リプレイ
クロエ・アルニティコス
こちら方面は吸血ロマノフ王朝との国境もあります。
そちらへ向けての軍事行動の可能性も残ってはいますが……距離もあり、偵察部隊がバビロン湖側に来ていることを考えると、本命はこちらでしょうか?
キングアーサーではドラゴンどもが大天使やアークデーモンどもの力を借りて最終人類史に攻め込もうとしていました。
以前見た時はバビロン湖に霧は発生していませんでしたが、油断はできません。
情報は得つつ……亜人は殺しましょう。
砂や荒れ地に隠れる砂色のマントを着、フードまで被って保護色で見つかりづらいようにしておきます。
人を襲うでもなく、真面目に偵察を行っている亜人です。亜人とはいえ無能であることは期待しないでおきましょう。
岩などに隠れ、昼は光の反射で見つからないように双眼鏡などは使わず。
代わりに【完全視界】で視界を確保し、砂煙の巻き上がる中や夜でも視界を確保。風が強い時や夜など、視界が悪い時ほど積極的に偵察を進めます。
本来こういった野外での偵察は得意ではないのですが……
新宿島に流れ着いてもう一年。慣れてきましたね。
エイレーネ・エピケフィシア
バビロンは亜人どもの戦略にとって、根幹と言える都市でした
早期に制圧した意義は大きいですが……当然、敵が奪回を狙う恐れもありますよね
仮に此度の策動がバビロンと無関係だったとしても、近隣での騒ぎは見逃せません
亜人どもの尻尾を掴み、腹の内を吐き出させてやりましょう!
【パラドクス通信】を発動し、仲間と手分けして情報を共有しながら偵察を
以前の強化で大きく範囲が広がりましたし、もし3人以上が集まるなら、中継通信でより遠くにも連絡可能です
この状況で偵察を行うとなると、動機として真っ先に思いつくのは「バビロン湖周辺に境界の霧を探す」ことです
或いは、霧を出現させるための下準備と言う可能性もあるでしょうか?
いずれにせよ敵は湖を目指しているものとルートを仮定します
身を隠せる岩や地形の起伏を利用して身を隠しながら北上し、敵を探します
獣や鳥の気配が全くない場所があれば、有力な候補の一つとしてよいかもしれません
復讐者対策で殺されたせいでいなくなったかもしれませんからね
敵を見つけたら仲間に連絡し救援機動力で合流します
●偉大なりしバビロンと
風が、強く吹いた。バタバタと靡く外套を押さえ、膝を折る。ひゅう、と空を鳴らした風を躱すように屈んでいれば舞いあがる砂が二人の目に見えた。
バビロン湖北方地域。
乾いた大地には変わらず砂が舞い、枯れ草が巻き上げられるようにして空に向かった。
「今の所、亜人の姿は無いようですね」
僅かに浮いたフードを押さえるようにして、娘は顔を上げた。澄んだ空のような瞳が丘を捉え——見定めるように、一度細められる。
「……」
乾いた土地だ。小さく息を落とすようにして、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は指で罅割れた地面を撫でた。この大地では、植物が普通に根を張るのも難しいだろう。
「こちら方面は吸血ロマノフ王朝との国境もあります。
そちらへ向けての軍事行動の可能性も残ってはいますが……」
そこまで言って、魔女はひとつ言葉を切る。大地に、巻き上がる風に魔術の気配は無い。
「距離もあり、偵察部隊がバビロン湖側に来ていることを考えると、本命はこちらでしょうか?」
嘗て、クロエが見た時とそう景色は変わっていない。さて、と小さく落とした先、小さな足音が傍らに立った。
「バビロンは亜人どもの戦略にとって、根幹と言える都市でした。早期に制圧した意義は大きいですが……当然、敵が奪回を狙う恐れもありますよね」
琥珀の瞳は、真っ直ぐに先を——北方へと続く道を見据えていた。眼前には相変わらずの砂地。堅い地面も、砂が舞うのも娘にとって珍しいものではない。
「仮に此度の策動がバビロンと無関係だったとしても、近隣での騒ぎは見逃せません」
乾いた空気を肺に落とし、エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)は凜、とした瞳で告げた。
「亜人どもの尻尾を掴み、腹の内を吐き出させてやりましょう!」
きゅ、と握った拳ひとつ。神官らしい娘の——ほんの少しばかり、多分少しばかり見えた力押しの気質。ぐぐ、と握った拳は、だが親友たるクロエとして見れば珍しいものでもない。
「キングアーサーではドラゴンどもが大天使やアークデーモンどもの力を借りて最終人類史に攻め込もうとしていました。
以前見た時と同じく、バビロン湖に霧は発生していませんが、油断はできません」
バビロン湖周辺に変化は無い。砂地が削られていたり、荒れ地の穴が深くなる程度のことは起きているが、そのくらいだ。
「情報は得つつ……亜人は殺しましょう」
「はい。そうですね」
クロエ様、と彼女の名を呼んだところで、また強く風が吹いた。どうやら今日の天気は不機嫌らしい。二人、目を見合わせた後に頷き合う。パラドクス通信は準備済だ。靡く外套を手で押さえるようにして、二人は一先ず身を隠せる岩を目指して進んだ。
●尊き瑠璃の欠片
乾いた草が転がっていく。長く尾を引くように地面に描かれた帯も、次に風が吹く頃には姿を消しているのだろう。
あの後、二人は手分けして偵察を続けていた。
「ここは……、迂回するよりは直接昇った方が良いでしょう」
それに、とエイレーネは壁面に触れる。この位、昇るには問題は無いが上の方、その端が崩れた様子も無いことを思うに敵はこっちには来ていないのだろう。
「左から進んで、こちらは今、丘を上がっていきます。そちらは如何ですか? クロエ様」
『こちらも、亜人の発見には至っていません。幾つか違和感はありますが……』
パラドクス通信の向こう、クロエが間を置く。砂が、と考えるような声が耳に届いた。
「砂ですか?」
『はい。砂の散り方が他の箇所と違います。何かがあって、その差が生まれたのでしょう』
クロエもまた、イスカンダルの出身だ。砂塵の舞う地を知っている。
『気をつけてください。こちらも、詳細が確認でき次第また連絡します』
「はい。クロエ様も」
短く彼女がそう告げたのは、砂地の違和感からクロエも何かを思い付いたのかもしれない。敵が広範囲に展開している可能性もある。
「今は、あの鳥が動いたところですね」
野生の獣というのは『異常』というものに敏感だ。番犬のように敵の訪れを示す。故に、それを利用する者も、対策する者もいるのだが今の『これ』は何なのか。
「単純に考えれば、亜人どもの動きに反応したんでしょうが……偵察をしているのに、何の対策もしないものでしょうか?」
バビロンの一件後、この状況で偵察を行うとなると、動機として真っ先に思いつくのは「バビロン湖周辺に境界の霧を探す」ことだ。
「或いは、霧を出現させるための下準備と言う可能性もあるでしょうか?」
鳥が、また飛ぶ。いずれにせよ、敵は湖を目指しているものとルートを仮定して良いだろう。二度目の羽ばたきの後、エイレーネの瞳が捉えたのは鷹であった。警戒を告げるように高く鳴いた鳥は此方に向かって逃げてくる。それを追う者は無い。まるでそんなこと気にしていないように。
「ディアボロスのことを気にしていない……、いえ、追跡の可能性さえ考えていないのでしょうか」
だが、バビロン湖の北方はジェネラル級亜人『惨憺たるムシュフシュ』の支配地であるという情報もある。
「杜撰という訳ではありませんが、何処か雑に進んで……いえ、まるで」
急いでいるような、そう呟いた先でパラドクス通信から、クロエの声が届いた。
「やはり、この辺りは砂の動きが違うようです」
フードを被り、岩場に身を潜めるようにしてクロエは眼前に開けた空間を見た。すぐに先に進まなかったのは、この場所の砂の流れに違和感があったからだ。
「あそこに亜人がいたのでしょう。そう時は経っていない筈……」
岩に身を隠すようにして、クロエは辺りを見渡す。双眼鏡は持ってきてはいない。光の反射で見つからないようにする為だ。これだけ広い大地で、何かが光れば——それは警戒させるに十分過ぎる程の意味を持つ。この砂の異変も、2カ所目だ。
「人を襲うでもなく、真面目に偵察を行っている亜人です。亜人とはいえ無能であることは期待しないでおきましょう」
完全視界を乗せた瞳は、砂煙の巻き上がる大地をクロエに伝える。
「……」
強く吹いた風と共にクロエは前に出た。この瞳がなければ容易く進むことは出来ないだろうが——これがあるからこそ『今』積極的に進むことができる。
「本来こういった野外での偵察は得意ではないのですが……」
四カ所目、地面を掠った砂が一角に溜まっていた。円を描くようにあったそれは、陣形の跡だ。
「新宿島に流れ着いてもう一年。慣れてきましたね」
ほう、とクロエは息を吐き、砂色のマントの裾を引く。強く吹いた風に、舞いあがる砂に飛び込むように大地を蹴る。足音など響かぬ砂地だ。ふ、と顔を上げた先で、ばさばさと空を鷹が舞う。
「あれは……」
鳥たちが逃げるように飛び立った先、砂地の変化を追ってきたクロエの瞳に『何か』が映る。
「……」
それは、黒い影のようであった。異形の名が相応しいそれは、だが亜人であることが分かる。舞いあがる砂煙を衣とするように、周囲を伺い、丘の上に上がる。
(「高所から追跡を警戒している訳ではないようですね。あれは……バビロン湖の方を見ています」)
何かを整えるような、確認するような妙な動きに、クロエは小さく息を吸い、エイレーネへと通信を繋げた。
——亜人を、見つけました。と。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【完全視界】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
●瑠璃の約定
それは砂と岩が作り上げた丘であった。小さな丘だ。段差というよりは大きく、だが四方を見渡すには向かぬ。突き出したように生まれたそれは、この地に吹く風が岩場を削って作り出したのだろう。
「ぁあ、あ……」
そこに、影はあった。否、影ではない。黒い異形だ。両の手を地につき、脚らしいものは無く、蠢く何かがある。動けはするのだろう。『これ』が偵察をしていたのだから。
「……偵察をしていた以上、この亜人には知恵があるのでしょう」
合流を果たした先、一人の娘が告げる。低く、警戒を乗せた声と共に瞳が先を見る。舞う砂がどれ程奴らの姿を隠そうが、ディアボロス達の瞳にはそれが見えている。
「アンティゴノス・テュポーン……」
また一人の娘が告げた。すぅ、と息を吸う。これが鳥たちが逃げた理由だ。そして、こうして目の前にして分かる。
亜人達は『何か』をしようとしている。後方の確認さえせずに。恐らくは後方の安全を取らずに進むのを優先したのだろう。
「何をしようとしているにしろ、進めさせる訳にはいきません」
「——えぇ」
亜人たちはこちらに気が付いていない。今が、仕掛けるときだ。
-------------------------------------------------------------------✂
秋月諒です。
ご参加いただきありがとうございます。
選択肢・作戦行動中のトループス『アンティゴノス・テュポーン』となります。
こちらの敵を撃破した後、敵部隊のアヴァタール級が登場→②【攻略旅団】バビロン湖北方の状況 となります。
戦場は砂地。奇襲が可能です。
敵はこちらの攻撃が届く範囲にいます。
(導入時はちょっと高い位置にいたりしますが、それによって攻撃の有利不利は生まれません)
●敵について
アンティゴノス・テュポーン達
各個体の意思疎通は出来ており、指揮官に従う知性もあります。
●プレイングについて
1〜2日置いてプレイング採用となります。先着順ではありません。
また、必要人数をぐわっと大きく越えた採用は無いので、そんな感じです。
それでは皆様、御武運を。
クロエ・アルニティコス
さて、何をそんなに急いでいるのか。
以前にバビロン湖を確認した時は霧も出ていませんでしたが。
話をするにせよ、指揮官1人が居れば十分。雑兵は邪魔なだけです。
指揮官の居ないうちに、全員殺しておきましょう。
原初の地母神ガイアの子にして大神ゼウスと戦った最強の怪物、その名前を冠す資格がお前たち亜人にあるのか、試してみましょう。
【テュポーン・アネモネ】を使用し、アネモネの種を急成長させ、テュポーンを象った怪物を作り出します。
こちらに気付いていないアンティゴノス・テュポーンをこちらのテュポーンの巻き起こす竜巻で巻き上げ、拳で叩き潰します。
【先行率アップ】も使用し、敵が迎撃態勢を整えていない間に確実に攻撃を仕掛けます。
敵群を観察し特異個体の発現を早期に発見、強力な攻撃をテュポーンに受け止めさせて、私への直撃は避けます。
何を意図した動きかは知りませんが。
お前たちを自由にさせて、私たちの利になることなど一つもありませんし……何よりも。私の前に出てきた亜人を生かして帰すつもりはありません。
エイレーネ・エピケフィシア
単なる偵察にしては、バビロンが消えてから些か時が経ちすぎています
だからこそ……明確な公算の下、周到に準備をしてきたように見えて、不気味ですね
手遅れになる前に、敵の動きに気付けたことは幸運でした
ええ、一匹残らず仕留めてしまいましょう!
敵がこちらに気付かぬ内に、先制攻撃を仕掛けます
『精霊たちの召喚』を発動し、音もなく這い寄る蛇と、静かに飛ぶ梟を召喚
蛇が敵の足元から突然噛み付くと共に、梟には敵の頭上からの破壊光線を放たせましょう
天と地からの挟撃によって、両方への対応を困難にします
更に敵が仲間の攻撃で巻き上げられたなら、梟をすかさず追撃に遣り、敵を空中で蹴り飛ばします
初撃で数を減らしたり、敵を追いやって散開させることで連携の効果を落としつつ
襲い来る攻撃は≪神護の輝盾≫で受け止めたり、≪神護の長槍≫で打ち払っていきます
敵の狙い通りに与えられるダメージを極力減らし、負傷を抑えましょう
最強の怪物の名を冠する相手であろうと、この身は怯みなどしません
静寂の大地を、再び脅かさんとする凶賊よ――覚悟なさい!
●怪物の所以
あ、ぁあ、と低く呻く声が乾いた地面に落ちる。ゆらり、と揺らぐように砂煙が濃く、薄くなる。尤も、視界に問題は無い。完全視界の強化を施した瞳は、変わらず奥を見る異形の姿を映していた。
「さて、何をそんなに急いでいるのか」
クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)はそう言って、瞳を細めた。
「以前にバビロン湖を確認した時は霧も出ていませんでしたが」
考えるようにひとつ、息を落とせば考え得る一つの解を傍らが言葉に乗せた。
「単なる偵察にしては、バビロンが消えてから些か時が経ちすぎています」
琥珀色の瞳を細め、エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)は常より幾分か低い声で告げた。
「だからこそ……明確な公算の下、周到に準備をしてきたように見えて、不気味ですね」
強化の加護を共に受けた視界に映る異形——アンティゴノス・テュポーン達は、また周辺を伺い、先を見ている。
「手遅れになる前に、敵の動きに気付けたことは幸運でした」
敵が何をしようとしているにしろ、その一手を掴めたのだ。全てを果たされるその前に気が付き、そして追い付いたのであれば——後は、その情報を手に入れ、砕くのみ。
「話をするにせよ、指揮官1人が居れば十分。雑兵は邪魔なだけです」
静かな声でクロエはそう告げた。ぴん、と立った妖狐の耳が砂塵の向こうから音を探る。追加の足音は無い今が機だ。
「指揮官の居ないうちに、全員殺しておきましょう」
「ええ、一匹残らず仕留めてしまいましょう!」
視線を交わすのは一度。青の瞳が傍らを見た先、瞳に琥珀を宿す親友は微笑んだ。ぴん、と立った白い耳と共に尾がゆるり、と揺れる。
「女神に仕える聖なる獣よ」
女神の神官たる娘は告げ、祈る。白い掌が触れた大地は女神を奉じる地に続くもの。神子の声は、届く。
ふいに、風が揺れた。砂塵を舞いあがる風とは違う、エイレーネの髪を、衣を。神子の祈りの応えるように彼女だけが、その影を受けた場だけに——風は届く。
「穢れし者らを狩りたまえ」
光が、零れた。淡く揺れた光は、亜人達の目に届く筈も無い。エイレーネの手により紡がれた光。それはギリシアの知恵の女神アテーナーの聖獣を象った精霊達が応えた証拠であった。
『 』
音も無く這い寄る蛇が、静かに飛ぶ梟が砂塵を進み、空を舞った。羽ばたきさえ無い人間大の精霊達を見送るようにクロエも砂塵を蹴る。さくり、と砂を踏む一歩と共に風が強く吹き荒れた。
「ぁあ、ぁああ」
「ぁ、あ」
それを、異変とは思うが異常とは思わぬのか。巻き上げる風はアンティゴノス・テュポーン達の動きを鈍らせ——その一瞬を、確実にクロエとエイレーネは己がものとする。
「ぁあ、ああ……」
しゅるり、と砂の中を這うように進んだ蛇が、岩場の上に立つアンティゴノス・テュポーンの脚に噛みついた。
「ぁああああ!?」
瞬間、弾けたように異形の亜人が声を上げた。蠢く脚を持ち上げ、振り払うようにアンティゴノス・テュポーンが吼えれば残る亜人達が周囲を見渡す。砂を蹴るように身を浮かした先——だが、空にある梟の方が、早い。
「——」
精霊は空を舞う。羽ばたきの影が異形に落ちることさえ無く——ただ、夜に響かせるその声は、今、力となって一つの光を生んだ。
其処に声は無く——ただ、キィン、と甲高い音が響き、次の瞬間、破壊の光が降りそそいだ。
「ぁあ、ぁああああ!?」
「ァア、あ、あ!?」
衝撃に、アンティゴノス・テュポーン達が身を捩る。だが、身を逸らすには大地には蛇がある。地上と空、同時に対応をするのは難しい。特に奇襲であるのなら尚更。
「ぁあ、ぁあああ!」
だん、と砂地を叩く音がした。岩の上に立っていた一体が崩れおち、降りそそぐ光に巻き込まれるように三体が落ちる。泥のように崩れた亜人を飛び越すように、次の一体が辺りを見渡す。その瞬間——風が、生まれた。こちらを向いた。
「原初の地母神ガイアの子にして大神ゼウスと戦った最強の怪物」
涼やかに彼女は告げる。差し出した手が、構えた杖に添えられる姿は振り返らずとも分かる。
「その名前を冠す資格がお前たち亜人にあるのか、試してみましょう」
杖に宿る宝石が光を零す。魔女の杖は、妖花の魔女の二つ名を持つ娘の力に呼応する。はらり、とクロエの掌からアネモネの種が零れ落ちる。
「種子に宿るは我が滅び、芽吹け『テュポーン・アネモネ』!」
種に注ぐは一度迎えた死への想い。零れ落ちた種子は、大地に触れるその前に一気に——成長し、結実する。
「 」
それは、声であったか。吹きすさむ風の音であったか。咆吼とも羽ばたきとも似た音が世に響くことなく影だけをクロエの前に落とす。戦場に舞う風が、ごぉおおお、と唸りを上げる突風に変わった。
「ぁああああ、あ?」
「ぎぃ、ぁ、ああ!?」
その変化が、作り出されたものであると亜人には気がつけない。足元から竜巻に飲み込まれ、巻き上げられる。ギャ、と上がる声と共に暴れた異形の体に、テュポーン・アネモネが顎を上げる。吹きすさむ風が髪を揺らすのを気にすること無く、ただ、真っ直ぐに前を——亜人達を見据え、クロエは言った。
「テュポーン・アネモネ」
それはギリシャ神話の怪物『テュポーン』を象った植物の怪物。身を起こし、その巨体で風を生んだ怪物は宙に浮いていた亜人達に拳を叩きつけた。
「ぁあぁああ、あ!?」
「ギァ、ァあァぁ?」
ガウン、と重く鈍い音が戦場に響き渡った。鈍く響いた音と共に叩きつけられた三体が砂に沈み——落ちる。泥のように異形は崩れおち——だが、その黒を飛び越えるように次の異形が来た。
「ぁあ、ぁあああ!」
「——ここは、お任せください!」
異形の咆吼に、エイレーネが前に出た。た、と砂を蹴る。頬を打つ砂塵とて知らぬ戦場では無い。だからこそ、力強く神護の長槍を掲げた。
「女神アテーナーの加護を!」
空高く梟の瞳が輝く。その時初めて、聖獣の姿を持つ精霊は鳴いた。高く、鋭く、響く声と共に滑空した梟が亜人を蹴り上げる。飛び込んできた亜人が崩れおち——残る数体が、二人に向かって吼えた。
「ぁあ、ぁああ」
「ヒハ、ハハ、ヒハハハ!」
それは人語とも獣ともつかない悍ましい声であった。異様な音色は、だが亜人達にしてみれば会話であるのか、ひは、ひゃは、と不可解な声をひびかせながら右に、左に亜人は身を飛ばす。岩場の壁さえ足場とするようにして——来る。
「——来ます」
静かに、告げたのはクロエであった。涼やかな言の葉と共に、大丈夫かと問う声が無いのは信頼の証だ。故に、エイレーネは笑うように応えた。
「ええ!」
ぐん、と異形の腕が伸びてきた。その一撃を、ガウン、と真っ正面から神子は受けとめる。僅か、届いた痛みは滲むように——だが、ただそれだけだ。ぐ、とエイレーネは輝盾を持つ手に力を入れる。ギリギリとアンティゴノス・テュポーンの爪を受けとめる盾が零す火花を視界に、顔を上げる。これまでも、そうしてきたように前を——見る。
「最強の怪物の名を冠する相手であろうと、この身は怯みなどしません」
盾を強く、押す。叩きつけられた爪を弾き上げるように、ぐん、と一気にエイレーネは神護の輝盾を突き上げた。
「ギャ
……!?」
「静寂の大地を、再び脅かさんとする凶賊よ――覚悟なさい!」
距離を開ける。その僅かな隙間を縫うように神官の言の葉に応えて蛇が来る。ぐん、と突き出した長槍と共にエイレーネの一撃がアンティゴノス・テュポーンの核を砕いた。
「ギィイァアアアア!?」
奇っ怪な咆吼が砂舞う戦場に響き渡った。たん、とクロエは岩場を蹴る。着地した先、ざ、と砂を蹴るようにして振り返れば追ってくるのは残ったアンティゴノス・テュポーン達であった。
「ΕΞΕΛΙΞΗ」
それは声か。唸りか。聴き取れぬそれが、だが、解放の音であることを魔女は聞く。
「——来ますね」
「クロエ様」
告げるクロエの声と、エイレーネの声が重なった。信を込めて紡がれる名に、魔女はほほえんで頷き——その一体を見定める。追う割に、一体だけ後方にいたのだ。
「ぁあ、ぁあああ!」
異形の背に翼が、生えた。だん、と地を蹴るようにして飛んできたそれは特異個体。群れの中、ただ一体だけ外敵たるディアボロスと相対する中で変化したモノがクロエに食らい付く。
「——ぁ」
「テュポーン」
筈だった。
一撃は、テュポーンの腕に防がれる。ギィイイ、と金属を裂くような鈍い音が響き——だが、一撃をテュポーンが受けとめればクロエには届かない。
「何を意図した動きかは知りませんが。
お前たちを自由にさせて、私たちの利になることなど一つもありませんし……」
何よりも、と告げる。ゆっくりと杖を持つ手が持ち上げられる。怪物の姿をもした植物の怪人がアンティゴノス・テュポーンを——特異個体を、掴んだ。
「ギ、ァア、ア!」
「私の前に出てきた亜人を生かして帰すつもりはありません」
穿つ、一撃。巻き上がる風が亜人を切り裂き、泥へと返す。舞い踊る梟と蛇が残る亜人を散らせば、砂塵舞う戦場に静寂が戻ってきた。
「——おいおい、冗談だろう?」
新たな、客を迎えるように。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【クリーニング】LV1が発生!
【防衛ライン】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
●テウメッサの狐
最初に見えたのはぴん、となった耳であった。砂を蹴るように舞いあがる砂塵の向こうから『それ』は姿を見せる。尤も、砂が舞った程度で失う視界では無いが——来訪者にとっては、十分であったのだろう。
「連絡はつかないわ、予定通りに動かないわで見に来てみればこいつはどういうことだ?」
テウメッサの狐は息を吐く。溜息交じりにこちらを見てみせるのは、まだ剣を抜く機ではないと思ってのことか。
「ディアボロス。そうと分かっていれば、もっと派手に戦ってくれればこっちもさっさと来るなり、次の手を考えるなりしたんだが……これも運命か?」
なぁ、とテウメッサの狐は告げる。神話の怪物の名を冠し、運命をのせ牙を見せるようにして渡った亜人はディアボロス達を見て言った。
「何しに、こんなとこまでやってきた?」
伺うより真っ正面から問うにようにして、亜人は笑った。
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秋月諒です。
ご参加いただきありがとうございます。
選択肢・【攻略旅団】バビロン湖北方の状況となります。詳細は、章選択肢もご確認ください。
テウメッサの狐との会話ターンとなります。
配下が倒れてそれなりに困ってはいるようですが、困っているくらいの範囲のようです。
*【攻略旅団】提案の、情報収集選択肢です。情報の精度が上がっています(特殊ルール参照)
それでは皆様、御武運を。
エイレーネ・エピケフィシア
あれはクロエ様の怨敵たるクロノス級の分身……!
そう思うと今すぐにでも槍を血で汚したくなりますが、努めて堪えます
彼女が復讐心を抑えているというのに、わたしが血気に逸るわけには参りません
愚か者を演じる方針に同調して情報を引き出しましょう
狙いはムシュフシュの判断を嘲り、彼の作戦の真意を口走らせることです
短気なはずの亜人がこのような地道な偵察を行っているのも、ジェネラル級の命令があればこそ
信頼する上官を愚弄されれば激情を抑えきれなくなるかもしれません
それにしても……何もない、ただ広いだけの湖を大勢の手下に狙わせるとは、ムシュフシュは随分と暇な方ですね
彼は水遊びがお好きなのでしょうか?
そのような道楽より、もっと重要な仕事に兵力を使うべきだと思いますよ
或いは無能故に、華やかで魅力的な任務は全て、他のジェネラル級に奪われたのかもしれませんが……
バビロンが消滅し「ただ広いだけの湖」が発生したのは、言うまでもなく復讐者の仕業です
それを棚に上げて振る舞うことで、バビロン方面を攻める意図を口にさせたいですね
クロエ・アルニティコス
……っ!
ちっ、お前ですか。
衝動的に攻撃を仕掛けそうになったのを抑えて会話をしましょう。
ここは最終人類史へと繋がる地点の近く。場合によっては緊急の案件になりかねませんし、すぐに殺しては調査になりません。
……新宿島に流れ着いた直後から考えると、幾分落ち着きましたね、私も。
運命だというなら、お前の動きが知られて遭遇することはないでしょう。
決して捕まることがない、それがお前……あぁいえ。お前はその名を騙っているだけの偽物でしたか。
紛い物であればお前が捕まることが運命の可能性もありましたね。
さて、何をしに来た、でしたか。
そんなもの、ムシュフシュの作戦を妨害するために決まっているでしょう。
この亜人どもは倒しました。これでもうお前たちの作戦はもう成り立たないでしょう?
挑発を行い苛立たせ、作戦は成り立たない……と口にすることで、相手が馬鹿な復讐者を論破しようとして、「~は可能だ、なぜなら~」という風に作戦の目的について口を滑らせることを期待しましょう。
●テウメッサの狐
「何しに、こんなとこまでやってきた?」
「……っ!」
それは奇縁か。ぴん、と立った狐の耳に、手にした剣。真っ正面から、そう言ってのけた狐の亜人に——その姿に、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は、ひゅ、と息を飲んだ。
——テウメッサ。
「ちっ、お前ですか」
反射的に杖を握る。血が沸き立つような感覚と共に衝動的に向けそうになった力を——だが、妖花の魔女は抑え込んだ。ここは最終人類史へと繋がる地点の近くだ。場合によっては緊急の案件になりかねない。すぐに殺してしまっては調査にはならないだろう。
(「……新宿島に流れ着いた直後から考えると、幾分落ち着きましたね、私も」)
亜人への憎悪は、今もクロエの身にある。——だが、そう。だが、と踏み止まる理を今のクロエは持っていた。
「運命だというなら、お前の動きが知られて遭遇することはないでしょう」
クロエのその言葉に、ぴくり、と狐の亜人が眉を上げる。
「……ほう? その言い分、あんたは俺を随分と識っているようだな。このテウメッサを」
口の端を上げるようにして、狐の亜人——テウメッサの狐はそう言った。ひたり、と向けられた視線はクロエを足元から眺め——そして瞳に辿り着く。
「娘」
「決して捕まることがない、それがお前……あぁいえ。お前はその名を騙っているだけの偽物でしたか」
テウメッサの狐が投げてきた言葉など切り捨てるようにして、クロエは言った。
「紛い物であればお前が捕まることが運命の可能性もありましたね」
「——ほう、随分と言うもんだな。相変わらず、ディアボロスってのはそうなのか?」
それとも、と作ってみせた言葉が随分と意味深に響くのは、この場の主導権を握るためか——或いは、この亜人の性格か。亜人にしては、頭が回るのか、テウメッサを名乗る亜人が「そう」であるのか。冷えた視線を向けるクロエに軽く肩を竦めるようにして彼女の傍らへと目をやった。
「なぁ?」
「……」
煽るように響いた言葉に、エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)は槍を強く握った。
(「あれはクロエ様の怨敵たるクロノス級の分身
……!」)
今すぐにでも槍を血で汚したくなった。沸き上がる感情をエイレーネは努めて堪える。きつく握った拳を悟られることが無いように、ただ視線を上げた。
(「彼女が復讐心を抑えているというのに、わたしが血気に逸るわけには参りません」)
先に聞いてきたのはテウメッサの狐の方だ。口振りこそ余裕には見えるが、実際、話し自体はこちらの言葉に反応したものだけだ。
(「短気なはずの亜人がこのような地道な偵察を行っているのも、ジェネラル級の命令があればこそ。信頼する上官を愚弄されれば激情を抑えきれなくなるかもしれません」)
さぁ、と風が吹く。揺れる銀の髪をそのままに、女神の神官たる娘はテウメッサの狐を見た。
「それにしても……何もない、ただ広いだけの湖を大勢の手下に狙わせるとは、ムシュフシュは随分と暇な方ですね」
ひとつ、息を吐く。呆れを滲ませるようにして紡いだ言葉に、テウメッサの狐は眉をつり上げた。
「は? 何だと」
「彼は水遊びがお好きなのでしょうか?」
ムシュフシュの判断を嘲るように、エイレーネは言葉を選ぶ。
「そのような道楽より、もっと重要な仕事に兵力を使うべきだと思いますよ」
バビロンが消滅し「ただ広いだけの湖」が発生した理由はディアボロスにある。その事実を理解した上で、エイレーネは言の葉をつむぐ。
「或いは無能故に、華やかで魅力的な任務は全て、他のジェネラル級に奪われたのかもしれませんが……」
「——は」
その言葉に、テウメッサの狐は笑った。口の端を上げるように、ひどく愉しげな様子でこちらを指さした。
「お前らが出て来ただろ?」
●per asprera ad astra
「お前らが護ろうと現れたんだからな、あそこには何か秘密があるんだろ。
此処でお前らを見つけたからな。やっぱり、俺は運が回ってきてるな」
ふん、と鼻を鳴らすようにしてテウメッサの狐はそう言った。ひどく機嫌良く聞こえたのは、その事実に——バビロン湖に対する一つの答えを得たと思っているからか。
(「あの言葉、バビロン湖について亜人は何も知れていないのでしょう。ただ広いだけの湖ということさえ、分かっていないのでしょうか?」)
エイレーネは考えるように眉を寄せた。バビロン湖は《七曜の戦》の後に現れた特殊な地形だ。亜人側では、何かが起きたことは分かってはいるが、全容を掴めていないか——証明できていないのだろう。広いだけの湖であるということさえ。
(「だからこそ、テウメッサの狐はわたし達と出会った時に、警戒より喜んで見せたのでしょう。ディアボロスが迎撃に来たのならば、何かあるかもしれないと」)
だが、喜んだにも理由が在るはずだ。ひとつ、間を開けるようにエイレーネは息を落とす。その吐息を何と間違ったか、テウメッサの狐は「そもそも」と笑って見せた。
「これは、ムシュフシュ様の命令でではない。あのお方、ムシュフシュ様の愛人であるシトリー様からの命令だからな! だからこそ、運が巡ってきたんだからな」
「——」
シトリー。
聞き慣れぬ名前エイレーネが警戒するように唇を結べば、テウメッサの狐は喜悦を滲ませるように口を開く。
「はは、シトリー様はなぁ、妖艶な姿の雌のアークデーモンで、魔豹を従えているのさ。
あのお方は《七曜の戦》の後、この地にやってきたアークデーモンのお一人だというからな」
アークデーモン。
それはつまりTOKYOエゼキエル戦争から漂着したアークデーモン・シトリーが、ムシュフシュの愛人となり今回の一件に絡んでいる、という事実を示していた。
「は、お前らが出てきたってことは、あそこに何か秘密もあるってことだろうしな」
「……」
アークデーモンが絡んでいるとなれば、話も変わってくる。あの言い方からすれば、シトリーの作戦か。それともムシュフシュの作戦か。どちらであるか考えるよりは——言わせてしまえば良い。ふ、と一つ息をおとすようにして、テウメッサの狐へとクロエは目を向けた。
「何をしに来た、でしたか。
そんなもの、ムシュフシュの作戦を妨害するために決まっているでしょう」
ムシュフシュの作戦、と敢えてこの場で言葉を選んだのは、奴に喋らせる為だ。挑発を唇に乗せ、溜息じみた息を落としてみせる。
「この亜人どもは倒しました。これでもうお前たちの作戦はもう成り立たないでしょう?」
「は、仕事に遅れが出たのは事実だけどな。その程度のことで、失敗はしない。可能なんだよ。ディアボロス」
口の端を上げ、露悪的な笑みを浮かべてテウメッサの狐は言った。
「俺はバベルの塔を奪還する為の偵察をしているんだからな」
バベルの塔。
シトリーの狙いはそこにあるのか。
「はは、何せこの作戦を成功させれば、シトリー様が抱かせてくれると約束してくれたからな」
絶対に成功させるんだ、とテウメッサの狐は笑った。
「あの方に気に入ってもらえれば、ディヴィジョン境界にも連れて行ってもらえる。やりたい放題だからな」
だから、とテウメッサの狐はディアボロス達を見た。
「もっと喋ってくれ。そうじゃなきゃ、なぁ、狩りをしようか」
饒舌に語る狐の亜人はなりを潜め、ただ残虐な亜人の顔がそこに見えた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【避難勧告】LV1が発生!
【パラドクス通信】がLV2になった!
効果2【先行率アップ】がLV2になった!
【ダメージアップ】LV1が発生!
●砂塵の向こう
「もっと喋ってくれ。そうじゃなきゃ、なぁ、狩りをしようか」
風が、一度強く吹いた。砂を巻き上げる風は、大地に溜まった熱を掠う。頬を撫でるように吹く優しい風は無く——だが、尾に触れた砂を払うようにして見せた狐の亜人——テウメッサの狐、指揮官たる亜人は口の端を上げた。
「俺は、運が回ってきてるんだよなぁ。お前達のことも、シトリー様に報告できる。気に入って貰えるはずだ」
シトリー。
ムシュフシュの愛人であるアークデーモンの名に、ディアボロス達は警戒するように唇を結んだ。
今回の一件——亜人の軍勢が、命令していたのはジェネラル級亜人『惨憺たるムシュフシュ』ではなく、その愛人となったシトリーだ。
『これは、ムシュフシュ様の命令でではない。あのお方、ムシュフシュ様の愛人であるシトリー様からの命令だからな!』
『シトリー様はなぁ、妖艶な姿の雌のアークデーモンで、魔豹を従えているのさ。
あのお方は《七曜の戦》の後、この地にやってきたアークデーモンのお一人だというからな』
TOKYOエゼキエル戦争から漂着した者のひとりアークデーモンが、ムシュフシュの愛人の座に収まった。
(「そして、目的は……バベルの塔でしたか」)
ディアボロスの一人が、静かに息を吸う。
『俺はバベルの塔を奪還する為の偵察をしているんだからな』
あの時、テウメッサはそう言った。
魔豹を従えているというアークデーモン・シトリーとムシュフシュの仲は悪くはないのだろう。ディアボロスに奪われたバベルの塔を奪還する作戦を提案できる程度には。
(「そして、気に入られればディヴィジョンの境界にも連れて行ってもらえる、ですか」)
ディアボロスに『ここ』であったのも、意味があるとそう思ったからこそ『運が巡ってきた』だ、回ってきたと言ったのだろう。
「……」
冷えた瞳をディアボロスの一人はテウメッサを名乗る亜人へと向けた。テウメッサの指揮官は、シトリーのお気に入りとなる。下卑た話を思い出し、吐き捨てるように息を零す。
「それで」
「黙りでも構わないけどな。俺は、お前らを見つけたことを土産にあの方にお会いするからな」
本来なら俺は指揮官だからな、と亜人は言う。
「部下にやらせるのが俺の狩りなんだが、ぶっ壊してくれたからな、償いが必要だろう?
面白い話しを聞かせてくれないなら、獲物らしく楽しませてくれ。
——狩の時間だ」
「……」
あちらが、情報を持ち帰る気でいるのであれば、思いしらせるだけだ。持ち帰るのは此方で在り、地に伏すのは——向こうである、と。
話しを聞く時間は終わった。
——さぁ、戦いの時だ。
-------------------------------------------------------------------✂
秋月諒です。
ご参加いただきありがとうございます。
選択肢・アヴァタール級との決戦『テウメッサの指揮官』となります。
がっつり戦闘となります。
戦場は砂地。
アンティゴノス・テュポーン戦と同じ場所になります。
●敵について
・テウメッサの指揮官
テウメッサを名乗る狐の亜人であり、指揮をする立場を持つ。
素早い剣技を扱う狐の亜人であり、直接戦闘よりも配下を指揮し、獲物を嬲るようにして狩を行うことを好むようです。
●プレイングについて
1〜2日置いてプレイング採用となります。先着順ではありません。
また、必要人数をぐわっと大きく越えた採用は無いので、そんな感じです。
最後、情報を持って帰るための戦いとなります。
それでは皆様、御武運を。
龍統・光明
(トレインチケット)
●彼方より龍が告げる
砂塵が、戦場に舞った。ゴツゴツとした岩場など、狐の亜人にとってみれば常と変わらぬ大地であるのだろう。た、と地を蹴った亜人が、砂地を跳ぶように——来る。
「また珍しいもんじゃないか。あの方に、良い土産を聞かせられる!」
「土産か」
息を吐く。笑うようにして地を蹴った亜人を視界に龍統・光明(千変万化の九頭龍神・g01001)は腰の刀に手を添えた。二振りの神刀。竜を殺し、神を殺す力を持つその刃に手を添える。一振り、ただ一振りで良い。ざ、と砂を蹴り、加速と共に来たテウメッサの狐を光明は真っ正面に見据え——言った。
「持ち帰るのは諦めるんだな」
テウメッサの手が動く。突き出すように来た鋭い爪に——喉元を狙ってきたそれに、光明は腰を沈め、刀を抜く。
「理ごと斬り刻め! 彼岸花」
「な
……!?」
それは、神速の抜刀。抜き払った刃は突き出された腕よりも早く、その開いた胴へと鋒を沈めた。
「……っく」
ザン、と刃が亜人の胴を裂く。下段から一気に薙ぎ払った刃と共に光明は一歩、前に出た。詰められた間合を、己で喰らう。取り戻し、この距離を己の絶対の領域とする。抜き払った刃は、後は振るわれる——のみ。
「散れ」
斬り込み、薙ぎ払う。身を守るように杖を手にしたテウメッサが、舌を打つようにしてその手を振り上げた。
「ったく、くそ」
「——」
距離が、空く。た、と地を蹴った亜人の周りに妙な空気を光明は見た。
(「仕掛けてくるか」)
戦場を見定める青年の前、テウメッサの狐は苛立ちを隠すことなく声を上げた。
「俺はなぁ、運命ってのがあるんだよ。この身は、テウメッサは何者にも捕らえられない」
それが、あの回避か。まるで運命づけられたように刃を躱してみせた亜人は、口の端を上げるようにして低く——跳んだ。
「だから、お前が散れ」
「——」
地を一気に蹴って、亜人が来る。真横、足を落とした音に光明は左腕を振り上げた。
ガウン、と一撃を受けとめる。鈍く残る痛みと共に、ぐ、と腕を振り上げた。押し返すように——弾き上げるように。かけた力に警戒するようにテウメッサが距離を取る。
「お前、面倒な相手だな」
「そうか。ならその業喰わせて貰おう」
相手の動きは一度、見た。解析は十分。後は——倒すだけ。
「さぁ貴様の業を数えろ」
善戦🔵🔵🔴🔴
効果1【エアライド】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV2になった!
天破星・巴
(トレインチケット)
●獅子の誓い
砂塵が舞った。斬撃と共に零れた赤で狐の毛を、砂を染めながら——だが、亜人は笑う。
「おいおい、随分と活きの良い獲物だな」
獲物、と眼前の相手は告げた。テウメッサを名乗る狐の亜人はこちらを獲物と見ていた。これは狩りであり、嬲るのは己である、と。
「あいつらに任せずに、俺がもっと先に楽しむべきだったな」
「……」
露悪的な笑みを浮かべたテウメッサがこちらを向く。さっきまでとは違う、妙な感覚に警戒するように天破星・巴(反逆鬼・g01709)は顎を引いた。いつでも、動けるように。拳をきゅ、と握る。それは幼子ほどの見目には似合わず——だが、だからこそ愉しげにテウメッサの狐は言った。
「逃げ回っても叫んでも良いぜ? この牙を前に。 人喰い狐の牙を前にな」
「随分と言うものじゃ……」
ものじゃな、と言いかけた言葉は、ひたりとあった瞳に封じられる。先に感じていた違和感、それはテウメッサのこの瞳、だ。滲むような恐怖が、ひたひたと巴に迫る。
(「やっかいな『目』じゃな」)
これは怪物の目による威圧だ。本能的に恐怖を抱かせるもの。理解していようとも、その威圧に足が竦んだ訳で無くともあの『目』は、巴から一瞬を奪い——奴が、来た。
「——狩りの時間だ」
「——!」
亜人の牙が、巴の肩に食い込んだ。肌を突き破り、ガチン、と骨にぶつかったような鈍い音が耳に届く。痛みが熱となって体を巡り——だが、その痛みに、は、と巴は息を吐き、食らいついてきる亜人の腕を、掴む。
「な……」
「さて、今度はわらわの番じゃの」
ぐ、と掴んだ腕と共にテウメッサを引き剥がす。食らいついてくる以上、相手は間合を詰めてくる。互いの影を踏むこの距離は——巴の得手だ。
「……ッチ、この馬鹿力か? だが、こいつは壊せ……」
「力で壊せない物? それは壊す力が足りないだけじゃ」
テウメッサが杖を手にするより早く、巴は強く拳を握り——地に、叩きつけた。
「わらわに砕けぬ物など無いのじゃ」
ガウン、と重い音が響くと同時に、巴の拳を受けとめた地面が弾けるように形を変えた。衝撃が岩と共に走り、テウメッサを貫く。この距離、この間合では亜人とて逃げきれはしない。
「……ッこいつ」
「さて、続きじゃな。狩りだったか」
娘の拳は血に濡れていた。肩口を赤く染め、零れ落ちた赤が髪に触れる。朱をさすように赤く染まった髪を揺らしながら、鬼人たる娘は言った。
「勝負じゃ」
善戦🔵🔵🔴🔴
効果1【トラップ生成】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
九十九・静梨
※連携・アドリブ歓迎
話はすれどそれはあくまで情報の為の餌
こちらを倒し持ち帰れば良し
至極通りですがそれは此方も同じ
どちらが持ち帰りどちらが果てるか
後は力で決するのみ!
【完全視界】で砂の中で敵を捉えられるよう視界確保
情報を持ち帰らせないよう乱戦の中
敵の進行方向を遮るように陣取り【防衛ライン】を発動
突破を図るならこのわたくしを見事狩ってみせなさい!
敵の射程距離内で隆起した全身の筋肉を見せつけ挑発
威圧の眼は忍耐力で凌ぎ怯まずに牙での食らいつきをオーラ操作で魔力障壁で覆った腕の筋肉で防御
食らいついた牙は筋肉を締めて決して抜かせないようにし
この近距離こそわたくしが狙っていた絶好の距離!
さあ、我が全霊の筋肉と共に喰らいなさい、蟻巣破城拳!
全身にオーラを纏い食らいつかれていない拳で一撃
牙が抜けた瞬間を距離を離さないようすかさず痛みを耐えて両腕での連続攻撃を敵の体に叩き込みますわ
貴方がシトリーに抱かれる事はありませんわ
貴方は死に抱かれ永遠に眠るのみですわよ!
トドメに頭部へと渾身の一撃を叩き込みますわ!
●真紅の決議
穿つ拳と、剣戟が砂塵舞う戦場にあった。舌打ちと共に、テウメッサの狐が後ろに跳ぶ。
「おいおい、随分と活きが良いんだな。ディアボロスの雄も雌も。もっと、話したって良いんだがな」
亜人は肩を竦めて見せた。だが、会話を告げる言葉の割にその目は戦場に喜悦を向けていた。
「……」
あれは、相対した者を敵と見るような目では無い。獲物を見る、強者の目だ。捕食者ですらない、嬲る者の目に九十九・静梨(魔闘筋嬢・g01741)は、パン、と拳を鳴らす。
「話はすれどそれはあくまで情報の為の餌。こちらを倒し持ち帰れば良し。至極通りですがそれは此方も同じ」
ざ、と足を引く。構えを取る。あの日、諸共に喰らった力が真紅の瞳に加護を紡ぐ。どれ程、砂が舞おうとこの瞳は敵を、戦場を捉え続ける。
「どちらが持ち帰りどちらが果てるか、後は力で決するのみ!」
だん、と静梨は強く地面を踏んだ。大地を踏みしめる震脚。それはこの地に、防衛ラインを引く。
「獲物は、逃げ回って俺を愉しませれば良いってのに。随分、邪魔してくれるな」
低く、吐くように言葉は落ちた。嬲るような視線から、分かりやすく殺意に変わる。
「ディアボロス」
「突破を図るならこのわたくしを見事狩ってみせなさい!」
その殺意に、静梨は真っ直ぐに視線を返し、ぐ、と己の腕を晒した。隆起した全身の筋肉を見せ付けるように、結い上げた金色の髪を揺らし——挑発する。
「は、ははは! 獲物が、随分と好き勝手言うじゃないか。嬲ってやる」
そう口にすると同時に、テウメッサは前に跳んだ。一足、ぐん、と砂を蹴って前に出る。
——早い。
「この『目』を見ろ。テウメッサの目を」
影を踏み、来た亜人の瞳が静梨を見据える。逸らすことなど許さぬとでも言うように、間合深くで出会った瞳が静梨の動きを——奪った。
「——」
瞬間、沸き上がってきたのは恐怖であった。それは本能的に恐怖を抱かせる怪物の「目」としての力。ひゅ、と静梨は息を飲む。だが、そのまま飲み込まれることは無いように、きつく唇を引き結ぶ。拳を握る。
「わたくしは……!」
「それ以上、馬鹿なこと喋れないように首から壊してやるよ」
ぐわり、と下から食らいつく牙があった。喉元、食いちぎるように来たその牙に、静梨は腕を振り上げる。
「——は?」
ギン、と鈍い音がした。ぎり、ぎりと食らいつくテウメッサの牙が静梨の腕に沈む。だが、骨には届かない。魔力障壁が、筋肉を覆ったのだ。そして筋肉が強化されれば——突き立てば牙は、抜けない。
「——!」
その事実にテウメッサが気が付いたところで、もう遅い。
「この近距離こそわたくしが狙っていた絶好の距離!」
腕は血にぬ入れていた。鮮血が、静梨の足元を濡らす。砂地を赤く染め——だが、その泥濘を静梨は強く踏みしめた。ぶわり、と娘の全身からオーラが発せられる。それは、悪魔の持つ筋肉の力と魔力の力を継承した静梨の闘気。
「さあ、我が全霊の筋肉と共に喰らいなさい、蟻巣破城拳!」
食らいつかれていない方の拳で、テウメッサへと一撃を叩き込んだ。
「ッガ、ぁあ、あ……ッくそ、この……!」
亜人の身が、浮く。食らいついた牙が離れ、そのまま地に着いた体で間合を開けようとするテウメッサへと静梨は踏み込んだ。此処はまだ、静梨の間合——絶対の聖域。
「貴方がシトリーに抱かれる事はありませんわ」
「——!」
間合深く、影を踏むのは静梨の番だ。きつく握った拳も、体も軋むように痛い。だが、血に染まった拳を解くつもりは無い。
「貴方は死に抱かれ永遠に眠るのみですわよ!」
真っ正面から、突き出した拳で渾身の一撃をテウメッサの頭に叩き込んだ。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【土壌改良】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV1が発生!
エイレーネ・エピケフィシア
なるほど、確かに運命があなたをここへと導いたようです
邪悪なる者の企みを知る好機を、わたし達復讐者へと与えるために!
神々より賜った天祐を無駄にはできません
あなたには今日ここで倒れていただきます!
十分な情報を聞き出せた今、槍を振るわぬ理由は何もありません
憤怒を込めて≪神護の長槍≫を握りしめ、敵に襲い掛かります
ただし激情に駆られて不用意な動きをすることはなく、戦いぶりは冷静に
仲間をディフェンスし、互いの死角や攻撃後の隙をカバーするよう心がけます
敵を滅ぼす猛攻の先駆けとして、『闇夜を貫く雷霆の槍』を行使
槍の穂先から伸びる雷の刃で敵を痺れさせた上で、本来の刃を深々と突き込みます
刺さった槍が敵の動きを阻害している間に、仲間に次なる攻撃を仕掛けていただきましょう
忌まわしい狩りの続きは、タルタロスの深淵で楽しみなさい!
敵の威圧に対しては勇気を奮い起こし、≪神護の輝盾≫を力強く構えて対抗
迫りくる牙に盾を叩きつけて弾き、喉笛や太い動脈を噛み千切られることを防ぎます
戦友の前で恐れなど見せるものですか!
クロエ・アルニティコス
おかしな話ですね。
シトリーとやらに気に入られればやりたい放題などと。
そんな話は、やりたい放題をしていない者の言葉です。
己の欲望のまま人を殺し犯し生きる、お前たちに相応しい言葉ではありません。
狩?いいでしょう。元より情報を吐ききったお前に用はありません。
それならば生かしておく理由はなく……殺す理由ならどれだけでもあります。
トリカブトの種を触媒に【ヘカテー・アコニタム】を使用。
この身を魔術の女神にして冥府の女神ヘカテーの代行者とし、冥府の門を開きます。
復讐心を媒介に冥府の門から伸びる腕を呼び出し、テウメッサの狐を捕らえ、生命力を奪います。
敵の反撃に対しては味方をディフェンス。植物に捕縛されようと蔓を振り払うのではなく、攻撃を続けることで力を奪われるよりも多く、敵の生命力を奪いましょう。
仲間の攻撃で隙を見せたなら一気に冥府へと引きずり込みます。
お前と私が……私たちが会ったことが運命というなら。
お前の命運が尽きるのもまた運命。
お前に相応しいのは奈落の底です。
●神々より賜った天祐と神官は告げた
砂が、舞う。鮮血の混じった砂が地に落ち、乾いた砂塵だけが空に舞う。肩に、胴に血濡れの痕があった。
「随分と活きが良い獲物だな。ディアボロス。土産話には良いがな」
心底愉しげに——そして、強者の余裕を滲ませながら狐の亜人は言った。
「このテウメッサの」
「おかしな話ですね。
シトリーとやらに気に入られればやりたい放題などと」
テウメッサを名乗る狐に、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は冷えた視線を向ける。
「そんな話は、やりたい放題をしていない者の言葉です。己の欲望のまま人を殺し犯し生きる、お前たちに相応しい言葉ではありません」
「は、ディヴィジョン境界だぞ、シトリー様に気に入られれば連れてってもらって、何でもやりたい放題なんだよ。もっと、もっとな」
まぁ、とテウメッサは息を吐く。さっきまでの苛立ちを喜悦に変えたのは、そのやりたい放題を想像したからか。
「今はお前らがいるからな」
「なるほど、確かに運命があなたをここへと導いたようです」
その視線、続く言葉を断ち切るように神官たる娘は告げた。下げたままでいた槍の鋒を、ひゅん、とテウメッサに向ける。
「邪悪なる者の企みを知る好機を、わたし達復讐者へと与えるために!」
風が吹く。揺れる髪をそのままに、エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)はテウメッサの狐を見た。
「神々より賜った天祐を無駄にはできません」
巻き上げる砂が視界を覆うが——そんなもの、二人には関係無い。神官と魔女の瞳には強化が宿り、加護と共にあの時、飲み干した殺意を、その手の中で沈めた怒りを誓いを解放する。
テウメッサを、倒すと。
「あなたには今日ここで倒れていただきます!」
加護を宿した長槍に、光が灯る。激情に駆られ、飲み込まれるつもりはない。都市国家の守護者たる娘は短く、祈りの言葉を唇に乗せた。
十分な情報を聞き出せた今、槍を振るわぬ理由は何も——無いのだ。
「倒す、倒すか。は、言っただろう? こいつは狩りで、獲物はお前らだ」
テウメッサの狐は嗤う。滲む喜悦はこれから始まる狩りを思ってだろう。獲物、とディアボロスを見て言った亜人は、
「愉しませろよ? 俺はこれから、シトリー様にご報告にも行くんだからな!」
「狩? いいでしょう」
魔女は悠然とした笑みを小さく唇に乗せた。僅かばかりの笑み。冷ややかな視線は変わらず——だがその奥に、あの時、飲み込んだ殺意を宿す。
「元より情報を吐ききったお前に用はありません」
吹きすさむ風が、止む。この地に訪れて初めて感じる静寂の中、その手に魔術を宿す。
「それならば生かしておく理由はなく……殺す理由ならどれだけでもあります」
澄んだ青の瞳が告げる。それが、戦いの始まりとなった。
●テウメッサの狐
「聖なる槍に、裁きの雷霆が宿らんことを!」
それは女神に捧ぐ神官の祈り。澄み切った空を貫くように掲げられた槍が光を帯びた。轟音と共に長槍は稲妻の力を帯びる。ひゅん、と振るう鋒が稲妻の刃を纏い、エイレーネは——行く。
「は、遅いんだよ」
その踏み込みをテウメッサは嗤う。一歩、行く速度であればテウメッサの方が早いだろう。間合を奪い、手足さえ奪うように亜人の爪は低く構えられる。——だが、そこに、エイレーネは踏み込んだ
「遅きは……」
前に、出る。一歩、靴の裏で砂を掴み、二歩目、着地の足で大地を蹴り——残る間合を穿つように、雷霆の宿りし長槍を突き出した。
「あなたです!」
「な……ッ!?」
穿つ一撃が、テウメッサに届いた。互いの間にあった距離を、踏み込みで亜人が奪うその前に鋒に宿った稲妻の刃が槍の間合を——変えたのだ。
「忌まわしい狩りの続きは、タルタロスの深淵で楽しみなさい!」
「ぐ、ぁあ、あ!」
一歩、踏み込みと共に突き出した槍がテウメッサの体に沈む。鎧の間から突き入れた稲妻の刃が亜人の体を切り裂いた。
「くそ、体が痺れて……、お前神官か……!」
零れ落ちた血が、砂地を濡らしていた。テウメッサが身を捩ろうとも、槍を引き抜こうとも痺れた体がそれを許さない。それこそ、稲妻の生んだ縛。痺れは、亜人の動きを鈍らせた。そう、鈍らせただけだ。永遠の縛では無く、だが鈍らせた、その時だけでエイレーネには、守護者の二つ名を己に課した娘には——十分だ。
「神のご加護を」
祈りを唇に乗せ、残る間合を神護の長槍と共に詰める。稲妻の刃の後、本来の刃を長槍を沈めれば呻く亜人との距離が詰まる。近接を得手とする相手に対し、此処まで来たのは稲妻と共にテウメッサの動きを鈍らせる為。
「——今です」
信じているからこそ、託せる。戦友へと。
「冥府の女神ヘカテーよ」
魔女は、紡ぐ。一際厳重に封がされたそれを、今、解き放つ。掌に落とすは、トリカブトの種。復讐をその花言葉として宿す種に吐息で触れ、ふぅ、と地に零す。
「種子に宿るは我が復讐」
ひとつ、ふたつと種は芽を出し、花を咲かす。クロエの立つ地。魔女が影を落とすその場所から滲むように紫の花が咲く。一斉に、大地を埋めつくすように。
それは、クロエの身を魔術の女神にして冥府の女神ヘカテーの代行者とするもの。昏き復讐心を媒介にトリカブトの種子と共に娘はその身を一時、ヘカテーの代行者とする。
「狂い咲け」
故に、冥府の門は開く。咲き誇る花の向こう、ぎぃ、と開いた巨大な門から無数の腕がテウメッサへと伸びた。
「ヘカテー・アコニタム!」
「ッチ、くそ……この槍、離せ……ッく、ぁああ!? んで、こいつは!」
エイレーネの一撃で穿たれていたテウメッサに逃げる道など無い。触れたその場所から、無数の腕は亜人の生命力を奪っていく。
「っくそが! 俺は、テウメッサだ。この名は、運命を持つんだよ」
身を捩り、暴れるようにしてテウメッサは槍を引き抜いた。だん、と身を後ろに跳ばす。追いかけてきた腕を避けるように着地した先で、テウメッサは腰のテュルソスを翳した。
「豊穣の黄金杖。俺に応えろ!」
次の瞬間、地面から大量の蔓状の植物が生まれ、ディアボロス達に襲いかかった。
「お前ら二人とも、捕まえてやる」
「あれは……」
ぶわり、と蔓は身を起こす。それだけで巨大な植物の獣であるかのように。地を這い、起き上がり、降りそそぐように来たそれにクロエの体は動いていた。
仲間を、護るために。
「ご無事ですか?」
クロエの言葉に、エイレーネは頷いた。クロエ様は、と問う言葉の代わりに視線を交わす。ほんの一瞬、出会った青と琥珀は、小さな頷きの後、前を——敵を、見る。護られたその時を、今度はエイレーネが受け取って前に、出る。
「は、動いてくるか。遊びがいのある獲物だな。なら、この目を見ろ」
「——ッ」
それは威圧に似ていた。ただ見られただけ。だが、それは怪物の目だ。本能的に恐怖を抱かせる『目』の力。見ることによってテウメッサは人喰い狐としてその力を振るう。
怖れを抱かせるものして。
●運命というのなら、と魔女は言う
「食いちぎってやるよ」
「わたし、は……!」
這い寄るような恐怖に、その威圧にエイレーネは強く盾を握った。ぐ、と体を引き起こす。止まってしまった足を、動かす。勇気を奮い起こし、託された時で戦い抜く為に。
「護り戦います!」
迫り来る牙に、ぐん、と神護の輝盾を持ち上げた。ガウン、と鈍い音が響く。喉笛を狙ってきた亜人の牙が、止まる。
「戦友の前で恐れなど見せるものですか!」
浅く、身に残った傷など足を止める理由にはならない。弾くように力強く盾を構え、友へと向いた視線を遮るように、護るように今度はエイレーネが立った。
「城市護りたもう畏き女神のご加護を!」
長槍が再び稲妻の力を宿す。その一撃に、続くようにクロエはその手をテウメッサへと向けた。
「冥府の女神ヘカテーよ」
その名を代行者として紡ぐ。エイレーネの一撃を受け、ぐらり、と身を揺らしたテウメッサの足に無数の腕が絡みついた。
「な、くそ……ッ離せ、こんな、この、俺が! 俺は、運命に……!」
「お前と私が……私たちが会ったことが運命というなら、お前の命運が尽きるのもまた運命」
冥府の門が開く。代行者たる娘の命じるがままに。無数の腕が杖を向けたテウメッサの体ごと絡み取る。
「やめろ、くそ、この、ぐ、ぁあああ」
テウメッサの狐が、冥府へと引きずり込まれていく。叫ぶ声さえ飲み込むようにして、テウメッサの狐は、冥府へと飲み込まれ——消えた。
「お前に相応しいのは奈落の底です」
冥府の門は、閉じた。咲き誇る花が消え、静寂が訪れる。
「……」
「——無事、終わりましたね」
気が付けばまた、風が吹き始めていた。戦友の傍らに立って、エイレーネは、そっと言葉を告げる。
「帰りましょう」
「えぇ。この情報を持ち帰るとしましょう」
亜人が何を考えているにしても、それを潰すために。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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