妖精郷を焼き尽くす炎

 ディアボロスはフローラリア要塞防衛群を突破。フローラリア中枢への侵攻が可能になりました。
 早速、中枢への攻略を始めようとした時、攻略旅団の提案により警戒を強めていたドラゴン監視所からの急報が入ります。
 ドラゴンが制圧している方向の森が一斉に燃え上がったというのです。
 この火災は、非常に広範囲に渡っており、このままでは、妖精郷の全ての森を燃やし尽くしてしまうかもしれません。

 この火災は、妖精郷方面担当のジェネラル級ドラゴン『炎のベディヴィア卿』の指示によるものです。
『炎のベディヴィア卿』は、ラキ火山をディアボロスが奪還した影響で、本国から孤立した状況にあります。
 彼は、この原因が『フローラリアのなんらかの儀式によるもの』と考え、その妨害の為に、全ての森を全て焼き払うという暴挙に出たのです。

 妖精郷に住まう多くのエルフや人間達が、この火災で命を奪われようとしています。
 フローラリア中枢を攻略する好機ではありますが、この状況は放置できません。
 この火災を食い止めエルフ達を救出すると同時に、森を焼き払おうとしているドラゴン勢力のクロノヴェーダを撃破してください。

逃げるキノコと焼イチゴ(作者 そうすけ
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#幻想竜域キングアーサー  #妖精郷を焼き尽くす炎  #妖精郷  #炎のベディヴィア卿  #円卓の騎士 


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 地響きに似た音をたてて、森の木々が燃え盛っている。
 『炎のベディヴィア卿』の命を受けて乗り込んできたドラゴンたちを火元とする森林火災は、強い風にあおられ、たちまちのうちに妖精郷の森を業火で包み込んだ。
 おびただしい火の粉が絶えまなく降り注ぐ中を、『カレンデュラ』は『炎砕竜フロウ』たちを従えて、優雅な足取りで進む。
 時々、風は気まぐれに吹く向きを変え、焼ける木や草以外の匂いを侵略者たちのもとへ運んだ。
「ああ、なんて美味しそうな匂いなの」
 『カレンデュラ』はヒクヒクと鼻を動かして、焼けたイチゴの甘い、甘い香りを楽しんだ。時には香ばしく焼けたキノコ――『マイコニド』の匂いも。
「ひとつ頂こうかしら」
 スッと音が聞こえるような優雅さで森の中のイチゴ畑に腰を落とすと、体を傾けて一粒摘んだ。
 目の前にいる逃げ遅れたエルフたちの、そのなかでも特に双子のエルフの泣き声に耳を澄ませながら、ほんのりと焼けて熱いイチゴを口に運ぶ。
「美味しい」
 口角がゆっくりと上がっていく。
 双子を見つめる紫の瞳が残酷な光を帯びる。
「これ、あなたたちが丹精込めて育てたイチゴなのよね。だったら、あなたたちも食べなきゃ。そうね、まずは双子の女の子の……右の子から」
 『カレンデュラ』はクスクス笑いながらまたイチゴを一粒摘むと、手のひらに咲かせたイチゴの花に似た植物の上に乗せた。
「熱々を召し上がれ」
 ふう、と熱い吐息で飛ばされた花は、その上に乗せられたイチゴを燃やししながら、逃げ出した双子の片割れを追いかけていく。
 他のエルフたちもあわてて逃げ出した。もう一人の双子の片割れだけを残して。
「あなたには……幻影を見せる必要はなさそうね。可哀想に。あなたを捨てて逃げたのはお姉ちゃん、それとも妹? 薄情よね~」
 言葉でいたぶりながら、残された双子の片割れの周りに黄色い花を周囲にまき散らした。熱で花粉が渦巻く。
 遠くで悲鳴が上がった。
 『カレンデュラ』はぐったりとした双子の片割れを冷ややかな目で捉えながら、背後に控える炎砕竜たちに命令をくだした。
「あの子はまだ死んでいない。追いかけて。森と森の住人、すべて燃やし尽くすのよ」


「あれがユーカリレンズになって、ボクたちの役に立つなんてね」
 時先案内、月乃・光(White Rabbit・g03208)は感慨に浸った。フローラリアの隠し通路で自分が見つけたわけではないけれど。帰還したディアボロスたちから真っ先に話を聞いたのは、時先案内をした自分だ。
 パラドクストレインの到着を告げるアナウンスが流れると、光ははっとした。
 苦笑いし、「ぼうっとしちゃって、ごめん」と謝ってから、クリップボードの書類を繰る。
「以前発見した『ドラゴン勢力を監視する巨木』から、ドラゴン勢力が妖精郷の森を焼き払う暴挙に及んでいる事が確認された。フローラリアたちはどうでもいいけれど、妖精郷にいるエルフたちに多数の犠牲が出ている。フローラリア中枢を攻略する前だけど、至急、みんなの力を貸して欲しい」
 この大火災を行っているのは、ラキ火山をディアボロスが奪還した事で本国から孤立してしまった、妖精郷攻略担当のジェネラル級ドラゴン『炎のベディヴィア卿』であるらしい。
 炎のベディヴィア卿は、本国と孤立させられた原因を『フローラリアのなんらかの儀式によるもの』と誤解し、『妖精郷の森を焼き払えば、儀式を中断できるかもしれない』と考えたようだ。
「すでに多くの森が消失している。この火災を食い止めて、できるだけ多くのエルフを救出してくれ」

 続いて光は、ミッションの大まかな流れについて説明をはじめた。
「まず、パラドクストレインで大火災が起きている森の近くまで移動した後、エルフの救出とドラゴンの撃破に向かって欲しい。みんなが担当するエリアに取り残されているエルフは20名ほど。火傷したり煙を吸い込んだりして動けなくなっている者もいるから、移動させる手段を考えておいた方がいい」
 救助したエルフたちについては、火災に巻き込まれていない森まで逃がせば後はあとは自力で逃げてくれるだろう。
「それから、燃える森から逃げ出す『マイコニド』も確認されている。けど、そっちは余裕があったらでいいよ。撃破すれば、フローラリアの戦力を削れるけどね」
 無理はせず、エルフたちの救出を優先して欲しいと光はいう。
 それまで黙って説明を受けていたディアボロスから、消火方法について質問が上がった。
 妖精郷の森を焼いている炎は特殊なものか、というものだ。
「うん、いい質問だね。どうやらドラゴンたちは、『炎のベディヴィア卿』から炎の属性を付与されているらしい。森を焼く炎は、まるで意志があるように燃え広がっている。ドラゴンたちを撃破すれば、延焼分も含めて火は消えてくれるはずだ」
 森を焼くドラゴンは二種類確認されている。
 部隊を率いる『カレンデュラ』と『炎砕竜フロウ』6体だ。
「幸いなことに、炎はごく普通の方法でも消すことができる。完全に消さないと、またすぐに燃え始めてしまうけどね」
 パラドクスでも水でも消火器でも、消火さえきちんと行えば問題ない。
「消火器といえば、最終人類史の区内からたくさん提供してもらった。1人数本くらいは問題なく持ち込めるはずだ。ボクの後ろに積んでいる箱の中に入っているから、必要なら持っていっていいよ」
 ホームにパラトクストレインが到着し、ドアが開いた。

「大火災を阻止してドラゴン勢力に打撃を与えれば、予定通りフローラリアの中枢に挑む事もできる。加えて、妖精郷にあるドラゴンの根拠地を攻撃する事も可能になるかもしれない。すべてはみんなの頑張り次第だ。期待して帰りを待っているよ」


 あわわ、あわわ。
 腕いっぱいに抱え持つたイチゴをポロリ、ポロリと落としながら、『マイコニド』たちは炎の舌が伸びてこない道を探して逃げ惑う。
 本来なら、連れて逃げるべきは妖精郷の住民たちなのに。
 あちち、あちち。
 逃げる途中なのに、いい匂いにつられて道をそれる『マイコニド』たちがいる。イチゴの他にも中枢に運ぶものがあると慌てて行くと、そこにはいい色に焼けた仲間の死体が。
「うぎゃあああぁぁぁあ!」
 早く逃げよう、早く逃げよう。ドラゴンたちに追いつかれないうちに。
 早く逃げよう、早く逃げよう。ディアボロスたちがやってこないうちに。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【水源】
4
周囲に、清らかな川の流れを出現させる。この川からは、10秒間に「効果LVトン」の飲用可能な水をくみ上げる事が出来る。
【飛翔】
2
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【怪力無双】
1
周囲が、ディアボロスが怪力を発揮する世界に変わる。全力で力仕事をするならば「効果LV×3トン」までの物品を持ち上げる事が可能になる。
【一刀両断】
3
意志が刃として具現化する世界となり、ディアボロスが24時間に「効果LV×1回」だけ、建造物の薄い壁や扉などの斬りやすい部分を、一撃で切断できるようになる。
【フライトドローン】
1
最高時速「効果LV×20km」で、人間大の生物1体を乗せて飛べるドローンが多数出現する。ディアボロスは、ドローンの1つに簡単な命令を出せる。
【託されし願い】
2
周囲に、ディアボロスに願いを託した人々の現在の様子が映像として映し出される。「効果LV×1回」、願いの強さに応じて判定が有利になる。
【セルフクラフト】
1
周囲が、ディアボロスが、一辺が1mの「コンクリートの立方体」を最大「効果LV×1個」まで組み合わせた壁を出現させられる世界に変わる。
【エアライド】
1
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【トラップ生成】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の空間を、非殺傷性の罠が隠された罠地帯に変化させる。罠の種類は、自由に指定できる。
【光学迷彩】
1
隠れたディアボロスは発見困難という世界法則を発生させる。隠れたディアボロスが環境に合った迷彩模様で覆われ、発見される確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【植物活性】
1
周囲が、ディアボロスが指定した通常の植物が「効果LV×20倍」の速度で成長し、成長に光や水、栄養を必要としない世界に変わる。
【操作会得】
1
周囲の物品に、製作者の残留思念が宿り、ディアボロスの操作をサポートしてくれるようになる。効果LVが高い程、サポート効果が向上する。
【クリーニング】
1
周囲が清潔を望む世界となり、ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の建造物や物品が、自動的に洗浄殺菌され、清潔な状態になる。
【アイテムポケット】
1
周囲が、ディアボロスが2m×2m×2mまでの物体を収納できる「小さなポケット」を、「効果LV個」だけ所持できる世界に変わる。

効果2

【能力値アップ】LV1 / 【命中アップ】LV4 / 【ダメージアップ】LV2 / 【ガードアップ】LV5 / 【反撃アップ】LV1 / 【ラストリベンジ】LV3 / 【先行率アップ】LV2 / 【ドレイン】LV2 / 【ダブル】LV1

●マスターより

そうすけ
●リプレイについて
 ①炎の森からエルフを救えと②一般人を襲うトループス級『炎砕竜フロウ』がクリア後に、④アヴァタール級との決戦『カレンデュラ』を書きます。
 ③炎から逃げるフローラリア『マイコニド』については、クリアする必要はありません。


 よろしければご参加ください。
14

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


甲・牙刹
さて、とにもかくにも避難誘導と救助をしなければな。
幸い、俺は自分以外にもカブトンガーZと守牙、リジェという「人手」がある。できる限りのことはしてみよう。

消化器をカブトンガーZと守牙に積みまくっていざ消火活動。
まずはインスタントトーチカで土壁を作って簡易の避難所とし、それから消火活動に入る。
リジェには周辺警戒を行わせ、救助対象のエルフがいたら即座に避難所へ誘導させよう。
多くても10人くらいでエルフ達を後方へと再誘導。これもリジェに行わせ、俺は消火の範囲を広げ、パラドクスの土壁で延焼を防いでいく。
この一連の行動を消化器が無くなるまで続け、なくなったらエルフ達と共に退避する。何事も深追いは禁物だ。


九条・雅
正当な理由なしに思い違いで住処を焼き払い、住民の命を蹂躙する・・・こういう悪辣な所業は故郷の世界で良く見てきた。まさか異なる世界で同じような悪夢の風景を見るとはねえ。犠牲は出したくない。

アタシは消火活動に専念するか。持てるだけの消火器を持ち込んで、【地形の利用】【観察】【情報収集】で森の地形を把握しながら【ダッシュ】で森を駆け回りながら消火器で火を消していく。火の範囲が広すぎたら濁流の計で水流を生み出して一気に消火。

消火は任せてくれ。その間に住民を早く安全な場所に避難させるんだ!!


御門・雪月
【ヨアケ】
連携やアドリブ歓迎です!

先輩方と一緒にエルフの皆さんを救助しないと!

必要なのは迅速な救助だから、パラドクスで大型武装をパージしてスピードに特化します。

電脳ゴーグルで周囲を《情報収集》して逃げ遅れたエルフさん達に
「安心して下さい。助けに来ました!」
陽菜と手分けして抱えて、魔力の翼とウィングユニットで【飛翔】巧みな《空中戦》で木々を避けながら安全な場所まで避難させるよ!
「しっかり掴まってくださいね!」
火事の熱や飛翔による風からエルフさん達を守る為にエネルギーシールド《結界術》を展開するよ!
「大丈夫です。障壁を張っていますから、苦しくないでしょう?」
逃げ遅れた人がいなくなるまで続けます!


緋詠・琥兎
【ヨアケ】
色んな意味で罰当たりなことをしているな
(桜嬢を見つつ

まずは、これ以上被害が広がらないようにしないとな

エルフたちの避難は御門に任せよう
【水源】も活用してくれ


高速詠唱・連続魔法などで渦動の狂波による水球をエルフたちが来ている方向に次々に生み出し
狙銃槍の連撃狙撃で水球を破壊

燈杜美には風使いで弾けた水球の水を炎があるところに吹き飛ばしてもらう
を繰り返して消火活動に当たろう

この森の木々も生きているんだ
さぁ、謳おう
この森に牙を剥く焔から救い、護る為に

桜嬢、この件が終わったらイチゴの菓子を作るから
ヒートアップするのは程々にな?


アドリブ
連携歓迎


桜・姫恋
連携・アドリブ歓迎

【ヨアケ】

イチゴを燃やすなんて!!イチゴ好きとしては見逃せないわ!!

ヨアケの皆と協力して消火しながら助けれる人は助けないとね

【水源】にて水を生み出して消火活動を行いましょうか
火の手の多い所を中心に【飛翔】しながら【水源】にて水を出し流していく
消しながらエルフたちの救出作業も行っていく

避難に邪魔なものはパラドクス「幻桜開花」にて紅い桜の花を出現させ当てて壊していく

森を護る為に頑張るわよ!
後イチゴは燃やさないでこちらに寄越しなさい!!!勿体無いから!!


矢木・真輝
※連携・絡み歓迎
※技能・効果は積極使用
※のんびり口調モード

なんで……なんで、燃やすの!
エルフたち、何もして、ないのに……!
助け、なきゃ。
ひとりでも、多く。

僕は、体力には、自信がない。
だから、ほかの皆が動きやすいように、後方支援、ってやつ、かな?

風は、炎を広げるん、だったっけ?
煙、吸わないように、<呼吸法>考えて、動くよ。
煙だけなら、<風使い>『疾風迅瀬』で<吹き飛ばし>て、炎には、『水龍の通り道』。
※いずれも出力は都度調整

ある程度、収まったら、原因の、ドラゴン、叩きに、行かないと、ね。



 車窓を彩る炎の色が、御門・雪月(魔機使い・g02551)の絹糸のように細く艶やかな白髪をうす紅く染める。
「妖精郷の森が……燃えている」
 花の精の『陽菜』も雪月に寄せた体を細かく震わせた。
 横へ流れていく景色の中で、火のついた木々の枝が吹きあげられ、森のまだ燃えていない所に飛び火する。熱い煙が上昇して周りの空気が吸い込まれ、火災風がいたるところで発生していた。もとより吹いていた北風も依然として強く、窓ガラスに当ってはガタガタと揺らす。
(「先輩方と一緒にエルフの皆さんを救助しないと!」)
 なんとしてでもここで火を消し止めなくては、妖精郷は数時間で火の海になるだろう。
 桜・姫恋(苺姫・g03043)はドアの前に立ち、まだ停車しないのか、とこぶしを固く握りしめた。
「はやく止まって!」
 ドアの隙間から車内に流れ込んでくる臭いに、甘い匂いが混じっている。エルフたちが育てたイチゴが焼けているのだ。
「無駄にイチゴを燃やすなんて、許せない!!」
 大のイチゴ好きとして、クロノヴェーダの所業は許せない。 姫恋の怒りはどんどん高まっていく。
 緋詠・琥兎(歴史の侵略者処刑代行請負人・g00542)は、怒りに肩を震わせる友の姿を横に見ながら独りごちた。
(「色んな意味で罰当たりなことをしているな」)
 無論、クロノヴェーダのことである。
 自分たちから歴史を奪い改竄していることはもとより、勘違いで森を焼いて罪なき生き物たちを殺していることも、こうして我が友を怒らせていることも……。
 ふと、肩にそっと小さな手が置かれた。
 花の精の『燈杜美』だ。途端、肩に力が入っていたことを意識する。
 琥兎は細く息を吐きだした。
「桜嬢、この件が終わったらイチゴの菓子を作るから。ヒートアップするのは程々にな?」
 ん、と小さく答えが返ってきたものの、本当に解っているのか心許ない。
 白扇を広げてゆるく風を胸元に送りながら、琥兎はいざとなれば自分が二人を守らねば、と思った。
 九条・雅(赫焉のパシオン・g03417)は、膝に置いた箱を持って立ちあがった。箱の中には、新宿駅で時先案内人から譲り受けた消火器が幾つか入っている。
 雅は目蓋を伏せた。
 まさか、また、悪夢のような光景を目にすることになるとは。故郷の世界を焼いた炎と車外で燃え盛る炎が、目蓋の裏でひとつに重なる。
 鉄のきしむ悲鳴のような音が聞こえて、パラドクストレインのスピードが落ち始めた。
 目を開けて、きっ、と車窓の外を睨む。
「誰一人として、犠牲にしたくないねえ。あたしは消火に専念するよ。住民の避難と竜退治はみんなに任せた」
 雅の意を受けて、炎砕竜フロウ6体を討伐する3人が武器を手に立ちあがる。
 彼らが炎砕竜の進撃を阻んでいる間に、雅たち6人でエルフの避難と消火にあたるのだ。
 甲・牙刹(ムシキソグ・g03515)はクロノオブジェクト・カブトムシ型メカ兵器を起動した。大きさは小型犬ほどで、人をたくさん乗せて運ぶことはできないが消火器ならいくつか運ぶことができる。
「幸い、俺は自分以外にもこのカブトンガーZと守牙、それに――」
 牙刹は傍らに控える黒百合の精『リジェ』に顔を向けた。
「リジェという『人手』がある。できる限りのことはしてみよう」
 矢木・真輝(風を奏でる放浪者・g04665)は、封邪のお守りを手で挟み込んで全員の無事とすみやかな鎮火を願った。
 不思議なポーチにそっとお守りをしまい込む。
「僕は、体力には、自信がない。だから、ほかの皆が動きやすいように、後方支援、ってやつ、かな?」
 ドアが開くと同時に、黒煙と熱風が車内に吹き込んできた。ドアの近くにいた者たちが咳き込む。
 呼吸をコントロールしていた真輝は、真っ先にパラドクストレインを降りた。魔笛【夢幻】を懐から取り出し、車内を振り返る。
「煙を、吸わないように、ね。ディアボロスは、死なないけど、動きが鈍る、かもしれないから」
 言われなくても分っている、とバリアシステムを発動させたサイボーグ戦士が、やはり呼吸をコントロールしていたと思わしき男女とともに飛び出してきた。炎砕竜フロウ討伐チームだ。
「行くぞ」
 3人が燃え盛る森へ走って行く。
「アタシたちも行くよ。ほら、はやく」と雅。
「いま降りようと思っていたところ!」
 姫恋が、ぷうっ、と口元を覆った桜のヴェールを吹きあげながら飛び降りる。
 口と鼻を布で覆った牙刹たちが、手に消火器の入った箱を持って後に続く。
「おい、真輝。お前も荷卸しを手伝え」
 体力ないんだけど、という泣き言は、姫恋の膝蹴りに折られてしまった。


 雪月は電脳ゴーグルに表示される情報を頼りに『陽菜』に指示を出し、エルフたちを自分たちの元へ誘導した。
「安心して下さい。助けに来ました!」
 自力で走れる者たちに『陽菜』を付き添わせ、自分たちが来た道を姫恋が待つ『村』に向かって走らせる。そこはこの付近を焼いて回るクロノヴェーダを残らず撃破するまでの、とりあえず作った安全地帯だ。
 雪月は1人残された老エルフの前に膝を突いた。
 老人はまるで枯れ枝のようだった。小さな自分でも彼なら運んでいけると判断して、肩を担いでいた若いエルフに置いて逃げるよう言ったのだ。そのエルフも体の右半分に火傷を負っていたから。
『武装解除。ブースター、魔機解放!』
 カシュッという音とともに、魔導機械式ビームガトリングがバックパックから切り離され、バックパックの固定アームに細い溝が現れる。その溝から流氷色に光り輝く、翼状のエネルギーが飛び出した。
 老人を抱きあげる。
「僕の首にしっかり腕を巻きつけて、掴まってくださいね!」
 雪月は飛んだ。炎の熱を背に受けながら、先行する『陽菜』たちを追いかける。

 燻り、割れた樹皮からの間から薄く煙を滲ませ始めた木々の間を、『陽菜』に先導されたエルフたちが駆け抜けていく。
 『燈杜美』が奏でるバイオリンの音に合わせ、琥兎は白扇を舞わせる。
 渦動の狂波の謳を、火災の森に朗々と響かせた。
『―――瀞の水面 軋ますならば 狂おしきさざなみとなりて 鉄槌を下さん』
 幾つもの水球を出現させると、ぱちりと白扇を閉じた。狙銃槍に持ち替える。
「燈杜美、始めよう。この森に牙を剥く焔から救い、護る為に」
 普段はクロノヴェーダを倒すためのパラドクスも、使いようによっては炎を鎮めるための武器となる。
 琥兎は狙銃槍で次々と水球を突く。
 割れた水球から飛び出した水を『燈杜美』が風を吹かせて燃える木へ飛ばす。じゅっ、と音と白煙をたてて火が消える。
(「この森の木々も生きているんだ。できる限り助けてやりたい」)
 老人を抱えた雪月が通りすがり、声をかけてきた。
「ここはこの人で最後です。琥兎さんたちも早く『村』へ。姫恋さんが待っています」
「他のエルフたちは?」
「真輝さんたちに任せましょう」
 琥兎と『燈杜美』は息の合った動きで延焼を食い止めながら、少しずつ『村』に向かって後退していった。

『咲き乱れろ』
 姫恋の命を受けて、森を焼く炎よりも鮮やかな紅色の花びらが黒雲の下を舞う。
 桜花に当った木が、轟音をたてて1本、またⅠ本と倒れていった。
「ごめんね。エルフたちを守るためなの……あなたたちの犠牲は無駄にしないから」
 今ここに、ともに技を放つ二人の友はいない。だが、命を守ると決めた姫恋の心意気が、天より降り落とす桜の花びらにいつもと変わらぬ色とパワーを吹き込んでいた。多分にイチゴへの執着が含まれている気もするが。
 こうして広がった空白地帯と、『村』の周りに張り巡らせた溝で炎を防ぐのだ。雪月が戻ってくればエネルギーシールドが張れる。牙刹が作った土嚢とあわせて、火災風の熱からエルフと『村』を守ってくれるだろう。
 姫恋たちはパラドクストレインを離れてすぐ、森の中に小さな集落をみつけた。誰もいないこの『村』は、恐らくこの森で働くエルフたちのものだろう。その時点でまだ火の手は『村』には迫ってきておらず、姫恋がここを避難所にすると決めたのだ。
「私は残る。頑張って村の周りに空白地帯を作るよ。みんなは森へ。消火しながらエルフたちを連れてきて。あ、牙刹はちょっと手伝って。村を囲む溝? 掘って欲しいの」
 わかったと言って、牙刹はすぐに作業に取り掛かった。
 手早く溝――堀を作り、土嚢を積むと、あとを姫恋に任せて森に入っていった。
 姫恋は考える。
 エルフたちは火災が及んでいない森まで連れて行けばいい。あとは勝手に逃げて行く。時先案内人はそう言っていたが、問題は森林火災が収まった後のことだ。
 助かったはいいが、焼け跡に丸裸同然で残されたエルフたちは途方に暮れてしまうだろう。まだまだ寒いこの時期、ケガ人や病人に野宿は辛いはずだ、と。
「だから守らなきゃ。竈までなくなってしまったら、美味しいイチゴのお菓子も作れなくなっちゃうし」
 気がつくと、掘を越えるために渡された板の上を『陽菜』に導かれたエルフたちが渡っていた。
 老人を抱えて飛んできた雪月を見つけ、声をかける。
「琥兎と『燈杜美』は? それに雅たちも」
 雪月が答える前に、斜め下から琥兎の声がした。
「自分たちは無事だ。雅たちも他のエルフたちを連れて戻ってくる。あとは残留効果で堀に水を満たすだけだな」
 老人を降ろした雪月も加わり、三か所に別れて堀の底から水を湧きださせる。
 村の奥からくる足音を耳にして、姫恋は顔をあげた。
 大弓を手にしたエルフの少女が渡し板を走り抜けていく。
「あ、ちょっと。どこへ行くの?!」
 エルフの少女は姫恋の声に振り返ることなく、背中の矢筒を揺らしつつ、燃える森の中へ消えていった。


 赤黒く燃える森の中。梢が打ち鳴らすざわめきの音が大きくなる。一歩踏みしめるごとに撒き散らされる炎が肌を撫で、煙が視界を妨げる。
 雅は消火器のレバーを握り続けた。ホースから出る消火剤の粉が尽きると背中に手を回し、新しい消火器と取り替える。
「消火は任せてくれ。アンタはその間に住民を早く安全な場所に避難させるんだ!!」
「うん、わかった。助け、なきゃ、ね。ひとりでも、多く」
 真輝は煙を払う手を止めると、たったいま保護した野ウサギを懐へ入れた。
 震えている鹿の背に手をあてて安心させつつ、ケホケホと咳き込むエルフの一団に笑顔を向ける。
「今から、水龍を走らせて、熱くない、道を作る。皆、僕に、ついてきて。『村』に、戻ろう」
「ちっ、火の勢いが増した。早く行きな!!」
 真輝は返事の代わりに、パラドクスを発動させ、木々を焼く炎を水圧で吹き飛ばした。
「またあとで、ね」
「また後で」
 もう何本目になるだろう。
 真輝とともに逃げるエルフたちを横目に、雅は消火器を取り替えた。自分が持ってきた分はこれでお終い。牙刹のカブトンガーZが消火器を運んで来てくれるまで、これで持つだろうか……。
 北風と発生した火災風に煽られた炎の勢いは凄まじく、こうしてくい止めるのが精いっぱいだ。やはり火元のドラゴンたちを倒し切らねば、森を守ることはできないのか。
 ゴウ、という音をたてて炎が渦巻き、すぐ目の前に、天まで届くような太い火柱が立った。
 柘榴石のイヤリングが突風にあおられ、ギラリと赤い光を放つ。
 空になった消火器を捨て、愛用の護符を懐から取り出した。
「まったく。忌々しいったらありゃしない」
 内に滾る憤りを息に含ませて、護符に吹きかける。
『状況によっては、こういう技も必要なんだよね!!』
 雅が護符を挟んだ指を一振りするとたちまちのうちに水が迸り、激しい水流が迫りくる火柱をへし折り、消し止めた。
 ふう、とひと息吐いたところに、消火器が入った箱を背に乗せたカブトンガーZがやってきた。
「ありがたいねえ。助かるよ」
 続いて、牙刹と『リジュ』も木々の間から姿を現す。後ろからのそりのそりとついてきたのは、芋虫型の守牙だ。やはり背中に消火器を詰めた箱を背負っている。
 そろそろ消火器が尽きそうだという時点で、牙刹はカブトンガーZと守牙とともに、パラドクストレインが停車していた場所へ向かった。列車から降ろしておいた消火器の箱を取りに戻ったのだ。
「真輝は?」、と牙刹が問う。
 雅は守牙の後ろにも、小さな人影があることに気づいた。エルフの子だ。途中で出会って保護したのだろう。
「助けたエルフやらウサギやらをつれて、先に姫恋たちのところに戻ったよ。ついさっきね」
「そうか。入れ違いか」
 牙刹はカブトンガーZと守牙の背から箱を降ろすと、『リジュ』にエルフの子を連れて先に村に戻るよう頼んだ。
「待て。イチゴを持っていけ。イチゴはのどの痛みを和らげてくれる。焼けて熱くなっているが、水分も残っているしな」
「驚いた。ずいぶん余裕じゃないか、牙刹。途中でイチゴを摘んでくるなんてさ」
「怒るなよ。雅の分もちゃんとある。ほら」
 牙刹は『リジュ』にイチゴを詰めた箱を一つ持たせた。中に手を入れ、大粒のイチゴをひとつ取って、雅に投げる。
 焼けている、と言ったが、手に取るとほのかに温かい程度で、表面は艶やかな赤のまま。どこにも焦げたところはない。ここに戻ってくる途中、『村』の近くの畑で摘んできたのだろう。その後にエルフの子と出会ったか。
 イチゴを口に含むと、水分が飛んだ分だけ強くなった甘味と酸味が舌の上に広がった。
「美味しい。こりゃあ、姫恋が怒るはずさ。焼き捨てるなんてもったいないよ。クロノヴェーダっていうのは、ほんとうに野暮だねえ」
 牙刹も一粒、口に入れる。
「……途中、逃げるマイコニドの一団を見かけたよ。いっぱいイチゴを腕に抱えて、一目散に走っていた。フローラリアの拠点の中枢に向かっているのかもしれない」
「あとを追えばもしかして……かい? でも、そっちにかまけている暇はないよ」
「解っている」
 遠くであがったドラゴンの咆哮が、燃え盛る枝を震わせ、火の粉の雨を降らせた。
 どうやらこの近くで、先に森に入った3人のうちの誰かが炎砕竜フロウと戦っているようだ。
「俺たちも頑張ろう。できるだけ火を消し止めるんだ」

「あ、待って」
 真輝は咄嗟に腕を伸ばし、森の奥へ走って行くエルフの少女の腕を掴んだ。
 全身いたる所にやけどを負っている。ピンポイントで酷く焼けただれているところを見ると、火事の傷ではなさそうだ。
「離して!」
 激しい抵抗に腕ごと身体が揺さぶられ、懐のウサギが鳴き声をあげる。
 それでも手を離さないでいると、エルフの少女は持っていた大弓で真輝の頭を叩きだした。
「いてて。やめて、痛いよ。向こうには、ドラゴンたちがいる。一緒に、村に戻ろう」
「私は妹のところに戻らなきゃいけないの!」
「え?」
 そこへ『リジュ』が小さなエルフの子を連れてやって来た。
「あ、ネピお姉ちゃんだ!」
 泣きながら小さなエルフの子が膝に腕を回して抱きつくと、ネピは体から力を抜いた。真輝も手の力を抜く。
「その子が、妹?」
「違う。私は襲われて……妹を……」
 再び駆けだしたネピを、現れた雅と牙刹が止めた。
「お前には無理だ」
「後は任せな」
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【セルフクラフト】LV1が発生!
【水源】LV4が発生!
【飛翔】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV2が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【ラストリベンジ】LV3が発生!

リディル・ヴェント
今回も森林火災を止めなきゃ。
イチゴとかキノコは網の上で焼きなさいよっ!
アタシはドラゴン達を倒すわ!
リディルちゃんにまっかせなさい!
同じ戦場にいる復讐者達とは協力して戦うわ。

ラストサプライズで2体同時に衝撃波で攻撃よ。
炎砕竜フロウの攻撃は威力が高そうだから、【命中アップ】で攻撃成功率を上げて敵の攻撃力を抑え込みたい所ね。
敵の攻撃のレッドシンダーは、とにかくデカい石には当たらない様に注意ね、どれにも当たりたくないけど。《観察》しながら避けたり、《粉砕》を試みたりしてみようかしら。


ゼット・ノアール
「敵性存在…『炎砕竜フロウ』数体。被害拡大の阻止を開始する」

炎の加護か。森を焼く意思を消滅させねば被害は収まらないか
ならば他の者がエルフの救助に専念するために戦士は戦うのみ

雷速。早業で先行しトループス級を殲滅していく
アーゲンブリッツで走り去る

噴石はバリアと鎖で弾きながら動き回ることで的を絞らせない
スパイクウェブやディープハンドで動きを阻害し、他の援護をしていこう

「炎より早く動く。…イチゴもキノコも気にはなるが」
ふむ、腹が減ってきたな。エネルギー摂取に動くのもアリかもしれん

※アドリブ大歓迎です


マティアス・シュトローマー
酷い煙とにおい……。取り残されたエルフ達が気掛かりだけど、森に火を付けているドラゴンを何とかしないと

【忍び足】で身を隠しながら森を進む。敵を発見次第仲間に知らせ、連携して先手を取る

見付けた!……それじゃ遠慮なく
アイゼンハントを発動。狙うのは仲間の攻撃でダメージを受けている箇所か、急所の頭
まず【地形の利用】で木や倒木を足場に高く跳躍。【エアライド】で宙を蹴り、勢いそのまま【衝撃波】を伴う一撃をお見舞いするよ

やっぱりドラゴンなだけあって派手な技を持ってるなあ
反撃のレッドシンダーは【臨機応変】に躱すか、間に合わなければ銃で迎撃
隕石を撃ち落とすなんて中々出来ない経験だよな?



 ゼット・ノアール(群青の傭兵・g01952)に背中を追って、マティアス・シュトローマー(ザ・フール・g00097)はリディル・ヴェント(ゲットレディ・g00550)と共に炎の中を無我夢中で駆け抜ける。
(「酷い煙とにおい……」)
 呼吸法で有害物質の吸い込みをコントロールしているとはいえ、目に染みる煙や臭いはどうしようもない。
 途中、出会ったエルフたちは自分たちが通って来た安全なルートを教え、『村』へ逃げ込むように指示を出した。
 きゃっ、という悲鳴をあげて、リディルが立ち止まった。
 何かをドカドカ蹴りつけている。
「離して!」
 ゼットが戻ってきた。
「どうした?」
「焦げマイニドコよ。足を掴まれて……」
 こんにゃろぉ、と細身の刺突剣で焦げキノコを抉る鋭い突きを入れ、リディルはようやく『マイニドコ』の手から解放された。
 炎に焼かれて表面は黒くなってはいるが、肉の芯までは焦げていなかったらしい。
 ゼットが唸った。
「『炎砕竜フロウ』に攻撃されのが直接の死因か。この辺りの火は……やはり、森を焼く意思を消滅させねば被害は収まらないか」
「ということは、近くにいる? なら、ここからは慎重に進んだ方がよさそうだね」
 それにしても、とマティアスは視線をゆっくりあげる。
 焼キノコがたくさん落ちていた。すべて一定方向に頭を向けて倒れている。
 リディアはゴーグルをほんの少し持ち上げて、下から指を入れて涙をぬぐった。どうしても隙間から煙が入る。
「あっちの方向に何かあるのかな?」
「さあ。でも、調査は一度新宿に戻ってからだなにしよう」
 今度は忍び足のマティアスを先頭に、3人は燃える森の中を進んだ。


 炎を飲み込んで渦巻く黒煙の向こうで、低い唸り声がいくつもする。
 マティアスは足を止めて中腰になると、手を斜め後ろへ出して仲間たちを止めた。
「見付けた。3、4……全部ここにいるみたいだ」
「敵性存在……『炎砕竜フロウ』6体。被害拡大の阻止を開始する」
 突然、前方の炭化した大木が弾けて、ぱぁっと火の粉が飛んだ。
「散れ!」
 ゼットの掛け声と同時に、砲撃じみたドラゴンの咆哮が轟く。
 炎砕竜が黒煙を裂いて次々と飛び出してきた。
 身体から火をあげ、炎の尾を引いて、ディアボロスたちに突進する。
 リディルはとっさに身体を伏せた。燃える釣爪がすぐ上を通過し、危うく身体を引き裂かれそうになる。
「リディル、残りは頼んだ!」
「俺たちは場所を移す!」
 燃える木々に黒煙。全員同時に戦うには邪魔が多すぎる。
 果たして4体の炎砕竜は、2体ずつがそれぞれマティアスとゼットを追いかけて行く。
「了解。残りはリディルちゃんにまっかせなさい! 放火魔はきっちり倒す!」
 立ち上がったところで、火を纏う木と木の間からぬうっと竜の頭が突き出てきた。
 少し背の低い方の炎砕竜が、赤く毒々しい目蓋を持ち上げて、その下の邪悪な意思がこもる目でリディルを睨む。
「なによ、その目は。イチゴとかキノコは網の上で焼きなさいよっ!」
 再び風向きが変わった。散らされた黒煙が風によって再び集められ、リディアたちの間に目隠しを作る。
 このチャンスを逃す手はない。
「ここはやっぱり“エンタープライズ”の出番でしょ!」
 細身の刺突剣からグレートアックスに持ち替えた。
 武器を下段に構え、腰を深く落として力を溜める。熱風に炙られて、グレートアックスに施された青い装飾が波打つ。
 リディアは力強く踏み込むと同時に、エンタープライズを斜め下から炎砕竜の首を落とすべく勢いよく振り上げた。
「いっけぇぇぇい!」
 青い閃光が分厚い黒煙と炎と切り裂いて、炎砕竜の首を切り飛ばした。
 とたん、煮えたぎる血の塊を包括する巨大な噴石が、乾いた音をたてて枝をへし折りながらリディアの頭上に落ちてくる。
 右に左に、巧みにステップを踏んで交わしつつ、エンタープライズを振るって噴石を割った。
『ただの素振りだと思ったら……大間違いよっ!!』
 炎砕竜に向かってリディアは跳んだ。
 反撃をされる前に、全身の力を込めた縦斬りを炎砕竜の頭部に振り下ろした。


 火の粉が降りしきる真っ暗な森の中で炎砕竜をそれぞれで1体ずつ仕留め、上から落ちてくる反撃の噴石をかわしながら、2人はイチゴ畑の手前で合流した。
「大丈夫かい。サイボーグの体じゃこの熱さは辛いだろう?」
「炎より早く動けば体も熱くならない。それより1体逃げてこなかったか?」
 マティアスは首を横に振った。
「俺も残りを追いかけてここまで来たんだ……」
 焼けたイチゴの甘い香りと、ほどよく焼けたキノコの香ばしい香りがどこからか流れてきて木々の焼ける臭いと混ざりあい、2人は胸やけを起こしそうになった。
(「ふむ、腹が減ってきたな。エネルギー摂取に動くのもアリかもしれん」)
 殺気に気づいたのは2人同時だった。
 横から突っ込んできた炎砕竜の攻撃を、双方後ろへ飛んでかわす。
 すぐさま追撃にかかろうとしたところで、炎砕竜はすぐに森の中に引っ込んだ。竜を隠せるぐらい太い大木を盾にしている。
「しゃらくさい!」
 ゼットが投げた仕込み鎖が、大木を盾にしていた炎砕竜の右翼に絡みついた。そのまま力任せに引っ張る。
 突然、炎砕竜が甲高い声で鳴いた。
 ここへくる直前に仕込んでおいたスパイクウェブが、太ももと尻尾に食い込んだらしい。
「マティアス、いまだ!」
「それじゃ遠慮なく」
 マティアスは一気に間合いに踏み込むと、ナックルダスターをはめた拳を炎砕竜の喉元に撃ちこんだ。
 ――が。
 喉を突かれた炎砕竜は口から血と唾液をまき散らしながら、頭を下げてマティアスを噛もうとしてくる。
 なおも拳を押し込もうとしたとき、喉が大きく波打ちながら膨れ上がった。
 どっ、と音をたてて、炎砕竜の口から大量の熱い噴石が迸った。
 衝撃で凹んだ地面の底で、焼けた草が水蒸気を吹きあげる。辺りがほんのひとときだけ白くなった。
「マティアス!?」
「心配いらない。俺ならここだよ」
 マティアスは、さっきまで炎砕竜が盾にしていた大木へ飛んで噴石をかわし、三角飛びの要領でエアライドも使って炎砕竜の体の横へ回り込んでいた。
「やっぱりドラゴンなだけあって、派手な技を持ってるなあ」
 のんきな口調とは裏腹に、マティアスの拳は音速の壁を突き破り、炎砕竜の柔らかそうな横っ腹に向かって伸びていく。
 最初に衝撃波が空気を歪めながら広がり、続いて雷鳴のような音が響いて肉が燃えながら飛び散った。
『Leck mich am Arsch! ……なんてね』
「ふっ、やるな。俺も負けておれん」
 ゼットは平然と、背後から襲いかかってきた炎砕竜の鼻面に裏拳を叩き込んだ。
 炎砕竜はふらふらと頭を振りながら、一歩、二歩と下がる。
 ブーンと低く唸る電子音がして、ゼットの腕を青光りする電流が幾つも走った。ゆっくりと振り返る。
『雷速……勝負は一瞬だ』
 戦意を取り戻した炎砕竜が後ろ脚で立ち上がり、牙を剥く。
 高みから落とす角で身体を突き刺してやろうと上半身を倒したところで、前にいたはずのゼットの姿が消えた。
 稲妻のような閃光が脇を走り抜けていった。刹那、激痛が腹から背を貫く。
 どっと、燃える血とともに千切れた臓物が腹の穴から飛び出した。
 炎砕竜は断末魔とともに噴石も噴きだしていた。
 残心のゼットに天から襲い掛かる噴石を、マティアスが銃で狙い打って軌道を反らす。
 すべて落し切ったところで、森の中からリディアのおーい、という声が聞こえてきた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【一刀両断】LV1が発生!
【アイテムポケット】LV1が発生!
【エアライド】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!
【ガードアップ】がLV3になった!


 ネピはディアボロスたちに説得され、しぶしぶ村に戻って来ていた。
 村の周りに作られた堀の水で傷を洗い、布を当てる。
(「お願い。ピア、生きていて」)
 あちらこちらの家から甘い匂いが漂ってきた。ディアボロスたちが摘んだイチゴを使って、お菓子を作っているらしい。ピアも甘いものは大好きだが、いまは全然欲しくない、と思った。
 それどころか、もしもピアが殺されていたら、二度と甘いものは口にしないだろう。
 ネピは堀に渡された板の前で両膝をつき、ディアボロスたちが妹を連れ帰って来てくれるのを待つ。


 『カレンデュラ』は森を焼く炎の勢いが急スピードで衰えていくことに気づいた。
「信じられない。まさか、キノコごときに打ち負かされたというの? 6体もいて?」
 エルフたちが反撃に出たとしても、敵にはならないだろう。かといって、ただ逃げ惑うだけだったマイニドコ相手にやられたとも思えない。
「なにがあったというの? まさか、ディアボロスとかいう者たちが……」
 『カレンデュラ』は足元に横たわるエルフの少女を見た。
 そろそろ遊び飽きたので始末しようと思っていたのだが、もう少し先延ばしにしてもよさそうだ。
「立ちなさい」
 命じると、ボロボロになったエルフの少女がのろのろと身を起こした。
「あなたには盾になってもらうわ」

ぐったりとした双子の片割れを冷ややかな目で捉えながら、背後に控える炎砕竜たちに命令をくだした。
「あの子はまだ死んでいない。追いかけて。森と森の住人、すべて燃やし尽くすのよ」
九条・雅
おや、火災の騒動に紛れて逃げ切れると思っていたかい?大きな勘違いだねえ。

アタシは守るべき地と人々を捨てた守護者は許せない。嘗て人を救ってきたアタシにとってあのような悪夢から守れない守護者は断罪する相手だ。

【光学迷彩】【残像】【ダッシュ】を駆使して爆発するキノコを掻い潜り、【連撃】【両断】【薙ぎ払い】を併せた煉獄の一撃でマイコニドの群れを一気に斬り払う。ついでに【グラップル】【強打】【怪力】で敵の一匹を群れに蹴り込んで混乱させてやるか。

命が惜しいのは分かるんだが、もう少し状況を考えな。まあ、考える暇は与えるつもりはないが!!


リディル・ヴェント
【ヨアケ】で参加

パラドクストレインでヨアケのみんなを見た時は心強かったわ。
さっき分かれてフロウと戦ったゼットさんとまず合流して、救助活動組の皆も村から帰ってきたら一緒に連携しながら戦うわよ!

この火災を引きおこしたカレンデュラを倒しに行きたい所だけど、その隙にキノコに逃げられちゃうからまずはキノコ狩りよ!!
急いでるくせに何ちゃっかりイチゴ持ってんのよ!
エンタープライズでスライスして桜花絢爛で串刺しね!

キノコの胞子も水気がある方が飛び散りにくいのかしら?
【水源】で川を作っておこうかしら。
自分が胞子まみれになっちゃったら川にダイブして洗えるし、
川がある事で火災の広がりも抑えられるんじゃないかしらね。


ゼット・ノアール
【ヨアケ】で参加
「敵性存在、逃亡中の『マイコニド』数体。追撃する」

お前達が少しでも守護の任に責任を持っていたなら負傷者はもっと少なかったかもしれないな
リディルと共に救助活動をしていた仲間と合流し、
フローラリアを排除しておく

悪いがそのイチゴは置いていけ
ツヴァイガルゲンでスライスしつつ【アイテムポケット】を使い
イチゴを収納していく …これが好きな者は多いから、土産だ

毒の胞子は完璧には防げないが衝撃波で遠ざけつつ
素早く移動する事で軽減しよう
パラドクスゆえ、サイボーグだろうが関係ないだろうしな


御門・雪月
【ヨアケ】
連携やアドリブ歓迎です!

妹を守ろうと必死なエルフさん(雪月から見ると同年代かお姉さん?)の姿に、雪月をいつも助けてくれるおねえちゃんが、戦いで傷つく姉の力になりたいと必死にあがく雪月自身が重なります。
「大丈夫です」
エルフさんを元気づけるように
「僕たちが、必ず助け出します」
「信じてください」
魔力の翼を広げ、バックパックのブースターで【飛翔】し、天使の羽を広げた陽菜と一緒に戦場へ急ぎます。
逃げようとしているマイコニド達へ先制攻撃。魔動機械剣の光刃を展開してスピードを活かした《斬撃》で、聖剣を持った陽菜と連携しながら敵も呼び出したキノコも纏めて《両断》していきます。
「すぐに終わらせます!」


緋詠・琥兎
【ヨアケ】
キノコ狩りの前に村の出入り口に居るネピ嬢に声を掛け
少し話そう

苺の菓子、作ったが食べないのか

食べないと返答が来れば
代わりに甘くない塩分補給の飴玉を差し出す

他の奴から聞いた
君の妹が
まだこの先に居るんだな?

ネピ嬢の目をしっかりと見て

君の願いを
想いを自分が1度預かろう

ネピ嬢の想いに応える剣として
自分はこの事態を引き起こした元凶を討ち
君の妹を助けよう

夜明けの一閃を使い
ネピ嬢の想いを剣にして
味方との合流の為に森へ向かう

味方と合流後は
前線で敵を薙ぎ払おう

毒は浄化の風(風使い)で敵側に吹き飛ばす


テメェらを相手している暇はない
とっとと倒れろ(粉砕


アドリブ
絡み歓迎



 ディアボロスたちが作った堀を越えて、度々、火の粉がエルフの村に吹き込む。火の粉の雨に晒されながらも、ネピは双子の妹ピアの無事を祈り続けていた。ただ、ただ、一心不乱に。
 御門・雪月(魔機使いの白虎・g02551)は、かすかな痛みに胸を刺された。
(「おねえちゃん……」)
 戦いで傷つく姉の力になりたいと、必死にあがく己自身の姿と心情がピアと重なったのだ。同時に、それは自分をいつもかばってくれる姉の姿にも見えた。
 体の横でぎゅっと握りしめた拳を、花の精霊『陽菜』が手に取って持ち上げる。
 心配そうに首を傾けてこちらを見上げる『陽菜』に、淡く微笑んだ。
 花の精霊『燈杜美』を連れた緋詠・琥兎(歴史の侵略者処刑代行請負人・g00542)がやってきて、隣に並んだ。
「……自分たちも行こう。ネピ嬢の妹を捕えているドラゴニアンの女を討ちに。それに、火の勢いは弱まってきているが、森の中にはまだ敵がいるはずだ。雅1人じゃ危険だ」
 ほんの少し前のことだが、九条・雅(赫焉のパシオン・g03417)は、牙刹や真輝とともに再び森に入っていった。
 雅が、ドラゴニアンの女を探すという牙刹たちとは別行動をとる、と言っていたのが気にかかる。消火活動の途中で、逃げる『マイニドコ』の一団を見かけたといっていたから、一人であとを追うつもりなのかもしれない。
「恋姫さんは? ここに残るって、言っているのですか」
「ああ。張りきって苺のお菓子を量産しているよ」
 琥兎は先だって歩きだした。
 渡し板の前で両膝立ちになっているネピに声をかける。
「苺の菓子、作ったが食べないのか。美味しいぞ。自分もさっき食べてきた」
 恋姫の苺スイーツは絶品ですよ、と雪月も横から言い添える。
 ネピは顔をあげることなく、ゆっくりと首を横に振った。
「そうか。なら、せめてこれを食べてくれ」
 琥兎はネピのかたわらに膝をつくと、ポケットから飴玉を一つ取り出した。手のひらに乗せてネピの顔の前に差し出す。
 エルフの少女は身動き一つしない。
 『陽菜』と『燈杜美』はネピの正面に回り込むと、ふたりして目隠しのうえに手を置いた。
 その様子をみた雪月は得心した。何かに願ったり祈ったりするとき、大抵の人は目を閉じる。
 長く尖ったネピの耳に、雪月は後ろから口を寄せた。
「目を開けて見てください。塩の飴です。塩分と水分はちゃんと補給しておいた方がいいですよ。妹さんが戻ってくる前にあなたが倒れてしまったら大変ですから」
 ネピは目を開くと、まず琥兎の手のひらにおかれた飴を見て、ついでその手の向こうにいる『陽菜』と『燈杜美』の顔を見つめた。
 頭を上げて左の雪月に顔を向け、ついで反対側の琥兎に顔を向ける。
「他の奴から聞いた。君の妹がまだこの先に居るんだな?」
 ネピがコクリと頷く。
 潤みだした瞳には琥兎の顔が写り込んでいる。
「君の願いを、想いを、自分が1度預かろう。自分はこの事態を引き起こした元凶を討ち、君の妹を助ける」
 雪月は震えだした細い肩に手を置いた。
「大丈夫です。僕たちが、必ず助け出します。信じてください」


 炎を巨大な壁のように猛らせていた北風が、ドラゴンの絶叫が続いたあとに弱まっていた。
 この付近にいたエルフたちはみな避難しきったようで、悲鳴は聞こえてこない。かわりに雅の耳朶を打つのは炭化した木々が倒れる音である。
 雅は村を出たあと、牙刹たちと別れて1人で逃げた『マイニドコ』たちを追っていた。
 フローラリアの本陣を突き止めるのは無理でも、おおよその方角だけでも知ることができればこのあとの戦いが有利になる。だから、焼キノコはもとより、『マイニドコ』が落とした苺の焼け炭を探し歩いていたのだが。
 木々の間を埋めていた黒煙が溶けるように消えた。

 ――ヒェ。

 間抜けな鳴き声とともに立ちすくむのは、火の納まりを見て森へ舞い戻ってきた『マイニドコ』たちだ。その数、およそ10体。
 まだ食べられる苺を取りに戻ってきたら、まさかディアボロスと鉢合わせするなんて。どれもそんな顔をして、赤い傘をふるふると震わせている。
 雅は、ふん、と鼻を鳴らした。
「おや、火災の騒動に紛れて逃げ切れると思っていたかい? 大きな勘違いだねえ」
 返事はない。かわりに『マイニドコ』たちはくるりと踵を返す。
「卑怯者! 守るべき地と人々を捨て、手酷く裏切った卑怯者として、アタシはアンタたちを断罪する」
 内より発した赫灼の闘気を纏い、雅は逃げる背に怒りの一撃を繰り出した。返す刀でもう一撃。
 二連の斬撃は2体の『マイニドコ』の背を切り裂いたが、その他大勢は助けを求める仲間の声を無視して走り去る。
「性根の腐った連中だね。命が惜しいのは分かるんだが、もう少し状況を考えな!!」
 ちっと短く舌打ちの音を零して走りだした雅を、瀕死の『マイニドコ』たちが放ったキノコ弾が襲った。
 第一波は身を屈めてくぐり抜け、第二波は横へ飛んでかわす。
 ただでさえ障害物の多い森の中、攻撃をかわしながらではなおのこと追いつけなくなる。
 このままでは逃げられてしまう。そう思った直後、背後から冷たく固い声が聞こえてきた。
「敵性存在、逃亡中の『マイコニド』数体。追撃する」
 雅が顔を向けたさきにゼット・ノアール(群青の傭兵・g01952)がいた。リディル・ヴェント(ゲットレディ・g00550)も一緒だ。
「リディル、くたばりそこないの始末は頼んだぞ」
「任せて。チャッチャと始末するから」
 その言葉を受けてゼットは蒼き稲妻となった。紫電を放ちながら一直線に木と木の間を駆け抜ける。
「悪いがそのイチゴは置いていけ」
 残り火の照り返す鋼の腕に稲妻を絡みつかせ、次々に『マイニドコ』たちの首のつけ根を裂いていった。
 絶命に至らなかったものにトドメを刺すため、ゼットは一旦戻った。
「……たく。お前達が少しでも守護の任に責任を持っていたなら」
 ここまで火事は酷くなくまた広がりもしなかっただろう。負傷者の数ももっと少なかったかもしれない。
 草を掻きむしり悶絶する『マイニドコ』に、ブラックステークから杭を出して打ち込んだ。
 もちろん、アーゲンブリッツの稲妻を這わせた上で。ただの物理攻撃ではクロノヴェーダは倒せない。
 草むらに転がっている苺を一粒つまみ上げたところで、ごっ、と風が唸る音がした。
 草の向こうへ頭を回せば、リディアが巨大な両刃斧を振るっているのが見えた。
「急いでるくせに。何ちゃっかりイチゴ持ってんのよ!」
 一瞬、自分が叱られたのかと思って首をすくめる。
「あんたたちがイチゴを狩るなら、こっちはキノコ狩りよ。エンタープライズでスライスして、桜花絢爛で串刺しの刑ね!」
 リディアは四つん這いになって逃げ出した『マイニドコ』に、容赦のない一撃を浴びせた。
 巨大な両刃斧が起こす風は青く、渦巻く波のごとく。
 薄く切りおろした『マイニドコ』たちの体を飲み込み、空へ巻き上げる。
「やあ!」
 素早く持ち替えた細身の刺突剣を、渦の中へ突きあげた。桜貝のような肉片が青い渦に散る。風が止んだとき、刺突剣にはスライスした『マイニドコ』が幾重にも突き刺さっていた。
「よし! じゃあ、これを火であぶっちゃうぞ」
 えっ、と雅が眉を寄せる。
 苺摘みを再開していたゼットも、これには思わず立ち上がった。
「え、なに? どうしたの、ふたりとも変な顔しちゃって」
「まさか、それを食べる気じゃないだろうな。確かに、焼けていい匂いはしていたが……」
「んー。お腹壊しちゃうかな?」
 頭に生えていたキノコなら大丈夫だろ、と雅。
「それより、残りの連中はどっちへ逃げたんだい、ゼット?」


 ゼットの攻撃からも逃れた5体の『マイニドコ』は、ほうほうの体で拠点の中枢を目指していた。
 自分たちが管理、監督しているエルフたちの村には立ち寄らず、まっすぐに、自分たちにだけしかわからない道標を必死にたどって帰路を急ぐ。
 道標の大半が木々と一緒に焼けてしまったが、幸い火の勢いは納まりつつあり、空を覆っていた黒煙も晴れて、太陽の位置が向かうべき方角を教えてくれた。
 急げ、急げ。
 先頭を走っていた『マイニドコ』が突然、足を止めた。後ろに続く『マイニドコ』たちが次々と前の個体の背にぶつかる。その度に、ぐしゃ、ぐしゃ、とイチゴの潰れる音が立った。
 バカ、止まるな。2番目の『マイニドコ』が怒りながら、ひょい、と横から頭をだして前を見る。

 ――ヒェ。

 ディアボロス、再び。である。
 『マイニドコ』たちの行く手を阻んだのは、白扇を開き持った琥兎だった。
「テメェらを相手にしている暇はない。とっとと倒れろ」
 ああ、そうだ。ネピ嬢との約束を果たすため、自分たちは先を急ぐのだ。
 琥兎は、開いた白扇を右手に高く掲げるように持ち、冷めた笑顔でそれをひらひらと頭上で振るような仕草をした。
『――長夜の闇の迷い人導く 天明の誓言 吾の一閃 心知るを結わう実に祈まん』
 『燈杜美』が吹く横笛の、物悲しい調べが唄に興を添える。
 辺りがあたかも夜明け前のごとく暗くなった刹那、 初陽の一閃が先頭に立つ『マイニドコ』の首を切り落とした。
 とたん、『マイニドコ』の全身から毒を帯びた胞子が噴出した。
 黄粉色の霧が視界を奪う。
 後ろにいた『マイニドコ』たちが、散り散りに走り出した。
「くっ……。雪月、頼む!」
「はい、すぐ終わらせます」
 逃げる1体の前方に、影が落ちる。
 巨大な鳥、いや、ドラゴンか。
 顔をあげた『マイニドコ』が見たのは、己に向かって急降下してくる雪月の姿だった。聖剣を持った『陽菜』がその背にある。
「ぶっ飛んでください!」
 突きだした雪月の拳が『マイニドコ』の脳天を直撃し、キノコの傘を反り返らせる。
 反動で斜め上に飛ばされたあと、雪月は地面すれすれまで落ちてから、ウイングを開いた。
「陽菜、行くぞ!」
 超低空飛行のウィングでキノコ足を切り落とし、『陽菜』が聖剣で胴を薙いだ。
 一拍遅れて大量のキノコが地面を割ってつきあがり、飛びあがろうとしていた雪月の胸や腹を打った。
「わぁ!?」
 突き飛ばされた雪月と『陽菜』を、追いかけてきたゼットが木の幹にぶつかる前に抱き止めた。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
 降ろしてもらったところへ、リディアが駆けつける。
「雪月、琥兎!」
「あ、リディアさん。雅さんに会わなかった?」
 リディアは湧きださせたパラドクスの水を撒いて、琥兎を包む毒胞子の霧を消す。
「雅さんならそこよ。くずキノコたちの前」
 立ち塞がる雅の前で、『マイニドコ』たちが右往左往している。
「考える暇を与えるつもりはないよ」
 雅が得物を持った腕を振るう。つぎの瞬間、目もくらむ赤い閃光がひらめいた。
 仲間を盾にした形で煉獄の一撃から逃れた最後の『マイニドコ』が、雅の目をくらませるために、持っていたイチゴを投げた。
「赤には赤ってことかい。くだらない」
 不意を突かれた雅が目を庇った瞬間、『マイニドコ』は脇をすり抜けようとしたが――。
「食べ物を粗末にするやつは許さないんだから!!」
 締めは、氷山を砕き削る波のようなリディアの一撃だった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【光学迷彩】LV1が発生!
【一刀両断】がLV3になった!
【飛翔】がLV2になった!
【託されし願い】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV1が発生!
【命中アップ】がLV3になった!
【ガードアップ】がLV4になった!
【ダメージアップ】LV1が発生!

リディル・ヴェント
【ヨアケ】で参加。
花粉対策にゴーグル(nivel)を装着しておくわ。
あと、新宿島の便利グッズのマスクと花粉が付きにくくなるスプレーね!
前にカレンデュラの別個体と戦った時に知り合った友達に教えてもらったわ。
それから吸い込まない様に《呼吸法》。
これで対策出来そうかしら。

まだ森にいるピアさんを巻き込まない様に十分気を付けないと。
ピアさんの保護は琥兎さん、お願いするわよ!
カレンデュラがピアさんを盾にしようものなら何とか隙を作って助けないと。
あっちこっちからカレンデュラを挑発して隙を作れないかしら。

ピアさんを助けることが出来たら遠慮なく攻撃ね。
森を炎で焼いたアナタは雷でビリビリにするわよ!


桜・姫恋
連携・アドリブ歓迎

【ヨアケ】で参加

お前がこの森をイチゴを燃やした主犯格ね?良くもイチゴを燃やしてくれたね?イチゴを燃やしたやつなんかイチゴにしてあげるわ!お前が燃えて消えろ!

苺砲にてカレンデュラに向けて怒りのイチゴの種を発射しカレンデュラに付いた種を直ぐ様【植物活性】にて成長させ体内外からカレンデュラをイチゴに変えるべく侵食していく

私の大好きなイチゴを燃やしたお前を私は絶対許さないよ!ついでにではないけどエルフたちを傷つけ森を傷つけた罪をイチゴになって受けなさい!


緋詠・琥兎
【ヨアケ】
お前が、この状況の諸悪の根源か
……その子を返してもらうぞ


事前に夜明けの一閃でネピ嬢の想いをオーラの剣に再形成
味方の武器もオーラを纏わせる

ピア嬢を盾にしてくるなら
《託されし願い》を使いネピ嬢の様子を見せつつ
周囲の花を浄化の風を伴った想いの剣でなぎ払い
花粉諸共吹き飛ばす

自分は肉体改造や毒使いで花粉の耐性持ち
燈杜美やピア嬢と共に浄化の風を纏い対策


君の姉は
ネピ嬢は
君を置いて行った事を後悔して
武器を手に再び此処に向かおうとしていた

君を助け
ネピ嬢の元へ送り届ける

絶対にだ


救出後は
ピア嬢を抱え
《飛翔》で花粉の影響がない所まで後退

後方からの援護に徹する

苺の逆鱗に触れた報いを受けるんだな

アドリブ
連携歓迎


ゼット・ノアール
【ヨアケ】
「敵性存在、首魁『カレンデュラ』…姑息な手段を使うと後が怖いぞ。やめておけ…手遅れかも知れないが」

随分とエルフの子をいたぶったようだな
森を焼いたり苺を焼いたり好きにし過ぎたな
因果応報の時間だ

巨大兵器にアクセスし、合体して
超硬機人ダイゼットとなって注目を集め、その隙にピア救助に動いてもらう
【水源】を発生させ、ゼウスの大槌で叩き打って水飛沫を上げて花粉対策と火属性対策だ

では天罰の時間だ 覚悟はできたか?

※アドリブ大歓迎です


九条・雅
ああ、折角苺が美味しそうに実っていたのに、アンタらが起こした火事で燃えてしまったじゃないか。他にも植物や果実が実っていただろうに。エルフ達の大事な住処を台無しにした報い、受けてもらおうか。

追尾する花か。当たると炎上するらしいからなるべく当たりたくないねえ。【飛翔】【エアライド】【光学迷彩】で姿を隠しながら飛びながら【ダッシュ】。飛び交う花を突っ切って敵本体に肉薄。敵の攻撃は【残像】で回避。【フェイト】気味に【連撃】【斬撃】【両断】を併せた斬撃で一閃。本命は【破壊】【強打】を込めた鬼神変だ。

もし炎の攻撃を受けても【オーラ操作】【結界術】で防御壁を張って耐え、敵に必殺の一撃を叩き込む。


御門・雪月
【ヨアケ】
連携やアドリブ歓迎です!

陽菜の聖剣の光で《光使い》【クリーニング】で周囲の毒の花粉を《浄化》します
「陽菜!」

光の花の幻影で、頭の片隅に朧げな記憶が蘇ります。
何かから逃げる最中に後ろから光で貫かれた記憶が、意識が消えていく中、雪月に一生懸命呼びかける少女の顔が。
「……させない!」
あんな思いは、させない。家族の絆を、踏みにじらせない。あの子を、必ず、助けるんだ!

聖剣で雪月を庇っていた陽菜と顔を見合わせ、パラドクス使用
戦場に《早業》《結界術》を展開し、邪悪な花を全て《浄化》します。
《全力魔法》詠唱と共に無数の魔法陣を展開。味方と人質の子を通過する光を放ち、敵のみを焼き尽くす
「聖光の断罪!」


マティアス・シュトローマー
アドリブ・連携歓迎

見つけた
森を焼いてエルフを傷付けているのは君?……聞くまでもないか
まずはそのエルフの子を離してもらうよ

ラーべ・シュトライヒを発動。パラドクスで具現化した大鴉でカレンデュラを追尾、注意を引き付ける。その隙に【地形の利用/エアライド】で高く跳躍。ピアを保護して後方に下がったら、大鴉に命じてカレンデュラを爆撃。彼女を安全な場所に下ろすまでの【時間稼ぎ】しよう

仲間が彼女を保護してくれている場合は、大鴉に命じて【臨機応変】に攻撃。狙うのは翼。ドラゴンの飛行能力はやっぱり脅威だからね

花粉対策には引き続き【呼吸法】を実践しつつ、反撃の光の花は銃で迎撃するか【飛翔/エアライド】で躱そう



「あらあら、まあまあ。何があったのかしら?」
 その声には楽しむような響きがあった。
 『炎砕竜フロウ』の断末魔が北風をさいて曇り空にいくつもあがり、森を焼く炎の勢いが目に見えて落ちてきているにも関わらず、『カレンデュラ』は優雅にイチゴ畑をくるりくるりと踊って回る。
 踊りの相手を務めるのは、精神を削ぐ幻覚を見せられ、繰り返し黄色い花粉を吸い込まされたエルフの少女だ。
 少女はまるで人形のように無表情で、『カレンデュラ』のリードに従っている。その体はマジック・リナリアで何度も焼かれ、ボロボロになっていた。
 生かさず、殺さず。気まぐれで残酷な女に嬲られつづけ、血の気が失せた顔はイチゴの花弁のように白い。
 『カレンデュラ』は突然、繰るのをやめた。
 ばたりとイチゴの畝に倒れ込んだ少女の耳に口をよせ、「よかったわね。運が良ければだけど、死ぬ前に助けが来るかもしれないわよ」、と囁く。
 直後、クロノヴェーダはその本性とは真逆の、春の日差しのような、明るい笑い声をあげた。 
 ――見つけた。
 冷や水を浴びせる声。
 『カレンデュラ』はゆっくりと立ち上がり、辺りに視線を彷徨わせる。
「誰、誰なの? 出てきなさい」
 白と黒がまじりあい、マーブル状になった煙の壁を割って表れ出たのは、マティアス・シュトローマー(ザ・フール・g00097)だった。
「森を焼いてエルフを傷付けているのは君? ……聞くまでもないか。まずはそのエルフの子を離してもらうよ」
「……貴方だけなの?」
 『カレンデュラ』はあからさまに失望の色を顔に浮かべ、肩を落とした。
「がっかりだわ。もっと大勢と遊べると思ったのに。でも、まあ、貴方が『フロウ』たちを1人で葬ったというなら、それなりに楽しめそうだけど」
  マティアスは額にかかる前髪を指で掻きあげ、微笑んだ。
「ああ、俺1人でやった……と言えたらかっこいいけど。他の仲間たちもすぐに駆けつけてくるよ。それまでの間は、君を独り占めだ」
「ステキ。それでは私から、死に急ぎのナイトに相応しい悲劇を見せてあげましょう」
 芝居じみたしぐさで、煙で黒く汚れた雲の天井が割れて、幾筋もの淡い光がマティアスに降り注いだ。
 その光は冷たく、むしり散らされた光華の花びらを纏っている。
「これは……」
 頭や肩に。冷たい輝きを放つ花弁触れるたび、マティアスの心を過去へ過去へと引き戻していく。目に浮かんだのは、8月15日、運命の日光景だ。
「見せるべきエピソードを間違えたね。あの日、俺は……感情をなくした。いや、君たちに奪われたんだよ」
 口元に登らせた薄い笑みで、『カレンデュラ』の甘い目論見を断ち切る。
「次は俺のターンだ。『Bitte schön!』」
 分厚い本のページを繰るかのように右手を動かせば、7羽の鴉がカーカーとかしましく空に飛び出す。
 黒い翼を大きく広げて、次々に『カレンデュラ』を襲った。
「なんて愛らしい。うふふ、くちばしがくすぐったいわ」
 『カレンデュラ』は7羽の攻撃を全て受けきった。ノーダメージであるはずはないのだが、その声にも態度にも、まだ余裕が感じられる。
「ねえ、この子と一緒に遊んであげて」
 『カレンデュラ』はさっと両腕をあげて、倒れている少女とマティアスの周りに黄色い花をまき散らした。
 黄色い花粉がいっせいにふりかかってくる。
 花粉を吸い込んだマティアスは、手足がしびれて動けなくなった。そこへ狙いすませしていたかのように、禍々しくねじ曲がった木の枝が飛んでくる。
(「……クッ!」)
 腹に刺さる直前に、無数の苺色した布が伸びてきて魔枝を捕え、バキバキと音をたてて締め折った。
 春風一番。黄色く濁った煙を払い、『桜色の疾風』桜・姫恋(苺姫・g03043)見参だ。
「お前がこの森をイチゴを燃やした主犯格ね? よくもイチゴを燃やしてくれたね? イチゴを燃やしたやつなんかイチゴにしてあげるわ!」
 有無を言わさぬマシンガントークで『カレンデュラ』を圧倒した姫恋は、次の瞬間には巨大な苺オーラを纏っていた。
「お前が燃えて消えろ!」
 『カレンデュラ』には、見えるはずのない敵の気迫が、怒気が、イチゴ色の波紋となって広がるように見えた。
 白ゴマのようなものが飛んでくることに気づいたのは、波紋を浴びた次の瞬間だった。
 スカートを持ち上げて翻し、姫恋が放った小さな弾を叩き落す。
「こんなもので、私が――?!」
 スカートの裾に叩かれた衝撃で、弾――イチゴの実が割れて、中から極小の種子が散弾よろしく飛び散る。それは相当な速度で龍人の肉に突き刺さり、プシュッという音を発した。
『苺になぁれ♪』
 種が穿った小さな穴から、細い蔓が勢いよく伸び、血が噴き出した。まるで『カレンデュラ』という畑にイチゴが実ったように見える。
「い、いやぁぁぁ! 気持ち悪い、気持ち悪いっ」
 『カレンデュラ』は半狂乱になって、皮膚を覆う蔦をむしり出した。
「いまよ、ピアを助けて!」
 煙に巻かれて森の中を迷っていた牙刹と真輝がやってきて、ピアに駆け寄る。
「駄目だ!」
 マティアスの叫び声を聞いて2人が立ち止まった瞬間、ピアが不自然な動きで立ち上がり、黄色い花粉をたっぷりと含んだ土を投げつけた。
「ふたりとも下がって」
 ピアの肩越しに向けている『カレンデュラ』の目は鋭く、血走っていた。


「よくもやってくれたわね」
 『カレンデュラ』はピアを繰って、傍にはべらせる。いつでも盾にできるように。
「卑怯者! その子を離しなさい!」
「あら、卑怯なのは貴方たちのほうでしょ。多勢に無勢で襲い掛かるなんて」
 少し前に、大勢と遊びたい、などとほざいていたのはどこのどいつなのか。
 一本の大木が焼け落ちて、『カレンデュラ』とディアボロスたちの間に倒れて来た。ばちばちと火の粉が色鮮やかにはぜて、舞い立つ。
 混乱を極める戦場に、ゼット・ノアール(群青の傭兵・g01952)のよく通る声が響いた。
「敵性存在、首魁『カレンデュラ』……姑息な手段を使うと後が怖いぞ。やめておけ……手遅れかも知れないが」
 いつの間にか、イチゴ畑の北に4つの人影があった。その後に燃える木々と頭を並べる、巨大な機械兵のシルエットが見える。
 熱で揺らぐ影の中から、1人、緋詠・琥兎(その身に潜むは破滅か。それとも朧げな標か・g00542)が進み出てきた。
「お前が、この状況の諸悪の根源か。……その子を返してもらうぞ」
 その手にあるのは、ネピの想いを象ったオーラの剣だ。花の精『燈杜美』のハーモニカ、燈華も蒼く輝くオーラを纏っている。
 『燈杜美』は燈華に唇を当てた。妹を思う姉の深く強い愛がメロディーとなって、イチゴ畑に流れ出す。
「戦うんだ、ピア嬢! 君の姉は、ネピ嬢は、君を置いて行った事を後悔して、武器を手に再び此処に向かおうとしていた。勇気を持って、邪竜の呪縛を断ち切れ」
「説得しても無駄よ。この子はこの花の虜なの」
 『カレンデュラ』の黄色い花が、イチゴ畑を覆い尽くす勢いで狂い咲く。
「自分は約束した。君を助け、ネピ嬢の元へ送り届ける。絶対にだ!」
 琥兎は想いの剣を振るった。
「苺の逆鱗に触れた報いを受けろっ」
 蒼い軌跡を描きながら、黄色い花の津波を切り裂く。浄化の風が吹き抜けて、切れた花弁もろとも花粉を吹き飛ばした。
 御門・雪月(魔機使いの白虎・g02551)も魔導機械剣を振るう。
「陽菜!」
 雪月の叫びに応えて、花の精『陽菜』も聖剣を高く掲げる。
『集え、光よ。聖なる輝きが示すは、罪深き者。今ここに、断罪の一撃を以て、彼の者を滅ぼせ! 裁きの光!』
 ――と、浄化の魔力による光の粒子が舞った。イチゴ畑に聖なる光の雨が降る。
 雨はディアボロスとピアに纏わりつく花粉を洗い流し、邪悪な『カレンデュラ』を焼いた。
 皮膚がただれる痛みに悲鳴を上げながら、『カレンデュラ』が反撃に出る。
 邪悪なる光の花が空から落ちてきて、雪月と『陽菜』を悲しみの淵に落とした。おぼろげな記憶が、雪月の頭の中で再構築されていく。
(「うっ……」)
 背中の一点に熱を感じ海老反りになる。これは幻だと分かっていても、体を貫く痛みが意識を蝕んでいった。
 ――雪月、雪月!
 懸命に自分の名を呼びかける声。薄く開けた目に少女の顔が写る。その瞬間、雪月は覚醒した。
「……させない!」
 あんな思いは、誰にもさせない。させたくない。
「その子は返して貰います!」
 『陽菜』とともに剣を振るい、邪悪な花を次々と駆除していく。
「行くわよ! 覚悟してね」
 花粉が付きにくくなるスプレーをかけたマスクとゴーグルで完全武装したリディル・ヴェント(ゲットレディ・g00550)が、両手で握りしめたエンタープライズをひょ ひょうひょうと風車のごとく振り回し、『カレンデュラ』に突撃する。
 盾にされたピアを巧みにかわし、左手から回って竜の尻尾に両手斧の刃を落とした。
 『カレンデュラ』の口から絶叫が迸る。
 だが、端部ではあるが尾は堅牢な骨でつながれていて、体重を乗せたリディルの一撃をもってしても完全に断ち切ることはできなかった。
「ちょっと、返してよ」
 リディルは暴れまわる竜の尾を踏んで、エンタープライズを引き抜く。
 『カレンデュラ』は再び絶叫した。
「小娘が!!」
 血走らせた目で尾を切った小娘を睨みつけ、伸ばした鋭い爪を振るって胸を引き裂こうとする。
 リディルはエンタープライズを盾のように胸の前に掲げて、反撃を防いだ。そのまま後ろに飛んで距離を取る。
「うーん、残念。絶対切れると思ったのに」
「上出来だよ」、と九条・雅(赫焉のパシオン・g03417)が艶然と微笑む。
 リディルが突撃を仕掛けた隙に、雅は琥兎と一緒にピアの身柄を確保していた。
「よかった……。ピアさんの保護は琥兎さん、お願いするわよ!」
 琥兎はリディルに片手をあげてみせると、牙刹と真輝の3人がかりでピアをエアライドに乗せて、村へ連れていった。思っていたよりも衰弱が激しく、一刻も早く安全な場所で手当てをしてやる必要があったためだ。
 万が一、新たな敵と遭遇したときのことを考えて、マティアスが護衛を志願し、ピアを乗せたエアライドの後を追いかけていく。
 雅は邪竜の本性を剥き出しにした『カレンデュラ』の前に、しゃなりと進み出た。一緒に数台のエアライドがついてくる。
「ああ、折角苺が美味しそうに実っていたのに、アンタらが起こした火事で燃えてしまったじゃないか。他にも植物や果実が実っていただろうに」
 雅の姿が揺らいだかと思うと、消えた。パラドクスの残留効果を使った【光学迷彩】だ。
 『カレンデュラ』は言葉にならない声を発して、雅がいたところに向けて炎の花を飛ばした。
「全員で雅を援護するぞ!」
 ゼットの号令で、他のディアボロスたちが一斉に『カレンデュラ』に攻撃を仕掛ける。
 雪月と『陽菜』は無数の魔法陣を『カレンデュラ』の周りに展開し、恋姫が再び時の力を秘めたイチゴの種子を飛ばす。
 リディルが、「森を炎で焼いたアナタは雷でビリビリにするわよ!」といいながら、稲妻を放ち、闇雲に放たれた炎の花を次々と打ち落としていった。
 巨大な人型兵器と合体したゼットは【水源】から大量の水を湧きださせると、高みから鉄の拳を振り下して水しぶきをあげた。
 たちまちのうちに、辺りを焼く炎と空中に漂う花粉が消える。
 劣勢に陥った『カレンデュラ』が牙を剥く。
「花はまだまだあるわよ!」
 怒り狂う竜人はドラゴンの翼をはばたかせて、麻痺の黄花と灼熱の赤花を交互に飛ばしてきた。
 カン、カン、カン、と下駄が鉄を打つ音がして、空に浮かんだエアライドが独りでに揺れる。
「エルフ達の大事な住処を台無しにした報い、受けてもらおうか」
 空が波打ったかと思えば、突然、拳を握った巨大な鬼の腕が『カレンデュラ』のすぐ目の前に現れた。
「ぎゃっ!」
 血を撒き散らしながら吹っ飛んだ『カレンデュラ』が、イチゴ畑を転がる。
 巨大な鬼の拳に鼻の骨や前歯を折られ、愛らしかった『カレンデュラ』の顔はみるみるうちに腫れ上がった。
 雅と『カレンデュラ』には、歴然としたスピードの差があった。空でゆっくり旋回して体勢を整えてから、『カレンデュラ』の顔を見て拳を叩き込むまで、一秒未満の時間が雅には十秒ぐらいに思えるほどの差が。
「さあ、ゼット。トドメは頼んだよ」
 ズシンという振動で、イチゴ畑が揺れた。
「随分とエルフの子をいたぶったようだな。森を焼いたり苺を焼いたり、お前は好きにし過ぎた」
 雲突く山の如き巨大なるダイゼットの雄姿が、『カレンデュラ』の前に立ちはだかる。
「では天罰の時間だ。覚悟はできたか?」
 死を悟った『カレンデュラ』は、翼を広げて飛び去ろうとしたのだが――。
「因果応報。お前に与える慈悲はない」
 蒼い翳りを帯びた鉄の巨拳が振り下された。


 牙刹と真輝が大急ぎで作った大テーブルに、姫恋が『苺と3種のチーズピッツァ』を運んできた。
「はーい、みんな。集まって」
 先に甘いものを食べてお腹が膨れているはずのちびっこたちも、目をキラキラさせて走ってくる。
「ちゃんと手を洗った?」
 はーい、という子供たちの元気な声を聞いて、琥兎は優しく口元を緩ませた。
 火事で森は焼けてしまったが、どうやら今回の事件はトラウマにならずにすみそうだ。大人たちも子供たちの明るさに助けられ、森を再生していくだろう。
「自分と『燈杜美』も手伝うから、なんでも言ってくれ」
「ありがとう、琥兎。じゃあ、窯にまだ6枚、ピザが残っているから運んできてもらおうかな」
 ピザをカットしていたゼットがそれを聞いて、大げさに目を見開いた。
「おいおい、作り過ぎだろ。どれも美味しいけど……食べきれないぞ」
 ゼットの前にはすでに、苺のいちご赤ワインコンポートをかけたパンケーキと苺のロールケーキがおかれていた。
 それだけではない、雅の前には苺のマカロンがたくさん置かれている。
「まあまあ、いいじゃないか。村のエルフたちだけで食べきれないなら、お土産に少し分けてもらえばいい。けど、子供たちがみんな食べちまうんじゃないか」
 そういって、目の前に置かれた網カゴから苺のマカロンを一個つまみ上げ、上品なしぐさで口に運んだ。
「ほんとうに美味しいねぇ。少ない材料でよくこれだけのものが作れたもんだ。感心するよ」
 誇らしげに胸を反らせた恋姫が、ふふん、と鼻を膨らませる。
「苺と小麦と卵、それに砂糖と蜂蜜、バターにチーズ。これだけ残っていれば十分よ」
 苺パテシェの横で、雪月は2つのカップに苺のフルーツポンチを注ぐ。ひとつは椅子に座るネピに、もう一つは野外に運び出したベッドに横たわるピアに手渡す。
 ピアのカップには麦のストローを添えた。『陽菜』が横に付き添って、ひび割れた唇にストローの先を添えてやる。
「はやく元気になってね。あ、もしかして、傷に染みる?」
 ピアは包帯が巻かれた頭をゆっくりと横に振った。
「ううん。あんまりにも美味しくて……みなさん、助けてくれてありがとう」
 ネピも横から言い添える。
「私たち、ううん、村のみんなはみなさんから助けていただいた御恩を忘れません。詩にして長く語り継ぎます。あ、でも、またすぐに遊びに来てくださいね。こんどは私たちがおもてなししますから」
 それまで苺のいちご赤ワインコンポートをかけたパンケーキをもりもり食べていたリディルが、ぴたりとホークとナイフを動かさなくなった。
 他のディアボロスたちも固まっている。
「どうか……されましたか?」、とピア。
 リディルは口元をナプキン代わりにしていたハンカチで拭った。
「うん、あのね――」
「それは嬉しいな。ちょっと恥ずかしくもあるけれど。俺たちも君たちのこと、忘れないよ。また様子を見にくるね」
 マティアスは、切り分けたイチゴのロールケーキを乗せた皿を、ピアの胸の上にそっと置いた。
「ピア君、食べさせてあげよう。口をちょっとだけ大きく開けられるかな?」
 ピアが照れながら開いた口に、マティアスがパンケーキをホークで運ぶ。
 口が閉じられた瞬間に、リディルは横から肘でマティアスの脇腹をつついた。
「ちょっと、どういうつもり? パラドクストレインで去った後、彼らの記憶から私たちは消えるのよ。それに自由に戻っても来られない……できない約束しても」
「だからだよ。時空の修復作用によって彼らの記憶が改ざんされてしまうからこそ、今この時だけは、偽りのない気持ちで再会を誓いたい」
 リディルは少しだけ考えてから、「それもそうね」といった。
「私たちは忘れずに覚えているわけだし」
 ゼットが隣にやってきた。
「覚えていなくても、もしかしたら、いつか俺たちのことを思い出してくれる日が来るかもしれないぞ。ネピの作った詩は残るのだし」
 きっと、時がたてば意味の分からない不思議な詩になるだろう。そして、それは伝説になる。森を焼いた炎と甘い苺の記憶とともに。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【操作会得】LV1が発生!
【植物活性】LV1が発生!
【託されし願い】がLV2になった!
【トラップ生成】LV1が発生!
【怪力無双】LV1が発生!
【クリーニング】LV1が発生!
【フライトドローン】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】がLV2になった!
【ドレイン】LV2が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!
【ガードアップ】がLV5になった!
【能力値アップ】LV1が発生!
【命中アップ】がLV4になった!

最終結果:成功

完成日2022年03月31日