リプレイ

●Bubbly Night Fever!!
泡除けのテントにはビニール製の暖簾がかけられ、天井で乱舞する照明がダンスホールを演出する。
　アップテンポなダンスミュージックが流れる会場には、【箱家】の面々の驚く声が響いた。
　開発部いわく『泡には保湿成分のある、肌に優しい特製リキッドを使用しています』と誇らしげに騙っていたとか。
「楽しそうなイベントの開催、ありがとーございます！」
　会場スタッフへ向けて南雲・葵（お気楽姉弟の弟の方。・g03227）は「メリークリスマース！」と大手を振り、軽く食事を済ませた面々がテントを出る。
　ホール内は雪の代わりに泡が降り積もって、カラフルな光で照らされていた。
「クリスマスパーティー、ダンスパーティー……ボクはどちらも初めてなので、ドキドキします！」
「わ、私もダンスパーティーは初めてですが、クリスマスは親しい相手と過ごすお祭りだと聞きました。皆で楽しむことが作法かもしれませんね」
　白いラインの入った赤ジャージを着込むフウガ・ミヤビ（風来楽師・g06359）は、落ち着かない様子で場内を見回し、一騎塚・喜一（一騎刀閃・g04498）も緑のツナギ姿で準備バッチリ。
　帽子があれば、配管工の兄弟のようにも……いや、気のせいだろう。
「うわっ！　そこら中が泡だらけでほんとに雪景色みたいだわ！　……って、朱士と百。頭のそれって」
　リディエッタ・ジーベル（半壊歌うたい・g06710）がふと視界に入りこんだ空木・朱士（Lost heart・g03720）と一・百（気まぐれな狐・g04201）を見ると、朱士はトナカイ風カチューシャを、百は赤と緑の髪留めで前髪を留めていた。
「リディエッタはミニスカトナカイ？　トナカイでお揃いだな」
「……気持ちクリスマスカラー、ってことで。サンタもトナカイも揃っているから」
　クリスマス仕様な二人に「似合ってるわよ」とリディエッタが笑顔を返す隣で、ミレイ・ドリムータ（空虚と向き合う少女・g01550）は感心したように両手で泡を掬う。
　本日のパーカーは緑、髪を結ぶシュシュは赤にしてクリスマスカラーも取り入れ、スフィンクスのデュークにはクリスマスツリーの被り物を装着。
「泡パーティーなんて始めて知ったけど、寒くないのはいいわね」
　さて、ダンスパーティーなら“踊ること”が主旨に含まれるが、フウガは“新宿の踊り”を見たことがなく。
「新宿の音楽は律動が激しいのですね……どんな踊りをするのでしょうか？」
「プロ級のダンスは俺もできねーけど、音楽に合わせて“縦ノリ”すればいいんじゃね？　こうやって――」
　アンプから響く重低音に合わせ、朱士は身体体を上下に揺らしてビートを刻むリズムをとる。
　Dam,Dam,Dam,Dam――見よう見まねでフウガも真似してみる。雅楽に比べてBPMは段違いに速いが、音の流れと一体化するような……不思議な感覚を覚えた。
「音楽もノリノリで楽しー！　テンション爆上げだなっ」
　オラトリオの梓も葵に合わせるように体を揺らし、ミレイとデュークと一緒にダンスを楽しんでいるかのよう。
「泡だらけのダンスパーティー……お伽噺の世界のようね」
　身体体を冷やさないよう【寒冷適応】を発動させ、高めに髪を結んだシャルロット・アミ（金糸雀の夢・g00467）もショートパンツとパーカーのアクティブな装い。
「踊りはよく分からないけど……泡いっぱいの空間も面白いな、なんとなくワクワクする」
　百が泡を掬ってばらまいているところに、
「――……それっ」
シャルロットがモーラットのモラさんと一緒に、ぶわっと泡を浴びせかけた。
　意外な“刺客”の奇襲に百が固まっていると、
「きゃっ！？　……もう、ビックリしたじゃん。お返しいくよデューク！」
　流れ弾（泡）を受けたミレイとデュークが参戦！
「さあ、来なさい――泡攻撃！」
　全身泡だらけのデュークが百に飛びつき、ミレイの反撃に、シャルロットとモラさんが二人がかりでお返ししつつ【飛翔】していく。

　――勢いよく振りまかれる泡の大乱闘は、他の面々にも波及していき。
「今年のクリスマスはホワイトクリスマス……否、泡祭りだー！！」
【飛翔】する葵と梓が、天井ギリギリから抱えた泡をぶちまけ、
「二人ともー、届いてるー？」
「噴き出た泡が雪みたいに振ってきて……凄く、楽しいです……！」
　大砲じみた泡マシンの向きを変えて、リディエッタが中空に居るシャルロット達を狙い、喜一は場内に泡の山脈を作っていく。
　気付けば全員、泡まみれとなって羊さん状態だ。
「泡が降ってくる……雪みたい」
「全身泡だらけって、なんかテンション上がるなーハハッ！　百も見てないでおっ被っとけ！」
　泡の飛沫を眺めていた百めがけ、朱士が泡の波を巻き起こそうとした瞬間。
「――！」
「うわっ！？」
　ジンのキューコンが泡の山から飛びだし、驚いた朱士は尻餅をついて泡に飲まれ
「おりゃあ特盛泡じゃ～！」
　立ち上がる勢いで両腕いっぱいに泡を抱え込んで、そのまま百へ突撃！
　泡まみれになりながら攻防を繰り広げる朱士と百を、頭上で見ていたシャルロットは笑みをこぼし、
「あ、折角のダンスパーティーだもの。踊っておかないとっ」
　着地したシャルロットは泡の中でくるりとターンし、そのままキレのあるダンスを披露。
　チルアウトした曲調に合わせ、バレエの動きにアドリブを加えたジャズダンスを披露し、フロアを独壇場にしていく。
「シャルロットかっこいいー！」
　リディエッタが歓声をあげ、まだぎこちなく体を揺らすフウガは目を丸くする。
「さすがですね、踊りもお上手で――えぇっ！！？」　
「あっ、フウガさんだいじょうｂ……きゃああ！」
　……豪快な転びっぷりで、リディエッタ達のモコモコレベルが上がった。
　泡を吹き散らしながら場内の様子を見ていた喜一だが、
「こういう時、踊れたらもっと楽しかったろうなぁ……いえ、今日は踊る以外にも楽しみ方があるはず！」
　バブルマシンから手を離し、泡の乱れ飛ぶ中へ自ら飛びこみ、【飛翔】していた葵と梓もフロアに降りていく。
「デュークってば、羊みたいになってるじゃん？　それじゃあ、そのまま喜一に突撃！」
「ふふ、ミレイさんもデュークも泡まみれだわ！　ついでにわたしも援護するわよっ」
　ビシッと指差すミレイの指示に、デュークは喜一めがけて滑空すると肩に前脚をかけてひっつき、リディエッタも続けて泡を打ち上げる。
「え、ちょ、二人、いえ三人？がか……っふふ、デュークさんくすぐったいですよ！」
「よーし、喜一の助っ人に俺参戦！　姉貴と一緒ならイーブンだよなっ」
　すかさず葵が割って入ると、ミレイ達めがけて豪快に泡を飛ばし、百と朱士も乱入していく。
　積もる泡は波のように激しく揺れ、白波のように細かな飛沫が飛び交い、
「もきゅー！」
「……モラさん、今、ぶつけたわよね？」
　テンションが上がったのか、モラさんも小さい手でふわふわ泡を散りばめていたら、踊るシャルロットに直撃。
「もきゅきゅっ！」
「またやったわね！？　もうっ、二発目は誤射にならないわよ！」
「フフ、泡だらけになるなんて想像がつきませんでしたが……雪合戦とはまた違う趣がありますね」
　シャルロットとモラさんのやりとりを微笑ましく見ていたフウガも、泡かけ合戦の中へこっそり参戦しつつ。
　真っ白白の泡の中で転んだりしながら、柔らかな泡で包まれていった。

　――頭の先から爪の先まで泡で濡れそぼり、一時休戦という名の小休憩へ。
「泡でおヒゲっぽくしたらもっとサンタさんぽいかもしれませんね。顎の先に……」
　スマホで記念撮影する前に、喜一が葵に泡のヒゲを添えて――Say Cheese!!
　バッチリ思い出の一枚を収めてから、改めて自分達を見合う。
「……あはは、皆もうすっかり泡まみれですね！」
「だな、モコモコになっちまった！」
　張りついた泡を払い落としながら、自分も含めて泡まみれな姿に、喜一と葵も思わず笑いがこみ上げた。

「“童心に返る”ってこういう時に言うんだろうな。……はー、めちゃくちゃ笑ったぜ。つか、オーナメントにもライトが当たってキラキラしてんな」
　シャンパン風のサイダーを口にしながら、朱士は壁に並ぶクリスマスオーナメントを見つめた。
　あれも新宿島に住む人々が用意してくれたものだろう。
　……オーナメントの反射光は燦然と輝き、星空を想起させる。
「こんなに楽しい機械があるなんて思わなかったわ。おかげでモラさんも大はしゃぎだったわ」
　でも“おイタはダメ”と叱るように、シャルロットはモラさんの両端を掴んで強めにモミモミ。
「泡マシンとダンスを合わせるって、開発した会社もよく思いついたわよね」
「楽しいモノ＋楽しいモノ＝もっと楽しくなるってことかしら？　……うん、相乗効果はバッチリあったのだわ」
　泡だらけのデュークをキレイにするミレイのコメントに、リディエッタも感心して大きく頷く。
「……空気の乾いた土地では体験できないだろうな。いい経験になった」
　百の脳裏にふと“砂漠の光景”が過った。
　乾いた風と砂埃が舞う中で、これほどの泡が生まれることはない……幸運なことだ、と心の中で呟く。
「音楽も光も泡もキラキラですね……おや、あれは」
　温かい緑茶で一息ついていたフウガは、見つけた背に声をかける――時先案内人の宮尾川・ライラ（蛇姫・g03335）だ。
「楽しいイベントを開催してくれてありがとうございます！」
「いいのよ、今日は戦勝祝いも兼ねてるからね。楽しんでくれたら嬉しいわ！」
　ライラの返答に、フウガはおかしそうに口元を押さえ、
「そうですか――では、感謝をこめて」
「大量の泡のプレゼントだぜー！！」
　フウガの背後から葵達が飛びだし、泡の大津波でライラは一瞬で泡まみれに――！
「それじゃ第二ラウンド、いくわよ！」
　ミレイの号令によって泡合戦、第二陣へ。
　泡のシャワーが会場中に舞い降り、白く染まったフロアに賑やかな気配が溢れていく。


●希う
（「最終人類史のダンスパーティー……って、とても独特なスタイルなのね」）
　新宿島でそれなりの期間を過ごしているグレーテル・ベッカー（人間のレジスタンス諜報員・g01436）だが、“泡を浴びながら踊る”という内容には少しばかり驚かされた。
　しかし得意とする“ダンス”の会場と聞いては、スルーしてしまうのも勿体ない気がして……来場した次第。
「どういった意図があるのか把握しかねたけど……こう、子供心をくすぐられるというか、気分が盛り上がるのね」
　ひとしきりダンスを楽しんでから、グレーテルがグリューワインとレープクーヘン――伝統的なドイツのクリスマス焼き菓子――を摘まんでいると、全身泡まみれの宮尾川・ライラ（蛇姫・g03335）が飛びこんできた。
「そろそろ時間ね……お疲れ様、楽しいひとときだったわ」
「楽しんでもらえてよかった！　最後に、一個だけお手伝いしてもらえる？」
　――ライラとグレーテルはマイクを手にして、会場の中心へと躍り出る。

　会場内に響いていた音楽はゆっくりと小さくなり、グレーテル達の挨拶が始まった。
「エジプト奪還戦、お疲れ様。戦勝祝いも兼ねたパーティーはとても楽しかったわね。私も久しぶりに心行くまで踊れたし、素敵なクリスマスを過ごせそうな気がする」
　クリスマスという特別な日を目一杯楽しんで、グレーテルは満足そうに瞼を細める。
　その言葉にライラもニッコリ笑顔を浮かべ、
「辛いこと、悲しいこと、これからもいっぱいあるかもしれないけど……アタシら時先案内人が全力でサポートしていくからね！」
　パーティーが終わり、会場を出てきたグレーテルは夜空を見上げた。
（「どうか、今日の笑顔がずっと続きますように……」）
　グレーテルは両手を組んで、そっと目を閉じた。
　光り輝く星々に祈ろう。生けとし生ける者に安寧があらんこと。
　――そして聖なる夜は過ぎて、新たな年がやってくる。

最終結果:成功
完成日	2022年12月26日