よいこの肝試し~夕顔の咲く頃に(作者 真魚
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#最終人類史(新宿島)  #最終人類史の肝試し  #千早城  #地獄変  #天正大戦国 

●《七曜の戦》の前に
 夏の日差しが照り付ける、新宿駅の前。
 そこに日傘を差して現れた少女――アンナ・ローザ(ヴェンデッタの糸・g03283)は、周囲を通りかかるディアボロス達へと声をかけた。
「少し、イベントに手を貸してくれないかしら」
 時先案内人の言葉に、足を止めるディアボロス達。感謝するわ、と頭を下げて、アンナは攻略旅団の提案による催しについて説明を始める。
「ここ最終人類史で、『肝試し大会』を開催することになったの。……この時期の肝試しは、日本の文化なのだそうね」
 グランダルメ出身の彼女は、馴染みのないワードに小さく首を傾げながら続ける。協力を仰ぐためにも一通りのことは調べたけれど、きっとあなた達の方が詳しいわよね――そう呟いたアンナは、最終人人類史各地の学校施設を舞台とした大規模な肝試し大会になるのだと言った。
「もちろん、ただのイベントではないわ。これは《七曜の戦》への備え。クロノ・オブジェクト『地獄変』のエネルギーの充填するために、一般人の『鬼や妖怪、お化けなどが根底にある感情』を集めるの」
 そのためには、より強い感情を抱いてもらう必要がある。ディアボロス達には肝試しをプロデュースする側となり、来場する一般人を『驚き、怖がらせる』ための工夫をしてほしいのだ。
「とは言っても、ここ最終人類史には残留効果がある。【士気高揚】によって一般人も勇敢になっているから、生半可な肝試しでは彼らは怖がらないでしょうね」
 逆に言えば、他の残留効果もここでは望むだけ適用できる。それらを活用したり、パラドクスを使ったり、あるいは各人の得意なことを活かしたり。ディアボロスが持てる力を思い切り使って怖い怖い肝試しを用意するくらいで、一般人達にも喜ばれる怖さとなるのだろう。

「肝試し大会は、奪還した『東京23区、京都・奈良』の学校で開催されるの。私が案内するのは、千代田区にある公立の小学校。この時代の日本人が連想する一般的な小学校……と聞いているけれど、学校の内部は【迷宮化】されているから、平常時とは違った構造になっているようね」
 一般人には、夏のイベントとして大々的に告知している。その甲斐もあってか、各地の肝試しは参加希望者が列をなす人気イベントとなっている。いろいろな人々が来場するようだが、こちらの会場は小学校ということもあってか子どもの参加が多いらしい。
 一般教室、理科室、トイレ、階段の踊り場、屋上に音楽室――学校にある様々な施設、その一つをディアボロスそれぞれが担当することになる。
 注意しなければならないのは、『地獄変』のエネルギーとなるのは『鬼や妖怪、お化け』と関連がある感情である点。モチーフとするものはあまり捻りすぎない方がいいかもしれない。相手は子どもが多いということもある、怪談や七不思議、子ども達もよく知っているものの方が反応もいいだろう。

 そこまで説明を続けたアンナは、集うディアボロス達をぐるり見て、それから真剣な表情で再び口を開いた。
「《七曜の戦》では、千代田区も戦いに巻き込まれる可能性がある……。ディアボロスによる肝試しの恐怖に耐えた一般人は、いざという時にもクロノヴェーダの恐怖に耐えて冷静に避難活動などができるかもしれないわ。怯える子どもは、一人でも少ない方がいいでしょう」
 もちろん、最終人類史の一般人の娯楽としても大切なイベントだ。思い切り怖がらせ、そして楽しませてあげてほしいの。そう告げた時先案内人の少女は、頷くディアボロス達を会場となる小学校へと案内するのだった。

●夕顔の咲く頃に
 蝉の鳴き声が止まぬ、夕暮れ時。その小学校は、夕顔の乱れ咲く道の先にあった。
「ねえ、はやくはやく!」
 はしゃぐ声と共に、三つ編みの少女が道を駆けていく。
 それを追いかけるのは、二人の少女と二人の少年。五人組の少年少女――彼らは、この小学校の一年生だった。
 それぞれ別の幼稚園や保育園出身で、四月に同じクラスとなって知り合ったばかり。それでもすぐに意気投合し仲良くなった彼らは、親に頼み込んで五人だけでこの肝試しへ挑戦することにしたのだ。
 いつもなら帰路へと誘うチャイムのメロディの後に集まって、子どもだけで遊びに行く。そんな非日常感は、彼らの心を弾ませて、なんでもできるような気持ちにさせていた。
「どんなお化けが出てくるかな?」
 Tシャツにハーフパンツ、共にスポーツブランドのロゴが入った服装の活発そうな少年が言った。すると、隣のくすみカラーの服着た少年が鞄から本を取り出す。
「ぼく、兄ちゃんからほんかりてきた! こわいはなしいっぱいのってるんだ!」
「見せて見せて!」
 覗き込んでくるのは、ポニーテールの少女。涼しげなブルーのワンピース翻して、ページを繰れば『きゃー!』なんて楽しそうな声を上げて。
「お化け出てきたらどうする? にげた方がいいのかなあ」
 もう一人の少女が首を傾げれば、ツインテールが風に揺れた。フリルやリボンのついたガーリーなTシャツとキュロットスカート。言葉には不安などの感情はなく、まるで作戦を立てるみたいな言い方だ。
「にげたらかっこわるいだろ! おれがたたかってやるからだいじょうぶ!」
「えー! わたしだってたたかう!」
 活発そうな少年と、ポニーテールの少女が口々に言った。彼らは本気で、負ける気がないのだ。だって、みんなが一緒だから!
「もう! たたかってもにげてもいいけど、ぜったいはぐれちゃだめだからね! たいせつなやくそく!」
 先頭を行っていた、三つ編みの少女がたしなめるように告げる。流行りのキャラクターが描かれたチュニックに、パンツ。背丈は五人の中で一番低いけれど、その言葉や仕草はお姉さんぶった雰囲気があった。
「わかってるよ!」
「さいごまで、手をつなぐ!」
「ぜったいみんなで、ゴールする!」
 子ども達は楽しそうに言葉を交わして、えいえいおー! と拳を振り上げた。
 仲良し五人は、最後まで一緒。はぐれず、みんなで、勇気を持って肝試しに挑む。
 このひと夏のイベントが輝く思い出になるかどうか――それは、ディアボロス達次第。


→クリア済み選択肢の詳細を見る


●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【熱波の支配者】
1
ディアボロスが熱波を自在に操る世界になり、「効果LV×1.4km半径内」の気温を、「効果LV×14度」まで上昇可能になる。解除すると気温は元に戻る。
【植物活性】
1
周囲が、ディアボロスが指定した通常の植物が「効果LV×20倍」の速度で成長し、成長に光や水、栄養を必要としない世界に変わる。
【口福の伝道者】
1
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。
【ハウスキーパー】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の建物に守護霊を宿らせる。守護霊が宿った建物では、「効果LV日」の間、外部条件に関わらず快適に生活できる。
【コウモリ変身】
1
周囲が、ディアボロスが小型のコウモリに変身できる世界に変わる。変身したコウモリは最高時速「効果LV×50km」で飛行できるが、変身中はパラドクスは使用できない。

効果2

【能力値アップ】LV1 / 【ガードアップ】LV2 / 【ドレイン】LV1 / 【ロストエナジー】LV1

●マスターより

真魚
 こんにちは、真魚(まな)です。

 このシナリオは、非戦闘一章のみのシナリオになります。
 皆様に相手してもらうのはオープニングに登場した小学生のグループですが、【士気高揚】の効果で大人にも負けぬ勇敢さを持っています。手加減無用、思いっきり怖い仕掛けで楽しませてあげてください。

 それでは、皆様のご参加、お待ちしております。
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このシナリオは完結しました。



発言期間は終了しました。


リプレイ


南雲・葵
子供たちをガチでビビらせるぞー
今回は姉貴に頑張ってもらうからヨロシクね!

まず俺と姉貴(オラトリオ)はぼろきれを纏ったシーツお化けになろう
俺は【光学迷彩】と【モブオーラ】で隠れなが尾行
姉貴は廊下の前方からふらふら漂いながら小学生の方へ
5m手前で俺の側に姉貴を召喚して目の前から消す

んで、小学生の背後に仲間の体で姉貴に並んで貰うね
目の前でオバケが消えて、気付いたら知らない子が1人増えてる!ってヤツ

【冷気の支配者】で周囲を少し寒くし
その後、背後から姉貴を抱え込み
「子供、捕まえたァ」と言いながら【浮遊】を使って一旦廊下の死角へ

「この子供は生きてない 生きた子供……」
ひたひたと足音を立て追いかける演出


音羽・華楠
一般人の皆さんを楽しませるだけでなく、地獄変の充填も目的なんですね。
……この肝試しの結果が七曜の戦を左右するかもしれません。
全力で怖がらせますよ!

私は理科室に陣取りましょう。
理科室といえば骸骨模型!
それにちなみ、『骨を喰う化け物』をやります。
墓場で死体を掘り返して食べる妖怪って、怪談の定番ですし。

ぼろぼろの死装束っぽい衣装を着て、髪も乱して目元や口元も血糊で汚します。
お客さんが来たら人骨をがりがりと齧り、「……美味しいよ……」と笑い掛けましょう。

人骨は事前に飴細工で作っておきます。
実際にそんな昔話もありますし。
足りなくなったら【口福の伝道者】で補充です。
肝試しが終わったらお土産に配りましょう。


冰室・冷桜
おーおー、元気の良さそうなお子ちゃまたちですこと
ま、折角やるからにゃぁ一夏の思い出作りになるよう頑張りますか

学校ってーことですし、音楽室でスタンバりますか
白い布を被らせてお化けに扮しただいふくを偵察に向かわせてときまして、子供らがピアノの聞こえる範囲に現れたら演奏スタート
演奏ってーほどのもんじゃないですが、楽譜見ながらドヘタじゃない程度には弾けますからね

子供たちが部屋に近づいてきたら、【猫変身】に【光学迷彩】と【モブオーラ】の合わせ技
音楽室の片隅にでも丸くなって隠れておきましょう
子供たちが無人の音楽室であるのを確認して、部屋を出て離れていったらもう一曲サービスしていきましょ


ラウム・マルファス
黄昏時、って言うんだっケ。この時間の怪談って、後からゾワゾワする感じの怖さがあるよネ。

トラップ生成と迷宮化で、教室の中を迷路にするヨ。動く壁とか配置して、1人ずつ分断しよウ。センサーで測定して、トラップ生成とRewriterの力で子供たちそっくりの人形を作るヨ。本物そっくりだケド、触ると氷みたいに冷たいヨ。ドローンを組み込んで自律行動できるようにしたら、1人ずつ別々に合流させル。2人組が5つ、計10人になるネ。

窓際で10人合流させよウ。偽物はドッペルゲンガーって思ってくれるカナ?言い争いになる前に、偽物は意味深にクスクス笑わせてから、窓を開けて外へ脱出。上へ飛んでいくヨ。ドローンだからネ。


ティシア・アルシエル
●アドリブ・連携歓迎

●こ、子供を怖がらせるって本気ですかぁ?
頑張ってみますけど…後、ちょっとくらい独自解釈もありですよね?

●扮するは以津真天
【光学迷彩】で姿を隠し声のみ

●廊下
【植物活性】で草花を生い茂らせる
子供達が来たら①【泥濘の地】と②【腐食】を少しずつ、徐々に草花を腐りらせながら傍で囁き掛ける

『いつまで…いつまで…いつまで、この戦いは続くのか…いつまで、死する恐怖は続くのか…いつまで、生きていられるのか…いつまで……』

子供が怯んだら①を解除し②を加速させ【使い魔使役】で大量の鴉を乱れ飛ばせる
いなければ【コウモリ変身】で自らが

●うう、自分で言ってて背筋が寒く…いつまで続くんでしょうね、戦い…


●待ち受ける者達
 夏の日差しが差し込む小学校は、いつもとは違う空気を纏っていた。
 イベントの始まる前、非日常の空気――その中に足を踏み入れたディアボロス達は、肝試し大会の準備を始める。
「一般人の皆さんを楽しませるだけでなく、地獄変の充填も目的なんですね」
 衣装と、それから何やら骨のようなものが入った袋を持ち込んだ音羽・華楠(赫雷の荼枳尼天女・g02883)は、時先案内人が語った此度の趣旨を振り返るように言葉紡いだ。この肝試しの結果が七曜の戦を左右するかもしれない。そう思えば、気合いだって入るというもの。
「全力で怖がらせますよ!」
 狐耳をぴこりと動かしながら、拳はぐっと握り締め。やる気に満ちた華楠は、そのまま理科室へと向かっていった。
 そんな妖狐の少女を見送りながら、不安げな表情を浮かべているのはティシア・アルシエル(囀りは讀まれない・g10051)だ。
「こ、子供を怖がらせるって本気ですかぁ? 頑張ってみますけど……後、ちょっとくらい独自解釈もありですよね?」
 おどおどとしながらも、彼女は手の中の本を開き確かめるように目を通す。そこには、此度ティシアが扮しようと考えている妖怪の逸話が書いてあるようだ。
 本以外にも、彼女の持ち込んだ荷物はなかなかの量。昇降口入ってすぐの廊下を自身の持ち場と決めたティシアは、取り出した草花を周囲へ並べ始めた。一つ一つは小さな苗だが、ここ最終人類史の残留効果【植物活性】の力があれば、来場者を迎える前には草生い茂る廊下が出来上がる。
「俺も手伝うよ」
 明るい笑顔を浮かべて、草花の苗を一緒に並べ始めたのは南雲・葵(バールの人・g03227)。その横には、オラトリオの『梓』もいて共にティシアを手伝っていく。
 俺も廊下を使おうと思ってたんだ。そう語る葵は、上の階の廊下で梓と共に待機しようと考えて。
「子供たちをガチでビビらせるぞー。今回は姉貴に頑張ってもらうからヨロシクね!」
 茶の瞳をワクワクと輝かせながら告げれば、オンシジウムの花咲くオラトリオも微笑んで頷くのだった。
 そうしてディアボロス達が準備を進める内に、日は傾き、世界が赤に染まり始める。
「黄昏時、って言うんだっケ。この時間の怪談って、後からゾワゾワする感じの怖さがあるよネ」
 ラウム・マルファス(研究者にして発明家・g00862)は、くつくつと楽しそうに笑って呟いた。彼の担当する教室には、【トラップ生成】と【迷宮化】の力で平常時とは異なる世界が広がっている。日暮れとなるこれからの時間は、ますますその不気味さが増すことだろう。仕掛けの最終調整にも余念なく、そんなラウムが窓の外を見遣れば、元気にはしゃぐ五人組の子ども達がこの会場へと近付いてきていた。
「えいえいおー!」
 響く声は、防音設備のある音楽室で待機している冰室・冷桜(ヒートビート・g00730)の耳にも届いた。
「おーおー、元気の良さそうなお子ちゃまたちですこと」
 メーラーデーモンの『だいふく』に白い布を被らせながら、金髪の少女は楽しそうに微笑む。そして、手にした楽譜をトン、とピアノの譜面台に置いてだいふくへ目配せした。
「ま、折角やるからにゃぁ一夏の思い出作りになるよう頑張りますか」
 そうして夕顔の咲く頃に――幕は開く。

●廊下の怪
 ぜったいみんなで、ゴールする。そう決意固めた仲良し五人は、通い慣れてきた校舎へそろそろと入っていった。用心深く周囲を見回すが、昇降口はいつも通りで。ほ、と安堵の息を漏らしたのは誰だったか。
「いつものがっこうだね」
「だめだよ、だってディアボロスの作ったお化けやしきだよ! とつぜんわーってなんか出てくるかも!」
 お化けの本を持った少年が言えば、ポニーテールの少女が大きな身振りで返した。それに、しーっ! と三つ編みの少女が口元に指立て制止する。
 いまいち緊張感も続かぬまま、子ども達は昇降口を通り抜けて廊下へとやってきた。そして、そこで彼らは脚を止める。いつもとは異なる景色に、一気に警戒したのだ。
「なに、これ?」
「すげえ、なんか草いっぱい生えてる!」
 ツインテールの少女が瞳を見開き、活発そうな少年が廊下を端から端まで見渡す。彼らがいつも通っている廊下は、すっかり草花の支配する世界へと変じていた。タイルの隙間から生えた草はたくましく伸び、ところどころのタイルをひっくり返し、廊下を緑で覆っていた。
「通ってだいじょうぶ、だよね……?」
 警戒した声音の三つ編みの少女は、けれど仲間達と顔を見合わせてから勇敢にも進み出した。手を繋いだあとの四人も、それに続く。
 繋ぐ手は勇気を与えてくれるけれど、同時に緊張も伝え合う。温度、汗、それから息遣い――未知のものの気配を探りながら進む少年少女は、けれど次の一歩で突然体勢を崩した。
「え……っ!?」
 全員が、思わず声を上げた。彼らの踏みしめた先はぐにゃりと沈み、不気味に足へと纏わりついてきたのだ。
「やだっ、なに!?」
「これ、ドロ?」
 ワーキャーと、動揺する子ども達が足元を確かめる。いつの間にか、廊下の地面はぬかるみに覆われていた。それは茂っていた草木も飲み込み、泥を被った緑達は一気にくすんでしまったように見える。
「ううっ、うごきにくいよお……」
 少年少女がなんとか歩を進めようとするけれど、ぬかるみに取られた足は思うように動かない。焦る心がじわじわ不安も呼び起こすその時――その声は、微かに聞こえてきたのだ。
『……いつまで……いつまで……』
 はっと顔を上げたのは、三つ編みの少女だった。
「……なにか、きこえる」
 ぽつり零せば、仲間達も耳を澄ませて。周囲に人の姿はないのに……声は、まるで隣で囁き続けているようにはっきりと聞こえた。
『いつまで、この戦いは続くのか……いつまで、死する恐怖は続くのか……』
「いつまで……?」
 ――それは、死体に止まり鳴くという怪鳥の声。以津真天――そう呼ばれる妖怪のことを、子ども達は知っていただろうか。
『いつまで、生きていられるのか……いつまで……』
 悲痛な声に、子ども達は足が竦んだように動けない。そして、その瞬間。
 バサバサバサッ!!
「うわあぁぁっ!?」
 突然の羽音に、少年少女は悲鳴を上げた。黒い体の鳥――鴉が十匹、この狭い廊下を乱れ飛ぶ。その光景は子ども達に不吉なものを感じさせ、驚きが恐怖へと変わっていく。
 しかし同時に、彼らの足を包んでいた泥の感触が消えた。持ち上げる足が、軽い。いち早くそれに気付いた活発な少年が、声を上げる。
「みんな、走れ! ろうかのおくまでダッシュ!」
 その声に、弾かれたように全員が走り出した。バタバタと大きな足音を立てながら、怪鳥の支配する枯れた廊下を抜け出そうと――。
 そんな彼らの背中を見送って。【光学迷彩】で身を隠したままのティシアは、そこで小さく身震いした。
「うう、自分で言ってて背筋が寒く……いつまで続くんでしょうね、戦い……」
 呟く声は、小さくて。みるみる遠ざかっていく子ども達には、その声は届かなかった。

●教室迷宮の怪
 廊下を走り抜けた子ども達は、教室の扉の前でぜえはあと息を吐き出していた。
 逃げないで戦う、などと事前には意気込んでいた彼らだったけれど――。
「やばかった、やばかった!」
 ポニーテールの少女が言えば、こくこく頷くツインテールの少女。それでも五人組は、決して怯えてはいない。
「やっぱりディアボロスのお化けやしき、すごい!」
 【士気高揚】の力に後押しされた子ども達の心は、次なる恐怖を楽しみにしていた。だから、目の前の扉も躊躇いなく開けて、その教室の中へと飛び込んでいくのだ。
「わっ、こんどはめいろか!?」
 活発な少年が驚きながらもずんずん進んでいけば、すぐに後追う少年少女。そんな仲間達を、一番最後に教室に入った三つ編みの少女がたしなめようとする。
「ちょっと、どんどん行かないでよ! ちゃんと手を……」
 繋いで。そう続けようとした少女の声は、そこで掻き消えた。横から突如張り出してきた壁が、彼女を仲間達と分断したのだ。
「あれ? どこいったんだろ?」
「さがさなきゃ!」
 子ども達は、慌てて道を戻ろうとする。けれど来た道は形を変えており――闇雲に進むその後ろで、また一人が引き離された。
 そうして、一人一人分断されれば、一気に不安が広がる。
「みんなどこー!?」
「わたしはここ! こっちだってばー!」
 声は聞こえるが、迷路の壁が阻んで姿は見えない。そうしているうちに外はすっかり日が落ちたのか、周囲は暗くなりますます子ども達を焦らせる。
 だからだ、よく知った背格好を見つければ、ほっとして信用してしまうのは。
「あっ、こんなところにいた!」
「よかった! ほら、早く行こう!」
 少年少女は再会を喜び、迷路の脱出を目指す。そうして出口で合流しようとしたはずだったのだが、彼らはなぜか出口がある廊下とは反対側、窓際の空間に導かれるようにやってきたのだ。
 ――そして同時にそこに現れたのは、十人の少年少女だった。
「えっ!?」
 辿り着いた時、全員が声を上げた。きょろきょろと周囲を見回す。元は五人の少年少女が、一人ずつ増えて――十人になっている。日が落ちたとは言え窓際はまだ明るい、しかし見間違いとは思えぬほど、そっくりな顔が並んでいた。
「これ、もしかしてドッペルゲンガー?」
 本を握り締めた少年が、怯えるような声で言った。
「なにそれ? にせものがいるってこと!?」
「じゃあにせものはやっつけなきゃ! ほんものってどっち!」
 混乱からか、子ども達の声が荒くなった。するとその時、クスクスと不気味な笑い声が聞こえてきた。それはドッペルゲンガーの誰かの者か、あるいは――。
 さらに子ども達が見ている前で、窓が音もなく開いた。夜風が教室へと吹き込んでくる中、今度は十人のうちの半分が、まるで吊り上げられるようにすうっと浮き上がる。
「あ……っ!」
 それはあっという間の出来事で、子ども達は見ているしかできなかった。浮き上がったドッペルゲンガーの五人は、そのまま窓から外へと飛び出して、空へと上っていったのだ。
「……いっちゃった……なんだったんだろ……」
 ぽかんと口開けて、ドッペルゲンガーが消えていった窓を見つめる少年少女達。その姿を物陰から見守りながら、ラウムは楽しそうに微笑んだ。
(「君達そっくりの、ドローンだヨ」)
 機械的に動く人型は、時に不気味に見えるもの。子ども達を驚かせることに成功したラウムは、この教室迷宮の出口へと続く道へと彼らをさりげなく誘導したのだった。

●理科室の怪
 次に子ども達の前に現れた教室は、特別教室――本来なら別館にあるはずの、理科室だった。
「りかしつか……人体もけいとか、ガイコツとかうごいたらやだね」
 ツインテールの少女がぽつり呟くと、想像してしまったのか他の子ども達が表情を変えて頷く。しかし、それでも彼らは勇気を出して、理科室の扉を開いた。
 教室の中は、薄暗くなっていた。日もすっかり落ちたのに明かりはつけられておらず、それでも何者かの気配がする。

「なにかいる……?」
 恐る恐る本を持った少年が進んでいくと、カリ……カリ……と不気味な音が耳に届く。実験台が並ぶ室内、音は中央から聞こえてくるようだが――。
 活発な少年が台に身を乗り出して確かめようとする。薄闇にぼうっと浮かび上がるは、真っ白い骸骨標本で。
「わーっ! やっぱりガイコツ!」
「まって、おくにべつのなにかがいるよ!」
 指差したのは、三つ編みの少女。確かに、骸骨に隠れるような位置に白い着物姿の女がうずくまっている。
 顔を見合わせた子ども達は、意を決して白い着物――死装束の人へと近付いていく。ぼろぼろの着物。銀色の髪は乱れ教室の床を這っていて。
(「……血?」)
 その髪や着物の一部に赤い何かが付着していることに、気付いたのはポニーテールの少女。まって、と仲間に声掛けようとしたけれど、それより先に死装束の女が振り返った。
「ひっ……!?」
 顔を見て、息を呑む少年少女達。女は目と口から真っ赤な血を流していた。そしてそれより彼らを驚かせたのは、女の手にある白骨の――。
 橙色の瞳でひたと子ども達を見つめたまま、女は白骨を口元へと持っていた。そしてそのまま歯を立てて、カリ……カリ……と骨をかじる。
『……美味しいよ……?』
 じめっとした空気に乗せるよう、囁かれた言葉は不気味に耳に届いた。白骨を差し出そうとする女の姿に、子ども達は大慌てで背を向け駆け出していく。
「わーっ! ほね食いお化けだーっ!」
 バタバタバタと、遠ざかっていく足音。それを聞きながら――華楠はふふっと微笑んだ。
「怖がってくれましたね」
 呟きながら、白骨をもう一口。子ども達を見送った少女は、出口へと先回りするために移動を始めるのだった。

●音楽室の怪
 理科室から飛び出した子ども達は、そのまま廊下を駆けながら笑っていた。
「こわい! けどたのしいねっ!」
 次々に迫るお化けや妖怪。そのスリルは、適度に少年少女を驚かせ、そして楽しませていた。
 この次はどんなお化けが出てくるんだろう――ワクワクと心弾ませる子ども達は、だから目の前を横切る白い影を見逃さなかった。
「あ! なにかいたよ!」
「お化けかな? なんのお化けかな?」
 待てー! と追いかける子ども達は、白い影に導かれているとも知らず夢中で走っていく。そして――ポーンと。響く音に、五人組はやっと足を止めた。
「ピアノの音?」
「おっ、あそこおんがくしつだ!」
 活発な少年が指差す先、『音楽室』と書かれた教室から聞こえるピアノの音。それは美しい旋律を奏でているが、扉からも窓からも一切の光は漏れていなかった。明かりもつけず、暗闇の中でピアノを弾いているのは、きっと――。
 子ども達は無言で顔を見合わせて、それから音楽室へと歩き出した。ピアノの音は、どんどん大きくなっていく。まだ小学一年生の少年少女達はその曲名を知らなかったが、テレビなどで聞いたことがあるメロディだった。物悲しくも迫力のある旋律――クラシックの有名な曲だ。
 そろりそろりと歩いていって、ついに音楽室の扉の前までやってきた。子ども達は小さく『せえの』と言うと、そのまま勢いよく扉を開く。
 ――瞬間、ぴたりとメロディが止まった。
「あれっ?」
 音楽室の中は、無人だった。部屋へ入って確かめると、ピアノは鍵盤がむき出しになっており、譜面台には楽譜が置いてある。ついさっきまで、ピアノを弾いていた人が忽然と消えたように。
「だれもいない」
「でも聞こえたよねっ? ピアノひいてる人いたよね?」
 子ども達は不思議そうに教室の中を探し回るが、誰も隠れてなどいなかった。五人組は揃って首を傾げるけれど、何もない音楽室に興味を失ったように扉から出ていく。
 ――すると、またあのメロディが聞こえてくるのだ。
「ええっ!?」
 驚いた子ども達は、慌てて扉を開く。しかしそうすると音楽は止まり、暗くて無人の音楽室があるのみで。
「やっぱり、お化けがひいてるから見えないのかな……?」
 ポニーテールの少女が、小さく身震いしながら言った。
 見えぬ演奏者の正体は――子ども達が思わず沈黙した、その瞬間。教室の隅で、白い影がふわりと揺れる。
「わああっ! やっぱりお化けー!」
 今まで動くものが一つもない空間だったからこそ、突然の動きに子ども達は飛び上がるようにして逃げていく。その足音を聞きながら――身を隠していた冷桜は白い影へと近付いて。白い布をとってやれば、その下には嬉しそうな顔のだいふくがいた。
「もう一曲くらいサービスしてもよかったんですけどね」
 小さく笑いながら、偵察役のだいふくを労って。子ども達が無事にゴールすることを願って、冷桜はロリポップを口に運んだのだった。

●渡り廊下の怪
 逃げ出した子ども達が走って走って――辿り着いたのは、渡り廊下だった。
 階段をのぼった記憶はないのに、窓の外を見れば地上からは離れていて。この学校へ通う少年少女達は、三階の渡り廊下の景色と記憶が一致することを理解する。
「こんなとこまできちゃった」
「あとどのくらいあるくのかなあ」
 きょろきょろと周囲を見回しながら、進める足はとぼとぼと。そろそろ疲れが見えてきた子ども達だが――先頭を行く三つ編みの少女は、何かに気付いて足を止めた。
「ね、ねえ。あれ、あれ!」
 続く四人へと振り返り、前方を指差す少女。何事かと前を覗き込んだ子ども達は、一斉に硬直した。
 ふわり、ふわり。薄闇の中漂うのは、ぼろぼろの白い布だ。それは不規則に揺れながら、子ども達へと近付いてくる。
「わーっ! お化け!」
「どうするどうする、ちかづいてくるよっ!?」
 混乱する子ども達には一切反応せず、ゆらりゆらり。そうしてどんどん近付いてきた白いシーツのお化けは――もうすぐ手が届く、という距離まできて、突如姿を消した。
「ええっ!?」
 驚いた子ども達は、きょろきょろとお化けの姿を探す。しかし辺りにあの白い姿は見つからず――動揺する仲間達の中、ツインテールの少女が声を上げた。
「ねえ、手つなご! みんなで行こうよお!」
「そ、そうだ! みんなで行けばへーきだって!」
 活発な少年も頷いて、少年少女達は手を繋いだ。渡り廊下に五人横並びは難しいから、縦になって前と後ろで手を繋ぐ格好だ。
「またあのお化けくるかな?」
「きっとくるよ!」
「そしたらにげる?」
「でもきっとこのろうかはとおらないとだよな……」
 緊張と疲労を紛らわせようとしているのか、ここにきて子ども達はお喋りになっていた。しかしそんな中、一番後ろのポニーテールの少女だけが無言だ。
「……どうしたの?」
 手を繋いでいた本持った少年が尋ねると、少女は青ざめた顔をしていた。そして、泣きそうな声でこう言ったのだ。
「ね、ねえ、みんな、わたしよりまえにいるの? じゃあ……わたしのうしろにいる子は、だれ?」
「えっ!?」
 その言葉に、子ども達が一斉に振り返った。震えるポニーテールの少女が後ろに伸ばした手、その先には――。
『――子供、捕まえたァ』
 瞬間、低い声が聞こえた。子ども達が確かめようとした『一番後ろの子』に、覆いかぶさる白い影。
「きゃああっ!?」
 悲鳴上げたポニーテールの少女が手を離すと、その子を抱えた影がふわりと遠ざかっていく。
『この子供は生きてない……生きた子供……』
 大きく震えた白い影が、呻きながら歩き出す。ひた、ひたと。足音さえも不気味なその姿に、子ども達は弾けるように駆け出した。
「にげろ、にげろっ!」
「生きてないって言ったよ、わたしたちのことねらってる!」
「手はなさないで! いそげいそげ!」
 バタバタと、懸命に渡り廊下を駆け抜ける子ども達。
 彼らは追いすがる影から逃れようと、走って走って。
 ――そして、走り抜けた渡り廊下のその先に。見つけた大きな扉を開いた時、空気が一変した。

●たどり着いた先は
 開いた扉から飛び出して、少年少女は驚きに立ち止まった。
 渡り廊下の先は――校庭へと繋がっていた。
「外に出た……?」
 周囲を見回す子ども達は、そこに死装束姿の少女がいることに気付く。
「あっ、ほね食いお化け……!?」
 後退りする五人組だが――『骨を喰う化け物』を演じていた華楠は、晴れやかな笑顔で口を開いた。
「おめでとうございます! 見事ゴールですね!」
「ゴール……!? そっか、わたしたちゴールしたんだ!」
 妖狐の少女の笑顔に安堵した子ども達は、わっと歓声を上げる。この小さな五人組は、見事波乱の大冒険を終えることができたのだ。
 喜び飛び跳ねる子ども達の後ろで、彼らが飛び出してきた扉が開く。現れたのは大小二人のシーツお化け。白い布を取れば、葵と梓が笑顔を浮かべている。
「すごいダッシュだったな、全然追いつけなかったよ! しっかり手を繋いでて偉い偉い!」
「あっ! わたしのうしろにいた子……?」
 梓がこくこく頷くのを見て、怯えていたポニーテールの少女もほっと息を漏らした。更に華楠が、食べていた骨は飴細工だったのだとネタ晴らしすれば笑顔が広がっていく。
「これはお土産にどうぞ。頑張ったご褒美です」
「やったー! おねえちゃんありがとう!」
 飴細工の骨を一つずつ受け取ると、子ども達はディアボロス達に手を振りながら帰路を駆けていく。
 そんな五人に手を振り見送った後――華楠と葵は頷き合って、再び持ち場へと戻っていった。
 ひと夏の冒険を終えた子ども達。彼らのようにスリルを求める一般人が、この肝試し大会にはまだまだやってくるから。ディアボロス達の工夫凝らしたイベントは、まだまだ続くのだった。
成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​
効果1【植物活性】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【熱波の支配者】LV1が発生!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
【コウモリ変身】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV2が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!

最終結果:成功

完成日2023年08月02日

最終人類史の肝試し

 天正大戦国攻略旅団とワイルド・カードの提案により、クロノ・オブジェクト『地獄変』のエネルギーを充填する為に、最終人類史で大規模な『肝試し大会』を行う事になりました。
『地獄変』は、一般人の『鬼や妖怪、お化けなどが根底にある感情』を蓄積し、そのエネルギーを他の儀式等に転用できるという貴重なクロノ・オブジェクトです。
 ハロウィンでエネルギーが蓄積可能である事は確認されていますが、肝試しでもエネルギーを充填できれば、より多くのエネルギーを利用可能になるでしょう。

 最終人類史の人々の夏の娯楽として、各地にディアボロス主催の『お化け屋敷』を用意するので、パラドクスなども利用し、やってきた一般人の肝を試してあげてください。

 肝試しで得られたエネルギーは、まずは《七曜の戦》で使用し、余剰があるようならば、天正大戦国攻略旅団の方針に従い、天正大戦国の『千早城』の動力として活用される予定です。
(『千早城』は動力としてヒルコの生贄が必要な移動城塞型クロノ・オブジェクトです。
 可能になった場合は動力源からの根本的な改造も併せて行われます)


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#最終人類史(新宿島)
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#天正大戦国


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選択肢『最終人類史の肝試し』のルール

 肝試し大会にやってくる一般人の肝を全力で試してあげましょう。
 一般人は【士気高揚】の効果があるので、並のお化け屋敷程度は勇気のある行動でクリアしてしまうので、ディアボロスの創意工夫が重要になります。
 ディアボロスが『鬼や妖怪、お化け』を模した肝試しで、一般人を恐怖させられれば、地獄変のエネルギーを蓄積することが可能です。
 やってくる一般人に合わせ、最高の肝試しを体験させてあげてください。

 より多くのエネルギーを蓄積することが出来れば、《七曜の戦》が有利になるだけでなく、天正大戦国の『千早城』の起動も可能になるかもしれません。


 オープニングやマスターよりに書かれた内容を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、シナリオは成功で完結する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。