🎃StarryHalloweenNight（作者 志羽）

12

リプレイ

　去年のことも、もちろん覚えている。
　去年は、イツカ・ユメ（いつかかなうゆめ・g02834）がオオカミで。九重・古安（巻き戻り路逸れる針・g02347）は赤ずきんだった。
　その姿でお空の鬼ごっこ。いろんな人達も一緒に楽しい時間だった。
　そして今年は――二人で。
「去年の逆だな」
「うん！　今年はわたしが赤ずきんちゃん！」
　オオカミくんにお空の上のお茶会にエスコートしてもらうのよ、とイツカは笑む。
　任せろ、と狼男の仮装した古安は、ほらとイツカに手を差し出す。狼だけれど、紳士的にエスコートだ。
　その手に、自分の手を重ねて夜のハロウィンアフタヌーンティーへ。
　訪れたホテル。ガラス張りのそこは、夜空の、そして地上の輝きのどちらもふたりの前に・
「上には夜の星々、下には街の明かりが輝いていて見惚れちゃうね」
「本当に空中にいるような感覚になるな」
　窓際の席に案内されて、二人並んでこの光景を目にする。店内もきらきらと光の反射があって境界がなくなるような感覚があった。
「ふふ、古安くんと一緒に行ったお店の明かりや、一緒に歩いた通りもここから見えるかな？」
「それなら……あのへんが新宿駅だから」
　なんて、話をして。まだ言ってない場所の明かりを見つけて、探して。
　そこにも行ってみようかと話すのは楽しい。
「去年のように実際に飛ぶのも良いが、こうして落ち着いて食事しつつ景色を楽しむのも良いものだ」
　二人の手には、ブラッドソーダ。
　今日はハロウィンアフタヌーンティーだから、並ぶそれは悪戯するお化けたちもモンスターもいるのだ。
　かちんとグラス合わせて二人で飲む。秋らしい味、程よい酸味が良いと古安は言う。
　それに、と目を向けるプレート。
「しっかり食べられるメニューがあるのもありがたいところだな」
「うん、可愛いのもいいよね！」
　モンスターバーガーと目があっちゃった！　とイツカは笑う。
　ピンチョスもひとくちでぱくりと美味しくて。クスクスサラダを古安食べながら、そういえばイツカは飲んでないな、と思って。
「飲まないのか？」
「ローストビーフはシャンパンに合うと思うけれども！」
　でも、とイツカはちっちゃく笑み。
「……赤ずきんちゃんが酔っ払ったら、オオカミくんに食べられちゃうかもしれないでしょ？」
　その言葉に瞬いて、古安はもう一口とローストビーフを運ぶ。
「空きっ腹だと可愛い赤ずきんまで食べてしまいそうだからな」
　悪戯するようににっと笑って紡いだ言葉。イツカはぱちりと瞬いて、ちょっとだけ頬染める。そんな事言うと思ってなくて照れを隠すように、ピンチョスをひとつ食べた。
　そしてカボチャのスープも美味しい。自然な甘さを感じる味に古安は一息。
　去年パレードで追いかけっこした場所やラ・ピュセル奪還戦で一緒に戦った場所も見えるだろうか――と視線を巡らせると、イツカがどこみてるのと同じように視線を動かして追いかけてくる。
　そして食事を終えたら、次はスイーツ。
「今の時期はお芋や南瓜や栗が美味しいよねぇ。モンブラン、すっごく美味しいの！」
「ほうほう、イツカは栗派か」
　モンブランも確かに美味しそう。古安はこれもいいぞ、と自分が選んだスイーツを見せる。
「真っ赤なタルトも紅茶と合わせると中々に良いぞ」
「古安くんのオススメは、真っ赤なタルト？　ふふ、赤ずきんちゃんにぴったりだね」
「イツカも一つどうだ？」
　その言葉にほしいなとイツカは返して、そして――いい事思いついたというように、古安をじっと見つめて。
「それじゃあ……わたしのお口まで、タルトをエスコートしてきてくれる？」
　あーんと口をあけてまつイツカ。古安はふと笑って。
「では、赤ずきんの大きなお口にタルトをご案内だ」
　その一口分を、イツカの口へ。
　真っ赤なタルトは甘く、広がっていく。美味しいとイツカは微笑んで。じゃあ次は、とモンブランをひとすくい。
　食べる？　と尋ねて、そのひと匙を古安の口元へ。




　今日は夏目・ありす（不思議の国の・g05978）が20歳になって、初めてのデート。
　黒いドレスに三角帽子の魔女になったありす。どうかな、と笑いかける先――マタ・クリスタニカ（幻奏にして現創の剣・g04728）は柔らかに微笑んだ。
「中々に似合っているいいドレスだ、アリス」
　この夜に溶け込む様な美しい色合いだとマタは言う。ありすの金の髪は星のようにきらめいているから。
　マタはありすをエスコートして、ホテルへ。
　ガラス張りの店内へ入る前に、ハロウィンモチーフのオブジェクトの前に二人でならぶ。
　魔女と、その騎士。マタはサーコートを羽織った軽装の姿。
　あまりに堅苦しい格好は合わない気がして選んだ服装だが、ばっちりだったようだ。
「かぼちゃのオブジェクト、おおきいね」
　その前で二人並んで記念写真。まず、ハロウィンの思い出をひとつつくって。
　そして中に入れば、夜空の輝きと、そして地上の光の輝きが向かえてくれる。
　窓際の、夜に溶けていくような席に案内されてまず最初は乾杯だ。
　シャンパン――ありすにとっては初めてのもの。
「我が姫君に乾杯を。ふふ、共にシャンパンを楽しめる日が来るとはね」
「これからもあたしだけの騎士さまでいてください」
「こちらこそ末永く君の騎士のままに、アリス」
　チンと、グラスの端を合わせて乾杯を。一口、マタは飲んで、そしてありすを見つめる。
　どきどきしながら、恐る恐る一口。はじめてのシャンパンは――その口の中で爽やかに爆ぜていく。
「どうだい、シャンパンの味は。無理はもちろんしてはいけないよ？」
「しゅわあってするー！」
　ありすはぱちと瞬いて大丈夫とマタに返す。甘めの味わいが通り抜けて、シャンパンってこんな感じなんだとふふと笑み零す。
　そして火照る頬をありすは押さえながら、ハイティーにもまた目を輝かせる。
「甘いものは甘いもので美味しい……」
　ありすが口に運んだのは、黒いミニシュークリーム。それには顔が書いてあり、モンスターをぱくり！　というところ。
　マタも、甘いものには甘い酒とその組み合わせを楽しむ。
「この組み合わせはやはりいい」
　ふ、とマタは笑む。それに流れる音楽も心地よい。握和歌に楽しむ人々の姿にも瞳細めた。
　そして同じように音楽に気分もふわふわ、笑み浮かべている愛しい女性。
「……本当に、かつてとは程遠い世界に来たものだ」
　マタは胸にこみあげる想いを、ぽつと小さく零した。騎士の真似事が、真実となってきたかのような錯覚を覚え――シャンパンでその錯覚を飲み込む。
　と――そっと、寄り添う気配があって。
「マタさん、あたし、ちょっとだけ大人になったかな？」
　そう、尋ねてくるありす。少しばかり考えに耽ってしまったな、とマタは微笑む。
「何？　大人になったか、と？」
「そう。初めて会ったときは紅茶しか飲めなかったけど……だから、マタさんがすっごく大人に見えたの」
　今日はもうシャンパンが飲める。大人になっているのだけれど――距離もまだ感じてします。
「ちょっとだけ、また近づけてたらいいな」
　そんなありすの心の内をまたは察していて、くすぐる様に微笑みかける。
「決まっているだろう。とても素敵な淑女だよ、我が姫君」
　その言葉にありすはふふと嬉しそうに微笑んだ。そしてこれ美味しいのよと、マタの口元へひとくち、運ぶ。
　それはハロウィン血塗れタルト。
「はい、あーん？」
　ありすは悪戯するように微笑んで、マタが応えてくれるのを待つ。
　照れくさい。けれど、姫君からの賜りものだとマタは笑って、甘んじてその口開き、ぱくと受け取った。
「一度やってみたかったんだ、美味しい？」
「あぁ、美味だとも」
　よかったとありすははにかむ。マタはすっと、フォンダンショコラの皿をとり一口分をフォークで救う。
「姫君、いかがかな？」
「！　もちろんもらうわ」
　フランボワーズソースの零れるショコラの味に、ありすもまた綻ぶ。




「ハッピーハロウィン！」
「ハッピーハロウィーン！」
　フウガ・ミヤビ（風来楽師・g06359）と一騎塚・喜一（一騎刀閃・g04498）はこの場所を案内した九鬼・ライカへ声かける。
「ハッピーハロウィン！　楽しんでる？　あ、仮装も素敵～！」
　と、ライカは二人へ笑いかける。
「ライカさんの雪女の仮装、とても素敵で似合っていますね！」
「なるほど雪女、和風な仮装は新宿島のハロウィンにピッタリですね」
　ありがと！　とライカは言って、そしてフウガの蜘蛛の巣モチーフのドレスに、素敵な装いと微笑んだ。そして喜一は。
「かぼちゃさん？」
　かぼちゃの着ぐるみのような感じで動くのはちょっと大変。
「素敵な時間、過ごしてね！」
「九鬼さんも楽しい夜をお過ごしくださいね！」
　軽く会話をして、フウガと喜一はホテルの上層へ。
　ハロウィンのオブジェクトで彩られている店内も見ているだけで楽しい。
　でもやっぱり、一番二人が目をかがやかせるのは運ばれてくるものだ。
「アフタヌーンティー、一度体験してみたかったんです」
　わ、とフウガはすごいと楽しそうに料理やお菓子を見る。
「飲み物もハロウィン仕様で見ているだけでも楽しいです」
　こく、とフウガは頷く。
「ハロウィン仕様だからでしょうか、食べ物のどれもが可愛らしくて手を出すのが勿体ないです」
　これだけで一つの芸術ですよね！　と言うフウガに頷く喜一は、それに気づく。
　とってもかわいい顔でこちらをみているそれは。
「見て下さい、黒猫のムースですって！」
「……すみません、記念に写真を撮っても良いでしょうか？」
　にゃん、と見詰めている黒猫。フウガさんは猫がお好きだから嬉しいんじゃないかな、と思っているとすっとスマートフォン取り出す姿にもちろんと喜一は笑う。
「こちらのサラダにはソースで蜘蛛の巣が描かれてますよ」
　フウガさんの衣装にもピッタリですねとサラダを示す。蜘蛛の巣デザインのドレスとあっていて、お揃いと心も踊る。
　そしていつになく真剣に写真を撮っているフウガが微笑ましく、喜一はその様子を見守っていた。
　しっかり写真に撮り納めて、喜一の視線に気づいたフウガ。ちょっと照れた顔見せて、乾杯しましょうと笑む。
　フウガは成人しているけれど、喜一はまだ未成年。
「乾杯はジュースにしましょう」
　喜一君が二十歳になったら、今度はシャンパンでお祝いしましょうねとフウガは笑む。その時までお酒はとっておきたいから、今日はお酒以外で。
「ではでは乾杯はこちらのブラッドソーダにしましょうか」
「お酒での乾杯はもう少し我慢ですね」
　その日を楽しみに。乾杯、とグラスを合わせてひとくち。
　美味しいと微笑みあって――そして喜一は気付く。
「……食事の際は地味にこの衣装では動き辛いような」
「ふふ、その仮装だと食べるのも大変でしょう」
　喜一は手を伸ばしてみるものの、届かないなと苦笑して。そしてここはフウガさんに甘えてしまいましょうと、フウガを見る。
「そちらのミニバーガーを一つ、私に頂けますか？」
「そうですね……はい、どうぞ」
　ミニハンバーガーの正面――チーズの目が合うようにもって、フウガは喜一の口元に。
　ぱくと喜一はかぶりついてもぐもぐ。
「……美味しいです、ありがとうございます」
　喜一はふわと微笑む。フウガもぱくと同じもの食べて美味しさの共有を。
　あれこれ口にしながら他愛ない話もして――ふと、夜景に目が向く。
　喜一が夜空を、眼下の世界の美しさを見つめているのに気づいてフウガも一緒に眺める。
「食べ物に気を取られてしまいましたが、景色も凄く綺麗ですね……」
「この灯りの一つ一つに人々の生活や営みが存在するのだと思うとなんとも感慨深いです」
「新宿島だと、明かりが多くて星があまり見えなかったけど、高層階だと星明りと街灯がどちらも見えて素敵ですね」
　地上で見る光景とはまた違う世界。同じ光景を二人で見つめる。
「まだ取り戻せていない地域にもこうして灯りがともせるように頑張りたいですね」
　喜一はふと瞳細める。戦いはまだ終わっていなくて続いていく。
　そんな中でも一緒に抗して過ごせる時間は――とても穏やかなものだった。




「夜のアフタヌーンティーパーティーなんて、ハロウィンならではだなァ」
　今年の俺らのコンセプトは執事＆メイドだし、ピッタリじゃん？　と瀬良・要（死は我が踊り手・g00797）はシャナオウ・ナラシャ（『-紗那皇-』・g02191）へと笑いかける。
「しかし、この姿でホテルって。なんのプレイだ、って感じだが」
　乱れている、と要の襟元に手を伸ばすシャナオウはヴィクトリアン風のメイド服。
「でも、俺らも給仕しながら、スイーツなんかも楽しもうぜっ♪」
「え"、給仕していくのか？」
　楽しみにきたはずだが。給仕とは――それがつまりハロウィンの悪戯ということ。
　今日は執事だし、今年は不良風は抑えめに。要がもてなすのは女性をメインに。
「『おかえりなさいませお嬢様、旦那様』とかいうのが挨拶だったよな」
　よし、それでいこうと訪れた女性客へ挨拶し、そして席へ。
「食べ物には確か……」
　と、要は考える。何か言葉を一緒にと思い出したのは。
「『おいしくなぁれ、萌え萌えキュン♪』……とかいうのはメイドだっけ？」
　その確認にふっとシャナオウは噴き出し、思わずつっこむ。
「そうだな、それはメイドさんがしていた気がするが、執事の場合はおまじないではなく、言葉の所作らしいぞ」
　こうだと思うと、要へと向かって姿勢を正すシャナオウ。
「本日のお飲み物は、お客様のお心を穏やかにするブレンドでございます」
　と、右手に胸を添えてやってみせる。
「とからしい」
　どうだ？　と尋ねればなるほどと。やってみるぜと要は言って、接客に。
　その姿をシャナオウは見守り、上手くいったと目が合えば笑い返す。
「やっぱ給仕側でも見た目だけで楽しいな」
「まぁ、確かに、観るだけでも楽しいな」
　こうしてオブジェなどもあるのだから、とシャナオウは店内見回す。
　ハロウィン独特の雰囲気――それに心浮かれてしまうのは仕方ない。
　俺の国にもなかった光景だとシャナオウは瞳細める。
「確かハロウィンって死者を迎える儀式だったか？」
　砂漠の民は、一時的に死者の御魂を借りる、のほうが周知だったから……と、今までの自分の常を思う。新宿島に来て、さまざまな事を知ってきたなと思いながら。
「毎年のことながらハロウィンの雰囲気ってのは、好みっつーか性に合うぜ♪」
　と、明るい声を要が響かせる。そして、シャナオウとそっと距離詰めて。
「特に夜は、な。それこそ魔性が目を覚ます時間ってな」
　悪戯するように囁いて誘うのだ
「一息ついて、俺らもティータイムを楽しもうぜ」
「そうだな、俺たちも楽しむとしようか」
　どうぞこちらに、と要は案内する。シャナオウは好きにさせて笑って返す。
「っても、俺らはやっぱシャンパンか？　それとも紅茶にしとく？」
　クランベリージュースもちょっと美味そうだよなァと、用意されているのを目にし要は零す。
「うーんそうだな、この祭だ、両方にしようか」
　一杯目はもちろんシャンパンで乾杯で、とシャナオウは頷く。
　シャンパンをもって、ふたりでグラスを合わせる。
　ここでの恒例、とシャナオウも笑ってグラス鳴らし一口。
「スイーツはやっぱハロウィンらしいのがいいんじゃん？」
　俺はこっちのタルトが惹かれるトコと要はスイーツを選んでいく。
　シャナオウはスイーツを要に任せて、それ以外をチョイス。
　真っ黒なバンズのモンスターバーガーに。
「真っ黒なバンズなんてこの時期だけだろうし」
　それから血糊ビーツのサラダも口に。
　どれも美味しいと、ハロウィンの料理に舌鼓。そしてシャンパン飲み終わったら次は――クランベリージュースでと二人の手に。
「おっとこれは忘れずに……Happy Halloween！」
「Happy Halloween！」
　二度目の乾杯に言葉を重ねて。シャナオウと要の夜はゆっくりと続いていく。




　夫婦でのデート――それは月見山・伊吹（太陽の恵み、日蝕の災禍・g04125）と月見里・千隼（硝煙と魔弾の騎手/現代ラストジョッキー・g03438）にとって、大事な時間。
　伊吹はもふもふだ。茶トラのお嬢様な仮装。そして千隼は黒猫紳士風の黒スーツ姿。
　お手をどうぞ、と千隼は伊吹をエスコートする。
「ハッピーハロウィン！」
　お店について挨拶を。伊吹の言葉に店の人たちもハッピーハロウィン！　と返してくれる。
　ふたりが案内されたのは、もちろん窓際の夜景が広がる席だ。
　高層階から星空と夜景を眺めて生演奏を聴きながらゆったりと――派手な仮装をして賑やかにパーティーしてはしゃぐのも醍醐味だけれど、こうして落ち着いて静かにお茶会するのも悪くないと千隼は笑む。
　それに目の前に、茶トラの仮装して伊吹がいる。その姿を見ていたら視線があって。
「とても可愛い、似合ってる」
　隣と言う特等席で共に過ごせて幸せだと千隼は微笑んだ。
　その言葉に伊吹は、ありがとうと微笑んで。
「猫ちゃんの仮装して楽しむ優雅で贅沢な夫婦のひと時もいいもんだよね」
　一緒に過ごせて嬉しいと伊吹も千隼へと伝える。
　と、こういう時良く誘いをかける藤臣・明鶴と九鬼・ライカを見かけ、ふたりは声かける。
「あ！　明鶴さんとライカさんだ！」
　声掛ければ楽しんでる？　と二人は手を振る。伊吹はこれをとふたりへとあるものを差し出す。
「いつもお疲れ様だよ、手作りの猫ちゃんステンドグラスクッキーどうぞ！」
「ハロウィン限定の新作をどうぞ」
　そして千隼も昼間に寄り道して買ってきたんだとハロウィンキャンディをふたりへ。
「いいの？　ありがと～！」
「サンキュー！　ふたりも素敵な夜を！」
　ハッピーハロウィン！　と言っていると、ふたりのアフタヌーンティーが運ばれてくる。
　最初はやっぱりシャンパンで乾杯。
「かんぱーい！」
「ん、乾杯」
　シャンパンもハロウィンらしくインパクトのある見た目だと思いながら千隼はひとくち。
　しゅわりと喉を通る感覚にふたりで笑いあい、話をしながら料理に手を伸ばす。
　伊吹はクスクスサラダと南瓜スープをのんで、美味しいと瞬く。
　蜘蛛の巣が描かれたサラダ。そしてモンスターな真っ黒いミニバーガーを口に運び、美味いと千隼は言う。
「野菜も肉も炭水化物もバランスよくあって、身も心にも優良な栄養が豊富にある」
　その言葉に伊吹は私もと手を伸ばして、ローストビーフやミニバーガーを口に。
「お次は卵サンド。その次は南瓜スコーンにしようかな」
「その後にスイーツだな」
　その通りと伊吹は頷く。食べて、飲んで。目の前の宝石箱をひっくり返したような世界を眺めつつふたりの時間はゆるりと流れていく。
「んん～ハロウィンスイーツどれも可愛くて綺麗で、とっても絶品で美味しくてほっぺた落ちちゃう！」
　頬押さえて言う伊吹。それにスイーツだけではなくて。
「紅茶も香りがよくてこのスイーツ達に合うブレンドの茶葉でいいねぇ！」
　幸せそうな表情を前に、では俺もと千隼も手を伸ばす。
「この黒猫のムースの顔は……俺のは眠ってるぞ」
　おばけのマカロンも大人しそうだと千隼は言う。伊吹のはどうだ、とみれば。
「私のはどっちもキュートな笑顔だねぇ可愛いねぇ！」
「伊吹のは笑顔か」
　奇遇にも自分となんか似てる表情の個体を選んだかと千隼もぱくりと口へ。
　と、また別のスイーツにも目がいく。
「血塗れフルーツタルト……！　すごい見た目だ」
　まるで曰くつきな呪いの宝石のようでと思いながら千隼は一口。
「どう？」
「俺はこの甘酸っぱいタルトが好き。伊吹はどれが好きだ？」
「お気に入りは黒猫ムースと棺桶チョコケーキ！　猫好きだもの」
　その言葉にふふと笑み零し千隼は次は、黒猫ムースへと手を伸ばす。この顔を崩すのはちょっともったいないけれど掬ってひとくち。
「黒猫ムース、伊吹のおすすめとあって美味いな。このタルトもお食べ」
「いいの？　じゃあ、あーん」
　伊吹は口を開いて待つ。早くというようなそぶりに千隼は一口分とって、伊吹の口へ。
「美味いか？」
「うん！　今年も千隼と一緒に美味しいハロウィン過ごせて幸せだねぇ」
　幸せな時間だ。ふたりで身を寄せ合って、このひとときを感じていた。




　葡萄パフェをモチーフにした仮装。ひらりとパフェの色を連ねたスカートを翻す。その上の
に纏うエプロンも、やっぱり葡萄。
　捌碁・秋果（見果てぬ秋・g06403）は四葩・ショウ（After the Rain・g00878）と一緒にホテルの高層階へ。
　ショウは、硝子製のつばめの仮装を。その翼はふわりと透き通るような色合いだ。
「ホテルの高層階、夜景、生演奏……前だったら背伸びする気持ちだけど、成年になった我々はもうフツーに来れちゃうね」
　と、秋果は紡ぐ。けれど、やっぱりその雰囲気にちょっと飲まれてしまいそう。
「……ウソ。少し盛っちゃった」
　だから素直に。小さく肩すくめて本当の気持ちを零す。
「ふふ。そうだね」
　そしてショウも小さく笑って。
「わたしもまだまだ緊張しちゃうな、こういうとこ」
「これだけ高級感あるとやっぱり特別な感じ……」
　でも今日は此処で、ハロウィンアフタヌーンティー。夜の時間のそれはいつもより、大人びた気持ちにさせてくれる。
　夜景の美しい席。そしてふかふかのソファ。羽根休め、とショウはその翼をふわりと下ろす。
　まずは――シャンパンで乾杯。
「ハッピーハロウィン！」
「ハッピーハロウィン！」
　特別な夜に乾杯を。ひとくち飲めばしゅわりと喉を通り過ぎていく心地。
　シャンパンが飲める――それは成人したということ。
「……そう、私もショウちゃんも二十歳になったよね」
　復讐者になったときは１５歳くらいだったのにと秋果は零す。
「そうだったよね。刻逆の日は、ちょうど高校1年の夏休みで」
　それから戦う日々が始まった。いろんなことがあって、世界はまた様変わりしたけれど、やっぱり戦いは続いている。
　けれどそんな中だからこそ、思うのだ。
「ショウちゃんは何か目標とか、就きたいお仕事ってある？」
「……目標？」
　黒猫のムースを食べようと交わしていた視線をショウは外して、秋果へと向ける。
　すると秋果はちょっとだけもごもごとしつつ。
「わ、私はね、キュレーター……美術館の学芸員になりたいんだ」
　募集が少ない狭き門なんだけど、とそこだけは唸るところ。
「……でも、諦めたくない」
　そう言って、瞳をまっすぐ前へ向ける秋果。その夢に確固たる気持ちがもうあるから。
「あの日私が好きな絵画と出会えたように、人と絵画が出会う場を作りたい」
　たくさんの人と美術品を結び付けたいんだ――と、ちょっとだけくすぐったそうにはにかんで秋果は紡ぐ。
　そのゆめをきいて、まっさきに思い浮かんだ気持ちがショウにあった。
　それは――秋果ちゃんにぴったりだな、と。
「うん、諦めちゃうなんて秋果ちゃんらしくない」
　一度、黒猫のムースをテーブルに置いてショウは秋果をまっすぐ見つめる。
　そして自分の思いを、告げる。
「なれるよ、ぜったい」
　わたし、応援してると大きく頷いて。
「世界中の美術品達を取り戻して、皆と美術品の架け橋になってよ」
　その言葉に秋果は頷く。そしてショウも笑い返して、自分の気持ちを、夢を語る。
「わたしはね、ブライダルプランナーを目指してるんだ」
　ショウは今までの事を思う。高校生の時にディアボロスになって。そして大学生に。
「大学に進学するときにさ……わたしね、なかったんだ。これから自分がやりたいこと」
　家族のために生きてきて、考えたこともなかったから――でもひとつだけ、とショウは続ける。こころに浮かんだの、と。
　それは、関わった元・竜の花嫁を、アイルランドへ送り届ける船で、皆でかれらの結婚式をしたこと――その『思い出』。
「船での結婚式、目標になるくらい思い出になったんだね」
　秋果はショウの話に笑み浮かべる。ちゃんと夢があると話してくれたことも、また嬉しくて。
「祝福の門出を晴れやかなものに出来るように、手助けがしたいんだ」
「……結婚式って幸せな空間を、ショウちゃんがさらに幸せで華やかにするんだ」
　そうなれたらそうできたらとっても素敵なこと。ショウも、秋果ももちろんそう思う。
「きっと式に来た皆の忘れられない記憶になるよ」
　一生の思い出になる、人を幸せにするお仕事――秋果はその夢を肯定する。
「私もショウちゃんなら必ずなれると思う」
　お互い頑張ろうね！　と言って、グラスを掲げる秋果。
　ショウも、同じようにグラス掲げて。
「有難う。うん、頑張ろう！」
　夢をかなえるんだと、ふたりで約束するようにグラス合わせる――必ず、なってみせると。

最終結果:成功
完成日	2025年11月21日