ゼレノグラードの死体儀式

 攻略旅団の提案により、モスクワ周辺で活動していると推測されていた、ジェネラル級アークデーモン『骸運びのブネ』の消息が判明しました。
 彼女は、モスクワ近郊の都市『ゼレノグラード』で、忌まわしい実験を行い、ゼレノグラード市民を、トループス級の大天使やアークデーモンに覚醒させようとしています。
 ゼレノグラード市内には、死体を積み上げて囲われた円形の広場が複数造られており、そこに集められた市民を覚醒させる儀式を行っているのです。
 急ぎ、ゼレノグラードに向かって、この忌まわしい儀式を阻止してください。



骸運びのブネ

無様な死肉の君こそ愛し(作者 音切
11


#吸血ロマノフ王朝  #ゼレノグラードの死体儀式  #骸運びのブネ  #ゼレノグラード 


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#吸血ロマノフ王朝
🔒
#ゼレノグラードの死体儀式
🔒
#骸運びのブネ
🔒
#ゼレノグラード


0



 その娘は、幼馴染だった。

「手足の指は全て千切って、儀式場に並べましょう」
 幼き頃。いっそう寒さの厳しかった冬の日。
 千切られてゆく貴女の手は、寒さに震える私の手をそっと包んで。
 もう大丈夫だと励ましてくれた。

「この空色の瞳も、人間ごときには過ぎたものね」
 困窮し。あまりの空腹に泣きたくなったあの日。
 在りし日の瞳を、優しく細めて。
 貴女は私に、パンの欠片を分けてくれた。

「あぁ。こんな顔ではもう誰かも分からない……」
 ねぇ、とっても素敵になったでしょう? と。
 領主の使いであるという女性は、背筋が凍りそうな程に美しい笑みを浮かべ私を見つめる。

 今は真っ赤に染まった幼馴染の顔を、誰もが可愛らしいと称えていた。
 本当に優しい子だと。周りの大人達から、いつも優しく頭を撫でられていた。
 私自身、その笑顔に何度も励まされ。その優しさに何度も救われ。
 そんな貴女を何度も見ているうちに……どうして私は、この娘のようになれないのだろうと。
 酷く惨めな気分になった。

「……気に入ってくれたようね」
 だが、そんな幼馴染はもう居ない。
 かつて幼馴染であったものは、目の前の女性の手で見るも無残な死肉と化した。
 震える体は動かず。
 女性から、目を離す事も出来ず。

「なら、わたしは貴方を選んであげる」
 差し出した手に、無意識の内に手を伸ばす。
 一筋。
 頬を伝った涙は、歓喜か安堵か。
 それとも、他の感情から零れたものか。
 私には、もう分からない……。


「攻略旅団の調査によって、『骸運びのブネ』の消息を掴む事ができたよ」
 集うディアボロス達を見回して。
 綴・稀夜(妖狐の魔導忍者・g08573)は、説明を始める。

 場所は、『吸血ロマノフ王朝』のモスクワ近郊。『ゼレノグラード』の町。
 ここでブネは、市民をトループス級の大天使やアークデーモンに覚醒させる儀式を行おうとしているようだ。
「吸血ロマノフ王朝で、この手の儀式っていったら……まぁ、嫌な予感しかしないよね」
 その嫌な予感が今回も大当たりなのだと、稀夜は深く息を吐く。

 現在ゼレノグラードには、死体をレンガのように積み上げた壁で覆われた円形の儀式場が複数造られている。
「そこに、素質があると見込まれた一般の人達が、どんどん集められてるみたいなんだ」
 その為、今この瞬間にパラドクストレインに乗り込み、急ぎ現場に向かったとしても。恐らく、何名かの一般人はトループス級に覚醒させられてしまっている状況だろう。
「だから、今回みんなにお願いしたい仕事は、大きく分けて三つ」

 まず一つ目は、既にトループス級へと変えられてしまった人々へ対処する事。
「クロノヴェーダとして本格的に活動を始める前に、倒してあげて欲しいんだ。それに今回は……」
 トループス級へ覚醒したばかりであるため、救える可能性がある。
「みんなが強く呼びかければ、撃破した後に人に戻るかもしれない」
 覚醒して誕生するトループス級『嫉妬団』は、他者への妬みや自身のコンプレックスを体現した存在。
 その性質に反するような呼びかけや、人でありたいを願う希望を与えるような呼びかけが出来れば、彼らを人に戻す事が出来るかもしれない。
「でも、呼びかけに使える時間はあまり多くないから注意してね」
 儀式場で騒ぎが起きれば、周辺を警備しているトループス級『白衣の天使』達がじきに集まってくるだろう。
 『嫉妬団』への対処に時間を掛け過ぎた場合は、最悪二種類のトループス級を同時に相手する事になる。
「まぁ、覚醒したばかりの『嫉妬団』の方は、戦闘ではあまり強くはないんだけど……」
 仮に『嫉妬団』を人に戻せたとしても、『白衣の天使』とディアボロス達の戦いの最中に放り出される形とはっては危険だ。
 彼らを救出を目指すのであれば、『白衣の天使』達がやってくる前に決着を付けられるよう、呼びかけの言葉や立ち回りを考えておいた方がいいだろう。

「それに、いよいよ騒ぎが大きくなれば、アヴァタール級『紅人魚:アマーリエ』も姿を見せる筈だから。その前に、もう一つやっておいて欲しい事があるんだ」
 アヴァタール級『紅人魚:アマーリエ』は、至る所から生える翼で舞い踊るように戦う大天使。
 だが、その美しい容姿とは裏腹に、己以外の『美』を徹底的に醜く壊す事を好む凶暴な性質を兼ね備えている。
 実力も相当であるため、彼女が儀式場に現れる前に、やるべき事は済ませておくのが望ましい。

「それで、お願いしたい二つ目のお仕事って言うのは……」
 儀式場を破壊する事。
 死体を積み重ね、搾り取った血で紋様を描き。
 更には、切り取った部位を並べるなどして作り上げられた冒涜的な儀式場は、放置すれば再利用される可能性が高い。
「だから二度と使えないように、死体や血で作られた魔法陣みたいなものをぶっ壊してきてくれる?」

 勿論、その警備を務める『白衣の天使』は黙っていないだろうが……。
「あくまでも目標は儀式場の破壊だから、『白衣の天使』を全部倒す必要はないよ」
 この『白衣の天使』達。
 整った容姿をしているせいか『紅人魚:アマーリエ』からの当たりが強く、どうも折り合いが悪いらしい。
 儀式場が修復不可能なまでに破壊されたと判断すれば、現場を放り出してさっさと撤退するようだ。
「当然、それまでは激しく攻撃してくるだろうから、何とか隙を作って儀式場を壊してきて」

 ここまで終える事が出来れば、残る最後の仕事は『紅人魚:アマーリエ』を倒す事のみ。
 だが例え、全ての作戦を滞りなく完了し、アマーリエ一人に集中できる状況であったとしても。
 アヴァタール級であるアマーリエの実力は、確かなもの。
「さっきも言ったけど、アマーリエは自分以外の『美』を徹底的に壊そうとしてくる性質があるんだ。だから下手に美意識を刺激すると、攻撃が苛烈になるかもしれない」
 その性質は、上手く利用すれば戦闘を優位に運べるかもしれないが。
 逆に危機を招く可能性もあるため、十分に注意して欲しい。

「それじゃあ最後に、これは余談なんだけど……」
 突貫の儀式で、トループス級を量産しようとしている今回の事件。
 ブネ自身は有効性があるとは思っておらず、カーミラからの指示でやむなく実行しているようだ。
「事件を起こしてるブネ本人すら、乗り気じゃない……そんな作戦で人の命がどんどん奪われていくなんて、許す訳にはいかないよね」
 チリ紙か何かのように使い捨てられようとしているその命を救えるのは、ディアボロスだけだから。
「みんなの事、出来る限り助けてあげてね」
 出来れば、その心ごと……と。小さく言い添えて。
 稀夜は、ディアボロス達を送り出すのだった。


「さぁ、儀式を始めましょう」
 丁寧に並べられた死体達を前にして。
 『紅人魚』アマーリエが、唄う様に告げる。

 それらはかつて、あたたかな家庭を持っていたもの。
 確かな愛を持っていたもの。
 優しい心を持っていたもの。
 優れた容姿を持っていたもの。
 稀な才能を持っていたもの。

「そう。貴方達には無いものを、持っていたもの達」

 けれど……今はどうだろう。
 丁寧に手足を千切られた死体は、何処にも帰れず。
 唇が切り取られては、愛も優しい言葉も囁く事は出来ず。
 冷たく無残な死肉は二度と動かず。誰もが視線を背けたくなるような姿を晒している。

「分かるでしょう? 貴方達を苛むものは、こうして壊してしまえばいいの」
 その為の力をあげましょう……と。
 怖気が走る程に美しく、甘く。アマーリエは人々に囁く。

「……そうだ。あいつが、幸せそうな面をわざわざ見せやがるから」
「お前なんか、顔がいいだけのくせに……」
 その言葉に惑わされるまま。
 歪んだ感情の発露する人々の目からは光が消え、黒い靄のようなものを纏って。

「そうよ。最初からあんたが醜ければ、私たちはずっと……」
 『  』でいられた筈なのに、と。
 思考も、容姿も。呟いた言葉でさえも。
 全てを、黒く塗りつぶしていった。



 事件の首魁であるアヴァタール級クロノヴェーダ(👿)と会話を行います(状況によっては、トループス級(👾)との会話も可能です)。
 戦闘を行わず会話に専念する事になりますが、必要な情報が得られるなど、後の行動が有利になる場合があります。
 問答無用で戦闘を行う場合は、この選択肢を無視しても問題ありません。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。


特殊ルール 👿または👾で出現する敵との会話に専念する。戦闘行動は行わない。
👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​

→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【士気高揚】
1
ディアボロスの強い熱意が周囲に伝播しやすくなる。ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の一般人が、勇気のある行動を取るようになる。
【未来予測】
1
周囲が、ディアボロスが通常の視界に加えて「効果LV×1秒」先までの未来を同時に見ることのできる世界に変わる。
【フライトドローン】
1
最高時速「効果LV×20km」で、人間大の生物1体を乗せて飛べるドローンが多数出現する。ディアボロスは、ドローンの1つに簡単な命令を出せる。
【腐食】
1
周囲が腐食の霧に包まれる。霧はディアボロスが指定した「効果LV×10kg」の物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)だけを急激に腐食させていく。
【浮遊】
1
周囲が、ディアボロスが浮遊できる世界に変わる。浮遊中は手を繋いだ「効果LV×3体」までの一般人を連れ、空中を歩く程度の速度で移動できる。
【勝利の凱歌】
1
周囲に、勇気を奮い起こす歌声が響き渡り、ディアボロスと一般人の心に勇気と希望が湧き上がる。効果LVが高ければ高い程、歌声は多くの人に届く。
【避難勧告】
1
周囲の危険な地域に、赤い光が明滅しサイレンが鳴り響く。範囲内の一般人は、その地域から脱出を始める。効果LVが高い程、避難が素早く完了する。
【無鍵空間】
1
周囲が、ディアボロスが鍵やパスワードなどを「60÷効果LV」分をかければ自由に解除できる世界に変わる。
【書物解読】
1
周囲の書物に、執筆者の残留思念が宿り、読むディアボロスに書物の知識を伝えてくれるようになる。効果LVが高くなる程、書物に書かれていない関連知識も得られる。

効果2

【能力値アップ】LV2 / 【ダメージアップ】LV3 / 【ラストリベンジ】LV1 / 【先行率アップ】LV1 / 【ドレイン】LV1 / 【グロリアス】LV1

●マスターより

音切
 音切と申します。
 吸血ロマノフ王朝のシナリオをお届けに上がりました。
 時系列は②→③→①④。①はスルー可能です。

『②覚醒直後のトループス級:嫉妬団』
 儀式によってトループス級にされてしまった人達です。
 呼びかけを行う事で、人に戻る可能性があります。
 特に呼びかけをしない場合は、普通に倒して終了となります。

『③敵施設破壊戦闘:白衣の天使』
 儀式場を破壊する事が目的の選択肢ですが、
 儀式場が騒がしくなると『白衣の天使』が素早く戻ってくるため戦闘となります。
 白衣の天使は防衛の為に猛攻を仕掛けてきますが、
 取り繕えないくらい儀式場が破壊されてしまった場合は、さくっと撤退します。

『①クロノヴェーダとの対話』
 戦闘前に、アマーリエからの情報収集を試みる選択肢です。
 特に聞きたい事がなければ、スルーして④の方にご参加ください。

『④アヴァタール級との決戦『紅人魚』アマーリエ』
 この儀式を取り仕切るアヴァタール級です。
 彼女を倒す事が、この事件の最終目標となります。

『その他』
 筆が遅い為、ゆっくり進行となります。
 お目に留まりましたら、よろしくお願いいたします。
20

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


シャムス・ライラ
(全身タイツだけど)
妬む気持ちがあったとしても
こんな凄惨な展開は望んでいなかっただろう
人に引き戻すことが可能なら手を尽くしたい

穏やかに丁寧に話しかけ
彼らの意見にも耳を傾け

彼らが最初から醜かったり、不幸そうだったら
妬む心は起こらなかったかもしれません
でも、それは憧れる心と表裏一体
自分が良いと思ったものに憧れる気持ち
そんなきらきらしたものを否定しても
自分が憧れたものになった訳ではない
むしろ何もない
そんなことを望んでいたわけではないでしょう
人であってこそ
なりたいもの、やりたいことに近づくことも出来るはず
大切にしていた気持ち
さぁ、思い出して
自分はどうなりたいのか、何をしたいのか

百の台詞にいささか照れつつ
そっと自らの指輪に触れて
幸せは巡ってくるものなのですよ
色々偶然が重なりあって
乗り越えられることもあるのです、と

星の銀で無数の盾を形成
攻撃を防ぎ、元に戻った者も盾で庇い、安全な場所へ素早く避難させる
動けない者はフライトドローンも使用

クロノヴェーダの思い通りにはさせません

アドリブ等歓迎


一・百
【百夜】
何だかとんでもない姿に…
全身タイツなのに、あれ天使なんだよな…
深刻な状況なのに嫉妬団の姿に微妙な表情
…元に戻してやらないと
まだ間に合うのだから…

キミ達にどんな悩みがあったのか俺には分からないが…
本当に人としての幸せを手放していいのか?
今の自分の姿を見たか…?

綺麗な者もそうでないものも
大切な家族はいなかったのか?
愛する人はいないのか
俺には居る…共に生きたいと思う人が…
指輪に触れながら
そんな姿じゃ大切な人に会うことも
これから幸せになることも出来ないじゃないか…
もしかするとこれから出会うかもしれない幸せをここで手放していいのか?
シャムスの照れた気配につられ照れ
嬉しそうに尻尾と耳をゆらゆら
リア充なのは隠さない

彼らの妬みなどに耳を傾け
斜め笛に作り替えた紅玉姫を奏で千一夜詩で彼らが希望を抱ける幻想を見せる
俺は足を失い命を失い名を失った…
でも生きていたから…今は幸せだ…

シャムスと位置を確認し敵に囲まれないように動き
助けた人は安全な場所へ移動


「あれ、天使なんだよな……」
 開口一番。
 思わず零れた一・百(気まぐれな狐・g04201)の言葉に。
「その……はず?」
 シャムス・ライラ(極夜・g04075)は何とも言えない、困った笑みを浮かべる。

 事前に聞いていた情報からして。二人が視線の先に捉えているクロノヴェーダは、紛う事なき天使であるはず。
 あるはず……なのだが……。
(「何だかとんでもない姿に……」)
 吸血ロマノフ王朝の街並みには、何とも馴染まぬその出で立ち。
 ……いや、TOKYOエゼキエル戦争の地でも、恐らく別の意味で浮いていただろう全身黒タイツの姿に、つい気を抜いてしまいそうになる。

(「……でも、元に戻してやらないと」)
 状況は、深刻なのだから。
 緩みそうになる心ごと振り払うように、ふるりと頭を振って。
 改めて見つめた。百の月色の瞳に映るのは、悪夢のような光景。

 とうに事切れている事を示す、生白い肌色を晒した遺体が折り重なり。
 変色しかかった赤黒い血が、地に紋様を描く。
 鉄錆に似た臭いが鼻を付く、凄惨としか言いようのない広場の只中に、彼ら――『嫉妬団』は立っているのだ。

 奇抜な出で立ちに、気を取られている場合ではない。
 彼らが、クロノヴェーダとして動き出す前に、止めねばならない。
 それに……。
(「まだ間に合うのだから…」)
 覚醒したばかりの今ならば、まだ。
 希望は消えていないのだから。

 行こうかと問う、百からの視線に頷いて。
 シャムスがゆっくりと、嫉妬団へと近づいてゆく。

「おい、てめぇ。ここはアマーリエ様の儀式場だ!」
 その姿を認め、近付くなと。
 声を荒げる嫉妬団は、しかし。シャムスの顔に視線を留めて、ピタリと動きを止めた。
「おまえ……おまえは……」
「?」
 訝し気に首を傾げるシャムスへ、嫉妬団の一人が言い放つ。

「随分と幸せそうな顔してやがるな?」

 ならば壊せ。
 壊してしまえ……と。
 殺気が膨らみ、シャムスを射抜く。
(「妬む気持ちを、随分と『強められている』ようですね」)
 咄嗟に身を引いた。
 その空間を、彼らの嫉妬心を体現したかのようなどす黒い弾丸が通り過ぎ。
「ぶっ壊れちまえ!」
 嫉妬団の叫びに、応えるように。
 急角度に軌道を変え。再びシャムスへと迫るその弾は、一般人には使える筈のないパラドクスによるもの。
 生成した金属で、盾を成そうとも。
 その衝撃は実体無き弾となって、盾を支えるシャムスの両手を貫いてゆく。

 数多の戦場を知るディアボロスの目から見れば、その技は拙いものだが。
 それでも、彼らをここから逃がしてしまえば。多くの人々が、この弾丸の餌食となるのだろう。
 この儀式場を成す、遺体のようにされてしまう。

 だが、本来の……人間としての彼らならば。
 このような結末も、そんな展開も望んではいなかっただろうと。
 信じるからこそ、反撃の手を止め。シャムスは語る。

「そこに横たわっている彼らが、最初から醜かったり不幸そうだったら……妬む心は起こらなかったかもしれません」
「そうだ。だから俺たちは壊すんだよ!」
 苛立ちを吼える嫉妬団の、仮面越しでも分かる鋭い視線を受け止めながら。
「キミ達にどんな悩みがあったのか俺には分からないが……」
 弾丸が掠めた腕から血が流れるのもそのままに。瞳を細めて、百が問う。
「本当に、人としての幸せを手放していいのか?」
 嫉妬の感情が荒ぶるままに、こんな風に人を傷付ける力は。決して彼らを幸せにはしないだろう。
 それだけは、百にもハッキリと分かるから。
「今の自分の姿を見たか……?」
 誰かの眩しい姿を目にした時。
 その輝きに嫉妬心を抱いた時。
 その輝きを纏う自分の姿を、想い描いたりはしなかったのかと。
 問う百の言葉に、シャムスの言葉が繋がる。
「それは憧れる心と表裏一体」
 憧れたその輝きを、どれだけ無残に壊そうとも。
「今の貴方達は、その憧れたものになった訳ではない」
 シャムスの青い瞳に映る彼らは、唯の破壊者でしかない。
 その奇怪な姿と破壊しかできない力で、どう輝けると言うのだろう。
「そんなことを望んでいたわけではないでしょう」
 それは、彼らが憧れていた筈の姿とは、あまりに似つかず。あまりに遠い。

「ぐっ、それは……」
 嫉妬団の攻撃が、鈍るその隙に。 
「さぁ、思い出して」
 自分はどうなりたいのか、何をしたいのか。
 なりたいものへ、やりたいことへ近づく道に、彼らを引き戻すために。
 ゆっくりと距離を詰め、シャムスは手を伸ばす。

「……」
「綺麗な者もそうでないものも、大切な家族はいなかったのか?」
 沈黙した。その仮面の奥で、嫉妬団がどんな表情をしているのかは分からない。
 分からないけれど、もしかしたら今ならば……。
「愛する人はいないのか」
 人として生きていたからこそ得られた、大切な存在に。
 共に生きたいと思えるようになった、奇跡のような出会いに。
 理解を示してくれないだろうかと。
「俺には居る。共に生きたいと思う人が……」
 百の指は、その手に嵌った銀の煌めきをなぞる。

「……なんだ」
 低く。暗く。
 地を這うような声が、嫉妬団の口から零れたのは、その時。
「結局、お前らも『そっち側』かよ」

(「ちがっ……!」)
 失望の言葉と共に、敵意が膨らむ。
 空気が変わる。
 マズいと思うより先に、嫉妬の弾丸は雨のごとく百へと降り注いだ。

「どーりで、きれいごとばっか吐ける訳だぜ!」
「所詮お前らには、俺たちの気持ちなんか分かんねーんだよ」

 違う。
 己の幸運を見せつけたかった訳ではないのだと、叫びたくとも。
 言葉は、弾雨に消されてゆく。 
 自分自身、誰かに憧れられるほど多くのものを持っているとは思っていないのに。
 一度は足を失い。命を失い。名前さえ失って……それでも。
 過去の出来事は、嫉妬団にとっては預かり知らぬこと。
 希望を見せるための旋律も、彼らが心の耳を閉ざしてしまっては。ただ、無情なダメージを刻んでゆくのみ。

「百、今は……」
 激昂する彼らに言葉は届かないだろう、と。
 百の前に立ちはだかるように、前へと出たシャムスの耳に、更に別の声が響く。

「みんな、ディアボロスがいるわ! 早く儀式場へ戻って!!」
 ディアボロス達に、決断の時が迫っていた――。
善戦🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​
効果1【フライトドローン】LV1が発生!
【未来予測】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!

 清楚な白い衣装に、純白の翼。
 その姿を目にした誰もが、それは『天使』であると答えるだろうトループス級クロノヴェーダ――『白衣の天使』は、儀式場に立つディアボロス達の姿を認め、美しいその顔を歪めた。
「やだっ、本当にディアボロスが居るじゃない!」
「こんなの知られたらアマーリエ……さまに、何て言われるか分からないわ」
 消さないと。
 片付けないと……と。
 集う白衣の天使の間で、殺意と喧騒が広がってゆく。

 それはやがて、『紅人魚:アマーリエ』の元にも届くだろう。
 『嫉妬団』もまだ残っているこの状況に、アヴァタール級が加わっては。いよいよ厳しい状況になる事は、想像に難くない。

 だが、『嫉妬団』の戦闘力が低い事は、既に現地のディアボロス達がその身で確認している。
 為すべき目標……すなわち、『嫉妬団』の撃破と、儀式場の破壊だけに注力すれば、まだ十分に挽回は可能だろう。
 けれど、それ以上の結果を諦めないのであれば……。

 どちらを選ぶにしても、今決めねばならない。
 『紅人魚:アマーリエ』が、この場に現れる前に。
 全ては、現場へ集うディアボロス達の決断に委ねられる――。
一・百
【百夜】
駄目なのか…難しいな…
だが儀式場を壊せば新たな犠牲は増えないはず…

警備?
何だか俺達への殺意が強いな…
天使…ということは、さっきの全身タイツと同じ仲間だな…
うむ。俺、覚えた…

クロノヴェーダに邪魔はさせない…
片付けられるのはお前たちだ…
耳飾りよりジンのキューコン(九尾の銀狐姿)を呼び出し、纏う。
ジンを纏った紅玉姫で舞うように斬りつけ、
キューの尾で施設ごと巻き込んで攻撃しよう
そうすれば警備というなら、壊す者のほうが放っておけないだろう…
黒タイツを巻き込まないようにしながら、
出来るだけこちらに集まるように派手に撃破(破壊)を
更に増援されないよう、常に周囲状況に気を配りながら早期撃破と破壊を狙う

結界…キューは昇天するかな?
兄様だし…
キューは首を振り否定
安心しろ消えたらまた呼んでやろう…
張られた結界はPDを広範囲でぶつけ壊し儀式場も巻き込んでく

そこの天使(?)シャムスにそれ以上近付くな…
残る覚醒した人は落ち着いただろうか…


(「難しいな……」)
 紅き刃の妖刀――『紅玉姫』を握る手に、力が籠る。
 言葉や態度は、自分の意図とは違う受け取られ方をする事もある……それは分かっていても。
 一・百(気まぐれな狐・g04201)の胸には、悔しさが滲む。
 彼らの心の傷に触れるべきではなかったか、あるいはもっと違う言葉を掛けていればよかったのか……ゆっくりと反省する時間も、今はない。

「何でディアボロスがこんな所にいるのよ!」
 招かれざる者のヒステリックな甲高い声がそこかしこで上がり、儀式場を包んでゆく。

『……百』
 聞き慣れた。
 落ち着いたパートナーの声に名を呼ばれ、顔を上げれば。
 百の瞳に映るのは、儀式場へと集い来る新たな敵――『白衣の天使』達の姿。
「アマーリエ様に知られる前に、さっさと片付けないと……!」
 その名に相応しい端正な美しい顔に、憎しみを表して。
 見た目は清楚な姿から放たれる殺気が、ひしひしと百の肌を刺す。

「……警備?」
 ディアボロスへの明確な敵意と、白い翼を背負うあの姿は間違えようもなく。
「さっきの全身タイツと同じ仲間だな……」
 倒すべき敵――大天使だと。
 急速に研ぎ澄まされてゆく百の意識に呼応するように。
「キュー、出番だ」
 耳元で揺れる蒼石より、狐のように見えるジン――『キューコン』がするりと飛び出した。

 嫉妬団の救出は、まだ完遂出来ていないけれど。
 百達が掛けた言葉は……そこから引き出した嫉妬団の反応は、後を引き継ぐ仲間への確かな情報となるだろう。
 それをどう活かすのかは、その仲間次第。

(「儀式場を壊せば……」)
 今、自分たちに出来る事は、それとは別にあるはずだと。
 ちらりと向けた視線が伝わったか。
 パートナーから返って来た、青い視線と心強い頷きに。百は、紅玉姫を握り直す。

「片付けられるのはお前たちだ……」
 キューコンの白い輝きが、ふわりと。
 百の体に降り積もる。
 その柔らかな光の中で、刃を振るう手は紅い一線を引き。
(「邪魔はさせない」)
 同時。
 狐の尾のごとく伸びる尻尾が、赤く染まった大地を抉る。

「儀式場が……!」
 何て事をするのだと。
 白衣の天使の視線が、殺意が。百へと集中するが、それでいい。
 彼女たちの注意を引きつければ、それだけ。嫉妬団へと向かう仲間が自由に動けるのだから。

「さっさと消えなさい!」
 白衣の天使が織り成す結界が、百を包み。一瞬、息が詰まる。
 彼女たちクロノヴェーダからすれば、ディアボロスこそ不浄の存在だと言う事か。
(「キューは……」)
 昇天してしまわないだろうかと。
 伸ばした手に、キューコンのエネルギー体が柔く触れ。まるで、大丈夫だと応えるように。
 キューコンが首を横に振るのを感じれば。
「安心しろ」
 例え消えてしまっても、自分たちの繋がりまでは消せやしないのだと。
 再び放つパラドクスの力が、一層強く、眩しく。
 キューコンへと力を与え、百の姿を真白に染め上げてゆく。

『百、無茶しないようにね』
 頑張って、と。パートナーの声を背に受けて。
 赤黒い大地を、軽やかに蹴り。
 舞う様に。見せつけるように、儀式場を抉り壊しながら。
(「覚醒した人は落ち着いただろうか……」)
 視界を覆い尽くす白衣の天使達の向こう。
 振るう刃の血しぶきの向こうで、人々が救われている事を。
 百はひたすらに祈るのだった――。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【浮遊】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!

夏目・ありす
あの子なんていなければいいのにって感情が嫉妬
あたしにもよくわかるよ
たぶんね、嫉妬がなかったら
あたし、サキュバスなんかになってないと思うんだ

あたしより可愛い子
あたしよりお喋りが上手な子
あたしより頭のいい子
友達だよねって笑った子たち

みんな、いなくなっちゃった

貴方たちも「ざまあみろ」って思ったんだよね
でも、心の底からそう思ってる?
あたしはね、とっても寂しい
新宿島で、あたしはひとりきり
嫉妬もしなくなったけど、孤独になった

そんな自分を、貴方たちは許せるの?

さみしいんだよね
自分の弱さが悔しいんだよね
それから目をつむって
一生懸命憧れを否定して

負けちゃだめだよ?
あたしも、貴方たちも生きてる
それはまだ憧れを超えられる可能性があるってこと

反省しろなんて偉いことは言えない
でもね、生きてってことは言えるよ
あたしはね、貴方たちに生きてほしい
どうかな?

世界ってね、意外と優しいって、あたし最近知ったんだよ

あ、天使は黙っててね?
別に攻撃してきてもいいけど、引っ掻いちゃうよ?

アドリブ、連携歓迎です


「貴方達も、さっさとディアボロスを排除なさい!」
 トループス級『白衣の天使』の、ヒステリックな声が儀式場に響く。
 だが、今にも動き出さんとする『嫉妬団』の前に……。
「あ、天使は黙っててね?」
 夏目・ありす(不思議の国の・g05978)が立ちはだかる。

「なんだてめぇは!」
 幸いにも、仲間が白衣の天使を抑えてくれている今ならばと。
 白衣の天使に堂々と背を向け、嫉妬団の憎しみに満ちた視線を真っ直ぐ受け止めて。
 ありすはゆっくりと、語り始める。

「あの子なんていなければいいのにって気持ち……あたしにもよくわかるよ」
「……どうせ口先だけだろ」
 本当にわかるのなら、邪魔をするなと。
 次々と投げつけられる怒りの言葉に。
「友達がいたの」
 それでも、めげることなく。ありすは語り続ける。

 あたしより、可愛い子がいて。
 お喋りが上手な子がいて。
 頭のいい子がいて。
「友達だよねって笑った子たち……みんな、いなくなっちゃった」

 刻逆の、あの日。
 素敵なお友達は、みーんな消えて。でも、ありすは消えなかった。
 まるでありすだけが、神様から祝福でもされたみたいに。

「だから思ったんだよね」
 ――貴方たちも、そうでしょう、と。
 悲しそうに小さく笑って、ありすは言い放つ。

「『ざまあみろ』って」
「あんた……」
 その言葉を、嫉妬団は否定できない。
 出来る筈もない。
 彼らの怒気はいつの間にか消え失せて。嫉妬団の耳は、今確かにありすの方へと向いていた。

「でも、あたしはね……いま、寂しい」
 とっても、寂しいのだと。
 心情を吐露するありすの瞳に、悲しい色が揺れる。

 確かに、友達は眩しかったし。自分は嫉妬していたと思う。
 このサキュバスの姿はその現れだと、ありすは思っているから。
 けれど、友達が居なくなって。胸がすく思いがしたのは、ほんの一時。

「貴方たちも、さみしいんだよね」 
 一人になって。
 嫉妬していたくせに、友達が恋しくなって。
「自分の弱さが悔しいんだよね」
 そんな都合の事を考える自分が、もっと惨めになってゆく……わかるよ、と。
 ありすはゆっくりと、嫉妬団へと歩み寄る。

 その言葉を、口先だけなどと否定する者は居ない。
 彼らの視線も、聴覚も。ありすだけに集中して。
「負けちゃだめだよ?」
 言葉が、届く。

 反省しろなんて、偉そうなことは言えないけれど。
 生きていれば、憧れを超えられる可能性は、いつもそこにあるのだから。
(「世界ってね、意外と優しいんだよ」)
 ありすが、最近それを知れたように。
 彼らは、まだ知らないだけだから。
「あたしはね、貴方たち『に』生きてほしい」

 言葉と共に。
 パラドクスを伴い振るう刃が、嫉妬団のクロノヴェーダとしての肉体を断つ。
 黒い影のような体は、空気の溶けるように霧散して……。
「……あれ、ここは……」
 本来のあるべき姿を取り戻した人々が、ゆっくりと目を覚ます。
 そして。

「ぅ、うわぁぁぁぁぁ!!?」
「……っ、待って!」
 人の死が蔓延した、悪夢のような儀式場の中で。
 白衣の天使が近くに居る状況で、人々が目を覚ます事の危険性にありすが気付くのと。人々から悲鳴が上がったのは、ほぼ同時。

「ダメっ!」
 離れないでと伸ばしたありすの手が、空を掴む。
 恐怖と混乱は、一瞬で人々へと伝播し。
 幾人かの人が、戦場を散り散りに逃げてゆく。

「ぁ……私たち、は……どうすれば……」
 ありすの元に残った人々の、弱々しい声に背を押される形で。
「……あたしに付いて来て」
 まずは残ってくれた人たちを、確実に救わなければと。
「大丈夫。安全なところまで、絶対に守るから」
 明るく。励ましの言葉を紡ぎながらも。
 戦場に散らばってしまった人々が、無事に逃げられますようにと。
 ありすは、一心に祈るのだった。
🎖️🎖️🎖️🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【腐食】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!

シャムス・ライラ
【百夜】
切り替えて参りましょう
これ以上犠牲者を出さないために
儀式場を完膚なきまでに破壊しなければ

もし救えた元嫉妬団がいたなら
刺激ないよう声がけし
速やかに安全な場所へ避難を

支障がなくなったなら
仲間と力を合わせ、儀式場に取り掛かりましょう

私が使う技は【叙事詩】
本来ならば手厚く葬って差し上げたい亡骸ですが
今は時間がありません
どうか許されたくと心の中で祈りつつ

勇者に降りかかりし災厄
業火よ
積み重ねられし遺体を焼き尽くせ
洪水よ
血の紋様を洗い流せ
暴風よ
塵も残さぬよう拭き散らかせ
二度とこのようなことが起こらぬように
彼らの魂を天まで送り
安らかな眠りを与えたまえ

未来予測でトループスが来ることが一瞬早くわかったら
速やかにパラドクスで迎撃を
敵を巻き込みつつ
さらに儀式場を破壊

敵攻撃は…
死の天使ならば浄化ではなく穢れでは?
フライトドローン等の足場を駆使して
素早く結界から逃れ
もし毒を浴びたら精神力で耐え
さらに戦闘を続行します
被害者達の事を想えばこれしきの毒等…

キューコン殿頑張って
百、無茶しないようにね

アドリブ等歓迎


『ダメっ!』
 離れないでと。
 誰かの声が、シャムス・ライラ(極夜・g04075)の耳に届く。
 クロノヴェーダの声ではない……が、パートナーの声でもない。それは、嫉妬団への対応を引き継いだ、仲間のもの。
(「向こうで何が……」)
 今は、嫉妬団を刺激しない方がいいだろうと。
 パートナーと共に、あえて『白衣の天使』への対応に集中していたシャムスの脳裏に、嫌な想像が過る。

 素早く巡らせた視界に。
 迫りくる白衣の天使たちの合間に、想像とは違う……しかし、想定よりも遥かに危険な状況を目にして。
 シャムスの心臓は、大きく跳ねた。

「ちょっと、何でこいつら人間に戻ってるのよ!?」

 この儀式場に。戦いの真っただ中に、逃げ惑う人々の姿。
 恐慌状態なのだろう。
 言葉にならない悲鳴を上げて、めちゃくちゃに走るその姿は、この戦場であまりにも目立つ。

「いまさら逃げるつもり?」
「だったら死体にして使ってあげるわ」

(「いけない……!」)
 白衣の天使の視線が、シャムス達から剥がれる。
 人々の方へと向かってしまう。
 恐らくあれは、嫉妬団から人の姿へと戻る事ができた人々なのだろう。
 そして人として改めて、血と死肉によって造られたこの儀式場を見る事になったのだとしたら……恐慌状態となるのも無理はない。

「早く安全な所へ!!」
 張り上げた声は、果たして。人々へ届いているだろうか。
 こうもバラバラに逃げられては、とても手が回らない。
 それでも。

 これ以上、犠牲者を出さないために切替ていこうと。
 パートナーとも声を掛け合ったのだ。
 一人でも多くの人が逃げ延びられるよう、白衣の天使の注意を引かなければと。
 シャムスの唇が、叙事詩を紡ぐ。

 それは、後に勇者と呼ばれたものに降り注いだ厄災。
 文明を破壊するほど劫火と洪水。
 だが、シャムスの力で再現されたそれは。
 遺体を焼き、血の紋章を洗い流して。
 死してなお、尊厳を踏みにじられた人々を守る為の力となる。
(「彼らの魂を天まで送り、安らかな眠りを与えたまえ」)
 本当ならば、手厚く葬ってあげたいけれど。
 今はこれで許して欲しいと、心の内で祈る。

「あなた、また儀式場を……!」
「結界で浄化してあげる!!」
 投げつけられる白衣の天使の言葉よりも、シャムスの耳は、どこかで上がる人々の悲鳴を拾ってしまう。
 空気に混じり始めた鮮血の臭いに、気は逸るけれど。
 今のディアボロス達に、一人一人を護衛して回れる程のリソースはない。
 ならば、少しでも多くの天使を引き付け、一秒でも早く儀式場を破壊するのが最善手だと。
「死の天使ならば浄化ではなく穢れでは?」
 シャムスは、人々の元へ駆け出しそうになる体を抑えて。
 挑発の言葉を紡ぎ、渾身の力をパラドクスへと籠める。

「ディアボロスの分際で……!」
 白衣の天使が織り成す結界に包まれて、視界が揺れた。
 まるで、毒を直接体に流されているような。
 血管の中で、血液がグラグラと沸騰するような感覚と共に、平衡感が失われてゆく。
(「被害者達の事を想えばこれしき……」)
 だが、それが何だと言うのだ。

『シャムスに、それ以上近付くな』
 パートナーの頼もしい声が、シャムスの背を押して。
 白衣の天使の一体が斬り伏せられた、その隙。
 焼け。流せ。吹き散らかせと。
 詠う叙事詩は今度こそ、真に厄災として白衣の天使へと降りかかる。

 もう二度と、このようなことが起こらぬようにと。
 集うディアボロス達の祈りを乗せて。
 炎が、水が、風が。儀式場を飲み込んでゆくのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【書物解読】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!

「やだ。嘘でしょ……?」
 血で描かれた紋様は、砕かれ。流され。
 遺体を積み上げた円陣も、原型も分からぬ程に崩れている。
 更には、一度は覚醒させた筈の人間達にまで、ほとんど逃げられてしまうなど……。
「こんなの、アマーリエに知られたら……」
 間違いなく、無事では済まない。
 完全なる失態だと、白衣の天使に動揺と焦燥が広がってゆく。

 本当ならば、彼女たちはここで撤退する筈だった。
 儀式場が破壊されたら、白衣の天使はすんなり居なくなると。
 時先案内人も、はっきりとそう言っていた。

「私に知られたら……どうするつもりかしら?」
「ぁ……アマーリエ、さま」

 だがそれは、上官が居合わせなければの話。
 最後まで人々の救出を諦めなかった事で、ディアボロス達は多くの命を救ったが。
 そちらに力を割いた分だけ、儀式場の破壊には時間を要した。

「ディアボロスごときに、よくここまで好き放題させたものね」
 まったく無様で可愛らしいと。
 甘く。柔らかく。しかし、ぞっとするほど冷たい声色で。
 姿を現した大天使『紅人魚:アマーリエ』は、白衣の天使を嗤う。

「申し訳、ございません……」
 上官たるアマーリエがこの場に現れた以上、白衣の天使も逃げる訳には行かないだろう。
 このままでは、総力戦になると。
 ディアボロス達の中で、否応なく緊張が高まってゆく。

 だが、ディアボロス達の視線が集まる先。
 アマーリエは、白衣の天使へ穏やかに微笑みを浮かべて。
「ほんとに。あまりに無様過ぎて、とっても『素敵』よ貴方達」
 『毒の言葉』を投げつけた。

「……ぇ?」
 白衣の天使の整った顔が。真白の翼が、ぐずりと崩れて。
 一人。また一人と。
 頽れ。湿った音を立てながら、地に伏してゆく。

 クロノヴェーダがクロノヴェーダを殺す。
 あまりの異常事態に、ディアボロス達も動く事が出来ぬまま。
「アマーリエ様、お止めください!!」
「もっと素敵にしてあげる」
 声を上げたものは業火に焼かれ、堪らず逃げ出そうとしたものは切り刻まれて。
 瞬く間に、白衣の天使達はその数を減らしていった。

「ふふ。ふふふふふふ……」
 自分の部下を一人残らず始末して。
 静まり返る空気の中、アマーリエは満足そうに笑みを零す。
「それじゃあ次は……」
 貴方達の番ね、と。
 死臭の鼻につく。異常としかいえない空気の中で。
「貴方達も素敵に……綺麗にしてあげる」
 アマーリエはディアボロス達を見つめ、聖母のように笑った――。
夏目・ありす
…まだ、だと思うんだ
今、アマーリエに挑めば勝つことはできるかもだけど
一般の人を巻き込んでしまう

後で【勝利の凱歌】が響くことを祈って
ちょっとだけ時間稼ぎ
あたしなんかが質問して大丈夫か不安だけど

助けたいんだもん、やるしかない

アマーリエをまっすぐに見据えて
疑問をね、告げるの

骸運びのブネも綺麗だって聞いてるよ
アマーリエはブネの命令を聞くのは構わないの?
他の悪魔や吸血鬼に仕えたほうが
貴女の美しさは映えるんじゃないかな?

なんて答えるかな
鼻で笑われるかな
それでも構わない

あたしの後ろには怯えた人たちがいる
あたしの背中を見てる

あたしは背筋を伸ばしてまっすぐにアマーリエを見る

その仕草だけで、落ち着いてくれるかな
あたしたちを信じてもらえるかな

あたしを「姫君」って言って応援に来てくれた
あたしの騎士さまのためにも
あたしは、諦めるわけにはいかないんだ

お話をハッピーエンドで終わらせてみせる

アドリブ、連携歓迎です


 幾人かの人々を、安全な所へと送り出して。
 夏目・ありす(不思議の国の・g05978)が舞い戻った儀式場……否。今は、唯の荒れ果てた広場と化したその場所は、騒然とした空気に包まれていた。
 血の紋様を洗い落とした筈の地面に、じわりと広がる鮮やかな赤色は。無残な姿へと変えられてしまった白衣の天使のものか、それとも……広場の中にはもう、生存者の姿は無いようだけれど。
(「……まだ」)
 安全な場所まで逃げきれていない人が、いるかもしれない。
 万全を期すのなら、あともう少し時間が必要だと。ありすの手に、力が籠る。

 最終人類史とは全く異なる歴史が築かれている、この場所で。
 このディビジョン出身ではない自分の言葉に、どれだけの重みを乗せられるか……正直、自信は無いけれど。
 ありすの言葉に応えてくれた人々が戦いに巻き込まれる危険性を、少しでも減らす事が出来るなら。
(「助けたいんだもん」)
 自分の焦がれる理想のために行動できるのは、自分だけなのだから。

「貴女は、『骸運びのブネ』の部下……なんだよね?」
 やるしかないのだと。
 ありすは『紅人魚:アマーリエ』の方へと進み出る。

「ディアボロスごときがブネ様を……不敬な」
 真っ直ぐ見据えた。
 アマーリエの美しい顔に、不快の色が浮かべば。
 ありすの心臓は、早鐘を打つけれど。
「そのブネ……様も、綺麗だって聞いてるよ」
 その迫力に呑まれてはいけないと。
 己を鼓舞し、アマーリエに調子を合わせつつ、ありすは問う。
「貴女は、ブネ様の命令を聞くのは構わないの?」

 馬鹿な問いだと。
 笑われて、一蹴されるのならば、それでもかまわない。
 時間稼ぎのための質問は、しかし。ありす自身も、疑問に感じていた事。

「他の悪魔や吸血鬼に仕えたほうが……」
「なんですって?」
 だがその問いは、途中で遮られた。
 低く響いたアマーリエの声に、空気が凍えてゆくような感覚。
「吸血鬼? この私に、カーミラに仕えろと?」
 苛立ちを露わにするアマーリエの態度に、これ以上は危険だと。本能が警鐘を鳴らしている。

 けれど、助けた人々に掛けた言葉を、嘘にする訳にはいかないから。
 応援に来てくれた『騎士さま』の視線を受けて。
 背筋はしゃんと、真っ直ぐに。
 堂々と胸を張り。緊張を見事に隠した柔らかな笑みで、ありすは続けた。

「そっちの方が、貴女の美しさは映えるんじゃないかな?」
 ……ほう、と。
 アマーリエの唇から、吐息が零れる。
「なるほど。あなたは私の『美』を、正しく理解しているようですね」
 己の容姿を称えられたと受け取ったか。
 肌を刺すような敵意が、僅かに和らいだ。
「ですが……」
 だがそれも、一瞬の事。
 細めた異形の目に、嘲笑を浮かべて。アマーリエはきっぱりと言い切る。
「カーミラのような小物に仕えるなど、あり得ません。あの立場には、いずれブネ様が立たれる事になるでしょう」

 『ぇ』と。
 思わず零れそうになった声は、辛うじて抑え込んだ。
(「カーミラって、小物だと思われてるんだ……」)
 『死妖姫カーミラ』と言えば、このディビジョンで大きな権力を持つ幹部だったような気がするのだけれど。
 ……思いがけず、面白い話を聞いてしまった気がする。

(「あとは……」)
 話の区切りがついた所で、当初の目的であった時間稼ぎの方も十分な頃合。
 あとは、逃げ延びた人々が安心して生きられるよう。
 このお話を、ハッピーエンドで終らせてみせると。

「でも、ブネもカーミラも私たち……ディアボロスが倒してみせるよ」
 勿論、貴女の事も……と。
 ありすは、開戦の時を告げるのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!

マタ・クリスタニカ
・マイペースに戦うが他の仲間によるチャンスには積極的に乗っかる。

・決戦であれば、私の出番だろう。剣しか取り柄の無い私だ、素敵や綺麗等といったものとは程遠いが…うまく使ってくれ。

・さて、あえて敵の数を減らしてくれた事に感謝でもすべきかな?とはいえ、流石にこうも見境なくされてしまってはな。こちらも、程遠いとはいえ、意地でも行儀よく振舞って見せねばならぬというものだ。

・鍛え上げた【貫通撃】をもって、相手を穿つ。嫉妬の感情は、【勇気】と【殺気】、二つの精神をもって受け流し捌き切る。【突撃】し、【臨機応変】に相手に【時間稼ぎ】をさせぬよう立ち回り、相手の呪詛より早く、相手の心の臓を目掛け一撃を叩き込む。

・「生憎、他人からの嫉妬も、自らが抱える嫉妬も無縁でね。ひたすらに、愚直なまでに、我が望むがままに、貫きの技、その届かぬ果てを目指し突き進んだ愚か者。それが私だ」

・「麗しの姫君が無辜の民に心に響く言葉を贈られた。なれば、私も騎士の真似事、貫くまでよ!」


『勿論、貴女の事も……』
 私たち――ディアボロスが、倒すのだと。
 マタ・クリスタニカ(幻奏にして現創の剣・g04728)の『姫君』が言う。

 翡翠の視線の先、背筋を伸ばして美しく佇む彼女が、開戦の時を告げたのならば。
 ここからは、自分の出番だと。
 ゆっくりと抜いた、レイピア――『キッフェルン』が、陽光を受け輝く。

「最初の相手は、あなた?」
 そんなマタへと視線を移し、クスリと笑った。
 この死肉と血に塗れた広場にあっても、美しいと思わせるアマーリエの笑顔に、ぞくりと。
 否応なく、悪寒にも似た感覚が走る。
「そうなるか。あんたが白衣の天使を片付けてくれたおかげだな」
 その感覚は、己の部下をいとも容易く肉塊へと変えたアマーリエの残虐性に対して覚えたものか、それとも。
 血生臭い景色の中でも、美しいと思わせる異形の姿に覚えたものか……分からないが。
「感謝すべきかな?」
「ふふ。結構ですよ」
 蠱惑的な笑みを浮かべる、アマーリエに。こちらも相応の振る舞いを見せねば。
「貴方方も、すぐに一緒に転がる事になるでしょうから」
 白衣の天使と、同じ末路を辿る事になると。
 マタは戦いの構えを取る。

 幾百。幾万……いや、もっと。
 数えきれぬ鍛錬の先に、肉体が記憶した形に筋肉を伸縮し。
 重心を低く。両の足で、しかと大地を踏みしめたなら。
 キッフェルンの剣先はピタリと、アマーリエに向く。

「生憎、他人からの嫉妬も、自らが抱える嫉妬も無縁でね」
 出来る事と言えば、この貫きの技くらい。
 愚直なまでに。ただひたすらに。
「その届かぬ果てを目指し、突き進んだ愚か者」
 それが、自分だと
 アマーリエが言う所の『素敵』や『綺麗』といったものとは、程遠いものだろうと。
 マタは己を笑ってみせるが。 

「そうですね。確かに、私の好みではないけれど……」
 まるで、絵画のように静止した。
 剣先に僅かなブレもない構えを見せるマタに、アマーリエはどこか楽しそうに笑みを深めて。
「それなら、私が……」
 ――貴方を素敵にしてあげましょう、と。
 形のよい唇が、毒の言葉を紡がんとする……その前に。
 マタが魅せるのは、研鑽の美。

 あらゆる地形。あらゆる状況。
 その中で剣を振るってきた肉体は、この場。この瞬間の最適解を瞬時に叩きだし。
 鍛え上げられた筋肉が、力を爆発させる。

 大地を踏みしめ、足から腹へ。背筋をバネに、腕へ。
 更にその先、握りしめた剣へと。
 力は伝わり、更に膨れ上がりながら。
 終着点を目指して走る。

 現実の時間では、瞬きする間も無い程の光速の突き。
 だが、その切っ先が届く直前に。アマーリエの力が、強烈に時空を歪め。
「貴方が地を舐める姿を、見せてちょうだい」
 零した吐息は、見えぬ毒となり。マタの腕へと絡みついた。

「……っ」
 煮えた油にでも、触れたかのような。
 この骨の髄まで焼き付くようなこの痛みは、流石はアヴァタール級と言ったところか。
 だが、この強大な敵を前にしてなお。あの麗しの姫君は、毅然とした態度で無辜の民に心に響く言葉を贈られた。
(「なれば、私も」)
 彼女の騎士として此処に参じた、その矜持を刃に乗せて。
「貫くまでよ!」
 痛みを振り切り、大きく踏み込んだ。
 マタの繰り出した刃は、この戦いの流れを作る一撃をアマーリエの体に刻むのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【避難勧告】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!

夏目・ありす
あたしの騎士さまはやっぱりカッコいい!
ちょっと見惚れちゃった、えへへ

アマーリエも、綺麗なのは認めるよ
でもね
貴女もカーミラもブネも、みんなみんな
あたしたちがやっつけちゃうからね?

王子、出番だよっ
って言いながら腰の刀の柄を握ります
あたしの喋る刀『王子』
「お前は相変わらず扱いがひどいな」
文句言わないの、騎士さまくらいカッコいいところ見せてよね?

地を蹴り、アマーリエへ肉薄して

教えてあげる
貴女は綺麗だけど、あたしは騎士さまの「姫」なんだよ!

抜刀
姫とは程遠い勇ましい姿(姿だけ)で
アマーリエに一撃を
扇の炎に焼かれながらも身を引いて

炎はきっと残った死体も焼いてくれるはず
これくらいでしか葬ることができなくてごめんね

悔しいけど強いし
炎の中のアマーリエは綺麗だなあなんて笑って

あたし、ちゃんと戦えたかな
「まあ、及第点だろ」
今日は優しいんだね、『王子』

アドリブ、連携歓迎です


マタ・クリスタニカ
・マイペースに戦うが他の仲間によるチャンスには積極的に乗っかる。

・さて、もうひと仕事だ。何、騎士である以上は、姫様よりも前には出ないといけないものだ。致し方あるまいよ、それに、こういう戦いも悪くはない。

・鍛え上げた【貫通撃】をもって、相手を穿つ。嫉妬の感情は、【勇気】と【殺気】、二つの精神をもって受け流し捌き切る。【突撃】し、【臨機応変】に連携し、相手を確実に仕留める。

・アリス(g05978)に向けたPOW攻撃を可能な限りディフェンス。

・「悪いな、どうやら既に素敵ではあるようだ、まったくもって自覚は難しいがね!」

・「であれば無様は晒せまい。行儀悪くも出来はしまい。成程これはなんとも骨が折れる!そしてまた、なんとも力が湧いてくることよ!」

・「故に、君。『ゲンソウ』の剣を、知るがいい。」


 地が揺れる。
 既に黒ずんだ、血の染み込んだ砂礫を舞いあげて。
 剣が煌めく。
 光の尾を引く流星のように、その軌跡を描いて。
 幾度も、幾度も。
 アマーリエへと追い縋るその猛攻に。

「まったく、呆れるしぶとさですね……」
 ふぅ、と。
 憂いに零す吐息が、再び呪詛を帯びてマタ・クリスタニカ(幻奏にして現創の剣・g04728)へと絡みつく。
 先程アマーリエは、この剣技を……たゆまぬ研鑽の果てに到達した技を、『好みではない』とは言ったが。
 マタの体に絡みつく呪詛は、本物。

 その呪詛の中、幾度も剣を突き出し続けた。
 剣を握るこの腕が、今どのような状態になっているのかは……正直、考えたくない。
 腕を覆い隠している袖は、マタの血で真っ赤に染まり。じっとりと重たく濡れている。
 これがアマーリエの嫉妬から生み出された、呪詛の結果であるというのなら……。
(「どうやら既に素敵ではあるようだ」)
 まったくもって自覚は難しいし、このような形で己の剣技を認められても、素直に喜べないのだが。

 じわじわと染み込んでくる。
 肩にまで到達した鈍く熱っぽい痛みに、咄嗟に剣を引き。距離を取れば。
 触れた手に、『ぐすり』と。
 熟れ過ぎた果実に触れたかのような。何とも嫌な感触を得た手が、血に染まる。
 マタの鋭い剣技を支えているその肉体が、アマーリエの呪詛に確実に侵されてゆくなかで。いつまで、技の鋭さを保てるか。
 時間との勝負になりそうだと。冷静な表情に隠した思考を、読み取られたか。
 目が合ったアマーリエは、ふと、唇で弧を描いた。

「地道に積み上げたものが、崩れ落ちる瞬間……」
 それはそれは醜く、素敵でしょうね……と。
 笑みを深める。そのアマーリエの言動は、紛れもないマタへの挑発。
(「であれば……」)
 無様は晒せない。
 まして敵を前に跪くなど、行儀の悪い姿を見せる訳にはいかない。
(「成程、これはなんとも骨が折れる」)
 だがそれで、アマーリエの悪意に満ちた美しい瞳が、呪詛が。『姫君』ではなく、自分の方へ向くのなら……。
「そしてまた、なんとも力が湧いてくることよ」
 全身の痛みに浮かぶ冷や汗と、呟いた言葉を。深く被り直した帽子の下に隠して。
 再び地を蹴り、アマーリエへと立ち向かうマタの背中を。

(「あたしの騎士さまは、やっぱりカッコいい!」)
 深い青の瞳に映し。夏目・ありす(不思議の国の・g05978)の顔には、つい小さな笑みが浮かぶ。

 あの力強い剣技を前にして、全身の至る所から生えた翼をふわりと。
 ゆったりと羽ばたかせるだけで対応しているアマーリエの姿は、異端だけれどやはり。美しいと思わせる程の、優雅さがあって。
(「綺麗なのは認めるよ。でもね……」)
 それは、彼女がここでした事の免罪符にはならない。
 一時はトループス級へとされてしまった人々も、決して。誰一人として、人の死を望んだりはしていなかったと。ありすは断言できるから。

「王子、出番だよっ」
 妖刀――『王子』の柄を、ぎゅっと握れば。
『お前は相変わらず扱いがひどいな』
 やれやれ……と。
 通りの良い声が、ありすの耳に届く。
「文句言わないの」
 それは、さぞ見目麗しい男性が発しているのだろうと。
 想像力を掻き立てられる魅力的な声の発生源は、ありすの握った『王子』から。
「騎士さまくらいカッコいいところ見せてよね?」
 世にも不思議な喋る刀は、ありすの挑発的な言葉を受けて。
 一体、誰に言っているのかと。その美声で笑いを零す。

「突っ込むよ!」
 人々の、血と嘆きが染み込んだ大地を蹴って。真っ直ぐに。
 マタのようにはいかないと、分かっていても。あえて。
 ありすは愚直に、アマーリエとの距離を詰める。
「教えてあげる」
 アマーリエの、過剰なまでの嫉妬心を利用するために。
 今はあえて、その『美』に爪を立てる言葉を選んで。
「あたしは騎士さまの『姫』なんだよ!」
 強く踏み込んだ。
 そこ速さを乗せて、『王子』の刃が鞘を走る。

「その程度の技で突っ込んでくるなんて……可愛らしい程に愚かですね」
 ならば、美しく消し炭にしてあげましょう、と。
 嗤った。アマーリエの振るう扇が、業火を呼んで。

 ありすの視界が、真っ赤に煌めく。
 凄まじい炎熱に、大気が揺らめく。
 血とは違う、鮮烈な赤色の中で。うっとりと微笑むアマーリエは、ぞっとするほどに美しく。
 そこにハッキリと感じる、あまりに遠い実力の差に。
 本能が、全身が震えて。いっそ笑ってしまいそうな程。

 けれど、走る刃は止まらない。
 止めるつもりもない。
「なっ……自分からっ!?」
 青い残像を残し、身を投げるように飛び込んだ炎の中で。振るう。
 炎光に輝く王子の切っ先はアマーリエの腕を、体を。深く切り裂いた。
「……っ、私の、体を……よくも!!」
 赤く。熱く。
 憎しみと嫉妬に塗れた炎が、ありすを包む。

(「足を止めちゃ、ダメっ」)
 赤い。熱い。
 その情報だけで、頭の中がパンクしてしまいそうになるけれど。
「まったく、無茶をする姫様だ」
 耳に掠めた頼もしい声が、ありすの意識を繋ぎ止めた。

 最後の力を振り絞り、地を蹴れば。
 振り払う炎が周囲に散って、広場を赤く照らしてゆく。
 嫉妬心を掻き立てらえたアマーリエの炎……これが、どこまで燃え広がってくれるかは分からないけれど。
(「これくらいでしか葬ることができなくて、ごめんね」)
 この炎で、此処に散った人々が少しで安らかに眠れるようにと。今は願う。

「いい加減になさい」
「騎士である以上は、姫様よりも前には出ないといけないものだ」
 アマーリエの体が揺らぐ。
 その美しさと共に、体勢が崩れる瞬間。
 姫様が体を張って作った好機を、騎士が逃す筈もない。

「故に、君。『ゲンソウ』の剣を、知るがいい」
 踏み出す足が、地を揺らす。
 マタの体を、強く。速く、押し出して。
 繰り出す剣は、一陣の風のごとく。
 アマーリエの呪詛諸共に、その体を貫く――。

「……ぁ、私が……こんな……」
 吹き荒れた烈風に、白い羽が舞い散り。
 アマーリエの唇が。体が、流れる血で赤く染まってゆく。
「イヤっ、こんな姿に……っ、だれか!!」
 縋るように。
 天へと伸ばしたアマーリエの手を取るものは、もう誰も居ない。
 力を失ったその手が、地に落ちた瞬間に。ディアボロス達は、自分たちの勝利を知った。


「……あたし、ちゃんと戦えたかな」
 どこが痛いのかも分からないくらい。全身が熱くて、痛くて。
 気が抜けた瞬間に、体が重くて。
 ぺたりと座り込んでしまったありすが、小さく呟く。
 本当ならば、犠牲者の遺体をもっと丁寧に葬ってあげたい所だけれど。
 ディアボロスたちの消耗も激しい今、それ程の余裕はない。
 それでも……。
『まあ、及第点だろ』
「今日は優しいんだね」
 『王子』の捻くれた優しさを受け取って。
 引き受けた仕事を完遂してみせたディアボロス達は、新宿島への帰路に着くのだった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【無鍵空間】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
効果2【ラストリベンジ】LV1が発生!
【能力値アップ】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2024年02月15日