リプレイ

●大天使軍遅延作戦
　崩れたビルと、廃墟の群れ。
　そんな荒廃した港区を、大天使の軍団が進む。
　クローン天使兵H型と、それを統率する禦天使・サマエル。
　品川区より侵攻する大天使の軍団を妨げる者は無く、悠々と進んでいたが……先頭を進んでいたクローン天使兵H型が、自分たちの前に人間がいることに気付く。
　アユナ・ヒュージパイン（人間のレジスタンス諜報員・g05017）と鈴燈・春（MayLily・g00536）が、進軍する大天使たちの前に進み出る。
「どうかお助け下さい！　悪魔どもが私の家族を！」
「っ、……大天使様、お助けてください。こっちに、アークデーモンが！」
　アユナと春は互いに協力し合うことで、演技の完成度を上げながら大天使たちへと懇願する。
　勿論、誘導しようとしている方向は完全に嘘だ。
　そして内心も……春は「何が救世主だ。この港区を、みんなを偽りの信仰から守らなくちゃ」と考えているし、アユナも「一体傲慢なのはどっちなんだか。ま、でも今はだけは合わせてあげるわ。今だけは、ね」と考えている。
　しかし、あくまで表面上は真摯に、そして必死に大天使へと頼み込み……最正面にいたクローン天使兵H型が指示を求めるように禦天使・サマエルを見る。
　そしてサマエルは……少し考えるような表情を見せた後、鷹揚に頷く。
「まあ、良いだろう。己が分を弁えるその姿は評価に値する。それで、こっちとは？」
　騙せただろうか。考えながらも、春はビルを指さす。
「あそこの建物に……ボクは、命からがら逃げ出せたのですが……まだみんなが……」
　離れた場所にある建物を指さす春にサマエルは「……ふん」と声をあげる。
「２人行け。何かあればすぐに伝えよ」
「はい」
　クローン天使兵H型達がすいと飛行していくが……すぐにバレるだろう。
　しかし、もう少し時間を稼がなければならない。
「この荒れた地で私達はどうすれば……どうかお慈悲を」
　だからこそ、アユナは追撃のようにそうサマエルへと呼びかける。
「この光景こそが汝等の愚かさの証である。我等による統制の先にこそ救いはある。まずは、それを肝に銘じよ」
　サマエルの言葉に内心で唾を吐きたい気持ちになりながらもアユナは頷いて。
　その間にも、鳳条・瀑（不死鳥・g04899）達による遅滞戦術の準備が完了していた。
「なんちゅうか、今回のアークデーモン、妙なシンパシーを感じるぜ……」
　言いながら瀑が放つのは泥棲辺羅悪怒。指先に灯した「抉る螺旋の黒波動」を散弾のように放射させるパラドクスはクローン天使兵H型を撃ち抜き、すぐに大天使達の雰囲が戦闘時のものへと変化する。
「……なんちゃって。ふふ、騙されましたね」
　そう言い残して春とアユナは撤退し、瀑もクローン天使兵H型による「偉大なるお方」を受けながらも次の攻撃ポイントへと移動していく。
「生憎、建物の影も多いンで地形を利用し遮蔽物に隠れながら、追跡してパラドクスの面撃ちでしつこく嫌がらせしてやる構えよ」
　そして、それをサポートする為の仕掛けも万全だ。
「時間稼ぎは任せて」
　そう言って月城・木綿紀（月城家三女のメイドトラッパー・g00281）は大天使の進路上に罠を仕掛けていく。
　地面には剣山、地雷、壁を生成するトラップキルト、空中には目立ちやすい色から目立ちにくい色の糸を5種類、金属系やトラップ生成で張っていく。目立つ色の方は囮で、目立ちにくい色の方の一部に閃光弾や手榴弾、矢や石が飛んでくる仕掛け等を設置していく。
　勿論それには時間稼ぎ以上の意味はない。しかし、何者かが大天使の進軍を邪魔しようとしているという意図を示すには木綿紀の仕掛けたトラップは充分すぎる効果を発揮していた。
　そして、エンデ・トロイメライ（エピローグ・g00705）はGRAUSAMを手に崩れかかったビルの屋上に陣取っていた。
「汚いやり方するねぇ、まさに悪いヤツの常套手段って感じ。さてと、それじゃあそんなヤツらに善人面させないためにも、頑張りますか」
　敵の侵攻ルートが分かってるならやりようはある、とエンデはGRAUSAMから爆弾付きワイヤートラップ、自動機関銃、リモコン起爆式爆弾を生成。侵攻ルート上や近くのビル上に配置していた。
　それはエンデのパラドクス「Abgrund」の効果でもあった。
「2、3体くらいは仕留められれば上々……！」
　狙撃を含む攻撃を開始し、可能な限り場を混乱させ、こちらの人数を多く見せ、敵に慎重な行動を取らせて足踏みしてもらうべくエンデは動く。
「まあそのうち気付くかもしれないけれど。行かせないよ、これ以上は」
　そしてその策は、柊木・シェリー（廻る運命と時間の輪・g00073）のパラドクスによって強化される。
「やることが多いけれど1つずつ。まずは足止めから考えましょう。移動している相手を止める……。相手が多いとそれだけで面倒ね。警戒を解かせない上から刺激を与えていくことが一番かしら？」
　そう言っていたシェリーは、瀑やエンデの作戦に乗ることを決めていた。
　奇襲、同士討ち、猜疑心。その辺りを狙いたくても……１人では難しい。
　だからこそ、同じような考えを抱いていた瀑やエンデの作戦に乗ったのだ。
　使うパラドクスは戦闘開始後に敵（もしくは味方）が繰り出した「攻撃」を再現し、敵を攻撃するリピートペイン。
　時間差になるようにリピートペインを繰り出していく。再現は自軍、敵軍ランダムになるように。
　聖なる調べが響き渡り、戦場に破壊音が響き始める。
「……我々を邪魔する勢力がいる、か」
「いかがいたしましょう？」
「炙り出せ。その傲慢の代償を思い知らせるのだ」
　サリエルの言葉にクローン天使兵H型達は「承りましてございます」と答え動き出すが……それ自体がもはや作戦にしっかりと嵌っていたと言っていい。
　これは遅滞作戦。サリエルたちが乗ってくれればくれるほど、その効果は高まるのだから。








●ヤンキーデーモンの大暴れ
「ヒャッハー！」
「オラア、このシャバ僧が！」
　港区の住人達を、ヤンキーデーモンの群れが追いかけまわしている。
　いつの時代のヤンキーだと言いたくなるようなヤンキーっぷりだが、その破壊力は本物だ。
「……初めて見るタイプの悪魔ですが、テンションの高そうな悪魔ですね。何というか、こういう相手に朝から騒がれると普段の調子が崩されそうです。さっさと片づけてしまいましょう」
　天音・梓（雨兆す・g03821）の言葉は、まさにその通りではあるだろう。
　ヤンキーデーモンは、ちょっと他のアークデーモンたちとは毛色が違う。
　まあ、どのみち邪悪であることには一切変わりはないのだが……。
「ったく、これは一種のマッチポンプに近いよな。どっちもクロノヴェーダだしな」
「盛大なマッチポンプ、私は嫌いではないね。統治するにおいて飴と鞭が有益であることは歴史が証明している。そんな些末なことは放っておいて、私たちは私たちの目的を果たそう。アークデーモン如きに人類が怯える事など無いということを証明しようじゃないか」
　呉守・晶（TSデーモン・g04119）に答えるのはゼルギウス・パティオ（人間のデーモンイーター・g04932）だ。
「美しくて強い天使が醜い悪魔を倒す…そんな舞台を見せられては、信仰したくもなりますよね。わかります。わかりますが結局は両方ともクロノヴェーダ、倒すべき敵ですので戦果は我々が横取りしましょう」
「ああ、大天使達は味方が足止めを完遂してくれると信じて、俺らはこっちを片付けるか」
　オーウェン・シュイ（風雲月露・g03920）に晶も頷き……３人は、戦場へと飛び込んでいく。
「私達と違って彼らの命は限りあるものですからね……割り込ませていただきますよ！」
「ああん!?　なんだコラ！」
　丈夫で折れない棒……もとい妖刀に力を籠めて、オーウェンがデストロイスマッシュを放つ。
「結社の戦闘員よ、出撃せよ」
　ゼルギウスの戦闘員出撃が発動し、全身タイツで目が怪しく光る小妖精がおどろおどろしい音楽と共に出現する。
「君達は感情をエネルギーにするそうだが、君達が感じた恐怖はエネルギー変換ができるのかね？　ぜひ私に教えて欲しいね。その路地裏で教えてくれたまえ」
「アアン!?　何だコラア！」
　ヤンキーデーモンのデモニックガンつけが発動している中、晶はアークイーターを手にヤンキーデーモンへと斬りかかっていく。
「ヤンキーデーモンなぁ？　いや、それ何時の時代の不良だよ昭和か？ 今は平成だぞ！」
　そう、晶の言う通り此処は平成だが……まあ、それはさておこう。
「ヒャッハー、おい姉ちゃん、アソぼうぜ！」
「ヒャッハーじゃねえよ！　天使が来る前に、なにより被害が出る前に倒してやるよ！」
　宣言し、晶はアークイーターを振るいパラドクス「デカパイサンバ連続斬り」を放つ。
「斬って斬って斬りまくるぞ！」
　流れるように動き続けてチェーンを躱してアークイーターで斬って斬って斬りまくるべく動く晶だったが……何か、妙な視線に気付く。
「……ん？　一般人の男連中がなんかやたら盛り上がってるような？　いや、見てないで逃げろよ！」
　そう、もう安心だという気持ちもあるのか……港区の住人達が晶を見て盛り上がっていたのだ。
「ヤンキーデーモンもヤンキーデーモンでなんか変な視線感じるし、この、さっさと斬り倒されろ！」
「ええ、そうですね……ヤンキーゴーホームです」
　同じ女性だからこそ、ヤンキーデーモンに少しばかりの不快を感じたのだろうか。
　梓は天使の大鎌を振るい、パラドクス「疾刈」を発動させていく。
「ギエアー!?」
「やんのかコラ！」
「あったりまえだ！」
「ごきげんよう、いえ……あなた方は少しご機嫌すぎです。そのよく叫びそうな口、沈黙させてあげます」
　晶が、梓が……ゼルギウスが、オーウェンが協力しながらヤンキーデーモンの撃破に回って。
　さほどの時間もかけずに、全滅させることに成功したのであった。


●その因縁は
　新谷・時雨（凍てついた翼・g00401）は、迫りくるクローン天使兵H型の群れを前に、なんとも複雑な感情を抱く。
「姉、さん……ううん、違う。だって、姉さんの魂はここに居るもの」
　ぎゅっと握るのはオラトリオ『日向』の手。
　そこにどんな感情が秘められているのかは、時雨にしか分からない。
　しかし、確かな決意がその瞳には宿る。
「アレは、大天使によって複製された肉人形。一体残らず、滅ぼしてやる……！」
　叫び、時雨はパラドクス【マクスウェルの悪魔】を発動させる。
「力を寄こせ、我が下僕よ……！」
　対象の「熱エネルギー」を急激に奪い取る事で冷却、凍結させるそのパラドクスはクローン天使兵H型へと襲い掛かり……反撃のようにクローン天使兵H型は聖なる調べを奏で始める。
　しかし、それは時雨の怒りをさらに増幅させたようだった。
「お前達にとって人間なんて、所詮は「信仰」を得るための道具か家畜に過ぎない癖に……ふざけるのも大概にしなさい」
　聖なるかな、聖なるかな。
　それが、人間にとっての最良であると決めたのは、人間ではなく……大天使である。








●クローン天使兵H型を撃破せよ
　すでに開かれている戦線は、最終防衛線でもあった。
　此処から先に行かせれば、せっかく守った港区の住人たちを再び戦いに巻き込んでしまうかもしれない。
　だからこそ、大天使達の軍勢の前に立ち塞がる。
「ここから先には行かせない」
　だからこそ、月城・木綿紀（月城家三女のメイドトラッパー・g00281）はクローン天使兵H型を前に、そう宣言する。
　大天使の軍勢を、この先……港区の住人のところへ行かせはしない。
　トラップだけではなくパラドクス「縫跳躍」を併用してでも、彼等へ被害を出させはしないという、そんな木綿紀の強い決意は……此処に集ったメンバーの総意でもあった。
「さてと……充分時間稼ぎもできたし、そろそろ攻めていこうか」
「ああ、お次は追撃に来たかわい子ちゃんの撃破だな。どうやら因縁めいた仲間がいるみたいだから、もし近くで戦ってるようならその援護に回ろうか」
　エンデ・トロイメライ（エピローグ・g00705）とアユナ・ヒュージパイン（人間のレジスタンス諜報員・g05017）はそう言いながら、それぞれの武器を構える。
「あなた方が倒そうとしていた悪魔は既に私達が倒しました。既に港区の人々は救いを必要としていません。説法をする相手も、歌を聞かせる観客もいないのです。ですから、もう舞台から降りて頂いて、天に還って頂いて大丈夫です。私はそのお手伝いをさせて頂きましょう」
　天音・梓（雨兆す・g03821）もそう大天使の軍勢へと告げる。
（む……先行して戦っている方と同じ服装をしているのは気になりますが敵は待ってはくれません。理由を確かめるのは後回しです。まずは目の前のことに集中です）
　梓はクローン天使兵H型を見ながら、先行して戦っている時雨の事を思うが……今は、それを気にしている暇はない。
「……傲慢極まりない。全軍、進め。奴等を排除せよ」
「御心のままに」
　クローン天使兵H型は禦天使・サマエルの指示に従うように進み、アユナはヴィオラに偽装した小銃を向ける。
「時間稼ぎにも会話にも付き合わないわ！」
　放つパラドクスはバレットレイン。
　有利な地形に身を潜め、敵陣に雨の如き数の銃弾を放つパラドクスはクローン天使兵H型に降り注ぎ、後光を背負いながら自身が仕えるクロノヴェーダ……サマエルを称える説法がアユナの心の中に直接響いてくる。
「世界は布、私は糸、魔の針に従い私で彩る」
　好き勝手にやらせはしないと、木綿紀の縫跳躍が発動し……梓は天使の大鎌を構え、クローン天使兵H型へと接近していく。
「逃がしません」
空を蹴って縦横無尽に飛び回りながら大鎌で切り裂くパラドクス「飛刈」が、クローン天使兵H型を見事に切り裂き地面へと叩き落とす。
「さーて、ここからはこっそりとね……」
　ボイスチェンジャー付きの黒仮面とフード付き黒マントのセットであるSCHATTENを纏ったエンデは、乱戦の中で姿を消し気配を殺すようにしてクローン天使兵H型の背後へと回っていく。
　持ち前の隠密技術に加え全身にナノマシンで光学迷彩を施して姿を隠すことにより、気配を極限まで消すパラドクス「Phantom」は見事にその効果を発揮し……「SCHNEIDEN」で襲い掛かり切り裂く。
「アタシ、神とかそういうの信じてないけどさぁ、騙して信じさせるってとっても良くないと思うんだよねぇ。だからさ、消えなよ」
「不幸なことです。サマエル様の素晴らしさを説法して差し上げましょう」
「必要ないっての！」
　エンデを援護するようにアユナのバレットレインが放たれる。
　クローン天使兵H型は数こそ多いが、然程の強敵ではない。
　まるで数だけ用意したかのような、その実力は……アユナ達の敵ではない。
　次々に撃破されていくクローン天使兵H型は、その数を減らし……やがて最後の１体が消滅して、アユナは最後に残ったサマエルを睨みつける。
「さあ、これで後はサマエルだけ……！」












●決戦、禦天使・サマエル
　禦天使・サマエルを見ながら、天音・梓（雨兆す・g03821）と呉守・晶（TSデーモン・g04119）は思う。
「さて後はサマエルだけだな。つーか、サマエルって名前の意味が「神の毒」「神の悪意」だろ。死の天使とか堕天使とか魔王とか色んな説があってよくわからん奴だよな。まぁこいつは堕天使じゃなくて普通に天使みたいだが」
「サマエル、事前の情報からは雷を撃つ裁きの天使と言ったところですね。しかし……雷ですか、苦手、いえそこまで好きじゃないんですよね……相殺してなるべく雷を撃たせないようにしましょう」
　そう、全ての作戦は順調だった。
　禦天使・サマエル率いる大天使の軍勢を足止めし、街を襲うヤンキーデーモンたちを撃破して。
　配下のクローン天使兵H型を撃破した。そして残るは首魁たる禦天使・サマエルのみ。
　だからこそ柊木・シェリー（廻る運命と時間の輪・g00073）は、戦いの最中にサマエルの近くのビルの陰に隠れていた。
　必要なことは必要なときに。隠れていられるのなら姿を見せるのは必要のないこと、と。
　相手が作戦内容や展望を話しているのなら聞き耳をたてるべく、そこに潜んでいたのだ。
　刺激して交戦するより、情報を集める事も大事。とはいえ、そういうように上手く事が運べばいいんだけど……と、そう考えていたシェリーの隠れ方は完璧だった。
　しかしサマエルは思ったよりも口が堅かった。その辺りは大天使の性格というものもあるのだろうが……。
　ならば次善の策に移行すべき。そうシェリーが考える中で、アユナ・ヒュージパイン（人間のレジスタンス諜報員・g05017）が声をあげる。
「かわい子ちゃん倒しちゃったけれど、まだ居るんなら1人くれない？　だって、あんなキレイな子を蜂の巣にする機会なんて滅多に無いでしょ？」
　勿論本気ではなく挑発だ。のってきて隙が出来れば上々……といったところだが、サマエルはそれに対し然程感情を見せない。
「数だけならばある。だが、くれてやる理由にはならんな」
「なるほど、正論……！」
　勿論、アユナはただ無計画に挑発していたわけではない。全ては隙を作る為。そして……。
「足止めは成功。そして周りの大天使やアークデーモンも撤退しましたね。あとはサマエル、あなたを倒せば終わりだ。絶対に勝ちます」
　鈴燈・春（MayLily・g00536）がその隙をつきイグジストハッキングを放ち存在を歪める。
　そして次の瞬間、サマエルの腰に巻いた蛇竜の口から『試練の雷』を放つ「試雷：ゴッド・テンプテーション」が発動する。
　ならばとその隙を更に狙いシェリーはアイスエイジブリザードを放ち。しかし、サマエルはシェリーをギロリと睨むと的確に「試雷：ゴッド・テンプテーション」を放つ。
「なるほど。ずっと隙を伺っていたか」
　呟くサマエルだが、隙を狙っているのは春とシェリーだけではない。
　月城・木綿紀（月城家三女のメイドトラッパー・g00281）もまた隙を狙い、更に隙を作るべく動いていた。
「罠、残ってたかな……」
　そんな事を呟きながらも木綿紀は罠やワイヤーを張っていく。
　ワイヤーを張って敵の動きを制限しつつ、自分たちの足場にする、そんな算段だ
　飛び杼から金属糸を出しながら糸を敵やワイヤー、近くの建物に引っ掛けて敵の動きを拘束できればと、そんな思いを籠めながらパラドクス「縫跳躍」を放つ。
「縫跳躍応用技──縫い付け締め」
　それは確かに一瞬サマエルを拘束したが……すぐにその拘束をサマエルは脱出し、裁雷：サンダー・オブ・バベルを放つ。
　傲慢なる心を持つ者にのみ降り注ぐ『裁定の雷』を天から落とすというその技は木綿紀に命中するが……それが木綿紀の傲慢の証拠にはならない。
　大天使への反逆も傲慢になるというのであれば、そんなものを受け入れるはずもないのだから。
「はん、文明を否定する雷を纏う拳がなんだ。つまり一般法則破壊だろ、クロノ・オブジェクトの俺らの装備は破壊できねぇだろうが！」
「だから何だ。貴様を破壊してやれば同じことだ」
「やってみろお！」
　晶はアークイーターを構え、サマエルへと走る。
「魔剣アークイーター、第二封印解除。変異開始、コード捕食剣「貪リ喰ラウモノ」っ！」
　魔創機士として自作した魔晶剣アークイーターの封印を一部解除して、巨大な牙と口のような形の生物的な異形の大剣に変異させるパラドクスの名は「貪リ喰ラウモノ」。
「喰い千切れ、アークイーター！」
　サマエルに叩き込んだ一撃の返礼とばかりに譴雷：ワード・ブレイカーが晶に叩き込まれ、晶は後ずさる。
　だが、怯みはしない。確実にサマエルを追い詰めてきていることが分かるからだ。
「……あなたの雷は見切りました、もう雷撃っても無駄ですよ、雷なんて棄ててかかってくるといいです」
　だからこそ梓もそんなブラフを言いながらリピートベインでサマエルの攻撃を再現してみせるが……サマエルは動揺すらしない。
「そうか。ならば試してやろう」
　放たれるは試雷：ゴッド・テンプテーション。
　文字通りサマエルは強敵で、そんな中でアユナは思う。怖い、と。
　自覚はしているがアユナは欲望まみれだ。
　それを断罪するかの如く存在するサマエルの雷は、確かに恐ろしい。
　しかし、だからといって臆してはいられないとアユナはネメシス形態へと変化する。
「無茶してでも、今この時に勝てさえすれば良いのよ！」
　そう、無茶したって構わない。この戦いに勝利させできればいい。
　アユナの叫びに呼応するかのように春も、シェリーも……全員が畳みかけるようにサマエルへと襲い掛かり、そしてついいにサマエルを撃破する。
　滅ぶ瞬間すら何も言わないサマエルはただ消滅していき……しかし、そこには確かに勝利が残った。
「これで勝利……ってことでいいのよね？」
　アユナがそう呟くほどにサマエルは何も残さずに消えて。
　しかし、晶が腕を突き上げる。
「ああ、俺たちの……勝利だ！」
　そう、確かに勝利を得た。全てを守り、全てを倒した。
　その事実は……いつか港区に、光り輝く未来をもたらす助けになるだろう。

最終結果:成功
完成日	2021年09月26日