リプレイ
一蝶・信志
「囚われのヒロイン」は全乙女が一度は憧れるシチュエーションよね
案内人さんにも「ぜひともやってくれ」(※そうは言っていない)って言われてるわけだし
僭越ながら、その大役――ワタシが演じ切ってみせるわ!(カッ)
市民の会話に首を突っ込んで
議論を煽ってみましょ
そうね、論旨はこうよ
ロココの花咲くパリに無粋な機械なんて要らないよ
自然の描く優美な曲線、色彩こそがこの街にはふさわしい
それに「便利だから」なんて呑気に構えていると
いつかは仕事を機械に取られちゃうに決まってる
無事にヤカラが目をつけてくれたところで
人気のない場所を歩いてわざとスキを見せるわ
さあ、――さあ!
早く襲ってちょうだい!
あっ、ヤダ、顔はヤメテ!!
ロキシア・グロスビーク
アドリブ連携ご自由に
喧嘩売ればいいの?それならヨユーだね
はー?性急な機械化とかマジださいんだけど!
仕事なくなる人の事考えたことあるの?貧すれば鈍するってゆーでしょ
路頭に迷う人が出ると治安が悪くなるんだから!
補償もなしに機械化進めるとか無能の極みだね!
ざぁこ❤ざこざこ政策❤オイルくっさ❤
ちょっやめて……僕に乱暴する気でしょ!
ソドム百二十日あるいは淫蕩学校みたいに!(※1)
ジュリエット物語あるいは悪徳の栄えみたいに!(※2)
(※1ナポレオンから発禁処分を喰らった小説)
(※2作者がナポレオンから逮捕を言い渡された小説)
ってなにすんのさ!乱暴に担がないでよ!
可愛い子を連れてくならムードってものを……
鳴神・雷羅
ドイツの残党が紛れ込むとしたら、まずここだろうとは思っていたさ
ナポレオン一派だって、ゾルダートの技術は喉から手が出るほど欲しいだろうしな
まあいいさ、とりあえず派手に騒いで目立って、
ハンシャの連中に目をつけられればいいんだな?
いよいよこいつが唸る時が来たぜ
エレキギター「ライトニングV」をかき鳴らし
地獄の底から響くデスボイスで凶悪な歌詞のデスメタルをがなり立てる
それは最早聞く凶器。歩く騒音。
鉄錆び薄汚れた背徳の街は
血と臓物と機械油に塗れ
腐り果てた悪意が魂をドロドロに穢す
それは地獄!この世の地獄!
くっせえ、くっせえ、くっせえわ!
あとは適当に暴れてから捕まってやりますかね
あたいの魂のシャウトを聞けー!
●序幕
人気のない裏通りに、JR山手線の車両に似た列車が停まっていた。
異様な光景ではあるが、その列車がパラドクストレインとなれば、話は別だ。
「今回の任務の第一段階はヨユーだよね」
車両側面に並ぶ黄緑色の扉が一斉に開き、ゴスロリ調の衣装を纏った十歳前後のディアボロスが降り立った。
彼の名はロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)。
そう、彼女ではなく、彼である。顔立ちも服装も少女のそれだが。
「機械化を歓迎している人たちに喧嘩を売ればいいだけなんだからさ」
「ヨユーかもしれないけど――」
続いて降りてきたのは、三十がらみの色黒の男。
一蝶・信志(シンディ・g04443)である。
「――気を抜かずに行こうよ。『これほど重要な任務を任せられるのはおまえたちしかいない。くれぐれも頼んだぞ』と言ってくれた令震の期待に応えるためにもね」
「……そんなこと、言ってたっけか?」
首を捻りつつ、凶悪な面構えをした若い女が降車した。
鬼人の鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)。一応、この三人の紅一点である。
『一応』が付くのは彼女のせいではない。黒二点のほうが些か特殊なのだ。ロキシアは所謂『男の娘』であるし、信志はといえば――
(「そうよ! 期待を裏切るわけにはいかない! 魔法少女シンディ、花の十八歳! この大役を必ず果たしてみせるわ!」)
――オネエ言葉のモノローグから判るように心は乙女寄りなのである。
シンディ(十八歳)こと信志(三十二歳)の中でめらめらと燃えている闘志の炎に気付くことなく、紅一点の雷羅は腕を何度も回して凝りをほぐした。
そして、背中にかけていた武器――頑丈そうなエレキギターを前面に構え直した。
「いよいよ、こいつが唸る時が来たぜ」
●一蝶・信志(シンディ・g04443)
ワタシたちがやってきたのは街角の小さな広場。
さあ、どうやって皆の耳目を引こうかしら?
と、思案していたら――
『ぎゅいぃぃぃ~ん♪』
――轟音というか騒音が鳴り響いた。
雷羅がアンプ内蔵らしきエレキギターを奏き始めたのよ。
道行く人々は足を止め、目をまん丸にして彼女を見た。めちゃくちゃパワフルな演奏だからでしょうね。
しばらくすると、もっとパワフルなものが加わった。
歌声よ。
「鉄錆び薄汚れた背徳の街はぁー♪ 血と臓物と機械油に塗れぇー♪」
グラインド感たっぷりのギター音に乗って流れるは狂獣の嘔吐か悪魔のゲップかというデスヴォイス! きゃー、素敵ぃ!
「腐り果てた悪意が魂をドロドロに穢すぅ♪ それは地獄! この世の地獄!」
「ぢごく! ぢごく! ぢっごっくぅ~!」
ちっちゃい体を左右に揺らして、ロキシアがコーラスしてる。かわいー💖
じゃあ、ワタシはダンスで盛り上げましょうか。そーら、モンキーダンスよ、モンキーダンス。一周してオシャレな印象を与えるように、あえてちょいダサな感じで……とか狙ったりするのは野暮よね。頭を空っぽにして、踊りまくりましょ。ゴーゴーゴォーッ!
●ロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)
「くっせえ、くっせえ、くっせえわぁーっ♪」
サビのシャウトを締めにして、雷羅ちゃんは熱唱と演奏を終えた。でも、目はまだまだ爛々と光り、殺気とも狂気ともつかぬオーラが全身から発せられているような気がする。武道で言うところの残心?
「ねえねえ」
僕は体を揺らすのをやめて、残心中の雷羅ちゃんの肩をつんつん突っついた。
「機械化を批判してるのに電気楽器を演奏するのって、なんか矛盾してない?」
「うっせーわ!」
うっさかった? ごめーん。
「ブラボー! ブラボォォォーッ!」
信志くんが拍手の音を響かせた。
周囲の人たちは『はあ? なに言ってんの』みたいな顔をして睨みつけてきたけれど、そんな冷ややかな視線に動じる信志くんじゃない。
「いやー、共感せざるを得ない歌だったよねえ。やっぱ、ロココの花咲くパリに無粋な機械なんて要らないよ。この美しい街に相応しいのは自然の描く優美な曲線! そして、色彩! 皆もそう思うだろう?」
「思いません」
と、市民Aが被せ気味に反論した。
「ユービなキョクセンだのなんだのが街から消えたところで、誰も困りませんよ。むしろ、喜びますね。それらが消える代わりに便利な機械が増えるんですから」
「やーれやれ」
肩をすくめて、かぶりを振る信志くん。通販番組のMC並みにわざとらしい仕種だね。相手をイラっとさせるコツを心得てるな。
「『便利』という名の甘い毒に気持ちよく浸っているいられるのも今のうちだよ。だって、いずれは仕事を機械に取られちゃうだろうからね。そう、キミも! キミも! キミも!」
信志は市民たちに次々と指を突きつけた。
「職を失って浮浪者になることが運命づけられているんだよ。せいぜい、祈っておくんだね。物乞いにお金を恵んであげる程度の慈悲を機械サマが持っていることを……」
●鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)
「そーそー! 信志くんの言うとおり!」
と、ロキシアが頷いてみせた。
「まあ、運良く自分がプーにならなかったとしてもさー。機械のせいで路頭に迷う人が増えることに変わりはないんだよ? そうなったら、きっと治安も悪くなるね。ほら、貧すれば鈍するってゆーじゃない?」
ロキシアはニッと笑ってみせた。上げられた口角と下げられた目尻から悪意がぽたぽた滴り落ちてる――そんな笑顔だ。女子と見紛う可愛らしい面をしているだけに憎たらしさも一入だぜ。
「てゆーか、貧する前から鈍しちゃってるよ。おつむがちゃんと動いてるなら、機械化政策なんてダサい代物を受け入れたりしないでしょ。そんな政策をなんの補償もなしに押し進めてる不滅だか仏滅だかのメイも大概だよね。無能の極みって感じ! ざぁ~こ❤ ざこざこメイちゃん❤ オイルくっさー❤」
「ざぁ~こ❤ ざこざこ~❤」
信志も一緒に囃し立てた。こいつら、本当に楽しそうだな。
俺も参加しておくか。相棒『ライトニングV』を再び奏でながら、デス声で、と……。
「ザァゴ! ザゴザァーグウォォォ!」
なんか違うなあ。
だけど、効果は抜群。市民たちは皆、顔を真っ赤にして怒り狂い、罵声をぶつけてきやがった。いいぞ、いいぞ。ヘイト上等、炎上歓迎。きっとハンシャの奴らもこの騒ぎを嗅ぎつけて、アタイたちに目をつけたことだろうよ。
●再び、一蝶
広場でのパフォーマンスを終えたワタシたちはそぞろ歩きをしている風を装って、狭い路地裏に入った。え? 激怒していた市民の皆さんはどうなったのかって? 雷羅にギロリと一睨みされたら、黙り込んじゃったわよ。
「待ちな」
背後から声がした。聞いただけで外見が想像できちゃうような声。
ロキシアや雷羅と一緒に振り返ると……想像通りの連中がいたわ。全身で『俺たちはヤクザ者です』と主張している三人組よ。
傍から見たら、緊張感漲るシチュエーションに思えるでしょうね。でも、ワタシの胸を満たしているのは期待と喜び。だって、囚われのヒロインというのはすべての乙女が一度は憧れるシチュエーションですもの!
さあ、はやくワタシをさらってちょうだーい!
●再び、ロキシア
ん? 『ワタシヲサラッテチョウダーイ!』というハイテンションな心の声が聞こえてきたような……いや、きっと気のせいだね。
その幻聴に触発されたわけでもないけれど、僕はこの状況に相応しい役を演じることにした。
嗜虐心をそそるか弱い女の子の役だよ。
「きゃー!?」
恐怖に目を見開き、甲高い悲鳴を三人組にぶつける。
「なんなの、あんたたち!? も、もしかして……僕に乱暴する気? 『ソドム百二十日あるいは淫蕩学校』みたいに! 『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』みたいにぃー!」
「なんだそりゃ?」
雷羅ちゃんが小声でそう呟くと、信志ちゃんもまた小声で応じた。
「マルキ・ド・サドのブンガクショーセツだよ」
「サド? ああ、あいつか。一度、ブッ飛ばしたことがあるよ」
そういえば、このディヴィジョンでのサドは淫魔だったね。
●再び、雷羅
きいきい騒ぎ立てるロキシアに対して、三人組は鬱陶しそうな顔を見せた。
「勘違いしてんじゃねえよ」
「ガキなんざに興味ねえわ」
「……そ、そうだ! 興味ないぞ! ぜっんぜん、興味ないぞ!」
いや、よく見ると、鬱陶しい顔をしてるのは二人だけだ。残りの一人は鼻息を荒くして、ロキシアをガン見してやがる。ヤバい奴だな。
「しかし、興味はなくとも見逃すわけにはいかねえ」
「獲物は多けりゃ多いほど良いからな」
「他の組はどうだか知らないが、俺たちは歩合給だし……」
世知辛い事情を口にしながら、三人組はこっちに向かってきた。
そして、向かって右端の男が棍棒を一振り。
標的は信志だ。
「あ? 顔はやめ……とぅえぇぇぇーっ!?」
横っ面に棍棒を叩き込まれて、信志は昏倒した。演技だろうけどな。
「なにすんのさ! 乱暴にしないでよ! 可愛い子を連れてくなら、もっとムードってものを……」
ロキシアが真ん中の男に担ぎ上げられた。手足を必死にバタバタさせてるが、それも演技に決まってる。その気になりゃあ、こんな奴らなんぞ一捻りだろう。
で、残ったのはアタイと左端の男。そう、例のヤバい奴だ。そいつはロキシアを担いでいる男を羨ましげに見ていたが、なんとか煩悩を抑え込んだらしく、アタイに向き直った。
さーて、どうしたもんかな?
他の二人みたいに無抵抗で捕まっちまうのはちょっと不自然だし……形だけでも抵抗しておくか。
形だけっつっても、相手のほうは『形』を留めちゃいられないだろうけどな。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【友達催眠】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
エリザベータ・シゲトヴァール
●心情
パリっ子……。忌むべき敵国民。憎いったらありゃしない。
けど、私も一度は故郷を奪われた身。だから自分の街が機械化されていくのを憎む気持ちは痛い程分かる。
私の同胞達も、数え切れない程切り刻まれた。あんな悪夢は、もう沢山よ。
●行動
当時の現地人の服装を調達し潜伏。
【過去視の道案内】を発動させ、秘密工場に通じる道筋を探すと同時に、可能ならその物量も併せて情報収集。
秘密工場付近の人気の無い路地で待ち伏せると共に、機械化された設備や施設を舌打ち交じりに蹴り飛ばす等して挑発し敵の目を引く。
『まったく風情の欠片もあったもんじゃないわ。何なの、この鉄屑……』
『センスが無いわ。脳みそまで錆びてるんじゃない?』
神刀・総二
要は目立つように反機械化をうたえばいいと言う事だな。
それならとにかく直接声を上げてしまうのが一番早くて確実な気がするな……ただ周りが無関心だと意味が薄いか
まずは【情報収集】して、なるべく賛成派が多く集まる場所で【大声】で反機械化を叫んで目立とう
機械の身体など必要ない、わざわざブリキ仕掛けのポンコツになる必要などあるか?
とか、そういうちょっと程度の低い感じで
とりあえず取り押さえに来たら少々は抵抗してから大人しく捕まるとしよう
アルガ・ナスガ
機械の身体を求めているのなら、意思を尊重してもいいけど、今日的に改造はいただけないわね。
ここは正攻法でサキュバスっぽく主張したほうがいいかしら
「機械の身体、そんなにカチカチになっちゃって本当に大丈夫?鋼の体で、温かい温もりを感じることはできるかしら?」
あ、何かすごいサキュバスっぽい
「それにほら、親からもらった身体を捨てるのってどうなのかしら? 大事な親子のつながりを切るってことに繋がるんじゃないかしら? きっと親御さん悲しむわ! あ、それとも親子の縁が切れてしまったら私がママになってもいいのかしら!?私の赤ちゃんになってもらっても……あああ〜」
つい自分の欲望が出ちゃったけど、連行されるならOK
●幕間
パリの街角に二人の女と一人の男の姿があった。
彼らや彼女らもまたパラドクストレインでこの地にやってきたディアボロスである。
「大丈夫ですか?」
「……え?」
サキュバスの娘に問いかけられ、焦茶色の髪の娘が俯き気味だった顔を上げた。
二十歳前とは思えぬ大人びた雰囲気を漂わせた前者はアルガ・ナスガ(はみんなのママになりたい・g07567)。
小柄で痩せぎすながらも芯の強さが瞳に表れている後者はエリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)。
「大丈夫って……なにが?」
「なにやら浮かない顔をされてましたよ」
「ああ……なんでもないわ。ちょっと昔のことを思い出してただけ」
「そうですか。でも、なにか悩み事や心配事があるのでしたら、このマ……いえ、私に遠慮なく相談してくださいね」
「え? 今、『ママ』って言いかけなかった?」
二人の会話はおかしな方向に転がりかけたが――
「そろそろ、行くぞ」
――黒一点に促され、中断を余儀なくされた。
その黒一点は、真面目そうな顔をした蓬髪の青年。名前は神刀・総二(闘神・g06384)。幼少の頃より己を鍛え続けてきた格闘家である。
●アルガ・ナスガ(はみんなのママになりたい・g07567)
私と総二さんは大通りに出ました。エリザベータさんはいません。いつの間にか姿を消してしまったのです。
「まずは目的に適った場所を探そう」
総二さんは通行人に声をかけ始めました。
そして、世間話という体で聞き込みをして『目的に適った場所』を探すこと十数分……見つけました。小汚い裏通りの一角にある、小汚い男の人たちが集まった、小汚いカフェです。花の都に『小汚い』なんて形容詞はそぐわないと思う向きもあるでしょうが、実際のところ、小汚い場所は少なくありませんし、『小』がつかないほどに汚い場所だって少なくないのです。しかし、機械化が際限なく進んでいけば、ゴミ一つない奇麗な街になるかもしれませんね。清潔感の代償として生活感が消え失せてしまうでしょうけれど。
小汚い男の人たちは小洒落たカップ(そう、カップだけは小汚くありませんでした)に入ったコーヒーを啜りつつ、機械化談義に花を咲かせていました。いえ、機械化礼賛と言うべきでしょうか?
「パリの街も住みよくなったなあ。これも機械化政策のおかげだ」
「うん。あれもこれも便利になってよぉ。なんつーか、こう……未来に生きてるって気がするぜ」
「ホント、ミライ感あるよなー。ジャンが言うには、このカフェクレームも電気式半自動カフティエールで煎れたんだと」
「どうりで味がまろやかだと思った」
『まろやか』だそうですよ……。
●神刀・総二(闘神・g06384)
男たちのやりとりに呆れたのか、アルガさんはくすくすと苦笑している。
それに気付く様子もなく(あるいは既に気付いており、彼女の目を意識した上で?)男たちは下世話な話を更に下世話な方向に加速させた。
「どうせなら、俺っちの体も機械化してほしいもんだ」
「そうだろう、そうだろう。馬鹿息子が寝たきりになっちまったもんな」
「寝たきりじゃねーし! めっちゃ腕白坊主だっての!」
「しかし、まあ、アレを機械化するってのは悪くない話だわな」
「うん。カッチカチになるから、モッテモテになるぞぉ」
と、そこへ――
「でも、カチカチになるのがそんなに良いことかしら? 鋼の体では肌の温もりも感じられないんじゃないの?」
――アルガさんが話に割り込んだ。くすくす笑いを妖艶というかアブない微笑に変えて。
男たちはぽかんと口を開けて、彼女を見つめるばかり。虚を衝かれて言葉が出ないらしい。まあ、俺も同じ状況に置かれたら、似たりよったりなリアクションしかできないかもな。異性と話すのはちょっと苦手だから。
「それにほら……親からもらった大事な体を捨てるのって、どうなのかしら?」
と、アルガさんは男たちに語り続けた。
「生身の体を捨てるってことは、自分を生んでくれた親子との繋がりを絶つも同然よ。きっと、親御さんは悲しむわ」
おや? 家族の話を持ち出してきたぞ。意外と(なんて言うのは失礼だが)真面目な人らしい。先程の『アブない』という印象は俺の早とちりだったようだ。
「あ? でも、親子の縁が切れてしまったら、私がママになってもいいのかしら!? そう、あなたたちのママに! ねえ、私の赤ちゃんになってくださる? 私の赤ちゃん! 赤ちゃーん! あああぁぁぁ……」
……あー、早とちりじゃなかったな。拉致を請け負ってるのは反社会勢力の連中らしいが、アルガさんをこのまま暴走させておくと、社会的な勢力のほうに目をつけられるかも。
なんにせよ、彼女だけに任せてはおけないな。
「赤ちゃんになってやれよ」
と、俺は男たちに言ってやった。
「そのほうがマシだろ。ゼンマイ仕掛けのブリキのポンコツになるのに比べたらな」
挑発の意をしっかり込めたが、男たちは(ちょっとばかり気色ばんだものの)殴りかかってきたりはしなかった。
しかし、べつに構わない。どこかで反社会的勢力の連中が見てれば、それでいいんだ。
●エリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)
アルガさんに指摘された通り、私は浮かない顔をしていたかもしれない。クロノヴェーダに囚われているというパリっ子たちのことが頭に引っかかっていたから。
自称か他称かを問わず、『パリっ子』というのは憎たらしい存在なのよね。だって、私が生きていた時代/世界では忌むべき敵国民だったのよ?
でも、自分の街が機械化されていくことを厭う気持ちは判る。痛いほど判る。私の生きていた時代/世界がまさにそうだったから……同胞たちも数え切れないほどゾルダートどもに切り刻まれた……あんな悪夢はもう沢山よ。
というわけで、囚われのパリっ子たちを助けるべく、私はこの場所――郊外の廃墟らしき場所にやってきた。たぶん、元は小規模な工場もしくは病院だったんじゃないかしら? 高い塀(ご丁寧に槍型の忍び返しがずらりと植え付けられているわ)に邪魔されて中の様子は見えないけれど、ここが例の秘密工場であることは間違いないと思う。パラドクス効果の『過去視の道案内』を使ったから。
距離を置いて物陰に身を潜め、秘密工場の様子を伺う。警備員の類は見当たらない。令震が予知がした通り、塀の内側にいるという凶暴な番犬だけに頼っているみたい。
塀の一角には頑丈そうな鉄門が設けられていた。人の出入りはない。もう少し様子を見ていましょうか……。
●再び、アルガ
母性煩悩……もとい、母性本能を爆発させて反機械化の意見をとっくり語った後(残念ながら、誰も赤ちゃんになってくれませんでした)、私はカフェを後にしました。
総二さんとも別れ、薄暗い路地を歩いていると――
「ちょいと顔を貸してもらおうか、姉ちゃん」
「もっとも、返すことはできねえがな」
「拒否することもできないぜ」
――悪人面をした三人組が行く手を塞ぎました。
そのうちの一人はひどく殴られたらしく、顔がボコボコになっています(※1)。ああ、かわいそう……ママになって癒してあげたい。
●再び、総二
「おい!」
カフェを離れて三十分ほど経った後、背後から声をかけられた。ひどく剣呑な声だ。
ようやく、おいでなすったな。こんなに時間がかかったのは、アルガさんを捕まえていたからか?
俺もおとなしく捕まるとするか……いや、それではリアリティーに欠ける。少しだけ抵抗しておこう。
「なにかようか?」
相手よりも剣呑な声を出し、俺はゆっくりと振り返った。
●再び、エリザベータ
二頭立ての大きな箱馬車がやってきて、鉄門の前に停まった。
御者台には三人の男が並んで座っている。
私はピンと来た。そいつらが人攫いのために雇われている連中だってことを。そして、囚われのディアボロスたちが馬車の中にいることも。『囚われの』と言っても、わざと捕まったんだろうけど。
さて、私も捕まらなくちゃね。
男たちが馬車から降りてきたところで、私は物陰から出て塀に近付いた。
「なぁーによ、これ?」
塀に張り付けるようにして置いてあった箱型の機械(放熱のための機械かしら?)を思い切り蹴とばしてやった。
「こんなところに鉄屑なんぞを置いちゃって……まったく、風情の欠片もあったもんじゃないわね」
男たちは無言で顔を見合わせると、無言で頷き、無言でこちらに迫ってきた。
三人のうちの一人はいかにも無頼漢って感じの面構えをしている。残りの二人については……よく判らない。ひどく殴られたらしく、顔がジャガイモみたいになっているから(※2)。
なんの抵抗もせずに捕まるのも癪だし(それにこいつらも憎きパリっ子だろうし)、無傷の男もジャガイモにしてあげようかしら。
もちろん、殺さない程度に手加減するわよ。憎きパリっ子といえどもね。
※1:雷羅さんにボコられました。
※2:総二さんにボコられました。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【過去視の道案内】LV1が発生!
【怪力無双】LV2が発生!
効果2【ダメージアップ】LV3が発生!
●幕間
頭に被せられていた黒い布を取られ、後ろ手の拘束を解かれて、ディアボロスたちは牢獄に放り込まれた。
全員、同じ牢獄である。それでも息苦しく感じないほど、その場所は広かった。どうやら、壁を何枚か壊して複数の部屋を一つの牢獄へと改装したらしい。
牢獄には十数人の先客がいた。そのうちの一人――赤ら顔をした小柄な中男が痛ましげな目でディアボロスたちを見回した。
「おいおいおいおい。あいつら、女子供までさらってんのかよ。ひっでえ話だな……だが、心配するこたぁねえぜ! すぐにでもここから逃がしてやっからよ!」
男は自分の胸をどんと叩いた。
「俺に良い考えがある!」
自信に満ちた声だ。もしかしたら、ディアボロスの助けは必要なかったのかもしれない。
「まず、そこの扉の鍵をチョチョイっと開けるんだ。で、行く手を塞ぐ野郎どもを手当たり次第にバッキィーンと殴り倒しながら、建物の中をサササッと進んで、外にドジャーンと出たら、塀をバァーンと打ち破って、ギュオーンでビュイーンでスギャーンって寸法よぉ!」
……いや、必要だった。
擬音だらけの『良い考え』を得意げに語り続ける男を無視して、ディアボロスたちは牢内を観察した。扉は二つ。どちらも同じ壁に備えられ、同じ廊下に通じている。パラドクス効果の無鍵空間を使えば、簡単に(それこそ『チョチョチイッ』と)開くだろう。クロノ・オブジェクトの鍵ではないので、パラドクスで扉ごと破壊することもできるはずだ。外に面している壁を破壊して、直に庭に出るのもいいかもしれない。
その壁の窓から庭の様子を伺うと、スパイクだらけのハーネスを装着した番犬たちの姿が見えた。垂れた耳、たるんだ頬、顔に刻まれた皺、頑健そうな体躯、ウイスキーを思わせる毛色……おそらく、ボルドー・マスティフであろう。あるいはその血を濃く引く雑種か。
犬の一匹がディアボロスの視線に気付いたらしく、窓を睨みつけて唸り声を盛らした。
「GRRRRR!」
どこか哀れみを誘う顔に似合わぬ凶悪な唸り声だった。
※マスターより
歩合給で働いてるハンシャの三人組は図らずもオイシイ(?)キャラになりましたが、これ以降は登場しません。念のため。
アルガ・ナスガ
「今、ママって呼んだかしら?」
このまま、とかってワードにも反応します
とにかく脱出の為の動線が必要かしら
「我が子の送り迎えをきっちりするのもママのお仕事だものね」
【怪力無双】で力尽くで障害をこじ開けたり、【硬気重震撃】で拳に『闘気』を纏わせて壁をぶち抜いたりするわ
警備のワンちゃんは
「あらあらあらあら、可愛いワンちゃん達ね」
【動物の友】やワシワシと【情熱】的に撫でてあげて手懐けたいところ。甘噛み(ガチ噛み)くらいは気にしないわ。できれば、このワンちゃん達も脱出させてあげたいところね
「ここは、このままいると危ないわ。あの子達と一緒にお外に出て行ってほしいの」
賢い子なら、今後の引き取り手は出るかしら?
エリザベータ・シゲトヴァール
●心情
……演技とは言え、『敵国』の捕虜になるのはあまり良い気分ではないわ。
とっとと出ましょう。
……いえ、勿論一般人は逃がした後でね。
●行動
【完全視界】を発動。
警戒はワンちゃん……じゃなかった。番犬だけに頼ってるって話だけど、それ以外にもトラップの類や脱走者・侵入者を検知するセンサだってあるかも知れない。
鍵は【怪力無双】で抉じ開けられるかしら?【機械知識】の併用で鍵の構造から脆い部分を探し出す。
増援の持ち込んでくれた【動物の友】でワンちゃん達を手懐けて脱出。(なでなでしたいけど我慢よ)
【光学迷彩】と【地形の利用】で注意深く物陰に身を隠しながら、脱出路を先導するわ。
極力声を出さず、手信号で合図を。
一蝶・信志
鍵と退路は他の子たちがやってくれるみたいね
じゃあワタシは…
…あらあら、元気なワンちゃん💖
人間のオスよりも“素直”で“お利巧”
何より、支配されるのを本能で求めてくる
犬ってほんっとうに可愛いわよね?(圧)
捕虜の一人に外套を借りて腕に巻き付けておくわ
あとで弁償するから許してね
噛ませたところで足払い、それで怯まないようならお仕置きよ
殺る気になってる大型犬だもの
多少の荒事は仕方ないわ
だけど絶対にケガはさせないように気をつける
ちょっとお尻をひっぱたくくらいだったらなんてことないわよ
「ノン!」と強く言ってワタシが上だと認識させましょう
ほーら。ちゃんと自分の立場がわかってる
本当におりこうさん💕
ロキシア・グロスビーク
アドリブ連携ご自由に
さあて、脱出ってことでぼちぼち僕の仕事をしないとね
んー?何してるのって。【料理】だけど?
だって装備没収とかされなかったし……
そんなわけで支援物資から材料・道具を用意してフレンチ
犬用チキンテリーヌを調理中さ
【おいしくなあれ】で僕らも美味しく頂けるし
【口福の伝道者】で数も出せる
鍵とか進路確保はまあ他の人任せで……
駄目?しょうがないなあ。【残像】とか使って邪魔する人はボコにするね
外に出たら犬達にチキンテリーヌを振る舞おう
はーい、ご飯だよー。うーん流石に警戒される?
一般人と一緒に眼の前で食べて誘うなり
【動物の友】を使うなりしよっか
美味しい?まだあるけれど……一先ず僕と一緒に出よっか
鳴神・雷羅
オッサン……そんな調子で今までよくこの世界で生きてこられたな……(呆
扉の鍵は【怪力無双】や【無鍵空間】で解除
牢獄を出たら先行して【光学迷彩】で身を隠し偵察するぜ
オッサン達はあたいらが安全を確認してからついてきな
犬を利用した警備、ねえ……
平和島の賭博場の件を思い出すぜ
胸糞な作戦を考えつくのは万国共通か
【動物の友】で異種族コミュニケーションを試みるぜ
なんかこう、ワイルドな感じで!
甘噛みというにはちっとばかし手痛い歓迎だが
硬化した鬼の腕なら大したことはねえさ
お前ら、もしかして碌に餌とか食わせてもらえてないんじゃねえのか?
安心しな。悪いようにはしねえ
何ならあのブリキ野郎共から助けてやってもいいぜ?
●鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)
囚人の一人であるチビのオッサンの『ズギューン』だの『ドジャーン』だのとかいう話が一段落着いたところで、アルガがにっこり笑ってみせた。
「うんうん。完璧な脱出計画ね」
とかなんとか言ってるけど、本当はオッサンの話をまともに聞いちゃいなかっただろうな。もちろん、あたいも聞いてない。
「だけど、ここはマ……いえ、私たちに任せてちょうだい」
おいおい。『ママ』って言いかけたぞ。
「安全かつ速やかに皆をここから出してあげるわ。だって、我が子の送り迎えをきっちりするのもママのお仕事だものね」
おいおい。『ママ』って言っちまったぞ。
なんつーか……今回の任務に参加してる面子って、かなり濃ゆいよな(『おまえが言うな!』とツッコまれそうだけどよ)。すっかりママさん気分のアルガも色々とアレだが、ロキシアも相当なもんだ。
なにせ、こんな状況だってのに――
「よーし。できたー」
――パラドクスで火を起こして、料理を作ってやがるんだから(料理の材料や道具をどっから持ってきた? ……なんてことは気にしちゃいけねえんだろうな)。
「特製のチキンテリーヌだよ」
ロキシアは手にミトンをはめて、火にかけられていたグラタン皿みてえなものを持ち上げてみせた。
「うわー。美味しそうだね」
信志がにこにこ顔でグラタン皿を覗き込んだ。こいつも神経が太いつーか、浮世離れしてるつーか……。
だけど、もっと神経の太い奴もいるんだよ。しかも、そいつはディアボロスじゃねえ。
「確かに美味そうだな。よーし、グルメな俺様が味見してやらぁ」
そう、例のオッサンだ。
「ふーん。おじさん、グルメなんだ?」
「おうよ!」
ロキシアに問われると、オッサンは得意げに胸を張った。相手の声にからかうような調子があったことには気付いてないらしい。
「俺ァ、パリっ子の中でも五本の指に入るグルメだぜ。厨房生まれ、食堂育ち、一流シェフはだいたい友達と来らぁ!」
「ハーリ・ヤーノシュ張りの大法螺吹きね……」
と、エリザベータが吐き捨てるように呟いた。
●アルガ・ナスガ(はみんなのママになりたい・g07567)
エリザベータさんはパリっ子おじ様のことがあまり好きではないようです。パリっ子おじ様が喋る度、目尻の辺りを苛立たしげにピクピクと痙攣させてますね。
そんなことに気付いていないであろうパリっ子おじ様(顔が酒焼けして赤くなってますから、以後は『赤ちゃん』と呼びましょう)はロキシアさんに近寄ると、断りもなしに指先で料理を掬い取り、口に運びました。
さて、御感想は?
「うん! こいつぁ、美味いぜ!」
それはなにより。
「しかし、ちょっと……いや、かなり塩気が足りねえような気がするな。それなのにどうして美味いんだろう?」
「パラドクス効果の『おいしくなあれ』を使ったからだよ……と言っても判らないか。でも、塩気がない理由は判るよね?」
「うん。ワンちゃん用の御飯だからだろう」
と、ロキシアの問いに答えたのは赤ちゃんではなく、信志さんです。
「俺も対ワンちゃんアイテムを用意しておくか。おじさん、悪いけど――」
信志さんは赤ちゃんの両肩に手をやったかと思うと、魔法を思わせるスムーズな動作で外套を脱がしてしまいました。
「――これ、貸してね。あとで弁償するからさ」
「おいおい! 俺の一張羅をどうするつもりだぁ!」
「出たー! 自分の服をとりあえず『一張羅』と言っちゃうお約束ぅ! 粋なパリっ子を気取るなら、もうちょっと語彙を豊かにしようよー」
と、赤ちゃんを茶化すロキシアさん。
その間に信志さんは外套を自分の左腕に巻きつけました。簡易防具ですね。
「僕のミトンも貸してあげようか?」
「ありがとう、ロキシア。でも、サイズが合わないから、気持ちだけいただいておくよ」
一回り太くなった左腕をぶんぶんと振って動かしやすさを確認した後、信志さんは皆に告げました。
「はい、準備完了!」
●ロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)
「では、とっとと逃げましょうか。演技とはいえ、敵国の捕虜になってるのはあまり良い気分ではないから」
エリザベータちゃんが扉の一つに近付き、鍵を調べ始めた。パリっ子オジサンが『え? 敵国って、どういうこった?』とか言ってるけど、ガン無視ぃー。
「やっぱり、針金を突っ込んでガチャガチャいじり回したりするより、『無鍵空間』か『怪力無双』を使ったほうがよさそうね」
「そいじゃあ、『怪力無双』でいくか」
エリザベータちゃんの報告を聞くと、雷羅ちゃんがニヤリと笑った。
そして、硬化した拳をポキポキと鳴らしながら、扉に近付いたけど――
「いえ、ここは私が……」
――アルガちゃんのほうが先に拳を振るい、いとも簡単に扉を叩き壊した。そう、鍵じゃなくて扉そのものを壊したの。ママは強し。
「……お、おう」
と、毒気を抜かれたような顔をしていた雷羅ちゃんだけども、すぐに気を取り直して、囚人たちのほうに振り返った。
「まずはあたいらが先行して安全を確認する。オッサンたちはここを動くなよ」
囚人たちの返事はなし。アルガちゃんの強烈な一撃を目の当たりにして、呆然としているみたい。パリっ子オジサンでさえ、口をあんぐり開けて硬直してるよ。
エリザベータちゃんと雷羅ちゃんを先頭にして、僕たちはずんずん進んでいった。『ずんずん』と言っても、前を行く二人は慎重に移動することをちゃんと心がけてるよ。周囲の様子をチェックしたり、物陰に隠れたりして。
その甲斐もあってか、敵と遭遇することなく、あっさりと外の庭に着いた。
事前に聞かされていた通り、そこには――
「GRRRRRR」
――番犬たちがいたけどね。
キョーアクな面構えをしたボルドー・マスティフの群れ。どの子もトゲトゲだらけの世紀末仕様なハーネスを着けてるけど、それって意味あるのかな? 激しく動いたりしたら、自分の体に突き刺さっちゃいそう。
●一蝶・信志(シンディ・g04443)
「あらあらあらあら! 可愛いワンちゃんたちね」
ママ成分百パーセントなアルガは犬たちを怖がってないみたい。どーでもいいけど、『ママ』って聞くと、母親関係じゃなくてお店関係のほうを連想しちゃうわね。機会があったら、ワタシが以前に勤めていたお店の素敵なママの話を聞かせてあげる。あー、べつに聞きたくないですか、そーですか。
それはさておき……アルガだけじゃなくて他の面々もマスティフ軍団を怖がってない。
もちろん、ワタシもね。
「元気なワンちゃんだねえ」
ワタシはずいと前に出た。
その途端、一頭の犬がジャンプ! 喉笛に牙を突き立て……ようとしたけれど、果たせなかったわ。だって、ワタシは咄嗟に左腕でガードしたから。オジサンから借りた外套を巻き付けてあるので、腕は無傷よ。
そして、犬が離れるより先に腕から払い落とし、組み伏せてやった。ハーネスのスパイクが自分にも犬にも突き刺さらないように注意しながらね。
犬は抵抗の素振りを見せたけど――
「ノン!」
――強く言うと、おとなしくなった。
うふっ! アルガが言ってた通り、可愛いわね。ワタシ、犬は大好き💕 人間のオスなんかよりも素直でお利口だし……なにより、支配されることを本能で求めてくるから。
「手慣れたもんじゃねえか」
そう言いながら、雷羅も前に出た。
すかさず、別の犬が彼女に向かってジャンプ!
結果はワタシの時と同じ。いえ、完全に同じってわけじゃないわね。雷羅の場合、腕で防いだ時点で勝負が決まってる。硬化してるから、文字通り歯が立たないのよ。
硬ぁーい腕に噛みついた状態のまま、犬は足をじたばたさせていたけれど、すぐにおとなしくなった。腕越しに睨みつけてくる雷羅の迫力に屈服したみたい。
それにエリザベータの迫力にもね。
彼女ってば、ものすごい圧を犬にかけてるの。眉間に皺を寄せて、拳を握りしめて、体をぷるぷると震わせて……。
仁王像のごときその姿を見ているだけで、激しい怒りと憎悪が伝わってくるわ。
よっぽど、犬が嫌いなのね……。
●エリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)
ああ、可愛い! 可愛い! 本当に可愛い!
撫でたい! 撫でたい! 撫で回したいっ!
……でも、ダメよ。ビズラやプーリーやコモンドールならともかく、この子たちは憎き敵国人が生み出した犬種だもの(ボルドー・マスティフですって? ひっどい名前!)。それに今は任務の途中。ワンちゃ……いえ、犬たちと戯れてる暇はないのよ。
そう思ってるのは私だけじゃない。他の人たちだって、きっと――
「ほら、もっと甘えてくれいいのよ。私のことをママだと思ってね」
――戯れてるじゃない。思い切り戯れてるじゃない。アルガさん、母犬になりきってるじゃない。
あんなに荒々しく唸っていた犬たちもいつのまにかおとなしくなっている。アルガさんが愛でている犬は彼女の手をかぷかぷと甘噛みしているし、雷羅さんの腕に噛みついていた犬は足下でお座りしてるし……どうやら、誰か(たぶん、雷羅さんね)がパラドクス効果の『動物の友』を使ったみたい。
つまり、これは……私もワンちゃんたちを撫で回していいってこと? いえ、撫でないけどね。絶対に撫でないけどね。あと、『ワンちゃん』じゃなくて、『犬』でしょ。しっかりしなさい、私。
「TOKYOエゼキエル戦争で平和島の賭博場をブッ潰した時のことを思い出すぜ」
お座りした犬を撫でながら、雷羅さんが言った。
「その賭博場でも犬たちが酷い目に遭わされてたもんだ。弱い奴が胸糞野郎どもに利用されるってのは万国ならぬ万ディヴィジョン共通なのかねえ……」
「犬は支配されることを求めてる生き物なんだよ。でも、それは――」
信志さんが優しい手付きで犬(さっきまで組み伏せられていた子よ)からスパイク付きのハーネスを外した。
「――支配する側との間に信頼関係が成り立っていればの話だ。望まぬ格好をさせられるのは辛かったろうね」
『望まぬ格好』というのは件のハーネスのことなんだろうけど、信志さんの口振りからは彼自身が望まぬ生き方をしているかのごとき苦衷が感じられるような……気のせいかしら?
雷羅さんも犬からハーネスを外した。
「こいつらも、こんなもんをつけて番犬をさせられるより、野っ原とかで自由気ままに走り回りたかったろうよ」
「え?」
アルガさんが尻尾を立てた。『ピコン!』と音がしそうな勢いで。
「今、『ママ』って言ってくれました?」
「いや、『気まま』だ」
「あ、すいません……」
尻尾がしょんぼりと垂れた。なんなの、このコント?
雷羅さんは再びワンちゃ……犬を撫で始めた。
「クロノヴェーダどもはこいつらにちゃんと餌をやってたのかな? やってたとしても、碌なもんじゃないだろうが……」
「じゃあ、『碌なもん』をあげよう。ほら、あおがりー」
ロキシアさんが例のグラタン皿を地面に置くと、ワンちゃ……犬たちは我先にと群がった。お腹を空かせていたみたいね。
「そんなに急いでがっつかなくても大丈夫だよ」
ロキシアさんはワンちゃん(ええ、もう『ワンちゃん』でいいわ。いいですとも)たちに笑いかけた。
「おかわりはまだまだあるからね」
「え? 今、『ママ! ママ!』って言ってくれました?」
「いや、『まだまだ』だよ」
「あ、すいません……」
だから、なんなのよ? このコントは?
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【怪力無双】がLV3になった!
【完全視界】LV1が発生!
【傀儡】LV1が発生!
【おいしくなあれ】LV1が発生!
【動物の友】LV1が発生!
効果2【ダメージアップ】がLV5になった!
【能力値アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】がLV2になった!
【リザレクション】LV1が発生!
アンネリーゼ・ゾンマーフェルト
アドリブ連携歓迎
……先行組は、随分と濃い人たちを相手にしたのね
少し居合わせてみたかったかもしれない
それはさておき、救出作戦を開始しましょう
救援機動力と【過去視の道案内】を用いて、施設の外から早急に潜入するわ
【パラドクス通信】が活性化しているようであれば、先行した仲間と情報連携
庭にいる犬については、【動物の友】で懐柔してしまいましょう
空腹そうなら干し肉などの食べ物を与えて、友達になるためもう一押しするわね
侵入後は機材や壁に身を隠しながら進んで【光学迷彩】を発動
ゾルダートや、もし施設内にいるなら人間の見張りにも気づかれないように進み、退路を確保しましょう
……さて、一般の方たちを先に逃がしましょうか
渕上・澪乃
あれが例の秘密工場だね
まずは牢屋を探しだして一般人の人達を逃がさないと
犬は【動物の友】で懐かせて無力化、なるべく手荒な真似はしたくないからね
鍵の類は【無鍵空間】で解除
侵入出来たら【光学迷彩】と【完全視界】を使ってなるべく足音を立てないようにしながら行動するよ
牢屋に向かいつつ脱出に使えそうなルートも考えながら動く
牢屋まで辿りつけたら同じように鍵を開けて、一般人を先導しながら確保したルートを通って脱出させようか
もちろんワンちゃん達も一緒にね
●幕間
廃墟を囲む高い塀の傍に二つの人影があった。
一人は、中性的な顔立ちをしたデーモンの少年――渕上・澪乃(月の番人・g00427)。
もう一人は、潜水服のごとき動力甲冑を着込んだ妖狐の少女――アンネリーゼ・ゾンマーフェルト(シュタールプロフェート・g06305)。
かたや十四歳、かたや十三歳。しかし、両者ともに年齢不相応な落ち着いた雰囲気を漂わせている。
「さて――」
ディアボロスからすれば薄紙も同然の塀を荷電粒子ビームライフルの銃口でこつこつと叩きながら、アンネリーゼが澪乃に尋ねた。
「――破壊しますか? それとも、乗り越えますか?」
「いや」
澪乃はかぶりを振った。
「もうちょっとスマートな方法でいこうよ」
●渕上・澪乃(月の番人・g00427)
僕がアンネリーゼさんと一緒に移動した先は施設の正門。
そこに備えられた錠前をいじり回すこと小一時間――
「……よし」
――音もなく門が開いた。言うまでもないとは思うけど、パラドクス効果の『無鍵空間』を使ったんだよ。
僕たちは敷地に入った。
見張りはなし。
警報もなし。
その代わり、唸り声で出迎えてくれる者たちがいた。棘だらけのハーネスを装着した大きなボルドー・マスティフだ。数は三頭。
侵入者が頑是なき(ということにしておいてよ)少年少女であっても容赦するつもりはないのか、犬たちは目を血走らせ、怒りの咆哮をあげ、僕たちに飛びかかって……くるように見えたのは最初だけ。すぐに唸るのをやめて、その場にちょこなんと座り込んだ。
どうやら、アンネリーゼさんがパラドクス効果の『動物の友』を使ったみたい。
彼女は腰を屈めて視点の高さを犬たちに合わせた。ゆっくりと手を伸ばし、一番近くにいた犬の頭をわしわしわしわし! すると、他の犬たちも『ボクも! ボクも!』とばかりに寄ってきた。
「あなたたち、お腹は空いてない?」
三頭全員にわしわし攻撃をした後、アンネリーゼさんは新たな攻撃を繰り出した。今度の武器は、動力甲冑の腰の辺りから取り出した干し肉だよ。
犬たちは大喜び。『うなななぁー!』と猫を思わせる奇声を発して干し肉を貪った。完全に番犬の役割を忘れてるね。
「それにしても――」
猫と化した犬たちを見ながら、僕は疑問を口にした。
「――この規模の敷地に番犬が三頭だけというのは少なすぎるような気がするね」
「他の番犬たちは先行組のディアボロスを相手にしているのかもしれませんよ」
ああ、なるほど。
僕たちは建物の中に入った。『僕たち』というのは僕とアンネリーゼさんだけのことじゃない。三頭の犬たちもついてきたんだ。もしかして、まだ干し肉がもらえると思ってるのかな?
敵の姿はまったく見かけなかった(他の階で改造手術の準備でもしてるのかもしれない)けど、足音を立てないようにして慎重を探索を続け……数分後、牢屋らしきところを見つけた。
もっとも、その部屋は牢屋として機能していない。二つあるうちの扉の一つが破壊されているから。
「きっと、先行組が壊したんだろうね」
「はい。雷羅さん辺りが鬼神変でも使ったのでしょう」
言葉を交わしつつ、僕とアンネリーゼさんは牢屋に入った。
●アンネリーゼ・ゾンマーフェルト(シュタールプロフェート・g06305)
牢屋の中にいたのは、パリの各地から拉致されてきたであろう十数人の市民たち。
そのうちの一人――ちょっと寒そうな格好をした小柄な中年男が私たちを睨みつけてきた。
「おうおうおう! なんでえ、おまえらは!?」
虜囚らしからぬ元気の良さ。だけど、頼もしさは微塵も感じられない。むしろ、不安というか『面倒くさそうな人ね』という思いが喚起されるタイプ。
「あれを壊した人たちの仲間だよ」
と、扉(があった枠)を指さして、澪乃先輩が中年男に答えた。
「その人たちはどこにいるの?」
「おう! 俺の指示に従って、外の様子を見に行ったぜ」
賭けてもいいわ。『俺の指示に従って』というのは嘘八百だとね。
先輩は更になにか尋ねようとしたけれど、その必要はなくなかった。先行組が帰還して、牢屋の中に入ってきたから。エリザベータさん、雷羅さん、信志さん、ロキシアさん、アルガさん……そして、何頭もの犬。
「やあ。どうやら、行き違いになったようだね」
と、信志さんが言った。私たちの姿を見ただけで、だいたいの状況は把握できたみたい。
「外までの安全なルートは確認済み。ワンちゃ……犬たちも懐柔したわ」
エリザベータさんが簡潔に報告した。『ワンちゃん』と言いかけたことには気付かない振りをしておきましょう。
「こちらも同じだよ」
と、先輩がエリザベータさんに返した。
そして、あの中年男を始めとする囚われの市民たちに言った。
「では、脱出しようか」
私たちは秘密工場の外に出た。十数人の市民と十数頭の犬を連れて。
これで任務の半分くらいがかたづいたわね。
「このワンちゃんたちをどうしようか?」
横一列に整然と並んだ犬たちを眺めながら、先輩が誰にともなく問いかけた。犬たちはハアハアとパンティングしながら、無邪気そうな瞳(さっきまで番犬をしていたとは思えないわ)で先輩を見返してる。
「俺に任せときな!」
例の中年男が胸をドンと叩いた。
「こう見えても俺はパリッ子の中でも五本の指に入るハンドラーだからよぉ。愛犬家の知り合いは百人を下らねえんだ。どの犬にも最高の飼い主を見つけてやんぜ!」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【動物の友】がLV2になった!
【無鍵空間】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】がLV2になった!
●幕間
市民と犬たちを送り出した後、ケルベロスは再び門をくぐった。
先程までとは打って変わって、庭は騒がしくなっていた。建物からトループス級たちが走り出してきたからだ。虜囚がいなくなっていることにようやく気付いたらしい。番犬までいなくなっていることに気付いているかどうかは判らない。
トループス級たちは皆、今や懐かしの存在となったゾルダートだった(『懐かし』と言っても、機械化ドイツ帝国奪還戦からまだ半年ほどしか過ぎてないが)。足の代わりにキャタピラが備えられ、背中からは二本の砲身が伸びている。
ディアボロスの姿を認めると、ゾルダートたちは口のない顔から次々に機械音声を発した。
「素体タチヲ逃ガシタノハ貴様ラカ!?」
「貴様ラダナ!」
「貴様ラダ!」
問答無用で決めつけて(実際、ディアボロスの仕業なのだが)、懐かしき敵兵たちは戦闘態勢に入った。
アルガ・ナスガ
捕まっていた子を無事に送り届けたら、今度はこっちの子(クロノヴェーダ)達ね
「あらあらあらあら。お仕事お疲れ様ね」
頑張っている子は褒めてあやしてあげたいけれど、時間をかけられないところが残念ね
「うふふ、照れ屋さんなのね」
遮蔽物を作って攻撃を防がれても、【風使い】で【サキュバスミスト】を回り込むように送り、優しく包み込んで【精神攻撃】で眠るようにして落とす。
「ゆっくりおやすみなさい。せめて、夢の中ではめいいっぱい甘えてね」
既に機械化されてクロノヴェーダ化した子達は元に戻せない。その辺りがとても悲しいわね。
エンデ・トロイメライ
もう救出は任せちゃってよさそうだねぇ。
それじゃ、こっちは皆が安全に脱出できるようにしておこう。
ナノマシンから分身体を6体作り出し、仮面とフード付きマントを装着。
これでぱっと見アタシ含めて7人の襲撃者の出来上がり。人数多けりゃ敵もこっちに戦力割いてくれるでしょ。
後は空から強襲し、高速で飛行しながら装甲の薄い駆動部を主に狙い攻めていく。
確実に倒して数を減らしつつ、敵を脱出経路から引き離し集めて味方が脱出するまでの時間を稼ごうか。
まあアタシこの体便利に使ってるしあんまり気にしてないけど、改造とか普通は嫌だからねぇ。……そういうわけで、邪魔者は全員消えてもらおうか。
渕上・澪乃
市民の人達とワンちゃん達も無事に脱出してくれてよかった。
これでやっとこっちに集中出来る。
【飛翔】を使って相手の砲撃を避けつつ飛び回るよ
『高速詠唱』で氷の足場も作って相手を攪乱するように動きたいね
万が一にも一般人達が逃げて行った方向へ攻撃が飛んで行きそうならカバー
【雨月】で氷の弾を飛ばして中距離から少しずつダメージを与えて、隙が出来たら一気に接近して「蒼月」で『両断』する
遮蔽物に隠れてもこの弾は君たちをどこまでも追いかけるよ
アンネリーゼ・ゾンマーフェルト
ええ、私たちが逃がした。理解が早くて助かるわ
続けて……あなた達の魂も、ゾルダートという檻から解放しましょう
それが機械化ドイツ帝国に生を受け、人体機械化技術に携わった私の責務よ
【パラドクス通信】で、視界外の仲間とも連携して行動するわ
討ち漏らした敵が戦線を離脱し、脱出中の市民を攻撃する──そんな事態が起きないようにね
私自身、≪対ゾルダート電磁銃≫を手に、敵の逃げ場を塞ぐように広域への【制圧射撃】を行うわ
『#電磁 #広域放電 #感電注意』の【弾幕】で、一気に機体を焼き焦がしてやりましょう
反撃に対しては、遮蔽物や廊下の曲がり角を利用して敵の加速力を抑え
動きをよく【観察】して身を逸らし、直撃を避けるわね
●アルガ・ナスガ(はみんなのママになりたい・g07567)
「素体タチヲ逃ガシタノハ貴様ラカ!?」
「貴様ラダナ!」
「貴様ラダ!」
キャタピラをキュラキュラと鳴らして、土煙を朦々とあげて、半人半戦車のゾルダートたちが迫ってきます。
その姿の猛々しいこと。でも、私の子供たち……じゃなくて、仲間たちは気圧されたりしません。
「ええ、逃がしたのは私たちよ。理解が早くて助かるわ」
仲間の一人であるアンネリーザさんが額にかけていたゴーグルを下ろし、大きな鉄砲を構えました。鉄砲と言っても、実弾を撃ち出すタイプではなさそうですが。
「あなたたちの魂もゾルダートという檻から解放してあげる。それが機械化ドイツ帝国に生を受け、人体機械化技術に携わった私の責務よ」
「その責務、アンネリーゼだけに負わせたりしないよ! アタシも手伝ってあげる!」
と、元気一杯な声が頭上から落ちてきました。
見上げた目に映ったのは、空を舞う七人の戦士。そのうちの一人は、鉄砲や刀を組み合わせたような形のフライトデバイスを装備した白髪の女の子――サイボーグのエンデさんです。声の主は彼女でしょう。残りの面々は仮面を着けている上にフード付きのマントを纏っているので誰だか判りませんが、全員がエンデさんとお揃いのフライトデバイスを装備しています。
「おっと! アタシじゃなくてアタシたちだった! さあ、いくよ!」
エンデさんが地上のゾルダートめがけて鉄砲を連射すると、『アタシたち』と呼ばれた六人の謎の同胞も同じく鉄砲を撃ち、あるいは急降下して剣で斬りつけました。
たちまちのうちに二体のゾルダートが穴だらけになり、裂け目だらけになちました。致命傷を受けたわけではなさそうですが、上空から七人もの新手が襲来したことに動揺しているのは明らかです。その二体以外のゾルダードもまた動揺しているらしく、動きが乱れていますね。
●エンデ・トロイメライ(エピローグ・g00705)
いつの間にか、アタシの耳には通信機のレシーバーが装着されていた。誰かがパラドクス効果の『パラドクス通信』を使ったみたい。
『あの六人は何者?』
澪乃が通信機越しに尋ねてきた。
「ワタシの分身体だよ」
と、アタシも通信機越しに返した。
「ナノマシンで構成された代物でね。意のままに操ることができるんだ」
『え?』
アルガが声をあげた。いや、あげたのは声だけじゃない。尻尾もピンと上がってる。空からでも判るくらいね。
『今、『ママ』って言ってくれました?』
「いや、『意のまま』だよ」
『あ、すいません……』
アルガの尻尾がしょぼーんと垂れた。
なんだかなぁ……と、脱力しそうになったけど、すぐにまた気を引き締めることができた。アンネリーゼの凛とした声が地上から聞こえてきたからね。今度のそれは通信機越しじゃなくて肉声だよ。
「電磁銃、出力安定。敵味方識別、よし」
彼女が手にしている狙撃銃型の武器から――
「広域放電開始!」
――何条もの稲妻が放たれ、バリバリと音を立てて扇状に広がった。
扇の中で電光の洗礼を受けたのは三体のゾルダート。体のそこかしこから煙を吹き上げて、その場で停止しちゃった。うち二体(アタシと分身たちの攻撃を食らった奴ら)は完全に息の根が止まったみたい。でも、残る一体はすぐに息を吹き返し、動き出した。アンネリーゼに反撃するために。
「コノ程度デ我ラヲ倒セルト思ウナ!」
凄まじい勢いでキャタピラを回転させて突撃!
「この程度で済ませるつもりはないわ」
素早く横っ飛びするアンネリーゼ。
信地旋回して彼女に食らいつくゾルダート。こっちもなかなか素早いけれど、旋回した際に勢いがちょっと落ちちゃったね。
そのロスを見極めたのか、アンネリーゼはさっきよりも更に素早く動いて――
「それに倒すつもりもないわ。言ったでしょう。『解放してあげる』とね」
――ゾルダートの突撃を躱した。
●アンネリーゼ・ゾンマーフェルト(シュタールプロフェート・g06305)
私を轢き潰さんと驀進してきたゾルダートを紙一重で回避。
鋼の巨体が鼻先を通り過ぎた瞬間、空に飛び立つ澪乃先輩の姿が視界の隅に入った。
『大丈夫ですか、アンネリーザさん?』
通信機(ちなみに言っておくと、『パラドクス通信』を使ったのは私よ)の向こうからアルガさんの声が聞こえてきた。
『大丈夫よ』と答えるより先に、今度は先輩の声が聞こえた。
『そいつへのとどめは僕に任せて、アンネリーゼさん』
そして、氷の弾丸が無数に降ってきた……などと言うと、雹や霰の修辞表現だと誤解されるかもしれないけど、それらはまさしく『氷の弾丸』だった。自然現象ではなく、パラドクスの産物。
降雨範囲ならぬ降弾範囲に敵は二体の敵がいた。一体(私の攻撃を受け、そして、私に反撃を回避されたゾルダート)はいくつもの穴を真上から穿たれ、動かぬ鉄屑と化した。
もう一体は範囲外に走り出そうとしたけど――
『無駄だよ。この雨からは逃げられない』
――先輩の言う通り、無駄だった。
垂直に降っていた氷の弾丸群は地に落ちる前に軌道を水平に変え、誘導弾さながらにゾルダートを追いかけ、背中に次々と命中した。一つ一つの弾丸は小さくとも、間断なく何十発も受けたとなれば、その衝撃は大砲並み。ゾルダートはバランスを崩し、ふらふらと蛇行した。重心の高い二足歩行型だったら、転倒していたかもしれない。
先輩はその隙を見逃さなかったらしく、ゾルダートの前面へと急降下し、フェアリーソードを振りおろした。目にも留まらぬ早業……と言っても大袈裟ではないしょうでね。
でも、スピード以外のものが足りなかったみたい。ヘルメット型をしたゾルダートのの頭部装甲は『キン!』と耳障りな音とともにフェアリーソードの刃を跳ね返した。
その音の後に機械音声の叫びが続き――
「舐メルナ!」
――そして、砲声が轟いた。
●渕上・澪乃(月の番人・g00427)
調子に乗って馬鹿な真似をしちゃった。たかがトループス級とはいえ、クロノヴェーダであることに変わりはないんだから、非パラドクスの斬撃が通用するはずがないんだよね。
「舐メルナ!」
反省も後悔もする暇もなく、敵の砲弾が超至近距離で炸裂した。瞬時に身を捻り、直撃はなんとか免れたものの、爆風に吹き飛ばされてダメージを受けた。
その爆風を半ば利用する形で急上昇。
空から見下ろすと、戦場が混沌としていることがよく判るね。ゾルダートたちは自らが生み出した土煙の海の中で右往左往しながら、目についたディアボロスたちを手当たり次第に攻撃してる(今この瞬間に僕が攻撃の対象になってないのは、たまたま目についていないからに過ぎない)。
混沌が秘密工場の敷地内で留まっているうちはいいんだけど、逃げていった市民の方々やワンちゃんたちにまで広がったりしたら……逞しいワンちゃんたちは自力で逃げ延びることもできるかもしれないけど、市民のほうは(とくにあのパリっ子おじさんは)無傷では済まないだろう。
アンネリーゼさんも同じような危惧を抱いているらしく――
『ただの一体も討ち漏らすわけにはいかないわね。戦線から離脱した奴が市民に危害を及ぼすかもしれないから』
――そんなことを言いながら、電磁銃を発射した。
標的となった三体の敵は雷光に灼かれたけど、怯むことなく体当たりじみた突貫を慣行。
アンネリーゼさんは一体の攻撃を回避したものの、他の二体は躱し切ることができず、続けざまに撥ね飛ばされた。もっとも、敵がそうであったように怯んだりはしなかったけどね。
『エンデ先輩、お願いします!』
『おーう!』
ダメージをものともせずに叫んだアンネリーザさんに応じて、エンデさんと六人の分身が急降下して敵を蹂躙。
彼女(たち)の銃弾や刃から逃れた者もいたけれど――
『あらあらあらあら。お仕事、がんばってるのね』
――ママ味たっぷりなアルガさんの目からは逃げられない。
『でも、がんばり過ぎは体によくないわ。今はゆっくりおやすみなさい。せめて、夢の中ではめいいっぱい甘えてね』
アルガさんの伸ばした手の先から桃色の風が放たれ、ゾルダートを包み込んだ。たぶん、サキュバスミストだろう。
ミストが晴れた時、そこにいたゾルダートは完全に停止していた。アルガさんに甘える夢を見れたかな?
『囚われていた市民の皆様を助けることはできたけれど――』
永遠の眠りについたゾルダートを見ながら、アルガさんが悲痛な声を出した。
『――既に機械化されてクロノヴェーダにされた子たちは元に戻せません。それはとても悲しいことですね』
『そうだね。自分の意思に反して機械にされたのだとしたら、このゾルダートたちも被害者だ』
同意しながら、サイボーグのエンデさんが再び『被害者』たちに攻撃を仕掛けた。
『あ? でも、アタシまで被害者扱いしないでね。そういうことはあんまり気にしてないんだー。この機械の体を便利に使ってるし……』
そう付け加えたのは、僕たちに気を使わせないためかな?
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
効果1【現の夢】LV1が発生!
【飛翔】LV2が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
効果2【ロストエナジー】LV1が発生!
【ダメージアップ】がLV7になった!
【ダブル】がLV2になった!
一蝶・信志
さあ、満を持しての登場ね
この「魔法少女シンディ」が!
不当に虐げられた人々を救うために
そしてこの絶美を世界に見せつけるために!
……バレないようにメイクと着替えをしなくっちゃ💦
大丈夫大丈夫、魔法少女なんだもの
数秒のバンクで全部イケるわ
ちょっとおじさん、こっち見ちゃダメ!
悪逆非道の行い、月が許しても星が許さないわよ!
食らいなさい、シューティングスター!🌟🌟🌟
…あっ、ウソ
もう戦闘終わっちゃったの?
もー!
このワタシの美しさをゾルダートたちにも見せつけたかったのに
っていうか、この“人”たちってきっと――
いいえ。後ろは振り向かない
いま、できることだけを見て進むわ
※遅参による苦戦・失敗判定構いません
鳴神・雷羅
オッサンたちと犬たちは、あの分だと大丈夫そうだな
今度こそ達者で暮らせよ
さーて、あたいらは後始末といきますかね
ああ、そうとも。囚われてた市民を逃がしたのはあたいらさ!
これ以上市民を攫ってブリキ人形に改造するなんて
そんな外道な真似はさせるかよ!
くらえ【地獄爆震撃】!
破壊の力を拳に込めて、割れんばかりに地面を叩きつける!
そのキャタピラの足じゃあ、地割れや振動でバランス崩しても
体勢立て直すのも辛れえだろうなぁ?
今戦ってるこいつらの何人が「改造済みの元パリ市民」なのか……?
考えるな。考えたところで、失われた命は二度と戻らねえ
今はただ、この理不尽への怒りを拳に乗せて叩きつける!!
エリザベータ・シゲトヴァール
●心情
ドイツ帝国も元同盟国でありながら、私の祖国を併合した憎い相手。
だけど私が機械化ドイツ帝国で見た空のエース達は、ドイツ軍人である事に誇りを持っていたわ。
祖国に殉じるでもなく、敵国の庇護下でのうのうと生き永らえるだなんて、貴様らの愛国心は何処へ行った!
同じ軍人として風上にも置けない。恥を知れ!
●行動
【飛翔】し空対地攻撃を実施。
【戦闘知識】と【地形の利用】の併用で周辺設備を遮蔽物として用い、敵の死角から飛び込んでダイブアンドズーム。
味方との連携を意識し、【制圧射撃】で敵の足を止めて攻撃の起点を作ったり、身動きの取り辛い地形に追い込む。
反撃の轢殺攻撃は【空中戦】技能を活かしたバレルロールで回避。
ロキシア・グロスビーク
アドリブ連携ご自由に
ここまで実力行使以外で活躍出来たのはいいね
秘密結社エージェントの面目躍如だ
さってと。これで気兼ねなく戦えるってものだね
行こっか?と傍らの妖精に語りかけ
“魔槍”を構え、Moon-Childを両脚に集中し妖精を引き連れ【ダッシュ】
妖精の悪戯を先触れに、速度の乗った槍を突き刺し勢いに任せ薙ぎ払う
視界を塞いだりしてもらいながら敵陣を撹拌するね
おっととと?ごめんね危なかったか。じゃあ気を取り直して!
妖精に服を引っ張られたり【残像】伴うステップで反撃を避けたりコミカルに連携
このディヴィジョンに元々存在しないゾルダートが、“どうやって”造られたか?
考えるのは後。刃を鈍らせちゃいけないしね
●一蝶・信志(シンディ・g04443)
「行くわよ!」
エンデや澪乃に続いて、エリザベータも空に飛び立った。航空突撃兵だけあって、飛行姿がキマってるぅーっ!
でも、地上組だって負けてないわ。
たとえば――
「もう、これ以上はさせねえぜ。市民をさらってブリキ人形にするなんて外道な真似はよぉ!」
――燃えるような目でゾルダートたちを睨みつけてる雷羅とかね。すっくと立ったその雄姿を見ていると、敵が巻き起こした土煙や轟かせている砲声さえも演出効果に思えてくるわ。今にも大向こうから『よっ! ディアボロ屋!』なんて声が飛んできそう。
「よっ! ディアボロやっ!」
……本当に飛んできたわ。大向こうじゃなくて、ロキシアから。
「黙レ! 貴様モぶりき人形ニシテヤ゛ル゛ワ゛!」
雷羅やロキシアの大音声に負けじとばかりに一体のゾルダートが機械音声のボリュームを上げた。上げすぎたもんだから、後半部の音が割れちゃってるけど。
そして、雷羅めがけて突進。
でも、そんなことでビビる雷羅じゃない。向かってくる敵を睨みつけたまま、硬化した拳を足下の地面に叩きつけた。
「必殺! 地球割りぃーっ!」
地球割り? いやいやいやいや。鬼人たる雷羅の怪力はそりゃあ半端ないものでしょうけれど、いくらなんでも地球を割るのは無理でしょ。昭和のギャグ漫画じゃあるまいし……って、割れてるぅーっ!?
いや、本当に地球がっ二つに割れたわけじゃないわよ。拳がぶつかった場所から何条もの亀裂が走って、そこかしこに地割れが生じたの。
そんなことなどお構いなしにゾルダートたちは突進を続けたけれど――
「馬鹿メ。無限軌道ノ悪路走破性ヲ舐メ……ルゥヌワァーッ!?」
――キャタピラの前の部分が亀裂に嵌まってガクンと落ちて(思っていたよりも幅広な亀裂だった上に深さも相当あったみたい)、後ろの部分が四十五度の角度に跳ね上がっちゃった。地面に斜めに突き刺さったような格好。これは情けないわね。笑えるわー。
おっと、笑ってる場合じゃない。ワタシも戦わなくちゃ! でも、この格好のままで戦うわけにはいかないわ。『魔法少女シンディ』に変身しないと!
●エリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)
信志さんが庭の隅っこのほうにそそくさと移動して……着替え始めた!? しかも、可愛らしい女物の衣装に!?
たぶん、本人は人目につかない場所で着替えているつもりなんだろうけど……空を飛んでいる私からは丸見えなのよね。理解が追いつかないけど、とりあえず気付かない振りをしておきましょうか。
『みんな、揃ってる?』
もう一人の理解しにくい仲間――ロキシアさんの声を通信機が届けてくれた。
でも、彼女(じゃなくて、彼だったわね)が話しかけた『みんな』というのは私や雷羅さんや信志のことではないみたい。
『それじゃあ――』
電磁槍を振ってみせたロキシアさんの周囲には小さな妖精たちが舞っていった。たぶん、それらこそが『みんな』ね。『フェアリーコンボ』の系統のパラドクスで召喚されたであろう存在。
『――過激なイタズラ、いってみよう!』
ロキシアさんの声を合図にして、世にも愛らしい飛行部隊が何体かのゾルダートに襲いかかった。遠目には(実際、私は距離を置いて見ているのだけれど)妖精の群れが機械の兵士にまとわりついて悪戯を仕掛けてるというファンタスティックかつユーモラスな光景に見えるかもね。
だけど――
『お菓子をくれても、このイタズラはやめないよ。おっと、ハロウィンには少し早かったかな?』
――ロキシアさんがそこに飛び込むと、もうファンタステイックでもユーモラスでもなくなった。
彼女は四体の敵めがけて電磁槍を突き出し、薙ぎ払い、叩きつけた。小さな体躯と少女のような容貌からは想像もできないパワフルな攻撃。
妖精たちのせいで動きを鈍らされていたゾルダートたちにそれが躱せるはずもない。あっという間に傷だらけになったわ。
でも、死んだわけじゃない。キャタピラをギュルギュルと盛大に鳴らして、ロキシアさんに肉迫した。
「おっとっと! ごめんねー」
ロキシアさんは左右に飛び跳ね、突撃を躱した。当人の足さばきもさることながら、服の裾を引っ張って甲斐甲斐しくサポートしてる妖精たちの働きも大きいわね。
●鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)
四体のゾルダートどもはやっきになってロキシアを追いかけたが――
『対空意識が疎かになってるわよ!』
――通信機が爆発するんじゃないかってくらいの大声を響かせて、エリザベータが急降下してきた。
そして、小振りながらも強力そうな爆撃槌をゾルダートの横っ面にドカァーンと叩きつけて振り抜き、『V』の字を描いて急上昇。航空突撃兵お得意の『ダイブアンドズーム』ってやつか。
爆撃槌を食らったゾルダートの頭は体からもげて、遙か彼方に飛んでった。ゴルフ場なら間違いなくOBだが、戦場では完璧なショットだ。
残った三体はロキシアを追うのをやめて、標的をエリザベータに変更したようだ。彼女の忠告(?)に従って、対空意識ってのを持つようになったのかねえ? 素直な連中だぜ。
だけども、対地意識を忘れちまったら、プラマイゼロだ。いや、マイナスのほうが大きいかもな。
地上には、このあたいがいるんだからよ。
「ほらほら! どこ見てんだよぉ!」
必殺の地球割り(本当の名前は『地獄爆震撃(ヘルシェイク)』ってんだけどな)をブチかましてやると、エリザベータに意識を持ってかれてたゾルダートどもは地割れに足を……もとい、キャタピラを取られた。
そこに再び妖精どもが群がり、ロキシアが電磁槍を振るった。
そして、どこかに姿を消していた信志も参戦。
「魔法使いシンディ、参上!」
……あー、訂正。信志じゃなくて、マホーショージョ・シンディだとさ。
シンディとやらはメイクをばっちりキメて、パラドクス効果の『エイティーン』で十八歳くらいになって、テレビ漫画のヒロインが着てるような衣装を纏っていた。なんつーか……ツッコミどころが多すぎて、大渋滞が起きてるぜ。メイクした顔がけっこう別嬪さんという点も逆にツッコミどころになってるし。
『ねえ、雷羅さん……』
空を行くエリザベータが通信機越しに声をかけてきた。
『こういう時はどんなリアクションをすればいいの?』
「知るかよ」
と、困惑するあたいたちのことなどお構いなしに、シンディこと信志は――
「悪逆非道のおこない、月が許しても星が許さないわよ!」
――地面を蹴って高く飛び上がったかと思うと、一体のゾルダートの頭頂部にキックを打ち込んだ。片足で華麗に着地するような要領で。
「食らいなさい! シューティングスター!」
ゾルダートの頭が消えた。真上から蹴りを受けたもんだから、胴体にめり込んで見えなくなっちまったんだ。
●ロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)
ゾルダートの上に片足立ちしていた信志くんがくるっとトンボを切って着地し、見得を切るように四方を見回した。キリッとしたカッコいい表情でね。
でも、すぐにヘニャっとした表情に変わっちった。
「えー!? ほとんどの敵が倒されてるじゃなーい! なんでぇー?」
なんでって……メイクや衣装替えに時間をかけてるからでしょーが。
でも、ギャグっぽい流れはここで打ち止め。通信機の向こうでエリザベータちゃんがシリアス成分たっぷりの述懐を始めたからね。
『私から見れば、フランスと同様に機械化ドイツ帝国も憎い敵。だけど、かの地で私が見た空のエースたちの多くはドイツ軍人であることに誇りを持っていたわ。それに比べて、貴様たちは――』
またもや、『ダイブアンドズーム』! 猛スピードで急降下して、『貴様たち』と呼んだゾルダート軍団(信志くんが言ったように、残機は少ない)の一体に爆撃槌を叩きつけた。
『――祖国に殉じるでもなく、敵国の庇護下でのうのうと生き長らえて! 愛国心はどこへ行った! 恥を知れーい!』
恥を知る前にそのゾルダートは死んだ。さっきと同じように頭を吹き飛ばされて。
他のゾルダートたちが恥を知ったのかどうは判らないけど、キャタピラで轢き潰すためにエリザベータちゃんに猛進していった(通常の概念が通用しない逆説連鎖戦にあっては、地上にいる側が空中にいる側を轢き潰すこともできるんだよ。たぶんね)。
だけど、エリザベータちゃんは三半規管がストを起こしそうな激しいマニューバでもって逃げ切ったよ。
そして、彼女を見失った敵の背後から、信志くんが再びキック!
「うーん」
あら? 攻撃が命中したにもかかわらず、信志くんは浮かない顔して唸ってる。
「この戦車モドキたちが本当に機械化ドイツ帝国の残党ならいいんだけど……いえ、エリザベータとしてはよくないんだろうけど、それはさておき……」
「ああ。こいつらはドイツの残党じゃなくて――」
雷羅ちゃんが重々しい声を出した。おっかない顔が更におっかなくなってるけど、怒りの対象は目の前にいるゾルダートたちじゃないと思う。
「――改造済みの元パリ市民かもしれねえんだよな」
そうなんだよねー。クロノヴェーダに拉致されたのはあのパリっ子おじさんたちが最初ってわけじゃないだろうし、この工場も昨日今日から稼働しているわけじゃなさそうだし……。
だけど――
「――そういうことを考えるのは後にしよっか。刃が鈍っちゃうしね」
その僕の言葉は自分に向けてのものだったんだけど、仲間たちにも聞こえていたみたい。
「ええ」
と、信志くんが頷いた。
「後ろは振り向かない。今できることだけを見て進むわ」
「おうよ」
雷羅ちゃんも頷いた。腰を落として拳を振り上げながら。これは……例のやつが出るの? 出ちゃうの?
「考えたところで、失われた命は二度と戻りゃしねえんだからなぁーっ!」
はい、出ました! 地球割りぃーっ!
成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
効果1【エイティーン】LV1が発生!
【動物の友】がLV3になった!
【飛翔】がLV3になった!
【エアライド】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV8になった!
【アヴォイド】LV1が発生!
【命中アップ】がLV2になった!
●幕間
「むははははははっ!」
トループス級のゾルダートが全滅してスクラップ場のごとき様相を呈している庭に笑い声が響いた。
実にわざとらしい笑い声だった。
「歓迎しよう、叛乱の徒よ! そして、感謝もしよう!」
建物の中から声の主が現れた。
長身の機械人形である。その頭部は二角帽を模した形状をしており、背中からは触手のごとき一対の副腕が伸びていた。
「ありがとう! 本当にありがとう! この『アンドレ・マッセナ』に戦う機会を与えてくれて! いやー、ずっと暴れたくてしかったなかったのだ。秘密工場の管理なんぞというつまらぬ仕事を任され、退屈していたからな……むっ!?」
アンドレ・マッセナディアはいきなり驚きの声(笑い声と同様、わざとらしかった)をあげ、ディアボロスたちをまじまじと見つめた(それもわざとらしかった)。
「よく見れば、女がいるではないか」
よく見るまでもない。初見で判っていたはずだ。
「これはいい。女たちはトループス級ゾルダートではなく、私専属の特務士官に改造してやろう。なんなら、改造する前に『特務』を実体験させてやってもいいぞ。褥の中でなあ。むはははははははは!」
その語り口も機械の顔がつくる表情もやはりわざとらしく、芝居がかっている。『専属の特務士官』などを本気で求めていないのは明らかだ。好色で奔放な軍人を偽悪的に演じているだけなのだろう。
ロキシア・グロスビーク
アドリブ連携ご自由に
面白いね、おじさん。でも役者としてはあんまりかな
“魔槍”をくるりと遊ばせてから、静かに構えて
戦いの方は、千両稼げるんだよね?
皆も準備出来てるなら。公演開始だよ
槍を一撫で、【ダンス】めいて触手を優雅に打ち払うもやがて掴まれ
わわっ、離してー!……なーんて。言うと思った?
慌てた顔と声色は、不敵な笑みとウインクも添えた冷静な語調へ
掴まれてもここは――
【エアライド】を発動
Moon-Childを両脚に集中し活性化、敵を頂点にした角度で【ジャンプ】
障壁を展開しつつ敵をぶち抜く
――僕の舞台だよ
いいね。やられ役は完璧じゃない?
ふーっ。くたびれたあ
僕たちもお風呂やご飯で自分を整備しないとねっ
一蝶・信志
まあ、C'est si bon!
お目が高いのね💖
(ずい、と一歩出て「女性陣」の頭数に自ら入る)
ワタシも嬉しいわ
アナタみたいな背の高いムッシューに可愛がってもらえるなんて
ずっと夢に見ていたの
あらやだ、つれない
ちょっとくらい、いいでしょ
「専属の特務士官」を男装の麗人に仕立て上げてまで
傍に置いたアナタだもの
ワタシみたいな人間のひとりをつまみ食いするくらい、
簡単なことでしょう?
さあ、抱きしめてちょうだい!――やあね
そんな無粋なモノじゃなくて、アナタの腕で、よ
ムッシューが抱きしめてくれないのなら、ワタシがリードしてあげる
この山羊革の鞭でね💜
※ネメシス形態により、例によって女王様スタイル
渕上・澪乃
こんな時まで女性を口説くつもりなんて随分と余裕なんだね?
そんなことよりも自分の心配を先にするべきだと思うんだけど。
【飛翔】と【エアライド】を使って相手の攻撃を避けつつ飛び回るよ
壁以外に空中へ氷の足場も作ってこっちも相手を攪乱するように動きたいね
隙が出来たら一気に接近して勢いそのままに【月華美刃】を使って斬る
掴んでこようとするアームも【一刀両断】してあげるよ
アンネリーゼ・ゾンマーフェルト
アドリブ連携歓迎
な、なんて破廉恥なことを……! 不愉快だわ!
実は自動人形ではなく、不格好な鎧で着固めた淫魔なのかしら?
あなたのような不埒者は、この施設ごと消え去りなさい!
早期に仕掛ける仲間たちが戦っている間≪荷電粒子ビームライフル≫を換装し、エネルギーをチャージするわ
そして仲間の攻撃後のタイミングに重ねる形で、最大出力の砲撃を浴びせましょう
『#光線銃 #最大出力 #射線注意』──この一撃で浄化してやるわ
大きな反動は【怪力無双】の膂力で支え、射線を揺らすことなく確実に命中させましょう!
反撃に対しては短時間の【飛翔】による加速を絡め
臨機応変な動きで敵の複雑な挙動を追跡し、回避を狙うわね
●渕上・澪乃(月の番人・g00427)
アンドレ・マッセナとやらは随分と余裕があるね。自分に待ち受けている運命が判ってないんだろうな。
彼と違って、僕はこの後の展開が手に取るように判るよ。序破急でいってみようか?
まずは序。アンネリーザさんが怒り出す。
「……な、なんて破廉恥なことを!」
ほらね。
「不愉快だわ! なんなの、あなた!? 実は自動人形じゃなくて、不格好な鎧を纏った淫魔なんじゃないないの!?」
次に破。怒りと羞恥で顔を真っ赤にしているアンネリーザさんのことをアンドレが笑い飛ばす。セクハラ野郎ってのは、相手が嫌がると却って喜ぶものだから。
「むはははははは!」
ほらね。
「安心しろ、小娘。貴様のように蛹にもなってない青虫嬢なんぞを特務士官に仕込んだりしない。こう見えて、私は間口が狭くてな。品性と色香を両立させたオトナのオンナしか受け付んのだ」
そして、急。アンドレの発言を受けて、シンディこと信志さんがずいと前に出る。こういうシチュエーションのお約束ってやつ。
「まあ! C'est si bon! お目が高いのね💖」
ほらね。
「ワタシも嬉しいわ。アナタみたいな背の高いムッシューに可愛がってもらえることをずっと夢に見ていたの」
さっきまでの信志さんは魔法少女風だったけど、今はネメシス形態に変わったらしく、ボンデージなコスチュームを身に着けてる。可愛がってもらう側じゃなくて、可愛がってあげる側に見えるね。
「いやいやいやいや!」
アンドレは口元を引き攣らせて、頭を左右に振った。さすがの彼も可愛がってもらうことは望んでないらしい。
「明らかにイレギュラーな存在のくせして、しれっと『オトナの女』の枠に入るな!」
「えー? 確かに今は『エイティーン』で若返ってるけどぉ。ほら、全身からオトナの色香が醸し出されてるでしょ」
「年齢の話ではない!」
「あらやだ。つれないのね。本物のアンドレ・マッセナは、男装させた愛人を『専属の特務士官』として傍に置いていたって聞いたわよ。そんな好色家の名を奪ったアナタだもの。ワタシみたいな人間のひとりをつまみ食いするくらい、簡単なことでしょ?」
「胃もたれ必至のキャラがつまみ食いを軽く勧めるな! そもそも、『男装させた愛人』と『女装したオッサン』はベクトルが真逆だろうが!」
喋る度に科をつくる信志さんと、キレよくツッコミを入れるアンドレ。後者にとっては不本意だろうけど、息の合った漫才コンビに見える。
いや、コンビじゃなくて、トリオかな?
だって――
「ふふふっ。面白いね、おじさん」
――小憎たらしく笑いながら、ロキシアさんが話に加わったんだから。
●アンネリーゼ・ゾンマーフェルト(シュタールプロフェート・g06305)
機械仕掛けの破廉恥漢のことを『面白い』と評したロキシアさんは相手に言い返す暇を与えることなく、舞台監督よろしくダメ出しを始めた。
「でも、役者としてはいまひとつかな。台詞も所作もわざとらしすぎるよ。信……じゃなくて、シンディちゃんに迫られてオタオタしているところもいただけないね。ああいう時こそ、わざとらしく見えてもいいから、軽妙洒脱なリアクションをしないとダメでしょー」
このカオスな面々(私は含まないわよ)に対して軽妙洒脱なリアクションをするなんて……誰にとってもハードルが高すぎると思うわ。たぶん、パラドクス効果の『飛翔』を以てしても飛び越えられない。
「とはいえ、役者としては大根でも、軍人としては有能なんでしょ? 千両役者ならぬ千両軍人? だったら、戦場という舞台での振る舞い方は心得てるよねー」
対ゾルダート戦でも使っていた電磁槍をロキシアさんはくるりと回した。
「皆、準備できてる?」
「はーい」
信志さん(じゃなくて、シンディさん?)が楽しそうに返事をして、どこからともなく鞭を取り出した。
澪乃先輩の反応はそれとは正反対。なにも言わず、手にしていた刀を鞘に戻した。もちろん、戦う意志がないことを示したわけじゃない。
「じゃあ、ディアボロス一座の公演開始!」
ロキシアさんが宣言すると同時に先輩は走り出した。
もっとも、足の裏が地面に接触したのは最初の一歩だけ。二歩目以降は宙を走った。なにもない空間を踏みつけ、不可視の階段を数段飛ばしで駆け上るかのように。
パラドクス効果の『エアライド』を用いたその動きに戸惑ったのか、破廉恥漢に隙が生じた。
四半秒にも満たない隙だけど、先輩にとってはそれで充分。刀の柄に手をやり――
「……っ!」
――吐息めいた気合いを発して、不可視の階段から飛び降りた。
●一蝶・信志(シンディ・g04443)
澪乃はアンドレの斜め前に着地し、一気に駆け抜けた。というか、滑り抜けたって感じ?
足の裏が地面を擦る『ズザザァーッ!』という音に紛れて聞こえてきたのは『チン!』という軽やかな音。それが唾鳴りだってことはすぐに判ったわ。だって、アンドレの脇腹の装甲がばっさり裂けちゃってるんだもの。
澪乃がくるりと振り返り、こっちを向いた。超高速の居合いを披露したくせにドヤ顔はしてない。『またつまらぬものを斬ってしまった』とか言っちゃいそうな雰囲気。
「またつまらぬものを斬っちゃったねー」
なんで、ロキシアが言うのよ?
「何故、貴様が言うんだ?」
ワタシと同じツッコミをしながら(以心伝心ってやつかしら? 相性ばっちりね)、アンドレが動いた。背後に立つ形となった澪乃ではなく、ロキシアに向かって。
「そぇーれ、捕まえたぞぉー! むはははは!」
蛇みたいにウネウネ蠢くサブアームで以て、アンドレはロキシアの細い胴をいとも簡単に鷲掴みにした。
そして、ブンブンと乱暴に振り回した挙げ句、秘密工場の外壁に叩きつけ――
「わわっ、離してー!? ……なーんて。言うと思った?」
――ようとしたけれど、ロキシアのほうが一枚上手だったみたい。
壁に叩きつけられる寸前、彼は自分で壁を蹴りつけた。今になって気付いたんだけど、胴と同じく細かったはずの両足がいつも間にやら逞しくなってるわ。ゲル状のなにかが纏わりついて筋肉みたいに盛り上がってるのよ。
そんな即席マッチョな足で壁を蹴ったとなれば、すんごい反動が生じて当然。ロキシアはサブサームの手から『ポーン!』とロケットみたいにすり抜け(たぶん、パラドクスの『フィアレストーピード』を使ったのね)、アンドレのほうに飛んでいった。電磁槍を突き出した姿勢でね。
「……んぐっ!?」
おなじみのむはは笑いから一転、槍を胸に突き立てられて悶絶するアンドレ。
その体が大きく仰け反った勢いを利用してロキシアは槍を抜いて宙に舞い、『エアライド』で何度か飛び跳ねた後、『飛翔』に切り替えてスムーズに着地した。
「大根役者だと思っていたけど、やられ役は堂に入ってるね」
澪乃と違って、ドヤ顔をしっかり決めてるわ。
やられ役扱いされたアンドレは体勢を直して、なにか言いかけたけれど、その前に――
「覚悟しなさい!」
――アンネリーゼが叫んだ。
●ロキシア・グロスビーク(啄む嘴・g07258)
アンネリーゼちゃんが大根役者のアンドレに突きつけているのはビームライフルみたいな代物。戦闘が始まる前は普通のライフル銃とさして変わらない外見だったんだけど、僕や澪乃くんがアンドレを攻撃している間に色々なオプションが装着されたみたい。銃身は物干し竿もかくやというくらい長くなってる上に人の腕くらい太くなっているし、機関部には火炎放射器にでも繋がっていそうな大きなタンクまで取り付けてある。
「あなたのような不埒者は、この施設ごと消え去りなさい!」
アンネリーゼちゃんの怒号に押し出されたかのように銃口からビームが迸り、アンドレに直撃した。これはキツそう。
哀れ、アンドレは背中から倒れ込んで……あ? 倒れ込まなかったね。手を地面に付けてブリッジみたいな姿勢を取り、両手足と背中のサブアームをシャカシャカ動かして、走り出した。その姿はゴキブリみたいでカッコ悪いけど、侮ることはできない。だって、スピードもゴキブリ並みに速いから。
「むはははは! この動きは見切れまい!」
Gモード(勝手に命名)のアンドレはジグザグの軌跡を描いてあっちこっちに移動……すると見せかけて、急カーブを切り、アンネリーゼちゃんの側面に回り込んだ。
「見切れるわ」
アンネリーゼちゃんはビームライフルのオプションをパージして身軽になりながら、『飛翔』を用いて飛び退った。
だけど、捨てる神あれば、拾う神あり。飛び退くディアボロスあれば、飛び込むディアボロスあり。
誰が飛び込んだのかというと――
「さあ、抱きしめてちょうだい!」
――シンディこと信志くんだよ。
「抱きしめるのではなく、絞めてやるわ!」
Gモードから直立モードに戻ってサブアームを繰り出すアンドレ。
でも、信志くんはそれをするりと躱して間合いを更に詰めた。
「やあね。そんな無粋なモノじゃなくて、アナタの腕で抱きしめてちょうだいよ。でも、それが嫌だというのなら、ワタシのほうがリードしてあ、げ、る💜」
信志くんの声に『ビシッ!』という音が重なった。発生源は彼の手にある革製の鞭。ただの鞭がクロノヴェーダに通用するわけないけれど、信志くんはなんらかのパラドクスを使ったんだろうね。
その証拠に、パープルハート付きで『リード』されちゃったアンドレは――
「……っ!?」
――と、声も出せずに悶絶してるし。
そんな彼を僕は再び指導してあげた。
「なーに、フツーに痛がってんのさ。さっきも言ったでしょ。こういう時こそ、軽妙洒脱なリアショクンをしないといけないんだよ」
「……………………!?」
大根役者はノーリアクション。まだ悶絶中。やれやれ。
喋れない彼に代わって、澪乃くんが信志くんに言った。
「またつまらないものを鞭打ってしまったね」
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【水中適応】LV1が発生!
【傀儡】がLV2になった!
【一刀両断】LV1が発生!
【クリーニング】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】がLV4になった!
【命中アップ】がLV3になった!
【ドレイン】LV1が発生!
エリザベータ・シゲトヴァール
●心情
アンドレ・マッセナ……勝利の愛し子の異名を取った元帥。
他方各地で略奪を行い、陣中に愛人を連れ歩いたという。
『戦争屋』としてはどれだけ優秀でも、軍人としては風上にも置けない。
『特務』?冗談でも不愉快の極みね、このサレンダーモンキー!
●行動
地上の味方が戦い易い様、空からの火力支援による援護を主眼に立ち回る。
【飛翔】し【空中戦】からV-EXTRA発動。
生じた【残像】に加えてチャフ/フレアグレネードを併用して敵の目を眩ませると共に、
【戦闘知識】を元に副腕の軌道を読んで、敵からの捕縛攻撃を回避。
万一捕まれたら最大推力で振り切る。
逆に【制圧射撃】と【一撃離脱】を繰り返しての反復攻撃で敵を追い詰める。
アルガ・ナスガ
「あら? あらあらあら」
偽悪的な軍人を頑張って演じている姿がどこか琴線に触れた
「うふふ、頑張っていていい子でちゅねー」
音もなく忍び寄り、背後から【母なる抱擁】。何なら【完全視界】の邪魔にならない程度に【闇使い】で影を濃くして隠密行動しやすくする
「でもね、悪いことは『めっ』でちゅからねー。悪い軍人さんごっこはここまでにして、ママと一緒にお休みしましょ」
例え厚い鎧だろうが機械の体だろうが抱擁の柔らかさ、温かさは相手の心へと貫通する。それがサキュバス流の【貫通撃】である。後は心を蕩して機能停止へと追いやってゆく
仲間にも後でいっぱいねぎらいます
「みんなお疲れ様。疲れた子はいっぱい癒してあげまちゅね」
鳴神・雷羅
ったく、冗談キツイぜ
この国の野郎共は、揃いも揃って淫魔連中みたいな女たらしが理想のイケメン像なのか?(熱い風評被害)
だが残念だったな。あたいの「女子力」は物理に全振りなんでなぁ?
従順なマドモアゼルがお好みなら他を当たってくれ
尤も「他を当たる」前にここで叩き潰してやるがな!
いくぜ、【鬼神変】!
今のあたいはネメシス形態!
腕だけじゃなく全身戦闘態勢の完全鬼モードだ!
敵の触手アーム攻撃は【飛翔】や【エアライド】を駆使して避け
万が一捕まって拘束されても怪力で引きちぎって破壊してやる!
返す刀で鉄拳制裁の強打で粉砕だ!
いくらカッコつけようが、コソ泥のパシリなんざ真っ平御免だぜ
●エリザベータ・シゲトヴァール(聖イシュトヴァンの剣・g00490)
史実のアンドレ・マッセナは一兵卒から元帥にまで登り詰めた叩き上げの軍人。『勝利の愛し子』という異名を取るほどの名将であり、ナポレオン(もちろん、断片の王じゃなくて本物のほうよ)の信任も厚かったのだとか。
他方、各地で大規模な略奪を指揮したり、信志さんが言っていたように男装させた愛人を戦場に同伴したり……と、不義非道な逸話に事欠かない恥知らずの暴虐者だったらしいわ。戦争屋としては優秀なのかもしれないけれど、軍人としては風上にも置けないわね。
飛行中の私の眼下にいるアヴァタール級クロノヴェーダ――自動人形のアンドレ・マッセナが本物と同様に優秀な戦争屋かどうかは判らない。今みたいに一体だけで戦うような状況では、その優秀さを発揮することはできないだろうから。
でも、言動から判断する限り、軍人の風上にも置けない輩であることは間違いない。だから、鞭の一撃を受けて苦しみ悶える彼の無様な姿を見ても、同情の念は一ミリも湧かないわ。
「……っ……むむっ……」
アンドレが呻きを漏らした。声を発することもできない状況から脱することができたみたい。
「むっ……むははははは!」
機械仕掛けの『勝利の愛し子』は呻き声を笑い声に変えた。ただの強がりと言ってしまえばそれまでだけど、あれだけの猛攻を受けてなお心が折れない強靱な精神力は見習ってもいいかもしれない。
「思っていたよりも歯応えのある連中だな」
アンドレは胸を張ってみせた。もっとも、見るからに痛々しい胸だけどね。ロキシアさんの槍に抉られた挙げ句にアンネリーゼさんのビームを受けてへこんでいるんだから。
「しかし、想定外の苦戦は大歓迎だ。ままならぬものだからこそ、戦いは面白い」
「え?」
と、アルガさんが嬉しそうな声をあげた。
「今、『ママならイイ!』って言ってくれました?」
「……い、いや、『ままならぬ』だ」
「あ、すいません」
私たちにとってはおなじみのコントだけど、アンドレにとっては初体験だから、さすがに当惑している模様。
だけど、すぐに気を取り直すことができたみたい。
コントが生み出した奇妙な空気を――
「ままならねえ戦いが好きか? じゃあ、もっとままならなくしてやるよぉ!」
――雷羅さんが吹き飛ばしたから。
●アルガ・ナスガ(はみんなのママになりたい・g07567)
「むはははははは! 貴様のように気の強い女も大歓迎だ! 褥でじゃじゃ馬を乗りこなす楽しみは何物にも代えられぬからな!」
あらあら。アンドレちゃんったら、また悪ぶっちゃって。ゲスな好色漢を頑張って演じている姿を見ていると、なんだか微笑ましい気持ちになりますね。
でも、雷羅さんは微笑ましく思ってないようで――
「ったく、冗談キツイぜ。反吐が出らぁ!」
――じゃじゃ馬どころか、人食い虎みたいな憤怒の形相をしています。
「エロいことを言ってりゃ女にモテると勘違いしてる馬鹿をよく見かけるけどよぉ。この国の野郎どももそういう類ばっかりなのか? 淫魔連中みたいな女たらしがイケメン像だと思い込んでんのか?」
おっと、これはいけませんね。アンドレちゃん一人の言動を以て、断頭革命グランダルメの男性全体を断ずるのはフェアではありません。ママとして……いえ、仲間として、しっかり注意しておきましょう。
「いくらなんでも言い過ぎですよ、雷羅さん。断頭革命グランダルメの男性の三分の一に対して失礼じゃありませんか」
「えーっと……残りの三分の二は?」
と、飛行中のエリザベータさんの呟きが頭上から落ちてきました。
雷羅さんのほうはといえば、私の声など聞こえていなかったのか、アンドレちゃんに向かって歩き出しています。腕をぶんぶんと振り回しながら。
「いくぞぉー!」
パラドクス『鬼神変』を使ったのか、その腕が異形化しました。いえ、腕だけに留まらず、全身が変化して鬼のごときに姿になりました。ネメシス形態でしょうか?
「ふん!」
と、鼻を鳴らして、アンドレちゃんもまた雷羅さんに向かっていきました。
「気の強い女は大歓迎と言ったが、ゴツすぎるのは勘弁願いたいものだな」
「生憎、あたいの女子力は物理に全振りなんでなぁ。従順なマドモアゼルがお好みなら、他を当たってくれ。もっとも、他を当たる前に――」
拳を振りかぶる雷羅さん。
「――てめえのほうが当たっちまうんだけどなぁ! あたいの拳によぉ!」
「いや、当たるものか!」
アンドレちゃんが叫び返すと、マジックハンドめいた副腕が素早く伸びて、雷羅さんの首をがっしと掴みました。
そして、彼女を高く吊り上げ……と、思いきや、アンドレちゃん自身の体までもが上がってます。どうやら、雷羅さんが『飛翔』を使って上昇しているようですね。
「いや、当ててやるよぉ!」
首を拘束していた副腕を怪力で引き千切る雷羅さん。当然、飛ぶことのできないアンドレちゃんは真っ逆様。だけど、彼の体が間合いから離れる前に雷羅さんは返す刀ならぬ返す拳で顔面に一撃を加えました。
「ぶぎぇ!?」
鼻を叩き潰されて落下したアンドレちゃんでしたが、なんとか受け身を取ることができました。
でも、休む暇などありません。
今度はエリザベータさんが攻撃を仕掛けたのですから。
●鳴神・雷羅(獄道デスペラード・g02984)
「……強制解除」
ぽつりと呟いた途端、空を飛ぶエリザベータの動きにキレが増した。しかも、分身の術よろしく、いくつもの残像が周囲に現れた。たぶん、リミッターかなんかを外してブースト系のパラドクスを発動させたんだろう。
アンドレはすぐさま立ち上がり、あたいに千切られなかったほうのアームを上空へと伸ばした。そうやって素早く対応できるのはたいしたもんだ。なんだかんだ言っても、トループス級とは格が違うぜ。
だけど、誉められるのはそこまでだ。伸ばしたアームはエリザベータを掴むことなく、残像をすり抜けちまった。
「遅い! そんなことでは『勝利の愛し子』なんて呼べないわね!」
残像たちを引き連れて飛び回りながら、エリザベータは小さな短機関銃をバリバリと連射した。
何発分もの銃声と着弾音が続け様に響き、細い土煙が噴き上がって列をなし、その列の中程にいたアンドレの体にいくつかの弾痕が穿たれた。
それでも奴の口から出てきたのは――
「むはははは!」
――悲鳴や苦鳴じゃなくて、聞き飽きた笑い声だ。
「やるな、小娘! よしよし。少しばかり若すぎるし、胸も貧相極まりないが、貴様も私専属の特務士官にしてやろう!」
「黙れ! サレンダーモンキー!」
エリザベータが怒号をぶちまけると、アンドレはさっと腰を屈めて顔の前で両腕を交差させた。相手の剣幕にビビッて身を竦ませた……ってわけじゃなくて、攻撃に備えて身構えたんだろうな。
だが、エリザベータが吠えたのはフェイントだったらしい(いや、マジで怒っているとは思うけどよ)。
で、アンドレがフェイントに気を取られている間に――
「はいはい。悪い軍人さんごっこはここまでにして、ママと一緒にお休みしましょうねー」
――アルガが後ろから忍び寄り、腰の辺りに抱きついた。母性本能(あるいはもっと物騒な本能?)ダダ漏れって感じの笑みを浮かべながら。
「くそっ! 離せ!」
アンドレはアルガを振り解こうして体を揺らし、更にはアームを湾曲させて攻撃した。それでも、アルガは離れない。子泣きジジイならぬ子あやしママだな。
●終幕
「あなたは『勝利の愛し子』じゃなくて『ママの愛し子』だったようね!」
エリザベータが残像の分隊と一緒に急降下し、短機関銃から持ち替えた爆撃槌をアンドレの肩に食らわせた。
「……ぐぬっ!?」
アルガにしがみつかれたまま、アンドレはたたらを踏んだ。その足下に落ちてガチャリと音を立てたのは、無傷だったほうのアーム。エリザベータの一撃によって、根本から折れたのだ。
「とどめだぁー!」
雷羅が咆哮し、突進した。
彼女を迎え撃つべく、アンドレは一本だけ残ったアーム(雷羅に千切られて短くなっていたが)を繰り出そうとした。おそらく、無駄と知りながら。
「えーい! 儘よ!」
「え?」
アルガが目を輝かせた。
「今、『ママよ!』って言ってくれました?」
「言っとらんわぁーっ!」
大声で否定するアンドレ。
次の瞬間、彼の下腹を雷羅の拳が打ち砕いた。
そして、『勝利の愛し子』は勝利に愛されることなく逝った。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【飛翔】がLV4になった!
【完全視界】がLV2になった!
【怪力無双】がLV4になった!
効果2【ダメージアップ】がLV10(最大)になった!
【能力値アップ】がLV4になった!