リプレイ
クロエ・アルニティコス
他人は所詮他人、他人が死のうと私が死ぬわけではありません。
ですが、これから彼女たちに起こることは私にとっては他人事ではない。
今後の情報収集というのを置いておいても、助けるのは吝かではありません。
フードを被り、【モブオーラ】でウェアキャットに紛れて警備の目を盗んで町へ潜入します。
非番の亜人が静かに飲んでいるとは思えませんし、騒がしいところには近づかないようにして非番の亜人も避けましょう。
うまく街に入り込めたなら、自分の目と足で警備の状況を調べます。
できれば脱出の際は亜人はもちろんウェアキャットにも見つかりたくありません。人目に付かないルートや時間帯が見つかれば良いのですが。
エイレーネ・エピケフィシア
ウェアキャットの出自を活かして出来ることをしましょう
亜人の眼を逸らすうえでも、女性たちの収容所を探るうえでも……
使用人に化ける手法は、一つの解となるはずです
予め同族の使用人に埋没しやすい服を着用
【プラチナチケット】の助けを借りて、使用人に紛れ込みましょう
移動しながらの情報収集が不自然でない点で、清掃員役がいいでしょうね
盛り場を掃除する時などは亜人がいない時機を見計らいます
掃除を通じて町の構造を把握しつつ、気さくそうな同族に聞き込みを
すみません。人間の女の収容所への近道はどうなっていましたっけ
わたし、近場の町から配置換えになったばかりでして
是非とも、この町を知り尽くした先輩のお力を借りたいのです
大総・統
蹂躙戦記イスカンダル、(自称)悪の秘密結社の長としては、一度、私自らが、(観光の為)下見に来ておく必要はあったが…(観光)資源もあったものではないな。
よし、先ずは亜人たちと、ここで揉め事を起こすのは得策ではない。見る限り、ウェアキャットたちも処世術で亜人への対応も分かれているようだ…聞き出す人物を選別し、この街の地理、亜人たちがあまり利用しない経路などの情報を聞き出す必要はありそうだ。
他の残留効果や【友達催眠】を併用し、亜人に被害受けて奴らに関わりたくなさそうなキャットと愚痴紛れに会話し(もしもの時に私が逃げる為の)避難経路と亜人寄りなキャッツたちの情報も確保し、脱出時に備えておく必要がある
奉利・聖
…やれやれ、なんとも野蛮で下劣だな
好きなように虐げて、なけなしの自尊心を慰めているわけだ
助けてあげたいですが…目立つことはできない
今は自分の仕事に集中するとしましょう
皆さんはウェアキャットの接触をやってくれるようですし…。
僕の方は非接触で得られる情報…ウェアキャット同士の、警戒心の薄い時の会話。何気ない噂話…彼らの視線のやり場などを観察することに徹します
『影気功』と【光学迷彩】の併用で姿を消しつつ、偵察と観察による情報取得に専念
収容所の位置がおおよそ絞れて来たら、高所を陣取るなどして人の流れを注視 流れを辿れば収容所の発見に繋がるでしょう
とにかく亜人に見つからないことを最優先とします
クーガ・ゾハル
【猫変身】に<誘惑><偵察>
目だたずうごく
リソウよりモサモサの、眼帯猫になったけど
足場から足場へ、高いところ、とびあがって
地形や道すじ、行き止まり
とくにケイビのあつい場所
ヒトをかくせそうな、でかいタテモノを見ておく
おぼえるのタイヘンだが、降りたら仲間に共有
上から見たキオクたよりに目星つけて
せまいウラ道、店のスキマ、ヘイの上
身をひそめて、聞き耳、ついせき
女のヒトや、シューヨー所の事話してるやつをさがす
見つかったら、ふつうの猫のフリ
ヴー
ブァー
なんか…うまく鳴けないが
<誘惑>されて亜人へのグチとか、きけないかな
スキをみてシュッとにげる
…カゾク、いなくなるのは、さびしいからな
取りかえせるヒト、だけでも
ディミトラ・ディミオス
何処の亜人も傍若無人ですね
鼻を明かしてやったら、どんな顔をするでしょう?
目立たないよう街娘に扮します
街中の亜人の目は光学迷彩で欺きます
人間達の世話役を懐柔するのが良いでしょうか
手伝いを頼まれたけど迷ってしまった風を装い
収容所と温泥地の場所を街人に確認します
女達の髪と肌を磨き上げる香油を持って来たんです
亜人様のいない間に綺麗にしてやって運び込めば、
手際に吃驚して益々褒めてくださるかもしれません
亜人様達が空けている時間帯も、
こっそり運び込める経路もわかりますよね?
言われた通りやるだけじゃ他と差がつきません
趣向を凝らせば、きっと目に留めて頂けます
あたし達がより良く生き残る為に協力しましょうよ
シャルロット・アミ
【光学迷彩】が使えるかしら
できるだけウェアキャットのいる場所を選んで街に潜入するわ
私はサキュバスだから、角も羽も隠せるような
大きなマントを被って歩くつもり
街に潜入できたら、マントはそのまま
できるだけ亜人たちの注意を引かないように
人混みに紛れるつもり
人混みの中で、聞き耳を立てるわ
なにか怪しい場所がわからないかしら
ウェアキャットの噂に上りそうな…
バレそうになったら他の潜入している人の迷惑にならないよう
亜人を引き付けて逃げるつもりよ
これで他の人が情報を得れれば儲けものだわ
アドリブ、連携歓迎です
一角・實生
落ち着いた色合いのフード付き外套を身に着けよう
翼もちょっとだけ砂埃をつけて、と
大通りは避けて情報を収集していくよ
騒がしい場所へは近づかない
酔っ払いってそうなる人が多いらしいから
街を脱出する為のルートは複数あった方がいいと思うんだ
収容所の位置を掴むまでは特に
裏通りで且つ入り組んでいない、人の目を避けられる道を調査していこう
訝し気な視線とかち合ったらパラドクスを発動
興味を向かせたところに【友達催眠】の力も使う
……すみません。ここの街並みが故郷に似ていて、あちこち見ていたら迷ってしまって
それで、さっきあっちの方で騒ぎがあったから、その――巻き込まれたくなくて
街の外に通じる道はここで合っているかな
ゼキ・レヴニ
初イスカンダルでいきなり敵サンの拠点に潜入とはね
まあ勝つ為にゃまず相手の事を知らねえとか
ぎたぎたにぶちのめすのはそれからってモンよ
【友達催眠】や【モブオーラ】があれば利用
人混みに紛れつつ
亜人たちが呑んでそうな酒場や
収容所に食料や物資を運ぶ為の倉庫がないか調査・看破*
女達を磨くってんなら、泥地、衣装品店も怪しいか
町中の噂話にも関連の話題がねえかよく耳を傾けておくぜ
目星をつけた場所から【過去視の道案内】で
収容所への案内ができねえか試してみるかね
【パラドクス通信】があれば他の復讐者と情報共有
調査ん時は深追いせず角や窓から覗くなど地形を利用*
目立たん様、亜人に見られねえ様、見た目含め注意するぜ
*=技能
リヴァル・アーク
人間たちを蹂躙することで力を増すクロノヴェーダ、ですか……。
恐怖や信仰で力を得るクロノヴェーダとはまた違った方向性ですね。ですが、やっていることはまさしく悪逆非道、許すわけにはいきません。
『モブオーラ』を使用して街に潜入します。
ウェアキャットが女性たちを連れ行く現場などに遭遇すれば、身を隠しながらどこに向かうか追跡してみましょう。バレそうなら撤退しますが、集められる地点はどうやっても一つだけのはずですし。
あとはそうですね、飲んだくれている亜人たちの会話を盗み聞きしてみましょう。
まったく……昼間から飲酒とはずいぶんと能天気な……というか、そもそも思慮に欠ける、と言っていましたか。
●
復讐者が亜人の街に着いたのは、丁度、小さな命が摘まれた直後。
数人のウェアキャット達が同胞の亡骸を運び出し、一瞬の靜寂が再び喧騷を取り戻す――この街では然程稀しくない光景を見た大総・統(秘密結社ラグナロクの大総統・g00589)は、雜音と跫音の入り亂れる中に聲を潜めた。
「……成程、此處が『勝利王セレウコス』の支配地域。亜人の街は斯くの如きと」
此度は褻御幸――(自称)悪の祕密結社の長として、見聞を広めるべきと足を運んだ訳だが、肝心の(觀光)資源などあったものでは無いと佳脣を引き結ぶ。
彼の言を繼いだのは、高低を違えた二つの聲色。
奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)もディミトラ・ディミオス(アマルトリ・g08941)も、その表情は嚴しい。
「……やれやれ、なんとも野蛮で下劣な。好きなように虐げて、なけなしの自尊心を慰めている訳だ」
「相變わらずと云いますか、何處の亜人も傍若無人ですね」
そと指を帽子の鍔へ、鋭く光差す黑瞳を隱す彼の隣、ディミトラには最早見慣れた光景だが、だからと云って心が風化する事は無いと、冷艶の瞳に灯が點る。
理不尽な暴悪に炎燄[ほむら]が萌すが、其を上回る冷靜が彼等を雜沓に押し留めよう。
「ウェアキャット達も助けたい所ですが……目立つ事は出來ない」
「慥かに、現時点で亜人達と揉め事を起こすのは得策では無いな」
この街に見る支配構造は絶対的だと、密かに烱瞳を巡らせる聖と統。
今は少しずつ切り崩しを――先ずは鹵掠された女性達を救出し、この地域の攻略を足掛りに、支配体制を搖るがしていくのが最良と、瞋恚に増して頭腦が冱える。
二人に頷いたディミトラは、塵埃の舞う道端に佳聲を隱し、
「連中の鼻を明かしてやったら、どんな顏をするか。――樂しみです」
と、言い置くや喧騷に溶けた。
この時、亡骸を運び出す者達と擦れ違ったのはクロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)。
街行く者が彼等に憐憫を結ばぬよう他所を見ているが、彼女も目深にフードを被った儘、俗悪な喧騷に身を馴染ませる。
「……他人は所詮他人。他人が死のうと私が死ぬ訳ではありません」
これが此の街の“日常”。
感情を露わにして下手は打たぬと、暗い表情をした彼等を眼路の脇に送った佳人は、フードに影を落した鼻梁を眞直ぐ前へ――誰にもぶつからぬよう、誰の目にも留まらぬよう、日常に溶けて街を歩く。
耳を聾さんばかり蟬噪を滑る科白が、強い意志を示そう。
「但し、これから彼女達に起こる事は私にとっては他人事で無く……今後の情報収集というのを置いておいても、助けるのは吝かではありません」
決して他人事では無い。
魔女は多くを語らぬが、その足は収容所の場所を突き止めるべく、監視の目を潜り抜けていく。
「非番の亜人が大人しく飲んでいるとは思えませんし、騷がしい場所には近附かないようにしましょう」
亜人が昂ぶるような場所に、女性達を集める事は無かろう。
クロエは禍々しい呶号や哄笑を避け、埃立つ雜沓を歩く、歩く。
一方、亡骸を運び出す者達を二階の窓枠から見下ろしたのは、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)。
もっふりした焦茶の猫に變身した彼は、衆目を遁れて高所へ、敏捷を活かして壁を登り、建物を飛び渡り、而して得た広い視野に雜然たる街並みを見渡す。
「なん」
くりくりピカピカの隻眼が探すのは、複数の人間を隱せそうな建物。
寝食の世話をする上、泥風呂に入らせるとならば、相應のハコモノになると予想したクーガは、探索の目を光らせると共に三角の耳をピンと立て、猫ならではの可聽域に道端の会話を拾い集めた。
――また亜人樣が女を攫って來られたそうだ。
――女以外は全員抹殺、集落は潰えた訳か。
「なご」
女性達の故郷は、もう無いらしい。家族も村も全て焼き払われたのだ。
会話のする方向へ口吻を結んだクーガは、カリ、と靜かに爪を立て、
(「……カゾク、いなくなるのは、さびしいからな。取りかえせるヒト、だけでも――」)
絶対に見つける。必ず助ける。
今なら間に合うと四つ脚を蹴り、建物伝いに移動を始めた。
(「ウェアキャット達の間でも、女性達が運び込まれた事は噂になっているようね……」)
今の会話を地上で聽き拾ったのは、シャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)。
木を隱すなら森にと、人混みに紛れて聞き耳を立てていた佳人は、己が種族特徴をすっぽり覆ったマントの襟を寄せつつ、翳影に潜めた翠瞳を研ぎ澄ます。
(「……やっぱり、救出した女性達は『カナンの地』に送り届けるのが良いみたい」)
家族を亡くし、故郷を失くした彼女達が、少しでも心穩やかに過ごせるように――。
その爲には亜人は疎か、ウェアキャットも出し抜かなくてはならぬと凛然を兆したシャルロットは、より喧騷のする方へ、昼間から賑わう酒場の小窓にそと近附いた。
中では数人の亜人が、酒を飲みながら話をしている。
『――で、今回はどれくらいオンナが入った?』
『二十か、三十はいかない位だったな』
『カーッ、ありつきたいモンだぜ!』
バレれば連中を引き附けて逃げる。それだけの準備と覺悟をした上で亜人の会話を盗み聞く。
捕われた女性の数を把握したシャルロットは、可能なら全員の救出を目指したいと、物陰で櫻脣を引き結ぶのだった。
「思慮に欠けると聽いてはいましたが、まったく……昼間から飲酒とは能天気な……」
酒場の裏、空になった樽を数えるはリヴァル・アーク(竜滅の拳・g00136)。
彼の隣、世間話を装って樽に寄り掛かるゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)も、裏口まで届く笑聲に耳を欹てている。
「手前のシマで油斷している上、酒が入って饒舌になったか。口が輕くて助かるぜ」
目下、酒場で飲み合う亜人らは、過日に襲撃した人間の集落から略奪してきた女性達について、誰が“褒美”を貰えるかを話している樣だが、その生々しさは聞くに堪えない。
リヴァルは下卑た笑いを耳にしつつ、低く佳聲を滑らせた。
「人間を蹂躙する事で力を得るクロノヴェーダ、ですか……恐怖や信仰で力を得る輩とはまた違った方向性ですね。ですが、やっている事は正しく悪逆非道、許す訳にはいきません」
赫緋の瞳に眞直ぐな義憤を兆すリヴァルの前、ゼキは飄々。
彼は店の裏を忙しなく行き交うウェアキャットを視界に置きつつ、その足が何處に向かうか探っている樣だった。
「勿論、ぎたぎたにぶちのめす。貰うモン貰ってからな」
「情報ですか」
「噫、勝つ爲に先ずは相手を知る。そっから仕掛ける」
彼等を出し抜けば、嘸かし面白い顏をしてくれようと嗤ったゼキは、突き立てた親指に背後を示し、
「お互い、初イスカンダルでいきなり敵サンの拠点に潜入とはね。まぁ頑張ろうぜ」
と、リヴァルの足を誘うのだった。
『おい、そこ! 片附けておけよ』
亜人の中には、全く面識の無いウェアキャットに雜用を任せる者も居る。
面倒事を押し付けるには誰でも良いと、酒瓶を投げ捨てた亜人が去り際に言い渡したウェアキャットこそ、清掃員に扮したエイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)。
「……かしこまりました」
周囲の者達がそうしているように、消え入るような聲で頭を下げる。
亜人の気配が無くなってから箒を動かし始めた彼女は、我が出自を活かして“同業”に話し掛けた。
「此處に入るよう言い渡されまして」
「おや。中々欠員が埋まらなかったが、お前さんが補填かい」
過日に“粗相をした”者が居たのだと、その言い方で亜人に對する服從の程が判る。
ならば己も從順たれと、琥珀色の佳瞳に兆す凛然をそと隱したエイレーネは、手早く酒瓶を片附け始め、
「何せ配置替えになったばかりでして、この周辺を教えていただけますか」
「いいとも。掃除がてら案内するよ」
と、移動しながら情報収集に掛かるのだった。
『ハァーッ! 燃料も入った事だし、持ち場に戻るか!』
酒場から出る亜人達の後方で、ひとつの影が路地に滑り込む。
酔っ払いに絡まれては堪らぬと、喧騷を避けて小路を潜った一角・實生(深潭鷲・g00995)は、裏道の中でも入り組んでいない道を探しつつ、不圖、ある教えを思い出していた。
「しろフワは誇り。常に手入れをしておくように言われたけれど……今は許して貰おう」
フワ友は怒るだろうか――否、集落の命を預る彼なら理解ってくれよう。
長老お墨付きの翼に多少の砂埃をつけ、落ち着いた色合いの外套を着込み、また光輪もフードですっぽり覆い隱した彼は、目印となる建物を覺えていく。
「追手が掛かると分かっていれば、脱出する爲のルートは複数あった方がいいと思うんだ」
翼を広げて逃げられぬ以上、地に足をつけて往くべきと、彼は数人のウェアキャット達と極く自然に擦れ違いながら、軈て郊外に至るのだった。
†
亜人の街に潜入を果した復讐者は、この時点で全体的な連携は取らない。
俗悪な喧騷の中、飄と舞う埃のような些末さと自然さで捜索した彼等は、唯一つ、パラドクス通信によって繋がりながら、街で得た情報を共有していく。
「今回、捕えられた女性達は二、三十人と聽いたわ。これだけの人数を収容するとならば、建物はかなり大きい筈よ」
一旦裏路地に隱れ、知り得た情報を仲間に伝えるシャルロット。
黑く艶々しい髪と双角をフードに隱し、サキュバス由來の黑翼を折り畳んでマントに収めた彼女が、金絲雀の囀聲を電波に乗せれば、間もなくクロエが應答する。
「多くて三十人として、彼女達を纏めるには時間が掛かりそうです」
「私もそう思うわ。移動だって餘り急かせないだろうし……」
「出來れば彼女達を連れて脱出する際は、亜人は勿論、ウェアキャットにも見つかりたくない所です」
「ええ、一番慎重を期したい所ね」
事を荒立てては、早期に追手が掛かる。
カナンの地に着く前に、命が零れてしまう可能性もあるのだ。
「人目に付かないルートや、時間帯が見つかれば良いのですが……」
クロエの懸念に同意を示したシャルロットは、今も變わらず賑わう大通りを見遣ると、通信機越しに皆々へ呼び掛けた。
「収容所の特定と潜入方法、警備する亜人の遣り過ごし方や、脱出時に使えそうな逃走経路……調べる事は沢山あるけれど、皆で情報を共有すれば、きっと最善策が見つかる筈よ」
必ずこの街にも弱点が、攻略の鑰がある。
自らにも言い聞かせるように、シャルロットは再び光学迷彩を纏って人混みに解けた。
「あっ猫」
「ヴー」
「此處に居なよ。見つかったら蹴っ飛ばされちゃうぞ」
ねこクーガが屋上で洗濯物を干すウェアキャットに見つかったのは、街の大体の地図が描けた頃。
最初は逃げようと思ったが、警戒心の無い相手を前にした彼は、暫く佇んで話を聽く事にした。
「遊び回るなら夜にしな。強い奴はより弱い奴に警備を押し付けて、その弱い奴は居眠りしてるから」
我々に押し付けた仕事にはとやかく言う癖に、自分の仕事はまるで杜撰だと、少々の愚痴が混ざろうか。
亜人の支配は絶対だが、彼等が尊敬でなく恐怖で從っている事に気付いた眼帯猫は、良い事を聽いたと「おすすめ:よる」と憶える。
「ブァー」
御礼の一鳴きは、ちょっぴり下手だった。
「警備の配置や人数の多寡を調べに向かいます」
通信機越しに佳聲を届けるはクロエ。
フードに隱した瑠璃色の瞳を烱々と、己が足で巡る各地点の警備状況を確認した彼女は、最も往來の多い街の正門の他に、特に警備の嚴重な地点が数か所あると一同に報告する。
「どれかが武器庫で、どれかが食糧庫で、私達の探している建物かもしれません」
「ええ、どれかが収容所である可能性は強いかと。偵察して場所を絞っていきましょう」
返答を通信網に乗せるなり、店脇の積荷を駆け上がって高所に向かうは聖。
存在感を極限まで稀薄に、騷々しい街の風景に身を馴染ませた彼は、民間人たるウェアキャットには終ぞ捉えられまいし、街で己より大きな存在を見ぬ亜人などは、高所に目を遣ることなく大通りを闊歩していく。
「ウェアキャットに接触して下さる方も居ますし、僕は非接触で得られる情報の精度を上げるとしますか」
比較的自由に動ける身を活かし、警邏兵の流れを追って何の建物かを調べる。
透視などせずとも、周辺の樣子である程度は予測がつくものだと洞察力を発揮した聖は、近くを歩くウェアキャットに烱瞳を絞ると、その会話に耳を欹てた。
――あの世話役さんの所、最近小間使いまでご機嫌じゃない。
――ええ、どうやら“仕込み”が巧くいってるそうよ。慥か、泥の?
――太らなせなくてもツヤツヤになるなんて、信じられない!
――じゃあまた“数”を任されるわね。羽振りが宜いこと!
(「泥風呂を使って女性達を磨いている世話役の、噂話……?」)
取引先の者か、唯の噂好きかは判明らないが、兎に角、かの世話役を知っている者が居る。
女性の世話の仕方は其々に委ねられており、より実績のある、亜人の高い評価を得た者が更なる裁量を得るのだろうか――然し話を聽く限り、まるで家畜扱いだと『影』を纏った拳がぎゅっと固められる。
「……いいえ、今は自分の仕事に集中するとしましょう」
警戒心が薄まっている今、彼女達は今の話題を広げるだろう。
指先や目線など、場所の特定に繋がる挙動は見逃さないと、鋭眼が二人組を追った。
「小間使いまでご機嫌だと言っていたのですね。それらしき者を見つけました」
生地屋の脇で通信を入れるは、街娘に扮したディミトラ。
店主を相手に延々と自慢話をするウェアキャットが、どうも聖が聞き拾った噂話の登場人物に違いないと判斷した彼女は、得意の猫かぶり――おどおどとした樣子で話し掛けた。
「あの、あたし、姐さんと同じお館で働いていた者ですけど」
「……えぇと、誰だっけね」
勿論、相手が知らぬ顔をするのは当然。
然しこの者が収容所に通じる道を知ると確信した佳人は、流暢に、いや躊躇いがちに話を進めた。
「あたしの故郷に女達の髪と肌を磨き上げる香油があって、少し暇を頂いて取りに行って來たんです」
「ああ、だから知らない訳か。それで?」
「今からでもお届けにあがりたい所ですが、誰にも見つかるなと言われてまして……」
漸う小さくなる佳聲に、何か理解した小間使いが直ぐに店を出る。
慥かに美の祕訣は機密扱いだと、ディミトラを連れて道脇に隱れた彼女は、特に亜人が居ない時に運び込むべきだと意見を同じくした。
「慥かに、飛び切り綺麗にして献上すれば、その手腕を益々褒めてくださるかもね」
「はい。言われた通りやるだけじゃ差がつきませんから。趣向を凝らせば、きっと目に留めて頂けます」
絶妙に功名心を擽って懷柔に掛かるディミトラ。
気附けば気弱な街娘は、言はその儘、会話の主導権を握っている。
「姐さんなら、亜人樣達が空ける時間帯も、こっそり運び込める経路もわかりますよね?」
「勿論さ。アンタが裏道を憶えてないってんなら、案内するよ」
「ええ、あたし達がより良く生き残る爲に協力しましょう」
見事な話術、いや詐術。
一連の会話は、通信機越しに一同に聽き届けられるのだった。
「女性達が運ばれると、ウェアキャット達も忙しなく動き出すようですね」
「収容所に食料や物資を運んだり、着飾らせる爲に生地を調達したり……慌しいこった」
喧騷と雜音の中を滑る聲がふたつ。
リヴァルとゼキは巧みに人混み紛れつつ、街往く者の中でも特に目的を持って小走りするウェアキャットに目をつけると、彼等が運ぶ荷物が一体「何」であるか、優れた觀察眼で見極めていた。
「二、三十人の人間を世話するなら、食うものも着るものも相應の量になる」
「――そして、集められる地点はどうやっても一つになる筈です」
全ての物資は、亜人に捧げられる女性の爲に集められる。
リヴァルが鋭い洞察を見せれば、ここに小気味良い艶笑を浮かべたゼキは、【過去視の道案内】――現地点から収容所へと向かったウェアキャットの「影」を出現させ、この者が嘗て通った道を捺擦る事にした。
「……よし、こいつの足跡を辿れば収容所に着くだろう」
「はい。周囲にバレないよう身を隱しながら追跡しましょう」
通りには亜人が闊歩している爲、角に身を潜め、窓越しに先を窺う等、街ならではの地形を利用しながら影を追う。
「――此處が」
軈て二人が辿り着いたのは、大きな建物の後側にある、これまた大きな建物。
一部の屋根から湯気が出ているので、泥風呂を備えた収容所であると確信を得よう。
唯だ、「問題がある」とは兩人が口を揃えて、
「これで収容所は特定できたが、この道では亜人が警備する門を通る……」
「許可を得たウェアキャットなら通れますが、部外者のオレ達はどうするか、ですね」
門の兩側に立つ警備員を捉えるや足を止めた二人は、通信機を手に、皆々に状況を知らせるのだった。
「こうやって掃除をしていると、色々なモノが見えてくるんだよ」
「先輩はこの街を知り尽していらっしゃいますね」
清掃作業をしつつ街の構造を調べたエイレーネは、氣爽[きさく]な同業と仲を深めた所で話を切り出す。
「すみません、人間の女が収容される場所ってありますよね」
「ん、あるな」
「明日はそちらを掃除させて頂くのですが、道に不慣れなもので、不安で……」
その聲色には、“粗相をして殺されたくない”という含意が読み取れよう。
使用人然とした格好をする彼女に疑いを持たぬ清掃員は、不幸な目には遭って欲しくないと、少女を物陰に引き寄せ、
「……大きな躯では通れない道がある。教えよう」
と、収容所に至る裏道を伝授するのだった。
果して「裏道」とは。
其は丁度、仲間の骸を運び出すウェアキャット達を尾行した統にも見え始めていた。
(「この街を見る限り、彼等は其々に処世術を持ち、亜人への対應も分かれている」)
恐怖して從うだけの者。
関わらぬよう遠ざかる者。
女性の世話をして仕える者。
広大な地域、異なる時代の文化を混淆するディヴィジョン故、ウェアキャット達も樣々な生き方があるのだろうが、ならば彼等はと跫音を追った統は、軈て路地の突き当たり、街外れに至った。
(「随分細く、凸凹としているが……」)
訝しむと同時、成程と合點する。
亜人が通らぬ道は整える必要が無い、即ちウェアキャット達しか使わない道だと理解した統は、彼等と共に墓地に至ると、まだ土の色の鮮やかな部分があるのを見つつ、まるで共に亡骸を埋めた友のように輪に入った。
「また同族の仲間が死んだっち……もう悲しんでもいいかな」
亜人が居ないとなれば、絶対支配に置かれた彼等も多少は感情を零す。
俯く彼に代わって周囲を警戒した統は、沈默を共にして共感を示したが、然し彼等には哀悼の時間も許されていないとは、徐に立ち上がる彼を見て理解した。
「オレっち、買い出しの途中だったんだ……バレないように戻らなくっちゃ」
「間に合うか」
「裏道を使えば大丈夫だっち」
亜人達が使わない小路を通れば、連中の目を盗んで戻れると言うウェアキャット。
その得意気な顏を見た統は、今こそ己が求める情報を訊ね、
「――では、街から出る道も?」
而してスッと眇められる瞳に「是」を見る。
これで万一の時に自分が逃げる爲の……いや、女性達を連れて脱出する道が見つかったと光明を得た統は、間もなく通信を開くのだった。
「良かった。これで収容所に至る道と、収容所から街の外へ抜ける道が分かった」
統の通信を受け取った實生が、先に聽いた救出対象の人数を思い浮かべる。
捕われた女性は多いが、万一の時には彼女達も複数経路から脱出すれば良かろうと、フードに影した翠瞳が冱える。
而して郊外に至っていた彼には、ウェアキャットが訝しげな視線を注ぐが、対策は充分。
「此處は人間用の食物を育てる畑っちゃね? 何か用っちゃね」
「……すみません。この辺りが故郷に似ていて、あちこち見ていたら迷ってしまって」
クセの強い農夫の警戒心を払うは、【アルブスアウィス】――外套に祕めていた翼を広げた實生は、農夫がしろフワに気を取られた隙に話を進める。
「先刻あっちの方で騒ぎがあったものだから、その、巻き込まれたくなくて」
「危うきに近寄らずっちゃよ」
「街の外に通じる道はここで合っているかな」
「げに。そこだっちゃも」
こっくり頷く農夫が指し示す先、野菜を積んだ荷車が通れる程の道を認めた實生は、早速、「もう一つの道」として皆々に伝えるのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【モブオーラ】LV2が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
【友達催眠】LV2が発生!
【光学迷彩】LV3が発生!
【猫変身】LV1が発生!
【過去視の道案内】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【凌駕率アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!
【アヴォイド】LV2が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【アクティベイト】LV2が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【フィニッシュ】LV1が発生!
ナディア・ベズヴィルド
【まのもの】
ほんっっっっと胸糞悪い奴らが多い
一国の早く捕らわれの女性をカナンの地へ連れていきたいわ
アリアさんの【友達催眠】を使い近くにいるウェアキャットに話しかける
ねえ、ここらで商売をしたいと考えているのだけどもどこかいい場所を知らない?
できれば亜人様があまり来ないような所とか…だって怖いでしょう
亜人様が多く通る場所や道を知っているかしら?
(よかったらこれを食べてと果物を御裾分けして口を滑らかにさせようか)
これを何人かに聞いた後は街の構造を把握し
警備の亜人がどのように動いているか調べ
【パラドクス通信】で皆と情報共有を
途中、亜人に目を付けられたら【現の夢】を使い殴り飛ばしておこう
これは夢っ!
タオタオ・ザラ
【まのもの】
人間の女を運んできたウェアキャットのフリ
メジェドの布帛を頭まですっぽり被って、頭や背中は見えないように
【現の夢】と【友達催眠】の効果を利用
多少の違和感は隠してくれるだろう
亜人に見付からないこと、目立たないこと、騒がしい場所には近付かないことを念頭に
かち合ったら実力行使待ったナシの気配するし
ウェアキャットと接触して
アリアを『上玉の女』として無事引き渡せれば重畳
……、……心配だけど危険な目には合うまいよ
引き渡せたら【パラドクス通信】で得た情報も使いその場から退散
ナディアが実力行使に出るような事態になる前に隠れて次に備える
タオは今か弱い猫ちゃんなので、争いはしたくないんだにゃんにゃん
アリア・パーハーツ
【まのもの】
まずは胸糞悪い状況をどうにかしないと
さて作戦開始なのだぜ
今日はボク様「連行される可哀そうな女性」
懐に入り込むためならハニトラだってやるし
大丈夫、ばれない
慣れたもんなのだぜ、潜入
行って来ますは心の中で
うわ痛い、乱暴!お前!顔は覚えたぞ!
弱々しい演技しつつ横目で確認
嗚呼、そこにいたんだね、皆
大丈夫、ちゃんとカナンの地へ連れて行くから
もう少し頑張って
女性が連れて行かれそうなら阻止
ねえ「私」の方が彼女より綺麗でしょう
恐いけど最後くらい誰かの役に立ちたいわ
なんて、ねえ
上手に騙されてね、ボク様に
何もなければ人数を把握、敵の動きも観察して味方に知らせよう
ナディアさんの【パラドクス通信】が大活躍
――時に。
髭モジャのゴブリンが無辜の命を摘み、数人のウェアキャットが同胞の亡骸を運び出す――街行く者達の目が一瞬でも一點[ひとつ]に集まった隙を滑る影があった。
「…………ほんっっっっと業腹ったら無いわ」
フェイスベールに隱した紅脣、奧齒に瞋恚を嚙み砕くナディア・ベズヴィルド(黄昏のグランデヴィナ・g00246)。
亜人と同じ空気を吸うのも穢しいと蛾眉を寄せた凄艶は、直ぐにも捕われた女性達を連れて『カナンの地』に行きたいと、足早に喧騷を擦り抜ける。
「同感! だから先ずはこの胸糞悪い状況をどうにかするんだぜ」
先行するナディアの花馨を追うアリア・パーハーツ(狂酔・g00278)も、美し大瑠璃の聲にハッキリ嫌悪を示して。
命を弄ぶ奴等の懷中に入り込む爲なら、如何なる役も演じてやろうと意気込む佳人は、此度はその麗顏艶姿を布帛に覆い、その裾より覗く玉臂には、なんと、縛縄を許している。
「手首、痛くないか」
「へいき」
「この儘もう少し歩く。忙しそうにしているウェアキャットを探すぞ」
彼女にぽつぽつと佳聲を置いて歩くは、縄の持ち手たるタオタオ・ザラ(大喰らい・g05073)。
黄昏に染まる艶髪をメジェドの布帛に隱した彼の全てを見る事は叶わないが、繋がれた縄を見るに「人間の女を運んで來たウェアキャット」然としたタオタオは、アリアを収容所に送り込むべく仲立ちを探す。
俗悪な蟬噪を避け、目立たぬよう移動するのは、亜人との接触を避ける爲。
収容所に至るより前に見つかっては、連中の浅慮と暴虐に嬲られてしまうと慎重を期す三人だが、但し準備は万全。
「万一にも目を附けられたら、記憶ごと殴り飛ばしておきましょ」
「収容所に連れられる可哀そうなボク樣を見たのは、残念、夢だったのだよ……ってね」
メキリと繊手を握り込めるナディアには、アリアも面白がって諧謔をひとつふたつ。
かち合ったら実力行使待ったナシの気配を察知したタオタオは、フードを被った頭[かぶり]をふるふる、ナディアぱんちが炸裂する前に隱れるべしと、脇道に目を配りながら雜沓を進む。
「タオは繊弱い猫ちゃんなので、爭いはしたくないんだにゃん」
「……かよわい?」
「……ネコチヤン」
「にゃんにゃんご」
斯くして街に溶け込んだ一同は、軈て大きな蔵の前に至ると、其處で食料の積み出しを行うウェアキャットに見当[アタリ]を附けるのだった。
†
「――ねえ、ここらで商売をしたいと考えているのだけども。何處か良い場所を知らない?」
宛で故郷を同じくする友のような親しさで呼び掛けるナディア。
佳聲に手を止めたウェアキャットが振り向けば、凄艶は「これは誼みに」と果物を差し出すが、その瑞々しさは勿論の事、使用人は彼女が後ろに連れる者の、手に持つ縄に繋がれた女にギョッとした。
「にん……にん、人間の女……っ」
「できれば亜人樣があまり來ない處が良いのだけれど……だって怖いでしょう?」
「そ、そりゃ、そうだ」
ナディアが婀娜に語尾を持ち上げる間、使用人は心臓をバクバクさせている。
亜人達が略奪した女を街に連れて來たのは数日前の事だったが、それ以外の方法で彼女達を見るとなれば、蹂躙した集落に取り零しがあったか、収容所から逃げたか、別の集落で調達して來たか――とまれ“曰く付き”なのは間違いない。
一体どんな「商売」をすると言うのか、ゴクリ生唾を飲む使用人に對し、ナディアは其に触れぬよう話を進めていく。
「亜人様が多く通る場所や道を知っているかしら?」
「も、勿論。人間用のものは、亜人樣のご機嫌を損ねぬよう運びたいからな」
使用人がチラと見る方向で、収容所の大体の位置を知る。
この時、この者が収容所に出入りできる縁者だと確信を得たタオタオは、アリアを覆う布帛をサッと肘まで捲り上げると、そこいらの女とは較べものにならぬ『上玉』である事を示して見せた。
「腕の立つ世話役に預ければ、もっと磨かれる」
「……ッ……分かった。荷物と一緒にこっそり運んでやろう」
世話役が受け容れるかどうかは保証しないと口では言うが、その實、これだけの上玉を受け容れぬ筈は無いとも思っているウェアキャットは、アリアを荷台へ――収容所に運ぶ物資に紛れて連れて行く事にする。
荷車の前で縄を解いてやったタオタオは、アリアを乗せざま一言を交し、
(「……、……心配だけど危険な目には合うまいよ」)
(「大丈夫、ばれない。潜入は慣れたもんなのだぜ」)
行って來ます、気を付けて、の二語が瞳の色で結ばれる。
この時から通信は「常時開」となり、アリアは覆布の隙間より覗く収容所のルートや、正門に立つ警備の人数等、得られる情報を逐一通信網に乗せた。
――うわ痛い、乱暴! 世話役のお前! 顔は覺えたぞ!
「……無事に収容所に入れたみたいだ」
「入って直ぐ風呂場に連れていかれたみたい……そんなに汚れていたかしら?」
アリアと一旦別れたナディアとタオタオは、収容所から距離を取って通信に耳を傾ける。
日中はとことん手入れをさせられ、夜は美容の爲に早くに眠らされる事も中の会話で判明した。
――嗚呼、そこにいたんだね、皆。
――大丈夫、ちゃんと『カナンの地』へ連れて行くから。もう少し頑張って。
アリアが救助対象である女性達を発見したのは、泥風呂に向かう途中。
四~五人ずつ入れられた部屋を橫目に見た佳人は、凛乎たる星眸[まなざし]で女性達を見るのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
【現の夢】LV1が発生!
【友達催眠】がLV3になった!
効果2【ダブル】がLV2になった!
【ロストエナジー】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!
●
亜人の街に潜入した復讐者が得た情報は、パラドクス通信で全員に共有される。
ひとつ、連行された女性は二十~三十人。四、五人ずつ部屋に収容されている。
ひとつ、収容所は大きな建物の後方、これまた大きな建物から湯気が出ている。
ひとつ、収容所の正面には亜人の門番が左右に一人ずつ立っており、部外者は侵入できない。
ひとつ、収容所には裏道があり、亜人を怖れるウェアキャット達がこっそり使っている。
ひとつ、亜人は己より立場の弱い亜人に警備を任せる事があり、その亜人は夜に居眠りをしがち。
ひとつ、女性達は日中は泥風呂に入ったり手入れをされ、夜は美容の爲に早く眠らされる。
ひとつ、ウェアキャットの墓場から街の外に出られる裏道がある。
ひとつ、街の郊外、人間用の食物を作る畑にも街の外へ繋がる道がある。
多くの復讐者が広域を移動し、更に多角的に偵察をした爲、今回の情報収集はかなりの収穫を得たろう。
後はこれらの情報から、いつ、どこから、どのようにして収容所に侵入あるいは襲撃を掛けるかだが、捕われた女性の人数の多さから、スムーズな脱出方法や、なるべく周囲に悟られない移動を考慮するべきでもある。
収容所の女性には、何と聲を掛けたらよいだろう?
世話役を出し抜くには、どうしたら良いだろう?
樣々な問題と選択肢が、突入作戰を立てる復讐者達の前に積み上げられた。
ディミトラ・ディミオス
静かに密かに冷静に、決して油断のないように
万一お叱りを受けるのはあたしだけで十分
姐さんは街で朗報を待っててください
残留効果を活用しつつ
夜、教わった時間帯を見計らい裏道を辿り収容所へ潜入
あたしは世話役の対応を
足音や気配に神経を澄ませ、出合頭の狼狽を回避
誰何される前に近付いて密談めかし
ここの女達の中に、別の街の女が逃げて紛れました
返すなら責めぬとのこと、街外れで面通しをします
女を保護して更に磨いたとお褒め頂けますよ
協力の礼にと香油を渡し腕を掴んで同行させます
片手には念の為ギャロットを携えて
収容所を出たら解放
密告すれば管理責任を問われますよ
その香油が便宜を図る収賄の証拠
命より大事なものってあります?
ゼキ・レヴニ
夜、裏道から【光学迷彩】で身を隠しつつ潜入
【パラドクス通信】で連携
建物内の地形を利用*してクリアリング、ハンドサインで静かに行動
【過去視の道案内】も利用して女性達の居る場所を目指すぜ
亜人に見つかった場合は援軍呼ばれねえ様囲って速攻片付ける
おれは【怪力無双】で力仕事担当
腐食させた扉を持ち上げて静かに外したり
敵が通る扉を重い物で塞ぎ時間稼ぎもできるかね
女性達には【友達催眠】
助けに来た事、亜人と戦う者である事を伝える
おれたちが希望の地に連れて行く
生きたい奴はついてきてくれ
脱出時は墓場と畑の出口の二手に分かれる
足音少なくする為にも
女性達のうち怪我人や足の遅い奴優先で
怪力無双で可能な限り抱えて運ぶぜ
クーガ・ゾハル
よし、ネコビトおすすめの、夜がきた
ウラから【モブオーラ】に【光学迷彩】かりて
しずかにすすむ
歩きながら少しずつ【腐食】させる
ワナみたいなものや
さわるとケガしたり、音のしそうなもの
女のヒトたちのへやのカギ、トビラのツナギ目
ついでに、ミハリとかがオモテから来る道も
一カ所こっそり、おとし穴みたいにしとこう
つれだし始めたら、後ろのほうでてつだう
だいじょうぶだ
ぜったいに、あいつらには追わせないから
あの背中に、ついていけ
ユウキづけて、おくりだそう
みんな出たら
アリアより後ろの道にもあちこち【腐食】
ころんで迷って、ワナにかかっても
くずれておきあがれないぞ
…帰るとこ、もうなくても
自由が、少しはキボウになればいいな
アリア・パーハーツ
さぁお家に帰る時間なのだぜ
助けてあげるじゃない
一緒に帰ろうって
【友達催眠】も利用して穏やかな声で
鼓舞するように背中を支えて
手を握って、離さないから、明日は温かいベッドで眠ろう
女性たちはいつも通りに手入れの後、眠るふりをお願い
中の動きを【パラドクス通信】で知らせつつ外の状況等を教えてもらう
仲間が見えたら手を振って合図
お迎えが来たのだぜ
さぁ行こう
全員出た?残ってる子はいないよね
後ろなんて振り返らないで、前だけを向いて
恐がったり足の遅い子をフォローしながら最後尾を付いて行くのだぜ
【トラップ生成】を発動させて追っ手が来ても足止め出来るように
万が一追いつかれたら囮になる覚悟
まぁ何とかなるよ
皆いるんだもの
リヴァル・アーク
さて、救出の手筈は整いましたね。
【光学迷彩】を使用して収容所の外に潜伏。亜人たちの動向に常に気を配りながら、【パラドクス通信】で外の様子を中に侵入した人へ連携します。亜人たちに動きがあればすぐに連絡しますよ!
捕まった女性たちがいる部屋に鍵がかかっているならば、【無鍵空間】で補助しましょう。
立場の弱い亜人は居眠りしていることが多いとはいえ、用心に越したことはありませんね。
今回は門番がいるようですが、このタイミングで他の亜人が収容所の様子などを確認しに来たらアウトですし。
中にも亜人がいるかもしれませんが、危うい場合はすぐに加勢できるように準備しておきましょう。
一角・實生
夜に【完全視界】を使い収容所の外にある物陰や死角に待機
門番の警戒と先導役を受け持つよ
逐一仲間と【パラドクス通信】で情報を更新し脱出と合流のタイミングを計ろう
女性達を逃がすことを最優先に
見張りに見つかっても対処は仲間に託し、女性達に手招き
大丈夫。ついてきて
落ち着いて礼儀正しく振る舞い(礼法)信頼を得たい
畑の道は実際に見ているし、俺はそちらを使って街の外へ女性を逃がそう
灯りは最小限……小さなカンテラ位だろうか
不安がっていたりリーダー的な女性がいれば手を繋ぎ、道を見て貰うよ
【友達催眠】も使うかな
この道が外に繋がっているのが見えるだろ?
あなた方を「収容」し、「道具」として扱うことのない地へ送り届けるよ
クロエ・アルニティコス
油断しきっているとはいえ、亜人の住む町でこれだけの情報が集められるとは思っていませんでした。
しかし本番はこれから。気を抜かずに行きましょう。
収容所への侵入は他の復讐者の方針と合わせて行動。
女たちに【活性治癒】を使い、怪我や疲労を回復させます。
私たちは冒険者、あなたたちを助けに来ました。
こんな世界ですが、逃げ場はあります。
ここより西のカナンの地。そこの支配者であった亜人は倒れ、ウェアキャットたちは逃げ去りました。人間が生きることができる場所がそこにあります。
脱出後、休憩をする時には再度【活性治癒】。亜人に追いつかれるのを遅らせます。
ゆっくり休むようには言えませんが、魔女らしいことはしましょう。
エイレーネ・エピケフィシア
これだけの情報と知恵が集まれば、きっと作戦は成功します
皆様、ここが正念場です。頑張りましょう!
わたしは収容所の外で周囲を警戒し、救出後は外への先導と追手への対応を
引き続き清掃員に身をやつし、異変がないか注視します
同族を見つけたら、近くで酔った亜人が徘徊しているなどと伝え人払いしましょう
救出班が出てきたら合流、墓場の道で市外を目指します
追手への対応ですが、まず同族である場合は
盾や槍の石突きを用いた殴打で、死なないように手加減して無力化します
亜人が追跡してきたなら【防衛ライン】を展開
撤退までの時間稼ぎになる分だけ『スピアウォール』で応戦してから
包囲される前に撤収し、救援機動力で仲間と合流しましょう
ジズ・ユルドゥルム
皆の仕事のおかげで段取りは万全だな。ありがたい
夜間、裏道を用いる
【光学迷彩】を使用し、人の出入りが無い時を見計らい潜入
収容部屋に施錠があれば【怪力無双】で破壊し、【平穏結界】で物音に気付かれにくくしたい
女性達へは戦面を外し、私達は冒険者に連なる者だと名乗り
この街で家畜のように死ぬか。人として生きられる可能性に賭けて足を踏み出すか
選んで欲しい、と問い掛ける
ついでにタオへ笑顔(目が笑ってない)を向けておく
…いつか彼女達が悲痛な体験に向き合う時
生きることを自ら選び取ったのだと
今日の選択が、未来の彼女達を勇気付けるかもしれない
脱出時は集団の殿に着き
【完全視界】で夜闇を見通し、先んじて追手を発見したい
ナディア・ベズヴィルド
裏道から侵入
猫変身を使い先にアリアさんの所に向かう
走っていたって猫が迷い込んだと思われるだけだし
PD通信で居場所を確認しながら合流を
女達にアリアさんの仲間だという事、私達は冒険者だと伝えて安心してもらう
ウェアキャットに見つかった時は相手が騒ぐ前に迅速に動き口を手で塞ぐ
声を出そうとするならこのまま貴様の顎を砕く
死にたくなければ大人しくしてなさい
収容所から脱出する時は【迷宮化】を使い、追手が来る時間を少しでも稼ぎ
【浮遊】【完全視界】を用いて女の人と手を繋ぎ静かに移動
もう少しで街の外に出られる
亜人の子を産み無残に死ぬのと比べたらこれからの移動は可愛いものよ
私達が必ず守り、カナンの地へ送り届けるわ
タオタオ・ザラ
静かに手早く、潜入と救出を
お間抜けさんが居眠りをはじめる頃だ、こちらも動くとしようかね
【パラドクス通信】で連絡と【光学迷彩】で隠れつつ収容所へ
無事潜り込めれば
アリアはイイ女に磨きが掛かったかね?なんて、けらけら笑う
さぁて行こうか、美しいお嬢さんがた
何処にって外にだよ、こんな最悪な場所にはもう居たくなかろ?
幸せな夢を、現実にしようか、なァ
それにしてもほんと亜人相手には勿体ねえなあ
無事逃げ果せたらタオと一晩くらい……
……あっハイそんな目で見ないで冗談だよ冗談
収容所を脱出後は
警戒や先導の仲間の指示に従って脱出路を決めて動こう
追手が邪魔する気なら、ちょいと痛い目見てもらおうか
タオの女だ、触るんじゃねえ
奉利・聖
…素晴らしいな これだけの情報が集まるとは
さて、それでは救出作戦の時間です
多数の情報と人員…上手くいかないなんてありえない
我々の知恵と技術を総動員して、やってみせましょうとも
では僕は、墓地から外に出る為の道を確保しておきましょう
墓場故に訪れる者は少ないかもしれませんが…亜人はおろか、できればウェアキャットにも見られたくはないものです
【光学迷彩】を使いつつ見張り、誰か来ようものなら追い出さないと
『幻気功』と【トラップ生成】で、進む方向が墓場外になるように認知トラップを置いておきましょう
救出隊が来たのなら、静かに手引きして…脱出の道を先行します
帰りましょう、帰りたい場所に
誰にもその権利はある
●
「――守衛が交代しました。これから夜間警備に入るようです」
凛乎と冱え渡るテノールが通信網を伝って広がる。
聲の主はリヴァル・アーク(竜滅の拳・g00136)。
街の四ツ角に潜伏した彼は、烱瞳の際に捉えた収容所の正門を見張ると共に、周辺に僅かにも異變があれば、作戰を同じくする者達に注意喚起する用意がある。
事前情報で「夜は警備が甘くなる」と聞いていたが、彼は連中の不用心に閉口しよう。
『ハーッ! この俺が突っ立ってるだけとは腹立たしいが、まぁやってやるか!』
片方の守衛は、あの髭モジャ。
矢張り雜魚扱いされているのか、“ダルい仕事”を寄越されたらしい。
『ちと眠ィが、酒も入って気力は抜群! 女に手を出さないって証明してやるぜ』
否、酒は悪手。
既に瞼が降りそうだと觀察の眼を鋭くしたリヴァルは、髭モジャが言う通り「突っ立っているだけ」だと報告を入れると、正面突破でもしない限り、彼等は槍を杖代わりに眠り始めるだろうと溜息を吐く。
「それにしても、この怠慢。亜人の支配が不動盤石である事を示しているのかもしれません」
これまで抗う者が居なかった慢心か、亜人に敵う者など居ないという驕心か。
蓋し其こそ“弱点”――日中、街を歩いて感じた連中の驕慢に附け入る時が來たと、密かに佳脣の端を持ち上げた少年は、付近に集まり始める仲間の気配を通信機越しに確認する。その聽覺は狼より鋭敏だ。
「明日はこの道を使えばいい。遅刻などすまいよ」
「ありがとうございます。先輩のお陰で仕事に自信がつきました」
沢山の感謝をと、去りゆく“同業”に深々と礼をするエイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)。
そと頭を持ち上げて搖れた前髪の奧、琥珀色の麗瞳を煌々と輝かせた少女は、収容所の裏手口に到着した旨を報告すると、淸掃員に扮した身をその儘に、引き続き街に馴染みながら周辺の警戒に當たる。
「リヴァル樣が正門で亜人の動向を見張って下さいますから、わたしは裏道を使うウェアキャット達の対應を――」
言った矢先だった。
急ぎ足で此方に來るウェアキャットを見た彼女は、慌てた樣子で迎えると、その者が運ぶリネン類に手を差し伸べる。
「お気をつけて。近くで酔った亜人樣が徘徊していらっしゃいます」
「えっわっ怖……どう、したら……っ」
「わたしがお館に運びます。ここは引き返して、その方がわたしも――」
「んむっ、お互い命は大事にしよう」
神妙な表情を結び合い、別れる。斯くして引き返させる。
おどおどと去る同族の無事を祈ったエイレーネは、同時に其を誓いと變えて言った。
「皆樣が集めた情報と知恵があれば、きっと作戰は成功します。ここが正念場……頑張りましょう!」
「ええ、ここが正念場。閑かに密かに冷靜に、油斷無く事を運びましょう」
音無き交睫を是に代えるは、ディミトラ・ディミオス(アマルトリ・g08941)。
収容所で働く小間使いの案内で裏道に至った佳人は、エイレーネの影を認めるや足を止め、大事を告げんと向き直った。
「すっかり遅くなってしまいました。あたしがご主人樣も亜人樣も怖いって言うから……」
「いいんだよ、夜が良いって言ったのは私さ」
今ならどちらも動きが鈍っていると言う彼女に、小さく頭[かぶり]を振るディミトラ。
騷動に巻き込む事も無いと小間使いを押し留めた佳人は、雪嶺の鼻梁を眞直ぐ結んで云った。
「万一にもお叱りを受けるのはあたしだけで十分。姐さんは街で朗報を待ってて下さい」
「朗報? 亜人樣に褒められるって事かい」
「いえ、それ以上の――」
それ以上の痛快があるとは、銀瞳に輝く光が示そう。
而して遣り遂げる自信もあるディミトラは、單身、裏の戸口に向かうのだった。
「――ネコビトおすすめの、夜がきた」
収容所の裏口で待っていたのは、一匹の猫。名をクーガ・ゾハル(墓守・g05079)。
ディミトラの姿影を認めるや元の姿に戻った靑年は、その輪郭を昏闇に馴染ませながら、紫闇の霧を纏わせた指先を扉へ、固く閉された錠前を音も無く壞す。腐食させたのだ。
掌からサラと零れる錆粉に微笑を置いたクーガは、肩越しに目配せして突入を促した。
「よし、うまくいった。中のトビラやカギなんかもやっていこう」
「導線を引く」
低く短く発聲するや、忽ち黑影を滑らせるゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)。
黯黮[くらがり]を先行した彼は、内部の空間的死角を確認しながらハンドサインで一同を嚮導し、また鑰の破壞に掛かるクーガが隙に晒されぬよう背後に立って解錠作業を援ける。抜身の山刀を逆手に握るのは、万一にも亜人と遭遇した時、初撃に咽喉を搔ッ斬る爲だ。
「さぁ、お前さんの“自慢の逸品”に案内して貰おうか」
小さな囁きに輪郭を得たのは、女性達の面倒を見る世話役の影。
しゃなしゃな歩く其を追って奧へと進めば、軈て小さな蝋燭が燈るだけの部屋に辿り着いた。
†
時計の針を少し戻す。
収容所に集められた女性達は、美容の爲に早く眠るよう命じられていたが、亜人に渡される運命を前に眠れないでいた。
「橫になったって、全然寝れやしないわ」
「それでいい。眠るフリだけして、耳をようく澄ましておくのだよ」
而して今日、新しく入った女性が少しも暗い顏をしないのも不思議に思ったろう。
慥か名をアリア・パーハーツ(狂酔・g00278)と云ったか、
「貴女、怖くないの?」
「全然。皆いるんだもの」
泣き濡れる頬を拭ってくれる彼女は、軈て天井からも不思議を招いたようだった。
――救出対象は二十八人、全員部屋に収まったけど。外の状況はどう?
――守衛が交代して、此方も其々の配置につき始めてる。
「間もなく時が動き出すわ」
音を殺して降り立ったのは、藤紫のふわふわ猫。
否、着地と同時に變身を解いたナディア・ベズヴィルド(黄昏のグランデヴィナ・g00246)は、アリアと部屋を同じくする者達を前に「しー」と繊指を紅脣に宛てると、小聲で、然し慥かに「味方である」と告げた。
「安心して。私もアリアさんも冒険者、亜人支配に抗う者よ」
「冒険者……!」
その言葉に胸を打つ者も居よう。
滅ぼされたと思っていた冒険者が目の前に居る事に喫驚を隱せぬか、粗末なベッドから身を起こした女性達は、二人が誰かと聯絡を取り合うのを見る裡、部屋を吹き抜ける風に気附く。
「……風……?」
脱走防止用に細かく仕切られた扉が開く事など餘程無いが――爽風に髪を撫でられた女性達は、また目を丸くした。
「お迎えが來たのだぜ」
「おや、アリアはイイ女に磨きが掛かったかね?」
揶揄うように語尾を持ち上げるテノール・バリトン。聲の主はタオタオ・ザラ(大喰らい・g05073)。
数時間振りの再会に嫣然を結んだ二人は、格子戸越しに輕妙を零した。
「これでも酷い目に遭ったのだよ」
「噫、泥を浴びる所までは聽いた」
流石にそれ以上はと竊笑した彼は、ほろと朽ちゆく錠に訣別の流眄を注ぐと、靜かに扉を開ける。
而して眞直ぐに伸びた手が、女性達の前に差し出された。
「扨ぁて行こうか、美しいお嬢さんがた。お間抜けさんが居眠りする裡に」
丹花の脣に覗くギザギザ齒の妖なること麗なること。
微かな燈火に照る麗人に女性達が戸惑いを見せれば、彼は親指を後ろに向け、連れ出しに來たのだと莞爾と咲んだ。
「こんな最悪な場所にはもう居たくなかろ? 幸せな夢を、現実にしようか、なァ」
柔かく穩やかながら、強い意志を感じる聲音に偽飾[いつわり]は無い。
是を示すようにナディアが立ち上がり、アリアが其々の背中を支えれば、女性達も意を決して手を伸ばし、彼の手を握る。
――お願いよ、あたし達を助けて。
――亜人の居ない所に連れてって。
運命に抗わんとする彼女達の表情には、タオタオもニッと快哉を浮べよう。
「それにしても、ほんと亜人には勿体ねえなあ。無事逃げ果せたら、タオと一晩くらい……」
「…………」
「あっハイそんな目で見ないで! 冗談だよ冗談」
一晩くらいご一緒シタイナーという出來心を一瞬で灼滅させる塊麗の微笑。
平穩(意味深)を纏った儘、女性と恋人繋ぎをするタオタオを「めっ」したジズ・ユルドゥルム(砂上の轍・g02140)は、隣の部屋に進むと、鳥骨の戰面を外して云った。
「私達は冒険者に連なる者。此れよりカナンの地を目指す」
運命を共にする者に對し、素顏を、作戰を明かす。
而して暴かれた琥珀色の玉瞳は烱々煌々、岐路に立つ者を嚴然と寫して問うた。
「この街で家畜のように死ぬか。人として生きられる可能性に賭けて足を踏み出すか。――選んで欲しい」
出ろと命令は爲まい。頼みもせぬ。
いつか彼女達が悲痛な体験に向き合う時、生きることを“自ら選び取った”のだと――今日の選択が、未來の彼女達を勇気付けるだろうと信じるジズは、其々が矗然[すっく]と立ち上がる姿を認めてから、格子戸に手を掛ける。
「いま開ける」
めきり、鑰の掛かった格子ごと万力の如く擦り潰す。ゴリラ以上の怪力。
勇者も冒険者も超常の力を有していたと云うが――ギョッと瞠目した女性達は、続々と部屋を出て外に向かった。
†
――時に。
かの世話役は、これほど眠らせても肌膚に艶を帯びぬ彼女達について、ちゃんと寝ているか自ら確認する事にしていた。
「収容してから明日で一週間。いつ御聲が掛かっても良いよう仕上げておかないと……」
少々焦りつつ部屋の見回りに向かった世話役は、鑰を開けた瞬間、扉の隙間から滑り込む繊手に口を塞がれた。
「ンむっ」
「声を出そうとするなら、このまま顎を砕く」
「……!」
「死にたくなければ大人しくしてなさい」
漸う開かれる扉から現れたのは、双眸を爛々と輝かせたナディア。
凄まじい殺氣に震え上がった世話役が兩手を開いて見せれば、いつの間にか眞橫に据わっていたディミトラが、ヒヤリ、刃を突き當てるように告げた。
「収容所に集めた女達の中に、別の街の女が逃げて紛れました。御存知かと」
口が塞がれているので、蒼褪めながら頷く。
上玉につき、「曰く附き」と知った上で受け容れた女だったが、何處で洩れたかと不安が過る中、ディミトラは恐ろしく冷やかな“猫なで聲”で話を切り出した。
「幸いにも『返すなら責めぬ』との事。街外れで面通しをします」
「っ、っ」
「女を保護して更に磨いたと云えば、先方もお褒め下さる筈」
言う間に片手に香油を握らせ、先に「礼」を示しておく。
脂汗を滲ませながらも應諾したか、世話役が肩の緊張を解くのを見たナディアが顎の拘束を解くと同時、綺羅とkakourgimaを踊らせたディミトラは、何時でも始末できると仄明りに光をチラつかせる。
「――同行を」
よろける世話役の腕を摑み、そのまま収容所の外へ。
一時でも“ヤバい案件”に関わったと思った世話役は気が気で無く、その口は貝の樣に閉されていた。
●
数日ぶりに外に出る。
次に収容所を出る時は、己の魂は殺されているだろうと絶望していた女性達は、ここで必要な手當を受けた。
「幸い怪我は無いようですが、困憊はあるでしょう。治癒します」
星燈りに照らされる女性達の健康状態を診るは、クロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)。
亜人に捧げられる爲の手入れは、どれも苦痛であったろうと瞼を伏せた彼女は、次いで長い睫を凛と持ち上げると、靑藍の瞳に玲瓏を湛えて云った。
「私達は冒険者、あなた方を助けに來ました」
「あなたも冒険者さま……!」
亜人の支配に抗う者ときっぱり告げたクロエは、白磁の纎指を西に結び、これより向かう方角を示す。
「こんな世界ですが、逃げ場はあります。此處より西のカナンの地――支配者であった亜人は倒れ、ウェアキャット達は逃げ去りました。安全が確認された今なら人間も暮らせます」
而して迎え入れる用意もあると言を添える。
故郷を滅ぼされた女性達は、行き場の無い身に絶望していたが、生きて良い場所があると知れば、それだけで救われたような想いになる。
斯くして希望を與えてくれるのは、クロエだけでは無い。
腐食させた扉の代わりに衣裳棚で通路を塞いだゼキは、怪力を見て驚く彼女達にヒラリと掌を飜して云った。
「おれたちが希望の地に連れて行く。生きたい奴はついてきてくれ」
「……希望の地……」
其の科白には、「自分達に連いて來れば生きられる」事も含んでいよう。
故郷を同じくする友のような親しさで咲んだ彼は、この時、窮地から救われた安堵に腰を抜かす女性をヒョイと抱えると、このまま運ぼうと進み出す。
「いけない、冒険者さまに迷惑が掛かっちまう」
「なに、跫音が少なくなって良い」
時間稼ぎをしたのだから、並行して効率を上げるのは當然だとゼキは飄々。
兩腕の塞がった彼は鼻先をクイと、街外れに繋がる裏道を示して云った。
「此處から墓場と畑の出口へ、二手に分かれる。後で合流しようぜ」
道を違える仲間には、背越しに聲だけ置いて。
決して振り返らぬ背中が、此度の作戰に對する信頼を示していた。
「あの背中に、ついていけ。おれも、あとから追いかける」
踏み出す一歩を援けるは、訥々と沁むクーガの佳聲。
ゼキが衣裳棚で蓋をした直後の道を、みるみる掘り下げて「落とし穴」を作った彼は、彼女達が嫌悪する亜人達が、きっと此處に嵌まるだろうと、昏闇に悪戯な咲みを隱す。
「ころんで、迷って、ワナにかかって。くずれておきあがれないぞ」
彼は來た道を引き返すがてら、収容所の柱を所々に腐食させており、亂暴者が踏み込めば忽ち崩壞するだろう。
連中がギャフンと言う姿が見られないのだけは残念だと、小気味良い微笑を浮べたクーガは、彼女達に代わって一矢も二矢も報いる気概で、最後に飛び切りの狭霧を噴き掛ける。然すれば蛻の殻となった収容所は、これでトラップのびっくり箱だ。
「……うちらの故郷と家族を奪った連中に一泡吹かせてやれるなんて」
「うん。あわは吹く」
胸の空く思いがしたか、女性達が僅かにも咲みを差せば、クーガはこっくり頷いて離れるよう言い渡す。
「――いこう」
彼女達に帰る場所が無くとも。
かの地にある「自由」が少しは希望になれば、と――遙か西方を見る隻眼が、星燈りを映して輝いていた。
「……十九、二十……二十三……二十八。よし、半々に分かれたね」
罠という罠を巡らせた収容所にはもう戻れない。勿論、戻る気も無い。
だから後ろなんて振り返らず、前だけ向いて行こうと、アリアは穩やかな聲色で女性達を鼓舞しながら裏道を進む。
十代~三十代まで年齢層を広げる女性達には、足の速い遅いはどうしてもあるが、焦りは禁物。
万一の場合には囮になる覺悟で最後尾についた佳人は、亜人から逃げる恐怖に足を震わせる少女の手を取り、頼るべき存在を聢と示して導いてやった。
「この手は絶対に離さないから。明日は温かいベッドで眠ろう」
「うん……うん……っ」
「ボク樣がこれから行く場所の安全を保証する。亜人の居ない安息の地に、一緒に帰ろ」
「……うんっ!」
助けてあげる、とは言わない。共に向かうのだ。
泥風呂を同じくした友に勇気を分けながら細道を歩いたアリアは、事前に聽いていた目印の通りに街外れに向かう。
パラドクス通信で交換していた電子音聲が肉聲になったのは、間もなくの事だった。
†
「――もう大丈夫。ついてきて」
アリア達を靜かな手招きに迎えたのは、一角・實生(深潭鷲・g00995)。
クセの強い農夫に道の詳細を訊ね、また「腰を悪くしないで」と孫のような優しさで帰宅を促した彼は、今や暗夜に独り、朦然[ボンヤリ]と照る角燈に位置を示していた。
「亜人が通る道と違って整備はされていないから、落ち着いて、足を取られないように」
夜でも目の利く己が先頭に立ち、小さな燈火に足元を照らす。
実際に周辺を歩いた者の歩履は頼もしく、初対面ながら信頼できると目配せした女性達は、次いで差し伸べられる手を前にこっくり頷き合った。
「礼儀正しくてよか男たい」
「こげな男は悪い事せんとよ」
かなり訛っているが、信頼を得たなら何よりと實生は安堵の息ひとつ。
多分この二人が年長者でリーダー格なのだと読んだ實生は、幼馴染みくらいの親しさで手を繋ぐと、収容所から離れるほど多辨になる彼女達の会話を聽きつつ、街の外を目指した。
「世話役ば明日には勝負するつもりやったと」
「そいけんギリ助かったわ~」
間一髪の救出劇だったか。
昏がりにまた安堵の息が零れた。
畑側から街の外へ向かった者は十四人。
残り半分はウェアキャット達が亡骸を埋めているという街の郊外へ、こちらも裏道を通って外へ出る算段だ。
「墓地と知っていて夜に訪れる者は居ないかもしれませんが……念の爲、警戒はしておきましょう」
道の確保に當ったのは、奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)。
己が殺めた者達が眠る場所に亜人が來る事は無かろうが、出來ればウェアキャット達にも見られたくはないと我が影を夜景に馴染ませた聖は、穩便にお帰り頂こうと氣を練り始める。
「進む方向が墓場外へ、街に戻るよう認知トラップを置いておけば自然でしょうか」
体内を巡るは、惑わしの氣――誰か來ようものなら、生々しい幻覺を見せて五感を騙そうと【幻気功】に身を包んだ聖は、軈て複数の跫音を捉えると、これぞ復讐者の救出隊と靜かに手引きし、脱出の道を先行した。
「街の中心部は騷がしくなってきたようですが、こちらは順調ですね」
情報も人員も潤沢で、連携も密。
怠慢なる亜人の眞逆を行くようだと皮肉を闇に溶かした聖は、後は畑組と外で合流するだけだと先を急ぐ。
凸凹の道を進んで幾許――烱々と研ぎ澄まされる黑瞳は、亜人の街を抜けて広がる荒野に「活路」を見出した。
●
「女性達も皆さんも、全員無事に収容所を出ましたね」
一連の流れるような救出劇を通信機越しに聽いていたリヴァルが、佳脣にそと弧を描く。
危機が迫れば直ちに加勢に向かえるよう備えていたが、愈々賑やかになる酒場の喧噪も聽いていた彼は、一先ず安心。
更には眼路に置いた正門で“面白い光景”を見たろう。
(「あれは……髭モジャを部隊に入れる事を拒んだという、コボルトの……」)
立ちながら白目になって寝ていた髭モジャが、犬頭の亜人に見つかったのだ。
嚴しく𠮟責を受け、中を確かめて來いと言われた連中が、どのような結末を辿ったかは言わずもがな。
リヴァルは連中の狼狽を橫目に見つつ、建物の屋根伝いに裏手へ疾った。
『あっ、女達が居ない!? 世話役はどうした……おわーっ!!』
『畜生、戸棚なんかで道を塞いだって俺にゃ……どわーっ!!』
腐った柱に触れれば屋根が落ち、モノを退かして進めば穴に落ち。
迷宮化して内部が複雑になった事もあろう、髭モジャ達は罠という罠に掛かって瓦礫の下敷きに、犬頭の隊長に「何者かが侵入した結果」を身を以て報せる。
無論、隊長は瞋恚に毛を逆立てよう。
『~~ッ女達が奪われた!! 取り返すのだ!!』
「髭モジャが居眠りした所爲で中の異變が知れてしまいました。次の段階に移ります」
颯の如く駆けざま、リヴァルは一同に警急を報せた。
犬頭の隊長が部隊を率いて女性達の捜索に掛かれば、復讐者達もまた動き出す。
収容所の裏手に回ったリヴァルを迎えたエイレーネは、聯絡を受けた時に淸掃員の扮装を解いて神官に、亜人の侵略を阻む守護者の戰装を纏って待ち構えていた。
戰女神の鬪志を兆した佳人は凛乎と告げよう。
「同族であれば手加減しましたが、亜人の部隊が動いたなら全力で立ち向かいます」
玉臂に握れる神護の長槍を高らかに掲げ、その鋩に魔力を結ぶ。
然れば突如、突き上がる槍鋩に合わせて壁の如き槍衾が隆々と展開し、収容所に近附く捜索部隊を足留めた!
『ッ!! この手口、女達ではあるまい……ッ!』
犬頭の隊長が儼しく烱眼を巡らせる中、幾度と槍を振るって裏道を塞ぐエイレーネ。
「救出チームは街を出たばかり。成る丈時間を稼ぎましょう」
自身が倒されぬ限りは突破できず、その身も槍床に隱しては撃破できまいと佳脣に微咲[えみ]を湛えた佳人は、連中がモタつく裡に撤収し、墓場へと続く裏道を通って市外へ――先行する仲間と合流に掛かる。
「せめて二手に分かれたチームが合流するまで、もって欲しい所ですが……!」
歩幅も脚力も相手が上。
どうか逃げきれますようにと、少女神官は祈るように駆けた。
『既に街を出たか……? とまれ捜索網を広げる!!』
部隊を二つに分け、一部は市内の捜索に、己は精鋭を率いて市外に出んとする隊長。
急ぎ街の正門を抜けた彼は、この時、物陰でがっくりと項垂れるウェアキャットには竟ぞ気附かなかったろう。
ディミトラに香油を握らされた世話役は、身を震わせた儘、物騷な跫音が街を駆け巡るのを陰で聽いていた。
――密告すれば管理責任を問われますよ。便宜を図った“証拠”をお持ちですから。
――騷動が収まるまで隱れてなさい。何故って、命より大事なものってあります?
「……っっ!」
別れ際に放たれた言葉を反芻し、ディミトラに言われた通り身を隱す。恐ろしい事だが、完全に丸め込まれたのだ。
世話役は亜人に對して忠義のある方であったが、この時ばかりは市外に出た捜索隊が帰って來ないよう願うばかりだった。
†
狂うような蹂躙と死を待つだけだった女性達は、我が身を連れ出してくれた“冒険者”達に光を見たろう。
彼女達が涙を滲ませる度に「大丈夫」と聲を掛けて励ました實生は、手に持つ角燈を前方に掲げると、今に景色が變わると視線を導いた。
「この道が外に繋がっているのが見えるだろ?」
「……街を出られたと?」
「噫、もう少し行けば皆とも合流できる」
暴虐の街から抜け出た感動は如何ばかりか。
ゼキに抱えられ、ジズに後ろを守られながら裏道を抜けた彼女達は、軈て墓場の道から出てきた聖が連れる十四人と合流を果たし、ここで一旦の休憩を取る。人数は勿論、現時点での体力を確認する爲だ。
抱き合って再会を喜ぶ彼女達には、ナディアが心から褒めよう。
「よく頑張ったわね。亜人の子を産み無残に死ぬのと比べたら、これからの移動は可愛いものよ」
「うん、もうひとふんばりだ」
慥かな首肯を添えるは實生。
既に復讐者の勢力圏にあるカナンの地に脅威は無し、人は人として大切にされると確言した彼は、既に然うだと言うように言を継いだ。
「あなた方を『収容』し、『道具』として扱う事の無い地へ送り届けるよ」
「ええ、私達が必ず守り、かの地へ送り届けるわ」
二人だけでは無い。
クーガも、アリアも、ディミトラも。この場に居る全ての復讐者が同じ想いだと首肯を揃えれば、運命に見放された女性達も胸いっぱいに希望の灯を點す。
「ゆっくり休むようには言えませんが、せめて魔女らしい事はしましょう」
女性達が少しでも速く遠くに進めるようにと、生命力を注ぐはクロエ。
カナンの地へ向かう道中も、負傷があれば直ちに癒す意[つもり]である佳人は、女性達に手を翳す間にも戒心は鋭く通信を聽いており、亜人の捜索部隊を見たリヴァルとエイレーネから聯絡を受けていた。
「捜索部隊は二分され、街の外へ向かったのは精鋭。三~四メートル級の亜人が三十体程だそうです」
連携を密にすれば、情報は常に更新される。
間もなく二人が合流するという朗報と、敵はかなりの機動力だという凶報を手に入れた復讐者達は、全員が揃った頃合いに戰鬪に入るかと時を読む。
緊迫した状況が続くが、聖をはじめ皆々が幾許にも冷靜なのは、これまでの作戰が最高の成果を結んでいるからだろう。
「……救出作戰は迎撃作戰に移る訳ですが、これだけの情報と人員を備えて上手くいかないなんて“ありえない”」
然う、ここまでの動きで復讐者は一縷の手落は無く、全きスムーズな救出劇を見せている。
役割分担と人員配置を完璧に、潜入と救出、そして脱出から合流まで遣り遂げたメンバーは、同時に戰闘に向けた残留効果も積み上げており、遙かに体格を上回る亜人相手にも充分に戰える。
「我々の知恵と技術を総動員して、やってみせましょうとも」
帰りたい場所に帰る。其の権利は誰にでもある。
聖が涼しげな麗顏を漸う鋭く、復讐者たる殺氣を帯びれば、隣するタオタオも優艶のテノール・バリトンを冱え冱えと、間もなく眼路に入る砂埃に――犬頭の亜人率いる捜索部隊に烱眼を絞った。
「……追手が來た。向こうも私達を視認したろう」
「邪魔する気なら、ちょいと痛い目見てもらおうか」
殿のジズが戰鬪態勢を取るよう呼び掛ける中、赫々と熾ゆる蠍が尾を擡げ、その鋩を暴悪の塊に向ける。
かの者達こそ、女性達の集落を蹂躙した「マッスルゴブリンズ」――村を焼き、家を破壞し、女性達の家族を鏖殺した者達だと、震え上がる女の聲を聽いたタオタオは、射線を遮るように進み出ると、吃ッと敵群を睨めた。
「タオの女だ、触るんじゃねえ」
指一本髪一本も許しはしない。
殺意に滿ちた烱眼が結ばれると同時、今しがた揃った復讐者達が一斉に爪彈いた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【浮遊】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【腐食】LV1が発生!
【トラップ生成】LV2が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
【完全視界】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【防衛ライン】LV1が発生!
【平穏結界】LV1が発生!
【迷宮化】LV1が発生!
【現の夢】がLV2になった!
効果2【反撃アップ】LV2が発生!
【能力値アップ】がLV4になった!
【ダメージアップ】がLV3になった!
【ドレイン】LV3が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!
【ロストエナジー】がLV2になった!
藺草・風水
即興連携、アドリブ歓迎
「ただ浪費する混沌の権化は、さすがに殲滅させてもらうの!」
ろくでなしの亜人を殲滅すべく全力を尽くす
「アレらは僕らが止めるから、止まらずに逃げて欲しいの!」
【トラップ生成】による壁たちで【迷宮化】したうえでの【防衛ライン】で女性たちへの直行を咎めつつ、【避難勧告】で女性達を可能な限り安全に逃がす
「寄ってくるなら、逆にこっちからまとめて薙ぎ払うの!」
突撃してくる敵に対してこちらから突撃して重弾幕乱射機や殲華天榴砲を主軸にした【多方連爆撃】の連射砲撃で敵を吹き飛ばし破壊する
敵の反撃には連射砲撃の制圧射撃による吹き飛ばしでの妨害とダッシュ回避で対応
エイレーネ・エピケフィシア
ふう、間に合いましたね!誰一人欠けることなく……
しかも合流のタイミングが今になったことで、結果的にですが挟撃の形がとれるでしょうか?
有難くも、神々はわたし達の行いをご覧になってくださったようです!
【通信障害】を発動
敵が大声や楽器、或いは狼煙などの信号で増援を呼ぶのを防ぎます
市内に留まった部隊に合流されると面倒です
戦端が開かれると共に、≪神護の長槍≫と≪神護の輝盾≫を構えて突撃!
敵群の只中を≪天翼のサンダル≫の力で疾駆しながら
『雷光旋舞斬』で次々とゴブリンを穿っていきましょう
狙いは筋肉で護り切れない喉や目です!
反撃に対しては盾によって受け止め
負傷は敵を倒す際の【グロリアス】で回復して戦い続けます
ディミトラ・ディミオス
俺の女だ、なんて
言われてみたいですよね、素敵な人になら
でも亜人は駄目です、殺します
女達は寄り集まっていてください
恐ろしいなら目を瞑り耳を塞いでいれば良いですけど
仇討ちを見届ける気概があるのなら、確と顔を上げて
冒険者達の背が見えるでしょう
あれが貴女達の盾、貴女達の矛
運命に抗う貴女達の、灯火です
あたしはあたしの出来ることを精一杯やります
無理矢理連れて来られた小間使いを装い、
助けを求める振りをして油断と隙を誘います
欺くのは一瞬で十分
視線が、心が逸れたなら、影の如く背後へ移り
狙うのは首の後ろ、鍛えようもない後頸窩
奪われた者達の恨みを、嘆きを、怒りを、
貫き通すほど深く抉り込んでやりましょう
クロエ・アルニティコス
私にとっては亜人なんて全員殺すだけの存在ですが。
彼女たちにとっては、お前たちは特別なようですね。
復讐はいいですよ。気が晴れます。その気持ちは大いに分かります。
今日のところはあなたたちの代わりに私がやりましょう……血に耐性がある人はどうぞ見ていて下さい。
【ハルピュイア・ヒペリカム】を使用し、オトギリソウの種を急成長させ、ハルピュイアを模した怪物の群れを作り出します。
ハルピュイアたちの鉤爪と嘴で、自慢の筋肉を抉り、啄み、むしりとりましょう。
五月蠅いんですよ……あぁ、でも。彼女たちに聞こえるくらいに、悲鳴も大きいと助かりますね。
リヴァル・アーク
女性はやはりああいうセリフに憧れたりするんですかね?
さて、そういう話は置いておいて……【防衛ライン】を使って立ちはだかります。
すでに女性たちは解放済みです。今更追ってきても遅いですよ。
ここから先は通すわけにはいきません。この拳を以てお前たちを――ふんぬふんぬうるさい!!
確かに拳専門ですが、筋肉での対話なんて物理的打撃だけですよ!
なんですか平和的対話って。筋肉見せつけて世界平和になったらディアボロスも要りませんよ!?
【神威稲妻】で筋肉ごと焼き尽くします! 雷霆に棲むと言われる雷竜の力を喰らえッ!!
一角・實生
なんだか彼ら筋肉集団が来てからここ一帯の気温が上がったような
気のせいかな、熱気のようなものを感じて
【光学迷彩】でまずは物陰へ身を潜め、敵集団をグラナトゥムのスコープ越しに捉える
筋肉で語るのならば、言語と同じ一定の法則があるはずだ
彼らの動きをつぶさに観察・偵察し分析。看破へと繋げるよ
戦闘に関する肉体言語……もとい身体言語を解析次第【パラドクス通信】で共有、戦いを有利に運びたい
敵に見つかるか不意を突けるタイミングでパラドクスを発動
(筋肉の語らいが)此方からは見えているよ
【エアライド】で空を蹴り敵の股下を潜り抜け、筋肉の反撃から逃れよう
ここまで来たんだ、彼女達には未来と更なる希望を感じて欲しい
大総・統
ククク、まさに、芸術と呼ぶべき筋肉だな!
だが、その筋肉は、我が拳が奏でるべき素材として果たして相応しいか試してみるとしよう!
どれ、筋肉の相互理解というならば、正面から挑まねば失礼だろうからな!
敢えて挑むことで注意を惹き付けるとともに、相手にもより筋肉を意識させます。マッスルゴブリンズとの間合いを意識した立ち回りで、筋肉の節いう節を【創造されし格闘芸術】を以て、連撃で粉砕していきます。
筋肉は壊せば壊す程、強くなるというだろう?
これぞ相互理解と言う奴だ!
奉利・聖
……邪魔だ
無粋な真似は慎んでもらおう 彼女達の道を邪魔するんじゃあない
それでも行くというのなら……ここで悉く消え去るがいい
【防衛ライン】を構築して決して通しはしないぞ
まずは地を<強打>する震脚を二回
これにて脚部装甲『死蔵』へのチャージを完了する
ダンッ!!と<ダッシュ>で衝撃を開放
スピードを急激にブーストして、その首を吹き飛ばす蹴りを放つッ!
相互理解?するわけが無いだろう
お前たちは敵で、醜悪なるゴミでしかないのだから
反撃に対しては、錬気を纏わせた<結界術>で受ける
『死蔵』で受け止めて、再度チャージし…再び襲撃
もう一体を蹴り潰して、終わりにしてやる
通りたければ、死ぬ覚悟をするがいい
●
亜人の大きな歩幅と強脚は視たが、部隊ともなれば其の機動力は凄絶。
女性達を保護して進む「救出組」に較べれば速いものの、程無くして部隊に追いつかれるだろうと通信を入れた「後続組」のリヴァル・アーク(竜滅の拳・g00136)は、我が隣、共に駆け走る颯に目配せした。
「このまま行けば、オレ達が合流するタイミングで戰鬪に突入すると思います」
「……若しか合流時に敵の背後を強襲すれば、挟撃の形がとれるでしょうか?」
凛と語尾を持ち上げたのは、エイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)。
咄嗟の提案は妙々、知恵と軍略の女神アテーナーの如き機智に頷いたリヴァルが、まっすぐ結んでいた進路を逸れて道脇の丘陵地を目指せば、エイレーネも彼に続いて丘へ――街道を猛然と走っていく捜索部隊を遣り過ごす。
『ぬんっ!? ふんふんぬんぬん、ふんふんぬんぬん!!』
『何ッ、人影が見えるだと! 女共だ、捕まえろ!!』
浅慮の亜人らは、女性達を見つければ驀地[まっしぐら]。
傍視も振らず前進すれば、背後を衝く攻撃には全く無防備だった。
「有難くも、神々はわたし達の行いをご覧になってくださったようです!」
『ぬ――ッッ!!』
強靭な大腿二頭筋に沈むは、戰端を開く楔。
3m程に伸びた神護の長槍を突き立てられた亜人が、撞ッと轉びざま後ろを見れば、ゴルゴンの首が描かれた丸盾を構えるエイレーネの後方、ギャンッとスケーターを加速させたリヴァルが宙空から躍り掛かる――!
「女性達は自ら脱出したんです。今更追ってきても遅いですよ!」
『ふんぬんーっ!!』
覇竜の眼を黑々と輝かせたガントレットが、隆々たる僧帽筋めがけて痛打一閃!
衝撃に突倒[つんのめ]った亜人が亜人を押せば、部隊はドミノ倒しになって躓き、轉び、足を大きく亂した。
「――挟撃か。愉快[おもしろ]い」
エイレーネの妙策に呼應したのは、大総・統(秘密結社ラグナロクの大総統・g00589)。
通信機越しに後続組の会話を聽いていた彼は、ならば己が前方を預ろうと捜索部隊に正對すると、轟然と迫る筋肉の先鋒に向かって閃拳一發ッ! 亜人の甲利(急所)に思念の波動を叩き附け、かの巨躯を大きく擦ッ轉がした!
「フハハ、それだけの図体が顛れば後ろは避け切れまい」
『ふんぬーっ!!』
一体の足を引掛ければ、此方も見事なドミノ倒し。
前方と後方から同時に搖すぶられた部隊は、奪取すべき女性達を目前にして猛進を阻まれた。
『起き上がれ!! 女達は目の前だぞ!!』
『ふんふんふんふん、ふんぬー!!』
コボルトの隊長が配下を叱咤する中、玻璃の如く澄める佳聲が冱え渡る。
「アレらは僕らが止めるから、止まらずに逃げて欲しいの!」
「は……はいっ!!」
思わず足を止めた女性達の背中を押すは、藺草・風水(天使喰らいの重ガンナー・g00346)のソプラノ。
女性達と亜人の間に身を滑らせた彼女は、連中の狂暴が彼女達に向かわぬよう忽ち街道を隆起させ、壁の樣に峻り立つ大地を背に構える。
不撓の鬪志を兆した風水は、纎手に構えた重量級ガトリングを亂射し、体勢を崩した部隊を更に混亂させた!
「ろくでなしの殲滅に全力を尽くさせて貰うの!」
蹂躙し搾取し、只だ浪費する渾沌の権化など、逆に蹂躙してくれる。
花顏を閃光火花に白ませた風水は、眼前の暴悪を硝煙彈雨に覆い尽した。
――この時。
先頭で脱出チームを先導していた奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)が颯ッと踵を返す。
女性達の顏が次々と不安に染まるのを眦に映して疾った彼は、複雑に歪み始める大地を二回、震脚にて強く踏み付けると、脚部装甲に重い衝撃を蓄積した。
「安息の地に向かう彼女達の道を邪魔するんじゃあない」
全くの邪魔。全くの無粋。
狼藉者には慎んで貰うべきと佳脣をきつく結んだ聖は、女性達を守る防衛ラインを超えざま驒ッッッ! と蹴り上がると、同時に衝撃を解放して掃腿! 爆発的な衝撃波で部隊前衛に二の足を踏ませた。
「それでも行くというのなら……此處で悉く消え去るが佳い」
『ふ、ぬ、をぉお!!』
さやと搖れる前髪に覗く黑瞳は冱々と、怜悧に犀利に邪を睨めた。
『何ッの、これ……しきで……怯む筋肉ではッ無い!!』
『ぬぬんっ!!』
『Go マッスル!! Let's ピースフル!!』
『ぬんぬんぬんぬんっ!!』
「何故だろう、ここ一帯の気温が上がったような……気のせいかな、熱気のようなものを感じる」
この時、筋肉集団のムサ苦しさに触れたのは、一角・實生(深潭鷲・g00995)。
烈々と滾るマッスル・ソウルを肌膚に掠めた彼は、みるみる隆起する大地を壁代わりに身を潜め、グラナトゥムのスコープ越しに敵群を捉える。
注視するは、カット際立つバックラットスプレッド……否、その筋活動。
「筋肉で語るなら、言語と同じ一定の法則がある筈。彼等の肉体言語を、元い身体言語を解析出來ないか觀察してみよう」
――なんと、向き合う気概。
だが實際、あの隊長は筋肉達と疎通していると緑金の瞳を鋭く燿わせた撃手は、折に牽制の銃彈を撃ち込みながら、全集中して解読に掛かる。筋肉が読めれば、戰鬪を有利に運べる筈だ。
斯くして復讐者達が部隊を足止める中、女性達を寄り集めるはディミトラ・ディミオス(アマルトリ・g08941)。
恐慌のあまり方々に散ってはならぬと指示した彼女は、緊張の増す中、淸かに佳聲を滑らせた。
「恐ろしいなら目を瞑り耳を塞いで構いません。唯だ、仇討ちを見届ける気概があるのなら、顔を上げて」
「……仇討ち……?」
「ええ、冒険者達の背が見えるでしょう」
複雑に隆起した丘より身を乗り出せば、物陰から銃口を覗かせる實生や、眞正面で戰う風水や統、聖の姿が見えよう。
また朦々たる彈幕の向こうでは、エイレーネとリヴァルが戰っていると言を添えた佳人は、雪嶺の鼻梁を戰塵に結んだ儘、聢と告げた。
「あれが貴女達の盾、貴女達の矛。運命に抗う貴女達の、灯火です」
「……ウチらの、灯火……」
力無き者に代わって立ち上がる者。冒険者に連なる者。
我等が何故「復讐者」と呼ばれるかと云えば――。確固たる意志を油と熾やし、火盞に明々と點ずる“灯火”を瞶めていたクロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)が身を以て示した。
「復讐はいいですよ。気が晴れます」
亜人らが次々と罠に掛かる樣は、胸が空いたろうと流眄をひとつ。
女性達の心奧に慥かに有る復讎心に是を置いた魔女は、纎指に「オトギリソウの種」を取り出すと、我が掌を苗床に有丈の魔力と怨恨を注ぎ、驚異的なスピードで成長させた。
「今日のところはあなた達の代わりに私がやりましょう」
「……植物が……怪物の姿になっていくわ……!!」
種は緑を生やして葉を作り、その葉は羽搏いて翼となる。
クロエの掌から翩翻[ヒラリ]と飛び立つ異形の群れに喫驚を揃えた一同は、翼獸らが狩獵に向かうのを息を呑んで見よう。
「血に耐性がある人はどうぞ見ていて下さい」
而して灯火とは、求める者に炎を移す事が出來るもの。
芙蓉二花の言葉に勇気を得た女性達は、全員が以後の戰いを見届けんと凛然を兆すのだった。
†
「私にとっては亜人など鏖殺するだけの存在ですが。彼女達にとっては、お前達は特別なようですね」
詳しくは訊くまいが、魔狼が率いる部隊は女性達の集落を滅ぼしたらしい。
ならば家族や故郷を蹂み躙られた彼女達の想いも籠めようと、怨恨の種から芽吹かせたのは【ハルピュイア・ヒペリカム】――ギリシャ神話の『ハーピー』を模した植物の怪物で、靑々とした翼が戰塵を切り裂く。
掠める女と呼ばれる翼怪は、漸と起き上がる巨邪を捉えるや頭に鈎爪を疾らせ、或は嘴で啄んで鮮血を噴かせた。
『ふぬをっ!? ふんぬふんぬー!!』
ダブルバイセップスなら摑めるか――否、数が多すぎる。
眼に飛び込む痛撃に身を屈めた亜人らは、自慢の三角筋や広背筋を抉り、毟られ、赫々と血に濡れていく。
『ふんぬっ、ふんぬふんぬ!!』
「悲鳴を叫ぶにも五月蠅いんですよ」
『ふぬををぉぉぉおおおっ!!』
「あぁ、でも。彼女達に聞こえるくらいの叫喚は助かりますね」
囂しい絶叫を滑る佳聲は涼々として冷艶。
ヒペリカムの花言葉は、“悲しみは長く続かない”――彼女達の悲愴な記憶も拭われるよう翼怪を指揮した妖花の魔女は、戰場の上空を血色の霧に覆い尽すのだった。
而して亜人らは上空の翼怪にも警戒せねばなるまいが、地上で圧倒的存在感を放つ者も見過ごせまい。
女性を追う中で最初に捉えた黑尽くめの男――統が堂々と正對し、眞向勝負を挑んでいるからだ。
「ククク、正に藝術と呼ぶべき筋肉だな!」
仮面の下、鍛錬の結晶たる肉の瘤を認めた紫瞳が不敵に細む。
凄まじき研鑽の跡を「藝術」と讃えた統は、より矜持を高めた亜人らに筋肉を意識させると同時、血布封帯に祕めた闘氣を解放し(ぶっちゃけ封印してはなかった)、紫炎の如きオーラを兩拳に集めた。
「だが其の筋肉は果して、我が拳が奏でるべき“素材”として相應しいか」
『素材、だと……?』
「此れより試してみるとしよう!」
魔狼の隊長が訝しんで間もなく、彈ッと踏み込んだ統が筋肉の壁へ飛び込む。
分厚い胸板をキャンバスに閃くは、【創造されし格闘芸術】(アルス・ノヴァ)――“破壊から生まれる創造”をテーマとした我流藝術が、格闘技を通じて素材に刻まれていくッ!
「どれ、筋肉の相互理解というならば、正面から挑まねば失礼だろう!」
『ぬんぬんぬんっ!! ぬんぬんんぬぬ!!』
間隙許さぬ打撲刺突が大胸筋及び小胸筋に炸裂し、筋肉が波と撓んだ刹那、手首を返した裏拳が肋間筋に痛撃を置く。
先の読めぬ無型の技は、反撃に繰り出る亜人の怪腕を拳に彈くと、脇が開いた瞬間に前鋸筋を強襲した!
「筋肉は壞せば壞す程、強くなるというだろう? これぞ相互理解と言う奴だ!」
『ぬんぬんぬんぬんぬんんぬぬーっ!!』
一体の亜人が時を止めれば、用意していた拳は次なる一体に。
間合いに飛び込む筋肉から順番に平等に粉砕した統は、その華麗なる(気分次第の)絶技で部隊を惹き付けるのだった。
そうして統が正面を預る中、背襲を仕掛けたエイレーネが勢いをその儘に突撃する。
少女の纎躯は亜人の半分にも及ばぬが、神の加護を得た足元はオーラの翼を生やし、敵群の只中を天馬の如く翔けた。
「ここで増援を、市内に留まった部隊を呼ばれては面倒です」
烱瞳に視る部隊に鳴物の類は無いが、大聲や狼煙、或は筋肉の波動などで仲間を集められては堪らない。
如何な伝達も許さぬと蜜色の瞳を輝かせた神官は、【雷光旋舞斬】(アストラピエイア・エリカ)――我が魔力に滿たした長槍を天に掲げるや霹靂を結び、玉肌香膩を蒼白く浮き立たせた。
「――寸斷します!」
光々と稲妻を纏う長槍を手に戰塵に飛び込み、擦れ違いざま筋肉の海を薙ぎ払う。
電光石火の速さで、且つ精確精緻に咽喉や目を狙うのは、それらが筋肉では護り切れぬ急所である事と、増援を呼ぶ手段を斷つ爲だろう。
「雷霆よ、女性達を猶も苦しめる亜人共に裁きを!」
『ぬんぬんぬんぬんぬーっ!!』
戰槌の如き巨腕から繰り出る剛拳を盾に受け止め、その翳陰より鋭鋩を繰り出して感電させる――!
ズル……と斃れる巨躯の脇を颯爽と擦り抜けた佳人の進撃は止まらず、美しき雷霆は遂に部隊を分って先頭へ、統ら救出組と合流を果した。
「――ふう、間に合いましたね!」
女性達も復讐者も、誰一人欠ける事なく揃ったと。
芙蓉の顏[かんばせ]が初めて微笑を零した。
『ッ……隊が分斷されて混亂し始めたか!!』
『ふんふんっ!! ぬんぬんっ!!』
『負傷者が分からないだと!? こらっ無闇に出るな!!』
『ふんぬおーっ!!』
亜人の部隊は、もう大混亂。
頭上には翼怪が飛び回り、地上では彈幕が戰場を覆い、その中を稲妻が駆け抜ける――復讐者達の連携に對し、個の強さで上回る筈の亜人は成す術も無く、一体、また一体と、斃れる数すら判然らぬ。
魔狼の隊長が焦燥する中、復讐者は更に部隊を掻き亂さんと動いた。
(「――あたしはあたしの出來る事を精一杯やります」)
我が身こそ紅血の油を盛つ火盞だと、月色の瞳に灯を點すはディミトラ。
朦々と渦巻く戰塵に紛れた彼女は、気弱な顏貌を更に恐怖に染め、態と亜人の前へ躍り出た。
「た、助けて下さい!」
『ふんふん!?』
「あたしは無理矢理連れて來られただけなんです……!」
一見すれば、かの集団から必死に逃げてきたと思しき小間使い。
経緯を知らぬ亜人は、彼女を參考人として隊長に引き合わせんとアブドミナルアンドサイを取るが、この一瞬、この刹那を欺けたなら充分とthavoの冱刃を煌かせた佳人は、スッと影を滑らせて敵背へ、鍛えようもない後頸窩へと鋩を結ぶ。
「奪われた者達の怨恨を、嗟嘆を、瞋恚を。貫き通すほど――深く」
『ふン――』
小心の仮面から暴かれたるは、【Elektra】(エレクトラ)。
亜人の意識が逸れた隙に閃いた刃は、肉ごと剔抉するように沈みながら、其を握る纎手を紅く赫く染め上げる。
麗し白皙にべったり返り血を浴びたディミトラは、腥い粘[ヌメリ]を甲に拭い、ぐうらと斃れる亜人に訣別を告げた。
「ウェアキャットが爪を立てぬとでも?」
とんだ思い上がりだと零れる溜息は靜かながら、その胸裡には熾火が炎々と燃えていた。
「――俺の女だ、なんて。一度は言われてみたいものです」
「女性はやはりああいうセリフに憧れたりするんですか?」
「素敵な人になら、ですが」
亜人の捜索部隊を後方より攻めていたリヴァルが、戰塵の渦中で動いていたディミトラと二・三言を交す。
齢十六の若者にはまだまだ勉強の余地がある女心だが、蓋し次なる言には理解しかなかった。
「勿論、亜人は駄目です。殺します」
「ですよね。オレもです!」
力強く賛同し、完全撃破を誓い合って分かれる。
後続組のエイレーネと同じく前方を目指した少年は、颯然と駆けざま躯の内外を巡る覇竜のエネルギーを兩拳に集めると、己を追う巨邪に向かって凛と云った。
「この先へ向かわせる訳にはいきません」
『ふんぬふんぬっふんぬふんぬ!!』
『ふんぬふんぬふんぬふんぬっ!!』
「この拳を以てお前達を――ふんぬふんぬうるさい!!」
筋肉もムキムキ動いて暑苦しいと、キレ気味に迸るは【神威稲妻】ッ!
リヴァルが拳を繰り出すや、紫電を纏った竜が雷轟を哮って躍り掛かり、側面に迫る亜人の巨掌に喰らい附く――!
「抑も何なんですか、平和的対話って!」
『ふぬをっ!!』
「筋肉を見せて世界が平和になるなら、復讐者も要りませんよ!?」
『ふんぬー!!』
ちょっと疎通しているような気がするが、少年は認めまい。
筋肉での対話など、物理的打撃の應酬のみと突き放した少年は、雷霆に棲む雷竜の力を拳閃と變え、亜人の巨拳とドスドス突き合わせる度に屈筋群及び伸筋群を焼き尽していくのだった。
「そうなの! ここから先へは行かせないの!」
防衛ラインは絶対に突破させないと、凛然を揃えるは風水。
編隊を大いに亂しながらも、女性達を奪還せんと執拗に迫る連中を捉えた佳人は、戰局が動くにつれ重弾幕乱射機に加えて殲華天榴砲を開門すると、【多方連爆撃】――多方向からの連続砲射撃で圧を掛けた!
「突撃して來るなら、逆に此方から突撃して薙ぎ払うの!」
距離を詰め、位置を變え、射程の異なる火器を其々放ち続ける。
時に上下に、時に左右に、向かい來る亜人に合わせて樣々な角度から曲射すれば、標的の大きな連中は避け切れまい。
「第一、第二、第三……! キミ達の筋肉で捌き切れるの?」
『ふんぬんをおおっ!!』
亜人の巨躯は筋肉の質量を保証するが、此度は其が仇となろう。
無数の火砲閃彈を喰らった連中は次々と足留めされては地に倒れ、街道を眞ッ赫に染めていく。
「女性達が街に帰るのが平和だって言うけど、カナンの地に送り届けるのが一番なの!」
『ふんぬんーっ!!』
風水がマッスルゴブリンズの意志を汲みつつ拒んでいる感じがするが、気の所爲では無い。
戰端が開かれて幾許――遂に筋肉言語の解読に成功した復讐者が、パラドクス通信で人語に變換していたのだ。
「……オンナタチ・マチモドル・ヘイワ……オレタチ・ハンエイ……」
ゴブリンズが樣々なポーズを見せる度、その意志を読むは實生。なんと、本当に読めた。
人語を操る隊長と併せて觀察したお陰で、斷片的ながらマッスル語を理解した彼は、解析した行動指針を仲間に伝えた。
「第一に女性達の捜索を優先し、進路上に敵対者が居れば交戰。その中に人間の女性が居れば鹵獲……一連の筋肉の語らい、此方からは見えているよ」
加えて、これらの指示が指揮系統の亂れによって大きく搖らぎ始めている事も把握していた實生は、部隊が分斷して完全に統禦を失った隙に仕掛ける。
「此處まで來たんだ。もう怖がらなくていい」
「しろふわさま」
「これからは、未來と、更なる希望を感じて欲しい」
大地を蹴って翼を広げた瞬間、その羽搏きを仰ぐ女性達に佳瞳を結ぶ。
絶望の連鎖は今に解かれると、凛然を置いて飛翔した實生は、血煙の上がる空から【ノクテムヴィアム】――哭戒を備えたグラナトゥムを構えて鋭く滑空し、亜人の頭上を脅かすと同時、降下しては身を低く股下を潜り抜け、紺靑の炎に大内転筋を切り裂いた!
『ふんふんふーん!!』
而して零れた言は、翻訳する迄も無い。
今際のサイドチェストを眼路に掠めた實生は、そのまま大地ギリギリを飛び、次なる個体を攻めるのだった。
「……平和も共存も一方的な解釋なのに、相互理解? する訳が無い」
凡そ我々が想起する平和でないと、實生から伝達されるマッスル語に瞋恚を募らせる聖。
畢竟、亜人は敵で、醜悪なる芥塵[ゴミ]でしかないと、殺氣を研ぎ澄して練氣と昇華した彼は、轟然と迫る巨拳を結界壁に受け止めると同時、蓄放自在の脚部装甲にその衝撃を吸収させて、死蔵重撃【双牙】(デッドロックインパクトツイン)――刹那を支配した。
「その首。どれだけ鍛えていようが――吹き飛ばすッ!」
『ぬん――っ』
爪先を蹴るや一気に敵懷へ侵襲し、顎に向けて駆け上がるように跳び蹴り!
4mにも届く亜人の下顎を蹴撃で砕きつつ、空中で躯を回転させて二発目は飛足刀!
鎌刃の如く差し入った『死蔵』が胸鎖乳突筋を斷絶すると同時、頸椎を粉砕して首を飛ばしたッ!
『ッ……ッッ……!!』
一塊の肉と血飛沫になった同胞を見れば、流石に亜人も動搖しよう。
今度はお前だと、撞ッと斃れる巨躯の奧から睨視した聖は、間もなく爪先を蹴って次を狩りに掛かる。
「通りたければ、死ぬ覺悟をするがいい」
『――ッッ!!』
女性達こそ死ぬ覺悟で此處まで來たのだから、と。
聖は冷嚴に冷徹に、怯懦を滲ませる者から淡々と蹴り潰していくのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【避難勧告】LV1が発生!
【通信障害】LV1が発生!
【光学迷彩】がLV4になった!
【飛翔】LV1が発生!
【無鍵空間】がLV2になった!
【エアライド】LV1が発生!
【建物復元】LV1が発生!
【書物解読】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV5になった!
【グロリアス】LV2が発生!
【アクティベイト】がLV3(最大)になった!
【能力値アップ】がLV5になった!
【命中アップ】がLV2になった!
【ドレイン】がLV4になった!
ナディア・ベズヴィルド
【まのもの】
タオちゃんのえっち!
ちゃんと大事な人に言ってあげなさいなそのセリフ
そしてゼキさんはむっつり…そうなのかぁ
さぁて。女の人たちの対処は仲間がしてくれている
私は前に立ち奴らの目を惹きつけるとしましょう
まんまと女たちに逃げられた間抜け面の亜人共、ようやっと来たか
ははっ、平和的対話なんて無理に決まっておろうが
貴様らの本能は蹂躙のみなのだ、そこまでの頭は持っていないだろう…
ってぬんぬん、ふんふん、うるさっっ!!!
(話している最中にPDをぶちかます。だって煩いんだものしょうがない)
そのツラに杖で一撃を
ずっと殴りつけたかったのよね!
わっ鮫に尻尾齧られるところだった
すごい、ウーパーもいて筋肉祭りだわ
ゼキ・レヴニ
【まのもの】
せーの、『タオちゃんのえっち!』
だってよ、全員お前さんの女だなんてずりぃだろ!?
あとムッツリつったの誰だ!
一丁ふざけて場を温めたら勝負と行こうかね
女達に近づかせん様【防衛ライン】を敷き
『躯』を旗槍に変じて掲げ
腰を抜かしてた女達も立てる様【士気高揚】を
確り地を踏み締めて立つんだ
その地が誰のもんなのか
今から奴らに示すんだからな
旗をぶん回し敵の攻撃や視界を妨害
隙を看破*し刺突
瀕死の敵、ラインを突破しようとする敵を優先で狙う
密度減らねえと思ったら筋肉(ウーパー)増えてんじゃねえか!
鮫も蛇もクーガもいる!杖で…殴るんかい!なァ情報量!!
理解不要、拳で語れとばかりの皆に応援団ばりの追い風を送る
タオタオ・ザラ
【まのもの】
えっちじゃないですぅー!
タオはかわい子ちゃんが好きなだけですぅー!
ゼキだって好きじゃろ、素直になれよ
軽口を交わしながら魔石を砕き、喚び出した大蛇を撫でてやる
どうせ言葉が解っても、解りたいと思わんことしか言ってない
だったら暴力で解らせるしかないにゃあ?
シャム、お前さんも暴れたいだろ?
ほぅら掛かってこいよ、下衆共
彼女たちには近付かせない、得物を振るって屠る、それだけ
狙いは彼女たちに近いのと弱ってる筋肉を優先
近付くなっつってんだろ、分かんねえヤツらだなァ
強引なだけじゃ悦ばせられねぇって知らねえのか、ばぁーか!
それにしても筋肉の圧が強すぎる
ぜんぶ終わったらタオのこと癒やしてかわい子ちゃん!
クーガ・ゾハル
【まのもの】
ええと、たおえっち、ゼキムツリー!
みんな、色んなこと知ってるよな
あいつ、もっとすごいぞ
なんて言ってるのか、ぜんぜんわからない
おれのキンニク足りないせいか
おう、と
ゼキにこたえて、うるさい剣を上へ
【トラップ生成】で
おれたちとマッスルの、
さらに、女のヒトたちとおれたちの間に
バクハツトラップをしかけておく
それで、ウーパーやサメを見て、キアイをいれる
タオのヘビもすごいな
よし、でかいいきものにまじって、おれもいくぞ
かじらないでくれ、サメ
バクハツは、みんなのイロドリ
ケムリとジャリの間、かけぬけて<突撃>
こんなエイガ、あった……かも、しれない
キンニクおうえん団もいるぞ
さあ、マッスルに、ブチカマシだ
アリア・パーハーツ
【まのもの】
タオちゃんのえっち!
ゼキさんはむっつり?
救い出せた女性たちに背を向けて
貴女達に二度と近付かせはしない
【トラップ生成】の罠を逃れた奴らはサメの餌食にするのだぜ
ボク様だって二度と捕まってやらない
奉仕なんて恋人以外にするかばーか
三匹のホホジロザメで襲撃
体当たりさせたり齧らせたり
檻に閉じ込められる恐怖を味わえ
ってボク様の髪は血じゃないぞ!?
ウーパーは齧らない!ジズに倒されるぞキミ達!
大きな蛇?可愛い!タオさんの子だから食べちゃだめ
あっちのふんふん五月蠅いマッチョが今日の餌!
そっちは味方だからだめ!
あ、お前!乱暴にした奴だな、てめぇはボク様が殴る!!
最終的にサメと一緒に殴る蹴るの大暴れ
ジズ・ユルドゥルム
【まのもの】
せーの、タオちゃんのえっち!
気にするな、こちらの話だ。
遅かったな亜人ども。よく聞け、他者を踏み躙る者は自分も踏みにj……ふんふん言うなやかましい!!
私は亜人とも筋肉とも対話に興味ない。筋肉は筋肉同士で話すがいい!
というわけで出でよ、ウーパー戦士達!!
筋肉で平和的に対話するということは、すなわち物理攻撃で対話するという意味だろうな。私には分かる。(分かってない)
戦士の幻体をけしかけ、筋肉同士で存分に対話してもらおう。
私は敵と女性達の間に立ち、戦士達の雄姿を仁王立ちで見守る。
…筋肉に気を取られていたが、いつの間にか危険生物まで混じりだしたな?
あっ。ゼキ、すまないそれウチのウーパーだ。
●
轟々[どろどろ]と街道を踏破く軍靴の響きを耳に、大きく息を吸う。
肺腑いっぱいに空気を溜めた者達は、「せーの」で一斉に喚呼した。
「「「「タオちゃんのえっち!」」」」
音の高低や聲色を違えた四重唱[カルテット]が輕妙なるハーモニーを作り出せば、えっちなタオちゃんことタオタオ・ザラ(大喰らい・g05073)は、端整なる脣をツンと尖らせて反駁した。
「えっちじゃないですぅー! タオはかわい子ちゃんが好きなだけですぅー!」
「正にそこがだ」
本人の口から轉び出るおきもちを、佳脣を眞一文字に結んで撥ねのけるジズ・ユルドゥルム(砂上の轍・g02140)。
今の不滿げな表情さえ美しい彼にて、乙女達が恋に落ちないかと、いっとう警戒する彼女はまるで仔猫を護る母猫のよう。
「……そういう科白は、ちゃんと大事な人に言ってあげなさいな」
息を揃えて云ったものの、そっと溜息を置いたのはナディア・ベズヴィルド(黄昏のグランデヴィナ・g00246)。
救出した二十八人を“タオのもの”にするのはえっちだが、大切な人を護るには素晴らしい言葉と認めるオトナ女子だ。
一方、音頭を取ったゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)はタオタオにジトと睨められていて、
「ゼキが煽ったじゃろ? 聽こえたぞ」
「だってよ、全員お前さんの女だなんてずりぃだろ!?」
ポロッとおきもちが零れたか。かわい子ちゃんが好きな人はここにもいましたよ皆さん!!!!!
これこそ聽き逃すまいとタオタオが瞳を光らせた隣、先刻はニッコニコで唱和したアリア・パーハーツ(狂酔・g00278)が樂しげに小首を傾げ、ことり、ことりと左右に搖らしながら尋ねる。
「じゃあ、ゼキさんはむっつり?」
「アリアは話を膨らませないように」
ゼキが制する間も無い。
それこそ音速で伝わった「ゼキさんむっつり説」は、ジズもナディアも0.0001秒くらいで反應を示した。
「此處で新たな情報が出たか」
「むっつり……そうなのかぁ」
「早い! 速すぎる!」
この流れは危険だとゼキが冷汗を催す中、矛先の逸れたタオタオは嬉々と肩をぽむり、「素直になれよ」と言うのだから、マジでこっち組に入ったような気がして焦ってくる。
トドメを刺したのは、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)の一言。
「ええと、たおえっち、ゼキムツリー! みんな、色んなこと知ってるよな」
なんと、新しい單語が二つ生まれた。
ひとつずつ覺えていこうと、真摯に學ばんとするクーガの記憶を改竄する事は不可能にて、タオタオもゼキも肝が縮むが、實の處、彼の腦内に浮かんでいるのは「巻貝を背負ったゼキつむり」だったりする。へいわ。
而してクーガは、まだまだ知らない事ばかりとは前方を指差して、
「あいつら、もっとすごいぞ。なんて言ってるのか、ぜんぜんわからない」
砂埃を巻き上げて迫る筋肉の海。
漸う見えたシルエットは、ダブルバイセップス、ラットスプレッド、アブドミナルアンドサイ……樣々なポーズを披露するマッスルゴブリンズだ。
「おれのキンニク足りないせいかな。なにかアツいものは、伝わるけど」
あれは暑苦しいのだと教えるナディアと、クーガは無垢で寛容だなと思うジズと、近附いちゃダメだと止めるアリア。
三者が似たような表情を揃える中、タオタオとゼキは好戰的に咲んで、
「どうせ言葉が解っても、解りたいと思わん事しか言ってない。だったら暴力で解らせるしかないにゃあ?」
「噫、一方的な会話手段なら此方も持ってらぁな」
巫戯化て悪洒落たのはここまで。
一丁勝負と行こうかね、と。兩者の間に小気味良い瞥見が結ばれた。
†
「……アイツらだべ……っ!!」
「やだ、やだ、連れてかれる!!」
女性達の中には、集落が襲撃された時の記憶を戻す者も居よう。
恐怖に震える皆々を寄り集めて「大丈夫!」と励ましたアリアは、品佳い鼻梁を戰塵に結ぶと、長い睫をピンと持ち上げて抗拒を示した。
「あんな奴等、二度と貴女達には近附かせないし、ボク様だって二度と捕まってやらない」
この身も献上品として随分手入れされたが、奉仕なんて恋人以外にするものか!
べぇと舌を出す彼女の眞直ぐな敵愾心が美しいか、女性達が勇気を得る中、つと見る地面がみるみる隆起していく。
「わっ……道が、丘や谷に……!?」
「確り地を踏み締めて立つんだ。防衛ラインを敷く」
ぱちくりと目を瞬く女性達に呼び掛けるはゼキ。
手にした『躯』を旗槍に變じて掲げた彼は、凛乎堂々、大地に突き立つ槍の如くたれと鼓舞した。
「その地が誰のもんなのか、今から奴等に示すんだからな」
恐れず立つ姿を見せてやれ、と。
然れば彼の腕に支えられていた女性も強く頷き、己の脚で立ち上がろう。
「うん。まけない!」
「おう。おれもやる」
颯爽はためく旗槍に士氣を高めたのは、もう一人。
クーガは應の聲ひとつ、それにも増してギャンッと哮る鋸刃劍を碧落に掲げると、女性達に向かって逆手の指をスイスイ、このラインから先へ踏み込んではならないと注意を促した。
「ここ、気をつけて。バクハツトラップしかけておくから」
脱出時も役立った仕掛け罠は、此度も万一の場合に時間を稼いでくれるだろう。
斯くして皆々が防衛準備を整える中、ナディアは亜人を惹き付けんと、一歩も二歩も踏み出して存在感を見せた。
「まんまと女達に逃げられた亜人共め。よう漸と間抜け面を見せに來たか」
『ふんふん!? ふんふんふんふん!!』
小高い丘から物理的に上から目線を注ぐ凄艶に、ムキムキとポーズを取るマッスル達。
そのパルスは対話を呼び掛けている樣だが、相互理解など無理無用と、ナディアは美麗しき冷笑に突っ撥ねた。
「ははっ、貴樣らの本能は兇悪と狂暴」
『ふんぬふんぬふんぬふんぬふんぬ』
『ぬんぬんぬんぬんぬんぬんぬぬん』
「その浅智に平和的思考など備……ってぬんぬん、ふんふん、うるさっっ!!!」
ややキレ気味に閃いたパラドクスが開戰の鏑矢。
普段より荒々しく迸った魔力が筋肉の海にぶつかれば、その抗衡に烱瞳を細めたタオタオが、琥珀と燿う魔石を砕いてジンの分靈を――大蛇を喚び、煌びやかな鱗を撫でて云った。
「シャム、お前さんも暴れたいだろ? 腹の足しになる獲物がある」
朦々たる戰塵の奧、ムサ苦しい熱の渦動を捉えたシャムは、その巨躯を鞭の如く撓らせて飛び込み、ゴブリンズ自慢の筋肉に猛牙を突き立てた。
『ぬんぬんぬ!! ぬんぬんぬ!!』
「扨ぁて何を云っているやら。もっと聽かせて貰おうか」
元より理解する意[つもり]は無い男の嗤笑や冷艶。
この時、同じく亜人と語らう理は無いと隔絶を揃えたジズは、木槍を掲げるや天空より“代わりの者”を喚び召した。
「筋肉は筋肉同士で話すがいい! という訳で出でよ、ウーパー戰士達!!」
『うぱー』
『ぴちぴち』
ラァァァ……と神々しく降り立つ薄桃色のサイドトライセップス、獸神王朝エジプトの残滓。
つぶらな瞳と、極限まで仕上がった筋肉が佳き話し相手になろうと、術者が槍鋩を敵群に結べば、戰士らはわーっと駆けて熱氣の渦へ――筋肉密度を上昇させた。
†
「武器を取って、戰おう。他の誰でもない、抗うと決めた者達の爲に」
己が奪われたものとは違うとはいえ、女性達の喪失感は察するに餘りある。
彼女達を奮い立たせるべく、高らかに【浪の旗幟】(クニナキモノタチノシルベ)を掲げたゼキは、印なき旗槍に凛乎たる星眸[まなざし]を集めながら、燦々燿々と鋭鋩を躍らせた。
「随分と見せつけてくれる。お陰で突き放題だ」
『ぬんっ、ぬんうんぬぬぅ!!』
筋肉美を誇示するに数秒、靜止するタイミングがあると見切ったゼキは、その隙に槍を突いて腹直筋を赫々しく染めると、反撃に繰り出る怪腕を柄の旋回に彈き、而して飜る旗織が視界を遮る間にもう一閃! 今度は石突で大胸筋を強襲し、筋肉の壁を撞ッと突き倒すッ!
『ぬぅぅぅん!』
「――知るかよ」
何か言いたそうにポーズを取って死ぬ筋肉を眼眦に流し、鋭眼は眞直ぐ次なる個体へ。
防衛ラインに近附く敵から順に刃撃を呉れたゼキは、旗槍を翻すほど巻き起こる烈風に仲間の背を押して戰い続けた。
「唯だ突いても突いても筋肉の壁……って密度減らねえと思ったら、増えてんじゃねえか!」
「あっ。それウチのウーパーだ」
すまない、と佳聲を添えたのは、【獣神模倣・埃及鯢】(イミテーション・エジプトウーパー)を齎したジズ。
二人が視線を結ぶ先、嘗てナイル川流域でイキイキしていた戰士の幻体は、戰場を變えても潤いたっぷり、隆々たる筋肉と華麗なる格鬪術を以てゴブリンズと“対話”している。
喫驚いたのは魔狼の隊長だろう。
『ッ!? 女達を追って來た筈なのに、何故これ程の筋肉が……!?』
「お前の預り知る處では無い。隊を率いる者なら遅拙を愧じよ」
『何ィ!!』
筋肉と筋肉がドスドスと鬩ぎ合い、『ふんぬふんぬ』『うぱー』『ぴちぴち』が響動めく中で言を交す兩者。
嚴然と立ち塞がったジズは、ウーパー戰士の雄鬪を仁王の形相で見守りつつ、亜人らに向かって怜悧に言い放った。
「亜人ども、よく聞け」
『ふんぬふんぬふんぬふんぬ』
『ふんぬっ、ふんぬふんぬ!!』
「他者を踏み躙る者は自分も踏み躙……ふんふん言うな喧ましい!!」
言うより殴った方が早いと、更に戰士を召喚するジズ。
抑も筋肉で平和的に対話するというのは、物理攻撃で殴り合うのと同義であると理解に至った佳人は(ほんとうかな?)、彼等が望む通りの閃拳打撃を浴びせまくり、戰場を筋肉でみっちみちにさせた。
而して筋肉に全集中していたジズが、危険生物まで混じっている事に気附いたのは何時だったろう。
熱氣渦巻く戰場は、今や餌を求めて集まったホホジロザメが遊泳する――【恐怖の水族館】(スクアーロ・パラディーゾ)と變わっていた。
「おいで、おいで。愉しいご飯の時間なのだぜ」
三体の巨鮫を招いたのはアリア。
戰場を悪魔の檻に囲繞した彼女は、天地を自在に游ぐ鋭牙が垂涎する儘、足元から、背後から、頭上から、諸有る死角から血肉を屠らせに掛かる。
「さぁ肉質を確かめて來るのだ」
『ふんっ……ぬーっ!!』
亜人に匹敵する巨躯、その胃袋は頗る健啖。
三体は先ず負傷した者の血臭を辿って体当たりし、体勢を崩した隙に猛牙を突き立てるが、術者アリアを収容所に連行した者達に“閉じ込められる恐怖”を味わわせるとは皮肉が利いていよう。
蓋し敵味方なく閉じ込めたので、時たま齧られるのは御愛嬌。
「なんか硬そうなお肉……ってボク樣の髪は血じゃないぞ!?」
一体の鮫にあむあむと髪を齧られる中、アリアはスゥ……っと吻先を獲物に向ける一体へ急いで注意し、
「はいそこっ、ウーパーさん齧らない! ジズにシバかれるぞ!」
「!」
「可愛い蛇のシャムさんも、タオさんの子だから食べちゃだめ」
「!」
ビクッとして二度も進路を變える鮫も賢く、「偉いぞ」とグッと拳を握り込めた佳人は、恐怖をマッスルポーズで示し合うゴブリンズ目掛けて纎指を射た。
「あっちのふんふん五月蠅いマッチョが今日の餌! 齧り放題だ!」
『ふんぬふんぬ……っっ!!』
強靭な脚力はあれども、逃げ場は無し。
亜人は上質なタンパク質を差し出すのみだった。
『ふんふん……ふんふんふんふん……!!』
『ぬんぬんぬん!! ぬんぬんぬんぬん!!』
而して亜人らは大混亂。
次々に連鎖する刃撃・拳撃・牙撃に部隊を分斷された筋肉達が、阿鼻叫喚の地獄に堕ちるにも一々ポーズを決めれば、其を「うるさーい!」と一喝したナディアが【屠殺者の守り星】(サール・ダベ)を――此度は握る杖ごとブチかました!
「呪いあれ! 災いあれ!」
『ふぬをーっ!!』
「血よ礫となって擲げ打たれよ!」
「ぬんぬんぬ-ん!!」
もっと瀲灔として耽美なパラドクスだったような気がするが、だって煩いんだものしょうがない。
そのスットコドッコイな平和面を、ずっと殴りたかったのだと神授の杖をフルスイングしたナディアは、パコーンと一閃、腦髄まで筋肉っぽい頭をカッ飛ばすや確信歩き! 淸々した花顏を披露する。
素晴らしいホームランであったが、この儘戰場を一巡りするには密度が邪魔をしよう。
背後には尻尾スレスレで鮫が泳ぎ、眼路は櫻色が広がって爛漫と、ウーパー戰士で滿開といった處だ。
「わっ鮫に尻尾齧られるところだった」
ヒョイと避けるナディアの背中に「ごめーん!」と掛かるのはアリアの佳聲か。とにかく賑々しい戰場。
畢竟、其は復讐者が優勢を取り始めた證左に違いなかった。
「タオのヘビ、でかくてすごい。ウーパーもサメも、キアイ入ってる」
負けていられないと、霹靂の如く蒼白い鬪志を兆すクーガ。
大きな生きもの達の大活躍を隻眼に映した彼は、己が侵襲すべきは天地の疆、地面のギリギリだと導線を見出した。
「――よし、おれもいくぞ」
バチバチと迸った電氣符号が命じるは【茨葬】(シャウ・カ)――クーガの長い手足を傳って放出された封縛のコードは、朦々と立ち込める戰塵を潜行して目標へ、亜人の足元めがけて疾る、走る。
「絡めとって、裂け」
『ふんふんふんふ――!』
猪とて狩れる鐵の茨は、標的の真下から噴出して脚を強襲!
腓腹筋からハムストリングスに荊棘を巡らせるや、鋭利な鐵棘を以て赫々と引き裂いたッ!
『ふんふんっ!! ふんふんふんー!!』
激痛を訴えるにモストマスキュラー、筋肉も表情も気迫に滿ち滿ちているが、そのド迫力は間もなく鋸刃に散されよう。
「かじらないでくれ、サメ」
巨鮫と擦れ違いざま佳聲を置いたクーガは、戰塵と砂埃の靉靆たるを擦り抜けて肉薄――!
己も垂直に跳躍しながら『號』を疾らせ、肉の壁を逆袈裟に斬り裂いた!!
『なっ何という事だ……鉄壁の如き筋肉が次々と……!』
魔狼の隊長は、悪夢でも見ているかの心地だろう。
全く統禦が利かんと焦燥が募る中、可愛い大蛇シャムに“餌”を遣っていたタオタオは、成程慥かに齒應えはあると微笑を讃えつつ、愚かな亜人に丁寧に啓蒙した。
「近附かせないと言ったじゃろ。タオがそう言ったからには、覆らん」
得物を振るって、屠る。
唯だそれだけだと麗瞳を細める男ひとり、巨蛇一体も乗り越えられぬのは、女性達に近附く個体から効率的に迎撃する男の立ち回りと、損耗の大きい個体から狙いを定めて蜷局を巻き、絞め殺す――【燈火の護石・蛇蠍】の連携の賜物。
中々崩れぬ防衛ラインに痺れを切らした隊長が突撃を指示するが、今や数が足りまい。
『女だ、女を捕えればこの者達の士氣は下がる!! 女を――!!』
「近付くなっつってんだろ、分かんねえヤツらだなァ」
緋蠍の瞳が片方を歪めたのは一瞬。
「ほぅら掛かってこいよ、下衆共」
『ぬんぬんぬんんぬぬーっ!!』
猛然と突貫する筋肉の波に正對した彼は、突き出した右腕の金環を鏘々と搖らすと同時、シャムの尾撃を水平に一揮ッ!
丸太の如き巨尾に足払いさせると、大いに擦ッ轉げた亜人を好餌と丸呑みにさせた。
「強引なだけじゃ悦ばせられねぇって知らねえのか、ばぁーか!」
「ばーかばーか!」
タオタオに続いてアリアが嘲罵すれば、一同は場所を違えつつも艶笑を揃え、此度は冱撃の六重奏[セクステット]を奏でるのだった。
『莫迦な、馬鹿な!! 一刻で集落を壞滅させる我が隊が……!!』
嘗て亜人が赤子のように轉んでは倒れる光景などあったろうか。
次々と撃破される配下達を見た隊長は、己の目こそ疑ったが、全てが“現実”。
大蛇シャムが放つ強靭な生命エネルギーによって膂力の加護を得たメンバーは、大混亂に陥った捜索部隊の鏖殺に掛かり、更なる悪夢を隊長に見せる。
「あ、お前! ボク樣に乱暴にしたてめぇは直々に殴る!!」
『ふんぬーっ!!』
今や自身も殴る蹴るの大暴れをするアリア。
一方、けっこう序盤から殴る殴るの無双をしていたナディアは、時を追う毎に増えている気がするウーパー戰士の向こう、颯爽と駆けていくクーガと瞥見を交す。
「すごい、まるで筋肉祭りだわ。何だかおめでたいわね」
「うん、キンニクおうえん団、たのもしい。さあ、マッスルに、さいごのブチカマシだ」
『うぱー』
『ぴちぴち』
「そこは私が呼應すべきと思うが……ウーパーよ征くが佳い!」
ジズが槍鋩を向ける先、筋肉の群れに突撃する巨鮫、アリア、ナディア、クーガ、ウーパー。
皆々で創り上げる彩は實に鮮やかだが、彼等に追い風を送る應援団長ゼキはもうツッコミが間に合わない。
「大きな生き物大運動会にアリアとクーガが混じって? そんでナディアは杖で……殴るんかい! なァ情報量!!」
凄まじい情報量を一枚画に収める映画があったかもしれない。慥か劇場版で。
蓋し理解は無用、拳で語れとばかり旗槍を突き立てたゼキは、目の前で「どっかーん!」と亜人らが吹き飛ぶ定番の光景、そのアツさに眼球が渇く思いがしたろう。
錐揉みして飛んでいくにもポーズを忘れない筋肉達には、タオタオがきゅうと眉根を寄せて、
「なぁシャム。最後まで筋肉の圧が強すぎんか」
『シャッ』
眼が眩みそうだと跟蹌けた麗人は、そそそっと女性達の方へ倒れ込まんとする。
「はー、ぜんぶ終わったらタオのこと癒やしてかわい子ちゃん! 膝枕とかで!」
然し猫なで聲で擦り寄った彼は知るまい。
目下、陸上選手も蒼褪める迅さで、己が背後に仲間が迫っていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【セルフクラフト】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
【怪力無双】がLV2になった!
【トラップ生成】がLV3になった!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
【水源】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV7になった!
【ダメージアップ】がLV6になった!
【ドレイン】がLV5(最大)になった!
【アヴォイド】がLV3になった!
●
『ッッ……やって、呉れたな……!!』
魔狼の隊長は、復讐者の驚異的な連鎖攻撃に戰慄したが、然し逃げ帰る訳にはいかない。
此處は『勝利王セレウコス』の支配地域、亜人の敗北は許されぬ土地なのだと鋭牙を嚙み締め、緋色の劍を抜く。
途端に空気が息苦しく張り詰めたのは、彼の殺氣が魔力となって放出されたからだ。
『貴樣等が何故、女達を盗んだのか……女達が手引きして貴樣等を招いたのか……動機も方法も、もはや如何でも良い』
収容所に侵入者があった事実。
女達が脱出して街を抜けた事実。
其を追跡した精鋭が掃討された事実。
全ては勝利王の名誉を貶める事案にて、己が全て揉み消さなくてはならぬと決意したコボルトの暗黑戰士は、毛を逆立て、牙を剥いて言い放った。
『貴様等も女達も、此処で殺す! 私にはこの選択しかない!』
心の奧、密かに危殆が掠めるのは実感している。
若しか彼等が「勇者」や「冒険者」に連なる者達なら猶の事、此處で必ず抹殺せねばならぬ、と――魔狼の緋劍が閃いた。
リヴァル・アーク
上司に随分と苦労させられている様子ですね。
そうですか、動機も方法もなんでもいいと。有り難い限りです、こちらの情報が全く漏れないようですし。
……まあどちらにしろ、復讐者の情報を得たところで、お前をこの場で倒せば何も問題はない。
尋常ではない魔力を感じますね、肉体にも精神にもダメージを与える力ですか。
竜のオーラで自身を護るようにしてパラドクスを受けますが、たとえ精神ダメージと激痛を受けようともパラドクスの集中は途切れさせないように相対しますね。
そしてパラドクス【破空の衝】で魔狼を打ち砕きます!
勝利王セレウコスの支配は盤石なものではない、それをここで証明しましょう……!
「――本件は揉み消すと。それはオレ達にとっても有り難い事です」
リヴァル・アーク(竜滅の拳・g00136)は先ず安堵したろう。
女性達が何故脱出できたのか、手引きした者達が何者なのかを調べず“無かった事にする”など、浅慮と言う他ないとは、諸有る智慧を絞って亜人の常識を覆し、今の優勢を得た復讐者ならではの言。
彼は凛と澄ました佳顏に微笑すら湛えつつ、魔狼の蒙昧を煽るように言った。
「お陰樣で此方の情報は漏れずに済みそうですし、何より、お前をこの場で倒せば何の問題も無い」
『思い上がるな、人間の小童め。六十のゴブリンを率いる部隊の長が、ゴブリンより弱い筈が無かろう!!』
魔狼は魔劍一閃、瞋恚する程に滾る魔力を叩き付けるよう揮り抜けば、赫緋の斬撃波がリヴァルめがけて嚙み附くが、躰に宿る竜の因子を励起して防禦した彼は、兩脚を強く踏み込んで衝撃を受け止める。
「ッ、この尋常でない魔力……躯の大きさは伊達ではありませんね……!」
『なんと、その矮躯で受け切るかッ!!』
体格に優れた亜人の力は認める。膂力も魔力も充分。
まるで躰の内外から上下の牙で砕かれるようだと腰を落したリヴァルは、全身を駆け巡る激痛をギリと奧齒に嚙み殺すと、丹田で練り上げた竜の「氣」を拳に集めた。
「……餘程忠誠心があるか、上司に苦勞させられている樣ですね」
『何を小童が知った口をッ!!』
「勝利王セレウコスの支配は盤石なものではない、それを此處で証明しましょう……!」
魔狼が“小童”と輕んじる少年は、此度の潜入で充分知り得た。後は示すだけだ。
赫劍が振り被った瞬間、再び魔力が迸るより迅く、電光石火の勢いで踏み込んだリヴァルは、【破空の衝】(アストラル・エンド)――! 痛撃に堪えながらも決して途切れさせなかった竜の大いなる波動を、眼前の空間に向けて叩き付けたッ!
「この拳が『解』のひとつです!」
鞺鞳と溢るる竜のオーラが、白金と燿う前髪を掻き上げ、烱瞳を暴く。
赫々と熾ゆる緋の虹彩が巨邪を映した、正に須臾、超常の絶技が閃いた。
『――ッッ、ッ!!』
逆手を盾と構える前に、周囲の空間ごと吹き飛ばされるような感覺。
嘗て味わった事の無い衝撃に目を白黑させた魔狼は、我が刃撃を兩脚で受け切ったリヴァルとは対照的に、漸漸漸漸漸ッッと後退させられるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【モブオーラ】がLV3になった!
効果2【フィニッシュ】がLV2になった!
クロエ・アルニティコス
お前たちが間抜けなだけですから、方法はわざわざ語ることもありませんが、動機は単純明快ですよ。
こうすれば、お前たちは追ってくるのでしょう。
追ってくれば殺すことができる。それが私にとって最も重要なことです。
【ヘカトンケイル・ユグランス】を使用し、ヘカトンケイルを象った植物の怪物を作り出します。
ヘカトンケイルに巨大なクルミを投擲させコボルトの暗黒戦士を押し潰させましょう。
跳躍からの闇色の魔力を受けて芽生えた恐怖も、全てヘカトンケイルへと注ぎ、クルミの投擲で撃ち落とします。
私の心を乱すならどうぞ乱してください。この掻き乱れた感情こそが、お前たちを殺すための力です。
屈辱的な後退を拒むよう、大地に鋭爪を突き立てて体勢を立て直す魔狼の劍士。
低く身を屈めながら復讐者を睨め据えれば、我が躯の半分にも滿たぬクロエ・アルニティコス(妖花の魔女・g08917)が、やけに大きく視えたろう。
殺氣帯びた魔力が烈風となって戰塵を巻き立てる中、佳人は靜かに淸かに、夜鳴鶯の囀聲を滑らせた。
「今の窮地を招いたのは、驕慢と蒙昧。畢竟、お前達が間抜けだっただけですよ」
『ッ!! 云ったな!!』
劍鋩を向ける魔狼の前、クロエが取り出すのはクルミの種。
柔らかな玉雪の掌の上、妖花の魔力を注がれた知性の種は、忽ち芽吹いて『ヘカトンケイル』に――ギリシャ神話の巨人となり、魔女の傍らで百の手を動かす。
『巨人……ッ……!!』
魔狼の睨視が漸う上へ持ち上げられるのを怜悧に眺めたクロエは、手持ち無沙汰に手指を動かす巨人にクルミを手渡すと、嘗ての神話を捺擦[なぞ]るよう言い渡す。
「女性達の救出に係る数々の手法は、態々語る事もありませんが、動機は至極單純ですよ」
『ッ――!!』
クロエの掌に収まる程のクルミは、巨人の手に渡れば忽ち巨岩に。
嘗てヘカトンケイルは百の剛腕で巨岩を投げ、ティターンを脅かしたと云われるが、此度は魔狼めがけて力いっぱいクルミを投擲し、不斷の礫撃に押し潰さんとした!
「こうすれば、お前たちは追ってくるのでしょう」
『くっ、ぉおおっ!!』
「追ってくれば殺すことができる。それが私にとって最も重要なことです」
『こな……くそ……!!』
豈夫[まさか]、亜人の身丈を上回る巨人と對峙するとは思ってもなかったろう。
魔狼も敏捷な跳躍で礫撃を躱し、或いは鋭爪を振り下ろして巨岩を砕くが、一度に百も迫る巨礫の全ては捌けまい。
クロエの咽喉を搔き切る処か、百手巨人の間合いにも入れぬ狼邪は、闇色の魔力を放射して反撃に出るも、彼が膨らませる怯懦の激情は、其を「糧」とするヘカトンケイルを更に成長させていく――!
「私の心を亂すなら、どうぞ亂して下さい。この搔き亂れた感情こそが、お前達を殺す爲の力になります」
『ッ巨人が……また大きく……!?』
巨躰を武器に蹂躙の限りを尽していた亜人を、より巨きな存在で圧殺する。
小さな者達が味わった恐怖を今こそ味わえと、巨大化したクルミが何度も何度も魔狼の鎧を叩くのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【平穏結界】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV7になった!
ナディア・ベズヴィルド
弱い狗程よく吠えるとはよく言ったものだ!
たかだが六十のゴブリンを従えるからなんだ?
数はいても固体の力は些末な物だろう
我らを殺す?大きな口を叩くものよ
なれば、こういわねばならぬな
『やれるものならやってみろ』、と
亜人だけが蹂躙する立場だと思うな
力なき人々の嘆き、悲しみはやがて大きな怒りとなり力と成る
その力を持って貴様等を根絶やしにしてくれよう
《風使い》《砂使い》を用いて視界を遮り【完全視界】で視界を確保
【光学迷彩】を用いて把握されにくくし
反撃には【飛翔】で放射する魔力の回避を試みて
思いあがった頭に本当の恐怖を教えてやる
生きながら身を削がれ骨を砕かれ息絶えるまでの死の恐怖を身をもって体験するがいい
『馬鹿だ間抜けだと、随分罵ってくれる!! 身丈に合った物言いをせよ!!』
魔狼が叫ぶは、亜人の絶対的優位。
無数の礫撃を躱し、或いは緋劍一揮して軌跡を往なしたコボルトの暗黑戰士は、瞋恚を滾らせて闇色の魔力を溢れさすが、ナディア・ベズヴィルド(黄昏のグランデヴィナ・g00246)は美麗しき嗤笑に其を煽る、扇る。
「弱い狗程よく吠えるとはよく言ったもの」
『イヌ!? 我が種を愚弄するか!!』
「セレウコスの飼い犬だろう。何が違う?」
『貴樣ッ!!』
精々六十のゴブリンを從えて胸を張り、正体も知らぬ者を「殺す」などと大口を叩くは、唯の吠犬[ほえいぬ]。
暑苦しい筋肉を揃えたとて些末は些末、現に手勢の半数を喪ったろうと嘲罵した佳人は、嫋やかに差し出した繊指に風と砂を結び合わせた。
「身丈を知らぬお前にこそ云って遣らねばならぬ。――『やれるものならやってみろ』、と!」
『~~ッッ!! ならば望み通りよッ!!』
容易く集落を潰した力が闇色の海嘯となって眼路に迫るが、佳人の麗顏は凛然たる儘。
これが女性達が見た“恐怖”かと紅脣を結んだナディアは、【砂礫の終止符】(サンドストーム)――刃の如く研ぎ澄ませた風に砂礫を混ぜると、螺旋を描く砂嵐にしてぶつけた!
「亜人だけが蹂躙できると思うなよ」
『!! 闇黑の力と、砂礫が拮抗している……ッ!?』
術者を探ろうにも、厚みある風沙の渦は影を暴くまい。
而して冴え渡る冷嚴の聲だけが、ヒヤリと耳に迫った。
「力なき人々の嘆き、悲しみはやがて大きな怒りとなり力と成る。その力は今に貴樣等を根絶やしにする」
手足は捥がれるだけでなく。血潮は流されるだけでなく。
復讐者が集めて束ねれば、聲なき者は歌うように空を裂き、指なき者は奏でるように地を揺らすのだと砂嵐を押し込めば、黑々と渦巻く魔力は砂礫に削られ、遂に魔狼にぶつかって体毛を刈ッた!
『ッッ、私のモフモフが……ハゲた!?』
次は皮か、肉か、骨か。
烱々と燿う金瞳は、間もなく答えを差し出そう。
「思いあがった頭に本当の恐怖を教えてやる。身を以て學ぶが佳い」
生きながら皮を剝がれ、肉を削がれ、骨を砕かれ。而して息絶えるまでの死の恐怖。
其は今の今まで、亜人が人々に齎していたものだと告げたナディアは、目尻を掠める闇黑を颯ッと避けざま、角度を變えて再び砂嵐を叩き付けるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【土壌改良】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】がLV3になった!
シャルロット・アミ
よかった、ぎりぎり間に合ったみたいね
怖い思い、辛い思いをした女性たちの気持ち
あなたにわかるはずもないから
奏でてあげるわ、悲しい曲で
取り出すのは愛用のバイオリン
これで悲しいメロディを弾くわ
故郷に帰れない思い
喪ったものの悲しみ
せめて花よ、彼女たちに寄り添うように咲いて
咲いた花は幻になる
足止めをするくらいなら、心に響くことができる
心を苛むことができる
苦しめばいい 悲しめばいい
其れ以上の辛さを、彼女たちは味わったのだから
私は心から、攻めるわ
肉体を殺すのは、お願いするわね
アドリブ、連携歓迎です
刈り取られた白毛がファッと舞い上がるのを驚愕して見る魔狼に、そと、頭[かぶり]を振る。
潜伏時のフードを取り払い、蘭麝の黑髪を艶々しく搖らしたシャルロット・アミ(金糸雀の夢・g00467)は、かの狼邪には女性達が味わった恐怖や絶望は理解る筈も無いと交睫ひとつ、隔絶を置いた。
「彼女達はもっと怖い思いを、辛い思いをしたわ。あなた達に故郷と家族を奪われた所爲で」
『このハゲハゲが、亜人に刃向かう者が居るという事実が些細だと云うのか……!!』
今、とんでもない事が起きているのだと聲を荒げる部隊の長。
亜人支配に翳りは許さぬと牙を剥いた巨邪は、兩の魔爪を搔くようにして闇色の魔力を放つが、其を輕やかな舞踏の足運びで回避したシャルロットは、ワンピースの裾を嫋やかに搖らしつつ、愛用のバイオリン『シャコンヌ』を構えた。
「あなたの爲に奏でてあげるわ。哀しい、悲しい音曲を」
『曲だと!? そんなモノが、何に――なる……ッ!?』
白磁の纎手が持つ弓に紡がれるメロディは、【気高き花は歌う】のマイナー(短調)。
五線譜に描き出される旋律が花の精霊を召喚すると、花精らは悲哀の色を帯びて歌い、踊り、魔狼を大きな感情のうねりに搖らさんとする。
「花よ、謡って。故郷に帰れぬ思い、喪った者の悲しみを」
『……音が……橫溢[あふ]れてくる……!!』
「花よ、彼女達に寄り添うように――せめて美しく咲いて」
亜人の大きな耳、特に鎧に覆われぬ狼耳に響く哀訴の旋律が、神経を伝って視覺と精神を眩ませる。
耳を塞ぐだけでは防げぬ音撃は、他者を恐怖に堕とす事を得意とする魔狼を大いに搔き亂した。
「咲いた花は幻になる。心を苛むことができる」
『その樂器を壞せば、音色も……!!』
抗拒の爪撃は――否、音の方が迅い。
また如何に跳んで逃げようとも、フラジオレットに彈かれた花精達は魔狼を悲哀に抱いて離さぬ。
「あなたは聽き届けるべきよ」
『くッ……おを嗚嗚……ッ!!』
苦しめばいい。悲しめばいい。
其れ以上の辛さを、彼女達は味わったのだから。
足を止めて悶える狼邪を凛と見詰めた奏者は、哀しみの律調[しらべ]に玉聲を添えて、
「肉体を殺すのは、お願いするわね」
と、次撃を鎖[つな]ぐ仲間を送り出すのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【液体錬成】LV1が発生!
効果2【フィニッシュ】がLV3(最大)になった!
大総・統
フハハハ、最早、この状況、指揮官の失態による勝利王セレウコスの名は、過大な二つ名と共に地に堕ちる事になるだろうな。この時点で、お前が挑むは文字通り汚名挽回の戦いだ!
なるほど、気配を消して、意識の外から攻撃する暗殺者の如き、技術か…
ならば、敢えて仕掛けやすいように狙い目を誘導しつつ、同様に相手の意識の外になるような自身周囲の配置に【トラップ生成】を行い、敵の攻撃タイミングに合わせた様な場所で発動させ、隙を生むようにし、こちらの攻撃にも繋げます。
さぁ、お前の力を見せてみるがいい!
我が【世界再征服拳】の一撃を受けて見よ!
*:連携アドリブ歓迎
任された、と時の鎖を羈[つな]いだのは大総・統(秘密結社ラグナロクの大総統・g00589)。
魔狼がベタ足を着いた隙に踏み込んだ彼は、丁度ハゲになった地肌めがけて閃拳剔抉ッ! 狼邪の矜持を更に搖がした。
「隊を預る長なら、先ず失策を愧じよ!」
『ぐ、ぬぅッ!!』
拳撃は勿論、図星を衝かれて屈んだ魔狼は、激痛に歪む顏貌を晒して幾許――漆黑の魔力を纏い、気配を消す。
漸う景色に馴染みゆく輪郭を烱瞳に追った統は、然し溶けた邪影を無闇に探しはしなかった。
「フハハハ、消す隱すが得意の樣だが、無くなった訳ではあるまい」
(『……!!』)
「本件も同樣。此度の指揮官の失態で、『勝利王』セレウコスの名は、過大な二つ名と共に地に堕ちた」
よく通る聲を以て、彼奴と、彼奴の主を貶める。
返事は爲まいが、手負いの狼は痛撃と共に瞋恚を滾らせよう。
今こそ聽覺を研ぎ澄ましている筈だと嗤笑を大きく、我が位置を敢えて晒した統は、隱密に長ける暗殺者を罠に迎えた。
「この状況下、お前が挑むは文字通り汚名挽回の戰いだ!」
『そのさがな口、今こそ塞いで……――ッアー!!』
『えっ、小石!? 無い!? ……何か引っ掛かったような気が……』
「意識の外より來る者。お前にも意識の外があると、隙があるとは知っていようか」
緋劍の鋩で刺突に掛かった刹那、忽焉と突倒[つんのめ]る狼邪に嚙みつく――剛拳一打。
不可視の波動、フィムブルテュールオーラの物理的影響力に足を取られたとは気附くまいか、目を白黑させて体勢を崩した魔狼には、その懷深くに統が肉薄し、煌々と紫に燿く霹靂が哮った。
「この時点でセレウコスは勝利の翳りを、不名誉を被った。――見よ、今こそ世界は『再』征服される!」
『再、征服……ッッ!?』
亜人の絶対支配に罅を入れるは、【世界再征服拳】(ルコンキシュタ・ノヴァ)ッ!
魔狼が再び隱れぬよう、漆黑の魔力を吹き払うように拳の連打を衝き入れた統は、美し紫雷を迸って毆る、撲る、擲る!
「さぁ、お前の力を見せてみるがいい! 悉く制して見せよう!」
『ッッ!! ……ぉぉおおおお雄雄雄雄ッ!!』
高みから振り下ろされる巨刃も覺悟の上。
統は血布封帯に血が滲むのも構わず緋劍を彈き返すと、仮面の下、呀ッと欠ける刃毀れに冷笑を兆した。
大成功🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
効果2【ラストリベンジ】LV1が発生!
ゼキ・レヴニ
独りでも挑むかい、王の狗の鑑だねえ
だがよ、隊長だけ生き残って恥を晒すよか
潔くここで死んどいたらどうだい
爪には爪を、ってな
『躯』を鉄爪に変じ
【光学迷彩】で姿を隠し接近
臨機応変*に背後や側面に回り込み翻弄しつつ不意打ちを喰らわす
敵が跳躍したら狙い辛い真下に滑り込み
【飛翔】で飛び上がりながらズバリ、だ
敵の魔力には情熱*で打ち勝つ
もっとオッソロしいもんを見てきたんでねえ
それに頼れる仲間も揃ってるとありゃ
中身のねえ恐怖なんざ何でもねえさ
…せっかく芽吹いた希望を潰させやしねえ
見ろ、何もかも奪われてなお
女達はその足で力強く立ち上がった
お前らの死が彼女らの希望になり
いつかは支配すら打ち破る力になるだろうさ
「ぜきさま。ごぶじで」
「ン。お前さん達に怪我が無くて良かった」
遠くから手を振る女性達を見遣り、安堵の息ひとつ。
今や全員がこの逆説連鎖戰の未來[ゆくすえ]を見ていると認めたゼキ・レヴニ(Debaser・g04279)は、殺氣渦巻く戰塵へ、気配を殺して進み出た。
「……折角芽吹いた希望を潰させやしねえ」
女達を奮い立たせた旗槍は、此度は気高き狩人の記憶を捺擦って鐵爪に。
猫のように竊かに戰塵を擦り抜けたゼキは、魔狼と眞正面から角逐する統が、緋劍に罅を齎した瞬間に差し入った。
「独りになっても挑むかい。王の狗の鑑だねえ」
『狗、だと――ぉッ!!』
側面――!
綺羅と光を暴いた鋭爪が五条。疾ッと血飛沫を散す。
一瞬、流血に視界を遮られた魔狼は、ゼキの飄然を捉えるや愧ッと睨めた。
「隊長だけ生き残って恥を晒すよか、此處で潔く死んどいたら如何だい」
『笑止!! 死を択ぶは貴樣等だ!!』
強く反駁した狼邪は、激痛を踏破いて高々と跳躍! 高高度より闇色の魔力を放つ!
『盗人よ、恐怖せよ!! 亜人から女を奪えば……アレッ!? 居ない……!?』
――居ない。
無数の衝撃波が大地を削るが、その何處にもゼキが居ないと四面を見渡した魔狼は、二度三度と魔爪を振り被るが、ゼキが潜り込んだのは「直下」。
「っし、ドンピシャ!」
目には目を、齒には齒を。爪には爪を。
其は嘗てこの地に敷かれた法だと、不敵な嗤笑を浮かべて大地を蹴った彼は、降り注ぐ魔力を引き裂きながら【茨の狩猟】(ハイデローゼ)――もっふりした尻尾を五指の鐵爪で刈り取ッた!
『ッアァァーッ!!』
「尾は獸の要。これでバランスは崩れる」
無論、直下と雖も魔力は浴びるが、沸々と滾る熱き鼓動が恐怖心を握り潰そう。
空虚な恐怖に怯えるほど繊細に生きていまいし、これだけ頼れる仲間が揃って何を怖れる事があろうと、魔力の重圧のみ受け取った彼は、魔狼共々墜下する。
「――見ろ、何もかも奪われて猶も女達はその足で力強く立ち上がった」
『くっ、尻尾が取れて……体勢が……ッ!!』
「お前らの死が彼女らの希望になり、いずれ支配すら打ち破る力になるだろうさ」
『どわーっ!!』
狼邪がわたわたと宙で藻掻く中、視線を女性達に結ぶゼキ。
噫、そんなに心配しなくて良いと竊笑を零した彼は、間もなく大地から駆け上る“光”に佳瞳を眇めると、次撃は任せたと手を差し出した。
大成功🔵🔵🔵
効果1【修復加速】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV8になった!
アリア・パーハーツ
犬は嫌いじゃないけど
お前は、嫌い
ついでに言えば、ボク様猫派だし
勝利王?
お前のせいで敗北王として有名になるのだぜ
ねえ
聞きたいんだけど、今どんな気分?
拠点に攻め込まれて
大事な王様から預かった場所を踏み荒らされて
奪う立場だと驕った鼻っ柱挫かれて
御自慢の配下は役立たずに成り果てて
挙句「道具」だと思っていた女に反撃されて今こうして地に伏そうとしている
お前等に故郷を奪われ
大事な家族から引き離され
尊厳さえ踏み躙られて道具扱いされた彼女達に謝罪の一つも出ない?
……答えろ、亜人
今更謝ったって遅いけど
あの場所で、彼女たちがどんな目をしていたのか、お前には一生解らない
恐れろ、死を
そして償え
お前の断末魔がこの地を癒す
空より墜下するゼキに代わって駆け上がったのは、アリア・パーハーツ(狂酔・g00278)。
交差する瞬間、差し出る手にタッチして魔狼に摑み掛った佳人は、宙空でぐるんっと巴投げにして巨躯を下敷きに、紫蘭の瞳を刺すように射た。
「――ねえ、聞きたいんだけど。今どんな気分?」
『気分だと!? フハハ、この高さから落ちて死ぬ身では無い!』
狼邪はアリアが上を取った優位を言っていると思ったが、違う。
目下、落下地点には【十二因縁の模範解答】(イダムプラティヤヤター)――十二の機械兵が円状等間隔に竝び、その照準を魔狼の心臓に結ぶべく砲口を持ち上げている。
而して的はココだと魔狼の背中を晒したアリアは、小首を傾げて煽るように問うた。
「勝利王? お前のせいで敗北王として有名になる主をどう思う?」
『何だとう!!』
街への潜入を許し、王より預かった場所を踏み荒らされ。
奪う立場だと驕った鼻っ柱を挫かれ、御自慢の配下は役立たずに成り果て。
時を追うように、数々の失策を刻むように、ひとつひとつを冷然と告げ、返答が無ければ銃彈を沈める。
「挙句、『道具』と思っていた女に反撃されて、今こうして地に伏そうとしている」
『默れ、默れッ!! 産めば死ぬだけの女が質問など……ずゥッ!!』
「訊いているのはボク樣なのだぜ」
犬は嫌いじゃ無いが、コイツは嫌い。だいきらい。
次いでに云えば猫派なのだと眼冷かに見下ろしたアリアは、モフモフでムキムキの巨躯に次々と冱彈が沈む音を拾いつつ、櫻脣を擦り抜ける言葉の全てで糾彈した。
「故郷を奪われ、大事な家族から引き離され、尊厳さえ踏み躙られて道具扱いされた彼女達に謝罪の一つも出ない?」
『あっそろそろ地面……』
「答えろ、亜人」
今更、謝ったって遅い。
無理矢理連れられた収容所で、彼女達がどんな目をしていたか――お前には一生解るまいと瞋恚を嚙み殺した佳人は、迫る大地に押し当てるよう片膝を突き立て、漸と固定した座標めがけて一斉砲射させた!
「せめて恐れろ。死を、痛みを」
『ぁだだ痛痛だだだッ!!』
「そして償え。お前の斷末魔がこの地を癒す」
滿足な解答が得られぬなら、悲鳴を絞らせるのみ。
彼女達を慰めろとばかり銃彈を撃ち込んだアリアは、魔狼が纏う緋の鎧を打ち砕き、かの巨躯を紅に染め上げるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【アイテムポケット】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV8になった!
タオタオ・ザラ
すこぅし慰めてもらうことすら許されねえの!?
……分かった、まだ残ってるから駄目なんだな
よーぅし、ヤろうぜ犬っコロ!タオの為に死んでくれ!
獲物を振るいながらも、軽口は相変わらず
王がどんなヤツかタオは知らんし興味もねえけど
あんな街なんて最初からなかった、それでいいじゃろ?
だって、ほら、お前らがしてきたこととおんなじだ!
それにしても、気配を消すとか面倒くせえ
ケダモノの匂いで分かりそうなもんだが
反応が間に合わないなら手足の1本くらいくれてやる
そうすれば何処にいるか分かるだろ?
でも代わりにその喉笛はもーらった!
言葉通り『喰らい付いて』やろう
あーぁ、血塗れ
かわい子ちゃんが怖がったらどうしてくれるんだ、畜生
斯くしてアリアが十二の質問を突き附ける中、タオタオ・ザラ(大喰らい・g05073)もまた語尾を持ち上げる。
「すこぅし慰めて戴く事すら許されねえの!?」
雨の日の髪の毛みたいに不貞腐れていた彼は、魔狼の絶叫に烱瞳を結ぶや、ぽむと手を打つ。然う、まだ残っているから駄目なのだ。
彼奴を倒せば「タオさますてき」となって「タオさまにあげる」となって「タオさま」(略)となるのだと合點した彼は、蠍の鋏角の一対を暴くや【悪食の晩餐】(ハンティングフォーム)――捕食形態に變じた。
「よーぅし、ヤろうぜ犬っコロ! タオの爲に死んでくれ!」
『っ!? 王の爲でなく!?』
「そいつは知らん」
かの者を知らなければ興味も無い。
今は眼前の獲物を屠るのみと、嚙み附くように鋏刀を振るった緋蠍は、鏘々と打ち合う劍戟の煌きに麗顏を輝かせていく。
「あんな街なんて最初からなかった、それでいいじゃろ?」
『良くない!! 盗人が何を言――』
「いいや違うまい。お前らがしてきた事とおんなじだ!」
『く、おっ!!』
言は輕妙と、蓋し鋭く。
漸う強欲を露わに、緋劍に迫るほど身を伸ばす鋏角に息を呑んだ狼邪は、ならばと気配を殺すが、忽ち景色に馴染む邪影を烱瞳に追ったタオタオは、紫苑の虹彩を眼眦に遣った処で頭を振った。
「迷蔵戯[かくれんぼ]なんて、面倒くせえ」
而して鬼をやる義理も無い。
唯だケダモノの匂いはある筈だと警戒した彼は、狡狼は風下より來ると気流を読んだ正に須臾、死角から襲い掛かる緋劍に刮目した。
「腕の一本くらい呉れて遣る。贐だ」
『ッ!? 意識の外を衝いた筈だが……!!』
脇腹を抉る斬撃が止められたのは、その劍筋に左腕を差し挟まれた故に。
疾ッとたばしる鮮血を代償に位置を把握したタオタオは、血煙を裂くように蠍の一撃を突き入れたッ!
「その代わりに喉笛はもーらった!」
『――!』
右の鋏角が懷を潜って咽喉に喰らい附き、夥多しい量の血を繁噴かせる。
ぐうらと身を傾ける巨狼の影から、女性達が悲鳴を上げるのを見たタオタオは、成程血塗れだと溜息した。
「あーぁ、かわい子ちゃんが怖がって……どうしてくれるんだ」
畜生、と零せば、遠方より佳聲のひとつふたつ。
「タオさま、大丈夫?」
「早くこちらに!」
見れば女性達が己を心配して膝枕を差し出しているのだから、タオタオは「いまいくー♪」と友達のような親しさで艶笑を返すのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【断末魔動画】LV1が発生!
マリーミレイユ・ベルブランシュ
★アドリブ&連携可
ガルガルさんの退治にだけ応援に駆けつけさせて頂いたわ。
なんだか、私の名前的に今回は女性たちに近付いてはいけないような気がしたのよ…。
いえ、裏切ったりするつもりなんて全くないのだけれど。
さて…と。
(きっと向き直り)
女性を蔑ろにする悪いお方は、成敗するのみよ!
ガルガルさんに向かってダッシュ。接近し目の前で跳躍。
「アローダンジュ、展開!」
【飛翔】し、頭上からリングスラッシャーを打ち込む
所詮は威張り散らしてるだけの思い上がりのようね。思い知りなさい!
人として、女性として、貴方の行いは絶対に許せないわ!
防衛ラインに隔てられながらも、凛とした星眸[まなざし]で逆説連鎖戰を見守る女性達。
彼女達の姿を眩しそうに見たマリーミレイユ・ベルブランシュ(聖女来たりし海の守護天使・g00104)は、距離はその儘、どうか無事に『カナンの地』に辿り着いて欲しいと願った。
「……私はガルガルさんの退治にだけ。何だか今回は、彼女達に近附いてはいけないようが気がするのよ」
周囲に「ミレイユ」と呼ばれる己の名前がそうさせるのか分からない。
勿論、彼女達を売るような裏切りをする意[つもり]は無いと凛然を萌した天使は、狼邪に向き直るや吃ッと、瑠璃の彩瞳に光を湛えた。
「女性を蔑ろにする悪いお方は、成敗するのみよ!」
『ッッ……次から、次へと……!!』
咽喉を刺し貫かれた魔狼が、ヒュウヒュウと風を通す斬口を抑えながら、忌々しげに身構える。
手負いの獸ほど牙は鋭いと、覺悟して爪先を彈いた佳人は、先ずは大地を水平方向に駆けると、攻撃を警戒した魔狼が垂直方向に跳躍するのを追って、須臾に翼を広げた。
「空を征けるのは貴方だけではないわ!」
『ッ、突き放せぬなら、宙空[ここ]で仕留めるのみよ!!』
足元から攻め掛かる佳人を睥睨し、両の魔爪で空気を搔き毟る狼邪。
間もなく放たれた魔力が、純白の双翼を底知れぬ恐怖に抱き包むが、彼女は宙空で力強く羽搏いて再加速――!
空気の層を更に叩いて推進し、眼路を覆う闇色を打ち破って魔狼の頭上を上回ッた!
「あの人達は、得体の知れぬ恐怖を幾度と堪えたわ。私も倣ってみせる」
『――上か!!』
暴虐を振り下ろすばかりの魔狼が遅れて空を仰げば、その烱眼を眩ませる灼光が眼路いっぱいに広がった。
「アローダンジュ、展開!」
『ッ、ッッ――!!』
赫燿に眇められた視界に飛び込むは、【リングスラッシャー】――玲瓏と旋回する無数の光輪。
美しき光の刃がモフモフを切り刻み、肉を裂いて血潮を躍らせれば、宙空一帯が血飛沫に烟る。
而して血斑に染まる巨躯を眼下に組み敷いたマリーミレイユは、太陽を背にしてもう一撃!
「所詮は威張り散していただけの思い上がりのようね。蹂み躙られた者の痛みを知りなさい!」
『――ぉぉををッッ!!』
人として、女性として。貴方達の行いを絶対に許さない。
藍瞳に烱々と冷嚴を湛えた佳人は、幾重の斬撃に魔狼を突き放した。
大成功🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV2になった!
効果2【ガードアップ】がLV3になった!
ディミトラ・ディミオス
勝利王の手下が保身にばかり熱心だなんて
それこそ名誉を穢す有り様じゃないですか
杜撰な判断で存在を消される戦士達は不憫ですね
野の獣の方がよほど賢く情がある
命懸けで子を成してくれる妻に、母に、
感謝も愛も抱けない人でなしだから亜人と呼ぶんでしょう
あなた達こそが生まれ損ない
いてはいけない存在なんです
ですから、あなたも消してしまいましょう
何もなかったことにしたいならそれが最善
あたし達は光を灯すんです
女達の心に、希望の光を
悪意を断ち切る爪牙と化す光に裂かれて
あなたは影に堕ちればいい
あたしは猟女、あなたは獲物
ほら、命を以て忠義を示す時ですよ
ディミトラ・ディミオス(アマルトリ・g08941)はもう仮面を冠らない。
美し白皙を晒した佳人は、冱ゆる月色の瞳に劣勢の魔狼を映すと、涼々と無樣を哂った。
「勝利王の手下が保身にばかり熱心だなんて、とんだ顏汚しですね」
『保身……ッ、私が王の名誉を穢すと言うのか!!』
「主は勿論、杜撰な判斷で消された戰士達も不憫です」
『なっにを……!!』
人語を操る程度で知略は巡らせられぬ。
小さく溜息した彼女は嫋々と玉臂を動かすと、纎指より零れる光に輪郭を齎した。
「野の獸の方がよほど賢く情がある」
佳聲に喚び召されたのは赫耀の獸。
玲瓏と耀く獸を傍らに、かの者こそ獲物であると指差した佳人は、逞しき四つ脚が駆け出すのを冷艶と送り出した。
『――!!』
「あなた達こそ生まれ損ない、いてはいけない存在と知るべきです」
命懸けで子を成してくれる妻に、母に、感謝も愛も抱けぬ“人非人[ひとでなし]”。
だから亜人と呼ぶのだと、楔の如き言葉を突き付けたディミトラは、揉み消すのは事案の方では無いと確言した。
「あなたごと消して仕舞いましょう。何もなかった事にしたいなら、それが最善です」
『違う、違……ぉぉをを嗚嗚ッ!!』
狼邪が反撃に緋劍一揮、魔力を帯びた斬撃波を放つが、光に紡がれた獸の迅速は捕まるまい。
轟然と駆け走る衝撃をジグザグと避けて敵懷に迫った獸は、跳彈の如く軌道を變えて側面を強襲――ッ!
緋劍を振り下ろした瞬間の肩口へ上下の牙を嚙み附かせると、強靭な顎で骨肉を砕いた!
『ぜぁぁああ嗚呼嗚呼!!』
既に喉笛を裂かれた魔狼が絶叫すれば、どぶり、血河が噴いて巨躯を赫く染める。
これで死なぬ方が残酷か、緋劍を握れる右腕をぶうらと垂れ下げた狼邪は、ヒトならざる亜人を冷徹と見るディミトラに、ヒヤリとした恐怖を感じたのは間違い無い。
幾度と嘘を紡いだ紅脣は、今や一縷と繕わず意志を口にして、
「あたし達は光を灯すんです。女達の心に、希望の光を」
『希望!? そんなモノが――』
「あなたが影に堕ちれば、光は生まれます」
畢竟、其が光影の稟性。
貞淑なる猟女【Artemis】(アルテミス)の名を冠ったディミトラは、獲物と認めた魔狼へ獸を嗾けると、今こそ命を以て忠義を示す時と、獰猛なる爪牙を沈ませた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【猫変身】がLV2になった!
効果2【ダブル】がLV3になった!
エイレーネ・エピケフィシア
勝利[ニーケー]が随うのは、常にアテーナー様の御許です
かの偉大な御方、輝ける瞳の君は、人々が住まう都市の守護者であらせられます
然るに──亜人の将が勝利王[二カトール]と名乗るなど、赦されないことです
≪神護の輝盾≫を構え、敵に向けて突撃していきます
放射される魔力を盾で防御
それでも心身に響く苦痛には精神集中し、勇気を、そしてアテーナー様への信仰を奮い起こして抗いましょう
くっ……痛みで足が止まるとすれば、そもそもわたしはここには居ません!
宣言通り止まることなく進み、『駆け抜ける激情の槍』を発動
ダッシュから槍を敵の頭部に突き刺し、脳を穿つ貫通撃を狙います
これが、セレウコスの思い上がりを挫く第一歩です!
『……貴樣等の腕は認めよう……っ。だが私が尾や腕を失くしたとて、勝利王の下に敗北があってはならんのだ……!!』
犬だ狗だと煽られたが、慥かに狼邪は忠犬の如く。
王の名に一縷の翳りもあってはならぬと、魔力で熱した緋劍を創痍に押しあてて止血する魔狼を見るに、かの者の存在感、影響力の大きさが推し量れるが――否、認める訳には往かぬ。
「……勝利王、と云いましたか」
魔狼が零した音をそのまま捺擦ったエイレーネ・エピケフィシア(都市国家の守護者・g08936)が、毅然と口を開く。
「勝利[ニーケー]が随うのは、常にアテーナー樣の御許です」
かの偉大な御方、輝ける瞳の君は、人々が住まう都市の守護者であらせらると、女神に仕える神官として堂々と言い伝えたエイレーネは、我が信仰と忠節を以てセレウコスの名を否定した。
「然るに、亜人の将が勝利王[二カトール]と名乗るなど、赦されないことです」
『赦すも何も、勝利は既に王の下にあるッ!!』
犬と呼ばわれるより嗔った魔狼は、緋劍一閃! 魔力を滾らせた衝撃波を嚙みつかせるが、『神護の輝盾』を構えた少女は斬撃の波濤を禦ぐと共に強く踏み込む。而して踏み出す!
『っ!? その花車、恐怖に押し込まれぬと……!!』
「くっ……痛みで足が止まるとすれば、抑もわたしは此處には居ません!」
亜人に較べれば遙かに小さな彼女が前進できるのは、搖るがぬ信仰と意志によって。
円盾の縁より流れ込む魔力が柔肌を削り、進む足を挫きもするが、エイレーネは櫻脣をきゅうと結んで凛乎と、勇気を奮い立たせて前へ、前へ――遂に突撃した!
「わたしの全身全霊を以て抗います!」
『……な、におぅ……っ!!』
大地を蹴るほど加速する神官が掲げるは【駆け抜ける激情の槍】(グリゴロー・カイ・イクサロー)ッ!
魔力の渦動を突き抜けるタイミングで跳躍したエイレーネは、身ごと槍の如くして渾身の突きを放つと、魔狼が緋劍に彈くより迅く超衝撃を腦天へ――兜を砕かれた額にブッッッスリと穴を開けた!!
「これが、セレウコスの思い上がりを挫く第一歩です!」
『だぁぁああ嗚呼嗚呼ッッ!!』
絶叫と共に血飛沫が広がり、宙を舞う少女の頬に斑を散す。
セレウコスに代わって罰を受けた魔狼は、以後、ピューッと噴水のように血を噴き続けるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【水中適応】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV4になった!
クーガ・ゾハル
おまえが、オヤダマか
ムキムキのスキマでアワアワしてた
さんりゅーヤクシャとか、マケイヌってやつだな
おう、こい
ケハイがうすれたら
<呼吸法>で、シューチュー
【トラップ生成】<罠使い>でカンタンなワナめぐらせる
気づいたこと、気づかれないよう
おれだけに伝わる、よわいデンキ
とどくキョリまで近づいたら
イッキにバチバチ、くらわせる
<貫通撃>そのまま大地にぬいとめて
仲間のため、スキをつくる
おまえが、うばったもの
あのヒトたちに、かえすこともできないくせに
ゴメンナサイもいえないくせに
エラそうにするな
ほんとうの自由だって、おれにはむずかしいけど
ひとつ、わかる
それでもヒトは
おまえなんかに、ほんとうにシハイされたりしない
この額から鮮血を噴き続ける愉快な生き物と對峙したのは、クーガ・ゾハル(墓守・g05079)。
彼奴が親玉かと烱瞳に射た彼は、成程、所々に覗くハゲもその失態を示していると納得した。
「おまえ。ムキムキのスキマでアワアワしてた、さんりゅーヤクシャってやつだな。ハゲもフンスイも、にあってる」
『私は道化では無いッ!!』
「じゃあ、マケイヌ」
『まだ負けておらんっ!!』
噴く血も勢いを増すほど瞋恚は荒々しいが、その實、魔狼は怖れてもいる。
この者達を逃せば危ういと冷汗した狼邪は、須臾に爪先を彈いた。
『差し違えても殺す!!』
「おう、こい」
『ぬーッ!!』
怒れる儘に吶喊しなかったのは、或いは其の戒心から。
魔狼は躯の輪郭を景色に馴染ませて忍び寄るが、彼奴よりずっと冷静でずっと嗔っていたクーガは、呼吸を整え全集中――右眸の機関に生んだ電光を半円状に放射し、周囲に弱電界域を形成した。
(「見えないけど、感じる。びりびりする」)
魔狼が隻眼の方へ回り込むとは予測済み。
景色に溶けた劍鋩が間合いに踏み込む瞬間を、文字通り「びりびり」と察知したクーガは、靜電気を帯びたように樺茶の毛を逆立てると、【龍葬】(ダ・ハーカ)――電雷を一気に励起させて感電させた!
「くらえ、バチバチ」
『!! んばばばばッ!!』
刹那、彼の足元から紫雷の竜が駆け上り、緋劍を伝って魔狼の体内を灼く。
水分を有する生物には遁れられぬ雷撃を喰らった魔狼は、目玉が裏返る程の激痛に足を止めるが、クーガはそれ以上近付かせず、退く事も許さず、その場に縫い留めて言った。
「おまえが、うばったもの。あのヒトたちに、かえすこともできないくせに」
『んばばばんば!!』
「ゴメンナサイもいえないくせに。エラそうにするな」
『んばんンンン!!』
言葉こそ拙いが、心火を祕めた雷撃は凄絶。
魔狼がコゲつくのを怜悧に見据えたクーガは、続々と冱撃を連鎖させる仲間に時を差し出しつつ、同じ光景を固唾を飲んで見守る女性達を瞥た。
「ほんとうの自由だって、おれにはむずかしいけど。――ひとつ、わかる」
亜人の街に潜入した一匹の猫は、その瞳に樣々な景色を映した。
彼女達にも教わったと、虹彩をぴかぴかと輝かせたクーガは呼吸ひとつ、
「それでもヒトは。おまえなんかに、ほんとうにシハイされたりしない」
臨界まで励起させた雷電を迸り、魔狼の心臓を鷲摑みにした。
大成功🔵🔵🔵
効果1【避難勧告】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV9になった!
一角・實生
盗むも何も、そもそも彼女達はお前のモノではないだろう
それに彼女達には向かわねばならない場所があるんだ
だから、お前の選択は失敗で終わるよ
自慢のモフモフを刈られて辛いな
その気持ちは分からないでもない
しかし俺はフワモフのまま
ふわりと翼をはためかせ煽ろう
そこそこ自慢だったぽいし、一瞬でも奴の頭に血を昇らせられるかな
パラドクスを発動し背後から呪詛の鉤爪
前からはグラナトゥムの銃床打撃で挟撃するよ
呪詛を送り込んだら即座に奴の身体を蹴り、続き空をエアライドで蹴って退避
魔力の直撃から逃れよう
女性達の歩みを止めさせはしない
お前の自棄じみた決意とは違って、彼女達の決意は未来へ繋がっている
ここで全て断ち切らせて貰う
『んばばばばッッ!!』
モフモフの体毛を刈られ、ハゲた部分を焦げさせる――その苦痛は幾許。
若しか一角・實生(深い潭・g00995)には心中お察しする部分があったか、颯と白翼を広げて空を翔けた彼は、依然として白く美しいフワモフを見せて魔狼の劣勢を突きつけた。
『!! 神々しいまでの白……まるで生まれたての仔ポメラニアンのような……!!』
「毛並みマウントも手のひとつと、長老が言っていた」
『くッ……毛質も艶も良い!!』
こうかはばつぐんだとは、額より噴き出る血の勢いを見れば瞭然。
烱瞳を鋭く魔狼の逆上を認めた實生は、執拗に放たれる斬撃波をジグザグ機動で避けつつ、羽撃音と共に空に広げた呪詛を集めて鉤爪状に、背後を強襲させた。
「眼の位置や劍を振り下ろす動作からして、背襲に弱いと思うんだ」
『莫迦な、私に隙など……どわーっ!!』
「やっぱり」
幾条の裂傷を疾らせたのは、【プロヴェルファブラ】――鎧を砕かれガラ空きになった背中を呪詛の鈎爪で抉った實生は、更に敵を挟んだ直線上から挟撃ッ! グラナトゥムの銃床を振り下ろし、頭部の残り尠い体毛を削り取る!
『こン、の……盗人猛々しい……ンがッ!!』
打撃に屈んだ瞬間、釘打たれるように再び身を沈められたのは、長い脚が後頭部を足場に蹴り上がったから。
反駁と共に閃く反撃を輕やかな跳躍で遁れた實生は、己達を「盗人」と罵る狼邪を冷かに見下ろした。
「盗むも何も、抑も彼女達はお前のモノではないだろう」
「しろふわさま、もっと言ってやって!!」
「あんな奴、ブン毆ればよか!!」
「うん。――ああやって立ち向かう決意をした彼女達には、行くべき場所があるんだ」
復讐者の戰いに雄渾を得た女性達が応援する中、すっかり逞しくなった彼女達に勇気を貰った實生は、魔狼の選択を失敗に畢らせるべく、銃身を回して構える。
「お前の自棄じみた決意とは違って、彼女達の決意は未來へ繋がっている」
『……亜人に刃向かう連中に、未來など……ッ!!』
「ある。新たな希望に向かう足を、歩みを、止めさせはしない」
復讐者は行動を連鎖させる事が出來るが、斷ち切る事も出來るとは、次の一撃が示そう。
靜默の纎指[ゆび]に撃ち彈かれた鐵鉛は、螺旋を描く硝煙を抱いて魔狼へ――呪詛に動きを鈍らせた片脚を貫通し、女性達に未來の開ける音を聽かせるのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【悲劇感知】LV1が発生!
効果2【命中アップ】がLV3になった!
奉利・聖
大言壮語──できもしないことを言うもんじゃあないな
死ぬのはお前の方だ なぜならば、醜悪なるゴミでしかないから
どうやら見た目に違わず頭は弱いらしい
何も理解できぬまま、死にゆくがいい
───『遍く死を紡ぐ者』
分かるか、これが 『死』とはこういう色をしている
お前を恨み、憎み──死を願う者達の【託されし願い】が
今こうしてここに、運命を引き寄せている
ただ、その命に その全身に 『死』を叩き込む
一度では死なない強靭な命であろうとも、徐々に徐々に死ぬだろう
知覚が死に、技術が死に、思考が死んで…最後に命脈が絶たれる
その横暴が故に報いを受けるんだ
これは降って湧いた不幸ではない 因果が引き寄せた滅びなんだ
『ぜァァ嗚呼ッッ!! 生意気な女達め……今に街に戻して遣るッ!!』
己が絶叫に喝采する女性達を、流血した眼で睨める魔狼。
ハゲ散かした上に焦げ目のついた亜人など恐れるまいが、汚物は見せぬと射線を割った奉利・聖(クリーナー/スイーパー・g00243)は、デッキブラシを突きつけて言った。
「大言壮語──できもしない事を言うもんじゃあないな」
己が窮地を読めぬなど、見た目に違わず梼昧。
其の迂愚が敗北を招いたとは、死んでも理解すまいと隔絶を置いた聖は、醜悪なるゴミが辿るべき道を今こそ示した。
「分かるか、これが。――『死』とはこういう色をしている」
『色だと……!?』
「お前を恨み、憎み、『死』を願う者達の想いが、今こうしてここに、運命を引き寄せている」
『な、に――!!』
白痴に教えるに、順序よく丁寧に叩き込む。是が啓蒙。
デッキブラシを振り被って打撃を、否、石突を軸に躯を旋回させた聖は、回転力を増した蹴撃を鞭の如く脇に沈め、魔狼の巨躯をぐうらと傾けさせた。
『ぐっ……ぉぉをを嗚嗚!!』
「全てはお前達がしてきたこと。その橫暴が故に報いを受けるんだ」
而して清掃員はゴミを逃さぬ。
かの巨体が大地に斃れるまで幾秒、間隙無く痛打を閃いた彼は、【四死縲壘/遍く死を紡ぐ者】(デスサルベーション)――仲間が刻んだ創痍を捺擦るように衝撃を置き、傷口を抉って血泥[ちみどろ]にしていく。
「これは降って湧いた不幸じゃない。因果が引き寄せた滅びなんだ」
腦天を衝かれても、喉笛を裂かれても、心臓を灼かれても。
一度では死なぬ惨めな命も、徐々に徐々に死んでいく――。
「知覺が死に、技術が死に、思考が死んで……最後に命脈が絶たれる。僕は手順通りに“執行”するだけだ」
肩口にも激痛を置かれたろうと踵を落せば、ぶうらり垂れた腕はもう劍を握れまい。
魔狼が放射する筈の魔力が鮮血と交じり合い、恐怖を齎す筈だった激痛が絶叫を裂き、消える――これこそが『死』であると肉塊を組み敷いた聖は、眞ッ赫に染まった兩頬を手の甲に拭いつつ、女性達に振り返った。
「……亜人が死ぬ処なんて、初めて見たっちゃ」
「ねぇ、カナンの地に行けば……あーしらは世界が覆るのを見られるんかな……」
家族を殺め、集落を潰した亜人が、死んだ。
己を更なる地獄に堕とそうとした者が、滅んだ。
運命が變わろうとしているのを実感する女性達に、聖ら復讐者は力強く頷いて手を差し伸べるが、彼女達は赫々しく濡れた手を恐れず――共に汚れんと慥乎[しっか]と握り、進むべき道へ踏み出すのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV10(最大)になった!