リプレイ
吉音・宮美
アドリブ・連携歓迎
え!?私を押すと鳴く玩具みたいに扱う奴らを好きにできる!?
それならですね…グフフ……
こうして!(スケッチブックを開く)
こうして!(ペンを握る)
こう!(全方位からの精確なスケッチを描く)
よし!!!
……いやまあ人を好き勝手させてその姿を描くのもありかもしれませんが、私がやりたい【アート】とは違うので
今あるものをあるままに残す、それが私のやりたいことで、だから『私の思いどおりになる皆さん』は求めるものとは違うんです。このスケッチも参考資料みたいなもので
時代を越えていろんな人が集まるのは今だけかもしれませんから……だからは私は歴史を戻すことと同じくらい、今を描くことを優先したいんです
アッシュ・シレスティアル
気がついたら実家の食卓を家族と所属していた戦闘集団のメンバーと囲んでいた。
「見違えるほど強くなったな。」
「もう俺たちじゃ敵いっこないな。」
メンバーたちから成長を讃えられ実力を認められる一方、
「これ以上頑張る必要はないんだぞ。」
「あなたは十分に頑張ったのだから後は他人に任せてしまいましょう。」
家族からは頑張りを労われつつもう頑張らなくていいと誘われる。
二つの家族に溜めていた承認欲求と寂しさを刺激され夢見心地になりメットを外して混ざろうとした所で装備した守護人形に頬を引っ張られ無理やり引き戻される。
未練なんてないと思ったんだけどな…。
再びメットを被り、合流を目指す。
※アドリブ、絡み歓迎
雨ヶ屋・マヌエ
清潔で機能的なオフィスには優秀な人材が揃っており、リリースされた製品は人々の生活をより良いものにし、大きな利益を会社へもたらした。
関わる人間全てが笑顔。
そんな充実した日々を送る中、上司の何気ない一言によって違和感が呼び起こされる。
「流石だね雨ヶ屋さん。去年の東京出張で一皮むけたんじゃない?」
ヤバい気配。
この1年間、何度も味わった感覚だ。
反射的に作業服の下をまさぐると拳銃入りのホルスターがそこにあった。
なるほど、確かに一皮むけた。
違和感を覚えたら躊躇せずに武器を取る。
そんな戦場の流儀が染み付いてしまった。
長々と書きましたが1年前というキーワードと拳銃の感覚で正気に戻る感じでお願いします。
ハナ・フリードル
舞台の上でバイオリンを演奏する私。
神演奏に滂沱の涙を流す観客達。舞台袖には私を才能が無いと見捨て無視する様になっていった親や親族、そんな私を嘲笑ったかつての学友達…。
演奏後、万雷の拍手の中、彼等は足元に跪き今までの事を詫びてきます。
「…今更謝っても遅くってよ!私の才能を妬み謗り蔑んできた報いを受けるがよろしくてよ!おーっほっほ!」
悪役令嬢っぽく彼等を踏みにじり高笑い。
私を讃える観客に応え更に弦をかき鳴らし…
我に返るっス。こんな音じゃ…ダメっス。
世界に出て色んな人の演奏を聞いて、自分の未熟さを思い知ったっス。この程度で認められる世界は間違ってるっス。
壁に思いっきり頭突きかまして目を覚ますっスよ。
川屋・ゆきの
意識を取り戻した時、仲間や家族――今はもう居ないはずの――に囲まれ、思わず涙を流しそうになりました
淫魔大樹の催眠と解ってなお、皆の許し――
――よく頑張ったね
――もうそんな格好をしなくてもいい
――ゆっくりと休みなさい
酷い誘惑を堪え、封印を解かれるのを避け、身体を覆ってくれるのを拒んでいると、次は罵声と怒声が蝕んできます
――悪魔に囚われてまで生き延びたかったのか
――そうやって辱められるのが良いのだろう
――淫乱な娘め
そう言って「責めてくれます」
もう、そんな事はありはしないのに
そう、ありはしないのです。許しても、責めてもくれません
懐かしい顔を見られた事に少しの感謝を覚えつつ、皆を背に向けて行動開始です
メルセデス・ヒジカタ
全てが思い通りに動く世界……まあ、ある意味では理想の世界のひとつかも
ですが、自由にならないことにこそ……情熱を注ぎたくなることこそ、人の性であり、『萌え』であるのですよ
従順な奴隷ちゃんばっかりだと、世界の王様にでもなったような気になれるでしょう
だけど、思い通りにならない相手を、権謀術数の限りを尽くし振り向かせて、それでも尚振り回される
嗚呼、素晴らしいラブコメ展開じゃあないですか!
この展開を濃いおじさま達でオナシャス
でも、現実では起きない非現実なんですよねえ
だからこそ……現実を忘れられる
さあて……早く戻って原稿仕上げないと……入稿に間に合わないぞっと
その前に、お仕事も片付けないと締切やべえですの
若旅・嘉鷹
領主様、お呼びでしょうか。俺を養子として正式に迎え入れたい?
そして、次代の領主になってほしい、と?
それは、とてもありがたく光栄ですが…
領主様の庇護下とはいえ娼夫としての生を歩んできました。
そんな俺が養子だけでなく次の領主になれと
不満なら俺の商売仲間も俺の従者に召し上げる?
そこまで言われると、…っ
(傷跡が急に痛み気づく)
…そうか、ここは望みのままの世界だったな。
家族や親しい者が増えるのが俺の望み、か。
領主様、このお話なかったことにしてください。
俺にはまだやるべき事があります。
それが終わっても養子になることはできません。
俺はあなた様に…いえ、失礼します。
(殺されたと言うのはこの世界では酷すぎる)
草薙・美珠
●心情
罪のない人々を囚える淫魔大樹は許せません。
決して堕落などしない退魔師としての精神力をみせてあげましょう。
●堕落
淫魔大樹に入って、気がつくとそこは高級娼館『メゾン・デ・ニュイ』。
ああ、私は任務に失敗して娼婦として売られてきたのでした。
ですが、ここでは皆さんが私のことを可愛いと持て囃して、いつの間にか高級娼婦の頂点に。
今日も、上流階級の女性たちと濃密な関係を持ち……
彼女たちに尽くされて最高の快楽を感じてしまいます。
ふふ、こうして尽くされる生活も悪くないですね。
●覚醒
尽くされる生活……?
いえ、私は誰かに仕える身だったような?
それに、失敗もせず、こんなに何もかもが上手くいくなんておかしいです。
カイ・オーベルト
気付くと、嘗て所属していた部隊の施設にいる
目の前には上官
背後には整列する兵士達
俺は表彰されているらしい
『君の数々の活躍は素晴らしかった。我等の誇りだ。』
と勲章を渡してくる
兵士達が拍手と歓声を上げる
『流石は俺達の戦友だ!』『お前がいてくれて良かったぜ!』
駆け寄って来た兵士達に肩を叩かれる
戦友達か。俺の戦いが認められて…
『みんな!「アイゼンフント」の名を讃えようぜ!』
その言葉に正気に戻る
そうだ。俺のコードネームは鉄の犬
上官も兵士も、敵に捕獲され未知の技術で改造された俺を仲間とは…人間とは扱わなかった
それで良い
何を仕込まれているかも分からない奴を信用してはならない
彼等は間違っていなかったのだ
覚醒する
セシリー・アーヴェンディル
【アドリブ/連携歓迎】
私は聖職者として祈りを捧げ、騎士として研鑽を日々積んでる。
同じ志を持ち、共に戦ってくれる仲間達もいる。
世界に悪や悲劇は満ちているが、それを打ち砕く誇りある行いだと自負している。
たとえ敵が強大で絶望的な状況であろうとも挫けはしない。
助けた者たちの感謝の声が、世界を平和に近づけたと確信させてくれる。
そのためには世界が戦乱に満ちていなければいけない。
人々は常に困っていてくれないか? 悪は栄えてくれないか?
私の思いどりに救わせて欲しい。
これは本末転倒な世界だ。正義という快楽に堕落してる。
私はそんなもののために戦っているのではない!
マリアラーラ・シルヴァ
最初はマリアがワガママ言っても
叱ったり怒ったりせず言う事聞いてくれて
良いなって思ったんだけど…全然サービス足りないよ?
マリアをお世話してくれるオトナ達は
マリアが黙ってても
マリアがしてほしいこと「以上の事」をしてくれるの
マリアのお友達もマリアがディアボロスしてるの知ってるから
マリアが黙ってても
一緒に遊んだり元気づけてくれたり「それぞれの精一杯」で応援してくれるの
マリアの頭の中の欲望を読み取ってるんだと思うけど
マリアの望み通り程度じゃ
堕落するには足りないの
そんな風に堕落を破れば
おもてなしの極意を知ってる人から読み取ろうと
大樹がうごめくと思うの
それを追いかければ百合さんの所に辿り着けるんじゃないかな
アンジェリーカ・リヴィンスキー
罪の無い人を養分にする淫魔大樹なんて放っておけないわ、速く皆を助けないとね!
いつもと変わらない日々、街の皆に挨拶をすれば皆が挨拶を消し、無視をする者などいない。
少し何かをしてあげれば「流石!」と持ち上げられ「いつも助けてくれてるじゃない」と称え合う。
当然喧嘩など起こるはずも無く、皆が皆を称え合う。
理想ともいえる、決して崩れる事の無い日々…噂の吸血鬼共、クロノヴェーダ共が現れない限り…ん?クロノヴェーダ?クロノ…クロノヴェーダ!?
そうよ、ウチはクロノヴェーダを倒しに来たのにこんな事してる場合じゃないわ!
はぁ、ウチは過去満たされてたから振り切れたけど、そうじゃなかったら危なかったかもしれないわね。
生塚・円
この堕落世界ってとこ、私の願望は再現されるのかな?
ものは試し、と!
行方不明になった初恋の人といちゃいちゃー
○○○さま、会いたかった
手を繋いで
撫でて
抱きしめて
もっと触って
前と同じように触れ合って、他のことなんて考えず温かさを感じていたい
ずっと一緒に居てくれる?
嬉しいな
ふふ、嘘つき
私の知らないところで、何も言わずに、誰の手も届かないとこに行ったじゃない
私がして欲しいことしてくれるのは凄く魅力的だよ
でも、私は消えちゃった家族や皆と生きた歴史を取り戻さないとだから
私の大切なものを沢山奪ったクロノヴェーダ許さぬ
だから、またね○○○さま
今度会えたら、あの頃みたいに一緒にお菓子食べようね
●それさえも或いは平穏な日々
とある、屋敷。
「……ええと、私は……」
気が付くとメルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)は、自分の目前で、
『なあお前、もう少し、近くに寄ってくれ』
『はい、旦那様』
まさに『ダンディ』と呼ぶにふさわしい、魅力を兼ね備えた中年男性が、
彼よりわずかに年上と思しき、執事らしき男を抱き寄せているシーンを目の当たりにしていた。
「……って、キターーーーッ! 何この展開! ちょっと! もっと見たい!」
場所はどこかの屋敷内の、居間らしき部屋。立派な家具に囲まれ、その長椅子で二人は絡んでいる。
(「って、主従で従者の方が若干責め? というか主人の方が少しだけ(ここ重要)甘えんぼうでヘタレな受け? かなり激渋で濃いめのおじ様なのに? きゃーっ! もっと見たい!見せて見せて!」)
その二人のやりとりを、メルセデスは近くの観葉植物の陰に隠れつつ、取り出したメモ帳に書き込んでいたり。
「はぁ、はぁ、これは……『萌え』るわ! って、もうこんな展開!? ぬおおおおーーーーっ! 超萌えてキターーーーーッ!」
と、完全な不審者以外の何物でもない様子で、メルセデスは悶えていた。
そのメルセデスのすぐ近くでは、
「私を、押すと鳴く玩具みたいに扱う奴らを、好きにできるとは……」
異なる方向を見つめ、『グフフ』と若干不気味な含み笑いを浮かべる狐耳の女性が、スケッチブックを取り出していた。
「こうして! こうして! こう!」
吉音・宮美(限界ギリギリ狐娘・g06261)は、ペンを握り、スケブを開く。
宮美の視線の先には、自分の見知った顔。彼ら、彼女らを、宮美は己が思うがままに、奇異なるポーズを取らせては、
「……こう!」
精緻・精密なスケッチを、スケッチブックに描いていた。白いページ上に、ペンによる素描が埋まっていく。一方向のみならず、別の角度に回り込んでは、そこからのスケッチを描く事も忘れない。
「……こうやって好き勝手させて、その姿を描くのも、『あり』かもです」
再び『グフフ』という含み笑いが、宮美の口からは漏れていた。
そして、その部屋の隣。
空きかけた部屋の扉を、廊下を通り過ぎ、
……舞台裏に続く部屋へと入り、舞台上に立った少女がいた。
舞台を臨むホール内は満員。彼ら彼女らを前に、舞台上の少女は、
一礼し、携えたバイオリンを構えると、奏で始めた。
ハナ・フリードル(人間のサウンドソルジャー・g06921)、サウンドソルジャーである彼女のその演奏は、心に響き、心を揺さぶる旋律を、聴衆へと響かせていく。
このホール内に居るものたち、その全てがハナの音に、音楽に、心奪われていた。
ホールで最前列に座っているのは、ハナの両親、親族、音楽教師、かつての学友たち。
『それでもフリードル家の一員か』『才能の無い愚物め』『やめてしまえ、家の恥だ』
両親たちはそう言って、ハナを見捨て、以後は無視するように
『あれが名門に生まれた無能だぜ』『フリードル家といえど、時には不出来も出るんだな』
学友たちも、そう言って嘲笑った。
演奏が終わり、万雷の拍手が。
『ああ、我が娘よ! 許してくれ!』『どうか、続けてほしい、私の耳がどうかしていた!』
両親たちはハナの足下に跪く。
『さすがは名門の生まれだ!』『フリードル家歴代でも最高じゃないか?』『どうか、許してほしい……』
学友たちも、今までの事を詫びる。
「……今更、謝っても遅くってよ?」
そんな連中を、端から踏みにじるハナ。
「靴の裏を舐めたところで、私は許しません。私の才能を、妬み、謗り、蔑んできた報い……今こそ、受けるがよろしくてよ!」
赦してほしくば、道化の真似をしなさい、そちらは四つん這いになって犬を演じなさい、ああ、学友? あなたがたは雑に鼻を鳴らす豚でしかないですわ。豚の真似をしたら、私の踏み台になる権利をくれてやりましょう……。
おーっほっほ!……と、悪役令嬢のように高笑いするハナ。
愚か共たちを踏み台にしつつ、ハナは、自分を称える観客に応え、更にバイオリンの旋律をかき鳴らした。
バイオリンの旋律が、心地良いBGMとなって、
清潔にして機能的なオフィスに流れていた。
オフィス内会議室、そこには雨ヶ屋・マヌエ(ボランティア・g01424)が、拍手を以て迎えられていた。
マヌエの目前には、同僚の優秀な人材たち。そして会議室卓上には、自社製品が。
「……雨ヶ屋くん、君が提案し、企画し、リリースしたこの製品……素晴らしいよ、またまたベストセラーだ!」
上司が営業成績表を前に、そんな事を言ってくれる。今までいくつもの製品を出しては、その全てが成功を収めたのだ。今回も製品が売れに売れ、会社に大きな利益をもたらしたのみならず、購入した人々の生活もより良く、より豊かにさせられた。
「あ、ありがとうございます」
そのせいで忙しい。けれどもその分、充実してもいる。この日常、この毎日、他に何を望もう?
「ええと、それでですね。次の企画と、今後の販売戦略について話し合いたいのですが……」
まずは仕事。これがうまくいけば、もっと皆を笑顔に出来る。マヌエは、彼女は……プレゼンを始めた。
「まずは、このキュウリに関して……」
「……キュウリの……浅漬け?」
「タクアンもあるぞ」
「おかずもできたわよ」
ここは、実家なのか? え? どうして……?
「いいとこじゃねえか」
「さすがは、我らがエースの実家だ」
彼の耳に、アッシュ・シレスティアル(蒼破拳・g01219)の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……確かに、ここは実家……それに……」
見違えるわけがない。アッシュの実家、畳の間だ。
「お前ら、なぜ……ここに?」
畳の上に置かれた、大きなちゃぶ台。そこを囲っているのは、かつてクロノヴェーダに対抗するため集まり、戦い、そして……敗れた仲間たち。
「どうした、アッシュ。座りなさい」
「さあ、ご飯にしましょう」
そして、英国人の父に、日本人の母。食卓上には、白飯に味噌汁、焼き魚、厚焼き玉子に漬物。
「へっ、随分と逞しくなったじゃねえか。見違えたぜ」
「ああ。俺たちより強そうだ。もう俺たちじゃ、敵いそうにないな」
メンバーたちが、実力を認めるように称賛する。
「お、俺は……」
彼らは、大事な家族だった。けど、戦いの中で……、
「息子よ、お前はよく頑張った。もうこれ以上はいいだろう? ゆっくりしなさい」
「ええ。もう十分に頑張ったのですから……あとは他の皆さんに、お任せしなさい?」
そして、この二人もまた、大事な家族だった。だが……、
「……父さん……母さん……」
いや、いい。このぬくもり、この暖かさ。今はそれが大事。
「そう……だね」
座布団に座り、メットを脱いだ彼は、
思い出の味を、今は決して口にできない味を味わおうと、手を伸ばした。
そして、そのお茶の間を臨む、田舎のひなびた道。そこから連なる神社と、境内の木々の間で。
――よく頑張ったね。
――もうそんな格好をしなくてもいい。
――ゆっくりと休みなさい。
川屋・ゆきの(封印の退魔巫女・g03290)、両腕に色欲の悪魔を封じた、巫女の少女が、
清浄なる木々の間から響く、声を聞いていた。
その声は、どこまでも穏やかで、優しく、安心できるそれ。その言葉に従いたい、その言葉に頷き、この両腕を解きたい。
だが、それを実行したら。封印が解けてしまい、両腕内の悪魔が解放されてしまう。
ひどく魅力的だったが、その声は『誘惑』そのもの。そして『誘惑』される事には慣れてしまい、それに耐える事もまた、ゆきのは慣れてしまっていた。
声の誘いに乗らずにいると、
――悪魔に囚われてまで生き延びたかったのか。
――そうやって辱められるのが良いのだろう。
――淫乱な娘め。
声は『責めてくれた』。
そう。まぎれもなく、自分の事を責めてくれたのだ。
いつしか、声の主たちがその姿を現すのを、ゆきのは見た。
●それはまるで、黄金の日々
「領主さま、お呼びでしょうか」
神社近くに建つ、大きな館。
そこに、若旅・嘉鷹(ドラゴニアンのデジタルサマナー・g02873)は呼び出されていた。
「……それは、まことですか? 俺を、養子として正式に迎え入れたい、というのは?」
自身の耳を疑った嘉鷹だが、
「……そして、次代の領主になってほしい、と?」
更に耳を疑う言葉を、投げかけられた。
「待ってください。そのお言葉、とてもありがたく光栄ですが……よろしいのですか?」
嘉鷹は領主の前にひざまずき、まだ信じられぬとばかりに返答する。
「……俺は、領主様の庇護下とはいえ、娼夫として、男娼としての生を歩んできました。そんな俺に、養子だけでなく、次の領主に成れと仰るのは、いささか……」
しかし、嘉鷹の言葉は遮られた。領主が新たな提案を付け加えたのだ。
「……不満なら、俺の商売仲間たちも、俺の従者として召し抱える、と?」
不満ではない、願ったりかなったりだ。むしろ不満より、不安だった。右も左も知らない自分が、養子に、領主になれというのは、不安以外の何物でもない。
だが、同僚や仲間たちとも一緒に居られるなら……、
なら、何を迷っているのか。迷う事など無い。
嘉鷹は感じていた。自分が満たされていくのを。
その、館の隣では。
無骨な軍事用の施設にて。
「……え?」
「おいどうした、カイ・オーベルト(アイゼンフント・g05787)!」
「何をぼさっとしてやがる、晴れの舞台で緊張しすぎたか?」
ひゃははと笑う兵士たち。彼らは、カイの同僚。
「よし貴様ら! 口をパクつかせるのはそこまでだ! 全員人間らしく黙って整列! 人間のふりでも構わんぞ」
そして目前には、カイの上司。周囲を見ると、そこはホール。
目前には上司。背後には整列する兵士たち。
カイは上司が、その手に『勲章』を持っているのに気付いた。
「カイ・オーベルト。君の数々の活躍は素晴らしかった。まさに名誉勲章もの、我らの誇りだ。さあ……」
この勲章を受けるがいい。そう言って、カイの胸に勲章を。
兵士たちからは、拍手と歓声が沸いた。
「流石だぜ、カイ! 流石は俺たちの戦友だ!」「ダチ公! お前が居てくれてよかったぜ!」
「このクソ野郎! 最高にイカしてやがる!」「お前が居なきゃ、この部隊は始まんねえぜ!」
駆け寄ってきた兵士たちが、乱暴に、しかしこれ以上に無く親し気に、肩を叩く。
そうだ、彼らは戦友たちだ。最高のクソ野郎どもで、仲間たち。
「祝い代わりに、姉ちゃんがいっぱいいる店に連れてってやるぜ!」
「ああ。俺たちはこれから、女しかいない店に突撃し、彼女らを純潔から救い出す作戦を遂行する事になる」
「激しい戦いになるぜぇ? 腰とイチモツの負傷に気を付けな!」
下品なネタに、笑い合う。ああ、俺の戦いが、ようやく認められたんだっけな。
信頼できる仲間とのひととき、背中を預け命をやり取りする兵士たちにとって、これほど安らげる時は無い。
カイもまた、同様だった。いつしか微笑みが、彼に浮かんでいた。
娼婦たちが浮かぶ微笑みを目の当たりにして、草薙・美珠(退魔巫女・g03980)は、
「え? わ、私は……?」
高級娼館『メゾン・デ・ニュイ』、その控室に居る事に気付いた。
「どうしたの、美珠さん?」「なんだか、ぼーっとしてるわよ?」「どうかしました?」
美少女たち……自分とほとんど年齢が変わらない彼女たちが、美珠を世話してくれている。
彼女たちは、全員がほぼ裸だった。全裸の上に、身体を覆う薄絹の衣をまとっているだけ。透ける布地が、より一層……女体を扇情的に見せている。
そして美珠もまた、同じ姿をしていた。
「はい、どうぞ。あーん」
一人目がトレイから、お菓子や飲み物を美珠の口元へと運んでくれる。
「これからまた、お仕事でしょう? うらやましいわ、伯爵家のご令嬢からのご指名なんて」
二人目が、手足をマッサージしてくれる。良い力加減で、とても気持ちいい。
「いいなあ。私も家に捨てられ、売られてきたのに……こんなに差が付いちゃうなんて」
三人目が、爪を磨いたり、体中を拭いてくれたり、メイクをしてくれたりする。
「……ああ、そういえば……」
思い出した。自分は確か、何かの任務に失敗して、捕らえられて……この娼館へと売られてしまった事を。
そして、今日も……、
「い、いかがですか……あっ……ああっ!」
「ああ……良いわよ、美珠……ふふっ、ちっちゃな胸の先っぽ、立ってる……」
客の令嬢から、責められ、撫でられ、びくびくっと敏感に反応する美珠の身体。
自分からも、責めて、舌でお客の身体をなぞり上げる。
そして、責め返され、舌でお客から身体をなぞられていくと、
「「……ああああっ!」」
濃密な色香とともに、今宵もまた淫花が咲いた。
「……とても、良かったわよ。ふふっ、とてもかわいい……身請け、したいなあ……」
お客の令嬢が、去り際に自分の両胸に顔を埋め、頬ずりした。
こんな風になれるなど、最初は思いもしなかった。
ここに来て、最初は絶望しかなかった。けど、先輩が教えてくれた。
(「知って、しまいました。大きな胸の柔らかさ、細い指の心地良さ、あの大切な場所の、亀裂の美しさ……」)
それに、自分の小さな胸の愛し方、愛され方も。
この『メゾン・デ・ニュイ』は、高級娼館。主な客は貴族や王族、富裕層。そして、男性のみならず、女性客も取る。むしろそちらの方が界隈では有名。
その中で生活していくうち。美珠はいつしかこの娼館の、娼婦たちの頂点に立っていた。
娼婦たちのあこがれとして慕われ、毎日のように……『研修』の名目で、娼婦たちと肌を重ねている。
主に自分から責めるより、責められ、尽くされている。いわゆる『ネコ』というやつだ。けれど、美珠は責め役……『タチ』を行っても、相手は快楽に堕ち、果ててしまう。美珠から責められる事は、娼婦たちにとって一種のステイタスになっていた。
そして今日も。まるで女王に尽くすメイドか召使いのように。娼婦たちが美珠へと奉仕してくれていた。
「はい、あーん」
「ワインをどうぞ」
「お菓子を、口移しで……」
「きれいな黒髪……ブラッシング、しますね……」
「肌もきれい……拭きますね」
皆、目を見張る美少女たち。そんな彼女たちが、美珠のお世話をしてくれる。
「ねえ、『時間延長』……いいかしら」
「追加料金、弾むから、ね?」
それだけではなく、令嬢たちがこっそりと、営業時間外なのにやって来くることもしばし。
彼女たちは娼婦たちに交じり、料金を払って美珠にご奉仕するのだ。
「……ふふ、こうして尽くされる生活も、悪くないですね」
美珠はいつしか、満足を覚えていた。
●その黄金が、黄鉄鉱(パイライト)とわかる日々
「……満足、とは言えない」
いや、生まれてこの方、満足などしたことはない。
セシリー・アーヴェンディル(ルクスリア・g02681)は、その小さな、崩れかけた教会に祈りを捧げ、
そして、振り返った。
そこには、彼女とともに武装した戦士たち、騎士たち。
そして、更に奥へと目を転じると。平原を舞台に、凶悪そうな姿の武装した者たちの軍勢が、互いに戦っていた。
「……諸君! 私は、『聖職者』、そして『騎士』! 祈りを捧げ、戦いの研鑽を、毎日怠らずに行っている。そして諸君のように、同じ志を有し、ともに戦う仲間達もいる」
地面に立てた剣に手をかけ、セシリーは言い放つ。
「世界に、悪ははびこり、悲劇が満ちている。だが、それらを打ち砕く事。それは誇りある行いだと、私は自負している。たとえ、敵が強大であり、絶望的な状況にあろうと、挫けはしない」
戦って死ぬならば本望。悪に立ち向かい滅ぼす礎になったのならば、他に何もいらない。
「……私が戦い、助けた者たちから感謝の声が寄せられるたび……私は確信する。我が腕、我が剣により、世界を平和に近づける事ができたと」
だが、満足は出来ない。まだ世界中に、悪と悲劇ははびこっている事には違いない。
「そう、その感謝の声を聞きたい、自分の戦いが、誇りある行為だと自覚したい。そのためには……」
『世界は常に、戦乱に満ちていなければならない』
「人々よ、常に困っているがいい。悪よ、常に栄えるがいい。それらは私が、我々が倒そう!」
セシリーに賛同し、戦士たちが武器を手に掲げ、雄たけびを上げた。
「そうとも、私の思い通りに戦わせてほしい! 助けた民たちから感謝を聞くため、世界を平和に近づけたと、私が確信するため! さあ、同志たちよ……」
行け! その言葉とともに、戦士たちは悪の軍勢へ向かっていった。
そしてセシリーもまた、聖剣ルクスリアとともに、戦場へと一歩を踏み出した。
「はぁ……会いたかった」
手をつなぎ、撫で、
抱きしめ、もっと触り、
前と同じように触れ合い、他の事など考えず、温かさを感じていたい。
生塚・円(マイペース・g02107)は、戦場を臨む丘の上で、行方不明になっていた、初恋の人と、抱きしめ合い、抱き合い、触れあい、
会えなかった時の心の寂しさを、喪失感を、温かい感情とともに埋めていた。
「ふふっ、いいわね。愛し合う二人。そう思わない?」
その丘に面した、小さな街の小さな通りで、
アンジェリーカ・リヴィンスキー(吸血鬼のダークハンター・g07564)は、街中で抱き合う恋人たちの姿を見て、隣に立つ町の住民へと語り掛けた。
「ええ、あのお二人、とても似合いのカップルですよね」
相手も、愛想よく返答する。
「あら、アンジェリーカさん」
「やあ、アンジェリーカ」
「よう、アンジェリーカの姐さん」
街中を歩くたび、誰もかれもがアンジェリーカに挨拶を。
この街に住む者たちは、皆がいい人たちばかり。
互いに信頼し合い、ルールを守って生きている。そして互いに諍いなど起こらず、互いに助け合って生きている。
何より、自分を無視したり、嘲ったり、嫌悪で見たり、無視したりするような者はいない。
ここは理想の街。平和で、誰も傷つけない、優しい場所。決して崩れる事のない日々。
そう、『噂の吸血鬼ども』が現れない限り、この平和はずーっと続く……。
その街中には、スイーツ店があった。
そして、その店内では、
「ねー、ケーキ」
「はい、ただいま」
「やだー、こんなのいらなーい」
「はい、代わりを持ってきます」
「ねー、壊しちゃったー」
「大丈夫ですよ、すぐに直します」
マリアラーラ・シルヴァ(コキュバス・g02935)が、気紛れにワガママ放題していた。
叱ったり、怒ったりしない。マリアラーラの言う事を全て、周りの大人たちが従ってくれている。
だが、そのワガママは、すぐに済んだ。
「……ねえねえ」
「はい?」
「全然サービス足りないよ?」
「え?」
マリアラーラは、少しだけ考えるように口ごもり、
「……あのね、マリアをお世話してくれるオトナ達は、マリアが黙ってても、マリアがしてほしいこと『以上の事』をしてくれるの」
と、語り出した。
「何を、仰ってるんですか?」
「何か、して欲しい事は?」
「ケーキ、持ってきましたよ」
周囲の大人たちは、それでも奉仕しようとする。
「……マリアのお友達も、マリアが……ディアボロスしてるの知ってるから、マリアが黙ってても……してくれるの」
そして、マリアラーラは大人に構わず、語り続ける。
それを聞いた大人たちも、
「私たちも、してあげますよ?」
「何でもしてあげる」
「なにをしてほしい?」
奉仕しようと、迫ってきた。
が、
「……マリアが黙ってても、マリアのお友達や、仲間たちは、一緒に遊んだり、元気づけてくれたり、『それぞれの精一杯』で、応援してくれるの」
それに構わず、マリアラーラは言葉を叩き付けた。
「マリアの『頭の中の欲望』を読み取ってるんだろうけど、……マリアの『望み通り』程度じゃ……」
『堕落』するには、足りないの。
それを聞き、『大人たち』は、
表情が消え、まるでいきなり動力が泊まった人形のように、固まった。
「……街の中が……?」
それにともない、いきなり街中の様子が変化した。まるで街そのものが、何かに迷っているかのように。
そして、マリアに迫っていた大人たちも、かき消えていった。
●それすなわち、愚者の黄金の日々
「……?」
アンジェリーカは、ふと思った。
「『噂の吸血鬼ども』……名前は……なんだっけ」
確か、クロノ……、
「クロノ……クロノヴェーダ……そうだ、クロノヴェーダ!」
まるで夢から覚めたかのように、アンジェリーカは目を見開いた。
「そうよ、ウチはクロノヴェーダを倒しに来たのに! こんな事してる場合じゃないわ!」
と、近くにいたマリアラーラが、
「アンジェリーカも、目を覚ましたの?」
「ああ。ウチは目覚めた! 他の皆は……」
見当たらない。堕落から目を覚ますには、自力で目覚める必要があるらしい。実際アンジェリーカとマリアラーラは、こんなに近くにいたというのに……互いに全く、その存在に気付けなかったのだから。
「……信じるしか、なさそうね」
戦場を臨む、丘の上。
「ふふ……」
円は、初恋の人を抱きしめつつ、
「……『嘘つき』」
その耳元で、囁いた。
「ずっと、一緒に居てくれるはずだったのに。あなた、私の知らないところで、何も言わずに……誰の手も届かないとこに行っちゃったじゃない」
相手は、黙して語らず。だがそれでも、円は悲しみも、怒りも露わにせず、
自分自身に語り掛けるかのように、静かに語り続けた。
「私が、して欲しい事をしてくれる。それはとても、魅力的だよ」
相手から離れ、相手の顔を見据え、円は言い続ける。
「でもね、私は……消えちゃった『家族』や、皆と生きた『歴史』を、取り戻さないとだから。だから、あなたとは『ここまで』」
そう言って、唇に指を当てた。
「だから、またね……○○○さま」
円はそのまま、後ろへと一歩引く。
「……今度会えたら、あの頃みたいに……一緒にお菓子、食べようね」
彼女のその言葉を、理解したのか。
相手は、寂しそうに微笑み、そしてしっかりと頷き、
かき消えていった。
「…………」
……許さぬ。
私の大切なものを、沢山奪ったクロノヴェーダ……許さぬ。
言葉にせず、己の決意を、
円は改めて誓うのだった。
崩れかけた教会前。
「……違う! 世界が戦乱に満ちろ? そんなのは本末転倒な世界だ!」
ルクスリアを、聖剣を振り上げたセシリーは。
その場にとどまり、己を叱咤するように叫びつつ……剣を振り下ろした。
「正義という快楽……そんなものに、堕落するわけではない! そんなもののために、私は戦っているわけではない!」
神よ、どうかお許しを。誘惑に堕ちかけた愚かしき己に、罰をお与えください!
ルクスリアの刃を地面に突き立て、再び教会へ向き合い、一心不乱に祈るセシリー。
やがて、彼女の周囲に広がる『戦場』は、『教会』をも含んで更地となり、消えていた。
それとともに、兵士たち、戦うはずだった悪の軍勢たちも、
霧が晴れるかのように、消えていった。
宮美の隠れている、屋敷にて。
「……いやまあ、人を好き勝手させて、その姿を描くのも『あり』かもしれませんが……」
宮美は、スケッチブックのページを閉じた。
「……私がやりたい【アート】とは違うので」
そのまま彼女は、今までモデルにしていた者たちへ、背を向けた。
「『今あるものを、あるままに残す』、それが私のやりたいことなので。だから……だから『私の思いどおりになる皆さん』は求めるものとは違うんです。あ、スケッチさせていただいた事には、感謝します」
後ろの方で、何かの蠢く気配が感じられたが、
「ですが、このスケッチも参考資料みたいなもので。メインではないです。……時代を越えて、いろんな人が、色んな場所から集まるのは、『今だけ』かもしれませんから……。だからは私は歴史を戻すことと同じくらい、今を描くことを優先したいんです。なので……」
引き取らせていただきます。そう言い切ると、
屋敷の風景が、いきなり消えた。
同じく、屋敷内。
「……でも、現実では起きない非現実なんですよねえ。だからこそ……現実を忘れられる……」
メルセデスはやがて、落ち着きを取り戻し、
メモ帳を閉じた。
「全てが『思い通りに動く』世界……まあ、ある意味では、確かに理想の世界のひとつかも」
ですが……と、彼女も立ち上がった。
「ですが、『自由にならない事』にこそ……情熱を注ぎたくなる。それが人の性であり、『萌え』であるのですよ」
目前のおじ様二人も、離れていく。
「従順な奴隷ちゃんばっかりだと、世界の王様にでもなった気になれるでしょう。だけど、『思い通りにならない相手』を、権謀術数の限りを尽くし、振り向かせ、それでも尚振り回される……嗚呼、素晴らしいラブコメ展開じゃあないですか!」
でも……と、顔を伏せるメルセデス。
「でもそんな事、現実では中々起こらない、非現実、なんですよねえ。でもだからこそ、現実を忘れられる。さあて……早く戻って原稿仕上げないと、印刷所への入稿に間に合わないぞっと」
同人者の『現実』に、彼女は戻っていく。
「……その前に、お仕事も片付けないと。締め切りやべえですの」
周りの『屋敷』の空間そのものが徐々にかき消え、『堕ちていく』のが止まった事を、メルセデスは知るのだった。
コンサートホール内。
愚か共たちを踏み台にしつつ、ハナは、バイオリンの旋律をかき鳴らしはしたが、
「……ダメッス。こんな音じゃ、ダメっス」
我に返っていた。
それとともに、周囲の両親親戚、家族、かつての学友たちの姿が、徐々に『どうでも良いもの』と思えてくる。
「……私、世界に出て……いろんな人の、色んな演奏を聞いて、自分の未熟さを思い知ったッス」
そうだ、あの時に家も、友人たちからも離れて、広い世界に触れた。
触れられたのは、ほんの僅か。けれど、世界の広さを実感した。自分の技術の未熟さももちろんだが、家柄や環境というものに囚われていた事、自分が今まで居たのは狭い世界でしかない事。そういった『自分の小ささ』を理解した。
狭い世界でしか存在しえないフリードル家の連中など、歯牙にかける価値すらない。それだけ、自分は『成長』した。『大きく』なれたのだ。
「それ故に……この程度の音で認められる、『この世界』の方が間違ってるッス!」
そのまま、近くの壁へ……ハナは、
思いっきり、頭突きをかました。
「くあっ! ……いてて。どうやら堕落の夢からは、逃れられたみたいっスね」
頭突きの痛みは、自分への誓い。両親も学友も関係ない、ただひたすら、自分の道を行くのみ!
堕落から覚めたハナは、改めて自分へと誓っていた。
●やはりそれは、平穏なる日々
オフィス内、会議室。
「……流石だね雨ヶ屋さん。去年の東京出張で、一皮むけたんじゃあない?」
新製品発表のプレゼンを追え、上司がマヌエを評価する。
「きっと、実りある一年だったんでしょうね」
「ああ、一年前も良い顔だったが、今はもっと良い顔をしてるよ」
同僚たちも、マヌエを称賛していた。
しかしマヌエは、その声が聞こえてなかった。
(「……感じる。『気配』を……!」)
何度も味わった『気配』、ヤバい気配。
それは、この一年の間に……何度も味わった感覚。背骨にツララを突っ込まれたような、空腹の猛獣の檻に入れられたような、そんな危険な感覚。
そんな『ヤバい気配』に、マヌエは。
作業服の下をまさぐった。手に触れた感覚から、それが……、
「……なるほど、確かにあたしは、一皮むけたようだ」
手の感触は、触れたそれが『拳銃』および、それを収めたホルスターである事を悟らせた。
この穏やかなオフィスと、同僚と、上司。それらに違和感を覚えたマヌエは、
『違和感を覚えたら、躊躇せずに、武器を取れ』
自分が身に付けた戦場の流儀、それが染みついている事に気付き、それと同時に、
「……こんな日常も、悪くはなかったが……」
正気に戻った。戻ってしまった。ならば、目を覚まさねばなるまい。
そうだ、自分は義勇兵。クロノヴェーダと戦うディアボロス!
気が付くと、同僚も、上司も、オフィスも、全てが消えていた。
ただ、足元に。
「……ただいま、スナタ。心配かけたようだな」
自分の相棒、大切な仲間であるモーラット・コミュ『スナタ』が、心配するように体毛をこすりつけていた。
アッシュの実家、お茶の間。
かつてのメンバーたちが、『家族』として迎え入れてくれる。
そして、両親から、『家族』として迎え入れてくれる。
欲しいものは、もうここにある。ならば……こんな戦闘服を着ている必要などない。
それより、腹が減った。母さんの料理を……。
その時、
「……痛っ。ああ、そうか……」
肩に乗せていた、ぬいぐるみ。守護人形。
巫女の人形が、アッシュの頬を引っ張る。サキュバスの人形も、反対側を引っ張る。
ドラコニアンの人形も、巫女とともにアッシュの頬を引っ張る。
「……わかった、わかったよ」
それで気付かされた。これは、『夢』だ。自分の願望を映した夢にすぎない。
二つの家族に対し、自分は承認欲求と、寂しさとを抱いていたのだろう。それを刺激され、安らぎを覚えていた。
「……未練なんて、無いと思っていたんだけどな……」
いや、俺は誓ったんだ。何も奪わせないために、抗うと! ならば、自分の未練にも抗ってみせる!
最後に、消えゆく『二つの家族』の幻を見つつ、
アッシュは、メットを被った。新たな戦いへの誓いとともに。
「……もう、そんな事は、ありはしないのに」
神社境内。
ゆきのは、呟いた。
もう彼ら、彼女らは、存在しない。存在しないがゆえに、許してもらう事も、責めてくれることも、してくれないし、できもしない。
けれどもゆきのは、自分の大切だった存在の『顔』、懐かしい『顔』、それらを見られた事に、少しだけ感謝していた。
声が、姿が、徐々に消えていく。
そして、いつもの……腕に淫猥な悪魔を封じた、いつもの自分が戻ってくるのを感じ取った。
「…………」
別れの言葉は言わない。だって心の中では、いつも一緒なのだから。
今はもういない仲間や家族。彼ら、彼女らを一瞥したゆきのは、
そのまま、背を向けた。
「……でも……少しだけなら……良いですよね?」
自分に言い訳するように、堕落空間で正気に戻る際。
ゆきのは、ほんのひとしずくだけ。その頬に涙を流していた。
領主の館。
満たされた気分の嘉鷹は、気付いた。
……自分の傷痕が、急に痛み出した事に。その痛みが、徐々に己の思考をはっきりとさせていく。
「……そうか、ここは……『望みのまま』の世界だったな」
俺は……俺の望みは……『家族や、親しい者が増える』ことが、俺の望み、ということか。
霧が晴れたかのように、嘉鷹は正気に戻っていた。
「……お心遣い、感謝します。ですが領主様……このお話は、無かった事にして下さい」
嘉鷹のその言葉に、領主は表情を変えなかった。
「俺にはまだ、やるべき事があります。それが終わっても、養子になる事はできません」
領主の声が、なぜか……と、問うた。そんな気がした。
「俺は、あなた様に……」
それに答えようとしたが、
「……いえ、失礼します」
言葉を飲み込み、立ち上がった嘉鷹は。そのまま、その場を離れていった。
(「……言えない。言えるわけが、ない。……『殺された』などと言うのは……」)
この世界では、酷すぎる。そんな事を、伝えたくない。
部屋の扉へ、手をかけた嘉鷹は。
それを大きく開いた。それとともに、領主の館も、領主本人も、
その全てがかき消えていった。
●それはあるいは、いつか見る黄金の日々
軍事施設。
「さあ、まずは我が部隊名物の、クソまずい酒で乾杯だ!」
部隊の皆が、様々なカップを手にしている。入っているのは、濁った色の液体。
「乾杯だ、我らが偉大なるクソったれ、『アイゼンフント』に!」
「『アイゼンフント』の名を讃えようぜ! クソ素晴らしい俺たちの仲間に乾杯!」
カイもまた、皆とカップを掲げ、
「……!」
その言葉に、思い出した。
カイのコードネーム『鉄の犬(アイゼンフント)』。
部隊の皆……上官も、同僚の兵士たちも、かつてのカイを仲間とは、人間とは扱わなかった。
当然だろう。自分は敵に捕らえられ、未知の技術で改造されたのだ。宇宙人のゼンマイ仕掛けを、部隊の皆は仲間扱いしなかったのだ。
だが、それで良かったのだと、カイは思った。
改造され、何を仕込まれているかなどは分からない。素性が分からない者は、信用できない。戦っている最中、背中を預けている最中に、いきなり爆発したり、操られて後ろから撃たれたりしたら、たまったものではない。
彼等は、間違っていなかったのだ。
「……あばよ、クソったれども」
カイは、
「……あばよ、俺の、かつての仲間達」
静かに呟くと、己を覚醒させた。
部隊の皆の姿が、施設の情景が消えていくのを、カイは冷静に見つめていた。
娼館『メゾン・デ・ニュイ』。
美珠はもう、何度絶頂したかわからない。
その夜は、同僚と、先輩と、後輩と、多くの娼婦たちに尽くされ、
そして、こっそりとたずねてきた、上流階級の女性たちにも尽くされ、
「……ふふ、また尽くされちゃいました。気持ち良すぎて、幸せです」
最高の快楽を感じ、快楽の末、疲れ果てた皆とともにベッドに横たわっていた。みんな、美珠に快楽を与え、絶頂させてくれた。
そのお返しとばかりに、美珠からも愛撫し、快楽を与えると。次々に絶頂し、果てていった。
全てがうまくいき、色々な人に尽くされ、奉仕され、何も問題は……、
「……尽くされる? 私は……誰かに尽くす、仕える身だったような?」
満たされた気分だったが、美珠は。逆に違和感を覚えていた。
満たされ過ぎていた。それ自体がまずおかしい。
それから、失敗もせず、こんなに何もかもがうまく行く方がおかしい。自分はちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ(ここ力説)ドジな所があるから、失敗も日常茶飯事なのに。
なのに、思った事が、全て思った通りにうまく行きすぎている。
それに何より……『えっちな事を、嬉々として受け入れてる』なんて、自分じゃない。
「……ええ、そうです! 私はそんなにえっちじゃないです! いや、えっちなお仕事してる女の人たちを差別するつもりは無いですけど! でも、ほ、他の人と、男の人だけじゃなく、女の人とも……え、えっちな事して、それを喜ぶなんて……」
そんなの、私じゃないですと、認めたくない事を認めないかのように、首を振る美珠。
そう、私はそんなにえっちじゃないです。なのに神様は、いつも『素直にえっちな事を認めたらどうじゃ』などとからかって……。
「……そうです、『神様』! そもそも私は、草薙大神に仕えし巫女! え、えっちなことに堕落するわけには……」
それに気づくと、美珠は。
徐々に自分が覚醒し、自分に尽くしてくれた娼婦たち、お客たちが、
消えていくのを認めた。
「……ま、待って……!」
強烈に、後ろ髪が引かれるが、それを何とか抑え込み。
「……目が覚めた?」
セシリーが、他のディアボロスたちの姿が、目前に現れたのを認めた。
「は、はいっ。なんとか、覚醒できました」
そう言って、仲間たちに一礼する美珠。
「良かったな。……どんな夢を見たんだ? ひょっとしたらエッチな夢でも」
セシリーに問われるが、
「そんなことないです! 娼婦になってエッチなことした夢なんて見てませんから!」
と、皆の前で、大声で言ってしまう美珠だった。
「……ま、みんな覚醒できたんだ。作戦の第一段階、成功ってとこだな」
嘉鷹が、仕切り直すように言った。
「ああ。……ここからは、俺たちのターンってとこだな」
カイと、
「クロノヴェーダに、目にもの見せてやる。反撃だ」
アッシュも言い放つ。
「そうね。でも、その前に……」
メルセデスと、
「……リリアーヌさんを、助けなきゃ、なのね」
マリアラーラが、すべき事を確認するように言った。
「……だな。彼女もウチらと同じように、夢に囚われて堕落させられてるんなら、助けないと、ね」
アンジェリーカの言葉に、ディアボロスたちは頷いた。
ここからが本番。リリアーヌを助け、この空間内に居るクロノヴェーダ級と戦い、倒す。
簡単にはいくまい。しかし、簡単な事など存在はしない。
堕落の夢から這い上がったディアボロスたちは、その事を改めて認識するとともに、戦いへと気を新たにするのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
【強運の加護】LV1が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
【無鍵空間】LV1が発生!
【士気高揚】LV2が発生!
【飛翔】LV2が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
【友達催眠】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV2が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【リザレクション】LV1が発生!
【能力値アップ】LV4が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!
【命中アップ】LV1が発生!
【アクティベイト】LV1が発生!
吉音・宮美
アドリブ・連携歓迎
話を聞く限りではとても誇り高い人のようですね……そういう人は下手に同情するより、ケツを叩くのが一番!
リリアーヌさん!世界に不満があるんでしょう!?
ならその感情を【アート】にしてしまうんです!
言葉にならない感情を音にして【演奏】してもいいんです!
不満を詩にして【歌唱】してもいいんです!
ぐちゃぐちゃな心をぶちまけるのようにカンバスに筆を走らせていいんです!
……それともまさか、自信がないですか?そんなことできないと?自分に都合の良い世界じゃないと怖くて何もできないんです?
……ほら、通りすがりの小娘にここまで言われて悔しくないんですか!?起きて!私に言い返しなさい!
雨ヶ屋・マヌエ
この光景にはしょんぼりです。
リリアーヌさん、あなたが本当に欲しているものは嗜虐心を満たすための奴隷ではなく、あなたに共感して対等に接してくれる友人でしょうに、夢の中ですらそれを手に入れらずにいる。
こんなに悲しいことってありますか?
しかしこれが夢の中であるからこそ、まだ引き返せるってもんです。
それには目を覚まさなくっちゃなりません。
境遇はそれぞれ違いますが、あなたと同じような孤独感と不満を抱えた人は古今東西、それこそ4000年前の砂の国や200年後の島国にもいます。
皆同じだからあなたも我慢しろってんじゃなくて、あなたの気持ちを理解できる人は案外どこにでもいるって話です。
今、この場所にもね。
アッシュ・シレスティアル
心情
高級娼婦つー事はきっと美人なんだろうな…しかも過激な性癖も理解があると…あだ!?
行動
敵が音で寄ってこないように【平穏結界】を活用、双刃ヴァルディールでリリアーヌ嬢にあたらないよう注意しつつ触手を切り払いながら声をかけていく。
説得
俺らは君がどうゆう経歴でどんな気持ちを抱いているかを知った上でここにいるわけだが…
今の君の振る舞いは君がこうはなるまいと思っていた両親の振る舞いと同じだと気づいているか?
既に試したかもしれんが同僚には自分の気持ち弱みを曝け出してはどうだ?相手が自分と同じ人間らしさを感じれば自然に引け目を感じなくなると思うぜ。
※アドリブ、絡み歓迎
ハナ・フリードル
とりあえず、絡み付いてる樹木を引き剥がしてみるっスかね。【怪力無双】で筋力上げて、お姉さんを傷付けないように抉じ開けるっス。隙間が出来たら持ち込んでおいた鋸で解体っス。
なるべく気楽な口調で語りかけます。
聞こえてるっスか?今、どんな夢を見てるか大体想像つくっス。私もおんなじ目に会ったっスから。
気分良いだろうとは思うっスけど、ちょっと一回深呼吸して落ち着くっス。お姉さんは今してるのは仕返しっス。そいつは、嫌ってた人達と同じ事をしてる、って意味っスよ。
人間、鬱憤は溜まるし、人生は思う様にはいかないもんス。友達と愚痴でも言い合ってやってくっスよ。
だから、目を覚ましてまずは私の愚痴を聞いて欲しいっス。
草薙・美珠
●目的
リリアーヌさんを説得し、正気に戻します。
●手段
まず、リリアーヌさんに接触する必要がありますね。
幸い、『メゾン・デ・ニュイ』の内部事情はわかっています。
あっ、いえっ、べ、別に娼婦になってちやほやされるえっちな夢を見たからじゃないですからね!
娼婦の一人としてリリアーヌさんに接近しましょう。
初めはお仕置きで凌辱されてしまいますが……
これもリリアーヌさんを説得するための作戦だと神様が言っていました。
って、神様、ほんとでしょうね!?
凌辱されても屈服しない強さを見せて、リリアーヌさんを抱きしめます。
弱音を吐いていいのです、と言いながら、彼女と肌を重ねて……
一人の女性として認めながら親交を深めます。
カイ・オーベルト
チェーンダガーで木枝を切断し救出する
さて、何を言おうか
彼女の生き方には敬意を覚える。無責任かもしれないが、これからも気高く美しく生きて欲しい、というのが心情だ。今回の堕落は強制。彼女が挫けた訳じゃない
作業しながら話しかける
これがあんたの望んだ生き方か、リス·ノーブル
傲慢にならず、気高く生きる事を誓ったんじゃないのか
不満も溜まるだろう。無理もしてたんだろうさ。だが、それらを乗り越えて今のあんたがいる
リス·ノーブルの名はその証だ。自ら名乗り、他人に認めさせ、あんたは高貴なる百合になったんだ
辛いなら捨てるのもいいさ。だけど、忘れ去るのはいけない
自分を取り戻せ。これからどうするかはこれから考えればいい
アンジェリーカ・リヴィンスキー
自分の思い通りに加虐をする世界ね…でもウチらは常識を超えるディアボロス、自身の世界だからって思い通りに出来るだろうっていう常識は通用しないわよ。
今回はその点を利用させて貰いましょう。
とりあえず軽く挑発して何発か殴らせて全然通用しないって言うのを見せるわ。
…なんでウチらに全然効いてないか分かる?
それはね、これが貴女が本当に望んでいることじゃないからよ!
効いてる人もいるなら…まぁそういう趣味なんでしょう。
ともかく、貴女の本当の願いを言って見なさい!
大丈夫よ、ここには貴女を見下す人間も遠慮する人間も居ない、素直に甘えていいのよ。
貴女は立派よ、だからこんな樹が見せる夢に踊らされてないで戻って来なさい!
セシリー・アーヴェンディル
【アドリブ/連携歓迎】
【一刀両断】で枝を断ち切って彼女を助け出そう。
まったく。あのようになってしまうとは私も未熟だ。
君は優しい人だな。あれだけの不満を押し殺して笑っていたのだから。
だが、その不満を心に押しとどめる必要はないのだと思う。
一生懸命やっていたことを認めてもらいたいというのは誰でも持つ欲求なのだから。
この際、少し周りに吐き出してしまうのはどうだろうか?
高級娼婦として仕事を誠実にこなしてきたのだ。
それくらいの我がままを言うくらいの信頼は積み重なっているだろう。
まずは手始めに、全てが終わったら最初に私がお茶をしてみるか?
メルセデス・ヒジカタ
この枝に囚われてる方、リリアーヌは被害者でもあり……元凶の一部でもあると
この時代、いくら才があっても、女性が就ける仕事は限られてたでしょうし、内に溜まったものはあるでしょう
とりあえず、不可視の一閃で周囲の枝を斬りまくり、【一刀両断】で彼女を物理的に縛るものを断ち切りましょう
勿論、彼女を傷つけないように注意
まあ、癖の悪い客や、絶対に分かり合えないモンスタークレーマーなんかの相手は、しなくてもいいんじゃないですか?
あなたくらいになれば、客だって選べるでしょうし、選んでも選ばれる自信と実力があるのでしょう?
どんな音楽や芸術にだって、アンチは居るもの
だったら、愛してくれる者に、愛を返す方が健全ですもの
マリアラーラ・シルヴァ
なんで百合さんの精一杯では足りないのか
なんで満足させてるのに悪く言われるのか
それは貴女が傲慢を拒否してるから
怖い話(パラドクス)をしてあげる
もう居ない貴女のパパママのコト
貴女が傲慢を否定する根源たる二人
けど二人はなぜ傲慢だったのだと思う?
それは貴女を幸せにするためだよ
貴女自身が決める貴女の幸せ
それを後押しするには
傲慢にコレが幸せだって決めなきゃ薦めらなかった
学者や教師の立場では
貴女が幸せに暮らす未来の国の在り方に届かないから
自分達を棚に上げて全てを見下すしかなかった
二人は上手くいかなかったけど
だからって傲慢を戒めすぎたら
人の心に踏み込めないし
してほしい事の先に届かない
傲慢は愛や誠意の別の形なの
川屋・ゆきの
「ピュタン風情が、ですか。そう取られても仕方が無い格好ではありますが」
為すべき事を為すために、致し方なくわたしはこの姿を晒す道へと進みました
周囲の、わたしと同じような格好をさせられている、彼女の同僚や客たちへの仕打ちを見据えつつ、
「さて、今のあなたは、彼等を見下し、軽蔑してはいませんか?」
「その行いは敬意を持たれるものでしょうか?」
再度自分の姿をみて、お茶会などは難しいですが、と
「まあ、殿方の愚痴などはお話出来ると思いますよ?」
●百合の花が咲く
『メゾン・デ・ニュイ』の一室。いわゆる嗜虐的・被虐的な客向けの、特別室。
ここは、『嗜虐の間』と呼ばれていた。
普通の部屋より広いそこに、リリアーヌはいた。
そして、草薙・美珠(退魔巫女・g03980)も、リリアーヌの前に……首輪を付けて、立っていた。
「さあ、裸にしてやるわ。それから四つん這いになって、おねだりなさい。『いやらしい私に、お仕置きして下さい』って」
「は、はい……」
『リス・ノーブル(気高き百合)』の名の通り、彼女は……リリアーヌ・ヴィヴィエは、美しかった。
彼女を間近で見た美珠は、その事を実感する。
そして今の彼女の周囲には、過去の客たち、リリアーヌの同僚と思しき娼婦たち、彼ら・彼女らが、倒れていた。
四つん這いになった美珠の背中を、つうっ……と、リリアーヌの指が撫でる。
「い、いやらしい私に、お仕置き……あっ!」
それだけなのに、快感が身体を走った。びくんっと、反応してしまうと、
「ふん、清楚そうに見えるけど、いやらしい雌犬だこと」
「ち、ちがいます。いやらしくなんか……ああっ!」
お尻を叩かれ、音が鳴り響く。
「誰が口答えをして良いと言ったかしら? ほら、もう一発! ほら! ほら!」
「あっ! あっ……ゆ、許してください……あひっ!」
何度もリリアーヌに叩かれ、美珠のお尻は赤く腫れあがる。
「あら……ここ、もうこんなに湿らせてる。どうしようもなく淫乱ね」
「い、淫乱じゃ……ひいっ!」
四つん這い体勢の美珠は、リリアーヌに片足をあげさせられた。自分のあの部分が露わにさせられ、羞恥に身体が熱くなる。
「口答えするなと言ったでしょう? 罰として、犬がどれだけいやらしくお漏らしするか、見てあげるわ」
「や、止めて……下さい……ああああっ!」
片足を高く上げた状態で、美珠は自分のへそ下を、自身の大事な場所を、リリアーヌの手により乱暴にいじられる。
どんどん潤いが強くなり、ねばつく水音が強くなり、そして、
「や、やめ……あっ、あああっ! 見ないで……あああああっ!」
「……あらあら、勢い良いわねえ」
黄色い飛沫が、放物線を描きつつ、美珠からほとばしる。
そのまま、脱力して床に伏せた美珠は、
「それじゃ、犬らしく『尻尾』を……付けてあげる!」
「え? ……ああああっ!」
肛門に何かを突っ込まれ、そのままぐりぐりとかき回されるのを感じた。尻尾の付いた、尻用のプラグだ。
被虐と痛みを伴った快感が、美珠のお尻を襲い、そして、
「あああああっ!」
背中を反らし、美珠は絶頂させられるのだった。
「……彼女……美人だな」
同刻。堕落空間から外に出て、
淫魔大樹の枝や蔓に縛られ、樹の幹になかば埋まって眠っている、『本物』のリリアーヌ。
彼女を前に、アッシュ・シレスティアル(蒼破拳・g01219)は、
「美人で、しかも……特殊な性癖にも理解がある、とか?」
ぽつりとそんな事を呟いていた。
「その点はおいといても、確かに美人だな」
カイ・オーベルト(アイゼンフント・g05787)も、彼の言葉に一部同意。実際、彼女は何か……男心をくすぐり、魅了させる、引力めいたものがあった。
「……あー、男子の皆さん。そういう話は、女子の前ではちょっとご遠慮願いたいッス」
と、ハナ・フリードル(人間のサウンドソルジャー・g06921)は言いつつ、彼女に絡みついている樹木を引きはがそうと試みていた。
「……まあ、美人っつー点は同意っすけどね。今だったら、アイドルとか、女優さんやモデルさんとかやったら、マジに大人気間違いなさそうッス!」
『怪力無双』を用い、堅く絡みついた枝を、少しずつではあるが剥がしつつある。あるが……、
思った以上に木は固く、しかも多く、複雑に絡んでいた。その硬さは、木材より金属に近い。
一緒に巻きついている蔓は、柔らかくはあるがゴムのような弾力があり、手では中々引きちぎれない。ノコギリを当てても、粘着性があって、刃にべっとりとまとわりつき中々切れない。
「すいません。お二方、お願いできるッスか?」
ハナが下がり、刀剣を構えた二人が進み出る。
「……確かにな。『一刀両断』を用いても……思った以上に切り飛ばせないとは……」
セシリー・アーヴェンディル(ルクスリア・g02681)が、十字聖剣ルクスリアで枝を切りつけていくが、やはり切れていくのはわずか。
リリアーヌ自身を傷つけないように、気を付けて切っていくが、中々進まない。
「私の刀でも……中々切れません……斧を持ってきた方がまだ良かったかしら?」
『不可視の一閃』で、周囲の枝を斬りまくるメルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)も、セシリー同様に枝を中々切り開けない。
「下がってくれ」
アッシュが双剣アルディーヌで、
「俺たちもやってみる」
カイもチェーンダガーで、枝を切っていくが、結果は同じ。木の幹には、傷を付けるだけでも一苦労、細い枝を切断するだけでも、なおの事一苦労だった。
蔓も同じく。こうも切れなさすぎると、じれったく感じてしまう。
アッシュが『平穏結界』を活用しているため、作業音が敵を引き付ける事はないはず。だが……来ないというわけではない。不安が徐々に、心の中に蓄積していく。
「……地道に、切っていくしかないか」
結局、少しずつ。皆の手持ちの刃物で切っていくしかないという結論に。
無理にパラドクスを用いれば、切れない事も無い。だが効率は悪く、下手に連発したらリリアーヌ自身を傷つけてしまう事は必至。
とはいえ、『中々切れない』だけで、『切ることが出来ない』わけではない。少しずつだが、淫魔大樹の枝を切り、幹を削り出す事は出来てはいる。
ディアボロスたちは、作業に集中した。
そして、リリアーヌ自身を説得するため、淫魔空間内に入り込んでいる仲間達の事を想った。
「……頼むぜ、みんな」
「こっちからも、説得を試みてみるからな」
アッシュとカイは、静かに呟いた。
●百合の花がしぼむ
「……はぁ、はぁ……さあ、認めなさい。『私はいやらしい事しか考えられない、淫らな雌犬の娼婦だ』と!」
「ひぐっ!……ああっ、あああああっ!」
リリアーヌの『仕置き』が、美珠を何度も責め立て、何度も無理やり絶頂させていた。
美珠は縄化粧を施され、両手を縛られ、手首から伸びる縄で天井から吊り下げられている。その状態で、リリアーヌから凌辱を受け……強要されていた。
お前は淫乱で、快楽しか頭にない娼婦(ピュタン)だ、それを認めろ。リリアーヌから、それを強要されていたが、
美珠は、それを拒否し続けていた。
それというのも、
(「……こ、これも……リリアーヌさんを説得するための作戦だと、神様は言っていましたが……ほんとでしょうね!?」)
草薙大神その人から、美珠はそのように言われていたのだった。……それ以外の意図も、若干感じてはいたが。
「……いいえ、認め……ません……ああっ!」
すでに数度、失禁させられた。お尻から噴き出る不浄の様子を見られもした。
「……あなた、ウザい(フィールシエ)から、大きい方をさせる(フィールシエ)お仕置きしてやったのに……そう、随分と良い度胸ね。くそっ(メルド)!」
前も、後ろも、いやらしい道具に犯され、リリアーヌ自身からも責められ、何度絶頂したか分からない。両胸の先も、乱暴につねられて赤くなっていた。白い肌も、あちこちに鞭で叩かれた痕が痛々しい。
リリアーヌは、天井から吊り下げたロープを解き、縄化粧のままで、美珠をベッドに放った。
美珠のしぶとさに、焦燥している。作戦はうまく行っているのか……?
だが、
「……こうなったら、焼きごてでそのきれいな肌に、『コンヌ』と焼き入れてやるわ!」
美珠を見下ろしつつ。正気を失った表情で、リリアーヌがそんな事を言い放った。
見ると、既に片手には焼きごてと、赤熱した石炭の炉が。
「え? ちょ、ちょっと……あうっ……」
さすがに美珠は、それに抗おうとしたが。さんざっぱら凌辱された身体は、言う事をきいてくれない。力がはいらず、立ち上がる事すらできない。
しかし、そこへ、
「……リリアーヌさん、その子は決して……屈服はしないですよ。というか……この光景には、しょんぼりです」
部屋の扉が開き、雨ヶ屋・マヌエ(ボランティア・g01424)が、そこに現れた。
彼女に続き、ディアボロスの仲間たちが、続々と部屋に入ってくる。
「な、何よあなた達!」
「その子の友人。さて……高級娼婦の、トップに立つ人間、でしたっけ? でも……どうやらそれって、過大評価みたいねぇ」
マヌエの後ろから、アンジェリーカ・リヴィンスキー(吸血鬼のダークハンター・g07564)が、嘲るように言い放った。
「ねえねえ。……おねえさんのお仕事は、だれかをいじめることなの?」
マリアラーラ・シルヴァ(コキュバス・g02935)と、
「この光景を見たら……わかりますよ。『不満』があるって事は!」
吉音・宮美(限界ギリギリ狐娘・g06261)も、マヌエとアンジェリーカに続いて問いかける。
「…………」
川屋・ゆきの(封印の退魔巫女・g03290)は、己の姿をそのまま見せるのみで、言葉は無かった。
堕落空間の、外。
「……リリアーヌさん、聞こえてるッスか?」
淫魔大樹の枝と蔓を切り払う、その作業中の五人……アッシュ、カイ、メルセデス、セシリー、そして、ハナ。
「今、どんな夢を見てるかは、大体想像つくっス。私も、おんなじ目に会ったっスから」
ハナが作業しながら、眠れるリリアーヌに語り掛けていた。
「……まあ、過去にバカにしてきた連中が、掌返ししてヘコヘコするだけでもむかつくッスからね。、そいつらを足蹴にして、さぞかし気分良いだろうとは思うッスけど……ちょいと一回、深呼吸して落ち着くッス」
そして、自身も深呼吸するハナ。
「……お姉さんが今してるのは、『仕返し』ッス。そいつは、嫌ってた人たちと、同じ事をしてる、って意味ッスよ?」
その言葉を聞かされたリリアーヌは、僅かにまぶたをぴくりとさせた。
「自分もそうでしたが、人間、鬱憤は溜まるし、人生は思うようにはいかないもんス。友達と、愚痴でも言い合って、やってくしかないっすよ」
だから……と、ハナは問いかけた。
「だから……目を覚まし、まずは私の愚痴を聞いて欲しいッス。その後で、あなたの愚痴も、聞かせてほしいッス」
「仕返し……愚痴……くっ……!」
堕落空間内。
リリアーヌは、混乱する様子を見せていた。
「……一つ、言っとくけど。『自身の世界だからって、思い通りに出来るだろう』っていう常識は、ウチらには通用しないわよ」
そんなリリアーヌに、アンジェリーカが挑発するように言葉を投げる。
「ええ。リリアーヌさん。あなたが『本当に欲しているもの』は、嗜虐心を満たす『奴隷』、なんですか?」
マヌエも、アンジェリーカに続く。
「あなたが本当に欲しいもの。それは……『友人』、それも、あなたに共感して、対等に接してくれる友人、でしょうに。なのに、ここ……夢の中ですら、それを手に入れられずにいる。こんなに悲しい事って、ありますか?」
しかし、マヌエのその言葉に。
「うるさい! うるさいうるさい! お前らに何が分かる!」
リリアーヌは、焼きごてで殴り掛かった。それにアンジェリーカが、マヌエの前に立ちはだかると……。
焼きごてを手で払い、床へと落とした。
「『何が分かる』? はっ、そんなの言わなきゃわかんないっての。そんな事すらも理解できなくなったの? 『リス・ノーブル(高貴なる百合)』って大層な名前を名乗ってる割に、随分とお粗末なオツムになった事ねえ。うぷぷ♪」
嘲笑って見せたアンジェリーカだが、頬を平手で叩かれた。
「ふざけないで! 毎日毎日、馬鹿どもに従って、その機嫌を取るばかりで! 不満を口にする事すら許されない! そんな地獄の毎日がお前に分かるか! 同僚は勝手に私を持ち上げて勝手に高貴だと言い放って! それでいて勝手に気負って勝手に離れる! 私だって……娼婦であっても、それ以前に一人の女性なのに! 一人の女性として、普通に幸せを求めて何が悪い!」
感情に任せ、何度も、何度もアンジェリーカの頬をはたき続けるリリアーヌ。
だが、叩く音が大きく室内に響くが、アンジェリーカは堪えた様子を見せない。
両の頬を赤く腫らしつつ、
「……通用しないって、言ってるでしょうが」
平然とした態度を崩さず、言い放った。
●百合の花が枯れる
堕落空間、外。
アッシュが、双剣をもって、太めの枝の切断に取り掛かっていた。
まるでカッターナイフで、丸太を割って薪にするようだと、アッシュは感じていた。
「……リリアーヌ嬢、俺らは、君がどういう経歴で、どんな気持ちを抱いているか、『知って』いる。そして、『知った上』で、ここに居るわけだが……」
誰に言うともなく、語り掛けるアッシュ。
「気付いているか? 今の君のふるまいは、君が『こうはなるまい』と思っていた、両親のそれと同じだという事に」
彼に続き、
「ああ、俺もそう思う。……なあ、『これ』があんたの望んだ生き方なのか? 『リス・ノーブル』」
カイが彼女の通り名を、まるで称号のように呼びつつ問いかけた。
「傲慢にならず、気高く生きる事を誓ったんじゃないのか? ……あんたの仕事、男の俺には分からないが、大変な事くらいは想像できる。不満も溜まるだろう。無理もしてたんだろうさ。だが、それらを乗り越えて……今のあんたがいる」
リリアーヌの顔に、変化は無かった。だが、
(「俺たちの話を聞いてくれている」)
カイはそんな風に感じていた。
「……『リス・ノーブル』、気高き百合の名は、その証だ。自ら名乗り、他人に認めさせ、あんたはその名にふさわしい、百合の花になったんだ」
聞いていると信じ、カイは言葉を続ける。
「俺は、そんなあんたに敬意を覚える。そして、無責任と思ってくれてもいい。これからも気高く美しく生きてほしいと、そう思っている」
改めて、カイは彼女の顔を見た。まるで教会の聖母像のようだと、ふと思った。
「辛いなら捨てるのもいいさ。だけど、忘れ去るのはいけない。自分を取り戻せ。これからどうするかはこれから考えればいい」
この言葉が、通じてくれればと、カイは願った。
「……気が済んだ? 全然痛くないわ」
堕落空間内。
リリアーヌにひとしきり頬を叩かれ続け、アンジェリーカは堪える事無く、それに耐え続けた。
(「……ホントはちょっと痛いけど、まあ、我慢ガマン」)
などと思いつつ、アンジェリーカは、呆然としているリリアーヌの顔を見据える。
「なんで……なんで平気な顔してるのよ、このマ〇コ野郎(コナール)!」
それ、かなり下品な言葉じゃなかった? そう思いつつ、
「……なあ、なんでウチが、全然効いてないか、分かる? それはね……これが、貴女が本当に望んでいる事じゃないからよ!」
アンジェリーカは、問いかけた。そういう趣味の客も居たかもしれないが、その考えを彼女はとりあえず流し、
「ともかく、貴女の本当の願いを言ってみなさい!」
しかし、
「……言ったところで、どうせ……」
そううなだれるリリアーヌ。
「どうせ……堅気の人間は、娼婦(ピュタン)風情がとしか言わない! 同僚からすら、避けられる! 本当の願いを言ったところで、何になるのよ!」
今度は、叫んだ。
「……ピュタン風情が、ですか」
だがそこに、ゆきのが進み出た。
「え? ……その姿、あなたもそうなの? ……さっきの彼女より、過激な格好だけど」
と、未だに快感に腰が抜け、立てない美珠と、ゆきのとを見比べる。ゆきのもまた、両腕を縛り、肌を多く露出した姿をしていたからだ。
「そう取られても、仕方のない格好ですが。……少し、お話よろしいでしょうか?」
ゆきのはそのまま、前に進み出る。美珠と、そして自分と同じような格好をされて、周囲で倒れているリリアーヌの客たち、そして、リリアーヌの同僚の娼婦たちを見つつ、
「わたしは、為すべき事を為すために、この姿をさらす道へと進みました」
ゆきのは、そう言った。
「あなたのその気持ち、分からなくはありません。ですが……今のあなたは、客や同僚たちを責め立てていたあなたは……そうする事で彼等を見下し、軽蔑してはいませんか?」
「……え?」
「あなたの、その行い。それは、敬意を持たれるものでしょうか?」
「…………」
返答は無い。痛い所を突かれたかのように、返答したくとも、できない状態のようだった。
自分の姿を見た後、ゆきのは、
「まあ、お茶会などは難しいですが……それでも、殿方への愚痴などは、お話しできると思いますよ?」
そう、申し出てみた。
「……わかってる、わよ……こんなの……傲慢だって。……気高く生きたいから……そうなるように努力した、のに……」
そしてようやく、返答が。
今度は、涙を流していた。高貴なる百合は、泣いていた。
「……泣いて、いる?」
再び、堕落空間、外。
枝を払っている側は、時間をかけて、ようやく予定の半分……の半分程度の枝を切り終えていた。
そして、セシリーの目前で。リリアーヌは眠りながら……一筋の涙を流していた。
「君は優しい人だな。あれだけの不満を押し殺して、笑っていたのだから」
セシリーが、語り掛ける。本人は気が付いていない様子だったが……彼女自身のその口調も、優し気なそれになっていた。
「だが、その不満を……無理に心に押しとどめる必要はないと思う。一生懸命にやっていた事を認めてもらいたい、賞賛されたいと願うのは、誰でも持つ欲求なのだから」
そして、思わずセシリーは。リリアーヌの顔に、その頬に、
そっと、触れた。
「……なあ、この際だ。少し回りに、吐きだしてしまうのはどうだろうか? 高級娼婦として、仕事を誠実にこなしてきたんだ。それくらいのわがままを言うくらいの信頼は、積み重なっているだろう? まずは……」
まずは手始めに、全てが終わったら最初に私がお茶をしてみるか?
そう言ってみた。
●そして、新たな百合の蕾が伸びる
堕落空間内。
ひとしきり泣いたリリアーヌは、
「……傲慢さを押さえよう。両親を見て、そう心がけたはずなのに……皮肉なことに、自分が傲慢になっていたとはね」
落ち込んだ様子で、崩れ落ちた。
だが、そこへ。
「ねえねえ。マリアは思うんだけど……」
マリアラーラ、小さなサキュバスが、リリアーヌの元へと歩み寄り、
涙で濡れた娼婦の頬を、両手で挟んだ。
「なんで、百合さんの精一杯では足りないのか、満足されてるのに悪く言われるのか。それは……貴女が『傲慢する事を、拒否』してるから、とおもうの」
そんな事を口にした。
「……え? どういう……」
リリアーヌからの問いかけを待たず、マリアは言葉を続ける。
「怖い話(パラドクス)をしてあげる。もう居ない、貴女のパパと、ママのコト。……貴女が、傲慢を否定する根源たる二人。確かにその言動は良く無かったとおもうの。けど二人は、なぜ傲慢だったのだと思う?」
そんな事、考えもしなかった。答えあぐねていると、
「それは貴女を、幸せにするためだよ」
またも返答を待たず、マリアは言い放った。
「貴女自身が決める、貴女の幸せ。それを後押しするには、傲慢に『コレが幸せだ』って決めなきゃ、進められなかった。学者や教師の立場では、貴女が幸せに暮らす未来の国の在り方に届かないし、恐らくは理想も叶わない事を悟った。だから、自分達を棚に上げて、全てを見下すしかなかった、そう思うの」
小さなマリアのその言葉に、リリアーヌは……思わず考え込んでしまった。
彼らの立場に立って考える事など、思いつきもしなかった。だが、今。両親の立場に立って考えてみると……、一理ある。
「二人は上手くいかなかったし、二人の考えも、行動も、最適で最善とは言えないけど。でもだからと言って傲慢を戒めすぎたら……人の心に踏み込めないし、してほしい事の先に届かない。そう……」
傲慢は、愛や誠意の別の形なの。
マリアラーラのその言葉が、リリアーヌの胸に沈んだ。
「……リリアーヌさん、……」
メルセデスが枝を払いつつ、語り掛ける。
堕落空間の外では、リリアーヌを捉えている枝は、あらかた切り払われつつあった。
「あなたくらいになれば、『客だって選べる』のでは? それに、『客を選ぶ』ことをしても、指名されるほどの自信と実力が、あるのでしょう?」
語りつつ、メルセデスは考える。
(「この時代……いくら才があっても、女性が就ける仕事は限られてたでしょうし、当然ながら内に溜まったものはあるでしょう。近代でも、性別によるトラブルは事欠かないもの。いわんやこの時代、身分の格差も存在しているでしょうし、ね」)
「……ですから、『癖の悪い客』や、モンスタークレーマー……ああ、これは『人外の怪物のように、話が通じない』『絶対に分かり合えない』ような連中です。ともかく、そういう相手は、しなくてもいいんじゃないですか? 」
そう、無礼な客、問題のある客、そういった相手は、娼婦側にも拒否していいはずだ。ましてや、富裕層や高い地位の客ならば、そういうマナーを守って当然。守れない者は出禁になって当然だ。
メルセデスの言葉を聞き、眠ったままのリリアーヌの表情が、
僅かだが、微笑むそれに変化していた。
堕落空間内。
「……ま、マリアさんの傲慢云々はおいといてもですね。あなたと同じような『孤独感』に『不満』を抱えた人は、古今東西、様々な場所に存在してます」
マヌエが、努めて明るい口調で、その場の雰囲気を払拭しようとした。
「境遇はそれぞれ違いますけどね。それこそ四千年前の砂の国や、二百年後の、東の果ての島国にもいます。……まあ、皆同じだから、あなたも我慢しろってわけじゃないですが」
ただ……と、マヌエもまた、優し気な表情と口調で、リリアーヌに語り掛ける。
「ただ、あなたの気持ちを理解できる人、理解してくれる人は……案外どこにでもいるって話です。そう、今の、この場所にもね」
「……え? 誰が……」
「誰が? って、ちょっと酷いなあ。あたしは理解してるつもりだけど」
マヌエに続き、
「マリアも、もちろんそうだよ? ゆきのもでしょ?」
「は、はい! わたしもです!」
「ね? アンジェリーカもでしょ?」
「もちろんよマヌエ。ウチもそう! ……大丈夫よ、ここには貴女を見下す人間も遠慮する人間も居ない、素直に甘えていいのよ、貴女は立派よ」
「……皆さん、ありがとう……」
リリアーヌは微笑んだ。それはまさに、百合の花が咲くかのような、微笑みだった。
「っとっとっと! 遅くなりました!」
と、そこへ、
「私だってそうですよ! ……美珠さんの身体のロープ、解くのに苦労しました」
と、美珠に肩を貸し、宮美が姿を現した。
「ううっ……すみません、宮美さん」
美珠は裸の上に、シーツを羽織っている。
「どういたしまして、美珠さん! で、リリアーヌさん、私から提案! 世界に不満があるんでしょう? ならその感情を……」
「感情を?」
「……『アート』にしてしまうんです!」
「アート……芸術、ですか?」
「そうです! 言葉にならない感情を、音にして『演奏』しても良いんです! 不満を誌や歌にして、『歌唱』してもいいんです! ぐちゃぐちゃな心をぶちまけるように、カンバスに筆を走らせても良いんです! どうです? すぐにでもやりましょう!」
「……ええと……」
「……それともまさか、自信がないですか? そんなことできないと?自分に都合の良い世界じゃないと怖くて何もできないんです?」
「いえ、そうではなくて……以前にちょっとやってみたことがありまして」
「え?」
「ちょっと待っててください」
と、その場から離れたリリアーヌは、すぐに紙切れの束を持ってきた。
「演奏は、ハープを少々。歌もお客に要求される事があるので、少し練習した事がありました。本業が忙しくなり、レッスンは中断してしまいましたが。で、これは……」
皆に紙の束を見せるリリアーヌ。
「小説を、ちょっと書いてみまして」
「すごいじゃないですか! どれどれ……」
と、皆で回し読み。
「……ええと、憎たらしい相手が、理不尽に死ぬだけ? 」
「ねえ宮美、マリアはこの『コナール』てどんな意味かわからないんだけど」
「マリア、その意味は知らなくていい。……ちょっと、別の意味でしょんぼり……いや、悪くは無いよ? ね、アンジェリーカ?」
「まあ、ね。マヌエ。……しかし、この貴族のバカ息子、ずいぶん残酷な死に方してるけど……」
「……ええと、手が使えないからちょっと読ませて、美珠さん……出てくる女の子たち、無理やり犯されてますね……」
「そ、そうですね、ゆきのさん……」
正直、文章の綴りは微妙。というか……無理やり殺しまくり犯しまくりな『だけ』の内容で、被害者たちのモデルは誰か、すぐに察する事ができた。
(「お客への恨みつらみ、、これに書き込んでたのねー……」)
などと思った宮美。
「……ですが、酒場に行った時。作家志望の学生に見せたら『読むに堪えない』と言われまして、それ以来中断してたんです。……どうでしょうか?」
ちょっと期待してるリリアーヌに対し、
宮美はそれに、
「……いいですよ! もっともっと気に入らない奴らみんなブチのめしぶち殺し、凌辱しまくっちゃいましょう!」
正直な感想を述べた。
「その学生さんの言う事なんか、気にしないでいいですよ! リリアーヌさんのやりたいように、書きたいように書けばいいんです! 技術より情熱・感情、なにより『書きたい』『作りたい』という想いが重要ですよ!」
それを聞き、微笑みを、救われたがゆえの満面の笑みを浮かべたリリアーヌだった。
●再び、百合の花が咲く
堕落空間、外側。
「ようやく……全部切り払えた、わね!」
固い木の枝も、弾力のある蔓も、固まっている木の幹も、全てを切り開き、切り払い、そして、
メルセデス、アッシュ、カイ、セシリー、ハナ。五人のディアボロスたちは、リリアーヌの身体を、淫魔大樹から取り出す事に成功した。
すぐ側に、できるだけ優しく横たえさせる。
「あとは……彼女が目覚めるだけッスね」
ハナは、リリアーヌの寝顔が、穏やかなそれに成っている事に気付いた。まるでいい夢を見ているかのように。
堕落空間、内部。
「さ、早く起きて、私と芸術に関し語りましょう……」
宮美が申し出るが、
「ええ。でも、ちょっと待って」
と、リリアーヌは。美珠へと歩み寄った。
「……目覚める前に、貴女と……いい?」
「え? ……はい」
リリアーヌは皆に見られながら、美珠を連れて……、
彼女を、『花びらの間』へと案内した。
「ここは……最高級の部屋、でしたね」
そう、『メゾン・デ・ニュイ』における、最上級のVIPルーム。先刻の部屋と異なり、とても心地良く、白い壁と清潔なシーツのベッドがしつらえてある。
「……美珠さん、さっきは……ごめんなさい」
そう言って、リリアーヌは美珠の手を握った。
「どんなに凌辱しても、あなたの心は決して折れず、屈服しなかった……あなたの中に、ダイヤモンドのような気高い強さがあるのを、私は感じ取ったわ」
「……リリアーヌさん」
美珠はそのまま、リリアーヌを抱きしめる。薄い布越しに、美珠の小さな胸に、リリアーヌの豊かな胸が押し付けられる感触が伝わって来た。
「……皆さん、言ってたでしょう? 弱音を吐いて良いんですって。……え? きゃっ!」
美珠はリリアーヌにより、裸にされた事を知った。そしてリリアーヌ自身も、裸になって美珠の前に裸体を見せる。
(「……きれい……」)
同性なのに、美珠は彼女の裸体に……見とれていた。白い肌に、なだらかな曲線の身体。ちょうどいい大きさの胸とお尻。見ているだけで、心が奪われるかのよう。
そして美珠は、裸になった自分の肌に、縄の痕や、鞭の傷痕、叩かれた痕などが刻まれているのを知った。
そんな彼女に、リリアーヌが近づき、再び抱きしめる。
「さっきのお詫びのしるしに……あなたに、ご奉仕させて……」
そう言って、リリアーヌは美珠の唇に、口づけした。
不本意ながら、美珠は何度も経験している。キスだけでなく、その先も。
しかし今受けているのは、自分の知っているキスではなかった。
「んんんんーっ!? んぷっ、ぅあ……!」
それはまるで、口から……体中を犯され、満たされていくかのよう。
そのまま、ベッドに横たえられ。美珠はリリアーヌと、肌を重ねていった。
その指、その手、舌の動き、その全てが……触れられるだけで身体が蕩けていくかのよう。先刻の凌辱と異なるのはもちろん、今まで経験したそれらと全く異なる。正直……比べ物にならない。それだけ、気持ちいい。
「あっ、あっ……」
自分の胸やへその下だけでなく、縄の痕や、鞭の傷痕などにも、指が撫で、舌がなぞり、癒していくかのよう。先刻とは異なり、身体が強い快感で蕩けていく。
何度も小さく絶頂した美珠は、
「あっ、や……やめ……あぁぁ……っ」
自分の花びらに、リリアーヌの舌が触れ、なぞり、その中へ「つぷっ……」と入れられ、
「ん……ちゅ……」
かき回された。
「ああっ……まっ……て……あっ、あっ……んーーっ!」
美珠の背中が反り返り、腰が浮き、大きく……絶頂した。
「……私のと、あなたのとを……キス、させてね」
そして、互いの花弁が交わり、二人は。
「「あっ、あっ……あああっ!」」
互いに互いを、一人の女性として認めながら、親交を、親愛を深めるのだった。
堕落空間から、皆は目覚め、
そして、リリアーヌも。美珠とともに目覚めていた。
「……皆さん……お世話をおかけしました……」
多少疲れはあったが、リリアーヌのその顔つきは、
美しくも気高きそれ、『リス・ノーブル』にふさわしいそれだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【照明】LV1が発生!
【モブオーラ】LV1が発生!
【平穏結界】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【活性治癒】LV1が発生!
【友達催眠】がLV2になった!
【完全視界】LV1が発生!
【一刀両断】LV2が発生!
【液体錬成】LV1が発生!
【無鍵空間】がLV2になった!
効果2【反撃アップ】がLV2になった!
【フィニッシュ】LV2が発生!
【ガードアップ】がLV3になった!
【ダメージアップ】がLV3になった!
【ドレイン】LV1が発生!
【アクティベイト】がLV2になった!
【命中アップ】がLV3になった!
【能力値アップ】がLV5になった!
草薙・美珠
●目的
リリアーヌさんは助け出しました!
後は妖魔を倒すだけです!
●手段
相手は人形の付喪神の妖魔ですか。
あの武器と腕力が厄介そうですね。
ここは【攻性式神結界】で遠距離から結界を張り、結界内部の妖魔を攻撃です。
これならば妖魔の攻撃を直接受けることはありません。
●敵パラドクスへの対処
妖魔の剣から放たれた波動が結界を超えて迫ってきて、私の精神を揺さぶってきます。
それは、堕落の夢に出てきた『メゾン・デ・ニュイ』での生活や、リリアーヌさんの夢の中での甘いひと時を思い出させ、私の動きを鈍らせてきますが……
ですが、リリアーヌさんのためにも、ここで負けるわけには行きません!
妖魔の斬撃を躱し【草薙剣】で攻撃です。
アッシュ・シレスティアル
残留効果は全て活用
心情
音で気づいたのか切り離した事で気づいたのかはわからねぇがこんな前座さっさと片付けて淫魔のところまで行くぜ!
戦闘
「流石に気づかれたな…おら、お前らの相手は俺だぜ!」
リリアーヌ嬢に被害が及ばぬよう解体少女の方へ飛び出し、双刃ヴァルディールに雷を纏わて可能な限り多くの敵を巻き込むように雷撃を飛ばして相手の注意を引く。
「接近できれば避けられるとでも思ったか?」
肉薄してきた相手には武器に纏わせた雷撃をそのまま斬撃と共に叩き込む。
「力比べか?こっちにも自信があるぜ!」
相手の攻撃は可能な限り避けるよう試みつつ、無理な時は双刃ヴァルディールで受け流そうとする。
※アドリブ、絡み歓迎
吉音・宮美
アドリブ・連携歓迎
わあ、なんだか凄いものを見た気がします
まあそれはさておき戦闘ですが……殺しは嫌なので【時間稼ぎ】に徹しましょう
選択PDを発動、氷の魔力を纏わせた【演奏】で聴覚を除く相手の五感を凍結させ機能不全に落としましょう
感覚が無ければ剣を持つことはおろかまともに歩くこともできないはず、そこに『吉音式スノーバレット』の【強打】で気絶させ『吉音式グレイプニル』で完全に【捕縛】して無力化します
これでこの戦いは終わるくらいまでは大人しくしてくれるはず、念のため落とした剣は砕いておきましょう
カイ・オーベルト
状況、終了。引き続き交戦を開始する
右手にマシンガン、左手にチェーンダガーを構え殲滅に向かう
【加速装置】起動。「肉体改造」された全身の駆動系を限界近くまで加速。思考速度をクロックアップし高速戦闘を仕掛ける
「早業」の「ダッシュ」で敵の死角に回り込み関節部等の急所を「看破」し弾丸を叩き込む
加速下では機関銃の連射の一発毎が狙撃の集中力をもって放たれる
攻撃と同時に「一撃離脱」、即座に移動し敵の反撃の精度を落とす
高周波ブレードは帝国でも研究されていた。使った事もある。どうすれば斬れてどうすれば斬れないのかは熟知している
加速された感覚で冷静に刃筋を見極め、チェーンダガーの高速回転する鋸刃で斜めに受け流し弾く
ハナ・フリードル
アドリブ、連携歓迎っス。
お姉さんも無事に帰って来たみたいで良かったっス。何か妙に時間がかかってたんで心配したっスよ。
後は敵を倒して帰還するだけっス。
【フルボルテージ】で全身を覆うサイキックオーラを強化して、攻防一体のバリアにするっス。
【飛翔】して敵に突撃。バリアごと体当たりして、吹っ飛ばしていくっス。
仲間と連携。敵の死角からの強襲で隙を作って、仲間の攻撃を援護するっス。
反撃は、「オーラ操作」して硬度を上げたバリアとラウンドシールドで受け流すっス。
保存食齧って消耗を補いながら、蹴散らしていくっスよ。
マリアラーラ・シルヴァ
ディフェンス宣言:リリアーヌ
堕落空間でのおもてなしの手腕は
とてもベーダに出来るような物じゃなかったよ
あの手腕の元だったのはリリアーヌだったんだと思うの
そうすると解体ベーダは剣の波動で
リリアーヌを揺さぶって再び堕落させようとするかもしれないよ
だからさりげなくリリアーヌと解体ベーダの間に立ちふさがりつつ
波動も斬撃もパラドクスで跳ね返して
リリアーヌが狙われないように
マリア達ディアボロスが相手だよって見得を切るね
一応の確認なんだけど
囚われてたのはリリアーヌだけなのかな?
ひょっとしてそれなりの容姿と能力を持つという同僚さんとかも
どこかで囚われてたりしてないよね?
リリアーヌに心当たりがないか確認しておくね
メルセデス・ヒジカタ
さて、次は前座の量産型ちゃん達ですね
膂力は大したものですが……何分、一本調子で単調ですわね!
敵の大振りな一撃を見極め、刀で火花を散らしながら受け流し、隙をみて秘儀・矢追流で応戦しましょう
それにしても……高下駄みたいな厚底靴ですね
敵の足元がお留守みたいなら、グラップル、早業、薙ぎ払いを活かし、足払いといきますか
うまく転べば更に畳み掛け、転ばなくても敵が焦れば、その焦りにつけこみ揺さぶってみる
そんな判で押したような同じ面を並べて……所詮は使い捨ての捨て駒
あとは精々……奥に居る淫魔の、替えが利く夜のおもちゃですか?
とか言ってみたら、怒って私を狙って来たりして
そうなれば、その隙を仲間に突いて貰いましょ
セシリー・アーヴェンディル
【アドリブ/連携歓迎】
何か妙な間と空気があったようだが(これまでの美珠との付き合いから不埒な考えが頭をよぎる)
お茶をしたら、私も……いや、私は何をおかしなことを考えているんだ。
彼女は戻ってこられたのだから、それでいいんだ。今は戦いに集中せねば。
私達の目的はヴィヴァルディだ。
有象無象の人形ども、ここは押し通らせてもらう。
これまでも強敵と戦ってきた。おぞましき波動で揺さぶられるほど軟ではない。
波動に臆する事なく、まっすぐに敵を見据え斬撃を受け止める。
そして【光の剣滝】で敵を複数まとめて斬り倒す。
アンジェリーカ・リヴィンスキー
無事に助け出せたみたいで何よりよ、後は…こいつらをぶっ飛ばすだけね!
まずはトールプス級ね、以前想定以上の数で来られてトールプス級なんかに手こずらされたことがあるけど…。
最初から想定する余地があるなら戦い方はあるものよ。
例えば剣を振り下ろして来た時に腕の関節を切断して他のヤツにそのままぶつけさせたり、足を切断して体勢を崩させて同士討ちさせたりね。
最小限の動きで最大限の効果を得られるように動くわよ!
とはいえ、実はあの自動人形とは一度戦い損ねているのよね。
腕力で強引に切るとか仕掛けのある武器使う所とかちょっと似てる気がして興味あったし、余裕があれば真正面から力比べしてみるのもいいかもしれないわね。
●マリオネット劇、開幕
「…………」
草薙・美珠(退魔巫女・g03980)は、リリアーヌに続いて夢の中から、堕落空間から目覚めはしたが、
まだ、ぼーっとしていた。実際に体験したわけではなくとも、空間内でリリアーヌと肌を重ねた時の記憶が、彼女を夢見心地にさせている。
「……おい、美珠。大丈夫か」
セシリー・アーヴェンディル(ルクスリア・g02681)が、まだ寝ぼけている美珠の肩をゆすった。
「……あ、はい! 大丈夫、です……」
「どうした、あの後で何かあったのか?」
セシリーに続き、
「美珠さん? どうしたんスか? リリアーヌお姉さんも、無事に戻って来れて良かったッスけど……」
ハナ・フリードル(人間のサウンドソルジャー・g06921)もまた、心配そうに声をかける。
「妙に時間がかかってたんで、皆で心配してたんスよ? 堕落空間ん中で何かあったッスか?」
「いえ、別に……。割と、凄く気持ちよかっただけで……何もないです、よ……」
などと言うものの、美珠はまだ夢見心地。
「割と凄く? 何スかそれ?」
「……おい! 何を腑抜けている! まだ戦いはこれからだ! いつもみたいにもっとびしっとしろ!」
セシリーの一喝に、
「え……は、はいっ!」
目を覚ます美珠。
「そうでした! 戦いはこれからです!」
(「草薙大神に仕えし巫女として、何を腑抜けているんですか私!」)
と、自分で頬を叩き、気合を入れ直すが。
「……素敵でしたよ、美珠さん」
目が合ったリリアーヌからウインクされ、
「!…………ふふっ」
恥ずかしそうに再び顔を赤くし、頬を緩ませる美珠だった。
「……まったく、どうせまたいつも通りの事してたんだろうが……」
セシリーは予測を立てていた。これまでの美珠との付き合いから、あの様子から何が起こったかは大体わかる。その不埒な考え……というか『予想』は、おそらくそう間違ってはいないだろう。
しかし、
「…………お茶をしたら…………私も……」
自分がそう呟くのを、セシリーは聞いた。
「私も? セシリーさん、何がッスか?」
「……いや、何でもない! 何でもないぞハナ!」
まったく、私は何をおかしなことを考えてるんだ。彼女は戻ってこれたんだから、それでいいんだ。それで……。
今は戦いに集中せねば。そうとも、戦いに集中集中……。
「……あの、セシリーさん。お顔が赤いですよ?」
と、リリアーヌその人が、セシリーの顔を覗き込んだ。
「……ひゃっ! だ、大丈夫! 問題ない!」
しかし、ますます顔が赤くなっているのを感じる。
「本当に? ……やっぱり熱があるようですが」
と、おでことおでこをくっつけ合わせるリリアーヌ。セシリーは彼女の顔を、そしてその香りを目の当たりにして、
「だ、大丈夫だと言っている!」
大慌てで離れた。
「あーあ、セシリーったら顔真っ赤。美珠の次は、彼女だったりして?」
その様子を見ていたアンジェリーカ・リヴィンスキー(吸血鬼のダークハンター・g07564)だったが、
「そういえば、アンジェリーカさん。あなたには謝らなければ」
リリアーヌは、今度は彼女の前に進み出て、頭を下げた。
「ごめんなさい。あんなに頬を叩いて、酷いことを言って……本当に、痛くなかったですか?」
「ウチ? あー、もう済んだ事だし、気にしないでいいわよ。元に戻すためにわざと怒らせようと、ウチもちょいと煽ったとこあったし。何より……」
無事に助け出せたみたいで、何よりよ。そう言ってアンジェリーカは、リリアーヌに微笑んだ。
「……あー、なんとなく、色恋的なややこしそうな問題が見え隠れしてるわねえ」
メルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)は、美珠やセシリーを見つつ、堕落世界でも取っていたメモを開いてサラサラと書き込みはじめた。
「でもこのシチュ……薄い本に活かせないかしら? 性別転換して、一部キャラをおじ様に変換すれば……グフっ、グフフフフ……」
などとグフってるメルセデスの横では、
「わあ、堕落空間内でもスゴイものを見た気がしますけど、現在進行中で色々続いてる気がしますー」
吉音・宮美(限界ギリギリ狐娘・g06261)が、リリアーヌと美珠を交互に見つつ、呟いた。
と、結構呑気かつ緩め雰囲気してた一行だったが、
「ねえ、リリアーヌ。一応の確認をしておきたいんだけど……」
マリアラーラ・シルヴァ(コキュバス・g02935)が、問いかけた。
「囚われてたのは、リリアーヌ『だけ』、だったのかな?」
「え? 私だけ、とは?」
「ひょっとしたら、だけど。それなりの容姿と能力を持つ同僚さんとかも、どこかで囚われてたりしてないかな、と思って。心当たり、ない?」
マリアラーラの質問に、リリアーヌは、
「……いえ、わからないです。覚えている限りでは、私は店舗の内部に居た時。そこへ人形のような少女たちがやってきて……」
客かと思い、向かったら。いきなり何かで殴りつけられ気絶させられた。気が付いたらここの、この場所に埋め込まれていた。そして……、
「そして、その後で眠らされ……あの夢の中に入っていた、という次第です。店には確かに、美貌と実力を持つクルチザンヌは多く在籍してましたが、私と一緒に彼女たちが捕まったかどうかまではなんとも言えません」
それと……と、付け加えるリリアーヌ。
「目前の、あの『メゾン・デ・ニュイ』の建物は、本物じゃないですね。私が在籍している店舗とは、建物の形や大きさが違ってますから」
と、視線の先の建物を指し示す。
「そっか……」
考え込むマリアラーラだったが、
「おい……みんな、お喋りはそこまでのようだぜ」
その店を見張っていた、アッシュ・シレスティアル(蒼破拳・g01219)と、
「あの店から、団体様の到着だ!」
カイ・オーベルト(アイゼンフント・g05787)が、皆に警告した。
そして、
「! ……あ、あれは……あの『少女たち』は!」
リリアーヌは、自分が見させられていた、倒壊しかけた『メゾン・デ・ニュイ』の偽店舗を見て、息を呑んだ。
そこから、『少女たち』が、湧いて出てきたのだ。
「リリアーヌ? ひょっとして、殴りつけた『少女たち』ってのは……」
宮美の問いかけに、リリアーヌは頷いた。
●鮮血のパペット
改めて『少女たち』を見ると、彼女たちはかなり整った、かわいらしい外観をしていた。
その髪も、リリアーヌ同様にふわり……とした美しい金髪。
だが、その顔は無表情。両目は赤色の美しい宝石のようだったが、『生命感』がまったくない。人の形に木材を切り出したかのような、冷たさしか伝わって来ない。
リボンに、フリル付きスカートを着用。履いている靴は、高下駄のような厚底だが、ハイヒールのように接地面は細い。
手足の露出した部分には、木製人形の球体関節。
その手に握るのは、自身よりも大きな刃を持つ、巨大な『鋸』。まるで騎士の持つ大剣のようなそれを、軽々と振り回している。
着ている服は、赤色。鮮血を用いて染めたように見える、おぞましい赤だった。
『解体少女』……それが、彼女たちの名前。
実際、その巨大鋸の刃にこびりついている赤色は、固まった血のそれに他ならない。そうとしか見えない。
服は同じ、金髪も、顔も、全てが同じ。
異なるのは、髪形のみ。その数は……かなりのもの。
まるでフレンチカンカンでも踊るかのように、横一列に並ぶと、全員が丁寧にうやうやしく……お辞儀をした。
そして、頭を上げると、
妙にぎくしゃくとした動きのまま、突進してきた!
「ひっ……!」
人形たちは、リリアーヌへと切りかかる。
だが、その刃の一撃は、美珠の草薙剣が受け止めていた。
「……リリアーヌさんには、指一本触れさせません!」
その様子は、先刻の緩んだそれとは真逆。戦いに挑む引き締まった顔と、その鋭い気配は……まるで、女王に仕えし女騎士の如き。
しかし、多くの人形たちが、一斉に襲いかからんと集まっている。美珠はそれに対し、
「……天津神、国津神、八百万の神々とともに、聞し召せと畏み畏み申す!『攻性式神結界』!」
結界を張り、人形たちの多くを、その結界内に囚えていた。
更に内部に放たれた式神により、人形たちは次々に破壊されていく。
が、半数近くの人形が、結界外に逃れている。そいつらは散開し、別方向から襲い掛かるが、
「あらお嬢ちゃんたち、足元、お留守ですよっ……!」
メルセデスが、その人形たちの鋸を、己の剣で受け止めつつ足払いをかけていた。
途端に、美珠に切りかかっていた人形を巻き込み転倒。
彼女もまた、騎士のよう。メルセデスは改めて身構えた。
しかし、後ろに回り込んできた人形たちの一群が、二人の死角から切りかかる。
「……逆巻け!」
それを迎撃したのは、セシリー。
「教えてやろう、この十字聖剣ルクスリアの鋭さをな!」
十字軍の騎士がごとく、『光の剣滝(カタラクラ・ルーメン)』を再び放たんと、彼女は剣を身構えた。
「草薙流剣術、お見せします!」
「同じく、私の剣も受けると良いわ!」
「聖剣の刃、餌食になりたくばかかって来い!」
三人の剣士が、各々その刃を構え、
「宮美さん、リリアーヌさんをお願いします!」
「頼んだわよ!」
「こいつらは、私達に任せるがいい!」
宮美とリリアーヌを守るように、立ちはだかった。
「リリアーヌさん、こちらへ……」
宮美に手を引かれ、彼女は人形たちから離れていった。だが、人形たちは追いすがってくる。
「……見てこれ、お気に入りの傘なんだよ」
しかし、リリアーヌと人形たちの間に、マリアラーラが立ちはだかった。その手にあるのは、小奇麗な小花柄の傘。
それをくるくると回し、見せつける。
「そして見て、マリアたちを。マリアたちディアボロスが、相手するんだよ」
マリアラーラの隣には、
「さて、最初に壊されたいお人形さんは? そんなの居たら、ウチにかかって来る事ね!」
白金の大剣を手にした、アンジェリーカが身構えていた。
人形たちは、最初にマリアラーラとアンジェリーカを見ても、首をかしげるのみだった。
が、すぐに襲い掛かる。
数体の人形が、鋸を振りかぶり、マリアラーラの傘へと投擲したが、
マリアラーラはそれらを傘で、盾のように受け止めた。それとともに傘から放たれるは、エネルギー弾。
カウンターで放たれたその攻撃が、人形たちへと直撃し、破壊していく。
「『夢魔の相合傘(カップリングアンブレラ)』、お気に入りだから、スゴイんだよ」
が、それでも破壊を免れた人形たちが、鋸を手に肉迫する。その数は……かなり多い。
が、アンジェリーカがその人形たちを迎え撃つ。その手の剣は、かなり大きい。
人形が振り下ろしてきた鋸の刃をかわし、その腕の関節部に剣を叩きこみ、切断。そのまま勢いを殺さずに突き飛ばし転倒させ、別の方向からの人形へと叩き付けた。
「あいにく、そんなんじゃウチには届かない……よっと!」
突きを放った人形の両足を、そのまま剣で切断。その勢いで、剣を横薙ぎにスイングし、
周囲に集まった人形たちを一掃した。
地面に、人形たちの残骸が散らばっていく。それでも残った人形たちは、恐れを知らぬまま、マリアラーラと、アンジェリーカへの追撃を止めようとはしなかった。
「……まだマリアの傘、見たい?」
「徹底的に『やりたい』なら、ウチは止めないよ?」
そして二人も、戦闘を止めようとはしなかった。
●邪悪のギニョール
石畳の、広場のような場所。
まるで踊るかのように、鋸を手にした人形たちが軽やかに舞っていた。
しかしそれは、攻撃の準備行動。軽やかに舞い、軽やかに跳躍し、軽やかに切りかかる。
それら、人形たちの攻撃に対し、ハナが突進した。
「喰らえおらぁっ!『フルボルテージ』!」
その全身を、オーラのバリアで包み込み、
ハナはそのまま『飛翔』。己を巨大な砲弾と化し、人形たちの群れへ飛び込んだ。
強烈な体当たり攻撃が、多くの人形たちを破壊し、弾き、吹っ飛ばす。
それに続き、カイもまた、
「『加速装置(アクセラレータ)』、起動。……一気に片付ける!」
駆け出した。
超高速での、行動する能力。切りかかった人形の、先達の数体に対し、クロックアップしたカイは、右手にマシンガン、左手にチェーンダガーを携え、死角に回り込み……、
その体中の球体関節を『看破』、弾丸を叩きこみ、切り付けた後に『一撃離脱』。
離脱後、人形たちは関節からバラバラに。無表情のままで四肢を失い転がった人形たちは、
そのまま、動かなくなった。
カイが倒し切れなかった人形達には、アッシュが、
「おら、お前らの相手は俺だぜ!」
その量の手には、双刃ヴァルティール。身の丈ほどの長さを持つ、まるで薙刀にも見える二つの刃を持つ剣。
「この稲妻からは……逃れられねぇぞ!」
ヴァルティールの刃に、雷撃が覆われていき、それを振りかぶり、そして、
「……『ライトニングテンペスト』!」
力強く、アッシュは振り下ろした。
猛嵐がごとき雷撃が放たれ、怒れる蛇のように宙を舞って人形たちへ襲い掛かる。それらはカイの攻撃を回避した人形たちへ、容赦なく叩き付けられ、爆ぜ、滅していった。
それでも数体の人形が、仲間を犠牲にしてアッシュに近接。肉迫し、その巨大鋸で切りかかったが、
「……『接近できれば避けられる』、とでも思ったか?」
ヴァルティールの刃が、血錆に穢れた鋸の刃を受け止めた。そのまま、
「接近戦にも、自信あるぜ!」
雷撃をまとわせたまま、鋸と切り結ぶアッシュ。その剣圧の前には、人形たちは敵わず、
砕かれるようにして切断され、動きを止めていった。
「っ……こちらにも!」
宮美はリリアーヌとともに、ウィーン市街を駆けるが。
路地の先にも、人形たちが先回りしていた。
「リリアーヌさん、耳をふさいで……ちょっと、グラッと来ますよ」
それに対し、宮美は『魔楽器』を取り出し、演奏し始めた。
放たれる調べは、『少し大人しくしてください!(クオリア・フリーズ)』。
その旋律に纏わせるは、氷の魔力。それは聞いた者の『感覚』を遮断する。
感覚が無くなり、人形たちはその歩みをふらつかせた。まるで糸がもつれた操り人形のよう。
しかし、通常の人間や生物なら動けなくなるはずだったが。まだそいつらは、動いていた。
「ならば! 『吉音式スノーバレット』!」
それらに対し、雪玉を発射して強打させ、
「そして! 『吉音式グレイプニル』!」
魔力で精製した投げ輪で、拘束する。
動けなくはしたが、長くはもたない。
宮美はすぐに、落とした鋸を砕いていった。
「これで、しばらくは大人しくするでしょうけど……!」
相手が人形とはいえ、やはり殺害する事には抵抗がある。そのまま、リリアーヌの手を取った宮美は、
「リリアーヌさん、こちらに!」
別の場所へと、逃げていくのだった。
美珠、メルセデス、セシリー。
三人の前に、新たな人形たちが現れた。
彼女らは、倒された味方の人形の残した鋸を拾い上げると。
二刀流で構え、そのまま突進してきた。
……その鋸の刀身から、おぞましき波動、『処刑者の刃』を放ちながら。
「!?」
「こ、これはっ!」
「……くっ!」
そして三人は、その波動を受けてしまった。
「……こんな、ものっ……!」
だが、セシリーはその波動を受けて、心乱されてしまった。……立ち直るのに、五秒もかかってしまったのだ。
そのまま、まっすぐに敵を見据えると。二刀流の鋸の斬撃を、ルクスリアの刀身で受け止めた。
「これまでも……強敵と戦ってきた! この程度の波動で心揺さぶられるほど……軟ではない!」
そのままセシリーは、刃を押し返し、弾き飛ばす。
メルセデスもまた、鋸を振動させつつ切りかかった人形へと、
「『秘儀・矢追流』! そんな鋸など、私たちの敵ではないです!」
遠当ての剣戟を放つと、そのまま切り捨てた。
「…………これ、は……」
だが、美珠は。
『揺さぶられて』しまった。精神を、邪悪な波動を受けて、動きを、思考を、鈍らせてしまったのだ。
その『揺さぶり』は、辛いものでは無く、甘いもの、心地良いもの、快いものだった。
「……ああ、また。髪をといてくれますか?」
美珠はいつしか、自分があのベッドに、『メゾン・デ・ニュイ』の私室のベッドに腰かけているのに気付いた。周囲には、娼婦たちが自分に奉仕してくれる。
全身をマッサージしてくれて、爪を磨かれ、肌を拭かれ。
そして、リリアーヌが入室してきた。優しく口づけしてくれて、自分の着ていた薄布の服の上から、身体を愛撫して……、
互いに抱き合い、甘いひとときを……。
「……リリアーヌさん……いいえ、違います! 今私が居るのは、現実! そして現実の今、リリアーヌさんは襲われています!」
堕落空間内での、彼女に抱かれた時の事を思い出す。
彼女を今は、守らなければならない。この妖魔どもは、人形たちは、自分の中の想いを利用し……心乱そうとしている!
本物のリリアーヌさんを助けなければ! そのためには……、
「……そのためには! ここで負けるわけにはいきません!」
目を覚ましたその時。右側にセシリーが、左側にメルセデスが、それぞれ自身の剣で、人形たちと切り結んでいた。
刃と刃が合わさり、交わり、二人とも動けない。その状態で、美珠へと、
別の人形たちが、鋸で切りかかって来た。
「美珠! かわすか逃げるかしろ!」
「美珠さん!」
セシリーとメルセデスが叫ぶが、
「……大丈夫、です!」
人形の斬撃をかわし、手にした『草薙剣』で、
「妖魔の禍事、罪穢れを、祓い給え、清め給え!」
鋸刃を受け止め、弾き、
深く踏み込み、腰の入った斬撃を放った。
『草薙剣』の剣戟は、数体の人形を一度に切り捨て、切り飛ばす。
剣を振るうとともに、人形たちはそのまま、残骸と化して地面に転がった。
「……畏み、畏み申す」
最後の人形が切り捨てられると同時に、美珠は刃を鞘に納め、
そして、それとともに。他の皆が戦っていた人形達……、
アンジェリーカにマリアラーラ、
ハナ、カイ、アッシュ、
それらディアボロスたちと戦っていた人形たちも、
全てが倒され、引導を渡されていた。
●マリオネット劇、閉幕
宮美の封じた人形たちも処理し終え、美珠は、
「……リリアーヌさん、大丈夫でしたか?」
彼女に駆け寄り、その無事を確認していた。
「ええ。美珠さんと、皆さんのおかげで……なんともないわ。ありがとう」
「……良かったです!」
リリアーヌの微笑みを受け、照れるように顔を赤らめる美珠。
「…………」
それを見て、セシリーはなぜか、
「別に……何とも思わないが……」
それでもなぜか、取り残された感が否めなかった。
「……ま、人形はこれで始末し終えたとしても……ウチらは最後の大物と戦わなくちゃあならないわけ、よね」
アンジェリーカの言葉に、マリアラーラも同意するように頷く。
「人形は、数は多かったけど。でもベーダとしては、一体だけだったらそう手ごわくは無かったの。けど……」
「アヴァタール級は……おそらくもっと強いでしょうね」と、メルセデス。
「そうっスね。しかも……さっきも精神に影響与える攻撃仕掛けてきたッスから、恐らくはそいつも……」
ハナが、不安を口にする。美珠もさっきは、まんまと引っかかりそうになっていた。その事実の前に、その場の空気と雰囲気が、やや落ち込んだそれに変化したが、
「おいおい、だったらなおの事……やっつけなきゃあならないじゃねえか」
アッシュと、
「そうだ。弱気になっている暇は無かろう」
カイが、その不安げな空気を吹き飛ばした。
「そうそう。今から不安になるより、終わった後のお茶会で、どんなお茶とお菓子を用意すべきかを考えた方が、よっぽど建設的ってなものよ。リリアーヌさん……」
彼女へ、宮美は向き合った。
「この件が済んだら、『お茶会を開いて、愚痴を聞く』……って約束。まだ有効ですからね。もうちょっとだけ待っててくださいね」
そう述べて、
「ええ、待ってますよ。宮美さん、皆さん」
リリアーヌから、そんな返答を貰った。
ディアボロスたちの気持ちが一つになり、その精神も鼓舞されている。あと少し、あと一体の敵を倒す事で、リリアーヌの悪夢も終わる。
そう思っていた、その時。
宮美はすぐ近くに、不穏な空気、不審な気配と雰囲気とが、漂い始めたのを悟った。それも、かなり強い気配だ。
『アヴァタール級が近くに来ている』
その事を、感覚で皆は理解する。
気圧されてたまるものか。お茶会を開き、リリアーヌといろいろ語り、そして……。
ディアボロスたちの想いが、瞳の中で燃え上がる。それは、絶望を超えた魔性の輝き。
次なる戦いへの闘志が、そこには現れていた。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【ハウスキーパー】LV1が発生!
【通信障害】LV1が発生!
【照明】がLV2になった!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【口福の伝道者】がLV2になった!
【過去視の道案内】LV1が発生!
【建物復元】LV1が発生!
【飛翔】がLV3になった!
【隔離眼】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】がLV6になった!
【グロリアス】LV1が発生!
【反撃アップ】がLV3になった!
【先行率アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】がLV5になった!
【ダメージアップ】がLV5になった!
【命中アップ】がLV4になった!
吉音・宮美
アドリブ・連携歓迎
さて、この辺のまとめ役の登場のようですね……
相手の攻撃の殆どは歌を起点に発動する…ならばこちらも【歌唱】を力とするものとして弱点はわかります
選択PDを発動
【氷雪使い】の魔力を宿した【演奏】で相手の音感を凍結させ、敵の歌唱を妨害しましょう
歌という武器を奪ったら『吉音式グレイプニル』で拘束、『吉音式スノーバレット』の狙いを付けつつもう勝ち目はないから撤退してほしいと頼みましょう
撤退してもらえなかったら……後は、皆さんに任せます
はぁー、メンタルが強くなりたい……どうですリリアーヌさん、どんなに凄い力を持ってても案外弱い人は居なくならないもんなんですよ
なので、お互い頑張りましょう
アッシュ・シレスティアル
残留効果は全て活用
心情
気抜くとつい見とれちまいそうな美貌と所作だな…いや見とれてないぞ?
女王様って風格を前に屈してしまいそうとか思ってないぞ?ホントホント。
戦闘
「先手必勝って事でまず一撃!」
剣を放棄しブーステッドフィストを装備。翼と【飛翔】の力で飛び出し、歌いだす前に最速で接近戦を仕掛ける。
「装甲で多少は抑えられてるはずだが…こいつはやばいな!」
全身を包むフェロモンの精神汚染を前に距離をとるのは無意味と判断し防御を捨てて可能な限り反撃を続ける。
「ぐっ…まだまだ俺の相手もしてもらうぜ?」
汚染が進む度攻撃の手が少しずつ緩くなるが自傷してでも正気に戻り戦線復帰する。
※アドリブ、絡み歓迎
ハナ・フリードル
アドリブ、連携歓迎っス。
後はボスをやっつけるだけっスね。
……いや、リリアーヌさんと色々おしゃべりして、これからどうするか考えて貰うのが最終目的っス。アヴァタール級がなんぼのもんっスか。
大地を操ってくるなら、【飛翔】して「空中戦」を挑むっス。
全身をサイキックオーラで包んでバリアにしながら、高速で敵の周りを飛び回って撹乱、仲間を援護するっス。
敵の隙を突いて突撃。激突直前で軌道を変えて、纏っていたオーラだけをエネルギーの砲弾にして敵に叩き込むっス!
「一撃離脱」ですぐさま距離を取って反撃に備え、回避するっスよ。
カイ・オーベルト
アドリブ、連携希望
アヴァタール級を包囲する様に陣形を組み直す。強力な個体に対しては波状攻撃で戦力を削る
アサルトキャノンを展開し構える。【電磁砲】のパラドクスで攻撃。内蔵動力炉の電力を電磁場に変えて砲弾を加速、強化。「電撃使い」で雷を纏わせ「砲撃」する
帝国に改造され、信頼を得る術もない俺が反乱軍で居場所を作れ、信用されていたのはこの破壊能力故だ。仲間の信用を裏切るわけにはいかない。徹底的に破壊殲滅する
電磁場をプラズマに変えて体の周囲に纏い「火炎使い」「拠点構築」。フェロモンを焼き払い反撃に対抗
あんたもいい女だが、たった今、最高の女と会ったばかりだ。魅了?出直してこい
生塚・円
むむぅ…(自分の胸もにもに)
マンマ(母)も巨乳なのに
今のサイズに不満はないけど、良いなあ、きょぬぅ…
私、難しいことよく分からないけどあの人倒せば良いんだよね?
【復讐の刃】でコンバットナイフを生成して[解体]技術応用して[貫通撃]になるような投げ方で急所狙います
回避や防御には[地形の利用]するよ!…出来るのかな?
つる植物に捕まったら余裕ぶります
アレな縛り方になったり裸になるくらいなら恥ずかしがりません
ふふ、この程度痛くないし恥ずかしくないもん
あ、やっぱり痛い痛い!
とどめにはこだわりません
胸…胸が……何故私はきょぬぅではないのか
ああー、あの胸の谷間に埋まりたい
草薙・美珠
●目的
リリアーヌさんを狙う敵と決着を付けましょう。
そしてリリアーヌさんとゆっくり……
い、いえ、なんでもありませんっ!
●手段
草薙剣を構えてリリアーヌさんをかばいつつ敵と対峙します。
草薙流退魔術(【泥濘の泥】)で敵の移動を阻害しつつ、私は草薙流剣術の体捌き(【飛翔】【エアライド】)で最適な経路から空中を足場に跳躍し、攻撃していきます。
●トラウマ対策
聖譚曲を聞かされると、過去に男性や女性に襲われた時の記憶が蘇ってきて、身体が熱くなって動きが止まってしまいます。
指が勝手に動いて快楽を得ようとしてしまいますが……
リリアーヌさんのためにも負けるわけにはいきません。
【退魔の聖光】で堕落した心と体を清めます!
セシリー・アーヴェンディル
【アドリブ/連携歓迎】
残すはヴィヴァルディ、貴様だけだ。
人の心を弄んだ代償は高くつくぞ。
【エアライド】を使って操られた大地を掻い潜りながら戦おう。
植物は剣で断ち切る。しかし全に対応できるだろうか?
捕まれば体を縛られて力づくでの脱出は難しいだろう。
淫魔に弄られてなるものか。【光の流星】を大出力で放ち、敵もろとも焼き尽くす。
終わった後は約束通りお茶をしてゆっくり話を聞こうか。
彼女の振る舞いには高級娼婦はかくあるものかと、心を乱されてしまった。
サキュバスの性か……私も修行が足りんな。
触れられるとどうしてもそれを感じてしまうが、肩をもむくらいなら……
マリアラーラ・シルヴァ
人口を考えると囚われてる人が少なすぎなの…他の人はどこへ?
逃れてたなら街が大樹に呑まれたって噂が無いのは不自然
つまりリリアーヌが襲われた時にウィーンは一気に変化した事になるよね
パルマからの援軍要請に応え
一つの街を手勢を使って誰も逃さず塗り替える
凄く手配上手な黒幕が居るね
でもリリアーヌの前にわざわざ偽物メゾンを
しかも半ば崩壊した物を建てたのはどうして?
リリアーヌに見せつけて苦しめるなら本物を崩せばいいだけだよね
理由がありそうだけど…情報が足りないの
ベーダの振舞いからヒント手に入ると良いんだけど…
お歌で色々操れるのは凄いけど
リズム通りの攻撃なんて当たらないよ
マリアのワルツでテンテコ舞いにしたげるね
川屋・ゆきの
この状況でリリアーヌさんにトラウマを想起させる事態は避けたいです……
【士気高揚】【勝利の凱歌】【活性治癒】の効果を乗せた上で周囲に注意喚起を
「この声を聞いてはいけません! 耳を……」
と、言いかけて、自分の耳を塞ぐ手段が無いことに気付き、あえなく影響を受けてしまいます
想起されるのは、過日の淫魔学園にて「皆が納得できるデッサンが出来るまで」と何度も、何時間も繰り返させられた……
「……っ、想起させられている、だけで、いま、させられて居るわけでは、っ」
防御しづらい以上、何度も想起させられますが、今の事実ではない、と、
「ええ、それでもわたしは、堕ちるわけには行かないのです!」
誇り高くありたいものです
メルセデス・ヒジカタ
私、胸糞系やら理不尽系の創作物も嗜みますが……現実ではノーサンキューですね
だけど、こいつになら……存分にヤれそうかも
こういう美しい淫魔は、自分の美に絶対的な自信を持ってる筈
なら、そいつを全否定してやりましょう
脳内かけ算(意味深)で、淫魔とガマガエルがドロドロに融け合うようなカップリングを妄想
更にガマ口から触手が溢れるような姿に歪めて、淫魔のプライドをズタズタにしてやりますわ☆
怒った敵が、金管楽器を叩いて歪めたような歌声でトラウマを抉りにくるかも
中学に上がる前に、若い男の変質者に襲われそうになって……つい、竹刀で半殺しにしちゃったせいか
あれから、若い男は苦手なんですよね
事が済んだら愚痴り大会でも
アンジェリーカ・リヴィンスキー
残すはこいつだけね、ディアボロスだしウチも自分には自信あるから魅了されるって事はないだろうけど、それでも無理やり心情を変化させられようとする感覚はめちゃくちゃ体力とか精神力を浪費させられるのよね…。
まぁでも魅了するって事は顔にもさぞ自信があるんだろうし、ウチの魔術を顔面に叩き込んで文字通り鼻っ柱と自信をへし折ってあげようかしら。
ついでに「そんな鼻の折れた顔で魅了できると思ってるのかしら?」
とでも煽って怒りやらで美しい自分を保てなくなったら、パラドクスの威力を弱体化させられたり出来ないかしらね。
●妖しき笑みと歌声の前に
『……貴方達が、そう……』
建物の影から現れた『彼女』……ヴィヴァルディは、悠々とした仕草で、ディアボロスたちの前へ、己の姿を現した。
ディアボロスたちは、その姿に警戒し、全員が身構える。
最初にヴィヴァルディを見て……全員が思った。『美しい』と。
予想していた以上に美しい。女性の成熟した美と同時に、少女の未熟さ、そして処女の無垢さ。ヴィヴァルディの外観は、そういった魅力全てを内包していた。
流れる様な、長いブロンドの髪。白磁のような美しい白い肌。全てを見通すような、宝石の如き瞳。その身体も、完璧と言えるプロポーション。豊かな胸は、大きすぎず、形も良く、腹部も尻もなだらかな曲線を描いている。
素肌の上から纏っているのは、薄布の服が一枚のみ。薄布から透ける、その裸は……より扇情的で、心そそられる。
頭から角、背中にコウモリの翼、尻から長い尻尾と、淫魔の証が付いてはいるが……それらすらも美を飾る装飾品にしか見えない。
体中から漂わせているのは、目に見えるほどに濃い色香。男はもちろん、女性ですら劣情を刺激されて然るべき、強烈な淫香を漂わせていた。しかもその色香は心地良く、接していると警戒心が消え、心穏やかになっていく。
『……見事ね。淫魔大樹の誘惑を、はねのけるなんて』
声もまた、心そそる響き。声自体に色気が乗っているかのようで、ずっと聞いていたい。そう思わせる。
『ねえ、少しお話しません? 戦うより……ベッドで語り合い、愛し合う方が、良いと思うの……リリアーヌ、あなたもそう思わなくて?』
「……ええ、そうね。ヴィヴァルディ」
「! リリアーヌさん?」
草薙・美珠(退魔巫女・g03980)は、彼女のその返答に違和感を覚えていた。ひどい目に遭わされたのに、その返答には、
『好感』が、感じられたのだ。
いや……、確かに妖しげだが、悪意はそれほど感じられない。むしろ、『妖しいが怪しくはない』。微笑みを向けてきたが、底が知れない深淵のように、深い『安らぎ』を、『優しさ』を感じる。思ったより邪悪さは感じられず、むしろ話し合えば理解し合えそうな気がする。
そんなに警戒しなくとも……、
『…………美珠!』
「おい、リリアーヌ! それに美珠! しっかりしろ!」
セシリー・アーヴェンディル(ルクスリア・g02681)が、何かを断ち切るかのように、リリアーヌと美珠の肩を揺さぶった。
「わ、私……」
リリアーヌとともに、正気に戻ったかのように目を瞬かせる美珠。
「…………大丈夫、です」
いつになく重い口調で、美珠も返答した。
そして、仲間達もまた……、
同様に、魅かれ始めていた。が、
「……って、なにぼーっとしてるッスか自分!」
ハナ・フリードル(人間のサウンドソルジャー・g06921)と、
「おじ様おじ様おじ様おじ様……わーっ!」
メルセデス・ヒジカタ(冥腐魔道・g06800)。二人もまた、辛うじて自力で『戻って来た』。
「……マリアも、大丈夫。みんなは?」
マリアラーラ・シルヴァ(コキュバス・g02935)が、仲間を省みる。
「……だ、大丈夫、よ……って、ちょっと予想外に強烈……」
吉音・宮美(限界ギリギリ狐娘・g06261)に、
「マンマみたいな、巨乳……素敵……じゃなくて!」
生塚・円(マイペース・g02107)もまた、なんとか帰還。
「鎮まって、お願い……くうっ!」
すでに体内に、淫魔を封じている川屋・ゆきの(封印の退魔巫女・g03290)は、それを押さえる事も含め、苦心していた。
「……き、効いてない効いてない! ウチが、魅了されるわけがない!」
アンジェリーカ・リヴィンスキー(吸血鬼のダークハンター・g07564)は、自分に言い聞かせるように喚いてみせた。認めたくはなかった。自分が本気で『魅了されかけた』ことなどは。
そして、男性二人。
「……はぁっ、はあっ、はあっ……」
カイ・オーベルト(アイゼンフント・g05787)は、己に生じた強烈な劣情を必死に抑え込み、
「じょ、女王様…………じゃねえ!」
アッシュ・シレスティアル(蒼破拳・g01219)は、見とれて跪きそうになっていたが、やはりそれを必死に抑え込んでいた。
そして、
「……恐ろしい、相手です」
美珠は、改めて呟いた。
(「セシリーさんと……神様に言われなければ、気付きませんでした。私……この妖魔を『好きになりかけている』!」)
僅かに接しただけなのに、『強烈な劣情』と同時に、美珠は確かに感じていた。
抗いようのない『好意』を、認めざるを得ない『魅力』を。
何かお願いされたら、それに『応えたい』、命令されたらそれに『従いたい』。本気でそう思っていた。しかもそれらは無理やりではなく、『自分から喜んで、進んで行いたい』というもの。
その事実を理解し、美珠は……強い恐怖とともに、歯を食いしばる。これほどまで強烈な魅了……果たして自分は、抗えるのか?
恐怖は、セシリーも同じだった。
(「こいつの魅了……いや、これは魅了やカリスマなどと、簡単に説明できる程度のものじゃない! 『ただ存在するだけで、人を支配できる』、それだけ理不尽で異常な力だ!」)
そして、そこまで理解しているのに。セシリー自身もまた、魅かれつつあった。見ているだけなのに、敵意が徐々に薄れていく。そしてその事を、『そんなに嫌でもない』と思いかけている!
その葛藤を悟ったかのように、ヴィヴァルディは微笑んだ。
『Risonanza』、その力は強大。
「みんな、いくぞ! こいつは存在させるべきじゃない! すぐに倒すべき『敵』だ!」
己の劣情を打ち破るように、セシリーは叫んだ。
その声と同時に、ディアボロスたち全員が悟り、全員が飛び出した。
――こいつは『敵』。それも、甘い猛毒を持つ猛獣。近づくだけで毒に冒され、気が付いたらこちらが殺される。ただ一緒の空間に居るだけで、害悪を振りまき破滅をもたらす。こいつは、そんな存在だ!
全員の脳裏に、共通した認識を抱く。が、
ヴィヴァルディは、その声で歌を歌い始めた。
『天地呼応の独唱』、その歌声の前に、大地が揺れ始める。まるでそれは地震のよう。立っていられず、ディアボロスたちは足元がふらついてしまった。
周囲の、ウィーン都市内の石造りの建物が崩れる。偽の『メゾン・ド・ニュイ』も、崩れかけていたのが更に崩れていく。
「……させません! ちょっとグラッと来ますよ!」
『少し大人しくしてください!(クオリア・フリーズ)』、氷の魔力を込めた魔楽器を、宮美は演奏し始めた。魅了にやられちょっとだけ出遅れたが、まだ取り返せるはず!
「俺もだ! 先手必勝!」
それとともに、アッシュが翼とともに飛翔し、装備したブーステッドフィストで突撃する。
強烈な魅了により、歌い出す前に接近戦を仕掛ける事は遅れてしまった。だが、まだやれる!
しかし、ヴィヴァルディは、
歌いながら指を鳴らし……周囲に転がっていた『解体少女』たちの残骸を、爆発させた。
「「!?」」
皆、それにたたらを踏む。爆発自体は、それほど大きなものでは無く、至近距離であってもダメージは喰らわなかったが……、
代わりに、煙幕が立ち込め始めた。
「ちっ! やってくれるな!」
アッシュは煙の中でも突進するが、殴りつけたのは石壁だった。
「だったら、煙の無い場所に飛ぶだけッス!」
と、ハナは高い位置へと飛行する。アッシュもまた高い位置へと飛び、周辺を見回したが、
煙はすぐに晴れていった。が、仲間達は煙の中で散開していたものの、ヴィヴァルディ自身の姿は見られない。
「くっ、どこ隠れたッスか!」
「野郎……」
アッシュは見た。煙で隠れる寸前。
ヴィヴァルディが、妖艶に微笑んでいたのを。
●注がれていく快楽への誘惑
「ムズかしい事、よく分からないけど……要は、あの女を倒せばいいんだよね?」
円が『復讐の刃』でコンバットナイフを具現化し、その手に持つ。
円の他には、マリアラーラとアンジェリーカが、カイと背中合わせに円陣を組んでいる。
「確かにそうなの。けど……」マリアラーラに続き、
「あの女、今どこに……?」アンジェリーカが、周囲を見回した。
「やつが姿を現したら……この電磁砲を撃ち込んでやるんだが」
カイもまた、油断なく、周囲を見回す。
「……くそっ、ウチは『自分が魅了される事は無い』って、自信はあったのに……割と本気で揺らいじゃったわ。ただ近くに居られただけで、精神力と体力を浪費させられるとはね」
アンジェリーカは、怒っていた。ヴィヴァルディに対して、そして、自分自身に対して。『敵の術中に陥らない』と気を付けていたのに、まんまと陥ってしまった。その事が腹立たしい様子。
(「俺もそうだからな、気持ちは……わかるぜ」)
言葉に出さず、カイは同意していた。
だが、途端に。
脳に直接響くような、もの悲しい声楽が、皆の耳に突き刺さった。
カイたちから離れた場所では、宮美たちが円陣を組んでいた。
彼女らは、爆発と煙幕から逃れるために、下がっていた。幸い煙幕はすぐ晴れたが、カイらとは離れてしまった。即座に背中合わせになり、周囲を警戒する。
宮美は更に、魔楽器の演奏を続けていた。まるで彼女らをピンポイントで狙っているかのように、ヴィヴァルディからの歌が、先刻よりはっきりと聞こえてくる。
その近くには、ゆきのとメルセデスが。
メルセデスは耳をふさいでいたが、
「だ、だめ……収まって……」
しかし、ゆきのは両腕を縛られていた。そのため、彼女は自分で耳をふさげず、強制的に聞かされているのみ。
(「これは……くっ!」)
宮美自身も、影響が強い。ゆきのを助けたいが、自分への始末だけで精一杯。それはメルセデスたちも同じらしく、耳をふさいで聞かないようにしていたが、それも時間の問題。
おそらく演奏を止めたら、ゆきのは完全に『堕ちる』だろう。故に……演奏するしか無かった。
そして、ゆきのは、
『想起』させられていた。過日に淫魔学園にて、「皆が納得できるデッサンが出来るまで」と、何度も、何時間も繰り返させられた……あの『行為』を。
それとともに、封じている体内の淫魔も暴れる。身体を淫らな欲望で疼かせ、解放しろと暴れまわる。
「……っ、想起させられている、だけで、いま、させられて居るわけでは、っ」
防御しづらいどころか、防御できない状況。脳裏にはあの時の体験が、何度も強制的に思い出させられ、記憶の中とはいえ強烈に再体験させられている。
『さあ、あなたの体内のそれ……もう、解放しましょう? むしろそうする事が、長期的に見てもいい事。あなたは楽になり、淫魔も……ね?』
自分の中で、自分の声がそう言っているのが聞こえる。心そそられ、ゆきのはそれに……、
「……そう、ですね」
肯定する返答をしていた。
美珠とセシリーも、他の皆と離れた場所にて、ヴィヴァルディの歌を聞かされている。彼女らの側には、リリアーヌが。
周囲を警戒していた彼女たちは、ヴィヴァルディの歌声に、『追憶の聖譚曲』に、翻弄されていた。
「いや、いや……もう、いや……」
既にリリアーヌは、トラウマを想起させられ、その前に屈していた。
そして、美珠も、
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
手が、自分の胸と股間に伸び、指が勝手に動き、快楽を得ようとしている。必死に耐えているが……耐えきれない。
(「身体が、熱い……なぜ……どうして……戦わなくちゃ、ならないのに……!」)
美珠の中には、過去の記憶が……自分が襲われた時の事、辱められ、純潔を奪われ、襲われ抱かれた時の事。男女関係なく、その両方から無理やり快感を注がれ、淫らにさせられた事。それらが強制的に思い出され、脳内に再生されている。
その多くが、望まずに犯された時の事。そこから、美珠は自分の『二つの面』を、思い知らされた。
一つは、自分がどうしようもなく迂闊で、愚かで、肝心な時に失敗するという一面。
そして犯された際には、……自分がどうしようもなく、好色で淫らで、抗いつつもいつもそれを受け入れ絶頂してしまう一面。
「美珠……何を……はあっ……くっ!」
セシリーもまた、歌に抗っていた。ルクスリアをしっかり握るが、
(「こ、この程度……」)
だめだった。力が抜け、膝を付く自分を、セシリーは冷静に実感していた。
彼女にもまた、自身の見たくない一面を、歌により思い知らされていたのだ。
「歌」の効力は、カイたちも、そして空中のアッシュとハナにも届いていた。
「……俺は……部隊の……」
カイは、電磁砲を構えつつ……、『天地呼応の独唱』で地面から生えてきた蔦に、がんじがらめにされていた。
円とマリアラーラ、アンジェリーカも同様だった。
「マンマの巨乳……」
「マリア、マリアはね……」
「ウチは魅了されない……されないったらされない……」
空中でも、
「父さん……母さん……」
「私、フリードル家の……」
そのまま、地面に落ち、動けない。
宮美の演奏も、とぎれとぎれになり、やがて……、
止まってしまった。
『……そうよ、みなさん。さあ、次は……気持ちよくして、あげますね』
歌の合間に、そう言いつつ、ヴィヴァルディは現れ、
ディアボロスたちに、近づいていった。
●はじけ飛ぶ抗いと快さと
『……さあ、淫魔を封じたお嬢様。まずは、あなたから……』
ゆきのに近づこうとしたヴィヴァルディだが、
「ねえそこのお姉さん、このカップリングも、アリ寄りのアリアリですよね!」
メルセデスが、『それ』を放った。
『え? ……な、なんですかこれは!』
「……どうしました? これも魅了すべきカップリングじゃなくて? 淫魔とガマガエルのドロドロカップリング、ガマ口からは触手のおまけつき!」
『脳内かけ算(意味深)』、メルセデスの妄想を実体と化して、ヴィヴァルディへと叩き付ける。
当然、こんな妄想を受け入れられる者はそうはいない。ヴィルヴァルディも同じく、
『……なら、これはどうですか!』
「……ひっ!」
メルセデスは、そのまま昏倒した。
中学に上がる前の、いやな思い出。それを『追憶の聖譚曲』で強制的に思い出させられたのだ。即座に気絶させられるほどに、強烈な嫌な思い出を。
しかし、その歌が途切れたその時に、
「……!」
宮美が、今度は『追憶の聖譚曲』を遮るようにして、魔楽器を演奏し始めた。
(「……先刻は、魅了に木を取られ、先に歌われて不覚を取りましたが!」)
メルセデスの妄想による不意打ちで、僅かな隙が生じた。それを無駄にはしない。
『氷雪使い』の魔力を宿した演奏で、ヴィヴァルディの音感を凍結させようとする。ヴィヴァルディは、明らかに戸惑っていた。
が、
(「こちらも……余裕は……ないですね……!」)
宮美も、追い詰められている。先刻からの心のダメージが結構大きく、思うように演奏できず……思ったほど、凍結できていなかったのだ。
やがて彼女も、力尽きて気絶してしまった。
「……痛くない、痛くない……って、嘘! やっぱり痛い痛い!」
しかし、無駄ではない。ヴィヴァルディの操っていたつる草の力が緩まり、円がかろうじて片腕だけを自由にした。そこから手のナイフで、つる草を切り始める。
円とともに、カイとアッシュ、ハナとマリア、アンジェリーカも、
次々に、つる草からその身体をもぎ離し始めた。
『なっ! そのまま……縛られていなさい!』
しかし、円と、彼女のナイフでいち早く自由になったアンジェリーカ、二人が駆け出した。
「このっ!」
円のコンバットナイフが投擲され、ヴィヴァルディはそれを躱したが、
「……うらああああっ! 歯ぁ食いしばりなさい!」
その隙に接近したアンジェリーカが、ヴィヴァルディの顔面へ、握り拳を叩きこんだ。
「『その顔面にアースクエイク』! へっ、そんな折れた鼻の顔で、魅了できると……あ、あれ?」
しかし、力が抜けてしまい、アンジェリーカは倒れてしまった。
「え? アンジェリーカさん?」
円は思わず叫んだ。アンジェリーカは、
「あ、あー……あー……」
酩酊したかのように、前後不覚の状態になっている。
「『Risonanza』……濃いめのフェロモンの直吸い、いかがかしら? かなり痛かったし、鼻も折れたけど……『魅了』は、外見「だけ」じゃないのよ?」
アンジェリーカは、大量のフェロモンを吸い込まされ、脳内に快楽物質を過多状態にされたのだ。
止めを刺さんと、歌でつる草を生やさんとしたヴィヴァルディだが、
「マリアのワルツで、元気出たの? なら彼女を、テンテコ舞いにしたげてなの!」
マリアラーラの『プリンセスワルツ』で鼓舞された、アッシュ、カイ、ハナが突撃していた。
「おう! ……捉えた!」
カイが構えた砲を、発射する。
「『電磁砲(ラーディオトルペード)』、発射! 食らいな!」
カイが放った強烈な砲撃が、ヴィヴァルディへと直撃する。薄布の服が燃え、肌が露わになった。
だがヴィヴァルディは、背の翼を羽ばたかせ、空へと逃れる。その身体には、明らかにダメージが刻まれていた。
「逃がさない!」
「逃がさねーッスよ! はーっ!」
淫魔を追い、アッシュとハナもまた飛翔した。
「そう、ですね……などと言うと思いましたか?」
『?』
己の弱き心に、叱咤するかのように。ゆきのははっきりと、そう言い放った。
「これは……事実ではありません。あなたの言う通り、解放すれば楽にはなるでしょう。なら、楽ではない道を選ばせていただきます」
次第に、意識がはっきりとしてくる。
そのまま、ゆきのは、
「辛い道でしょうが、それでも……ええ、それでもわたしは、堕ちるわけにはいかないのです!」
己の弱き心と決別せんと、叫び……目を覚ました。
「ええ、私もです! ゆきのさん、あなたの叫び、私にも聞こえました!」
そこには、美珠とセシリーの姿が。
美珠の手には、鏡があった。その鏡からは、聖なる光が放たれている。
「『退魔の聖光(アマテラス)』……これで、堕落した心と体を清めました」
「宮美とメルセデスも、精神にダメージを負っていたが、じきに目を覚ますだろう。二人を頼む」
と、セシリーは立ち上がる。
「私たちはこれから……あの女を討つ!」
●淫らと清楚と、娼婦と淑女と
「くっ……ちょこまかと! 狙いが……」
カイは地上から、新たに砲撃しようとするが、ヴィヴァルディの動きは素早く、狙いが定まらない。
アッシュとハナがそれを追うが、やはりなかなか追いつかない。それに、下手に撃てば味方に当たる。
「カイ!」
そこに、セシリーと美珠がかけつけた。
「状況は……」
「……わかった。私と美珠も加勢する。援護を!」
「お願いします!」
アッシュは、あせっていた。
突撃しつつも、ひらりひらりと敵にかわされ、攻撃が当たらない。
そして再び、フェロモンが利きはじめている。
「レディを殴るなよ、かわいそうと思わないのか」と、自分の中でそんな考えが生じていたのだ。
『さあ、勇敢な戦士様。その拳は、他に……』
そして、すれ違いざまにヴィヴァルディからそう囁かれ、カイの方を殴りたくなる。
「って、もう騙されるか!」
そうとも、これ以上翻弄されてたまるか。
「うおおおおおーーーっ!」
突撃したアッシュは……、
再び、空振りに。
『ふふっ、残念でした、また空振りよ……』
「空振り……だが、それがいい! ハナ!」
『え?』
「とぉーっつぅげきぃーーー! 『メテオストライク』」
全身をオーラバリアで包み込んだハナが、死角から突撃してきたのだ。直前でハナ自身が回避し、オーラの砲弾のみを……、
ヴィヴァルディへと叩き込んだ。
『ぐっ……はあっ!』
空中でとどまった淫魔へ、
「ブースト、スマッシュ!」
アッシュが正面から突撃、『ブーストスマッシュ』を、その腹部へと叩き込んだ。
破壊の魔力が拳とともに叩き込まれ、内外からの破壊力が淫魔を襲い、
『がはあっ!』
血を吐かせた。
だが、
アッシュも無事では済まなかった。拳を叩きこまれた直後、その拳を掴まれ、
至近距離からフェロモンを大量に吸わされたのだ。
「……!」
アッシュも無力化され、地面に落ちる。
「……駆けろ」
だが、セシリーはその一瞬を待っていた。
「『光の流星(スーテラ・ルーメン)』! 焼き尽くす!」
セシリーが放った聖剣の光刃が、ヴィヴァルディの片翼を切断した。
『なっ……ああああっ!』
痛みに吠えつつ、淫魔もまた地面へと堕とされる。
「……お覚悟を」
落下地点には、草薙剣を手にした美珠が。
『ま、待って! あなたは、気持ちいい事が好きなんでしょう? 私と来ない? あなたの中の、淫らな気持ちを解放できるわよ? もう、我慢しなくて良くなるの』
そう言って、淫魔から再び魅了の力が放たれた。強烈な魅了が美珠を襲い、剣を捨てて彼女を助け、一緒に逃げたい……という激しい欲求が湧くが、
「お断り、します! 人の心の幸せを壊すあなたは、絶対に許しません!」
リリアーヌの顔を思い出して、即座にその欲求を抑え込んだ美珠は、
『ま、待って……がはあっ!』
草薙剣の切っ先を、淫魔・ヴィヴァルディへと、深く……突き刺した。
「待っ……」
目を覚ましたリリアーヌが、マリアラーラに支えられつつ、それを止めようとしたが、
「……いいえ、これで、良かったのよ」
リリアーヌ自身も、己を止めた。
「……ああ。人の心を弄ぶ、その代償は高くつくと、あの世で知るがいい」
セシリーもまた、鎮魂するかのように呟いた。
ヴィヴァルディは、淫魔は、美しき死体となった。
「……ヴィヴァルディ、お前にも、神の加護を」
そして、死にゆく者へ。セシリーはシスターとして祈りを捧げていた。
「ええ……罪穢れを、祓い給え、清め給え。畏み畏み申す……」
美珠も、引導を渡した淫魔を横たえると。
巫女らしく、祈りを捧げた。
「……あんたも、確かに良い女だった」
カイもまた、亡骸を覗き込む。
「……だが、それより前に、もっといい女に会ったばかりだからな」
そう言って、彼は……、リリアーヌへと、僅かに視線を向けるのだった。
「…………」
文字通り、彼女の鼻っ柱をへし折ってやったアンジェリーカは、黙ったままで見つめていた。
●切なくも愛おしい、あなたとのつながり
「……でねー! 私、中学に上がる前に、若い男の変質者に襲われそうになったことがあるんですよ」
「そうなんですか……。それは、災難でしたね」
メルセデスの愚痴に、リリアーナが頷く。
「いやー、それでそいつを、つい竹刀で半殺しにしちゃって。タマタマも……あ、失礼……ぶっ潰しちゃいまして、相手は生死の境を彷徨いまくったみたいです。まあそのせいなのか、それからというもの、若いオトコは苦手なんです」
メルセデスはそう言うと、紅茶を一口飲んだ。
「だから、いつもの薄い本とやらでは、中年男性ばかり描くのか?」
セシリーが訊ねる。
「まあそれもありますけど、個人的に熟成した男性に魅力を感じてしまったクチでして……グフッ、グフフ、グフフのフ」
と、またもグフる彼女に、
「……ま、まあ……同僚も、年配の男性客が好み、という者もいましたが……」
リリアーナは若干戸惑いつつ、そんな事を言ってみるのだった。
ここは、『メゾン・ド・ニュイ』の、ウイーン市内の別館。
市内を少し散策した後に、リリアーナが発見し、内部もあまり壊れていない事が判明。
かくして約束通り、ここでささやかなお茶会が催された。リリアーナは慣れたもので、人数分のカップと、お茶菓子とを取り出すと、皆の前に並べる。
飲料水や茶葉なども残っており、館内の台所で湯を沸かすと、皆へと振舞っていた。
「わたしもですね。金持ち連中や貴族王族のお坊ちゃんやお嬢様のお客を取る事がありましたが……自分勝手な人も多かったです。高級とはいえ、娼婦に礼儀なんか要るか……と、そんなふうに見下してましてね」
と、リリアーナもまた、茶を飲みつつ愚痴る。
「こちらはお客にご奉仕しなきゃですから、褒めたり持ち上げたりしますけど、それを本気にして、威張ること威張ること。支払うお金も親からもらったじゃないのよって」
「いや、ホント。そういうのって最低だわ。ウチだったらぶん殴るとこよ」
「自分もッス! 富裕層や貴族だからなんだっつー話ッスよ! 大切なのは人間性!」
アンジェリーカとハナも、リリアーナに同意。
「で、同僚たちはどうあしらってるのか聞きたいと思ってもですね……私の事を勝手に持ち上げて、しかも恐れ多いとろくに会話もしてくれないし! なんなのよ、私は威張っても無いし、他の皆と仲良くしたいだけなのに!」
「……ま、まあ。きっとみんな、あんたが美人過ぎるから気がひける、とか?」
「……そうだな。自分より優れた者には、緊張するというし」
カイとアッシュは、リリアーナの機嫌を損ねないように、言葉を選ぶが、
「……そちらの紳士お二人。あなた方は顔もハンサムで、知的で、とてもお強いですし、男性としても、人としても、素敵な方々ですけど……肝心の『女心』を理解されてませんね」
逆にお説教されてしまった。
「美人過ぎる? 私に言わせれば、同僚のあの子の方が美人ですし、別の子は目がぱっちりしてますし、また別の子は私よりスマートですし、別の子は私より機敏で気が利きますよ。……みんな、私より優れてるのに、勝手に『私たちは、リス・ノーブルより劣ってる』なんて言って……」
と、お茶をぐっと飲み干し、
「……自分より優れてるから緊張? なら、私の方が緊張してますよ! わたし、皆に敬意を払ってる事を、皆に知ってもらいたいのに!」
「そ、そうか」
「失言だった、すまない」
と、タジタジの男性二人。
「…………」
そんな中、マリアラーラは考え込んでいた。
「? マリアさん、どうしました?」
ゆきのが問いかける。
「……あのベーダの事とか、他のウィーンの市民とか、リリアーヌさんの同僚さん達とか、どうしたのかなって」
人口を考えると囚われてる人が少なすぎる。ならば、他の人々はどこへ行ったのか?
皆、逃げられたなら、街が大樹に呑まれたって噂が無いのは不自然。つまり、リリアーヌが襲われた時に、ウィーンは一気に変化した事に。それ以前は何事も無かった事は、リリアーヌ本人から聞いて判明している。
地下に知られないように根を張り、一気に出現させた、とか?
それ以上にわからないのが、『リリアーヌの前に、わざわざ偽物の娼館を、しかも半ば崩壊した物を建てて見せつけた』コト。どうして? リリアーヌに見せつけて苦しめるため? なら、本物を崩せばいいだけ。
単なる嫌がらせ? 楽しむためだけにやったの? あるいは、別の理由が……?
「……あの、マリアさん」
悩んでいる様子を見て、リリアーヌが伺った。
「すみません、私は本当に、何も覚えが無くて……お力になれず、申し訳ないです」
「ううん、いいの。マリアが勝手に悩んでただけだから……この焼き菓子、おいしいの」
自分が悩む様子を見せて、リリアーヌに気を使わせちゃいけない。そう思い直したマリアラーラは、子供らしく焼き菓子を頬張った。
「……でもぉー、リリアーヌさん。やっぱ私はあなたがうらやましいですよぉー」
と、円が大仰に、美珠の肩を抱き寄せつつ訴えた。
「何故? なぜ私はきょぬぅではないのか! 美珠さんもそう思いますよね? なぜ神は、我々にひんぬーという試練を与えたもうたか! ああっ、リリアーヌさんみたいなおっぱいになりたい! それが叶わぬならば、その胸の谷間に埋まりたい……よよよ」
「は、はあ……って、私も貧乳仲間に含めないで下さい! 私はまだ成長途中なだけです!」
「……ふふっ、皆さんよく仰います。でも……」
と、円に近づくリリアーヌ。
「少しだけなら……いいですよ?」
そう言って、円の顔を……リリアーヌは優しく、自身の胸に抱きしめた。
「ふわっ……ああ、柔らかい……それに、良い匂い……」
円は、安らぎとともに、顔の力が全て抜けた、呆けたような至福の表情を。
それを見て、
「……羨ましい……じゃなくて!」
「おい……ま、まあ、俺も羨ましくないと言ったら、嘘になるけどな」
と、アッシュとカイはそんな事を小さく呟いたり。
「なっ……わ、私だって、堕落空間では、もっと色んなことを……」
思わずつぶやいた美珠は、
「……美珠、やっぱりリリアーヌとそう言う事をしてたのか」
「え? い、いや、あの、その」
セシリーからジト目で指摘され、シドロモドロになるのであった。
「……あー、それでリリアーヌさん。これから……どうするッスか?」
と、ハナが問いかけた。
「今後、どうなさるのか……お考えは?」
「そうですね……この仕事自体は、嫌いではないので……もうしばらくは続けたいです」
と、ハナ、そして皆に返答するリリアーヌ。
「同僚の、皆さんとは?」
今度は、宮美が。
「……今は、このような状況ですが。『メゾン・ド・ニュイ』を立て直し、仲間をまた集めたら。話し合う機会を設け、私の本当の気持ちを伝えたいと思います。私は、特別なんかじゃない、皆さんと同じ……普通の人間、普通の女性なんだと」
「……それでも、同じように避けられたら?」
「……同じく、理解してもらう様に努力していくしかありません。でも……皆さんとこうやって接して頂き、勇気を貰えました。私自身も、少し至らない所があったのも、また事実ですし」
と、ハナと宮美に、笑いかけるリリアーヌ。
「できるだけ、同僚の皆さんと過ごす時間を作り……私の事を知ってもらえるようにしたいと思います。あ、宮美さんに見せた『腹いせ小説』や、音楽や絵などの芸術活動も、やっていきたいですね」
「……すごいな」
セシリーが、賞賛の意を表す。
リリアーヌの振る舞いから、高級娼婦とは、クルチザンヌとはかくあるものかと、彼女は熱っぽく……視線を寄こしていた。
再び、頬が熱くなるのを感じる。
「? セシリーさん、また、お顔が……」
「あ、いや……」
ふっ、私も修行が足らんな。サキュバスの、性というものか。
「……なら、ちょっとお願いしてもいいか? 少し疲れたので、肩を……揉んでくれないか?」
「……はいっ」
と、彼女の後ろに回り、凝った肩を揉むリリアーヌ。
(「確かにこれは……気持ちがいい、な」)
触れ合う事の快感を、実感するセシリーだった。
「……わたしも、本当に……彼女のように、誇り高く在りたいものです」
ゆきのもまた、改めてそう思い、そう願った。
「リリアーヌさん……これから、どうするんですか?」
『メゾン・デ・ニュイ』別館。
同館内・ベッドルーム。
ベッドの上で、生まれたままの姿でシーツにくるまっているのは、リリアーヌと、美珠だった。
お茶会も終わり、皆は先にパラドクストレインへ戻っていったが。帰還まではまだ若干の時間があった。
美珠は、「後から行きます」とセシリーに伝え、リリアーヌの元へ。
そして、堕落空間での事を……肌を重ね合う事を、現実でも行い……快感を分かち合い、絶頂を迎え……二人は果てていた。
「ウィーン近くの村にある教会のマザーが、店のオーナーと知り合いでして。しばらくはそこに住まわせてもらおうと思います」
「…………あ、あの……」
ここでの使命は終わった。これから戻らねばならない。
なのに、戻りたくない。美珠は知ってしまった……本当に、リリアーヌに魅了されてしまった自分を。
「……だめですよ。あなたには……するべき事が、帰るべき家があるのでしょう?」
そしてリリアーヌは、そんな彼女の葛藤を悟り……そっとその唇に、指を当てた。
「で、でも!」
「私は、ひとときだけの、一晩だけの、あなたの恋人。こうしてあなたと知り合い、愛し合えた。それで十分です」
「…………」
そう、彼女の言う通り。けれど……、
「……っ!」
「!……美珠、さん?」
美珠は自分から、リリアーヌにくちづけした。
「……忘れません。わたし、あなたの事を……」
涙があふれてきた。かつて、男女問わず美珠は、抱かれ続けてきた。今回も同じ、そのはずだったのに。
こんなにも別れが切なくなる事など、今までには無かった。
まだ、時間はある。リリアーヌの事を、可能な限り……自分に、草薙美珠という自分に刻み付けたい。
(「決して、わたし、忘れません……」)
美珠は誓い、再びリリアーヌから抱かれた。
帰還までのわずかな時間。改めて二人は、抱き合い、求め合い、快感を、想いを分かち合うのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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