リプレイ
レイラ・イグラーナ
えすえふ……?
よくわかりませんが、剥製に成り済ませるもの、と理解しました。
あの場で少女たちの剥製は主役でした。
周囲に調和するのではなく、周囲の調度品をも少女たちを飾り付ける装飾とするような……
エルミタージュ美術館の雰囲気を壊さない、かつ目を引く華やかなイメージでお願いをします。
舞踏会のドレスコードに沿うような華やかなロングのイブニングドレス、自身を引き立たせるような装飾品、片手を差し出しダンスの誘いを受けるようなポーズで参りましょう。
特に静止されなければメイクは裸で受けます。
これはあの光景を続けさせないために必要なこと。
検品時に露見するリスクを減らすための行動を躊躇する理由はございません。
「えすえふ……?」
「そう。えす・えふ・えっくす。スペシャル・エフェクツの略称で、要するに特撮技術の事ですが、この場では特殊メイクだと思っていて下さい」
レイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)の呟きに、その技師は丁寧な説明を口にする。
ここは新宿島新宿駅内の執務室。おそらく刻逆以前は職員らによって何らかの業務に使われていたのだろう。微妙に手狭で、それ故に今回の作業に適した場所であった。
曰く。
「まあ、全身に特殊メイクを施すわけなので、その、ね」
「私は気にしませんが」
少しだけ言い淀む女性技師に、しかし、レイラはさらりと返す。検品時、露見するリスクを鑑みれば、一糸纏わぬ姿を晒すことを厭うつもりもない。その覚悟に、女性技師を始めとしたメンバーは、おおっと賞賛の声を上げる。
「流石はディアボロス……」
「ああ。もっと応援したくなっちゃう……」
「推しは推せる内に推さないと……」
漏れ聞こえる声を、レイラは「ともあれ」と打ち切る。賞賛は嬉しくもあったが、こうも並べられると気恥ずかしさのみが立ってしまう。
「要するに剥製になりすます物、と言う訳ですね」
その理解があれば充分だ。剥製とは即ち、対象の皮を剥ぎ、防腐処置を施して形を整えた物。故に剥製になりすますとは、その質感を再現する、と言う事だ。
無論、生きているレイラをどう言い繕っても剥製とする事は出来ない。だが、この2023年。最新の技術は、その無茶を可能とする。
それが、技師達の施すSFXメイク――所謂、特殊メイクであった。
「あの場、エルミタージュ美術館では少女達の剥製が主役でした。周囲に調和するのではなく、周囲の調度品すら彼女達の彩飾になるような……」
レイラの希望に、技師は「まかせて」と強く頷く。
此処に居るのはSFXメイク技師の彼女のみではない。スタイリストもいれば、美容師もいる。レイラの望みを叶える魔法は全て揃っている。
斯くして、一つの剥製――正確には剥製に擬態した少女が、完成する。
イブニングドレスを纏い、ダンスを誘い受ける少女は「今にも動き出しそう」と称される程に躍動感があり、そして何より、美しかった。
「さあ。まだまだ終わらないわよ。次、いきましょう」
「おう」
何処からどう見ても剥製なレイラを前に、チーム剥製化の面々は誇りに満ちた笑みを浮かべるのであった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【モブオーラ】LV1が発生!
効果2【フィニッシュ】LV1が発生!
吉音・宮美
アドリブ連携歓迎
死体を飾る美術館でしたか
無視できません、行かせてもらいます
以前の事件を【情報収集】しカーミラの好みの衣装傾向を調べたら【アート】で服を自作、一点ものであれば目を引けるでしょう
そうしたら【氷雪使い】の力で身体の氷面を薄く凍結してこの上からSFXメイクを施してもらう事で体温や汗に左右されなくします
剥製として違和感が持たれないように服はメイクの上から着させてもらいましょう……中の私が裸?別にいいですよ
それと台座には【吉音式レコード・シールド】を嵌め込んで、音楽と共に楽しむ作品だと説明してもらうようにお願いしましょう
潜入した後もしもの時はこのレコードの音楽でパラドクスを使う仕込みです
「以前の報告書を読み解き、時先案内人や当事者の皆さんの元、何度も足を運びました。何度も、何度も」
やれる限りの情報収集を行った、と吉音・宮美(限界ギリギリ狐娘・g06261)は豪語する。その上で出た結論は、ただ一つ。
「カーミラ本人の趣味嗜好って、少女だって事しか判らなかったんですよね」
小著達を寵愛し、死した後にその屍体を剥製化する異常者。それが復讐者達の知りうるジェネラル級ヴァンパイアノーブル、死妖姫カーミラの人物像だ。同じジェネラル級ヴァンパイアノーブル『狩猟公爵ボーフォート』の言動から、剥製を収集するコレクターの可能性もあるが、どちらが是なのか、それとも双方とも正しいのか、今は判る材料がなかった。
(「クロノヴェーダのやることだから、もしかしたら殺して剥製化しているかもしれないし、死の直前に【エイティーン】の残留効果のような力を施しているのかもしれないし……」)
判らなかった以上、やれることをする。
武器の持ち込みを考慮すれば、宮美のリクエストは一つだけであった。
「ともあれ、こう、オルゴールの上で踊る少女、みたいなイメージで、宜しくお願いします」
「任されたわ!」
チーム剥製化と命名された新宿島所属の技師や美容師と言った面々は、斯くして宮美に丁寧なSFXメイクを、化粧を、ヘアメイクを施していく。用意されたドレスもまた、相応に煌びやかなイブニングドレスで、それを纏った宮美は、確かにオルゴール人形と言っても遜色ない外見にされていた。
(「後は、この台座を持ち込むように、きちんと交渉して貰わないと、ですね」)
台座――吉音式レコード・シールドをはめ込んだ音楽装置を含めた自身こそが、一つの作品なのだと、運び屋には売り込んで貰う必要がある。
ならば、交渉役にそれとなく伝える事が大事だろうか。
(「にしても……我慢できるけど、ちょっと体勢、辛いかも」)
現時点で自身を凍結させるパラドクスも残留効果も持ち込んでおらず、それを用いた姿勢維持の目論見は失敗に終わったけれども。
斯くして、吉音・宮美の剥製もまた、出荷されていく。
少女の思考が、そして感嘆がどの様な結果を齎すのか。それを知るのは未だ先の話であった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【狐変身】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】LV1が発生!
天城・美結
連携アドリブ歓迎
潜入捜査、ね。
大変だけど面白そう!
検品されると言い訳できない現代の物品は勿論新宿島に置いていく
過去の事件の情報を【情報収集】して事前にカーミラの趣味趣向を調査
ターゲットは好色そうな奴に絞ってみる
そういうのは多少でも口が軽そうなイメージあるし
その上で、中学生の私があんまり大人っぽいのもちぐはぐ感がありそうだし、可愛らしいものを見繕ってもらおうかな
アクセサリーはじゃらじゃらしてないものを見繕ってもらうことで、仮に僅かに動いても極力音が立たないようにするよ
ポーズは長時間維持ができつつ魅力が引き立ちそうなものを考える
タトゥー等のワンポイントはプロの感性にお任せするよ
「潜入捜査ね。大変だけど面白そう!」
それが、本作戦の説明を受けた天城・美結(ワン・ガール・アーミー・g00169)による率直な感想だった。
ならば、と数多くの志願者の中に潜り込み、剥製化の化粧を施して貰う。――その前に、彼女が行ったことは、SFXメイク技師や美容師の選定であった。
「まあ、ディアボロスさんの言う事なので従いますが。その、ねぇ」
「いや! 聞いた話によると、ディアボロスの皆さんの剥製は飾られ、好色貴族の目に晒されると言います。つまり、スケベはスケベを知る! 我々の手で是非とも美結嬢をえっちな剥製に仕立ててあげましょう!」
「本人が望むなら……いやしかし、むむむ」
以上、美結に集められた技師達による意気込みであった。
その中にはふんふんと息の荒い青年もいれば、出来れば内心を隠しておきたかったのか、言い淀む中年男性の姿もある。様相は千差万別であった。
「大丈夫です。皆さんの事、信頼していますから」
だが、その何れもが美結の眩しい笑顔に当てられ、任せろと力強い言葉を返してくれる。内心はどうあれ、此処に居るメンバーは全て紳士。彼女に不届きなことをする者など、いるはずも無い。
それに、と美結には目論見があった。彼らならばきっと、目を引くほどに自分を飾り立て、その上で彼女の抱える命題を解決してくれるのではないか、と。
即ちそれは――。
「つまり、美結さんは『長時間維持ができつつ魅力が引き立ちそうなポーズ』をお願いしたい、と言う事ですね」
「ならば立ち姿よりも台座や椅子に座ったりする方が良いでしょうね。仰向けやうつ伏せに寝るのも手です」
寝返りや姿勢の変更が出来なければ褥瘡の危険性もあり、クッション等で備える必要がある。だが、この2023年の技術力は、その辺りの誤魔化しまた、可能とするのだ。
「いっそ、ベッドサイド、シーツ姿で誘惑する小悪魔、みたいな感じも良いかも、ですね! いえ、これは拙の趣味とかではなく!」
「まあ、そう言う方向で如何でしょうか?」
「お、お任せします……」
そこはプロの感性に任せよう。
美結の引き攣った笑顔を物ともせず、彼女の為に集まった技師や美容師達はその外見を整えていくのだった。
斯くして彼女がどの様な姿になったのか。或いはされてしまったのか。
彼女の苦労を偲べば、エルミタージュ美術館の良き場所に配置されて欲しい。メンバー一同にそう願われながら、美結もまた、出荷されていくのであった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【平穏結界】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
フェリシア・ヌールリース
ふふ、私ほどの美女ならば芸術品のごとき剥製になってしまうわね?
噂のカーミラとやらは身に纏うものに私と似た嗜好をお持ちの様子。
少しだけ親近感を感じてしまうかしら。
上品かつゴシックな雰囲気で、わかりやすい武器は持たぬように。
仕込みヒールくらいなら大丈夫かしら?
装いは黒のゴシックなドレス
装飾品には血のように赤い薔薇を取り入れて
やや幼く見えるような、ゴスロリメイクもしていただきましょう。
そうして、私をゴシックテイストの美しい剥製にしてくださいな。
ええ、服の下も存分にその技量を発揮して頂戴。
ポーズは、そうね。ご教授いただきドレスも私も美しく見えるようにするわ。
どうかしら、私、美しい剥製に見えていて?
「ふふ、私ほどの美女ならば芸術品のごとき剥製になってしまうわね?」
これは、フェリシア・ヌールリース(吸血鬼のダークハンター・g08953)の零した言葉であった。
そんな彼女に対し、チーム剥製化の面々の返答はと言うと。
「ええ!」
「必ずや」
「フェリシア様ならば絶対!!」
中々の太鼓持ちっぷりであった。
否。フェリシアが美女なのは客観的にも明らかであり、彼女がたとえ毒の棘を持つ薔薇であっても、薔薇は薔薇。見目麗しいのは当然であった。まして、人類史を奪還しようと戦う復讐者達に心酔する技師達だ。胡散臭く聞こえるかもしれないが、しかし、それらはおそらく、心からの賞賛なのであろう。
(「噂のカーミラとやらは、身に纏うものに私と似た嗜好をお持ちの様子。少しだけ親近感を抱いてしまうわね」)
たとえ彼女が剥製を寵愛する異常者だとしても、兼ね備える審査眼・鑑定眼のみに共感するのは悪い話ではない。カーミラ本人の在り方や存在を否定しようとも、頭の先から爪先まで、彼女の全てを否定することなど、出来る筈もないのだから。
「と言う訳で、こんな感じのゴシックテイストの美しい剥製にして下さいな」
斯くして、フェリシアが指定したのは、所謂ゴスロリの剥製人形であった。やや幼く見えるようなメイクに、血のような薔薇を取り入れた装飾品や黒のドレス。下着にまで拘った逸品は、流石、サブカルチャーの国、日本の技師や美容師達である。数刻の後、そこに在ったのはフェリシアが求めた、否、それ以上の剥製人形であった。
「どうかしら? 私、美しい剥製人形に見えて?」
「当然です! フェリシア様!」
「ああ、でも動かないで下さいね。メイクが崩れてしまいます!」
聞けば、色々皮膚の上に盛ったりもしているらしい。
メンバーの言葉に満足げに頷き掛けたフェリシアは、その動作もどうかと瞼を閉じる動作のみで、彼ら彼女らの仕事を賞賛する。
ほぅっと零れた吐息は、その所作の美しさにすら当てられたが故に紡がれた物か。
(「これで準備は整ったわ」)
そんな意気揚々とした言葉を内心で紡ぎながら、フェリシアもまた、出荷されていくのであった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【完全視界】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!
音羽・華楠
人間の剥製……噂には聞いてましたが、本当に悪趣味な……。
でも、ロマノフのジェネラル級へ迫れる貴重な機会です。
私もお手伝いを。
ポーフォート公爵との決戦時の話によると、傷の少ない剥製ほど好まれてる様子です。
なら、衣装はそれを示す為に露出度高めが良さそうですね。
話に聞くエルミタージュ美術館の雰囲気に合わせ、ゴシックな下着とそれを透かす同系統のネグリジェで。
衣装に合わせて眠ってる姿勢に。
あと、可能な限り胸やお尻を小さく見せるSFXメイクをお願いしたく。
ポーフォート公爵は年若い少女の復讐者へ「カーミラへの良い贈り物になる」と言ってたそうですし。
未成熟な少女を装った方がカーミラの趣向に合いそうかと。
「人間の剥製。噂に聞いていましたが、本当に悪趣味な……」
ジェネラル級ヴァンパイアノーブル『死妖姫カーミラ』の話を聞いたとき、音羽・華楠(赫雷の荼枳尼天女・g02883)が浮かべたそれは、多大なる嫌悪感であった。
まったく、吸血貴族は、否、クロノヴェーダはなんて趣味が悪い。
だが、剥製化し、懐に潜ると言う此度の作戦は、吸血ロマノフ王朝そのものに迫れる勝機となるかも知れない。
ならば、その機会を逃したくない。それもまた、彼女の本音であった。
「狩猟公爵ボーフォートとの決戦時の話によると、傷の少ない剥製ほど好まれている様子ですね」
まあ、贈呈物としての体裁もあるだろうから、何処まで信用して良いか判らない。もしかしたらカーミラ自身は愛した少女であれば、その傷すらを愛さずして何の為の寵愛か、等と口にする淑女な性格かもしれない。いや、やはり異常者な台詞だな、とも思い返してしまう。
「あと、可能な限り胸やお尻を小さく出来るメイクをお願いします」
「……いや、それはメイクの領域ではないような」
カーミラの趣味趣向が未成熟な少女であれば、それに準じた方が良い。ならば、年齢の割に発育の良い箇所は阻害にならないだろうか? 華楠の指摘に、チーム剥製化の面々はむむむと唸る。
だが。
「しかし、ディアボロスさんに頼られて断ると言うのは我々の沽券にも関わります。任せて下さい。これをこうしてですね――」
そして華楠のスタイルとメイクアップアーティスト達との戦いが始まった。
少女の大人びた体型に果敢に挑む彼ら彼女らは――物の数分でその戦いに勝利していたのだった。
「お、おおっ。胸が、無くなりましたっ! なのに苦しくないです?!」
恐るべし、2023年の技術力。補正下着は如何なる山をも制する事が出来る――とは言い過ぎだが、端から見れば、華楠が男装しても似合いそうな程の体型に修正されていた。これならば、未成熟な少女を装う事も可能だろう。
「お尻もガードルで押さえます。……これで、華楠さんのリクエストには応えられそうですね」
まだ第一段階に過ぎないその行為に、しかし、面々の表情は達成感に満ちていた。
斯くして、また一体、新たな剥製が出荷されていく。
補正下着を脱がされたらどうなるのかと言う疑問もあったが、そこは運び役の口八丁手八丁に望みを賭ける他、無いだろう。
仲間が行う交渉に期待、と言う奴であった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【狐変身】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV3になった!
イオナ・ガルバローゼ
記録では剥製に目立った傷は無いようでしたので
傷まで装う必要は無いようですね
女装し、そして剥製を装いましょう
血が生きてるのが分からぬよう肌を蒼ざめた色に近づけ
冷たい印象を与えるよう肌を塗ってもらいます
かといって見すぼらしくは見えぬよう
その上に重ねてメイクしてもらいましょう
剥製を作った際の縫合跡も目立たない所に付けてもらいます
なんだか縫いぐるみになった気分ですね
衣装はメイド服で体格の骨格など隠すよう衣装に工夫して
首輪に手枷も付け吸血鬼に飼われていた事をイメージできるよう
恭しいカーテシーのポーズで固まり薔薇の香水も付けておきましょう
メイドは傍でお仕えするものです
どうか近くに置いてもらえますように
「メイドは主の傍でお仕えする物。ならば、メイドの剥製はカーミラの傍に置かれるやも知れませんね」
恭しいカーテシーのポーズで剥製の様相を施される彼の名は、イオナ・ガルバローゼ(空染めの一輪・g07485)と言った。
そう。彼である。一見、幼い少女のように見えるが、性別を分類すれば歴とした男性であり、即ち、今、剥製として飾り付けられている彼は、所謂異性装――即ち、女装像であった。
(「メイド服で骨格を隠していますが、見る物が見れば、性別は判ってしまうんでしょうね」)
むしろ、吸血貴族達は外見以外でそれを露見させるかもしれない。まあ、その時はその時で考えよう。大事にならなければ、女装像として飾られるかも知れないし。
そんな風に割り切り、イオナはSFXメイクアップアーティスト達の装飾を受け入れていく。
それは、青ざめた皮膚の質感のみでなかった。縫合後まで指定する程の念の入れ用だ。それは彼曰く、
「なんだか縫いぐるみになった気分ですね」
と言った物であったが。
(「出来ればメイドとして潜り込み、情報収集、と行きたかったところです」)
身動ぎ一つ出来ず、ただ、聞き耳を立てるのみ。無事生還を含め、今回、彼ら復讐者に望まれている任務はそれだけであった。
吸血鬼とは言え、彼らのスペックは人間の域を超えない。ディアボロスと言う超人さを差し引いても、どの様な情報を収集できるか、見当すら付かないと言うのが本音だ。
(「となると、気になる単語を拾うべく、注視――いえ、清聴するべきでしょうね」)
無意識よりも意識した方が、認識精度が高まる。例えば、ただ漠然と話を聞くよりも、特定の単語を意識し、話を聞いた方がそれらを拾いやすい。所謂「カクテルパーティ効果」と言う奴だ。今回、漠然とした会話を聞き流しながら情報収集を行う以上、それを心掛けた方が良い、と思ってしまう。
「ですね。例えばラジオを漠然と聞いていても、映画の話題とかは何となく頭に残ります」
雑談に付き合ってくれたメイクアップアーティストも、イオナの言葉を是と肯定する。
「はい。出来ました。それでは、ええっと、こういう時はこうですね。ご武運を期待しています!」
(「ええ。頑張ります」)
メイクが崩れないように身動ぎ一つしない少年は、ただ、心の中でのみ深々と頭を下げる。
まして、そんな姿勢を保っているのだ。
少年の恭しさに、メイクアップアーティストは誇らしげな微笑を浮かべていた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
フルルズン・イスルーン
ビスクドールやるの?
リターナーだからできなくも無いけど。
どちらかというとアートに燃えてる側に立ちたいねぇ。
ま、やってみようか。ボックス・ゴーレムくん。
テーマは氷河に落ちて氷漬け。
んー。肌は全体にペールホワイト。いや、元からだけど。
で、剥製だからぺっとりとした光沢のある艶を出して、リップと頬に薄い紫色を乗せる。
ドレスはロリータだね。寒色系の青い奴を。
内は濃い青、外は薄くという甕のぞきの青の路線で。
着方はしっかりした風を装って。ああ、うなじを見る為に襟元とかひらける奴ね。
被りものはボンネットかな。ぶわっと広くして、その中にリボンや装飾敷き詰めて。
後は【アイテムポケット】。
作品ならこんなものかな。
「ん? ビスクドールやるの?」
フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)の素っ頓狂な言葉に、しかし、メイクアップアーティストの一人は「そうですね」と柔らかく受け止めている。流石は復讐者達の心酔者。否定から入ることはしなかった。
ちなみにビスクドールとは18世紀末から19世紀、そして最終人類史に至るまでに存在する鑑賞用の人形の事である。最終人類史ではフランス人形や着せ替え人形と言った方が通りが良かったりもする存在だ。
そんなわけで、おそらく20世紀の改竄世界史を出自とするフルルズンの口からビスクドールの単語が零れることに不思議はなかった。不自然さは無いんだってば。
「最近のビスクドールは恋をしたりもするらしいね。……まあ、そんな余談は兎も角として、成る程。エルミタージュ美術館へ剥製となって忍び込むのか」
どちらかと言えば剥製を量産する側に回りたい、と言う望みもあったが、彼女の本領はゴーレム作成だ。餅は餅屋の言葉通り、特殊メイクは彼らチーム剥製化の面々に任せた方が良いだろう。そう思い返し、身を委ねることにした。
「荷物は全て【アイテムポケット】で運べばいいしね! では、お願いしよう。コンセプトは『氷河に落ちて氷漬け』って奴で頼むよ」
「マンモスですか……?」
世界各地に伝わる伝承の中、最終人類史の日本で有名なのはマンモスなのだろう。よりによってそれかいと、苦笑するフルルズンは、しかし、化粧と服装でそのコンセプトへと整えられていく。
肌はより白く。唇と頬には淡い紫を。
全身を包む服は寒色系に纏められ、頭を包むボンネット帽子もまた、同じ色で纏められている。ふんわりとそれが膨らんでいるのは、中に敷き詰められた装飾品による型作りの成果であった。
(「作品ならこんな物かな?」)
外見を取り繕うのは得意中の得意。幼き容姿に見えて、その実、ロリっ子(33)なのだ。後ろの数字が何を示しているのか、推して知るべし、と言った処だろう。
斯くして、ビスクドールと化したフルルズンもまた出荷されていく。
中身を考えなければ、その外見は多くの人が抱くフランス人形そのものであった。そう。ゴーレムキチな中身さえ、考えなければ。
大成功🔵🔵🔵
効果1【アイテムポケット】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV4になった!
八栄・玄才
カーミラは少女がお好みかもしれないが、まっ、一人くらい男らしい男がいたってイイだろう
バリエーションがあった方がそれぞれ色んな場所に飾られて、色んな人の目に留まれるかもだしな
第一次大戦の頃には軍事格闘技としてロシアにも柔道が流入されていたらしい
ここは日本の柔道着で、ロシアから見た異国の情緒を醸してみせるぜ
剥製なのに筋肉に張りがあるのも不自然なのでその辺りはメイクで隠し、ここは骨格を強調する感じで雄々しさをアピール
ポーズは派手さを優先してレスリングのような前傾姿勢で
まっ、投げは専門外なんだけどな
特殊メイク後は【オーラ操作】で闘気を抑え、息をしていないかのような細く静かな【呼吸法】で生気を消す
(「カーミラは少女がお好みかもしれないが、まっ、一人くらい男らしい男がいたってイイだろう」)
八栄・玄才(井の中の雷魔・g00563)の言葉は、確かに一理あった。先に女装少年が剥製化されているが、それを除いたとしても、飾られている全てが少女のみ、と言う事はないだろう。
何故ならば、剥製の送り主である狩猟公爵ボーフォートは、特に男女の選り好みをしていなかった様に思える。そして、死妖姫カーミラは、狩猟公爵と同等存在――即ち、ジェネラル級だ。彼が男性の剥製を送ってきても、趣味を優先してそれを飾らない、と言う事は無いのではないか。
(「まあ、献上は奴さんの一方的な片思いで、カーミラが無碍にしている、と言う可能性も充分に考えられるが」)
更に言うなら、もしかしたら狩猟公爵ボーフォートはカーミラ趣味の剥製のみを送りつけ、男性剥製は自身の城に飾っていた可能性も残って居るが、まあ、全ては推測でしかない。是非はこれから確かめるしかないのだ。
それら全てを統括し、玄才は己の剥製姿を確定させる。それは即ち。
「柔道家だな」
「ああ。いいですね。ロシアの人って柔道着着ているイメージ、ありますものね」
彼の提案に、メイクアップアーティストの一人が是と頷く。
ちなみにそのイメージはおそらく、最終人類史でのロシア連邦大統領が元となっていそうだが、案外、そうでもないらしい。
「第一次大戦の頃には軍事格闘技としてロシアにも柔道が流入されていたらしい。つまり、改竄世界史吸血ロマノフ王朝に柔道が存在する可能性はゼロじゃない」
実際、日本そのものは改竄世界史外だが、サハリン――樺太は吸血ロマノフ王朝の領土のようだ。その為、柔道の伝来は微妙な線だが、分の悪い賭けではないようにも思えた。
「まあ、吸血ロマノフ王朝に柔道がなくても、東洋の不思議な武術家の剥製になっちまうだけだ。遠慮無くやっちゃってくれ」
その思いっきりの良さもまた、玄才の人柄であった。
斯くして、骨太な戦士の剥製が出荷されることになる。
彼の目の付け所が良かったのか否か。それは彼が納品された頃に判明するのだろう。きっと。
大成功🔵🔵🔵
効果1【トラップ生成】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV5になった!
アレクサンドラ・リーヴェン
ヴァンパイアノーブルであるカーミラに気に入られるために、というのが気に入らないけど。私の美しさで魅了するというのは悪くないわね。いいわ、剝製でもなんでもやってあげようじゃない。
衣装は普段身に纏っているゴシックロリータのドレスを。
ポーズは、そうね。やはり支配者たる私は下僕を踏みつけるように片足を上げている姿なんてどうかしら?私の美脚を存分に見せつけられるしね。
……SFXとやらで胸部を盛ることは可能かしら?
いえ、私の身体に恥ずべき部分などこれっぽっちもないのだけれど。
たまにはいつもと違う自分になってみるのもいいかと思っただけよ。
「ヴァンパイアノーブルのカーミラに気に入られる剥製に化けるなんて、本当は気に入らないシチュエーションなのだけど」
これは、改竄世界史吸血ロマノフ王朝を出自とするアレクサンドラ・リーヴェン(吸血姫・g09048)の本心であった。自分達を追い詰め、そして命すら奪ったクロノヴェーダ共に媚びを売るような真似など面白くない。彼女の思いは痛いほど判った。
「でも、アレクサンドラさんが気に入られれば、それは貴方の魅力が勝利したという証左。如何でしょう?」
「……それは悪くないわね」
メイクアップアーティストの告げた甘言に、アレクサンドラはむうっと唸ってしまう。些かチョロいようにも思えたが、まあ、本人がやる気になったのであれば、それが一番なのだろう。
「では、私を仕立てて下さいまし。彼の悪女を魅了する、そんな剥製に」
斯くして、吸血少女への飾り付けが始まったのであった。
アレクサンドラのオーダーは『支配者像』であった。
下僕を踏みつけるように片足を上げ、振り下ろしている様。なかなか維持が辛そうなポーズだったが、そんな彼女も復讐者の一員だ。きっと、やり遂げてくれるに違いない。
「あ、台座を敷いておきますね。鞭とか持たせておきます?」
「台座は兎も角、鞭は良いわ。……少し、悪乗りが過ぎるんではなくて?」
むしろノリノリなチーム剥製化の面々に、思わず苦笑いを零してしまう。
「ところで……」
SFXメイクで固められていくアレクサンドラは、彼らへとある疑問を投げ掛ける。曰く――。
「……SFXとやらで胸部を盛ることは可能かしら?」
「ああ。先程、逆のオーダーを頂いていますが、そっちも可能ですよ。少しお時間を頂く事になりますけど」
流石は現代の魔術師達。何でも出来る様だ。凄い。
「いえ、私の身体に恥ずべき部分などこれっぽっちもないのだけれど。たまにはいつもと違う自分になってみるのもいいかと思っただけよ」
「はい。理解していますよ。ディアボロス様」
早口でまくし立てるアレクサンドラへ、面々の向けたそれは大人の笑みであった。
斯くして、胸を盛られたゴシックロリータな少女像が出荷される。
出荷直前、彼女が形成した憮然とした表情が何を語っていたのか。それは誰にも判らなかった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【冷気の支配者】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
括毘・漸
現地で配送業者を見つける為に剥製に扮した方々の写真を撮りましょう。
美しい剥製の写真をチラつかせれば食い付く人もいることでしょうし。
…あの、なんでボクもメイクされているんですか?
いやまぁ、作戦に行くつもりではありますが…えっ?お題をくれ?
そうですなぁ、今回はボーフォートからの贈り物ですし。
でしたら『狩られた狩人』なんてどうでしょう?
あの戦いを剥製で再現してやりましょうか。意趣返しというやつです。
服装は狩人で、腰に刃こぼれした大振りの鉈。手には壊れた銀色の猟銃を。
顔には『猟犬の半面』を被り、足元には血の色をしたトラバサミを設置すれば、かの狩猟公爵の真似ですね。
カーミラはどんな反応をしますかね。
(「現地で配送業者を見つける為、剥製に扮した方々の写真を撮りましょうか」)
括毘・漸(影歩む野良犬・g07394)のアイディアは、確かに冴えたる物であった。
(「美しい剥製の写真をチラつかせれば、喰い付く人もいることでしょうし。興味を持った人を探すのが良いかも知れませんね。問題は、20世紀初頭の写真に合わせて……ですか。そうですね、解像度を荒くして、白黒にすれば割と誤魔化せますかね」)
剥製化の面々のカタログを作れば、クロノヴェーダの目に留まる可能性もある。認識の曖昧化が何処まで通じるかは判らないが、復讐者が看過出来るものは歴史侵略者も看過出来る、と考えた方が安全だろう。
「ふふ。楽しくなってきましたね。さあ、素敵な写真集を作る勢いで頑張りましょう!」
鼻息荒く、彼はメイク室へと飛び込んでいく。
果たしてどの様な写真が出来上がるのか。それは漸の手腕に掛かっていた。
――筈だった。
「あ、あの、なんでボクもメイクされているんですか?」
気がつけば椅子に座らされ、テキパキと処置を施されていた。どうしてこうなった。
(「いやまぁ、同行するつもりではありましたが……」)
しかしそれは裏方としての筈だ。剥製化して共に出荷されるつもりなど毛頭にも無く――。
「漸さん。どのような剥製にしましょうか?」
「あ、えっとですね。それではこういうのはどうでしょう?」
その思考の割に、メイクアップアーティストの問いにはノリノリで応えてしまう。括毘・漸。根はお調子者な青年であった。
斯くして、大振りの鉈と銀色の猟銃、虎挟みを携えた狩人像が完成する。
本人曰く『狩猟公爵ボーフォートの真似』との事だったが、その彼を見たカーミラがどの様な表情をするのか。今からでも楽しみになってしまう。
(「とは言え、未だ、カーミラの顔は知らないのですが」)
鬼が出るか蛇が出るか。果たして彼の模倣と、彼が撮影した写真達がどの様な事態を招くのか。今の漸に知る由も無かった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【罪縛りの鎖】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】がLV2になった!
八千草・実
ふっふ…面白そうなことやってはりますなぁ
美しい人間かは知らんけど…棘はちゃんとありますえ
えすえふえくす? わぁ剥製メイクて斬新やね
東洋美人な感じで頼んますなぁ
剥製やったら顔色悪うなりそやね
その分、人目を惹く衣装にしましょ
ちょと派手めなくらいが東洋趣味でしょ
金彩の絢爛な藤色の振袖に…金糸の袋帯は五枚羽の片文庫やね
一遍解いたら戻されへんくらいかっちりなぁ
花魁風の髪形に簪差して…着付けは品良うね
瞼と唇には紅…血の色がお好きやったら、お気に召しますやろか?
イメージは東洋の神秘やねぇ
櫻の扇を右手に留めて、日本舞踊の舞姿
仄かな伏し目でたおやかに、翼の曲線は鶴の優美
…まぁせやけど、献上品やて…高うつきますえ
(「ふふ。面白そうなことになってきましたなぁ」)
SFXメイクを施されながら、八千草・実(温室の管理者・g05182)は内心で独り言ちる。
剥製メイクというのは斬新で、近代――それでも最終人類史から見れば過去であるTOKYOエゼキエル戦争が出自の人間としても、滅多に無い体験だと思ってしまう。成る程。顔が固められ、身体が固められると、確かに動きを取ることが出来ない。鏡に映る自分自身は、生気の無いまさしく剥製そのものと化しているのに、それを眺める自分は当然ながらいつもと変わらない思考、視野を持っている。なんだかその経験も新鮮だった。
「実さんのオーダーは『東洋美人』でしたね」
化粧と衣装を整えながら、メイクアップアーティストの一人が彼女の注文を口にする。
金彩の絢爛な藤色の振り袖に、金糸の袋帯は五枚羽の片文庫。花魁風に纏めた髪にはかんざしを挿し、瞼と唇には紅を差す。扇を携えれば、確かに其処にあるのは綺麗に佇む等身大の和人形であった。
(「これで奴さんの目に留まってくれればええんやけども」)
くすりと笑い、その先を想像する。
自身はただの置物、ただの人形のつもりはない。綺麗な薔薇には棘があるとの語句の通り、己もまた、内心に刃を秘めている。
ただの献上品と侮ることなかれ。その代償は高うつきますえ、と言う奴だ。
「まあ、何と言いますか、自分達の作品である事は変わり無いので、自画自賛も過ぎますが……お綺麗ですね」
出来ればこのまま飾ってしまいたい。
メイクアップアーティストの零した溜め息に、実は思わず微苦笑を浮かべてしまう。
「おおきに。皆さんのお力で何とか乗り込めそうですわ。まだまだやることは多いと思いますが、頑張りはって下さい」
剥製化させられているとは言え、褒められれば相応に嬉しくなってしまう。先程の嘆息は、むしろ、彼女の気分を向上させる物となっていた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【活性治癒】がLV2になった!
効果2【ドレイン】がLV2になった!
内方・はじめ
美しい剥製ねえ……美しいかどうかは置いといても、面白そうな試みだし、本場さながらの特殊メイクらしいわね
なかなか、体験できる機会はないわ
まあ、単純な美しさや派手さじゃあ……他の人には敵わないし、一捻り二捻りしないと
確か、あっちの時代の頃には水兵服……所謂、セーラー服はあったはず
じゃあ、それをアレンジした体で、白セーラー服女学生の格好で、絶滅危惧種の黒髪ロング清楚系女学生に扮してみましょうか
東洋で掠奪された娘が、東欧に連れ去られ、変態趣味の化け物に気に入られて……物言わぬ人形にされてしまう
そんな悲哀と憂いを帯びたイメージに
……何だか、変態おっさんホイホイになりそうな気がするけど、キットキノセイダワ
(「美しい剥製ねえ」)
美しい剥製となってエルミタージュ美術館に忍び込もう。
時先案内人の告げた触れ込みに、内方・はじめ(望郷の反逆者・g00276)は自虐的な笑みを浮かべる。曰く――。
(「ともあれ、美しいかどうかは置いといても、面白そうな試みだわ」)
己を鑑みれば、何処にでもいる平凡が売りだと認識している。小柄で華奢で悪目立ちしない。それが諜報員の有るべき姿ならば、それを満たしている自信は在る。そんな自分が剥製化したとして、それが『美しい剥製』と言えるかと思えば、どうだろう。
「だから、一ひねり二ひねり必要だと思うのよね」
白いセーラー服を選択し、胸の前で広げるはじめの言葉に、メイクアップアーティストは「あはは」と乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「何と言いますか、はじめさんは客観視出来ない人なんですね」
「あら? お世辞なんか言っても何も出さないわよ?」
最終人類史に於いてすら絶滅危惧種な黒髪ロング清楚系女学生に扮していく彼女は、メイクアップアーティスト達の言葉を淡々と受け流す。クールなのか、それとも内心を曝け出していないだけなのか。それは常人の彼ら彼女らには判らなかった。
(「うわー。でも、なんかこれ、本当に変態おっさんホイホイになりそうな気がするわね」)
着替えの後、次々と装飾されていく鏡の中の自身を見ながら、はじめは内心で唸ってしまう。もしかしたら吸血ロマノフ王朝の中枢にその手の趣味の奴がいて、滅茶苦茶食らいつけるかも知れない。逆の可能性も充分にあったが、それは取り敢えず黙殺することにする。
「なんかこう、東洋で略奪された娘がそのまま変態趣味の化け物に気に入られて物言わぬ人形になっちゃった……みたいな感じね。赤い靴履いてた方がいいかしら?」
「いやはや、都市伝説……」
退廃美や耽美こそ吸血貴族の華ならば、中にはそう言う趣味もいるだろう。そのような人物が重要情報を持っていて欲しい。それだけが彼女の願いだった。
自身が纏ったなかなかの出来映えに、はじめはうん、と頷くと、その表情に憂いと悲哀を帯びさせる。
「おお」
メイクアップアーティスト達に感嘆が零れたのは致し方ない事だろう。
鏡が映す虚像は確かに、彼女の目指した人形像であった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
リップ・ハップ
専門家の人らめちゃ盛り上がってんじゃん
てことはよ。めちゃ気合入れてオシャレさしてくれそじゃね? わはは
中入ってから出来ることはあんま無んだ。互いにノリノリでいい仕上がりにしようってのが今は大事っしょ
着るのはショートドレスがいいね
食生活とディアボロスとしての活動で細く引き締まった腕、脚。こりゃ出してく価値ありっしょ~~
色は真っ赤で。私のテンション上がっから鮮血のような赤が良い
ポージングはモデルさんにご教示賜っちゃおー
見返りとかで背中とか首筋もアピれたらつよつよじゃね??
てか私チャームポイントはお尻なんで。魅せるぜ魅せるぜ
多少しんどいポーズでも任せろってんでい【精神集中、忍耐力、時間稼ぎ】
(「専門家の人達、めちゃ盛り上がってんじゃん」)
部屋外からも伝わってくる賑わいに、リップ・ハップ(Reaper Harper・g00122)は是と頷く。餅は餅屋。蛇の道は蛇。色々な言い方はあるが、これだけ専門家が盛り上がっているのであれば、滅茶苦茶気合い入れたお洒落をしてくれそうである。それはもう勝ったも同然だ。いや、ディアボロスしか勝たん、と言った処だろうか。
「ま、でも、上手くエルミタージュ美術館に搬入されれば、出来る事はあんま無いもんな。現在は互いにノリノリで良い仕上がりにしようってのが大事っしょ」
斯くして、彼女自身もまた、剥製化の化粧を施されていく。彼女の担当となったメイクアップアーティスト達もまた歓喜に塗れていて、その熱量にむしろ、押し潰されそうな気がしたのは、もはや気のせいでは無いだろう。
「服装はショートドレスにして、ポージングはお任せって感じでどうだろう?」
チャームポイントはお尻。うなじ、背中を大きく開けてアピりたい。
そんなリップのリクエストに、チーム剥製化の面々は一つ一つ応えていく。
「そうすると、見返り美人みたいな感じでどうでしょう?」
「お、いいねいいね。多少しんどいポーズでも任せろってんだ」
どんと胸を叩く仕草はとても頼もしく、ならば……と更なる装飾を決める呼び水となっていく。
色白の肌に赤いショートドレス。引き締まった身体はしかし、女性らしい曲線を強調し、多大な衆目を集めるだろう。腕や足を彩る小物もまた赤く、血を好む吸血貴族達の眼鏡に適うこと間違いなしであった。
「いいねいいね。ちょっと露出が多い気がするけど、それもいいよね」
むしろ、引き締まった手足を出していくことに価値がある。
そんなリップの言葉に、メイクアップアーティスト達は互いに視線を交わし、ニッと微笑む。賞賛に見合うだけの仕事をしたとの達成感と自負が、彼らに誇らしげな笑みを浮かべさせていたのだ。
そして、赤と白のコントラストが眩しいリップの剥製もまた、送り出されていく。
テンション爆上がりした彼女にもはや、怖い物など何も無い。そんな言葉が似合う出荷の様相であった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【強運の加護】LV1が発生!
効果2【アヴォイド】LV1が発生!
ミリアム・ヴォルナー
潜入工作か……面白い
趣向を凝らし、潜入を試みよう
特殊な化粧を施せるのか
ならば、叛逆者が両手を縛られ、吊るされるイメージ
滅びの美はどうだ?
嗜虐性の高い連中だ
親玉の好みに合えば上々
好みでなくとも、手下の好みに合えば……手下へのご褒美が要るだろう?
無論、捕らわれた際に嬲りものにされ……着衣も襤褸同然にされているだろう
奴らは、そういう連中だ
縄目や鞭打ちの跡もあるかもな
肌が露出するのは、別に構わん
奴等に一泡吹かせるためなら……乳でも何でも出せばいい
作戦成功のためだろう?
何なら、吊るすための木も用意して貰おう……冗談だ
流石に大掛かり過ぎるから、吊るすなら木は現地調達かな
そんな方向性で、あとはプロに任せるか
美しい反逆者。滅びの美。それがミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)のオーダーであった。
「嗜虐性の高い連中だ。親玉の好みに合えば上々。もしも親玉の好みから外れても、いずれかの手下の好みに合えば、だな」
命令だけで人は動かない。それはクロノヴェーダも同様だろう。動くためには利がいる。ならば、美しい剥製は報償となり得る――可能性が高い。
「成る程」
ミリアムの言葉に、チーム剥製化の面々は得心と頷く。確かに籠絡すべきは親玉とは限らない。些末な場所から堤が決壊するように、子分から情報が漏れることなど、いくらでも例があった。
「そんな感じに仕上げてくれ」
「仰せのままに」
大仰に頷いたメイクアップアーティストは、そして、あははと笑みを浮かべる。ミリアムの辛辣さ、真摯さが醸す空気は何処となく重かったが、それすら楽しむ余裕が皆にあったのは幸いであった。
「着衣はボロ同然。縄目や鞭打ちの跡もそれなりに、っと。この辺りは傷メイクで誤魔化しました」
全身に施された傷痕に、ミリアムはほぅっと頷く。
勿論メイクのため、痛みは伴わない。だが、見た目からは痛々しい傷痕もあり、今にも血が噴き出すのでは? と錯覚すらしてしまう。流石にその道で腕を磨いた者達の手技だ。感心の溜め息すら零れてしまう。
「うむ。なかなか良いな。肌の露出も絶妙なバランスと言わざる得ない。……乳でもなんでも出せば良い、と言ったつもりだったが」
「ふふ。是とする表現のため、出すべき物は出し出す必要の無い場所は隠す。それが出来る矜持ぐらいありますよ?」
女性らしい曲線や引き締まった腰回りは目に鮮やかに、しかし、その中心を隠すことで煽情すら引き出していく。それもまた、一つの美の形であった。特殊メイクだけでは無く、布切れとすら言える衣装でさえも、このメンバーに取っては演出の小道具なのだと思わせる、そんな一幕であった。
「吊す方向で、とのことでしたが、それですと縄で剥製が傷む可能性を言及されかねません。手首を緩く縛り、吊された体勢を取って頂く……と言う辺りを落とし所にしていただければ、と思います」
説明は以上、とファイルを閉じる。鏡に映し出されたミリアムは美しく、そして退廃的であった。
「ふむ。全てオーダーに応えてくれているな。パーフェクトだ、といっても言い」
「ええ。プロですから」
自尊心に満ちた笑顔は、何処までも頼もしかった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【コウモリ変身】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV3になった!
四葩・ショウ
衣装もヘアスタイルも、王侯貴族っぽくしてほしいな
きらびやかな金の装飾を施した、黒の貴族服に身を包んで
この服に手を掛ける事を赦されたものだけが知るだろう
服の下に隠された、痛ましく精巧なメイクの傷痕に
わたしという剥製が少年ではなく、少女である事に
心臓の上、白い胸元には
鮮烈な赤き薔薇の(シール)タトゥーを刻んで、咲かせて
誘惑するように、救いを求めるように伸ばした手が
何かを呟こうとしたままもう動かない唇
うっすらと涙をたたえたままの、
瞳の奥には絶望を宿す演技をして
技術によって、本当に時を止めたかのように
……気に入られるかは別だけど、さ
新宿島の皆のお陰で
間違いなく、最高の作品になれたよ
有難う、いってくるね
煌びやかな王侯貴族。四葩・ショウ(Leaden heart・g00878)が選んだ姿はそれであった。
纏う衣装は金の刺繍が入った漆黒の貴族服。色素の薄い金色の髪は、しかし、綺麗に整えられ、自身の身分を誇示するかのようであった。
まるで一体の等身大人形。生前、何処かの名のある家の跡取り息子だったのでは? と伺わせずにいられない。剥製化したショウはそんな外観をしていた。
「ですが、服に手を掛ける事を許された者は知ることになるだろう」
敢えての大仰な口調は、ショウ自身の口から紡がれる。それがこの人形――自身の選んだ形代の本質であった。
「服の下に隠された痛ましい傷痕に。この剥製が少年では無く、成長過程にある少女だったことに」
多くの傷痕を隠し、男装を強いられた少女は、果てに剥製と身をやつした。その道程を想像するだけで、嗜虐心が大いに揺さぶられる事だろう。
そして、服を剥がした者は見るだろう。彼女の白い胸元に彩られた鮮烈な薔薇を。その赤は、彼女から吹き出る熱そのものであった。
それが情熱なのか。情欲なのか。それとも誘惑なのか。
それは見る物によって大きく姿を変えるのだろう。
「おー」
パチパチとチーム剥製化の面々が拍手する。作品の出来映えに対する自賛もあったが、むしろ、その賞賛が向ける先は、真摯に訴えるショウの姿勢そのものであった。
救いを求めるように伸ばされた腕。何かを呟こう、或いは叫ぼうとしてもう動かない唇。カラーコンタクトで誤魔化した目は涙じみた何かを湛え、絶望のみを訴えてくる。
其処に終焉があった。何かしらの終わりを迎えた少女はしかし、その終わりは永遠にやってこない。彼女の時は凍り付き、そこにはただ、終わりの無い終わりのみが存在していた。
(「ありがとう。行ってくるね」)
全てが終わろうとするその直前、ショウはメイクアップアーティスト達へ感謝の言葉を述べる。動かせない唇で紡いだ緩やかな言葉は、しかし、喜色に溢れた笑顔によって受け取られる。それで充分だった。
(「気に入られるかは別だけど、さ。皆のお陰で、間違いなく最高の作品になれた」)
同じ喜びを共有し、彼女もまた出荷されていくのだった。
大成功🔵🔵🔵
効果1【強運の加護】がLV2になった!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
捌碁・秋果
美術館を拠点にした凶行。
…どうしても、自分の目で確認がしたくて参加。
私は可憐な美少女じゃないからお気に入りになるのは難しそう。
だから「これは貴婦人たちからの受けが良さそう」「舞踏会の雰囲気に合う」って思われて舞踏会に飾りたくなる剥製を目指します。
舞踏会だからダンスみたいなポーズを…、ロシアだしバレエかな。余計に長い手足を活かそう。
クロワゼ・ドゥヴァンに、片手を上げたポーズを。
爪先や手先を繊細で優美であるように努めて。
貴婦人からの受けが良いように、凛々しい笑顔で!
髪型はおまかせ。
服装は舞踏会に合わせて男性貴族っぽく。装飾品は血のような赤で統一。
ポーズが映えるようにゆったりした服はやめておくね。
(「どうしても、自分の目で確認したかった」)
剥製化の特殊メイクを施されながら、捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)は内心で呟く。
世界有数の美術館で行われている凶行。少女の剥製化と言う残虐な事件は何のために起きているのか。何故そのような事を起こしているのか。
それがジェネラル級ヴァンパイアノーブル『死妖姫カーミラ』の本懐であるならば、事実、そうなのだろう。だが、その言葉のみで片付けて良い物か。もしも彼女の配下の言葉が正ならば、彼女は寵愛の果て、少女達を剥製化していると言う。それがどの様な意味を持っているのか、今の秋果には判らないけれども。
(「それを知ることは、余計なことかも知れないし、否かも知れない。でも、それを知ることで繋がる明日があるかも知れない」)
だからこそ、彼女は潜入工作を選んだのだ。報告書だけでは判らない、その先の真実を知りたい。それが彼女の願いだった。
「私は可憐な美少女じゃ無いから……」
告げられた言葉に、メイクアップアーティストはふむ、と頷く。
女性にしては高身長。手足は長く、端正な顔立ちはむしろ、中性的な美しさを主張している。確かに本人の言葉通り、可憐な、と形容出来る存在ではない。だが、そこには鮮烈な美が確かに在った。
(「お望みならば、可憐に彩ることも可能なんだけどねぇ」)
それだけの技量は備えていると自負もある。秋果と言う素敵な素体もある。だが、オーダーはオーダー。それに、無理矢理に行うよりも自分自身が気持ちよく着飾れた方が、何倍も良い。それがメイクアップアーティスト達の考えであった。
「承知しました。男性貴族っぽいテイストで、ダンスをしている最中、ですね」
一見紳士だが、よく見れば男装女性であると言うのも倒錯的であり、吸血貴族達の目を引くことになるだろう。
そんな感想を述べつつ、チーム剥製化の面々は秋果を着飾り、彩っていく。クロワゼ・ドゥヴァン。脚を交差させ、片腕を上げて己を主張するポーズは、バレエではよく見る格好だ。バレエと言えばこれ、と想像する者も少なくないだろう。
死に化粧は凜々しく、華やかに。彫り深く施されたそれは、秋果の表情をより際立たせる物であった。
「素晴らしい出来ですよ。秋果さん!」
赤で統一された装飾品は、彼女をより一層吸血貴族っぽく演出してくれていた。
大成功🔵🔵🔵
効果1【エアライド】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV2になった!
斯くして、最後の一体となった剥製――より正確に言えば、剥製に擬態したディアボロスが出荷されていく。
やるべき事は尽くした。後は天命を待つのみ。
達成感に満ちた表情で、チーム剥製化の面々は互いに微笑み、強く頷き合う。
「久々に良い仕事したなぁ。後は皆さんの役に立てたのなら幸いなのだけど……」
「ディアボロスの皆さんですよ。きっと、良い結果に繋げてくれる筈ですわ」
「ええ。きっと、ね」
そこに在るのは信頼の二文字。ただそれだけであった。
斯くして、パラドクストレインは走っていく。
向かう先は改竄世界史吸血ロマノフ王朝内の一都市、サンクトペテルブルク。
車体の進む音は開戦の響きを。車体の震えは武者震いを。それぞれを表しているかのように木霊していた。
オスカー・メギドューク
・心情
さて……こちらの方も準備をしておくか
せっかく着飾ったみんなを、しっかりと運ぶ為にもね
・行動
パラドクストレインに乗り込む前に、残留効果の≪アイテムポケット≫で交渉用にロマノフの時代にあっても違和感のない飲食、それもこの極寒の地でも保存しやすい物を確保しておく
そして、業者に交渉する際は「ボーフォート公爵の命令」だということをちらつかせつつ、見返りとして持ち込んだ食料等を渡そう……なぁに、迅速に運んでくれれば、それでいいさ
後は使えそうな残留効果は使用しておこう
・その他
アドリブ等は大歓迎だよ
冰室・冷桜
悪趣味公爵様の使いってーわけですし、それなりに着飾った格好で交渉に臨むわ
現地で搬入してくれそうな一般人を見つけましたら交渉開始
召喚しただいふくも連れて、こー、ペットを連れ込むくらいの偉い立場? な感じを装って【友達催眠】発動
ボーフォート公爵様からカーミラ様への贈り物を運んできたの
本来は私たちがそのまま運びたいのだけれど、生憎と多忙でね……貴方たちにお任せしたいの
よろしくて?
勿論お礼はしっかりとするわ
カーミラ様への大事な贈り物、大切に保管してくれる人にお任せしたいもの
倉庫の暗い奥に運ぶまでーなんて置かずに丁寧に、ね?
【アイテムポケット】で持ち込んだ貴金属の類をこれが駄賃よーみたいな感じで渡すわ
ロザーリヤ・ユスポヴァ
剥製に化ける面々が業者と交渉するのは……可能とは聞いているものの、少し荷が重かろう
ここは潜入しないぼくも矢面に立つとしよう
剥製組をあまり長時間動かして、メイクが落ちるのも困るしな
貴族的な装いに『バットストーム』の蝙蝠を伴い、業者の前に現れよう
荘厳さと力を見せつけ、ヴァンパイアノーブルから直々の依頼が来たと思わせたい
支配者の頼みともなれば多少の無茶も無碍には出来まい
あなた方の実績を見込んで、重要な品の搬入を頼みたい
ボーフォート卿よりカーミラ卿へ贈られる、至上の剥製たちだ
この件を無事やりとげれば、あなた方の栄達は間違いない
貴族として取り立てられることもあるかもな
責任は重いが、悪い話ではなかろう?
伏見・逸
(連携アドリブ歓迎・有用な残留効果があれば活用)
(知人が潜入するというので、助けになれればとやってきた)
(…真似事とはいえ、年下の知ったツラの剥製ってなあ…正直、複雑な気分だ)
生気のない様子は、メイクだとわかっていても何やら不安になる
表情に出さないよう押し込めるぐらいできるが
公爵の使いを装う。服装もそれらしく
貢物として剥製を搬入業者に引き渡す
(他のディアボロスがいれば話を合わせる)
「うまく運び込めば、お前さんの覚えもよくなるってもんよ」
「ただし丁重に、急いで運んでくれな。良いもんをすぐ渡さずに、仕舞い込んでぐずぐずしてたなんて、後でばれたらどうなるか…俺も責任持てねえぜ」
強面を活かし脅しておく
そして、パラドクストレインは停車する。
サンクトペテルブルク郊外に降り立ったパラドクストレインから荷物――商品を運び、手慣れた様子で貸倉庫貸借の許諾を取り付けると、そのままその中へと運び込む。
まずは第一段階クリア。
問題は、その後であった。
「まあ、剥製に化けた面々が業者と交渉するのは大変だろうしね」
貸倉庫に並んだ商品――仲間達が化けた剥製像らを見上げ、ロザーリヤ・ユスポヴァ(“蒐集卿”・g07355)は苦笑いを浮かべる。
時先案内人は大丈夫と言っていたが、あくまでそれは最終手段。皆が動くことでメイク剥がれが起きれば、それだけ露呈の危機も上がるだろう。ならば、それ以上は適材適所。剥製化を選ばなかった自分達が業者を見つけ、交渉するのが筋だと思うのだ。
「そうだね。着飾ったみんなをしっかり運ぶため、私達が奮闘しなければね」
大仰な台詞は、貴族服に身を包んだオスカー・メギドューク(“槍牙卿”・g07329)が口にした物だ。
今回の作戦――エルミタージュ美術館に剥製として搬入され、潜入すると言う代物の目玉は何かと問われれば、それは確かに剥製へ偽装した彼らだろう。だが、彼らが良き条件で搬入されるかは此処に居る面々の交渉結果に掛かっている。それもまた事実だ。
(「ああ、……任せてくれよ」)
ともあれ、交渉の間、倉庫に待機する事になる仲間達を一瞥し、伏見・逸(死にぞこないの禍竜・g00248)は溜め息を吐く。
青白く潤いをなくした肌。光を失ったガラス細工のような瞳。ほんの数時間前まで賑やかに会話をしていたことを思い出すと嘆息しか零れなかった。彼らが特殊メイクで剥製化しているとは理解している。だが、理性と感情は別物だ。生気の無い様相に、まるで、親しい友を失った痛みすら覚えてしまう。それは、それだけ、新宿島の技術が優れていることの証左であるかもしれないけれども。
「んじゃまぁ、行きますか」
冰室・冷桜(ヒートビート・g00730)の掛け声に、一同は貸倉庫を跡にする。
まずは搬入業者を見つけ、交渉を開始せねば。
ざっと踏み出したサンクトペテルブルクの空気は冷たく、まるで彼らの行く末を示すようでもあった。
さて。
結論から言えば、搬入業者を見つけ出すことは容易であった。
「いやー。引き受けてくれる人を見つけるのに苦労しそうだったけど、やっぱり持つべき物は友人よね」
立て役者となったのは、冷桜が発動させた【友達催眠】の力である。適当な町の人に声を掛け、搬入業者を紹介して貰う。その搬入業者すら、友人と錯覚させる残留効果は、ここぞとばかりに力を発揮するものであった。
そんなわけで、現在、彼らは搬入業者の屋敷に通され、その主の前に集まっていた。
見た目からして、40はとうに超えた中年男性であった。身分としては一般人にしては裕福だが、一般人であるが故に貴族に届かず、と言った処だろう。聞けば、サンクトペテルブルクの輸送業でそれなりに財を成した人物らしい。まさしく復讐者達が求める人材であった。
「ボーフォート公爵様からの贈り物を運んできたんだけど、私達も生憎多忙でね。直ぐに大領地へ引き返さなくちゃいけないの。その時に貴方の顔を思い出した訳なんだけど」
「あー。いや、ははは。光栄ですね」
中年男性は、何処となく空虚な苦笑いを浮かべていた。
それは【友達催眠】の効果の浅さ故だろう。友人だった筈だが然程親交のある訳でも無く、しかし、無碍に断る程の関係では無い。彼に掛かった錯覚は、そのぐらいなのだろう。
(「もうちーっとレベルが高ければ言うこと無かったんだけどね」)
だが、取っ掛かりとしては充分だ。後は彼をやる気にさせるだけだ。そして、それは復讐者達の手腕に掛かっていた。
「ボーフォート卿からエルミタージュ美術館の責任者、カーミラ卿へ贈られる至上の剥製達だ。責任も重い仕事だが、この件を無事にやり遂げられれば、あなた方の栄達は間違いない。……引き受けてくれるね?」
蝙蝠を携え、貴族然と泰然自若に、しかし恐ろしいまでの凄みを見せるロザーリヤの微笑であった。
中年男性が小心者ならば、それだけで肝を潰していたかも知れない。
「も、勿論ですよ」
いや、既に肝を潰していたようだ。
しきりに汗を拭い、虚ろに目を泳がせている。恐怖、そして栄誉。彼の思考はその二つで行ったり来たりしているようだ。
「そうだな。上手く運べばお前さんの覚えは良くなるだろうな」
逸の援護射撃は、にぃっと言う笑顔と共に。
強面の彼が浮かべる笑顔は、ロザーリヤとは別の凄みがあり、向けられた中年男性はアワアワと目を白黒させていた。
「ただし丁重に、急いで運んでくれな。良いもんをすぐ渡さずに、仕舞い込んでぐずぐずしてたなんて、後でばれたらどうなるか……。おお、恐ろしい。彼の吸血貴族様達の逆鱗に触れたが最後、どうなるか、俺も責任持てねえぜ」
「い、いや、それは当然ですよ!」
吸血ロマノフ王朝の一般人に於いて、吸血貴族の名は絶対のようだ。逆らうなんてとんでもない、と中年男性は首を、そして両手を振る。
ここまで主張しているのだ。搬入そのものに問題はないだろう。
「ですが、丁寧に急いで大荷物を運ぶとなると……それ相応に頂かないと無理ですよ? そこら辺のごろつき雇って、って訳に如何でしょう?」
「まあ、それはそうだね」
中年男性の言葉を肯定し、オスカーが是と頷く。
「謝礼は充分に用意しているよ。無論、これだけ大切な仕事だ。前払いでお願いするつもりだ」
「い、いいんですかい? あ、いや、しかし、それだけじゃぁねぇ」
金払いの良さ、気っ風の良さにむしろ、中年男性は泡を食っているようだ。むむっと唸りながらも更に上乗せしようとする辺りは、商人根性があるようにも思えたが、まあ、そこは致し方ないだろう。力なき一般人とは言え、意外と強かなのだ。
「栄誉と謝礼だけじゃ満足できないのは貴方の悪い癖よ。友達」
苦笑する冷桜に、否、とオスカーが首を振る。その備えはあり、勝算は充分にあった。
「判った。これは秘蔵なのだが、旅のお供にと持ってきた瓶詰めを進呈しよう。これが我々の出せる全てだ。悪いけどこれ以上、もう何も出ないぞ?」
ごとりと【アイテムポケット】から、大量の瓶詰めを出す。取り出されたそれは、ラベルこそ剥がしているものの、全て新宿島産の高級品だ。当然、吸血ロマノフ王朝の一般人では口にする事も叶わない代物である。
「ちなみに、瓶詰めの件はボーフォート公爵様達には内緒にして欲しい。くすねてきた身としては露呈されると困るんでね」
「しょ、承知しました」
目の前に摘まれた各種瓶詰めに、中年男性はゴクリと喉を鳴らす。貴族秘蔵の瓶詰めとくればどの様な味のする代物なのか。彼の思考は既に旅立っていそうであった。
「荷物は郊外の貸倉庫に預けてある。これが倉庫の番号だ。あと、判っていると思うけど……」
「め、滅相もありません。吸血貴族の方々に逆らう真似など、当然!」
念押しのロザーリヤの言葉と、逸の睨目に慌てて首を振る。
吸血貴族の目から逃れるため、共に行動する事は叶わないが、これならば迅速にコトを進めて貰えそうであった。
「いやー。私も友人として鼻が高いよ。それじゃ、よろしくね」
「貴方のこともボーフォート公爵に報告しておこう。良き報告になることを祈っているよ」
冷桜とオスカーの言葉を残し、彼らは屋敷を後にする。
「さて、どうなるかね」
運び出されるまでは見届けるつもりだと微苦笑を浮かべた逸に、仲間達は頷き、彼と共に貸倉庫へと向かうのであった。
斯くして、商品達はエルミタージュ美術館へと運び込まれていく。
遠目でそれを確認した復讐者達は一人、また一人と気配を消していく。
やがて、貸倉庫には人や物、如何なる姿も無くなり、そして、それらが存在していた痕跡すら、綺麗に消失していくのであった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【アイテムポケット】がLV2になった!
【友達催眠】LV1が発生!
【コウモリ変身】がLV2になった!
【強運の加護】がLV3になった!
効果2【先行率アップ】がLV3になった!
【アクティベイト】LV1が発生!
【ドレイン】がLV4になった!
【アヴォイド】がLV2になった!
そして、エルミタージュ美術館。
その中で働くトループス級ヴァンパイアノーブル『ノーブルメイド』達の日々は忙しい。
主であるジェネラル級ヴァンパイアノーブル『死妖姫カーミラ』の身の回りの世話に加え、美術館の維持の仕事もあるのだ。エルミタージュ美術館の広大さを考えれば、猫の手も借りたい忙しさである。
だが、彼女達は不平不満を零すことはない。何故ならば、彼女らには、多大な報酬が支払われているからだ。カミーラの寵愛と言う、何事にも代えがたい報酬が、である。
故に――。
「狩猟公爵ボーフォート様より、カーミラ様へ剥製の献上物が届いています!」
「何だって?!」
トループス級の中でも一際凄みのある少女が、くわっと報告した同僚に睨み付ける。仮にメイド長と呼ぶべき彼女は、カーミラへの愛を公言して憚らない一人だった。――まあ、このエルミタージュ美術館に存在するトループス級、アヴァタール級は皆、同様である気がするが、それは一先ず置いておこう。
狩猟公爵が死妖姫カーミラへ色目を使っていることは周知のこと。その一環がこの献上品――要するに贈り物で気を引こうとしているのだ。それが判らない彼女達ではない。
だが、政治の世界は面倒臭く、カーミラもその中で生きていることを彼女達は承知している。同じジェネラル級クロノヴェーダであるボーフォート公を無碍に出来ない事実に、ただ歯噛みするしかなかった。
(「そもそも、剥製はカーミラ様の寵愛の果てに成る物。それを何と勘違いしたのか、あの豚――いえ、色狂い公爵が……」)
口にすればどんな咎があるか判らない事を、平然と思考に浮かべる辺り、もはやカーミラの狂信者と言って良かった。
「ともあれ、ボーフォート公の献上物を無碍に出来ません。目録を見せて下さい」
嘆息と共に、彼女は目録を受け取る。
そしてそのまま、主の元へと足を運んでいくのだった。
数刻は経過しただろうか。
同僚達の前に戻ってきた彼女は、カーミラの言葉をそのまま伝える。曰く。
「剥製のお披露目舞踏会を執り行うことになったわ。お労しや。カーミラ様……」
乗り気なのか、それとも贈られたからには相応の礼を尽くすべきと言う体面なのか、ともあれ、そうなったようだ。
ちなみに彼女は後者と捉えた様だ。最後の台詞がそう告げていた。
「そんなわけで、ボーフォート公の剥製は舞踏会場に運んで頂戴。それぞれ、ちゃんと飾るのですよ。カーミラ様の恥にならないように。……ああ、でも、こっちの男の剥製は倉庫で良いわ。カーミラ様の美的センスにあわないもの」
「ですが、メイド長……」
トループス級の一人が疑問と声を掛ける。
「仮にもボーフォート公の贈り物。無碍にして良いんですか?」
「むむ。それはそうね。仕方ないわ。舞踏会の間は廊下に立たせておきなさい。ただ、カーミラ様の視線を汚したくないわ。舞踏会が終わったら直ぐ片付けること。いいわね」
「はい!」
斯くして、復讐者達が扮した剥製像達は、急遽、舞踏会場と整えられた広大な展示室に飾られていく。
そして幾何の時が流れ。
舞踏会の開催と相成ったのであった。
リップ・ハップ
今更だけどボーフォートからの献上品が怪しまれねんだ?
私らが罠にかかってる線考えなきゃカーミラはボーフォートの死を知らん?
ならロマノフの現状探んのは空振っかも
【情報収集】はカーミラと剥製に絞るよ
私らじゃなくマジもんの剥製の方ね
美醜にゃ相対評価もある
前見たあの剥製より良い悪い
そゆ話が広がりゃ、剥製にされちまった人の素性とか聴けっかもだ
手ぇ出してる、出そうとしてる場所探れりゃ介入の機会に繋がるっしょ
カーミラの趣味に賛同してる奴の会話要チェックだな
あと【強運の加護】使用、良い設置場所と良い話聞けるようお祈りお祈り
黄金の輝き?美の演出、そこまで含めて作品ですけど??って顔で
や表情変えられんけどな。わはは
開催が決定すれば、そこからはエルミタージュ美術館の面々の動きは速かった。
もしかしたらその迅速さは、クロノヴェーダ達の美点なのかも知れない。
(「今更だけどボーフォートからの献上品が怪しまれねんだ?」)
煌びやかな装飾を身に纏った吸血貴族達を見送りながら、リップ・ハップ(Reaper Harper・g00122)はふむむと思考する。カーミラを始めとした誰も彼もが剥製を吟味し、賞賛の声を上げている。その中に、ボーフォート公爵の献上品である事に疑問を唱える者はいなかった。
(「大領地は広すぎて情報が伝わり辛いって本当だったのか?」)
ともあれ、そのお陰で復讐者達が疑われていないのだ。その状況にのみは感謝を述べつつ、更なる聞き耳を立てていく。
「さすがはボーフォート公爵。これほどの美術品はなかなか手に入りません」
吸血貴族の一体が、そんなリップを見ながら唸り声を上げていた。煌びやかな服装を見れば、彼がそこそこの地位を持つ貴族である事は推察出来た。
そんな彼にカクテルドレス姿の淑女が声を掛けていた。成る程、お披露目舞踏会の名目はあっても、此処は社交の場。それなりの交流、或いは権謀術数が飛び交っているのかも知れない。
「吸血ロマノフ王朝の首都であるこのサンクトペテルブルクであっても、これほどの美しい人間は手に入らないでしょうね」
(「まー、ディアボロスはイケメン美女揃いしな、わはは」)
賞賛を受け止めつつ、しかし、その表情がピクリとも動かないのは流石であった。リップ・ハップ他、ディアボロス達は仕事の出来る者達なのである。
「これほどの美術品を集められるのであれば、カーミラ様がボーフォート公爵を大領主にご推薦されたのも、まさに慧眼と言うべきかと」
「我らの派閥の力を誇示してくれる公は、正に吸血貴族の鑑と言う奴ですな。更なる研鑽を積み、我らの立場を上げて欲しいもの」
「正に正に」
(「……って事は、カーミラって随分偉いんだな?」)
カーミラが中心になる派閥かどうかは別として、その中でもカーミラの地位は結構高いようだ。
さて。この情報がどの様に役に立つのか。
ともあれ、とリップは内心へと刻んでいくのだった。
失敗🔴🔴🔴
イオナ・ガルバローゼ
声を聴くに血盟の友が私達を送り出して下さったようで
これは何かを掴まない事には帰れませんね
残留効果の【強運の加護】を得つつ耳を澄ませ「カクテルパーティ効果」を使いましょう
ロマノフの出身の私達は此処の固有名詞に馴れています
最終人類史のこの時代に居たロシアの著名人の名前に焦点を絞りそこから続く話題に集中してみましょう
恐らく死妖姫カーミラを中心とした話題が多いでしょうが
追跡中のルスヴン卿の所在や動きの読めないラスプーチンやニコライ二世の動向など知りたい事、知らない事は幾らでもあります
名前と地名、そして私達にとって不穏そうなセリフを中心に耳を研ぎ澄まし
このディヴィジョンで何が起きているのかを知りましょう
「さりとて、これほど迄に素晴らしい美術品をお披露目するのであれば、陛下にもご臨席して頂きたかったですな」
じろりと自身を見る吸血貴族の言葉に、イオナ・ガルバローゼ(空染めの一輪・g07485)は内心のみ、鎌首を擡げる。
陛下……通常であれば王族や皇族に使用される敬称だ。改竄世界史吸血ロマノフ王朝に於ける皇族は即ち――。
(「断片の王、ニコライ2世のことでしょうか?」)
「いやはや。しかし陛下もご多忙な御方。カーミラ様の招待を無碍にするとは考えられませんが、しかし、外せぬ用事があったのでしょう。陛下のお心積もりを考えれば、胸が痛くなってしまいます」
「まさにまさに」
やはり断片の王は改竄世界史の支配者、と言う事なのだろう。この場にいない筈の彼(もしくは彼女)に対し、しかし、そのおべんちゃらは熱が籠もっている。それが畏れによる物か怖れによる物かはイオナに判らなかったが。
「皇帝陛下と言えば、私は常々思っているのです。ペトロパヴロフスクのような武骨な場所では無く、この冬宮殿のような華麗な場所に居を構えて欲しいもの、と。さすれば多忙、重畳、重要な責務へ対し、幾何かの慰労になられますのに」
「それは不敬であるぞ。ニコライ2世陛下は、吸血ロマノフ王朝の勝利の為、尽力なさっておられるのだ。むしろ、そのストイックさは貴殿が見習うべきでは無いのか?」
「まさにまさに」
「やや。失敬。失敬。実は先日、私も陛下を見習い、屋敷に鍛錬場を置きましてな。トループス級共に人間の血で血を洗う訓練を行わせている所なのです。これも陛下の真摯さに心を打たれてのこと」
(「いや、見習うなら鍛錬するのは部下じゃないでしょうに」)
吸血貴族的な会話にツッコミを入れつつ、イオナはふむと頷く。
断片の王がニコライ2世であることは概知であったが、その拠点の名を知ることは出来た。それは僥倖ではないだろうか。
(「ペトロパヴロフスク要塞……」)
最終人類史では初代ロシア皇帝ピョートル1世によって作られた星形要塞で、その大聖堂は歴代の皇帝が埋葬された事から、帝政ロシア時代では最も神聖な場所とされた場所だ。
成る程。言われてみれば断片の王の居城として、これほど相応しい場所もなかなか無いだろう。
(「これは……結構な情報ではないでしょうか?」)
果たしてそれを持ち帰れるのかどうか。それは今後の動き次第であろう。
失敗🔴🔴🔴
フェリシア・ヌールリース
アドリブ・連携歓迎
無事に展示されたようで一安心だわ。
と内心でため息をつきつつ、舞踏会の華として舞踏会の様子を静かに観察し耳を澄ませますわ。
特に注目するのは舞踏会に参加した貴族のうちの特に有力貴族風のヴァンパイアノーブルね。
近況はもちろん、ディアボロスに関する話題は聞き逃さないようにしたいものだわ。
これからの展望なんて聞けたりしたら良いのだけれど……
そうでなくても、今彼らがどこでなにをやっているのかなどは聞けさえすれば知っておきたいわ。
何か次の動きに繋がるかもしれないものね。
「ほぅ。これはこれは、なかなかの物だ」
身動ぎ一つ、瞬き一つしないゴシックロリータの剥製――フェリシア・ヌールリース(吸血鬼のダークハンター・g08953)が扮する物だ――に目を留めた一体の吸血貴族が、ふむふむとそんな彼女を観察している。
「欧州調のファッションですな。いやはや、こういうのも一つ、飾りたくなってしまう」
「欧州と言えば、聞きましたか? あの怪僧ラスプーチン殿の噂を。ほれ。機械化ドイツ帝国に失敗した彼の話ですよ」
ゴシックロリータ。最終人類史に於けるゴシック・ファッションは、むしろヴィクトリア朝風やエリザベス朝風と言われ、中世ヨーロッパからは一線を画すと言われているが、この改竄世界史内でもそれは健在の様子であった。
だが、大切なのは衣装の蘊蓄ではない。そこから零れ落ちた彼らの感想だ。
(「怪僧ラスプーチン――?!」)
現在、北欧を荒らすジェネラル級クロノヴェーダの名前である。成る程。ここが吸血貴族達の社交の場であれば、彼の怪僧の名が出てくるのは当然と言えば当然であった。
「今は冬将軍を呼び寄せて何やら画策なさっているようですな」
「名誉挽回に必死なのだろう。先の機械化ドイツ帝国侵攻の失敗を端に、最近は失敗続き。陛下の寵臣の座も、長くはありませぬな」
くくくと笑う一体を、別の一体が窘める。
「やめぬか。そう言ってラスプーチンを侮った物の末路、憶えておらぬのか?」
「そうですよ。ラスプーチンは恐ろしい男です。そのラスプーチンがディアボロスと潰し合ってくれているのだから、我々は高みの見物をさせて頂きましょう」
「その通り。我々はラスプーチンを信じている。信じている故に、手出しをせぬのだよ」
フェリシアを切欠に始まった談笑は、そのままフェリシアを無視して続けられる。どうやら彼の怪僧の話は、吸血貴族達に取って、会話の良き肴のようだった。
(「あまり敬称を多用していないところを見ると、別派閥って事なのかしら?」)
むしろ派閥としては敵対視しているのかもしれない。そんな雰囲気すら感じてしまう。
(「こいつらはカーミラが呼び寄せた筈だから、つまり、カーミラの所属する派閥はラスプーチンと敵対している……と言うことでしょうか。あれ? もしかして、あの爺さん、友達少ないのでは……?」)
意外な処でラスプーチンの単独行動過多な理由を察してしまい、妙に得心するフェリシアであった。
失敗🔴🔴🔴
フルルズン・イスルーン
からだかたーい。氷漬けになるのは二度で充分なのだ。
んー誰が来るかは運任せ、というほどではないけどね。
来てるかどうか。子供向けビスクドール風のつもりではあるんだけども。
ともあれ【強運の加護】は付けつつ聞き耳。
政治的な立場を気にするカーミラという貴族が催す社交の場。
位が高いのは来るのが当然として、ロイヤルファミリーはどうかな?
目当ては5人一組。オリガ、タチアナ、マリア、アナスタシア、アレクセイ。
史実だと1人は悪戯っ娘らしいね。こっちは知らないけど。
こんな場で奔放に振舞えるなら上位の証だ。気配でも目星は付けやすいさ。
少なくともロマノフ王家の評判みたいなのは聞けるかな?
お祈りだねぇ。
くしゃみでそう。
(「むむむ。くしゃみが出そうなのだ」)
フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)はむずむずする鼻を気力で抑え込みながら、ビスクドール風剥製な自分を演じ続けていた。
(「快適な室温って訳じゃないのは致し方ないとは言え、身体が動かせないとどんどん寒くなっちゃうね。きっと、剥製には丁度良い室温なのかもしれないけれども」)
剥製化した復讐者を除き、此処に居る全ての物が歴史侵略者ならば、空調は気にしていないのかも知れない。一度氷漬けになった身の上として、これ以上の寒さは御免蒙りたい話だが、まあ、致し方ない。復讐者は辛いのだ。
(「しかし、いろんな奴がいるのだなぁ」)
魑魅魍魎の巣、と言えばそうだし、そちらの方がまだマシのようにも思えるから不思議だった。
その中にも目を引く存在は数人いた。
例えば翠玉のドレスに身を包んだ淑女。白に近い銀髪と血のような色合いの羽根、赤い爪と朱の瞳が印象的な妙齢女性だった。
例えば頭にベールを纏った白と赤のドレス姿の女性。冠を模した髪飾りと短杖は、それなりの身分の証しだろうか。
例えばゴシックロリータ風の黒服少女。幼く見えるツインテールな彼女は、しかし、何故スカートを穿いていないのだろうか。ストッキングや上裾から覗く鼠径部は布一枚に隔たされるのみで、何と言うか危う過ぎた。
(「あー。やだやだ。めっちゃくちゃ別格なのだ。あいつらもジェネラル級じゃないのか?」)
何れ相対する時も来るだろうが、いまはその時ではない。剥製人形のフリでやり過ごすフルルズンであった。
「やぁ。久々。……時に、此度、見かけなかったが、我らが盟主たる吸血宰相閣下は、現在もモスクワで政務を?」
そんな中、気になる単語が聞こえた。モスクワ。言わずと知れた最終人類史に於けるロシア連邦の首都の名である。
「あぁ、ココツェフ伯爵閣下がおらねば、吸血ロマノフ王朝の政務はまわらぬからな」
「左様か。まあ、サンクトペテルブルクは良い都市だが、現実的な政務を行うならば、モスクワが適しているからな」
(「ココツェフ伯爵? とりあえず憶え、憶え、憶え……」)
単語を心に刻みつけようとしたその刹那。
フルルズンの鼻が、外敵、或いは内分泌の液体を追い出そうと爆発的な反応を行った。
即ち、くしゃみであった。
「ふぇっくしょん!」
「……は?」
剥製がくしゃみをした。
その急遽な展開に追いつけず、目の前の吸血貴族が目を白黒としていた。
失敗🔴🔴🔴
天城・美結
連携アドリブ歓迎
さて、派手に逃げるとしようかな!
《投擲+誘導弾+戦闘知識》+【復讐の刃】で発煙弾を周囲に複数ばら撒いて攪乱
仲間達は残留効果の【完全視界】で妨げにならないから逃走補助にもなるといいな
そして剥製の衣装としてたシーツを動きの妨げにならないよう縛って脱出するよ
恰好はかなりアレだけど煙幕で見えないし問題なし!
肉弾戦メインで闘気が武器なんで準備は殆どいらないから、他の人より早く出れるといいな
先行しながら、壁に当てるとかの《地形の利用》で広範囲に発煙弾をばら撒いて後ろの人の脱出補助をするよ
メイドとの好戦は最低限にしつつも《グラップル+連撃》で応戦
長引きそうなら閃光弾で相手の視界を潰して走るよ
音羽・華楠
――正体に気付かれました!?
迷ってる暇はありません、逃げますよ……!
舞踏会場は、それなりに客の数が多そうですね……。
撤退を遮られないよう、【飛翔】して動きます。
……一応はカーミラの客人である舞踏会の招待客たちは、カーミラの配下たちも無碍には扱えないはず。
私たちと追っ手の間に【トラップ生成】で粘着床などの動きを止める罠地帯を生み出し、それに招待客たちを捕らえることで、追っ手を遮る壁として利用します。
仲間の復讐者が罠に掛からないよう、【パラドクス通信】で注意喚起を。
トループス級は、退路を塞ぐようなどうしても倒さなければまずい個体以外は【飛翔】の速度で振り切る方針で。
攻撃には《雷幻想・瑞鳳》を!
レイラ・イグラーナ
逃げましょう!
言葉少なに他の復讐者と撤退を図ります。
フルルズン様が見かけられた別格の敵。それに彼女たちが客人であるならそれに加えて死妖姫カーミラも。4人のジェネラル級がいる可能性があります。足止めをされるだけでも致命。皆様、足は止めずに参りましょう。
後ろから追ってくるノーブルメイドへ対してはこちらから攻撃を行わず、【反撃アップ】でこちらの足を止められないように反撃のみを行います。
こちらの進行方向へいる敵へは、撃破ではなく突破を優先し攻撃を。
他の復讐者と攻撃する対象を合わせて【手製奉仕・彗】。1点突破で立ちふさがる敵を突き崩し、窓を突き破って【コウモリ変身】の高速飛行で飛び去ります。
八栄・玄才
廊下側から、吸血貴族を巻き込んで吹き飛ばす勢いで扉を蹴破り、退路を開く
ハッ! ジェネラルが何人も
淑女然としたナリだが、どいつもこいつもヤバそうだ
……いや、一人別種のヤベーヤツがいるんだけど
なんでスカート履いてないんだよ……っ
魅力的な戦場だが、生き残ってこその実戦流
ここは退かせてもらうぜ
《トラップ生成》で踏むと汚れるドロドロの罠を設置
これで貴族サマならドレスが汚れるのを嫌って、追跡は部下に任せるだろ
敵の少ない道を【臨機応変】に選んで、外が近づいたら窓でもブチ破って屋外へ
メイドが邪魔してくるならパラドクスで炎の渦の懐に【突撃】して、掌底で【粉砕】だ
外に出たら《蝙蝠変身》で薄暗い路地や森に逃げ込む
内方・はじめ
なんてこと……みんなはバレてるのに、私だけセーラー服で晒しage状態!?
な、なんか周りは無言で頷いたりしてて、すんごく動きづらいわ……
えっと、動いてもいい?
「「「あ、どうぞどうぞ」」」
とか言われても困るけど
さあ、HENTAI紳士達が驚いたり喜んだりしてる隙に、テーブルの下に隠れて、忍び足、情報収集、偵察、看破を活かし、【光学迷彩】、【モブオーラ】で身を隠しながら、敵が少ない窓やテラス等に移動して、騒ぎに乗じて脱出しましょ
出遅れたから、仲間との合流は難しそうだけど、【パラドクス通信】で情報は共有
いいネタなかったし、せめて卓上の旨そうな酒とか、落ちてた書類とかでもくすねようか
ま、まずは逃げるの優先
アレクサンドラ・リーヴェン
はぁ、流石に多勢に無勢ね。
この私が尻尾を巻いて逃げることになるなんて──この屈辱、万倍にして返してやるから覚えてなさいよ!
【トラップ生成】で遅延系の罠を設置。有刺鉄線とかいいわね。ドレスが絡んで動けなくなるでしょう。高価そうだものね、無理に破くのにも心理的抵抗があるんじゃない?
ノーブルメイドたちの相手をしてる暇はなさそうね。
『刻命魔術【風精の嘆き】』で【飛翔】の残留効果を得つつ客の間を縫うように飛行。時折風の刃を飛ばして敵の行動を阻害しつつ、ね。
ロザーリヤ・ユスポヴァ
此度の調査で得た情報は値千金の宝となるだろう
必ず持ち帰らねばならん──誰一人として欠くこと無くな
救援機動力によって美術館の外から駆け付けよう
【パラドクス通信】で中にいる仲間と通話
脱出に用いる窓や出入口を外から解放し館内に押し入る
……分かっていたことだが、収蔵品を吟味する時間はないな
戦いに尽力しよう
敵の足止めには≪幻想贋造『火に溺れる水妖』≫を用いる
『落涙の絵筆』で壁に描いた絵を実体化させ、元から壁に掛かっていたかのように見せかけよう
絵は敵が近づくと火炎を撒き散らし、不意打ちの格好になるな
くくく。まさか剥製に続き絵までも敵とは思うまい?
反撃は『■■■の龍殻』で受け止めて
負傷を抑えながら撤退しよう
ミリアム・ヴォルナー
まあ、この流れは、当初の作戦の想定通りだ
速やかに台座を蹴り飛ばし、隠していた武装を即座に回収
いちいち狙っててもきりがないし、この数の反撃を受けるのは危険だ……迫ってくる敵群へアナイアレイションで最低限の反撃を試み、牽制しつつ退路を確保する
敵の撃破は二の次、まずは最低限の反撃で……なるべく、敵を押し返すことが先決
状況的に、全員が一団で逃げられない可能性もある
【パラドクス通信】で互いの状況を把握し、可能な範囲で支援しよう
必要なら、死なん程度に火力で敵主力を引き付ける位なら、何とかできるだろうしな
兎に角、最寄りの外に通じる窓なりを目指し、外部の仲間の支援があるなら、タイミングを合わせ外部に脱出しよう
フルルズン・イスルーン
んー、きっと埃っぽいせいだね!
掃除ちゃんとやってるー? キミたちの怠慢だと思わないかね。
剥製のお手入れが甘いよー、お手入れがー。
ゆけぃ、ファブリケイト・ゴーレムくん!
バレてしまってはしょうがないのだ。
ゴーレムくんの溶解粒子散布で【泥濘の地】を設置しつつ、
体慣らしの時間稼ぎにテキトーな事言いふらしながら逃げようね。
「おっと失礼。カーミラ様の小粋な催しものさ。少しばかり御観覧くださいませなのだ」
「クレームはそちらのノーブルメイドの方にどうぞなんだよー」
ふはは、来賓への取り繕いと侵入者排除のどっちを優先すべきか迷うが良いわ!
目指すは外への一直線! 壁なり敵なりは溶かして一目散に退散だ!
覚えてろよー!
ロキシア・グロスビーク
アドリブ連携ご自由に
情報のためとはいえ、無茶するね……!
そんなわけで気張るよみんな!寒いとか言わないのっ
温かい言葉をかけて先行した人たちを出迎えよう!
召喚した妖精に語り掛けながら“魔槍”を手に
Moon-Childを両脚に集中、活性化し現場に急行
先行させた妖精が館の外から拝借した氷塊を美術館の窓に投げ込んだり
メイドたちへ氷入りの雪玉や氷柱を喰らわせ混沌とさせ
あとは僕が飛び込みランスチャージ、騎兵隊のご到着だ!
何かに乗ってるわけじゃないけども!
脱出まで大暴れさせてもらうよ!
反撃に対しては妖精たちに拘束者を邪魔させて少しでも威力を減じさせよう
敵は幾らでも沸いてくるしそこそこにして、帰るよみんなっ!
秘めた物事は、些細な事柄から発覚する事もある。
例えば堰。蟻が抜ける程度の穴で、しかし、溜め込んだ水の圧により、それらは決壊する。
例えば城塞。如何なる軍勢も拒む城壁は、しかし、内に免れた内偵一人によって崩壊の道を辿る。
そして今回。
復讐者達の終焉を決めたのは、ただの一人、少女の些細な仕草であった。
否。それは切欠に過ぎない。
どだい、生きている人間が剥製として敵の中枢へと押し入るなど、2023年の技術力、科学力を以てしても無理なこと。むしろ、ここまで保ったことを褒め称えるべきなのだ。
(「――ここに来て――」)
「――剥製じゃねぇ! 人だ! 密偵が紛れてやがった!」
フルルズン・イスルーン(ザ・ゴーレムクラフター・g00240)の零したのは些末なくしゃみで、しかし、目聡いヴァンパイアノーブルの目を誤魔化す事は出来ない。見ればカラコンで偽装した眼球には生気が宿り、肌の質感もただの剥製と一線を画している。潤いを感じない質感も、全て化粧によって再現された物だ。
何より、剥製からは力を感じる。こいつらは――。
「ディ、ディアボロ……うごっ!?」
「虚空より、見出されし、ほつれ」
自身の正体が発覚してから、フルルズンの動きは速かった。即座に両腕のゴーレム術式を起動し、ヴァンパイアノーブルを殴りつける。哀れ、アヴァタール級ヴァンパイアノーブルと思わしき貴族は吹き飛び、そのまま地面を転げ回っていく。
「おっと失礼。カーミラ様の小粋な催しものさ。少しばかり御観覧くださいませなのだ」
集まる視線に、フランス人形宜しくカーテシーのポーズで一礼。
しかし、当然、それで誤魔化し切れるヴァンパイアノーブル達ではない。じりじりと包囲の輪を狭め、フルルズンへとすり寄ってくる。
(「これはアレか? ボク一人か、それとも複数か、迷っていると言う事かな?」)
ならば、その躊躇に付け込むしか、道は無さそうだ。
「クレームはそこのノーブルメイド達にどうぞ、なんだよー!」
三十六計逃げるに如かず。逃げようと踵を返したフルルズンの前で、しかし、巨大な音と共に道が塞がってしまう。否、道は拓かれたと言うべきか。重厚な扉が派手な音と共に蹴り飛ばされ、其処に詰めていたトループス級、アヴァタタール級問わず、吹き飛ばされていく。もはや芸術的とすら思える程、型に嵌まった吹っ飛び方であった。
「助けに来たぞ!」
柔道着姿の青年、八栄・玄才(井の中の雷魔・g00563)であった。
発覚したそのまま、飾られた廊下から舞踏会会場まで一直線で走ってきたのだろう。身体中の化粧がヒビ割れ、粉を吹きながら崩れ落ちている。一時間以上掛けて作られた力作は、ものの数分で灰燼に帰そうとしていたのだ。
「お楽しみ中……って訳じゃねぇな。逃げんぞ! 他のみんなも逃げ出している! 逃げ遅れんなよ!」
「と、当然なのだ!」
遙か彼方から聞こえる歓声は、おそらく彼方此方で剥製の皆が動き出した為だろう。そうでなければこの騒ぎは説明付かない。
(「だけど……」)
その一方で、冷静な自分が囁く。今は混乱しているが、この混乱も時期に終息されてしまう筈だ。
ディアボロス達が生還する為には、この間隙に突くしかない。それは痛いほど判る話であった。
「ディアボロスが剥製に化けてエルミタージュ美術館に潜入した?」
報を聞きつけ、現場に急行するトループス級ヴァンパイアノーブル『ノーブルメイド』。その中心人物たる彼女は、部下の報告にぎりりと歯噛みし、爪を噛み千切る。
「ボーフォート公爵の贈り物に紛れていただと?! あの豚! カーミラ様に色目を使う色情狂! 大領主に推挙された恩を忘れ、この吸血ロマノフ王朝を怨敵に売ったとでも言うのか!」
はしたないが緊急事態だ。廊下を走りながら、悪態を吐く彼女は、しかし、次の瞬間、いつもの冷静な仮面を被る。
「だが、検品はワタシ自らやったはずだぞ! あれは確かに剥製だったはずだ」
「数点本物が混じっていたのは事実です。ですがその、言い辛いですが、完璧な変装だった、としか言いようがありません」
確かに主君の手前、一体一体を斬り裂き、中を見るなどと下賎な真似が出来なかったのも事実だが、それでも、彼奴らを見逃す等とあり得ない! 自身の失態だと唸る彼女に、更なる報告が追い打ちを掛ける。
「しかし、輸送業者は本物。ボーフォート公の部下を名乗る物から仕事を請け負っており、嘘偽りないことは確認できています」
「ただ……ボーフォート公の連絡が以降一切ありません。よもや、彼は吸血ロマノフ王朝を裏切ったのでは無く――」
裏切りよりも最悪な報告に、メイド長はきぃぃと悲鳴――否、憤怒の咆哮を上げる。
「あの豚! 役立たずめ!」
「それと、メイド長。あのー」
それが起きたのは、彼女がトループス級の一体の報告を受けようとしたその刹那であった。
多大な破砕音が響き渡ったのだ。おそらく、壁に何らかの兵器が叩き込まれた音だろう。
「しゅ、襲撃ーーーっ!」
先の報告がその説明だったと知った彼女は、頭を振って走り出す。
よもや敵の襲撃は成立した。だが、この失態を取り戻さなければ。そうしなければ、彼女は全てを喪ってしまう。
(「カーミラ様の寵愛を喪う事だけは――」)
粛正よりも処刑よりも、その最悪の事態だけは何としても回避したい未来であった。
「旧ユスポフ家所蔵品目録。収蔵品92号/『火に溺れる水妖』──贋造。喜べ、火葬の手間を省いてやろう」
壁が砕け、噴き出した炎が周囲を焦がしていく。その炎はロザーリヤ・ユスポヴァ(“蒐集卿”・g07355)によって喚ばれた物だ。
「いやいや。この寒さ、暖かいのは結構だけど……あまり勢いがないよね」
妖精達を束ね、見事な物だと賞賛する彼の名はロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)。ちなみにゴスロリ服を身に纏ったロリっ娘な身なりだが、歴とした男性――所謂僕っ娘と言う奴であった。
「さあ。みんな。がんばろ……って寒いとか言わない! 傍に炎があるんだから頑張る!」
ちなみに冬のサンクトペテルブルクはマイナス10度にも及ぶ寒冷地帯であり、常冬の改竄世界史吸血ロマノフ王朝ともなれば、最終人類史よりも厳しい寒さとなっているだろう。だが、復讐者達もまた、それに適応した能力を有している。それがあればこの程度の寒さ、物ともしないのだ。妖精さん達も張り切って悪戯、もとい、援護を行う筈だ。
その筈だった。
「……ごめん。忘れた」
如何なる残留効果も効果を発揮しなければ意味が無い。
ロキシア処か誰も【寒冷適応】所持していない事に、妖精達は抗議し、「ごめんごめん」と平謝りするロキシアであった。
(「そう言えば、妖精って『生物』なのだろうか?」)
仲間のやり取りに益体も無い事を思いながら、ロザーリヤは更なる力を振るっていった。
復讐者の侵入。合わせて復讐者の襲撃。
双方の伝令は余す所なく、エルミタージュ美術館内に伝わっていく。
それは【パラドクス通信】を有する復讐者達も同じであった。
「総員、逃げましょう!」
無線機に短い言葉のみを叩き付けたレイラ・イグラーナ(メイドの針仕事・g07156)は、イブニングドレスの裾を斬り裂き縛ると、そのまま走り出す。幸い、障害はない。後ろから追ってくるノーブルメイド達を除けば、と言う但し書きが付くが。
(「トループス級のみを倒すのであれば、おそらく成し得ましょう。ですが……」)
気になるのはフルルズンが見たと言う3体の推定ジェネラル級だ。彼女らが本物であれば、カーミラ含め、4人のジェネラル級ヴァンパイアノーブルがこのエルミタージュ美術館内に存在していると言う事になる。それらが気まぐれに出てきただけで致命的だ。逃げるのに集中すべきだと革命家の感が告げていた。
「ああ。そうだぜ!」
隣を走る玄才は後方に【トラップ生成】と【泥濘の地】をまき散らしながら、是と頷く。神妙に頷くフルルズンを回収するついでに、彼奴らを一瞥だけしてきたようだ。歴戦の戦士である彼が神妙に言うのだ。ジェネラル級が纏う闘気は余程の物だったのだろう。
「どいつもこいつもヤバそうだった。特に一人、別種にヤベーヤツがいた。何でスカート穿いてないんだよっ?!」
「何ですって?!」
当然ながら、彼女も着の身着のまま逃げ出してきたのだろう。セーラー服姿の内方・はじめ(望郷の反逆者・g00276)が玄才の言葉に喰い付く物の、生憎、それ以上は彼から紡がれない。鮮血の鞭――当然、ノーブルメイド達による打撃だ――が復讐者達を襲撃したが故に。
「HENTAI紳士に囲まれなくなったと思ったら、今度はSMメイドって、ホント、どうなっているの? ココ?!」
「騒いでいる暇はありません。今は逃げますよ!」
応戦すれば足を止めてしまう。狙いを付けずに術符をばら撒く音羽・華楠(赫雷の荼枳尼天女・g02883)は、鋭い言葉ではじめを窘める。
「来賓達が避難を優先してくれて助かった、と思いましょう。追っ手はノーブルメイド達のみです。ならばきっと振り切れます!」
招待客達を盾にすると言うアイディアは、早々に放棄した。理由は簡単。ジェネラル級の介入を許せば復讐者達も無事では済まないからだ。
ただ、彼女がとりもちをばら撒いたことに、ヴァンパイアノーブル達は幾らかの危機感を抱いたようだ。避難を開始してくれた事に、心底ホッとした。――この吸血ロマノフ王朝に神様がいるのならば、その恩寵に感謝を示したいところだった。
「そうだよ。今ならまだ、逃げ切れる――筈。派手に逃げるとしよう!」
煙幕に閃光弾。爆発物に発煙筒。思いつく限りのありとあらゆる兵器を復讐の刃で具現化しながら、天城・美結(ワン・ガール・アーミー・g00169)も走る。もしもこれが通常兵器ならば一般法則破壊、或いは逆説連鎖戦による反撃で窮地に陥りそうだが、パラドクスだからおそらく押し切れる。そう信じてばら撒いていく。
実際、ノーブルメイド達に牙を剥くのは復讐の刃によるダメージであり、それが攻撃である以上、逆説連鎖戦の反撃対象だが、それでも、虚仮の一念岩をも通すと言った処か。鞭打を幾らか受けつつも、美結の足は止まることは無かった。
「まったく。有刺鉄線を跨ぐ事も躊躇しないなんて、淑女が聞いて呆れるわ!」
その悪態はアレクサンドラ・リーヴェン(吸血姫・g09048)からだった。【トラップ生成】で生み出した足止めは、しかし、あまり望んだ効果を発揮していないようだ。術者の手を離れたトラップは常識内の存在。超常存在である歴史侵略者への効果は薄いのかも知れない。
「流石に多勢に無勢だし、藪を突いて蛇を出す趣味もないから、逃げに徹するけども。――きいっ。悔しい!」
「その悔しさは次回に取っておけ」
狙撃銃に火砲、果てに拳銃までも繰り出し、ミリアム・ヴォルナー(ヴァンパイアスレイヤー・g09033)が牽制射撃を行う。勿論、逃走の為の全力失踪中。狙いを付ける暇はなかったが、牽制には充分であった。
「幸い、前には回り込んでこない。冬運河が見えたら、飛び込むぞ!」
それは、いつぞやの逃走経路だ。運河にさえ飛び込めば、それ以上の追撃はない。ノーブルメイド達の執着次第だが、その為に陽動の伏線も張ってきた。エルミタージュ美術館から離れれば、その間、カーミラへの襲撃が行われるかも知れない。その危険を冒してまで追撃はないだろう。
「ああ。派手に燃やしてきたし、妖精にも暴れて貰った。少なくとも、小隊くらいの兵士が暴れているように錯覚しているんじゃないかな?」
これは救援機動力を用いて一向に合流したロザーリヤの言葉である。ロキシアも達成感に満ちた表情をしていた。妖精が行ったのは事実、雪玉や氷塊の投擲だったが、それでも複数名による攻撃に変わり無い。反撃で少々の犠牲も出たが、それでも変わらず、彼の周りには出番を待つ妖精達が今か今かと待機していた。
「ならば、ボク達のやることは一つだね!」
窓を突き破り、視界いっぱいに運河を捕らえた復讐者の中で、フルルズンが声を上げる。ええ、と頷くのはアレクサンドラ。その二人の言葉を後に残しながら、無数のパラドクスが炸裂する。
それはまるで煙幕の如く、ノーブルメイド達の視界を塞ぎ、進路を妨害していった。
「空の頂より疾く来たれ、天翔ける鳳凰! オン・マユラ・ギランディ・ソワカ!!」
「掃う流跡、煌めく極夜。妖しき暗影が星雲を駆ける」
「押し返す!」
「全員揃ってる~? それじゃ過激なイタズラ、いってみよう!」
雷鳴が、銀針が、爆発する寸勁が、そして魔弾と銃弾、妖精による吶喊と炎の幻覚がノーブルメイド達を覆い尽くす。パラドクスの一斉掃射に、流石のノーブルメイド達も踏鞴踏む他無かった。
そのパラドクスの切れ目に、二つの声が上がる。
奇しくもその声は、前回、エルミタージュ美術館から逃れた復讐者達が上げた物と、同様の物であった。当然だ。一人は同一人物でもあるのだから。
「「覚えていろよー!」」
「この屈辱、万倍にして返してやるから!」
二つの声を尻切れに、複数の水音が木霊し、小型のコウモリ達が飛び去っていく。
それが、エルミタージュ美術館潜入作戦の終結であった。
斯くして、数刻後、パラドクストレインが再度走って行く。
彼の車両の行く先は新宿島。改竄世界史吸血ロマノフ王朝を後にし、新宿島へ向かっていた。
その中に座する復讐者達は一人も欠けることなく、しかし、ボロボロに崩れ大変なことになったメイクや服装を指さしながら互いに笑い合う。賑やかに響き合う声は、何よりの喜び、そして何よりの賞賛であった。
笑い声は響いていく。まるで、皆の無事を祝う宴の様に、何時までも、何時までも木霊していた。
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
効果1【操作会得】LV1が発生!
【飛翔】LV2が発生!
【スーパーGPS】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
【建造物分解】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
【エアライド】がLV2になった!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【命中アップ】がLV4になった!
【反撃アップ】LV2が発生!
【凌駕率アップ】LV1が発生!
【アヴォイド】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV7になった!