リプレイ
クロエ・アルニティコス
アンティオキア攻めが始まって数か月。
手をかけさせられましたが、ようやく終わりが見えてきました。
イタリア方面からの攻略も進んではいますが、こちらからもギリシアへの道を開きましょう。
【壁歩き】で壁を地面のように上りましょう。散々バベルの塔でも同じことをしましたからね。慣れたものです。
城壁の上で防衛を行う敵が攻撃を行おうと姿を見せたところで【ヒュドラ・ヘレボルス】を使用。ヒュドラを象った怪物を作り出します。
毒息を吹きかけ、体の内外から腐らせ下へと叩き落していきます。
複数体をまとめて攻撃し、早期に撃破を狙いましょう。
足を止めては敵が集まってくる可能性がありますから、足は止めず。一歩ずつ登っていきます。
反撃の鮮血色の風は守護の青薔薇の魔術防壁で軽減し、下へと落とされないように。
精鋭が居ないのは楽でいいですね。
城に籠られると面倒ですが……手は打っておきましょうか。
エイレーネ・エピケフィシア
七曜の戦の直後から続く攻囲が、いよいよ大詰めを迎えようとしていますね
これ程の大都市の解放が叶えば、人々の安住の地ともなり得るでしょう
荒野に追われた苦境の民がために……必ずや勝利を!
【エアライド】を仲間と共有すると共に【壁歩き】を借ります
姿勢を低くした状態で歩き、少しでも壁上の敵に発見されるのを遅くなるようにします
会敵したなら、≪神護の長槍≫を振り回して『孫呉黒黄旋』を発動
渦巻く衝撃波によって敵を吹き飛ばし、壁に叩きつけて大きなダメージを与えたり
足場から突き落とすことによって戦線離脱させることを狙います
敵の技に対しては≪神護の輝盾≫を構えて防御
振り下ろされる斧を盾で弾いて身を護ると共に
太刀筋を逸らされて姿勢が乱れたところにすかさず攻撃を仕掛け、迅速に数を減らして行きましょう
また、敵の技によって壁から叩き落とされそうになった時は【エアライド】を活用
空中ジャンプで素早く壁に戻ると同時に、距離を取って仕切り直します
一刻も早く辿り着かねばならないのです
どんな壁を前にしても、止まってはいられません!
蹂躙戦記イスカンダル、アンティオキア。
勝利王セレウコスが座する王宮を守るように設けられた堅牢な城壁は、今、亜人の部隊による厳重な警戒下にあった。
かつては多くの戦力を誇った城壁の護りは、しかし、その殆どが既に無い。復讐者たちの幾度にも渡る攻略は亜人の兵士を着実に削り取り、もはや突破は時間の問題となっていた。
「……もうすぐ、終わるのですね。アンティオキア攻めが」
今では敵兵もまばらとなった防壁を見遣りながら、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は呟いた。
《七曜の戦》が終わり、城攻めを始めてはや数ヶ月。いよいよ制圧の戦は目前に迫りつつある。セレウコスを討ち取れば、蹂躙戦記イスカンダルの攻略における大きな勝利となるだろう。これまでに積み重ねて来た戦いの日々を想い、クロエの瞳が感慨の色を帯びた。
それは、彼女の隣に立つ復讐者――エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)も同じ。
「七曜の戦の直後から続く攻囲が、いよいよ大詰めを迎えようとしていますね」
エイレーネが見澄ます先には、今も城壁の上で警備に精を出すトループス級亜人たちの姿が見える。
彼らを撃破し、防衛ラインを突破することこそ、彼女とクロエの最初の目標だ。それを終えた後は市街地での作戦を行い、そして、それを終えた後は――。
(「アンティオキア……これ程の大都市の解放が叶えば、人々の安住の地ともなり得るでしょう」)
そこで営まれる人々の暮らしを想い、エイレーネの顔に微笑が浮かぶ。
亜人に蹂躙される恐怖に怯えること無く、枕を高くして眠れる日々。それはエイレーネとクロエだけでなく、全ての復讐者にとっての悲願でもあった。
「荒野に追われた苦境の民がために……必ずや勝利を」
その為にも、まずはこの作戦を成功させねばならない。改めて決意を誓うエイレーネに、クロエが頷きを返す。
「イタリア方面からの攻略も進んではいますが、こちらからもギリシアへの道を開きましょう」
アンティオキアを解放し、亜人の脅威に晒されている全ての都市を解放し。
戦い続けた先、クロノヴェーダのいない世界を取り戻す為にも、この戦いは負けられない。
かくして二人は歩き出す。いずれ掴む未来の為の、小さな一歩となる戦場を目指して――。
高さ20メートルにも及ぶ城壁に近づくと、クロエはそのまま無造作に踏み出した。
侵入者を阻む垂直の壁も、壁歩きを発動した彼女にとっては平らな道と変わらない。足が壁を離れれば地面へと真っ逆さまだが、その点はエイレーネがエアライドで対応済みだ。
阿吽の呼吸で残留効果を駆使しながら壁を登りつつ、クロエはふと昔の戦場を思い出す。
「散々バベルの塔でも同じことをしましたからね。慣れたものです」
「《七曜の戦》の少し前でしたか……壁面でアヴァタール級と戦ったのも、今となっては懐かしいですね」
かつて共に戦った作戦を思い出しながら、エイレーネが笑う。
バベルの塔に比べれば、20メートル程度の高さの城壁などは大した高さにも感じない。亜人に発見されるのを少しでも遅くするよう姿勢を低くした状態を保ちながら、エイレーネはクロエと共に城壁の上を目指して歩いて行く。
そして――二人の足が城壁の半ばを超えた時、亜人兵の一体が彼女たちの姿を捉えた。
『敵襲! ディアボロスの敵襲だ!』
「見つかったようですね。では始めましょう――亜人は生かしておきません」
クロエは先頭に立つと、歩行の速度を上げて城壁の上を目指し始めた。
そんな彼女が仰ぎ見る先、進路を塞ぐように駆けて来るのは牛型の亜人『ミノタウロスの狂戦士』だ。魔力を秘めた手斧を構え、タウロスサイクロンを発動せんとする狂戦士たち。だが、その判断はあまりに迂闊だったと言えるだろう。姿を見せた次点で、彼らは既にクロエの射程に踏み込んでいるのだから――!
「種子に宿るは我が憎悪、芽吹け『ヒュドラ・ヘレボルス』!」
クロエの手から、小さな種が城壁へとばら撒かれた。
魔力と憎悪をたっぷりと注がれたクリスマスローズの種は、パラドクスの力で芽吹くと同時に禍々しい怪物へと成長。鎌首をもたげたヒュドラさながらに、猛毒のブレスで城壁を満たし始めた。
『ぎゃあぁぁっ!』『い、息が……!!』
「エイレーネ、今のうちに」
クロエの怪物が放つブレスは、僅かでも吸い込めば身体を内外から腐らせ、指先ほどでも触れれば皮膚が焼け爛れる。
それを全身に浴びて狂戦士たちが悶え苦しむ間も、クロエは足を止めずに壁の上を目指して登っていく。複数の敵を狙えるパラドクスを駆使した甲斐もあって、その効果は抜群だ。
時折飛んで来る鮮血色の風も、彼女の足を止めるには至らない。青薔薇の魔術防壁を展開しながら、クロエはエイレーネと共に歩みを進めて行った。
エアライドは、最適な移動経路を見出すことに加え、空中での跳躍を可能とする残留効果だ。
戦闘時の被弾などで多少足を踏み外しても、この効果があれば落下の危険は大幅に減る。事実、これを発動したエイレーネは、クロエともども一度も地面に落下することなく、城壁を登り続けていた。
「難攻不落の壁も、こうなれば只の地面と大差は有りませんね」
いまだ余裕を残した表情で、エイレーネが呟いた。
会敵の直後から彼女が振り回す神護の長槍は、『孫呉黒黄旋』のパラドクスを生み出しながら敵を吹き飛ばし続けている。時折飛んで来る反撃も、エアライドを駆使する彼女にとっては大した脅威とはなり得ない。空中ジャンプで素早く壁に戻り、すぐに仕切り直しとばかり歩みを再開していく。
そうして、進んで下がってを数分ほど繰り返した後、クロエがエイレーネに合図を送って来た。
「そろそろ城壁の上に着きそうです。注意を」
「分かりました。わたしが先に行きましょう」
前方に待ち伏せの気配を察すると、エイレーネは歩みの速度を上げる。
視界に映ったのは、今まさに斧を振り下ろさんとする狂戦士たちの姿。だがエイレーネの振るう長槍は、それよりも僅かに速かった。
「一刻も早く辿り着かねばならないのです。どんな壁を前にしても、止まってはいられません!」
長槍の旋回が、黄黒二色のオーラの渦を生む。
孫呉黒黄旋のパラドクスを浴びた狂戦士たちは、ある者は壁に叩きつけられ、ある者は足場から落下し、次々蹴散らされていった。ミノタウロスたちは尚も斧を構えて抗戦を試みようとするが、エイレーネとクロエにとって、この程度は肩慣らしに過ぎない。
『ち、畜生……!』
そして――オーラの渦が最後の敵を壁に叩きつけて絶命させると、残った亜人はもはや一体も無く。
この程度は肩慣らしとばかり防衛ラインの突破を難なく終えて、二人は眼前に広がるアンティオキア市街に目を向けた。
「この奥に、勝利王セレウコスの王宮が……」
城壁の中に広がる街を眺めながら、エイレーネは呟く。
後はアヴァタール級を撃破すれば市街の制圧は完了するだろう。そうなれば、いよいよ王宮での戦いは目の前だ。
一方クロエもまた、その眼は既にこの後を見据えつつあった。
「精鋭が居ないのは楽でいいですね。城に籠られると面倒ですが……手は打っておきましょうか」
街中には逃げ遅れたウェアキャットたちがいる筈だ。敵への欺瞞情報を流すのに、彼らは大いに役立ってくれるだろう。
王宮攻略の布石を打つため、アンティオキア解放のため。
二人の復讐者は敵が潜む市街の中へ、いま足を踏み入れるのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【壁歩き】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
『あぁ!? 侵入者だとぉ!!』
城壁の騒ぎを察知したオークの炎剣士は、テーブルを蹴って立ち上がった。
『丁度いい、侵入者どもをブッ殺しゃあ王宮に返り咲くチャンスもあるってもんよ! どけ、ウェアキャットども!』
酒場のドアを蹴破って、街へと出ていくオークの炎剣士。
それをウェアキャットの店長と料理人たちは震えて見送った後、ひそひそと言葉を交わし合う。
「た、大変だニャ。本当に逃げないとヤバいニャ」
「この辺には隠れるような場所もないし……戦いが起きるのは時間の問題ニャ!」
今なら、街中の騒ぎに乗じて逃げることも出来るだろう――そう判断したウェアキャットたちは、命あっての物種とばかり、そそくさと逃亡の支度を始めた。
クロエ・アルニティコス
さて、ここで噂を流すのももう何度目か。
セレウコスの元には色々な情報が飛び込んできていることでしょう。
中には見たままや聞いたままを伝えた正しい情報もあるでしょうが、それを把握させないためにも、まだできることはしておきましょう。
まだ声がする酒場に飛び込んで焦った様子でウェアキャットに話しかけましょう。
まだこんなところで呆けているのですか、早く王宮に逃げ込まなければ……!
先ほど町の外で、侵略者たちが巨大な兵器を運んでいるのが見えました。
聞こえてきた声によると、バベルの塔も落とした兵器?だとか。
バベルの塔が何かは知りませんが、危険な兵器でしょう。早く王宮へ……いえ、もしかしたら王宮すら危ういかもしれません。
この街を捨てることも考えるべきでしょうか……
ともかく、ここで呆けている時間はありません、逃げましょう!
と、そこまで言って店を跳び出します。
街を封鎖され、援軍は来ず、バベルの塔が落ち通信もできない。
さて、セレウコス。お前は果たして正しい判断をできるでしょうか?
城壁が突破されたことが伝わり、アンティオキアの市街は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。
亜人の兵士を倒せる相手に、ただの市民が叶う道理など無い。侵入者に殺されては叶わぬと、ウェアキャットたちが悲鳴を上げながら街中を逃げ惑う。
それはここ、オークの炎剣士がいた小さな酒場も例外ではなかった。
「ててて、店長! 早く逃げるのニャ!」
「そ、そうだニャ! お前たち、早く荷物を持って――」
荷物を持って逃げるニャ、と店長のウェアキャットが言いかけた正にその矢先。
市民に変装した復讐者が一人、店の中へと飛び込んだ。クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)であった。
「あなたたち、まだこんなところで呆けているのですか!? 早く王宮に逃げ込まなければ……!」
侵入者と気付かれぬようフードを被ったクロエは開口一番、不意の来客に驚く店長のウェアキャットに言う。
声に滲ませた焦りは無論、すべて演技だ。今まで幾度も噂を流して来た彼女にとって、この程度の演技は容易である。
街中の混乱で慌てていたこともあってか、ウェアキャットたちはクロエを怪しむ様子も無く、恐怖を滲ませた表情で問いを返して来た。
「ニャニャッ? ど、どういうことニャ!?」
「実は、見てしまったのです。先ほどアンティオキアの外で、侵略者たちが巨大な兵器を運んでいるのを……!」
クロエの言葉に、ウェアキャットの一人が首を傾げる。
「巨大な兵器……?」
「そうです。聞こえてきた声によると、バベルの塔とかいう場所を落とした兵器だと……」
一介の市民に過ぎないウェアキャットが知らないであろう単語を、クロエはあえて混ぜて話した。
たとえ彼らは知らずとも、この偽情報がジェネラル級亜人に届けば疑心暗鬼を促すかもしれない。そんな狙いなど毛ほども知らず、ウェアキャットたちはひそひそと言葉を交わし始めた。
「塔……ってことは、すっごく高くて大きな建物だよニャ……?」
「それを落とすだなんて……お、恐ろしい兵器だニャ!」
「ええ、きっと危険な兵器でしょう。早く王宮へ……いえ、もしかしたら王宮すら危ういかもしれません」
欺瞞情報を相手が信じた様子に手応えを感じながら、クロエは畳みかけるように言う。
ここで冷静に考える時間を与えてはいけない。さらに焦燥を募らせた口調で、更に続けた。
「この街を捨てることも考えるべきでしょうか……ともかく、ここで呆けている時間はありません、逃げましょう!」
それだけ言い残すと、クロエはウェアキャットの言葉を待たずに店を飛び出した。
去り際に中の様子を振り返ってみると、彼らは益々慌てた様子で逃げる為の荷を纏めている。この分なら、先程の偽情報も逃げた先でしっかり広めてくれるだろう。
(「さて、セレウコス。お前は果たして正しい判断をできるでしょうか?」)
フードの奥から王宮の方角を見遣り、クロエは呟いた。
――セレウコスの元には、すでに色々な情報が飛び込んできているはず。
――こちら側の欺瞞情報の他にも、見たままや聞いたままを伝えた正しい情報もあるでしょうが……。
情報が多ければ、ひとつひとつの真偽を把握することも困難となる。セレウコスに正しい情報を把握させない為にも、今は出来ることをせねばならない。
街を封鎖され、援軍は来ず、バベルの塔は既に無いため通信もできない状況だ。
そんな中で、かの勝利王がどう動くか――その答えは、間もなく出ることだろう。
かくして亜人への尽きぬ憎悪を胸に、クロエは次なる戦いに備え始めるのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
エイレーネ・エピケフィシア
復讐者の侵攻がここまで進んだからには、セレウコスも籠城の行く末に焦りを感じる頃合いでしょう
彼の焦燥がいよいよ性急な行動を呼び起こすよう、最後の一石を投じるとしましょう
武具を袋に包み隠し、金目のものを引っ掴んで逃走するウェアキャットの召使を演じます
セレウコスが座す王宮側に逃走する同族を見つけたら、声をかけてゆきましょう
はぁ、はぁ……あなたはセレウコス様の下に逃げるおつもりなのですね
わたしはアンティオキアを去る所ですが、先ほど王宮に控える亜人の方々に伝えたい話を耳に挟みました
どうか代わりに伝えていただけないでしょうか
……あなたの立場をよくするためにも、きっと役立つはずです
それで、侵略者どもが不用心にも口走っていた話によると……
セレウコス領の覇権に眼がくらんだダレイオス3世が、敵と内通しているようなのです
アンティオキアへの道を塞ぐ砦が全て破られたのも、未だに援軍が来ないのも、裏切りのためであるとか
セレウコス様であれば、そのような卑劣な策をも打ち破って下さるはずですが……怪しからぬことですね
「逃げる先は王宮ニャ! お前たち、準備はいいニャ!?」
「大丈夫ニャ!」「早く外へ――」
ウェアキャットたちが荷物をまとめ、今まさに外へ飛び出た矢先。
先頭を行く店長が、突如、前を行く女性の身体にぶつかって弾き飛ばされた。女性の手にした袋が弾みで解け、地面に散らばる。指輪、宝石、貴金属――どれもが一目で金目のものと分かる品々に、ウェアキャットたちは目を丸くした。
「はぁ、はぁ……皆様はセレウコス様の下に逃げるおつもりなのですね」
「そうだニャ。お前、同族かニャ?」「その高そうな品物……金持ちの家の召使いかニャ?」
店長と料理人の問いに、ウェアキャットの女召使いは頷いた。
厳密には、彼女は召使いではない。そう見えるように偽装したエイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)であった。
「わたしはアンティオキアを去る所ですが、先ほど王宮に控える亜人の方々に伝えたい話を耳に挟みました」
「つ、伝えたい話?」
「ええ。どうか代わりに伝えていただけないでしょうか……皆様の立場をよくするためにも、きっと役立つはずです」
エイレーネの申し出に、ウェアキャットたちの目が光った。
今の彼らにとっては情報の方が、金目のものより余程価値があるらしい。相手が食いついた手応えを感じ取り、エイレーネは更に話を続ける。
「侵略者どもが不用心にも口走っていた話によると……。セレウコス領の覇権に眼がくらんだダレイオス3世が、敵と内通しているようなのです」
「ニャニャッ、内通!?」
「はい。アンティオキアへの道を塞ぐ砦が全て破られたのも、未だに援軍が来ないのも、裏切りのためであるとか」
ダレイオス三世、内通、裏切り――それらの単語に力を込めて、エイレーネは偽情報を伝えていった。
市街周辺の軍事に関わる情報など、恐らくウェアキャットたちは知らない。多少の尾鰭がつくことは承知の上で、亜人の元へ特に届けて欲しい情報はしっかりと強調する。
「セレウコス様であれば、そのような卑劣な策をも打ち破って下さるはずですが……怪しからぬことですね」
「う、うむむ、そうだニャ! この情報、しっかり伝えさせて貰うニャ!」
「ええ、そうして下さいませ。……頼みましたよ」
『召使い』の正体に気づく事無く、王宮を目指して避難していくウェアキャットたち。
その背中を見送りながら、エイレーネは欺瞞情報が敵側に伝わるよう願うのみだった。
(「復讐者の侵攻がここまで進んだからには、セレウコスも籠城の行く末に焦りを感じる頃合いでしょう」)
亜人とて神ならぬ身である以上、過ちを犯す時は必ずある。無論セレウコスとて例外ではあるまい。
(「今回の情報……セレウコスの焦燥がいよいよ性急な行動を呼び起こす、最後の一石となれば良いのですが」)
偽情報の流布に関して、これで尽くせる手は全て尽くした。
泣いても笑っても、もう少しで全ての結果が出るだろう。自分や仲間たちの、これまで流して来た情報の結果が。
これで、自分たちに残された仕事は只一つ。アヴァタール級を撃破し、市街の制圧を終えることだけだ。
「……では、最後の仕上げと行きましょうか」
周囲が騒がしさを増し、市民たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
その前方から迫って来る亜人の威圧感は、ミノタウロスの狂戦士を凌ぐものだ。
どうやら本命のお出ましらしい――湧き上がる復讐心に身を焦がしながら、エイレーネは行動を開始した。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【パラドクス通信】がLV2になった!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
『おい! そこで止まれ!!』
アンティオキア市街に踏み込んだ復讐者に向かって、男の声が飛んだ。
有無を言わさぬ命令の口調。声の主は巨大剣を担いだ豚の亜人である。
オークの炎剣士――彼こそが、今この一帯を牛耳るアヴァタール級亜人であった。
炎剣士は復讐者の正体に勘付いたらしく、ズンズンと足音を立てながら此方に向かって来る。剣に宿した紅蓮の炎は、彼が既に復讐者に斬りかかる気であることを如実に物語っていた。
『俺はつくづく運がいいぜ。手土産がノコノコやって来るなんてなぁ!』
オークの炎剣士の顔に、野卑な笑いが浮かぶ。
元より亜人でない者の命など、このアンティオキアでは大した価値などない。たとえ復讐者でなくとも問題はない――そういうことなのだろう。
だが、炎剣士は知らない。相手を探していたのは復讐者たちも同じだということを。
市街の制圧を行う上で撃破は避けて通れぬアヴァタール級を前に、復讐者たちは恐れること無く向かって行くのだった。
舟橋・苺依夢
(トレインチケット)
復讐者たちがウェアキャットに偽情報を与えて程なく、アンティオキアの市街は更なる騒ぎに包まれた。
城壁を突破した侵入者を討たんと、亜人の兵士が現れたからだ。
オークの炎剣士――知能の低さ故に市街の見回りを命じられたアヴァタール級は、王宮へ返り咲くチャンスとばかり復讐者へと迫って来る。
『運が悪かったなぁ、侵入者。死にやがれ!』
大通りを舞台に、亜人との決戦が始まろうとしていた。
「あれがオークの炎剣士……街の人たちに悪いことする亜人だね!」
戦場へ新たに駆けつけた舟橋・苺依夢(sweet holicᕱ⑅ᕱ・g06048)は、討つべき敵を直ぐに見出した。
城壁に侵入し、偽情報を流し終えた今、すべきことはシンプルだ。
目の前の敵を倒し、アンティオキア市街を制圧すること。それが終われば、王宮の攻略は時間の問題となるだろう。
「これ以上、酷い目に遭うひとは増やさないから!」
クロノヴェーダは等しく滅ぼすべき存在に他ならない。
迫り来る亜人を睨む桃色の瞳が、滾る復讐心に輝いた。
『燃え尽きろ、ガキィ!!』
炎剣士の巨躯が、肥満体に似合わぬ駿足で迫る。
獲物の大剣に炎を纏わせ、苺依夢を火だるまにしようと言うのだろう。
パラドクスの力で瞬く間に距離を縮めて来る炎剣士。だが次の瞬間、彼の視界が突如として塞がれた。空から降下してきた回転木馬によって。
「トゥインクル・トゥインクル⭐︎空も飛べるはず!」
『こいつは……!? ぐおおぉ!?』
次の瞬間であった。メルヘンチックな旋律と共に、巨大な馬が炎剣士の頭上めがけて降下する。
生きた馬ではない。それは苺依夢の『メリードリーム・カルーセル』が召喚したメリーゴーランドであった。
衝撃。大地を揺さぶる振動が、アンティオキアの街に轟く。
「どうしたの? まさか、これで終わりじゃないでしょ?」
『この女……! ただじゃおかねぇ!!』
炎を帯びた剣を振り回し、炎剣士が斬りかかった。
対する苺依夢は回転木馬のメリーをお供に、襲い来る斬撃の直撃を逸らしながら、なおも敢然と戦い続ける。
炎剣士の炎は、確かに彼女の身を焼き焦がす。だが、それだけだ。彼女の魂で燃えるクロノヴェーダへの怒りに比べれば、こんな炎は温すぎる。
「行くよ! 吹き飛んじゃえーっ!」
決戦の開始を華々しく彩るように。
またも降り注ぐメリーゴーランドが、炎剣士の巨体を強かに弾き飛ばした。
善戦🔵🔵🔴🔴
効果1【飛翔】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV2になった!
クロエ・アルニティコス
手土産?
頭の出来の悪さで放り出された者が野蛮さを誇示したところで、セレウコスがどう対応するかは知りませんが……
少なくとも、お前は1つ勘違いをしていますね。
お前が私たちを殺したいのではありません。
私たちが、お前を殺したくてここに来たんですよ。
【ハルピュイア・ヒペリカム】を使用し、ハルピュイアの群れを作り出します。
上空を飛び回らせ、薙ぎ払われようと四方八方からその鉤爪で襲い掛からせましょう。
あちらは死ぬ時まで負けることも死ぬことも頭にないでしょう。
逃亡を阻止する必要はありませんが、小細工をできる余地も少ない。これまで積み重ねた残留効果と仲間と共に戦う連携で正面から打ち破ります。
反撃の扇状の炎はハルピュイアたちを盾に、さらに守護の青薔薇の防御結界で少しでも軽減しましょう。
ようやくお前の元まで手が届きそうです。セレウコス。
打てる手は打っています。ここからお前はどう動くのか……
エイレーネ・エピケフィシア
ええ、仰る通りあなたは運に恵まれていますね
アンティオキアの陥落と主君の死を、目の当たりにしなくて済むのですから
神々は既に黒き死の運命をお定めになりました――覚悟なさい!
≪神護の長槍≫と≪神護の輝盾≫を手に戦います
オークの炎剣士とは攻略の初期から戦っていますが、やはりその膂力と武器は脅威
こちらは槍を長く持ち、大剣よりも遠い間合いで戦うとしましょう
パラドクスである以上離れても当たりますが、動きの出かかりは離れていた方が見やすいはずです
仲間の攻撃と連続して畳みかけるように『闇夜を貫く雷霆の槍』を仕掛けていきます
長大な槍の穂先から更に長く伸びた雷の刃を当てて痺れさせたあとに
本命である本来の刃を突き刺し、鎧の隙間や露出した頭部を狙いましょう
槍を捻りながら深くねじこみ、肉を貫いて臓腑を穿つ貫通撃
全ての虐げられし同胞に代わって、その命脈を絶ちます!
反撃に対しては盾を構え、剣を振りかぶる動きが見えた瞬間にこちらから敵にぶつかりに行きます
こうして刃より内側に入って避け、突進のダメージだけに抑えましょう
序盤の戦闘で傷を負ってなお、オークの炎剣士の戦意は健在であった。
侵入者の首級を上げれば、王宮の奴等も自分の力を認めざるを得まい。
そう思って始めた戦いは、彼の思いとは裏腹に、すでに復讐者の優勢へと傾き始めていたのである――。
『ちっ……このままノコノコ逃げられるか、手土産を前にして!』
「……なるほど、手土産ですか」
荒い息を立てる炎剣士に、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)は呆れ混じりの声で告げた。
戦闘力で言えば、この亜人は確かにミノタウロスの狂戦士より強い。だが、逆に言えばそれだけだ。自分が置かれた状況をいまだに把握できぬ頭の悪さは隠しようもない。
「そんな愚か者が野蛮さを誇示したところで、セレウコスがどう対応するかは知りませんが……」
攻撃用の種子を握り、クロエは眉をひそめた。
目の前の亜人は、いまだ自分が狩る側に居ると思っているらしい。ならば戦いを始める前に、その思い上がりだけでも訂正しておく必要があるだろう。普通に戦い普通に死んだ――そんなありふれた結末を、彼女は亜人に許さない。
「……1つ勘違いをしていますね、亜人」
『ああ!?』
亜人の構える大剣が、俄かに熱気を増した。
炎が照らす豚の笑みは、勝利を疑わぬ傲慢さに満ちたもの。胸の奥から湧き上がる黒い怨恨の炎を残らず種子に注ぎ込み、クロエは冷たい声で亜人へ告げる。
「お前が私たちを殺したいのではありません。……私たちが、お前を殺したくてここに来たんですよ」
宙にばら撒くオトギリソウの種が、戦闘開始を告げる。
クロエの怨恨と魔力を注がれた種子は『ハルピュイア・ヒペリカム』のパラドクスで瞬時に成長を遂げ、次々にハーピーを象った群れへと変貌。葉の翼を有する怪物と化して、鉤爪を武器に炎剣士へ襲い掛かっていった。
クロエの空飛ぶ植物たちは、地上の炎剣士を取り囲むように円陣を組むと、次々と上空から襲い掛かっていく。
鉤爪で狙い済ました攻撃は正確にして執拗だ。
亜人の肥えた体に次々傷が刻まれていった、しかし次の瞬間――炎剣士の振り被った大剣が業火の一撃を放つ。
『おらぁっ!!』
パラドクスによって荒れ狂う炎は、標的たるクロエだけを正確に狙いながら市街を吹き荒れた。
クロエは青薔薇の防御結界を展開しながら、尚も攻撃の手を緩めない。消える傍から補充されていくハーピーを忌々しそうな目で見上げ、炎剣士は忌々しそうに舌打ちする。
『ちっ、ついてねぇ。妙な鳥どもがパタパタと!』
「おや、そう嘆いたものではありませんよ?」
刹那、叩き込まれた雷の刺突が炎剣士の巨体を揺るがせた。
速く、鋭い、槍による稲妻を帯びた一撃。それを放ったのは、救援機動力で駆けつけたエイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)であった。
神護の長槍を構えたまま、エイレーネは鈍い呻き声を洩らす炎剣士を睨みつける。
「あなたは運に恵まれています。アンティオキアの陥落と主君の死を、目の当たりにしなくて済むのですから」
『何、だと……!』
「神々は既に黒き死の運命をお定めになりました――覚悟なさい!」
言い終えるや、炎を巻きらして突進して来る炎剣士。
対するエイレーネは一歩も退く事無く、神護の輝盾を構えて攻撃を迎え撃つのだった。
クロエとエイレーネの合流によって、炎剣士の状況は加速度的に窮地へ陥って行った。
イスカンダルの亜人を相手とする戦いにで豊富な経験を有する二人が足並みを揃えた時点で、今回の戦いの決着は決したと言って良いだろう。
「クロエ様、このまま倒しますか?」
「ええ、正面から打ち破ります。あちらは最期の瞬間まで、負けることも死ぬことも頭にないでしょうし」
二人の会話は既に勝つか負けるかを通り越して、どう勝つかという進んでいた。それは断じて油断などではなく、戦況から導かれる単純な事実に過ぎない。
長槍と輝盾を手に戦うエイレーネに意識を向ければ、次の瞬間には空を舞うハーピーたちがクロエの指示で襲った。
反撃でクロエを葬らんと業火を放てば、待っていたと言わんばかりにエイレーネの長槍が雷を帯びて繰り出された。
『ぐ……ぐぐ……!』
いまだ余裕を持って攻撃を浴びせ続ける復讐者たち。対照的に、炎剣士から余裕はとうに失せ、顔には焦燥が滲む。
彼が嗜虐心の赴くままに剣を振るえば、斃れない者などいなかった。セレウコスのようなジェネラル級はまだしも、そうでない人間やウェアキャットなど、亜人に蹂躙されるだけの存在である筈だった。だというのに――。
(『こ、この俺が……負ける……?』)
炎剣士の心に恐怖が芽生える。
格下と侮る敵に初めて覚える感情――ひやりと迫る死の気配に、一筋の冷汗が亜人の頬を伝う。
そして次の瞬間、そんな彼の怯懦を嘲笑うように、眼前へ一条の稲妻が降り注いだ。
「聖なる槍に、裁きの雷霆が宿らんことを!」
エイレーネの祈祷によって槍に宿った稲妻が、鋭い刃へと姿を変える。
パラドクス『闇夜を貫く雷霆の槍』。刃状の雷でリーチを増した長槍を構えたエイレーネが、猛然たる勢いで渾身の一撃を繰り出した。雷の刺突は炎剣士の巨体を刹那の間、電撃によって動かぬ木偶へと変える。
『……がっ……』
己の意思を離れ、がくりと膝をつく巨体。
そこへ長槍の本来の刃が突き込まれる。鎧に生じた亀裂の奥、剣士の身体でしぶとく鼓動を続ける心臓めがけて。
「全ての虐げられし同胞に代わって、その命脈を絶ちます!」
槍を捻り、深くねじこみ、肉を貫いて臓腑を穿つ。
鈍い手応えの後、槍を介して手に伝わる振動が――止まった。
槍を引き抜くと同時、全身から炎の消え失せた亜人の骸が、地響きを立てて斃れ伏す。そうして炎剣士の最期を確認して、エイレーネは槍に付いた血を振り払うと、クロエに撃破完了の合図を送った。
「……終わりましたね、クロエ様」
「ええ。王宮への道がまた一歩、近づきました」
エイレーネに頷きを返すと、クロエは静寂に包まれた市街の彼方、聳える王宮の方角を見遣る。
アンティオキア制圧は目前だ。最後の決戦が幕を開けるのも、もう間もなくだろう。今も王宮で準備を進めるであろう亜人の総大将へ、クロエは人知れず呟いた。
「ようやくお前の元まで手が届きそうです。セレウコス」
亜人を躍らせる為情報は、ウェアキャットを通じて流し終えた。
後は決戦が始まった其の時に、自分たちが流した情報が役立っていることを願うばかりだ。
「打てる手は打っています。ここからお前はどう動くのか……」
市街地を制圧する戦いは、かくして終わりを告げる。
アンティオキアを治める亜人、勝利王セレウコス――強大なクロノヴェーダとの戦は、すぐそこまで迫りつつあった。
超成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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