リプレイ
湯上・雪華
絡み、アドリブ等完全受け入れ
ふふふ、食への冒涜許すまじ、です
まずは、平穏結界を使って潜入しましょう
不意打ちから気絶まで静かに手早く行って、です
両手の親指同士、両足の親指同士を結んで、大人しくしてもらいましょう
情報を聞くのは得意な人にお任せです
さて、料理の方ですが……今回はビーフシチューにしまょう
下処理が甘い硬めの肉を柔らかく煮込んだものを持ち込みます
下処理が甘いと生臭くなるんですよね
温まったらよそっておいて、取りに来るのを隠れて待ちましょう
嵐柴・暁翔
速やかに台所へ踏み込み速攻で料理人達に当身でもして黙らせます
囚われた方々を解放して状況を説明して協力をお願いします
料理人達は拘束して檻に放り込む
捕まっていた方々は別室にでも移してから少しO・HA・NA・SHIをして必要な情報を景気よくうたわせます
散々料理してきたんだし、偶には食材になってみるのも悪くないだろう
……さて、どんなふうに調理するんだったかな…?
料理人達は殺さず司法当局に引き渡す
但し殺そうとする方がいれば一度だけは止めますがそれ以上は放置
ヴァンパイアノーブルの支配地域でどこまであてになるのかも分からないしな
料理はレトルトハンバーグを持ち込み温めて【口福の伝道者】で必要な分だけ増やします
ルキウス・ドゥラメンテ
清々しい程に悪趣味だ
こっちも悪趣味に遊んでやろう
悲鳴を頼りに厨房を探す
念の為道中はモブオーラ使用
料理人達は気絶攻撃で黙らせて速やかに制圧を
目を覚ましたら剣で脅しながら少しお喋りしようか
多少血を見せても構わないのだろう?
ご機嫌よう、腐れ外道
貴様らの功績に報いて俺の主君の晩餐になる名誉をやろう
この儀式に関して知っていることを喋るなら考えてやらないこともないが
芸術家気取りの輩は少し可愛がってやりたいな
…前言撤回だ
この醜さでは俺の主君が口にする価値もない
家畜の飼料にでもしてやろう
…無論冗談だが、せいぜい怯えると良い
偽の料理は持ち込み
野生の獣の肉のロッシーニ風
多少奇異な品の方がすり替えが判り難そうなので
メルセデス・ヒジカタ
あらまあ
創作の読み物としては……嫌いではないジャンルですけど、実際にやるとなると、反吐が出るって奴ですね
まあ、料理人どもは一般人のようですし……一般人の裁きは、個人的には一般人に委ねたいところ
【アイテムポケット】に捕縛用のロープや料理に使う牛や豚の食肉を詰めて、忍び足、偵察を活かし潜入
調理場に向かい、グラップル、気絶攻撃を活かし、料理人の首の頸動脈を背後から腕で絞め落としましょうか
無力化したら、ロープで捕縛し猿轡噛ませて、あとで一般人に処理を任せますかね
お好きにどうぞ
逃げようとする奴は、刀を抜かずに鞘のままで鳩尾を突いたりして、気絶攻撃で無力化させましょ
料理?
私、ダメダメなんでお任せしますの
ガートルード・シェリンガム
人を殺して喰わせるだと?
……胸糞悪い連中だ
兎に角、誰かが犠牲になる前に……人殺し連中を止めないと
厨房に着いたら、【エアライド】を活かしジャンプして、料理人の頭上を飛び越え、囚われてる人々の前に立ち、人々を守ろう
それでも、料理人どもが向かってくるなら、レイピアで相手の武器を叩き落とし無力化
仲間が捕縛してる間に、仲間が持ち寄ってくれてる食材を使って、代わりの肉料理を作ろうか
昔はこれでも、自炊してたしな
東欧の肉料理っていうと、ビーフストロガノフかな
それなりに肉肉しさを味わえるよう大きめに切って、玉葱やマッシュルームを入れて作ろう
他にも、冷凍の豚カツを揚げたりソーセージを茹でて、それっぽく仕上げよう
セシリー・アーヴェンディル
【アドリブ/連携歓迎】
食人は文化によっては儀式的意味合いを持つ。
だが、ここで行われるのはただのおぞましい行為だ。
決して許せるものではない。
厨房までは【平穏結界】を展開して潜入する。
料理人共は剣を平にして打ち据えてやろう。非道の者ならば問答無用だ。
何の声もせず厨房の状態を疑われるのは避けたい。
適度に料理人共に悲鳴を上げさせ、調理を偽装しよう。
私はシスターだが、罪人に赦しを与えるほど善性ではない。
「何をしても後で懺悔すれば赦される」という格言もある。
お前達の処遇がどうなるかは預か知りらぬが、情報は吐きだすことをおすすめする。
料理は期待できるものではないので、おとなしく見学しておく。
御髪塚・小織
飢えて苦しむでもないのに、人が人を食材として見るとは、悲しい事ですね。
カミサマも御嘆きですよ。
急いで厨房へ。
囚われた人々を解放します。鍵が無ければ大天使の宿った髪の剣で檻を切り裂きます。
皆さんを助けに来ました。もう大丈夫ですよ。ご家族やお友達も、すぐに助けに向かいます。
きっと怯えていらっしゃる事でしょう。心の傷が深くなる前に安心させてあげませんと。
友達催眠を使用します。悪意にさらされようと、希望を信じていれば必ず救いは与えられます。カミサマは人々を御見捨てなりませんよ。
持ち込んだ赤身肉と野菜を使ってキャセロールでも作ってみましょうか。
原形が分からなくなるくらい、じっくりコトコト煮込みましょう。
●悪魔のいけにえ。元になった家では、食った人の残りが家具に
『ほら、とっととこっちに来なさい! ……なあニコライ、カーラ。君らはまずどこからナイフを入れる?』
フリッツ・ハールマンは、檻の隙間から手を伸ばし、中の少年を掴んだ。
少年は、あまり太っていない。仕方ない、この少年はメインディッシュにするのは止めよう。まったく、こんな食べ甲斐の無い人間など、どうやって調理しろと言うのか。
まあいい、ならば切り刻む『練習台』にするとしよう。
『……ニコライ? カーラ?』
だが、彼らから返答がない。
「ねえ、まずは一発ぶん殴る、ってのはどう?」
『殴打? 撲殺もいいが、刃物の方が……ぐぼぁっ!』
振り向いたフリッツは、強烈な一撃を鼻に受けた。
激痛が彼を襲い、鼻が潰れた事を知った。そのまま手を離し、後ろへとよろめく。
『……な、何をする! 鼻が潰れた! 痛い! なんてひどい事をするんだ!』
すぐにあとずさり、フリッツは抗議した。
目前には、少女の姿。
彼女の名は、ガートルード・シェリンガム(転生者の妖精電脳騎士・g09370)。その手にはレイピアが握られており、刃を正眼に向けていた。フリッツの鼻への打撃は、その剣の柄を用いたもの。
「…………」
そして、ガートルードは、
フリッツを見て、『拍子抜け』していた。
あまりにも弱い。剣を向けただけで……これ以上に無く、恐れている。
そして、
「……ひどい? 嫌がる人を殺し、その肉を食らわせる事に比べれば……この程度、酷い事の中に入るか!」
思わず叫んでしまった、
『何を言うか! 私の行為は芸術! その芸術に関われて、むしろ感謝すべき! そうだろう?……げぼぉっ!』
「……黙ってて、くれません? 最低最悪のド外道おじ様」
ガートルードは感謝した。蹴りを放ち、フリッツを黙らせたメルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)に。
さもなくば、自分が黙らせていただろう。永遠に。
そんな事を思いつつ、周囲を見回す。
「……当身! 当身! こっちにも、当身!」
他の料理人たちに、いささかぞんざいに後頭部を連打し、気絶させまくっているのは、嵐柴・暁翔(ニュートラルヒーロー・g00931)。実際、ニコライとカーラ、その他の連中は、フリッツと同程度、もしくはそれ以下の弱さだった。
……ディアボロスゆえ、一般人が対抗できない事は分かってはいたが、それを差し置いても、情けないほどに弱かった。
「……これほどまでに雑魚とは。『平穏結界』の効果があったとはいえ、やれやれです」
気絶した彼らを縛るは、湯上・雪華(悪食も美食への道・g02423)。
彼女としか思えない外観の彼は、気絶した外道たちの両手両足の親指同士を、丈夫な紐で結んでいた。
「……全くだな。清々しいほどに悪趣味なだけでなく、小物で弱すぎる」
ルキウス・ドゥラメンテ(荊棘卿・g07728)は、見下した眼差しで、捕縛された料理人を見つめる。
が、すぐに視線を外した。このような汚らわしい存在を見続けていると、己が精神も汚染される。そんな侮蔑が行動に現れているかのようだと、隣に立つセシリー・アーヴェンディル(ルクスリア・g02681)は感じ取っていた。
「……剣の刃を平らにして、何人か打ち据えてやったが……刃が穢れてやいないだろうな」
だが、彼女はすぐに表情を変えた。殺人鬼どもには不必要だが、この場には、安堵を与えるべき人々も存在する。
囚われていた人々を解放しつつ、セシリーは、
「……助けに来た。安心するがいい、すぐにここから出そう」
彼ら、彼女らが、聞きたいだろう言葉をかけた、
「……檻の鍵、見当たりませんね」
ニコラスが閉じ込めていた、姉妹と母親の檻。そこから彼女たちを解放しようと、御髪塚・小織(オングシさまの使い・g08859)は周囲を探すが……見当たらない。
「まあ、鍵が無ければ……」
小織は、自身の長い黒髪を動かし、
「……切り裂けば済むことです。さあ、もう大丈夫ですよ」
檻を切り裂き、解放した。
「あ、あなたは……」
「カミサマの名において、皆さんを助けに来ました。ご家族やお友達も、すぐに助けに向かいます」
小織、そしてセシリーの姿を見て、その母娘たち、助けられた者たちは、
「ああ、シスター様、天使様! 感謝いたします!」
「他の皆さんも、ありがとう! ありがとうございます!」
ディアボロスたちに向かい、膝を付き、頭を垂れ、
『祈り』の体勢を取った。
「さてと、それじゃあ……」
殺人シェフどもの捕縛を完了後、雪華はこれからの事を頭の中で確認する。
「情報を聞くのは、得意な人にお任せしてと。この後すべき事は、『偽の人肉料理』の用意。メルセデスさんとセシリーさんは料理が不得意とのことでしたから、私と他の方々が受け持つ……でしたね」
自分(雪華)とルキウスさん、暁翔さんが持ち込み、ガートルードさんと小織さんがこの場で調理、と。
既に料理人たちは、隣接する隣の部屋に運ばれている。丁度、食料貯蔵庫になっている場所で、樽や、スパイスなどの麻袋、乾燥した葉や香辛料などの小さな壺が、壁や棚に並んでいる。
雪華は悠々と、自分の持ち込んだ料理の用意をし始めた。ガートルードも、鍋を取り出し用意している。
「雪華さんは、何を?」
「ビーフシチューにしようかと。ガートルードさんは?」
「そうね、ビーフストロガノフかな。それに、他のものも加えて、東欧料理っぽく仕上げる予定よ」
他の仲間たちも、それなりに色々と考えていたはず。そして、あの外道連中から情報を聞きだした後に、調理を始めるだろう。
唯一の不安点といえば、調理中の悲鳴の有無だが……、
聞こえてきた。その心配はなさそうだ。
隣室に運ばれた料理人たちの『尋問』は、どうやらうまくいっているらしい。
「……ふふふ、食への冒涜、許すまじ、です」
その悲鳴に、どこか小気味良さを感じる雪華だった。
●ドナー隊。遭難した彼らは、牛より人を好んで喰うように
『や、やめろ……げはあっ!』
ニコライは、暁翔から何度も殴られていた。
『れ、レディに対してこの扱いは、酷いんじゃ……ひっ! や、やめっ……げぼっ! がはあっ!』
「大袈裟ですよ。頬をぶたれた程度で」
カーラも同様。メルセデスに何発も叩かれ、殴られ、頬が腫れ上がる。
「……ああ。まったく大げさだぜ。ちょっとばかし楽しい『おはなし』しただけだろ?『O・HA・NA・SHI』を、な?」
暁翔が涼しい顔で、わざと冷たく言い放つ。
『や、野蛮人め! こんなひどい事をして良いと思っているのか!……ひっ!』
フリッツに対し、
「……ごきげんよう、腐れ外道」
ルキウスが、抜身の剣を向けていた。ぴたぴた……と、刃でその頬を軽く叩く。
「貴様は先刻、少年を切り刻もうとしていたな? 今度は貴様が、切り刻まれる番だ。どうだ、気分は?」
返答は無かった。ガタガタと震えており、呻き声すら出てこない。
他の料理人たちも、檻の中に入れられ、その様子を見て同様に震えている。自分が与えてきた恐怖が、自分たちに与えられる事など全く考えていなかった様子。
「……殺人も、拷問も、食人も、『創作』としては嫌いではないジャンルですけど……実際には反吐が出ますね」
溜息とともに、メルセデスはぼやいた。
『……な、なあ。私たちの行いは、そう悪い事ではないはずだ。豚は草を食べ、人は豚を食べる。その人を、別の人間が食べる。食物連鎖的に、自然だろ?』
ニコライが言い訳を口にするが、理屈になっていない。
「……悪い事ではない? 何を言っている? それに……さんざっぱら人間を『料理してきた』んだし、偶には『食材になってみる』のも悪くないだろう?」
『な、なんだと?』
「……さて、どんなふうに調理するんだったかな……? なに、命までは奪わないさ。お前らの体の一部、手足の指を……いや、手足そのものを切り落とした程度じゃ、死なないだろうからな」
ワザと、にやりと笑ってみせる暁翔。彼に続き、
「……そういえば、沈黙する羊的な物語には、人を食べる切れ者殺人鬼のおじ様が出てきましたっけね」
メルセデスが、そんな事をカーラに言う。
「確か、麻酔を施して、頭を頭蓋骨ごと、意識があって生きたままの状態で切り開くんです。そして、むき出しにした脳の一部を切り取り、本人の目前でソテーにして、そのまま本人に食べさせるんですよ。……実践、してみます?」
そのシーンを思い出し、同じくワザと笑みを浮かべるメルセデス。
「貴様らの功績に報い、俺の主君の晩餐になる名誉をやろう。我が主君は生贄を生きたまま切り刻み、その苦悶の悲鳴を聞きつつ夕食を口にする事を好まれているようでな。……なあ、芸術家よ」
ルキウスは、恐怖におびえるフリッツに対し、目前に剣の切っ先を突き付けた。
「高貴な方が口にされる食材になる……まさに芸術的だ。芸術家としては、本望だろう?」
ふと、臭いに気付いた。どうやらフリッツは失禁した様子。
「……ま、その前に少々聞いておきたい事がある。この『儀式』についてだ。何か知っている事を喋るなら、考えてやらない事も」
『言う! 言うとも! この儀式は……』
言うが早いが、フリッツが言い出すが、
『やめろフリッツ! 裏切る気か!』
『そうよ! この裏切り者! 口を割ったら私たちが……』
ニコライとカーラの叫びが、フリッツの言葉を遮る。が、思い出したかのようにすぐに口を閉ざした。
「……お前たち、私はシスターだ」
と、今度はセシリーが進み出た。
「だが、私は罪人に赦しを与えるほど寛容ではない。正直このまま、お前たちを断罪し、処刑してもいいとも思っている」
だが……と、黙りこくっている彼らに、静かに言葉を叩きつけるセシリー。
「だが、『何をしても、後で懺悔すれば赦される』という格言もある。お前たちの処遇がどうなるかは、預かり知らぬが……もし何かを知っているのなら、吐き出す事をお勧めする」
だが、それでも口を閉ざしている。とはいえ、そわそわと視線をそらしていたが。
明らかに、彼らは何かを知っている。だが、その口は重い。厳重に口止めさせられているようだが、どんな秘密を知っているのか?
『……ここで料理を作った後、運ぶことになってるが』
と、フリッツ、ニコライ、カーラの後ろの、いかにも三下といった顔の料理人が言い始めた。
『やめろバカ!喋るな!』
『死にたいのか!』
ニコライとフリッツが止めるが、彼の口は止まらない。
『うるせえ! なあアンタら、聞いてくれ……ふげぇ!』
三下の隣の、同じく雑魚顔の料理人が、そいつの口に噛みつき無理やり黙らせていた。料理人たちは全員が後ろ手に縛られていたため、そうするしか彼を黙らせられなかったのだ。
「……少なくとも、わざと悲鳴を上げさせて偽装する必要は無いようだが……」
セシリーは訝しんだ。この、病的なまでの『貴婦人』への怖れは、一体何なのか?
そして。
「……さあ、みなさん。落ち着いてくださいね」
さらに隣の、ワインセラー。
そこには、助けた人々が集められていた。小織が彼らを前にして、安心させるように話しかけている。
……『友達催眠』の効果もあり、先刻までの恐怖と絶望に陥った様子から回復している。
(「……心の傷が、深くなる前に安心させてあげませんと」)
聖女として、何より人として、傷ついた人々を救わずして何がディアボロスか。ましてやその人々の心を救い出さない事には、復讐者などと名乗れる資格などなし。
「……必要なのは、『希望』です。世の中には、あらゆる悪意が蠢いています。ですが、悪意に晒されようと……『希望』を信じていれば、必ず救いは与えられます。カミサマは、人々をお見捨てなりませんよ」
怯えきった人々に訪れる、安らぎの表情。そう、『希望』こそが、今の彼らに必要なもの。
そして。
「……なあ、いいか?」
しばらくして、セシリーが顔を出す。
「来てくれ。連中から、『情報』を吐かせる事に成功した」
●グリーンのソイビーン(大豆)とレンテイル(レンズ豆)、それは人だった食物
厨房内。ディアボロスたちは全員がそこに集合していた。
「……つまり、こういう事ですか? 料理を供する広間へは、普通に入る事は出来ないと」
小織の言葉に、セシリーは頷く。
暁翔は続ける。
「あの料理人たちが言うには、広間に入るには、料理を運ぶ取り巻きのトループス級『ヴルダラク』と、それに付き従う料理人以外は入れないようになっているとの事だ」
彼に続き、メルセデスも補足。
「広間に通じる扉は六つありますが、外側から入る時には一つだけが開き、しかもランダムで開ける扉が変化するそうです。なので、入るためにはヴルダラクが料理を運ぶ時についていき、一緒に入るしか方法はないようです」
続き、ルキウスが、
「これは、扉を見つけられても、簡単に入られないための仕掛けらしい。なんでもこの館では、昔にサバトのような退廃的な儀式を広間で行っていたらしく、その時に邪魔されないように取り付けたそうだ」
そして、セシリー。
「その仕掛けは、扉自体に内蔵された鍵を、広間室内の操作盤を操作する事で開閉させられるもの、との事だ。今回、一番から六番まであるその扉のうち、どの扉が開くかは最初に話し合いで決められており、それ以外は開けられないようになっている」
それに対し、
「もしも、無理に開けようとしたら?」
雪華が問う、それに暁翔は、
「破れない事は無いだろうが、扉は頑丈で、破るのに時間がかかる。そうなった場合……『貴婦人』は、何かあったと悟り……おそらくは逃げるだろうと言っていた。ヴァンパイアノーブル化する前の一般人たちを、皆殺しにしてからな」
と、答えた。
メルセデスが、再びそれに答える。
「なので、私たちの何人かが料理人に扮して、一緒に入るしかないようですね。ただ、中に入り、操作盤を私たちのうち誰かが操作すれば、全ての扉の鍵が開くとの事です」
彼女に続き、ルキウスが。
「幸い料理人共は、『自分の人肉料理を、一般人が口にした時の反応が見たい』と言っており、何人かは同席するつもりだったようだからな。ついでに……」
言いつつ、仮面舞踏会の時に付けるようなマスクを取り出した。
「……料理人連中は広間に入る際、これを付けて入る予定だったそうだ。俺たちの誰かが料理人に扮し広間に入る場合、マスクを付ければ多少はごまかしがきくだろう」
「その、操作盤とやらは広間内のどこにあるの?」
ガートルードの質問には、暁翔が、
「広間の端の方に、壁沿いに据え付けられているとの事だ。広間に入れさえすれば、すぐわかるらしい。……あの怯えようからして、おそらくは本当だろう。連中、度胸という点ではろくなもんじゃあなかったからな」
吐き捨てるように言い放った。
「となると……」
と、小織が考え込んだ。
「ヴァンパイアノーブル化直後に、彼ら彼女らを説得する際。家族の顔を見せて、人肉を食べてない事を知らせる時……最低誰か一人は、中に一緒に入っている必要がありますね」
「それは、おいおい考えて行こう。それより、料理を始めないと」
暁翔の言葉に、次の作業に皆は取り掛かった。
「さてと、ビーフシチュー……持ち込んだ物を温めただけですが、うまい具合に仕上がったようです」
雪華のビーフシチューの鍋からは、デミグラスで煮込まれた肉の塊が。しかし……生臭さが強めに漂っている。
「臭いますけど、これは?」
ガートルードの問いに、
「ああ、これはわざと肉の下処理を甘くしてたんですよ。そうなると、獣臭が取れず、生臭くなるんです……うん、普通ならイマイチだけど、今回に限ってはいい感じです」
味見をして、雪華は頷いた。
「そういえば、ガートルードさんのストロガノフも、そろそろ出来上がった頃では」
「ええ。後は皿によそうだけね」
まさに然り、彼女のビーフストロガノフの鍋は、ぐつぐつと煮込まれ……ほぼ完成していた。今回は牛肉を用いたが、この料理の『ビーフ』は、本来は『ベフ』……何々風というロシア語から来ている。
「なので、鶏や豚を用いたものもあると聞いた。みんなが持ち寄ってくれた食材のおかげで、うまくできたと思うわ」
肉も大きめに切られ、塊が見えている。他に、冷凍の豚カツや茹でソーセージなども添え、それらしく仕上がりつつあった。
「……良い出来だ。俺も持ち込みだが……」
と、ルキウスもまた、料理の用意をほぼ終えていた。
「これは? ステーキのようですが、変わってますね」
小織の質問に、
「そんなところだ。正確には『ロッシーニ』……もっと正確に言えば、『ロッシーニ風トルヌード』、牛ヒレを用いたステーキ料理だな」
と、彼は答えた。
その料理は、焼いた牛ヒレ肉の塊に、フォアグラやトリュフなどが乗せられており、濃いめのドミグラスのような濃厚なソースがかけられている。
「多少奇異な料理の方が、すり替えが分かり難いと思ってな。小織の料理はなんだ?」
彼女は、持ち込んだ材料を用い、鍋で何かを煮込んでいた。
「キャセロールです。赤身肉と野菜を煮込んでみたんですが……」
『キャセロール』とは、仏語で『鍋』。厚手の両手鍋を指している。
そしてキャセロール料理とは、日本で言う『鍋料理』に近い。材料を入れて煮込み、あるいはオーブンに入れて焼いたりして作る。
小織が今回作ったのは、赤身肉の塊を野菜と芋とともに軽く焼き、トマトジュースと白ワインとで煮込んで作った簡単なもの。
「肉の原型が分からなくなるくらい、じっくりコトコトと煮込んでみたんですが……」
「これはこれで、肉肉しさがあっていいんじゃあないか? こんな状況じゃなかったら、俺が食ってみたいところだ」
と、暁翔がキャセロール鍋を覗き込む。
「暁翔さん、あなたは?」
「俺か? 俺はレトルトのハンバーグ。『口福の伝道者』で人数分に増やし、あっためて皿に盛っただけだがな」
かくして、人数分の皿に、料理が作られ、よそわれ、並びつつあった。
しかし、その用意がほぼ終了した時。
「……ねえ、ちょっと」
「……来てくれるかしら?」
人肉料理人と、助けた家族とを見ていたメルセデスとセシリーの呼ぶ声が、皆に届いた。
●謝肉祭を地獄で。一度食ったら、やめられない
「……お前らは、事が終わってから、都市部で司法当局に引き渡すと言ったはずだが」
暁翔が、食料保存室の料理人共に問うが、
『へっ、どうせ取引で無罪や執行猶予が付くさ!』
『俺たちは、ヴァンパイアノーブルにスカウトされたんだ!』
『彼らにとって、俺たちは必要だ! 有罪になったって数年で娑婆に戻ってやるさ!』
『それに、そこのそいつらは……』
と、ニコライにカーラ、フリッツを顎で指し示し、
『……ヴァンパイアノーブルや、それに近しい貴族や富裕層とも知り合いだ! 俺たちも一緒に助けてもらい、また人を殺して料理を続けてやる!』
どうせ自分たちは助かる、まだ死なないと思い込んでいる様子だった。
とは言っても、全員が縛られたままで、檻の中。なおかつ……身動きも取れない。
猿轡噛ませて、そのまま気絶させようと思ったディアボロスたちだったが、
『……ああ、そうさ。私は、貧乏な庶民とは違う! 私の芸術には、理解者がいる! そうとも、私は違うんだ!』
『べ、弁護士を呼べ! 僕を裁くなら、法に則り弁護士を呼ぶ権利があるはずだ!』
『そうよ! それに、世界に何人の人がいると思っているの! 人は異なる価値観を持つ。ならば私たちのような、異なる価値観も許容されて当然じゃないの!』
フリッツ、ニコライ、カーラが、そんなことを言い出した。
「……俺の主君の、晩餐になる名誉をやろうと思ったが、前言撤回だ。実に『醜い』。外見はもちろん、性根が『醜すぎる』。主君が口にするどころか、記憶する事すら汚らわしい」
ルキウスは、心底うんざりした表情を浮かべ、
「……お前たちは、切り刻んだのち、家畜の飼料にでもしてやろう」
静かに、そう言い放った。
(「本当は、家畜が穢れるからそんなことはしたくないがな」などと考えつつ)
「そうだな。『殺す価値すらない』という言葉の意味が、よーく理解できたぜ」
暁翔もまた、呆れかえる。
そして、
「……一つ言っとくが、ヴァンパイアノーブルたちが、お前らを助けてくれるとでも思ってるのか?」
不意に思いついた『ある事』を、口にしてみた。
『……なんだと? 私達が見捨てられるとでも?』
フリッツが、思いもよらないとばかりに暁翔へと聞き返す。
「ああ、そうだ。貴族や富裕層と懇意なら、それだけ付き合いが深いんだろうが……既に口を割って、『広間の扉』に関する情報を吐いてるんだぜ? これは、まぎれもない事実だ」
ひと息つくと、
「お前たちは『多少の拷問で口を割る』、取るに足らないただの人間。すでにそれを、お前たち自身がその行動で証明した。生かしておいたら、将来的にお前らが情報をもっと漏洩させる可能性が高い。そして、お前らは『さして重要な存在』ではない」
言い切った。
『な、何を……』
「もし重要なら、簡単に倒され、捕らえられないように護衛を付けるだろう。だが、実際には護衛も付けられず、俺たちに簡単に捕らえられた。お前らはヴァンパイアノーブルにとって、いくらでも替えの効く、どうでもいい存在って事だ。で……さして重要でもなく、情報を漏らす可能性のあるお前たちを、ヴァンパイアノーブルが生かしておくと思うか? 俺だったら……面倒だから始末して、後の禍根を断つがな。その方が簡単に片が付く」
『!!!』
説得力のある、その言葉に、
料理人たちは、全員が黙りこくった。
メルセデスも、
「……確かにありえますね。考えてみれば、この屋敷は町から離れてます。ここを逃げ出したところで、荒野で野垂れ死ぬか野生の獣に食われるでしょうね。町の司法当局に引き渡しても、今言った通り、ヴァンパイアノーブルがあなた達を助ける確率は限りなく低い。どっちを向いても『詰み』です。チェックメイトってやつですね」
と、畳みかけた。
雪華と、
「仮に無罪放免になっても……市民の中には、食べられた犠牲者の遺族もいるでしょうね」
ガートルードも、
「ええ。遺族がお前ら……あなた達の事を知ったら、少なくとも生かしておくとは言えないでしょうよ」
静かに言葉を叩きつける。
『……死ぬ? 僕は、死ぬのか?』
『いや、嫌よ……死にたくない……殺されたくない……』
『なぜだ……なぜ私が、死ななきゃならないんだ! そんな事は無い、私は、死なない……』
全員がショックを受け、ブツブツと独り言を。
「……そろそろ、取り巻きが来る頃でしょうけど。こいつらどうする?」
うんざり顔のセシリーに、小織が、
「……猿轡して、檻ごとワインセラーの中に閉じ込めておきましょ。あそこは出口が一つしかないですし、抜け道も無く、広さも結構あります。縄を解いても、扉をしっかり施錠しておけば逃げられないでしょうしね」
「じゃあ、家族は?」
「食料保管庫の奥の方に移ってもらい、そこで待ってもらいましょう。私達のうち、誰か一人か二人が付いてて、説得の時に来られるようにしておけば、何とかなるでしょう」
確かに、それがいいだろう。それに、料理人共が自棄を起こし大声を上げても、ワインセラーならば音が遮断される。
「……となると、すべき事が決まったな」
1:俺たちのうち、誰かは料理人に成り代わり、マスクを付けて、料理を運ぶ取り巻きと広間に行く。
2:何人かは、隠れて後からこっそりついてきて、広間の場所の確認。
3:一人か二人は、ここに残って家族を見ておき、料理人たちも万一逃げないように見張っておく。
中に入った後は。
4:料理が並べられる隙を突いて、扉の操作盤を操作し、全ての扉を開くようにしておく。
5:そして、一般人がヴァンパイアノーブル化した時。彼らを説得するため誰かがここまで戻り、家族を広間に連れて行く。
6:そこから家族の顔を見せて、人肉料理を食べたわけでない事を知らせ、元に戻す。
「……と、こんなところか」
暁翔の言葉に、皆は頷いた。
更にしばらくして。
『……料理人の皆さん。そろそろ晩餐の料理を運びたいと思います。料理の用意はできていますね?』
取り巻きトループス級『ヴルダラク』が、厨房へとやって来た。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【平穏結界】LV2が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
【友達催眠】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV2が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
嵐柴・暁翔
まあ一番危険そうなのは広間に入る役だろうしそれは俺が引き受けよう
料理人の服とマスクを着用して変装
ヴルダラクに従い料理を広間へ運びます
怪しまれないように注意しつつ【パラドクス通信】で他の方々に適時状況は伝えておきます
こんな雑な変装で誤魔化せる辺りヴァンパイアノーブルにとって料理人達がどうでもいい存在だというのは間違いなさそうだな
……あんな連中の同類だと認識されているのは甚だ不愉快だけど…
広間に入った後は扉の操作盤の場所や形状を確認
配膳中なり儀式中なりに隙を見て全ての扉を開くように操作しておきます
晩餐会の参加者達がヴァンパイアノーブルに覚醒したなら【パラドクス通信】で状況を伝えて時間稼ぎに徹します
ルキウス・ドゥラメンテ
演技や細工は得意ではないので、料理を運ぶ役目は誰か適任に任せよう
俺はとりあえず食材予定だった家族たちを見守りつつ、料理人でも見張っておくか
もう抵抗もしないとは思うが…
さて、怖い目に遭った直後に忍びないが、お前達にしか出来ない務めがある
お前達の無事を家族に伝えることだ
彼らは不味い料理を食わされた上に、それがお前達だと告げられていて…後は解るな?
安全は確保する、安心して事にあたってくれ
家族らに言い聞かせて、彼らを広間に向かわせる際には随伴して護衛
「お前達の家族は無事だよ。嘆いて人間辞めるのは少し早計だと思わないか?」
家族らの姿を見せながらも背に庇う位置に陣取りつ、覚醒直後のトループス級に語りかける
セシリー・アーヴェンディル
【アドリブ/連携歓迎】
私は料理を運ぶメンバーの後ろをついていき、広間の場所を確認しよう。
【光の牢檻】で姿を隠して気配にさえ気をければ、物陰に隠れながら進むよりスムーズだろう。
広間に料理が運び込まれるのが確認できたら、事が起きるのはすぐだろう。厨房へと踵を返すぞ。
同じように【光の牢檻】を使い、家族を広間まで案内する。
これから他の者達を助けるために、危険へと踏み込んでもらわなければならない。
だが扉の先に何があろうとも、君達は家族に声を届けることをだけを考えてくれ。
それが全員無事に帰るための鍵だ。安全は必ず私達が確保する。
扉を開けると同時に【光の牢檻】を解除し、家族の無事な姿を晒す。
湯上・雪華
絡み、アドリブ等完全受け入れ
怪我描写大歓迎
隠密はそこそこできるので後を追いかけましょうか
光学迷彩があるならご一緒させてもらって扉が空いたときに入り込めれば、ですが、無理はせず、です
暁翔さんの手伝いは操作会得でいけるはず
あとは道案内をして儀式の失敗を告げればいいのです
皆さんが食べたのはただの獣肉ですよ
大事な家族はこれから来ますから、絶望に沈むにはまだ早いです
ほら、愛しい家族の声、忘れたわけじゃないですよね?
御髪塚・小織
ご家族の方々についていましょう。
料理人達は念のため【罪縛りの鎖】で拘束しておきます。罪を贖うまで、逃げようとは考えないで下さいね。
皆様の大切な人達は今、邪悪に染められようとしています。
ですが、皆様を姿を見れば正気を取り戻す筈です。彼等がどのような姿になっていても、恐れずお声をかけて差し上げて下さい。今度は皆様が、愛する方々に希望を取り戻させるのです。
【パラドクス通信】で連絡を取ります。事が起きたら急いで皆様をお連れしましょう。
その料理は私達が普通の食材で作ったものですよ。お気に召しましたか?
特別でなくても、愛する人と食べる食事が何よりのご馳走でしょう。お戻りになって下さいませ。
ガートルード・シェリンガム
隠密やらは得意じゃないし……捕まってた一般人と一緒に、料理を食べさせられる家族のところに行こうかな
説得を妨害しようとする奴が居るかもしれないし、【防衛ライン】を展開し、簡単には手出しできないように対処
大丈夫、あなた達には手出しさせない
勿論、敵が一般人にちょっかい出せないように、一般人の前に立ち、いつでも庇えるように
料理を食べさせられた人達に、あなたの家族は居る?
居るなら……「自分は無事」だと、呼び掛けてあげて!
私達のどんな声よりも、あなた達家族の声が……一番、彼ら、彼女らの心に届くと思うから
そう……あなたの家族は無事よ!
だから、家族のもとに戻ろう
そんな、怖い顔しないで……泣くのは、嬉し涙でね
メルセデス・ヒジカタ
さて……では、お宅のメイドさんとかトループスのお仕着せでも探して、メイドや小間使いに扮して
無ければ、料理人の服をかっぱらおう
ちょっと胸囲が窮屈でも、文句は言わないでおくの
準備ができたら、料理運びのトループスが来るまで、家族には厨房の奥や倉庫に隠れて貰い、トループスが料理を運んでいったら忍び足、偵察を活かし、お料理を運ぶトループスを尾行しましょうか
私が先行するかたちで、安全が確認できたら、後発の開放した家族を誘導
もし、敵に見つかりそうなら、廊下の曲がり角の手前や階段の陰、空いてた空き部屋等に家族を待機させ、敵をやり過ごして移動
家族を無事に送り届けたら、家族のそばで敵襲に備えつつ【士気高揚】で支援
●人が人を食らってはならない。少なくとも、極限状態でないのなら。
ヴルダラクたちは、数もそう多くは無く、戦って倒す事は不可能ではない。
が、今は手を出す時ではない。そして、敵意がある事を悟られてもならない。
嵐柴・暁翔(ニュートラルヒーロー・g00931)は、料理人の服……ニコライとフリッツから借用し、マスクを顔に装着し、料理を乗せたワゴンを押すヴルダラク達とともに、屋敷内の廊下を進んでいた。
ワゴンの上には、今さっきに作った偽の人肉料理が並び……銀の蓋をかぶせられている。
「…………」
ヴルダラク達は、無言だった。マスクを付けた暁翔の事も、一瞥しただけで何も怪しまず、『ついてきなさい』と促したのみ。
(「まったく、こんな雑な変装でごまかせる辺り、本当に連中にとっては『どうでもいい存在』なんだろうな。料理人たちは」)
もっとも、あんな連中の同類と認識される事自体は、暁翔にとって非常に不愉快ではあるが。
廊下は長く、思った以上に入り組んでいる。とはいえ、段差などはない。ワゴンには料理を乗せているのだ。あまり厨房から離れていては冷めてしまう。
しかし……距離がそれほどなくとも、暁翔は内装に対し、『混乱』していた。
それは、後方からこっそりと尾行している三人……、
(「……暁翔が料理人に化け、広間に入り操作盤を確認。操作盤を操作し、扉を開かせる。私は暁翔とヴルダラクの後を付け、広間の位置を確認」)
セシリー・アーヴェンディル(ルクスリア・g02681)。
及び、
(「私は、可能ならば扉が開いた隙に入り込み、暁翔さんの手伝いを」)
湯上・雪華(悪食も美食への道・g02423)。
そして、
(「ですが……なんですかこの内装は。本当に……混乱してしまいます」)
メルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)。彼女たち二人と彼一人は、その姿を隠し、尾行していた。
セシリーは、パラドクス『光の牢檻(サルース・カヴェア)』の、光の屈折によって。
雪華は、『光学迷彩』の効果で、
そしてメルセデスは、料理人の服を着こんで……女性の人肉料理人、カーラ・デンケの服を拝借していた。暁翔とヴルダラクたちの後方に、セシリーと雪華に付いてきやすいようにと少しだけ距離を取って、後を付けている。
しかし、彼女ら三人も暁翔同様に『混乱』していた。
先刻にここに潜入し、厨房に突入した時には意識していなかったが(何しろ急いでいたし)、
……内装が『いびつ』だったのだ。デザインといい、施されている壁紙や床の模様といい、その他様々な視覚的なもの、それらが全て『いびつ』だった。
短く見えて、実は長い、あるいは長く見えて短めの廊下だったり、
階段のように見えたが、それはただの床の模様だったり、あるいはトリックアートのように床や壁に穴や見張りが描かれて、本物と間違えたり、あるいは本物の穴や見張りがいたりと、広場に近づくにつれて複雑怪奇な様相を醸し出していた。
照明も薄暗いため、なおの事不気味さが強調されている。
長時間、この屋敷内に居たら。間違いなく精神に影響を受け、おかしくなるに違いない。
しかも、ところどころにおぞましい『顔』の絵画が飾られたり、彫られたり、壁や天井、床に直接描かれていたりもしている。その顔を見て、隠れている二人は何度も声を上げそうになってしまった。
(「そうか、これって……ホラーハウスですね」)
メルセデスは、ようやく既視感に気付いた。これはお化け屋敷だ。西洋的にホラーハウスとか、ホーンテッドマンションと呼ぶべきかもしれないが。
そしてこの内装の『いびつ』な理由も、想像がついた。見た者、特に部外者や侵入者に対し、できるだけ『心を挫けさせる』ため、あえてこうしてるのだろう。歪み切ったヴァンパイアノーブルなら、考えそうなことだ。
『……着いたぞ』
と、ヴルタラクたちは立ち止まり、振り返った。
メルセデスは物思いから立ち返り、同様に立ち止まる。
『……来なさい。ここが……扉の一つだ』
ヴルタラクが立ち止まったのは、広間の扉の一つ。しかし……言われなければ、扉とは思えなかった。
壁の一部のようなデザインで、知らなければそのままスルーしてしまうようなものだったのだ。
(「さてと、鬼が出るか、蛇が出るか。中に吸血『鬼』がいる事は確実だけど……」)
暁翔は、ごくりとつばを飲み込んだ。先刻から見させられていた、いびつな内装のみならず、『いびつな空気、雰囲気』が、心に浸食するような錯覚を覚えていた。
がちゃり……と、古い金庫の錠前が開くような音が響くと、
まるで魔界に続く門が開くかのように、『扉』も、開き始めた。
「さて……」
ワインセラーの扉を閉めると、
ルキウス・ドゥラメンテ(荊棘卿・g07728)は、改めて深呼吸する。
「……演技だの、細工だのは得意ではないからな」
「ああ、私もそう……なのよね」
ガートルード・シェリンガム(転生者の妖精電脳騎士・g09370)もそれに同意する。そういえば、彼女も『隠密活動は得意じゃない』……と言っていた事を、ルキウスは思い出した。
しかしそれでも、すべきことはある。
「……ワインセラー内の料理人たちは、私の『言霊縛り』で拘束しています。後、すべきことは……」
と、御髪塚・小織(オングシさまの使い・g08859)がそこにやってきた。
「……家族の皆に、ある事を頼む、だな」
ルキウスは彼女たちに頷き、
「……さて、みんな。少しばかり話を聞いて欲しい」
食料貯蔵庫の方へと向かうと、つい先ほど救出した彼ら、彼女らへ、
料理されそうになっていた、一般人たちの家族へと、声をかけた。
「……あ、あの……」
「助けて頂き、ありがとうございました。それで……話、とは?」
母と、その娘姉妹の三人。母親と姉が問いかける。その口調から、不安を抱いているのが分かった。
「怖い目に遭った直後で、忍びないが……お前たちの『無事』を、家族に知らせてほしい」
できるだけ、穏やかな口調で述べた。
「……家族に、無事を? それは構いませんが……」
「それで、私達は何をすれば……?」
話が飲み込めてないように、再び問いかける。
「簡単な事だ。これから家族の……お前達は、『父親』が呼ばれたんだったな? 彼の元へと連れて行くから、お前たちの無事な顔を見せてほしい。それだけでいい」
「ぼ、僕の父ちゃんや、母ちゃんが、ここに?」
先刻、フリッツに切り刻まれそうになった少年が、今度はルキウスに問いかけた。その少年は、両親夫婦が呼ばれていた。
「ああそうだ、少年。……彼らは、まずい料理を食わされた上に、その料理の材料が『お前たち』と告げられている。……後は、解るな?」
その返答は、聞かないでも分かった。目前の母と姉妹、少年、その他、多数の子供たちや、老夫婦たち、夫や妻、恋人の片方、その他諸々の人物たちは……その意図を悟ったかのように、ざわついた。
「……で、でも、私は……」
「や、やだ! もう、やだよ! わたし……怖いよ!」
しかし、理解しても、それに全員が同意するわけでは無かった。
恐怖に心折れる直前の老婆や、恐怖に追い詰められている幼児たち。彼ら彼女らは、恐怖の前にそれを拒否していた。
「大丈夫! あなた達に手出しさせない!」
ガートルードが約束するが、先刻までの恐怖が色濃く残っている現時点では……その言葉も届かない。……それに、ただでさえ『戦い』に向いていない者達だ。歩くのすらやっとの老人や老婆、まだ幼い子供達。彼ら彼女らは戦士でも軍人でも、危険や危機に立ち向かう勇者でもない。戦う術など知らない、牙無き人々。
そんな者たちに、まだ消えてない数分前の恐怖に耐え、危険な人殺しの近くまで行け……などと言うのは、酷以外の何物でもない。たとえそれが大義であり、彼ら自身のためであっても、はいそうですかと簡単に従えはしない。
だがそれでも、必要で、行うしかない。ルキウスが口を開こうとしたが、
「えっ
……!?」
老婆と幼児たちに近づいた小織が、
その両手を広げ、怯える彼女らを抱きしめた。
「……皆様の大切な人たちは今……邪悪に染められようとしています」
そして、静かに……染み入るような口調で、言葉を紡いでいく。
「た、大切な……人たち? 娘夫婦や、孫……」
「わたしの……父ちゃんや、母ちゃん?」
「ええ、そうですよ。彼らは今、大変な危機に陥っていますが……皆様の姿を見れば、正気を取り戻すはずです」
戸惑う皆へ、小織は言葉を続ける。
「……彼らがどのような姿になっていても、恐れず、お声をかけてあげて下さい」
続き、ルキウスが、
「……怖いのは、解るつもりだ。だが……今一度、お願いする。家族にお前たちの、無事を伝えてくれ。安全は確保する」
そして、ガートルードも。
「……皆さんは、一人じゃありません。私達も、います。勇気を、ほんの少しだけで良いから、勇気を……お願いします」
彼らの訴えに、
「……助けるために、私達が、必要なのね?」
「わたしが……父ちゃんや、母ちゃんを、助けるの?」
怯えていた皆は、顔を上げた。
「ええ。今度は皆様が、愛する方々に希望を取り戻させるのです」
小織が請け合い、そして、
「そうですよ、お婆さん。私も怖いですが……夫と、息子を助けるためには……」
「ワシも、子供や孫を救いたい」
「あたしも、姉ちゃんを!」
「恋人を!」
「家族を! 親友を!」
救いたい。ただの市民が、一般人たちが、
立ち上がった。
そして、そこへ。
『……こちら、セシリー。聞こえるか?』
「はい、こちら小織。どうしました?」
『パラドクス通信』で、セシリーからの連絡が。
『広間の位置が、判明した。家族を連れて来る用意を、頼む』
●しかし、止められない者もいる。自ら進んで喰らってしまう。
広間内部。
その内装も、廊下と同様に……狂気かつ歪んだ装飾が施されていた。
ただの家具であっても、狂おしいほどに歪んでいる。壁も、天井も、主の心中を顕現させたかのよう。
そして、上座の方に『血の貴婦人』その人が座り、
壁の一方に、『操作盤』が据え付けられていた。それは一見すると、壁に取り付けられた、何かの装飾のよう。左右に長く広がり、ふんだんな装飾が施されていた。……悪夢めいた装飾が。
すぐにヴルタラクたちは、ワゴンを押しつつ、料理の皿を一般人たちに運んでいった。彼ら彼女らが座る、長方形の長い食卓の上へ、座っている彼らの目前に、蓋をしたままの料理の皿を並べていく。
室内の、壁の方に、できるだけ操作盤の近くに向かった暁翔は、
(「……私も、います」)
耳元に、雪華の囁き声を聞いた。彼もまた、光学迷彩で透明化したまま、内部へ侵入する事に成功したようだ。
(「さて……ここからが本番だ。しっかりやれよ、嵐柴・暁翔!」)
己自身へ、言い聞かせるように心の中で呟いた暁翔は、
操作盤へと接近していった。
『操作盤』は、大きかった。暁翔は最初にそれを見て、『六つの引きレバーが付いたオルゴール』のように思えた。
しかし、そのレバーに施されていたのは、髑髏の意匠。六つのガイコツが、触れる者を拒むかのように並んでいる。そして、レバーの下にはいくつかの小さなボタン。
幸い、ヴルタラクたちは配膳に集中しており、それほど人数もいない。焦る気持ちを押さえながら、暁翔は操作盤へと近づき、改める。
(「……思ったより、複雑そうだが……」)
レバー一つを動かすのに、決められたボタンも同時に押さねばならない様子。
(「!? ……こっちも、同時に操作しないとだめなのか?」)
更に、離れた場所には捻るタイプのスイッチが付き、扉を開けるためにはそれを握って捻る必要があるらしい。つまりは……開けるのに二人が必要と言う事だ。
(「なんかの映画にあったな。ミサイル発射のボタンは、誤作動を防ぐため、離れた場所にある装置を二人で同時に操作しないと動かないってやつ」)
しかし、幸い今は『二人』いる。
(「……大丈夫です、大体わかりました!」)
雪華からの囁きが、暁翔の耳元に響く。『操作会得』にて、どうやら操作自体は大丈夫そうだ。
やがて、
『さて、皆様。準備が出来ました。召し上がって下さいな』
貴婦人のもったいぶった動作とともに、一般人たちの前に並んだ料理の蓋が開かれ、
『肉料理』が、お披露目された。
セシリーは、再び『光の牢獄』を用いていた。
家族たちは、互いに光学迷彩で見えなくなってしまうため、互いに手をつないだり、身体を触れ合わせたりして、廊下を進んでいた。
しかし……これが、思った以上に難点だった。屋敷内の不気味な内装を怖がる、というのもあったが。それ以上に、移動速度が遅かったのだ。
(「まいったな、計算外だ」)
セシリーは焦りを覚えていた。家族たちは半数近くが若者で、子供もいたが。残り半数の年配や老齢の者たちは、歩くのに難儀していたのだ。
同行したガートルードに小織、そして外で合流したメルセデスも、
(「これは、予想外だな」)
(「ここまで、皆さんの足が遅いとは……」)
(「それに、この内装にも怖がっている。急がないとなりませんが、無理をさせるわけにも……」)
……老人や老婆たちの誘導に苦労していた。彼らも出来るだけ急いでくれていたが、肉体的に無理が効かない。それに加えて、光学迷彩で透明化している。戸惑い、移動速度が更に遅くなって当然だ。
と、いきなり角を曲がると、
そこにはヴルタラクが。全員が息をひそめ、壁に寄りかかるが、
『……? 何者だ? 誰かいるのか?』
だめだった、子供や老婆が、恐怖のあまりに小さく悲鳴を上げてしまったのだ。
『……まさか、透明化? 何者……ぐはっ!』
「黙っていろ」
ルキウスが後ろから不意打ちを食らわせ気絶させた。そのまま縛り上げ、近くの部屋に投げ入れる。
急がねば。この調子では、広間に辿り着けない。
焦りばかりが募るが、ここで自分たちが焦ってはならない。深呼吸し、落ち着くと、
「……さ、もう少しだけ、急いでほしい」
ルキウスは、怯えている家族たちにうながした。
(「確かに予想外。大変だが……大変でない事など無い!」)
セシリーは気を新たにした。
そして、メルセデス、ガートルード、小織もまた、
(「ええ、その分、私達が頑張ればいいだけの事!」)
(「泣き言なんか、言ってられるか!……ですわ」)
(「ゆっくり、急いで参りましょう
……!」)
皆を確実に、導いていった。
●同族を食らうは、同族を殺す事と同じ。それは罪以外の何物でもない。
広間。
ビーフシチューを、一般人たちは戸惑いつつ口にしていた。
(「……ここまで漂って来るな、『生臭さ』が」)
わざと、肉の処理を甘くするとかなんとか言ってたっけと、暁翔は思い出していた。離れたこの場所にも、生臭さ、不快な獣臭さが漂って来る。
が、それでも彼らは『空腹』だった。普段はただでさえ食うや食わずで、口にできる肉も僅かな欠片のみ。多少生臭くとも、腹が満たせれば構わない。
ストロガノフにロッシーニ、キャセロールにレトルトのハンバーグと、それらの皿を空にしていき、そして……、
『……皆様、大切な人たちの味はいかがでした?』
全員の皿が空になるのを見計らった『貴婦人』からの、そんな言葉が投げかけられた。
「え? 大切な、人たち?」
「何を……まさか!」
『そのまさか……皆様が今食べたのは、皆様の『両親』、『兄弟』、『姉妹』、『子供』、『恋人』、『親友』……それらの方々の肉でしてよ!』
全員の皿が空になると同時に、『貴婦人』はそう述べ、
続き、阿鼻叫喚の状況が、そこに発生した。
『皆様、ワタクシの言う通り、貴方がたは……大切な方々を、『食べて』しまったのです! 人が人を、それも愛する方々を食べてしまい、さぞかしショックでしょう!』
返答する者はいない、全員が胸を、腹を掻きむしり、中には吐き出し、
そして、自身の大切な人々が『殺された』事を知り、嘆き、悲しみ、慟哭していた。
ヴルタラクたちは、それを見てにやにやと、笑みを浮かべ、
(「……くっ! なんだよ、これは。マジに……気分が悪りぃ」)
そして、料理人に化けていた暁翔は、胸にムカつきを覚えていた。
彼の近くにいる雪華も、おそらく同じ感情、同じムカつきを覚えているに違いない。
そして、そのムカつきを起こしている元凶は、
『ええ、筆舌しがたい驚きと、罪の意識に苛まれていることでしょう! でもご安心なさって……人ではない、人以上の存在になれば……そんな悩みなど消えてなくなります!』
そう、言い放った。
『皆様、『変身』なさいな。草は豚に食べられ、豚は人に食べられる。その人を食べるのは、我々ヴァンパイアノーブル……人以上の、素晴らしき存在! あなた方は、そうなるに相応しい人々なのですよ!』
更に、煽るように言葉を叩きつける『貴婦人』。
その言葉とともに、一般人たちは……、
『変身』し始めた。女性はもちろん、子供でも、老人老婆でも、むくつけき男であっても、徐々に体型や顔が変化していき、可憐と言えるような、女性のそれへと変わっていく。
……中々の、美人だ。胸もお尻も大きく、顔も正直、暁翔好みの可愛さ。背中から生えているコウモリの翼も、魅力を引き立てている……、
「……じゃない! くっ! ……おい、まだか!? もう扉は開けてある!」
『今……向かっている! あと少しだ……!』
パラドクス通信で、セシリーと連絡する。
ならば、もう隠す必要は無い。
「……雪華、頼む!」
「任せて下さい、暁翔さん。……皆さん!」
と、光学迷彩を解き、雪華がその姿を現した。
『……誰です? 神聖なる変身の儀式に、どこから紛れ込んだのですか!?』
驚く『貴婦人』を無視し、
「……皆さん、皆さんが食べたのは、ただの『獣肉』。絶望に沈むには、まだ早いです……貴方がたが食べたのは、人ではなく、牛のシチューですよ!」
それを聞き、変身途中の一般人たちは、
動きを止めた。しかし、変身自体は続いている。まだ信じられないのか。
『……何を、仰ってるのかしら? いえ、それより……ワタクシの邪魔をなさるおつもりかしら? そこのお嬢さん……いえ、殿方?』
雪華の姿を認めた『貴婦人』は、胡散くさそうに彼を見つめる。
ヴルタラクたちも同じように、見下すような眼差しを向けてきた。『今更何をしようが、もう手遅れだ』とでも言いたげだった。
『……そこの女装した殿方、誰かは存じませんが、ワタクシの儀式の邪魔は出来なくてよ? 牛のシチューなどと仰いますが、そこにいる方をはじめとして、多くの料理人が、彼らの家族を実際に殺し、その肉を調理しているのですからね。そんな嘘など、すぐにバレますわ……』
が、そこまで言って。
「いいや、嘘じゃない! 家族はちゃんと、ここにいる!」
扉が開き、セシリーの声がそこから響いてきた。
扉を開ける直前、
セシリーは、家族たちへ言い聞かせていた。
「いいか、これからあなた達の家族を助けるために、危険へと踏み込んでもらわねばならない。だが、扉の先に何が有ろうとも、君たちは家族へ声を届ける。それだけを考えて、それだけを実行してほしい」
小織もまた、
「皆様の大切な人たちは今、邪悪に染められようとしています。ですが……」
セシリーに続き、言い聞かせた。
「……ですが、皆様の姿を見れば、正気を取り戻すはずです。彼ら、彼女らが、どのような姿になっていても……恐れず、『声をかけて』差し上げて下さい」
そして、
「もちろん、敵が皆を傷つけないように、オレ……私達が皆を守る!」
ガートルードと、
「そうだ。安全は確保し、保証する。安心して……家族を救ってくれ」
ルキウスも、請け合った。
「……僕たちが、父ちゃんたちを守れるんだね?」
「……わかった、やっておくれ! 孫はあたしが守る!」
「……わたしも! お兄さん、いいよ!」
家族たちは、顔を上げた。それは先刻までの怯え切ったそれではなく、戦う者のそれだった。
(「いい顔だ」)
ルキウスは一秒かけて皆の顔をじっくりと眺めると、
「よし、行くぞ!」
「お願いします。今度は皆様が、愛する方々に希望を取り戻させてください!」
小織とともに、扉をあけ放ち、内部へと入り込んだ。
『!! ……なんですの? ワタクシの儀式の邪魔をするとは、何たる無礼! ……ニコライ・ズマガリエフ? いや、フリッツ・ハールマン? なぜ扉を勝手に開けた! ワタクシの許可なく、なぜ操作盤を!』
開いた扉を見て、そして暁翔が操作盤を操作して扉を開かせた事を知り、『貴婦人』は驚き慌て、
すぐに落ち着き、怒りをぶつけた。
「……失礼、レディ。あなた様は『ふたつ』、ミスを犯してございます」
うやうやしく一礼した暁翔は、
「ひとつ。私は、人肉料理人ではございません。このマスクの下のハンサム顔を見れば、お分かりになるかと」
顔からマスクをはぎ取り、自分の顔を見せつけた。
『なっ……』
再び驚いている。小気味良さと『ざまあみろ』という感情を、暁翔は感じていた。
「ふたつ。あなたが皆に食べさせたのは、我々が用意した、『ただの肉料理』! この一般人たちの家族は殺されておらず、当然食べられてもいない! みんな! 良く見ろ、みんなの家族は、全員無事だ!」
後半は、一般人たちへと叫ぶように話しかけていた。
それを聞き、トループス級へと変身しかけていた一般人たちは、
今度は変身そのものを、ブルーレイで見ている映画を一時停止するように、『止めた』。
「……お前、たち……」
「……殺されて、ない、の……?」
止まった彼ら、彼女らは、
半分トループスになりかけの状態で、家族たちの方へと向いた。
●故に、同族を食らってはならない。それはタブーであり、破滅に続く道である。
『な……これは! いったいなんですの! ワタクシは、確かに料理人に……』
『貴婦人』は再び言葉を失い、そして、
『ヴルタラク! やっておしまいなさい!』
ヒステリックに叫んだ。周囲のヴルタラクたちは、『仕事が増えて面倒だ』という態度を隠しもせず、向かってきたが、
「……させない! 残念ですが、ここから先は通しませんよ!」
身構えたガートルードの前に、立ち止まった。
(「『踏みつけ』は、使う必要は無いか
……?」)
だが、パラドクスから『防衛ライン』は引いている。ルキウスもまた、家族たちを守るように立ちはだかっていた。
「ああ、悪いが……下がれ。痛い目に遭いたくないのならな」
ルキウスの言葉に、ヴルタラクたちは『面倒ごとは御免だ』とばかりに、そそくさと下がっていく。
『なっ! 何をしてるの! ワタクシの命令に従いなさい!』
『貴婦人』が檄を飛ばすも、従う者はいない。
これ幸いと、広間内の一般人たちへ、小織が、
「……その料理は、私達が『普通の食材』で作ったもの、ですよ。お気に召しましたか? あなた方の家族は此処にいる、つまり、あなたたちは……何も、気に病む事など無いのです」
言い放つ。
「ええ! さあ、貴方達も!」
メルセデスが『士気高揚』の効果で、家族たちを高揚させる。
ガートルードもまた、
「さあ、『自分は無事』だと、呼びかけてあげて! 私達より、あなた達『家族の声』が……一番、彼ら・彼女らの心に届くのだから!」
……叫んだ。
その叫びを受け、
「父ちゃん! 母ちゃん! 僕だよ! 僕はここにいるよ!」
「わたしも! ねえ、元に戻って!」
「息子よ! わしは大丈夫じゃ!」
「お前! ばあちゃんだよ! ばあちゃんは生きてるよ!」
「あなた! 私は大丈夫!」
「妻よ!」
「父さん!」
あの、母親と姉妹の家族も、夫へ、父親へと呼びかける。
他の家族たちもまた、声を上げ、呼びかけ、訴えかけた。
「そう……あなたたちの家族は『無事』! だから、家族の元に戻ってきて!」
ガートルードの止めの一撃のように、その言葉が響き、
「……おまえ、たち……」
「……本当に、あなたたち……なのね……?」
変身しかかっていた一般人たちは、トループス級の姿から、
元の姿へと、徐々に、ゆっくりと、戻っていった。
「よし、いいぞ……!」
「ふふっ、愛しい家族の声、忘れてませんでしたね……!」
セシリーと雪華は、その様子を見て微笑み、
「……人が人を想う。その力を見くびったお前達の敗北だ、ヴァンパイアノーブル!」
「ああ……へっ、全員、戻っていくぜ」
ルキウスに暁翔は、満足げに勝利を確信した。
「どうやら、皆さんは助かりそうですね」
「ええ。やはり、ハッピーエンドは良いものです。悲劇や惨劇は……空想の中だけで十分!」
小織とメルセデスもまた、戻りつつある一般人たちと、彼ら彼女らに駆け寄る家族たちを見つめていた。
「……あとは……ヴァンパイアノーブルと、その眷属を倒すのみ!」
ガートルードは、今度は鋭い視線を壇上へ、玉座へ座る『貴婦人』へと向けた。
『……ふ、ふふふ……!』
しかし、『血の貴婦人』は、
『……儀式をかき乱しただけでなく……ワタクシの、命まで奪いますの? なんて外道、なんて非道、なんたる……無礼!』
激昂した。
『お前たち侵入者は、ワタクシ自身がこの邸内で、必ず殺してやる! この屋敷から生きて出られないと知るがいい! お前たちの死体は、後で料理して食ってやりますわ!』
そう言い放ち、玉座に座り直した彼女は、椅子のスイッチを押す。
途端に『貴婦人』は、椅子ごと後方へ滑り、開いた隠し扉の中に吸い込まれ……姿を消した。
「……あのくそ女、逃げやがったな!」
同時に、ヴルタラクたちも慌てふためいている。
『どうするのよ!』『私に聞くな! 逃げるよ!』『どこへ!?外に逃げても逃げきれない!』『じゃあどうするのさ!』『こうなったのも、お前のせいだ』『あんたのせいだろ!』
……などと、言い争いつつ、広間から大慌てで逃げていく。
「あいつらまで! どうする? 追うか?」
追おうとした暁翔だが、
「いや、今はそれより……」
ルキウスがそれを止めた。
「……見てみろ、全員、元に戻った。それに……」
トループス級から、元の姿に戻った一般人たちは、
駆けよって来た、家族たち、大切な人々と、抱き締め合った。
「よく、『勝利の美酒』と言いますけど……今はその気持ちが、解る気がします」
その様子を見て、メルセデスは呟く。
下劣なるヴァンパイアノーブルの企みは、うまく阻止できた。救うべき命も救い、離れていた家族や恋人、友人たちを、再び一緒にさせられた。
「……すべき事は、まだ残っていますが……」
「……残りの仕事も、必ず成功させてみせます!」
小織に雪華は、高揚していた。
「……さっき、厨房からこの広間に来る途中に……」
ガートルードは、思い出していた。厨房の近くには、ちょっとした書類を詰め込んだ資料室があり、そこには簡素だが……邸宅内の案内図が収められていた。
「それによると、この屋敷の内部には……奥に礼拝堂があるみたい。ちょうど、玉座が吸い込まれたあの壁の向こう側。そこからさらに進んだ場所に位置しているみたい。かなり広いそうよ」
「礼拝堂? それは、聞き捨てならないな」
セシリーが反応する。
「……やっこさん、あの様子を見たらかなり頭に来てたな。いい気味だ。あのくそ女と、とっとと一戦交えたいぜ……」
暁翔は、拳を手のひらに叩きつけた。そろそろ、奴をぶちのめしたいところだ。
「ええ。あと、ワインセラー内に捕えている、あの極悪人たちも運びませんとね」
と、小織。あの連中も、然るべき場所に運び、裁いてもらわねばならない。
「……あの取り巻きの、ヴルタラクたちはどうします? 個別に戦って倒しますか?」
「あるいは礼拝堂で、『血の貴婦人』と一緒にやっつけます? ……どっちにしても、全滅させるつもりですけど」
雪華とメルセデスが問う。
「……そうだな。だがまずは……」
彼らを助けねば。ルキウスは、自らに言い聞かせるように言った。
一般人たちと家族たち。この広間からまずは脱出させ、安全な場所まで退避させねば。戦うのはその後だ。
ディアボロスたちは、改めて誓った。外道たちから、ヴァンパイアノーブルたちから、この無辜の人々を守ってみせると。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
【スーパーGPS】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
【罪縛りの鎖】LV1が発生!
【防衛ライン】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV2が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【先行率アップ】がLV2になった!
【命中アップ】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV3になった!
湯上・雪華
絡み、アドリブ等完全受け入れ
怪我描写大歓迎
本命を倒して終わり、もいいんですが、やるなら徹底的に
禍根一つ残すことなく平らげてこそ、じゃないですか
渇望抱く伽藍、参ります
本命のところに逃げ込んでるならいいですけど、そうでないのなら追い立てて、ですね
巻き込んで倒せるならそれでいいですけど、そうでないときもありますし
どこまで逃げるんですか?鬼ごっこなんて面白くないですよ?
一般人を守りつつ、敵を排除ですよ!
せっかく取り戻したんですから、大切にしてくださいね?
御髪塚・小織
皆様をこの場所から退避させませんとね。
案内図があるのなら【スーパーGPS】を併用して最短距離で脱出を図りましょう。私達が迷わず進めば、皆様の安心感も得られるでしょう。
私達は最後まで付き添う事は出来ませんが、皆様には愛する大切な方がいらっしゃいます。それを忘れなければこれからも大丈夫ですよ。
料理人の方々も、カミサマは人の罪をお見逃しになりませんよ。御身が安寧の為にも、悔い改めなさいませ。
避難を妨げるヴルダラクは【天渦黒髪】で拘束し浄化してゆきます。
貴女方も、悔い改めれば見逃してさしあげますが、そのつもりが無いのならカミサマの御意志を優先致します。
カミサマは御怒りですよ。
避難後礼拝堂へ向かいます。
ルキウス・ドゥラメンテ
一般人の避難優先、暴れるのはその後だ
一般人及び彼らを護りに動く復讐者を庇って立ち回る
追撃の手を失くさねば彼らも安心できぬだろう?
…お前達の相手は俺だよ
おや、誰の姿を見せる心算だ
誰を見せても無駄だ
俺は俺の主君以外には興味はないし、彼女が生きている限り他の誰にも付き従う気はないし――そも、最初から生への情熱などない
残念だったな、お嬢さん
よく出来たお遊戯だったよ
此方は下手の横好きですまないが、一曲お相手願おうか
魔力の茨で絡め捕る様に動きを阻害しながら蹂躙する
女相手にどうかと思うが、戦う力も持たぬ者たちを虐げて来た罪はこれより遥かに重いと知るが良い
折角戦う力を持つならば使い方と相手は考えるべきだったな
セシリー・アーヴェンディル
【アドリブ/連携歓迎】
貴婦人を放置するのは気になるが……何よりも一般人の安全の確保だ。
安全な場所まで避難できれば、彼等も落ち着けて再会を喜べるだろう。
が、それは敵にとっても同じ事。逃げ出した先で何をしでかすか。
後顧の憂いにならぬよう、ここで討たせてもらう。
一般人を背後に守りながらで脱出を図ろう。
広範囲に【光の射手】を放ち、掃討と梅雨払いだ。
料理人共も回収しておかねばな。念入りに縛って運んでゆこう。
殺されようとしていたのだ、料理人共に思うところはあるだろう。
だが奴等が受けるべきは法の裁きであり、私刑ではない。
君達は清い選択をすると信じている。
ガートルード・シェリンガム
一般人が追われないように、一般人達が逃げた方を背にして【防衛ライン】展開
ここから先は……通行止めだ
敵は、錯覚を起こしそうな館内内装を最大限に利用するだろう
だが、それも薄暗い照明だから活きるものだろう
ならば……【照明】で周囲を照らし、陰に潜む連中を暴き出す!
照明で敵の目が眩み、姿を現した隙を逃さず、エレメント・バーストで敵群を攻撃
敵群を薙ぎ払おう
敵の反撃には、【エアライド】で空中ジャンプしやり過ごしたり、空中ジャンプした際に天井のシャンデリアを叩き落とし敵にぶつけ、反撃を妨害
敵に血肉を啜られ、
「あら……生娘のようですね
主に報告しないと」
とか言われたら寒気がするが……この子の体、大事にしないとな
メルセデス・ヒジカタ
一般人の退避をカバーする方は多そうですし……私は遊撃手として、討ち損じた敵を片付けたり、仲間の隙を狙う敵を排除しましょうか
館内の視覚的トラップに注意しつつ、邪魔な敵は不可視の一閃で斬り捨てましょう
痛いと思う前に斬れちゃうんですから……慈悲深いですよね
敵が反撃で群れて来るなら……斬り捨てた敵と入れ替わったり、倒れた敵を掴み上げて盾にしましょう
あらあら……同士討ちだなんて、不注意ですね?
仲間をカバーするのに、走ってじゃ間に合わないなら……グラップル活かして倒れてた敵をぶん投げて、仲間を襲おうとする敵にぶつけちゃいましょう
打撃にならずとも、敵に隙ができれば十分
その隙を逃す仲間達ではありませんから
嵐柴・暁翔
俺にとってはヴァンパイアノーブルの殲滅よりも被害者を出さない方が優先順位は高い
まずは連れてこられていた方々をこの洋館から脱出させるのが先決だ
厨房まで戻れば脱出経路は分かるし、ついでにワインセラーに放り込んでいた人肉料理人達も回収して一度外へ出ます
人肉料理人達は喋らせると子供の教育に悪そうなので猿轡をして再度念入りに拘束
まだ妙な事を考えていそうなら先程のヴァンパイアノーブルからの人肉料理人達への対応を伝えておきます
移動中は【平穏結界】と【光学迷彩】で姿を隠して【未来予測】で不測の事態に警戒
連れてこられていた方々には人肉料理人達を司法機関へ突き出すようにお願いしておきます
脱出を確認してから戻ります
●雑魚とは、価値のない魚、小魚、それらを指す。
「……さて、と」
広間。
一般人たちと、その家族たち。彼らは互いの無事を祝い、互いにハグし、そして……かりそめの安堵を覚えていた。
……そう、あくまでも『かりそめ』。まだ完全な安堵は無い、安心も、安全も、まだお預け。
この状況を作り出したクソったれをブチのめしたいが、それ以上に……、
「……それ以上にするべき事は、『彼らを脱出させる』こと! 連れてこられた方々を、目前の人々を、この洋館から脱出させるのが先決だ」
自分の使命を確認するかのように。嵐柴・暁翔(ニュートラルヒーロー・g00931)は呟いた。
おしなべて戦いを生業とする者は、時として『戦う理由』を見失う事も多い。戦っているうちに、脳内のアドレナリンやらなにやらが分泌し……要は、目的を見失い、『戦うために戦う』となる者も少なくない。そして……その末路は例外なく『破滅』のみ。
ヴァンパイアノーブルの殲滅より、こっちの方を優先すべき。そう判断したディアボロスたちは、一般人たちを広間から脱出させる事の優先を選択した。
「そうですね。その事を……忘れてはなりません」
と、メルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)が、彼に同意した。
剣道を幼少期から嗜んでいた彼女は、ある時に知人の道場にて。その師範からある言葉を聞いていた。彼は過去に、荒事を解決するような仕事をしていたらしいが、曰く、
『喧嘩の時に最も重要な事は、二つある。「争うのは何のためか」「どう終わらせるか」』
『それらが思いつかないなら、頭に血が上っている。これはチンピラ同士の些細な喧嘩でも、国同士の戦争でも同じだ。善悪も、どんな理由や大義があろうと関係ない』
『この二つを忘れると、戦いも終わりが見えなくなり、泥沼化する。冷静になってから考えてコトに当たれ』
改めて彼女は、それを思い出す。
「……今回のこの場合は、『この人々を守るために戦う』『彼らを避難させ、原因となったヴァンパイアノーブルを倒す』。……これらを見失ってはなりません」
二人のその様子を見て、
「……『深淵を覗く者は、深淵から覗かれてもいる』。怪物を狩る者ならば、怪物を理解せねばならないが……」
ルキウス・ドゥラメンテ(荊棘卿・g07728)もまた、二人に同意。
狩る者が獲物を理解するのは必須。しかし、深淵から覗く怪物に近づき過ぎ、深淵の怪物の同類になってしまう者も少なくない。そして、時としてこの論理を忘れる事もまた、往々にして多い。
「……でなければ、我々の方がヴァンパイアノーブルの同類になってしまう」
彼の言葉に、
「確かにそうですね。とはいえ……」
湯上・雪華(悪食も美食への道・g02423)は、かの『貴婦人』が消えた、玉座のあった場所、その壁を見て呟く。
「少なくとも、『新たな犠牲者を出さない』ように、この屋敷に居るヴァンパイアノーブル、およびその眷属をもれなく残さず『平らげる』ことも、考えておくべきかと」
そうだ。二度と彼らのような被害者、犠牲者など、出してはならない。その元凶たる存在と戦い倒す事も、また重要な事だ。
「……ともあれ、今すべきは……」
ガートルード・シェリンガム(転生者の妖精電脳騎士・g09370)と、
「ああ、暁翔の言う通り、一般人の『安全の確保』だ」
セシリー・アーヴェンディル(ルクスリア・g02681)が頷き合った。
安全な場所までの退避。それがまず、彼らにとっては重要。
それゆえ、『貴婦人』を始めとした『敵』たちからの襲撃を警戒せねばなるまい。
「そうですね……退避させませんと。ガートルードさん、『案内図』を拝借。これにスーパーGPSを併用すれば……」
『最短距離』で、脱出が図れるはず。
御髪塚・小織(オングシさまの使い・g08859)のその言葉で、ディアボロスたちはするべき事が定まった。
「皆さん、ちょっと聞いてください」
一般人たちへと、小織が声をかける。
一刻も早く、ここから逃走しなければならない。そう、一刻も早く。
一般人たちが、屋敷内の廊下を進む。
先刻同様に、移動速度が遅い。が、遅くはあっても、先刻よりも若干は早くなっている気がする。
それも当然だろう。『不安』だけだった先刻に比べ、今回は『希望』が付加されている。互いに離された大切な人と人。彼ら、彼女らは、共に再会できて、なおかつこの恐ろしい地から逃げ出せる可能性も付加された。なら、留まる必要も無い。
まだ、邸内のおぞましい内装には抵抗あるものの……彼らの歩調は違っていた。
「……大丈夫、後ろには誰もいません」
と、ガートルードが後方を警戒しつつ、一般人たちを逃がす。
「……最短距離は……思ったより、『距離』がありますね」
前方には、スーパーGPSを用い、小織が先行する。
窓や壁をぶち破って……とも思い、実行を試みたが、
窓は分厚い防弾・対爆ガラスのはめ殺し。または窓枠に絵画をはめ込んだり、壁に絵を描いただけだったりと、徹底して外に出さない、あるいは外との接点を作らないような造りになっていた。
「逃亡者を予防するため? それとも、襲撃に備えて? どちらにしても……悪趣味極まりないな」
セシリーは呆れた。だが、防備は完璧な事は認めねばなるまい。ガラスは頑丈で、破壊してできない事はないだろうが……それには時間も、手間もかかる事は直感で理解できた。
そしてその手間と時間は、自分たちにとっては敵。疲弊と疲労を呼び、一般人たちを危険にさらす。それだけは避けねばならない。
雪華、暁翔、ルキウスにメルセデスも、一般人たちとともに先へ先へと進む。
「……おっと、忘れるところだった。小織、メルセデス。俺は一度厨房に戻る」
思い出した暁翔が、二人へと告げる。
「……分かりました。外までの順路は……」
「大丈夫だ。厨房からここまでの道筋は覚えているし、それに……」
ガートルードの手にした案内図を目にして、
「……外までの道も、大体理解した。何とかなるぜ」
「なら、私も行く。ルキウス、一般人の皆の先導、頼めるか?」
「わかった、引き受けよう」
と、暁翔とセシリーは、そのまま……、
『厨房』へと向かっていった。
再び、進んでいく一行。
「……ひっ!」
不意に、内装の一つが恐ろし気な影を作り出した。それを見て、列の後ろの一般人の家族がおののくが、
「……大丈夫! こうやって『照明』で照らせば……!」
ガートルードが『照明』で周囲を照らし……薄暗い邸内に光をもたらした。
強力な、なおかつ暗闇を吹き飛ばす力強い光。それは先刻の家族たちを脅かした影をかき消し、陰鬱な像の陰影をも消し去った。
「……ほら、ただの像、ただの装飾品。怖いものなど、どこにもないわよ」
彼女の励ましに、家族たちは気を持ち直した様子で……微笑んだ。
そして、彼女のもたらした光は、
ちょうど後方の、こっそりと近づく複数の人影……ヴルダラクたちの姿も照らし出した。
『……ひっ!?』
「そこですね!」
即座に、メルセデスと、
「……ふっ」
雪華がガードに入る。
そんな彼女たち、ディアボロスたちへ、
『……あんたたち、逃げるつもりかよ!』
『ったく、面倒な事しやがって』
『どうせ逃げられやしないんだし、貴婦人様にやられるだけだっつーの。馬鹿な奴ら』
三人のヴルダラクたちは、嘲りとともに罵った。
「……メルセデスさん、雪華さん。それに、ガートルードさん」
しかし、その罵りに対し、
「……その雑魚敵の始末、任せても?」
小織は、普通の口調でそう述べた。こちらは別に、嘲りも何もなく、ごく普通。
だがそれが、より一層の『嘲り』を感じさせる。
「……ええ、任せて下さい」
メルセデスと、
「ええ。……ふふっ、排除する相手の方から来てくれるとは、良いですね……♪」
雪華、それに、
「……任せて下さい。すぐに倒して……戻ります」
ガートルードはそれらを受託。そして、
『……今、なんつった? 「排除」?』
『うっわ、マジムカつく』
『お前らの血を吸って、貴婦人様からご褒美貰うんだから! 覚悟しろくそ女ども!』
ヴルダラク三人娘は、牙を剥きだした。
その隙に、怯える一般市民たちを連れ、ルキウスたちはそのまま先へと進んでいった。
ルキウスと小織は、更に廊下を進んでいった。
あと少し、もう少し進めば、『玄関ホール』へとたどり着く。
しかし、角を曲がったその時。
「?!」
邸内の、視覚を惑わす内装。それに惑わされたルキウス、そして前方に進み出ていた小織は、
暗がりから襲ってきた、二体のヴルダラクの奇襲を受けた。
『へっばーか!』
『不意打ち喰らわせてやる! 死ね!』
そいつは……『何か』を従えているように見えた。
その『何か』とともに、牙をむき、ヴルタラクは、
ルキウスと小織に飛び掛かっていった。
●転じて、価値の低い人間も雑魚と呼ぶ。
『厨房』。
同、『ワインセラー内』。
「……おい、何やってんだ」
暁翔とセシリーが、ワインセラーの鍵を開け、中に入ってみると。
そこは『死屍累々』とでもいうべき状況だった。中には、赤ワイン同様に赤い液体が、血液が……流されていたのだ。
「……これは、ひょっとすると、だな。セシリー」
「ああ、暁翔。ひょっとしなくとも、そうだろう」
すぐに二人は悟った。『殺し合いをしたな』と。
五分前。
ニコライ・ズマガリエフ、そしてカーラ・デンケは、
自分に、死が迫っている事を実感していた。
『……もう、刑務所はいやだ! どうせなら、お前ら全員食い殺してやる!』
ババ・ケスバーグ。身長2m近くの逞しい大男。ステーキハウスの経営者で、その材料は言わずもがな。
彼は、自分から届きそうな距離に、ワインの瓶があるのを認めた。なんとか足の拘束だけを無理やり解き、足を延ばし、ワイン瓶を引き寄せ、割ると。
その欠片で自分の手の拘束を解き、自分一人だけが自由に。
そのまま彼は、周囲の料理人たちに噛みついたのだ。
檻の中の、縛られたままの仲間をあらかた食ったケスバーグは、
その怪力で檻を破り、他の料理人の方へと向かっていった。
『なあ……ズマガリエフ、お前は食っても良いか? デンケ、女の方が旨いかな……そうだ、火で焼いてから食おう。ああ、楽しみだ……ぎゃああっ!』
ケスバーグは、後ろからワインの瓶の欠片に刺されていた。
『て、テメエが……先に死ね! 俺が食ってやる……』
ケスバーグに喉を噛み千切られたその男は、まだ辛うじて生きていた。そのまま彼は、倒れた彼の背中に馬乗りになり、何度も何度も殴りつけ、そして……、
二人は動きを止め、そのまま動かなくなった。
「……なるほど、食われる側の恐怖を知ったわけか。ま、同情はしないがな」
暁翔の問いに、
『……ふん。罪を認め、情けなく命乞いをするとでも思ったか? 僕はそんなことはしない! ああ、するものか! カーラ、お前もそうだろう?……んむうっ!』
「黙ってろ」
改めて猿轡を噛ませられ、厳重に拘束されるニコライ。しかしカーラは、喋る気力を失っているかのようだった。
『……好きにしてよ。私も悔い改めなどしないけど。はっ、所詮世の中は金。金持ちしか、良いものは食べられないってわかったわ』
彼女は黙っていた。観念したのか、あるいは自棄になったのか、その両方か。少なくともニコライのように悪あがきはしていない。
「……暁翔。怪我をしている者たちは、簡易だが包帯を巻いておいた」
と、セシリー。
「包帯? 厨房に良く有ったな」
「隣の物置に、適当に入れられていたのを持って来た」
「そうか……ひい、ふう、みい……死んだのは、全体の三分の一くらいだな。そこの倒れているでかぶつは?」
「彼か? 手遅れだった。どうやら自分で拘束を解き、暴れまわったようだが……以前からのお仲間に、返り討ちに合って相打ちになったと聞いた」
「やれやれ、凄まじいな……」
ケスバーグが男と重なって倒れているのを、暁翔とセシリーは複雑な面持ちで見ていた。
「……ま、一応言っておくが。俺たちはこれから、お前らをここから助け、司法機関へと突きだす。あとそれから、逃げるのも含め、妙な事は考えるな」
……料理人たちにそう言いつつ、辺りを見回す暁翔。
彼に続き、セシリーも、
「そうだ。お前らも想うところはあるだろう。だが……お前たちが受けるべきは、法の裁きであり、私刑ではない。愚かな選択をせず、清い選択をすると信じている」
そう述べた。
しかし、
「おかしいな、何か、見当たらない気がするが……」
「ああ。何だかわからないが……」
二人はどこか、『違和感』を覚えていた。ではあっても、そうそう時間はかけられない。そのまま、皆を立たせた暁翔と小織は、
罪人たちを連れて、厨房を後にした。
「外への経路は?」
「大丈夫、チェック済みだ。……俺は、さっき申し出たようにするから、頼むぜ」
「了解した……お前ら、さあ、歩け」
セシリーに促され、ロープで手首と腰を繋がれた料理人たちは、
猿轡を噛まされた状態で、のろのろとした歩調で進み始めた。それはまるで、ムカデ競争の『人間ムカデ』。醜い人間を連結させて構成した、巨大なムカデに見えた。
セシリーが先導し、しばらく進んだが。その廊下の先に、
「……?」
セシリーは、感じ取った。『殺気』を。
メルセデス、雪華、ガートルード。
『来い! そして、殺せ!』
三人と対峙した、三体のヴルダラクたちは。周囲に……自分と同じ存在を呼び出した。
『「群れなす者」! お前らごとき、数の暴力で押し切ってやる!』
広く、不気味な廊下。その数を増やしたヴルダラクは、内装の不気味さを更に増すかのように、広がり、威嚇し、脅かしていた。
『死ね!』
増殖したヴァンパイアノーブルの眷属たちは、突進したが、
「……ご安心なさい」
鞘に収まった剣とともに、メルセデスが立ちはだかったのを知った。
そして、
『……え?』
前方の一列目の数体が、いきなり攻撃を受けたのを知った。
「……『痛い』と感じる前に、……『斬れちゃいます』から!」
最速の抜刀、抜身の刃が再び鞘に収まると同時に、
放たれた衝撃波により、ヴルダラクの半数が一気に両断され、事切れた。
「これぞ、『不可視の一閃』。お粗末様」
『ぐっ、て、てめえっ!……ぎゃああっ!』
彼女の打刀、その一閃をかわしたヴルダラクたちだが、
「やるなら『徹底的』に……。禍根一つ残す事無く、平らげてこそ! さあ、私と踊りましょう」
雪華のデリンジャーが、その弾丸が、彼女らに襲い掛かる。
『に、逃げろ……ひっ!』
先刻とは一転、逃げ腰になったヴルダラクたちへ、
舞い踊るように駆け巡り、縦横無尽の銃撃が襲い掛かった。
「……『シューティングダンス』。もう一曲、いかがです?」
つき合いたくもないとばかりに、ヴルダラクたちは逃げ出した。だが、
「逃がさない! はーっ!」
ガートルードが、逃げた先に回り込んでいた。その手には、細身の剣、『銀翼のレイピア』が握られ、抜身の刃がきらめく。
「妖精たちよ……我に力を与え給え!『エレメントバースト』!」
刃の切っ先で描いた魔法陣が、周囲の不気味な内装や絵画へと、清浄なる光を放ち、
無数の光の矢を放った。
『ひっ……』
『ぎゃあああっ!』
『そ、そんなっ……』
容赦なく、光の矢はヴルダラクたちに突き刺さり、その命を貫いた。
残りは、最初と同じ三体。あっさりと増えた分を倒され、逃げ出したヴルダラクたちだが、
「おやおや? もう終わりですか?」
その先には、雪華が、
「はあ、群れて来るから、色々と戦法を考えていたのに……。拍子抜けでした、弱すぎです。がっかりです」
そして、メルセデスも立ちはだかる。
「ええ、がっかりですよねメルセデスさん。粋がって向かってきたのに、全く歯ごたえが無く……しかもちょっと反撃したら逃げ出すとは。っていうか、どこまで逃げるんですか? 鬼ごっこなんて、面白くないですよ?」
雪華は、かぶりを振った。
「……ここから先は、通行止めだ! お前たちは、もうどこへも行けない。そして誰にも……何もさせない!」
ガートルードが、雄々しく言い放つ。
三方から囲まれ、三人のヴルダラクは、
『があああっ!』
三人で、そのまま……突撃した。
「……っ!」
メルセデスの居合の抜刀が、一人目の首を一閃。
「……ふっ」
そして、雪華の妖刀が、二人目を斬撃。
「……はあっ!」
最後に、ガートルードのレイピアが、三人目の心臓を貫いた。
だが、ガートルードに刺されたヴルダラクは、刺されたまま、近づき、もたれかかり、
『……!』
「え?……痛っ!」
最後の抵抗とばかりに、ガートルードの首筋に噛みついた。
『……あら、生娘?……へへっ、できれば主に……報告……したかっ……』
そのまま、悔し気に呻き、ヴルダラクは事切れた。
「…………」
「大丈夫ですか? ……あらあら、傷になっちゃってる」
「まったく、乙女の肌を傷つけるなんて……ガートルードさん?」
「……あ、大丈夫です。さあ、戻りましょう」
(「不覚だ。この子の身体、大事にすると誓ったのに。オレの馬鹿」)
ヴルダラクの身体を、そのまま脇へと捨て、
気も新たに、ガートルードは仲間の元へと向かっていった。
●雑魚と意味は近いが、モブとは『多数の人・動物の無秩序かつ破壊的行動』を意味する
ルキウスと小織は、一般人たちとヴルダラク二体の間に立ちふさがり、
目前のヴァンパイアノーブルの手下が放つ『それ』を、目の当たりにしていた。
『さあ……お前にも、失った『誰か』がいるだろう? ……生きていても仕方なかろう?』
『我々と同じになれ。死して……我が傀儡になるがいい!』
『死者の誘惑』。相手に、『喪った誰か』の幻影を見せ、生への情熱を奪うパラドクス。
そして、死へと誘い、ヴァンパイアへと自主的に変貌させる力を有していたが……、
「みなさん、伏せて下さい。目と耳も塞いで……あらヴルダラクさんたち、何かしましたか?」
「……何のつもりか? 誰を見せても、無駄だ」
小織とルキウスは、まったく動じなかった。
『お前ら! なぜわたしらの「死者の誘惑」が効かないのよ!』
『いくらあんたらでも、死に別れて会いたい奴の一人か二人はいるだろうが!』
予想外とばかりに、慄くヴルダラクたち。
「……確かにそうですが、私にはそれ以上に、『カミサマ』への信仰と、布教がありますので……幽世への誘いは遠慮させていただきますね」
静かに語る小織と、
「……俺は、俺の主君以外には興味は『無い』。それに、彼女が生きている限り……ほかの誰かに付き従う気も『無い』。加えて……」
ルキウス。彼は、一呼吸を置き、
「……そも、最初から『生への情熱』など……『無い』。お前達は最初から、何も『無い』ところから、何かを出すつもりだったらしいが……残念だったな、お嬢さんたち。良くできたお遊戯……にすらなってなかったが」
そう言って、微笑みを浮かべた。
「ええ……この程度で私たちと戦うつもりだったとは、呆れを通り越して、哀れにすら思います」
小織もまた、笑みを。
『な……何を、笑ってやがるのよ……』
『む、無駄ですって?』
それは、恐怖の微笑だった。ヴルダラク二人は、何かをルキウスと小織から感じ取っていた。
微笑を浮かべるだけの何かを。
『……え?』
「此方は下手の横好きですまないが……一曲お相手願おうか」
向かって右のヴルダラクに、一瞬で接近したルキウスは、
彼女の腹へと、強烈な蹴りを食らわせた。
喰らったヴルダラクは、蹴り飛ばされる前に、飛ばされる前へと先回りされ、更なる蹴りを食らう。
更に一撃、もう一撃、続き一撃。
蹴撃の連打が、ヴルダラクを襲い、理解どころか知覚すらも追いつかない。
『がっ! が、が、がっ……!』
「……女相手にどうかとは思うが……知るがいい。お前たちの『罪』をな」
『……つ、罪……? が、が、が、が、が……』
「そうだ。戦う力も持たぬ者たちを虐げて来た、お前たちの『罪』。これより遥かに重い事を知ったうえで……地獄に墜ちるがいい」
それはまるで、ワルツを踊っているかのよう。茨に絡みつかれたように、動きを『止めさせられ』たヴルダラクは、そのまま容赦無き蹴撃を食らうしかできず、許されない。
奇妙な優雅さと美しさが、連続蹴りを放つルキウスから醸し出されていた。
『な、なんなんだあいつは! 化け物!』
それを見て、もうひとりのヴルダラクは逃げ出すが、
「……貴女も……悔い改めれば見逃してさしあげます……」
小織の長い黒髪が伸び、彼女を絡めとった。
『な、なんだこれ!』
「……ですが。悔い改めるつもりがないのなら、私はカミサマの御意思を優先致します。そして……カミサマは御怒りですよ」
小織が言い放つ。
『……!』
その場しのぎで、『悔い改める』と、そのヴルダラクは言いたかった。
だが……できない。自分には、既に仕える存在、信仰にも等しい対象がいる。その彼女……『血の貴婦人』を、僅かでも裏切る事など許されない。そして悔い改めるとは、彼女を『裏切る事』に他ならない。
いや、そもそも嘘を付けない。付きたくない。なぜか、注がれるのを感じる。
自身の邪な気持ちが、邪心が、徐々に打ち払われる何か、自分にとって致命的な、神聖なる何かが、自身の身体に注がれていく。
「……ああ、お許しを……我がマスターを裏切ろうとする私に、カミサマ、どうか罰を……」
『天渦黒髪(アマウズマクコクハツ)』。小織のパラドクスは、その長い黒髪を自在に伸ばし、相手に絡み拘束し……神気を注ぎ込んでいたのだ。
それは邪心を打ち砕き、浄化していく。邪心しかない彼女に、カミサマの神気が、そこに入れられていた。
(『…………』)
そして、ルキウスに蹴られている方は、
「……折角、戦う力を持っているならば、考えるべきだったな。『使い方』と、『戦う相手』を」
そんな事を言われたが、聞こえてなかった。ダメージを食らい過ぎて、彼女自身が自ら、思考を放棄していたのだ。
そして、最後の一撃を、踵落としを決められ、
もう一人のヴルタラクは、果てた。
「……『黒蹄の円舞曲(ワルツ・カヴァリーノ・ランパンテ)』、終了。失礼、足癖が悪くてな。さて、皆さん……」
と、一礼した後に、伏せていた一般人たちへ、
「……あと少しの辛抱だ。スグに外に……案内しよう」
ルキウスは、今度は穏やかに、そう述べた。
●そして、雑魚もモブも、世界を構成する重要なピースである
厨房から離れた、廊下の一端。
セシリーは、
「……撃て、『光の射手(サギッタ・ルーメン)』!」
十字聖剣ルクスリアを抜き、接近してきたその気配へと、刃を振り下ろした。
途端に、聖剣より放たれた聖気が、弾丸のように放たれた。光の矢と化し、廊下を、不気味な内装のそこを……掃射した。
『……ひいいっ! な、なぜあたしらが……潜んでるのに気付いたっ!?』
そこには、ヴルダラクがいた。一撃を食らったためか……恐れおののいている。
「……邪悪な者は、においでわかる。こう見えても、神に仕えし聖職者だからな」
既に、『光の射手』で、二人で迫って来たヴルダラクの片方は……倒れていた。
だが、もう片方は、
『……ふん、だったらこのまま殺してやる! そこの料理人どもと一緒にな! さあ……出てこい!「血肉啜る者」!』
己の鮮血の如きオーラを用い、『何か』を作り出すと。
それとともに、襲い掛かって来た。
『…………!?』
ニコライとカーラは、自分ごと攻撃してくるヴルダラクに、恐怖を覚えていたが。
『……え? ……ぐっ、ごぼっ……』
「……『伝承顕現(レジェンダリーウェポン)』。降魔の三鈷剣を現界させた」
攻撃は、届かなかった。ヴルダラクの真後ろから、不可視の何かが、神々しい武器、宝具を手にして、彼女を貫いていたのだ。
それは次第に、その姿を……、
「……『平穏結界』をかけ、『光学迷彩』で姿を消させてもらっていた。あと……お前の襲来は、『未来予測』で対策済だ」
暁翔の姿を、その場に表した。
『……そん、な……』
倒れたヴルダラクを、脇に蹴り飛ばす。
そして、作り出された『血肉啜る者』たちも、
暁翔とセシリーの前に、全てが退治されるのだった。
周囲を見回し、敵がもういない事を改め、
「……さてと。おい、ニコライ」
と、暁翔は振り向いた。
「……逃げようとしてたな? 手首を縛られる時、ワザと力んで、力を抜いた時に隙間ができるようにしていたとはな……」
まさにその通り、彼は手首の拘束を解こうとしていた。すぐに締め直す。
「……言い忘れていたが、仮に逃げたとしても……『血の貴婦人』は、お前らを助けないぞ?」
『!?』
あからさまに『そんな馬鹿な、でたらめを言うな』といった表情を、ニコライ、およびほかの料理人たちはその顔に浮かべた。
「いや、本当だ。先刻に『貴婦人』はこう言っていた。『お前たちの死体は、後で料理して食ってやりますわ』とな」
セシリーの言葉に、今度は全員が青ざめる。
「……少なくともお前らは、あの広間の扉の開け方を俺たちにバラしている。しかも、出した料理はニセモノで、計画もうまくいかなかった。この状態で貴婦人の元に向かったとしても、助けはしないだろう」
彼女に続き、暁翔が付け加えた。
「セシリーの言う通り。むしろ……腹いせに殺すだろうな。血を吸われるか、お前たち自身がやったように、切り刻まれて料理され食われるか……。同じ処刑されるんでも、人の法律に従い絞首刑になるのと、あの貴婦人にじわじわ食い殺されるのと、どっちが良いだろうな?」
その内容を聞かされ、完全に心折れたのか。
ニコライたちは、がっくりと絶望したように、うなだれるのだった。
『邸宅・玄関』
『同・馬車小屋』
ディアボロスたちは、一般人たちと、縛ったままの料理人たちを、
多数の『馬車』に乗せていた。
「こっちの客用の馬車には、あんたらが乗るといい。……この、檻付きのやつに、料理人共は積んでおこう」
馬車の数は多く、全員が乗る分は十分にあった。
「本当に、ありがとう。あとは我々だけで、何とかなると思う」
一般人たちは、元気になっていた。特に先刻に『食事』をとっていた者達は……、
過程はどうあれ、普通に肉料理を多く食べたのだ。体力のみならず、気力と精も付いていた。
「この馬車、手入れも良いし馬の世話も良い。街に行ったら、そこでこの料理人たちを司法機関へ突き出してくれ」
「ええ。せっかく取り戻した家族……二度と離さないよう、大切にして下さいね?」
暁翔と雪華に言われ、一般人たちは頷いた。
「任せて下さい。俺は引退した元警官で、警察にはまだ顔が効く。それに、この中には弁護士の卵や貴族の知人もいる。彼らの証言があれば、この外道たちを有罪にできるはずです」
「それなら、大丈夫そうですね。私達は最後まで付き添う事は出来ませんが、どうか、カミサマの御加護が有らん事を……」
小織が合掌し、
「ええ。貴方達の避難を最優先としましたが……見届けは出来なくとも、それが出来て良かったです」
ルキウスも満足げに頷く。
「……何度も言うが、受けさせるべきは法の裁きで、私刑ではない。君たちは清い選択をすると、私は信じている。どうか、神のご加護を……」
と、セシリーもまた、シスターらしく皆へと祈った。
「どうか、気を付けて」
「その命を、大事にね」
ガートルードとメルセデスも激励し、
そして、ディアボロスたちは。
一般人たちが操る乗用の馬車と、料理人たちを詰め込んだ檻付き馬車とが、屋敷から去っていくのをじっと見守るのだった。
「……さて、最後の任務ね。とっとと礼拝堂に行って、あの生意気な貴婦人をやっつけましょう」
馬車が去るのを確認した後、メルセデスは屋敷の玄関へと振り返る。
「礼拝堂の位置は……ガートルード、さっきの案内図を……」
「セシリーさん。それより、小織さんが……」
と、彼女たちは、
小織と、
『……我が新たなマスター! 邪心が払われた今、私はあなた様の奴隷、あなた様の下僕です。どうか、ご命令を……』
その足元にひれ伏す、一体のヴルダラクがいた。
「……小織。信用できるのか、こいつ?」
暁翔が胡散臭げな視線を向けるが、
「『天渦黒髪』が注いだ神気で、瀕死の状態のようですが……まだ辛うじて動けるようです。彼女に礼拝堂まで案内させましょう」
「……そうですね。有効活用させていただきましょうか」
「倒す事になっても、そう手間はかからないだろうし、ね」
ルキウスと雪華もそう言ったため、
「それじゃ、礼拝堂まで案内を」
『はい!』
そう命じ、立ち上がった次の瞬間。
『え?……がはっ』
玄関扉が開き、槍が投げつけられていた。
『……遅いと思ったら、なるほどね。このような事をしてましたのね』
玄関扉に居たのは『血の貴婦人』その人。
彼女が投げた槍に、ヴルタラクは串刺しにされ、倒れ、そのまま動かなくなった。
倒れた彼女のその脇へ、『貴婦人』は何かを投げつけた。
それは、死体……料理人の一人、フリッツ・ハールマンの死体だった。喉笛が噛み切られていたが……それとともに、体内の血液全てを搾り取られたかのような、ミイラのような姿になっていた。
「これは……?」
セシリーの呻きに、
『それ? ああ、先刻にワインセラーから逃げ出してきた、料理人の一匹ですわよ。他の連中を見捨てて、礼拝堂まで自力でやってきて、ワタクシに助けを求めて来たんですの』
「そうか、先刻の違和感。こいつが居なかったからか。……血を、吸ったのか?」
暁翔の問いに、
『ま、あまり美味とは言えませんでしたが……おかげでお腹は満たされました。はぁ、まったく……こんな下等で無価値な人間の頼みなど、なぜワタクシが聞かねばならないのか……』
ディアボロスたちは身構え、飛び掛からんとしたが、
『あっあー、だめですわよ。焦っては……』
「「「!?」」」
動けなかった。いつしか地面から生えていた『鎖』が、全員の足を拘束していたのだ。
そのまま、彼女は手から何かを伸ばす。
それは、先刻の『槍』だった。槍の穂先を、ディアボロスたちに触れられるほど長く伸ばすと、順当に全員へと向けていく。
『ワタクシは、あなた達程度なら同時に相手しても、楽勝できますの。このまま、ここで全員殺しても構いませんが……ワタクシはフェアな戦いを好みましてねえ』
暁翔とガートルードを、嘲るように小突き、ルキウスと雪華の頬を、槍の穂先でぺちぺち……と、小馬鹿にするように叩く。
小織の髪の毛の一部を、くるりと穂先で巻き付け、数本をそのまま引き千切り、
セシリーの身体にも、その胸や太腿を、ちくちくとセクハラするように撫でてはつつく。
そしてメルセデスの顔から、眼鏡を槍の先端で引っかけ、地面へと落とした。眼鏡をかけている学校の生徒を、『ガリ勉野郎』と馬鹿にする悪ガキのような動きだった。
『……皆様。そのまま負け犬である事を認めて、ワタクシへ忠誠を誓い、道化のような不様さを見せて下さるなら、このまま見逃しても良くてよ? もしもそれが不服で、戦って殺されたいとお思いでしたら……礼拝堂までおいであそばせ』
そのまま、槍を引いた『貴婦人』は、
扉を閉めた。
いつの間にか、足の鎖も消えている。
「……野郎……認めたくないが……『動けなかった』」
しばらくして、暁翔は、口を開いた。
彼の言う通り、全員が動けなかった。鎖で拘束されているから以外にも、強烈な『殺気』、または『凄味』、そして……『覇気』のような、全身から放つ気合めいた力。それに『怯えて』はいなかったが、気圧され、動けなかったのは事実。下手に攻撃を仕掛けていたら、瞬殺されただろう。少なくとも、強烈な一撃を、致命傷になるほどの攻撃を食らったに違いない。
同じ空間に居るだけで、『支配されてしまう』ほどの気配。気をしっかり持たねば、恐らくは……今のように動けなくなり、戦いにならなかったろう。
だからと言って逃げるか? 否! 相手にとって不足はない。
「……みんな、行くぜ」
そして、ディアボロスたちは。逃げ出す者も、退散する者もいなかった。
あの女を、『血の貴婦人』を倒す。改めて皆はそれを誓い、実行せんと……、
全員が、礼拝堂へと向かうのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【士気高揚】がLV2になった!
【未来予測】LV2が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【エアライド】がLV2になった!
【照明】LV1が発生!
【一刀両断】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV3が発生!
【命中アップ】がLV5(最大)になった!
【先行率アップ】がLV4になった!
ルキウス・ドゥラメンテ
成る程、あれはどうやら随分手強いらしい
だが慢心したな
手の内を晒したことも、わざわざ此方に時間を与え、決戦への装備を見直す隙を与えたことも
一応これでも俺は騎士だよ
レディファーストで先手をどうぞ
あの槍も鎖も動きや癖は知れたし、そして残留効果の未来予知を使うなら、この縄も
記憶術とパラドクスで攻撃を読んで対処しつつ、反撃の機を伺おう
最善の…嗚呼、あちらには最悪の機を狙って
捨て身の一撃を叩き込んでやる
そう言えば先ほど何か囀ったか?
跪けよ、小娘
従おうが抗おうが、その無様さ含めて俺は一切貴様を生かす価値を感じない
主君にすら跪いたことがない様なならず者を相手に良い度胸だったと賛辞だけくれてやる
湯上・雪華
絡み、アドリブ等完全受け入れ
怪我描写大歓迎
クロノヴェータに傅け、と?
そんなことするわけないじゃないですか
私が仕えるべき主はただ一人です
貴女のような外道ではありません
手早く終わらせたいですね
では、渇望抱く伽藍、参ります
残留効果は適宜使っていきましょう
拘束される未来は回避して、縦横無尽に動き回りましょう
そうすれば他の方の攻撃に繋がりますから、ね?
それでも、腕一本はほしいところ
隙を狙って切り捨てにいきましょうか
いい声でないてくださいね?
御髪塚・小織
強敵への恐怖を、カミサマに祈りを捧げて抑え込みます。邪悪に挑む信徒に勇気をお与え下さい。
【神通黒髪】使用。金属質に肉体変異した黒髪を伸ばして操ります。
神威を宿した髪を刃に変え切り払い、身を包んで盾や鎧に変え反撃を防ぎ受け流します。髪を千切られたら矢に変えて射出、突き刺します。
神の威を宿した髪は本来不滅不壊。切られるという事は、宿り身たる私の力不足。
カミサマの力に頼るだけでは、信仰ではあれど敬愛ではありません。共に寄り添い共に歩むのが御使いの務め。
髪を指と腕に絡め、両腕を神剣に変異。
反撃を怖れず敵の懐に飛び込み、神威に自身の力を加えて舞う様に切り刻みます。カミサマは……私は、御怒りですよ。
セシリー・アーヴェンディル
【アドリブ/連携歓迎】
不躾につつき回すとは、戦ってもいないうちから舐められたものだ。
道化というなら、コメディのような椅子の仕掛けで逃げる貴様の方が余程滑稽だったぞ。
貴婦人ともいえぬその振る舞い。叩き斬ってやる。
これまで数多の強敵と戦い、まだ道半ば。ならばここで気圧されている場合ではない。
満たせ。【光の渦動】。身体に聖気を満たし、力を込めて柄を握る。
たかが縄で私達を拘束できると思うな。動きを予測し、剣で細断する。
捕らえられようものなら、聖気を集中させ力任せに引きちぎる。
私達を犬のように服従させられると思うな。
ガートルード・シェリンガム
礼拝堂で待つ……ねえ
じゃあ、あとは坊主の手配さえ済めば、すぐにでも……あの貴婦人とやらの葬式が出せるわけだ
手間が省けるが……葬式出してやる義理もないな
床や壁、物陰から伸びてくる鎖や縄を見つけやすいように、周囲を【照明】で照らしつつ、【未来予測】で鎖や縄の軌道を読み、【エアライド】で空中ジャンプし回避
仮に鎖に囚われても、奴の悪い癖……獲物を嬲りたがる癖が出て、油断させられれば……仲間が付け入る隙ができる
嬲った傷の血を舐めて、「生娘だ」と目の色を変えたりするなら、隙だらけでしょう
隙をみて、仲間の攻撃とタイミングを合わせて、セイクリッド・クルセイドでかつての同胞達の力を借り敵を攻撃
いざ進め同胞達よ!
メルセデス・ヒジカタ
まあ、別に眼鏡がなくても……気配や殺気である程度わかるんですけどね
あと、見辛いので目を細めるせいか……目付きが悪くなっちゃうんですが
さて、獲物を追いますか
礼拝堂に着いたら、嫌がらせと挑発兼ねて、礼拝堂の装飾や絵画を叩き斬り、敵の怒りを誘ってみる
(事後に【建物復元】で直す旨は事前に仲間に知らせておきますが)
敵が怒って縄を放つなら、【未来予測】、【エアライド】を活かし先読みと緊急回避で逃げつつ、【アイテムポケット】から厨房でくすねてきた小麦粉を敵にぶちまけてみましょう
一瞬でも目潰しできたら、その隙に敵の縄を敵自身を縛るように誘導し、敵が引っ掛かるか狙いに気付いたところで秘儀・矢追流を叩き込みましょ
嵐柴・暁翔
……みんな、行くぜとくるなら俺達の戦いはこれからだ、とお約束を入れておきます
格上相手に無謀ともいえる戦いを挑むなんていつもの事だしな
それにしても吸血鬼が礼拝堂で待つとはいい趣味をしているというか何と言うか…
どんな神に祈る場なのかは知らないけど血や戦いを好む神なのかねぇ…?
『長剣』と『銀の剣』の二刀を構えて《悪魔合体》を発動
大天使姉妹の力を借りて戦います
礼拝堂で異教の天使を呼ぶというのも皮肉が効いているけどまあそれはそれで
愛を形にしたのがさっきの槍だとすると随分と刺々しい愛情表現だねぇ…
男としては槍で女性を貫きたいけどそっちの趣味もあるのか…?
吸血鬼相手ならそれらしく二刀で十文字斬りを仕掛けます
●弱肉強食が世の常。強き者が弱きものを食らうは定め……とは限らない
邸宅・玄関。
扉が開け放たれ、玄関ホール内部の様子が外に露わになる。
おぞましき内装、飾られた恐ろしきオブジェや絵画は、相変わらず異様にして異形なその姿を見せていたが……、
ディアボロスたちは、そんな外観『だけ』の恐ろしさなど、今はまったく気にしていなかった。異様だから何か、おぞましい外観がどうした。
たった今、それ以上の邪悪な恐怖と相対したのだ。見た目が整っているが、内面が醜くおぞましい存在と相対し、その恐ろしさを体感させられたのだ。そして、恐ろしさのみならず……侮辱され、屈辱を与えられた。
おそらく『普通』なら、その恐怖に屈し逃げ出すか服従するだろう。しかし……彼らはディアボロス。特殊な力を有し、それを振るうべき事を心得ている者たち。
恐怖と相対したならばそれに立ち向かい、倒す者。もしも恐怖する事があるなら、それは敗北ではなく、立ち向かえず戦わぬ事に他ならない。
「……慢心、したな」
ルキウス・ドゥラメンテ(荊棘卿・g07728)が、呟いた。
手ごわい事は、理解した。放つ覇気、凄味、怖気、存在するだけで、弱き者は言いなりになり……死す事すらもおかしくはない。その事も理解した。
しかし、『理解する』という事は、敵の情報を得た事と同じ。敵は……手の内を晒した。加えて……時間を此方に与え、決戦への装備見直しもできるように。
「……ええ、慢心しましたね」
湯上・雪華(悪食も美食への道・g02423)もまた、静かに呟く。彼は微笑んでいたが、それは親愛や楽しさの笑みではなく、怒り心頭が極まった結果に浮かんだ『笑み』、人が原始的な生活を送っていた頃の、威嚇としての『笑み』であった。
「……カミサマ。不滅不壊な、神の威を宿した髪を切られました。宿り身たる私の力不足を、どうかお許し下さい。かの敵に恐怖を一瞬でも感じた自分の弱さ、愚かさを、どうかお叱り下さい」
祈りの捧げているのは、御髪塚・小織(オングシさまの使い・g08859)。
「そして、邪悪に挑む信徒に対し、どうか勇気をお与えください。畏み申し上げます……」
彼女の様子を見て、
「主よ、悪を討ち取る力が、我に与えられん事を。我らが主によりて願い奉る」
同じく、神に仕える存在、シスターである、セシリー・アーヴェンディル(ルクスリア・g02681)もまた、祈りを捧げていた。
「……それにしても、不躾に突き回すとは。戦ってもいないうちから、舐められたものだな」
だが、『舐める』という事は、ルキウスが言っているように『慢心した』という事でもある。気圧される気配があろうとも、そこに付け込んで……確実に倒してやろう。力に慢心し、弱者に逆転される強者……。
「私たちを道化と呼ぶなら、道化芝居のオチにはぴったりじゃないか?」
セシリーが考えている横では、
「礼拝堂で待つ……ねぇ。じゃあ、あとは坊主、または司祭や神父の手配さえ済めば、すぐにでも出せるんじゃあないか……ないかしら? あの『貴婦人』とやらの『葬式』が」
ガートルード・シェリンガム(転生者の妖精電脳騎士・g09370)がそんな事を口にするが、
「……いや、聖職者は既にここにいた……いましたね。とはいえ、葬式出す義理も無いし、そのつもりもないですが」
そんな彼女に、
「……まあ、考えようによっては、これも葬式とは言えるんじゃないでしょうか? ……あの女をこの世から別れさせ、ぶちころ……もとい、あの世への旅に送り出すお手伝いをするんですからね」
と、メルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)が眼鏡をかけ直し、相槌を打つ。
「……フレームやツルが、折れたり曲がったりは……してないですね。まあ、眼鏡が別になくても、気配や殺気である程度は敵の位置はわかりますが」
とはいえ、見づらいために目を細め、目つきが悪くなってしまうようだが。
「それじゃあ皆さん、行きましょうか」
眼鏡を直したメルセデスに続き、
「ああ、行こうぜ! 俺たちの戦いはこれからだ!」
打ち切りマンガの最終コマで語られるようなセリフを、嵐柴・暁翔(ニュートラルヒーロー・g00931)は言い放った。
邸内。
『礼拝堂』への道筋は、少し迷ったものの……すぐに分かった。
扉を開けた一行は、内部を改める。
そこは確かに礼拝堂だったが……邸内の他の部屋と同様、不気味だった。
広さは、体育館ほどもあり、天井も高い。
正面の祭壇には、外の光を取り込むステンドグラスがあった。が、取り込まれる光は、不気味な輝きになるよう調整されていた。見ていると、不安になるのだ。
壁に書かれた宗教画は、淫らなそれ。正面に掲げられた十字架や聖人の像にも、淫猥かつ冒涜的なアレンジがなされている。よく見たら、十字架は上下逆さまの、いわゆる『逆十字』。
(「聖ペトロ十字……ではないな。おそらく、アンチクロス……十字架を上下逆にする事で、神を否定し冒涜する意図があるのだろう」)
と、セシリーは推測。
天井から下がっているのは、大きなシャンデリア。
そして、礼拝堂の正面。祭壇には、
『血の貴婦人』その人が、これから説教を始めるかのように、壇上に立っていた。
その顔に付けているのは、やはりおぞましき『仮面』。ナポリのマスカレードのような、悪魔を模したそれを被っている。
『……俗に、『黒ミサ』と呼ばれる、サタニスト(悪魔教信者)の宴の事は、御存じないかしら? 魔女の宴『サバト』と似てるけど、ちょっと違うのよね』
彼女は先刻同様に、残忍かつ冷酷、かつ強烈な気配を発している。
『『黒ミサ』は、中世におけるヨーロッパでは、悪魔を崇める者たちが行ったもので……そこのシスター』
と、セシリーを指差し、
『……彼女が信じる神。その宗教は、他の神々を全て『悪』『悪魔』と決めつけてたのよね。で、その反抗心から、その宗教が行う『ミサ』を汚し、神やその教義・道徳に反抗するために行った儀式、それが『黒ミサ』。……故に、ワタクシも自宅の礼拝堂を、このようにしてるわけよ』
「…………」
ルキウスは、そいつの言葉など聞いていなかった。否、聞いてはいたが、聞き流していた。
むしろそれより、礼拝堂内を注意深く観察していた。ただ『見る』だけでなく、情報を得るために『視る』。そうする事で状況を理解するのみならず……状況が変化した際にも、対応できるように。
「……まだ続くんですかね。この……我を退屈させる説教は」
小さく呟く雪華。しかしそんな彼でも、いきなり飛び込むような愚は犯さない。
それは、小織も同じだった。
自身の髪の毛に、長く伸びた黒く美しい長髪に、そっと指を絡める。
「……カミサマ。戦いに赴く私に、どうか勇気をお与えください」
と、祈る彼女。その黒髪は、静かに……伸びていた。
「……それで?」
セシリーは、あえて挑発するような口調で、『血の貴婦人』に言い返した。
「それで、その御高説がどうかしたのか? 我が神と、その教義が気に入らない。だから反抗したい。そこまではわかるが、どれがどうかしたか?」
『なら、人の思想や嗜好も同じでなくて? 人を殺すな、人を食うな。そんな下らないモラルに縛られているから、進歩も進化も出来ない。なら、そのモラルを壊し、新たな存在に昇華して、何の問題が?』
「……問題あるな。お前は単に、美しいものを壊し、穢し、他者を蹂躙し、自分の思い通りにしたい。そしてそれを楽しみたいだけだ。その欲望を正当化するために、秩序を壊し、道徳や善意を嘲り、それらしい事を声高に述べて扇動する。詐欺師やペテン師、活動家や扇動者が良くやる事だ」
『……まったく、その程度の見識しか持てないから、人間は愚かで下劣なのですわ。ま、ワタクシの高貴な思想を理解できないから、道化のような下等な存在なのでしょうけど』
言いつつ、『貴婦人』は……強烈な『気配』を放ってきた。先刻同様、もしくはそれ以上の、強烈な『気配』。部屋全体が、おぞましき気配に満たされていく。
「……道化? ああ、そういえば先刻。広間で道化を見たな」
『?』
セシリーは言い返した。身体に己の、聖なる力を、己の気力と、信仰とを振り絞り、室内の覇気めいた気配に気圧されぬように反抗しつつ、言い放った。
「その道化は、コメディ劇のような、仕掛け付きの椅子に座っていた。そして恐れをなして、高座の後ろへと引っ込んでいき、逃げ去った」
『……』
「そういえば、私達を道化呼ばわりしたどこかの貴婦人もいたっけな。しかし、逃げた無様な道化……そちらの方がよほど滑稽で……不様だったぞ」
途端に、先刻の槍が、どこからか放たれていた。セシリーはそれを、聖剣で軽く弾き飛ばす。
「……おや、気に障ったかな。だが、感謝する。その程度の見識しか持てないから、どこぞの貴婦人は愚かで下劣……という事が、実証できたからな」
『……ふ、ふふ……ワタクシをそこまで愚弄するとは』
声だけでも、『怒り』が伝わってくる、『貴婦人』の言葉。
『愚かなだけでなく、自殺志願者だったとは。良いでしょう、容赦なく殺してあげますわ!』
「はっ、フェアな戦いを好むとか言ってたのは、どこのどいつよ」
「まったく……いわゆるダブスタくそ女ってやつね、彼女は!」
と、既にガートルードとメルセデスは、室内に入り込んでいた。礼拝堂内部は広く、普通は置かれている長椅子などは置かれていない。つまり……戦いの邪魔になるものはない。
「ま、こんな奴にフェアを期待する方が間違いだろうよ!」
暁翔も、彼女たち二人に続いた。
その後ろから、セシリーとルキウス、小織と雪華も、ともに室内に入り込んだ。
途端に、扉が閉まり……そのドアノブも、どこからか伸びてきた縄により、がっちりと縛り上げられた。
『言ったはずですよ。ここに来るという事は、ワタクシに殺される事だと。では……処刑を始めましょうか!』
仮面をかぶったままで、壇上の『貴婦人』は、
肩を震わせつつ、笑った。
「くっ……」
セシリーは歯噛みし、
(「……ここまでは、『作戦通り』。はたして……うまく引っかかってくれるか……」)
そう考えつつ、『貴婦人』を睨み返した。
●強者は勝者ゆえに、驕りが生まれその場で停滞する
『行け、『不浄の鎖』!』
礼拝堂内、壁や床、天井から、呪われた鎖が伸びる。しかし、雪華とメルセデス、ガートルードに小織が駆け出し、肉迫する。
鎖の動きは素早いが、躱せないほどではなく……、
四人は鎖の絡みつきを、ことごとく回避していく。
「『照明』で、明かりは任せろ!……任せてください!」
言いつつガートルードは、周囲に光を放ち、『未来予測』で鎖の動きを見切っていく。
「……っと! 縄にも気を付けて!」
言いつつ、メルセデスもエアライドで空中を駆け、さらに回避。
(「……くすねてきた『アレ』、通用するかしら?」)
などと考えつつ、違和感を覚えていた。壇上の『貴婦人』、仮面を被っているために表情が見えないが、ほとんど動いていない。そして近づこうとすると、触手のように椅子や壁、床から伸びる『縄』や『鎖』が邪魔をする。
「……隙を狙い、切り捨てる……とは、簡単にいきそうにないですね」
妖刀を構え、縄を切り裂き鎖を払う雪華だが、切り込むべき目標が見つからない。
「ええ……今度こそ、この神威を宿した髪で……」
小織もまた、己の長い黒髪を刃に変え、切り払うも……状況は正直、芳しくない。
『貴婦人』は手加減しているのか、或いはこちらの体力が尽きるのを待っているのか、
壇上に近づけさせないのだ。
そして、
「……どうにも、気になるぜ」
「……そうだな。壇上のあれもそうだが」
「……ああ、確かにこれは、気になる」
暁翔とルキウス、セシリーは、四人から離れ戦況を見守っていた。
おそらく、彼らの『予測』、そして事前に皆で話し合っていた『予測』と、それほどかけ離れていないだろう。
『ほらほらどうしたどうした、飛び跳ねるだけですか? ワタクシに近づけもしないじゃないですか! それでよくもまあ、大きな口が叩けたものです!』
嘲りの言葉とともに、『貴婦人』が放つ縄と鎖の動きが、徐々に激しくなる。
(「確かに、このままでは……」)
捕まるのも時間の問題。そうなる前に……、
仲間に目くばせした小織は、
自身の伸ばした髪を握り、突進した。
『まずは、その長髪の女から……!』
足元からの鎖を、跳躍しつつ小織は躱す。
「くっ……! なんて、素早いのかしら!」
「敵は……本当に性格が悪い!」
「全くだ……全くです!」
メルセデス、雪華、ガートルードが、小織を守らんとするが、鎖と縄がそれを許さない。
やがて、壁から伸びた縄が、
「……!」
蛇、または触手のように、小織へと絡みついた。
『捕まえた! まずは一匹目……!』
と、容赦なく……縄を締め付ける。が、
「いいえ、捕まってません! それに、締められてもいません!」
小織の身体には、既に自身の髪が、彼女自身の黒髪が長く伸び、自分の身を包んでいたのだ。それだけでなく、
『!?』
縄が、切り払われた。
絡みついた『縄』を、小織は『刃に変えた髪の毛』を用い、切り払ったのだ。
「『神通黒髪(カミトオリノコクハツ)』、お願い奉る、来臨恵光守護し給え……!」
己が黒髪に神威を宿す、小織のパラドクス。その黒髪は、刃となり切り裂き、鎧になりその身を守る。攻防一体の攻撃手段となっている。
『生意気な! その髪、切り取ってやる!』
しかし、鎖が絡みつき、刃と化した髪の毛が……折り取られた。
「……狙い通りです。はっ!」
ではあっても、小織は焦ることなく……折られた紙を、そのまま矢に変え……、
放った。
『……ひっ!』
壇上の『貴婦人』の胸に、それは突き刺さる。
「……もらった!」
と、接近したメルセデスと、雪華とが、
『貴婦人』の胸に、打刀と妖刀の刃を突き刺した。
「やった! やりましたねみなさん!」
ガートルードが快哉の声を上げ、
『ぎゃああああっ!』
『貴婦人』は、断末魔の悲鳴を上げた。
が、
『……と、悲鳴を上げるとでも?』
悲鳴は途中で止まり、嘲りの口調が再開。
「「「!?」」」
暁翔、ルキウス、セシリーは周囲を見回し、
「……これは!?」
「……まさか!」
小織とガートルードは戸惑い、
「……これは、やはり……?」
「……やっぱり、そういう事ですかっ……!」
メルセデスと雪華は、自身の刃から伝わる、手ごたえの『軽さ』から、悟った。
『貴婦人』の顔から、仮面が落ちる。そこにはあの顔は無く、あるのは……かつらを被った『蠢く縄の塊』にすぎなかった。
今まで彼女たちが戦っていたのは、『服を着て、かつらと仮面を被っていた、縄の塊』だったのだ。
『お馬鹿さん、お莫迦さん、おバカさぁぁぁん! 必死に戦っていたのが、『縛り上げる縄』で動かしていた、ただの縄の塊に過ぎなかったとはね!! 何たる不様、何たる間抜けさ、何たる愚かしさ! 正に道化! これは実に見もので傑作でしたわぁ。褒美をやりたいくらいに!』
嘲笑が哄笑となり、そのままメルセデスと雪華は、囮になった『貴婦人』から伸びた縄に……がんじがらめにされてしまった。
「くっ……」
「ひゃっ……!」
流石によけきれず、縛られ床に転がされる二人。
『あっあー、おバカさんがもう一匹いましたわね、逃がしませんわぁ』
「しまっ……あああっ!」
と、ガートルードにも絡みつき、縛り上げる。
『さて、そちらの髪が長いだけの異教徒は……どう料理して差し上げましょうか? リクエストあるなら、聞いてあげてもよろしくてよ?』
けらけらと、耳障りな笑い声が礼拝堂内に響く。
『ああ、楽しいですわあ。ワタクシ、こうやって自分の圧倒的な力を見せつけ、莫迦で無力な取るに足らない虫けらの心を折り絶望する様を見ると、心底ぞくぞくして、エクスタシーを覚えますの。正義だの大義だの、善玉を気取る退屈で間抜けな連中は、いつもいつもいつもいつもいつも、こうやって単純な罠に完全に完璧に引っかかり、ワタクシに簡単に討ち取られるのですから、話になりませんわぁ。同じオチの道化芝居を見せられ続ける、こちらの身にもなって頂きたいですわねえ』
「……くっ」
縄に縛られ、床に転がされたメルセデスと雪華、ガートルード。
助けようとする小織だが、礼拝堂の両側の壁から伸びた鎖に両手を取られ……動きを封じられた。
『はい残念。助ける、とかさせませんの。さあ、誰から殺しましょうか? 髪の毛で楽しませてくれた礼として、アナタに選ばせてあげましょう。ワタクシ、なんて親切』
声のみが響き、本体の『貴婦人』は姿を見せない。
『それにしても、周囲の従者も、奴隷も、その全てが愚か者ばかり。ワタクシのような完璧な存在の側にいるべきなのは、もっと優れた者でなければ……そうは思いません……え?』
そして、『貴婦人』その人は、
傷を、ダメージを負っていた。
礼拝堂の天井から下がっているシャンデリアが床に落ち、壊れ、
その中心部には、『貴婦人』その人がいた。
●弱者は敗者ゆえに、進化し進歩し成長する
『な、な……なにをした!』
「なにを? お前が隠れていた『天井のシャンデリア』へ、私が飛び乗り、お前に一撃を食らわせただけだが何か?」
セシリーがルクスリアの剣先を向けている。
『光の渦動(ウェルテクス・ルーメン)』、聖気で満たされたセシリーならば、天井のシャンデリアまで跳躍する事など造作もない。隙を伺っての一撃を食らわせたのは確かだが……それでも致命傷を負わせる直前に気付かれ、急所は外れてしまった。
『なぜわかった! お前たち如きが……』
「お前が玄関で俺たちを殺さなかった時から、『礼拝堂に俺たちを呼び寄せて、隠れて不意打ちする』って意図は予想できてたんだよ。あの時のやりとりで、お前の性格悪いとこと、油断を誘うってとこは分かってたしな」と、暁翔。
『だ、だが! ワタクシがシャンデリアに潜んでいる事を、なぜ見抜けた……』
「ガートルードが、先刻に厨房の隣の資料室から、邸宅の案内図を手に入れていた。この礼拝堂は、邸宅の中庭の内部に建っており、周囲は中庭の花壇。隠し部屋は見当たらない。先刻に確認済みだ。そして実際に内部も観察させてもらった。そして……」
ルキウスが、視線を上へと向けた。
「そして、これらの事実から。『礼拝堂全体を見渡す事が出来、なおかつ侵入者から隠れられる場所はどこか?』 その解答は『天井。または、そこから下がっているシャンデリア』。そこ以外にはない。単純な推理と、事実の積み重ねから生じた結論だ」
『……お前達ごときが、ワタクシを出し抜いたと!?』
「そういう事だな。勝ち誇り、得意げになったその時点で……お前は敗北への道を進んでいた。それに気づけなかったのは、お前だけだ」
ルキウスの涼やかにして鋭い目が……『貴婦人』を見据える。
『……認めない! 認めないわぁっ! ワタクシをこの程度で出し抜いたと思いこむな! たかが人間が……いい気になるんじゃねえっ!』
先刻の覇気・殺気に、怒気をミックスし、『貴婦人』は突撃した。
その手には、『歪んだ愛』……エネルギーを凝縮して作り出した槍が。『貴婦人』はそれを振り回し、床に叩きつける。途端に床板が砕け散り、破裂したように抉り飛び、吹き飛んだ。
『死ね! 死ね死ね! 死んじまえ! 殺してやる! ブチ殺してやるわ!』
怒りに任せて槍を振り回すが、その動きは素早く、その一撃も重く強力、そして正確。一番近場に居た暁翔へと、『貴婦人』は槍を向け叩きつけてくる。
暁翔は、
「どうした。余裕がなくなったじゃねえか……セシリー、ルキウス。縛られてる皆を頼む! このヒステリー嬢ちゃんは……俺に任せろ!」
と、両手に剣を構え、二刀流で槍に立ち向かう。
「……この『長剣』と、『銀の剣』で……『発動』するッ!」
剣で受け止めた暁翔は、
「……悪魔合体プログラム、起動! 召喚!『セレスティア』!『アリスティア』!」
己のパラドクス、『悪魔合体(フュージョン)』を起動させた。
契約した大天使の姉妹、『セレスティア』と『アリスティア』が、呪われし屋敷の礼拝堂に降臨。暁翔の身体に合体した。
「いくぜ、お嬢さん!」
暁翔の二刀が、『貴婦人』の槍と切り結ばれる。彼女の持つ槍は柄が太目で、薙ぎ払うたびに周囲の壁や窓のガラスなどが叩きつけられ破壊される。刃も長く幅広のそれで、柄頭での突きも強力。
しかし、大天使二人と合体した暁翔の技量や力量も、それに劣らない。重たい槍の一撃をかわし、懐に入り銀の剣の一撃を切り込む!
『……ひっ!?』
「もらった! ……ヴァンパイアには十字架! 昔から……それは変わらないぜ!」
その一撃は、二刀の二斬。大天使の力とともに、十文字斬りが炸裂し……、
『ぎゃあああああっ!』
『貴婦人』から、偽りなき痛みの悲鳴が上がった。
だが、
『ワタクシに……よくも傷をつけてくれたなああっ!』
片手にもう一つの槍を形成し、『貴婦人』は暁翔へと突きかかったのだ。
「……ちっ!」
なんとか二刀を合わせ、それをかわす。だが二槍になった『貴婦人』からは、距離を取らざるをえなくなった。
『……いい気になるな! 殺す! 惨殺する! 虐殺してやる! 抹殺の対象だ! 殺害対象だ! 殺す! 殺す殺す!』
その形相は、まさしく吸血『鬼』。すました先刻までのあの顔はどこにもなかった。
「……! いい気になるな、だと? 人のことが言えるのか?」
十字聖剣を、ルクスリアを手にしたセシリーが駆けつける。だが、後方からの攻撃を、手にした二つの槍の片方で『貴婦人』は受け止めた。
『うるさい! ワタクシが正義! ワタクシの判断こそ絶対! ワタクシに逆らうものは神も悪魔も、全て殺す!』
一人で二つの槍を操り、暁翔とセシリーの二人と切り結ぶ『貴婦人』。
『絡め! 『鎖』!『縄』! ワタクシを愚弄した奴らは全員殺す! 何度も殺す! 殺す殺す殺す!』
怒り狂った彼女の一撃は、雑になったが……その分強力に。
空中から現れた鎖が、セシリーに打ちかかる。『光の渦動』の威力で、それらを超人的な技量で回避するセシリーは、そのまま剣で切り付けるが、『貴婦人』はそれそらも受け止め、反撃してくる。
(「このままでは……『光の渦動』の持続時間が
……!」)
このパラドクスは、放出する聖気をセシリーの体内で圧縮。それを用いて身体能力を一時的に上昇させるもの。しかしその反面、使用後は反動で動けなくなる。
そして、長時間の使用はできない。更に加えて、予想以上に……『貴婦人』は食い下がっている。
(「くそっ。確かに……まずいな!」)
焦りは、暁翔も同様。今は『貴婦人』は怒り狂い冷静さを失っているが、冷静さを取り戻したら……勝ち目は低くなる。
つまり、素の彼女はそれだけ強力だったという事。大口を叩くだけのことはある。
だからこそ、今この場で倒さねば!
「! もらった!」
「隙あり!」
暁翔の剣が、彼女の右腕を、
セシリーのルクスリアが左腕を、それぞれ切断した。
両腕を失った『貴婦人』だが、
『……まだまだぁぁぁぁッ!』
彼女は『縄』を大量に生じさせ……先刻の壇上のような『偽物』を大量に作り出した。彼女らのその手には、それぞれ槍が。
そして『貴婦人』本人は、失った両腕に『鎖』を生やし、
「うわっ!」
「くっ! しまった!」
右に暁翔を、左にセシリーを巻き付けて、捕縛してしまった。
『約束通り……お前達、殺す!』
そのまま容赦なく、鎖が閉まり、暁翔とセシリーを締め上げた。
●強者と弱者の立場は不変ではない。状況は変化し、それは神のみぞ知る
『……お前たち、褒めてやる。このワタクシを、ここまで追い詰めるとはね』
先刻の嘲るような口調を改めた『貴婦人』が、そんな事を口にした。
『ワタクシが、いかに敵を見下し、甘く見ていたか。思い知らされました……その事に感謝するわ』
まずい。『獲物を嬲りたがる癖』、『見下す癖』が、改められてしまった。それはつまり、付け入る隙が『無くなった』ことと同義。
「……だ、だったら……この鎖、外しちゃくれねえかな」
「……ああ、この周囲の『縄』で作った偽物も、引っ込めてくれるとありがたい」
暁翔とセシリーのその言葉に、
『……いいえ、敵として、一撃で、確実に殺させてもらう。覚悟』
ぎり……と、鎖がきつく締まり……その命を搾り取らんとした。
(「……やばい、『悪魔合体』が解けちまいそうだ
……!」)
(「……『光の渦動』、限界だ……! このまま強引に
……!」)
セシリーは、聖気を集中させ、強引に鎖を引きちぎったが、
「……くっ!」
限界が来た、力が抜けてしまったのだ。
だが、そこに。
『……何奴!?』
「志半ばで散った同胞達よ……我が敵を平定し、民に安寧を齎し給え!」
解放されたガートルードの、『セイクリッド・クルセイド』。名も無き聖戦士たちの幻影が、周囲の偽貴婦人たちへと襲い掛かったのだ。
清浄なる武器を手にした聖戦士と、歪な愛の槍を手にした邪悪なる貴婦人の複製達が、衝突する。
「雑兵を増やしたようだが、こちらも手数は増えている! ……かつての我が同胞たちの力、受けるがいい!」
ガートルードもまた、縄の偽物たちへと切り込んだ。
彼女に続き、
「……カミサマは……そして、私は……お怒りですよ。その怒り、受けて頂きます」
小織が指と腕に、己の長く伸ばした黒髪を絡め、両腕を……神剣に変異させた。
「……参ります!」
彼女もまた、ガートルードとともに、縄の偽物へと切り込んでいく。
「……たーっ!」
銀翼のレイピアが、『セイクリッド・クルセイド』とともに、煌めきつつ敵の群れを突き、切り裂くとともに、
「……はっ!」
小織の両腕の神剣、髪より生じた神の刃もまた、縄の偽物たちを、偽貴婦人たちを薙いでいく。その刃は、日本神話の草薙の剣のよう。そしてその剣技は、巫女が神楽を舞うかのよう。
「……すまない。縄が固く、中々切断できなかった。だが……全員助け出した!」
と、ルキウスが戻り、
そして、
「……先刻と違い、本物のようですね。改めて……渇望抱く伽藍、参ります」
雪華と、
「暁翔さん、セシリーさん、今助けます!」
メルセデス。
妖刀と打刀が、暁翔を捕えた『鎖』に打ち込まれ、
それを切断した。
『まだだあっ! 両腕を失ったところで、ワタクシはへこたれぬわああっ!』
再び新たな鎖を、今度は大量に生やし、大まかな腕のような形にする。そのまま、十本指ならぬ十本の鎖を、手の先から長く伸ばした。
『貴様らも、油断ならない敵と知った! 故に全力で殺す! 死ね!』
が、メルセデスはその鎖の動きを先読みし、突撃。
「こっちですよ、破っ!」
そして、雪華のフェイントで一瞬注意が逸れたその隙に、
「……厨房からくすねた『これ』、返しますよっ!」
メルセデスは肉迫。『アイテムポケット』に入れていた『それ』を、『貴婦人』の眼前にぶちまけた。
『……!? な、なんだっ!?』
一瞬にして、白い煙幕のようなものが広がる。
「あれは……なんだ? 白い粉?」
「……小麦粉?」
暁翔とセシリーの言う通り、それは粉……メルセデスが厨房から失敬した『小麦粉』だった。
それをいきなり眼前にぶちまけられ、目つぶしと同時に、目くらましになり、
「……貪り喰らえ。『空虚(ウツロ)』!」
後ろから、雪華の一撃が。
ガードしきれず、『貴婦人』は右腕にそれを受ける。途端に、
『……な、なんだっ! 鎖が……錆びる! 蝕まれるっ!』
呪われた不浄の鎖が、『貴婦人』の右腕になっている鎖の塊が、腐食するかのようにボロボロに崩れ落ちていった。
続けて、
「……我が秘儀、冥途の土産代わりに味わいなさい!」
メルセデスの闘気が、一気に剣戟とともに放たれた。
『秘儀・矢追流(ヒギ・ヤオイナガレ)』。強力なその刃の一撃は、『貴婦人』に直撃し、袈裟懸けに切り裂いたが……、
『……まだまだあっ!』
まだ、死ななかった。まだ『貴婦人』は、この世にしがみつくかのように、倒れず立ち続ける。
「……酷いじゃじゃ馬も居たものだ」
と、彼女の前に、ルキウスが立ちはだかった。
「……メルセデス、雪華。二人は、周囲の縄の塊の始末を頼む。これの始末は……俺が」
と、彼は二人を下がらせた。
「さて……先ほど、何か囀ったか? 跪けよ、小娘」
『……ふん。確かにダメージは喰らったが、ワタクシはまだまだ死なぬ! 来るか? ならば来るがいい! お前へ全力を叩きこんで殺し、その後で他の者どもを殺してくれよう!』
もはや、先刻までの余裕は、彼女から感じられなかった。あるのは、荒々しくも猛々しい、戦闘への意欲のみ。
「従うつもりはないようだな。まあ、従おうが抗おうが、その無様さを含め……俺は一切貴様を浮かす価値を感じない。ただ、一点だけ……」
と、ルキウスは、
『Toreador』、黒き茨纏う剣を、真夜中色の刃の刀剣を、その手に構えた。
「一点だけ、賛辞を送ろう。主君にすら跪いた事が無いような『ならず者』であっても、その度胸の良さだけには、敬意を表してやる」
『……ワタクシも、先刻までの非礼は詫びてやる。そして……全力で向かう! いざ、参る!』
残った左腕の、五本指の鎖。それで打ち据えんと、『貴婦人』は振り下ろし、振り回した。
縦横無尽に鎖が宙を舞う。空間そのものを削り取るような、常人には到底見切れないその攻撃。なんとか回避するルキウスだが、見るからに押されている。
「防戦一方? くそっ、あんなのどうやって倒すんだよ」
「今、援護を……」
向かおうとする暁翔とセシリーだが、
「心配は、無用……!」
『未来予知』で、ルキウスは鎖を見切っていた。そして、
「……『黒荊の死舞踏(パソドブレ・プルガトリオ)』。全ては、我が掌の上」
一歩を踏み込み、ただの一撃を、刃の一斬を、『貴婦人』へと撃ち込んだ。
『! ……ぐっ……がはあっ……』
残った左腕の、『不浄の鎖』が、力なく礼拝堂の床に崩れ落ち、
そして、周囲の偽物たちが、『縛り上げる縄』で構成された偽物たちの動きが、一斉に止まり、やはり崩れ落ちた。
さらに、槍となった『歪んだ愛』も、全てが消える。
ガートルードと小織、雪華とメルセデス、
そして、暁翔とセシリーは、ルキウスの前で、膝をついた『貴婦人』の近くへ赴き、
その周囲を、遠巻きに囲んだ。
『……見事。……か、勝ちを……み、認めてやる。ワタクシに、勝利した事を……こ、光栄に、思うがいい……』
悔しさゆえの捨て台詞とも、あるいは強敵への賛辞ともとれる言葉を残し、
介錯されたように、『貴婦人』の首が、礼拝堂の床に落ちた。
胴体もまた、そのまま礼拝堂の床に崩れ落ち……動かなくなった。
「……さすがはルキウス。あの一撃は、かなり強力だったわね」
しばらく亡骸を見つめ、メルセデスが口を開く。
「……ああ。だが、俺だけじゃない。皆のパラドクスが立て続けに決まり、体力を削ってくれたから、最後に俺が止めをさせた……とも言える。それだけ……手ごわい相手だった」
と、ルキウスもようやく安堵の溜息を。
暁翔は、
「……まったくだ。ったく、愛情を形にしたのが、先刻の槍らしいが、随分刺々しい愛情表現だよなあ。男なら、槍で女性を貫きたいとこだったぜ」
と、重苦しい空気を払拭せんと、わざと下ネタを口にするが、試みは失敗。
「……ま、私が止めをさせなかったのは、残念ですが……なかなかいい声で鳴いてくれましたね?」
雪華もまた、見下すように言い放つ。
「ええ。本当に、……最初に、作戦を練ってから行動していなかったら、やられているところだった……わね」
ガートルードの言葉に、小織とセシリーも頷く。
「……この館、過去にはおそらく、多くの犠牲者が……いたのでしょうね」
「だが……その主は、ここに討ち取った。もう二度と……誰も殺させない。神よ、犠牲者たちに、安らぎを与え給え……」
信奉する対象は異なれど、神に仕える二人の少女は、手を合わせ……祈りをささげた。
歪み、穢された礼拝堂内部が、少しだけ……清浄かつ正常になったような気がした。
こうして、悪魔の食人晩餐会は閉会した。
二度と、食人を促す料理人など出ず、それを促すヴァンパイアノーブルも出ないでほしい。
ディアボロスたちは、邸宅を後にしつつ、強くそう願うのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】がLV3になった!
【腐食】LV1が発生!
【パラドクス通信】がLV2になった!
【クリーニング】LV1が発生!
【建物復元】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV8になった!
【リザレクション】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!