中央区築地市場の調査

 攻略旅団からの提案により、中央区築地市場を調査します。
 現在、ディアボロスは、台東区、文京区、江戸川区の攻略を行っている為、この調査では、非戦闘に限定した調査を行います。
 なんらかの理由で、敵に捕捉され戦闘になるような状況になった場合は、速やかに撤退して帰還してください。

祈りの代価~築地市場調査依頼(作者 坂本ピエロギ
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●奇跡の宮殿
 TOKYO隣接8区の調査により、中央区の築地市場に謎の巨大施設が確認された。
 厳かな空気を帯びた宮殿型の建物。大天使の手によって築かれたこの場所は、しかし神を祀るためのものではない。住民の信仰心を収奪し、代価として食料を下賜する配給機関――それこそが、復讐者たちが掴んだ宮殿の正体だった。
「どうか御力を、大天使様」「我等の命をお守り下さい」
 西暦2014年、4月某日。築地市場には、今日も祈りを捧げに集まる人々の姿が絶えない。
 宮殿の入口に列を為し、大天使へ救いの言葉を唱える住民たちは、年齢も性別もまばらである。若い少女、年老いた男性、牧師や神父のような出で立ちの者たち。ある者は台車を引いて、ある者は背嚢を担ぎ――そんな彼らへ時折、宮殿を警備する大天使たちはそっと手を振る。陶器のように傷ひとつなく冷たい笑顔を、その顔に浮かべながら。
『ようこそ。皆さんは私たち大天使に選ばれた、信仰の厚い人たちです』
『信仰心が強いほど、沢山の恵みが授かりますよ。ほら、あれを御覧なさい』
 大天使が指さした先、宮殿から出て来るのは抱えきれないほどの食料を抱えた住民たちの姿。
 それを見て手を合わせる人々へ大天使は言う。お前たちも、彼らの信仰心に負けぬようにと。
『さあ――皆さんも、中で祈りを捧げましょうね』
「はい、喜んで!」「妻と子供の為にも、頑張ってお祈りします……!」
 従順な家畜を飼育するため、大天使がもたらす偽りの奇跡。その正体を、この地に生きる人々は疑うことすらしない。
 今までも、これからも。人々の信仰が絶えぬ限り、宮殿はこの地に在り続けるのだ――。

●築地調査作戦
「みなさん、お疲れ様です! 築地市場の一件はもう聞きましたか?」
 新宿駅のホームに響く、快活な挨拶。発車準備を終えたパラドクストレインを背に、涯辺・こより(人間のガジェッティア・g03387)は集合した復讐者たちへ説明を始めた。
「実は攻略旅団からの提案で、中央区の築地市場を追加調査することが決まったんです!」
 かつて世界中から海の幸が集まった巨大市場は、TOKYOエゼキエル戦争では宮殿型の巨大施設に改造されている。
 住民の信仰心で食料を生産する配給拠点――それが中央区の第二次調査で判明した情報だ。
「まず、今回の作戦では、注意点がふたつあります」
 ひとつは、現地では非戦闘の調査以外は行えないこと。ひとつは、調査可能な範囲が築地市場のエリアに限られることだ。
 ちなみに築地市場は浜離宮恩賜庭園の東側にある一帯であり、北東側にある『築地場外市場』は調査エリアに含まれない。加えて、警戒が厳しい区域――宮殿内への潜入等も不可となるので注意して欲しいと、こよりは告げる。
「現在は文京区・台東区・江戸川区で攻略が進行中です。今回の調査はあくまで限定的な調査だと思って下さい」
 攻略対象に含まれない中央区は強い排斥力に包まれており、調査活動中も常に襲撃のリスクに晒される。敵との戦闘が発生しそうなときは迷わず撤退するよう付け加え、こよりは詳細な説明を開始した。

「今回、みなさんにお願いする目的はふたつ。築地市場の映像収集と、宮殿を訪れた一般人への聞きこみです!」
 まずは映像収集について。こちらはスマホやカメラ等の機材を持ちこんで行う。宮殿や辺り一帯の様子を外部から撮影、記録できれば成功だ。持ち帰ったデータは新宿島の技術者たちが解析を行い、今後の攻略に活用されるだろう。
 ただし築地市場はそれなりに広く、周辺には警戒役の大天使たちも配置されている。市場の全域を撮影することは困難だと思った方が良いだろう。重要と思しき箇所をピンポイントで探る――そうした調査の方が得られる情報は多いはずだ。無論、潜伏場所や調査方法など、敵に怪しまれない工夫も忘れてはならない。
「次に、一般人との接触ですね。彼らと接触して会話することでも、新しい情報が得られると思います! ただ……」
 こよりが言葉を濁して曰く、神殿に出入りする住民との接触には細心の注意が必要だという。
「彼らは、大天使への信仰心がとても篤い人たちです。具体的には……疑わしいと見れば、家族や恋人でも大天使への告発を躊躇わないくらいには。ですから、友達催眠やプラチナチケットの力を借りても、不用意な発言をすれば一発で怪しまれると思って下さい。大天使を崇める彼らへ、いかに自然な応対が出来るか……それが成否を分けるカギになるハズですっ!」
 ふたつの調査目標のうち、住民の聞きこみを達成できれば作戦は成功だ。ここで有力な情報を得ておけば、今後、中央区の攻略を行う時にも大きな助けとなるだろう。ひいては、大天使サンダルフォン――同区の支配者を撃破する道筋を、切り開く嚆矢になり得るかもしれない。

「中央区は、隣接三区を奪還されたことで殆ど孤立状態にあるようです。現在攻略中の三区のどれかをクリアして、次に攻略する対象の区としては、正直とっても有力だと思いますっ!」
 今回の作戦で得られた情報は、攻略においても大きな助けとなるだろう。
 とはいえ、攻略開始に時間が経ちすぎれば、戦況もまた変わるもの。そうなれば、今回の情報が不発に終わる可能性もゼロではないが――その心配が杞憂に過ぎないことを、こよりは確信していた。どんなに困難な戦いも、どんなに恐ろしい強敵も、復讐者たちは力を尽くして乗り越えて来たのだから。
「さあ出発しましょう、みなさん。奪われた歴史を奪還するためにも……どうか、確実な達成をお願いしますねっ!」
 信頼を込めた眼差しを向けて、一礼するこより。
 発車時刻の到来を告げるように、パラドクストレインの警笛が鳴り響いた。



 調査中に、なんらかの理由でクロノヴェーダと戦闘になった場合、調査を切り上げてすぐさま撤退してください。
 リプレイで、クロノヴェーダが攻撃してくるような結果となった場合、以後は、この選択肢のリプレイ以外は執筆されることが無くなります。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。



特殊ルール 【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、シナリオは成功で完結する。
👑1


 高性能の撮影機器を持ち込んで、敵に見つからないように遠くから撮影を行ないましょう。
 どのような機材で、どのような角度から、どのように隠れて撮影するかが重要となるでしょう。
 撮影された動画については、後日、最終人類史の技術者などで詳しい解析を行ない、中央区に侵攻を開始した場合の作戦行動に役立つ情報を取りまとめてくれます。
 撮影時に、敵に発見されそうになった場合は、即時撤退してください。
 撤退が間に合わず、敵に攻撃をされた場合は、調査は強制終了となります。



特殊ルール この選択肢には、特殊ルールはありません。
👑3 🔵​🔵​🔴​

→クリア済み選択肢の詳細を見る


●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【友達催眠】
2
周囲の一般人を、誰にでも友人のように接する性格に変化させる。効果LVが高いほど、昔からの大切な友達であるように行動する。
【プラチナチケット】
1
周囲の一般人が、ディアボロスを関係者であるかのように扱うようになる。効果LVが高い程、重要な関係者のように扱われる。
【使い魔使役】
1
周囲が、ディアボロスが「効果LV×1体」の通常の動物を使い魔にして操れる世界に変わる。使い魔が見聞きした内容を知り、指示を出す事もできる。

効果2

【能力値アップ】LV1 / 【ダメージアップ】LV1 / 【アクティベイト】LV2

●マスターより

坂本ピエロギ
TOKYOエゼキエル戦争、中央区のシナリオをお送りします。
改造された築地市場に向かい、情報収集を行って下さい。

本シナリオは②・③の同時進行となります。執筆の優先順位は②>③です。
進行状況はMSページで随時更新を行いますので、併せてご確認いただけると幸いです。

●選択肢の詳細
①:調査を途中で切り上げ、現場から撤退します(※)。
②:市場周辺を撮影し、映像情報を収集します。旅団選択肢から外れる区域は調査できませんので、ご注意ください。
③:市場に出入りする一般人と接触し、聞きこみを行います。

※「敵に発見されて襲撃を受けた」、又は「調査途中で参加者全員が撤退を希望した」場合を除き、①は執筆されません。

●補足
1.本シナリオでは、少規模~中規模人数での描写を予定しています。
 必要成功数が想定数を大幅に超過した場合、MS都合によりプレイングをお返しする場合がございます。
 予めご了承ください。

2.技能はパラドクスや作戦行動の演出としてのみ利用可能です。
 諸判定を有利にする目的での利用は出来ませんので、ご注意ください。

それでは、皆様のご参加をお待ちしています。
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このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


百鬼・運命
アドリブ絡み◎

心情
「さて実家の日本橋は気になるが…先にこの築地市場宮殿は制圧しないと大天使への信仰が増していろいろとまずそうだ」

行動
事前に築地市場の見取り図を入手し、他の参加者とも共有しておこう

現地では近くの下水道に隠れ、使い魔使役した鳥に超小型カメラを装着して撮影だ。狼谷さんとデータリンクしたり、長月さん達と場所がダブらないよう注意しないとな。

第一目的は宮殿への進入路発見
給水管があるなら排水口や給水口もあるだろう。人間は無理でも狐変身すれば侵入できそうな場所はありそうだ。見取り図からあたりをつけて調べて行こう
第二目的は重要施設の発見
赤外線撮影や動いている給水管の集中等から何かわからないかな?


●潜入調査、再び
 パラドクストレインを下車し、気配を殺して進むこと暫し。
 荒廃した中央区、築地市場の外縁に百鬼・運命(人間のカースブレイド・g03078)は足を踏み入れた。
 依頼でここを訪れるのは二度目だが、それを懐かしむ余裕はない。物陰から凝視する先では、翼を背負った巡回警備が周囲を油断なく監視しているからだ。
(「見える範囲で五体。しかも全員が大天使か……面倒だな」)
 監視の眼は上空にも及んでいる。恐らく、ドローンの類は飛ばした瞬間に察知されるだろう。
 この厳戒態勢、以前より厳しいかも知れない――内心で舌を巻きながら、運命は傍らに連れた一羽のカラスを見下ろした。潜伏場所を探す最中、使い魔使役で手懐けたものだ。
「いいか。目立つ行動は避けて、危険を感じたらすぐ戻ってくるんだ」
 あらかじめ用意した超小型カメラを装着させ、運命は使い魔へ指示を与えた。
 最優先で探るのは宮殿内部への進入路。次に重要施設の有無。その為の撮影ポイントを、彼は宮殿外周部――特に、狐変身で入れそうな狭い隙間と、給排水管に集中させる。
「全域の撮影は困難だ、撮れる範囲で構わない。さあ行け!」
 そうして使い魔を放つと同時、運命は付近の下水管へと身を隠した。
 現地のカラス一羽程度なら、敵の眼も多少は誤魔化せるだろう。不測の事態にもすぐ動ける態勢で待機しながら、ふと彼は実家のある日本橋に思いを巡らせる。
(「果たして、向こうはどうなっているやら……まあ、まずは築地の制圧が最優先だな」)
 すぐ眼前には敵の拠点。そこへ手出しが出来ない状況は実にもどかしい――。
 物思いに耽ること暫し、彼を現実に引き戻したのは、使い魔がマンホールを叩く嘴の音だった。
(「よし、撮影が終わったようだ」)
 地上に出てカメラを懐に仕舞う運命。
 だが、次の瞬間――彼の耳が捉えたのは、前方で大天使たちが交わす会話だった。
『報告です。先程、妙な鳥が宮殿の周囲に見えたとの報告が!』
『了解。念のため、警戒を強化するよう仲間に伝えましょう!』
 こちら側の動きが気取られつつある。それを知った運命は、すぐさま離脱の準備を始めた。
(「カメラの映像は……よし、撮れているな。詳しい解析は新宿島の技術者に任せよう」)
 いまだ敵には発見されていないが、警戒が厳しくなるのは時間の問題。長居することは望ましくない。
 運命は音もなく身を翻し、急ぎ築地市場から離脱していくのだった。
成功🔵​🔵​🔴​
効果1【使い魔使役】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!

冰室・冷桜
ドンパチよかマシだけど、しくったら即通報とかめっちゃ緊張するわね……
ま、やれることはやりましょ

しくったら怪しまれるっても使わない理由はねーんで【友達催眠】を発動
たくさん食料を抱えている人を狙うわ
量=信仰心の篤さでしょうから詳しかったりするかも

おおー、すごいっすね
それだけ大天使様から施しを頂けるなんて、高い信仰心の証
素晴らしいっす

相手の信仰心の高さに感服しているみたいな感じでいくわ
きっと貴方の信仰心に大天使様も御喜び頂けているのでしょうねぇ、もしや高位の大天使様から直接施しを頂いたことなんかもあったり?
アタシももっと祈りを捧げて、お顔だけでも見ながら直接感謝と祈りを捧げてみたいですぅ、みたいな


荒田・誠司
アドリブなど歓迎

【心情】
さてとお仕事といきましょうか
信仰心が強いのか、かなり慎重にいかないとな

【行動】友達催眠、モブオーラ使用
機械の手足は長袖の服と手袋、長ズボン、大き目のブーツを着て隠す
服は綺麗でこれから祈りを捧げに行くように見える物を選ぶ

話しかけるのはたくさんの食料を持っている人
たくさんの食料をお恵みいただける程信仰心が篤いということだから、慎重に敬語で話しかける
そのためには大天使への賛美もする

聞くのは
・取り仕切っている天使の名前
・恵の内容(貰える物資の内訳の確認)

不穏な気配を感じたらすぐに逃げられるように準備もしておく


ネリリ・ラヴラン
天使達の所なら、一先ず住民さん達の命の危険は少なそうだし
焦らずじっくり探りたいね。

帽子や上着で種族特徴を隠すのは必須。
【プラチナチケット】も利用するわ。

宮殿から少し離れた場所が良いかな。
祈りを捧げて戻ってくる方に声をかけるよ。食料を持ってれば確実?

普段は親が行ってるけど、子供でも自分で恵みへの感謝をするよう言われ、脚を運んだ設定でいくよ。

【演技】を交え、深く感謝してる気持ちや、粗相があるとまずいって今更緊張してるのを伝えるよ。
で、実際に祈って来た方に、手順とかを聞いてみた感じ。
あとは実際に天使様を拝見できるのかとかも知りたいわ。何人くらいいて、話かけても良いのか、とかかな。

アドリブ等は歓迎だよ


●敬虔なる信徒たち
 運命の撤退から少し時間を遡った、築地市場の宮殿前。
「あっ、出て来たよ」
 宮殿の入口から出てきた住民の一団を指さして、ネリリ・ラヴラン(★クソザコちゃーむ★・g04086)は言った。
 下賜されたと思しき包みを手に住民が向かう先は、入口前にある更地。そこに留められた台車や車輛へ、彼らは持っていた包みを詰め込み始めた。取り出された物はすべて食料品ばかりで、住民たちが大天使の信徒であると分かる。
「これから街の方へ運ぶのかな。ひとりで食べるには、かなり多い量だけど」
「恐らくな。詳しい情報を少しでも聞き出せるといいんだが……」
 荒田・誠司(雑草・g00115)はそう言って、準備を整えた。
 信仰心が強い信徒との接触にあたり、怪しまれないための下準備は必須。清潔感のある衣服に機械の手足を隠し、その上で友達催眠とプラチナチケットの発動も忘れない。
「調査中は、何があるか分からない。警戒は怠らないようにしよう」
「うん。いつでも対応できるように、気を配っておくね」
 サキュバスの種族特徴を帽子や上着で隠し、頷くネリリ。その横では冰室・冷桜(ヒートビート・g00730)が大きな深呼吸をひとつ、意識を集中する。
(「ドンパチよかマシだけど、しくったら即通報とかめっちゃ緊張するわね……」)
 ちらと視線を向けた先、築地市場の周囲は大天使の警戒が今も絶えない。
 宮殿の入口付近は、怪しい行動を取らない限り問題なさそうだが、それとて何時まで続くかは不明だ。
「さ、ちゃっちゃと済ませますか。ここで悩んでても仕方ねーですし」
「うん。宮殿の情報、きっちり探りたいね」
 頷きを返すネリリを先頭に、三人は入口付近に集まる信徒たちのもとへ歩いて行った。
 信徒の顔ぶれは様々だ。若い男、中年の女、老人の夫婦……皆、下賜された食料品を忙しそうに積み込んでいる。
 ネリリはそんな中、一人の信徒に目を留めた。担いだリュックに荷物を詰め終え、休憩を取っている青年である。
「あの、少しいいですか?」
「おや、どうしました? 見かけない顔ですが、新しく『認められた』方でしょうか?」
 丁寧な演技口調のネリリに、青年は礼儀正しい態度で応じてきた。
 プラチナチケットと友達催眠の効果もあってか、今のところネリリたちを不審者と疑ってはいないようだ。
「今日、初めてここに来たんです。大天使様への恵みを感謝するように両親から言われて」
 用意しておいた事情を説明するネリリ。そんな彼女の言葉に、冷桜と誠司も丁寧な口調で続く。
「我々は付き添いで来ました。最近は何かと物騒ですから」
「そうですぅ。ほら、ディアボロスが襲って来たら危ないですし?」
「なるほど、事情は分かりました。大天使様への信心が篤いのは、とても良いことです」
 三人の言葉に、青年は鷹揚に頷きを返した。
 演技と残留効果を交えた働きかけが奏功してか、青年の警戒心は随分和らいだらしい。その証拠に、青年の口からこぼれたのは、まさにネリリたちが求める『宮殿に関わる情報』だった。
「ただ、ご存じとは思いますが――あの宮殿には、特別に許可された者でなければ入れません」
 そう言って男性は、あちこちで積み込みを行う信徒たちに視線を向ける。
「私を含めて、ここにいるのは人々を正しく教導できると大天使様に認められた者だけ。大天使様への信仰を正しく持てば、あなたたちも宮殿に入る許可をいただけるでしょう」
(「大天使への信仰、か。具体的なことまでは流石に教えて貰えんだろうな……」)
 もっとも、それが一般的な人間性から離れた内容であろうことは、誠司たちにも容易に想像できた。
 青年や信徒たちの狂信性――親兄弟さえ売り渡すことを厭わない、大天使を至上とする信心からも、それは明らかだ。
 この話題は深入りを避けた方が良い。そう判断した誠司は神妙な表情を演技でつくり、そっと目を伏せる。
「では、今日はここで祈りを捧げましょう。出来れば、宮殿にいらっしゃる一番偉い大天使様へ祈りたいのですが……」
「私も一緒にお祈りします。大天使の皆様は、いつも宮殿のどの辺りにいらっしゃいますか?」
 誠司とネリリの問いかけに、青年は微笑みで応じた。
「私の口からは言えません。でも大丈夫、正しい信仰心があれば多少の粗相は許して貰えますよ」
「はい。……ありがとうございました」
 青年の答えに、神妙な演技でネリリは頷いた。隠しているのか、あるいは彼らも情報を知らないのか――いずれにしても、現時点で手がかりを得ることは難しそうだ。
「本当に勉強になりますぅ。皆さんの大天使様への信仰心……凄いですぅ、尊敬しちゃいますぅ!」
 冷桜は沈黙の間を作らぬよう、すかさず青年へ賛辞を送りつつ、周囲の信徒へ観察の目を向けた。
 ここに集う者は、大天使にとって有益な手駒だ。そんな彼らが内地へ戻り、一人で消費するには多すぎる食料を抱えて行うことといえば――冷桜にも凡その想像はつく。
(「信仰心の足りない住民への布教活動。食料は、その道具ってところかしらね。……よく出来てるわ」)
 内心で呟いて、冷桜は築地市場の外に広がる光景へ視線を移した。
 荒れ果てて殺伐とした中央区の空気。この地に生きる住民の困窮ぶりを、それは雄弁に物語る。飢えて苦しむ人々へ救いの手を差し伸べる体で、大天使は今も人々の信仰心を奪い続けているのだ。
「では、我々もお暇しましょうか。皆様のお仕事を邪魔しても悪いですしね」
 誠司の言葉に、ネリリと冷桜もまた頷きを返した。
 そうして三人は築地の外へ踵を返しつつ、辺りの信徒たちへそれとなく観察の目を向ける。
(「持っているのは普通の食料品ばかり。怪しいものは特になさそうだが……」)
 積み込みの風景をそれとなく観察していた誠司は、程なくして妙な違和感を覚えた。
 食料の量が、信徒によって明らかに違うのだ。背嚢に収まる者もいれば、山積みの箱をトラックに詰め込む者もいる。
 信仰心の違いで片付けるには、その差はあまりに大きいが――そんな疑念を胸に、彼は信者の会話に耳を澄ませた。
「おや、随分と配給が少ないですね。今日は荷車ではないのですか?」
「ええ。実はこの前、配給先のご家族が亡くなって……」
 小型の台車を押しながら、無念そうに頭を振る信徒。それを聞いて誠司はようやく合点がいった。
 配給される食料の量は、信徒が世話をする人数で決まるのだ。
(「つまり沢山受け取っている人ほど、多くの住民を教化して……」)
(「それだけ多くの信仰を集めているってことだね」)
 頷きを返しながら、ネリリは信徒たちを眺める。
 家族や親族のために食料を受けた男性、友達グループの代表らしい若者、説法で配布すると思しき牧師めいた者……様々な住民が、己の立場で配給を受ける姿がそこにはあった。
 ――自分たちを苦しめる敵に気づかず、必死に祈りを捧げ続ける……やるせないね。
 中央区を奪還した暁には、彼らも大天使の信仰から解放されるのだろうか――帰途に就きつつ、思考に耽るネリリ。
 そんな彼女の背中で、ふいに冷桜が注意を促した。
(「外周の方で嫌な気配がするわね……警戒が来るかもしれねーです、気をつけて」)
(「撤退の頃合いみたいだね。戻ろうか」)
(「そうだな。別働隊の仲間も、そろそろ仕事を終えた頃だろう」)
 誠司の頷きを合図に、復讐者たちは築地市場を離脱していく。
 中央区の人々を搾取する大天使への怒りを、その胸に燃え上がらせながら――。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【友達催眠】LV2が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
効果2【アクティベイト】LV2が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!

最終結果:成功

完成日2022年04月11日