薔薇の揺籃（作者 志羽）

13

リプレイ

●ベルサイユ宮殿の守り
　1793年へ再び――ミシェル・ロメ（とわにひびくうた・g04569）はベルサイユ宮殿を見上げていた。
　そこは助け出されたマリー王妃がいる場所。
「王妃様……ご無事で何よりです」
　つい先だっての戦いの記憶をミシェルは思い出し、彼女を助けることができたのだという事実をかみしめる。
　けれど、そこで終わったわけではなく――まだ、戦いは続いているのだ。
「貴女は僕達が必ず守ります」
　そう、ミシェルは呟き落とす。
　今はこのベルサイユ宮殿を堅固なものにするのがなすべきこと。
　と言っても――ミシェルに罠や建築の知識はない。
　荒れた場所を見てはどうしようかと考え巡らせる。己が知っていること、できることといえば。
「役に立ちそうなのは……そうだ、植物を利用すれば」
　ミシェルが足を向けたのは庭園の方。
　バラやサンザシ、イラクサ――棘のある花や樹木をそこへ。
　そして植物活性の恩恵を授ければ枝葉は伸びて壁のようになり始める。
「……迷路状にするとより効果的かもしれません」
　そう思い立ってミシェルはさらに植えていく。
「痛」
　と、イラクサの棘がミシェルの指にわずかに触れた。その茎や葉の棘には毒を含み、皮膚に痛みやかぶれを引き起こすものだ。それは致死性の毒ではないが多少の時間稼ぎにはなるはず。
　邪魔だと払おうとしても、その棘が邪魔をするものとなるだろう。迷路を大人しく通り抜けても、それらを払って真っ直ぐ進もうとしても、時間はかかる。
　シンプルで、しかし厄介な仕掛けとそれはなっていく。


●心遣いをともに
　ベルサイユ宮殿の守りを固めていく――リゼット・ノア（Cortège funèbre・g02975）はその一旦をまたになっていた。
（「……作業が簡単になりそうなパラドクスもないですから」）
　地道に作業を行いましょう、とリゼットは思う。けれど己の手でそれを成すには限界があった。しかしリゼットには幸いな事に、手数があった。
　まずはとリゼットは足を向ける。建物の破損状況などを見て回って把握をしていくために。
「修復不可能なものは解体して資材にして、直せそうな箇所は外壁と屋根を優先、でしょうか」
　崩れていない場所はがっしりとして重厚なつくりのようだ。
　どうやってこの壁を作っていたのだろうかとリゼットはそっと触れる。当時の歴史を紐解いて、その当時の建築技術を紐解いて直していこうと作業を始める。
　けれど自分の力だけでは難しいからリゼットは自動人形の力を借りる。
　それに、己が呼び出せる妖精たちの力も借りて人海戦術で直していく。
　少しずつ。でも確実に直っていく外壁。重ねていくことで少しずつでも形になっていく。
　と――リゼットはその外壁を見つめてあることを思いつく。
　この外壁にツタを這わせて補強することができればと。幸い、植物を活性化させることがリゼットにはできる。
　　妖精と自動人形が直した場所に蔦の種をまいて、成長を促すだけ。
「……あとは」
　おまけで、とリゼットはふわりと空気を揺らす。
　今は冬――少しでもすごしやすくなるようにと、ほのかにあたたかさを満たしていく。
●迫るその手
　ベルサイユ宮殿が修復され城塞のように強化されていく。
　けれど、成すべきことはそれだけではなく――ベルサイユ宮殿へと向かってくるものたちもいるのだ。
　マリー王妃を探し出すために。


●誘い出し
　ぼろぼろの斧に、背中には断頭の道具を。
　サンソン式断頭人形たちは命を実行していた。マリー王妃を探せという与えられた命令を。
　そんな人形たちの気を向かせるように――こつ、こつ、とゆっくりと聞こえてくるのは靴音。
「誰を、捜しているの？」
　人形たちへと声かけたのは、四葩・ショウ（Leaden heart・g00878）。
　ひょっとして――と、口端には笑みを乗せて。その答えを紡ぐのではなく、かわりにすらり、と。
　ショウは硝子のレイピアを引き抜いた。
　武器を手にして、立ちはだかる。それは人形たちにとって敵対行動ととれた。
　敵意を感じた瞬間、ショウは踵を返す。
　視線を集めて、逃げる。何体か、追いかけてきているのをショウは肩越しに振り返って確認する。
「……多く来すぎちゃったら……ううん、大丈夫そうか」
　多く着たら少し隠れてやりすごそうと思っていた。
　ついてきているのは二体だ。相手ができないことは無さそう。
　追いかけてくるから、かつんと強く踏み込んで進行方向を切り替える。
　身を翻し、人形たちのほうへレイピアの切先を閃かせるショウ。
　そのレイピアの動きにフェイントを織り交ぜていく。そして残撃でも攪乱を。
　人形は背負った断頭台を降ろし、自動形態へと変えて解き放つ。
　それが襲い掛かるも――それをショウは紙一重でかわして距離をとる。
　背中には、壁だ。
　追い詰めたと、人形たちは迫る。
　しかしそれは、わざと追い詰められてあげたのだ。
　ショウはうつむいていた視線を、顔をあげた。
「ねえ、気付いてる？」
　貴方は誰の首も、もう落とせないってこと――ショウは一足、踏み込んで人形にとん、と触れた。
　それだけでいい。それは審判の合図なのだ。
　地面から刺し貫く、無数の白き鋼鉄の棘。それは人形の身を貫いて、そして――ショウの身を僅かに貫いて。
　あまく香る花の香りは罪人の苦痛を麻痺させる猛毒。
　けれど、人形の貴方にわかるかなとショウは残して、もう一体へも歩み進める。
「さぁ、おしえて。貴方の――罪を」
　言葉向けてまた触れ、白き鋼鉄の棘がこの場を満たす。


●その未来を思う
　マリー王妃の他にも、フランスの歴史には様々な人物がいる。
　そんな彼らの行方が獅子城・羽鳥（メタリックトルバドゥール・g02965）は気になっていた。
　もし本物のサンソンが生きていたとしたら。捕らえられたりしているなら救出して、未来のフランスは死刑が廃止されたと伝えたい。
　けれど、その相手は今目の前にいる者達とはちがう。
「お前等は存在自体邪魔！」
　サンソン式断頭人形――羽鳥は向かい合った人形たちへと言い放つ。
　人形たちは敵とみなしたのだろう。背負った断頭台を自律形態へと変形し解き放つ。
　羽鳥を解体すべく動いて、追いかけてくる。
　仲間の不利にする行動をとらぬように進む先を考えて、羽鳥は人形をおびき出す。
　今、城塞のように守りを固めているベルサイユ宮殿。庭の一部が迷路のようになってはいるが、其処に行くよりも前に。
　この街並みのほうが迷路のようでもある。
　羽鳥はソードハープで音を奏でる。貴族が好みそうな優雅な曲を奏でて、人形を誘うのだ。
　人形が近づいてくる。けれど、そこに羽鳥の姿はない。
　どこにと探す様に動いて、さらに奥へ進んだところで羽鳥は背後に踏み込んだ。
　光学迷彩でもって身を隠し、足音は消し忍んで。
　断頭人形が羽鳥の存在に気付く前に攻撃を仕掛ける。
　それは不意打ち。その左手の指先に収納されているニードルガンを現して、羽鳥はそれを叩きこむ。
　人形の身を貫くニードル。制圧するための攻撃で、人形がその身に攻撃を受けていると気づいたときには――もう終わっているのだ。
「自動人形じゃ庭の肥やしにもならないな」
　倒れた人形を、羽鳥は見下ろす。けれどまだ一体だ。断頭人形はまだいる。
　羽鳥はほかの仲間の助けにもなるためにまた動き出す。


●死を厭うて
「戦時の防衛施設としては元々向いてない施設なのよね、ヴェルサイユ宮殿」
　と、メルキディア・セデクリエル（閃機術士のエンジェリアン・g03132）は守らねばならぬものがいる場所を振り仰いで――そして、視線を己の正面へと向ける。
「けれどもできる限りの事はしないとね」
　メルキディアは対多数用の大盾型閃機、壁閃機ベイルマウアーと大型拳銃型の閃機、銃閃機シェキルザッパーを構えた姿は警備員のよう。そして成すことは、隠れている仲間へのヘイトを反らすための囮。
　サンソン式断頭人形たちの意識を己に惹きつけるために、メルキディアは走る。
「ここから先は通行止めよ、人形さん達」
　メルキディアは誘い込む。惹きつけて――そして、己に向けられた陰鬱なる歌をあびる。
　罪人への裁きと罪の浄化を願う陰鬱な歌は、『死』のイメージをその精神に焼き付けて攻撃するもの。
　けれどその歌の最中に、断頭人形へと攻撃がはいる。
　それは仲間からの機銃。メルキディアは『死』を振り払って逃げられぬように動く。
「大地の城壁に守護天使の護りをッ！」
　壁閃機ベイルマウアーを地に突き立てたならば、守護天使の概念加護を持つ城壁が生成される。
　囲んで、そのまま仕留めるように。けれどまた他方からも断頭人形が現れる。それは仲間の歌を聞きつけたからか。
「元々処刑のために作られたらしいから探索とかには向かなそうだもんねサンソン人形って」
　騒ぎがあれば見つかるか、とメルキディアは零しながら踏み込む。
　その断頭人形が攻撃かける前に相棒たるミニドラゴンのジェストが分け与えた、身体を覆う異端の力を纏ってベイルマウアーをもっての攻撃、そしてシェキルザッパーを近距離で放ち断頭人形を仕留めるのだった。


●この先に向けて
　ベルサイユ宮殿を見上げ、峰谷・恵（フェロモン強化実験体サキュバス・g01103）は零す。
「マリー王妃の身の回りの世話をする人員もいずれ集めないとだろうけど、まずはこいつらを撃破しないとね」
　ベルサイユ宮殿へと向かって町の中を進んでくるサンソン式断頭人形たち。
　その姿を恵は見つけて、そしてその人形たちが誰かを追っているのを見つける。
　それは仲間のようで、恵はその後を追いかける。
　そしてその人形が歌い始める。その歌は、追いかけていた仲間に向かっているようで、恵は気付かれぬよう近づいて。
「破ァッ！！！」
　サキュバスのフェロモンを乗せた闘気塊を人形たちに叩きつけた。その一撃で、人形たちが動きを乱し生まれるのは隙。
　そして逃げぬようにと、城壁が立ち上がりその場を作り上げる。
　人形たちが連携をとり戻す前に、妖艶さを引き立たせるデザインの格闘用ブーツに闘気を乗せて踏み込んだ恵。
　その足が捕えるのは人形の身体の中心。蹴り飛ばした人形は生み出された城壁にぶつかり衝撃でも動きとめる。そこへ竜骸剣を走らせ、恵は敵を一体ずつ倒していく。
　その首切る為に振られた斧を、盾で首を守りつつ後ろにステップ踏んで回避して、踏み込んで攻撃を。
　それを繰り返し、敵を仕留めたなら、サンソン式断頭人形たちの気配は町から消え去る。
「王妃処刑失敗への対処に送り込まれたにしては敵がそんなでもない。威力偵察かな？」
　そう呟くけれど、人形たちを使っていたモノがこの場に現れる。
●ゆがんだ法廷
　特命裁判官『ムッシュ・ド・ジャコバン』は己が放った手勢が全て倒されていることを知る。
　それを行ったのは――今、目の前にいる者達に間違いない。
「裁きを」
「法廷に上げろ、有罪だ」
「糾弾せよ、処刑せよ」
　ムッシュ・ド・ジャコバンの、それぞれが紡ぐ。
　それが戦いの始まり。


　ムッシュ・ド・ジャコバンは声高だ。
　向けられる言葉は攻撃的であり、敵意でもある。
「あなたはいかりますか？」
　そんなムッシュ・ド・ジャコバンを前に、ルル・ムル（花頭蓋・g02918）は問いかける。
　ルルはあなたに何もかんじませんと緩やかに首を横に振って。
　だってそれは――ルルはあなたをしりませんから、と。
　いかりは時として戦場を掻き乱すでしょうとルルは紡ぐ。
「ひとりのいかりが判断を鈍らせるのです」
　ムッシュ・ド・ジャコバンがぶつけてくるその言葉は怒っているよう。それが静まることもないことを、ルルは察していた。
　だから静かに見つめて、ふわりと足元からそれを巻き起こす。
　それは小さなものから大きなものへと育っていく、砂嵐。
　ごうと巻き上がっていくそれは視界と動きを奪っていく。
「砂はめずらしいですか？　砂嵐はめずらしいですか？」
　あなたがたの狙うものはここにはございません、あきらめてくださいと紡ぐ。
　けれどムッシュ・ド・ジャコバンが引き下がることはなく怒りの面を向け、無数の警吏人形を呼び出しルルへと差し向ける。
　裁判だ、法廷に引き立てろと向かってくる警吏人形は砂嵐の中を進むことできず巻き上げられる。
「いかりは判断を鈍らせます。あなたのいかりはなんでしょう」
　ルルにおしえてくれませんか？　と言葉向けるがムッシュ・ド・ジャコバンからその答えはない。
　ため息交じりのように、けれどそれは分かっていたことでもあるのだけれど。
「おはなしはできませんか」
　それなら、もうこれ以上向かい合う必要もなく。
　生命をけずる砂をあなたにおくりましょうと視線ひとつ、動かした。
　それだけで砂嵐は、その動きを変える。
「あなたののぞむものはここにはございません」
　ムッシュ・ド・ジャコバンの身を包み込む砂嵐。
　ざんねんですがここでお別れですと、ルルは告げる。








「こりゃまた色々な意味で悪趣味な裁判官を作りやがって……」
　ムッシュ・ド・ジャコバンと対して、その印象を獅子城・羽鳥（メタリックトルバドゥール・g02965）は零す。
「命となけなしでも名誉を救いたいのは王党派も革命派も同じだ」
　建物も庭も出来る限り荒らさずに行くぞと、戦いに踏み込む。己の後ろには守らねばならぬものが、あるのだから。
　今、ムッシュ・ド・ジャコバンは砂嵐に包まれ身動きはとれぬ状況。
　であれば、避けられぬ事もないだろう。
　背中に収納した翼型の飛行ユニットを展開し、両踵のブースターを灯す。地を蹴り、飛び出すとともに砂嵐の中を上手く飛んで右腕に収納されたサブマシンガンの銃口を向けた。
「裁きを！　裁きを！」
　そんな声が砂嵐の中から聞こえ、巨大化した木槌が振り下ろされる。
　それを聞き流しながらフェイント織り交ぜて銃声をお返しだ。
（「正史も何とかしたいけれど、仮にそれが出来たらお前等と同じになってしまうか……」）
　羽鳥は攻撃を受け反撃を返す。ムッシュ・ド・ジャコバンの身の上を走る銃弾。それでも、まだ止まる気配はない。
　やっぱり指揮官の人形も処刑に特化したタイプの様ねと、冷静にメルキディア・セデクリエル（閃機術士のエンジェリアン・g03132）は敵の姿を捉える。
「その欺瞞に満ちた処刑剣ごと叩き切ってあげる！」
　先を行く、羽鳥の動きに追随するように砂嵐の風に乗って、メルキディアは刀閃機イオスラッガーをその手に切り込む。
　向けられた処刑剣の反撃を念動力制御で受け流して、ムッシュ・ド・ジャコバンと距離を取る。
　攻撃を仕掛けるための距離を。その距離をとる助けとなったのが峰谷・恵（フェロモン強化実験体サキュバス・g01103）の、その腕に装着したLUSTビームマシンガンの連射だ。
「有罪で死刑しか判決出さない裁判官、居る意味が無い」
　上空へと飛び上がったメルキディアはムッシュ・ド・ジャコバンへ向けてイオスラッガーを投げつける。かわりに鋸刃閃機アーチクリーヴァーを持って、上空から突撃を。
　自由落下とさらに加速をかけて、プラズマチェーンソーの切先向ける。
「その裁判台ごと叩き潰すッ！　レッキング・メテオドライヴッ！！」
　その一撃は、ムッシュ・ド・ジャコバンの一面を切り裂いた。そして、恵もそれに合わせて動く。
「視えた……そこぉっ！！」
　竜骸剣をもって、サキュバスの魅了の力と闘気を集中させ、速さを得る。踏み込みは何時もよりも早く、そして攻撃をうけたムッシュ・ド・ジャコバンは集中を削がれその動きを鈍らせる。
　大振りの、首を狙った攻撃――狙われたらとその場所を守りLUSTオーラシールドを竜骸剣で支えて防げば、シールドが高い音たててその攻撃弾く。
「１７９３年ならクロノス級も居るはず。アヴァタールでダメとなればそいつらを出してくるかな」
　その音を耳にしながら恵は、この目の前の敵を倒したらとその先をも見据える。
　攻撃を受けムッシュ・ド・ジャコバンの動きががたがたと、精彩さを欠き始める。
　その姿をリゼット・ノア（Cortège funèbre・g02975）は静かに見つめ、零す。
「見覚えのない自動人形ですね」
　リゼットが辿って来た道には、断頭人形たちが倒されていた。それを思い出しながらリゼットは静かに告げる。
「裁判官が有罪を宣告し処刑を告げても処刑人の人形はすでに倒されているようですが」
　全方位からの攻撃に対処できるものだったのだろう。
　けれど、すでに一面は破壊されつたない動きだ。
　リゼットは手数で勝負できる。それなら一方向から攻撃駆け、その防りをこじあけるだけ。
「お前ね」
　無表情を向けるその面へと向け、リゼットは攻撃かける。
　そしてそれを機としてメルキディアも羽鳥も、恵もあわせた。
「私は司祭。私は喪主。私は参列者。あなたの死に祈りを捧げましょう。聖歌を歌いましょう。別れに涙しましょう。だから──」
　複数の自動人形『Veuves en deuil』と黒い妖精がリゼットの前を駆けムッシュ・ド・ジャコバンへと迫る。
　これは葬儀。死神の持つような鎌に花を飾った槍を手にし、黒いヴェールで顔の上半分隠した黒い喪服の女が踏み込んで、妖精の呪詛が紡がれる様は葬儀の進行のように粛々と。
「有罪？　処刑？」
　安心してくださいとリゼットの声は柔らかだ。
「安らぎを願う祈りは全ての死者に捧げられるものですから。たとえ罪深き自動人形であっても」
　どうかあなたの魂に安らぎが訪れますように――このムッシュ・ド・ジャコバンに安らぎがあるのか。
　それはまだ、わからない。


　がたついた動きだ。重ねられていく攻撃に、確実にその力は削がれている。それでも、ムッシュ・ド・ジャコバンはまだ動く。
　木槌は手から落ちそうだ。処刑剣はまだしっかり握っているが、攻撃による破壊でその表情は無表情で無いようにも見える。怒りの面はまだ変わらずといったところか。
　そして――処刑だと、有罪だとのたまうその声はまだ大きい。
　四葩・ショウ（Leaden heart・g00878）はムッシュ・ド・ジャコバンの行く手を阻むように立ち塞がる。
「見つけた。これ以上は、行かせない」
　法廷に引きたてろ、裁判だ、有罪だと告げる。
　けれどその言葉のどれもショウには遠い。
　いつか訪れる審判の日に――わたしは、どんな罪で裁かれるんだろう。
　少なくとも、それは今ではない。
「いやだよ。わたしには」
　やらなくちゃいけない事がある――取り戻さなくちゃ、かならずとショウは地を蹴った、
　その手には硝子のレイピア。その斬撃で切り裂いたかと思えば、貫いて破壊する。
　狙いを定めさせないように動いて、攪乱するのだ。
「貴方はただ、処刑がしたいだけなんだ」
　ただしい事を量れない天秤なんて――こわしてあげる。
　ムッシュ・ド・ジャコバンの法廷は有罪しかないのだから。
　その処刑剣が首を狙って振られるのをショウは目で追って。
「あげないよ」
　わたしの首も、ほかの誰かの首も――そして、狙うのは。
　貴方の首とショウの硝子のレイピアが躍る。
　その切っ先に貫かれて、無表情の面も崩れていくよう。


　弁護も証言も認められず、冤罪すら拷問の果てに無理やり自白させる。
　それは、裁判とは名ばかりの、最初から処刑ありきの欺瞞と暴力だけのもの。
「正義も公正も無いこんな茶番劇の末に、多くの血が流されたというのか……」
　その動きはもはや終わりも近いのだと見てわかる。
　そうであったとしても、ムッシュ・ド・ジャコバンへ向ける許しをミシェル・ロメ（とわにひびくうた・g04569）は持たない。
「許さない」
　ただ、その気持ちをミシェルは零す。
「僕はお前を絶対に許さない。裁きの鉄槌は、お前にこそ下されるべきだ」
　ミシェルの翼が広がる。ミシェルへと向けられる無数の警吏人形。その中を飛翔して回避し、眩き光を解き放つ。
　警吏人形がその光に動きを止めると同時に焼き払われていく。
　この光輝は、暗闇を照らし不義を逃さぬ浄化の光――ミシェルの胸に満ちる想いと共にその光は溢れる。
　胸に満ちる正義は、慈悲は、真実は。それは。
「どんな不義にも暴力にも屈しない」
　ミシェルは正しくある歴史を、知っている。あるべき形を。
「あるべき歴史を歪め、傷つけ、絶望をばらまくお前たちに、元より正義などあるものか」
　これは闇夜を照らす希望の光。どこへだって飛んでいける翼。
「たとえ嵐が襲うとも、どんな困難が待っていても、この翼は決して折れない。無限の未来を掴むために」
　溢れる光がムッシュ・ド・ジャコバンを包み、その身を焼いてかき消していく。
　僕は誓うよ、とミシェルは零す。
　この地より奪われた『未来への希望』を取り戻すと――そしてまずは、そのための一歩がここに紡がれる。
　ムッシュ・ド・ジャコバンという、マリー王妃を探していた手をひとつ、砕いたのだから。

最終結果:成功
完成日	2021年11月30日