リプレイ

●まずはお前らからだ
　ディアボロスが駆けつけたとき、
「早く逃げねぇと、大鎌でバッサリ逝っちまうぜェ！？」
「ギャハハハハハッ！　マジウケるわ、コイツらのマヌケなツラ！」
　港区民は大鎌を振り回すアークデーモンに追い回され、必死に逃げていた。
　ゲラゲラと下品に笑う悪魔達に、区民達は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。

　……そこへ中華料理屋にあったと思しき椅子が、刈取の悪魔に投げつけられた。
　自慢の大角にヒットした椅子を一瞥すると、デーモン達は椅子が飛んできた方を睨みつけ、
「いってェな！　……なんだテメェは！？」
「自分よりチカラのない者を痛めつけ、強くなった気でいる……まさに弱い者イジメですね」
　投げつけた張本人、須藤・霧衣（リクリエイションズ・g00461）はそう言いきり、大鎌による反撃をヒラリとかわした。
　その間にアリスティア・セラフィール（シンフォニックウィザード・g02995）が区民の元へ急ぎ向かう。
「ご安心を、みなさんはわたし達がお守りいたします」
「あ、ありがとう」
　動揺する区民達の無事を確かめて、アリスティアは区民を背にして悪魔を見据える。
「この地に残る希望の灯火を消す訳には参りません……罪なき人々に刃を向ける悪しき者には、ご退場頂きましょう」
　指輪から現れた魔法の鍵盤に指先を滑らせ……優雅な演奏とともに、幻影の英雄達が区民への守護を固めていく。

「では、私も派手に行くとしよう」
　二人に気を取られていた隙に、パラドクスを発動したラキア・ムーン（月夜の残滓・g00195）が猛烈な推進力で突撃！
　注意が逸れていたために、察知し、反応するまでのわずかな隙が生じた。
　悲鳴をあげる間もなく、脇腹に風穴を開けられた一体がドサリと転がる……不意の一撃を受け、他の悪魔らは目を見開く。
「ま、まだ居やがるのか！」
「舐めてんじゃねぇぞ、シャバ僧どもがゴルァ！？」
　現代ではもう聞けないレベルの罵倒を吐き散らし、ラキアの姿を捉えようとするアークデーモン達めがけ、アリスティアの英雄達は弓を構えた。
「悪しき者たちよ、その刃がこの人々に届くことはありません」
　放たれた矢は放物線を描いて降り注ぎ、矢の雨は灰色の肌や翼に傷をつけていく。
　さらに霧衣は軽妙な動きで矢の雨を掻い潜り、刈取の悪魔へ瓦礫をぶつけ、真正面から叩き潰す！
「一匹たりとも逃しませんから、ねっ！」
「んだとォ！！」
　ブレイクダンスじみた回し蹴りで、霧衣がアークデーモンの体勢を崩した一瞬……死角から放ったラキアの強烈な一撃が食いこんだ。
「数だけは多いもの、確実に仕留めていかないとね」
　戦場から離脱しきることはできずとも、死角に入りこむことはできる……物陰でラキアはポツリと呟く。

　霧衣達の登場によって、アークデーモンの注目は区民からディアボロスへ。
「い、一体、なにが起こってるんだ？」
「……あの人達、悪魔どもと戦ってる、んだよね」
　それと同時に、港区民の注目もディアボロスへ向けられていた。




　霧衣達の交戦している様子は、上空のディアボロス達も目撃していた。
　前髪をひと摘まみいじってから、眉立・人鳥（鳥好き兄ちゃん・g02854）は、
「品川のやつらにも、好き勝手させる訳にはいかねぇよな」
　光の翼を顕現させると、魔力の塊を練り上げていく。
「おうよ。結局はどっちもどっちだし、マッチポンプなんざ邪魔するに限るよな？」
　強気に笑う東堂・暁（時の迷い子・g01082）も悪魔の翼を羽ばたかせ……魔力の弾丸を創ると、地上で暴れるアークデーモンの群れめがけて撃ち放つ！
「最初から全開で行くぜ！」
　練製した光輝の魔力を人鳥も撃ち放ち、浄化の光明が地上で炸裂する。

　頭上から一撃を受ければ、さすがに相手も気付くだろう。
「クソッ、上にもいやがったか！」
「叩き落としてミンチにしてやっからな！！」
　身の丈ほどの大鎌を振りあげ、刈取の悪魔は応戦すべく、上空の暁達めがけて急接近。
「飛んでくるのは想定内なんだぜ！」
　大鎌が肌を掠める中、暁は双翼魔弾を撃ち続けてアークデーモンの撃墜を狙う。
　それを援護するように、人鳥は悪魔の魔力糸を伸ばす。
　アークデーモンは四肢のどこかを絡めとられた者もいれば、大鎌で斬り裂いてしまう者もいた。
（「おっと……魔力糸で妨害するって戦法は、頼りすぎたら痛い目に遭いそうだな」）
　過信は禁物、と人鳥は判断してから、絡めとったアークデーモンを裂破光翼衝で撃ち落とす。

　上空まで追走してきたアークデーモンだが、人鳥と暁の手で確実に数を減らしている。
「ざっけんなよゴルァ！」
「アークデーモンの“シマ”荒らして、タダで済むと思ってんじゃねぇぞォッ！！」
「知らねぇのか、ここは公共の場って言うんだぜ？」
　独特すぎる悪魔の宣告を放つも、人鳥達は素早く間合いをとって人鳥は魔力塊で反撃。
　また一体、撃墜される様子を見届け、
「まぁ恨みは……多分、きっと骨髄ほどにあるから。やられてくれ」
　暁が放つ魔弾は、残りのアークデーモンの額を射貫いてみせた。




　上空のディアボロス達と交戦すべく、アークデーモンの一部が別行動している間も、地上では戦闘が続いていた。
（「縄張り争いか……住人には迷惑な話だけど、恩を売ろうとしてるのがさらに悪質だね」）
　悪魔の所業以上に大天使のやり口を軽蔑しながら、楠井・十佐（人間のデジタルサマナー・g02957）は大天使アルマロスを顕現させ、神の盾で住人への守りをさらに固めていく。
「こんなチャチぃ盾で防げると思ってのかアァン！？」
　神盾を引き裂こうと、大鎌を振るうアークデーモンであるが、その直後にうつ伏せに事切れる……その背には十字傷を負っていた。

「最近は策を弄する仕事が多めだった故、体を動かさねばな」
　傷を負わせた楡金・澄華（氷忍・g00167）はスルリと物陰に滑りこみ、アリスティアや十佐に注目するアークデーモンへ狙いをつけ、二刀を構えた。
（「邪魔だ！」）
　一息に振るわれた双刃は悪魔の身に深手を負わせ、
「テメェか！！」
　再び姿を隠そうとした澄華へ大鎌が襲いかかり、その軌道を大太刀で受け流した。
　光学迷彩と言っても、足音や殺気までは隠しきれない……過信は禁物だろう。
「しょうがない……二刀流の腕前、見せてやるさ」
　討ち漏らしは避けようと構え直し、澄華の二刀と悪魔の大鎌が火花を散らす。

　十佐も念動力でコンクリート片を撃ちだし、援護する中……アルマロスを一瞥。
（「天使が人々を救うのは、奇しくも大天使の計画通り。だけど、これは召喚プログラムを組み立てた“人間”の力だ」）
　天使も悪魔も区別なく、人を救うための道具として使う……その一端をみせるように、十佐はアルマロスへ次の指示を出す。
「一体たりとも逃しはしない……アルマロス！」
　アルマロスの手には神罰の槍が生成され、それで『射抜け』と指示を下す。
　片手で数えられるほどに数を減らしたアークデーモン……霧衣が蹴り飛ばした個体と、もう一体の位置が重なり合った直後。
　そこにアルマロスの槍が放たれた！
「これで悪魔退治も仕舞いだ！」
　串刺しのアークデーモンを澄華が両断し、喧々と騒いでいた悪魔達の姿はその場から消えていた。
「もう安全だね。皆さんも今のうちに避難を……品川方面は避けたほうがいい、かな」
　さりげなく品川区から離れるよう勧める十佐達に、感謝の言葉を贈ってから、港区民達は足早に拠点へ帰っていく。
　大天使もこちらの騒動に気付いているだろう。
　……ここからが本番だ。




　ディアボロスがアークデーモンを討伐していたとき、時を同じくして、大天使の対応に向かっているディアボロスがいた。
「本当に皆を救いたいって気持ちだったら、戦う理由なんてないのにねっ」
　信仰を得たいから助ける……それは違うと、ネリリ・ラヴラン（クソザコちゃーむ・g04086）は思った。
　万人を救うという命題を掲げながら、『例外がある』というのはおかしな話。
　だが、それでは信仰を得られない以上、大天使も主張を崩す気はない。

　戦闘音を聞きつけ、大天使がアークデーモン達の元へ向かおうとしている姿を、飛翔するネリリだけでなく、地上の御門・風花（静謐の凶鳥・g01985）も見つけた。
（「あなた達の思い通りにはさせない」）
　エアライドと飛翔を活用し、風花がビル壁を駆け上がっている間に、ネリリが先んじて行動を開始。
「よーし、みんな行ってっ！」
　魔力で形成した蝙蝠群を放ちながら、ネリリはソードメイデン部隊の側面へ回りこんでいく。
　現れた蝙蝠の群れに、ソードメイデンが足を止めて斬り払っている隙に、風花が大天使らに急接近。
「っ！」
　両手足に集中させていた闘気を一気に解放！
　その衝撃波に、ソードメイデン達は飛行したまま体勢を崩し、品川方面へと押し返されていく。

　ネリリと風花の妨害に、ソードメイデンは目に見えて動揺していた。
「なぜ人間達が邪魔を？　どうする！？」
「いや、しかし、メタトロン様は『アークデーモンと戦え』としか……」
　どうやら想定外の事態によって、対応に困り果てているらしい。
「うふふっ、どんどんやっちゃうよっ」
　さらに引っ掻き回してしまおうと、ネリリは小型の蝙蝠を追加していき、身動きのとれない大天使を風花は容赦なく吹っ飛ばす。
「……破軍衝」
　ソードメイデンが体勢を立て直すより早く、風花はエアライドで大きく跳躍して至近距離で捉えると、練気を帯びた掌底で強烈なインパクトを発生させる。
　哀れにも吹き飛ばされる大天使は、きりもみしながら後方へ……品川区へ押し戻されるのは時間の問題だろう。


　荒廃した街並みと新宿島と変わらぬ空を見上げ、グレン・ゲンジ（狂刃のスレイヤー・g01052）は、最後の一押しをすべく待ち構えていた。
（「俺が住んでた方の東京か……俺が死んでから何年か経ってるらしーが」）
「ま、今は帰省どころじゃねーか」
　そう呟いているグレンの耳に、けたたましい衝撃音が飛びこんでくる。

「それそれそれーっ」
「ま、待て、やめないか！？」
　蝙蝠の群れを操るネリリに、体勢を整える余裕も奪われていくソードメイデンを目視し……グレンは大きく息を吸い込む。
「大天使がナンボのもんだってんだオラーーーッ！！！」
　辺り一帯に響く怒声が、突き上げる形で大天使らの動きを阻害し、風花の破軍掌でさらに押し飛ばされた。
「おい、このままだと、品川区に入ってしまうぞ！？」
「このような者達、入りこませる訳には！」
　慌てふためいていたソードメイデン達も、ようやく事態の深刻さに気付いたらしい……だが、遅すぎた。
「何が翼だ、その剣剥ぎ取られてーーーのか！」
　最後の一押しとばかりに、グレンの咆吼が大天使めがけ放たれる。

　周囲のビル群すら揺らがす雄叫びが、ソードメイデン達を品川区へ押し戻し、ついに戦場は港区から品川区へ移っていく。
●突撃！　となりの品川区
　大天使の管轄区域だという『品川区』
　……そこには“綺麗に修復された街並み”が広がっていた。
　さすがに隣接区域との境界線に近いこともあり、住民の姿は見えない。
　改めて進攻する必要がありそうだ。

　目的を誤ってはいけない。
　今回の目的は“港区のアークデーモン”と“品川区の大天使の撃破”なのだ。
　クライマックスは目前まで迫っている！




　品川区に無事到達し、あとは掃討するのみ。
　ネリリ・ラヴラン（クソザコちゃーむ・g04086）と御門・風花（静謐の凶鳥・g01985）は攻撃態勢に移る。
「やむを得まい、迎撃するぞ！」
「“本当に助けたい”だなんて思ってるなら、止まっていたらダメなんだよっ」
　大幅に強化された残留効果『飛翔』で、ネリリは翻弄してやろうと縦横無尽に飛びまわった。
　急接近してきたネリリに剣舞を放つも、すぐさま離脱されて、空振りする大天使に風花が急接近。
「わたし達は復讐者（ディアボロス）。ここで倒させてもらいます」
　天使の庇護などいらない。
　“自らの手で取り戻す”ことにこそ、意義があるのだから。
　……刮目した直後、風花のパラドクスがソードメイデンの胸部に突き刺さる！

　息を詰まらせた大天使ともども狙いをつけ、ネリリの創りあげた蝙蝠達は突撃し、接触と同時に爆風を巻き起こす。
（「わたし的には本気で悪魔達から皆を守りたいなら、恨みとかも超えていいって思ってたけど……」）
　現実は、そうではなかった。
　大天使はアークデーモンを倒している……その一瞬“だけ”を住民に認知させ、信仰を得ることが目的。
　少なくとも、今回の実行部隊だった大天使らはそうだった。
「わたし……怖いのより、“嫌い”って気持ちが上みたいっ」
　迫る剣戟をスルリとくぐり抜け、ネリリはもう一度パラドクスで爆発を起こす。

「我々が人間に追い詰められるなど……ならば、これで！」
　ソードメイデンは、背にする刃を分離させると、風花達めがけて一斉射出！
　高速移動する刀剣を前にし、
「避け切れないなら、打ち落とすだけ」
　風花はときに拳を当てて軌道を逸らし、ときに身を翻してかわすと、刀身を踏み台にエアライドを発動。
　ソードメイデンの位置を確認して跳躍、さらに飛翔による加速効果で一気に間合いをつめる。
「これで、おわりです……破軍衝」
　強大な衝撃波が放たれ、ビリビリと肌が痺れるような感覚が走る。
　……内臓すら激震させる衝撃を受け、ソードメイデンは次々に地上へと墜ちていく。
　トループス級クロノヴェーダが全滅する様子は、ようやく追いついた大天使・メタトロンも目撃していた。
●六翼の乙女
　ディアボロス達に向けられた、メタトロンの眼差しは冷えきっていた。
「先行させた者達が見当たらないと思えば……あなた方は、己の行いを理解していますか？」
　抑揚のない物言いでありながら、大天使は叱責の言葉を放つ。

　いささか独善が過ぎる態度のメタトロンに、ディアボロス達は沈黙を返すと、メタトロンは両手の刃を持ち上げた。
「あなた方には、救済よりも断罪が必要なようですね……我が刃をもって、天命を全うさせてあげましょう！」　


　メタトロンが見下ろす中、御門・風花（静謐の凶鳥・g01985）は深く息を吐き、
「……全力で行く」
　魔力障壁を展開して飛翔する。
　その場にいる者達……ディアボロスを『外敵』と判断し、メタトロンも二刀を握り締めると、風花めがけて急加速する。
「この手でこの町の人達を、開放する」
「あなた達のように危険思想をもつ者達は、この地に不要！　全力で排除します！」
　風花は両手に意識を集中させ、エアライドで鋭角に方向転換しながらメタトロンへ迫り……接触する。
「これが、私達の、全てを取り戻すために得た、力だ！」
　権能を込めた双剣と掌底が激突し、強烈な衝撃波が空気を揺さぶる。

　一瞬にして幾重もの連撃を放つメタトロンの刃に、風花は魔力障壁の出力をあげ、両腕で受け流そうと拳を前に出す。
「我が剣……止めきれると思わないことです」
　両腕に裂傷をいくつも作りながら、風花はメタトロンが剣を振り上げた直後……、
「――破軍衝！」
「ぅ、っく！」
　赤く染まる掌から猛烈な衝撃を繰り出し、メタトロンへ叩きつける！
　臓腑がはじけそうなほどの、強烈なインパクトに六翼の乙女は息を詰まらせた。




（「信仰と引き換えに人間達を守る……って話なら、悪魔よりは天使の方がましな存在なのかもな……だけど、関係ない」）
　天使も悪魔も、本来は存在しないのだ。
　正しい世界を取り戻すため、楠井・十佐（人間のデジタルサマナー・g02957）と同時に須藤・霧衣（リクリエイションズ・g00461）がエフェクト効果で飛翔する。
「理解しているかと問うとは……『天に唾を吐く』行為とでもいうのでしょう、貴方達からすると」
「無論です。私達は人々を護るべく手を尽くしているのですから」
「そちらこそ理解すべきでしょう、これから行われるのは……復讐の意思が込められた“蹂躙”であるということを！」
　先駆けて飛びかかる霧衣に、メタトロンは翼を広げ、純白の羽を一斉に撃ちだす。

　幻想的な光景は、一瞬にして霧衣へ向けられた一斉射撃へ姿を変えていく。
　四方から迫る羽は鋭利な刃を思わせ、
「好きにはさせない！」
　風花が割り込んで受け止める間に、霧衣はメタトロンへ肉薄する。
「フィールドは関係ありませんよっ」
　身を翻して蹴りを浴びせる霧衣とメタトロンがやりあっているとき、大天使を注視する十佐は考察を重ねていた。
（「あれはアヴァタール級クロノヴェーダだ、本体のクロノス級より格落ちしているとはいえ……僕が扱える天使よりは上位の存在だろう」）
「来い、ザドキエル！」
　十佐の呼び声に、樹槍を携えた大天使が現れると、メタトロンめがけて突撃！

　刺突の構えを維持するザドキエルに、メタトロンも双剣を握り締めて応戦……激しい打ち合いの末、ザドキエルの穂先がメタトロンの脇腹を抉る。
「っ……この程度で、屈するとは思わないことです！」
　鋭利な樹槍を受けてなお、大天使は歯を食いしばり、十佐に連撃を放つ。
　剣閃が止まったと見るや、すかさず霧衣は追撃をかける。
「全身全霊、叩きこみましょう！」
　……ディアボロスは、一人で戦っている訳ではない。
　共闘する利点を最大限に活かし、霧衣はパラドクスで強化した、全力の飛び蹴りで真正面からメタトロンを蹴り抜いてみせた。




「わたし達は、皆を助けたいだけだよ。ちゃんと解ってここに居るわ」
　咳きこむメタトロンをまっすぐ見つめ、飛翔するネリリ・ラヴラン（クソザコちゃーむ・g04086）は黒色一対の弓を手にする。
「天使様達も、皆を助ける為に来たんでしょ？　だったら、わたし達でキチンとできたから安心して帰って下さいっ」
　救いの手を伸ばす者に貴賤はない。
　誰が助けようと、救われた事実に変わりないのだから。
「皆を救った人達に刃を向けてしまったら……もう誰もあなた達の善意は信じないよ。それでも良い？」
「詭弁ですね。あなた達こそ、品川区へ争いを持ちこんだというのに！」
　メタトロンが両腕を広げると、首元の石榴石が輝き、無数のビームがネリリに迫る……！

　ビームを裂くように矢を放つネリリに合わせ、東堂・暁（時の迷い子・g01082）は飛行しながら鼻で笑う。
「邪魔されたら、それか……根っこの部分は悪魔と変わらないみたいで安心したよ」
　大天使の主張こそ詭弁だ。
　損得勘定ありきで動いている者が『救済者』とは、喜劇的にもほどがある。
　パラドクスの持つ時間停止の効果は『隔離眼と依存関係にある』ため、クロノヴェーダには真価を発揮できないだろう……だが、そのパラドクスに宿った破壊力であれば、話は変わる。
「……ここでっ！」
　メタトロンがネリリの魔術矢を避けようとした瞬間……暁はエアライドを利用し、大きく踏みこんだ。
「っ！　下衆め、死角を突こうなど！」
　接触寸前、メタトロンが振り落とした白い羽が暁へ降り注ぐ。
　肌を裂かれる痛みを覚えながらも、臆さず一直線に迫り、
「こちとらディアボロスだからね。救済も断罪もないんだよ！」
　白翼の乙女の顔面めがけてデーモンパンチを叩きこんだ！
　殴られた勢いでフラリと体勢を崩すメタトロンへ、飛び回っていたネリリも、次の魔矢を番えて狙いをつける。
「よーく狙って……絶対にっ、外さないんだから！」
　自分達の行いはよく解っている。
　クロノヴェーダに奪われた世界を取り戻す、その為に戦っているのだから！




　ネリリとの問答による大天使の言葉に、激昂するディアボロスは一切の容赦なく攻撃を続ける。
　その中でも特に怒りを覚えていたグレン・ゲンジ（狂刃のスレイヤー・g01052）が吼え猛る。
「お前らが言う罪ってのは、お前らに逆らう事だろうがよ！　打算しかねえ奴らに、俺の怒りを斬られる訳にはいかねえ！」
「ホントさ、天使ってのはみんなそんな感じかよ？」
　眉立・人鳥（鳥好き兄ちゃん・g02854）もネメシス形態に姿を変え、左手に魔力糸を、右手に氷晶剣を握る。
「黙りなさい！　品川区の秩序を乱そうとする無法者めが！」
　吐き捨てるように罵倒するメタトロンめがけ、グレンと人鳥は飛翔する勢いで突撃……頭上より白き翼が降り注ぐ。
「確か完全貫通だったか？　全く胡散臭い能力してやがる」
「弾幕ったって、要はシューティングゲームみてーなモンだ！」
　羽の間に生じる、僅かな隙間から最適な移動経路を見抜いて、グレンは二段ジャンプで隙間に滑りこむ。

　人鳥もグレンの動きに倣いつつ、エアライドですり抜けた隙間を突破し、氷晶剣で斬りかかっていく。
「我が双剣の冴えに敵うとでも？」
『一般法則破壊』の影響によって、パラドクスの伴わない攻撃ではクロノヴェーダは傷つけられない……そう、“パラドクスを伴わない攻撃”では。
　鍔迫り合いから押し返されながらも、人鳥は左腕を差し出し……、
「解放、グラトニー・ディザイア」
　魔力糸を介して現れた化生に、メタトロンは肩口を喰らわれた。
　目を見開くメタトロンに向かって、人鳥はニヤリと口角を吊り上げ、
「さぁ、お前も俺の復讐の糧にしてやるぜ！」
　入れ替わるようにグレンが急降下、そのまま躍り出る！
「突撃だァ！　腹パンしてやるぜ！」
　竜翼を限界まで広げ、急襲するグレンのガントレットが唸りを上げながら、大天使の腹部に深く突き刺さった。
　大きく隙が生じると同時に、ディアボロス達の鉄拳が、魔拳が、鋭蹴が、魔矢が、召喚術がメタトロンに放たれ……力尽きた大天使は地上へと墜ちていく。
「へっ、大天使なんざ敵じゃねえ！」
　グレンの勝利宣言によって、今回の事件は幕引きとなった。

最終結果:成功
完成日	2021年09月17日