湖水地方と竜の花嫁

 氷のベディヴィア卿を撃破したディアボロスは、グレートブリテン島の湖水地方に上陸する事に成功しました。
 風光明媚な湖水地方は、富裕層の保養地として有名であり、ジェネラル級ドラゴン『氷将竜サグラモール』によって守護されているようです。

 湖水地方には、竜の花嫁の湖と呼ばれる湖が多く存在しており、イギリス各地から集められた『竜の花嫁』達が、最後の時を穏やかに迎える為に滞在する別荘地になっています。

 ドラゴンの生贄である『竜の花嫁』は、命を捧げることで竜鱗兵の『卵』を出現させるのです。
『竜の花嫁』となることは、幻想竜域キングアーサーでは非常に名誉とされており、花嫁の親族はそうして生まれた竜鱗兵を大切に扱うようです。

 別荘地では『竜の花嫁』を楽しませる為に、芸人や料理人などが常に募集されています。
 この芸人や料理人に紛れて『竜の花嫁』と接触して、情報を集めていきましょう。

花嫁に捧げる甘い誘惑(作者 秋山霧夏
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#幻想竜域キングアーサー  #湖水地方と竜の花嫁  #湖水地方 


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「おとーさん、おかーさん、おねいちゃんまだかな?」
 あくびをかみ殺しながら幼い少女が自分の手を握る男女を見あげる。
「もう少しじゃ無いのかしら」
 扉の方を観てそわそわしながら母親が答えた時だった。カチャリと音を立てて扉が開く。部屋に入ってきたドレス姿の女性を見て、幼い少女は両親の手を振り払って駆け寄り飛びついた。
「エレインおねいちゃん!」
「あら、イソード。だめよ、お行儀良くしなきゃ」
 エレインと呼ばれた竜の花嫁は少女を抱き上げて優しく微笑む。その様子を見て父親の涙腺が崩壊した。
「え、エレ~イン。き、キレイになって……」
「ほんとうに綺麗ね。まるでお姫様みたい」
 涙と鼻水を滂沱と流す夫の面倒を見ながら、母は娘を慈しむ。
「アグロ父さんとルト母さんに言われると、私も竜の花嫁として自信が持てるわ」
 微笑みながら言う娘にちりりと違和感を抱くルトだが、笑顔を崩さずに言う。
「竜の花嫁になった娘を祝うためにここまで来たのだけれど、その必要も無いくらいあなたは立派な花嫁よ」
 母親の言葉に照れくさそうに笑うエレインはふと気づいた様に辺りを見回す。
「あれ、兄さんは?」
「あの馬鹿は村に残ってるわ。エレインの残した牛はオレが守る! とかいっちゃってさ」
「ファータ! 来てくれたのね!」
 エレインは嬉しそうに両親の後ろから顔を出した痩身の少女に駆け寄りだきついた。
「大親友にして夢を同じにする私が来ない訳がないでしょ」
「だね。それでも凄くうれしいよ」
 照れくさそうにそっぽを向くファータにエレインは幸せそうな笑顔を向ける。
「で、エレイン。竜の花嫁辞めるって話はうまくいった? わたし達には……」
「え、なにいってんの? こんな名誉な事断るわけ無いわよ。ファータ、あなた旅の疲れがたまってるのね」
 何かを言いかけたファータの言葉を遮り、エレインがまくし立てる。信じられないモノを見た様子でファータが固まった。様子をうかがっていた母親が慌ててエレインに話しかけ、エレインのも元の朗らかな様子に戻る。

「エレイン様、衣装についての打ち合わせの時刻が……」
 しばらく家族で会話を楽しんでいた竜の花嫁は、使用人らしき者に声をかけられ我に返る。
「あ、わかりました。今行きます。ファータ、お母さん楽しんでいってね。この街には村なんかに無い凄い物が沢山あるわよ」
 抱えていた妹を母に渡すと竜の花嫁はバタバタと部屋を出て行く。
「イソードはちゃんとお母さんの言う事を聞くんだよ」
 姉と離れてぐずるイソードをあやすルトをぼんやりと眺めながらファータは振り払えない違和感を口にする。
「おかしいよね。エレインが牛の様子も村の事も聞かないなんて。それに『村には町にないものが沢山ある』が口癖のエレインが……」
 暗い顔でエレインの親友だった少女は呟く。
「竜の花嫁なんてとっとと辞めて村に戻ろう、って言うために来たのに言えなかった……何しに来たんだろう、私……」

●新宿駅グランドターミナルにて
「みんな、来てくれてありがとう。今度は湖畔の別荘街行きの列車が来たんだ」
 紅茶を注ぐついでに資料も渡しながらガクハ・シアレットは幻想竜域キングアーサーへのパラドクストレインの来訪を告げる。
「グレートブリテン島に上陸出来る様になったのは知ってるよね。詳しい経緯は資料に纏めておいたからイチゴのクランブルを食べながらでも読んどいてでね。今回は湖水地方に行って竜の花嫁に接触して欲しいんだ」
 イチゴのクランブル――薄切りのイチゴをレモンと砂糖でマリネし、ポロポロの生地を乗せてオーブンで焼いた物――を食べると、サクサクした生地を熱々のイチゴのジューシーさが包み込む。添えられたミルクアイスとのコントラストを楽しみながら資料をめくると今回の事件の説明や地理などが書いてあった。

 アイリッシュ海の戦いで、氷のベディヴィア卿を撃破した事で、ドラゴンの本拠地であるグレートブリテン島に上陸する事に成功した。
 上陸する場所は景勝地として有名な湖水地方で、『竜の花嫁の湖』と呼ばれる湖が多くある。その近くには竜の花嫁が命を捧げる前に、穏やかに満足して暮らせる別荘が建てられている。
 この別荘地には、竜の花嫁を楽しませる芸や料理の腕を持つものが、近隣の町から集められている。
「竜の花嫁の願いを叶えるべく、コンテストが行われている。それに潜入して勝ち、花嫁に接触して欲しい」
 湖沼地帯の町に潜入して、コンテストに勝ち抜く事で、竜の花嫁のいる別荘に招かれる。そこで竜の花嫁と接触することが出来れば、幻想竜域キングアーサーの中核に迫ることが出来るかもしれない。

 竜の花嫁は中規模の別荘街に滞在している。
「この竜の花嫁、名前はエレインって言うんだが、彼女はお菓子が大好きで何度か菓子コンテストが行われている」
 行きたかったぁと小さな声で時先案内人は呟く。
「優秀者と彼女の気に入る物を作った人が、彼女がいる別荘に呼ばれている。別荘では和やかな雰囲気でお茶会が開かれ、コンテストで作られたお菓子を竜の花嫁と共に食す事が出来る」
 参加したかったなぁとガクハはがっくりと肩を落とす。
「単純に竜の花嫁に捧げるにふさわしい豪華な菓子が優勝するみたいなんだが……それとは別にエレインが気に入るお菓子には幾つか条件があるらしい。実際に呼ばれた人が街で竜の花嫁公認って銘打って売ってるから調べてみるといいかも」
 私の分まで食べてきてと、と現地で流通している金貨、銀貨、銅貨をガクハはじゃらじゃらとディアボロス達に渡す。
「街には竜の花嫁特需を見込んで様々な製菓材料が売られている。それを買ってもいいし新宿島にある物を使ってもいい。とにかく豪華か、エレインが気に入るお菓子を作ってコンテストで認められて欲しい」
 竜の花嫁は洗脳されて、自分の命を捧げる事に疑問を全く持っていない。しかし、なんらかの切欠があれば、竜の花嫁として命を捧げる事に疑問を持たせることが出来るかもしれない。
 別荘には、竜の花嫁だけでなく家族や親しい知り合いも、竜の花嫁を祝福する為に集まっている。竜の花嫁に選ばれた事は名誉な事だと信じて疑っていないが、命を捧げて死んでしまう事に疑問を持っている者もいる。
 疑問を持っている人とうまく会話できれば、いろいろな話を聞くことが出来るだろう。
「集めた情報を生かして竜の花嫁の心を揺さぶって欲しい。エレインに竜の花嫁として命を捧げる事に疑問を持たせてあげて欲しいんだ」

 ガクハはぬるくなった紅茶を飲み干すと真剣な眼差しでディアボロス達を見つめる。
「街の外では多くのドラゴンが空を飛びながら地上を観察しているので、派手な動きは慎む必要があるだろう。だが、空からの監視で見つからない範囲であれば、かなり自由に動くことが出来る。巧く接触して、夢も何もかも塗りつぶされたエレインを救うチャンスにつなげて欲しい」
 深々と頭を下げガクハは願う。
「それでは皆様、希望に向けたよいフライトを!」

●湖畔の別荘街
 一晩中泣き明かした顔をどうにか整え、ファータは客間から玄関へ向かう。
「あら、ファータちゃんもお買い物?」
 玄関先でおめかししたイソードをつれたルトは娘の親友に笑いかける。
「ええ、このまま閉じこもっているのも癪ですし、街の様子を見てきます」
「ファータおねーちゃんも街に行くの? なら一緒に行こうよ。お父さんは二日酔いでうなってるし、エレインおねいちゃんはいそがしーっていけないんだって」
 イソードは頬を膨らませ口をへの字にする。
「エレインは竜の花嫁になるから忙しいのよ、邪魔しちゃ駄目よ」
「えーつまんないの」
 少しつらそうに話す母親の様子に気が付かずに、少女は足元の小石を蹴っ飛ばす。
「じゃあ代わりに私が一緒に街まで行こうか。街には大道芸人さんやお菓子の屋台が沢山あるんだって」
「わぁスゴい! お母さん、早く行こうよ」
 駆け出す少女を追ってルトとファータも慌てて駆け出す。向かう街は竜の花嫁の無聊を慰める為に栄え、その恩恵を受け誰もが幸せそうだった。
 それが、生け贄に捧げられる少女を大切に思う人達にとって、ひどく苛立たしかった。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【託されし願い】
3
周囲に、ディアボロスに願いを託した人々の現在の様子が映像として映し出される。「効果LV×1回」、願いの強さに応じて判定が有利になる。
【友達催眠】
1
周囲の一般人を、誰にでも友人のように接する性格に変化させる。効果LVが高いほど、昔からの大切な友達であるように行動する。
【活性治癒】
1
周囲が生命力溢れる世界に変わる。通常の生物の回復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」し、24時間内に回復する負傷は一瞬で完治するようになる。
【操作会得】
1
周囲の物品に、製作者の残留思念が宿り、ディアボロスの操作をサポートしてくれるようになる。効果LVが高い程、サポート効果が向上する。
【口福の伝道者】
1
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。
【おいしくなあれ】
3
周囲の食べ物の味が向上する。栄養などはそのまま。効果LVが高いほど美味しくなる。

効果2

【能力値アップ】LV1 / 【ダメージアップ】LV3 / 【凌駕率アップ】LV1 / 【アクティベイト】LV1 / 【リザレクション】LV3(最大) / 【ドレイン】LV1

●マスターより

秋山霧夏
秋山霧夏です。
今回は竜の花嫁となる少女の運命を変えてください。

今回の注意事項
戦闘を起こしたり、上空から見ても怪しすぎる行動を取るとドラゴンに見つかり排斥されます。

今回の進行順
③→②→①の順で執筆する予定です。
④に関してはプレイングが来て採用決定した時点での執筆になります。

今回の登場人物
エレイン 竜の花嫁。選ばれる前は働き者でお転婆な農家の少女でした。夢……大切な物……今は立派な竜の花嫁になりたい。
イソード 竜の花嫁の妹。天真爛漫で今ひとつ現状がわかっていません。お姉ちゃんっ子故に違和感を覚えている。
ファータ 竜の花嫁の親友。牛を愛し、村を盛り上げる夢を共にしている。友の変貌っぷりに驚きが隠せない。
アグロ 竜の花嫁の父。実直な牛飼い。花嫁に選ばれた動揺が激しすぎて泣いてばかりいる。
ルト 竜の花嫁の母。家事育児畑に村の相談役として活躍するしっかり者の強い母。娘の意思を尊重する。
兄 竜の花嫁の兄。牛の面倒を見る事を口実に留守番。今はエレインがいなくなって寂しがっている牛を慰めたり、時折涙ぐんで顔を舐められたりしている。

今回の選択肢
①竜の花嫁との接触(👑7)
 竜の花嫁とお茶会で接触します。コンテストで選ばれた人以外でも優秀者の友人などの理由で参加する事が出来ます。
②コンテストへの参加(👑7)
 お菓子コンテストに参加します。お菓子は完成した物を持ち込む形でコンテストは行われます。新宿島で作った物を持ち込み、現場で盛り付ける事になりそうです。後に①で竜の花嫁と食すので気持ちを込めて作ると説得のきっかけになるかもしれません
③街に潜入して情報を得る(👑5)
 街でコンテストなどについて聞き込みが出来ます。
④竜の花嫁の家族や恋人との接触(👑5)
 家族と親友は街やコンテスト会場などにいます。

それでは皆様の心のこもったプレイングをお待ちしております。
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このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


●湖畔の別荘街にて
 観光客に紛れて街に入ったディアボロス達は明るい雑踏を歩く。よそ者にも慣れているのか、街の人に話しかけると親切に街の見所などを教えてくれる。
「今竜の花嫁のコンクールに入賞した店は三店舗だって」
「近くの村から来た人が売っている『クルミと秘密のビスコンテ』と、雄牛の昼寝亭という酒場の『チーズラスク』か」
「町一番のお菓子屋のミモザ亭が『ルバーブとナッツのタルト』を出して豪華さで選ばれたんだね」
 手分けして向かうか、一度に向かうか。ディアボロス達は相談しながら街の中心へ向かっていった。
ポーリーン・フォレット
若いお嬢さんが命を捧げるなんてあり得ないわぁ
おばあちゃん、ちょーっとお節介を焼かせてもらうわね?
という事で私はミモザ亭に行ってみるわ

「こんにちは!おひとつ頂けるかしら?」愛想よく笑顔で購入するわ
そしてさっそく一口!
「まあ!美味しい!ルバーブのパイなら何度か食べたけど、タルトにしてもこんなに美味しいのね!ナッツの香ばしさも良く合うわ~!花嫁さんも大層気に入ったでしょうね!」
「花嫁さん、とっても素敵なお嬢さんみたいだけど、貴方はお会いしたことある?」
「私は花嫁さんを遠目に見ただけなんだけど、すっかりファンになっちゃって!差し支えない範囲でお話ししてくれない?」
年齢的に警戒され難いと嬉しいんだけど!


相原・相真
今回のコンテストは持ち込みでいいんですね
まだ料理は勉強中だから新宿島で作ってこれるのは助かるなぁ…
ともあれ、まずはしっかり情報収集からやらないと

俺の方はビスコンテとラスクを食べ比べて、
花嫁さんの好み探りといきましょう

秘密の、なんていうんだから何か隠し味でもあるんでしょうか?
しっかり味わって探ってみないと…
『何が選ばれた基準だったか』とか聞いてストレートに答えてもらえるんなら楽なんですけどね

お菓子の話と合わせて、
お茶会の際に花嫁さんに会えたか、
どんな方だったかとかも聞いてみます


●ミモザ亭のルバーブとナッツのタルト
 小さいながらも賑やかな街には特に騒がしい一角がある。昔からあったお菓子屋を中心に、花嫁特需を狙ってお菓子屋が建ち並び、その需要を狙って商人がお菓子の材料を売りさばく。珍しい香辛料やドライフルーツが並ぶ露店を除きながら、ニコニコと小柄なおばあちゃんが歩く。足を止めたのは古びているが清潔に整えられた石壁のミモザ亭。鮮やかな黄色い花が書かれた看板の下に置かれた花嫁人形を見ながらポーリーン・フォレット(「おばあちゃん」と呼んで・g06164)は竜の花嫁に想いを巡らしながらドアをあける。
(「若いお嬢さんが命を捧げるなんてやっぱりあり得ないわぁ。おばあちゃん、ちょーっとお節介を焼かせてもらうわね?」)
「こんにちは! 竜の花嫁に捧げるタルトをおひとつ頂けるかしら?」
「いらっしゃいませマダム。こちらで召し上がりになりますか」
「ええ、お願いするわね」
 ポーリーンは店の中庭が見えるテラスへ通される。驕奢な椅子にエスコートされるとすぐにハーブティがサーブされる。
「こちらが生ルバーブと三種のナッツのミモザタルト、クリーム添えになります」
 薄手の皿に載せられた一切れのタルト、瑞々しいルバーブの上に格子になる様にパイ生地が置かれ綺麗な焼き色を見せている。その上に小さな花型に切られた黄色い生地でミモザの花を描いている。
 見た目にも楽しいタルトをさくりと口に含むとルバーブの甘酸っぱいジュースが口いっぱいに弾ける。何度かかみしめるとヘーゼルナッツのカリッとした歯ごたえと共にナッツのまろやかさと香ばしさが豊かに広がる。
「まあ! 美味しい!」
 愛嬌のある笑顔をポーリーンが向けると、店員もうれしそうに笑う。
「ルバーブのパイなら何度か食べたけど、タルトにしてもこんなに美味しいのね! ナッツの香ばしさも良く合うわ~! 花嫁さんも大層気に入ったでしょうね!」
「はい、お褒めの言葉を頂きましたわ。特にクリームと一緒に食べるのを大層お気にいられて」
 進められるままに一緒にタルトを食べると、クリームの濃厚な脂肪分が酸味を包み込み、いくらでも食べられそうだ。
「褒められたって事は、貴方は花嫁さんにお会いしたことあるのかしら?」
「コンテストの後のお茶会に、パティシエの夫と共に招かれましたの」
「あら、良いわね。私は花嫁さんを遠目に見ただけなんだけど、すっかりファンになっちゃって!」
「ええ、快活な笑顔が素敵な方ですよね」
 ポーリーンのにこやかな態度と警戒されない優しい話し方に気を許したのか店員の口も軽い。
「最近は花嫁らしいおしとやかな人との噂ですが、わたくし達が会った時には村の産業をもり立てるのが夢と熱心に語っていらっしゃいました」
 クリームの入った銀食器を持ち上げ誇らしげな表情になる。
「このクリームも作り方を詳しく尋ねられて、村で作れないか思案していらっしゃいましたよ」
 花嫁に絶賛された事を思いだし店員は嬉しそうに笑う。
「それがきっかけでコンテストに花嫁が気に入るお菓子部門が出来たぐらいですから」


●雄牛の昼寝亭の『チーズラスク』と近隣の『クルミと秘密のビスコンテ』
 そんな表通りから離れたごちゃごちゃした下町を相原・相真(人間のガジェッティア・g01549)はぶらぶら歩くと、花嫁人形と『第二回竜の花嫁コンテスト受賞』と書かれた看板が飾られていた。その横に『花嫁の家族も太鼓判!』と黒々と書かれた看板を立てる女性に声をかける。
「雄牛の昼寝亭って……」
「まいど! 観光のお客さんかい? 今日はコンテスト入賞店のほとんどが材料不足や過労で休んでて遠くまで来てくれたのにわるいねぇ。その分うちのラスクたっぷり買っていっておくれ!」
 相真の言葉を喰い気味に雄牛の昼寝亭の女将はまくし立てると酒場の扉を開ける。そこには酒場らしさの全くないラスク販売店があった。
「大好評でね。おかげで酒場やる暇も無いんだ。さっきなんて花嫁の母親と娘も来てね『村で牛や畑の面倒を見てくれている人達にお土産』ってたっぷり買っていってくれたのよ。看板増やしたしまた忙しくなりそうだわ」
 女将さんは豪快に笑う。相真がラスクを注文すると在庫を出しに女将は裏に引っ込む。
「ちょっと時間かかりそうだな。これ、試食だ」
 マスターはチーズを削る作業の手を止め、割れたラスクを相真に渡す。ラスクをかじるとコリッと小気味よい音が鳴り、何種類ものチーズの香りが鼻腔をくすぐる。
「酒場でつまみで出してたんだが、かみさんが甘くないラスクも菓子だってコンテストに出してな」
 塩気の効いた歯ごたえの良いラスクは良い酒のあてになりそうだ。酒を嗜む友人の顔を思い出し相真はお土産に持って帰ろうか思案する。
「お茶会の際に花嫁さんに会えたんですか」
「竜の花嫁様か。最初はぼんやりした普通のお嬢さんっぽい、おとなしい人だと思った。けど、チーズの話をし出したらかみさんと盛り上がってな」
 遠い眼をするマスターは後ろに置いてある大きな丸い塊を指さす。
「ほら、あのチーズは花嫁のお勧めで仕入れたんだが……ラスクに合うんだ」
「じゃあチーズを使った事が選ばれた基準だった?」
「オレもそう思ったんだが、使ってないモノが次のコンテストで選ばれてるんだよな」

 袋を抱え相真は人混みを歩く。チーズを使っていない『クルミと秘密のビスコンテ』の屋台は、観光客の多い湖沿いの船着き場近くにあった。手編みのレースで飾られた花嫁人形と、『三回のコンテストでエラばれました』と拙い字で書いた看板が並んでいる。看板には『花嫁のしんゆうも!』と炭片で書き加えてある。
「あれ、バターの匂いがする」
 この時代では珍しいバターの香りに首を捻ると、売り子の少女が目を丸くした。
「お客様、よくわかりましたね。この『秘密』の正体はバターなんです!」
 田舎っぽい朴訥とした少女は匂いだけで気づかれたのは初めてですと眼を輝かせる。
「私の住む村は牛が多くて、余ったバターをビスコンテに練り込んだんです! って、お客様にいきなり話す事じゃ無いですよね……」
 赤くなったり青くなったり落ち着かない少女の肩をもう一人の売り子がぽんと叩き交代する。
「いらっしゃいませ。ごめんなさいね、わたし達田舎者で礼儀が無くって」
「気にしないで大丈夫ですよ」
 相真に言われ売り子はほっと胸をなで下ろす。貴族も多い街では気苦労も多いのだろう。
「そう言って頂けるとありがたいです。あの子ちょっと気合いが入り過ぎちゃって」
 注文された数を手早く袋に入れていく。
「秘密の、なんていうんだから何か隠し味でもあるのか? と思ったらバターなんですね」
「この辺りではあまりバターが普及して無くて、敬遠されたから……」
 最初の少女が熱の入った様子で話に割って入る。
「最初はクルミとバターのビスコンテって名前で売ってたの。でも、お茶会でバターに慣れない方が多くて売れないと相談したら、バターを『秘密』にしたら良いって教えてくださったの。『一度食べたらバターが好きになるわよ』っておっしゃられて」
 夢見心地で幸せそうなオーラを漂わせる。
「こんなに売れるのはエレイン様の助けがあったからです」
「竜の花嫁はどんな方でしたか?」 
「おっとりして柔らかな物腰、優雅なお茶を飲む姿は百合の様。わたし達にも優しくって竜の花嫁の鏡の様なかたですわ……本当の事を言うともっとバターの話をしたかったです。そこまで興味無かったみたいで」

●豪華で希少な材料を使ったお菓子と乳製品をたっぷり使ったお菓子
 ポーリーンと相真は街の外れで合流すると情報を交換する。
「やっぱり乳製品の使用が基準みたいですね」
「私もそれで間違いないと思うわ」
 ポーリーンと相真はビスコンテをサクサク食べながら結論づける。二度焼いたを意味するビスコンテは通常かなり堅いが、このビスコンテはバターを入れた事で食べやすい堅さになっている。焼き菓子特有の甘さとバターが合わさった香りは濃厚ながら、時々口に当たるクルミが良いアクセントになる。あっという間に一袋開け、今度はラスクをかじりながら話を進める。
 
「もう一つ気になるのは花嫁の様子ね」
「実際にあった人達の話や街の噂に違和感があります」
 聞いた話を時系列順に並べると花嫁の変わりようが見て取れる。
「活発なお嬢さんだったみたいよね」
「それがぼんやり、おしとやかって……」
 竜の花嫁が洗脳されているのは本当の様だ。
「花嫁の家族も近所にいるみたいだし、話を聞くのもありかもしれませんね」
 看板に新しく書き足されたばかりの文字を思い出しながら相真は手についた粉を払う。
「お節介を焼くためにもコンテストに勝ち上がらないといけないわね」
「持ち込みでいいんですね。まだ料理は勉強中だから新宿島で作ってこれるのは助かるなぁ」
 コンテストへ向けてどんなお菓子を作るか、悩みながらディアボロス達は竜の花嫁の運命を変えるために立ち上がった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【活性治癒】LV1が発生!
【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!

桃代・萩一郎
■心情
さて、話を聞くに大分、洗脳かな?進んでるみたいだね、
味は記憶に深く繋がるそうだしそっちからアプローチかな
■準備
流れの料理人として参加するとして、コンテスト用に用意するのに、チーズと紅茶のクッキー、レアチーズタルト、ヨーグムースには黒スグリのソースを添えて、牛を思わせる意匠や模様に仕上げて、メニューを絞るのにお願いしてみよう
■接触
花嫁さんの村の方と言うのは貴方達かな?
良ければ村の話しを聞かせてもらいたいんだ、
僕は故郷を思わせる味、というのを目指していてね、メニューを絞れなくてね、良ければ試食をお願いしてもいいかな?後、牛の顔も本物に近づけたいから人相や村の事も良ければ聞かせて貰えないかな?


●街外れの湖畔の遊歩道にて
 山の様な荷物を湖畔の遊歩道に作り付けのテーブルに置き、竜の花嫁の母親のルトは一休みする。しかし、娘のイソードは退屈なのか一人で街に戻ろうとする。慌てて追いかけるルトの背後で荷物が崩れるが、巨体をひょいと屈め地面に落ちかけた荷物をキャッチする。ぐらつく荷物を支えながら、娘を抱えながら頭を下げる母親に桃代・萩一郎(口福もふもふキムンカムイ・g02703)はにこやかに応対する。荷物を纏めるのを手伝いながら世間話をすると、最初は知らない人相手に緊張感があった二人も打ち解けていった。
「そういえば花嫁さんの村の方と言うのは貴方達かな?」
「そうだよ! おっきいおにいちゃん、よくわかったね」
 母親が止める間も無くイソードは自慢げに胸を反らす。
「はなよめの妹のイソードだよ!」
「ええっと……花嫁の母のルトと申します」
 一瞬逡巡した様子を見せるが、ルトも名を名乗る。
「それは良かった。僕はコンテストにでるんだけど良ければ試食をお願いしてもいいかな?」
 萩一郎は次々にお菓子をテーブルの上に置く。チーズと紅茶のクッキー、レアチーズタルト、ヨーグムースはすべて牛の意匠や模様が形取られている。
「こんなのおねいちゃん絶対きにいるにきまってるよ!」
 眼をキラキラ輝かせながら叫ぶイソードは、クッキーを口に勢い余って放り込むと蕩けそうな笑顔を見せる。
「牛の顔も本物に近づけたいから人相を教えてくれないかな」
「もっちろん!」
 どのお菓子にどの仔が合うか楽しそうに考えるイソードと反対に、ルトは沈んだ顔で手を着けない。
「どうして私達にこんな事を?」
 心底不思議そうなルトに照れくさそうに笑って、萩一郎はイソードに言われるままにムースにソースで牛の斑点を着ける。
「僕は故郷を思わせる味、というのを目指していてね」
 その言葉に母親は探る様に萩一郎の顔を見る。ルトの眼差しをまっすぐに受けながら萩一郎は続ける。
「ハレの日って言うお祝いを良い物にしたくてね。味は記憶に深く繋がるそうだし」
 驚いた顔を慌てて伏せて、ルトは迷う様にチーズタルトを手に取る。さくりとした生地に守られたレアチーズのさわやかな酸味が迷いを打ち消してくれる様だった。ルトは決意する、竜の花嫁個人の事を考えてくれて菓子作りの腕のある彼になら託せそうだと。
「だったら、この村でつくったチーズをどうぞ」
 ルトは拳二つ分ぐらいのハードチーズを手提げから出す。うちの村の特産品なのとルトは晴れやかに笑う。
「その代わり三つお願いがあります」
 真面目な表情でルトは頼み込む。
「コンテストに出る人の中であなたの様に花嫁個人の事を思ってくれている人がいるなら、その人にも分けてあげてください」
 エレインに届く様にと願いを込めて。
「コンテストで選ばれたら『花嫁の村のチーズ』と宣伝してください」
 あちこちに売り込んだけど今ひとつなので箔をつけたい、と。母は商売上手でもあるらしい。
「最期の一つは……おかわりください!」
 いつの間にか萩一郎が差し出したお菓子は完食されていた。
「あ、おかーさんずるーい! わたしも!」
 キラキラした眼で親子そろって見上げられて萩一郎は柔らかく笑いながら、おかわりを取り出した。
 小さなお茶会と化した湖畔で和やかに村の話が語られる。 
 ちなみにメニューを絞る話もしたが、
「どれでもだいじょうぶ!」
「美味しすぎて絞れません」
 すべてに太鼓判を押されるだけで終わってしまった。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【おいしくなあれ】LV1が発生!
効果2【リザレクション】LV1が発生!

●パラドクストレイン内
 花嫁の家族に聞いた話を簡潔にディアボロス達は纏める。
 山近くの村で山間の広大な牧場が自慢。普通の農村だが、自慢の牛乳を使ってエレインを中心に若者が乳製品などを積極的に売り出している事。
『村でのエレインの事はファータの方が詳しいわね』
 まるで姉妹みたいに仲が良いからとルトは嬉しそうに話していた。
『』家だとね、おねえちゃんおてんばなんだよ』
 牛の世話を積極的にしていた、迷い込んだ獣を追っ払ったなど、お転婆を通り過ぎたエレインの活発振りが聞き取れた。

 一方で、もらった少し固めのチーズを薄切りにすると口に含む。爽やかなミルクの甘みと仄かな塩みが口いっぱいに広がる。お菓子に混ぜ込んでも飾りにしても美味しそうだ。
「うちの村でつくったチーズです。街で売り込もうと思って沢山持ってきていますから遠慮無くどうぞ」
 笑って手渡されたそれをどう生かすか、それとも別の方向から挑戦するか、ディアボロスはチーズを片手に悩み込む。

●湖畔から街へ
「あれ、とくさんひんじゃ無くて、おねえちゃんがつくったチーズだよね。なんであげたの?」
「あら、これから特産品になるのよ。それに見せてもエレイン反応しないでしょ。だったらコンテスト越しに食べさせてあげようと思って」
「最近おねえちゃん、変だよね。牛おいてきたっていったら絶対おこるから、さきにとびついてごまかそーとしたのに、ぜんぜん牛のこときかないんだよ。おかしいよ」
「そうよね。だから味と記憶はつながるって事に賭けて見たくて」
 不思議そうな顔をするイソードの頭を撫でながらルトはふわりと微笑む。
「私はいつでも娘達の味方、そういうことよ」
 様子の変わってしまった娘にチーズが届く様に、優しい青年のコンテストでの活躍を祈った
●春風そよぐベンチにて
 ビスコンテを売っていた屋台からほど近い場所で、ファータはぼんやりとベンチに座っていた。手にしたビスコンテをさくりと囓ると暗い表情が少しだけ笑顔になる。
「でも、これだったらうちの村でも作れるよ……」
 街に出てもエレインが心変わりした原因は見つからない。このまま彼女は竜の花嫁になってしまうのか、止める方法が見当たらない。陰鬱な気持ちで下を向くファータの前に誰かが立ち止まり声をかけた。
相原・相真
エレインさんのご家族からは話が聞けたようですし、
俺は友達から話を聞いてみますか

街の中でファータさんに接触
「俺もコンテストに参加しようと思っているんですが、
よければ竜の花嫁さんについてお話を聞かせていただけませんか?」
といった感じ
村にいた頃の彼女がどんな人だったのか、
好きなことや夢など色々聞いてみたいです
せっかくなら彼女がどんな人なのかちゃんと知って、
彼女に喜んでもらえる料理を作りたいですから

あとは街で聞いた話と合わせてエレインさんの変化についても聞いておきたいです
ファータさんがどんな気持ちでいるかなど聞ければ、
エレインさんの説得材料にできるかもしれませんしね


「エレインさんのお友達の方ですよね」
 相原・相真(人間のガジェッティア・g01549)が声をかけるとファータはのろのろと顔を上げた。
「俺もコンテストに参加しようと思っているんですが、よければ竜の花嫁さんについてお話を聞かせていただけませんか?」
「そう……私で避ければ話すよ。でもどうして聞きたいの」
「せっかくなら花嫁がどんな人なのかちゃんと知って、彼女に喜んでもらえる料理を作りたいですから」
 相真の答えに嬉しそうに微笑むが、すぐにファータは暗い顔になり呟く。
「エレイン、村にいた頃と全然違うけど」

「エレインさんは何が好きですか?」
「牛。この前エレインが『私は牛と結婚する』って冗談言ったら、みんな信じて逆に焦ってたね」
 心ここにあらずの様相でぽつりぽつりとファータは空を仰ぐ。
「後は甘い物。蜂の巣取って追いかけられて、エレインが川に飛び込むのが日常風景」
 洗濯大変なのよねとため息をつく。
「家族も。そんなに大きな村じゃ無いから全員が家族みたいで仲良いの。だからエレインが竜の花嫁に選ばれた時も、名誉だとわかっててもみんな悲しんで……こっそり逃がそうかって」
 そこまで話してファータは顔を青くする。
「今の冗談だからね! そのぐらい竜の花嫁が愛されてるってほのぼのエピソードだからね! 実行しなかったしエレインも『村に面倒かけたくない』って自分から嫁の話を聞きに行ったんだから!」
 余計な危ないことを喋ってしまったと相真の胸ぐらを掴まん勢いでまくし立てる。
「はい、冗談ですよね。人に話すつもりはありませんから」
 なんとかファータを落ち着かせると相真は話を変える。
「エレインさんの夢は何ですか」
「笑わないで聞いてくれる? エレインと私の夢、それは酪農で世界中を幸せにすることなの」
 真剣に聞いてくれる相真に、ファータの言葉に熱が入る。
「皆は無理だって言うけど、私達は酪農にはそれだけの可能性があると思うの」
 労働力にもなるし牛乳は栄養たっぷり、可愛いし食べてもおいしいしと眼を輝かせる。
「牛乳で外貨も稼げないかと思ったんだけどネックは保存性と重量ね。手始めに町おこしもかねて皆で加工を始めたんだけど……」
 現実を思い出した様にファータはうなだれる。
「エレイン、村の様子を話してもうなずくだけで……どうしてエレイン変わっちゃったのかな」
 親友が生け贄に選ばれすっかり様子も変わってしまった。事態の変容について行けずに神経もすり減ったのか少女は情緒不安定になっていた。ポロポロと泣き出すファータにハンカチを差し出すと真摯に語りかける。
「奪われた日常はきっと取り返せます」
 涙に濡れた瞳に映るのは、なんの変哲もない日々を取り返すために戦うディアボロスの姿。
「だからもし彼女が変化を願ったら、どうか彼女を支えてあげてください」
 きっとそれは貴女方にしか出来ないことですから、そう言って相真は無表情の顔にわずかに笑みを乗せる。
(「もしかしたら、彼も……」)
 竜の花嫁をエレインに戻してみせるというような、相真の言葉にファータは瞳を揺らす。ほんの僅かな可能性に賭けてみる。
「変わったと言えば、食事中とその後すぐはエレインに合わせてもらえないわ。それでね、食後にバッタリ会ったことがあるの」
 エレインが元に戻る切っ掛けになればと、諦めきれずに必死に言葉は紡がれる。
「聞かれたの『牛と村の皆は元気?』って。すぐに付き人がエレインを連れて行っちゃったからそれ以上話せなかったけど、その時だけは以前と変わらないエレインだったわ」
 その後も話は続いたが、概ねルトと話した事の裏付けにしかならなかった。ファータに礼を言い背を向けて歩き出す相真に、晴れやかな顔になったファータは宣言した。
「私、コンテストが終わったらエレインと話してみます。絶対に諦めませんから」
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【託されし願い】がLV2になった!
効果2【ダメージアップ】がLV2になった!

●間も無く開催、コンテスト
 コンテストの時間が迫り、会場には物見高い観客にあふれている。竜の花嫁の家族も見学していると噂が流れ、いつも以上に会場には人が詰めよせている。華やかな会場と対照的に、緊張感の漂う控え室では出場者達が最後の仕上げをしている。その中にディアボロス達の姿もあった。
 集めた情報と想いを込めて、新宿島で作り持ち込んだお菓子をテーブルに置く。調整をしている間にコンテストは始まり、壇上では最初の出場者が審査員にダメ出しを喰らって涙をのんだ。
 最終チェックとアピールポイントの確認をし、ディアボロスはお菓子を手にゆっくりと壇上に上がった。
相原・相真
話も聞けた、食材もいただけた
それじゃあコンテストに挑むとしましょうか
…受けた期待に応えられるよう、頑張らないとですね

お菓子はシンプルなスフレチーズケーキを用意
普通ならクリームチーズを使うようですが、
粉チーズを使うレシピもあったので桃代さんがもらったチーズを粉チーズにして使います
砂糖の代わりに蜂蜜を使ったりなどして、
出来るだけ村で食べていたような食材で作りたいです

チーズに関しても一応宣伝は忘れずに
でも先にチーズについて話すより、
合格してから「実はこのチーズは~」の方がチーズに拍が付きますかね?

ともあれまずは合格すること
預かった気持ちがちゃんと届くよう、
気合いを入れて料理に取り組みましょう


桃代・萩一郎
アドリブ絡み歓迎
◼️心情
何て言うか、逞しいご家族だったね。
三つ目のお願いは無事叶えたから、残りも頑張っていこう。

◼️コンテスト
貰ったチーズと聞いた話も共有したし。
後はコンテストを頑張るね。
悩んだけどレアチーズのタルトで行こう、
ついでに貰ったチーズで牛のアイシングクッキーも添えちゃうけど。

僕が出すのは、一口には大きいけど、切り分ける程ではない大きさのレアチーズのタルト。
大きいものだとせっかくの飾りも花嫁さんに届かないかもだからね。
薄く塗った黒すぐりのソースで牛を描き、アイシングクッキーを添えて、湖面に映る牛を演出、更に貰ったチーズを削って木蓮の花弁に見立てて上から振るいました題して『春に憂う君』


●コンテスト会場、壇上にて
「おっきいおにいちゃん、がんばれ~!」
 壇上に上がった桃代・萩一郎(口福もふもふキムンカムイ・g02703)に母親に抱えられたイソードが観客席からブンブンと手を振る。小さく手を振り返すと観客から歓声が上がる。
「……受けた期待に応えられるよう、頑張らないとですね」
 落ちかけたイソードを支えながら、何かを願うような強いまなざしを向けるファータにうなずき返し、相原・相真(人間のガジェッティア・g01549)は萩一郎にささやく。
「三つ目のお願いは無事叶えたから、残りも頑張っていこう」
 花嫁の家族と親友との会話を思いだし、思いを胸に抱きディアボロス達は審査に対峙する。

 審査員は二人。審査長と呼ばれる神経質そうなドラゴニアンの男性と、マダムと呼ばれる特別審査の大幅に通り越している着飾った女性。二人の前にドームカバーに覆われた試食用の皿を置き、布で目隠しされた『竜の花嫁に捧げる菓子』の横に立つ。二人はタイミングを合わせてカバーを取り去った。
 そのケーキを見て審査長は難しい顔のまま固まった。
「題して『春に憂う君』、いかがでしょうか」
 眼を見開いて凝視したままピクリとも動かなくなった彼に萩一郎が声をかける。
「君、いや貴殿。スケッチさせてもらっても良いかな」
「はい?」
 唐突な問いかけを聞き返そうとした返事を、肯定と捉えられたのか男はスケッチブックを取り出すと一心不乱に萩一郎のケーキを描き出す。
「出た! 審査長のスケッチだ!」
「審査長のお眼鏡にかなった素晴らしい造形の物しか描かれない、ってあれか!」
「今回の受賞はあいつで決まりだな」
 会場のボルテージが一気に高まりあちこちから歓声が沸く。
「ふっ、そうとも限らないさ」
「お前は第三回で落ちた菓子職人!」
「オレのパイはスケッチされた。だが、味で落とされた。あの女、見た目は派手だが味に関する事には頑固だぞ」
「おめぇが言うと説得力があるのか無いのか……」
「って、スケッチが三枚目に到達したぞ! 何枚書くつもりだ、あの審査員」
(「ふむこの牛のクッキー、アイシングそのものも見事だが表情が素晴らしい。仄かな哀愁が漂うリアルな牛とは……これは新しいぞ! ジャムで湖面に映る姿を、削りチーズで木蓮を表して……これは一幅の絵ではないか!」)
 タルトのスケッチも終わり、一息ついた審査長は改めてスフレチーズケーキの審査をしようとする。
(「偏りの無い見事な焼き色に、均等に整った高さ。シンプルながらも調和のとれた……!」)
 半場無意識にスケッチを始めた審査長は、指先で木炭をパキリと折り硬直する。
「アイツ今度は動かなくなたけど、なんなんだ」
 ざわめく会場で一人の老人が髭を撫でながら解説する。
「シンプルかつ整いすぎているゆえ、絵に描けないのじゃろうな」
「なんだこのじじぃ?」
「コイツ、いやこのお方は著名な画家にして、第二回コンテストに乱入してスケッチ合戦を繰り広げた問題児!」
「次やったら出禁じゃから今回は乱入できんがのぅ……しかしどのようなオーブンを使えばあのような美しい焼き色が出せるのか……」
 千年以上未来のオーブンと技術と本人の腕です。と、答えられる人間はここにはいない。
「ワシももっと近くで見たて描きたいもんじゃ」
「じいさんなら描けるのか?」
 会場の問いに老人は空を仰ぐ。
「……無理じゃな」
 妙にきっぱりとした言葉に会場全体がずっこけた。

「審査長は合格を出したようね。でも、わたくしは審査長程甘くありませんわよ」
 未だに固まる審査長と会場の騒ぎを片目に、特別審査の女性はたっぷりの贅肉を揺らして微笑む。
(「香りからすると二人ともチーズ使っているわね。味さえ良ければ花嫁ちゃん、好きそうね」)
 まずはタルトを手に取るとかぶりつく。
「大きさも女性に食べやすい手頃なサイズ! かといって小さすぎもせず満足感があるわぁ。タルトのフィリングも新しいわね、チーズ味なのにプルリととろけるわぁ。ちょっとしつこいかなと思わせておいてジャムで酸味をチーズで塩味をプラス、クッキーで食感の変化も加えて全体のバランスとしても十分なんだけど……」
 ジャムのついた指を洗い、萩一郎に微笑みかける。
「それ以上に優しさが、口福が染み渡るわ。あの子の無聊を慰めるのにぴったりなケーキ、合格よ」

 チェイサーを飲みきるとマダムは相真のスフレチーズケーキにナイフを入れる。
「あら、見た目より軽やかなのね。香りもいいわぁ」
 冗舌に観客に向けて実況しながらマダムはケーキを口に入る。次の瞬間、皿の上のケーキが、消えた。
「……お寄越しなさい」
「はい?」
 唐突な言葉に相真は首をかしげる。
「まだ試食用の残ってるでしょ。おかわりをお寄越しなさい!」
 再び会場が大きくどよめいた。
「マダムのおかわりが出たぞ!」
「あれが出たのか、しばらく止まらんぞ」
「あなたは! 最初のおかわりの犠牲者、第二回入賞のラスク職人!」
「違う雄牛の昼寝亭のマスター、だ。俺の時も在庫全部持ってかれてな……補充がすむまでかみさんが休ませてくれなくてな、死ぬかと思った」
 この街にいる女性は誰も彼も逞しいのだろうか。襟首をつかまん勢いでマダムに迫られ相真は助けを求めるように萩一郎を見るが、諦めろと言わんばかりに首を横に振られる。結局手持ちがないと、試食用の残りと審査長の分を献上することで解放してもらう。
「これこれ! このフワリ、いえシュワリとでも言うべき口触り! チーズの香りが広がるわぁ。甘みには春の百花蜜かしら、山間の花畑を思わせる爽やかさ。シンプルで洗練されているのに郷愁を誘う味わい深さ。絶対合格、これはエレインちゃんも大喜びよ!」

 二人の審査? は終わったが、再度タルトのスケッチに没頭する審査長を余所にマダムは首をかしげる。
「でも、不思議ね。全く違うお菓子なのに二つともおいしい共通点があったわぁ」
「実はこのケーキの味の決め手には、」
「花嫁の村のチーズが使われているんだよ」
 二人は懐から取り出したチーズを高く掲げると、会場が大きく沸く。
「花嫁ちゃんのためにチーズまで……なんて優しいの!」
「あのチーズどっかで見たような」
「最近美人な親子が売り込みに来てなかったっけ」
「それだ! 流通ルートの確保急げ!」
「わたしもたべてみたい~」
「ワシもじゃ!」
「あのチーズうちの店にあるぞ!」
 蜂の巣を突っついたのかの様に会場は大騒ぎになる。聞いたことがある声が混じってたのは気のせいだろう、多分。感謝の熱視線を探ると、ルトとファータとイソードが見事なサムズアップを決めていた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【操作会得】LV1が発生!
【おいしくなあれ】がLV2になった!
効果2【能力値アップ】LV1が発生!
【リザレクション】がLV2になった!

相原・相真
ケーキが好評でよかったよかった
…しかし、漫画にでも出てきそうな審査員さんでしたね…
ともあれ、せっかく好評だったんだし、少しやってみましょうか

コンテストがある程度落ち着いたところで
「花嫁さんのチーズを使った美味しい料理を紹介させてほしい」
とお願いしてみます
お菓子ではないのでコンテストの趣旨とは違うんですが、
まあデモンストレーションというか余興というか、
…ダメですかね?

作るのはチーズを活かしたピザ
問題なさそうなら他の人にバレないように隠れて【口福の伝道者】を使って見物の皆さんにもふるまいたいです
実際にエレインさんのチーズを使った料理でみんなが喜んでくれたら、
彼女を説得する一因になってくれるかな、と


「ケーキが好評でよかったよかった」
 相原・相真(人間のガジェッティア・g01549)は満足げに頷く。
(「……しかし、漫画にでも出てきそうな審査員さんですね」
 審査長のケーキをマダムがつまみ食いしようとして乱闘に発展している審査員席を見ながら、相真は生ぬるい笑みを浮かべる。観客席もヒートアップし、ある意味会場は盛り上がっているが、本来の趣旨とは大分外れている。頭を抱えているコンテストの運営にディアボロス達は提案してみる事にする。余興にチーズを使った料理を出しましょうか、と。
 一も二も無くその案に飛びついた運営に調理場を借り、相真が主体となって準備を始める。
 現代と比べて挽きも精製も甘いが香りの良い小麦粉に、時間を考えて新宿島から持ってきたベーキングパウダーを混ぜる。鼻歌を歌いながら発酵なしの生地を手の上でくるりと回すと魔法のように広がって、ピザ生地が完成する。チェダータイプのチーズと花嫁のチーズをちりばめ、竈の様子を確かめる。熱々に保たれた竈の輻射熱で額に汗を浮かべながら、生地を滑り込ませる。
 相真は真剣な眼差しで竈をのぞき込み均等に焼き色がつくように回転させ、最高の状態で取り出す。クリスピーな生地をカットすると相真はピースを持ち上げる。とろけたチーズが糸を引き、一口食べれば濃厚とミルキィの二つのチーズが暖かな幸せを奏でる。
 背後で見守っていた運営員に沢山ありますからと勧め、気がそれている間に相真はピザを量産する。

 熱々のピザを両手に再び現れた相真に視線が集中する。チーズと生地の香ばしい匂いは万人を虜にする。
「花嫁さんのチーズを使った美味しい料理を紹介させてほしい」
 二人の審査席の前に置かれたピザに釣られ、つかみ合いに発展した喧嘩を止めピザを食べる。
「チーズが……伸びる!!」
「熱っ~い! でも焼いた事でチーズの新たな面が出てるわね。しょっぱめのチーズが生乳感の強い花嫁のチーズを引き立ててるわぁ。パリパリの生地も良い感じねぇ」
 幸せそうに食べる審査員を見て、観客達がゴクリと生唾を飲む。
「まだまだありますから、皆さんも食べて下さい」
 ディアボロス達がピザを配り出す。会場が一瞬静まりかえり、今日一番の歓声がこだまする。
「伸びるチーズの美しさ! スケッチのためじゃ、そのままキープ!」
「じじぃ、無理言うなよ!」
「……うまい。これならうちの酒場でも出せるな」
 振る舞われた観客達も大いに湧いている。観客の中に審査の順番待ちをしていた菓子職人達が混ざっているのは……気のせいでは無いようだ。
「ピザのおにぃちゃんスゴイ!」
「他のチーズと合わせるのもありね。確か隣村の……」
「売り上げが楽しみだわ」
 花嫁の家族達も三者三様ながら大絶賛する。エレインさんのチーズを使った料理でみんなが喜んでくれた、それを見て相真は手応えを感じる。
大成功🔵​🔵​🔵​
効果1【口福の伝道者】LV1が発生!
効果2【凌駕率アップ】LV1が発生!

 会場がようやく落ち着いた所で審査長が重々しく告げる。
「今回のコンテストの結果は、『春に憂う君』とスフレチーズケーキの二点が両部門制覇、である」
「どっちがどの部門にふさわしいかで喧嘩しちゃったけど、両部門制覇にわたくしも文句ないわぁ」
「え、他の参加者は?」
「全員棄権した。皆燃えていたから次回が楽しみだ」
「あなた達に勝てないと思ったのね。ちなみに第五回リベンジ大会は五日後に開催よ」
 会場が勝者への賞賛の拍手と次回への期待で盛り上がる中、勝手に日程を決められた運営が卒倒した。
 
 こうして、第四回竜の花嫁に捧げるお菓子コンテストは伝説になった。街ではその晩から早速ピザが流行り、二人のお菓子をマネしようとして沢山のお菓子職人が苦悩したという。

●花嫁の滞在する屋敷へ
 会場から案内され、ディアボロス達は屋敷へ通される。後から仲間が来るかもしれないと伝えると、門番は快く対応を約束してくれた。
 お菓子を屋敷の者に預けると中庭に通らせる。水仙の黄色い花が咲き乱れる庭園の中央に小さなガゼボが建てられていた。驕奢な椅子に腰掛けていた少女は入賞者の二人を認めると、スカートをつまみ優雅に礼をする。
「初めまして、竜の花嫁に選ばれたエレインと申します」
 穏やかに笑うエレインは家族達に聞いた様子とあまりにも違って、ディアボロス達は顔を見合わせる。
「今日は皆様のお菓子が食べれるって楽しみにしていましたの」
 でも、目を輝かせ待ち望んでいた表情は淑女らしくない部分を見せる。やはり鍵はお菓子にありそうだ。彼女本来の性格を引き出すお菓子を食べたタイミングなら家族やディアボロス達の気持ちも届きそうだ。洗脳を解きエレインを説得するために何を話そうか、復讐者は頭をフル回転させる。
桃代・萩一郎
アドリブ絡み歓迎
エレインさんには花嫁と呼ばない
◼️心情
さて、ようやく僕らの戦場に上がれた感じかな?
まぁ言葉での説得は他の人にお任せになるけど、
僕なりに【託された願い】もあるし、まずは美味しいご飯で揺さぶって行こう。
◼️準備
春に憂う君、花嫁の目の前で仕上げしたいのと、用意して貰った食器だけで出来ることを熱心に兵士の人に説得して仕上げを花嫁の前でする事を了承して貰ったて完成していない状態で預けるよ
◼️実食
仕上げは東屋見たいな屋根がある所で、

エレインさんのための特別なお菓子、
ですが少々お待ちを。
アイシングクッキーを渡して、その間に仕上げ。
エレインさんが可愛がっていた今年初産を迎える予定の牛の憂いた姿


相原・相真
改めてお招きいただいたお礼を伝えたうえで席へ
ケーキについて改めて説明して食べてもらいましょう

「このケーキ、コンテストの時にもとても好評だったんです
他にもチーズを使った料理を作らせてもらったら、そちらもみんな喜んでくれて
きっと使わせてもらったチーズのおかげですね」

そんな風に『エレインさんのチーズがみんなに好評だった』ということを彼女に伝え、
彼女の中の気持ちを煽ってみます

そうして彼女が反応してきたら、
そこから本題を切り出していきます

「エレインさんの夢は酪農で世界中を幸せにすることだって聞きました
でも、このままでは貴女はそれを叶えることは出来なくなってしまう
…それで、貴女は本当に満足ですか?」


ポーリーン・フォレット
コンテストは大成功ね!二人ともカッコ良かったわぁ
おかげでお腹が空いてきちゃったけど、これからが正念場よね!
張り切って行ってみましょ

初めまして、エレインさん!
近くで見ると本当に素敵なレディね
でも村に居た頃はなかなかのお転婆さんだったんですって?

エレインさんのチーズ、今まで食べたことがないくらい美味しかったの
きっと愛情深く大切に育てられた健康な牛さんの牛乳が使われてるからなのね
今はお淑やかな貴女がお転婆さんだったのも、大切な牛さんを獣から守る必要があったからだったり…?
牛さん達もきっとそんな貴女のことが大好きなんでしょうね
勿論牛さんだけじゃなくて村の皆も貴女のことが大好きなのね
とっても素敵だわ


「改めてお招きいただきありがとうございます」
「エレインさんのための特別なお菓子、用意しました」
「今回は特に大騒ぎなコンテストだったと伺っております。二人の天才が現れたとも」
 改めて挨拶する相原・相真(人間のガジェッティア・g01549)と桃代・萩一郎(口福もふもふキムンカムイ・g02703)に竜の花嫁はそつの無い笑顔で応対する
「初めまして、エレインさん! 近くで見ると本当に素敵なレディね」
 コンテストを楽しんでいたポーリーン・フォレット(「おばあちゃん」と呼んで・g06164)も駆けつけて、花嫁の手を取る。
「でも村に居た頃は、なかなかのお転婆さんだったんですって?」
 柔和で愛嬌ある表情で迫られ竜の花嫁は思わず頷く。
「ええ、よく……え、いつ? 私は昔から竜の花嫁にふさわしい……」
 混乱が顔を出す花嫁の手を引きポーリーンは朗らかに笑う。
「コンテスト見ていたらお腹が空いてきちゃったわ。いただきましょう?」
「え? え、ええ、そうですね。皆様のお菓子を頂くの楽しみですわ」
「エレインさんのための特別なお菓子、ですが少々お待ちを」
「あら、美味しそうなチーズですね」
 仕上げをしようと萩一郎が取り出したチーズを見て花嫁は嬉しそうに笑う。ルトに聞いた通り、チーズ単体では特に反応しない。そんな花嫁にまずはクッキーを渡す。
 渡されたアイシングクッキーを何気なく見やり、花嫁は目を見開く。仕上げをしながら萩一郎が様子を窺うと、すっかり心奪われているようだ。クッキーにはエレインが可愛がっているもうすぐ初産を迎える予定の牛の憂いた姿が描かれていた。
「……様子、見に行かなきゃ、でも何処に」
 萩一郎の削るチーズの匂いに誘われるように、花嫁はぼんやりとした目で呟く。
 その間にも仕上げは済み、レアチーズタルトとスフレチーズケーキが各人の前にサーブされる。
 竜の花嫁はタルトにそっとクッキーをのせる。
「題して『春に憂う君』、だよ」
 憂いた牛が湖畔で一人佇む姿に、寂寥感を覚え花嫁は潤んだ目をそっと拭う。深く深呼吸すると平静を取り繕い笑顔を作る。
「それでは皆様、いただききましょう」
 竜の花嫁はまずはスフレチーズケーキを食べると目を輝かせる。
「これ、新しいわね! どうやって作るのかな。それにこのチーズ、食べた事無いのになじみがあるわ」
 興奮して崩れた口調で喋り、はっと気付いて居住まいを正す。竜の花嫁は照れくさそうにほほを赤く染める。
「ごめんなさい。私、チーズとお菓子が大好きでつい夢中になってしまって」
「このケーキ、コンテストの時にもとても好評だったんです。他にもチーズを使った料理を作らせてもらったら、そちらもみんな喜んでくれて」
「まあ。そちらも食べてみたかったですわ」
「きっと使わせてもらったチーズのおかげですね」
「……何ででしょう。凄く誇らしい気持ちになりましたわ」
 首を傾げながら花嫁は、今度はタルトのクッキーに遠い方を口にする。そこには木蓮に見立てたチーズがかかっている。
「不思議なフィリングですね。コクがあってとろけて美味しい! それにこのチーズ……」
 花嫁はケーキの上からチーズだけすくうとじっくり味わう。
「発酵も甘いし味もまだ磨けるのに、なんでこんなに心が騒ぐの?」
「このチーズはルトさんに託されたチーズなんです」
 竜の花嫁は驚きに目を見開く。
「それじゃあ、これは……」
「エレインさんの村で、エレインさんが作ったチーズだよ」
 ガタリと椅子を鳴らして竜の花嫁は立ち上がる。何かを思い出そうとするように頭を振る。それに合わせて萩一郎は託された願いを映し出す。回りに現れた家族と親友がエレインの無事を願う姿に手を伸ばし、カタリと触れたのは硬いクッキー。
「そっか、私は最初から竜の花嫁なんかじゃ無い。牛が大好きな、ただのエレインだ」
 懐かしそうに牛のクッキーをそっと撫で、竜の花嫁、いやエレインは憑き物が落ちたように微笑んだ。

「ありがとう。私を取り戻してくれて。このチーズを最期に食べれて嬉しいよ」
 改善点ファータに伝えないと、と言いながら陰りのある精一杯の笑顔をエレインは浮かべる。
「かあさんととうさん達にもきちんとお別れ言えるし、こんな美味しいお菓子も食べれた。甘みはハチミツかな、シロツメクサの香りがする。故郷の草原を思い出す」
 思い残す事は無いよ、とチーズケーキをパクつきながらエレインはうそぶく。
「エレインさんの夢は酪農で世界中を幸せにすることだって聞きました」
「うん、それが私とファータの夢だよ」
 真剣な目で相真が切り込むと、エレインは誇らしそうに笑う。
「でも、このままでは貴女はそれを叶えることは出来なくなってしまう」
「大丈夫! ファータやイソードが後を継いでくれる」
 なにかに言い聞かせるように朗らかに言うエレインに、小さく息を吸い込み相真はさらに核心に踏み込む。
「……それで、貴女は本当に満足ですか?」
 返事は直ぐには帰ってこなかった。俯くいたままエレインは歯を食いしばり、震える声でようやく答える。
「するわけ、無いよ! 生きて夢をみんなで追いかけたい!」
 机を強く叩き語気強く言うが、諦めたように力を抜き椅子に身を預ける。
「でも、私が逃げたら、村のみんなに迷惑がかかるって……ドラゴンから逃げきれるわけないよ……」
 エレインは顔を手で覆い隠した。その隙間からポタポタと涙が落ちる。

「エレインさんのチーズ、今まで食べたことがないくらい美味しかったの」
 優しげなポーリーンの言葉にエレインの肩がピクリと動く。
「きっと愛情深く大切に育てられた健康な牛さんの牛乳が使われてるからなのね」
「もちろんよ」
 しゃくり上げながらもキッパリとエレインは返事をする。
「牛さん達もきっとそんな貴女のことが大好きなんでしょうね。勿論牛さんだけじゃなくて村の皆も貴女のことが大好きなのよね」
「ルトさんはあなたにチーズを食べさせようと必死だったんだよ」
「ファータさんが言っていました、村にいる時あなたを逃がす計画があったと」
 萩一郎と相真の言葉にエレインは顔を上げる。
「お互い思い合って、とっても素敵だわ」
 ポーリーンの言葉にエレインは堰が切れたように、子供の様に泣き出す。
「帰りたい! ……みんなで、村で、竜の花嫁に選ばれる前みたいに!」
 泣きじゃくるエレインをポーリーンがあやす。エレインが大分落ち着いたのを見計らい萩一郎が声をかける。
「ありふれたハレの日を取り戻す、希望を捨てないで」
「失った日常を取り戻すために俺達は戦っている」
「若いお嬢さんが命を捧げるなんてあり得ないわぁ」
 驚いた表情でエレインは顔を上げる。疑うように縋るように顔を見るエレインに、三人は頼りがいのある笑顔で頷く。
「……そうだね、そっちの方が私らしいか」
 呟くとエレインは今度こそ晴れやかに笑って見せる。
「ありがとう。ここまで苦労も危険も顧みずに来てくれた人達」
 涙を乱暴に拭い強い意志を瞳に宿し、エレインはディアボロス達と約束する。
「私も最後まで希望を、夢を捨てない。抗ってみせるわ」

「あと、最後に……」
 お茶会も終わり去ろうとするディアボロス達をエレインは引き留める。
「お菓子の作り方、教えて! 秘密ならあかせる所まででいいから!」
 ああ、親子だな。とディアボロス達は顔を見合わせて、笑った。

●夕日さす別荘地にて
 こうしてディアボロス達は別荘を後にする。ドア越しにエレインに抱きつかれたファータが勢い余って押しつぶされたり、父親が大号泣している声が聞こえる。賑やかで楽しそうな声はディアボロス達が取り戻したものだ。エレインにイソードが飛び乗り、悲鳴を上げるファータを母親が助けようと慌てる音を聞きながら、ディアボロスは新宿島へ帰還した。
 再び合う、その日は近い。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【おいしくなあれ】がLV3になった!
【託されし願い】がLV3になった!
【友達催眠】LV1が発生!
効果2【リザレクション】がLV3(最大)になった!
【ダメージアップ】がLV3になった!
【アクティベイト】LV1が発生!

最終結果:成功

完成日2022年05月18日