セレウコス支配地の偵察作戦

 カナンの地から死海を越えて東に位置する、『勝利王セレウコス』の支配地域の偵察を行います。
 カナンの地と違い、多くの亜人が街を支配している為、慎重な調査が必要になるでしょう。
 街には、多くの亜人とウェアキャット、そして捕らえられた人間の女性達がいるようです。

 捕らえられた女性達を救出して脱出し、安全が確認されたカナンの地の街に彼らを迎え入れましょう。
 一定数の女性達を救出し、カナンの地に迎え入れれば、彼女達から聞き出した情報を統合して、勝利王セレウコスの支配地の攻略に役立てられるでしょう。

亜人が支配する街から捕らわれの女性たちを救いだせ(作者 そうすけ
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 ウェアキャットの商人が威勢よく商品を売る声や、行き交う人々のざわめきが、日差しに影を作る石灰岩の高い円柱や壁にこだまして乾いた空気の中に満ちている。
 一見すると平和な街の風景だが、決して治安は良くない。
 カナンの地から死海を越えて東に位置するこの街は『勝利王セレウコス』の支配地域にあり、粗野で粗暴な亜人たちが治めているからだ。
 ゴブリンたちは腕の筋肉をこれ見よがしに見せつけて街を歩き回り、何か少しでも気に食わないことがあると平然と暴力を振るう。
 時にはゴブリンたちから暴力を受けたウェアキャットが死ぬこともあった。街の外れにある墓地は、悲しみにくれる遺族たちの手によって日々拡張されている。
 ウェアキャットを殺してもゴブリンはおとがめを受けない。その不条理を訴えようにも、訴える場所がない。
 この街を支配するアシュラキュクロプスは身の丈が5メートルを超える単眼六腕の亜人であり、粗暴さはゴブリン以上である。
 ゆえに殺されたウェアキャットの遺族は、運が悪かったと泣き寝入りするしかなかった。
「それでも人間の女よりはずっといい」
「ああ、ウェアキャットに生まれてよかった。亜人の奴隷のような暮らしでも、家畜同然に扱われるよりましだ」
 泣きながら墓穴に土を投げ入れる遺族たちの後ろで、誰かが話題を変えた。
「そういえば、近々、人間の女たちが連れてこられるようだぞ。収容所の改修工事がまだ終わっていないのに……」
「なんだって? それは大変だ。工事の手伝いをさせられないよう、はやく言い訳を考えよう」


「パラドクストレインも来たことだし始めようか、みんな集まってくれ」
 月乃・光(White Rabbit・g03208)の前にディアボロスたちが立った。
 パラドクストレイン搭乗前のブリーフィングが始まる。
「カナンの地の街の調査が終了した。かの地の制圧は死海の大灯台の攻略をもって完了する。けど、それに先立ってカナンの地の東に隣接する、ジェネラル級亜人『勝利王セレウコス』の支配地の調査を開始したい」
 まずは作戦の目的を述べたあと、光は調査についての理由を口にする。
「カナンの地から蹂躙戦記イスカンダルの攻略を行うとすれば、勝利王セレウコスが支配する地の探索は必須だからね」
 では、どうやって誰から情報を得るのか?
 光がうむと頷く。
「今回、調査をお願いする街には人間の女性がいるようなんだ。そこで君たちには捕らわれている女性たちの救出もお願いしたい。安全が確保されたカナンの地まで連れて逃げることができれば、新たな亜人の誕生を阻止できるだけでなく、更に彼女たちからセレウコス支配地域の攻略の足掛かりを得る事が出来るだろう」
 ただし、全て敵の拠点内での活動となる。慎重かつ大胆に行動しなくてはならない。

「まず、セレウコスの支配地の街に潜入して欲しい」
 ウェアキャットはパラドクス効果が利く一般人なので、見つかっても正体がばれることはまずない。だが、街中にいる亜人にはパラドクス効果は効かず、見つかれば直ちに正体を見破られてしまうので危険だ。
「街を巡回しているのはゴブリンたちだ。彼らは巡回と言っているが、ウェアキャットたちを威嚇して回っているに過ぎない。働いているウェアキャットたちに何かと難癖をつけては、暴力を振るうことを楽しんでいるクズたちだ」
 では非番のゴブリンたちは何をしているのか。
 例外なく酒を飲んだり、惰眠を貪っているらしい。
「街中ではくれぐれもゴブリンの目を引かないよう、慎重に行動してくれ」
 街に潜入してウェアキャットと接触できたなら、人間の女性が集められている収容所の場所や、内部の様子、襲撃しやすいタイミングや、街の警備の隙などを聞きだす。
 そうして救出に必要な情報を入手したのちに、収容所を襲撃するのだ。
「収容所には人間の女性のほかにウェアキャットしかいない。救出自体は難しくないだろう。ようは『いかに騒ぎを起こさずに街から人間の女性たちを連れて出るか』が重要になる」
 脱出後は、一般人を連れてカナンの地まで移動しなければならない。
 女たちが逃げ出したことを知った亜人たちは、何が何でも女性たちを取り戻そうと躍起になって追ってくるだろう。
 フライトドローンを使えば多少は移動が早くなるだろうが、かわりに敵に見つけられやすくなる。
「追撃部隊との戦闘は避けられないと思ってくれ」

 亜人が人間の女性を傷つけることはまずないので、連れ去りを注意するだけでいいだろう。
 追いつかれても亜人を倒すことに集中していればいい。
 だけど、と光は言葉をついだ。
「繰り返すけど、街の中で戦っちゃダメだ。ウェアキャットは亜人に絶対服従している。亜人の支配が大きく揺らぐような大事件でも起こらなければ、ウェアキャットが亜人を裏切る事は無い。助けを求めても、助けてくれないだろう。いまは説得するだけ無駄という前提でウェアキャットには接触して欲しい」
 街中で騒ぎになれば、亜人に命令された大勢のウェアキャットが人間の女たちを捕えようとするだろう。多勢に無勢……高確率で作戦は失敗する。
「出発時刻だ、パラドクストレインに乗って。頑張って女性たちを助け、少しでも多く情報を持ち帰ってきてくれ」


 一部、改修がすんでいない収容所に、人間の女性たちが亜人に無理やり連行されてきた。
 木槌でノミを打つ音、削り落とされた石灰岩が床や壁に当たる音、改修に駆り出されたウェアキャットたちが資材を抱えて行き交う足音が響く中、これから彼女たちの世話をやくウェアキャットたちの前に立たされる。
 ペンチのようなものを手にした年配のウェアキャットが口を開く。
「ようこそ。まずはアナタたちが亜人さまたちに反抗してお怪我をさせたりしないように整えましょう。しっかり押さえつけていなさい」
 はい、と声を揃えていった若いウェアキャットたちが、女性たちを大理石の床の上に肩を押して膝をつかせた。
 別のウェアキャットたちが女性たちの前に回って、鼻をつまんだりしながら無理やり口を開かせる。
「亜人さまに噛みついたりしないように、奥歯を残して歯を抜きます。それが終わったら爪を切りましょう」
 もちろん、ただ切るのではなく、深く深く爪を切るのだ。
 年配のウェアキャットはペンチのようなものを一人の女性の口へ差し込んだ。
「ひゃ……ひゃめて……」
 どうせ亜人の子を産んだらすぐ死ぬのだ。
 下手に同情してこの手の世話を怠り、万が一が起きれば自分たちの身が危ない。
 年配のウェアキャットは女性の上の歯をペンチのようなものでぐつと挟むと、一気に引き抜いた。
 悲鳴が上がり、すすり泣きが満ちる中、世話係のウェアキャットたちは床の血を薬草を入れた浴槽の湯で洗い流す。
「さあ、あなたたちもこの床のようにキレイになりなさい」
 女たちが床を引きずられ、浴槽に投げ込まれている最中、ウェアキャットの亜人の使いがやってきて、年配のウェアキャットに耳打ちした。
「明日、亜人たちが人間の女をもう5人ほど連れてくるそうです」


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【現の夢】
1
周囲に眠りを誘う歌声が流れ、通常の生物は全て夢現の状態となり、直近の「効果LV×1時間」までの現実に起きた現実を夢だと思い込む。
【避難勧告】
1
周囲の危険な地域に、赤い光が明滅しサイレンが鳴り響く。範囲内の一般人は、その地域から脱出を始める。効果LVが高い程、避難が素早く完了する。
【友達催眠】
2
周囲の一般人を、誰にでも友人のように接する性格に変化させる。効果LVが高いほど、昔からの大切な友達であるように行動する。
【プラチナチケット】
1
周囲の一般人が、ディアボロスを関係者であるかのように扱うようになる。効果LVが高い程、重要な関係者のように扱われる。
【光学迷彩】
3
隠れたディアボロスは発見困難という世界法則を発生させる。隠れたディアボロスが環境に合った迷彩模様で覆われ、発見される確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【スーパーGPS】
1
周囲のディアボロスが見るあらゆる「地図」に、現在位置を表示する機能が追加される。効果LVが高ければ高い程、より詳細な位置を特定できる。
【無鍵空間】
1
周囲が、ディアボロスが鍵やパスワードなどを「60÷効果LV」分をかければ自由に解除できる世界に変わる。
【完全視界】
4
周囲が、ディアボロスの視界が暗闇や霧などで邪魔されない世界に変わる。自分と手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人にも効果を及ぼせる。
【活性治癒】
1
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【使い魔使役】
1
周囲が、ディアボロスが「効果LV×1体」の通常の動物を使い魔にして操れる世界に変わる。使い魔が見聞きした内容を知り、指示を出す事もできる。
【パラドクス通信】
2
周囲のディアボロス全員の元にディアボロス専用の小型通信機が現れ、「効果LV×9km半径内」にいるディアボロス同士で通信が可能となる。この通信は盗聴されない。
【寒冷適応】
2
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」が、クロノヴェーダを除く全ての生物が、摂氏マイナス80度までの寒さならば快適に過ごせる世界に変わる。
【水中適応】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」が、クロノヴェーダを除く全ての生物が水中で呼吸でき、水温や水圧の影響を受けずに会話や活動を行える世界に変わる。
【防衛ライン】
1
戦場が、ディアボロスが地面や床に幅10cm、長さ「効果LV×10m」の白い直線を出現させられる世界に変わる。敵はこの直線を突破できず、上空を飛び越える場合、最低「効果LV」分を要する。直線は戦場で最初に出現した1本のみ有効。

効果2

【能力値アップ】LV3 / 【命中アップ】LV3 / 【ダメージアップ】LV3 / 【ガードアップ】LV1 / 【凌駕率アップ】LV1 / 【反撃アップ】LV2 / 【アクティベイト】LV3(最大) / 【ラストリベンジ】LV1 / 【ドレイン】LV1 / 【アヴォイド】LV1 / 【ロストエナジー】LV2

●マスターより

そうすけ
 リプレイは②、①、➂、④の順番で書いていきます。

 ディアボロス到着時、収容所の中には10名の女性たちが捕らわれています。
 うち5名はディアボロス到着の直前、収容所に入れられたばかりで比較的元気です。
 もともと収容所の中にいた残りの5人は、ウェアキャットたちから傷の手当を受けていますが、弱っています。
 現在は体力回復のため、収容所の奥で栄養豊富(で柔らかい)な食事を丸のみさせられています。

 収容所は現在改築中で、世話係以外にも複数のウェアキャットが出入りしている状況です。
 収容所の出入口にはゴブリンが1体ずつ、昼夜交替で見張りに立っていますが、建物の中にはいません。
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このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


ディアナ・レーヴェ
フード付きの外套で種族特徴は誤魔化しとくわ!
あと化粧で若干やつれた感じを演出、いっそ食事も数日抜いとく(リアリティ!)

で、
墓穴に土を入れる背後の話題に小声&食い気味で割り込み(【友達催眠】)
「えっ、工事!?――嫌!絶っっ対、手伝いたくないわ!!」
「私…私、今夜こそマトモなご飯をゆっくり食べたいって、それだけを楽しみに今日を働いてきたのよーっ!?(わなわな」
腹の虫で同情誘いつつ!

この流れで、
工事を手伝わないで済む為に「いかに亜人に見つからず街を移動できるか」を議論
後は収容所の場所、できれば工事の時間帯や内容(例えば残作業が分かれば、脆い箇所とか推測できない?)も聞けたらいい

怪しまれる前に退散ね!


イル・シルディン
弱肉強食が世の常としても、さすがに同情してしまうわね…
それに人族には救って頂いた礼もあるのだし
同族の子達は救ってあげたくなるのが人情かしら

目立たないよう旅人風のローブを羽織って
人通りの少ない道を選んで路地に入りたいわ
まずは裏路地伝いに大きな建物を探してみるわね

囚われている人がいるのだったら
大人数を住まわせるだけの広さが必要で
定期的に食事の運搬や、監視の交代が行き交っている予想しているわ

直接会話をするのは一応避けて
可能ならそういった建物の傍でウェアキャット同士の話を盗み聞く位に留めたいかしらね
人間ではないといっても見た目はヒトに近い種族だから、いらぬ誤解は受けたくないわ


エイレーネ・エピケフィシア
ウェアキャットとして生を受けたからには、この身で為すべき役割を果たしましょう
目立たない服を着て使用人のフリをします

亜人の視線に気を付け、出来るだけ盛り場を避けて
親切そうなウェアキャットに声をかけて情報収集しましょう
同族と話す時は【プラチナチケット】で使用人としての説得力を高めますね

すみません、わたしはカナンの地から逃げてきたばかりでして
粗相をして亜人様を怒らせることがないよう、この町について知っておきたく思います

どうも収容所の工事に人手が要るらしく、そこに駆り出されるようなのです
よければ一日の仕事(襲撃しやすい時間のヒント)や、建材の搬入路(町の外への脱出経路)について教えていただけませんか?


ミリアム・ヴォルナー
吸血鬼もだが……亜人どもも赦せんな
私達は、奴らの家畜ではない

……と、この身で言っても虚しいだけか

【光学迷彩】で身を隠し、忍び足、偵察を活かし、建物の陰等に潜みつつ移動
亜人の目につかないように動き、人間の女性達が囚われている場所を探る

傷付いた女性も居るなら、薬草等で傷を治そうとするだろう
薬草を多く積んだ荷車等を見つけたら、亜人に見つからぬように尾行しよう

矢鱈多くの薬草を降ろす場所があったら、そこが収容所かもな
人目のない倉庫や裏口等から潜入し、ウェアキャット達の会話に耳を傾け、ここが収容所か情報収集

実際に囚われてる女性達を見つけたら、建物の間取りや見張りの配置を覚えて、見つからないように撤収しよう



 ディアナ・レーヴェ(銀弾全弾雨霰・g05579)は、外套についているフードを被った。ギラギラと降りそそいでくる陽の光から頭を守り、ウェアキャットたちの目から悪魔の翼を隠す。
(「これでよし。さあ、いくわよ」)
 思いがけない死に遭遇して、皆が湿っぽくなっている。違和感を与えないよう、あらかじめ化粧で若干やつれた感じを演出しておいた。
 墓穴に土を入れる傍でヒソヒソと会話をかわすウェアキャットたちの背後にそっと回り込み、聞き耳を立てる。
 タイミングよく、収容所の話題が葬儀の参列者たちの口にのぼった。改修工事中の収容所に、また新たに捕らわれた人間の女たちが連れてこられるという。そのため、追加の徴用があるかもしれないと参列者たちは怯えていた。
 ディアナは外套の下で、よし、と拳を握った。フードの下で細く笑む。
 短い間に重要な情報が二つも手に入ったからだ。
 一つは収容所が改修工事中であること。
 工事中であれば、建築資材の運び込みなどで不特定多数の者が出入する。出入りする者たちと接触することができれば、看守や囚われの女性たちの人数、亜人の巡回時刻と頻度などを聞きだせるかもしれない。
 追加徴用の話は魅力的ではあるが、 亜人にはパラドクス効果は見込めないためディアボロスは会えば正体がすぐにばれてしまう。実際に雇われて収容所に事前接潜入するのは困難だろう。
 ウェアキャットのディアボロスであればうまく入り込めるかもしれない。
(「パラドクストレインにたしか乗っていたよう気がするわね。まあ、いいわ。潜入は保留。調査に徹しましょう」)
 二つ目は新たに人間の女性がこの街に連れてこられるということである。
 これは急いで仲間たちに知らせよう。彼女たちが心身ともに傷を負う前に、なんとか助けてあげたい。
 パラドクスで友好的な雰囲気を発しつつ、ディアナは会話に食い込んだ。
「えっ、工事!?――嫌! 絶っっ対、手伝いたくないわ!!」
「お、おう……あんたもそう思うかい? いや、誰だってそう思うよな」
「私……私、今夜こそマトモなご飯をゆっくり食べたいって、それだけを楽しみに今日を働いてきたのよーっ!?」
 なわなわと体を震わせ、腹の虫まで鳴らす迫真の演技で仲間意識を煽る。
 すると議論は『徴用を避けるため、いかに亜人に見つからず街を移動できるか』に移った。
 まさにディアナが望んでいた通りの展開だ。
「詳しく知りたいわ。ねえ、教えてお願い」
 女たちを助け出した後、いかに亜人に見つからずに街から出るか。必要な情報を聞き出したディアナは、葬儀の参列者たちから怪しまれる前にそっと場を離れた。


 ぴんと張りつめた青空の下、イル・シルディン(気ままに我がまま・g05926)はこの辺りの旅人が着用するようなローブを羽織り、乾いた土埃をたてる道を歩いていた。
 目深にかぶったフードの下から油断なく辺りを窺いつ、できるだけ大きな建物を物色する。――と、連れ歩くモーラット・コミュ『エル』が、前に何かを見つけたようだ。
「モキュ! モキュキュッ」
 前方に注意を向けると、角の酒場で亜人たちがたむろしていた。
「なにも問題ははないわ、大丈夫よエル」
 ローブの下に均整の取れた褐色の肢体を忍ばせて、昼間から酒をかっくらう亜人たちの横を通り過ぎる。
「ほら、言ったでしょ? 問題ないって」
 そのまま道を歩いていると、荷車に重そうな壺をたくさん乗せて引くウェアキャットがイルたちの目の前をゆっくり通り過ぎていった。
 砂交じりの風が、荷車からイルの鼻へ、微かに甘い匂いを運んできた。恐らく壺の中身は果物だ。それもよく熟しているものに違いない。
 建物の陰から出て、荷車の行く先を目で追う。
「あれについて行くわよ、エル」
「モキュ!」
 収容所では拡張工事が行われていると、時先案内人が言っていた。それだけ亜人に捕らわれた女性が多いということだ。
 当然、女性たちの世話をするウェアキャットも大勢いるだろう。住み込みかどうかは分からないが、
大量の食料や水が必要であることは間違いない。
 だからイルは大きな建物を探していたのだ。おそらくあの荷車は収容所へむかう。
 果たして荷車が吸い込まれるように入っていったのは、木槌の音もかしましい改装工事中の建物だった。
 イルは収容所の手前で足を止め、人ごみの中に紛れた。
 場所を突き止めた。あと少し収容所の情報を手に入れたら仲間たちの所へ戻って報告しよう。そう考えて、塩を売る店先で話し込むウェアキャットの女たちに近づく。
「――から人間の女が連れてこられるんですって」
「可哀想にね。またこの辺りまで悲鳴が聞こえてくるのかしら。ああ、ヤダヤダ」
「奥歯を残して引っこ抜かれるなんて、想像しただけでも震えがくるわ」
 女たちは、身だしなみと称する拷問の様子をどこか楽し気に語る。
 『エル』がイルの肩の上で震えた。
(「弱肉強食が世の常としても、さすがに同情してしまうわね……」)
「あら、噂をすれば薬草売りよ」
 女たちが視線を向けた先に、木の箱を背負った男の姿があった。


 薬売りの三歩後ろの風景がチラチラと崩れる。
 風景を微かに崩すものの正体は、パラドクスを使って身を隠しつつ、蛇のように音をたてずに薬売りを尾行するミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)だった。
 木槌の音がやかましく響く大きな建物の入り口の手前で、薬売りの男は背中から木箱を降ろした。
(「ここが収容所……」)
 ミリアムが入口の奥を覗きこもうとして、薬売りの男の後ろを通り過ぎたところで女性の悲鳴が壁を越え、通りにまで聞こえてきた。
 思わず吐きそうになる。
(「吸血鬼もだが……亜人どもも赦せんな。私達は、奴らの家畜ではない」)
 怒りのあまり頭をクラクラさせながらも、ミリアムは情報収集を続行する。
 飾り気のない作りからして、どうやらここは表玄関ではなく裏口のようだ。門番も立っていない。これなら中に入り込めるか。
 一歩足を踏み出した途端、尖頭型のアーチの下からゴブリンがだるそうに肩を回しながら出てきた。ミリアムは口の中に小さく舌打ちの音を響かせて、さりげなく薬売りの傍から離れると、雑踏の中に紛れた。
 塩を売る店の前で買い物をするフリをしながら、ゴブリンが奥に引っ込むのを待つ。
「ミリアム」
 背中から小さく声がかけられた。
 振り返ることなく相手の名を口にする。
「その声はイルだな」
「何か見えた?」
 ミリアムは首を横に振った。
「すぐゴブリンが出てきたからな。ヤツらに見つかったら作戦失敗だ。それだけは避けねばならん」
 だが、あの建物が収容所であることはもう間違いはない。なんとか中に入り込んで、間取りを調べられないものだろうか。
「イル、すまないが一足紙先に戻って、収容所の場所をほかの仲間たちに伝えてくれ。私は別の入り口を探してみる」
「わかった。気をつけて」
  イルと別れた直後、薬売りが木箱を背負って歩きだした。ゴブリンに何かを渡していた様子はなかった。薬を別の場所へ運ぶように指示されたのだろう。
 後をつけると、薬売りは崩された壁と壁の間に垂れた麻布を持ち上げて中へ入っていった。と、間を置かず出てきた。背中の木箱がなくなっている。
(「倉庫か何かか。この一角が、今まさに拡張されている場所……」)
 鍵のかかるドアなどはなさそうだ。そのうえ、亜人の見張りも立っていない。
 いざ潜入せんとしたところで、エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)に先を越された。


 エイレーネは目立たない服を着て、ディアボロスという外敵から逃れて来た難民になりすましていた。
 親切そうなウエアキャットを見つけては、「すみません、わたしはカナンの地から逃げてきたばかりでして」、と同情を引きながら食い扶持を稼ぐための仕事の口利きを頼んで回った。
 単発の、簡単なお使いから亜人の家の賄いに子だくさんウェアキャット家のベビーシッター等々。プラチナチケットの効果もあり、みんながみんな親切に仕事を紹介してくれるのはいいが、思った仕事に当たらない。
(「何でもいいってわけじゃないの。収容所の工事でじゃなくっちゃ意味がないのよ」)
 九人目のウェアキャットでようやく、収容所の壁石を磨く仕事を回してもらえることになったのが、つい先ほどの事だ。
「細かい砂で石材を研磨して鏡のように仕上げる仕事よ。手が荒れるけど大丈夫?」
 そう言って仕事を紹介してくれたウェアキャットから、磨き子の一日の仕事の流れと、どこで仕事の道具を揃えるか、とくに磨き砂がどこから運ばれて来て、どこに貯められているかを教えてもらった。
「日が暮れると作業終了。ケチな亜人は灯りの油がもったいないって、追い出すのよ。だから今から行っても少ししか働けないわよ。明日からにすれば?」
 エイレーネは、少しでも稼ぎたいので今から働きに行くと言った。
 礼をいってウェアキャットと別れ、磨き砂を取りに行くついでに脱出ルートの下見を済ませた。
(「少しでもいいから収容所の中を探らないと……」)
 親切なウェアキャットに教えてもらった工事用の通用口に向かう。麻布の幕をまくり上げ、中で働くウェアキャットたちに声をかけた。
「おお、二人も同時に手伝いが増えたのか。そりゃ助かるぜ。なにせ亜人さまたちから急げと催促がきつくてな。こっちだ、来てくれ」
 二人?
 隣にいきなり人の気配を感じたエイレーネが、ぎょっとして横を向く。
 ミリアムがすました顔で立っていた。
「中に入ったら手分けして収容所の間取りを調べるぞ」
 唖然としているエイレーネをその場に残し、ウェアキャットの職人の手招きに応じてスタスタと歩いていく。
「ち、ちょっと待ってよ」
 二人はそれぞれの場所で工事に携わりながら、怪しまれない範囲で持ち場を離れ、収容所の中を調べた。
 捕らわれている女性の数と健康状態、おおまかな建物の間取りや見張りの配置を掴むと、怪しまれないうちにフェードアウトした。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【友達催眠】LV1が発生!
【光学迷彩】LV2が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
【凌駕率アップ】LV1が発生!
【アクティベイト】LV1が発生!

 情報収集のため、先行して街に入っていたディアボロスたちが次々と戻ってきた。
 それぞれ収容所に関する情報を仲間たちに報告する。
 以下がその内容だ。

・収容所に捕らわれている人間の女の数……10名。
 うち5名が身だしなみと使用する拷問を受けて衰弱している。
 拷問の内容は「奥歯を残し、麻酔なしで他の歯をすべて抜く」「両手両足、血が出るほどの深爪」
 ほとんど自力で歩くことができないようだ。
 だが、フライトドローンの使用は得策ではない。

・亜人の見張りの人数と、交替の間隔。休憩時間など。
 見張りは出入口にそれぞれ1体ずついる。
 3交代制(真夜中から明け方までは戸を閉めて鍵をかけることで対応。誰も見張りに立たない)。
 休憩中の亜人(ゴブリン)は収容所近くの兵士小屋や酒場で、寝て居たり酒を飲んだりしている。

・収容所の出入口について。
 ちゃんとした出入口は2か所。それぞれ真夜中から明け方までを除いて見張りが立っている。
 増築、改修工事中のために、収容所裏手に職人や大工が出入りできる仮の出入り口がある。
 仮の出入口は麻布を垂らしているただけ。
 一応、ウエアキャットの見張りはいるが、工事関係者だといえばすんなり中に入れる。
 ただし、女性たちを連れて出る際には何らかの言い訳、あるいは見張りの排除が必要。

・収容所にいる世話係(ウェアキャット)の人数。
 日中は30人ほどが収容所で働いている。
 夜間は5人にまで減る。
 しかも亜人の見張りと同じく、真夜中から明け方までは収容所内の仮眠室で眠っている。
 仮眠室は女たちが捕らわれている部屋のすぐ横。
 壁が薄いので、大きな物音をたてると筒抜けになる。

・10人の女たちが捕らわれている部屋について。
 収容所の中央にある。出入口は一か所。窓はない。
 左隣が世話係の仮眠室、右隣りが大浴室。
 女たちが逃げ出さないように外から鍵が掛けられている。
 鍵は仮眠しているウェアキャットの誰かが身に着けている。

・脱出ルートについて
 街の南門と西門、北門は夜になると閉じられてしまうが、東の門だけ商人のために解放されている。
 東の門には亜人の見張りが常時2名いるが、真夜中だと例外なく居眠りしている。
 商人の出入りがあるときだけ起きるが、特に怪しくなければ素通し状態らしい。

 以上の情報をもとにディアボロスたちは救出作戦を練り始めた。
宝心・ライラ
アドリブ連携歓迎

これだけ情報を集めてもらったら侵入は問題ないわね
さあ急ぐわよ。不幸な涙は一刻も早く止めてあげないと!

忍び込むのは見張りがいない夜
フードを目深にかぶって種族特徴を隠しつつ【光学迷彩】で隠れながら収容所に向かう
着いたら【現の夢】の歌声で周囲のウェアキャットを夢現にするわ
これなら簡単な言い訳で出入りできるし、怪我をした人も痛みを感じず動けるはず
後でちゃんと手当してあげるから少し我慢してね?
その後も世話係から鍵を頂戴する時や、東門に向かう間も【現の夢】をフル使用
効果は1時間しかもたないから、寄り道せずに急ぐ
「お世話係さんもいずれハッピーエンドにしてあげる。また今度ね♪」


ディアナ・レーヴェ
※外套で種族特徴は隠す
※友達催眠使用

深夜に仮出入口へ向かう

鍵がないから、夜も見張りは居るわね?
数人で工事関係者を装い
「早朝作業迄の間、現場を見ながら皆で相談したい事があるの」
ランプ持参で油の話も対策しつつ、暗い顔の台詞で『何かミスでも気づいて必死なのかな』と思わせたいわ

光学迷彩と無鍵空間で真っ直ぐ女性達の部屋へ

万一
起きた世話人に出くわせば、解錠中断で浴室辺りに隠れ
先の見張りが様子見に来たら、逆に迷彩解除で堂々

女性達は外套を脱いでから優しく起こし、ニッコリ唇に指を当てるわ
助けに来た。…少しの間、静かに頑張ってくれる?

街を出る時は商人風で「人間」は荷車に隠れる
香草でも積んで血の匂いは誤魔化せない?


イル・シルディン
アドリブ・連携歓迎

ローブ等で身を覆い種族を隠し
【友達催眠】で既知の仲を偽るわ
工事の関係者を装うのに【プラチナチケット】も使いたいわ

夜間に裏口を使って侵入
入口での交渉の前に【使い魔使役】で蝙蝠や犬など
いても違和感のない動物を使役して
表口を見張らせておくわ

開錠中は世話人部屋の前で息を潜めて待機
身振りで解る合図を決めておいて
室内で物音がした時は皆へ静まるように伝達

脱出の時は
表口外の様子を使役動物で確認
見張りの不在を確認してから扉を開けて、それから皆を呼ぶわ
その後も基本的に哨戒するつもりで少しだけ先行したいわ

東門を通る際は
種族が解らないようにする事以外
通って当然って感じでしれっと抜けてしまいたいわね


ミリアム・ヴォルナー
救出か……目立つ昼よりも、夜が良さそうだな
見張りが少ない真夜中ならば、更にいい

フード付きのローブ等を羽織り、仲間が収容所に潜入している間は、私は【光学迷彩】を施し、収容所裏手辺りで荷車を探そう
大工や商人が出入りする裏手付近なら……明日使う予定の荷車なんかがあるかもしれんしな

荷車を確保したら、亜人達に気付かれぬよう、荷車を表口の近くの物陰や建物の陰に待機させ、仲間が一般人を脱出させるまで待機
仲間が表口に見えたら、周辺を確認し、誰も居なければハンドサインでOKの合図を出し、動けない一般人を荷車に乗せよう

傷が痛むだろうが……街を出るまで、暫く声を出すのは我慢して欲しい
街を出てしまえば、多少は問題ない


内方・はじめ
大体の流れは掴んだわ
収容所の裏手の出入り口から、夜中に仕掛けて一般人を救出
東側の門から街を脱出ね

フード付きローブで変装ね

だけど、一般人の消耗が激しそうだし、負傷者も多そうね
このままの搬送は、途中で痛みで声が漏れても困るし、一般人を確保したら、【活性治癒】で可能な限り負傷を治しましょ

私も収容所に潜入して、必要なら情報収集、忍び足、看破、偵察を活かし、見張りの有無や起きている亜人、ウェアキャットが居ないか確認
他にも、足元や屋内に酒器等が散乱してたら、それを踏んだりして音が出てもいけないし、把握した状況は仲間に伝えるように

一般人を確保したら、活性治癒で応急処置するけど、自力で動けない人には手を貸して



 犬の遠吠えが月夜に吸い込まれていく。あれほど恋しかった冷気も時間がたつにつれて、体から温もりを奪う憎むべきものに変わってきた。
 エイレーネは、東の門の手前で防寒のために被っていたフードを後ろへ下げた。仲間たちから離れて門扉をノックする。
 しばらくしてようやく、門扉の脇に設けられた小さな覗き窓が開き、眠そうに目を擦るゴブリンが顔を見せた。
 松明に照らされた顔には、口の端から顎にかけて濡れて光る涎が一筋ついている。
「チッ、ウェアキャットか。起こすんじゃねぇよ。とっくに門限が過ぎてんのは分かってんだろ、開門時間までその辺で野宿でもしてろ。クソ猫が」
 ゴブリンは言い捨てるなり窓を閉めようとした。
 エイレーネの後ろからフードを目深にかぶったディアナ・レーヴェ(銀弾全弾雨霰・g05579)が、「待って」と声をかける。
「早朝作業迄の間、現場を見ながら皆で相談したい事があるの。私たちを締めだして、もし収容所の改修工事が遅れるようなことがあったら……どうなるか分かっているわよね?」
 半開きの窓の裏から舌打ちの音が聞こえてきた。
 横木が抜かれ、東の門がギィーっと不気味な音を響かせて内側に開く。
 ぶすっとした顔のゴブリンが、面倒くさそうに「とっとと入れ」と腕を振った。
 ディアボロスたちはうつむいて門をくぐった。
 イル・シルディン(気ままに我がまま・g05926)はゴブリンのわきをしれっと通りすぎると、門の太い横木に目をやった。
 横木には 錠がついた鎖がまかれている。門扉を閉ざして差し込んだ後に鍵をかけ、門番以外の者が勝手に抜かないようにするのだろう。
(「街の外へ出るまで時間がかかりそうね。そのあいだにばれない様にしないと……」)
 できればいまのうちに手を打っておきたいところだが、 亜人のゴブリンには昼に仕込んでおいた【友達催眠】や【プラチナチケット】は効果を発揮しない。
 隣に並んだ宝心・ライラ(ミス・ハッピーエンド・g01071)が、「どうかした?」とささやきかけてきた。
 イル は、あれ、と横木を持ち上げるゴブリンの背中を指さす。
「鍵をかけられたら、出る時にちょっと面倒なことになりそうじゃない?」
「あ~、たしかに。眠らせて鍵を奪っちゃえばって、いま思ったけど、よく考えたらいま不信な動きをするわけにはいかないわね」
 できる限り速やかに女性たちを助けて街から出るつもりだが、どのぐらい時間がかかるか分からない。吟遊詩人として歌には自信があるが、パラドクス効果が続く時間には限りがある。
「でもまあ、帰り道なら。それより収容所へ急ぐわよ。不幸な涙は一刻も早く止めてあげないと!」
 二人は急いで先を行く仲間たちに追いついた。
 前方から笑い声が聞こえてきた。
 真夜中なのに角の酒場はまだ開いているようだ。酔っぱらったゴブリンたちが店の前でゲタゲタと腹を抱えて笑っている。
 ディアボロスたちは【光学迷彩】で姿を隠し、足音を忍ばて酒場を通り過ぎた。
 ミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)は改修工事の仮出口になっている崩された塀の手前で足を止めた。
「ちょっと聞いて欲くれないか」
 どうしたの、とディアナ。
 他の仲間たちも足を止めてミリアムへ顔を向ける。
「私は荷車を探す。常時、大工や商人が出入りしているのだし……明日使う予定の荷車が置かれているはずだ。みんなが女性たちを連れてここを出てくるまでには必ず用意しておこう」
 内方・はじめ(望郷の反逆者・g00276)は手伝いを申し出た。
「少なくとも二台必要だし、偽装のための資材や女性たちを隠す布も必要になる。だから私も手伝うわ」
「いや、はじめは女性たちを助けてくれ。逃走用の荷車や偽装工作用のあれこれは私とエイレーネで探す」
 動けないほど弱っている女性たちを連れだすのに人手がいる。あまり調達に手を割くわけにはいかない。
「分かった。そっちは二人に任せるわね。じゃあ、また後で」
 はじめは麻布の幕を持ち上げた。


 昼に収集した情報通り、収容所の中はがらんとしていた。夜勤の世話役たちも部屋で休んでいるはずだ。それでも油断はできない。
 ディアナは持参したランプを掲げ、いつ、ウェアキャットの世話役たちと出くわしても言い訳ができるように、まだ漆喰の下地が塗られる前の壁を照らした。
(「この時代、この地域だったら壁に何か装飾を施すとすれば……フレスコ画かしら?」)
 そう言えば仮出口のすぐそばに石灰岩が置かれていた。漆喰を塗ったあと、乾かないうちに石灰を水で溶いたものを塗り、顔料で絵を描くのだろう。
 はじめもディアナの芝居に付き合う。
「……どこにも不備はなさそうね。私はこの先の区画を見てくる」
 黒猫を胸に抱いたイルが、はじめを呼び止めた。
「この子、表玄関から出してあげてくれないかしら? 迷い込んでたみたいなの」
「いいよ、連れて行ってあげる」
 イルが頷きかけると、黒猫はするりと腕の中から抜け出して床に降りた。
 はじめと足音を立てずに廊下を進んでいく。
 ライラは不思議そうな声でイルに訊ねた
「あの黒猫って……?」
「ちょうどここに入る時に見かけたから手なずけておいたの。表玄関から誰かが入ってきたら、知らせてくれるわ」
「表玄関って鍵かかってるよね」
「だからよ。鍵を持っているってことは、亜人の可能性が高いでしょ」
 この時間、亜人たちは収容所にいないはずだが、やつらが気まぐれを起こしてやっ来ないとも限らない。だからイルは黒猫を見張りに走らせたのだ。
「なるほどね。ところでディアナ、女性たちが入りられている部屋の左側が世話役たちの部屋だったよね」
 実際に中に入ったミリアムたちが荷車を探しに言っている今、広い収容所の中についてはディアナの記憶が頼りだ。
「ほんと、ここって無駄に広いから」
「日中は三十人以上のウエアキャットやゴブリンがいて、捕えた女性も十人……これからもっと増やすつもりみたいだから、建物もそれなりの広さがいるでしょう」
 壁を調べるフリをしつつ、三人でゆっくり歩いているとはじめが戻ってきた。
 腕に白い布や茶色い小瓶をいくつか抱え持っている。
「女性たちの部屋まで廊下に人影はなし、足音も話し声もしないわ。苦し気にすすり泣く声が微かに聞こえたけど……拷問を受けた時の傷が痛むみたいね。これではやく手当てをしてあげなくっちゃ」
 イルに黒猫のことを聞かれたはじめは、まっすぐ表玄関の方へ走って行ったわ、と答えた。
 安全がほぼ確保されたことで、作業者のフリをする必要がなくなったディアボロスたちはできる限り女性たちが閉じ込められている部屋へ急いだ。
 ドアの下の隙間からすすり泣きが漏れる部屋につくと、ディアナは音をたてないように細心の注意を払ってドアを押した。
 が、ビクリともしない。
「やはり鍵が掛かっている。ライラ、そっちはどう?」
 ライラは親指を立てて見せた。
 ゆっくりと世話役たちの部屋のドアを開き、すっと息を吸い込んで一定のリズムでゆっくり言葉を紡ぎ出す。
 心地よく淡々とした歌声で聞くものの眠気を誘い、あるいは深めながらライラは世話役たちの部屋の中に忍び込んでいった。
 しばらくして、手に鍵を持って部屋から出てきた。歌いながら鍵をはじめに手渡す。
 ライラはそのまま世話役たちの部屋の前で歌い続け、イルが見張りを受け持った。
「じゃあ、開けるわね」
 はじめに鍵をあけてもらい、外套を脱いだディアナが先に女性たちが閉じ込められている部屋に入った。
 気配に気づいて起きだした女性たちに笑顔を向けて、「しー」と唇に指を当てる。
「助けに来た。……少しの間、静かに頑張ってくれる?」 
「まず簡単に傷の手当てをするわ。順番に見せて。あ、ディアナ、ランブで照らしてくれる?」
 はじめが手当てをしている間に、ディアナは自分の足で立って歩ける女性たちに身支度をさせた。といっても彼女たちに持ち出すものはほとんどなく、それぞれ支給されている毛布を外套代わりに羽織るだけですんだ。
 ドアの前で警戒に当たっているイルを、小声で部屋の中に呼ぶ。
「彼女たちと協力して食料と水をいくつか集めて。急いでね。終わったら先に外へ出てミリアムたちと合流して」
 イルは黙って頷くと、毛布を体に巻きつけた女性たちと向かい合った。
「物音をたてないように気をつけて。たくさん持っていく必要はないから」
 イルが女性たちと部屋を出ていくと、はじめが一人目の手当てが終わったと告げた。
「でも一人じゃ歩けないと思う。彼女たち全員」
「肩を貸したら歩けるかしら? ……そう、わかった。はじめは手当てを続けて、私が一人一人連れだす」
 大きな物音をたてない限り、ウェアキャットたちはライラの子守歌で夢を見続けるだろう。


 収容所で脱出準備が進められている中、ミリアムは仲間と別れて荷車に積む『隠れ蓑』を探していた。
(「荷車に被せる大きな布……なかなかないもんだな」)
 これが昼なら裏通りに洗濯ものが干されていたりするのだが、さすがに夜は取り込まれてしまっている。
(「しかたがない、露店の天幕を使わせてもらおう」)
 ミリアムは手に入れた荷車を引いて、表通りに引き返した。街の中心地近くのマーケットに向かう。
 車輪が石畳や砂利を踏んで音をたてるので、スピードを出せないのがもどかしい。
 荷車をどこかに隠して盗りにいくことも考えたが、そこへ戻る時間が惜しい。マーケットは収容所の近くにある。
 幸い、夜警のゴブリンはおろか、酔っぱらったゴブリンにも出会わずマーケットまでたどり着けた。
こんなにも月が大きく美しいというのに、人っ子ひとり見かけない。野良犬に野良ヤギまでもが眠りについている。
(「星降るような月夜に一人っきり、露店の天幕を盗む女……か。なかなかシュールな場面だな」)
 とりあえず目についた店から順に天幕を頂戴していく。ついでに片づけられた商品台や木箱で仕えそうなものも荷車に積み込んだ。
 明日の朝、店の主人が骨組みだけになった店を見て大騒ぎすることだろう。気の毒ではあるが、これも人助けのためだ。
「よし、これだけ集めればいいだろう。そろそろ女性たちを連れて収容所から出てくるな、一旦戻るか。余裕があればあと一台、荷車を調達したいが――!!」
 左の角からカラカラと二輪車の音が聞こえてきて、ミリアムは身構えた。フードを被って顔を隠す。
 荷車を引いているのはお互い様だが、周りの露店の有様は隠しようがない。荷台の山と見比べれば、ミリアムがここで狼藉を働いていたのは一目瞭然だ。
(「……どうする、やるか。逃げるか」)
 どっちにしても騒ぎになるのは目に見えている。ぐっと下唇を噛んだ。
 角から荷車を引いたエイレーネが出てきて、ミリアムはほっとした。


「あなたは体が小さいからそっちの荷車に乗って。四人で窮屈だろうけど我慢してね」
 ディアナが采配を振るって、助け出した女性たちを三台の荷車に分配した。
 はじめとイルが女性たちに声をかけながら、周りに食料を入れた木箱や水壺を置いていく。
「傷が痛むだろうが……街を出るまで、暫く声を出すのは我慢して欲しい。街を出てしまえば、多少は問題ない」
 最後にライラが上からディアナが持ってきた大きな布を被せた。
 バイバイ、と収容所に手を振る。
「お世話係さんもいずれハッピーエンドにしてあげる。また今度ね♪」
 荷車はミリアムたちとイルが引いた。四人乗りの荷馬車は、ディアナとはじめが後押しする。
 ライラは子守歌で女性たちの怯えを抑え、穏やかな気持ちにさせた。
 東の門を抜けて街から離れるまで、女性たちに恐慌をきたしてもらっては困るのだ。
「東門が見えたきたぞ」
 見張りのゴブリンは来た時と同じく、門扉に背垂れて居眠りをしていた。開門させるためにディアナが起こしに行く。
 荷車の布をはぐ気を起こさせないように、ライラが更に歌でゴブリンの眠気を誘う。
 はじめは布の下に手を入れて、震えだした女性に、「大丈夫、落ちついて」と声をかけた。
 万が一の事態に備えて、イルとミリアムは外套の下に武器を構える。
 しばらくすると、ゴブリンが東門を開け始めた。
 ディアナが振り返ってウインクを飛ばしてきた。計略通りに上手くいったようだ。
「さあ、行きましょう」
 ディアボロスたちは助け出した女性たちを荷車に乗せて難なく東門を抜けると、一路カナンの地を目指し、街を離れた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【現の夢】LV1が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
【使い魔使役】LV1が発生!
【光学迷彩】がLV3になった!
【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【ラストリベンジ】LV1が発生!
【アクティベイト】がLV3(最大)になった!
【ドレイン】LV1が発生!


 東門を出て数時間、長時間に渡ってディアボロスたちは荷車を押し続けていた。途中で引き手を交代し、自力で歩ける女性たちには荷車から降りてもらっているものの、なかなかの重労働である。
 やがて、岩や砂丘でデコボコした地平線の端が次第に茜色に染まり始め、紫と赤と青が混じり合う美しい夜明けの時間が訪れた。
 まだ全身が冷えていたし、いたるところ砂だらけだったが、太陽の光がもたらす温もりが素直に嬉しい。
「フライトドローンが使えれば楽なのに」
 誰かが漏らした言葉に、みんな苦笑いで頷く。
「ここで朝食にしましょう。煙が立つと追手に見つかるから、火は起こさないで。まだ寒いけど我慢してちょうだい。カナンの地についたらいつでも温かい食事が食べられるわ」
 歯を抜かれてしまった女性たちには水につけてふやかしたパンを作る。
 ディアボロスたちはパンとチーズを手に、女性たちの周りを囲むように座った。
 パンやチーズにかかる砂に辟易しながら、朝食を取っていると来た道の向こうに砂埃が上がっているのが見えた。
「来たな。敵襲!!」
「思っていたより追いつかれるのが早かったね」
 正直、追手に捕まるのは夜になってからのことだと思っていた。
 朝、ウェアキャットの世話役たちが起き出し、女性たちがいなくなっていることに気づいてからだと。
 カナンの地にある街まで、まだ遠い。
「ここで迎い撃ちましょう」
 ディアボロスたちは女性たちを急いで岩陰に隠した。
(「こんなんじゃ、すぐ見つかっちゃいそう。誰も乗っていない荷車を誰かが引いて走れば、追手の気を引けるかもしれない。けど――」)
 岩の上に立ち、追手の数を調べていた仲間が声をあげた。
「ゴブリンがざっと15体。街で見かけたゴブリンより筋肉があるぞ。それと……なんかデカイのが後ろに一体いるな。腕が六本もある。指揮官か?」
 15体のゴブリンのうちいくらぐらいダミーに引っ掛かってくれるだろうか。数多く引っかけることができたとしても、今度はオトリになったディアボロスが危なくなる。
「――やるしかないわ! ここで私たちが負けるわけにはいかない」
奴崎・娑婆蔵
●SPD



成る程、こいつらがゴブリン
このディヴィジョンのトループス級でござんすか
その筋骨のどこにどう刃を通しゃァ斬れたモンか、ちょいと検分させて下せえよ――なァ?


・敵勢に真っ向立ちはだかる戦力の一として布陣

・『トンカラ刀・トンカラ大刀』の二刀を抜きざま、荷車側を背として、敵勢へ対し広く扇状に【鏖殺領域】を投射
・黒い靄の中を姿勢低く駆け(早業)、敵頭数を一挙に減らしに掛かるではなくその移動力をこそまず削ぐ目的で、脚の腱を狩って回る
・ゴブリンのマッスルを斬るべく、刀身に気を集中すると共、刃筋の入射角を交戦状況の中から常に常に試行錯誤、一太刀ごとにゴブリンの殺傷に己を特化させる(オーラ操作+臨機応変)


内方・はじめ
何だかマッスルな連中だけど……数が多いわね
こいつらを逃して、折角保護した女性達を奪われたら元の木阿弥だし、【パラドクス通信】で各自の動きを把握しつつ、敵の動きを共有して、敵を女性達に近付けないようにするわよ

まずは、敵の先頭の個体を狙い、迅雷の魔弾で攻撃して、敵の出鼻を挫いて
敵の注意がこちらに向いたらしめたもの
敵を引き付けて、残像を活かし敵の攻撃の回避を試みて

戦闘中も情報収集、偵察、看破を活かし、敵の動きを確認
女性達を狙う敵が居たら、そいつを優先して攻撃し、挑発して女性達から引き離しましょ

多少の傷は【活性治癒】で治しつつ、仲間が不意打ちを受けそうなら、声掛けして警告する等、確実に状況把握ね


ユエト・ミナヅキ
歯を抜くとは惨い仕打ちだ…想像するだけでゾッとする
彼女たちの恐怖を打ち砕くためにも喜んで加勢させてもらうぞ

空の荷車を引き囮役を買って出る
ゴブリン達の目に止まるように荷でカートリッジ『雷光』を光らせておこう
明かりを付けるのは可笑しいと思っても確認せざるを得ないだろう

この荷車、使わせてもらうぞ。武運を祈る。

引き付けたの確認したら動きを止め
近づいてきたゴブリン達の頭上に閃光弾代わりの『雷光』を投擲
動きを止めた標的に【完全視界】で狙いを定め≪路地裏の掃除屋≫を叩き込む

片付け終わったら本隊に合流しよう
人手があるに越したことはないからな


ディアナ・レーヴェ
(んー、もう少し偽装工作とかにも手を割くべきだったかしら。しまったわねー…!)
額を押さえつつ

女性達に、各自口元を覆って静かに待つようお願い
大丈夫。私達ね――実は、冒険者なの!
安心させるよう笑おう

最初に岩陰に近づけないよう【防衛ライン】を施してから、流れ弾に巻き込まない程度に離れた場所へ陣取る

但し、立ち姿は囮役の仲間への道を阻む形
手近な砂丘に砲撃して砂塵で目眩ましつつ
「ここから先は一歩も通さないわ!」って態度で、「女達は囮側の荷車に居る」と思わせるわ!
(勿論、ある程度の数は囮側に通すけどね?悔しげに舌打ちとかしつつ!)

【隣人墜落の計】で極力敵の機動力を削ぐ戦い方
場を離れる奴は優先で攻撃ね!


宝心・ライラ
アドリブ連携歓迎

「見つかったなら仕方ない。ここからは派手にやらせてもらうわ!
……あら、なんだか私の方が悪役な気分?」

囮役の荷車に立ち塞がるようにして布陣して戦闘
防衛ラインを突破されたらそちらを追撃
囮役の仲間と挟撃してゴブリンを迅速に撃破するわ
分断が長引けば不利になるから、仕事が終わったらすぐ本体に合流して戦闘再開よ

「自慢のムキムキボディも凍えたら力が出せないでしょ♪」
炎の妖精達をゴブリン達にまとわりつかせ熱を奪い動きを鈍くする
最後は奪った熱気で力を高めた妖精さんの一斉突撃でトドメよ!

「暖かくなってきたわね。これが彼女達の希望の夜明け。私はハッピーエンドを諦めないわ!」


ミリアム・ヴォルナー
女性達が少しでも過ごしやすいように、【寒冷適応】を使っておこう
それが済んだら、私は女性達から少し離れた岩陰に潜み、【光学迷彩】を施し、女性達を狙う敵を警戒

仲間の守りを切り抜けて、女性達に迫る敵を最優先で、フリージングバレットで狙い撃とう
残念だが、この先は通行止めだ

敵の反撃は、女性達から敵を引き離すように立ち回りつつ、岩陰や荒れ地の障害物等を盾に回避を試みる
その後は、光学迷彩で障害物に紛れて、敵の隙を窺おう

もちろん、敵が形振り構わず女性達を狙うならば、こちらも隠
れてる状況ではない
敵の前に身を晒し、自身を囮にして、敵を女性達から引き離そう

敵に組み付かれたら、敵にダガーを突き立て強引に振り解こう



 砂挨を舞い上げ、亜人たちが突進してくる――。
 ディアナ・レーヴェ(銀弾全弾雨霰・g05579)はゆっくりとオペラグラスを降ろした。
 岩の上から降りて来たミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)に、「……ミリアム、目がいいわね」と声をかける。
「敵はたしかに兵が15体、指揮官が1体よ。接触まであと5分といったところかしら」
「思っていたより早く追ってきたな」
「ええ、ほんと。街で酔っぱらってるチンピラゴブリンたちを見て、少し侮っていたわ」
 額に手をあてて、やれやれとため息をつく。
 何かの間違いであって欲しかった。せめて夜まで時間が稼げれば、女性たちを夜陰に紛れさせることができただろうに。
(「んー、もう少し偽装工作とかにも手を割くべきだったかしら。しまったわねー……!」)
 嘆いていてもしようがない。 ディアナはすばやく頭を臨戦状態に切り替える。
 近くにいたイルとエイレーネをそばに呼び寄せた。
「危険な任務だけど、2人にお願いしたいの。おとりになってくれないかしら?」
 いかにも女たちを乗せているように偽装した荷車を引いて、できる限りゴブリンたちを引きつけて欲しいと説明する。
「ここで全面対決するのは得策じゃない。彼女たちに隠れててもらうといっても、岩の後ろに潜むだけ。1体でもフリーにしてしまったら……見つけられる確率がぐんと跳ね上がる」
 6対15と1、こちらが数で劣っている。もしも見つかってしまえば、彼女たちにも被害が出るだろう。女性たちを庇いながら戦うのは困難だ。
 2人はただ頷くと、荷車の偽装を始めた。
 その間にミリアムが女性たちを岩の後ろへ連れていく。
「さあ立って。岩の後ろに隠れるんだ」
 ディアナが振り返って、歩きだした女性たちに「各自口元を覆って、静かに待ってて」とお願いする。
 まだ子供といってもいい年頃の女の子が、恐怖のあまりうずくまり、泣きだした。
 ミリアムはブルブルと震える小さな体を抱きしめた。
「しー、泣くな。大丈夫、私たちを信じてくれ」
 内方・はじめ(望郷の反逆者・g00276)が駆け寄って、持っていたいちごミルク味のシリアルバーを割り、女の子に分け与えた。
「ちょっとモサモサしてるけど美味しいわよ。残りは戦いが終わってから。いい子にしていたらあげる」
 ディアナは女の子の細い足の膝の裏へ腕を通し、冷えきった体を抱きあげた。
(すっかり冷え切ってしまっているな。かわいそうに)
 毛布1枚では寒さはしのげなかったようだ。朝食も冷たいものばかりだった。
 最初はフリージングバレットにしようと決めた。パラドクス効果が発揮されれば、寒さも和らぐだろう。
 少女を岩の後ろに降ろし、他の女たちにもここから動かないように、と言い聞かせる。
 岩陰から出たところで、仲間が引くおとりの荷車がガラガラと車軸を鳴らして走りだした。
「みんな、聞いて。イルとエイレーネがおとりになって敵をひきつける。私を含めてのこった4人で荷車を追わせないように道を塞ぐ形で布陣するわよ。ただ、ゴブリンは半分通して。残りの8体と指揮官を、私たちが全力で仕留めるわよ」
 宝心・ライラ(ミス・ハッピーエンド・g01071)が満面の笑みで応える。
「見つかったなら仕方ない。ここからは派手にやらせてもらうわ! ……あら、なんだか私の方が悪役な気分?」
 ライラの軽口にふっと場が和む。
 硬直したディアボロスたちの顔に余裕が戻ってきた。
 ライラは雄叫びながら駆けてくるゴブリンたちを横目にしながら、ディアナの横に立った。
「あのさ」
「なに? 作戦中よ、お喋りは控えて」
「その作戦なんだけど、さすがに2人だけで7体相手にするのはきつくない? で、提案なんだけど」
「聞きましょう。でも、手短にお願い」
「ゴブリン数体が防衛ラインを突破後、私は追撃に移るわ。で、終わったらすぐ戻ってくる」
 半分に戦力を分けることになるが、後ろから強襲すれば案外早く片付くかもしれない。
 はじめがライラの提案に賛同した。
「ライラさんの案でやりましょう。戦闘が始まれば私のパラドクスで通信できるようになるわ。お互いに連絡を密にすれば、戦況の変化にも柔軟に対応できる。それに……」
 はじめはポケットからウィスキーの小壜を取り出した。
 フタをひねって開けると、ゴブリンたちを睨みつけながらひと口煽る。
「すでに【活性治癒】は効果が発揮されている。数で負けていても、合流まで粘ることができるんじゃない?」
「もうアレコレ考えている暇もないし、ディアナ、それでいい?」
「……ミリアムはどうかしら、ライラの提案」
「いいんじゃないか。初手をできるだけ派手にして敵の目を欺いてくれ。私は障害物を利用して隠れながら敵の死角から攻撃する」
「では、そのように」
 ディアナは軍帽を被り直し、背筋をピンと伸ばした。
 ゴブリンたちは目と鼻の先にいる。


 突撃命令を出そうとした瞬間、ガラガラと荷車が走りだした。
 えっ、とその場にいたディアボロスが一斉に首を回す。
「ちょ、そこのウサギ!? 何者よ、止まりなさい!」
 ライラはウサギといったが、正確にはウサギのヘルメットをつけた武装青年だ。
 謎の青年は振り返りもせず、ただ声だけを返してきた。
「話は聞いた! この荷車、使わせてもらうぞ。武運を祈る」
「味方?! ディアボロスなの?」
 はじめがイレギュラーな展開に呆然としていると、肩が触れるほど近くでひょうひょうとした声がした。
「成る程、こいつらがゴブリン。このディヴィジョンのトループス級でござんすか」
「あなたは?」
「あっしでございますか? 奴崎・娑婆蔵と申しやす。で、先ほど荷車引いてかっ跳んでいったのがユエトさん。――と」
「来てくれてありがとう。お喋りはそこまでよ」
 ディアナは手近な砂丘に砲撃して、砂埃を起こした。
 相手に少しでも時間稼ぎをしているように思わせるためだ。
「ここから先は一歩も通さないわ!」
 先陣を切って駆け寄ってくるゴブリンたちが歯をむき出しにして笑う。
 完全にこちらを舐め切っているようだ。
「そちらがその気ならようござんす。こっちも存分にやらせてもらいやしょう」
 奴崎・娑婆蔵(月下の剣鬼・g01933)はトンカラ刀、トンカラ大刀の二刀を抜き放つと、自身が発したどす黒い殺気を砂埃に紛らわせた。
「その筋骨のどこにどう刃を通しゃァ斬れたモンか、ちょいと検分させて下せえよ――なァ?」
 黒い影がむささびのごとく迫り来るゴブリンたちの前へと跳ぶ。
 刹那、ゴブリンたちの腕が4本、肩からすっぱりと切り落とされてぽーんと空を舞った。
 続く二の太刀で無数の指が宙に散らばり、4本の腕の肘から先が切り離され、焼けた炭に水をまいたような音をあげて霧散する。
「おや、これはまた随分とやわい作りでござんすな」
 腕を切り落とされたゴブリンたちの顔が、たちまちのうちにどす黒い憎悪の色に染まっていく。
 その顔の、あるいは震えるほどに握りしめた手の皮膚に、太いミミズのような血管が蠢いていた。
「――と、おあとかよろしいようで。後はお任せしやしたぜ」と告げて、再び砂が舞う闇の中を、風となって飛んだ。
 娑婆蔵の退きと同時に砂埃が晴れていく。
 はじめはゴスペル22口径自動式拳銃を構えた。
 同時に片腕を瞬時に失ってしまったゴブリンたちが、憤怒の形相で奇声をあげ、襲い掛かってくる。
「あなたたちに睨まれたって、ちっとも怖くないわ」
 こちらに向かってくる敵は4体、残り3体が左右に展開してディアボロスたちを回り込み、囲もうとして動いている。残り8体は後ろで偉そうにふんぞり返っている1つ目の6本腕に指図され、荷車を追いかけていく。
 正面から突っ込んでくる敵を一発で即倒させるなら、狙点は眉間の一択だ。振動で上下する的を一発で撃ち抜かなければならない。
 気配でディアナが動いたのが分かった。何か仕掛けるつもりらしい。こちらを囲もうとしている敵の排除はミリアムに任せよう。
 星の間を凝視しながら、はじめは声をあげた。
「ライラ!」
「はいはーい、お任せあれ」
 ライラはキラッキラに輝く魔法のマイクを手にした。
「自慢のムキムキボディも凍えたら力が出せないでしょ♪ 暖めてあげる」
 ライラはウインクを一つ飛ばすと、すぅと息を吸い込んだ。
『華麗に激しく情熱的に。炎と笑顔のカーニバル!』
 出しから情熱的に、熱く、熱く歌声を迸らせる。
 岩と小石と砂が広がる砂漠に広く自由奔放な歌声が響く。
 結果を見届けることなく、ライラは手筈通り荷車を追いかけた8体のゴブリンを追って駆けだした。
 その間にもライラが放った歌声は炎の妖精に変化して、砂漠の上で乱舞し、ゴブリンたちに体当たりを繰り返す。
 対するゴブリンたちは、ふんぬふんぬふんぬ、と腕を振り回すことで妖精たちを払いのけ、強引な突撃を敢行しようとしたが――。
「この期に及んでもまだ綺麗に陣形組んでるじゃない! でも、それが仇になる」
 ゴブリンたちはディアナが大急ぎで仕込んだ落とし穴的な溝に足を取られ、勢いを削がれてしまう。
「いまだ、ここ!!」
 機を捉えたはじめは、トリガーをすばやく4度引いた。
 銃口より放たれたのは雷を纏った弾丸だ。発射間隔はわずか0.3秒という驚異的なスピードである。
「ぐが?」
 頭蓋骨を撃ちぬかれたゴブリンが、1体、2体と口をポカンと開けたまま宙を飛んだ。そのまま背中から砂利の上に落ちる。
 3体目のゴブリンは耳をそぎ落とされ、横に転がった。
 4体目のゴブリンは残った腕で額を庇った。怯まずに突進し、はじめに迫る。
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん!」
 ゴブリンはいままでディアボロスから受けた攻撃をまとめて返す勢いで、弾痕の痕も生々しい腕を半狂乱で振り回す。
 回り込もうとしていた敵1体を仕留めて返り血を浴びたミリアムが腕を伸ばし、ゴブリンのこめかみに84式38口径拳銃を突きつけた。
「調子に乗るな。地獄で永遠に凍りづいてろ」
 タン、と乾いた音とともに氷の弾丸が撃ちだされた。
 反対側のこめかみから赤い血の筋を引きながら、白銀に輝く氷の弾丸が飛び出す。
 ミリアムは氷像にヒビが入ったかのごとく砕け散ったゴブリンには目もくれず、銃口を1つ目の六本腕、アヴァタール級『アシュラキュクロプス』へと向けた。
「お前の手許に残った兵はあと2体だ。いつまで高みの見物を決め込んでいる、さっさとかかってこい」
「ふん。調子に乗るなとは俺の台詞だ」
 『アシュラキュクロプス』は左の一番上の腕を高く上げると、荷車を追いかけディアボロスたちと戦っていたていたゴブリンを2体、呼びもどそうとした。
 だが――。


「来たな」
 ウサギことユエト・ミナヅキ(兎印の何でも屋・g05751)は、女性たちを隠した岩から十分距離が離れていることを確認し、足を止めた。
 先行する二台にパラドクス通信で、敵を欺くためにそのまま行くように伝える。
 ユエト自身は膝に手をつき、肩で息をするフリをして、疲れを演出した。
 自身の影に隠れて魔法のカートリッジを取り出し、愛銃に込める。
「がはは、見ろよ。こいつこんだけ走っただけでもう息が上がってやがる」
「鍛え方が足りんな、オレたちのブートキャンプで再教育してやろう。おう、お前とお前、アイツらを捕まえにいけ。荷車を奪って戻って来い」
 2体のゴブリンがめんどくさそうにトロトロと走りだした。というのも、少し先で荷車二台が止まったからだ。
「あっちも息切れか? 盗人が女だったらあとで可愛がってやるか」
 下品な笑い声をあげながら、残ったゴブリンたちが荷車にかけた布をまくり上げようとする。
 ユエトは演技をやめて、すっと背筋を伸ばした。
「お?」
 布の端を持ち上げたまま、ゴブリンが間の抜けた声を出す。
「……歯を抜いたんだってな? 歯を抜くとは惨い仕打ちだ……想像するだけでゾッとする。なあ、くろあげは。おまえもそう思うだろう。彼女たちと同じ目にあわせてやれって」
「なに言ってんだ、コイツ? 恐怖のあまり頭がおかしくなっちまったか」
 ユエトは愛銃くろあげはを高く掲げた。
 引き金を引き、前を走っていくゴブリン達の頭上に閃光弾代の『雷光』を撃ち込む。
 地鳴りのように雷鳴がして稲妻が光った。
 一瞬、世界が白く飛ぶ。
 視界を奪われ驚く敵たちに、ユエトはすかさず魔力弾をぶち込んだ。とくに口の中には全ての歯をへし折るために念入りにぶち込んでいく。
 少し離れたところにいたゴブリンが捨て身の反撃に打って出た。
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん!」
 ゴブリンたちが繰り出す拳が直接ユエトを叩くことはなかったが、その軌跡は荷車に積んでいた壺を叩き割り、粉々に粉砕していた。
「な――女がいないだと? どこだ、盗んだ女をどこへやった?!」
 ユエトは拍子をとるように軽く跳ねて、粉々になった荷車から距離を取る。
「……彼女たちまで殺すつもりだったのか? とことん鬼畜だな、おまえたち」
「黙れ、ウサギ!」
 ユエトはフルフェイスマスク『Rabbit-Eye』を脱いだ。
「違わないけど、違うな」
 殺意で光らせた目で狙いを定める。
 そこに後から追いかけてきたライラが到着した。
「お待たせ~。じゃ、さっさと片づけて戻ろうか」
「だな」
 ユエトが三度引き金を絞る。
 ライラが歌う。
 イルとエイレーネも荷車を放棄して戦いに参戦する。
 稲妻が跳ねまわる空間をライラが召喚した炎の精霊が飛翔し、ゴブリンたちを蹂躙、激闘の末に殲滅した。


 ミリアムは腕をあげたまま固まった『アシュラキュクロプス』に不敵な笑みを向ける。
「どうした? 当てが外れたような顔をしているぞ」
「ば、ばかな……」
 青みを増していく空に銃撃音が高らかに響いた。
 ディアナが娑婆蔵やはじめと協力して、パラドクスで残りのゴブリンを片づけたのだ。
「こっちも片付いたわよ」
「意外と手応えがございやせんでしたね。そこにいる御仁はちっとは歯ごたえがありそうですかい?」
「さあ、どうでしょう」とはじめ。
 まだ出てこないで、声もあげないで、と心の中で岩の後ろに隠れる女性たちに念じながら言葉を継ぐ。
「強そうなのは見かけだけかもしれません」
 ディアボロスたちから挑発を受けた『アシュラキュクロプス』は、太く無骨な足を高く上げ、怒りを込めて踏み出した。
 衝撃で地面の砂が泡立つように蠢いて伸び上がる。
「貴様ら……殺す」
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【完全視界】LV2が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【防衛ライン】LV1が発生!
【スーパーGPS】LV1が発生!
【寒冷適応】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV3になった!
【命中アップ】LV2が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!

ツェン・シー
罪は濯がれねばならない
手を汚して足を洗って、どこかへ消えることは許されない
ツェンは誰も救わないが、ただあなたを壊す
形も残さず無残に死ね

あなた方の苦痛と哀悼の悲鳴が、墓標に捧げる花になる
弔いが生きていくもののためなら一層、断末魔こそささぐべき


奴崎・娑婆蔵
●WIZ



そちらさんがここの大将か

手前、姓は奴崎名は娑婆蔵
人呼んで『八ツ裂き娑婆蔵』
闘気十分、是非も無し
楽しい喧嘩にしやしょうぜェ?


どうやらあの一ツ眼がやっこさんの技の肝か
であれば――化け物相手にこの手の理屈でどこまで刺せるかはさておき、ちょいと試してみやしょうか
二個の目玉を用いて遠近を計るってェのがこと生物の目測の仕組みであるものと置くなら、ではあの単眼、遠近感をこそ揺さぶるような機動を用いれば多少の隙でもこじ開けられまいか?

あっし自身は敵に対し目線を誘導するように弧を描くように動いて、動いて――出し抜けに【影業「獣」】!
影より四足獣の形の群れを猛速で一直線に走らせ、一斉に畳み掛けてやりまさァ


宝心・ライラ
「まあ、凄い迫力!近づくだけで怪我しそう」
天真爛漫な笑顔は崩さず、敵の能力を分析
あの魔眼は危険だけど、私に視線を釘付けにする事が出来たらその間は皆が安全に戦えるはず

「レディース&マッチョマーン!シルクドスーリールが誇る一大演目、空中ブランコの始まりです!」
大仰な仕草で空から垂れ下がる無数の空中ブランコを召喚
頭上を縦横無尽に跳び回り、敵の注意をかき乱す
動きを封じられてもブランコを握っている限り落ちたりしないし、空にはそう簡単に拳は届かないわよね
最後は凝視されないよう朝日を背に浴びる角度からスイングの勢いで急接近
アシュラクロプスを空のステージのご招待し、回転を付けながら首から地面に叩きつけるわ!


エイレーネ・エピケフィシア
いいえ。この盾に誓って、誰も殺させはしません
今日の戦場で最後の死者はあなたです……お覚悟を!

≪神護の長槍≫を突き付け、敵に向けて突撃
拳型のエネルギー塊は≪神護の輝盾≫で受け止めます
勇気と精神集中によって護りを貫通する痛みに耐え
足を止めることなく距離を詰めていきましょう
POWやSPDの低い仲間への攻撃についてはディフェンスを試みます
アテーナー様、どうかこの身に、嵐の如き拳を乗り越える力を!

乱打の合間を縫って『駆け抜ける激情の槍』を発動
≪天翼のサンダル≫で一気に加速し、一瞬にして至近まで迫ります
そして全力の槍を敵の単眼に突き込み、脳まで穿つ貫通撃を狙いましょう
怪物よ、奈落へと消え去りなさい!


内方・はじめ
あらあら
タダでさえ怖い顔なのに、そんなに怒ったら震えが来そうだわー

なーんてね

空中戦、弾幕、誘導弾、撹乱、残像、時間稼ぎ、挑発を活かし、【飛翔】して、敵の頭上を飛び回って撹乱

蹂躙したいなら……捕まえてご覧なさい

隙あらば、砲撃、一撃離脱も活かし、報復の魔弾で敵を攻撃
敵の反撃は、太陽を背にして逆光で敵の目を潰し、残像を囮に回避を試みる
敵が逆光でこちらを見失ってる隙に、別方向から再度、報復の魔弾で攻撃する等、とことん嫌がらせ

必要なら【パラドクス通信】で、敵の動きや互いの状況を情報交換し、仲間との連携のタイミング合わせ等に活かし、集中攻撃狙い

さあ、惨劇の犠牲者達の無念、恐怖、怨嗟をその身で味わいなさい


ユエト・ミナヅキ
アドリブ/連携◎

残るはアシュラキュクロプス、お前だけだ
可愛い子分たちの元へ送ってやるよ

いかにも力自慢な相手だしな、少し距離を取って戦うとするか
使う武装は[黒揚羽]
カートリッジ『獄炎』を装填し炎の弾丸を叩き込む
剣での勝負も悪かあないが…六本腕を相手にするには厄介そうだしな
奴のラッシュに合わせて≪徹甲砲閃華≫で拳毎粉砕してやる!


そんなにパワーがあっても壊すためにしか使えないなんて
全くもって宝の持ち腐れだな
筋肉だけじゃなく頭も鍛えたらどうだ?


ミリアム・ヴォルナー
さすがは、奪って壊すしか能のない連中の親玉だ
部下を喪ったことより、自身への侮蔑の方が許せんとは

女性達に敵が近づかないよう牽制し、敵を女性達から引き離すよう立ち回る
【寒冷適応】の範囲を広げ、女性達から多少離れても大丈夫なようにして、敵が仲間に反撃しようと集中している隙を狙い、フリージングバレットで敵を狙撃

敵の反撃には、周囲の岩陰や倒した敵の亡骸を盾にし、敵の視線を回避
視線を回避し損ねても、自身の足等にダガーを突き立て、痛みで強引に動けるようにしよう

お前の部下は優秀だな
こうして、私の役に立ってくれる

部下が役に立つか立たないかは……使う者次第だ

敵を倒したら、可能な限り女性達を安全な場所に避難させたい


ディアナ・レーヴェ
人間の女に傷を付けられるなんて、亜人としてどうなのかしら!
(……なんて。私や皆が厳密に「人間」かと言うとまぁ違うけど、挑発としてあえてこう言ってあげる)

敵を囲んでは、こういう台詞や目眩ましの砲撃で意識を乱して、皆の攻撃が少しでも当たりやすくなるよう努めるわ!

攻撃は【Rat】――何だか今回はパラドクス的に敵と味方の位置関係が随分入り乱れる戦場な気がしてるけど、しっかり観察してタイミングを計算しておかないとね

腕が沢山あっていいわね!
ねえ、だったら一本くらい取っちゃっても構わないわよね?
無邪気に笑って言おう
……だって、女の敵な訳でしょう?
私だってそこそこ、厳しい態度するわ!



 ふと、ディアボロスたちは砂塵のように熱く吹きつけてくる濃厚な死の気配を肌で感じて、一瞬、ほんの一瞬だけ、息をのんだ。
「な……に……ぃ?」
 アシュラキュクロプスを煽ったミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)の上に青い影が落ちる。
 視線を上げると、頭上に巨大な眼球があった。
「この距離を一気に詰めて来た、だと?」
 脈動する巨大な拳が、ミリアムの顔面めがけて叩きつけられようとしたその時――。

 罪は濯がれねばならない。
 手を汚して足を洗って、どこかへ消えることは許されない。
 ツェンは誰も救わないが、ただあなたを壊す。

 仄暗さを帯びた少女の声とともに赤いアネモネが天より降り落ちてきて、アシュラキュクロプスの一つ目からミリアムの姿を隠した。
 空を押しつぶすかのような巨大な拳が、ごうっと音をたてて振り抜かれる。
 とっさに後ろに転ぶことで難を逃れたミリアムを、内方・はじめ(望郷の反逆者・g00276)が後ろから腕を取って後方へさげた。
「おや、どちらさんで? ホームでも車内でもお見かけしやせんでしたが」
 奴崎・娑婆蔵(月下の剣鬼・g01933)は新たな参戦者に問いかけながら、ミリアムたちとアシュラキュクロプスの間に体を滑り込ませた。
 オラトリオを連れたウェアキャットの少女は、ツェン・シー(七人■■■・g09064)と名乗った。
 ディアナ・レーヴェ(銀弾全弾雨霰・g05579)は歯ぎしりをして体勢を立て直した敵を注視しつつ、パラドクスが込められた戦術書を開く。
「ツェンね、ありがとう。助かったわ。それと……あの花を降らせたのは……」
「『アネモネ』。ツェンの大切な友達」
 アシュラキュクロプスが一つ目をギョロリと剥いて、大音声を発した。
「ウエアキャットの分際で、主人たる亜人のこの俺さまに楯突くのか! 思い知らせてやるぞ」
「ツェンたちがみな唯々諾々と従っているなんて思わないで」
 ツェンが両腕を天に向かって持ち上げる。
 『アネモネ』もまた、ツェンの動きをトレースしたように両腕を持ち上げた。
「あなた方の苦痛と哀悼の悲鳴が、墓標に捧げる花になる。 形も残さず無残に死ね」
 ぐっと体を沈めたアシュラキュクロプスの頭上に、またしても赤いアネモネが降り落ちる。
「こんな花、なんの――」
 顔をあげたアシュラキュクロプスの目の前で、赤いアネモネが爆発した。
 一つの花が散ったのを機に、次々と爆発が起きる。
 たまらずアシュラキュクロプスは半身を捻り、右の腕3本で頭や体を庇った。
「クソ猫め!」
 目を閉じて闇雲に繰り出した左上腕の拳が、またもむなしく空を切る。
 すぐに拳を引いて、ばち、ばちっと音が聞こえるほど瞬きを繰り返した。
 ディアナはその間に、落ちついて敵の能力を査定した。
「体が大きく筋肉がついている割に素早い。体幹が良く、すぐに切り替えしができる。そのうえタフ……なかなか厄介な相手ね」
 続けてダメージ分析に入る。
 すぐに爆破で受けたダメージが片側の腕に集中しているのが分かった。
 鼻息を荒くする亜人に、無邪気に微笑みかける。
「腕が沢山あっていいわね! だったらどちらかの腕、取っちゃっても構わないかしら?」
「はぁ?」
「……だって、あなた女の敵な訳でしょう?」
 ディアナは柔和な表情を一転させてまなじりをキッとあげると、毅然として言い放った。
「敵の右腕を全て落として! 全体のバランスが崩れれば、攻撃力と機動力が落ちるわ」
「承知した」
  娑婆蔵が弧を描くようにして動く。
「手前、姓は奴崎名は娑婆蔵。人呼んで『八ツ裂き娑婆蔵』。闘気十分、是非も無し。楽しい喧嘩にしやしょうぜェ?」
「ぬがぁぁぁ!」
 アシュラキュクロプスは深く腰を落とした姿勢から、まずは左の3つの拳を同時に地面に突き入れ、ついで全身のバネを使って振り上げた。
 小石交じりの砂が大量に救いあげられ、黄色い幕を作り上げる。
「貴様らなど、貴様らなど!!」
 ずしりと地面が揺れて青く太い左足が踏み落とされた。
「あっしらなど取るに足りん、と仰りたいんで? そいつぁ、どうでしょうかねぇ。その体でとくと確かめてみやがれ!」
 駆ける娑婆蔵の足元から複数の影が立ち上がったかと思えば、たちまちのうちに種々様々な獣に姿を変えた。
 黄色い砂塵を割くように無数の獣の影が地を駆け、跳ぶ。
 右の剛腕を掻い潜り、娑婆蔵に向かって伸びてくる腕に絡みつき、その牙を亜人の肉に突き立てた。
 影獣に食いちぎられたアシュラキュクロプスの右上の腕が、絶叫を連れて空へあがる。
 千切れた腕がくるりくるりと回転しながら、娑婆蔵とアシュラキュクロプスの間を落ちていく。
「なかなかよい声で、旦那」
「ク……ソが」
 落下の刹那、アシュラキュクロプスは一つ目をぎょろりと剥いた。
 血走った凶眼から強烈な念動力を放って娑婆蔵の身動きを封じる。
「お前の腕も、いや足も全部もぎ取ってやるわ!」
 右半身に残った2本の腕を同時にぶん回した瞬間だった。温もりを通り越してはや熱さを感じる日差しの下で、銃声が2つ轟いた。
 黒と白の銃弾に攻撃されたアシュラキュクロプスが、どぅっと音をたてて地面に横倒れになる。
 しばし倒れたままの姿で呆けていたが、一つ目が焦点を結んだところで声をあげた。
「う、腕が……俺さまの腕がぁぁ!?」
 娑婆蔵を殴ろうとしていた2本の腕は、アシュラキュクロプスの体を離れ、砂の上に広がりつつある血だまりの中にあった。
 アシュラキュクロプスは歯をくいしばり、憎悪に燃ゆる眼をはじめとミリアムに据える。
「あらあら。タダでさえ怖い顔なのに、そんなに怒ったら震えが来そうだわー。……なーんてね」
 はじめが引きちぎった腕の断面は、ジクジクと腐り落ちていた。
 ミリアムが吹き飛ばした腕の断面は、パキバキと凍りついている。
「さすがは、奪って壊すしか能のない連中の親玉だ。一片の知性も感じられない売り言葉だったな。さて、私たちは先を急いでいる。他に言い残すことはないか?」
「ふざけるな、あるに決まっているだろが!!」
 アシュラキュクロプスは残った左腕だけで巨体を起こした。
 反撃に備えて構えるディアボロスたちを無視して、地面を強く打ち付ける。
 その途端、凄まじい轟音とともに激震がディアボロスたちに襲いかかり、無数の地割れが女性たちを隠した岩まで伸びた。
 とたん、甲高い悲鳴がいくつか岩の裏から上がった。
「む? いまの悲鳴は……ハハハハハッ、そこに隠していたか!!」
 剥き出しの欲望を振りかざして、アシュラキュクロプスが駆ける。


 ディアナが銃を撃ちながら叫ぶ。
「彼女たちのところへは行かせないわ!」
 『アネモネ』が降らせる赤い花にツェン が急いで爆破属性を与える。赤く爆ぜる光の中を影をともなった娑婆蔵が駆け抜け、二振りの刀を振るう。
 はじめとミリアムも丸太のような脚に狙いを定めて撃った。
 バランスを欠いた体で斜めに傾げながら、アシュラキュクロプスはそれらの攻撃を3つの左拳で弾き、ディアボロスたちの間を――抜けられなかった。
 たたらを踏んで、はじめとミリアムの間で立ち止まる。パラドクス効果【防衛ライン】の効果が発揮されたのだ。
 『貫き、弾けろ――』
 ピンチに駆けつけるなり、ユエト・ミナヅキ(兎印の何でも屋・g05751)は魔導ガントレットを装着した腕を突き出した。
 何条もの雷光が拳からほとばしり、アシュラキュクロプスの太ももに当たって分厚い筋肉を弾き飛ばした。
「すまん、遅くなった。残るはアシュラキュクロプス、お前だけだ。可愛い子分たちの元へ送ってやるよ」
「邪魔をするなぁクソウサギぃ!」
 アシュラキュクロプスは半身をユエトへ向けて捻り向けつつ、3つの左拳で大気を乱打した。空中に巨拳のエネルギー塊が生成され、放たれる。
 エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)が神護の輝盾を構え、急いでユエトの前に回り込む。
「アテーナー様、どうかこの身に、嵐の如き拳を乗り越える力を!」
 巨拳のエネルギー塊がゴルゴンの生首の上ではじけて、圧の強い風が四方に広がった。
 あたり一面を黄色い砂塵が覆い、ユエトが被るフルフェイスマスクRabbit-Eyeに風圧でとばされたた小石がパラパラと当たる。
 拡張された視野が砂塵の向こうで腰を落としたアシュラキュクロプスの姿を、ウサギの耳のような集音機能がアシュラキュクロプスの足元で軋む大地の音を拾う。
 ユエトは叩き飛ばされた エイレーネを抱き起こすと、声を張って仲間たちに警告した。
「やつが跳ぼうとしている、ジャンプして防衛ラインを越える気だ!」
「気づくのが遅い!」
 巨体が跳躍した。
 ケガをしたエイレーネを助けに走るはじめの頭の上を、銃口を向けるミリアムの頭の上を飛び越えていく。
「空中遊戯は私の十八番、まかせてちょーだい」
 宝心・ライラ(ミス・ハッピーエンド・g01071)は伸縮自在の扇を絵筆のごとく振って、空から垂れ下がるブランコをいくつも描いた。
 エイレーネははじめから簡易手当てを受けて回復するや、扇を振るうライラの前に跪き、手を組み合わせてあぶみを作った。
「ライラ様、私の手に足を! 空へ飛ばして差し上げます」
「ありがとうエイレーネ!」
 ライラが手に足をかけると、エイレーネはすぐに全身をばねにして腕を振り上げた。
 ライラの体が高く、高く空へあがる。
「レディース&マッチョマーン! シルクドスーリールが誇る一大演目、空中ブランコの始まりです!」
 落下軌道に入りつつあったアシュラキュクロプスの前を縦横無尽に跳び回り、気を散らせることで左腕に捕まらないよう工夫する。
「ちょこまか、ちょこまかと。目障りなハエめ」
「ひっどーい。こんなにカラフルできれいなハエがいる? 1つしかないのに目も悪いんだね」
 ライラは太陽を背にした位置のブランコに飛び移ると、大きくスイングした勢いでアシュラキュクロプスに急接近した。
「ぬう……見えん! どこだ、ハエ!?」
「だから、ハエ呼ばわりしないでって言ってんでしょ!」
 ライラはブランコを飛び降りると、タックル気味にアシュラキュクロプスの胴を横抱きして固めた。そのままひねりを加えて回転しつつ、頭から地面に落ちる。
「目から星でも飛ばせば、少しは良くなるかもね」
 ずずーん、と音をたてて、アシュラキュクロプスは頭から大地に叩きつけられた。筋肉がついた太い首のおかけで骨が折れることはなかったが、それでも脳震盪が起きているのは確かだ。
 立ち上がりかけたところで、ふらりと体を揺らし、両膝をつく。 
「ハエめ、叩き殺してやる」
「まだ言ってる。駄目だ、こりゃ」
 闇雲に振う拳はひょいひょいと逃げるライラを捉えきれず、風切りの音をむなしくたてるばかりだ。
 ならばせめて女たちが隠れる岩を壊せないものかと、一層力をこめてこぶしをぶん回す。
 巨拳のエネルギー塊ならいざ知らず、ただ拳を振り回しただけではディアボロスはおろか岩も砕くことができないことが理解できないらしい。
 イルをはじめに託したユエトは、アシュラキュクロプスの姿を見て呆れたように言った。
「そんなにパワーがあっても壊すためにしか使えないなんて、全くもって宝の持ち腐れだな。筋肉だけじゃなく頭も鍛えたらどうだ?」
「は? 何を言っている。知らんのか、俺さまが仲間から『脳筋のアシュラちゃん』と呼ばれていることを。ちゃーんと脳みそも鍛えている俺さまに隙はない」
 どうだ、恐れ入ったか、とアシュラキュクロプスが胸を張ってガハハ笑いする。
 ………………。
 エイレーネはゆっくりと立ち上がると、膝についた土埃を丹念に払い落した。
「いまのは……、一緒に笑ってさしあげた方がよかったのでしょうか?」
「なにぃ。女、俺さまのどこが笑えるというのだ」
 神罰の代行者たるエイレーネは、優しく目を細め、優雅に首を傾げた。
「あなたはたしかに『脳筋』ですね。救いようのない馬鹿」
「な……き、きききき、貴様! 黙って捕まれば俺様の子を孕ませてやったものを。だが、許さん。俺様を屈辱したことを謝っても遅い、殺してやるからな」
 アシュラキュクロプスはエイレーネからユエトに視線を移し、左上腕の太い指を突きつけた。ついでライラに、はじめに、ついでディアボロスたちにも指を突きつけていく。
「貴様も、貴様も、貴様も、他もみーんなまとめて殺す!」
「いいえ。この盾に誓って、誰も殺させはしません。今日の戦場で最後の死者はあなたです……お覚悟を!」
 エイレーネは翼のついたサンダルで地を蹴り、信仰の力を物理的なエネルギーに変えてアシュラキュクロプスに急接近した。
 狙うは一つ目。
 身長差を補うため、神護の長槍を長く伸ばす。
「神の一撃をここに、グリゴロー・カイ・イクサロー!」
 渾身の突きはアシュラキュクロプスの一つ目に突き刺さり、凄まじい衝撃波を引き起こした。
 すぐに光輝くオーラを纏う盾を掲げて、前方から返ってきた衝撃波をやり過ごす。
「ぎぃやあぁぁぁぁぁ!」
 アシュラキュクロプスは痛みと苦しみに声をあげた。
 ディアナが檄を飛ばす。
「いまよ! みんな、はじめに続いて」
 いつの間にか、はじめは苦しみに暴れる亜人の右の足元まで走っていた。走りながら右手に携えたリボルバーに報復の魔弾を込める。
『惨劇の犠牲者達よ……覚醒せよ。今宵こそが報復の宴。我らが敵から総てを奪い……喰らい……滅ぼせ!』
 引き金をしぼり、怨念がこもった黒いパラドクスの弾を発射した。
 すぐさまミリアムが黒い軌跡に凍りついた弾丸を乗せる。
「か弱き者たちから奪い取った時の重み、その体に刻んで凍結地獄に沈むがいい!」
 両足を吹き飛ばされた巨体がまっすぐ地面に落ちた。
 亜人としての意地か、アシュラキュクロプスが空を震わす咆哮を喉から迸らせて最後の抵抗をみせる。
 ディアボロスたちは拳を振るう亜人をとりかこむと、総攻撃した。


 アシュラキュクロプスを倒した後、全員で手分けして周囲に差し迫った脅威がないことを確認したディアボロスたちは、女性たちを隠した岩の裏へ回り込んだ。
 女性たちは全員がうずくまり、手で耳をふさいで、眼と口を固く閉じていた。そうすれば恐怖から逃げられるような気がしたのだろう。
 もう大丈夫ですよ、とツェンがかけた優しい声も届かない。『アネモネ』も胸の前で手を組んで、心配そうに女性たちを見下ろす。
「どうしましょう。下手に体に触れて、驚いた拍子に舌を噛んだりしたら大変ですし……」
 ディアナが難しい顔をしていう。
「その危険性はたしかにあるわね。……どうやったら私たちが勝ったのだと分かってもらえるかしら?」
 ミリアムは小さくなってうずくまる女性たちから目を離し、再び砂漠化しつつある荒野へ視線を転じた。
 太陽はずいぶん高く地平線上にあがっている。
 だいたい10時頃だろうと見当をつけた。
「可能な限り早く、女性たちをカンナの地へ連れて行きたいが。彼女たちの傷も気になるし」
 今できるかぎりの手当てはするつもりよ、とはじめ。
「でも、とりあえずこの状態をなんとかしないとね」
 エイレーネは革袋の口紐をほどくと、中から『祝福のオリーブ』を入れた小瓶を取り出した。
「この瓶の中には神事によって祝福を受けたオリーブの実が入っています。口を開けてくれさえすれば、含ませることで精神を落ち着かせ、彼女たちを縛りつけている恐怖のまやかしを破ることができるのですが」
 娑婆蔵は顎の下に指をあてて、ふむ、と呟いた。
「食べ物か。美味しそうな匂いで警戒心を解くってのはどうでござんしょう」
 ユエトがいいねと賛同する。
「やってみよう。オレ、携行食セット……っていってもお菓子ばっかりなんだけど、持ってるし。そういえば、戦闘前に誰か携帯食をそこの女の子に分けてあげてなかったか?」
 それは私、とはじめ。
 女の子の前にひざまずいて、ポケットの中を探りだした。
 ディアナもセロハンに包まれたスティック状のチーズケーキを持っているという。
  ライラがちょっぴり慌ててみんなを止めた。
「ねえ、待って。その前にちょっと景色を変えておきたいの。美味しそうな匂いにつられて目を開けた時に、なんかこう……ハッピーになれるようなものが見えたほうがいいんじゃないかなーなんて」
「そりゃいい、是非やっておくんなせい。と、あっしは食べ物をもってねぇし、ライラさんのように心を和ませる絵もかけやしません。ですので、ひとっ走りして荷車を取ってきやしょう」 
 街を出た時は3台あった荷車も、1台はゴブリンたちに破壊されて2台になっている。残りの2台もおとりで使ったときに無茶な走りをして車軸が多少ガタついているが、まったくないよりはマシだろう。
 イルが娑婆蔵に荷車回収の同行を申し出た。
 ミリアムがなげく。
「フライトドローンが使えないのが不便だな。あれば楽にカナンの地まで移動できるのに」
「そうね。でも敵に発見される可能性を高めるわけにはいかないわ。ところで――」
 ディアナは後から加勢に来てくれた3人の顔を順に見た。
「あなたたちのうち誰か、地図を持ってきていない?」
 ツェンは首を横にふった。
  娑婆蔵とユエトは気まずそうに顔を臥せる。
「うーん、残念。持ってない、か」
「いや、ある。あるけど……」
 ややあって、ユエトが眉尻を小指で掻きながらポケットに手を突っ込んだ。4つに畳んだ紙を取り出して、ディアナに手渡す。
 広げてみると、それは『ないよりマシ』な程度の地図だった。
 右上隅に北を示す矢印と、カナンの地の位置と脱出してきた街、その間にある道などの人工物がフリーハンドで描かれている。
 はじめとエイレーネが左右から地図を覗きこんで、渋い顔をした。
「なに、これ?」
 ユエトが肩をすくめる。
「役に立つかどうか分からないけど、って出発前に時先案内人が渡してくれたんだ」
「押しつけられた、というのが本当のところでござんすが」
 ミリアムはディアナから地図を譲り受けた。
「上等だ。今しがたの戦闘で【スーパーGPS】が発生している。ほら、みてみろ。ここに現在地が示されているぞ」
 でも、とツェンが苦笑いする。
「目安にしかなりませんね。コンパスの代わりにはなるでしょうけど。あ、ツェンと『アネモネ』はライラ様をお手伝いして砂漠に花をさかせます」
「ありがとうツェン、『アネモネ』。じゃあ、私は大きな虹と蝶々を描くね!」
 いうが早いかライラはフレフレ☆ガンバケットの中に絵筆代わりの扇を浸した。
 扇を持つ手を大きく持ってひと描きで、青い空に七色の虹を描く。
 ツェンが『アネモネ』に頷きかけて、赤いアネモネを空より降らせる。
 平時に降る赤いアネモネの花弁は薄く透けるようで、砂漠の色を優しく吸い取り、柔らかな色合いをしていた。
「あっしらもそろそろ行きやしょうか」
  娑婆蔵とイルが色とりどりの蝶々に送られ、荷車を取りに向かう。
 ユエトは携帯食料を取り出し、エイレーネは小瓶から祝福のオリーブを摘まみだした。
 ディアナもチーズケーキを包むセロファンを剥がす。
 はじめは半分に折ったいちごミルク味 のシリアルバーを、改めて少女の顔に近づけた。
「はい、約束の……残り半分よ。目を開けて、もう恐れることはないわ」
 お菓子の甘い匂いにつられて、女性たちがおそるおそるまぶたを上げる。
 目の前に広がった楽園のごとき風景に、誰もが驚きの吐息を漏らし、耳から手をゆっくりと降ろした。
 女神の微笑みとともにエイレーネは祝福のオリーブを差し出す。
「楽園……とは言いませんが、カナンの地は安全です。かの地にて反撃の狼煙を私たちとともにあげましょう」
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【避難勧告】LV1が発生!
【パラドクス通信】がLV2になった!
【友達催眠】がLV2になった!
【水中適応】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
【完全視界】がLV4になった!
【寒冷適応】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!
【ガードアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV2になった!
【命中アップ】がLV3になった!
【ロストエナジー】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2023年03月07日