リプレイ

●カップルもぼっちも通さない通路
　今日も淫魔が巡回警備するルーブル美術館。
　そんな平和な館内を、ガスマスクにスーツ姿の来栖・禊（MAD RAT・g01033）が、ピシッと学ランを着こなした咲樂・神樂（離一匁・g03059）を引率して歩いていた。
「美術館に課外授業だなんて、オサレだわ！」
　嬉しそうにあちこち見て回る神樂と、興味はないが、喜ぶ神樂を暖かく見つめる禊は、
「咲樂は彼女とこういうところに来ないの？　あっ。ごめんね？　いないんだった」
「今はいないだけ！　あたしだって、木陰から２４時間熱視線を向けてくる女子くらい居るわ。卒業式とかこの第二ボタンを巡って奪い愛の戦起こるから！」
　神樂の恋愛模様について雑談しながら、目的の通路に近づいていく。
「そういう先生はどうなのよ！　そろそろ結婚とか」
　警備する淫魔の目の前で、引き続き恋バナを続ける２人は、
「恋人だろうが、妻だろうが、相手がいるなら、僕は咲樂じゃなくて彼女を連れてきてるけど？？」
　お互いに恋人がいないことをアピールしながら、
「ごめんね先生……いい出会いあるよ。先生絶対モテるって」
　通路の中に入ろうとする。
「こっちは通行止めよ」
　しかし、淫魔は男２人でやってきた禊と神樂を通せんぼした。
　お互いにパートナーが居ないアピールをしていれば、通して貰えるかと考えていた禊だったが、そううまくは行かないようだ。
（「仲が良さそうな２人だし、カップルの可能性があるから、ちゃんと止めないと」）
　淫魔はそう思いながら、２人を交互に見つめて警戒していると、
「この奥にある物を、彼に見せてあげたいんだよね。僕は奥へは行かないから、彼だけ通してくれないかな？」
　その視線に気づいた禊は、機転を利かせてそう提案する。
「あ……えっと……」
　１人だけなら、通しても良いかもしれない。
　淫魔はそう考えたが、神樂は恋人が居ないアピールをしていたため、悩んでいると、
「今告白されたら、トゥンくって止まった心臓動いちゃうかも……」
　という神樂のつぶやきを聞いて、眼鏡っ娘淫魔・リュネットは彼のような人を求めていそうだと感じ、
「わかったわ。彼だけなら」
　淫魔は神樂を１人奥へと通す。
（「僕は……後で隠れて忍び込みましょうか」）
　そんな神樂を禊は見送ると、一旦その場から退散するのだった。


　それからしばらくして、レイラ・ドヴォルザーク（恋多き“無感動”演奏家・g05226）が通路を通ろうとするのを淫魔が止める。
「わたし、この中の作品も見てみたいんだけど……？」
　と言うレイラに、ここは通行止めだと淫魔が言うと、
「あら、あらあら？　キミは警備？　どうしても入れないの？」
　諦められない風に粘るレイラに、恋人やパートナーが居る、独り身の人しか通せないことを告げる。
　すると、レイラは目を光らせて、
「じゃあ、さ？」
　甘い口調で淫魔を誘うような仕草をして、耳元に囁く。
「あなたとわたしは、いまから恋人同士。これならわたしは恋人持ちで、なおかつお客としてはお一人様。何も矛盾してない。ね？」
　その甘美な誘いに、淫魔はレイラと楽しみたい。と考えるが、持ち場を離れて叱責されることを恐れ、
「えっと……もうすぐ交代の時間。だから、その後なら……奥で……いいよ？」
　妥協案を提示した。
「ふふ、嬉しいよ。じゃあ交代の時間まで、わたしだけを見て、ね？」
　レイラはにっこり微笑むと、淫魔の耳元で愛を囁きながら、壁際に追い込んで楽しくイチャイチャし始めた。




「この美術品の造形や、作り方は興味深いねぇ」
　一般旅行客に扮して、ルーブル美術館の中を楽しく見学し、未知の物を興味深く鑑賞していたレイ・シャルダン（蒼空を駆ける・g00999）は、
「淫魔の警備はしっかりしてそうだよねぇ……あれ？」
　遠くに見える淫魔の動向に、変化があることに気づいて、近くへと移動する。
　その先で、警備の淫魔がレイラに捕まってるのを目撃した眉立・人鳥（鳥好き兄ちゃん・g02854）は、
「淫魔か……いや、まぁ身近にも似たようなのが居るから、見慣れてはいるけど」
　そうつぶやきながらも、緊張を隠せないでいた。
（「……こっちは純朴なエゼキエルおじさんだぞ」）
　２人がイチャイチャしている光景を遠目に見ながら、人鳥は文化の違いを感じていた。
（「ボクだけならこのまま行けそうだけど……他にも何人か、通路に入ろうとしている仲間がいるねぇ」）
　一方のレイは、隙だらけの警備は突破できそうだが、他の仲間も呼んだほうが良いと考えて、人鳥に視線を向ける。
「レイちゃん、行けそうか？」
　それに気づいた人鳥は、極力気配を消しつつ、小声で話しかけると、
「はい。警備交代の時間までは、緩くなるはずです」
　レイはBoeotiaと言う名のAIゴーグルを装着し、周辺の情報をより正確に得ることで、進路に驚異がないことを確認する。
「チャンスは今です。行きましょう」
「ルート取りは任せる。隠れる方は俺に任せてくれ」
　そして、レイは人鳥にハンドサインで後ろにつくように指示をして、
「そちらの方も一緒に行きましょう。こちらへどうぞ」
　遠巻きに様子をうかがっていた禊にも、そばに来るように告げると、３人で固まって動き出す。
「３秒後、淫魔の視界が彼女によって塞がれます……今です」
　そして、淫魔の注意が最も散漫になるタイミングを見計らい、２人の横を通り抜ける。
「ふぅ。１人だとどうなっていたことか。助かったぜ」
　人鳥はレイにお礼を言うと、彼らは気を抜かずに、奥へと進んでいくのだった。


　さらに時間がたち、レイラが通路の中に消え、警備が交代した後。
「直前になって用事が入るなんて、お姉さまのばかぁ」
　口をへの字に曲げて、不満を隠しきれない様子の白臼・早苗（深潭のアムネジェ・g00188）が、大股で美術館の中を歩いていた。
「今日一日、どうすればいいのよぉ」
　お姉さまにデートの予定をすっぽかされ、途方に暮れる女の子の演技をしながら、早苗は警備がいる淫魔の方へと近づく。
「……何か用？」
　警備の淫魔は、自分に近づいてきた上、何故か睨みつけてくる早苗を不審に思うが、
「ごめんね。今日デートの約束をしていた、大好きなお姉さまによく似ていたから」
　早苗は淫魔に謝ってから、何故こうなったかを説明しはじめる。
「そ、そうなのか……それは大変だな」
　次々と流れてくる早苗の言葉に、淫魔は少し引きながらも、彼女を慰めるように答え、
「少し疲れちゃった。この奥で休憩していい？」
　早苗とのおしゃべりを切り上げたいと思った淫魔は、問題ないだろうとその頼みを受け入れ、彼女を通路の中に通した。


「そろそろ良さそう？」
　他の仲間たちと鉢合わせして、騒ぎを起こさないように気をつけていたエスト・リンフィールド（挙動不審エルフ吟遊詩人系・g05947）は、
「この絵はマイダーリンが好きなタイプ☆」
　パートナーが居ることをアピールしながら、通路へと近づく。
「あ、マイダーリンのためにお土産探さないと☆」
　挙動不審者に思われるのではないか。と言うほど露骨なアピールをして、通路を通り抜けようとするエストだが、
「ここは通行止めだよ」
　淫魔は彼女を呼び止めて、じっと見つめてきた。
「この奥に、マイダーリンが好きそうなものがきっとあると思うのよ。通してよ、ね？」
　エストは目立つ婚約指輪を見せつけながら、幸せそうな笑みを浮かべて強請ると、
「……その、マイダーリンはどんな人なの？」
　淫魔は、エストのパートナーが、先程自分が通した早苗だと困ると考え、念の為に確認し、
「優しくって強いタフガイなんです☆」
　エストは、予め脳内で決めておいたマイダーリン像を、事細かに説明する。
「ああ、わかったわかった。行っていいぞ」
　そのベタベタと甘ったるいのろけに根負けした淫魔は、エストの事を見て見ぬ振りするのだった。


●愛するのは……
　警備の淫魔の目を盗み、あるいは説得して絵画の前にやってきたディアボロスたち。
「えっと、絵の前で愛を誓えば……絵画の世界に入れるんだっけ」
　エスト・リンフィールド（挙動不審エルフ吟遊詩人系・g05947）は、中へと突入する方法を確認して、
「じゃあ、いっぱい誓わないとね」
　視線を少し下ろし、蕩けた表情を作る。
「私のマイダーリンは、優しくって、強いタフガイなの☆　毎日、寝るのも一緒……」
　エストはにやけ顔で、マイダーリンへの惚気話を語り始め、
「たまには……お風呂でも一緒。裸でお付き合いなの」
「離れることなんて、絶対に想像できない。嬉しいときも、辛いときも……ずっと一緒」
　少し恥ずかしそうな仕草で照れ笑いすると、矢継早に彼への想いを口にする。
　晴れた日も、雨の日も。寒い冬の夜も、熱い夏の夜も。
　そして、大事な記念日の夜も、何でもない夜も。
「いつだって一緒。そう、世界が終わる……その瞬間だって」
　エストは腰に下げたソードハープを抜き、剣の樋の部分に口づけをして、
「私のすべてを捧げるね」
　永遠の愛の誓いの言葉を立てる。
　すると、彼女の周囲の空間が、夕日が眩しい広い部屋に変わった。

「先輩。来て、くれたんですね……来ないかと、思ってました……」
　そこには、エストへ思いの丈を伝えようと、思いつめた顔をした『眼鏡っ娘淫魔・リュネット』が待ち受けており、
「今日は、先輩にお話したいことがあるんです」
　彼女はエストを上目遣いで見つめてくる。
　エストは困ったように視線を泳がせると、教室の隅の方で、甘い音楽や香りなどを用意して、雰囲気作りをしている淫魔たちの姿を見つけることが出来たが、
「聞いて、いただけますか？」
　どうしようか悩んでいるうちに、リュネットの『告白』が始まろうとしていた。


「絵画の前で愛を誓う……か」
　レイ・シャルダン（蒼空を駆ける・g00999）は、きょろきょろと周りを確認してから、
（「誰もいません、よね……よし」）
　Boeotiaを外し、じっと絵画を見つめる。
　これから口にする言葉は、誰にも聞かれたくはない。
　レイは誰も居ない事を確認し尽くしても、まだ不安で、
（「……緊張してきました」）
　心を落ち着かせるために、すー、はー。すー、はー。と何度も深呼吸をしてから、勇気を持って口を開いた。
「ボクには好きな人が居ます」
　一度口を開くと、レイの緊張感はわずかにほぐれ、口も少しだけ動きやすくなり、
「ボクの想いは一度は断たれかけた……。でも、まだボクの恋は始まったばっかりなんだって気付く事も出来た」
　言葉にするたびに、一度伝えた想いは冷めることなく、少しずつ自分の中で大きくなっていることを感じた。
「だから、今はこの想いを少しずつ育んで、またいつか伝えようとおもってます」
　そして、目の前に愛する者の姿を想像して、少し照れくさそうに、
「貴方の事を愛しています……って」
　必ずそう伝えると誓うのだった。
「……」
　その言葉とともに、周囲の空間が歪み、先にたどり着いていた仲間たちの視線が一斉にレイの方を向く。
「え、あ……」
　レイは、途端に恥ずかしさでいっぱいになり、ばたばたと手を上下に動かして、はけ口のない気持ちを誤魔化すのだった。


「……そろそろ、レイちゃんは中に入れたよな？」
　うら若き乙女たちの、そういう告白を盗み聞くことは、してはいけない。
　そう思って、レイの告白を聞かないように、離れたところで隠れていた眉立・人鳥（鳥好き兄ちゃん・g02854）は、
「フゥ……潜入任務ってのは中々大変だな」
　十分な時間を置いて、誰も居ない絵画の部屋へと侵入する。
「俺も愛を誓えばいいんだよな？」
　人鳥は物言わぬ絵画にそうつぶやくと、
「アイネ！　好きだ！　お前の全てを愛してる！」
　笑顔で未来のお嫁さんに向けて愛を誓う。
「お前に夢中だ！！　これからもずっと一緒に居てくれェ！！」
　すでに誓いを立てた相手への想いは、どれだけ繰り返してもとどまることを知らず、
「いつかこの戦いがひと段落したら、その時は──」
　先日遠目に見たチャペルを思い出しながら、その場に２人で……。
　そう考えながら目を閉じた人鳥が再び目を開くと、
「先生！　来てくれたんですね！　嬉しいです」
　先程まで目の前にあった絵画はなくなり、代わりに淫魔の姿が現れ、囁いてくるのだった。


「とても、とても、かわいいわたしのハニー」
　警備の淫魔を籠絡して、通路へと連れ込んでいたレイラ・ドヴォルザーク（恋多き“無感動”演奏家・g05226）。
　彼女はハニーを連れ、絵画の部屋にやってきて、
「だめ。逃さないよ？」
　残る理性で先に進むことを拒む、淫魔の腰に手を回し、熱いベーゼを１つ。
「わたしの瞳をよくみて。今なにが映ってる？」
　追い打ちをかけるように、レイラは淫魔のことをじっと見つめ、
「そう、あなただけ。欲に蕩けたハニーの顔だけが映ってるでしょ？　だってわたし、あなたのことしか見えてないもん」
　何かをしようとする彼女の口を塞ぎ、
「素敵だよ、かわいいよ。大好き、だよ」
　とろけるような愛の言葉を囁き、大好き以外の感情を排除させるように、音楽を奏でる。
「ぁ……」
　淫魔はレイラの愛の前に、快楽以外の感情を奪われていく。
「あっ」
　レイラが気づくと、淫魔は目の色を失い、その場に壊れた人形のように倒れ込んだ。
「やりすぎちゃった、のかな？」
　レイラは、はからずも淫魔を倒してしまったことに慌て、
「……バレたら騒ぎになっちゃうよね」
　迷惑がかからないように、彼女を目立たない場所に寝かせて隠す。
　レイラはしばらく淫魔のことを見つめていたが、
「わたし、１つの恋に縛られない主義なの。ごめんね？」
　すぐに一時の恋を終わらせ、視線を離して、騒ぎにならないように警戒するのだった。


●愛こそ力
「先輩……って言われても、私１４なんだけど……」
　エスト・リンフィールド（挙動不審エルフ吟遊詩人系・g05947）は、恥じらうような表情を向けてくる眼鏡っ娘淫魔・リュネットを見て、
（「このおっぱい眼鏡淫魔ちゃん……私より年下なの！？」）
　彼女の胸をじっと見つめて驚き、
（「て言うか、スカートで本来隠すべきところがフルオープンじゃない？」）
　彼女独自のスカートに、再び驚く。
「いいえ、歳など関係ありません。私の大好きな先輩♪」
　エストがリュネットを見つめている間に、リュネットはエストの目の前に立つと、
「先輩のパートナー、私じゃ……ダメですか？」
　射抜くような目線を向けようとする。
「ちょっとまって。そう言うのは、２人きりになってから、ね？」
　エストは、背後に見える取り巻きの淫魔たちに視線を移し、リュネットの脇を通り抜け、コンステラシオン・ルージュたちの方へと向かう。
「マイダーリンと一緒なら、心揺れたりしないの」
　ソードハープを手にして、取り巻きたちに斬りかかるエストだったが、
「私のほうが、貴女のことを好きなのに……お願い。少しでいいから愛して？」
　取り巻きの１人が生み出した、紅色の空気に包まれ、魅了されてしまう。
「あ……」
　エストはソードハープを落として、ふらふらと淫魔のそばに寄り、
「新しいマイダーリン……好きぃ」
　彼女の武器を掴んだ。
「あっ、ちょ……思ったよりも積極的ぃ……」
　そして、ソードハープを扱う感覚で、淫魔を掴み、振り回し、いい音色を出そうとする間に、
「もっと、もっと振り回して、奏でなきゃ……」
　エストは、淫魔の武器にますます魅了され、彼女をいじくり回す。
「いやっ、もうダメ……離れてぇ」
　そんなエストの試し斬りに翻弄された淫魔は、思わず拒絶の言葉を口にしてしまった。
「……やっぱり、使いにくい」
　その反動で魅了が解けたエストは、ソードハープを手にして、
「心揺れて迷ったけれど、私には……あなたしか居ない。大好き。マイダーリン」
　淫魔の体を真っ二つに斬り伏せるのだった。


「あの、先程はありがとう御座いました」
　絵画の世界に入り込んだレイ・シャルダン（蒼空を駆ける・g00999）は、先程バディを組んだ人鳥に背後から声を掛け、
「私はこちらをなんとかしますね」
　眼鏡っ娘淫魔・リュネットと対峙した人鳥を援護するために、取り巻きの淫魔の方へと向かう。
（「まだ、恥ずかしいなぁ」）
　絵画の前で自分の想いを口にしたことで、レイの気持ちはまだふらふらとしていたが、しっかり敵を見据えて魔法陣を展開する。
（「愛を囁きながら戦う？　それはもっと恥ずかしい！」）
　この空間独特の雰囲気に戸惑いながらも、愛の言葉を口にするのは恥ずかしすぎるため、レイは心の中は愛に満ちている。と念じながら、
「この一撃はボクの特別、決して外さない」
　魔法陣を通り抜けるごとに加速する矢を、淫魔に突きつける。
「なかなかやるわね……でも、私が貴女のこと、好きだっていうのは……この程度じゃ変わらないよ？」
　だが、言葉にしないと効果は薄いのか、淫魔へのダメージはイマイチで、
「貴女が好きな人のこと、私への想いに書き換えてあげる」
　逆に、淫魔が手に持った手紙……ラブレターが刃となり、レイの心身を摩耗させる。
「淫魔なんて！　大っ嫌いだーーー！！！！！」
　体の痛みと、心の恥ずかしさで爆発寸前となったレイは、大声で叫びながら力づくで淫魔を退け、
「あー、恥ずかしい恥ずかしいよぅ」
　息を荒げてその場に座り込んだ。




「じゃあ、特別授業を始めよっか」
　絵画の中に入り込んだ来栖・禊（MAD RAT・g01033）と、
「はーい！　来栖先生の特別授業！」
　咲樂・神樂（離一匁・g03059）は、すぐさま背中合わせの格好になり、
「敵の数が多いようなら、連携は大事だよ。囲まれないように、お互いの背中を守るのがいいね」
　禊はそう説明しながら、冷気のミサイルで淫魔たちを牽制する。
「先生の背中はしっかり守る。──鶱華・暴嵐桜蘭」
　神樂も桜蘭号を駆って淫魔を跳ね飛ばすが、この不思議な空間では、ただ攻撃するだけでは決定打にはならないようだ。
「素敵な先生。私にも愛の個人授業、していただけませんか？」
　禊の正面に立った淫魔は、先生に憧れる生徒を演じて、その美貌を武器に迫って来る。
「僕も愛してるよ」
　そんな淫魔の言葉に、禊は動揺すること無く冷静に受け入れると、
「君の美しい容姿も、血も骨も髪の毛一本まで全部僕のものにする」
　力強く抱きしめた。
「先生♪」
　懐に潜り込んだ淫魔は禊の急所を狙って攻撃しようとするが、
「……そしてズタズタにしちゃおう」
　それよりも早く、禊は淫魔を力任せに拘束して、その体を破壊する。
「ちなみに僕以外に愛を囁くとか、面白くないことしても壊すから」
　さらに、禊は淫魔をガチガチに凍らせ、永遠に何も囁くことの出来ない体にしてしまうのだった。
「情熱的な愛の言葉ね。参考になるわ」
　神樂はそんな禊の言葉に感動しつつ、
「あたしも愛しているわ」
　かぁいい妹の姿を思い浮かべながら、目の前の淫魔に囁く。
「あたし以外の第二ボタンを欲しがったらとってきてあげるわ！　そいつの首を！」
　そして、他の男に目を向けるなら、そいつを殺すと宣言し、
「じ、じゃあ……」
　その言葉を真に受けた淫魔は、禊に愛を囁こうとするが、
「この世でもあの世でもあなたが一番大好きよ！　他の男なんて見ないで！　愛しているわ！」
　暴走した桜蘭号に弾き飛ばされ、教室の外へと放り出されて消滅した。
「こういうの、ヤンデレっていうんでしたっけ？」
　敵を倒した神樂は、笑顔でそう言うと、
「頭が可愛い相手に、わざわざ体で教えてあげるなんて。さすが神樂ちゃんは優しいね」　
　禊は神樂の頭を撫でながら、教師も向いてるんじゃない？　と褒め倒すのだった。




●愛の形は人それぞれで
「あとちょっとだけ、淫魔の遊びに付き合ってあげよっか」
　来栖・禊（MAD RAT・g01033）は、そのまま眼鏡っ娘淫魔・リュネットに視線を向け、
「特別講習ですね？　大好きな先生のためにも……がんばります！」
　淫魔は禊に媚びるような目を向けて、彼を誘惑しようとする。
　だが、それを邪魔するように、
「うふふ、わくわくしちゃうわ！　禊って先生似合うもの」
　咲樂・神樂（離一匁・g03059）が割って入り、先生は渡さないという構えをとった。
「誰でもいいなんて、イケナイ子だね。僕以外に愛を囁いちゃダメ」
　禊はあちこち色目を使う淫魔を咎めるように指導すると、彼女は拗ねた顔で禊を見つめ、２人きりの世界に引き込もうとする。
「あなたの愛ってなんてチープなんでしょう！　かぁいらしい飴玉みたいね。そういうのもいっそ愛しいわ！　でもあなたの安っぽい愛は先生には相応しくないわ！」
　だが、神樂が淫魔の愛を薄いものだと主張し、彼女の術中に嵌りそうになっていた禊を助けた。
「もしかして、おふたりは……？」
　リュネットはそんな２人の関係を深読みするが、
「神樂ちゃんとの関係を誤解してもいいけど、僕が他人との共有で満足できるわけないじゃん」
　禊はきっぱりと否定した上で、
「それでもまだどうにかなると思うなら、口説いてみる？」
　淫魔が口説きたくなるように誘導して、彼女の隙を作り出す。
「禊の愛も──意外と、冷たい炎のように熱いのね？」
　神樂はそんな禊に突っ込みを入れながら、
「──朱華・妖華爛漫」
　太刀による斬撃で、隙を見せた淫魔の存在を断ち切ろうとした。
「……そうですか。少し、安心しました」
　だが、リュネットはその斬撃で服の一部を斬られながらも笑みを浮かべ、
「そう言う関係が一番厄介でしたので。おふたりとも存分に愛してあげます♪」
　にっこり微笑みながら、水色の光線で神樂を射抜く。
「あんたの愛も大したものね！　ま、あたしの妹へのBIGLOVEにかなうかっていったらＮＯだけど」
　神樂はなんとかその攻撃を避けて、変わらないテンションで彼女を挑発した。








「先生として、言っておかなきゃならねぇ事がある……」
　眉立・人鳥（鳥好き兄ちゃん・g02854）は、禊と神樂との戦いから一旦間をおいたリュネットの正面に立ち、
「その服装、どこからどう見ても校則違反でしょうが！！」
　びしっ。と指差して風紀の乱れを指導する。
「えっとぉ……何処が違反なのか、はっきり言ってくれませんか？」
　リュネットは申し訳無さそうな顔をしつつ、人鳥に迫って何処がイケナイのか教えてほしいと擦り寄り、
「ぐ……」
　視線を彼女に向け、乱れた服装を指差していくと、人鳥は彼女のイケナイ魅力に引き込まれてしまいそうになる。
「人鳥さん！」
　そんな彼の背後から叫ぶような声が聞こえ、人鳥は我に返って距離を取った。
「レイちゃんか！　助かったぜ、サンキューなァ」
　人鳥は声の主にお礼を言うと、
（「……俺が愛を誓う相手は常にアイネ一人。ひとりだけに」）
　愛するアイネのことだけを考え、
「アイネ！　俺に力を貸してくれ！」
　その言葉とともに、強力なエネルギーを纏った拳で、淫魔を殴り飛ばす。
「くぅ……想い人との強い絆。ですか……」
　リュネットは顔を歪めて立ち上がるが、かなりのダメージを受けているように見えた。
(「よし！　いける！」）
　人鳥はアイネへの想いを胸に、さらなる攻撃を仕掛ける。
「……アイネのこと、嫌いになりましたか？」
　だが、リュネットが人鳥の想い人の名前を出したことで、
（「アイネ！？　いや、眼鏡とぱっつんは被ってるけど……アイネの方が百億倍可愛い！」）
　人鳥が一瞬戸惑い、考えた僅かな時間を使い、
「アイネも、あなたのことが好きです！」
　自分をアイネだと偽って囁き、動揺させて体勢を立て直す。
「……アイネにされてたら尊死してた所だったぜ……！　だが、どう考えてもアイネじゃないだろ！」
　人鳥は、淫魔の卑劣な攻撃に、二度と惑わされないよう自分を奮い立たせた。

「愛を囁いて強くなる。か」
　菱神・桐梧（喧嘩屋・g05613）は、人鳥を翻弄する淫魔を見て楽しそうにつぶやき、
「今度はこっちから行くぜ！」
　一気に距離を詰め、２人の間に割って入る。
「喜んで、素敵なお兄さん♪」
　そう言って迎え撃つ淫魔に対し、桐梧は彼女の腕に鎖分銅を絡め、
「骨まで斬らせて──ブッ潰す！！」
　敢えて隙を晒しながら、淫魔の胸の中心に渾身の拳を撃ち込んだ。
「！！」
　その攻撃に、淫魔は吹き飛ばされそうになるものの、２人を繋いだ鎖が彼女を引き寄せ、
「……お兄さん。大好き」
　その反動を利用して、至近距離で熱っぽく囁きながら桐梧の手を取り、上目遣いで見つめてくる。
「好きだぜ、強い奴はな！」
　淫魔のことが好きだという感情が湧き上がる桐梧は、それを否定せずに受け止め、
「お前の愛ってのはどこまで強くなるんだ？」
　彼女の虜になりながら、益々強くなる自らの拳に嬉しくなり、淫魔の肉体に拳の痕を刻んでいく。
「あうっ……私も、もっともっと愛してあげます♪」
　淫魔も一歩も退かずに桐梧を愛おしく思い、２人は肉体と精神をお互い蝕むように攻撃を続けた。

「やっぱり、マイダーリンが一番」
　エスト・リンフィールド（挙動不審エルフ吟遊詩人系・g05947）はソードハープの感触を確かめつつ、
「残念だけど、おっぱい眼鏡淫魔ちゃんの告白は……ごめんなさいだね」
　リュネットの言葉を拒絶する。
「それとも、調律していいの？」
　エストは先ほど倒した淫魔の方へと、視線を向けて問いかけると、
「それも悪くないですが……あっ！」
　淫魔が考える隙をついて近寄り、眼鏡を奪い去った。
「はわわ……眼鏡眼鏡」
　突然のことに驚いたリュネットは、メガネを取り返すため、エストの手を捕まえようと追いかける。
「どんな風に見えるのかな？」
　エストは距離をとって逃げながら、その眼鏡を掛けてみると、
「わわっ！」
　彼女の目の前に、眼鏡がないリュネットの顔がドアップで迫ってきて、驚いて尻餅をつく。
「返してくださいー！」
　その隙にリュネットは眼鏡を取り戻すが、
「あなたの弱点は……だいたいわかった」
　エストは眼鏡を奪うふりをしてリュネットを追い詰めていった。

「何であんな格好してんのあの淫魔は……」
　レイ・シャルダン（蒼空を駆ける・g00999）は、エストと追いかけっこしているリュネットの服装に唖然として、
「どういう発想でああ言う衣装を着ようと思うの？　も～～やっぱり嫌いだぁ」
　淫魔に対する嫌悪をますます募らせる。
「斉射開始！　卑猥な標的は逃がさない」
　そして、レイは展開した魔法陣から無数の矢を放ち、淫魔を蜂の巣にしようと試みるが、
「！？」
　淫魔の反撃で、周囲に広がる甘酸っぱい思い出の情景に戸惑う。
「私なら、いつでもＯＫですよ？」
　さらに、耳元で囁くように誘ってくる淫魔の声に流されそうになった。
（「だめだめだめだめっ！」）
　しかし、レイは好きな人の顔を思い浮かべ、その気持ちをなんとか否定すると、
「私は迷ったりなんかしなーい！」
　絵画の前で誓った言葉を思い出して叫ぶ。
「まっすぐ！　好きを貫くんだからーーー！！！」
　開き直って想い人への気持ちを口にすると、その力を得た彼女の矢の雨が淫魔に降り注ぎ、
「……だい、好き。だよ」
　偽りの愛を口にし続けた淫魔を滅ぼした。
「…………！！！」
　だが、レイは恥ずかしさのあまりその場にうずくまって、しばらく言葉にならない叫びをあげるのだった。

最終結果:成功
完成日	2022年01月13日