おいしゃさまへ……(作者 土師三良
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#断頭革命グランダルメ  #断頭台の罪人を救え  #1802年 

●断頭革命グランダルメにて
 その巡回刑吏はとても有能だった。
 町にやってきたその日のうちに罪深き者を見つけ出し、捕らえ、裁判にかけたのだ。
「死刑!」
「死刑!」
「死刑!」
 町の中央広場。尖塔の足下に設けられた断頭台の傍で巡回刑吏は刑を宣告した。
 三人分の声が響いたのは、その巡回刑吏が三つの顔を有しているから。
 阿修羅像のごとき三面六臂の自動人形なのである。
 多くの住人たちが集まり、死刑が宣告される様子を眺めていた。断頭台の三方にはトループス級の自動人形たちが並び(残る一方は尖塔に面していた)、目のない顔で睨みを利かせている。住人たちが反抗的な態度を示せば、その手にある銃が火を噴くかもしれない。住民たちもそれは重々承知なのだろう。誰も巡回刑吏に異議を唱えようとしない。
 ただ一人、刑を宣告された当人を除いて。
「なぜ、私が罰せられなくてはいけないのですか!?」
 手枷をはめられて三面六臂の巡回刑吏の前に立つその『当人』は、いかにも知識階級といった雰囲気の四十がらみの男だった。
「ギュスターヴ・ゲンズブールよ」
 巡回刑吏の顔の一つが男の名を口にした。感情を微塵も表さずに。
「おまえは町一番の名医であり、また仁医としても評判だったそうだな。貧しき者には雀の涙ほどの医療費しか請求せず、時には無料で診察や治療をすることもあったとか……しかし、それは罪だ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 経済的に困窮している人に救いの手を差し伸べることがどうして罪なのですか!?」
「あなたが心優しき人であることはよく判っています」
 と、巡回刑吏の別の顔が言った。はらはらと涙を落としながら。
「しかし、優しさと正しさは同義ではありません。医者ならば、すべての命を公平に扱うべきです。にもかかわらず、あなたは貧しき者だけを特別扱いしました。それは許されないことです」
「そのとおり!」
 と、三番目の顔が怒鳴った。
「相手が誰であれ、等しく金を取れ! それができなければ、誰からも金を取るな!」
「そ、そんなの無理に決まってますぅ」
「無理ではない。これは道理である。道理を通せば、そこに無理が入り込む余地はない」
 と、最初の顔が言い切った。
 そして、遠巻きに眺めている住人たちに告げた。
「本日正午、ここでゲンズブール医師の死刑を執行する。ゲンズブール医師に一度でも診てもらったことがある者は皆、その死を見届けよ。来なかった者は彼の精神的共犯者と見做し、相応の罰を科す」
『相応の罰』もまた死刑なのだろう。

●新宿駅グランドターミナルにて
「このパラドクストレインの行き先は『断頭革命グランダルメ』だ」
 パラドクストレインの車内に足を踏み入れたディアボロスたちにそう告げたのはインクセティアの精悍な青年。
 時先案内人の李・令震である。
「バスチーユ監獄では連日のように断頭台の処刑がおこなわれていたが、ディアボロスが囚人たちを脱走させたことによって、事態はとりあえず収束した。しかし、それはバスチーユ監獄に限っての話だ。地方の小さな町にはまだ断頭台が残っており、クロノヴェーダが罪なき人々を処刑している」
 令震の今回の予知もそのケースである。とある町でギュスターヴ・ゲンズブールという医師が処刑されるのだ。
「そのギュスターヴって奴は医者にしては人が良いらしく、貧乏人からはあまり金を取らなかったそうだ。しかし、クロノヴェーダに言わせると、それは罪なんだとさ。『すべての患者を公平に扱い、正当な料金を請求せよ』ってことらしい。まあ、一理あるような気がしないでもないが、死刑といういうのはやり過ぎだよな」
 もちろん、クロノヴェーダは『やり過ぎ』だと承知の上でやっている。不条理な死刑宣告をすることで(そして、執行するまで半日もの長い時間を取ることで)、処刑にかかわる人々から得るエネルギーを増やそうとしているのだ。

「というわけで、処刑がおこなわれる前にクロノヴェーダを倒し、ギュスターヴを救ってやってくれ。それと……できれば、町の住人たちにも働きかけてくれ」
 ギュスターヴに世話になった住人は沢山いるのだが、彼を助けようとしている者は一人もいない。皆、クロノヴェーダを恐れているのだ。町にはギュスターヴ以外の医者もいる――つまり、『ギュスターヴが死んでも無医村にはらない』という理由もあるだろう。
「いきなりクロノヴェーダを倒して事件を解決してしまったら、ギュスターヴと住人たちの間にわだかまりが残るかもしれない。だから、処刑の場に集まった住人たちに発破をかけ、勇気を呼び覚ましてやってほしい。クロノヴェーダに向かってギュスターヴの助命を訴えられるだけの勇気を……」
 そう、住民は訴えるだけでいい。
 後の荒事はディアボロスの担当だ。

「住民たちがいる場所で戦うことになるだろうから、彼らを守ったり、あるいは避難させたり、あるいは敵の注意を自分に引きつけたりすることも考えておいたほうがいいかもな」
 そう忠告した後で、令震は力強い声で宣言した。
「では、行くぞ!」
 パラドクストレインが走り始めた。

●断頭革命グランダルメにて
 町の安酒場で男たちがくだを巻いていた。
「そろそろ、広場に行くか。あとちょっとで処刑の時間だし……」
「しっかし、ギュスターヴ先生も気の毒だよな」
「確かに気の毒だが、どうしようもねえよ」
「うん。どうしようもない、どうしようもない」
「こうなったのも――」
 男の一人が怒りを吐き出した。
 ただし、その怒りの対象はクロノヴェーダではない。
「――先生の好意に甘えていた貧乏人どものせいだ!」
「俺は貧乏だが、ちゃんとツケで払ってたぞ。でも、ギャエルんとこは何度もタダで診てもらってたよなぁ?」
「しょうがねえだろ。俺はおまえと違って独りもんじゃねえから、いろいろと大変なんだよ」
「女房子供を言い訳にすんな! てゆーか、『いろいろと大変』とか言ってる奴が昼間っからこんな場所で飲んでんじゃねえよ!」
「お、ま、え、も、なぁーっ!」
 店を出て広場に向かう間も皆は罵り合いを続けていた。
 心の中で罵っている相手は、無力な自分自身だったが。


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●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【強運の加護】
1
幸運の加護により、周囲が黄金に輝きだす。運以外の要素が絡まない行動において、ディアボロスに悪い結果が出る可能性が「効果LVごとに半減」する。
【託されし願い】
1
周囲に、ディアボロスに願いを託した人々の現在の様子が映像として映し出される。「効果LV×1回」、願いの強さに応じて判定が有利になる。
【勝利の凱歌】
2
周囲に、勇気を奮い起こす歌声が響き渡り、ディアボロスと一般人の心に勇気と希望が湧き上がる。効果LVが高ければ高い程、歌声は多くの人に届く。
【友達催眠】
1
周囲の一般人を、誰にでも友人のように接する性格に変化させる。効果LVが高いほど、昔からの大切な友達であるように行動する。
【プラチナチケット】
1
周囲の一般人が、ディアボロスを関係者であるかのように扱うようになる。効果LVが高い程、重要な関係者のように扱われる。
【トラップ生成】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の空間を、非殺傷性の罠が隠された罠地帯に変化させる。罠の種類は、自由に指定できる。
【壁歩き】
1
周囲が、ディアボロスが平らな壁や天井を地上と変わらない速度で歩行できる世界に変わる。手をつないだ「効果LV×1人」までの対象にも効果を及ぼせる。
【植物活性】
1
周囲が、ディアボロスが指定した通常の植物が「効果LV×20倍」の速度で成長し、成長に光や水、栄養を必要としない世界に変わる。
【水面走行】
1
周囲の水面が凪ぎ、ディアボロスが地上と同様に走行や戦闘を行えるようになる。ディアボロスと手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人も同行可能。
【温熱適応】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」が、クロノヴェーダを除く全ての生物が、気温摂氏80度までの暑さなら快適に過ごせる世界に変わる。
【口福の伝道者】
1
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。
【ハウスキーパー】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の建物に守護霊を宿らせる。守護霊が宿った建物では、「効果LV日」の間、外部条件に関わらず快適に生活できる。

効果2

【命中アップ】LV2 / 【ダメージアップ】LV2 / 【ガードアップ】LV4 / 【凌駕率アップ】LV1 / 【アクティベイト】LV1 / 【ドレイン】LV1 / 【アヴォイド】LV1 / 【ダブル】LV2

●マスターより

土師三良
 土師三良(はじ・さぶろう)です。よろしくお願いします。

●このシナリオの概要
 無実のお医者さんが町の広場で処刑されそうになっています。広場にいる町の住人たちに勇気を奮い起こさせた後、クロノヴェーダを倒して、お医者さんを助けてください。
 潜入等のプレイングは必要ありません。普通に広場まで行けます。
 住人たちに一切かかわることなくクロノヴェーダを倒すこともできますが、その場合、事件解決後の住人たちとお医者さんとの間の空気がなんか「どよ~ん」とした感じになっちゃうかもしれません。

●お医者さんについて。
 名前はギュスターヴ・ゲンズブール。ちょっと意識高い系入ってるかもしれないインテリゲンチャのヒューマニスト。専門は内科ですが、簡単な外科手術をしたり、虫歯を抜いたり、お産の手伝いをしたりする他、子供たちに字の読み書きを教えたりもしています。
「GG」と書くと、プレングの字数を節約できます。

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。
85

このシナリオは完結しました。



発言期間は終了しました。


リプレイ


塞河・みやび
タダより高い物はない、という言葉がある。
なるほどGGは大罪人であるの。
貧乏人に高~い謝礼を突き付けたのじゃからな。

いやいや、それは話が逆なのじゃ。
何故なら医者は押し売りせん、嫌なら治療はしなくてよいのじゃ。
そこに付け入った客にまず問題がある。

『すべての医者を公平に扱い、正当な料金を支払え』
こうじゃろ?
大罪人がどちらであるかは明白なのじゃ。
感謝の気持ちがあれば金を出すべきである。

なに、金がない?
では今こそツケを払う時ではないかの?
タダより高い物はないわけで。
おぬしらはタダでも声をあげるべきなのじゃ。

いやあ。
「金はまだ払ってないだけ、いつか払う」
とか皆で言うだけでも口実はなくなる気もするのじゃ~。


獅子城・羽鳥
囚人をいつでも庇える位置で
革命歌の歌詞の反革命勢力を大陸軍に置き換え《演奏・歌唱》で敵を挑発

革命が起きたのは貧しい者から金を取りたくなかったからだろ
一部の裕福な貴族や僧侶が無課税で、貧しい民衆から税を取るのがおかしかったという理由すら知らんのかエセジャコバンのガラクタ
いや、この先生みたいな慈善家は革命関係なく称えられる筈だろ

殆ど無償でこの先生に世話になっておきながら肝心な時に助けないなんて
革命前の一部の腐れ貴族と同じだ
皆も勇気を出せ!

告発すべきは自称革命家の処刑人形であって
町民同士で争ってる場合じゃない
日頃の恩を返す時は今だ
こいつらは俺達が断頭台ごと処刑しとくから
さっさと先生を助けて避難しろ!


十六夜・ブルーノ
不平を口にしたら多分死刑判決だからね
言葉に出来ないのも判る
彼らも
そんな自身を不甲斐なく思っているはず

GGくんの助命を願うことは
即ち彼らに希望を届けることになるね
そう俺達の出番だ
行こう、ドゥー

ブズーキを奏でながら広場へ
【勝利の凱歌】だ

GGくんに恩や感謝があるのなら言葉にすべきだよ
最後の機会かも知れないんだから

勇気をもってさあ伝えよう
ありがとうGG!

この感謝の言葉だけでも
GGくんの気持ちは救われるんじゃないかな

そしてきっと感謝を口にしている内に
助けてあげたい!って思いが
未来への希望が皆の心に溢れてくるはず
GGソングで背中を押そう

皆大好きGG!
爺さんじゃないけどGG!
GGを助けよう~♪
死刑撤回!


ミシェル・ロメ
敵の目的はきっとギュスターヴさんの処刑だけじゃない
奴が殺そうとしているのは「この町の住民全員の心」
疑心暗鬼に陥り、互いを疑い、些細な罪を告発して密告しあえば
理不尽に処刑される人は今後も増え続ける
こんなこと……僕は見ていられない

お金の無い人は満足な治療を受けさせないなんて
「貧乏人は死ね」と言うに等しい
それは別の意味で不平等ではないのですか?

足りないお金は後で返すことも出来ます
でも、健康な身体がなくては働いて糧を得ることもできない
そして……万が一にも命を失うことになれば、その人は二度と戻らない
本当に、それがあなた方の望みなのですか?

思い出してください
本当に大切なものが何なのかを
どうか僕たちを信じて


●序幕
 荒れた街道の横にJR山手線の車両に似た列車が停まっていた。
 しかし、そこにはレールなど敷かれていない。
 異様な光景ではあるが、その列車がパラドクストレインとなれば、話は別だ。
「うーん! 田舎だけあって――」
 車両側面に並ぶ黄緑色の扉が一斉に開き、ディアボロスたちが次々と降り立った。
「――パリよりも空気がうまいのう」
 大きく伸びをしたのは塞河・みやび(さいかわみやびちゃん・g04329)。齢百に達する妖狐である。
「ジャコバンモドキのガラクタに吸わせるにはもったいない空気だな。自動人形が呼吸しているかどうかは知らんが……」
 左腕に楽器を装着した金髪のサイボーグ――獅子城・羽鳥(メタリックトルバドゥール・g02965)が街道の先を見やった。
 そこにぽつんと立っているのは小さな街。
「きっと、羽鳥さんが言うところの『ジャコバンモドキのガラクタ』の目的はギュスターヴさんの処刑だけじゃありません」
 ミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)もまた街に目を向けた。彼は羽鳥と同じく金髪の西洋人であり、楽器を持っているということも共通していたが、年齢はずっと若い。まだ十三歳だ。
「奴が殺そうとしているのは……あの町に住む人たち全員の心」
 フランス革命の幕が切って落とされた年に生を受けた(と同時に教会の前に捨てられた)少年は確信を込めて呟いた。
「たぶん、それは本人たちも判ってるよ」
 と、十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)が悲しそうに言った。この少年も楽器を携えている。ブズーキ型の魔楽器だ。
「でも、下手なことを言うと、心を殺されるだけでは済まない。命まで奪われてしまう。だから、なにも言わない……いや、言えないんだろうね」
 ブルーノはブズーキを軽く爪弾くと、町に向かって歩き出した。
「きっと、そんな自分のことを彼らは不甲斐なく思っているはずだよ」

●塞河・みやび(さいかわみやびちゃん・g04329)
 町の広場には、蔦紅葉に覆われた尖塔……と呼べるほどには尖っていないずんぐりむっくりした塔が建っておった。
 その塔の周りに老若男女が集まり、なにかを見ておる。
「ちょっと通らせてもらうぞー」
 人だかりをかきわけて他のディアボロスたちとともに前へ前へと進んでいくと、やがて目の前が開けて、その『なにか』が見えた。
 断頭革命グランダルメでおなじみの断頭台。尊大そうな三面六臂の自動人形。手枷をはめられて、その自動人形の前に跪かされておる男。そして、それらを背にして並び、目鼻のない顔を住人たちを向けているトループス級の自動人形たちじゃ。
「静粛に! 静粛に!」
 ドン! ドン! ドン! ……と、三面六臂の自動人形が木槌を鳴らした。ちなみに声を発したのは泣き顔の面じゃ。
「あの顔はなんで泣いてるんだろうね?」
 ブルーノが疑問を口にした。
「さあ?」
 と、ミシェルが首をかしげた。
「なんにせよ、本物の涙じゃなくて、ただの水でしょうね。機械人形ですから」
「『静粛に』って言ってるじゃないですかぁーっ!」
 泣き顔の面がミシェルとブルーノを注意した。二人とも小声で話しとったんじゃが、しっかり聞こえとったらしい。
「これより『ムッシュ・ド・ジャコバン』の名において、ギュスターヴ・ゲンズブールの斬首刑を執行する」
 と、三面の一つ――無表情な面が宣言した。
「念のために確認しておくが、異議申し立てをする者はいるか?」
 怒りの面が住民たちにそう問いかけて――
「よし! いないな!」
 ――一秒の間も置かずに結論を出した。
 横暴にも程があるのう。しかし、まあ、仮に一刻の……いや、一日の間を置いたとしても、誰も異議を唱えたりはせんじゃろうな。
 ただし、このみやびちゃんを始めとするディアボロスを除ぉーく。
「ちょっと待ってください!」
 ほうら、ミシェルが声をあげたぞ。
「なんだ、貴様は! 異議があるのか!?」
 自称『ジャコバン』の自動人形は首をクルッと回転させ、怒りの面でミシェルを睨みつけた。
「ひっ!?」
 と、情けない声を出したのはミシェルではなく、近くに立っていた住人じゃ。そいつは後ずさるようにしてミシェルから距離を置いた。他の住人たちもな。
 ミシェルの傍に残ったのは羽鳥とブルーノとこのみやびちゃんのみ。
 いや、サーヴァントもおったな。オラトリオのリリコとメーラーデーモンのドゥーじゃ。

●十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)
 ぎろりと睨んでくる怒りんぼジャコバンに怯むことなく、ミシェルは論戦を仕掛けた。
「富める者も貧しき者も平等に扱うこと――それをあなたは求めているそうですね?」
「そのとおり」
 と、澄まし顔ジャコバンが頷いた。
「でも、ギュスターブさんが……いえ、ギュスターブさんだけじゃなくて、この世界の善意ある人たちが誰に対しても『平等』な態度を取ったら、お金のない人たちは満足な治療を受けることができなくなりますよ」
「それは刑法の関知するところではなぁーい!」
 怒りんぼジャコバンが吠えた。取り付く島もないって感じ。
 その剣幕に驚いたのか、リリコがびくりと体を震わせたけども、ミシェルは追及をやめなかった。
「つまり、『貧乏人は死ね』というんですか? それは別の意味で不平等ではないのですか?」
「ああ!」
 と、泣き虫がジャコバンが嘆きの叫びを発した。あいかわらず、ぽろぽろと涙をこぼしてる。涙用のタンクが空にならないのかな?
「あなたの言いたいことはよぉーく判ります。しかし、ゲンズブール医師を放免することはできません。秩序ある国家を維持するためには情よりも法を優先しなくてはいけないのです」
「その法がまともに機能してないって話だろうが」
 と、羽鳥さんが議論に加わった。
 そして、更に言葉を続ける……かと思いきや、左腕に装着していたソードハープを展開し、いきなり弾き語りを始めた。
 それは軽快で勇ましい楽曲だった。歌詞の内容はちょっと物騒だけどね(『おまえの女房子供の喉を掻き切る』とかなんとか……)。
 突然の出来事に住民たちはぽかんとしている。
 ジャコバンも呆気に取られてたけど、やがて我に返って、泣き虫ジャコバンが木槌を何度も打ち鳴らし、怒りんぼジャコバンが声を張り上げた。
「静粛に! 静粛に! ただちに演奏をやめないと、法廷侮辱罪処刑と見做して処刑するぞぉーっ!」
 退場じゃなくて処刑というのがまたグランダルメらしい。その叫びの残響が消えぬうちに羽鳥さんは歌うのをやめた。でも、警告に従ったわけじゃないよ。最後まで歌い切っただけ。短い歌だったからね。
「なんなのじゃ、今の歌は?」
 みやびさんが怪訝そうな顔をしてる。
「この国の革命歌だ。新宿島の時代には国歌になってるそうだがな」
 ソードハープを折り畳みながら、羽鳥さんはそう言った。
 そして、ジャコバンに背を向けて、町の人々を見回した。
「改竄された過去でもこの革命歌が歌われていたのかどうかは知らないが……革命の熱気は覚えているだろう?」
 人々の返答を待たずに振り返り、視線を再びジャコバンへ。
「そもそも、あの革命が起きたのは、免税特権を持つ上流階級の奴らを打ち倒し、貧しき民衆を救うためじゃなかったのか? その時の理念に沿って判断するなら……いや、理念抜きで判断しても、この先生のような人物は称賛されてしかるべきだろう」

●ミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)
 羽鳥さんは『貧しき民衆を救う』云々と言いましたが、実際のところ、我が国の市民革命は綺麗事だけで語れる代物ではありません。最終人類史においても、改竄された歴史においても……。
 でも、ムッシュ・ド・ジャコバン(なんとも露悪的な名前ですね)は羽鳥さんの主張に動揺しているみたいです。色々と反論したいのでしょうけれど、革命を否定するようなことを言うのは憚りがあるのかもしれません。革命を礎としている国家に仕える立場ですから。
 町の人々もざわつき始めました。市民革命の実状は知らずとも、羽鳥さんが言ったように当時の熱狂は覚えているのでしょう。それすらも改竄によって生じた虚構の記憶かもしれませんが。
 その反応を背中で感じ取ったのか、羽鳥さんはムッシュ・ド・ジャコバンを見据えたまま、厳しい声で人々に問いかけました。
「無償でこの先生の世話になっておきながら、肝心な時にはだんまりを決め込んで逃げるのか? それじゃあ、革命が起きる前の腐れ貴族どもと同じだぞ!」
「静粛に! 静粛に!」
 叫ぶ羽鳥さんとざわつく人々を怒り顔のムッシュ・ド・ジャコバンが叱りつけました。例によって、泣き顔のムッシュ・ド・ジャコバンによる木槌の伴奏付き。
 木槌とは別の音も聞こえてきました。
 ブルーノさんがブズーキを弾き始めたのです。こちらはドゥーくんによる郵便ラッパの伴奏付き。
「たとえ、ギュスターヴさんを助けることができなくても――」
 ムッシュ・ド・ジャコバンの怒鳴り声を涼しげな顔で聞き流して、ブルーノさんは人々に語りかけました。
「――彼に恩義を感じているのなら、それを言葉にすべきだよ。最後の機会かも知れないんだからね。さあ、勇気をもって伝えよう!」
 そして、歌い出しました。

「ギュスターヴ・ゲンズブール、略してGG

 お爺さんじゃないけど、GGだ

 みんな大好き、GG

 さあ、感謝の言葉を届けよう

 GG、GG、ありがとう」

 処刑の場に相応しからぬ陽気な歌ですね。ドゥーくんも乗りに乗って郵便ラッパを吹いてますし、リリコもリズムに合わせて体を揺らしています。
 もちろん、ムッシュ・ド・ジャコバンは黙ってはいませんでしたが。
「静粛に! 静粛に! 静粛にぃーっ!」
 怒り顔はヒステリックに喚き散らし、泣き顔は涙ながらに木槌を叩いています。羽鳥さんの時と同じ反応ですね。芸がない。
 ブルーノさんは素直に歌うのをやめましたが、だからといって静寂が訪れたわけではありません。ドゥーくんがじっくりと時間をかけて情感たっぷりに終奏部を吹いているから……だけではなく、ブルーノさんの歌に背中を押されたであろう人々がギュスターヴさんに声をかけているからです。
「ゲンズブール先生!」
「ごめんよー!」
「すまねえ……本当にすまねえ……」
 歌で促されたのは『感謝の言葉』ですが、人々が口にしているのは謝罪の言葉。
 皆が謝り、そして、泣いています。
 泣き顔のムッシュ・ド・のそれとは違う、本物の涙。

●獅子城・羽鳥(メタリックトルバドゥール・g02965)
「愁嘆場に水を差すようじゃが――」
 少しばかり意地の悪い微笑を浮かべて、みやびが市民たちに話しかけた。
「――ギュスターヴに感謝する必要があるのかのう? ほれ、昔から『タダより高いものはない』と言うではないか。つまり、ギュスターヴは貧乏人に高ぁ~い謝礼を要求しておったということじゃ。なるほど、大罪人であるのう」
「ま、待ってください! 私はそんなつもりは……」
 と、自動人形たちの隊列の向こうでギュスターヴが反駁しようとしたが、みやびはそれを目顔で制止した。
「しかーし! よくよく考えてみると、話が逆じゃ。べつにギュスターヴが治療を押し売りしたわけでなし。彼奴の好意につけこんだ患者たちのほうに問題があるような気がするのう。おぬしは――」
 びしりと指さした相手はジャコバンだ。
「――『すべての患者を公平に扱い、正当な料金を請求せよ』と言いたいようじゃが、それは誤り。正しくは『すべての医者を公平に扱い、正当な料金を支払え』じゃろ? 大罪人がどちらであるかは明白なのじゃ」
 そして、みやびは『大罪人』たる市民たちをねめつけた。
「その罪を拭いたくば、きっちりと金を払えい」
「そりゃあ、できれば払いてえよ! でも、こちとら文無しなんだ!」
 市民の一人――貧しい身なりをした中年の男が情けない声で言い返すと、みやびはにっこりと笑ってみた。先程のような意地の悪い笑みではない。
「では、今こそツケを払う時ではないかのう? タダより高い物はない……そう、おぬしらはタダでも声をあげるべきなのじゃ」
「……」
 男はもうなにも言い返さなかった。
「まあ、皆で『金はまだ払ってないだけ、いつか払う』と言うだけでも、ギュスターヴを処刑する口実はなくなるような気がするがのう」
「そうですね」
 と、みやびのフォローめいた発言にミシェルが頷いた。
「足りないお金は後で返すこともできます。でも、健康な身体がなくては、働いて糧を得ることもできません。そして……万が一にも命を失うことになれば、その人は二度と戻らない」
 ミシェルは少し俯いて――
「二度と……戻らない……」
 ――と、静かに繰り返した。『二度と戻らない』誰かのことが胸中に過ぎっているのかもしれない。
「それがあなたがたの望みなのですか?」
 ミシェルは顔を上げて、市民たちにそう問いかけた。
「思い出してください。本当に大切なものがなんなのか……」
 音楽が流れ始めた。
 ブルーノが再びブズーキを弾き始めたんだ。
 その音楽に歩調を合わせるようにして、市民たちが歩き出した。
 一言も発することなく。
 断頭台の傍でふんぞり返っているジャコバンに、その前に跪かされているギャスターヴに、それを背にして並ぶトループス級たち向かって……。
「なんだ!? なんの真似だ!? 止まれ! 止まらんかー!」
 憤怒の面が喚き、哀切の面が木槌を鳴らし、感情なき面が不気味な眼差しを突き刺してきても、市民たちは前進を続けた。
「えーい! これは法廷侮辱罪どころではない! 国家反逆罪だぞ! この場で銃殺されたいか!」
 憤怒の面の叫びに応じてトループス級たちが一斉に銃を構えた。
 さすがに市民たちは足を止めた。
 だが、逃げ出す者はいなかった。
 一人もいなかった。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【友達催眠】LV1が発生!
【勝利の凱歌】LV2が発生!
【口福の伝道者】LV1が発生!
効果2【アクティベイト】LV1が発生!
【ガードアップ】LV2が発生!
【凌駕率アップ】LV1が発生!

●幕間
 ムッシュ・ド・ジャコバンを背にかばい、銃を構えて半円状に並ぶトループス級の自動人形たち。
 それを取り囲む徒手空拳の市民たち。
 一触即発の睨み合いが続く中、一体のトループス級が振り返り、ギュスターヴに銃口を突きつけた。元凶(?)たる彼をとりあえず始末しておこうと思ったのだろう。
 しかし――
「待てぇーい!」
 ――怒れるジャコバンがトループス級を止めた。
「ゲンズブール医師を撃ってはいけません」
 嘆きのジャコバンが言った。
 続いて、無表情のジャコバンが口を開いた。
「一度でも斬首刑を宣告したからには、絶対に断頭台にかけねばならない。そう、絶対にだ。それ以外の方法で殺すことはこの国の法にも私の美学にも反する」
 融通の利かぬ自動人形であった。
 
ミレイ・ドリムータ
演説とかは得意じゃないけど、戦闘だったらアタシも力になれるわ。
しかし自動人形って奴はどこまでも融通が利かないね。
だったらそこにこちらの勝機があるかな?

市民とGGを守ることを最優先にする
銃使いの自動人形なら、きっと接近戦には弱いと見た。
敵が銃を投げつける前に【ダッシュ】で近づき、【グラップル】で組みついいて銃を奪い捨てたら、【我流・アルマーダ】を丸い頭目掛けて叩き込むよ。

絡み・アドリブ歓迎


十六夜・ブルーノ
銃を持つ自動人形に立ち向かうなんて
普通できることじゃない
本当に感動した
絶対に守り抜こう、ドゥー

ここは任せてGGを連れて逃げて
俺達なら大丈夫

自信たっぷりに不敵に笑い
逃げる住民よりも俺達へ注意を向けないと
って思ってもらいたいな

勿論それだけじゃない
旋律から具現化する英雄たちがいる
当然、住民達やGGの姿だ
幻影ってすぐに判るだろうけれど
ちょっと混乱するよね

英雄たちがGGソングをBGMに乱闘を仕掛ける
GG!

演奏しながらステップを踏んで動き回り
一斉射撃を防ぐ
更に銃口の向きから射線を捉えて躱す
仲間に当たるよ?

人形撃破後もGGソング【勝利の凱歌】
皆の心に勇気と希望の炎が燃え続けるよう応援する

出番ですよ、ムッシュ


獅子城・羽鳥
市民諸君の勇気に応えて全員、しっかり守るか


味方の不利になる行動はしない
《臨機応変・早業・幸運》活用
一般人をディフェンス

革命歌のメロディで敵を愚弄する《歌唱》でヘイトを自分に集めつつ
透明な鋼糸を張り巡らし《捕縛》
敵の攻撃は装備武器で受け止め《忍耐力・情熱》で凌ぐ

避難完了後は《一撃離脱・ダッシュ》に切り替え
《不意打ち・投擲・貫通撃・制圧射撃・爆破》で《暗殺》
反撃のボムは懐に潜り込んでやり過ごす

こんな意味↓

泣いたり怒ったり喚くガラクタは
フーキエ・タンビル程冷たく成れぬ
ならば下劣なエベールを目指しとけ♪
酷使されるマダム・ギロチンは泣く
コルシカのチビに生まれたのは罪じゃないけど
女性を泣かせるのは死刑♪


ミシェル・ロメ
ムッシュの頑迷さは決して僕たちとは相容れないものですが、今回ばかりは彼のその性質に助けられたようです
ほんの一瞬でもギュスターヴさんが命拾いをする時間を稼げたのですから

今こそ僕たちも、市民の皆さんの勇気に報いる時です
ここは僕たちに任せて、皆さんはギュスターヴさんと安全な場所へ

勝利の凱歌を背に【無限の翼】を広げ飛翔
敵が仲間の弱点をついてきたら全速力で庇うように立ちふさがり
裁きの光輪を解き放ち、敵の目を眩ませ打ち据える(光使い)

こことは違う街で僕は見た
淫魔に心奪われた人々が自動人形に変えられてゆくのを
もしかしたらこの人形たちも…
迷うな。迷えば今ここにいる人々も救えなくなる
今は唯、悲劇の連鎖に終止符を


塞河・みやび
あくまで法に則るとは見上げた奴なのじゃ!
その心構えは誉めてあげてもいいのじゃ~。
ついで裁判が終わるまで攻撃を停止……だめかの?

何はともあれ【時間稼ぎ】が必要そうなのじゃ!
みやびちゃんガーデンで光の花弁とかを舞わせて、民衆の姿を隠したり、敵の目っぽい所を塞いだりするのじゃ。
【オーラ操作】すれば、あつあつ【火炎使い】攻撃や、びりびり【電撃使い】攻撃の【気絶攻撃】効果も期待できるじゃ!
この辺は状況に応じて【臨機応変】にやるのじゃ~。
敵の攻撃は花弁を集めてオーラの壁にするとか、板っぽいものを具現化して防ぐとか、そんな感じで防御しそうなのじゃ。


●獅子城・羽鳥(メタリックトルバドゥール・g02965)
「あくまで法に則るとは見上げた奴なのじゃ! その心構えは誉めてあげてもいいのじゃー」
 先生への発砲を制止したジャコバンに向かって、みやびが微笑んでみせた。百万フランの笑顔ってところか。
「ついでに裁判が終わるまで攻撃を待ってくれたりとか……ダメかの?」
「ダメ!」
 憤怒の面が速答。さすがは法の体現者(気取り)だ。百万フランでも買収されないらしい。
「ならば、しょうがないのう」
「ここは僕たちに任せて、皆さんはギュスターヴさんと安全な場所へ!」
 悠然と身構えるみやびの横でミシェルが市民たちに指示した。天使の翼を広げながら。
 市民たちも身構えたが、みやびと違って、悠然には程遠い。皆、鼻息を荒くしている。革命の再現か。
「静粛に! 静粛に! 全員、そこを動いてはなりませぇーん!」
 哀切の面が木槌を連打した。
 銃を構えたトループス級の自動人形どもが一歩だけ前進。半円の陣が一回り大きくなった。
 目鼻のない顔から発せられている殺気も大きくなったが、市民たちを抑えつけるにはまだ足りない。
 もちろん、ディアボロスを抑えつけることだって、できやしない。
「一般人の説得とかは得意じゃないんだけど、こういう状況だったら――」
 すたすたと敵の戦列に近付いていったのは、水着か下着かというほどに露出度の高い衣装の上にジャケットをだらしなく羽織った少女。
 バウンサーのミレイだ。
「――アタシも力になれるわ」
 言い終えた時にはもう『すたすた』という歩調ではなくなっていた。
 一体の自動人形がミレイめがけて銃を投げようとした。そう、撃とうとしたんじゃなくて、投げようとしたんだ。おそらく、パラドクスを使うためだろう。敵に投げつけた銃を別の銃で撃って爆発させる――そんなパラドクスを使う同型の自動人形どもをベルサイユ宮殿やバスチーユ監獄で見たことがある。
 しかし、銃が宙を舞うより先にミレイが距離を詰め、自動人形に組み付いた。

●ミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)
 自動人形の手から銃が離れました。
 しかし、銃を投げつけたわけではありません。ミレイさんに手首を掴まれた拍子に落としてしまったのです。
「食らいなっ!」
 敵にほぼ密着した状態から後ろ回し蹴りを放つミレイさん。
 その華麗な攻撃が決まった次の瞬間、様々な声や音――『にゃあ!』という可愛い鳴き声、勇壮な楽の調べ、人々の喚声、沢山の銃声が続けざまに響き、広場は混乱に包まれました。
 順を追って説明しますと……『にゃあ!』と鳴いたのは、シルクハットをかぶってステッキを持ったスフィンクス。ミレイさんのサーヴァントのデュークくんです。ミレイさんの傍を飛んでいた彼(たぶん、『彼女』じゃないですよね?)は急降下して、自動人形が落とした銃をステッキで弾き飛ばしました。他の自動人形に拾わせないためでしょう。
 続いて聞こえてきた勇壮な調べの発生源は、ブルーノさんのブズーキとドゥーくんの郵便ラッパです。ブルーノさんたちは先程も演奏を披露してくれましたが、今回のそれはただの音楽ではありません。英雄の幻影を召喚するパラドクス『ヒロイックシンフォニー』です(なぜ判ったのかというと、僕も同じパラドクスを使えるから)。
 現れ出た幻影たちは、ギュスターヴさんや町の人々の姿をしていました。見返りを求めずに貧しい人を助けてきた医師と、危険を省みずに彼を救おうとした市民……なるほど。『英雄』と呼ぶに相応しい存在ですね。
 喚声をあげて自動人形に襲いかかる幻影たち。
 銃を発砲して迎撃する自動人形たち。
 その様子を僕は空から見下ろしていました。ミレイさんが蹴りを放つのとほぼ同時にリリコと一緒に飛翔したので。
 もちろん、文字通りの高みの見物で終わるつもりはありませんが……しかし、戦闘に加わることに抵抗がないと言えば、嘘になります。かつて、イタリアの小さな農村で見てしまったから。淫魔に心奪われた人々が自動人形に変えられてゆく様を。
 もしかしたら、眼下で発砲している自動人形たちも……。
 いや、迷うな! 迷ってしまえば、ここにいる人々も救えなくなる。今はただ――
「――悲劇の連鎖に終止符を!」

●ミレイ・ドリムータ(空虚と向き合う少女・g01550)
「ギュスターヴ・ゲンズブール、略してGG

 お爺さんじゃないけど、GGだ

 みんな大好き、GG

 さあ、感謝の言葉を届けよう

 GG、GG、ありがとう」

 ブルーノの歌声と演奏が流れる中、アタシは新たな自動人形に狙いをつけてダッシュした。飛び道具ってのは脅威ではあるけども、接近戦に持ち込めば、こっちのもん。銃が火を噴く前に間合いを詰めて、我流でアレンジしたアルマーダ(カポエイラの蹴り技のことだよ)を丸顔に打ち込んでやった。
 アタシだけじゃなくて、ブルーノのパラドクスで召喚された幻影たちも自動人形どもを相手に暴れ回っている。
 幻影の元になった市民の皆々様も奮闘中。もっとも、戦ってるわけじゃない。敵の戦列をすり抜けて、断頭台の傍にいるギュスターヴを救出しようとしてるんだ。
 自動人形どもは幻影たちに邪魔されて、市民たちの行動を止めることができずにいる。というか、本物と幻影の区別がつかなくて混乱してるみたい。それがブルーノの狙いだったんだろうね。
 ……と、思っていたら、視界の隅っこのほうで一体の自動人形が本物の市民に銃を向けやがった。勘がいいのか? それとも、出鱈目に狙った相手がたまたま本物の市民だったのか?
 アタシはその自動人形のところに突っ込んでいこうとしたけれど――
「悲劇の連鎖に終止符を!」
 ――ミシェルが地上に降り、市民を庇うようにして自動の人形の前に立ち塞がった。
 一瞬、ちょっと早めの雪が降ってきたように見えたけど、それは錯覚。雪の正体は、ミシェルの翼から舞い散った何本もの白い羽。それらは光を照り返した。ミシェルの頭の上に浮かんでる天使の輪っかの光を。
 市民を狙っていた自動人形と他数体の人形がよろけた。光に目を眩まされただけでなく、ダメージも受けたようだ。
「おうおう。眩しいのう」
 みやびがわざとらしく目を細めてみせた。
 すぐにまたぱっちりと開けたけどね。
「よーし。もぉーっと眩しくしてみるかのう!」

●十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)
「なのじゃー!」
 ミシェルに続いて、みやびさんも光のパラドクスを発動させた。無数の花片の形をした光が乱舞するというパラドクスだ。花吹雪ならぬ光吹雪だね。
 光の花片は自動人形たちに降り注ぎ、金属の体にいくつもの傷をつけ、顔に張り付いて目を塞ぎ(のっぺらぼうに見えるけど、目に相当するものがあるらしい)動きを鈍らせた。
「ほれほれ、みやびちゃんたちが敵を攪乱しておる間に早う逃げるのじゃ!」
 みやびさんに急かされるまでもなく、住民たちは撤退を始めていた。もちろん、命がけで救い出したギュスターブさん(手枷が嵌められたままだけど)を連れてね。
 俺が召喚した幻影とか、みやびさんとミシェルの光とか、ミレイの蹴りの猛攻とかをすり抜けて、住民たちを追いかけようとした自動人形もいたけれど、すぐに立ち止まることになった。
 羽鳥さんが行く手を塞いだからだ。
「どこに行くんだ? 俺たちのリサイタルはまだ終わってないぞ」
 羽鳥さんはソードハープを再び展開して歌い出した。

「泣いたり怒ったり喚くガラクタは

 フーキエ・タンヴィルほど冷たくなれぬ

 ならば、下劣なエベールを目指しとけ

 酷使されるマダム・ギロチンは泣く

 コルシカのチビに生まれたのは罪ではないが

 女性を泣かせる者は死刑」

 デュークくんがステッキを振りながら、歌に合わせてステップを踏んでる。楽しそう。
 一方、怒りんぼジャコバンは頭をから気を立てて、地団駄を踏んでいた。
「不敬だ! 不遜だ! 不逞だ! 不届きだぁーっ!」
 比喩じゃなくて、本当に湯気が出てるんだよ。泣き虫ジャコバンの涙用の水が沸騰してるのかな? その泣き虫ジャコバンも毎度のごとく、木槌を連打して遺憾を表明してる。『フーキエ・タンヴィル』や『エベール』とかいう人が改竄後の歴史でも同じような立ち位置にいるのかどうかは判らないし、『コルシカのチビ』に成り代わった断片の王が本物と同様にチビかどうかも判らないけど、挑発の意図は伝わったみたいだね。

●塞河・みやび(さいかわみやびちゃん・g04329)
「『チビ』は差別用語である」
 と、無表情な面のジャコバンが言った。
「『視点が地面に近い』や『体長による主張が控え目』や『垂直方向に困難を抱えている』等に訂正せよ」
 むぅ……これが『ぽりてぃかる・これくと』とかいうヤツか。
 当然のことながら、羽鳥はそんな要求を無視して歌い続けたがのう。
「静粛に! 静粛にぃーっ!」
 泣き顔の面の叫びに背を押されるようにして、自動人形たちが羽鳥へと群がった。もはや、住民たちは眼中にないようじゃ。
 しかし、自動人形たちは銃を撃ちかけている姿勢あるいは投げかけている姿勢で停止した。よく見ると、細い鋼糸が体のあちこちに絡まっておる。羽鳥がなにやらパラドクスを用いたらしい。
「御清聴、ありがとう」
 羽鳥は歌うのをやめて、右腕に仕込まれた連発式の銃を撃ちまくった。鋼糸に絡め取られた自動人形たちがそれを避けられるはずもない。あっという間にバラバラじゃ。
 鋼糸の罠にかからなかった自動人形たちもおったが、そちらはブルーノが相手をした。
「ほら、ちゃんと狙わないと、仲間に当たるよ?」
 ドゥーやデュークとともに(リリコは不参加。きょとんとした感じで首をかしげているのじゃ)踊るような動きで敵の前を横切っては射撃の邪魔をしておる。
 その隙を衝くようにミシェルがまた神々しい光を放射した。
 どれ、このみやびちゃんも光を追加してやろうかのう。
 せぇーの――
「――な、の、じゃー!」

 もう広場に住民は残っておらん。皆、なんとか逃げおおせたようじゃ。
 トループス級の自動人形のほうは残っておるが、数は一体だけ。
 その最後の一体も――
「そりゃあ!」
 ――ミレイの蹴りを受け、西洋将棋の歩の駒を思わせる胴体をへし折られた。
「……」
 上半身と下半身に分断されて地面に転がったその残骸をミシェルが無言で見つめた。厳しい顔で。同時に悲しい顔で。自動人形について、なにやら思うことがあるのじゃろう。
 しかし、気持ちを切り替えたらしく、厳しげ且つ悲しげな顔から『悲しげ』だけを引いて、最後に残った敵を見た。
 そう、ムッシュ・ド・ジャコバンを。
「出番ですよ、ムッシュ」
「かかってこい、ガラクタ」
 ブルーノと羽鳥が挑発すると、ジャコバン(たち)は文字通り三者三様の反応を示したのじゃ。
「許さん! 許さん! 絶対に許さんぞぉーっ!」
「嗚呼! 自らの手で暴力を行使することになるとは……なんという悲劇でしょう!」
「『ガラクタ』は差別用語である。『味のある古びた機械』に訂正せよ」
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【水面歩行】LV1が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
【トラップ生成】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
【植物活性】LV1が発生!
効果2【ダブル】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【ドレイン】LV1が発生!
【ガードアップ】がLV4になった!

●幕間
「幸いなことに、私は――」
 ムッシュ・ド・ジャコバンの無表情の面が剣を構えた。先端が丸められた斬首専用の剣だ。
「――この暴徒たちに対して、まだ正式に斬首刑を宣告してはいない」
「それ以外の刑も宣告していない!」
 怒りの面が法典らしき書物の頁を怒濤の勢いでめくってみせた。とくに意味のある動作ではないだろうが。
「なるほど! なるほど!」
 木槌を打ち鳴らしながら、哀れみの面が頷いた。体内にストックされていた水が底をつきかけているのか、頬を伝う涙の筋が細くなっている。
「つまり、どのような形で命を奪ったとしても、法や私の美学には反しないということですね」
 そもそも命を奪うことが法に反する――そんな当然の理屈もムッシュ・ド・ジャコバンには通じないだろう。
 ここでは彼こそが法なのだから。
 
マノン・ラヴァンディエ
説得とかは苦手だけど、戦いならマノンとシュバリエの出番なのよ
鞄から人形を取りしてあのガラクタとの戦いに臨むわ
マノンは「勝手」は嫌いなのよ、だから「勝手な法」を押し付けるお前も嫌いなの
シュバリエがお前をバラバラにしてくれるわ

まずは少し様子を窺うのよ
処刑剣は分厚くて、一撃も重そうだけれど
あなたなら出来るわ、剣で弾くのよ、シュバリエ!

隙ができたら一気に攻め立てるのよ
シュバリエの剣の舞いにお前も巻き込んであげる
三人くっついたその身体で、上手に踊れる?
ちゃんとついてこられないと廃棄処分一直線よ


十六夜・ブルーノ
瓦落としって一寸カッコイイかも
無表情さも正に殺し屋っぽい

ところでムッシュくんはどうやって動くんだろ
車輪かな
自動人形だし奇怪な動きをするかも
注意するよ

奏でる旋律は三度GGソング
【勝利の凱歌】として
俺達や住民の心に希望と勇気の灯を

俺達には守りたい命と
取り戻したり歴史がある
…勝つよ

剣呑な剣だし油断はしない
作動音や剣の風切り音から
起動や軌道を捉えて回避

音楽がGGや皆の姿を
万華鏡の如く幻像として現す

【託されし願い】を乗せた旋律で迸る雷を呼び
黒焦げに

クロックムッシュみたいに美味しくはなさそうだ

事後も自動人形らの死出の旅路の餞として
GGソングを続ける
良い旅を

この歌、
ここの町歌にするといいんじゃない?(笑


ミレイ・ドリムータ
何その屁理屈、まるで子供の言い訳じゃない。特命裁判官が聞いて呆れるわね。

デュークと共にわざと敵を挑発して攻撃を誘い、【フェイント】を織り交ぜながら攻撃を躱す。
「その罪とやらについての証拠はあるの?どうせ無いんでしょ。この無能裁判官!」
「裁判官の木槌って儀礼用の物でしょ。それであちこち乱打するのは不適切な使用方法じゃないの?まさかそんなことすら知らなかったワケ?」
巨大化した木槌により土煙が舞い上がった隙に【飛翔】し、上空から【ストリートストライク】で攻撃するわ。

絡み、アドリブ歓迎


ミシェル・ロメ
この町の人々は無事、勇気と信頼を取り戻しました
不義や恫喝にも屈せず、互いを信じあう心を

ムッシュ・ド・ジャコバン、お前の企みもここまでだ
この上まだ欺瞞とでっち上げで罪なき人を陥れようというのなら
僕はもう容赦しない

巨大木槌攻撃は飛翔し回避
ああ、【勝利の凱歌】が響いてくる
恐れるものは何もはない

太陽を背にして光を降り注ぎ
【輝ける太陽の御許に】真実を白日の下に晒し
浄化の焔で機械仕掛けの似非裁判官を焼き尽くす

恣意的に法を捻じ曲げ、権威を振りかざし、自らの襟を正さぬ者に
他者を断罪する資格などない
秩序とは、今日を生きる人々を守るためにこそあるのだから


塞河・みやび
カワイイは正義というのじゃ。
つまり、みやびちゃんが正義なのじゃ。
これは法と法の戦いというわけなのじゃ!

勝者が法を作るという流れは歴史の必然。
もはや御託はいらぬようじゃ。
どちらの法が正しいか対決するしかなかろう!

みやびちゃんミニオンを召喚するのじゃ~。
ミニみやびちゃん達に号令を発し、敵を【撹乱】するのじゃ。
警吏人形を妨害してもいいし、みやびちゃん本体が逃げ回ってる間に敵本体を攻撃させてもいいのじゃ。

兵団の運用は【計略】のイロハ。これは将と兵をどう動かして攻め・守るか、という戦いに似ているのじゃ。
敵は頭が多いから有利に見えるけど、感情的なようだし、逆に指示が混乱してもおかしくないのじゃ。


●ミシェル・ロメ(とわにひびくうた・g04569)
「なんなの、その屁理屈? まるで子供の言い訳じゃない」
 ミレイさんが至極もっともな意見を述べると――
「子供の言い訳ではない」
 ――無表情のムッシュ・ド・ジャコバンがおうむ返しめいた言葉をぴしゃりとぶつけてきました。痛いところを衝かれて動揺しているのであれば、まだ可愛げあるというものですが(いえ、可愛くなんかありませんけど)、自分なりの法だの正義だのを微塵も疑っていないように見えますね。
「たとえ屁理屈であったとしても! 子供の言い訳も同然だったとしも! 法の体現者である私が口にすれば、決して揺らぐのことない真理となるのだ!」
「『悪法もまた法なり』と言いますが、この世に悪法などありません。内容の如何を問わず、法として定められたものはすべて絶対的な善! ゆえに法の体現者である私もまた絶対的な善!」
 怒り顔と泣き顔のムッシュ・ド・ジャコバンも滅茶苦茶な主張を力説しています。
「処置なしだねえ」
 ブルーノさんが苦笑を浮かべて肩をすくめました。ドゥーくんも同じポーズを取っていますよ。
「もとより、穏便な手段で『処置』するつもりなどないわ」
 ピンクの髪に黒いドレスという取り合わせの女の子――マノンさんが好戦的な目でムッシュ・ド・ジャコバンを睨みつけました。
 まだ五歳か六歳であろう彼女は白い甲冑姿の騎士にお姫様抱っこされています。しかし、その甲冑の中身は空っぽなのでしょう。それは等身大の操り人形なのですから。
「うむ」
 と、みやびさんがマノンさんの言葉に頷きました。
「しかーし、これだけは言うておかねばならぬのじゃ。いいか、ジャコバンよ――」
 思わせぶりに間を置いて、みやびさんは宣言しました。
「――カワイイは正義! つまり、このみやびちゃんこそが正義なのじゃ!」
 うーん……正直、ちょっとついていけません。

●ミレイ・ドリムータ(空虚と向き合う少女・g01550)
「正義が法と同義であるならば、これは法と法の戦いというわけじゃな!」
「……」
『かわいい=正義』という謎理論をぶちあげてドヤ顔を決める百歳の妖狐に対して、ジャコ野郎もさすがにノーリアクション。無表情が呆れ顔に見えるのは気のせいかな?
 そんな反応(というか無反応)などお構いなしに、みやびは自分のペースで話をぐいぐい進めていった。
「勝者が法を定めるという流れは歴史の必然! もはや、御託はいらぬ! みやびちゃんの法とおぬしの法――どちらが正しいか決めようぞ!」
 そして、パラドクスを発動。複数の小さな人形めいた存在を召喚して、自分の前にずらりと並べた。どの人形モドキも、みやびのデフォルメ版といった感じの姿をしてるわ。
「行けーい、ミニみやびちゃんたちよ!」
 みやびが号令をかけると――
「なのじゃ!」
「なのじゃ!」
「なのじゃあーっ!」
 ――甲高い声をあげて、ミニみやびたちはジャコ野郎に向かって突撃した。短い足でちょこまかと走るその様を『突撃』と呼べるかどうかさておき。
「いまひとつ迫力に欠けるね」
 ミニみやびたちを見送りながら、ブルーノがリュートみたいな魔楽器を構え直した。
「行軍曲で盛り上げようか、ドゥー」
 こくりと頷き、丸まった形のラッパを吹き始めるドゥー。
 ブルーノも魔楽器を爪弾き、歌い始めた。
 もはやおなじみとなった『メルシー、GG』(仮題)よ。

「ギュスターヴ・ゲンズブール、略してGG

 お爺さんじゃないけど、GGだ

 みんな大好き、GG

 さあ、感謝の言葉を届けよう

 GG、GG、ありがとう」

 ミニみやびの軍団が突進していく光景に陽気な楽曲が加わって、なにやらドタバタ喜劇の様相を呈してきたわね。
「貴様たちの言動は法への冒涜だ! 秩序への挑戦だ! 正義への侮辱だぁーっ! 絶対に許さんぞ!」
 毒気を抜かれていたジャコ野郎が我に返り、三つの顔のうちの一つ――怒り顔がぎゃあぎゃあと吠えまくった。ドタバタ喜劇に相応しいテンションだけど、本人が望んでいるのは真面目な法廷劇なんでしょうね。

●十六夜・ブルーノ(希望の配達人・g03956)
 怒りんぼジャコバンはみやびさんと同じように召喚系のパラドクスを使った。
 彼の前に現れたのは、棍棒で武装した自動人形たち。俺たちが全滅させた自動人形たちは違う型のやつだ。
 それを見たミニみやびたちは――
「なのじゃ!」
「なのじゃ!」
「なのじゃあーっ!」
 ――勇ましいかけ声とは裏腹にUターンして逃げ出した。
 自動人形たちが警棒を振り上げ、その後を追い始める。
 逃げ回るミニみやび!
 追い回す自動人形!
 そんな追いかけっこが繰り広げられている間に白騎士が行動を起こした。抱っこをしていたマノンを降ろし、代わりに剣を手に取って、ジャコバンに向かっていったんだ。
「マノンは勝手は嫌いなのよ。だから、勝手な法を押しつけるおまえも嫌いなの」
 マノンは十本の指をゆらゆらと動かしている。細くて見えないけど、白騎士に繋がっている鋼糸を操っているんだろうね。
「シュバリエがおまえをバラバラにしてくれるわ」
「その前におまえの首を切り落としてくれる」
 澄まし顔ジャコバンが斬首刀を構えた。警棒を持った自動人形たちに頼ることなく、自力で白騎士を排除するつもりらしい。まあ、頼りたくても頼れないだろうけどね。自動人形たちはミニみやび軍団に攪乱されて、白騎士のほうにまで手が回らないみたいだから。
「処刑剣、瓦落とし」
 澄まし顔ジャコバンが白騎士めがけて斬首刀を振り下ろした。
 だけど、白騎士は華麗な剣捌きで受け流し、踊るような足取りで敵の懐へと踏み込んだ。
「シュバリエの剣の舞いにお付き合いいただくわ。でも――」
 いや、華麗なのは白騎士の剣捌きじゃなくて、マノンの糸捌きか。
「――三人くっついたその身体で上手に踊れるかしら? ちゃんとついてこられないと、廃棄処分一直線よ」
 白騎士が剣を一閃させ、ジャコバンの脇腹の辺りを真一文字に斬り裂いた。やるねえ。
 さて、俺も攻めさせてもらおうか。
 あの大きな斬首刀はなかなかに脅威だけれど……絶対に負けはしないよ。
 俺たちには守りたい命と取り戻したい歴史があるのだから。

●塞河・みやび(さいかわみやびちゃん・g04329)
 警棒を持った自動人形どもはまだミニみやびちゃんたちに翻弄されておる。ふふん! 兵団の運用という点においては、ムッシュ・ド・ジャコバンよりもみやびちゃんのほうが上だったようじゃの。奴には頭が三つもあるが……いや、三つもあるからこそ、兵士たちを上手く指示することはできんのじゃろう。船頭多くして船山にのぼるというやつじゃな。
 そのマヌケな船頭に白騎士が一太刀を浴びせた。
 続いて肉迫したのはブルーノ。演奏も歌唱をとうにやめておるが、音楽はまだ流れておるぞ。ドゥーがラッパを吹き続けてるからのう。
「『瓦落とし』っていうのはカッコいい名前だね」
 共感しづらい感想を述べつつ、ブルーノは電磁槍でグサリ! 翠に光る穂先がムッシュ・ド・ジャコバンの胸を法服ごと貫いた。おそらく、パラドクスで強化された一撃じゃ。
「……処刑剣、瓦落とし」
『カッコいい』と評された名を口にして、無表情のジャコバンが斬首刀で反撃した。
 しかし、ブルーノは慌てず騒がず――
「自動人形だけあって、気持ち悪い動きだなあ」
 ――分厚い刃を回避したのじゃ。先程の白騎士と同様、踊るような動きでな。
「『気持ち悪い』とはなんですか! それは誹謗中傷ですよぉ!」
「名誉毀損が罪状に加わったな! 死刑だ! 死刑だ! 死刑だぁー!」
 泣き顔の面と怒りの面が続けざまに叫んだ。
「おまえに名誉などあるものか!」
 と、叫び返したのはミシェルじゃ。その傍らではリリコがこくこくと頷いて同意を示しておる。
「そう、不義と恫喝で以て町の人々の尊厳と信頼を毀損しようとしたおまえなんかに!」
「それ以上の暴言は許しませんよぉーっ!」
 泣き顔の面が喚き散らすと、その手の中にある木槌がみるみるうちに巨大化した。子供一人をぺしゃんこにできるくらいの大きさじゃ。
 そして、更なる攻撃を試みる白騎士とブルーノを巨体で弾き飛ばすようにしてミシェルに突進し、巨大木槌を振り下ろした。
 しかし、ミシェルはぺしゃんこにならなかった。横にいたリリコもな。
 両者ともに天使の翼を広げ、ひらりと躱して、ふわりと舞い上がったからじゃ。

●マノン・ラヴァンディエ(鳴いたアルエット・g05918)
「おまえなど怖くはない。この歌が勇気をくれるから……」
 体は燃えてこそいないけど、厳しい眼差しでムッシュ・ド・ジャコバンを見下ろすミシェルの姿は熾天使を思わせるの。
 彼の言う『この歌』というのは、どこからともなく聞こえてくる勇壮な歌――パラドクスの効果で生じた『勝利の凱歌』でしょうね。
「静粛に! 静粛に! 静粛にぃーっ!」
 歌声に対抗するかのように喚きながら、泣き顔のジャコバンは木槌を更に巨大化させた。
 それで頭上のミシェルをまた攻撃するつもりだったんだろうけど――
「ちょっと待ちなさいよ。裁判官の木槌って、儀礼用の物でしょ」
 ――ミレイが半畳を入れて、自分に注意を引きつけた。
「そういう風にあちこち乱打するのは不適切な使用方法じゃないの? まさか、そんなことすら知らなかったわけ?」
 ミレイがムッシュ・ジャコバンを挑発すると、スフィンクスのデュークも『やれやれ。困ったもんですな』とばかりにかぶりを振ってみせた。見てる分には可愛いけれど、挑発されてる当人にとっては腹立たしいでしょうね。可愛さ余って小憎たらしさ百倍。
「適切かどうか決めるのは法の体現者である私でぇーす!」
 泣き顔のムッシュ・ド・ジャコバンが攻撃の対象をミシェルからミレイに変えて、力任せに木槌を振り下ろした。
 地面が激しく揺れ、土煙が盛大に巻き起こる。
 その土煙の晴れるより早く、凛とした声が響いた。
 空からね。
「どこ狙ってんの!」
 声の主はミレイ。ミシェルと同じように飛翔して躱したのよ。もちろん、デュークも一緒。
 ミレイは急降下し、使い込んだ感じのバールをムッシュ・ド・ジャコバンに叩きつけた。
 巨体が地に倒れ、その衝撃で新たな土煙が発生。
「恣意的に法を捻じ曲げ、権威を振りかざし、自らの襟を正さぬ者に他者を断罪する資格などない。法とは――」
 起き上がる暇を与えず、ミシェルが追撃した。
 光をもたらすパラドクスで。
「――今日を生きる人々を守るためにこそあるのだから!」
「いや、人が生きるために法があるのではなく、人が法のために生きなくてはいけな……」
 無表情のムッシュ・ド・ジャコバンが反駁したけれど、その言葉は途中で途切れてしまったわ。
 ミシェルの光によって、体が燃え上がったから。
 こんがりと焼けていく自称『法の体現者』の姿を見ながら、ブルーノが言った。
「クロックムッシュみたいに美味しくはなさそうだね」

●終幕
 ムッシュ・ド・ジャコバンが燃え尽きて活動を停止すると、彼が召喚した自動人形たちも消え去った。
 ブルーノがまた『メルシー、GG』(仮題)を歌い始めた。ムッシュ・ド・ジャコバンや他の自動人形たちへの鎮魂歌として。
「なのじゃ!」
「なのじゃ!」
「なのじゃあーっ!」
 駆け回っていたミニみやびたちが、みやびの前に集結した。
「うむ。よくやったのじゃ」
 と、ミニみやびを労るみやびの前に別の者たちも集まってきた。
 ギュスターヴと、彼を救い出した市民たちである。戦いの集結を察して戻ってきたのだろう。
 彼らが口を開こうとすると――
「いや、べつに礼はいらないから」
 ――ミレイが制した。
「そうよ。お礼は不要」
 白騎士にまた抱き抱えられながら、マノンもそう言った。
「マノンは、気に食わないガラクタを始末しただけなんだから」
「ギュスターブさんがお礼を言う相手は町の人々ですし――」
 まだ礼を言いたげな市民たちにミシェルが願いの言葉を送った。
「――町の人々がお礼を言う相手はギュスターブさんです。互いを信じ合う心をこれからも忘れないでください」
 優しい微笑を浮かべる彼の横でリリコがぺこりと頭を下げた。
 デュークもシルクハットを脱ぎ、市民たちに恭しく一礼。
 それに倣って、ドゥーもなにも乗ってない頭から帽子を取るジェスチャーをした。
「ところで……」
『メルシー、GG』(仮題)を歌い終えたブルーノが市民たちに提案した。
「この歌、ここの町歌にしない?」
「遠慮しておきます」
 GGことギュスターヴはきっぱりと断った。
 すべての市民を代表して。
 
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【壁歩き】LV1が発生!
【託されし願い】LV1が発生!
【強運の加護】LV1が発生!
【温熱適応】LV1が発生!
【ハウスキーパー】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV2が発生!
【ダメージアップ】がLV2になった!
【アヴォイド】LV1が発生!
【ダブル】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2021年12月21日

断頭台の罪人を救え

【!期限延長により状況が困難になっています!】
 バスチーユ監獄の断頭台の事件を解決した事で、バスチーユ監獄の囚人が処刑される事が無くなりました。
 しかし、断頭台で殺される人々が居なくなったわけではありません。

 断頭革命グランダルメでは、小さな町にも必ず断頭台があり、罪人の処刑が行われているのです。
 断頭革命グランダルメ各地の断頭台で行われる処刑を阻止し、処刑を執り行おうとしているクロノヴェーダを撃破しましょう。


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#断頭革命グランダルメ
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#断頭台の罪人を救え
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#1802年


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選択肢『群衆への演説』のルール

 集まった群衆に演説をする事で、群衆の心を動かします。
 クロノヴェーダとの戦闘には直接影響はありませんが、事件解決後の人々の暮らしや生き方に影響を与えるかもしれません。
 演説を行う場所や状況、聴衆となる群衆たちの精神状態などは、オープニングやリプレイで確認してください。

 オープニングやマスターよりに書かれた内容を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 なお、この選択肢には、特殊ルールはありません。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👾護衛するトループス級『征服人形』のルール

 事件の首魁であるクロノヴェーダ(👿)を護衛するトループス級クロノヴェーダ(👾)と戦闘を行います。
 👾を撃破する前に👿と戦闘を行う場合は、👾が護衛指揮官を支援してくるので、対策を考える必要があるでしょう。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 記載された敵が「沢山」出現します(現れる敵の数は、オープニングの情報やリプレイの記述で提示されます)。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『この選択肢の🔵が👑に達すると、この敵集団を倒す。完結までにクリアしていない場合、この敵集団は撤退する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


選択肢👿アヴァタール級との決戦『特命裁判官『ムッシュ・ド・ジャコバン』』のルール

 事件の首魁である、アヴァタール級クロノヴェーダ(👿)と戦います。
 👿を撃破する事で、この事件を成功で完結させ、クロノヴェーダの作戦を阻止する事が可能です。
 敵指揮官を撃破した時点で、撃破していないクロノヴェーダは撤退してしまいます。
 また、救出対象などが設定されている場合も、シナリオ成功時までに救出している必要があるので、注意が必要です。
 詳細は、オープニング及びリプレイで確認してください。

 記載された敵が「1体」出現します。敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」のパラドクスで反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功 🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔴
 苦戦 🔵🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、敵を倒し、シナリオは成功で完結する。ただし、この選択肢の🔴が🔵より先に👑に達すると、シナリオは失敗で完結する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※このボスの宿敵主は「アストライア・ノートン」です。
※クロノヴェーダには、同じ外見を持つ複数の個体が存在しますが、それぞれ別々のクロノヴェーダで、他の個体の記憶などは持っておらず、個体ごとに性格なども異なっています。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。