リプレイ
一・百
【百夜】
※アドリブ連携歓迎
砂漠の空気はどこも変わらないな…
懐かしさのある気候に耳をぴくり
何だかふわふわころころした生き物が…
いや、ふわふわなら負けてない…
さて…やるか…
りんごじゅーすを用意
そんな村など襲っても面白味ないだろう…
甘い物に興味ないか?
ジンのキューコン(九尾の銀狐姿)の背にりんごパイとはちみつケーキを置いて近くを浮遊させ匂いを漂わせ誘う
少しでも村から離したい
誘い出されたとこを狙い
紅玉姫を抜きジンを纏い
ジンの尾をしならせ攻撃を
狐の舞はいかが?
惑わすよう動きPDの妖気を帯びた刀で斬りつける。
シャムスに狐派と言われれば
つい嬉しそうに尻尾がぱたぱた
俺の毛艶は毎日可愛がられてるたまものですから
シャムス・ライラ
【百夜】
仲間と情報共有、連携
クマ…可愛くない!
集落を襲うなどもっての外
子どもじみた言葉遣いに騙されると思うなよ!
地形の利用、情報収集で戦闘に有利な位置取り
キューコン殿、今回も苦労しているな
囮役のジンを横目に
敵が誘い出されたところを
百や仲間とタイミングをあわせ攻撃
星涙で雨の如く無数の針を降らせてやろう
どんな隙間にも入り込んで避ける隙を与えずに
完全視界で視界も確保
そして針の雨の膜に身を隠しつつ
敵攻撃はジャンプ等で間合いを取り回避し
可能な限り損害を減らす
まぁ暴飲暴食を繰り返すと毛並みも荒れるからな
可愛さが少ないのは自業自得
まぁ、私は狐派ですけれども
その他有効な残留効果は使用
アドリブ等歓迎
●雪纏い星降らす
カラカラに乾いた風が、砂を流していく。
「砂漠の空気はどこも変わらないな……」
「ああ、まさに砂漠の空気だな」
風と共に頬に当たる砂粒もどこか懐かししいと、狐耳をピクピクと動かす一・百(気まぐれな狐・g04201)に同意するように、シャムス・ライラ(極夜・g04075)も頷いた。
けれども2人の視線の先には、そんな懐かしい砂漠の光景に相応しくないふわふわころころした生き物がいる。
「だれー?」
「あそぶ?」
「それとも敵なのかー」
2人に気づいた小熊達が視線を向けて来る。
「子どもじみた言葉遣いに騙されると思わないで頂きたいですね!」
頭のとんがり帽子を落とさずにコロンコロンと転がるなんて、無駄に器用で可愛らしい仕草を見せた小熊達に、しかしシャムスがぴしゃりと言い放った。
「「「がーん」」」
「まず集落を襲うなど以ての外です。それに、暴飲暴食を繰り返し、手入れもしていないのでしょう? 毛並みが荒れて可愛さが少ないんですよ。つまり自業自得ですね」
ショックを受けた様に目を丸くする小熊達に、シャムスが容赦なく切れ味鋭い評価で畳みかける。
「くわぁ……」
「良くわからないけどショックだぁ……」
「まぁ、可愛さがあっても、私は狐派ですけれども」
項垂れる小熊達に、更にシャムスが言い放つ。
その隣で、黒い狐の尾がパタパタと左右に揺れていた。
(「俺の毛艶は毎日可愛がられてるたまものですから」)
胸中で呟く百の口の端に、抑えきれない笑みが零れる。
「さて……ふわふわなら負けてないと見せてやろう。キュー、出番だ」
『出番やな!』
百の言葉に応えて、その傍らに銀色が現れる。
九つの尾を持つ銀狐のジン、キューコン。
銀色の毛並みが美しいその背中に、百は持参していたりんごパイと、はちみつケーキを置いた。
『っておい、なにするん!?』
というキューコンの抗議の意志をスルーして、百は更にペットボトルの蓋を開けて放り投げる。
「甘い物に興味ないか? りんごじゅーすもあるぞ?」
くるくる回るボトルの口から、リンゴの香りが飛び散った。
その甘さは無味乾燥な砂漠の空気の中では、さぞ香った事だろう。
「リンゴだー!」
「リンゴどこー!?」
砂漠に広がったリンゴの香りに、小熊達が色めき立つ。さらに刺激された嗅覚は、焼いたリンゴとシナモンの混ざった匂いと、パウンドケーキとはちみつの匂いと言う、2つの甘い香りにも気づかせていた。
「甘い匂いー!」
「おやつだー!」
「おいしそー!」
村など襲っても面白味ないだろう――と百が言葉を重ねるまでもなく、小熊の一群が甘い香りに釣られて猛然と地を蹴った。
「キュー」
『おいコラー!』
百の意のまま、パイとケーキを乗せて走るキューコン。追いかける小熊。
目を爛々と輝かせ大きく開いた口から涎が零れるのも構わずに駆ける様は、小熊型の亜人なのを忘れそうなくらい、すごくクマだ。
「キューコン殿、今回も苦労しているな」
『笑っとらんで何とかせえ!』
微笑み見送るシャムスの前を、キューコンと小熊の群れが通り過ぎていく。
「そろそろ良いのでは?」
お菓子で釣った目的は、集落から小熊を引き離し戦いに集落を巻き込まない為。
その程度の距離は、もう充分離せただろう。
「そうだな……やるか」
微笑を消したシャムスに頷いて、百も妖刀の鞘を掴む。
「キュー、来い」
『やっとかい!』
短く告げれば、雪が解けるようにキューコンの姿が九尾の狐の形を崩し、白銀の靄へと変わる。その結果、乗っていた背中がなくなったパイとケーキが砂の上に落ちた。
「おやつおやつー!」
「なにこれうまーい!」
スザーッと砂の上を滑って、半ば砂ごとお菓子に群がる小熊達。
だから気づかない。靄となったキューコンの行方に。
――雪夜狐々。
「狐の舞はいかが?」
キューコンとひとつになり白銀を纏った百が、砂を蹴って妖刀『紅玉姫』を抜いた。
ルビーの様な紅に怪しく輝く刃が鞘走る。一太刀浴びせた百が、勢いそのままに舞う様に身体を回せば、その身に纏う白銀の九尾がしなって刃の如く小熊の群れを薙ぎ払う。
「やられたー」
「おかしに釣られたー」
ようやく百が敵だと認識したか、刃と尾の範囲外にいた小熊達が杖を構える。
「おかしでつるなんて、ずるいー」
「びりびりしちゃえー」
だがそれは遅きに失した。彼らが魔術で雷雲を呼ぼうにも、頭上は既に塞がっているのだから。
空に広がったそれは、シャムスが生成した金属。
シャムスが片手を掲げれば、金属は意のままに形を変える。
「降り注げ」
――星涙。
何も聞かずとも百が大きく後ろに跳ぶのと同時に、無数の針となった金属が砂漠に降り注いだ。
ザァザァと、細く鋭い針が篠突く雨と降り注ぐ。何事かと見上げた小熊の眼球や口から、針はその身に突き刺さる。例え小熊達が身を丸くしても毛並みの隙間に潜り込み、突き刺さり、肉を裂く。
甘い香りが漂っていた砂漠の一角に、血の匂いが溢れた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【浮遊】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV2が発生!
クーガ・ゾハル
クマ、見るのはじめてだ
でかくてつよくて、すごく――やばい
そんな風にきいてたけど
小さいやつら、なんだか楽しそうにしてる
じゃあ、そうだな
まずは、おチカヅキのしるし
両手指に棒つきハチミツキャンディすちゃり
悪いことより、おれたちと力くらべしよう
そしたら、もっとたくさんやるぞ
こっちだ、こっち
<罠使い>でポケットからいい感じに
ハチミツビスケットをコロコロ落として、おびき寄せ
なぐりつけられたら
うるさい剣でガード……しきれなくても、たえる
だましてるのは、おれだからな
けっこうやるな、おまえたち
ヨシヨシ、ごめんな
約束は、ちゃんと守るから
キャンディをクマたちへ渡しながら
集まったとこ、まとめて【獄葬】でからめとる
アリア・パーハーツ
※連携・アドリブ歓迎
……可愛いな……いや敵か
ええと、凄い戦い辛い……!!
とりあえず誘い出して集落の人達から離そう
雷やら炎で怖がらせちゃってるだろうし
ほら、林檎あるしクッキーもあるからこっちにおいで
葡萄はお好き?
誘われてきた子に差し出すのは宝石のような葡萄
食べたら、ごめんね、美味しくないかも
だってそれは毒を封じ込めた手榴弾だから
うおあなんか降って来た怖!
あちちちち、
流れ星に当たらないようじぐざぐ翔けつつ、こぐまさんと遊ぶ
ナディア・ベズヴィルド
砂漠、砂漠…嗚呼、懐かしのエジプトの地を彷彿とするところね。
さて、問題のクマちゃん
些か拍子抜けする容姿だけどオアシスの住人に害を加えるのなら慈悲も容赦もない。
この子達は挑発より食べ物で釣った方が確実っぽい
私が手にするのはふんわり甘い香りを漂わせる焼林檎
ほかほか出来立てでとっても美味しいわよ、と見せびらかして誘き寄せる
貴方達には勿体ないわと近くまで寄ってきたら食べちゃお
ふんわりクマさんたち、可愛らしいけど残念ながら熊狩りの時間なの
一匹残らず殲滅よ
《早業》《不意打ち》で先手必勝よ。光の驟雨をお見舞いし
反撃にはPDの光の天蓋を展開し威力を削ぎ、魔力防壁で凌ぐ
魔法使いらしい戦いね、嫌いじゃない
ケペシュ・ナージャ
▼連携・アドリブ歓迎
なんだかんだ砂漠は落ち着きます
砂漠に熊がいるのは不思議な感覚ですが
しかしまぁ、見た目は可愛くてもやってることは可愛くないですね
実はとっておきのがあるんです
ついて来られたらあげますよ
シナモンをまぶした林檎の飴を振りつつ
熊たちを集落から引き離すように誘き寄せます
もしも一般人と遭遇したなら彼らを庇うことを優先
ついて来る姿を見ると罪悪感が湧かないこともないですが
人命がかかっているので
悪く思わないでください
残念、悪い狼に騙されましたね
あんた達が喰らうのは刃
花の蜜ほど甘くは無い
殴り技は避けるか剣でいなします
力技で来るならこちらも力で捩じ伏せるまで
蹂躙される覚悟はできましたか?
ゼキ・レヴニ
平和だったトコに襲撃とはな
住民はろくに備えもできてなかったろうよ
被害が広がる前に食い止めねえとな
食いもんで釣る仲間の動きに合わせ
風上に【トラップ生成】、罠から林檎の匂いを漂わせこぐま達を誘き寄せたら
おれは風下から奇襲を仕掛ける
金属塊『躯』を大盾に変じ住民達と敵陣の間に展開
住民には助けに来たと告げ守る
敵が殴りかかって来ようモンなら盾で強打、弾いて追い返してやる
悪いがこの「要塞」は越えさせねえぜ
賢しそうな別嬪サン…『蝕』の方は
住民達を人質に取ったりしねえ様に見張り
こぐま達を押し込む様にして指示に集中させられっかね
…なんかおれイスカンダルで熊ばっか狩ってんなァ
そろそろマタギ名乗っていい?なんてよ
マティアス・シュトローマー
砂漠を訪れるのはエジプト以来
だけど、ゆっくり景色を楽しむ暇は無さそうだね
敵を誘導する仲間に合わせ、パラドクスを発動。毒を含んだ熱砂のトラップを展開し、地中に引き込みながらその表皮を焼いてダメージを与える。もちろん【泥濘の地】の効果で足止めするのも忘れずに
俺の目的は仲間の援護。罠使いらしく素敵なサプライズ(悪戯)を仕掛けてあげよう
可愛らしい見た目から繰り出されるシンプルな強打…
う、ギャップで眩暈が
反撃への対策として、自身の前方に【泥濘の地】を展開。敵を足止めした一瞬の隙を突いて攻撃の回避を試みる
完全に躱すのが難しくても、致命傷さえ避けられれば
残るは引率のお姉さんだけ!
俺は鞭より飴の方が好きだなー
ジズ・ユルドゥルム
また熊が出たのか。
猟友会(※勝手に言ってるだけ)として放っておけないな。
敵を集落から引き離すのは、
仲間が動いてくれているようだ。
私達は、餌に釣られた熊達を混乱の渦に叩き落してやるとしようか。
よし。やるぞケレイ。熊には熊だ!「羆嵐」を起動!!
ジンに巨大な羆に変身してもらい、
味方の奇襲に合わせて大音声の咆哮を上げ、敵の身を竦ませよう。
敵が冷静さを取り戻す前に、敵群に突っ込む。
ジンは羆の鋭い爪で、私は大柄な羆の死角を補佐すべく小回りが利く槍で
こぐま達を撹乱してやろう。
…オアシスの人々に、敵の仲間だと思われないようにしなければな。
大丈夫、私達は味方だ。
この凶暴そうな熊が味方で、あの無害そうな熊が敵だ。
タオタオ・ザラ
クマだ!!ファンタジーなクマ!!!(クソデカボイス)
マタギと猟友会が現れるイスカンダル…、…考えたらいけない!
いいもので釣られてるようだし、タオは毎度の如く暴力をお届け
暴力こそひとが持つシンプルかつ分かりやすい力だ(にぎりこぶし)
弱肉強食と言うだろう、反撃喰らってタオが負けるならそれまで!
殴られて昏倒しそうになってもそう簡単には退いてやらんよ
タオちゃん痛いのも愉しくなっちゃうタチなんですう、残念でした!
得物を振り回して、狩れるだけ狩る
ごちゃごちゃ五月蠅えな、獣は獣らしく四つ足で這い蹲ってろよ
どっかの誰かさんが戦場に引っ張り出すから、
可愛いクマちゃんいっぱい死んじゃったじゃないですか、ひどーい!
サアシャ・マルガリタ
可愛い顔して惨いことするですね
打倒、くまさん。えいえいお!
同行の仲間とは可能な限り連携するです
マタギ。猟友会。心強い面子ですね、素晴らしい
サアシャも銀シャリに蜂蜜リンゴジュースを持たせてくまさんを誘導させるです
(頭にジュースを乗せて誘惑ダンスを踊りながら移動する銀シャリ)
集落から離れた場所に集めたら一網打尽タイムですよう
おやつに油断しているくまさん達の急所を狙って銃でばんばんどーん、です!
ここは今日から熊塚になるですよひゃっはー!
びりびりの気配を感じたら、銀シャリにジュースをぶちまけさせて気を散らせるです
その隙に攻撃が直撃しないよう躱すですよ
今夜は熊肉で焼肉定食ですね!
…おいしくないですかね?
●猟友会の集いかな
サラサラとした砂の上に、容赦なく照り付ける日差し。
乾いた風も暖かいが、それでも吹けば幾らか涼しくはある。
「やっぱり砂漠は落ち着きますね」
「……嗚呼、懐かしのエジプトの地を彷彿とするところね」
しばらくぶりに感じる砂漠の空気に包まれて、ケペシュ・ナージャ(砂蠍・g06831)とナディア・ベズヴィルド(黄昏のグランデヴィナ・g00246)が目を細めていた。
快適でなくとも、2人にとっては懐かしい空気だ。
「俺も砂漠はエジプト以来だよ。でも、ゆっくり景色を楽しむ暇は無さそうだね」
そんな2人の様子に、マティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)が少し残念そうに口を開いた。
そう。いるのだ。
マティアスが指差した先に、何やら茶色い毛むくじゃらの群れが。
「クマだ!!」
本来なら砂漠に生息していない筈の動物に似た姿に、タオタオ・ザラ(大喰らい・g05073)が無遠慮に声を上げる。
そのデカい声は、良く響いた。遮るものない砂漠では。
「ファンタジーなクまがもがっ」
まだ声を上げそうなタオタオの口を、周りから伸びた2人の手が塞いだ。
「声が大きいぞ、タオ。この距離でも聞こえかねん」
「そうだぜタオ。クマは鼻も効くが耳も良いんだ」
クマの生態を捉えた的確なツッコミが、ジズ・ユルドゥルム(砂上の轍・g02140)とゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)からタオタオに飛んで来た。
「つまり動物園ではお静かに、ですね」
成程と、サアシャ・マルガリタ(えいえいお!・g05223)がこくりと頷く。
「まあ、タオ殿がクマだ――ってなったのも判ります。砂漠に熊がいるのは不思議な感覚ですから」
「砂漠にクマちゃんだものね」
ケペシュとナディア、共に砂漠に懐かしさを感じた2人は、熊に違和感を感じていた。
「おれもクマ、見るのはじめてだ」
2人に同意するように、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)もこくりと頷く。その左目は初めてのクマに心なしか輝いている。
「でかくてつよくて、すごく――やばい。そんな風にきいてた」
「そうだな。熊ってのは猛獣だ」
クーガが口にした熊評を、ゼキが首肯する。
クロノヴェーダでなくとも、熊と言う動物は人の脅威だ。たった1頭の羆によって集落が壊滅したと言う例もある。
「けど小さいやつら、なんだか楽しそうにしてる」
けれどクーガの言うように、彼らの視線の先の小熊はそんな獰猛な生物には見えなかった。
とんがり帽子に杖と言う魔法使いの様な出で立ちも手伝って、小動物然としている。
「……可愛いな……いや敵か」
クッ、とアリア・パーハーツ(狂酔・g00278)が、小熊達から視線を背ける。
どちらかと言えば好戦的で飄々と戦場に踏み込むアリアには、珍しい逡巡であろう。
「まあ確かに、些か拍子抜けする容姿ね――容姿だけは」
「判ってるんだけどね……凄い戦い辛い
……!!」
クスッと微笑んだナディアが言わんとする事は、アリアも頭で判っている。
見た目通りの可愛い小動物なのではない。あれは亜人の一種だと。
「平和だったトコに襲撃されたんだ。住民はろくに備えもできてなかったろうよ」
「見た目は可愛くてもやってることは可愛くないですね」
「可愛い顔して惨いことするですね」
吐き捨てる様なゼキの物言いに、ケペシュが溜息混じりに返し、サアシャもぐっと拳を握る。
「と言うか、ゼキってクマに詳しいんだね?」
「おれか? まァ……なんかイスカンダルで熊ばっか狩ってるからなァ」
感心したようなマティアスの視線に、ゼキが苦笑交じりに返した。あの小熊達は初見ではないし、もっと獰猛で凶暴そうでデカい熊型亜人も見て来たのだ。
「そろそろマタギ名乗ってもいいか、とか思うくらいだ」
「名乗ると良い。猟友会はマタギを歓迎するぞ」
ゼキは冗談で言ったのかもしれないが、それにジズが真顔で返してきた。
「クマとマタギと猟友会が現れるイスカンダル……考えたらいけないなコレ!」
「マタギ。猟友会。心強い面子ですよう。素晴らしい」
タオタオは何か悟った様に空を見上げ、その隣でサアシャがしきりに頷いている。
ゼキの肩書に、マタギが追加される日は遠くないかもしれない。
●ある日、砂漠で熊さんに出会った
数人が小熊の群れに近づいていく。
「先ずはサアシャに任せるですよ!」
その中から、サアシャが自信満々に――自分ではなくダンジョンペンギンの『銀シャリ』を前に進ませた。
「銀シャリ、ダンスですよ!」
――グヮーァッ!
一声鳴いて、銀シャリは不思議な踊りを踊り出した。
「なにあれ……」
「トリ?」
銀シャリの謎の動きに気づいた小熊達は、その動きに目が釘付けになった。
ぺんぎんのおどり――シャリ・ウィー・ダンス。
例えペンギンに興味が無かろうが、強制的に銀シャリに関心を惹き付けるパラドクス。
小熊の群れを、集落から可能な限り引き離す。その為の初手として、敵の精神に作用するペンギンダンスで、先ずは確実に小熊達の注意をこちらに逸らす。
敢えて難点を上げるのなら、ペンギンダンスにどんな関心を抱くかは相手の嗜好による。
「しろくろ、食べられそう……」
「……おいしそー……」
捕食対象になったと察して、銀シャリが踊りながらプルプル震え出す。
「やっぱり。挑発よりも食べ物で釣った方が確実ね」
その反応は想定内だと、ナディアが手にしていた小さなバスケットの蓋を開ける。
「「「……っ
!!!」」」
ふわっと立ち昇った微かな香ばしさを孕んだ甘い香りに、小熊達の目が輝く。
「あまいにおいー!」
「おやつ? おやつ?」
「ええ、焼林檎。ほかほか出来立てでとっても美味しいわよ?」
「ほら、林檎あるしクッキーもあるからこっちにおいで」
焼林檎を見せびらかす様にバスケットを傾けるナディアの横で、アリアも別のバスケットを開いた。
赤が瑞々しい生のリンゴと、バターと砂糖をたっぷり使った甘いクッキーに、小熊達の鼻がヒクヒクと反応する。
「おチカヅキのしるし、あるぞ」
すちゃっとクーガが両手の指に挟んで見せつけたのは、棒付きキャンディ。ぐるぐるでシマシマのカラフルなやつだ。黄色い部分は熊なら好きそうなハチミツ味である。
「とっておきもあるんですよ」
さらにケペシュも、どこからともなくシナモンかけて水飴でコーティングした林檎飴を取り出し、見せつけるように振ってみせる。
「ふふん、蜂蜜入りリンゴジュースもあるですよ!」
サアシャも持参したボトルの蓋を開け、捩じりハチマキ巻いた銀シャリの頭上に置いた。何でそこ。
5人がそれぞれに持ち込んだ甘味は見事に被りがなく、その香りは重なり合って小熊達の嗅覚を刺激する。
――と言うか、刺激し過ぎた。
畳みかける香りの暴力は、小熊を猛獣に変えるには充分過ぎたのだ。
――ウガッァァァァァッ!
小熊達の口から、獣染みた咆哮が上がる。
「「「「なにやった
……」」」」
砂漠に響いた獣声は、待機している4人に一抹の不安を感じさせ。
「待って何が起きてるの」
集落は制圧したと高を括っていたパディルエスを異変に気づかせ、集落の外に飛び出させた。
●美女と野獣とマタギ
「り゛ん゛ご!」
「お゛や゛づぅぅぅっ!」
目を見開き、牙を剥き出しにした小熊の群れが猛然と砂を蹴って駆けている。
「刺激し過ぎたかしらね」
「でも可愛さ無くなってくれて良かった。これなら戦い易い」
その先にいるナディアとアリアは、いつの間にか2人だけになっていても焦りや恐怖は微塵もなかった。
追われているのではない。
追わせているのだ。
「までぇぇぇぇ!」
「まっでってばぁぁぁぁっ!」
そうは言っても小熊の足は存外に速く、追いつかれるのも時間の問題。
ならば心を挫く。
「おやつおやつおやつ」
「貴方達には勿体ないわ」
迫る小熊の食欲にぎらついた視線を気にせずに、ナディアはバスケットを開けるとやおら焼林檎を頬張ってみせた。
「おや――っ」
目の前で焼林檎が消えて、小熊の瞳からも光が消える。
「――?」
「ん、いただく」
それを他所に、ナディアが口の中が林檎で一杯だからと目で尋ねれば、アリアも意図を察して残りの焼き林檎を頬張る。
「おやつがぁぁぁ!」
周りの小熊達も、絶望に打ちひしがれて砂の上に崩れ落ちた。そんなにか。
「グ……グァ……」
「ググッゥゥゥ」
「……何をしているの、あなた達は」
小熊達が悔し気に呻くそこに、第3の女の声が砂丘の上から降って来た。
視線を向ければ、黒衣に身を包んだ銀髪の女。
「闇雲に相手を追うなと、さっきも言ったでしょうに」
呆れた様に言い放ち、女――パディルエスは淡々と小熊達に告げる。
「たった2人にかかずってないで、集落に戻りなさい。甘いもの、隠してるかもしれないわよ」
「!」
甘い可能性と鞭の音で小熊を亜人に戻したパディルエスは、その場から姿を消した。
小熊の数が足りない事に気づいて、他を見に行ったのだろうが、それは早計だった。2人だけでは小熊を止め切れないと踏んだのだろうが、2人が動かない事を気にするべきだった。
「――奴が守りきれなかったのはただ一つだけだった、」
砂の上に伏せていたゼキが、身を起こしながら小さく呟いた。
それは忘れ得ぬ兵の記憶。
嘗て、家族と呼んだ仲間の1人の生き様。
ゼキの脳裏に蘇る記憶――或いはその記憶の再生の際に神経系を駆け巡る電気信号――に、機械の腕で掲げた金属塊『躯』が反応する。
何とも形容しがたい謎のオブジェのようであった『躯』が幾つもの小さな塊に分裂し、再構築されながら広がっていく。
鋼の要塞――ツィタデレ。
砂漠に、分厚い鋼の壁が聳え立った。
「ぷぎゅっ」
「むぐっ」
ゼキが突き立てた大盾が、突っ込んで来た小熊を遮り、押し戻す。
「なんだこれ!」
「じゃま!」
起き上がった小熊達が杖で叩いても、鋼は鈍い音を立てるだけでびくともしない。
その筈だ。 ゼキがこの大盾を象らせる触媒とした記憶は、自らの命を擲って仲間を守った戦士のもの。
ならばゼキが呟いた、彼が守りきれなかったただ一つが、その後ろにある筈が無い。
「悪いがこの『要塞』は越えさせねえぜ」
まさに金城鉄壁。
「しょうがないなぁ……こっちはあげるよ」
ゼキの壁に阻まれた小熊達に、アリアがバスケットの中身を放り投げる。
「リンゴだー!」
「おやつだー!」
諦めさせられただけで、甘味に対する欲が満たされたわけではない。むしろ我慢を強いられた分、良くは強まっていたと言えるだろう。そんな小熊達が生リンゴとバタークッキーに抗える筈もない。
「葡萄はお好き? おひとつ、いかが?」
「おいしそー!」
だからパチンッと指を鳴らしたアリアが、放り投げた宝石の様に輝く紫色の物体にも反応してしまう。
「だけどごめんね、美味しくないかも」
「がふっ!」
迷わず口でキャッチし、即ごっくんした小熊は、アリアが告げた直後にぶっ倒れた。
口からヤバ気な紫色の煙を吐いて、ピクリとも動かなくなった。
食べられない葡萄――ファルソ・ウーヴァ。
アリアが投げたのは、葡萄ではない。ある意味葡萄よりも綺麗で危険な紫水晶。その中に入っているのは瑞々しい果汁などではなく、臓腑を壊す死神の如き猛毒だ。
「「「え
……」」」
「ふんわりクマさんたち、可愛らしいけど残念ながら熊狩りの時間なの。一匹残らず殲滅よ」
仲間の死に動揺する小熊達に、ナディアが冷たい視線を向けて言い放つ。
「聴きたもれ聴きたもれ 血の盟約により我が声に応えよ 第25星宿」
唱えるは、星の輝きを喚ぶ詞。
「古の異光 現世に顕現せし力」
ナディアの掲げた右手の先に、4つの輝きが生まれる。
「光臨の儀 『サダクビア』 光を刻め!」
隠れ家の守り星――サダクビア。
「光は敵を屠る槍となりて、驟雨と降り来たれ」
ナディアの手から離れた光が、空中で無数の光の槍となって、小熊の群れに降り注いだ。
無音の驟雨と降る光に射抜かれ、小熊が倒れ伏す。
「いたいいたい!」
「おやつもないのにー!」
「めらめらでおかえしだ!」
されどまだ無事な小熊達が、揃えって杖を天に掲げた。その魔術が呼び出すは宙より降る燃える石――小さな隕石だ。
「うおあ、なんか降って来た! 怖!」
「大丈夫ですよ――敵を屠る光は命護る光の天蓋にも変じよう」
何とか避けようと目を凝らすアリアを落ち着かせるように、ナディアが告げれば、光が変わる。
驟雨が止んで、空に光がテントの屋根の様に広がった。降り注いだ火球は光に遮られ、2人の周囲へと流れ落ちていく。
「魔法使いらしい戦い、嫌いじゃないの」
「こっちは魔法じゃないけどね」
敵を討つ驟雨と、災いから護る天蓋。
星光の性質を使い分けるナディアの隣で、アリアは再び死を封じた紫水晶を放り投げた。
●熊さんこちら
「悪いことより、おれたちと力くらべしよう。そしたら、もっとたくさんやるぞ」
「ついて来られたらあげますよ」
「おーやーづー!」
「あまいの! あまいの!」
砂の上を駆けるクーガとケペシュの後ろに、目を見開いて牙を剥きだしにした小熊の群れが追っている。
「けっこうやるな、おまえたち」
「ここまで必死にさせてしまうと、罪悪感が湧かない事もないですね」
クーガは今はうるさくない剣『號』で振り下ろされた杖を受け止め、ケペシュは湾曲した刃で受け流す。
少しでも距離が詰まれば小熊が飛んで来る。
中々に気を抜けない状況であるが、2人よりリスキーなのは銀シャリだ。
「じゅーす! じゅーす!」
「っ!!」
「しろくろもおいてけー!」
「っ!!」
さっきからずっと、小熊の牙が銀シャリの背中数センチの距離でガチンガチンと鳴っている。
何故なら、まだペンギンダンスしているから。
踊りながら走って逃げろと言うサアシャの指示である。しかも、頭にボトルを載せて、落とさない様に。控えめに言って鬼コーチの所業である。
「こっちだ、こっち」
「あまいのー!」
「もっとー!」
クーガがポケットからハチミツビスケットをばら撒いても、秒で砂ごと小熊の口に消えてくので、気を逸らすまで至らない。
「どうしたのあれ。すっかり可愛くなくなってて、ギャップで眩暈しそうなんだけど」
「ファンタジーな見た目が台無しじゃねえか」
そんなスリリングな鬼ごっこも、マティアスとタオタオの合流でゴールとなった。
「まあ何と言いますか」
「ちょっとやりすぎた、かも?」
2人の小熊に向けるかわいそうなものを見るような視線に、ケペシュとクーガが苦笑交じりに返した。
「銀シャリ、ぶちまけろです!」
「グヮッ!」
サアシャの指示で、銀シャリが勢い良く頭を振ってボトルを振り落とす。
砂の上に広がり染み込んでいくいくリンゴの香りが、既に理性が崩れつつあった小熊達を更に狂わせた。
「リンゴー!」
「ジューッスッ!」
マタタビに酔った猫の様に、小熊は砂の上に転がり出した。
「うん、とにかく素敵なサプライズの始まりだ」
何があったと考えるのを諦めて、マティアスは片手を掲げる。
掌を砂漠に翳す様にして。
「気付いた時にはもう手遅れ……ってね」
直後、小熊達の足元で砂が蠢き始めた。
アーマイゼン・レーヴェ。
ズズズズ――と砂漠がへこんでいく。
マティアスの目の前で、砂が地の底に吸い込まれるように減っていく。
そして現れたのは巨大な蟻地獄。
「わわっ!」
「すべるー!?」
ゴロゴロ転がっていた小熊達が慌てて身を起こしても、もう遅い。藻掻いても、砂はその掌から零れ落ちてサラサラと崩れていく。その間にも砂はどんどん減り続け、深くなる穴に呑まれた小熊が底に引きずり込まれていく。
「あいつだ!」
「なにすんだ!」
マティアスが術者と察した周りの小熊が、杖を構える。
「おい、クマ共。力比べならタオが代わりにやってやるよ」
その前に、タオタオがニマリと笑って進み出た。
「但し、タオがお届けするのは痛いぞ。暴力だからな」
その両手に構えた二振りの『蠍の鋏角』は、既に形を変えている。
刃も峰も鎬もない刃。どこからどう叩きつけても傷を与える事が出来る、鋭くも暴力的な歪な刃。切り裂くものと、奪い去るもの。その捕食形態。
悪食の晩餐――ハンティングモード。
「喜べ、お前らがメインディッシュだ」
小熊と同時に砂を蹴って、タオタオが飛び出した。
「グォォォァオオォォォォッ!」
何処か近くで、獣の咆哮が響く。
「ぴゃうっ」
「身体に教えてやるよ。ひとが持つシンプルかつ分かりやすい力ってのをな」
何故か身を竦ませた小熊に構わず、タオタオは両手を振り回した。斬る為ではなく敵の命を喰らい尽くす為の刃を、叩きつけ、殴りつけ、斬り付けて、喰らい付かせていく。
「ふぃー……で、今のなんだ?」
「俺じゃないよ?」
取り敢えず周りの小熊を一掃して首を傾げるタオタオに、マティアスが首を横に振る。
ケペシュもクーガもサアシャも、心当たりが無さそうとなれば、答えは1人しかない。
「今のはケレイだ」
答えるジズの声は、砂の丘を滑り降りる光の羆の上から聞こえた。
ケレイ。その名は、ジズのジンの名だった筈だ。鷹の。熊ではなかった筈だ。
「よし、ケレイ。敵が冷静さを取り戻す前に、蹴散らすぞ! 荒らすとしようじゃないか!」
「グガァッ!」
だがその肩から飛び降りたジズの言葉に一声鳴いて応えるケレイの姿は、とても熊である。
――羆嵐。
鷹のジンを羆に変える術。まさに羆そのもの。
それはただ姿を変えるだけではない。力に溢れ分厚く巨大な体躯も、眼光鋭い頭部も伊達ではない。鋭い爪を備えた力強い四肢で砂を蹴って駆け、勢いをつけた巨体で突っ込めば、小熊が数体纏めて吹っ飛ばされた。
「グワゥッ!」
さらに前脚を薙ぎ払う一撃で、小熊をやはり数体纏めて穴の中へ吹き飛ばした。
●熊肉残らないのでは
マティアスが仕掛けた、蟻獅子の悪戯。
それが砂を陥没させ、抜け出せない穴を作るだけだったなら、確かに悪戯と言えたかもしれない。
だが、それだけの筈が無かった。
「あつ、いたい、あつい、いたい」
「うぐぐ……っ!」
穴の底の方から、小熊の苦悶の声が上がり出す。
穴の中の砂は、マティアスの力によって変質していた。
毒を含んだ、熱砂へと。
毒が小熊達の密集した体毛を腐らせ、熱が分厚い表皮を焼く。最後には、その身体全てを分解し地へ還す。
「急いで上がって来ないと」
マティアスはそう言うが、落ちたが最後、ジワジワと死へ向かわせるその穴は、まさに蟻『地獄』と言うにふさわしい。
「こんにゃろ!」
小熊が振り下ろして来た杖が、ガキンと硬い音を立てる。片方の『蠍の鋏角』で受け止めたタオタオは、反対の手の『蠍の鋏角』で、マティアスの穴の中へと叩き落した。
「ぼーりょくいらない」
「あまいのくれよー」
「ごちゃごちゃ五月蠅えよ。タオに甘さを期待すんな」
小熊達の不満も幼い精神も一蹴し、タオタオはズカズカと間合いを詰める。
「獣は獣らしく四つ足で這い蹲ってろよ!」
そして真っすぐに力いっぱい『蠍の鋏角』を叩きつけ、また小熊を穴に吹っ飛ばした。
「弱肉強食と言うだろう。タオから欲しけりゃ奪い取れ!」
反撃を喰らって倒れるならそれまでと、只管に攻め続ける。
「そんなもんか? タオちゃん痛いのも愉しくなっちゃうタチなんですう、残念でした!」
多少の不詳など気にした風もなく、汗と血を散らして。
タオタオは暴力的に、小熊達と戯れ続ける。
「タオのやつ、暴れてるな」
その暴れぶりにジズが感嘆の呟きを漏らしていた。
尤も、暴力という意味では負けていない。暴れているのはジンだが。
「グルァァッ!」
「うわーっ!」
「だめだーっ」
羆となったケレイの膂力の前に、小熊は成す術なく吹き飛んでいく。
「ふむ。私もこぐま達を撹乱してやろうと思っていたが……要らんか?」
その一方的な様子に、アカシアの樹から作った槍を手にしたジズが拍子抜けしたように呟いた。
大柄な体躯には、死角も生まれ易い。
小熊達の反撃に備え、ケレイの死角を補佐しようと思っていたジズだが、この分ならば不要そうだ。
だがそれは、暴力以外の理由もあった。
「ねえ、あのパワー……」
「うん、そんな気がする」
何やら、ヒソヒソと囁き合う小熊達。
「「あれはカリスト様では!?」」
「ンッ!?」
そしてジズも予想外の言葉が飛んで来た。
確かにジズは、オアシスの住人に見られたら『この凶暴そうな熊が味方だ』と説明しないといけなさそうなくらいに、遠慮なくケレイを変貌させた。だからと言って当の小熊までそう思うなんて。
「待ておまえら。どうしてそうなるのだ」
思っていたのと違う小熊達の混乱に、ジズは突っ込まずにはいられなかった。
「ここは今日から熊塚になるですよう! ひゃっはー!」
何とか穴から這い出ようとする小熊に、サアシャが銃を向けて景気よく撃ちまくる。
「甘いのないじゃないかー」
「うそつきー……」
ずるずると滑る砂の中を力なく落ちる小熊が、恨めし気に声を上げる。
「ヨシヨシ、ごめんな。約束は、ちゃんと守るから」
せめてこれくらいはと、クーガは残るキャンディとクッキーを全て、穴の中へ放り投げた。
理由はどうあれ、騙したのは事実なのだから。
けれども手向けを差し出しても、穴から出るのは許さない。
「CODE――囚獄、反攻」
両手を広げたクーガを中心に、四方八方に細い光が幾つも伸びていく。
それは『0』と『1』で編まれた電光の有刺鉄線。
獄葬――カ・ファス。
触れるもの全てを貫く光の鉄条網を、クーガはマティアスの蟻地獄を塞ぐように展開していく。
毒と熱の砂に喰われて地に還るか、光に貫かれるか。穴の底に落ちた小熊の命運は、最早尽きたも同然だ。
そうして、穴の外に残った最後の小熊の1頭。
「おい、ついてきたのに、甘いのないじゃないか!」
その前にいるのはケペシュである。
「だましたのか!」
「ああ……流石に気づいてしまいますか」
小熊の文句に、ケペシュは今日何度目かの溜息を零した。
「残念、悪い狼に騙されましたね」
更に深まる罪悪感を押し隠し、ケペシュは己と同じ名の刃を掲げる。
「あんた達が喰らうのは刃。花の蜜ほど甘くは無い」
必要な事だった。人命が掛かっているのだ。
――嘶。
ケペシュが迷いなく振り下ろした刃が、風を切る独特の音を鳴らす。獣の一撃にも似た、力任せの荒々しい斬撃が、皮を裂き、肉を切り、骨を断って――小熊を一刀の元に切り伏せた。
それで、周囲に動く小熊の姿はいなくなった。
穴の底の小熊も、直に力尽きるだろう。
「今夜は熊肉で焼肉定食ですね!」
「サアシャよ、熊肉の調理は手間かかるぞ……」
声を弾ませるサアシャに、猟友会代表のジズがぽつりと呟いた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【防衛ライン】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
【セルフクラフト】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【トラップ生成】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
【通信障害】LV1が発生!
【断末魔動画】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV2が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!
【ダメージアップ】LV2が発生!
【能力値アップ】がLV3になった!
【ドレイン】LV1が発生!
レイ・ディース
連携アドリブ歓迎
村民をディフェンス
(こないだ同じ敵と戦った時は可愛さに少しだけ心が痛んだけど)
目の前で非道をやろうとしてるなら一切の容赦なく殺れる
…ほのぼのネタ技で葬るんだけどね…
予め私とエインに《光遣い》で大盾作って頭上にかざしダメージ抑える
アップルパイや蜂蜜クッキーをエインに「あーん」してあげる
その光景が敵に謎の《浄化》の一撃を与えてしまうパラドクスなのよ…
リンゴジュースもこれ見よがしにカップル飲みして敵を引き付けるわ
(エインが美味しそうに食べたり飲んだりする姿、見てるだけで幸せ…)
【口福の伝道者】発生で私や仲間の皆さんが持ってきたおやつを後で村の人達に振る舞えるし
復興支援にも使えると思う
●パラドクスは理屈じゃない
他のディアボロス達が、小熊の群れを集落から少しでも引き離す。
その流れに乗じて、レイ・ディース(光翼のダークハンター・g09698)は集落の中へと1人入り込んでいた。その狙いは、集落の民の直接的な守護。
「大盾、展開」
まずはその背中の翼から生じる光の粒子を集め、束ねて、大盾として空に広げる。
集落にパディルエスの姿はなく、残っているのは数頭の小熊だけだが、何かあってもある程度は集落の民への守りにもなるだろう。
守りの一手を打ったレイは、次の手を打つ。
「ねえ、あれ」
「何か甘いにおいが」
「準備はいい、エイン?」
レイは小熊達の視線が自分達に向いているのを横目で確認しつつ、メーラーデーモンのエインと向き合い――。
「はい、あーん」
おもむろに取り出したアップルパイを、『あーん』とエインに食べさせ始めた。
砂漠のピクニック。
そんな光景だが、レイはふざけてなどいない。
「リンゴだー!」
「リンゴのお菓子のにおいだー!」
「美味しい? よかった。次は蜂蜜クッキーだよ。はい、あーん」
欲望に目を輝かせた小熊達が動き出すのを無視して、レイはまた別のお菓子をエインに食べさせる。
そうする事こそが、戦闘行為なのだから。
――モフモフな飯テロ。
メーラーデーモンに、レイが美味しいものを「あーん」してあげる。ただそれだけの行為がパラドクスにまで昇華された結果、可愛らしくほのぼのした空気が浄化の一撃的なものになったのだとか。何だそれ。
「く、くまぁ……」
「おやつ……食べたかった……」
とは言え、小熊達はレイに手が届くよりも前に動けなくなっているので、実際効いていると言う事だ。
「リンゴジュースは、一緒に飲もうね」
更にトドメを刺そうと、レイはわざわざジュースを1つグラスに注いで2つのストローを挿し、エインと顔を近づけそれぞれにジュースを飲んでいく。
もはやハッピーな飯テロタイムと言うか、リア充アピールになってる気もしないでもない。だが、そんな甘さすらあるほのぼの空気が小熊の幼い悪意に満ちた心に突き刺さる。
(「こないだ同じ敵と戦った時は可愛さに少しだけ心が痛んだけど、目の前で非道をした直後なら一切の容赦なく殺れるもん」)
バタバタと倒れていく小熊達を横目に、レイはリンゴジュースのお代わりをグラスに注いだ。
大成功🔵🔵🔵
効果1【口福の伝道者】LV1が発生!
効果2【凌駕率アップ】LV1が発生!
●あれだけ小熊釣られまくったとこから、どう指示出せばと
「どっかの誰かさんが戦場に引っ張り出すから、可愛いクマちゃんいっぱい死んじゃったじゃないですか、ひどーい!」
誰に言うでもない、赤毛の者の声が聞こえたのか。
小熊との戦いを終えたディアボロスの元に、足音が近づいてくる。
「やってくれたわね」
苛立たし気に声を上げたのは、『蝕』のパディルエス。
「この分だと、小熊達は全滅ね。まあどうでも良いけれど」
口ではそう言いながら、どうでも良いと思っていないのは明らかだった。
「私を怒らせたらどうなるか、思い知るがいいわ」
パディルエスの怒りは小熊がやられた事に対してではない。
自身の統率を崩された事に対する怒りであり、気づいた時には小熊に指示を出した所で覆せない状況を作られた怒り。
「謝っても許さないわよ。砂の上に這いつくばるがいいわ」
集落を制圧したと高を括って油断していた事を、棚に上げて。パディルエスは怒りを露わにディアボロス達を睨め付ける。
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③の結果が良かったので、④も集落から離れた所での戦闘となり敵味方の行動は集落に影響を及ぼさない事とします。
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タオタオ・ザラ
お人形サン遊びから縫い包み遊びに趣味が変わった?
人間跪かせるより、クマちゃん従えてる今のほうが愛らしくていいぞ
――なぁんて、冗談だよ
そんでもってサアシャそこは突っ込まないで、察して!!
耳に響くあまったるい言葉
いやァ、ほんと、相も変わらず良い趣味で
でもにゃあ、言われる相手も重要だと思わない?
だから、まだまだ折れてやんない
とびっきりの感謝と殺意を込めて
うつくしいものが好きなあなた様を、タオの護る墓へご招待!
いやっ、待っ、待ってゼキ
やだ!!!
――なんつか皆タオに厳しくない!?気の所為!?
あなた様を護る気はねえから、ただただ死んでおくれ
ああ、でも
狼狽える顔は嫌いじゃないから、もっと見てたかったかもな?
ゼキ・レヴニ
おうおう、お怒りで。キレーな顔が台無し!
猟友会の狩場に入って来たのが運の尽きだったなァ
謝って許しを乞う奴はここにゃ一人もいねえんで、観念してな
『躯』を鉄爪に変じ、味方と連携して攻める
砂奴隷を正面から相手すんのは面倒なんで
【泥濘の地】で足を鈍らせ、隙を縫って蝕に接近すっかね
間近の砂奴隷を雑に裂いて砂煙を舞わせ
そいつに紛れ蝕の背後に回り込み、不意打ちを食らわせる
ほれ、余所見してっと次が来るぜ
触れないで、なんてつれねえ事言わんで
縫い包み遊びよりもっと楽しく戦り合おうや
泥臭えおっさんは趣味じゃねえって?
そんならそこの美おじいタオが墓にぶちこんでくれるよ
…おっと、ヤダってよ。入れる墓もねえとはご愁傷様!
ケペシュ・ナージャ
出ましたね、タオ殿の因縁の相手
過去の女というやつですか?
生憎ですが今のタオ殿には俺たちがいますので、お引き取りを
しつこい女は嫌われるって聞きますよ
…クーガ殿はそのままの貴方でいてください、ええ
まどろっこしいのは嫌いなんで、双剣を手に切り込みます
時折蹴りでの攻撃を織り交ぜ変則的に
味方の動きを見てタイミングを合わせましょう
毒をもって毒を制す
幻覚や幻聴には自らの左腕に剣を立て、痛みによって抗い
傷口から吹き出す毒血で、目潰しがてら相手を蝕む
お返しですよ、こんなの可愛いもんでしょう
あんたに比べたらね
さ、タオ殿
遠慮なくやってしまってください
おとといきやがれ!
…ふふ、一度言ってみたかったんです
マティアス・シュトローマー
へえ、タオの馴染みのお姉さんなんだ
二人の間に何があったのかは妄想……想像に留めておくけど、タオに100パーセント味方するよ
姿形が似ていようと、相手が集落を襲おうとしたクロノヴェーダじゃあね
パラドクスを発動。具現化した大鴉達を足場に戦場を駆け、蹴りや銃撃の連続攻撃を浴びせる。トリッキーな動きに【飛翔】も交えてさらに敵を錯乱させよう
もう戦わなくても、傷付かなくてもいい?
――違う
俺が今一番欲しいのは、迷いを打ち払い鼓舞してくれるような言葉
耳障りな反撃は銃の発砲音で掻き消しながら【飛翔】で回避を
続きはタオに任せても平気だよね
さ、遠慮なくカッコいいとこ見せてよ
ナディア・ベズヴィルド
あーあ、さっきのクマちゃん貴方がちゃんと連れ帰らなかったから死んじゃったーかーわいそ~
ん、ふふ…なんて一つも思っちゃいないけどね
それは貴女もでしょう?
手下を失っても何も感じない
思うようにいかない不快さだけが胸中渦巻いている
それが今の貴女 ――違う?
そこの色男が墓にぶち込んでくれるって
嫌がられているけども、何をやらかしたのかしらね
苛立つからって人に当たらないでくれる?
油断して痛い目にあうのは自分のせいでしょう
そう言って相手の挑発し注意を惹きつけようか
仲間と連携をとりながら確実な一手を与えていくわ
砂の奴隷を蹴散らして、焔の一撃をくれてやる
ほらタオさん、死んでほしいと思うなら自分の手で殺りなさい
クーガ・ゾハル
タオ、なんだかビミョーそうだ
あいつが、きびしそうなヒトだからかな
……みんな、色々わかるんだな?
色んなとこからイライラが、つたわってくる
ぷらいどってやつかな、体によくないぞ
受けとめろ――おまえが命令したんだろう
なんだか、声がきこえる
なつかしいヒトたちの
…ウソつきだな、おまえ
おれが一番ほしかったものは、もうどこにもない
そんなこと、とっくの昔に、わかってるからだ
ナルホド、タオのニガテなキモチ、わかるかもしれない
さめた目で、うるさい剣を思いきりうならせれば
おまえの声なんてもう聞こえない
<罠使い>で巻きあげた砂、目くらましに
【龍葬】ぶつけて弱らせる
いけいけ、タオ
あっちで、子グマたちにゴメンナサイさせよう
サアシャ・マルガリタ
許さないと言われても
そういうの逆恨みって言うんですよおねーさん
…え、クマちゃん従える前は人間を跪かせてたんですか
まさかタオちゃんも??
さておき、来世では鞭だけでなく飴も与えながら子育てして下さいです
今世は残念ながらここでゲームオーバーですが!
ペンギンを象った水の弾丸を次々撃ち込むです
当たればラッキー、当たらなくても気を散らせて隙を作りたい気持ち!
ペンギンの群れ(水)に襲われ鞭で退けようとするお姿…ふふり、シュールですね
(間違って撃たないで下さいね、の顔で一歩退く銀シャリ)
どうぞ、水も滴るイイ女ーになって下さいです
うふふのふー!
サアシャが貴女に望む言葉はただひとつ
参りましたーの敗北宣言ですよう!
ジズ・ユルドゥルム
へえ。あれがタオの因縁の女…の、写し身か。
戦いにくいなら代わりに…ふふっ、いや、愚問だった。
他者にかしずかれることを当然と思っているようだが、ここに貴様に頭を垂れる者はいない。
いるのは心に魔物を飼う復讐者だけだ。
(「許す」「進まずともよい」
という声が聞こえれば、一瞬、武器を構える手が止まる)
…そうか。その言葉をくれるのか。
――おかげで戦意が滾った。まだまだ詰めの甘い自分への怒りでな。
八つ当たりさせてくれるか、『蝕』よ。
「原始のならわし」を起動。
一発殴る。顔面を。拳で。
…すまない、奴の顔を見ていたら、つい一発殴りたくなってしまった。
あとはお前に譲るよ、タオ。
最後にひとつ、決めてくれ!
●気高き『蝕』
「先ずは手勢を揃えさせて貰おうかしら」
バシンッと強い音を立てて、鞭が命じるように砂を叩く。
その周囲のそこかしこで砂が蠢き、大人の背丈ほどの無数の砂の人形が創られた。
「私を守りなさい、砂の奴隷達」
一言パディルエスが命じれば、全ての砂人形が膝をついて傅いた後、彼女を護るように布陣する。
「他者に傅かれることを当然と思っているようだな」
砂に形を与え隷属させるという、砂の女王の様な振る舞いに、ジズ・ユルドゥルム(砂上の轍・g02140)が溜息混じりに呟いた。
「当然だもの。私を誰だと思って?」
「どうでも良い事だ。ここに貴様に頭を垂れる者はいないからな」
少し不愉快そうな視線を受け流し、ジズはパディルエスを見返し告げる。
「いるのは心に魔物を飼う復讐者だけだ」
「そう言うこった。謝って許しを乞う奴はここにゃ一人もいねえんで、観念してな」
自らを復讐者と告げたジズに続いて、ゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)も口を開く。
「猟友会の狩場に入って来たのが運の尽きだったなァ」
「……は? 狩場?」
怒気が強くなったパディルエスの視線が、ジトッとゼキに向けられる。
「私を動物扱いするつもり?」
「おうおう、お怒りで。キレーな顔が台無し!」
「黙りなさい。泥臭い老骨が」
「ろっ……っ」
激情を隠そうともしないパディルエスを茶化してみれば、もっと容赦のない毒舌がゼキに飛んで来た。
なお、古代エジプトの平均寿命は30歳もなかったそうな。仕方ないね。
「あれがタオの因縁の女――の、写し身か」
「それ言わんどいて……」
ゼキを撃沈させた口撃に感心したように呟くジズの横で、タオタオ・ザラ(大喰らい・g05073)が溜息を零す。
「へえ、タオの馴染みのお姉さんなんだ」
「タオ殿の因縁の……過去の女というやつですか?」
そのやり取りを聞いて、マティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)とケペシュ・ナージャ(砂蠍・g06831)の視線は、パディルエスとタオタオを行ったり来たりしていた。
「タオ、なんだかビミョーそうだ」
クーガ・ゾハル(墓守・g05079)も2人の間で視線を彷徨わせる。
そんな風にチラチラと見られるの、癇に障ったらしい。
「私の顔を見ながらコソコソと! 何を話してるのかしら!」
「あいつが、きびしそうなヒトだからかな」
叱りつける様に響いたパディルエスの声に、クーガが小さく呟いた。
「あーあ」
コソコソされるのが気に障るのならと、ナディア・ベズヴィルド(黄昏のグランデヴィナ・g00246)は聞こえるように殊更に大きな溜息と共に声を上げた。
「さっきのクマちゃん、貴方がちゃんと連れ帰らなかったから死んじゃったーかーわいそ~」
「――ふぅん?」
ナディアの判りやすい挑発に、しかしパディルエスはその口元に笑みを浮かべる。
「面白い茶番ね。お前、かわいそうなんて思ってないでしょう?」
「ん、ふふ……ええ、そうよ。かわいそう、なんて一つも思っちゃいない」
ナディアもまた笑みを浮かべて、パディルエスの言葉を首肯する。
「けれど、それは貴女もでしょう?」
「……」
「手下を失っても何も感じない。思うようにいかない不快さだけが胸中に渦巻いている。それが今の貴女――違う?」
無言で続きを促すパディルエスに、ナディアは滔々と言葉を並べ立てる。
「……」
「――ええ、そうよ。私、いまとても不快なの」
ややあって、パディルエスの方が口を開いた。
「あの小熊はね。マシな部類だったのよ。他の亜人と比べたら。私に下卑た視線を向けないから!」
笑みを消したパディルエスの声には、先ほど以上に強い怒りがあった。
「お人形サン遊びから縫い包み遊びに趣味が変わったのかと思ったが、そう言うことか」
ナディアの挑発によって明らかになった、自身の記憶のパディルエスとの違いの理由。
「人間跪かせるより、クマちゃん従えてる今のほうが愛らしくていいぞ」
「――は?」
タオタオがそこを突いて揶揄ってみたら、殺気の籠った視線が返ってきた。
「――なぁんて、冗談だよ」
「お前に愛らしいと言われても喜べないのは、何故かしら」
冗談と誤魔化すも、パディルエスがタオタオに向ける視線はキツいまま。
「……えっと?」
そしてそんなやり取りを後ろで見ていたサアシャ・マルガリタ(えいえいお!・g05223)が、首を傾げていた。
「クマちゃん従える前は、人間を跪かせてたんですか」
という事は、つまり――とサアシャが思考を巡らせる。
「まさかタオちゃんも??」
「サアシャそこは突っ込まないで、察して!!」
「ああ、お前エジプトの民なのね。絶対に跪かせてやるわ」
サアシャからの思わぬフレンドリファイアにタオタオは慌て、パディルエスは執念めいた何かを燃やす。
「二人の間に何があったのかは妄想……想像に留めておくけど、タオに100パーセント味方するよ」
「おう、サンキュ。でも妄想もやめて!」
悪戯な笑みを浮かべたマティアスに、ツッコむタオタオ。
「生憎ですが今のタオ殿には俺たちがいますので、お引き取りを。しつこい女は嫌われるって聞きますよ」
「私がそこの赤毛に執着してるみたいに言わないで欲しいわね」
一方で、ケペシュがパディルエスを揶揄っていた。
「そっちが! 勝手に! 来たんでしょうが!!!」
「色んなとこからイライラが、つたわってくる」
語気を荒げて喚くパディルエスの様子に、クーガが呟く。
「ぷらいどってやつかな、体によくないぞ」
他の面々の様にパディルエスを挑発しようと言う意図は、クーガにはないのだろう。
「誰のせいだと思っているの!!!」
「……?」
だからパディルエスに睨まれても、はてと首を傾げるばかり。
「……クーガ殿。そのままの貴方でいてください、ええ」
「……?」
肩にケペシュの掌がぽんと載せられても、クーガは不思議そうにしていた。
●砂陣を崩せ
「――もういいでしょう。腹の探り合いは」
「そうですね。まどろっこしいのは嫌いなんで」
一つ溜息を零して意識を切り替えたパディルエスの言葉を首肯し、ケペシュが両手に刃を構える。
戦う相手の性格を知るのは重要な事だ。
だからこれまでの舌戦も、互いに相手を探る部分があった――筈だ。
「まどろっこしいのが? どの口で言うのかしらね!」
「この口以外ないですが?」
彼自身と同じ『ケペシュ』と呼ばれる類の鎌型の双剣を手に、ケペシュが敵陣に切り込んだ。手に馴染みきった刃を振るい、砂の奴隷の首を斬り落とす。
「――私に触れられると思わないで」
しかしパラドクスで作られた砂の奴隷はただの斬撃では止まらず、パディルエスの意のまま首から上が無い砂人形が動き出す。
「っ!!」
その反撃を、ケペシュは砂の胴を蹴って避けた。
「ありゃ正面から相手すんのは面倒だな。回り込むか」
「だねー。俺は上から」
砂の奴隷の性質を見たゼキとマティアスが、それぞれに隙を探り出す。
「――綺麗な薔薇には……ってのは、あの女にゃピッタリな言い回しだったな、」
パディルエスの足元を泥化させておいて、ゼキは金属塊『躯』を手に呟いた。
想い起こすは忘れ得ぬ兵の記憶。
嘗て、家族と呼んだ仲間の1人。気高き山岳の狩人。
茨の狩猟――ハイデローゼ。
ゼキの記憶に呼応して、再び『躯』が形を変える。
幾つもの欠片に分裂しながらゼキが伸ばした腕に纏わりついて、その五指の先で合わさり、鋭い鉄爪となる。
「触れないで、か」
それをゼキが無造作に振るえば、引き裂かれた砂の奴隷が砂と散った。
「つれねえ事言わんで、縫い包み遊びよりもっと楽しく戦り合おうや」
さらに鉄爪を振り回し、手近な砂の奴隷を1体ずつ砂に返して行けば、舞い上がった砂煙にゼキの姿が隠されていく。
「遊びたいなら砂と戯れてなさい!」
ゼキの意図を察したパディルエスが、砂の奴隷を砂煙の方に嗾けようとしたそこに、響くは銃声。
「っ!?」
音に反応したパディルエスの耳元を、空から降って来た銃弾が掠めた。
「砂の奴隷なら、飛べないんじゃない?」
空に羽搏く幾つもの黒翼の上で、マティアスが黒を基調とした拳銃を手に悪戯な笑みを浮かべている。
――フッケバイン。
その着想は、悪戯好きのカラスの童話。
パラドクスで数多の大鴉を具現化し、その背を足場に空を翔び、戦場を俯瞰し好機を見極める空間的なパラドクス。
「ならばこうするだけよ!」
空を取ったマティアスに対してパディルエスは、数体の砂の奴隷を重ねて大型化させ、自分に覆いかぶさせた。
「悪いな。お人形さん遊びって歳でもねえんだ」
しかし上に注意が向いた隙に、ゼキが猫の様に静かに背後から距離を詰めていた。
「気安く近寄らないで欲しいものね」
「泥臭えおっさんは趣味じゃねえって?」
パディルエスの虚勢を、ゼキは鼻で笑い飛ばす。
けれど、その目は笑っていない。かつて『茨』がその鋭く黒い瞳で、いつも正確に獲物を射抜いたように。
「でもいいのか? ほれ、余所見してっと次が来るぜ」
「――まさか」
ゼキの言葉に振り向いたパディルエスの目に映ったのは、随分と近づいていたナディアの姿。
「色々言わせて貰ったけど、貴女が痛い目にあったのは油断してた自分のせいでしょう? 苛立つからって人に当たらないでくれる?」
パディルエスに対して挑発的に告げながら、周りの砂の奴隷の攻撃をナディアは舞う様に避ける。
「捧げたもう捧げたもう 血の盟約により我が声に応えよ 第22星宿」
ナディアが口遊むは、先ほど小熊達に唱えたのとは違う星の輝きを喚ぶ詞。
その星が守るは――屠殺者。
「血は契り 痛みは力 『サール・ダベ』 我が苦しみを知らしめよ!」
暗き中で影に溶け込み暗躍する名のなき者。
誰も知らず、誰も知らぬまま。
無音、無言。きっとどれだけ血を流しても、誰にも語られぬ存在。
されどその血は無駄ではない。
「真紅に染まる地の獄よ 我が血で汚すがいい」
――呪いあれ――災いあれ。
ナディアが腕を振るい、傷から流れる朱を礫と飛ばす。それが当たった砂の奴隷の身体が、焼かれた様に溶けて崩れた。
屠殺者の守り星――サール・ダベ。
星の加護を受けたその血は、飛ばせば焔の礫となる。
だからこそ、ナディアは敢えて傷を負いながら砂の奴隷の陣を抜けて来たのだ。
星の加護が血に与える熱は、術者が痛みを感じるほど強くなる。
「……やるじゃない。でも、砂の奴隷の壁、越えられるものですか」
ならばとパディルエスは砂の奴隷をナディアの前に並べる。だが、マティアスへの対策で数を減らしたばかり。更に動かせば、布陣に綻びが生じるのは必定。
「だから余所見してっと危ねえって」
毒蛇が不意を衝いてその牙を突き立てるが如く。
ゼキはその隙を見逃さず、パディルエスの背中に鋭い鉄爪を突き立てる。
「っ!!」
ついにパディルエスが負傷し、砂の奴隷の動きが乱れた。
その間隙に、ナディアが焔の血を飛ばす。
既にその熱は、心の臓を灼熱で燃やし尽くさん程になっていて。
「っぁ!? ――っ、っ!」
思わぬ熱さに上げかけた悲鳴を、パディルエスは恐らくプライドだけで飲み込んだ。
「あらら、熱そうですねー」
それを見ていたサアシャがエメラルドを飾った銃を構える。
「冷やして上げすよう。放水スタート!」
サアシャが向けた黄金の銃口から、大量の水が勢い良く放たれた。
水は空中を飛びながら一塊となって、更にその形を変えていく。
きつねのけものみち――コンコンロード。
サアシャの意志に応じて形を変える水弾を放つパラドクス。
「こん、こんな、程度で、わた、くしを――へぶっ!?」
最終的に水はペンギンを象って、熱さに呻くパディルエスの顔に直撃した。
「……水?」
「どうぞ、水も滴るイイ女ーになって下さいです!」
当たったのが水だと気づいて目を丸くするパディルエスに、サアシャは次々と水ペンギン弾を撃ち込んでいく。
「お怒りの理由が色々あるのはわかりましたけどねー」
砂漠に魔力の水花を咲かせながら、サアシャはパディルエスに視線を向けて口を開いた。
「そういうの逆恨みって言うんですよ、おねーさん」
何を言うかと思えば、ド正論。
「~~っ、五月蠅いわよ、小娘!」
頬を引くつかせてから声を荒げたパディルエスが、鞭で水を叩いて弾き壊す。
「うふふのふー!」
その剣幕にも怯まず、サアシャは水ペンギン弾を撃ち続ける。
『……』
そんな光景を眺めていたダンジョンペンギンの銀シャリが、じりじりと後退りしていた。
――間違って撃たないで下さいね。
その虚ろな目が、そう言ってる気がしないでもない。
「ペンギンの群れに襲われ鞭で退けようとするお姿……ふふり、シュールですね」
銀シャリの不安に気づいた様子もなく、サアシャは景気よく水を撃ち続けていた。
●毒舌
「いい加減にして貰いたいわね」
砂奴隷を盾に水ペンギン弾をやり過ごし、パディルエスが呼吸を整える。
「止まりなさい」
落ち着きを取り戻した声音で命じるように告げれば、サアシャの水弾がピタリと止まった。
より正確に言うのであれば、サアシャの動きそのものが止まった。
「――、――」
更にパディルエスの声で、空から続いていたマティアスの狙撃が止まった。
咄嗟に集めた大鴉をクッション代わりに、空から落ちて来る。
「――、――」
「――、――」
砂の奴隷が減った地上を進んでいた者達も、ジズ、クーガ、タオタオと、次々と足が止められる。
パディルエスの発した声は、聞く者によって様々な望む声となる。
聞いた者の心を乱し、欲に溺れさせ、戦意を喪失させる魔性の声。耳栓や他の音で遮ろうとしたところで、その声はパディルエスが標的と定めた者の耳に届いた筈だ。
「ふ、ふふ……そうよ。これよ。私の声に抗える筈がないの。――お前達はもう私のものよ」
「もう勝ったつもりですか」
戦意を奪ってやったとほくそ笑むパディルエスに、これ以上喋らせまいとケペシュが斬りかかる。
「そうよ――さあ、跪きなさい」
しかし鎌の様な刃が届くより早く、パディルエスが告げれば、ケペシュの視界がぐにゃりと歪んだ。
「っ!?」
パディルエスによって心と身体を蝕む毒となった大気が、ケペシュにあり得ぬ幻を魅せ、聞こえぬ筈の幻の声を響かせる。
その中には、二度と戻らぬと識っているものもあっただろうか。
「――忌々しい」
幻を遠ざけるように、ケペシュは目を閉じる。
利き腕で握った刃を、反対の腕に当てて――躊躇なく刃を引いた。
「っ
!!!!」
その痛みが、ケペシュに掛かっていた幻を掃わせる。
「なっ……正気? 自分で自分を」
「勿論」
驚きを隠せないパディルエスの顔を狙って、ケペシュは左腕を振るって血を飛ばす。
「ちょっと、服がよご……ふ、ぐぅっ!」
血を浴びせられた非難を言いかけたパディルエスだが、すぐにその口から抑えきれない呻き声が漏れた。
――毒厄。
ケペシュの血は、彼を死に至らしめた憎き毒蠍の置き土産。
触れた相手を蝕む毒の血。
ケペシュは文字通り、毒を以て毒を制した。それも肉を切らせてようやっと使える、諸刃の剣で。
「よくも! よくも、わ、わたくしの、顔に!」
「お返しですよ、こんなの可愛いもんでしょう――あんたに比べたらね」
その甲斐あって、顔の半分を手で押さえたパディルエスにケペシュは哂って返す。この様子なら、幾らか視界を潰せただろう。
「ねえ、タオ殿」
「――いやァ、ほんと、相も変わらず良い趣味で」
そしてケペシュが呼びかければ、タオタオが平然とした顔で口を開いた。
●毒を喰らい立つ
戻ってきたのは1人ではない。
「ナルホド。タオのニガテなキモチ、わかるかもしれない」
俯いていたクーガが、顔を上げパディルエスに冷たい視線を向ける。
「……ウソつきだな、おまえ」
彼を良く知らない者には無愛想と思われる事もあるクーガだが、そんな事はない。今この瞬間は、それが良くわかる。それ程に、吐いた言葉には、怒りが込もっている。
「そ、んな……なんで」
「声がきこえたんだ。なつかしいヒトたちの」
戸惑うパディルエスを、クーガの左眼が睨みつける。
「だけど、おれが一番ほしかったものは、もうどこにもない。そんなこと、とっくの昔に、わかってるからだ」
たどたどしくも、怒りを込めて吼えたクーガの視界の半分が明滅する。
右目を覆う眼帯の奥で、強い雷光が溢れ出そうとしている。
「――おかげで戦意が滾ったからな」
次いで声を上げたのは、ジズだ。
いつの間にか緩んでいた、槍を持つ手の力を込め直――そうとして、ジズは槍を放り投げた。
――許す。
――進まずとも良い。
パディルエスの声は、ジズにはそう聞こえていた。
よりによって、その言葉をくれたのだ。
――いつぞやの誰かの最期の言葉とは、正反対の言葉を。
パディルエスの声がそう聞こえたと言う事は、ジズ自身が望んでいると言う事だ。
「まだまだ詰めの甘い自分への怒りでな」
そんな自分の甘さに反吐が出ると、ジズは何も持たぬ拳に力と怒りを込める。
「俺が今一番欲しいのは、迷いを打ち払い鼓舞してくれるような言葉だよ」
ここが鏡などない砂漠で良かったと、マティアスはパディルエスに返しながら胸中で思っていた。
今の自分が、どんな顔をしているか。
いつもの様に薄っぺらい笑顔でいられているだろうか。
「もう戦わなくても、傷つかなくてもいい? ――違う」
聞こえた言葉を敢えて反芻してすぐに否定を口にしたのは、きっとマティアスなりの決別。
それを望む心があるのは否定できないにせよ、まだ戦いを止める時ではない。
マティアスは再び大鴉を足場に、空へ駆け上がっていく。
「ふむぎゅっ」
何やらくぐもった声が小さく響く。
そちらを見れば、サアシャが砂漠に顔から倒れていた。その背に残るペンギンの足跡と、すぐ傍に立っている銀シャリ。文字通りに、サアシャの背中を蹴っ飛ばしたか。
銀シャリの瞳は、しっかりせんかい、と言いたげである。
「来世では鞭だけでなく飴も与えながら子育てして下さいです。今世は残念ながらここでゲームオーバーですが!」
どうあれ、立ち上がったサアシャはいつもと変わらぬ表情で、パディルエスに言い放った。
「なぜ……どうして誰も、私のものにならないの!」
「あなた様だから、だ」
ヒステリックな声を上げるパディルエスに、タオタオが苦笑交じりに告げた。
「どんだけ甘ったるい言葉でもにゃあ、言われる相手も重要だと思わない?」
パディルエスの声が、どんな言葉と聞こえていたのか。
タオタオの表情からそれを伺い知る事は出来ないが――どう聞こえたにせよ、声だけなのだ。それは他のディアボロス達にも同じく。どんなに耳障りの良い言葉でも、それを言ったのはパディルエスだと認識出来ていた。
「だから、まだまだ折れてやんない」
「っ……私をそんな目で――!」
口調の軽さとは裏腹に、いつも以上にギラつくタオタオの視線を振り払うように、パディルエスが声を張り上げる。
「うつくしいものが好きなあなた様を、タオの護る墓へご招待!」
寄る辺なき英雄の墓標――ヴィバルス・リルアバード。
顕現せしは、生前に彼が守護していた墳墓。
「な、なによ。そんな粗末な墓! 財宝が似合ってないじゃない!」
パディルエスの言うように、墳墓自体は粗末で、飾る金銀財宝は何処か不釣り合い。
けれど墳墓の放つ威圧感に呑まれて震える声では、虚勢にもなっていなかった。
「くっ」
墳墓から逃げようと言うのか、踵を返すパディルエス。
「……」
その前に、クーガが立ちはだかった。
「どきなさい!」
「おまえの声なんてもう聞こえない」
その声に負けじと、クーガがうるさい剣『號』のモーターを駆動させて五月蠅くする。
その回転する刃に向けて、右眼の機関の中で発生し続ける雷撃が、クーガの身体を通って集まっていく。
龍葬――ダ・ハーカ。
「おまえがどけ」
乾いた砂漠では、雷は滅多に降らぬという。されどクーガが號を振るえば、龍すら葬らんと荒れ狂う雷撃が砂を蹴散らし迸った。
「う、くぅ……」
それほどの雷をまともに浴びたパディルエスが、ふらふらと後退り、墳墓の前で膝をつく。
「英雄の墓前だ。跪くのはあなた様の方だったな」
待ち構えていたように、ニマニマと笑ってタオタオが告げた。
「そこの美おじいタオが墓にぶちこんでくれるよ」
「そこの色男が墓にぶち込んでくれるって」
それを見たゼキとナディアが、殆ど同時に同じような事を口走る。
「いやっ、待っ、待ってゼキ、ナディア――やだ!!!
しかしタオタオは珍しい程に狼狽し、どストレートな拒否が飛び出した。
「……おっと、ヤダってよ。入れる墓もねえとはご愁傷様!」
「嫌がられているけども、何をやらかしたのかしらね」
その反応に、ゼキもナディアも揶揄うような笑みを浮かべる。どちらを揶揄ったのやら。
「まあ、相手が性格悪い上に集落を襲おうとしたクロノヴェーダじゃあね」
同情するようなマティアスの声が、空から降って来た。
その間に、ジズがずんずんと進んでいた。パディルエスのすぐ傍まで。
「八つ当たりさせてくれるか、『蝕』よ」
その返事を待たずに、強く強く、硬く握りしめた拳をジズは真っすぐに突き出した。
――原始のならわし。
ただただ物理的な威力を高めただけの、その名の通り原始的と言っていいパラドクス。
「なん――っ!?」
吸い込まれるように突き刺さったジズの拳の一撃で、パディルエスが高々と殴り飛ばされる。
「サアシャが貴女に望む言葉はただひとつ。参りましたーの敗北宣言ですよう!」
パディルエスが重力に従って落ちるのを待たず、サアシャがペンギン水弾で追い打ちをかけて更に高くに打ち上げた。
そこで待っていたのは、マティアスだ。
「Gehen wir!」
大鴉の背を蹴って空中に身を躍らせたマティアスが、靴底で叩いてパディルエスを蹴り落とす。
「あぁぁぁぁぁっ!?」
反動で大鴉に飛び乗ったマティアスと違い、空を飛ぶ術のないパディルエスは成す術なく、砂漠に叩きつけられた。
濛々と舞い上がる砂煙。
「……すまない、奴の顔を見ていたら、つい一発殴りたくなってしまった」
「いや、全然構わんが?」
遠慮なくぶん殴ったら他の仲間も乗っかって思った以上に致命的になったと恐縮するジズに、タオタオは気にするなと返す。
「あとはお前に譲るよ、タオ。最後にひとつ、決めてくれ!」
けれどそれでは、ジズの気が済まないようだ。
「遠慮なくやってしまってください。おとといきやがれ!と」
一度言ってみたかったんですと、ケペシュからも檄が飛んでくる。
「いけいけ、タオ。あっちで、小グマたちにゴメンナサイさせよう」
「任せても平気だよね。遠慮なくカッコいいとこ見せてよ」
身体の痺れが取れたクーガと、降りて来たマティアスも、乗っかった。
「ほらタオさん、死んでほしいと思うなら自分の手で殺りなさい」
ナディアまで乗っかった。
「――なんつか皆タオに厳しくない!? 気の所為!?」
「「「「「「「「気の所為(ですよう
)」」」」」」」
どういう事だとタオタオが問うも、見事に7人分の声が重なって返って来た。
「戦いにくいなら代わりに……などと言うのは愚問だろう?」
「分身相手にそこまで気張ってもなぁ……」
ジズに背中をダメ押され、タオタオは墳墓を飾る財宝の中から適当に剣を取る。
目の前のパディルエスは所詮、アヴァタール級。ここでタオタオが手を下した所で、大局的に特別な意味を持つことはない。それでも彼らはそうしろと言うのだ。
「……」
「あなた様を護る気はねえから、ただただ死んでおくれ」
何か言いたげなパディルエスに告げて、タオタオは刃を振り上げる。
「――ああ、でも。狼狽える顔は嫌いじゃないから、もっと見てたかったかもな?」
そして、蝕がひとつ終わった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【トラップ生成】がLV2になった!
【修復加速】LV1が発生!
【腐食】がLV2になった!
【飛翔】LV1が発生!
【セルフクラフト】がLV2になった!
【避難勧告】LV1が発生!
【水面走行】LV1が発生!
【怪力無双】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV4になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV5(最大)になった!
【ダメージアップ】がLV4になった!
●状況整理
アラビア半島で、砂漠の集落を襲っていたクロノヴェーダの一隊は倒された。
あとやるべきは集落の支援と、本来の目的であるアラビア半島沿岸の調査。
集落の状況は、大半のテントが崩壊している。
雷や燃える流れ星に焼かれたものもあり、物資も減っているかもしれない。
男手が減ってしまっている事もあり、住人だけでは復興に時間がかかりそうだ。
とは言え、介入できる中ではほぼ最小限の被害と言っていい。
ディアボロスの力であれば、2、3人の支援でも十分な範囲だ。
これならば、アラビア半島沿岸、紅海方面の調査を並行する事も可能であろう。
何があるかは判らないにせよ、時先案内人がそう言う予知をしていないのだ。
少人数で調査に赴いても、特に危険はない筈である。
=====================================================================================================
③、④の結果を受け、集落の被害はほぼ最小限です。
①、②は同時進行して問題ありません。
=====================================================================================================
タオタオ・ザラ
さァーて
復興がてら集落のかわい子ちゃんに会いに行くとしますかぁ!
え、なに、いや、しますよ復興支援も
男手いるんでしょ、テント直したりだとか、瓦礫片付けたりだとか
でもほら、集落そんなに被害被ってなさそうだし?
かわい子ちゃんとちょーっとお話するくらい……いいかなって……
いいかなぁーって……?(そっと視線を逸らす)
大きい瓦礫だの危険物を粗方片付けたら、
集落の民に【活性治癒】で応急手当
これで治るくらいの傷ならいいんじゃが
でも、身体の傷は治るけど心の傷はなぁ
怖かったよな、でも大丈夫だ
さっきのこわぁいクマさんと女はもういないから
それでも不安なら今夜はタオが一緒に――
………、……純粋な少女のご意見が…刺さる…
サアシャ・マルガリタ
調査班も頑張ってーです(おててふりふり)
さて、次は集落の人たちのお手伝いーですね!
サアシャは【アイテムポケット】で新宿島から持ってきた材料で、豆のスープやパンを作って炊き出しするです!
作った料理をみんなと一緒に食べて
【口福の伝道者】で増やして振る舞うですよ
はーい、皆さんごはんですよーう
まずはおいしいもの食べて元気出して下さいです!
タオちゃんも復興支援頑張ってーです
お話しするくらい。お悩み相談ですかね(もぐもぐ)
みんな鬱憤溜まってるでしょうし、悩みや愚痴を聞くのも心に余裕のある者の務めですね(もぐもぐ)
お腹が落ち着いたら、土地にあった作物の種や苗を住民にお裾分け
これでまた畑とか作りましょーです!
ケペシュ・ナージャ
守ることができて本当に良かった。
けれど無傷という訳でも無いでしょうから、俺も復興を手伝います。
情報収集に向かう皆さんはお気を付けて。
朗報をお待ちしていますね。
集落内を回って被害状況を確認し、【修復加速】で破壊された場所を修復します。
お任せください、力仕事なら自信があるんです。
【怪力無双】も活用しましょう。
他にも困りごとがあれば雑用でも何でも手伝います。
腹が減ってはなんとやら。
サアシャ殿の作った食事を一緒に食べながら、集落の人々と交流します。
自分の胸の内を誰かに聞いてもらうだけで癒されるものもあるでしょう。
時間はかかるかもしれませんが、彼らならまた前を向いて進んでいけると信じています。
●支援は労働
「しっかり働けよ、特にそこのじいちゃん」
「そっちこそサボんなよ、マタギのおっさん」
四十路のマタギの軽口に、タオタオ・ザラ(大喰らい・g05073)が笑って返す。
「集落の方はよろしく!」
「調査、頑張ってーです」
「……行ってくる」
「朗報をお待ちしていますね」
笑顔で手を振る灰瞳の悪童にサアシャ・マルガリタ(えいえいお!・g05223)が手を振り返し、言葉少なに後に続いた隻眼の青年をケペシュ・ナージャ(砂蠍・g06831)が送り出す。
「さて、サアシャたちは集落の人たちのお手伝いーですね!」
「さァーて。復興がてら集落のかわい子ちゃんに会いに行くとしますかぁ!」
調査に向かう3人を見送って、サアシャとタオタオがほとんど同時に、別々の事を言いながら踵を返した。
「タオちゃん……」
「タオ殿……」
「え、なに、いや、しますよ復興支援も」
前からはサアシャの、後ろからはケペシュの視線が、タオタオに突き刺さる。
「男手いるんでしょ、テント直したりだとか、瓦礫片付けたりだとか。でもほら、集落そんなに被害被ってなさそうだし?」
「そうですね。守ることができて本当に良かった」
タオタオが並べた集落の現状に、ケペシュも頷く。
集落を戦いに巻き込まない様にしていた甲斐があったというものだ。
「だから、かわい子ちゃんとちょーっとお話するくらい……いいかなって……」
「じー」
「……」
「……いいかなぁーって……?」
サアシャと銀シャリの無言の圧に、タオタオの視線がどんどん逸れていく。
「無傷という訳でも無いでしょうから、復興を手伝いましょう」
ケペシュの言う通り、考え得る中でほぼ最良の状態と言え、被害はゼロではないのだ。
「……う、ううむ」
タオタオも頷くしかなかった。
●出来る事と出来ない事
ケペシュとタオタオはまず、集落全体を見て回る事にした。
「直せば使えそうなテントが多いのは、幸いですね」
屈んだケペシュの前にあるのは、壊れたテント。テントの残骸、になってはいるが焦げたりはしておらず、直せば使えそうだ。
同じような状態のものは、他にも幾つかあった。
「さて、どんどん直していきましょう」
やおら針と糸を取り出すと、ケペシュは修繕に取り掛かった。
「……」
ケペシュが振るう針の動きを追えるのは、この場でタオタオだけだっただろう。
【修復加速】があるにしても早く、手慣れた針捌き。戦士にして暗殺者であるのがケペシュだ。好んで使うのは刀剣のようだが、針の様に細いものを使えないと言う事もないのだろう。
ものの数分で、壊れたテントがひとつ、取り敢えず風と陽射しを防げる機能を取り戻す。
「あっちはケペシュに任せて大丈夫そうだな。タオは片付けすっかね」
修復はケペシュに任せて、タオタオは別のテントの残骸に向かう。
炎や雷で焼けてしまったものは、修復にも活用出来そうにない。
「取り敢えず外に運び出しとくか」
黒ずんだ布で焦げて壊れた資材をひとまとめにして、タオタオはひょいと担ぎ上げる。
「あれを……ひとりで……」
「すごい……」
残骸とは言えそれなりの重さをひとりで持ち上げる姿に、様子を見ていた住人からの羨望の眼差しがタオタオに向けられた。彼自身の力と言うか、重ねた【怪力無双】のお陰ではあるのだが。
「すごかろ? なんならもっと重くても行けるぞ」
その視線の中に彼の言う『かわい子ちゃん』が混ざっていたのに気を良くし、タオタオは足取り軽く荷を運んでいく。
「何か運ぶものがあれば言ってくださいね。力仕事なら自信があるんです――赤毛の彼が」
その背中を見送ったケペシュは、しれっと力仕事を押し付けようとしていた。
「はーい、皆さんごはんですよーう」
一方その頃、集落の広場では、サアシャの料理が完成していた。
「まずはおいしいもの食べて元気出して下さいです!」
サアシャが振る舞ったのは、豆のスープと平たく焼いたパン。
別段、豪華ではないが、食べ慣れていないものを与えても毒になりかねない。
「美味い……」
「沁みる……」
「肉も入ってるわ……!」
それでもサアシャは刻んだベーコンを入れたりしており、中々に好評だ。
ただ一つ問題があるとすれば、サアシャ1人が持って来れた分で作れた分で、集落の全員分に足りるかと言う事。
とは言え、その問題は既に解決されたも同然だ。
他のディアボアロスが残していってくれた【口福の伝道者】があるのだから。
「それではサアシャもいただきます」
「タオも。動いたら腹減った」
「腹が減ってはなんとやら、ですね」
サアシャが自分で料理を食べだし、タオタオとケペシュもその輪に加わる。
ややあって、300人前に皿ごと増えたスープとパンを目にした住人達は、まさに目が飛び出すほどに驚いたそうな。
「――ほい、おしまい。治った」
「すげえ! ごはんも増やすし、兄ちゃんすごいな!」
「そうじゃろ。タオはすごいんだ」
すぐに治った傷に目を輝かせる少年の賛辞に、タオタオは自慢げに笑って返す。
「ありがとな!」
「……大体は治したかねぇ」
真っすぐに礼を告げて走り去っていく少年の背中を見送って、タオタオはぽつりと呟いた。
(「身体の傷は治るけど心の傷はなぁ」)
【活性治癒】の効果で満ちた生命力でも、すぐ治せるのは元々軽い傷に限られる。失われた生命はどうしようもないし、ましてや――。
「あの……」
そんな事を考えていると、タオタオの前にまだ若い女性が立っていた。
「留まっては……貰えないんですよね」
「ああ。怖かったよな、でも大丈夫だ。タオたちは残れんけど、さっきのこわぁいクマさんと女はもういないから」
女性の言いたい事を察して、タオタオは優しく語り掛けた。
不意に襲われた恐怖。心の傷は、残留効果でも癒せやしない。
それでも、何も言わないよりはきっとマシだ。
ちょっとした冗談も、心を少し軽くできるかもしれない。
「それでも不安なら今夜はタオが一緒に――」
「タオちゃん、お悩み相談がんばってますかー」
タオタオが冗談めかして続けた所に、サアシャがパンをもぐもぐしながら会話に入ってきた。スープは日持ちしないが、パンは増やしておいてもしばしの蓄えにはなる。
「ん?」
「みんな鬱憤溜まってるでしょうし、悩みや愚痴を聞くのも心に余裕のある者の務めですね」
お悩み相談?と目を瞬かせるタオタオに、サアシャはパンをごっくんしてから返す。
「自分の胸の内を誰かに聞いてもらうだけでも、癒されるものもあるでしょう」
いつの間にか背後にいたケペシュも、しれっと話に混ざって来た。
「………、……純粋なふたりのご意見が……刺さる……」
タオタオはガクリと肩を落とすしかなかった。
そして陽が落ちる頃、3人は集落を後にした。
「畑、出来てくれるといーですね」
脚を止めぬまま集落の方を振り向いて、サアシャが名残惜し気に呟く。
砂漠でも育てられる作物の種を、残した。育成まで手伝えないが、せめてと。
「きっと大丈夫ですよ。時間はかかるかもしれませんが、彼らならまた前を向いて進んでいけると信じています」
ケペシュの言葉は、口先だけではない。
オアシスを捨てずにすんだのだ。水があり種もあれば、まだ希望もあると言うもの。
「男も子供は生きてたしなぁ……」
最後に癒した少年を思い出し、タオタオがぽつりと呟く。
見上げた空には、月が輝き出していた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【修復加速】がLV2になった!
効果2【ドレイン】がLV2になった!
【先行率アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】がLV5になった!
ゼキ・レヴニ
しっかり働けよ、特にそこのじいちゃん
と軽口一つ、村の支援は残る仲間に任せて
海岸から多少内陸に入って、アラビア方面を調査しに行こうかね
怪しいのは沿岸だが、付近の情報は多いに越した事はねえしな
移動速度を上げる目的で低空を【飛翔】
敵に先に発見されるって事がねえよう【光学迷彩】、【完全視界】使用し望遠鏡で索敵しつつ北東方向を調査
隣接地域の奪取か、防衛目的で半島に基地を作ろうとしてるとか有り得るか
亜人の痕跡、野営地や目立つ建物が無いかも見ておくぜ
集落があれば、旅人装い食い物と交換に周囲の情報を得れんかな
法正が此方への侵攻を指示してるって情報もあるし、亜人の移動経路から所在なんかの情報を割り出せっといいが
マティアス・シュトローマー
復興支援の方はよろしく!
ゼキもそっちで面白いものを見付けたら教えてね
亜人が海を割るとは思えないし……
アフリカを狙うつもりなら、拠点や船がありそうなんだけどなー
ここ南西部の村からアラビア半島沿岸を【飛翔】で北上。亜人の姿や拠点が無いか、注意を払いながら調査しよう
スピードは地上の様子が目視できる程度まで上げて効率良く
また、敵から発見されるのを防ぐため、調査中は低空飛行を心掛けたい
史実と異なっている部分が多いとはいえ、気になるのは沿岸の交易路やその周辺の都市
亜人の拠点や賑わっている街があれば、持ち込んだ地図に大まかな場所を記録しておこう
危険がなければ地上に降りて様子を窺うのもアリかな
クーガ・ゾハル
ヨシ
チョーサとか、した事ないがキアイ入れてくぞ
みんなと手分け、めざすは北のほう
【飛翔】かりて
水面、地面や岩からはなれすぎない高さを
【使い魔使役】で、つよい鳥にも手伝ってもらおう
鳥とならんで飛ぶのって、きもちいいな
おまえも気をつけていくんだぞ
フシギなものあったら、おしえてくれ
きれこんだ入り江、川がながれこむところ
ヒトがひそみやすい水のちかく
岩やガケもあるから、かくし通路やオブジェクトみたいな
でかい物をかくしたり、ちょっとすごしたあとや
ヒトじゃない足あと、荷車のあともさがしてみよう
それから、そっとくらしてるヒトたちがいたら
何かへんなものを見なかったかきいてみる
お礼はオヤツしかないけど、いいかな
●海へ、Go West
「しっかり働けよ、特にそこのじいちゃん」
「そっちこそサボんなよ、マタギのおっさん」
ゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)の軽口に、赤毛の墓守が笑って軽口を返して来る。
「集落の方はよろしく!」
「調査、頑張ってーです」
「……行ってくる」
「朗報をお待ちしていますね」
マティアス・シュトローマー(Trickster・g00097)が軽く地を蹴りながら手を振れば、狐の少女が手を振り返し、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)を剣の青年が送り出す。
三者三様に見送られ、3人は軽口を蹴って少しだけ浮かび上がると、そのまま西に向かって飛んでいった。
「鳥だ」
ふと、自分達の上を飛ぶ影に気づいてクーガが声を上げる。
「つよい鳥かな?」
「どうだろな。種類はわからんが……ありゃ、ちぃっと高いな」
クーガの問いに、ゼキは彼我の距離を目算して返す。
ここは敵の勢力圏内。何処に敵がいるかもわからないのだ。
そもそも、そう言う事を調べに行くのだが。
そして安全が確認されていない地域で【飛翔】の高度を上げるのは、もしも敵がいた時に狙撃されるリスクも跳ね上がる事になる。
「そうか。地面からはなれすぎは、だめだな」
クーガもそれを理解しているから、素直に頷いた。鳥の強さを気にしたのは【使い魔使役】で鳥の目も借りたいという意図だが、その為に自分がリスクを負うほどでもない。
鳥を一旦諦めて、3人は更に西を目指す。
「あ、海、見えて来たよ」
先頭を進むマティアスが、眩しそうに目を細めた。
紅海の水面は、傾きつつある陽光を浴びて眩しいほどに輝いている。
その海上に出た所で、3人は右に曲がり、そのまま沿岸に沿って北上していった。
「海側は任せるぜ。俺はここから、内陸を北東に向かってみる」
しばらく進んだ所で、ゼキが1人進路を変える。
「怪しいのは沿岸だが、付近の情報は多いに越した事はねえしな」
「オッケー。そっちで面白いものを見つけたら教えてね」
「こっちはまかせろ。チョーサとか、した事ないがキアイ入れてく」
敢えて沿岸から内陸を調べると告げて離れたゼキと別れて、マティアスとクーガはそのまま海岸線に沿って進んで行った。
●砂上で一服
「……」
そうして、1人砂の上を進む事を選んだゼキだったが――。
「……なんもねぇなぁ」
数分もすると、ちょっと後悔の念を感じ始めていた。
行けども行けども、砂ばかり。
まあ見事に何もない。
亜人の痕跡の類や、何か目立つ異質な建物の類もない。
低空を飛び回るだけでなく、たまには止まって望遠鏡で周囲を見回してもいるのだが、亜人の痕跡の類や、何か目立つ異質な建物の類などが映る事はなかった。
荒涼とした砂漠が続くばかりだ。
下手したら方向感覚を失いそうなくらいに、何もない。
オマケに暑い。
「……こいつぁ、サボりじゃなくて休憩だぜ」
独り言ちて、ゼキは念の為に小高い砂の斜面に挟まれた谷の様な場所に降りていく。
幾らかは陰になる場所に降りると、そのまま腰を下ろして煙草に火を付けた。
(「法正が此方への侵攻を指示してるって情報もあるし、隣接地域の奪取とか、防衛目的で半島に基地を作ろうとしてるとか、有り得るかと思ったんだがなぁ」)
グルグルと脳裏を巡る思考を、紫煙と共にプカプカと吐き出す。
このまま、何もなかったで終わるかもしれない。
「ま、もうちょい調べてみるか。どっかに集落でもないかねぇ」
一服を終えたゼキは、また1人道なき砂漠の上に浮かんで進んで行った。
●海岸調査
一方その頃、海側の2人はと言うと。
「鳥とならんで飛ぶのって、きもちいいな」
海辺に佇んでいた鳥を一時の使い魔としたクーガが、気持ち良さそうに海上を並走ならぬ並飛行していた。
「そだね。海の上を飛ぶって気持ちいい」
それについては、マティアスも頷ける。
頷けるのだが――。
「でも……なんも見当たらないね」
こちらもまた、特に何かを見つけられずにいた。
今の所、何もない砂漠の海岸が続いているだけだ。
マティアスの感覚からすると、それはそれで異常と思えるのだが。
あまりにも、何もなさすぎるのだ。
「……アフリカを狙うつもりなら、拠点か船がありそうなんだけどなー」
ディヴィジョンと史実に様々な相違が生じるのは、マティアスも判ってはいる。だが沿岸部なのだから、海上に航路があり、その周囲に都市があっても良さそうではと思っていたのだが。
そうした開発されている気配は、感じられなかった。
「ヨシ。気をつけていくんだぞ。フシギなものあったら、おしえてくれ」
一方のクーガも、海鳥との一時を楽しんだ後は、本来の目的を頼んで解き放つ。
使い魔として使役できる範囲には限りがある。海鳥だけを遠くに向かわせて調べさせる、と言う様な事は出来ない。とは言え、鳥が視たものを共有する事は出来るのだ。目視での調査に於いて、視点を増やせるのはメリットだ。
クーガ自身は沿岸部の特に目立つ岩や、入り江の様に曲がった地形など、誰かが潜んだり、何か大きなものも隠せそうな陰のある場所を重点的に調べ、全体的な視点を海鳥の眼に任せる。
それでも――特に何も見つからなかった。
「亜人の拠点もなさそうだよ」
「ヒトじゃない足あと、みつからない」
それぞれにしばらく調べた後、合流した2人は顔を見合わせ、どちらからともなく頭を振った。
この辺りは、今までは亜人に襲われる事もなかった。
案内人もそう言っていたし、もしかしたら本当に大きな動きはこれまで無かったのかもしれない。
「おまえ、ありがとうな」
使役していた鳥を、クーガが解放した。
もう陽は大分傾いている。夜行性でもなさそうな鳥を連れ回すのは、そろそろ限界だろう。
「そっとくらしてるヒトたちなら、鳥がみつけた。行ってみる?」
鳥が最後に視て来た光景を、クーガが告げる。
使役範囲の外だったため詳細は不明だが、まだ襲撃されてもないようだ。
「危険もなさそうだし、歩いて行ってみようか。帰る途中だし」
「お礼はオヤツしかないけど、いいかな」
そうして別の集落に寄ってみる事にした2人だったが――。
「なんだ、お前さんたちも来たのか」
そこには、旅人を装ったゼキの姿もあった。内陸側を回っている内に、見つけたらしい。
「そっちも……?」
「面白いものはなかったかー」
ゼキの顔で向こうも同じだったかと、クーガとマティアスが小さな溜息を零す。
調べた範囲では何もなかった――そう言う事になる。
だが、それでもいいのだ。知ろうとしなければ、何もないと言う事すら知らないままなのだ。
何もなかったと言う事もまた、情報である。それはゼロではない。
他のパラドクストレインで行われた調査の情報も合わせれば、何かが判明するのだろうか。
その為にも今は。
――帰ろう。新宿島へ。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【光学迷彩】LV1が発生!
【飛翔】がLV2になった!
【使い魔使役】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
【アクティベイト】LV1が発生!