リプレイ
四葩・ショウ
《墨田区》
(会いたい人は あの子(妹)とママ)
どれだけこの日を
待って、いただろう
『刻逆』ですべてを奪われた――あの夏から
懐かしい街並みを歩いて
ようやく帰ってきたんだと
実感がわく
……この辺りで、いいかな
聖歌にのせて歌い上げる、【勝利の凱歌】
瞼を開けることが出来ないでいるわたしに
"ショウちゃん!"と呼ぶ声がきこえた
後ろから勢いよくとびついてきたのは、
瞼をひらく
まだ、振り返れない
みるみる滲んで、霞んでいく景色
ああ
"硝子"とママが呼ぶ声がして
もう、抑えきれなかった
だって、わたしは
この日をずっと、希ってた
今だけは、復讐者のショウじゃなくて
ようやく
ただの女子高生の硝子(わたし)になれる
声をあげて、ふらせた涙を手で拭って
こんなに泣くの、なんて
いったいいつ振りなんだろってくらい
それでも
ふたりをぎゅっと
この両腕に抱きしめる、抱きすくめる
ずっと、ずっと、会いたかった
さみしかった
へんだな、あんなにたくさん
話したいことがあったのに
ぜんぶ、どこかへいっちゃった
それでも、
ふたりを迎える第一声は
「……おかえりなさい」
●I'm home
どれだけ、このときを希ったか。
今日という日のために駆け抜けてきた日々は長いようで短い。それとも短いようで長かったのか。
けれども、待ち侘びていたことに変わりはない。時というものは残酷で止めたいと願っても止まってはくれない。その間にどれほどの出来事があったのかは数えきれないほど。
だからこそ待っていた。
『刻逆』ですべてを奪われた――あの夏から、ずっと。
歩く、歩く。その先へ向かうために。
懐かしい街並みを眺め、四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)は双眸を緩やかに細めた。
まだ誰もいない、しんとした世界には静寂が満ちている。しかし、歩みを進める度にショウは実感していた。
ようやく帰ってきたんだ、と。
見慣れた家々、電信柱と街灯。子供の頃によく遊んだ遊具がある公園や、よく歩いた並木道。そして、家族と過ごした思い出の場所。此処にはもう天使も悪魔もいない。あの日まで送っていた日常を迎える準備は既にできている。
「……この辺りで、いいかな」
立ち止まったショウは空を見上げた。刻逆が起こった日のまま、此処の時間は止まっている。
しかし今、この世界は夜明けを迎えて黎明の光を得る。ショウはそっと瞼を閉じ、花唇をひらいた。紡ぐ聖歌にのせて歌い上げるのは勝利の凱歌。
此処で響かせるのは未来を願う歌ではなく、今に手を伸ばすためのもの。
柔らかな風が吹き抜けた気がした。
懐かしい気配が傍にある。そのことが分かったというのにショウは瞼を開けることができないでいた。
すぐそばに、目の前に。きっと。
そして、響かせていた凱歌を紡ぎ終えたそのとき。
「ショウちゃん!」
自分を呼ぶ声がきこえたことでショウは瞼をひらいた。後ろから勢いよくとびついてきた声の主が誰かだなんてことは、もう既にわかっている。それでもまだ、振り返ることはしない。できない。
本当に取り戻したのだと頭で理解していても、少しだけ心が追い付いてきていないからだ。
けれどもみるみる滲んで、霞んでいく景色の中に嬉しさが満ちていった。
「ショウちゃん、ショウちゃん!」
「うん」
妹の声にそっと頷いたショウは肩に掛かった手に自分の掌を重ねた。
何度か幻で見たものとは違う。ほんとうのぬくもりを感じられた。そうしていると妹がふと振り返った気配がする。続けて近付いてきた人影があることを感じ取り、ショウは顔を上げる。
ああ、この瞬間を何よりも待っていた。
「――硝子」
ショウを呼ぶ声は柔らかくて優しい。ママ、とすぐに呼び返したくなった。
この気持ちをもう抑えきれなくて、ショウは――少女は振り返る。
だって、わたしは。
この日をずっと、希っていたから。
今だけは、復讐者のショウではない。ようやくただの女子高生の『硝子』――わたしになれる瞬間が来た。
「ママ……!」
「あなたが助けてくれたのね、硝子」
「ショウちゃん、泣いてるの? ぎゅーってしてあげよ、ママ!」
「……!」
硝子は母と妹に両腕で抱きしめられながら声をあげて泣いた。
大切なふたり。大好きなふたり。かけがえのない家族をほんとうの意味で取り戻せた今。
頬を伝い、零れ落ちていく涙は一粒の雨のように地面に落ちた。母は娘ふたりを大事に抱きしめる。ふらせた涙を手で拭っても硝子の頬には雫が伝い続けていた。
こんなに泣くのはいったいいつ振りなんだろう。家族のあたたかな熱を感じた硝子は、心の奥に燻っていた悪い感情がどこかに消え去っていくことを感じていた。両手いっぱいにふたりをぎゅっと抱きしめて、抱きすくめて。
ずっと、ずっと、会いたかった。
さみしかった。
でも、これからはもう離れない。今度こそ守りきる。今というこの瞬間からは、絶対に。
(「へんだな、あんなにたくさん話したいことがあったのに」)
今の世界がどうなっているのか、どれほど皆で頑張ってきたのか。自分が手に入れた力のこと。縁を繋いだひとや過去のこと。逢いたかったという気持ち。だけどもぜんぶ、どこかへいってしまった。
「大丈夫よ、私の可愛い硝子」
「ショウちゃん、もう泣かないでいいよ」
硝子の目元を母の指先がくすぐる。妹が続けてお気に入りのハンカチを差し出してくれた。
ふたりが涙を拭いてくれたのだと知った硝子の瞳。そこには、はっきりと母と妹の顔が映り込んでいる。これからたくさん、たくさん話をしたい。ショウは精一杯の笑顔を湛え、頷いた。
そうして、ふたりを迎える第一声は――。
「……おかえりなさい」
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【操作会得】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
葵・虹介
墨田区で凱歌をうたう
歌に自信はないけれど、自分にできるせいいっぱいを
『帰還』が始まったら
見慣れた背を、懐かしい足音を探して
眼鏡の硝子の奥で
ぼくと同じ、あおい目をしてる、ひと
――ぼくのおとうさんを、見つけにいく
おとうさんはぼくの唯一の家族
おかあさんは昔亡くなっちゃったから
ずっとふたりぐらししてた
星も宇宙のことも、ほかにも色んなこと
教えてくれたのはおとうさんで
そのおかげで、ぼくは追いかけたい夢を、見つけられて
…だいじな、だいじなひとなんだ
背中をみつけたら、駆け寄って
上擦った声で、おとうさん、って呼ぶ
振り返ってくれるって信じて
ぼくのこと――覚えてる?
ずっとずっと会いたかった
さびしかった!
おとうさんや、周りのひとが困っている様子をみたら
今の新宿のこと、今までに起きてたことを教えてあげる
ぼくも未来に流れ着いたときは戸惑ったけど
もう「ひとりじゃなんにもできない」ぼくじゃない
こんなふうに、誰かを助けてあげられるようになったんだ
背も、こんなに近くなった
だから、だから――
むかしみたいに、褒めて、くれる?
●Welcome back
歌に込めるのは、せいいっぱいの思い。
自信がなくたって、上手くなくたって自分の持てる限りを込めて声を響かせる。
目を閉じたまま空を仰いだ葵・虹介(Voyager・g00128)が紡ぐ凱歌は、時の止まった街に広がっていった。周囲の時が再びはじまりを迎えたことは、聞こえてきたざわめきからわかる。
歌を紡ぎ終えた虹介は瞼をひらき、辺りを見渡した。
あの刻逆の日から止まってしまっていた、『今』という時がやっと動き出す。
帰還が始まったことでこの地で暮らしていた人々の気配が戻って来ている。それなら、きっと――否、絶対に。
「行かなきゃ」
虹介は一歩を踏み出す。
見慣れた背を、懐かしい足音を探して、探していたものを見つけにいくために。
もうすぐ会えるというのに気持ちが逸った。
虹介は探し求めるひとの瞳を思い出す。眼鏡の硝子の奥で優しく細められる双眸。思い出の中だけになってしまっていたあの眼差しに、また逢える。
自分と同じ、あおい目をしているひと。おとうさんを見つけにいくために。
少年にとって父は唯一の家族だった。母は早くに亡くなってしまったから、虹介と父はずっとふたりで暮らしていた。男手ひとつで息子を育てるのは大変だっただろうが、いつも彼は優しかった。
星のこと、それから宇宙のこと。
毎日を過ごすためのちいさなこと。道端に咲いている花の名前や、空を飛ぶ鳥の姿。
何気ないこと、大切なこと。ほかにもたくさんのことを教えてくれたのはおとうさん。
(「そのおかげで、ぼくは追いかけたい夢を、見つけられて――」)
だいじな、だいじなひと。
失ってから本当に大切だとわかったけれど、それ以上に寂しくて苦しかった。離れ離れになりたくなんてなかった。だからこそ、取り戻すために戦ってきた。
思い出して寂しくなるときもあったから、敢えて思い出さないようにしたときもある。
それでも思いは募るばかりだった。そうしてこの場所を取り戻した今、懐かしい背中を見つけた。そのひとは誰かを探すように周りを見渡している。
現在に帰還したばかりで状況がわかっていないながらも、たったひとりを見つけようとしている。虹介には父が誰を探しているかすぐにわかった。だっていつか迷子になりそうだった過去、彼は同じようにしていたから。
そっちじゃないよ、こっちだよ。
ぼくはここにいるよ。
そういって父を呼びたかったけれど、嬉しさで胸がいっぱいになっている虹介はうまく声が出せなかった。少しでも早く自分がここにいることを知らせたくて走り出す。
「……っ、おとうさん」
声が上擦る。それでも虹介はしっかりと父を呼んだ。
はっとした彼は視線をこちらに向けながら振り返る。すぐに気付いてくれると信じていたから、眼差しが重なったときは本当に嬉しかった。すぐ傍まで駆け寄った虹介は父を見上げる。
「ぼくのこと――覚えてる?」
おずおずと聞いてみた虹介はまだ少しだけ不安だった。しかし、虹介を映した優しい瞳はそんな気持ちを吹き飛ばしてくれるものだ。細められた双眸、続く言葉。それは――。
「虹介!」
名前を読んでくれた。それだけで忘れるはずがないと伝えてくれたのだと分かった。
父の言葉からたくさんの思いを感じ取った虹介は両手を伸ばす。
「ずっとずっと会いたかった」
さびしかった。
素直な言葉を告げた後、虹介は自分なりに今の状況を伝えていった。
今の新宿のこと。今までに起きていたこと。父をはじめとして帰還した人々には信じられない話かもしれないが、彼らの心には復讐者が懸命に戦ってきたことが何となく伝わっているようだ。
「ぼくも未来に流れ着いたときは戸惑ったけど……もう『ひとりじゃなんにもできない』ぼくじゃないんだ」
「……ああ」
父は目を細めたまま虹介を見つめている。
その視線が本当に嬉しくて、たくさんのことを語った。こんなふうに、誰かを助けてあげられるようになった。それに背もこんなに近くなった。まだまだ追い越すには遠いけれど成長の証がここにある。大変だったな、という言葉や虹介が戦ってきたことについての言葉が返ってきた。父の一言ずつがとても懐かしくて、本物だと実感できる。
そして、虹介はもう一度しっかりと父を見つめた。
「だから、だから――むかしみたいに、褒めて、くれる?」
「もちろん」
伸ばされた手が虹介の髪に触れた。
星の名前を覚えたときみたいに。夜空の果てについて自分なりに話したことを聞いてくれたときのように。
大好きな掌が虹介を撫でてくれる。
取り戻すために伸ばした手も、今――ここで届いた。
大成功🔵🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV2になった!
咲樂・祇伐
🌸樂祇
墨田区(どこの区でもOK
お兄様、『おかえりなさい』の歌を歌いましょう
…歌は、そんな得意では無いですが
だから一緒に歌って欲しいの
勝利の凱歌を!
歌詞を共に重ねながら歌を紡ぐ
『四季の折々に花開く』
私達は咲樂
身も心も健やかに樂しく生きる明日を咲かせる
『花のまにまに、奏でるままに』
……故郷に帰る、逢いたい人にあえる
共に歩む日々を取り戻す
その、尊さを想う
『いざや還らん、あなたの元へ』
私にはまだ届かない
叶わない
だから
在るべき場所へかえる人々を
縁を見つめ
胸が熱くて、苦しくて
けれど──よかったねって心から想う
帰還した人々を笑顔で迎え
おかえりなさいと事情を説明
彼らが強く幸せに生きていけるように励ますわ
こういう縁も悪くないわ
私達も頑張らなければ
迦楼羅
……私
天使だと思っていたわ…彼は……
けど違うのね
此処では…見つけられなかった
居なかった
お兄ちゃん
いつかお兄ちゃんも……こうやって
おかえりなさいって迎えられたらいいな
そう思うことが罪だとしても
ついででもいいよ
一緒に…歌いましょう
共にこの世界を絆げていくために
咲樂・神樂
⚰️樂祇
墨田区(何処の区でもOK
歌?
あたし、歌より笛の方が得意なんだけど祇伐は歌えるの?
まぁいいわ!これも一興、この世界の為に歌いましょ!
番と囀るのも楽しいものよ
勝利の凱歌を響かせる
祇伐に続いて、言葉をつなげて
『……君の隣で花は咲く』
この地に縁はない、はずだった
任務で出会った人々
出会った誰かの大切な人々
『絆ぐ、つなげ、君の元』
今までは全く気にもかけなかった事なのに
誰かが笑えば嬉しくなって
誰かと力を合わせれば頼もしくなって
『拓く、明日は──己が手に』
見下ろすのではなく
同じ目線で歩むことも悪くないと、思った
誰かが逢いたい人にあえるのも
帰りたい場所に帰れることも
嬉しい、なんて
明日を迎えることは、当たり前のような奇跡だとしっている
見守り、祇伐と共に帰還した人々を迎えて
何でも頼ってね!と明るく笑う
本当に、悪くないな
こういうのも
天使?
確かに翼はあるが
……何を継承したのやら
何でもいい
私ももう一度あれに逢わねば
翼を取り戻す、ついでに
私もまだこの世界を終えたくはない
私の番が可愛く頼むのだから仕方ない
歌おう
●I miss you
七曜の戦は終わりを迎えた。
それによって、エゼキエルと呼ばれた時代もまた終焉へと導かれている。
これまでの戦いは厳しく長きものだったが――今こそ、世界の一部を取り戻す帰還のとき。
訪れた周辺は未だしんと静まり返っている。そっと辺りを見渡しながら、咲樂・祇伐(花祇ノ櫻禍・g00791)は傍らの咲樂・神樂(離一匁・g03059)に呼びかける。
「お兄様、『おかえりなさい』の歌を歌いましょう」
「歌? あたし、歌より笛の方が得意なんだけど祇伐は歌えるの?」
祇伐の声に軽く首を傾げた神樂もまた、周りを眺めていた。
兄の問いかけに祇伐は少しだけ首を振る。しかし、自分達の力で帰還が成るのならばやらないわけにはいかない。
「いいえ……歌は、そんな得意では無いですが。でも、だから一緒に歌って欲しいの」
「まぁいいわ! これも一興、この世界の為に歌いましょ!」
番と囀るのも楽しいもの。
そういって神樂は祇伐の隣に立った。彼女が望むなら何だって、との思いを込めて。
「紡ぎましょう、勝利の凱歌を!」
神樂の返答が快いものだったので祇伐は淡く笑む。そして、二人は帰還のための歌を口にしてゆく。
響かせるのは勝利の凱歌。
神樂は祇伐の声に続けて言葉をつなげはじめる。歌詞を共に重ねながら紡ぐ歌は淡く、それでいて未来を思わせる確かな音律へと変わっていった。
『四季の折々に花開く』
『……君の隣で花は咲く』
ふたつの声が響き、重なり、絆ぐ。
祇伐は心地よさを感じながら歌を続け、傍に寄り添ってくれる神樂の横顔に目を向けた。
(「――私達は咲樂」)
さくら。
それは身も心も健やかに樂しく生きる明日を咲かせる花。
名を大切に抱いていきたいと願った祇伐は更に声を響かせ、神樂の音と心にも呼びかけるように謳う。
『花のまにまに、奏でるままに』
『絆ぐ、つなげ、君の元』
神樂もまた歌と人々に対する思いを重ね合わせていった。
この地に縁はない、はずだった。任務で出会った人々、出会った誰かの大切な人々。そういったものの絆や縁を少しずつ知った。それはきっと、これまでにはなかった感情。
今までは全く気にもかけなかったことだった。
それなのに。誰かが笑えば嬉しくなって、誰かと力を合わせれば頼もしくなって楽しくなった。これがひとなのだと思うと尊さというものがわかった気がする。
同じように祇伐も人の思いを想像してみた。
誰もが大切で大事なものがある。奪われたそれを取り返すときが、今。
故郷に帰る、逢いたい人にあえる。共に歩む日々を取り戻す。その尊さを想えば歌に力が入っていった。
『絆ぐ、つなげ、君の元』
『いざや還らん、あなたの元へ』
『拓く、明日は――己が手に』
紡ぐ歌に思いを込めても、祇伐の裡には或る思いが渦巻いていた。
歌が響く度に周囲に帰還した人々が現れていき、戸惑いながらも少しずつ今を知っていっている。会いたい誰かに再会を果たした仲間や、帰還を喜ぶ者達の姿も見えた。
でも――。
(「私にはまだ届かない」)
叶わないとわかっている。でも、だからこそ心に灯火を宿す。在るべき場所へかえる人々を、そしてその縁を見つめて未来に進むことを誓いたいから。
祇伐の思いを感じ取った神樂も声を合わせ、歌の終わりを導いていった。
あの頃のように人々を見下ろすのではなく同じ目線で歩むことも悪くない。そう思った。少なくとも番である彼女が見ている世界と同じものを見つめたい。
これはたったひとりのための想い。しかし、そのひとりが祇伐であるならば思いは皆にも広げられる。
君が望むなら。
神樂の思いが歌から伝わってきたように思えて、祇伐は両手で自分の胸元を押さえた。
胸が熱くて、苦しくて。けれど――。
次々と帰還する人々を見ていると「よかったね」と心から想えた。
ただ羨むのではなく共に喜びたい。こんな気持ちになれることはきっと、善きことだから。祇伐は神樂と視線を合わせてからそっと歌を謡い終えた。
そうして、ふたりは帰還した人々を笑顔で迎えていく。
「おかえりなさい、皆さん」
「わからないことがあれば何でも頼ってね!」
祇伐と神樂は皆に事情を説明していった。手を繋いだ兄妹や仲睦まじい親子、友達同士。そういった様々な関係性の人達がいることを確かめたふたりは微笑みあう。
彼らが強く、幸せに生きていけるように。励ましの言葉を掛けていく祇伐。
「こういう縁も悪くないわ。私達も頑張らなければ」
「本当に、悪くないな。こういうの」
彼女からの言葉に頷きを返した神樂は双眸を細めた。誰かが逢いたい人にあえること、帰りたい場所に帰れること。どちらも嬉しい、なんて思っている自分が不思議だ。
明日を迎えることは、当たり前のような奇跡。今の彼はそのことをよくしっている。
「ね、迦楼羅」
「……うん?」
不意に祇伐がその名を呼んだことで、神樂はちらりと視線を返した。
少しだけ俯いた祇伐は先程にふと過ぎった思いを言葉にしていく。
「……私。天使だと思っていたわ、彼は……」
「天使?」
「けど違うのね。此処では……見つけられなかった」
居なかった、と呟いた祇伐が思っているものが何なのか。誰のことなのか。それはよく解っていることだが、迦楼羅は敢えてその名前を呼ぶことはしない。
「確かに翼はあるが……何を継承したのやら」
「――お兄ちゃん」
されど、祇伐はしかと彼のことを呼んだ。
いつかお兄ちゃんも、こうやって『おかえりなさい』と伝えて迎えられたらいい。そう思うことが罪だとしても祇伐は強く願ってしまう。対する迦楼羅は神妙な表情になり、小さく呟いた。
「何でもいい。私ももう一度あれに逢わねば」
翼を取り戻す、ついでに。
その声を聞いた祇伐はわずかに俯いた後、静かに顔をあげる。
「ついででもいいよ」
「…………」
一瞬の沈黙があったが、すぐに彼は優しい笑みを浮かべた。
自分もまだこの世界を終えたくはないから。愛しい番が可愛く見つめてきている。その眼差しと意思に応えないという選択肢は、今の迦楼羅にはない。彼の笑みを瞳に映した祇伐はそうっと願う。
「一緒に……歌いましょう」
「ああ、歌おうか」
――共にこの世界を絆げていくために。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】LV1が発生!
【勝利の凱歌】がLV2になった!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【グロリアス】LV1が発生!
エルマー・クライネルト
【Wertlos】
漸くの帰還だ、感慨深いものがあるだろう
浮足立った様子で歩く前方の友人の姿を微笑ましく思いながら目的地へ
成程、立派な豪邸だな
懐かしんでいるところ悪いがやることをやってしまおう
お前の家族がどんな人達なのか早く知りたいからな
この舞台の主役の【勝利の凱歌】へ合わせ、下手なヴァイオリンを弾く
無事に皆戻って来たようだ。お前の家族は…おい、どうした
後を追い入った部屋の様相に眉を顰め、奥から出てきた友人の様子に何が起きたのかを悟る
何故こいつは笑っているんだ
漸く会えると言っていたじゃないか
話したいことがあるんじゃないのか
文句の一つくらい言え
やり切れない気持ちで、笑う友に思わず拳を入れ
…おかしくなった訳ではなさそうだな
だが……そうか。まだ希望はあるか
お前がそう言うのなら
運命は理不尽だ、希望を与えて手を伸ばせば奪い去る
其れでも足掻かなければ先の未来には行けない
手渡された酒を誰もいない部屋に引っ掛け、音無く去った魂を弔おう
そうだ、何があろうと私達は先へ進む
報われない結末など赦さないぞ、ジョン
ジョン・エルバ
【Wertlos】
東京奪還、待ち侘びたぜ
やっとエルマーをオレんちに連れて行けるしな
さぁ早速クールな豪邸に行くぞ!
足立区ボロアパートの実家へ
落書きされた壁や電柱
普段の景色
漸くパパとママ、兄ちゃんに会える
オレのロックスター振りを見て何て言うだろう
期待で胸がはち切れそうだ!
【勝利の凱旋】はロックなナンバーをギターで歌う
帰還する人々の中に家族はいない
いや、家の中にいるんだろ?
相変わらずの埃とゴミだらけのワンルーム
トイレも押入れも探したがあの頃と同じ静寂だけだった
…ワハハ!皆死んじまったのか!
拳をもろに喰らい尻餅をつく
…兄ちゃん。迎えに来るって約束したのに…
別に、オレだって分かってたさ
きっとあの時シャティエルが何かしたんだ
それを止められれば…
なぁ、今は慰めも泣き喚く事も要らない。そうだろ?
必要なのは前に進む新たな約束だけ
乾杯し損ねた酒を部屋にぶち撒け、残った分を手渡す
寂しくて喉が痛い
いつかまた「ジョン」と
天使でも悪魔でもない名前を一言呼んでくれるだけでいい
だから…今度はオレが迎えに行くぜ、兄ちゃん
●Never say never
あれから二度目の八月を乗り越え、東京二十三区の奪還が成された。
エゼキエルの名を冠した時代は崩れ去り、本当の世界の在り方が少しずつ戻ってくる。
「待ち侘びたぜ」
懐かしい街並みを歩いていくジョン・エルバ(ロックスター・g03373)は浮足立っていた。
刻逆の日のまま時間を止めている世界は静かだ。しかし、これから嘗ての賑わいや日常が見られると思うと心も弾む。その感情が足取りにもあらわれていることを眺め、エルマー・クライネルト(価値の残滓・g00074)は双眸を細めた。
ジョンにとっては漸くの帰還。感慨深いものがあるだろうことはよく分かった。
前方の友人の姿を見ているだけで微笑ましくなる。
「嬉しそうだな」
「やっとエルマーをオレんちに連れて行けるしな」
エルマーの声に応えながら振り返ったジョンは笑みを浮かべていた。期待と高揚。やっと会える、取り戻せる。そういった感情をすべて乗せて――祝杯用の酒を手にしているジョン達は目的地へ急ぐ。
「さぁ早速クールな豪邸に行くぞ!」
そうして向かったのは或るアパート。
家の近くに並ぶ電柱の張り紙は剥がれかけており、落書きされた壁が続いている。他者から見れば何でもない風景であってもジョンにとっては懐かしくて見慣れたものだ。
普段から見ていた景色が、こうして当たり前のようにあることがこんなにも嬉しい。
――それに漸くパパとママ、兄ちゃんに会える。
「兄ちゃん達、オレのロックスター振りを見て何て言うだろうな」
ああ、期待で胸がはち切れそうだ。
溢れ出しそうな思いを――否、もう既に溢れている感情がジョンの仕草や表情によく出ている。そのままジョンが駆けていった先には件のアパートが見えた。
「成程、立派な豪邸だな」
ジョンが紡いだ先程の冗談に対して、口元を緩めて応えたエルマーは家を軽く振り仰ぐ。
今は無人だが、勝利の凱歌の力が巡れば此処にいた住人が戻ってくる。エルマーはアパートを見上げているジョンの横顔を見遣った。彼の口許が緩んでいることがわかり、懐かしさで胸がいっぱいであることが感じ取れる。
「懐かしんでいるところに悪いが、やることをやってしまおう」
「そうだな!」
「お前の家族がどんな人達なのか早く知りたいからな」
「楽しみにしておけよ」
ジョンはエルマーの言葉を聞き、友を家族に合わせられる喜びを想像した。そして、頷きあった二人は勝利の凱旋を響かせに掛かる。ジョンがギターで弾くのはロックなナンバー。
その旋律こそがこの舞台の主役。歌いあげるように奏でられる音楽に合わせ、エルマーものヴァイオリンを弾く。
そうすることで広がった音楽は止まっていた時間を導き、帰還への道筋をひらいていった。
次第に人の気配が増え、ざわめきや声が近くから聞こえてくる。
やがて、二人の演奏が終わりを迎えた。
「無事に皆が戻って来たようだ」
この一帯に住んでいた人々が帰還していることを確かめ、エルマーは傍らのジョンに視線を向ける。ジョンは辺りを見渡しながら、わずかに困惑しているようだ。
「……?」
「お前の家族は……」
探し人が見える範囲の何処にもいないのだということはエルマーにも理解できた。それまでの喜びと期待が消えそうになっていたが、ジョンは気を取り直して歩を進める。
「いな……いや、家の中にいるんだろ?」
「おい、どうした」
堪らなくなったジョンは駆け出した。エルマーはその後を追い、アパートの扉に手を伸ばしたジョンの背を見つめる。
ただいま。
言いたかった言葉がどうしてか出てこない。焦りと不安、高揚が綯い交ぜになった感情がジョンの内に渦巻いた。扉を開ければ相変わらずの埃とゴミだらけのワンルームが見える。
いない。誰も、いない。
(「待ってくれよ、違う。まだ――」)
見ていないところがある。もしかしたらトイレか、それとも自分を驚かせようと押入れにでも隠れているのか。ジョンは扉という扉を開いていった。しかし、数分も経たない間に探せる場所は見終わってしまう。
アパートの中にあったのは、あの頃と同じ静寂だけだった。耳鳴りがした気がしたがジョンは首を振り天井を仰ぐ。
「……ワハハ! そっか、そうだな。皆死んじまったのか!」
笑うことしか出来なかった。
そうして奥から出てきたジョンの様子を見たエルマーは、何が起きたのかを悟る。その笑い方はいつも通りのものだ。底抜けに明るい笑い声と言葉。それが今はどうしても素直に受け取れない。
エルマーは緑の瞳を鋭く細めて思う。
――何故、こいつは笑っているんだ。
漸く会えると言っていたじゃないか。話したいことが多くあるのではないのか。
それなのにどうして。
「文句の一つくらい言え、ジョン」
「だって仕方な――」
「それはただの言い訳だ」
エルマーは拳を握り締め、やり切れない気持ちを乗せて笑う友に腕を突き出した。次の瞬間、その拳をもろに喰らったジョンが勢いよく尻餅をつく。
「……ッ!!」
痛え、という呟きがジョンから零れ落ちた。
それと同時に笑顔が消える。エルマーは手を差し出し、ジョンの腕を引っ張って起こした。
「おかしくなった訳ではなさそうだな」
「……兄ちゃん。迎えに来るって約束したのに……でもさ、別にオレだって分かってたさ」
きっとあのとき、シャティエルが皆に何かをした。
それを止められれば家族が戻ってくるはずだ。
立ち上がったジョンは真剣な顔をしており、笑って誤魔化すことはやめると示した。エルマーは深く頷きながらジョンを真っ直ぐに見つめ返す。
「……そうか。まだ希望はあるか。お前がそう言うのなら、そうなるだろう」
「なぁ、今は慰めも泣き喚く事も要らない。そうだろ?」
必要なのは唯一、前に進む新たな約束だけ。
ジョンの言葉を受け止めて肯定したエルマーもまた、その通りだと示す。
いつだって運命は理不尽だ。
希望を与えておいて、手を伸ばせば奪い去る。其れでも足掻かなければ先の未来には行けない。
暫し言葉はなくともジョンとエルマーの思いは重なっていた。そうして、ジョンは乾杯し損ねた酒を手に取る。祝杯ではなく今は未だ取り戻せない弔いとして、酒を部屋にぶち撒ける。
残った分を手渡されたエルマーもジョンに倣い、音無く去った魂への弔いを終えた。
寂しくて喉が痛い、と口にした友の横顔。この顔をずっと忘れないだろうと感じたエルマーは、静かに瞼を閉じた。
「そうだ、何があろうと私達は先へ進む」
「わかってる」
帰還の声が遠くから聞こえる最中。取り残された静寂に佇む二人は自分達が求める未来を思い、願った。
いつかまた――ジョン、と。
天使でも悪魔でもない名前をたった一言、呼んでくれるだけでいい。
ジョンは俯きかけていた顔を上げ、エルマーも瞼を開いた。その瞳には此処から続いてゆく先しか映っていない。
「報われない結末など赦さないぞ、ジョン」
「ああ。だから……今度はオレが迎えに行くぜ、兄ちゃん」
●Welcome home
そして――。
一先ずの帰還は無事に成され、世界に未来がまたひとつ戻ってきた。
未だ成せないことや果たされない望みは未だ多くある。それでも今だけは、戻ってきた人々の帰還を祝おう。
本当の意味で世界と日常、平穏を取り戻すために。
更なる一歩が、此処で刻まれた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】がLV4になった!
効果2【ラストリベンジ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!