２０２３年クリスマス――オーストラリアと人類史に祝福を（作者 のずみりん）

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リプレイ

●１２月の水着コン
「良いわね、この時間は」
　これが、竜を撃滅する騎士道の果てにある報酬なのかもしれない。
　朱のビキニ水着に黒ニーソックスを組み合わせ、レオアリア・フォルシオン（フォルシオン統一王朝初代皇帝『征龍帝』・g00492）は海浜公園の舞台から取り戻した世界を眺め見やる。
「ここで飛び入りのエントリーだっ、彼の地の英雄、奪還者『征龍帝』レオアリア・フォルシオン！」
「おぉぉぉぉぉぉ！」
　ノリノリの司会に沸く会場で、レオアリアは美しい赤髪となびかせてポーズを決める。
　新宿やアイルランドの反対に位置したオーストラリアは真冬が真夏。北半球では真冬の今、汗ばむほどの熱気の世界は人々が楽園と呼んだのもわかるというものだ。
「あぁ……パフォーマンスがあるのね。なら……失礼、それをいただけるかしら？」
　彼の取り戻された楽園に見せるべき自分は何か？　司会に促され、レオアリアは屋台のＢＢＱ串を手に取り上品に一口。
　そして『東方の主の如く美食迷宮に民を誘おう』と掲げれば【口福の伝道者】が人々の手元に同じ味が届けられる。驚くべきディアボロスの力に喝采と称賛。
「これがわたくし達の能力の一つ！　オーストラリアの豊富な自給率があれば、皆を餓えさせる事は決して無いわ！　だから、これからも大地と人類、歴史を取り戻す戦いに協力して頂戴！」
「征龍帝！　征龍帝！」
　カリスマをともなう演説めいた姿に熱狂的なファンが立ち上がる。少々やりすぎたかもと思いつつも、征龍帝は後を任せてステージを下りた。
　ディアボロスの役目はここまで。ここからは自分の楽しむ時間だ。
「さぁ日焼け止めも塗ったし、このまま海を遊び尽くす……」
「サンタがきたぞーっ！」
　いざと構えるその時、飛び込んできたのはオーストラリア名物、真夏のサンタ。
「わ、本当にサーフィンするサンタが来たわ！」
「捕まえたらプレゼントくれるんだってさ、姉ちゃん！」
「プレゼント？　よーし……！」
　子供たちがはしゃぎ、駆け出していく声に包まれ、レオアリアもまた無邪気な心で砂浜を走り出していた。


「イギリスの人類史が元に戻って万々歳の何物でもないですわね……楽しみましょ！」
「あぁうん、愛の歌はやめといた方がいいかな、みんな卒倒しちゃったらお祭りどころじゃないし」
「一般人の皆様には刺激が強すぎますかしら……美しさは時に罪ですわね！」
　バックヤードのシャーロット・アルシェピス（人間の撃竜騎士・g03299）迫真の助言に、ナイナ・ヴィラネスティズム（凱閃令嬢・g00383）は文字通り一肌脱いで水着コンテストを沸かせた。
　ドレスの下から露わになるのは紺色のスクール水着姿、手にしたロールケーキを『口福の伝道者』で配り歩けば、会場はもう大盛り上がりだ。
「オホホホホ！　文句など言わせないよう、お口に入れ込んで差し上げますの！」
「はいはい、ご馳走様」
　ものの勢いで登壇したシャーロットは、ナイナの突き出す御裾分けを一口。流麗な二人の淑女へ、喝采は黄色い悲鳴を混ぜていく。
「１２月なんだよねぇ、今。サマーフェイトが帰ってきたみたいだよ」
「結構じゃありませんの、楽しい事は年に何度あっても」
　もみくちゃになりかけて舞台を下りる二人。
　拾い上げたジャケットをチューブトップに羽織るシャーロットの冗句に、ナイナは笑って応じ返す。
「もう何年でも、遠慮する必要はありませんもの」
「あぁうん……そうだね、せめて次までは」
　二人の故郷『幻想竜域キングアーサー』は最終人類史へと奪還され、暴虐の時は終わった。
　だがディアボロスの戦いは終わらない。外のディヴィジョンには数多のクロノヴェーダが待ち構え、今度はこちらが守る側だ。
　幻想竜域の戦いは終わったが、これで終わりなわけがない。
「飽きるまで戦い続け、そして生きていきますわよ。まだ生きている意味を求めてね」
「そうだね。世界は広い、今度はボクたちがみんなを助ける番だ」
　既に巨獣大陸ゴンドワナや黄金海賊船エルドラード、幻想竜域キングアーサーと隣接していた地域でも新たな探索と戦いが始まっている。
　バカンスはまだひと時、迫る新たな戦いに向け、二人は差し入れられたドリンクのコップを静かに鳴らせた。


　緑のワンピース水着に白いレースの羽織物をまとったアンナ・ラークリーズ（清光のフィエリテ・g09972）は、水着コンのステージ上から見下ろす光景にふと目を止めた。
「あのビーチチェアの……そうか。戻れたか」
　そこに浮かぶのは帰還前に訪れたオーストラリアの風景。そこにはなかった人々の姿。
　帰還した人々はあのチェアを手入れして、また使ってくれているのだろうか。神隠しのように人気のないビーチチェアだけがあった海浜公園は、今や往来する人々で足の踏み場もないほど賑わっていた。
「ああ……そうだね。オーストラリアの豊潤な大地、精霊の祝福があるように……」
　朗々と披露される精霊の祝福の歌にも力が入る。妖狐の老婦人の歌声と心意気は確かに人々にも届いたのだろう。
　静かにわきおこる力強い拍手にアンナは一礼し、壇を後にする。
　向かう先は、先に見えた賑やかなビーチ。しゃなりと人ごみをかき分けて失礼すれば、バーベキューの網を広げた年配のコックが顔を上げた。
「ご婦人、先ほどこちらを見られていた……？」
「前に来た時を思い出してね。あ、その骨付きハム頂けるかい……ああ、蕩けるような芳醇な味だねえ」
「ありがとう。楽しんでくれたらありがたい」
　重ねた年月を感じさせる少ないやりとりで察しあい、アンナは腹ごしらえに舌鼓を打つ。
　海を見れば高波にサーフボードを滑らせるサンタクロースの姿。見事な技にアンナは惜しまぬ称賛の拍手で応えた。
「さて……私も泳ぐか」
　そしてアンナもまた砂浜へ向かう。
　これでも泳ぎは得意なんだと、昂る心に呟き、羽織物を下ろし。安全になった海で泳ぐのはさぞや楽しいに違いない。




●夏の海のクリスマス
　ジュウジュウと音を立て、ロブスターから汁がはねる。
　立ち込めるシーフードの香ばしい匂いはバーベキュー会場を溢れ、浜辺から海まで流れていく。
「こいつは頑張ってるねぇ！」
「二人とも大喰らいっすからね、これでも足りないくらいっす」
　オーストラリアのクリスマスと言えば海の幸が山盛りのバーベキュー。
　その中でもひときわ目を引くグリルを河口のは山田・菜々（正義の味方の味方・g02130）と清水・式（修祓者・g01545）の夫婦だった。
「クリスマスに夏の海でＢＢＱなんて、日本にいたらできないイベントだからね。楽しまなくちゃって」
「違いない！　こいつはシドニーを戻してくれた礼だ、オーストラリアのケーキは溶けねぇから食後の楽しみにな」
　水着姿の式たちに御馳走様、と差し入れられたのはオーストラリアでは定番のクリスマス・フルーツケーキ。
　北半球のシュトレンを更に豪華にしたようなそれは、盛りだくさんのフルーツが練り込まれた生地を焼き上げたパウンドケーキ。
「いい思い出になるっすね、今の人……」
「お礼だって。ここだとどっしりしたケーキが多いんだね」
　手にした皿の上のものを菜々に聞かれ、式が冗談めかして笑う。もっちり粘るケーキ生地を切り分けていくと、グリルからパカンとホタテ貝が鈍い音で開く。
「クリスマスに水着でバーベキューって、変な感じっすね」
「それもこんなにいっぱいね」
　式が目を細めて見渡す会場はどこも恋人、家族連れがバーベキューに舌鼓を打っている。
　暖かい家で料理を囲う北半球のクリスマスとはまるで正反対。だけど、その根幹にあるのはきっと同じ。
「オーストラリアで当たり前でも、僕たちにはめったにない体験だよ」
「うん……式との新しい思い出ができて、嬉しいっす」
　そしてそれは二人にとっても、そうだ。
「おーっ、菜々、あそこ。本当にサンタがサーフィンしてる」
「トナカイたちはどうするんっすかねー。あれ、たしかこの骨付きハム……」
　焼いて、焼いて、驚くほど食べて。季節の風物詩に目を輝かせて。
「向こうの浜辺でなんか光ってるっす！」
「あの方角は……セント・メアリー大聖堂かな？　プロジェクションマッピングをやってるみたいだよ」
　気付けば日は傾き、下り始めた夜の帳に街がクリスマス・カラーに輝いている。
　幻想的な光景に惹かれるように街へと出た二人を屋台の光が照らす。クリスマスマーケットの屋台を冷やかし、クリスマスキャロルに迎えられながら、式と菜々は手を取ってクリスマスのシドニーを満喫していた。
「何だか、帰るのがもったいないね」
「オーストラリアはクリスマスの次も、ボクシングデーって祭日らしいっすよ」
　元々は教会が募った寄付で貧困層にプレゼントを送る日だったらしい、と聞いた話を披露する菜々。
　今ではオーストラリア最大のショッピングデーになっていると話を聞けば、式も興味がわいてきた。今日、そして明日という日に思い出を一つ多く持ち帰るのも悪くはない。
「折角だし、一泊して帰ろうかな？」
「大賛成っす！」


●ボクシング・デー
　オーストラリアのクリスマスの楽しみは、その後日にもある。
「安いよ安いよ！」
「ケーキもハムもまだあるからねー！」
　クリスマスの翌日、ボクシング・デー。元は使用人やサービス業といった、クリスマス当日を休めない人たちのための一日遅れの祝日なのだが、オーストラリアでは盛大な歳末セールの日でもあるのだ。
「今度こそ本当の、皆様の凱歌を演奏させていただきますねっ」
　にぎわうモールの一角から響く歌と声。仮説ステージの人々を沸かせるのは天竜・なの唄（春告小唄・g03217）が奏でる『菜乃花三味線、凱歌』とシャーロット・アルシェピス（人間の撃竜騎士・g03299）の祝福の歌。
　クリスマスの締めを彩り、行きかう人々に手を振る二人もまたにぎわう街へと下りていく。
「急なイベントに呼ばれてさ、ありがとう。助かったよ」
「こちらこそ、オーストラリアの人々にも和の音で楽しんでもらえれば嬉しいですっ」
　スフィンクス『はな』も一緒に、お礼にとレストランでご馳走するシャーロットは満ち足りていた。
　年末の激戦の末に『幻想竜域キングアーサー』は解放され、悲願は達成された。このクリスマスは彼女の、キングアーサーの人々にとっても帰還の祝福だったから。
「今度はボクが、お世話になったみんなを助けないとね」
「はいっ、みんなの大切なもの全部ぜーんぶ救いにいきましょうっ」
　戦いはまだ続くのだろう。それでもいつか……サンタガールに扮したシャーロットと、浴衣姿のなの唄。何もかも異なる二人は、一つの目標に向け、拳を小突きあわせて笑った。

最終結果:成功
完成日	2023年12月26日