉しい。
じわりと、沁みるような熱を感じていた。甘くやわく、暖かくて、熱くて。
「これが倖いだというならば……」
薄く開いた唇が、言の葉を紡ぐ。舌の上に溶かして散らしてしまうことなく、想いの花は悠然と咲く。
「あなたごと、逃がさないように……この鍵で捉えて仕舞いたくなるわ」
さぁ、と夏の風が吹いた。ふわり、と靡く己の髪が、神樂に触れる。そう捉えてしまいたくなる。何者にも連れて行かれないように。隠されないように。だから、牧草地の風にも攫われないように確かに密やかに。たったひとりのあなたにだけ届くように、祇伐は「名」を呼んだ。
●薫る桜花を辿って
「神樂」
「――」
月明かりが、二人を照らしていた。夏の夜。満天の星空の下で繋いだ指先が二人、同じ影を作る。
「鍵と錠はふたつで一つ──倖いをひらくも、厄をとざすも私の鍵だけがいい……」
そんな独占欲と一緒に、神樂は受け取った。祇伐から貰ったオランジェットの鍵、この身に届いた「名」を呼ぶ声。祇伐の、声。
「逢魔が時を開いて絆ぐ──噫、私は」
裡にて、花が咲く。
「君に出逢うために、生まれてきたのだな」
縁も因果も、此処に届く。手放すことなど出来ない想いと共に。
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【クリーニング】LV1が発生!
【友達催眠】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
朔・彗藍
【雪星】
②
居眠り羊さんと黒猫さんの話を聞いて
うちの黒猫さんにも鍵をあげたくなっちゃいましたよう
ふふ、皆に鍵を渡して幸せになって欲しいですもんね
私ですか…?特別な人は…ひみつ!なんて。
そっと指先重ね内緒のバツを口許へ
雪璃は誰に渡したい?
均等に切った生チョコに
ミルクとビターには星屑に見立てたアラザンや
ホワイトチョコペンで星座を描き
抹茶やストロベリーは少し和風に
小さなドライフルーツや椿と桜を象るチョコを散りばめて
差し込んだ鍵にひとつは鬼灯のチャームを添える
それから一番のとっておき!
…と、くるりと春花爛漫の紙でラッピングしたものを
差し出す前に貴女からの甘く可愛い贈り物
わあ…!星と猫さん!
鍵を開いて視えた物語の一頁を貰ったみたい
私からは、ホワイトチョコにフランボワーズチョコを
とろりと重ね飾りはペンで蝶が楽しげに飛んでるの
仕上げは狐のお顔の飾りチョコをちょんと載せた
雪璃にだけ渡す特別なチョコなのです
いつも一緒に遊んでくれる
だいすきなあなたの幸せが繋がっていきますように
ハッピーバレンタイン!
茜來・雪璃
【雪星】
②
幸せに繋がる鍵かあ…いいね
みんなに一つずつ渡したくなっちゃう!
特別な人にはさ、ちょっと飾りも特別にしたりしてね
彗が渡したいのは?だあれ?
私?私はねえ、いっつも遊んでくれるみんなかな
特別なのは…なーいしょ!
んー、どんな飾りにしようかなあ
あ、このトッピングシュガー可愛い!
三日月に蝶、ハートもいいね
コーティングされたチョコバーに丁寧に並べてくっつけて
全部一緒じゃ面白くないから…
ビターのコーティングにはオレンジ
ミルクにはクランベリー
ホワイトは苺
色んなドライフルーツを飾っちゃおうかな
あとはデコペンでスイートピーを描いて…
鍵には誕生石カラーの鉱石風チャームを着けたら完成!
はい、これは彗の!
ラッピングも綺麗に終えたひとつを差し出してにんまり
お星さまと黒猫を描いた特別バージョンのホワイトチョコバー
わあ!狐も蝶もついててかわいー!!
食べるの勿体ないなあ
耳も二尾もご機嫌にぴこぴこゆるゆら
ふふ、いつもたっくさん遊んでくれてありがとう!
これからもどうぞよろしくねえ
彗、だーいすきだよ!!
●居眠り羊と黒猫と雪と星の少女たち
そりゃぁ特別だよ! 君の幸せに繋がるようにとっておきのおまじないをかけた鍵なんだからね!
居眠り羊にそう言って渡された不思議な鍵を、黒猫は首輪にちょこん、とつけるようになったという。幸せな鍵。幸せを願う鍵。
「居眠り羊さんと黒猫さんの話を聞いて、うちの黒猫さんにも鍵をあげたくなっちゃいましたよう」
牧草地の一角に作られた大きなテントには、まっ白なキンチンスペースが出来上がっていた。黒猫と羊の刺繍の施されたエプロンをきゅ、と朔・彗藍(ベガ・g00192)は結ぶ。大切な家族の黒猫は、今日はお留守番だ。ふんわり揺れる尻尾を思いながら彗藍は笑みを零せば、ふふ、と柔らかな空気に出会う。
「幸せに繋がる鍵かあ……いいね。みんなに一つずつ渡したくなっちゃう!」
茜來・雪璃(朧夜ノ蝶華燈・g00793)はそう言って、二つの尾をご機嫌に揺らしていた。窓のように透明になっているテントの壁の向こう、放牧に出ているはずの羊たちが興味津々にこちらを眺めて、じっと尻尾を見ていた。てしてし、とそんな羊たちの足を踏む猫たちは早く散歩に行くようにとでも言っているのか。かわいい羊と黒猫にふ、と笑って、彗藍は、ひょい、と雪璃の隣に立つ。
「ふふ、皆に鍵を渡して幸せになって欲しいですもんね」
「特別な人にはさ、ちょっと飾りも特別にしたりしてね」
二人、出会った瞳の向こうに互いを映して。甘い香りの踊るキッチンで少女達は微笑み合う。
「彗が渡したいのは? だあれ?」
小さく首を傾いだ雪璃の問いに彗藍は、ぱちり、と瞳を瞬かせた。
「私ですか…? 特別な人は……」
興味津々。ぴん、と立った彼女の耳に、ふ、と笑って彗藍はそっと指先を重ねて内緒のバツを作った。
「ひみつ!」
口許にバツをひとつ。内緒のないしょを告げて、彗藍は雪璃を見た。
「雪璃は誰に渡したい?」
「私? 私はねえ、いっつも遊んでくれるみんなかな」
あと、と薄く開いた唇はいつもより少しばかり悪戯っぽい笑みに変わる。
「特別なのは……なーいしょ!」
ふたり一緒に紡いだ内緒と秘密。ぱちり、と出会えば思わず二人で笑みが零れた。
さぁ、チョコレート作りの始まりだ。見学宜しくテントの側に陣取っていた羊たちは、とうとう猫と牧羊犬に引き摺られていったらしい。それでも、近場で昼寝を決め込む羊と諦めたように乗っかって眠る猫を遠くに彗藍は固まった生チョコを均等に切り分ける。
「ここの飾り付けは……」
ミルクとビターには星屑に見立てたアラザンやホワイトチョコペンで星座を描く。抹茶やストロベリーは少し和風に仕上げて、小さなドライフルーツや椿と桜を象るチョコを散りばめていく。
「最後は、この鍵に鬼灯のチャームを添えて」
よし、できあがり。
ラッピングの紙をそうっと取り出す。見学の羊が、しぃ、と彗藍は唇を指にあてた。
「んー、どんな飾りにしようかなあ。あ、このトッピングシュガー可愛い!」
その頃、雪璃も生チョコレートの飾りつけに入っていた。均等に切り分けたチョコバーを本日の主役のお皿の上に乗せて、ひとつ、二つと飾りを並べてみる。
「三日月に蝶、ハートもいいね」
コーティングしたチョコバーに、雪璃は決めたトッピングを丁寧に並べてくっつけていく。
「全部一緒じゃ面白くないから……そうだ」
ビターのコーティングにはオレンジ、ミルクにはクランベリー。ホワイトは苺。色んなドライフルーツを飾っていく。
「あとはデコペンでスイートピーを描いて……」
そこまで仕上げたところで、テントの向こうに見えたのは見学の黒猫だ。にゃぁ、と小さく聞こえたそれに「にゃぁ」と笑うように雪璃は告げる。
「内緒だよ」
ふふ、と笑って。最後につけた鍵には誕生石カラーの鉱石風チャームを着けて、完成だ。
●幸せに繋ぐ
そうして、無事にチョコレート作りも終わる頃には夏のオーストラリアにも夜がやってきていた。都心から離れた牧草地は、空が高い。満天の星空に月明かりが真っ直ぐに牧場に降りてきていた。帯のように降りそそぐ光の下を二人で歩いて行く。ひとつふたつ、ここでしか見ることの出来ない星の話を聞きながら、とん、と雪璃は彗藍の前に立った。
「はい、これは彗の!」
ラッピングも綺麗に終えたひとつを差し出して、にんまりと雪璃は笑みを見せた。
それは、ひとつの特別。内緒のチョコ。
お星さまと黒猫を描いた特別バージョンのホワイトチョコバーだった。
「わあ…! 星と猫さん!」
ぱぁっと、彗藍は瞳を輝かせる。両手の中に収まったホワイトチョコバーには、輝く星と可愛い黒猫。
「鍵を開いて視えた物語の一頁を貰ったみたい」
物語の中にやってきたような、そんな素敵なチョコレートに心が躍る。
「雪璃」
「?」
なに? と柔く微笑んだ共に、ふふ、と笑みを零して彗藍はくるりと春花爛漫の紙でラッピングしたチョコレートを差し出した。
「一番のとっておき!」
それは、ホワイトチョコにフランボワーズチョコをとろり重ねて作ったチョコバー。飾りはペンで蝶が楽しげに飛んで、狐の顔飾りチョコをちょん、と乗せたそれは大切な彼女のために作ったチョコレート。
「雪璃にだけ渡す特別なチョコなのです」
「わあ! 狐も蝶もついててかわいー!!」
食べるの勿体ないなあ、と雪璃は零す。ぴこぴこと耳は揺れて、二尾もゆるゆらと。嬉しそうに笑みを零してくれる大切な共に、ふ、と笑みを零して彗藍は雪璃を見た。
「いつも一緒に遊んでくれる、だいすきなあなたの幸せが繋がっていきますように」
甘いものが大好きなあなたに。幸せがいっぱいあるように。祈って、願って。こつん、と触れたつま先に笑って告げた。
「ハッピーバレンタイン!」
優しくて、ふんわりと暖かい言葉だった。ふわり吹く夏の風に乗せるように。どこまでも一緒に行けるように雪璃は甘いチョコと一緒に手を取る。
「ふふ、いつもたっくさん遊んでくれてありがとう! これからもどうぞよろしくねえ」
幸せを願って。幸せが沢山たくさんあるように、そう願って、思って。二尾を揺らす。護り手たる妖狐がゆるりと顔を上げる。ふいに、強く吹いた風がふわり、と二人の髪を揺らした。わ、なんて声を上げて。真夏の夜は、昼間よりは随分と過ごしやすくて――でも、二月に降る雪も二人は知っている。今日は、真夏の星の下、幸せを願って、願い合って。
「彗、だーいすきだよ!!」
満天の星の下、 彗藍を真っ直ぐに見て雪璃は告げた。
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【口福の伝道者】LV1が発生!
【一刀両断】LV1が発生!
効果2【凌駕率アップ】LV1が発生!
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