アーカム探索行~アーカムの水底より

 ボストン港からセーレム方面に向かったキマイラウィッチを追撃したディアボロスは、敵の防衛線を突破し、空想科学コーサノストラのセーレム地方の中心『アーカム』に到達しました。
 アーカムは、本来の歴史では実在してない架空の都市名ですが、怪奇小説の舞台として非常に有名です。
 アーカムに足を踏み入れたディアボロスは、早速、海岸の都市を襲う怪奇を目の当たりにします。
 魚人のような姿の醜い『アークデーモン』が、住民を襲おうとしているのです。住民を助け、攻略の第一歩としてください。

アーカム奇譚:名状しがたい、深き者どもの影(作者 塩田多弾砲
7


#空想科学コーサノストラ  #アーカム探索行~アーカムの水底より  #アーカム  #セーレム  #ボストン 


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#空想科学コーサノストラ
🔒
#アーカム探索行~アーカムの水底より
🔒
#アーカム
🔒
#セーレム
🔒
#ボストン


0



「はじめまして……の人は、はじめまして! そうでない人は、こんにちは! 探偵のアナベルよ」
 探偵の少女、アナベル・アイヴォリーが、君たちに挨拶する。
「……で、急ぎみんなにお願いしたい依頼があるの。してほしい事は『二つ』。
 ひとつ。『アーカム市の海岸集落に向かい、アークデーモンから住人たちを救い出す』
 ひとつ。『アークデーモン撃破後、やって来るワイズガイと交戦しつつ脱出』。
 これらを、行って欲しいのね」
 と、彼女はそう言った。

 流石にこれだけでは情報が少なすぎるので、アナベルは詳細を語り出した。
「ボストン港から上陸した『キマイラウィッチ』たちの追撃は成功。私たちはついに、セーレム地方に踏み込めるようになったの。けど……」
 そのセーレムは、『アーカム』と名前を変えていた。それは、架空の都市の名前。
 更に……そこは陰鬱な雰囲気となっていた。
「そして、このセーレム改めアーカムの海岸に位置する『集落』。ここには半魚人のような醜いアークデーモンが出現し、夜な夜な人を襲う事件を起こしているわ」
 なので、アーカムの海岸集落に向かい、アークデーモンから住民を救い出してほしい……と、アナベルは君たちに訴えかけた。
「助けた住民から話が効ければ、アーカムの情報を聞けるでしょうね。ただ、問題が一つ。アークデーモンが倒された事を知って、ワイズガイがすぐに駆けつけて来る。だから、のんびり話を聞く時間は長くないと考えるべきね。つまりは……」
 情報を集めた後、駆けつけたワイズガイと戦闘しつつ、撤退せねばならない。

「それで、アークデーモンの襲撃を受けている『集落』……皆が戦い、可能ならば情報収集を行うその場所だけど」
 アナベルが言うには、そこはいわゆる『寂れた、田舎の漁村』といった感じの場所。
 海が近く、周囲には腐った魚の様な臭いがするが、住民たちは特に気にしてはいない様子。
「ここは、かつてはかなり栄えていた様子を思わせるけど、今現在は寂れ、陰鬱な空気が漂っているわね。夜はもちろん、昼間ですら、漂う不気味な気配と雰囲気は晴れる事はなくて……まるで、何かの『影』が、深淵から来た、名状しがたい『影』が、覆っているかのようだと、私は感じたわ」
 そして、ここで一般人を襲う、トループス級のアークデーモン。
「それは『アークデーモン』ではあっても、最近漂着したというより、『かなり前から、この地のワイズガイに召し使われていた個体』のような気がするの。そして、もしそれが正しければ……『召喚したワイズガイが、何かの理由でこのアークデーモンを用い、人々を襲撃している』。そんな可能性が高いわね」

 さらにもう一つ。アークデーモンとワイズガイ以外にも、おかしな点がある。
「この、襲われているアーカムの一般人。彼等の行動にも、普通じゃないところがあるみたいでね。住民と会話する事が合ったら、そのあたりも探りを入れて欲しいわ」
 今後にそなえ、情報はあるに越した事はない。アーカムはかなり広い都市であり、調査すべき場所もまた、多く有る様子。
「アーカムには、複数のジェネラル級ワイズガイが存在する可能性が高いので、慎重に行動する必要があるかもしれないからね。情報が得られるなら、多く得られて越した事はないからね。さて……何か質問は?」
 もし質問が無いなら、速やかに現地に向かって欲しいわ。アナベルは君たちに、そう促した。

 この漁村は、街の中心部には、ほとんど人が居ない。空き家ばかりで、がたがたの廃屋の小屋が並ぶのみ。
 南側には商店街と、『スクエア広場』があり、村唯一の宿泊施設『ラグーン・ハウス』も、その広場にしかない。
 多くの住民が生活しているのは、南側の住宅地。北側には富裕層の屋敷がある。
 町の中心を走るフィッシャー通りが、街道に続く教会通りと交差しており、交差点付近に教会や市民会館が建っている。
 そして、この地に来た彼は……来たことを後悔していた。
 彼、ハワード・ウォーレンは、画家だった。幻獣や怪物の絵画を描かんと、あちこち旅をして……この漁港に来たが、
「……あれは……一体?」
『ラグーン・ハウス』に泊まっていた彼は、胸騒ぎとともに目覚め、騒がしい外の様子を見た。
 そこに広がっていたのは、『悪夢』の光景。
 南側の住宅地に、『ラグーン・ハウス』に面したスクエア広場に、
 多数の『怪物』が、闊歩していたのだ。
 怪物は、人と魚を合わせたような姿だが、同時にカエルやサンショウウオが直立したようにも見える。ウォーレンは、自分はまだ眠っており、悪夢を見ているのではないかと思ったが、即座に否定した。
 全身から漂わせる生臭さと、ケロケロ、ウォームといった鳴き声を、はっきりと認識したからだ。
 恐ろしい事に、怪物どもは人間を襲っていた。おそらく、この漁村の住民だろう。
 だが、さらに奇妙なことに……、村人たちの反応が『異常』だった。
 おぞましい魚人間の怪物たちが、スクエア広場の中央に、村人たちを囲っている。普通なら、追い詰められて恐怖の悲鳴をあげてもおかしくないのに、
 ある男たちは、ただぼさっと突っ立っているだけ。
 別の村人……老婆は、まるで天使や神の使いに対するように、膝を突き祈りを捧げ、
 老人は、ぶつぶつと誰もいない空間へしゃべり続けている。
 子供たちは、周囲の怪物を無視し、皆で手を取り合いダンスを。
 女性の何人かは、まるで娼婦のように怪物へとしなだれ、抱きついていく。
 だが、怪物たちは抱きついた女性の喉笛に……噛みついた。

 上がったのは、苦痛ではなく、嬌声の悲鳴。
 突っ立っているだけの男も、腕の一振りで首が吹き飛び、転がった。
 祈りをささげた老婆たちも、多数がのしかかられ、圧殺される。
 老人や子供たちも、同様に殺害されていく。
「……なんと……冒涜的! これは、狂った宴だ! 怪物が、人間を餌食にするための饗宴だ!」
 それを見て、ウォーレンはおぞましさを覚えたが……、
「……これだ! これこそ、僕が描きたかった怪物画! 人間こそが至高などという、前時代的な思想を凌駕する、冒涜的芸術!」
 それ以上に、絵描きとしての血がさわいでいた。
 ありったけの紙と、画板、鉛筆やペンを取り出し、その様子をスケッチし始める。
 万物の霊長などと、自分が頂点だと思い込んでいる人間が、おぞましい怪物に、一方的に凌駕される。あたかも、家畜の如く!
 そうとも、人間は至高の存在などではない。この世界、この宇宙において、ちっぽけな一つの生物でしかない。神? 宗教? そんなものはくそくらえだ!
 スケッチ用の紙に、素描だが、怪物たちの饗宴の様子が次々に描かれていく。これぞ芸術! これぞ、名状しがたき感動!
 ウォーレンは、気付かなかった。自分の『正気』が、失われていく事に。
「素晴らしい……素晴らしい! 深淵より生じた存在が、深き場所からの影が、人間と言う存在を辱め、貶める! これこそ宇宙の事実! ああ、窓に! 窓に!」
 ウォーレンは、『ラグーン・ハウス』の窓に、水かきの付いた『手』がガラスを叩くのを見た。
 それは、怪物……深きものどもの、本物の『手』。
 ウォーレンに見られている事を知った、深きものどもの一体が、
『ラグーン・ハウス』の壁を登り、その窓を叩いたのだ。
 ウォーレンは、それを目の当たりにして……狂喜した。怪物を、至近距離で見られる!
 スケッチせねば。この鱗の形状、手と足の水かき、魚の様なガラス玉の如き眼球、それから、それから……、
 ウォーレンは、命を失う前に、
 正気を、失っていた。


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


→クリア済み選択肢の詳細を見る


●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【士気高揚】
2
ディアボロスの強い熱意が周囲に伝播しやすくなる。ディアボロスから「効果LV×10m半径内」の一般人が、勇気のある行動を取るようになる。
【飛翔】
1
周囲が、ディアボロスが飛行できる世界に変わる。飛行時は「効果LV×50m」までの高さを、最高時速「効果LV×90km」で移動できる。【怪力無双】3LVまで併用可能。
※飛行中は非常に目立つ為、多数のクロノヴェーダが警戒中の地域では、集中攻撃される危険がある。
【怪力無双】
1
周囲が、ディアボロスが怪力を発揮する世界に変わり、「効果LV×3トン」までの物品を持ち上げて運搬可能になる(ただし移動を伴う残留効果は特記なき限り併用できない)。
【未来予測】
1
周囲が、ディアボロスが通常の視界に加えて「効果LV×1秒」先までの未来を同時に見ることのできる世界に変わる。
【現の夢】
1
周囲に眠りを誘う歌声が流れ、通常の生物は全て夢現の状態となり、直近の「効果LV×1時間」までの現実に起きた現実を夢だと思い込む。
【罪縛りの鎖】
1
周囲に生き物のように動く「鎖つきの枷」が多数出現する。枷はディアボロスが命じれば指定した通常の生物を捕らえ、「効果LV×2時間」の間、移動と行動を封じる。
【勝利の凱歌】
1
周囲に、勇気を奮い起こす歌声が響き渡り、ディアボロスと一般人の心に勇気と希望が湧き上がる。効果LVが高ければ高い程、歌声は多くの人に届く。
【友達催眠】
1
周囲の一般人を、誰にでも友人のように接する性格に変化させる。効果LVが高いほど、昔からの大切な友達であるように行動する。
【プラチナチケット】
1
周囲の一般人が、ディアボロスを関係者であるかのように扱うようになる。効果LVが高い程、重要な関係者のように扱われる。
【隔離眼】
2
ディアボロスが、目視した「効果LV×100kg」までの物品(生物やクロノ・オブジェクトは不可)を安全な異空間に隔離可能になる。解除すると、物品は元の場所に戻る。
【泥濘の地】
2
周囲の地面または水面が泥濘に変わり、ディアボロスは指定した「飛行できない対象」の移動速度を「効果LV×10%」低下させられるようになる。
【エアライド】
1
周囲が、ディアボロスが、空中で効果LV回までジャンプできる世界に変わる。地形に関わらず最適な移動経路を見出す事ができる。
【トラップ生成】
1
ディアボロスから「効果LV×300m半径内」の空間を、非殺傷性の罠が隠された罠地帯に変化させる。罠の種類は、自由に指定できる。
【光学迷彩】
1
隠れたディアボロスは発見困難という世界法則を発生させる。隠れたディアボロスが環境に合った迷彩模様で覆われ、発見される確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【平穏結界】
1
ディアボロスから「効果LV×30m半径内」の空間が、外から把握されにくい空間に変化する。空間外から中の異常に気付く確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【植物活性】
1
周囲が、ディアボロスが指定した通常の植物が「効果LV×20倍」の速度で成長し、成長に光や水、栄養を必要としない世界に変わる。
【水面走行】
1
周囲の水面が凪ぎ、ディアボロスが地上と同様に走行や戦闘を行えるようになる。ディアボロスと手をつないだ「効果LV×3人」までの一般人も同行可能。
【操作会得】
1
周囲の物品に、製作者の残留思念が宿り、ディアボロスの操作をサポートしてくれるようになる。効果LVが高い程、サポート効果が向上する。
【パラドクス通信】
1
周囲のディアボロス全員の元にディアボロス専用の小型通信機が現れ、「効果LV×9km半径内」にいるディアボロス同士で通信が可能となる。この通信は盗聴されない。

効果2

【能力値アップ】LV6 / 【命中アップ】LV2 / 【ガードアップ】LV1 / 【反撃アップ】LV1 / 【アクティベイト】LV1 / 【リザレクション】LV2 / 【先行率アップ】LV2 / 【ドレイン】LV3 / 【アヴォイド】LV1 / 【ダブル】LV3

●マスターより

塩田多弾砲
 こんにちは、塩田です。
 今回は、アーカムのとある漁村の怪奇譚になります。人と魚を合わせたような、人の正気を失わせる名状しがたい怪物から、まずは村人たちを救ってください。
 順番としては、
 ②👾一般人を襲うトループス級『『水底の悪夢』深きものども』
 ①住民との交流。
 ③👾護衛するトループス級『ビッグアイエージェント』
 ④👿アヴァタール級との決戦『オーガスト・ダーレス』
 まず、②で深き者どもとディアボロス諸氏が交戦し、これを撃退。数はそれなりに居るので、注意して事に当たって下さい。
 次に、①で助けた住民たちと接触し、情報を得て下さい。ただし、住民たちの状態は普通ではない、異常な心理状態です。思ったように情報を得られない可能性が極めて高いので(精神の値が、数字で言えばゼロまたはそれに極めて近い)、その点を承知のうえで情報収集をお願いします。
 そして、時間をかける事もできません。深きものどもが全て倒されると、予想より早くワイズガイが襲って来ます。異常な環境なので、ディアボロス諸氏も長居すると、良くない影響があるほか、新手のワイズガイに襲われる可能性があるので、③および④で迎撃しつつ、速やかに撤退をお願いします。
 皆さまの挑戦を、お待ちしております。
72

このシナリオは完結しました。


『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。


発言期間は終了しました。


リプレイ


アンゼリカ・レンブラント
深淵から来た、名状しがたい『影』が覆う街かぁ
そのくらいで私達が怯むと思ったら大間違いだよ!
エゼキエル戦争の残党なら猶更倒しておかなきゃ

人々とアークデーモンとの間に入り
パラドクスの拡散砲撃
深きものどもに痛いのをお見舞いだーっ!

悪さするなら、私をやっつけてからにしてよね
注意を人々からこちらに向け、戦闘に入ろう
仲間とは積極的に連携し、攻撃を重ね狙いを集中っ
トループス級相手のセオリー通り
確実に敵の数を減らしていこう

正気を失っているような人々は
私達の助けも嬉しくないのかもしれない
でも、それがなんだ!絶対に助けてみせるとも

敵の冷凍攻撃には水をしっかり盾で受け凌ぐね
暑い夏だし少しくらいいいんじゃって?
冗談!氷ならかき氷くらいで十分だよっ
お返しに熱い砲撃を受け取れっ!

敵の数が少なくなったら仲間と囲むよう布陣して
逃さないようにして殲滅していこう
パワー全開1《終光拡散砲》を浴びせて殲滅していくね
私のありったけ、受け取れーっ!

終わったら人々の無事を確認しよう
無事?それは分からないけど……会話、できるといいかな


捌碁・秋果
漁村ってこういうもの?
潮の香り…なんて言葉では取り繕えない、この、独特の…
ああもうストレートに言うね。くさくない?
…あの富裕層がいる北側も、こんな風に臭うのかな?
いや、我々のような乙女達がくさいとか臭うとか少しはしたなかったよね。お淑やかにいこう

くっっっさ
この広場臭いのレベルが違う!
いや、まずは村人達を急いで助けないと
村人達に手出しできないよう、パラドクスを使って敵を地面に縫い付けよう
また買ってしまったポストカード、1枚1枚は安くても塵も積もれば山となる…通算で幾らになるのかな…。うう、愛の籠った消費をくらえ!
あれは宿屋? 窓になんか張り付いてる!あいつにもお見舞いして落としておこっと。中にいた人、無事だといいけど。
動けなくなった敵たちは藍色の槍で薙ぎ払うよ
…あっ、臭いの元はこの半魚人かぁ。原因がわかってほっとしちゃった

吐いた…水を吐いてる…
え、今からあれで攻撃する感じ?うそでしょ?
ぜ…絶対あたりたくない!!!
額縁を展開。美術に対する情熱を滾りに滾らせて額縁を強固にして身を護るぞ…!


シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ・連携は歓迎だよ

冒涜的、って言えば聞こえはいいけど、うーん……
こいつらの場合イマイチ異形に振り切りきれてない気がするんだよね。
その辺がトループス級って事なのかなぁ。
まあひとまず、急ぎで村人を襲おうとしてる奴らを片付けようか。

どうも明らかに何かされてるっぽい村人たちの対処はまた後で。
ひとまずは目の前の危険を鎮めないとね。
さぁ、妖精さんたち。一般人相手には遊んじゃダメだよ?
うまくできた子には、あとでお菓子をサービスだ。
え、活け造りとか姿盛り?深きもののは要らないかなー、妖精さんたちが欲しいなら好きにしていいよ。

妖精さんたちの数に任せて深きものどもを攻め立てながら、自分自身は少し無理やりにでも一般人を遠ざけよう。
潮流撃は妖精さんが率先して飛び込んだりして玩具にしそう。
……いや、そうしてる間の反動ダメージ受けるのは私なんだけどね……!?
攻めて私自身は直撃を受けないようにしつつ、何とか耐えるしかないか。
遊んで上機嫌になった妖精さんなら早く片付けてくれる。……と、いいなぁ。


マリアラーラ・シルヴァ
広場の人々や宿屋の画家さんは皆に任せれば大丈夫みたい?
あー…匂いならマリア手持ちの「ファブるフラワー」で少しは何とかなる…かなぁ?

それはそれとして魚ベーダは何してるんだろ
罠を張ってマリア達を誘き出してる?
ううん…そんな計画的なものには見えない
何かの儀式?…そういう意義もなさそう

じゃあ…見せつけてる?

「畏怖」が得意なアークデーモンが
精神的に異常をきたしてる村の人を襲っても怖がってもらえない
ワイズガイが糸を引いてるとしてもお金に繋がるとも思えない
なら戸締りして寝床で震える人々を怯えさせる役回りの魚ベーダが街中に潜んでる…のかも?

【光学迷彩】を纏って不意の遭遇を避けながら街中をパトロール
もし魚ベーダが居ても街の人を脅かすのが目的だから不意打ちでやっつけちゃうのは簡単
パトロールが空振りだったとしても
この後の情報取集で広場の人以外からもお話聞きたいし
街全体の状況を把握はしておきたいなって

でも街の北側までは行かないよ
交差点付近にある教会や市民会館をゴールに設定
正気な人が居るならここに避難しそうだしね


呉守・晶
連携アドリブ歓迎

あー……何時からセーレム改めアーカムはインスマスになったんだ?
いや、まぁ確かにアーカムといえば例のあのコズミックホラーな神話群、あの神話といえばインスマスは確かに有名だが、こう再現せずとも……
チクショウめ、頭が痛いぞ。正気度削ってくるんじゃねぇよ

深きものどもはTOKYOエゼキエル戦争で戦ったこともあるが、なんか東京の時と雰囲気が違うな?
漁村自体も腐った魚のような臭いでキツイし、ますますもってインスマスじゃねぇか
まぁ俺らは小説で殺される無力な市民じゃねぇし、一般人を救う為にもやってやるよ!だいたい俺らがテメェらを見て正気を失うわけがねぇだろ!
魔晶剣アークイーターを構えて突っ込んで、叩き斬って深きものどもを三枚おろしにしてやるよ!
おら、テメェら一般人を襲ってる場合か!此処にディアボロスがいるんだぜ!
……臭いの元はこいつらじゃねぇよな?もしそうなら返り血浴びるのは遠慮してぇぞ、鼻が曲がっちまうだろうが!
このアビスローバーモドキのアークデーモンが、何時から此処にいやがるんだか!


●……海底には人類の歴史が始まるずっと前、数十万年前から、未知の世界が存在する。
 日が沈み、宵闇が周囲を包む中。
「…………え? 何か言った?」
 陰鬱なる漁村にて、アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)は、自分へ、誰かが話しかけた気がした。
「……いや、な、なにも……」
 捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)が答えるが、彼女はあまり空気を吸い込みたくなかった。
 ……魚の生臭さが、強かったからだ。まるで鼻腔を破壊するかのような悪臭は、彼女を辟易とさせる。
 ディアボロスたちは、トレインから降り(おあつらえ向きに、廃線となった駅があった)、その後で広場に向かい……。
「……スクエア広場ってのは、この通りの先かな?」
 そこで、物陰から覗き込み、
『深きものども』の姿、半魚人……と呼ぶには、異形すぎる者たちの姿を、見つけた。そいつらはがに股で、ぴょこぴょことカエルのように飛び跳ねるように歩いている。
 それを見た、シエルシーシャ・クリスタ(水妖の巫・g01847)は、
「うーん……『冒涜的』って言えば、聞こえはいいけど、うーん……」
 なにか、納得しがたいような口調だった。
「どうかしましたか?」
 秋果がそれに関し問うと、
「いや。こいつらの場合。イマイチ異形に振りきり『きれていない』って気がするんだよね。私の気のせいかもしれないけど。でも……うーん」
 と、シエルシーシャはどこか引っかかる様子。
「……本当に、臭うのね。秋果、マリアの『ファブるフラワー』、使う?」
 マリアラーラ・シルヴァ(コキュバス・g02935)が、洗浄消臭スプレーを差し出し、
「あ、どうもマリアちゃん……」
 秋果はそれを用いるも、……ほとんど効果はなかった様子。
「あー……『インスマス』にいるんなら、香水や消臭剤程度じゃ、臭い消しにはならんだろうよ……っつーか、何時からセーレム改めアーカムは、こんなになっちまったんだ?」
 と、呉守・晶(TSデーモン・g04119)がぼやく。
 そう、彼女はこれの『元ネタ』を知っている。アーカムという名を聞けば、あの『コズミックホラー』……『宇宙的恐怖』を描いた神話群。
 深淵にして広大なる恐怖の物語。それを知り関わるだけで、狂気に近づくことを意味する。
「……と、とにかく! 深淵から来た、名状しがたい『影』が覆う街であっても! それくらいで私たちは怯まない! 怯むと思ったら、大間違いだよ!」
 何せ、私たちは、英雄、勇者、ディアボロスだからね!
 ……アンゼリカが、元気良く口にする。だが、彼女はどこか、
「…………」
 その言葉が、空虚に響くのを感じていた。

「……くっっっさ! 臭いのレベルが違う!」
 スクエア広場。そこで、
 村人たちを中央に追い込み、周囲を囲っている『深きものども』を目の当たりにして、
 秋果は思わず、悪臭に対し悪態をついてしまった。
 彼女の言葉に深き者たちは、幸い気付かれていない。が、
(「……なんだ、この『違和感』は」)
 目前では『異形の怪物が、人々を追い込んでいる』。
 今までディアボロスとして、それなりに活躍してきた中。こんなシチュエーションを見なかったわけではない。
 なのに……過去に体験したどの状況と比べても、目前のこれはあまりに『禍々しい』ものだった。
 その禍々しさ。芸術の絵画で例えるなら、『リアルに描く事で、生理的な嫌悪感を高め、見た者の心に強烈な印象を与えん』としているかのよう。
 秋果は、目前の光景がそれに近いものだと思ってしまった。
 が、
「……秋果、まずは……こいつら倒す!」
 晶が、魔晶剣アークイーターを手に突撃するのを見て、我に返った。
「その通り! 痛いのをお見舞いだーっ!」
 続き、アンゼリカも駆ける。
「……色々疑問はあるけど、まあひとまず、急ぎで襲おうとしてるのを片付けようか」
 シエルシーシャも、晶とアンゼリカの後ろから、小走りで向かう。
「……確かにね、ええと……SAN値だったか。勝手に考え込んで自分で減らしてたら、意味ないわな」
 と、悪臭のダメージをとりあえずは無視し、秋果も戦いに集中し始めた。
「…………」
 そんな中、マリアラーラだけが、
 何かを考えるように、広場中央、村人の方とは逆の方へと向かう。
 目が合った秋果と視線をかわし、頷き合うと、
 マリアラーラは建物の陰に入り、その姿を消した。

 スクエア広場。
 その中心に集められた人々は、皆……どこかおかしかった。
 その周りを、回り込むかのように『深き者ども』が囲っている。ぴょこぴょこ歩きも、おぞましいことこの上ない。
「……まずは……!」
 秋果が、パラドクスを用いた。
「『愛は金より重い』! ……購入したポストカード! 一枚一枚は安価でも、塵も積もれば山となる!」
 秋果自身が『美術館で消費した金額』に応じ、相手に『重み』を与えるパラドクス。
 その名も、『愛は金より重い』。
 途端に、『深きものども』の動きが止まった。押さえつけられたかのように、『重さ』を、重力を叩きつけられた気分になり、這いつくばる。
「よしっ! ……って、あっちにも!」
 宿屋『ラグ―ン・ハウス』の壁を登り、窓に張り付いている「深きもの」の一体を発見した秋果は、そいつにも同様に重さを付加。
 そいつを地面へと叩き落とした。
「……って、なんだこれは!」
 しかし、すぐに秋果は絶望させられる。
「……くそっ、やっぱり課金が足りなかったか。今だけは課金厨になるべきだった?」
『愛は金より重い』を受けた『深きものども』の何体かは、よろよろとした足取りで、
 立ち上がったのだ。

●……人間がいくらエンジンや潜水艦を発明し、海底を探索しても、その全貌は未知のまま
「させるかよ! 切り刻んで刺身にしてやる!」
 が、秋果の絶望を打ち砕かんと、晶が切りかかった。
「『勇鼓吶喊』! アークイーターの刃の鋭さ・怖さを思い知れ!」
 勇猛果敢な、晶の斬撃。魔晶剣の刃の煌めきが、漁村の怪物どもを斬り捨てていく。
「増幅魔法、『六芒星増幅術(ヘキサドライブ・ブースト)』展開! 魔力……上昇!」
 と、晶に続き群れに突撃したアンゼリカは、
 人々と、『深きものども』の間に入り込みつつ、魔法を展開させていく。
「……裁きの光と六芒星に集いた精霊よ!邪悪なる敵全てを吹き飛ばせぇーっ! 『終光拡散砲(エンド・オブ・イヴィル・スプレッド)』!」
 魔力が収束し、『裁きの光』が……強烈な砲撃として放たれた。
 その砲撃が、清浄なる魔法の光の砲撃が、深淵から来た影を纏う怪物たちに直撃。闇を払拭するかのように、魚の怪物たちを吹き飛ばしていった。

「ふむ、流石はアンゼリカ。その魔法、いつもながら中々のものだね。それじゃ、私も……」
 その様子を目の当たりにして、シエルシーシャ、鬼人の妖精騎士は、
「……ひと働きするかな。さあ、おいで。妖精たち」
『門』を、開いた。
 中空に現れたその『門』が開くと、内部から……無数の『妖精』たちが現れる。
 小柄で華奢で、背中に虫めいた翼を持つ妖精から、ゴブリンめいた小鬼のような妖精、その他様々な姿かたちの妖精たち多数が、シエルシーシャの招きを受けたかのように、出現した。
「さあ、おいで。今日はここが、遊び場だ」
『妖精門開放:遠く彼方の君たちへ(コーリング・フェアリー)』。開いた門から、無数の気紛れな妖精たちを召喚するパラドクス。
 ふと、『深きものども』の一体が、その妖精たちを見て腕を振るい、叩き潰さんとした。
 その途端、小さな妖精たちは、
『わ、これは玩具?』『壊してもいいの? 壊そうとしてきたの?』『ならこれは、玩具。壊してもいい玩具!』『壊そう! 遊ぼう!』
 そんな言葉を互いに交わしたかのように、飛び回り、
『深きものども』に、羽虫の群れのようにたかり始めた。

「さぁ、妖精さんたち。一般人相手には、遊んじゃだめだよ? うまくできたら、その子には後でお菓子のサービスだ」
「……え? 活け作りとか姿盛り? 深きもののは、要らないかなー。もちろん、妖精さんたちが欲しいなら、好きにしていいよ」
 などと妖精たちに伝えた後、シエルシーシャは一般人たち、村人たちの元へと向かう。
「……さて、みなさん。私たちは助けに来ました。こちらに……」
 と、身近な女性の手を取ろうとしたが、
「……い……」
「い?」
「……いあ! いあ! くとぅるふ、ふたぐん!」
「いあ! いあ!」「いあ! いあ!」「いあ! いあ!」
 そんな言葉を唱えつつ、膝を付いてかしずいている。その女性の、周囲の女性たちも同様。
「……それじゃ、こっちのご老人……」
 らちが明かないと、別の老人へと向かうと、
「……づぃん うが=なぐる ぶほう-いい にるぐうれ さどくえ ねぶろっど むてん むなーる……愚かなる賢者なり、其は全ての邪悪にして、全ての善なる源。無数の弾丸は、空の弾薬庫と同等なり、永遠に存在する塩の結晶は、元より存在せぬ事と同意……」
 そんな事を口走っている。他の老人たちも、同じくぶつぶつ呟いているのみ。
「……やれやれ、だな。だけど……」
 うんざりしたシエルシーシャだが、
「……攻撃的な人たちは、いないみたいだ。こうやって手を引っ張れば、なんとか……」
 よろよろと、歩いてくれる。それにともない、何人かが一緒に歩いてくれるため……、
 なんとか、広場の端の方へと、引っ張る事はできそうだった。……かなりの苦労は伴うが。
 と、そこへ。
『…………!』
『深きものども』の一体が、『冷凍水弾』……その口より、極低温の水流弾を発射した!
(「……あ、まずい」)
 直撃……はしなかった。する前に、妖精がその間に入り込み、防いでくれたからだ。
 だが、その強烈な生臭さまでは防げない。飛び散った飛沫は、シエルシーシャに僅かだがひっかかり、
「……反動ダメージ、受けちゃったなあ」
 そんな事を彼女に思わせるのだった。

「……なんて言ったっけなあ、あの缶詰……」
 秋果はかつて、世界一臭い缶詰の事を、何かで知った時のことを思い出していた。
 だが、断言してもいい。今日のこの臭う生臭さに比べたら、その缶詰の臭いなど微々たるものだろう。しばらくは海産物を目にするどころか、海で潮風に当たりたいとも思わない。
 シエルシーシャの妖精たち、それに晶とアンゼリカ。皆の活躍のおかげで、『深きものども』の数は減りつつあった。
 だが、アークイーターの斬撃、『終光拡散砲』の砲撃、『遠く彼方の君たちへ』で呼んだ妖精たちの攻撃をもってしても、『深きものども』の全てを倒すには至っていない。
「……え? 嘘! 来るな!」
 と、秋果は、
 晶とアンゼリカの後ろを守る位置に居る自分に、『深きものども』の数体が、
『冷凍水弾』を放ってきた事を知った。
「……美術! 美術美術美術美術っ! 美術美術美術美術美術美術美術美術っ! あんなの、絶対当たりたくないッ!」
 秋果は、己の美術に対する情熱を、滾らせ、滾りに滾りに滾らせて、『額縁』を強固にさせつつ……防御!
 水弾の大半はそれで防げたが、飛沫が引っかかるのを肌で感じてしまった。
 だが、水弾が効かないとわかると、
『深きものども』は、今度はまるで魚雷になったかのごとく、自身の身体で体当たりしてくる!
『突撃破壊弾』、生臭さの源であり塊でもある魚の怪物たちは、
 凍りかけた『額縁』をはねとばし、秋果へと襲い掛かって来る。
「くっ……!」
 臭いだけでなく、命の方も危なくなって来たと、秋果は実感せざるを得なかった。

●……そして、その全貌を理解し、耐えられるほど、人間は賢くはなく、丈夫でもない
「……戸締りして、寝床で震える人々は? それを怯えさせる役回りの、魚ベーダたちは?」
『光学迷彩』を纏い、マリアラーラは、漁村を駆ける。
 だが、住宅街はおろか、その他の建物も、店も、廃墟も、
 その内部には、誰一人いなかった。
「……空振り、なのね」
 だけど、もしも正気の人間がわずかでもいるなら、助けないと。
 交差点付近の、教会や市民会館。そこに赴いたマリアラーラは、
 まずは教会の扉に手をかけ、開いた。

 扉を開くと、そこにあったのは……『礼拝堂』。
 普通の教会と同じものがあると知り、ほっとしたマリアラーラだったが……すぐにその気持ちは打ち砕かれた。
 内部から、外と同じか、それ以上の強烈な生臭さが漂ってきたのだ。そして、その内装も……、
 礼拝堂奥には、確かにステンドグラスがあったが、十字架や聖人像はない。
 壁や天井に施されているのは、冒涜的かつ名状しがたい、絵画や彫刻。
 そして、正面には。『像』が鎮座していた。
 そこに置かれていた『像』は、『深きものども』よりおぞましく……神々しさすら感じさせる、巨大な怪物の像。
 うずくまった巨大な人型で、手足には鉤爪、コウモリの翼が背中から広がり、その顔は、頭部は、髭にも似た触手を蓄えた『蛸』のそれ……。
 そして、怪物の像はおぞましかったが……室内に充満した、得体のしれない『気配』もまた、おぞましかった。
 悪臭は変わらず強かったが、それとは違う。嗅覚以外にも感覚器官を通し、体内に強制的に何かが染み込んでくるかのよう。
 その『何か』は濃密で、目に見えなかったが、確実に存在している。
 その『気配』が何なのか、どこから生じているのか、まったくわからない。それと同時に、『気配』の主であろう『何か』は明らかに、マリアラーラ自身を変容させようとしていると感じた。
 そして、本能的に理解『してしまった』。
 その『何か』に対しては、戦ったり抗う事はもちろん、理解も、対話も、一切が不可能だという事を、理解してしまったのだ。言うなれば、鯨に対する小魚にも等しい力量差。いっそのこと、このままこの圧倒的な力に流されれば、礼拝堂に入ってしまえば、楽になるかも……。
「だめ!」。
 すんでのところで、マリアラーラは入ることを拒み、扉を閉めた。
 今の、奇妙な感覚はなんだったのか。恐ろしくも、対抗などできない巨大な何かを、確実に感じ取っていた。
「……もしもこの教会の中に、入ってたら……」
 入っていたら、まず間違いなく……『まともでいられなくなる』。
 いや、ちらっと見ただけなのに……狂いかけていたように思えてならない。ガスとか毒とか、催眠術とか洗脳とか、精神干渉する魔法や呪詛や超能力の類とか、憑依する霊とか妖怪・悪魔とか、その程度で説明できるチャチなものでは断じてない。
 存在を知っただけで、狂ってしまう強烈な『何か』、関わってはならない強大なる『何か』が、扉一枚を隔て、確実に存在していた。
 扉から離れ、
「……リラックス、リラックス。気を取り直して、こっちに……」
 なんとか、落ち着きを取り戻し。マリアラーラは続いて、市民会館へと入っていった。

 市民会館……「イハ・ンスレイ会館」。
 こちらも鍵はかかっておらず、内部は人の気配は無い。生臭さも無かったが、やはりどこか普通ではなかった。
 人はいない。荒らされた様子もない。隠れているのかと思ったが、人の気配がまったくない。
 そして、食堂に向かうと、そこに……、
 生臭さとともに、倒れている人たちを見つけた。

 その人たちは、食堂の床に倒れて動かなかった。
「きっと……魚ベーダの群れから逃げて、ここに来たのね。でも……」
 手近な者に近づくマリアラーラ。その者の顔は、こちらに向けていない。背中を向けて倒れたまま、動くそぶりを見せない。先刻に、広場で見た村人たちと同じ服を着ている。
 生臭さは……今さっきの礼拝堂のそれにくらべると、やや弱い。どこかにあの魚ベーダが……?
「……ねえ、しっかりして!」
 と、『光学迷彩』を解き、倒れた人影に駆け寄るマリアラーラ。
 この臭いが漂っているって事は、外の魚ベーダが近くに? 助けないと。
 そう思い、近寄って肩に手をかけ、ゆすった。
 とたんに、その者の背中が倒れ、顔が、マリアラーラの方へと向いた。
「!!」
 窓からの月明かりが照らす、そいつ……その男は、異様な顔をしていた。
 その眼球は飛び出し、首部分の皮膚がだぶついている。
 鼻は平ら、耳は小さく、皮膚は……ところどころが鱗状に。
 口を開け、そのまま悶絶するような表情で、事切れている。
 何らかの風土病か、あるいは何かの変異か。おぞましい異形であるが、どこかで見たような顔でもあった。
 それは……、
「……これ、外の魚ベーダ?」
 他の倒れている人々をあらためると、その全てがそうだった。人間ではあるが、同時に魚のような顔になりつつある。そんな状態で、全員が死んでいた。
「どういうこと? 魚ベーダに比べて、人間に近いけど……。人が魚ベーダに、それとも魚ベーダが人に、変身してる途中? いったい……」
『おや、こんなところにお客とはね』
「!」
 いきなりの言葉に、マリアラーラは周囲を見回した。

『心配しなさんな。ちょいと……気付いたから声をかけただけさ。お嬢さん』
 あちこちに目をやるが、声の主らしき者の姿は無い。
 だが、声の質からして……スピーカーか何か、機械を通じて声をかけている様子。
「……あなたが、街の人をこんな風にしたの?! 無理やりこんなことするなんて……!」
 怒りと共に、マリアラーラは問い詰めるが、
『……残念、全くの的外れの勘違いだね。彼らはむしろ、あるべき姿に戻る途中だった、といったところかな。それに耐えられず、命を落としたようだが。ま、ここまで来たご褒美に……』
 声の主は、嬉しそうに、そして面白そうに、
『ひとつだけ、君に教えてあげよう。『宇宙は無慈悲であり、人間中心の地球的な考えは通用しない』……対話も理解も不可能な、根源的に異質な存在。それこそが真なる恐怖だという事を、心得ておくと良い』
 からかい半分といった感じの口調で、マリアラーラに述べた。
「……何を言ってるか、わからないけど……人々を傷つけるなんて、マリアは許さない!」
『……わからない? いや、君は身をもって知ったはずだ。……隣の、教会の礼拝堂でね』
「! まさか……見てたの!?」
『さあ、それはどうかな。ま……無知なままで、理解したつもりでいた方が、狂わずに済んで良いかもしれないな。所詮、人は人。自分のキャパ以上の知識を得たところで……理解できず、正気を失うのがオチだ』
 ……と、今度は学校の教授が生徒に教えるかのような、穏やかな口調になると、
『すぐにまた、会う事になるだろう。ディアボロスのお嬢ちゃん。またね』
 それに続き、爆発音が。
「? ……あんなところに、スピーカーが?」
 近くの棚に置かれた木箱が、破裂していた。内部にはスピーカーやカメラらしき機械部品が詰まっていた。
 おそらく今の声の主は、それを通じてこちらを観察し、会話していたのだろう。
「……何を言ってるのか、わからなかったけど……」
 理解したつもり? 対話や理解が不可能? そんな事があるわけが……、
『ない』……とは言い切れない。あの礼拝堂の怖気ある空間を思い出すと、理解しがたい、そして理解してはならない『何か』の存在を、認識せざるをえない。
 そして自分も、理解したつもりになって、実は全く的外れな認識に至っているのかもしれない。そんな、まさか。いや、でも。ひょっとしたら……、
 思考の袋小路に入り込みかけたマリアラーラだったが、
「……今は、この戦いに集中なの」
 かぶりを振りつつ立ち上がり、そして、
「イハ・ンスレイ会館」を後にするのだった。

●……心せよ、未知なる海底とその深淵から来たものを、簡単に理解できるなどと思わぬ事だ。
「……来るぞ! 気を付けろ!」
「くっ……数が多いねっ!」
 晶とアンゼリカは、その数の多さに辟易していた。
 正直、晶はこの『深きものども』に、多少の違和感を覚えていた。
(「俺はこいつらと、TOKYOエゼキエル戦争で戦ったこともある。が……東京の時と、雰囲気が違うな……ッ!?」)
 考えつつ、もう一閃し、切り捨てる。
(「それに……俺達ディアボロスがここにいるのに、なぜ一般人を襲っている!? なぜ、こちらの方に向かない!?」)
 と、更に切り込み、返り血を浴びる。
「……くっ、臭えっ!」
 畜生、後で風呂に入りまくってやる。この生臭さ、取れるまでな!
 そんな事を考える晶だったが、
「? 気を付けて! 晶! あいつら……『回転』しだした!」
 アンゼリカの言う通り、魚人間たちは己の身体を、高速回転させ……、
 巨大な渦を発生させていた。
 それは一つだけでなく、数が集まり……、
 生臭い、巨大な激流の如き空気の流れを作り出していた。

「……させるかあっ! 『愛は金より重い』!」
 額縁を突破した『深きものども』へ、秋果は改めてパラドクスを叩きつける!
 今度は、その勢いと『凄味』が合わさったせいか、先刻よりも強烈な勢いで、『深きものども』は地面にひれ伏した。
(「このパラドクス、実際に重くなるんじゃあなく、『重くなった気がして動けなくする』だけど!」)
 それでも、重さを受けた気がした隙を突き、攻撃できる! ……と、『藍色の槍』で『深きもの』を一突!
 生臭い体液とともに、一体の息の根が止まった。
「もう一丁! もう一丁! ……くそっ、串焼き、串打ちした焼き魚も、しばらく食えないかも!」
 もう、悪臭が付くとかそんな事は言ってられなかった。槍で突き、薙ぎ払い、改めて『額縁』を展開させ防御。
「避難完了したよ……って、苦戦中? 妖精さんたち、秋果さん助けてあげてー」
 シエルシーシャが駆けつけ、彼女の呼んだ妖精たちが助けに入り……、
 秋果に襲い掛かって来た『深きものども』は、その全てが引導を渡されていた。

 放たれた『深きものども』の『回転潮流撃』。
 それに迫られるアンゼリカと晶だったが、
「……もう一度! 裁きの光と、六芒星に集いた精霊よ! 改めて……敵を吹き飛ばせ―っ!」
 アンゼリカは、再び『終光拡散砲』を放ち、カウンターで直撃させた。
 互いにぶち当たる、邪悪の悪臭VS清浄なる白光。勝利したのは……アンゼリカ。
『六芒星増幅術』で増幅された魔法の一撃は、『深きものども』の肉弾を、その大半を吹き飛ばし、焼き尽くし、薙ぎ払ったのだ。
「……後は任せろ! うおおおおおっ!」
 残るは、満身創痍の『深きものども』のみ。そいつらに向かっていった晶は、
 アークイーターで切り込み、切り刻み、切り捨てていった。

 全ての『深きものども』が倒された後。
「……なるほど、マリアちゃん。生き残りは……居なかったんだね?」
 秋果に対し、頷くマリアラーラ。
 戦いが済み、戻って来たマリアラーラを迎えたディアボロスたちだったが、
 彼女の体験した事を聞き……戦慄を覚えていた。
「……くそっ、邪神像だけじゃあなく、土地の人間のツラが変化するって、元ネタのそんな細かいところまできっちり再現とはな。マジに正気度削りに来てやがる」
 と、晶がぼやく。
「……じゃあ、生きている村の人間は……広場に集められて、今しがた助けたあの人たちだけ、ということになるね」
 アンゼリカの言う通り、広場の村人たちは……確かにその大多数が助かった。
 だが……、
「けど……正直、会話が成立するかは、疑問かなー」
 シエルシーシャの疑念通り……村人たちは、会話が成り立たなかったのだ。
「……正直、マリアも……どうすればわからないの。だから今は……出来る事を行うのね」
 マリアラーラは、思考するのをとりあえず保留した。
 まずは、市民たちと会話し、情報収集。だが……皆の話によると、まともな会話は出来ない様子。
 それでも、……すべきことをせねば。
「……素晴らしい……これは、素晴らしい……」
 そんなディアボロスたちを尻目に、
『ラグーン・ハウス』の一室から、広場へと引っ張り出されてきたハワード・ウォーレンは、
『深きものども』の、転がっている死体に向かい、スケッチを続けていた。
 その胸には、縞瑪瑙のブローチが、不気味に輝いていた。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【エアライド】LV1が発生!
【泥濘の地】LV1が発生!
【操作会得】LV1が発生!
【光学迷彩】LV1が発生!
【未来予測】LV1が発生!
効果2【命中アップ】LV1が発生!
【アクティベイト】LV1が発生!
【ダブル】LV1が発生!
【リザレクション】LV1が発生!
【先行率アップ】LV1が発生!

アンゼリカ・レンブラント
本当に正気度を削られる街だなぁ
それでも今出来ることをしないとだよ。

この狂気、きっと活性治癒でも自然には治らないかな?
それなら、人々の心を占めるものを上書きしたい

「約束の比翼」を歌いながら使うは【勝利の凱歌】。
勇気と希望を人々の心に灯し、
一時的にでも人々の心を支配する
狂気に打ち勝ってほしいと願いながら歌うよ

大丈夫
私達は貴方達を必ず助けるから
ううん、助けさせて欲しい
願いを込め、勇気と希望を灯したい

『深きものども』を送り出したのは誰なんだろう
どうして人々を狂気で染め上げているんだろう
この街を支配するジェネラル級にはどんな面々がいるんだろう

気になることは沢山あるし、
人々とお話できるならそれらを聞いていきたい
でも、今は人々を助けたい気持ちが先に立つよ

どうかどうか、心を平静に
大丈夫だからと手を握ったり微笑んだりして安心させよう

平静を保たせるのが一時的なものだとしても、
何かお話できると嬉しいんだけど
一体ここで、何がありましたか――?

ワイズガイが現れるまで、
歌を歌いながら安心させるよう出来る限り努めるね


シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ・連携は歓迎だよ

生き残りを集めた広場で村人の怪我とかに簡単な処置をしたり様子を見たり。
程度の差はあっても、皆いっちゃってるね。……気休めでも【士気高揚】しておこうか。
マリアラーラの言ってた礼拝堂、アレのせいもあるのかな。
……近寄らずに焼き払うくらいは考えた方がいいのかな?
ああ、でもそれでそこにある『何か』が剥き出しになる可能性もあるか……悩ましいね。
ボストンの方じゃ頭がおかしくなる大学とかの話があったようだけど、ここと似た感じなのかな?

ちょっとずつ声をかけて、上っ面でも会話が続くようなら適当に合わせてみよう。
何かきっかけになるかもだし。
……いあ!いあ!してる人は、合わせようがないけど……

スケッチしてる人。それ、そんなに面白いの?
どっちかって言えばわらわら湧いて出てきて、わらわら倒される方の奴らだけど……
ああ、でもここのは少しおかしかったかな?
でももっと上の奴らの方が私は怖いなあ。
あ、裏側とか中身もスケッチしてみるなら手伝うよ。
……こら。妖精さんは悪戯しない。生臭いの散らさないで。


捌碁・秋果
【パラドクス通信】で仲間と連絡をとれるようにするよ

…ああ、絵が描きあげられていく
空白だった紙に線が引かれ、形をなし、あっという間に半魚人があらわれる。はあ~、作品が出来上がっていくところを見るしあわせ…
…ずっと見ていたいけど、ディアボロスとして声をかけなきゃね
自分の世界に入っているこの方の興味のありそうな話題を振って会話の糸口を掴もう

この状況でスケッチなんてこの魚がよほど刺さるんですね
もしかして、ちょっと不思議だったりグロテスクな絵が好きだったりします?ボスやブリューゲルやゴヤ、ルドンとか!?ちなみに私は大好きです!
…それにしてもお上手ですね、本職の方ですか?

んん?そのブローチ、なんだか…?
いや、きらきらして綺麗…ですね…?
…嘘ついちゃった。本当はあまり綺麗に見えない。きらきらしてるのになんでだろう?
敵は食堂にスピーカーの小細工をしてたっけ。このブローチも何か仕掛けが施されているのかも
うーん、気になる
何の石ですかと尋ねつつブローチを見せてもらおう。人を狂わす怪電波とか出てたりして!


マリアラーラ・シルヴァ
人々に新宿島から持ってきた精神安定薬が効くと良いんだけど

宇宙の理解がむつかしいなら別の視点で考えるの
例えば感情エネルギーになる人々を食べるなんてベーダはやらない
でもワイズガイが止めるような雰囲気もない
ならこの事件の背後にいるのは…お客様(普通のベーダじゃない)?

逆に会館のはワイズガイベーダ
あの忠告は地球的だし根源的に異質な存在は話しかけて来ないもの
そうすると会館内の監視に機械を使ってたのは
ベーダ達もあの像の近くにずっと居るとどうにかなってしまうから
同時にベーダの仕事はここでの儀式の見守り役…という仮説が成り立つの

それならベーダ達はビジネスなので思った以上に速くやってくる
そしてベーダがくるのは北側から

なら…上手くすれ違えれば屋敷の潜入調査が出来る?

手がかり…お客様が地球存在なベーダに仕事させるなら契約書みたいな…何をするかの指示書があるかも
ベーダを【光学迷彩】でやりすごし見張りの機械は【隔離眼】で無力化して潜入調査を試みるよ
狂気に注意しつつ通信可能なら状況報告
戦闘直前には救援機動力で戻るね


呉守・晶
アドリブ歓迎

これは、確かに会話は成り立たないだろうなぁ……
一時的か、不定か、それとも永久か……狂気に囚われているな
怪物を見た者が狂い、やがて同種の怪物へと変貌していく。クトゥルフ神話ではよくある結末の一つではあるが、こうも再現されると嫌になるな
しかし、アーカムという名称の所為で違和感を感じにくかったが、これは本当にワイズガイのやり方か?
他の場所と比べると違いすぎる、むしろキマイラウィッチのが近いが……それだと余計に俺達より一般人を襲う意味がわからんしなぁ
……まさかイレギュラーが、アーカムにいるのか?

なんにせよ半魚人を素晴らしいと言いつつスケッチしてるのは見るに耐えん
【現の夢】でこの現実を夢だと思わせてみるが、果たしてこれで狂気から抜け出して正気に戻れるかどうか
仮に正気に戻れたとしても情報を得るのは難しいだろうし、それに再び狂気に囚われないようアーカムから逃がす必要も出てくるんだよなぁ
だが、もし狂気に囚われたままなら【現の夢】を超える力が働いているということになるな


●這い寄った混沌
「……この狂気、治せないものかな」
 アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)が、助けた人々を前にして……悩んでいた。
【活性治癒】の効果をもってしても、どうやらこの狂気は……治らない様子。
 というか、『その程度では治らない』事を、薄々ではあるが感じていた。
「これは、確かに会話は成り立たないだろうなぁ……」
 と、呉守・晶(TSデーモン・g04119)はぼやくようにつぶやいた。
「……怪物を見た者が狂い、やがて同種の怪物へと変貌していく、か。クトゥルフ神話では、よくある展開、よくある結末だが……」
 実際に再現されるのを見ると、そしてそのただなかに居ると、嫌になる。
 そんな晶を尻目に、
「それなら……『上書き』はどうかな?」
 と、アンゼリカは、歌い出した。
「…………~空の彼方へどこまでも この翼広げて飛び立っていくよ 私達はもう雛じゃないから――♪」
『約束の比翼』、その心に、勇気を奮い立たせる『歌』を、歌い始う。
 アンゼリカのパラドクス、それは、仲間たちの耳にも届き、皆に勇気と希望を奮い立たせ……、
【勝利の凱歌】……その心に、勇気と希望が沸き上がる。
「……おお、この歌は……」
「心が……洗われそう……」
「……ああ、これは……」
 そして、人々もまた、それを聞き、その顔に穏やかな表情が浮かんでいく。
「……いいね。これは……いい」
 シエルシーシャ・クリスタ(水妖の巫・g01847)もまた、その歌声から心の安らぎを覚える。彼女の周りにまとわりつく妖精たちも、どこか……機嫌が良さそう。
「……けれど、この程度で上書きできるものかな。できればいいんだけど……」
 言いつつ、彼女は画家の方へと向かっていった。

「……ああ、絵が描きあげられていく」
 その、件の画家。
 すなわち、『ラグーン・ハウス』から助け出した、ハワード・ウォーレン。彼の執筆に見入る者が居た。
 彼女……捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)は、インクの素描であっても、紙の上に描かれていく半魚人の姿に……先刻に倒した『深きものども』の姿が描かれていく様子に、うっとりとした様子で見入り……同時に魅入っていた。
「……空白だった紙に、線が引かれ、線が描かれ、形を成し、あっという間に、何らかの存在がそこに姿を現す。そこに描かれ表現される。作品が出来上がっていく様子を見る、これぞ芸術……これぞ、しあわせ……」
 と、うっとりしていた秋果ではあったが、
「あー、ねえ。そこのスケッチしてる人……ウォーレンさんだっけ? それ、そんなに面白いの?」
 シエルシーシャが声をかけ、彼女はそのうっとりから戻ってきた。
「……ああ」
 と、ウォーレンは生返事。『絵や芸術のことなどわからぬ素人とは、会話したくない』という感情が、そこには感じられた。
 しかし、秋果が、
「……あー、この状況でスケッチなんて、よほどこの魚が刺さったんですね? もしかして、ちょっと不思議だったりグロテスクな絵が好きだったりします? 例えば……ボスやブリューゲルやゴヤ、ルドンとか!?」
 と、言葉をかける。
 それを聞き、ウォーレンの手が止まった。

 マリアラーラ・シルヴァ(コキュバス・g02935)は、その足を止める事無く、
 漁村北側、富裕層の屋敷が並ぶ場所。そこを歩いていた。
 先刻の、あの礼拝堂、そして会館での体験を……、
 特に『宇宙の理解』という、むつかしい話を振られた事を思い起こす。
「……むつかしいなら、別の視点で考えるのね。例えば……」
 感情エネルギーになる人々を食べるなんて、ベーダはやらない。
 でも、ワイズガイはそれを止めなかった。なら……事件の背後に居るのは、普通のベーダじゃない、得体のしれない『お客様』?

 それと、もう一つ。
 会館に居たのは、ワイズガイのベーダ。
 あの忠告……あれは地球的だった。地球の人間が理解できるような内容だった。
 それに、根源的に異質な存在ならば『話しかけてはこないもの』。
 となると……あの会館内の、監視の機械を使っていたのは、ベーダたち。
 彼等もまた、あの像……というか、あの礼拝堂の気配。
 あれの近くにいると、ベーダもどうにかなってしまう。それゆえ、近くには居られない。
 同時に、そこから『ワイズガイベーダの仕事は、ここでの儀式の見守り役』。そういう仮説が成り立つの。

 更に、もう一つ。ワイズガイベーダたちは、ビジネスとして今回のこの行動をとっている。
 だから、思った以上に速くやって来れる。そして、彼等がやってくるのは北側から。
 ……ここから、『うまくすれ違えれば』、屋敷内部への潜入調査ができる?

「……って推測を立てたけど……」
 正直なところ、あの気配や、あの言葉。それらを思い出すと、どうにも確信が揺らいでしまう。
 加えて、ここ……北側。この一帯には、何かが居る気配が『まったくない』。
 ……狙いが外れた?
「……いや、そんな事はないの。予測し、推論を立て、決して考え無しに行動しているわけじゃないから……」
 自分は大丈夫。自分のやっている事、考えは、決してそんなに間違えてはいない。……そのはず。
 自分にそう言い聞かせるが……自信がもてない。確信が得られない。
「……でもそれでも、やるしかないのね」
 やって、やるの。気合を入れ、
 マリアラーラは、辺りをつけた屋敷に入り込んだ。

●レン高原の縞瑪瑙と、ピックマンの友人
「……御存じか? ボス……信仰心を持ちながら、異端として、中世期末の盲目的な信仰から離れた、あのボスを? 信仰からあえて離れ、人の愚かさを描いたあの作品を!」
「もちろん! ちなみに私は大好きです! ブリューゲルの『バベルの塔』は、見事ですよね!」
「ああ! 思うにゴヤのあの作風。『裸のマハ』といった絵画ももちろん良いが、私としてはあの『我が子を食らうサトゥルヌス』こそが最高傑作と考える」
 と、芸術家同士の会話が、そこに交わされた。
「……あー、私は、お邪魔だったかな……」
 と、シエルシーシャはやや引き気味。
 彼女の周囲を舞う、妖精の何体かも、退屈そうにあちこちを舞っている。
「……それにしてもお上手ですね、本職の方ですか?」
 秋果が問うと、
「一応は画家として生計を立てている。豊かとはいえないが、生活できる程度には稼いでいるよ。小さいが、受賞歴もある……我が友人に比べたら、微々たるものだがな」
「友人? その人も画家ですか?」
「ああ。『リチャード・アプトン・ピックマン』。……彼の一連の怪物画、それも、食屍鬼が人を食らうあの絵は、実に素晴らしい……きみも、見た事はあるだろう?」
「え? え、ええ。まあね」
 話を振られ、秋果は愛想笑いでごまかす。……ピックマン? おぼろげに聞いた覚えはある名前だが、詳しくは知らなかった。
 シエルシーシャの方を見るが、
(「……いや、聞いた事ないけど……」)
 と、かぶりを振る。
「え、ええと……そのブローチ、奇麗ですね?」
 と、話題を変えた彼女は、
(「……本当は、なぜかあまり綺麗に見えないけど……」)
「良ければ、見せてもらえませんか?」
 と、切り出した。
「ああ、いいとも。これはピックマンから譲ってもらったものだよ。これを付けていると、新たな発想とともに創作意欲が湧き、一段と筆が冴えるんだ。一種の暗示のようなものだね」
 と、ウォーレンが見せてくれたそれを、近くに見る秋果。
 確かに、美しいが、綺麗には見えない。きらきらと輝いているが……どこか、深淵から見つめる邪視のよう。
「……何の石ですか?」
(「……人を狂わす、怪電波でも出てたりしして」)
 言いつつ、宝石に触れる事無く、ブローチを手に取る。
「……これは、縞瑪瑙。ピックマンが言うには、産地は……」
『幻夢郷の、レン高原』……という、ウォーレンの言葉が響く中。
 それを手にした秋果は、気分が良くなるのを知った。自分の心が広がり、思考が冴え、芸術に対しての理解がより深まる。そんな気になる。
 頭の中が、すっきりとした気分だ。余計な考えが消え、集中できる。これほどまでに、思考がクリアになった事はなかったくらいに。
「……これは……確かに、創作意欲が湧く!」
 さっきまで、この縞瑪瑙を綺麗と思えなかった自分が恥ずかしかった。今や……すごく綺麗に見えていた。

「……さあ、みんな。気分はどうかな?」
 アンゼリカが問いかけると、
「……なんだか、すごく……いい気分です」
「ええ。……とても、すがすがしいですね」
「わしも……これほど高揚したのは、若い頃以来じゃわい」
 狂気に染まっていた彼らは、はっきりと返答をしてきた。穏やかで、安心すら覚える、優し気な口調。
(「……ああ、よかった。どうやら上書きは上手く行った?」)
 アンゼリカは、ほっとした。
「……効いた、のか? うまく行ったのなら、それに越した事はないが……」
 と、晶はその様子を見て、いささか訝しげ。
「それで、その、聞きたいんだけど。一体ここで、何がありましたか?」
 と、アンゼリカは。
 聞きたい事を、質問した。

「……どういう事なの?」
 数軒目の屋敷内に入り、【光学迷彩】で隠れつつ、内部を捜索していたマリアラーラ。彼女は、ある一点のみを知る事が出来た。
 各屋敷の内部には、『何もない』。知れたのは、その一点のみ。
 情報はもちろん、家具の類もほとんどなかった。壊れてはいなかったが、冒涜的かつ不気味な彫刻が為されており、気味が悪いものばかり。
 そして、他の屋敷にも入ってみたが、結果はどれも同じ。
 今入っているのは、朽ちかけた銘が『ゴーメンガースト』とだけ読める、一番大きな屋敷。
 そこは、どの部屋も広く豪華で、まるで小さな城のよう。壊れていないが、明かりが無いために暗く、薄汚れ……積もった埃からして、長く人が入った事はないと推測された。
 壁に据え付けられている金属パイプは、おそらくかつて住んでいた主人が使っていたと思しき『伝声管』。この仕掛けで、声の届かない部屋にいるメイドや召使を呼び寄せ、命令を下していたに違いあるまい。この広く大きな屋敷、このような仕掛けがあって当然だろう。
 実際、邸内のあちこちを回ったが、ラッパの様な漏斗状の受話器は、各部屋に付いていた。
「この屋敷なら、何かあると思ったんだけどなあ……」
 隠された通路や部屋、金庫などがないかとも思ったが、それらも無し。
【隔離眼】で、見張りの機械……さっきのスピーカーのような機械装置を無力化させ、捜索……と思っていたが、そもそもそんなものは最初から無かった。
 あるだろうと思っていた、『契約書』、または『指示書』の類すらもない。
 お客様が、地球の存在であるベーダに仕事をさせるための、書類。そういうものくらいはあるはずだし、あって当然。
 なのに、なぜ……ない? まさか、ここには置かれていない? あの会館や礼拝堂にある?
 ……いや、会館の方のみだけど、探しても無かった。となると……、
『……こんにちは、お嬢さん』
「!」
 近くの伝声管、その受話器から、
 さっきの会館で聞いたような、何者かの声が、聞こえてきた。

 村の人々は、
「はい! さっき私たちは……」
「大いなる、ディープワンズ様達と契り、聖なる交わりをしようとしていたのです!」
 アンゼリカの問いに、そう答えていた。
「……え?」
 アンゼリカは、思わず……間の抜けた返答を。
(「……『ディープワンズ』って、『深きものども』のことだよね。というか、聖なる交わり? え?」)
「私たちは、この村に連れて来られた新参者! ただの人、つまらぬ人生を送るだけの、ちっぽけな人間、女に過ぎませんでした」
「ですが、大いなるダゴン様、そのダゴン様にご奉仕されるディープワンズ様たちは、私たちと交わり、新たなるお子を産むためのチャンスをお与え下さったのです!」
「時にディープワンズ様は、興奮して噛みつかれる事もありましたが……それでも私たちの中に、種を仕込んでいただきました」
「ああ! その子達は、人と同じ! ですが、成長し、ディープワンズ様と同じ姿に変化していくのです!」
「深淵たる偉大なる種族、そして太古から通じるこの儀式。これに参加できるなど、なんと光栄か! なんと希望に溢れ、勇気を頂けるか!」
 そして、男たちは、
「我々も、彼等の礎になるのなら、この命捧げましょう」
「ああ、偉大なるクトゥルフ様! ダゴン様! そしてその奉仕種族たる、ディープワンズ様方の役に立つならば! 我らは食料にも! 生贄にも! 奴隷にもなって未来の礎にもなりましょう!」
「このおいぼれの命が役立つのなら、こんなにうれしい事はないわい!」
「…………」
 情報は得られた、いや……得られたかどうかすら怪しい。
(「確かに、交尾は……いやでも、女の人も殺されてなかった? え?」)
 既に狂っているせいか、矛盾している点もあった。しかしそれを差し置いても……まともではない。
「くそっ、やっぱり狂ったままか!」
 と、晶は毒づく。
 しかし、アンゼリカはそれ以上に……『見誤った』と実感していた。
 狂気に上書きし、心を占めるものを払う。そう思っていたが、実際に行ったのは……、
 狂気に、勇気と希望を加えた事で、ますますそれを加速させてしまった事。
 この狂気、簡単には払えない……いや、払う事自体、不可能に近い。少なくとも、この場で簡単に行える事では、断じてない。
 そして、もう一つ。思い知らされた。
 勇気と希望。そんな人間中心の感情など、冷徹な法則と現実の前には無力だと。

「……なあ、こっちはだめだ。会話が成り立たん。そっちは?」
 と、離れた晶は、秋果とシエルシーシャの方に近づいたが、
 そちらもそちらで、問題が起きていた。

●……それは、人類の頭脳の許容範囲を遥かに超えている
「……明らか、だ」
 秋果は、実感していた。万能感に満ち溢れる自分を。
 自分の思考能力が、どこまでも広がり、大きくなり、芸術という概念そのものが理解できそう……いや、理解できる!
 思考が冴え渡り、絵画の筆遣い、タッチ、創作意図、込められた意味や感情。そういったもの全てが理解できる。過去の芸術家たちが、いかにして芸術を組み上げていったか、それが理解でき、理解を深めていける!
「明らかだ! 呆れるほどに、明らかだ! 全てわかる! 全てが描ける! 全ての芸術を、我が物として理解できる!」
 いつしか、秋果も自身のスケッチブックと、筆記具を取り出し、『描き始めた』
「……え?」
「……おい! どうした!?」
 シエルシーシャと晶が戸惑っているが、知った事ではない。増大した思考と認識力と、認知力。世界そのものが広がったかのよう、自分自身が、変容するかのように芸術への創作意欲が溢れ、止まらない!
「描ける! 描ける! 理解できる! もっと美術に! 芸術に! もっと! もっと理解し、もっと繋がり、もっともっともっともっともっと…………」
 と、そこで、
 思考が、一旦途切れた。

「! あなた、さっきの……!?」
 マリアラーラは、部屋を出ようとするが、
『おおっと、お嬢さん。屋敷内を探しても無駄だよ。……しかしまあ、ここに来るとはね。こう言っちゃなんだが……この屋敷を含め、この村の北側には、何もないし、誰もいないよ』
 からかっているような口調だが、マリアラーラはなぜか……彼は『嘘は言っていない』と、確信を得ていた。
「……何の用? というか、地球的な考えは通用しないとか言いながら、十分地球的な忠告してくれるのね」
 こうなったら、この謎の人物……おそらくワイズガイベーダ……から、直接情報を得よう。
 そう思い、挑発的に言葉を叩きつける。
『おや、そう思ったのはなぜかな? ひょっとして……『こうやって会話しているから』というのが理由……とか言わないでおくれよ?』
「……? 違うというの?」
『根源的に異なる存在だからとて、会話しないわけではないし、意志疎通をしないわけでもないだろう。『代理人』を通す事もあるだろうし、中には、『人間臭い思考や性格』だったりする存在もいるかもしれない。むしろ……目的のために人間を誘導するため。彼等に愛想を振りまき、理解できる程度の内容で意思疎通し会話する。そういう事も、十分あり得るのではないかな? この程度の事、なぜこちらが『しない・できない』などと思ったのかな?』
 伝声管先の人物の口調が、再び変わった。先生や教授が、生徒に諭すような口調に。
「それは……」
『高い知性を持った者が、低い知性の者に対し、相手に合わせた価値観や知的レベルで意志疎通を行い、時には洗脳し操る。人間社会では、往々にしてある事だろう。個人の間だけでなく、異なる社会的地位、年齢差、地域、人種、国家。そういった間柄で、似た事は行われている。ましてや、人間と、人間以上の知性を持つ者との間で、こういう事が起こらないなどと、なぜ君は思った?』
「…………」
『異質だから『するわけがない』。もしそう考えたのなら、それは本当に相手を理解した故の結論なのか、あるいは自分にとって理解できる都合のいい結論なのか、考え直すといい』
 言葉が続かない。そんなマリアラーラは
「……会館の、あの機械の仕掛けは?」
 逆に、こちらから質問した。
『……仕掛け? ああ、スピーカーの事か。あれはディープワンズ……『深きものども』の『子供達』の見守りだよ。この地では、彼らの血を引く者は、成人後に徐々に身体が変異していく。それを見守っていたのだけど……残念ながら、精神や肉体が耐えられず、そのまま息を引き取ってしまったわけだ』
「子供?」
『ああ。君は『深きものども』が、人々を食べるとでも思っていたのかな。あれは繁殖行為、交尾と子作りの儀式だよ。ま、中には興奮ゆえ、思わず噛みつき、中には女性をうっかり殺害してしまううっかりさんな『深きもの』もいるがね。ちなみに人間の男や老人、男児などは、生贄や血の滾りのために殺害される役割だね』
 想像するだけで、おぞましい。それを気取られまいと、マリアラーラは新たな質問を。
「…………なぜ、監視に機械を使ってたの? あなたも、あの像の近くに居られないから? それに、こんな儀式を行う目的は一体何?」
『……話してもいいが、そろそろ時間だ』
 と、再び悪戯っぽい口調に。
『話せないの? 宇宙的存在なのに、臆病なのね』
 マリアラーラが挑発するも、
『いいや、むしろ君と話しているうち、気が変わった。君や君の仲間たちが、その理解の浅さや、考えの足りなさから……いかに的外れなトンデモ結論に至るか。むしろそっちの方が楽しみになって来たんでね。果たして、次はどんな笑える頓珍漢な解答を述べるのか……『深きものどもを育てるため、ここに水族館を作るつもりね』『彼らは人間と異質だから、ここで宴会始めるに違いないの』とか、そういった面白珍解答を頼むよ』
「……莫迦にしてるの?」
『さあ、どうだろうね。ちなみに水族館や宴会は不正解。それともう一つ。私にとってあの礼拝堂と像は、別に何ともないよ。まあ……』
 と、今度は別人と思えるほど、口調を冷酷なそれに変化させた。
『……もしも、その程度の見識で我々と知恵比べして、出し抜こうなどと考えていたのなら……やめておいたほうがいい。それと、もう一つ……』
「……何?」
『そろそろ、エージェントたちがやって来る。では……』
 機会があれば、また会おう。それを最後に、伝声管は沈黙した。

「……しっかり!」
 シエルシーシャの平手を受け、秋果は意識を取り戻した。
「……え? 私は一体……」
「……ウォーレンさんの縞瑪瑙のブローチを手にしてから、おかしくなってたんだよ。触れた妖精さんの一人も、なんだかハイになったっぽくて。いったい、何があった?」
「……その縞瑪瑙を手にしたら、途端に何か……自分の心が広がった気がして……それで、芸術や作品に関するすべてが、理解できた気がしたんです」
 だが、どうにも……頭がくらくらする。
「あの縞瑪瑙のブローチが、何か原因あるんだろうけど……そうだ、ウォーレンさんは?」
 ウォーレンは……筆を握りながら、ぼうっとしている。
「……彼は一体? さっきまでは、なんだか……生き生きしていたのに?」
「さあ……私が縞瑪瑙のブローチを払って、離したら……こうなった」
 そのブローチはと、周囲を見回すが……見当たらない。どこかに転がってしまった?
「……おい、ウォーレン……? くそっ、だめか。ならば……」
 晶は、ウォーレンに対し【現の夢】を用いた。
「……晶さん、何を?」
「……秋果か? 【現の夢】で、この現実を、夢だと思わせてみる」
 これを用いても、果たしてこれで……狂気から抜け出し、正気に戻れるかどうか。
 正気に戻ったとしても、情報収集は難しいだろう。仮にそうでなくとも、アーカムから逃がす必要もある。
 だが……何もやらないよりましだ。
「……え?」
 眠りを誘う歌声が流れ、ウォーレンは夢現の状態に。
「……大丈夫か? 気分は?」
 晶に問いかけられ、ウォーレンはそのまま、力なく立ち上がる。
「? おい?」
 再び問いかけるが、よろよろと、他の村人たちの元へと向かっていき、
「……私は、一体何を……」
 まるで、あの縞瑪瑙のブローチが、彼の理性と知性を保っていたかのように、
 それから離れた事で、思考力が低下し、記憶を失い、呆然としてしまった……と、そんな感じだった。
(「……これは、『狂気』なのか? あるいは……精神的なショック?」)
 村人たちの近くに赴き、座り込み、ぶつぶつ呟き始めるウォーレン。
 他の者たちは、
「いあ! いあ!」「くとぅるふ、ふたぐん!」
「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるふ、るるいえ、うがふなぐる、ふたぐん!」
 ウォーレンを無視し、先刻と同じく呪文を口にし、何かを崇めている。
(「……結局、元の木阿弥か」)
 秋果、シエルシーシャとともに、晶がそう思った、その時、
「……その人も、だめだった?」
 アンゼリカが、近づいて来た。
 それに続き、
「こちら、マリアなの!」
 マリアラーラから、『パラドクス通信』が入った。

●混沌を正しく理解した時、それは戻れぬ狂気に染まった時
「そいつは、確かにそう言ったんだね?」
 シエルシーシャの問いに、
「そうなの。伝声管の向こうに居た誰かの話では、『魚ベーダのやってた事は、繁殖の儀式』『女の人を殺すのは、興奮した魚ベーダのついうっかり』『老人や子供、男の人は生贄と遊びで殺すため』。それに……礼拝堂の事は別に気にしてないって」
 そして、
「……相手は、マリアたちの事、莫迦にしてる。けど……こっちの事を何もかも見通しているみたいで、その点がちょっと気になるの。そっちは?」
「……残念ながら、狂気の回復は出来ず、情報もほとんど得られなかった。それに……」
「……絵を描いてたウォーレンも、結局は話を聞ける状態にはなれなかったよ」
「……ひょっとしたら、【現の夢】を越える力が働いているのかもしれない」
 アンゼリカと秋果、晶が、現状を伝えた。

「……マリアラーラ、これはあくまでも、俺が感じただけの事で、根拠はない事を先に断っておくが」
 と、晶が、
「……アーカムと言う名称のせいで、違和感を覚えてなかったが、これは本当に『ワイズガイのやり方』だろうか?」
 己の見解を、マリアラーラ、そして他の皆に述べた。
「どういう事?」
「……他の場所と比べると、違い過ぎる気がする。むしろキマイラウィッチに近いが、そうなると俺達よりも一般人を襲う理由が分からない。となると……『イレギュラーが、アーカムに居る』という疑念が湧いてくる」
「……イレギュラー? 確かに……」
 しかし、その『イレギュラー』。具体的には一体、どんな存在なのか……。
 アヴァタール級? それとも、ジェネラル級?
 全員が、言葉を失っていた。その沈黙を破らんと、
「……まあ、あくまでも俺が『なんとなくそんな気がした』だけの事だ。これが俺の勘違い、考えすぎである事を願う」
 晶はそう言ったが……それでも深刻な空気は晴れなかった。

「……もう一つ。秋果が言ってた、その縞瑪瑙だけど。それも何か関係ある?」
 マリアラーラの質問に、
「わからない。ただ、あれを手にした時、私は……心が広がる様な、そんな感じを覚えた。あれが何かの働きをするのは明らかだけど、決して『狂気を直す』では断じてなかった。むしろ……」
『狂気に限りなく近づかせる』『より狂わせる』。そんな感じがしたと、秋果は伝えた。
「……レン高原の、縞瑪瑙? 待てよ、確か……」
「? 晶、何か知ってるの?」
 マリアラーラが、考え込む晶に問う。
「いや……詳しくは知らない。ただ、俺はほんの少しだが、この再現元の『クトゥルフ神話』の知識はあってな……」
 縞瑪瑙に関して、思い出した事があったと、晶は語り出した。

『幻夢郷(ドリームランド)の縞瑪瑙』
クトゥルフ神話に登場する異世界・ドリームランド。そこにある『レン高原』で採れる縞瑪瑙の中には、『異世界を認識し、思考力を拡大させる』という効力を有するものがある。
ただし……その所有者は縞瑪瑙を通し、異世界の異常物理法則の影響を受けてしまう。その結果、異常な物理法則に少しずつ浸食されていき……最後には思考も、肉体も、人間でなくなってしまう。

「……って代物だ。秋果の言う『狂わせる』ってのは、あながち間違いじゃない」
 晶の説明に、
「……そ、そんなものを私は?」
 秋果は、ぞっとした表情を浮かべ、
「いうなれば、スーパーコンピューターを外付けで脳に繋げたようなもの? それは確かに……狂気の沙汰だね」
 アンゼリカも、顔色を青くする。
「……じゃあ、今までウォーレンは縞瑪瑙を付けてたから、スケッチに夢中なあの状態になってたけど……それを取ったから、認識する力を失い……」
 結果、ああなってしまったという事か……と、シエルシーシャ。
 拡大した思考や認識力が維持できず、常人のそれにいきなり戻されてしまったのなら……精神が混乱してもおかしくない。
「まさか、本当にドリームランドやレン高原があるわけがないが……それに似た作用を持つものを、どっかから持って来たか、作ったんだろう」
 と、晶。
「…………」
 確かに、情報は得られた。
 しかし、得た情報は、どれも……陰鬱かつ、絶望を感じさせるもの。
「とりあえず、ウォーレンと村人たちは、宿『ラグーン・ハウス』内に避難させておくぜ」
「……晶、わかったの。マリアもすぐに戻って、皆と合流するね……」
 そう言って、通信は切れた。

「…………」
 通信を終え、屋敷から出て周囲を見回す。まだ【光学迷彩】は効いている。
 その状態で、周囲を見回すが……やはり、気配が無い。
「まさか、エージェントは北側からは来ないの? それとも……?」
 ……悔しい。
 あの声の主……誰かはわからないが、恐らくはワイズガイ『オーガスト・ダーレス』だろう。
 あの声の主の言う通り、自分は理解の無い、的外れな結論しか抱けないお馬鹿さんってことなの?
『ワイズガイベーダも、像の近くに居られない』『屋敷に契約書や指示書があるかも』という予測もまた、ことごとく外れていた。
 それどころか、『理解力の浅さを楽しむ』とまで言われてしまった。
「……見通し、甘かったの」
 エージェントの来る方向すら、予測を外してしまった。ここまで莫迦にされ、悔しくないわけが……、
 と、
「! ……あれは……!」
 マリアラーラは見た。
 ワイズガイ、『ビッグアイエージェント』。
 多数の彼等を乗せた車……この時代らしい、フォードの車……数台が、北側から道を走り、自分のすぐ近くを走り、南へと向かっていくのを、マリアラーラは見たのだ。
 見つかる……と思ったマリアラーラだったが、自身の【光学迷彩】が効いているのを思い出し、建物の陰に隠れる。
 車はそのまま、彼女に気付く事無く通り過ぎ、南へと向かっていった。
「……どうやら、北側から来ることは、予想通りだったのね」
 こちらの考え、敵に出し抜かれもした。しかし……全てが的外れではない。
 僅かだが、予想通りの事もあった。
『ベーダの仕事は、ここでの儀式の見守り役』、そして『エージェントは、村の北側から来る』。
 スクエア広場へと向かっていく車を見つつ、
「……こちら、マリアラーラ。敵ワイズガイベーダが、そちらに向かってるの!」
 マリアラーラは、再びパラドクス通信を行った。
 本当の戦いは、これから。そして今度は、勝ってみせるの!
 その事を、彼女は強く思い、強く誓った。
成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​
効果1【勝利の凱歌】LV1が発生!
【士気高揚】LV1が発生!
【パラドクス通信】LV1が発生!
【隔離眼】LV1が発生!
【現の夢】LV1が発生!
効果2【ガードアップ】LV1が発生!
【反撃アップ】LV1が発生!
【先行率アップ】がLV2になった!
【アヴォイド】LV1が発生!
【ダブル】がLV2になった!

シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ・連携は歓迎だよ

うーん。私も新宿島に居る間に少しくらいはそっちにも触れたけど。
今の状況がそれそのものかって言うとどうしても疑いが先に立つなあ。
イレギュラー自身か、その力……それこそ残留効果みたいなのが残ってるんじゃ、とかね。
まあ、今考えてても仕方ないか。分かりやすい敵が来たしね、叩き潰そう。

初手は不意打ちできればありがたいんだけど、都合のいい物陰とかはあるかな?
監視装置とかがあっても不思議はないから、そこまで拘りはしないけど、有れば【光学迷彩】も含めて有効に活用させてもらおう。
無ければいっそ堂々と真正面からで。

鬼神変。
異形化した腕に無数の破片を呪詛を介して纏わせ、繋ぎ固めて拳甲に。
ヘッドバット仕掛けてくるなら都合がいいや。
その頭、カウンターで思いっきり殴り返してあげよう。
頭だけホームラン、なんてことにならないといいね?
倒れたビッグアイエージェントを力づくで振り回して武器代わりにしてもいいかな。

さて、雑魚は片づけても、多分一番厄介なのが来るよね。
果たして何を言ってくるかな?


アンゼリカ・レンブラント
レン高原の、縞瑪瑙
そしてワイズマンの裏にいる
「イレギュラー」……

色々推測や考察はできるけど、今は
村の北側から来るエージェントをやっつけないとだよ
パラドクス通信も駆使し仲間と連絡を密に、迎え撃とう

ネメシス形態の戦乙女姿へ
パワー全開に剣を振るい、パラドクスの閃光と衝撃波をお見舞い!
敵の戦闘力としては深きものどもより上なんだろうけど
なんだか相対してほっとするよ、
少なくとも精神に来るような相手ではないからね!

敵からの反撃を堪えたら一撃離脱、
囲まれないよう絶えず足を使いつつ
仲間と敵を挟み込む位置取りを狙いつつ
パワフルに剣を振るっていくね

相手の頭部からの攻撃に警戒し、
姿勢を低く、普段よりも小さな体躯での小回りを生かし動き
致命打をもらわないように凌いでは反撃していくね

この街は本当にワケワカ。
でも必ず攻略して住人も助け出してみせるもの
だから止まってなんていられない

《光剣閃波》を全力で振るい敵を殲滅していくね
私の光よ、最大まで輝けぇーっ!
これで全部かな?あとはアヴァタール級!きっちり倒し「次」に繋げようっ


マリアラーラ・シルヴァ
むー…おのれマッコイなの

それはそれとして頓珍漢に考えるよ
朽ちたゴーメンガースト?
街にはワイズガイが居ない…戴冠でどうなってるかわかんない排斥力が更に薄まってる?
代わりにコーサノストラに属さない個性の強い像や儀式?
そんなことしたら新宿島でも禁止されてる
通称ディビジョン転落が始まっちゃわない?

でもイレギュラー(お客様)はイレギュラー

世界の塗り替え…
ディビジョンルールがどこまで書き変わってるか
その観察がディープワンズを見守る理由だとしたら…
もう段階はかなり進んでる?

でもまだ安定はしてない
だってベーダはワイズガイ色を町に持ち込まないようにしてた
なら世界観にそぐわないパラドクスで迎え撃てば
ベーダ達はまずマリアを優先的に排除しようとしてくるんじゃないかな

戦う場所をみんなに決めてもらったら
マリアは目立つところに陣取ってメルヘンパラドクス…
辺り一面を花園にしちゃうね
ベーダが近接格闘したくても
花園では乱暴禁止って追い返して
囮になれば仲間が不意打ちしやすいと思うの

まぁ頓珍漢甚だしくても囮役はこなせるかなって


捌碁・秋果
私があのブローチをウォーレンさんから取らなければ、彼はあの素晴らしい全能感のままにスケッチを描き続けることができたのかな
たとえ縞瑪瑙の力で感覚が拡充しただけだとしても、あの感覚と昂揚にまかせて描くことは我々にとってあまりに幸せで楽しくて…
…この考えは危ういね、だめだ
ちゃんと考えなきゃ。自分の感覚を他に任せてはいけない、絵は自分の意識と感性で描き上げるものだ
そうだよ、何がレン高原の縞瑪瑙だ。あんなのはいけないお薬と一緒だ!

【泥濘の地】と【エアライド】を併用し、敵の機動力を削ぎつつジャンプを駆使して撹乱するよ
ビッグアイエージェントにパラドクスをお見舞い。敵の視界を奪って、仲間が攻撃しやすいような連携も兼ねよう。
飛んでいけ、会報!ヘルメットに貼り付いて前を見えなくしちゃえ!
会報を通して敵の頭に響かせるのは同好の士、ウォーレンへの想い
ねえ、絵をもっと見せてよ!私はあなたの感性と筆運びが、好っきー!!!

敵のヘッドバットは渾身の力が入っている分、振りかぶる動作も大きいはず
動きをよく見て額縁を展開する


呉守・晶
連携アドリブ歓迎

あ゛ぁ?リチャード・アプトン・ピックマンだぁ?
ウォーレンは本当にその名を出したのか?
そりゃクトゥルフ神話、しかもラヴクラフトの小説の登場人物だぞ
実在するはずがないしクロノヴェーダが成り代わるにしてはもっといい人物は幾らでもいるはずだ。マジで訳が分かんねぇな
其処まで再現して何がしたいんだ?

ビッグアイエージェントか、流石にこいつらは狂ってないよな?
こいつらも狂ってたら嫌になるが……どのみち倒すのは変わらねぇがな!
此処までクトゥルフ神話を再現してくるんなら、ちょっとはそれっぽいもので答えてやるよ!
赤黒い血液のような液体を操って、それを剣や槍や斧などの武器の形にして敵に向かって射出するぜ
ふん、運が良ければ手足を串刺しで済む、なんてそんなもんで済ます気はねぇぞ!
チッ、モノアイといい口といい、どっかの量産機みたいな顔しやがって!それならそれらしく倒されやがれ!
渾身の頭突きなんてモーションは分かりやすいだろうし、【未来予測】で一秒先を見ればなおさらだ、大人しく喰らってやる気はねぇよ!


●現れた者は戸口に
 この『漁村』。
 概念としてだけでなく、物理的に……何らかの『影』を落とす存在が、集結しつつあった。
 この時代における車両……フォード社の車が次々と停車すると、乗って来た者たちが……、
『ビッグアイエージェント』たちが、戦闘態勢とともに車から降り立ち、戦闘態勢を取りつつ散開する。
 その様子を、物陰から、
「…………」
 シエルシーシャ・クリスタ(水妖の巫・g01847)が、覗いていた。
 彼女だけでなく、
「……さて、どうしたものかな」
 アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)、
「……ウォーレンさん。もし、私があのブローチを取らなかったら……」
 そして、捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)が、エージェントたちの事を見張っていた。
「…………」
 マリアラーラ・シルヴァ(コキュバス・g02935)もまた、その場にて。
『むー……』と、年相応の幼女らしい、かわいらしいムクれ顔をしていた。

 今、彼女たちが隠れているのは、『オールドチャーチ・エメラルド』。
 スクエア広場からそう離れていない場所に建つ、小さな礼拝堂である
 先刻の『イハ・ンスレイ会館』、その隣の教会(「ダゴン秘密教会」という名前らしい)からはかなり離れており、規模もあそこよりかなり小さめ。小屋と言ってもいいほどの手狭さだった。
 しかしこの中は、あの教会の礼拝堂のような気配もなく、ちゃんと十字架が飾られている、
 とはいえ、人が入り込んだ痕跡が無いため、恐らくは放棄されて久しいようだったが。
 内部には、あのスピーカーらしき機械も無く、何かの監視装置らしいものも見当たらない。
「……ここが、マリアラーラの言ってた、『恐ろしい何かが居る礼拝堂』じゃなくてよかった。さて……どう動くかな」
 シエルシーシャは考え込む。
 そして、彼女だけでなく、全員が考え込んでいた。
「……なあ、秋果。確かにウォーレンは、『リチャード・アプトン・ピックマン』って名を出したのか?」
 呉守・晶(TSデーモン・g04119)が、秋果に訊ねる。
「……え? あ、はい。確かにそう言ってました」
「……そりゃ、クトゥルフ神話の……しかも、ラグクラフトの小説の登場人物だぞ。実在するはずがないし、クロノヴェーダが成り代わるにしては……もっといい人物はいくらでもいるはずだ……ここまで再現して、何がしたいんだ?」
 訳が分からないと、頭をひねる晶。
「……それは、確かに見たことが無いわけです」
 と、秋果も考える。
「ですが…………」
 ではあるが、秋果は何かがひっかかっていた。
 ピックマンという名はともかく、『L.P』の署名が入った『食屍鬼らしき怪物が人を食う絵画』は、確かにどこかで見た事があったのだ。
 そして、もう一つ。
 ウォーレンから、『あのブローチを取らなかったら』という『もしも』が、頭から離れなかった。

「……もしもの話、『what if』に過ぎない話ですが、もしも私が、『あのブローチをウォーレンさんから取らなければ』、彼はあの素晴らしい全能感のままに、スケッチを描き続けることができたのかな」
 それは、芸術家、美術愛好家、そして画家・絵師として、抗いがたい誘惑。
「……たとえ、あの縞瑪瑙の力で、感覚が拡充しただけであっても……あの『感覚』、あの『昂揚にまかせて描くこと』は、我々にとってあまりに幸せで楽しくて…………」
 これが、普通の芸術家ならば、このまま流され、誘惑を求めてしまっただろう。
 だが彼女は、同時に……ディアボロス。
「……だめだ。この考えは、危ういね……だめだめ、ちゃんと考えなきゃ」
 誘惑に抗い、誘惑を打ち倒す『精神力』。そして、
「自分の感覚を、他の何かに任せてはいけない。絵は自分の『意識』と『感性』で描き上げるものだ!」
 芸術家としての『矜持』を、備えている。
「そうだよ! 何がレン高原の縞瑪瑙だ。あんなのはいけないお薬と一緒! 芸術の『敵』だ!」
 その考えに至った秋果の近くでは、
「……うーん」
 まだ、自身の考えがはっきりしないシエルシーシャと、アンゼリカ。
 そしてマリアラーラが、唸っていた。

「……私も、新宿島にいる間、少しくらいはそっちにも触れたけど……」
 シエルシーシャは、未だに疑わしいと、考えにふける。
「……何か、問題でも? というか、この村……いや、街は、本当にワケワカだよ」
 と、アンゼリカ。
「だよなあ。なんなんだ一体」
 晶もまた、その会話に加わる。
「いや、問題というべきか否かはともかく、どうしても疑ってしまうんだよね」
「疑い?」
「今の、この状況。これが、そっち……晶の言ってる『クトゥルフ神話「そのもの」』かって言うと、どうにも違和感があってね」
「確かにね。色々と、推測や考察は出来るけど、恐らくは……」
 アンゼリカと、
「なんだかんだ会って、結局は『はっきりとはわからねー』って事になるだろうな。元ネタ自体、知った『だけ』で狂っちまうって代物だからな」
 晶は、シエルシーシャにそう答える。
「……むー」
 晶のその言葉に、マリアラーラは、
「……おのれマッコイなの」
 と、むくれつつも、
「それはそれとして、マリアは頓珍漢に考えるよ。あの声が言ってたようにね」
 と、彼女も会話に混ざった。

「……まあ、言いたいことはわかるし、ムカつくだろうがな。あんま気にすんな」
 晶はたしなめ、
「……言った通り、この元ネタの旧神やら旧支配者やらって存在は、『ただ知っただけで、人間の許容範囲をオーバーして、狂っちまう』という代物だからな。下手に考えこんで沼ると、かえって混乱し、最悪……こっちもおかしくなる可能性がある。だから……」
「マリアラーラの言う、頓珍漢に考えるってのは、案外悪くないかもしれないよ。……いや、言ったのはワイズガイだっけ? とにかく今は、攻め込んできた対エージェント戦に集中すべきかと」
 晶に続き、シエルシーシャもそう述べた。
「……ねえ、これ見て」
 と、アンゼリカと、
「大まかだけど、この村の地図を見つけたよ。何かに使えないかな?」
 秋果が、奥の本棚から、地図を引っ張り出してきた。

 ビッグアイエージェント。
 特殊スーツに身を固めた彼らは、整備が行き届いた機械装置のように、無駄な動きをせず、
 スクエア広場へと向かっていた。
 その見た目は、まさにその名の通り……巨大な目玉そのものを、頭に乗せているようなデザイン。
 しかし……、
 彼らは、戸惑っている様子だった。村に入っても、スクエア広場にいるはずの、ディアボロスたちの姿が無かったのだから。
『……やつら、どこに居る?』
『フィッシャー通りを戻り、教会通りとの交差点周辺を調べるか?』
『街道沿いも調べろ。廃墟が多いが、隠れていないとも限らん』
 そんな事を、ぼそぼそと会話しつつ……エージェントたちは捜索する。

 そして、フィッシャー通りから、『イハ・ンスレイ会館』及び、『ダゴン秘密教会』からそう離れていない、南に下った場所に位置する『グレイマン広場』。
 フィッシャー通りと、別の道『グレイマン通り』とが重なる、四辻に作られたもの。
 本来は、市場やカーニバルなどに用いられる、広めの空間らしい。かつてはここの角にも、教会または礼拝堂が立てられていた様子。
 ビッグアイエージェントたちは、そこに入り込んで周囲を見回した。
『……敵の姿は見当たらない。ここからさらに、スクエア広場の方を中心に、敵ディアボロスどもの捜索を……』
 隊長とおぼしき者が、そう言ったその途端。
 人影が現れた。

●囁く者たちは闇から
 フィッシャー通りと、グレイマン通りの交差点、その中心部たる広場。
 エージェントらの視線の先には、
『……小娘?』
 小さな少女が、広場の中心に立っていた。
 北側に向かう道に、まるで目立とうとしているかのように立つ少女。それを見て、
『……お前、ディアボロスだな! こんな時間にこんな場所に、一人で立っているとは怪しい!』
『フラッシャーで直撃……いや、素手で十分だ!』
 と、接近してくるエージェントたち。
 しかし、
「……だめなの。花園では、乱暴禁止なのよ」
 少女……マリアラーラの場違いとも思えるその言葉が、彼等の耳を奪った。
『? なんだ……?』
『花園? 何のことだ……』
 四辻の中、広場となったその場所に、いつしか。
『花』が咲き誇り、咲き乱れる、『花園』が生じていたのだ。
「……天に花、地にも花、みーんな……『花盛り』になっちゃえ☆」
『星の愛で華(オーガニックガーデニング)』。一面に、星の花園を作り出し干渉する、マリアラーラのパラドクス。
 この花園内部は、彼女の意思が最高にして最優先。
 当然、エージェントたちは……論外。
『面妖な! 殴り飛ばしてやる……』
 接近し、殴り飛ばそうと試みるが……、
「言ったでしょ、花園では、乱暴なことはしちゃだめ。そんな事をしたら……めーなのよ」
 そう、彼女の言う通り、できなかった。幻惑されたように、近づけなかったのだ。
『くっ! こんなところに花園だと? あるわけが……』
 とまどう彼らに、
「……『あるわけがない』、そんな理不尽は、あなた達のイレギュラーにも、同じことが言えるだろうに」
 と、今度は物陰から、
 女性が現れると、マリアラーラの後ろに立ち、
「……これは、魔導書……ではないけど、それに匹敵する知識と想いを乗せた、重要な書物! 私が頑張って作りました! ちょっと見てってください!」
彼女……秋果は、『会報』を、手作りの冊子を宙に放った。
 それは、空中でページがばらけると、宙を舞い、花園に戸惑っているエージェントたちに張り付いていく。
そしてエージェントたちは、強制的に……。
『!? なっ、なんだ!?』
『美術? 一体何が……』
『め、面妖な!』
 ……強制的に、『聞かされた』。
 秋果による『美術に関する大量のうんちく』を。

「これもある意味、花園に咲く『花』! 美術鑑賞同好会の会報という、情熱が花開いたようなもの! 頑張って作りましたから、ちょっと見てっててください!」
『奇々会報(キキカイホウ)』、秋果の経験と情熱の結晶たるパラドクス。
 張り付いた会報のページが、ビッグアイエージェントたちの視界を奪い、大音量でその脳内に、『美術に対する思い』を聞かせていく。
 今回、特に語るのは、
「ねえ、ウォーレンさん! あなたの絵、もっと見せてよ! その感性、その筆運び! 好っきーっ!」
 ハワード・ウォーレン、かの画家への、作品に対する想い。
 それが無駄なほどに、喧しいと思わせるほどに、パラドクスとして脳内に響かせ続けていた。

(「……それにしても」)
 と、秋果は周囲の『星の愛で華』を見つつ思う。
(「ゴシックホラーの様相を呈する、この漁村に……場違いなほどにキラキラな花園が出現とは……実にミスマッチ。だけど」)
 その「ミスマッチ」。それが有利に動いてくれていると、秋果は感じていた。
(「この状況。例えるなら『ホラー作品の一場面』にて。怖い雰囲気を台無しにしてるようなもの。マリアちゃんの頓珍漢な作戦、かなり効果的?」)
 そう、芸術作品に限らず『ある種の意図』を持った空間……美術館やお化け屋敷など……の機能を損なうためには、それを構成している要素を破壊する必要がある。
 そして、この漁村の漂っている陰鬱な空気や雰囲気。それはこの場に居る人間の心を蝕み、狂気に引き寄せる意図すら感じられたが……、
 マリアラーラのこの花園は、まさしくその陰鬱さの要素を壊し、恐怖の雰囲気を吹き飛ばしてしまっていた。
 先刻の例えを引用するなら、見る者に不安や恐怖を生じさせる絵画があったとして。
 子供がその絵に、クレヨンや絵の具を用い、ファンシーな絵柄を描き加え、恐怖を台無しにしてしまっているようだ……と、そんな感想を秋果は覚えていた。
 しかも、描き加えたそれらは、かなり念入りかつ、丁寧なもの。邪悪な亡霊が出てきそうな街は、今やお花畑を飛び回るかわいいお花の妖精さんや、女児向けアニメに出て来そうなゆるキャラが顔を出しそうな、そんな雰囲気を醸し出していた。
「……秋果の会報も、効いてるみたいなのね」
 と、マリアラーラが指摘する。これもまた、『恐怖の雰囲気』を破壊している一因。
 エージェントたちもまた、そのスーツや佇まいから、不気味な雰囲気を醸し出していた。が、今はその不気味さが消えてしまっている。
 芸術云々のうんちくを早口で強制的に聞かされているのだ、コズミックホラーの怖さなど、消えて当然だろう。
「さあ、あとは……みんなに任せるの」
 と、マリアラーラの言葉に頷き、
 秋果は二人して、物陰に隠れるのだった。

●彷徨うのは闇
『くっ、皆落ち着け! この程度でうろたえるな!』
 エージェントたちは、なんとか持ち直そうと試みるが、
「……へっ、いいザマだな。想定外の出来事に対処できず大騒ぎとは、情けねえぜ!」
 マリアラーラたちの反対側。南側より、晶がその姿を現した。
「……ここまでお前らが、クトゥルフ神話を再現してくるんなら……こっちもちっとはそれっぽいもんで応えてやんよ!」
 その足元には、赤黒い血液のような液体が。どこからか現れたそれは、不気味な水溜りと化し……その表面にさざ波が立つ。
 月明かりが照らすそれは、あたかも……魔女の家に滴る、人の血のごとく。
『!? 敵か!』
「いかにも! 食らいやがれ!」
 路上の液体、それは晶の『復讐心』。それが剣と化し、槍と化し、斧と化し、
「『ブラスフェミースラッジ』! 受けてみな!」
 射出された。
 剣や槍は、瞬く間にエージェントらを突き刺し、斧はエージェントらの手足を断ち、頭部に食い込む!
 それらが無数に発生し、散開していたエージェントたちは……完全に不意打ちを食らってしまっていた。

『て、敵だ! 敵ディアボロスだ!』
『やつら……北と南から来るぞ!』
 四辻の、東と西とに向かっていたエージェントらが、その攻撃に気付いたが、
 ビッグアイエージェント。彼等の内、東西の通り、グレイマン通りに向かっていたエージェントたちは、
 気が付いたら、遅かった。
「……あいにくだが、四辻の東と西からも来るよ!」
 シエルシーシャと、
「先手必勝! 私達の攻撃も受けて見ろ!」
 アンゼリカ。
 妖精騎士と撃竜騎士が、両方の方角から迫る!
「……『鬼神変』!」
 シエルシーシャのその腕が、異形と化し、
 更に、無数の破片を呪詛を介しその腕に纏わせる。
 エージェントたちは、近接まで迫ったシエルシーシャに。『エージェント近接格闘術』で対抗せんとしたが、
「……遅い! そして、弱い!」
 そんなものをものともせず、シエルシーシャの異形の巨腕の一振りが、エージェントたちを叩きのめし、叩き潰し、叩き砕き、引導を渡していく。
「……いざ、参る!」
 そしてアンゼリカは、ネメシス形態……戦乙女の姿へと己を変貌させ、
「どんな相手でも! この光剣で叩き斬るよっ!『光剣閃波(セイバーフラッシュ)』!」
 斬撃が、大剣『Day Braek of Leo』の刃から繰り出される斬撃が、
 端から切り払い、同時に放つパラドクスの閃光と、衝撃波とが、エージェントたちを薙ぎ払う。
 17歳の彼女は、今や戦乙女のネメシス形態……10歳前後の、天使を思わせる小柄な姿に変身していた。それが素早く動き、走り回り……、
 その場にいたビッグアイエージェントらの不意を突き、攻撃も避け、その半数近くを減らしていた。
 が、
『……お、おのれぇっ! 調子に乗るな!』
 彼らとて、一方的に倒されるだけではない。エージェントの名は伊達ではなく、その姿も然り。
『我らの攻撃も、味わってもらうぞ!『ビッグアイフラッシャー』!』
 まさに然り、距離を取った数体のエージェントが、頭部の、巨大な眼球状のヘルメット部分、その一つ目のカメラアイ部分から、光線を放つ!
「!」
 なんとか、それを回避するアンゼリカ。
 シエルシーシャも、それをかわすが、
『もらった! 『ギガントヘッドパッド』!』
 その隙に接近した数体のエージェントが、その巨大な頭部を叩きつけんと向かって来る!
 一体の頭部が、空振りし石畳の路上に叩き付けられる。頭自体を巨大なハンマーと化した攻撃は、石畳に亀裂を作り、砕いた。
 二体目、三体目、その他が、今度はディアボロスを倒さんと、アンゼリカに、シエルシーシャに向かっていくが、
「させないよ……あなたたちの敵は、こっちにもいるの」
 マリアラーラの『星の愛で華』が、即座にその場にも展開した。
『!?』
 一瞬の戸惑いとともに、その場から離れんとするエージェントたち。
「おおっと、逃がすかよ!」
 と、そこに生じた隙に、晶の『ブラスフェミースラッジ』が、赤黒い液体から生じた小剣・短剣が発射し、エージェントらを串刺しに。
『ひいっ! ……え?』
 そして、エージェントの一人は、
 自身の胴体が、シエルシーシャの腕に、『鬼神変』で異形と化した巨腕に鷲掴みされた事を知った。
「頭突きが好きらしいから……頭突きで思いっきり殴り返してあげよう!」
 言うが早いが、シエルシーシャはエージェント自身を棍棒代わりに用い、
 ヘッドパットをかましてくる他のエージェントたちへ、殴りつけ、叩き付ける!
 同じ硬度の頭と頭がぶつかり合い、頭部が割れると、
 シエルシーシャの腕は、新たに別の倒れたエージェントの身体を掴み、力づくで武器のように降りまわす!
「このっ!」
 ドガバキとばかりに、打撃音が情け容赦なく響き、情け容赦ない打撃が続いた。
『くそっ! フラッシャーをくらえ!』
 と、目からの光線を放つエージェントたちだが、
「フラッシャーには、フラッシュだよ! 『光剣閃波(セイバーフラッシュ)』!」
 アンゼリカの剣の光と斬撃が、それを切り払う!
『おのれえっ! 貴様らごときにぃっ!』
 エージェントの一体が、ヘッドパットを食らわさんとするが、
「……『ごとき』? そちらこそ、こちらを油断してたようだね」
 アンゼリカは、その攻撃をかわしつつ、
 懐に飛び込み、『Day Braek of Leo』、黄金の獅子の分厚い刃を、エージェントの頭部に叩き付けていた。
 エージェントのヘルメットが砕け、そして……、
 エージェントの、最後の一人は。引導を渡され、崩れ落ちていった。

●混沌のしもべたちが這い寄る
「……どうやら、全部片付いたみたいだな」
 晶が広場の周囲を見回し、
「だね。けど……雑魚は片づけても、多分一番厄介なのが、すぐに来るよね」
 シエルシーシャも、周囲を見回す。
『グレイマン広場』のエージェントたちを倒した後。
 生き残りがいないかと、アンゼリカとシエルシーシャ、晶は、広場の周辺を見回っていた。
 しかし、それは杞憂に終わり、皆は再び広場に集合。
「……でも、必ず攻略して……住人も助け出してみせるの」
 アンゼリカの元気な声が、不安を払拭する。
「…………うん。そうだね」
 だが、マリアラーラは不安が拭いきれない。……おそらく、自分だけが直接、あのアヴァタール級のワイズマンと直接言葉を交わしたためだろうか。
「……頓珍漢な作戦で、うまく行ったみたいだけど……」
 だが、これが一時的なものでないと、なぜ言えようか。
「……マリアラーラちゃん、不安かな?」
 秋果が、語り掛ける。
「……そうだね、不安なの。……けど」
 皆が一緒だと、その不安は多少は解消する。あくまでも『多少』だが。
「……ま、あれだ。ひとつだけ、『事実』があるぜ。揺るぎない『事実』がな」
 晶が、マリアラーラに、そして自分に言い聞かせるように、呟く。
「……クトゥルフ神話は、あくまでも小説、フィクションだ。つまりは……旧神、旧支配者もまた、フィクションの産物って事だ」
 その言葉は、マリアラーラの胸に響く。
 だが、それ以上に……他のディアボロスたちの胸にも、その言葉は響いた。
「……そうだね。フィクションの存在にビビッてどうするんだって話だよ」
「……うん。このワケワカな街ごと、ぶっとばそう!」
 シエルシーシャと、アンゼリカは意気込み、
「……そうだよね! あの……レン高原の、縞瑪瑙? 設定を聞いたけど、そんなものが実在するわけがないし!」
 秋果も、それに同意する。
「じゃあ、皆……」
 と、マリアラーラが口を開いた、その時。
「「「「「!」」」」」
 全員が、『ぞっ』とした。
 無視できない、気のせいだと言い切れないほどの、おぞましい『気配』。それが、
 グレイマン広場に、漂ってきたのだ。
「……これ! マリアが……あの礼拝堂で……」
 間違いない、あのダゴン秘密教会で感じた、あの『気配』とは異なるが……、
 あの時に感じたのと、同等の存在感を持つ何者の『気配』。その持ち主が、グレイマン広場の近くに居る。
 理解も、対話も、一切が不可能な、根本的に異なる『何か』、強大な『何か』。その『気配』。
「……マリアラーラ、これが、君の言ってた……?」
「……確かにこれは……超ワケワカ……!」
 シエルシーシャとアンゼリカが、背中合わせになり、
「……言いたくねえが……なんだよ、これ……背骨にツララを刺された気分だ……」
「……恐ろしいとか、おぞましいとか、そんな簡単に説明できない! そんな程度の相手じゃない!」
 晶と秋果は、顔色を青くしていた。
 やがて、
『カツン、カツン』と、足音が響く。
 その気配の主の足音に違いあるまい。それが、広場へと徐々に近づいてくる。
 ディアボロスたちは、全員が気を引き締め、次の戦いに……、
 絶望をぶっ飛ばす、自身の希望の力を振り絞り。来るべきアヴァタール級ワイズガイとの戦いに向け、気合を入れるのだった。
 ……その気合が、絶望の前に飛ばされぬよう願いつつ。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【怪力無双】LV1が発生!
【泥濘の地】がLV2になった!
【植物活性】LV1が発生!
【士気高揚】がLV2になった!
【水面走行】LV1が発生!
効果2【能力値アップ】LV4が発生!
【ドレイン】LV1が発生!

ア・ンデレ
友達のイフォンネさん(g08772)と共に戦います。
ですます調で丁寧な口調で話します。
不安や恐怖などの感情を一切表に出しません。

「オーガスト・ダーレス……どこかで聞いたことがあるような気がするのですが。イフォンネさんはご存じですか。」
と尋ね、知らないと聞くと、はぁと少しため息をつき
「やはり知りませんか。まあ、そうでしょうね。きっと私たちとは何の関係もない名前です。
相手が誰の名前だとか、気にする必要もないでしょう。やることは、変わらないのですから。」
と言い、戦闘体制に入ります。

基本的には接近戦で、硬化した巨大な腕で戦います。
隙を見て脳がありそうな場所に指をずぶりと刺します。
中身をずずずと吸い出し、そのまま喰らいます。
私ほどになると喰らうのに口は必要ないのですよ。
中にあるのは脳なのか、他の何かなのか、それはわかりませんが、何であろうと消化して自らの力にしてみせましょう。
なぜならば私は喰らうもの(イーター)ですので。


イフォンネ・ハーゼルゼット
※アドリブOK
※同行者:ア・ンデレ(g01601)

・台詞/行動
「知らないな……高揚と猜疑が同居した存在には覚えが無い」
能力値アップと命中アップを頼り、《風に乗りて歩む刃銃》の破壊の斬撃と氷雪使いの粉砕の弾丸を用いる。
また先攻率アップも追い風として利用。
暗殺術を応用した小刻みなダッシュとエアライド及び飛翔による空中攻撃を織り交ぜつつ、貫通撃よろしく暇に滑り込み両断を狙う。

「『イタさん』の言を借りるなら、理解したいな、正と負の狭間ではあるが」
また風使いとして行う吹き飛ばしでの仕切り直しも視野に入れドレインやダブルなども可能ならば併用する構え。
咄嗟の時には通常の得物である闇使いの力と片手半剣・極夜を使用。

対パラドクスは、己が内包する呪詛と情熱と【アヴォイド】をもって僅かでも解体を狙い、同行者も頼りつつ両断をもってむしばみ、2種の風で意識諸共に少しでも【連れ去る】のを狙う。
「貴様に対してこの刃銃の力の主が語っている」
「高空への旅路へ向かわんや?と」
「何者?それは……風に乗りて歩むもの、その陰だ」


アンゼリカ・レンブラント
根本的に異なる『何か』
それでもアヴァタール級の範疇には変わりない
なら倒せるよ、雰囲気とかにごまかされないっ

自分達の希望が、奪還の志が消されるもんかと
気合い新たなに、ネメシス形態は天使風の姿に
【パラドクス通信】で連携を密に、いざ挑むっ

私がお見舞いするのはパラドクスの砲撃っ
恐ろしい相手でも、ダメージは通るよね。
つまり勝てるってことだよ!

奮い立たせる言葉をあげつつ、
動きを止めず小柄な体の小回りを生かし動き回りつつ、
仲間と挟撃できる位置取りを狙いつつ砲撃を続けよう

相手が異形の肉体を以て攻撃してきたら
障壁を全開に凌ぐ

やっぱり心にきそうな動き
でも!最終人類史の人々の笑顔を
絆を結んだ「これまで」を想い、心を奮い立たせ耐えるね
POWでも積極的に仲間にディフェンスを行い、反撃をお返しっ

相手の消耗が分かれば今が攻め時だね
呼吸を整え、パワー全開の《終光収束砲》で吹き飛ばすね
私のありったけ、受け取れーっ!

倒したら新手が来る前に撤収かな
この街の狂気は今までの敵とは確かに異質
でも大丈夫、私達なら必ず乗り越えられるよ


マリアラーラ・シルヴァ
この街の再現度はイマイチだねって
審査会パラドクスを始めるね

街の細かい所が解釈違いってベーダを揶揄してあげる
設定上余計なものがあったり
発狂村人が呪文を間違えてたりと
詰めが甘いって指摘するよ

そしたら間違えてるのはお前達だ
みたいなこと言うでしょう?
でもそれはおかしいの

二度の会話で
貴方が真の恐怖に対し畏怖…そして尊敬してるのは分かってる

そんな貴方が差配するこの街は
仲間がすぐ気付くほど原作再現度が高い
でも貴方が恐怖を体現する側ならば
もっと思惑や意思が乗るはずだし
審査会に正誤で反論すること自体がおかしいの

それは言い換えれば完璧な摸倣だという主張
そう…トレース自体が目的になり拘っちゃうのは素人にはよくある事
オリジナルへの理解が及ばないからガワの完璧な摸倣を目指す

つまり貴方は紛い物

そんな風にバカにしたマリアからバカにし返されたら
高い知性を持ったベーダは
完璧に論破するため
低い知性のマリアにレベルを合わせ反論するでしょ?

でもそれ雰囲気に飲まれてた仲間に
冷静さを取り戻させるというマリアの目的に
とても効果的なの


シエルシーシャ・クリスタ
アドリブ・連携は歓迎だよ

実際に感じてみて、実感した異質。これは何なんだろう。
順当に考えるなら、ここは舞台だ。創作神話の一幕を再現することで力にする類の、儀式の舞台。
色々と真に迫ってるのもその一環……だと思うんだけど、この気配が異質すぎる。
これがあるからこそ儀式を行った、として。じゃあ出所は何?
イレギュラーが居るのか。自動人形みたいな『加護』か。
クロノオブジェクトなのか。儀式にでも組み込まれてるのか。

んー……考えてても仕方ないか。
とりあえずぶっ飛ばそう。うん。
肉体持って出てきてるなら、それで一応のカタはつく。
攻撃が通用するなら、それで十分ともいう。

『招き手』を喚んで、我慢比べだ。
呪いの類には慣れてる。そういうのも、受け流すように耐えられればいいんだけれど。
色々言ってくるだろうし、そっちもなるべく相手にしないようにしよう。

ああ、ゴメン。作家の名を持つクロノヴェーダ。
さぞかし言葉を捏ねくるのは得意だろうね。相手を言いくるめて煙に巻くのも。
だから、聞かない事にしておくんだよ、私は。


呉守・晶
連携アドリブ歓迎

なんだ、この異様な気配は!?本当にテメェはワイズガイか?
ダーレスだと?おいおい、そりゃラヴクラフトの友人でクトゥルフ神話を体系化した作家じゃねぇか
アーカムに相応しいちゃ相応しいが、ジェネラルじゃないんだな
ともあれ、いくら異質だろうとテメェがアヴァタール級ワイズガイならどうということはない!はずだ

ネメシスで髪が伸びて赤と金とオッドアイになって、肌は褐色で金色の魔術紋様は浮かび上がって魔力の翼が大型化するぜ

クソがっ!テメェ、その特徴は這い寄る混沌のニャルじゃねぇか!
なら、これでどうだ!魔晶剣アークイーターの封印を一部解除して刀身を淡い光の集合体に変異させて光の大鎌にするぞ!
正気度を削るような悍ましい姿になりやがって、だがこの非実体の光の刃は肉体や物質を傷つけずに魂を直接刈り取るぞ!
誰がその異形の巨体と力比べなんてするかよ!ついでに刃が肉体に喰い込んで止まることもねぇ!
動き回って避けながら、その魂を刈ってやるよ!肉体より魂を攻撃した方が効きそうだしな!
刈り穫れ、アークイーター!


捌碁・秋果
呉守さんの「そこまで再現して、何がしたいんだ?」という言葉が引っかかってたけど答えがでました。これは、この村は熱心な二次創作なのだと
我々オタ…、熱意高めのファンは好きな作品を脳内で映像化するものです。時には漫画仕立てに、時には世代を超えた役者を揃えて「わたしの考えるさいきょうの配役」でドラマ仕立てに…
そして作品の再現に飽き足らずにその続きやifを考えてしまうのです!これは作品に心を燃やされた者の業であり歓び。理解る、理解ります…

そう、この冒涜的な村は貴方の作品への愛。我々なら妄想で留まるところをワイズガイである貴方は現実にしたのです!なんたる熱意、ナイスパッション!
ん?違う?…大丈夫、オタバレなんて今時気にしなくていいんですよ

とはいえ私もディアボロス、貴方とは不倶戴天の間柄
炎を搔い潜って敵へ肉薄し、近接戦闘をけしかけてカウンターのように冒涜と名の付くパラドクスを使用
…私は知らないけど、貴方が壊したのは作者の肖像画じゃない?
愛する作品の生みの親、それは神
神を壊したショックは大きい…はず!


●其は、無貌なる者なり。それすなわち、無数の顔を持つ者なり。
 その足音が響くと、
 北側から……そいつ……足音の主が、姿を現した。
 そいつは、成人男性のような姿形をしており、その身体を包むのも、仕立ての良いスーツ。
 しかし、そのスーツの裾部分は長く伸び、まるで二本の尻尾のよう。
 その顔は、無貌……と呼ぶにふさわしい、まるで炎が燃え上がっているかのよう。
 眼も鼻も、口も無く、それゆえに表情も『無い』。
 なのに、『有る』事が伝わって来た。表情が『有る』という事が。
 今のそいつは、『嘲り』の表情を浮かべている事が、見ているとなんとなく伝わってくる。
 そいつは、悠々と歩を進めると……グレイマン広場の中央に立ち止まった。
 ディアボロスたちは、警戒し、距離を取りつつ……そいつの動向を見守る。
 そして、
「……あれが……」
 アンゼリカ・レンブラント(光彩誓騎・g02672)と、
「……ワイズガイベーダの、アヴァタール級……」
 マリアラーラ・シルヴァ(コキュバス・g02935)。それに加え、
「……やつが、『オーガスト・ダーレス』か……!」
 シエルシーシャ・クリスタ(水妖の巫・g01847)が、そいつの正体を悟り、口にした。
「……ちっ、なんだ? この異様な気配は!?」
 呉守・晶(TSデーモン・g04119)は、そいつの……ダーレスの気配を受け、戦慄する。
「…………」
 捌碁・秋果(見果てぬ秋・g06403)は、逆に……、
 何かに感づいたかのように、訝し気な眼差しを、そいつに向けていた。
 ダーレスはディアボロスたちへと、貌なき顔を向け、言い放つ。
『……いかにも! よくわかっているようだな。まさか……深きものどもを殺し、我が『ビッグアイエージェント』たちを一掃したディアボロスたちが、このような者たちだとは……実に興味深い』
 マリアラーラは、聞き覚えがある口調だと思ったが……同時に、違和感も覚えていた。
 ほぼ同じ、けど……どこか違う?
『しかし、正直感服したよ。まさか……邪神と、その紡がれた物語世界に巻き込まれながら、正気を保ったままで、ここまで奮闘するとはね。だからこそ、面白く興味深いと言えるのだが』
 感心した口調で、ダーレスは述べる。
 ではあるものの、その感心の口調の中には、多分に侮蔑や嘲笑も混じっていた。
 言うなれば『お前たち如き小物が、我が部下たちを倒し、負傷も無く狂わずにいるなど、生意気だ。調子に乗るな、これから殺されるだけのモブキャラが』と言っているかのようだった。
 その手には、魔導書……のような、ページを開いたハードカバーの書籍が。
「は? そういうテメェは、本当にワイズガイか?」
 それに対し、挑むように晶が言い放つ。
「……つーか、オーガスト・ダーレスだと? そりゃ、ラグクラフトの友人で、クトゥルフ神話を体系化した作家の名前じゃあねえか」
『ほう……で? それがどうかしたかね?』
「スカしてんじゃあねえぜ。ま、アーカムに相応しいっちゃ相応しいが、確実な事が一つ……いや、『ふたつ』言えるな」
『ふたつ?』
「ああ。『ひとつ』! クトゥルフ神話は虚構。故にテメエは、あの神話の旧神や旧支配者を気取っていようが……それを真似てるだけの痛い奴って事だ。そして……」
 晶は、言葉を叩きつける。
「『ひとつ』! いくら異質だろうと、テメェがアヴァタール級ワイズガイなら、どうということはない! 俺たちで『倒せる』!」
 ……はずだ。と、心の中でつい付け加える。
「……よく言ってくれました、呉守さん」
「うん。晶、マリアも同じような事を、考えてたの」
 晶に続き、秋果とマリアラーラが進み出た。
 だが、
『……ああ、ひとつ忠告しておく。火傷したくないなら、逃げたまえ』
 進み出た二人の言葉を遮るように。ダーレスが言い放った。
『……お喋りは楽しいが。だったら尚更……君らを早急に消さねばならんようだな。私が思っていたよりも、君たちはどうやら賢く……手ごわそうだ』
 と、ダーレスは周囲を見回すように、首を回す。
『既に! お喋りして気を引かせ! 後方に回り込んでいるようだからね!』
 と、自身の持つ本……それに、何かを書き込むと、
『『ンガイを燃やすもの』! まずは……この炎を食らうがいい!』
 巨大な炎を、炎そのものを『召喚』し、
 燃え広がらせた!

「……!」
「! くっ!」
 まさに然り。
 グレイマン広場に、ダーレスを中心とした巨大な火炎の渦が放たれたのだ。
 ダーレスの後方に回り込んでいたアンゼリカとシエルシーシャだったが……この火炎……いや『業火』と呼ぶにふさわしい強烈な炎の前には、
『退却』以外の選択肢は無かった。
「……なっ、なんて奴だ! クソがっ!」
 その熱に煽られ、晶が毒づく。
「……つーか、まるでクトゥグァじゃねえか! ニャルの字の天敵の、生ける炎も混じってんのかよ!」
 晶とともに、
「……これは?」
「……こんなの、原作にありましたっけ?」
 後退したマリアラーラと秋果も、熱のダメージのみならず、その威力に戸惑いが隠せない。
『……おやおや? ただの炎の前に、皆さん逃げ腰ですねえ。さっきまでの勢い……どこにいきましたか?』
 と、ダーレスの言葉が、明らかに嘲り見下したような言葉が、広場に響く。
『では次に、こういうのは如何でしょう?』
 そして……、
 燃え盛る業火が、グレイマン広場、その周辺の建物を燃やしつつある中、
 その業火を背にして、ディアボロスたちの前に、ダーレスは立っていた。

 ダーレスは再び、ディアボロスたちを見まわすと、
『さて、どのように殺して差し上げましょう……ああ、思いつきました』
 と、またも本へと何かを書き込む。
「……え?」
「な、なにが……?!」
 マリアラーラと晶、秋果の周囲に、何者かの『気配』が生じた。
 それは、ダーレスの後方にいるアンゼリカとシエルシーシャも同じ。
(「また……気配! あの礼拝堂ほどは酷くないけど……『姿』は、どこ?」)
 そして、マリアラーラは。気配の主がどこに居るかを探したが、『見えなかった』。
 まるでかすかに触れたかのように、自身に何かの触手が巻きつくのを感じる。だが、自分からは触れられないし、払いのける事も出来ない。
 何かが、自分を、自分たちを拘束しようとしている。なのにそれを知っていながら、対抗できない! これと戦うどころか、逃げる事すら、いや、単に認識する事すらできない!
 ……いや、認識『したくない』とすら思っている。思わされている。
 このまま、敵に一方的にやられて当然と、そう考えている自分がいる。
『……人呼んで、『見えざる恐怖』。認識すらできない状況下に置かれた場合、果たしてディアボロス諸君は、どう対処するのかな?』
 ダーレスの言葉通り、他のディアボロスたちも同様の状態に陥っていた。
 晶は、アークイーター……自身の魔晶剣の切っ先を、自分に向けていた。
「な、なぜだ! 奴へ攻撃『したくない』! なんで『自分を切ってみたい』って考えてんだ!」
 必死にこらえているが、こらえきれない。徐々に切っ先が、晶の方へと近づいており……それを阻めない。
「わ……私だけの絵画! それは仲間が惨殺処刑されるところ! それが見たい! なぜか、すごく見てみたい! ああっ、これがリョナ趣味ってやつ?」
 秋果の様子も変に。いつもの芸術オタク的な発言に、本物の狂気が混じっているのが感じられる。
「……さ、裁きの……光」
 アンゼリカは、自身のパラドクスで攻撃せんとするが、
 できない。光の砲撃を放ち、ダーレスを攻撃したいと考えているのに……、
『その前に、仲間を、シエルシーシャを攻撃したい』
 その考え、それが振り払えない。
 そのシエルシーシャは、可能な限り離れていた。
 要は『逃げた』のだ。だが、この戦いから逃走したわけでなく……、
「……やつのパラドクス『見えざる恐怖』とか言ったか? どうやら認識した相手を、強制的に破滅させる力を持つようだ。ならば……いったん距離を取り、策を練らないと!」
 という、『戦いを続けるため』の逃走、一時的な撤退に過ぎない。
 しかし……どう対抗すべきか? 仲間たちは全員、捕らわれた様子。そして、残された時間はほぼ無い。現にアンゼリカも、こちらに狙いを向けている。
「……『招き手』、召喚するしか無いか?」
 そう決断しかけた、その時。

「……ねえ、イフォンネ・ハーゼルゼット(昏天式斬法継承者・g08772)さん」
「……何かな、ア・ンデレ(すごいぞアンデレちゃん・g01601)さん」
 そんな会話が、聞こえてきた。

●千の顔、千の化身、それら全ては同一にして、同時に別の個体なり
『? 誰です?』
 ダーレスが、思わずその会話を交わす者たちへと、気を向ける。
 見ると……北側から、ダーレス自身が来たグレイマン広場・北側の道から、二人の女性が来訪していた。
 その様子を、アンゼリカとシエルシーシャの二人、そしてダーレス越しに、マリアラーラ、秋果、晶の三人は見る。
「……オーガスト・ダーレス……どこかで聞いた事あるような気がするのですが、イフォンネさんはご存じですか?」
 ア・ンデレと呼ばれた方が、隣の相方に訊ねた。橙色の肌の鬼人らしい少女で、瞳は赤く、その口調には感情らしきものはない。
「……知らないな……高揚と猜疑が同居した存在には覚えが無い」
 と、イフォンネと呼ばれた方が答えた。こちらは成人女性らしい体格で、肌は白く、瞳は青色。
 その返答を聞き、
「やはり知りませんか。まあ、そうでしょうね。きっと私たちとは何の関係もない名前です」
 まったく関心など無い、そんな態度を隠しもせず、
「ま、相手が誰の名前だとか、気にする必要もないでしょう。やることは、変わらないのですから」
 言いつつ、ア・ンデレは身構えた。
 彼女に続き、イフォンネも、戦闘態勢をとる。
『……ふむ、ディアボロスの新手ですか。ま、他の皆さんはすぐに片が付きました。あなた方も、すぐに片づけて差し上げましょう』
 ダーレスもまた、戦闘態勢を。
 だが、身構える前に、
「……遅い」
 既に、イフォンネに、
 懐に入られていた。

「……あー、皆さんに一応ご挨拶を。アンデレちゃんです。あちらはイフォンネ。遅れてしまいましたが、助太刀に来ました」
 と、ア・ンデレはそれで自己紹介終了とばかりに、敵へ向き直る。
 その敵こと、オーガスト・ダーレスと対峙しているイフォンネは、
 既に敵の懐に入り来み、己が得物……『風に乗りて歩む刃銃』の斬撃を放つ!
「……? 躱した?」
『……危なかったです、両断されたかと……え?』
 回避したダーレスに反撃を許さず、即座に再行動し、切りかかるイフォンネ。
 刃銃でなく、携えたもう一つの武器……片手半剣『極夜』の斬撃が、ダーレスに切りかかる。
 ダーレスの手にした本へ、刃は食い込み……、
「!」
 それとともに、皆への呪詛は解かれた。

「……彼女、かなりの凄腕だ!」
「……うん、エアライドと飛翔を用いて、小刻みに敵の周囲を回り込んでる!」
 なんとか体の自由を取り戻した晶と秋果は、ダーレスに攻撃するイフォンネの動きに、圧倒され、感心していた。
『なっ……!』
 そして、ダーレス本人も、それに驚愕する。
 その隙を狙い、
「……かぜにのりてあゆむもの……!」
 二種の風を操る『風使い』の本領を発揮した。
「……貴様に対してこの刃銃の力の主が語っている。『高空への旅路へ向かわんや?』と」
『貴方、何者ですか』
「何者?それは……風に乗りて歩むもの、その陰だ」
(「イタさん、頼む!」)
 と、イタクァ……高き空の旅路を望む、深淵なる存在からの力を借りて、必殺の一撃を放つ!
『凍れる風』を放ち、『連れ去る』渦風が、ダーレスの動きを封じ、
「……っ!」
『引き裂く』疾風が、ダーレスの身体を断つ!
「『特異式術法 雲風“雪斬”(フライセンデストルム)』……おっと、これで終り、とか言うなよ」
 ダーレスの身体は、肩口から袈裟懸けに切られていた。
 が、ダーレスはそれをものともせず……、
『……終わり? それは貴女方へそっくりそのまま返しましょう! 『闇に棲みつくもの』!』
 炎の様な、不定形な肉塊に己を変形させた。
 そのまま肉塊は、痛ましき巨人の姿へと変貌する。
 それが有するは、三つの目。
「! なんだありゃ!」
「うわ……グロいですね」
 晶と秋果は、それを見て思わずつぶやくが、
「……その程度ですか。じゃ、こちらも」
 まったく動じた様子を見せず、ア・ンデレは、
 自身の腕を巨大化させ、硬化。
 そして、その腕でぶん殴る!
 業火であちこちが燃えるグレイマン広場に、無様に転がるダーレスに対し、
 ア・ンデレは更に接近し、容赦なく殴り、殴り、殴り! そして、
「……では、カラしていこー」
 ダーレスの、『頭』……とおぼしき場所に、指を突き入れた。
『す、吸われる!』
「当然です。『脳喰らい(ブレインイーター)』で吸ってるんですから」
 これで終わり、案外あっさり片付きましたね……とでも言いたげな口調で、ア・ンデレは『吸い』続けていた。
「…………」
 しかし、マリアラーラはまだ訝し気だった。
(「確かに、二人のおかげで助かったの。その実力、かなり高いけど……」)
 ダーレスもまた、ただで倒れるほどヤワではない。
 このままで、終わるとは思えない。それに……、
 あのワイズガイベーダ、何かを……仕掛けてる?
『す、吸うのですか……このまま、吸うのですかあっ!』
 そのダーレスは、慌てふためいている。
「……ええ。私ほどになると喰らうのに口は必要ないのですよ」
 と、涼し気に応えるア・ンデレ。
「私は喰らうもの(イーター)。中にあるのが、脳なのか、そうでないのか、それは分かりませんが……何であろうと消化し、自らの力にしてみせましょう」
『……そうですか。ま、せいぜい火傷をしないように』
「……え?」
 次の瞬間。
 ア・ンデレの、相手に突き刺し『吸っていた』腕そのものが、
 内側から、燃え上がった。
「!!」
 悲鳴は上げなかったが、ア・ンデレは、
 自身の身体が燃えるのを、認識していた。

「アンデレ!」
 勝利を確信していたイフォンネは、
 炎に焼かれ、炎を吐くア・ンデレに体当たりし、ダーレスから強引に放す。
「くっ……この炎は一体……」
 と、刃銃の氷気を振るって火炎を消そうとするが……なかなか消えない。
 ようやく炎は消えたものの、ア・ンデレは倒れ、立ち上がれない。痙攣しつつ……体中から肉が焼ける臭いを放っていた。その口からも、煙が出ている。
『おやおや、お二人とも何を慌ててらっしゃる? ま、正直……多少は『吸われて』ダメージになりましたが……そちらのお嬢さんも、我が体内に召喚した『ンガイを燃やすもの』の火炎を吸い取りましたからね。邪神をも焼き尽くせる業火をたっぷり吸い取り、体内を直接炙られたならば……ダメージゼロ……とはいきますまい』
 ダーレスは、憎々しさを煽るように、平然と立っていた。その姿は、前のスーツのそれに戻っている。
 しかし……ダーレス自身も、言う通り無傷ではなかった。ア・ンデレに吸われただけでなく、自らも火炎によるダメージを体内に負った様子で……体の各所から煙を上げている。
「! 貴様あっ!」
 激昂するイフォンネだったが、
『おおっと、いいんですか? 既にあなたのその剣。……大事なその方の首筋に当てておりますが?』
「え? ……なっ!」
 そんなつもりはなかったのに、イフォンネの刃銃の切っ先が、
 ア・ンデレの首筋に当てられていた。
『貴方に対しては、『見えざる恐怖』をかけていたのですよ。なぜか、かかりにくかったのですが……ようやく、こちらの術中にハマってくれたようで』
(「……【アヴォイド】が無かったら……傷つけていた?」)
 間違いなく、状況はいきなり反転してしまった。その事を、イフォンネは認めざるを得なかった。
「……くっ」
『さて……先刻なんと言ってましたっけ? 私の名前を知らない? 関係が無いから気にする必要もない? この状況でも、同じ事が言えますかな?』
 嘲りつつ、
『……ま、死ぬ間際に学べてよかったですね。そうやって敵を見下し、己の力を過信しすぎたら、このようにみじめな死を迎えるものです。そのまま二人仲良く、雑魚として焼け死んでください』
 死刑執行人のように、ダーレスは動けない二人へと、接近し、
『ンガイを燃やすもの』を、業火を再び放った。

●夜に吠え、闇に彷徨う者。それすなわち……這い寄る混沌なり
 動けない二人は、見た。
「裁きの光と共に輝け、六芒星に集いた精霊よ!」
 自分達と、ダーレスとの間に立ち、魔術障壁で防御するアンゼリカの姿を。
 天使風のネメシス形態になった彼女は、増幅魔法『六芒星増幅術(ヘキサドライブ・ブースト)』を用い、その魔力を収束させ……、
「邪悪なる者全てを……撃ち抜けぇーっ!『終光収束砲(エンド・オブ・イヴィル)』!」
 強烈な、光の砲撃魔法として放つ! 大口径の光線砲にも等しいその攻撃を、至近距離から受け……ダーレスは更なるダメージを。
『ちいいっ! 止めを刺しておけば!』
 だが、負傷はしても、まだ倒れるには至らない。そのまま下がり、逃走していく。
「……はあっ、はあっ、はあっ……直撃させたはずなのに、あいつ、まだ動けるなんて……二人とも、大丈夫?」
 荒い息で、二人を気遣うアンゼリカ。
「……自分は大丈夫ですが、ア・ンデレさんが……」
「……アンデレちゃんも、大丈夫ですよー。……助けたつもりが、助けられましたね。ありがとうございます」
 イフォンネの隣で、なんとか回復したア・ンデレが、
 肩を借りて立ち上がった。
「で、あいつは?」
「仲間が追ってる。多分……今度こそ、倒せると思う」
 アンゼリカの言う通り、
 シエルシーシャたちが、ダーレスを追っていた。

 街中を駆けるダーレス。
 だが、彼は……、
『……ここは?』
 見慣れぬ場所に、自分が足を踏み入れているのを知った。
「ここは、どこかって? そんな事はどうでもいいの。なぜならこれから……」
 マリアが、審査会を始めるのね。
 そう言ったマリアラーラが、陰からその姿を現した。
「これから始めるの。……『夢魔の自由研究審査会(ラディカルカンファレンス)』を!」

 マリアラーラの、このパラドクス。
 強力な結界……固有の『学会』の場を展開し、『対象』とした存在を、『評価』という形で攻撃する。
 評価は、対象における無駄な点、矛盾点を取り上げ、それらを容赦ない評定や辛口コメントを用いて指摘する事で行われる。
 それはまさに、精神そのものに、直接行われる攻撃。
 暗く、広い空間内で。裁判所の証人台のような場所に立つダーレスに対し、
 マリアラーラは言い放った。
「……マリアとしては、結論から述べると……この『街』……いや、『漁村』? この細かい点が、解釈違いなのね」
『……なんだと?』
「だって、発狂した村人が呪文を間違えていたり、設定上、余計な物があったり、素人考えでも『詰めの甘さ』があるのがわかるの」
『……ふん、何を言い出すかと思えば。解釈違い? 判っていないな、原典を知らないお前達が、何をぬかすか』
(「やっぱりね、予想通りの事言ってるの」)
 自身の予想が当たった事を受け、
「……それは、おかしいのね」
 マリアラーラは、更に指摘する。
『おかしい? 何がだ?』
 激昂するダーレスに対し、
「なら、原典を知る人たちから、指摘してもらうのね」
 マリアラーラは下がると、
「おう、俺からか」
 晶が、進み出た。

「まず言わせてもらうぜ。テメェのその特徴、その異形の外観、その行動……作家のオーガスト・ダーレスというより、這い寄る混沌、無貌の神にしか見えねえ。……てめえ、その姿は『ニャルの字』だろ?」
 ダーレスへと指を差し、
「それに、この街に、あの魚野郎……インスマスと、深きものども、それらの再現だろ? それ以外に何だって言うんだ?」
『……気付いたのか。ふ、ふん、少しだけ褒めてやろう』
 あきらかに動揺するダーレスに対し、
「テメェには他にいろいろ言いたいが、長くなるからな。交代だ」
 と、晶は下がると、
「……呉守さんが『そこまで再現して、何がしたいんだ?』。その言葉が引っかってましたけど、答えが出ました」
 新たに進み出たのは、秋果。彼女が、ダーレスへと述べる。
『ほう……答え、ね』
 興味を引かれたかのように、ダーレスも聞き入る。
「はい。これは……この村は、熱心な『二次創作』なのだと」
『……! なに?』
「我々オタ……、失礼。我々、『熱意高めのファン』は好きな作品を脳内で映像化するものです。時には漫画仕立てに、時には世代を超えた役者を揃えて『わたしの考えるさいきょうの配役』でドラマ仕立てに、時には夢小説、時にはそこから更なる属性や展開を付け加え……そして作品の再現に飽き足らずにその続きやifを考えてしまうのです! これは作品に心を燃やされた者の業であり歓び。理解る、理解ります……いや、『理解りすぎます』!」
 と、熱意高めのファン特有の早口で、述べたい事を区切ることなく、聞く者の事を考えずに言い放つ秋果。
 それは止まらず、
「そう、この冒涜的な村は貴方の作品への愛。我々なら妄想で留まるところをワイズガイである貴方は現実にしたのです!なんたる熱意、ナイスパッション! なんというマニアックさ! ん? 違う?……大丈夫、オタバレなんて今時気にしなくていいんですよ。そもそも現在は……」
 言葉を失ったダーレスとともに、同じく言葉を失っていたマリアラーラは、
「……とりあえず、そのくらいで……」
 と、強引に彼女を下がらせた。

『……ふ、ふふふ……なるほど……原典を知る者が、そちらに居たのか……』
 無貌のダーレスだが、引きつった表情を浮かべているようだとマリアラーラは感じた。
「……さて、改めて言わせてもらうけど」
 と、再びマリアラーラが対峙する。
「貴方とは、二度会話した。それによると……貴方が、『真の恐怖』に関し、畏怖し、尊敬している事を、マリアは感じ取った。そして、この街は、そんな貴方が差配している。その事に、マリアはともかく、秋果や晶はすぐに気づいた……ここは、『原作再現度』が高いって事に。二人がたった今語った事から、それはわかるでしょ?」
『…………』
「でも、貴方が恐怖を体現する側ならば、もっと思惑や意思が乗るはず。それに、今ここで、この審査会にて、正誤で反論すること自体がおかしいの。それってつまり、言い換えれば……」
 この街そのものが、『完璧な摸倣』だという主張。
「そう……トレース自体が目的になり拘っちゃうのは、素人にはよくある事」
「だけど、オリジナルへの理解が及ばないから、ガワの、上っ面の完璧な摸倣を目指し、出来上がったのが、この街」
「つまり貴方も、この街と同じ、『紛い物』。上辺だけを似せた、偽物って事なのね」

『……貴様! ここが紛い物だと! この私が、紛い物だと! ふざけるな!』
 言葉を失っていたダーレスは、今までの態度が嘘のように……激昂していた。
 先刻までの、『高みに立ち、マリアラーラや他の皆を見下ろしていた』ような、知的な存在と同等とはとても思えない。
(「…………マリアからバカにし返されたら、マリアに合わせて論破すると思ったけど……まさか、こんな風になるなんて」)
 その激昂したダーレスに驚いていたのは、マリアラーラ本人。おそらくは……、
「おそらくは、マリアが思ってたほど、貴方は高い知性を持ってるわけじゃないのね。本当に、上っ面だけの紛い物とはね」
『うるさい! うるさいうるさいうるさい! うるさいぃぃぃぃぃツ! お前も燃やして……いや、拳で叩き潰してくれる!』
 邪神と思いきや、実際はそれを装った模造品。再び『闇に棲みつくもの』で、肉塊の巨体に変形したダーレスは、その巨腕で叩き潰さんと迫ったが、
「……マリアちゃん、下がって!」
 マリアラーラと入れ替わり、秋果が立ちはだかる。
「そしてダーレスさん! 見て!『貴方だけの絵画』! さ、感動して!?」
 そして秋果は、『変質ステンドグラス』から絵画を取り出し、掲げた。
 掲げられた『その絵画』。それが目に入ったダーレスは、次の瞬間、
 振り回した巨腕が、その『絵画』を直撃し、破壊した。

●無貌なる千顔の邪神、暗黒のファラオ、黒獅子……名無き其れの名は、無数なり 
『!! こ、これは! これはああああああっ!』
「……私は知らないけど、貴方が壊したのは作者の肖像画じゃない? 『愛する作品の生みの親、それは神』! 神を壊したショックは大きい……はず!」
 秋果のパラドクス、『全方位冒涜絵画(バンニンノココロヲユサブルカイガ)』。
 このパラドクスは、秋果がまず絵画を取り出し、相手に見せつける。
 見せる絵画は、相手にとって思い入れのある人物や風景が描かれており、それを『相手に叩き潰させる』、事で、精神にダメージを与える。
 今まさに、ダーレスはそれを行い、己の精神に、己の力でもってダメージを与えていたのだ。
『貴様! 許さん! 許さんぞ! 殺す! 殺してやる!』
 ダーレスはもはや、怒り心頭といった様相で、周囲へ拳をたたきつけ、炎を放ち、暴れまわっていた。
 もう知性や理性など、どこかに吹き飛んで消してしまったかのように。

「……はっ、なんだその姿に、その態度はよぉ。テメェ、さっきと同一人物とは到底思えねえな」
 いつしか、通常の空間に戻ったダーレスに対し、晶と、
「……まったくだね。ま、さっきより、今の方が対処しやすいけど」
 シエルシーシャが、止めを刺さんと立ちはだかった。
『あの小生意気なクソガキと! あの絵画マニアのクソ女はどこだ! 言え! 全員殺して、我が旧神の生贄にしてくれよう! どこだ! 言え!』
 ダーレスは、既に正気を失っていた。
 そして、
「言わないし、聞かないよ。君は作家だろうから、言葉を捏ねくるのは得意だろうし、相手を言いくるめるのも得意だろうけど……こうなったら、それらは使えないね」
 シエルシーシャは、『召喚した』
「……ナックラヴィー、呪え、縋れ、啜れ……『限定開封:水底の招き手(デッドリー・エンブレイス)』」
 呪具に封じられた、水妖を。
「こっちも……テメェにとどめを指してやる」
 晶もまた、その姿をネメシス形態に変化させた。髪が伸び、瞳は赤と金のオッドアイ。褐色になった肌に浮かぶは、輝く魔術刻印。そして魔力の翼は、大型化。
 更に、魔晶剣アークイーターの鞘を払った晶は、
「……魔剣アークイーター、第五封印解除。変異開始、コード・魂葬剣『魂ヲ刈リ取ルモノ』っ!」
 その封印を一部解除、その刀身を『淡い光』の集合体に、変化させた。
 それらの変化や変容など、ダーレスは知った事ではない。
 喚き、叫び、雄叫ぶ彼は、シエルシーシャに業火を放ち、晶を叩き潰さんと腕を振り回す。
 それらを回避し、シエルシーシャは、
 ダーレスの足元に、無数の『門』……無数に生み出される、水溜りを作り出した。
 そして、それら全ての水溜まりから、異形の『手』が伸び……ダーレスを掴む!
「……その無数の『手』は、海辺の死を象徴する、凶馬ナックラヴィーの呪詛を象ったもの! 密やかに忍び寄り、執拗に縋りつき、その活力を啜り上げる!」
 それこそが、『水底の招き手(デッドリー・エンプレイス)』。
『こ、こんなもの! 『ンガイを燃やすもの』で燃やしてやる!』
 と、ダーレスは周囲に業火を放ち、水溜りごと『手』を燃やしていく。
 が、燃えつきる端から新たな水溜りの門が生じ、新たな『手』がダーレスを掴み、その活力を、その生命力を、蝕み、吸い取っていく。
「……おいおいおいおいおいおい、俺の事を忘れてんじゃあねえぜ!」
 そこへ、晶が駆け出した。
 その手の、変形させた魔晶剣アークイーターは……非実体の光刃を持つ『大鎌』の形態になっていた。
「『刈り取れ』ッ! アークイーター!」
 大鎌を振りかぶり、晶が迫る。
『そんなもので、私が刈られるかあっ!』
 と、ダーレスは『水底の招き手』に絡まれつつ、自身の半身を無理やり変形させ……、
『『闇に棲みつくもの』! そんななまくら刃、叩き折ってやる!』
 肉塊の巨人の腕で、殴りかかる!
「!」
 が、大鎌の刃は、腕をすり抜け、
 ダーレスの胴体部を、やはりすり抜けるようにして、切り付けた。
『!? な、なんだ……? 斬られた、のか?』
「……いかにも。『魂ヲ刈リ取ルモノ』。この非実体の光の刃は、肉体や物質を傷つけずに、魂を直接刈り取る。今、お前は……刈り取られたんだよ」
 それを聞き、のたうち回るダーレス。肉体よりも、精神そのものへ、魂そのものへの攻撃とダメージは……そいつにとって、致命傷となり、
 そのまま、路上に倒れる事に。
『き、貴様なんぞに……貴様らなんぞに……!』
 それでも、『水底の招き手』の『手』に絡まれつつ、這いつくばりながら、まだ悪あがきをするダーレスだったが、
「……先刻の続きです。その状態では……さっきの炎、出せないでしょうからね」
 やってきて、しゃがみこんだア・ンデレに、再び先刻のように頭部に指を突っ込まれ、吸われ……、
 引導を、渡されていた。

「……と、どうやら倒せたようですね」
「ああ。お疲れ、ア・ンデレさん。それに、皆も……」
 と、イフォンネは不器用な口調で、皆にねぎらいを。
「いきなり現れた時は驚いたけど……お二人のおかげで助かったよ、こちらこそありがとう」
「ええ。こいつの、作家の名を持つクロノヴェーダの言葉をあまり聞く事無く、倒せて良かった」
 アンゼリカとシエルシーシャが、礼を述べる。
「にしても……まったく趣味の悪い場所だぜ、インスマスの再現して、ありもしねえ邪神や旧支配者の存在も再現するとはな」
 晶は毒づき、
「まったくです。まあ、二次創作……というか、クトゥルフ神話を再現して、何か企んでたんでしょうが、フィクションで済んで良かったですよ。……芸術愛好家的には、このまま去るのは惜しいですが」
 秋果がいささか、議論の余地がありそうなことをぼそっと述べる。
 そして、マリアラーラが、
「みんな、それじゃすぐに撤退するの。今回、戦い終わったら新たなワイズガイが来る可能性があるから、すぐに撤退するように言われてたよね」
 そう、促した。
「後は、『ラグーン・ハウス』に居るウォーレンや、狂わされた人々を、どうやって助けるかだけど……」
 マリアラーラが、心残りを口にすると、
「……ああ、ご心配なく。皆さんは私たちが助けておきました」
 どこからか、声が聞こえてきた。

「!?」
 聞き覚えの無い何者かの声に、全員が警戒するが、
「警戒しなくていいですよ、私は敵ではないです。それに、ワイズガイでもありません。……あの旅館の人たちは、まじないや薬などで正気に戻し、傷も応急処置を施してあります。その後で私の仲間たちが車に乗せ、都会の病院へと送り届けておきました。ウォーレンさんも、正気に戻ってると思われます」
 南側の、スクエア広場に向かう道に、その声の主が現れた。
 マリアラーラ、それに皆は、その声の主の姿を見る。どうやら、『神父』のようで……神父の着る祭服に身を包んでいる。その肌は黒く、整った顔からは、理知的な雰囲気を醸し出していたが……、
「……あんた、誰だ? こんなとこで、なぜワイズガイの事を知ってる?」
 明らかに怪しい。それゆえ、晶が警戒を解かず問いただした。
「ああ、私はディアボロスの皆さんがすぐに撤退できるように、この場所の後始末に赴いた者です。一連の作業が終わった後で、皆さんのご活躍が目に入り、ちょっとご挨拶をと思いまして」
 と、神父は語ると、
「それにしても、見事な戦いでしたね。さすがはディアボロス、感服しました」
 と、微笑む。
「…………新宿島から派遣された、協力者か何かですか?」
 アンゼリカも、訝し気に訊ねる。
「……協力者が来るなんて、聞いてないけど」
 シエルシーシャも、納得がいかない様子。
「ええ、そんなところです。というかすみません。こちらも急な話でして。怪しまれるのも当然とは思いましたが、なにぶん皆さんに連絡する時間も無くて……」
「……ふーん? まあ、こちらの仕事は終わりましたし、アフターケアをしてくれたのなら、言う事はないですが。ですよね、イフォンネさん」
「……ああ、そうだね」
 ア・ンデレとイフォンネも、どこか腑に落ちない様子。
 そんな皆に対し、
「それより……はやく撤退しないと。トレインの発車準備は出来ています。私はまだ後始末と掃除が残っているので、それを済ませた後に撤退します」
 神父が、促した。
「……わかったの。それじゃみんな、帰ろう?」
 マリアラーラの言葉に、
「はい。皆さん、お疲れ様でした。ごゆっくりお休みください。皆さんに、神の御加護が有らん事を」
 神父は、丁寧に頭を下げた。
 皆は、トレインに向かっていったが、マリアラーラは最後に振り向き、
「……そういえば、名前、聞いてなかったけど……」
「私ですか? ……では、『ナイ』とお呼び下さい。以前は『デクスター』の名で、大学で核物理学の教授として活躍していましたが、まあ色々あって改名しまして。これがまた、長い話でして……失礼、トレインが待ってましたね」
「……わかったの。じゃあ、ナイ。後始末、お願いするのね」
 そう言って、マリアラーラは、ディアボロスたちは、
 漁村を後にした。

 そして、ディアボロスたちを、姿が見えなくなるまで見送った神父は、街中を捜索。
 暫くして、『二つ』のものを手に入れていた。
 ひとつは、『縞瑪瑙のブローチ』。
 そしてもう一つは、『小さな像』。
 ダゴン秘密教会の礼拝堂内部に鎮座していた、『クトゥルフの像』と同じ形だが、その大きさは片手で持てる程度。
 しかしそれは、あの強烈な気配を醸し出しており……同時に強烈な生臭さも漂わせていた。
 神父は臆することなく、それらを肩にかけていた鞄に入れる。 
「……回収、完了。こちらも……撤退するとしよう。来い」
 神父が命じると、奇妙な生き物が物陰から現れ、神父の元に近づいて来た。
 それは、馬の様な頭部と、コウモリの翼を持つ、巨大な鳥。
 すりガラスを引掻くような声で鳴くと、その鳥は神父を背中に跨らせ、
 闇夜に飛翔し……水平線の先に、消えた。

「……ここは?」
 悪夢を見て眠っていたハワード・ウォーレンは、ベッドの上で目覚めた。
 ずきずきと痛む頭を抱えつつ、彼は知った。
 自分が、村人たちとともに、何者かによってどこかの大きな町の病院へ運ばれた事を。
「……なにか、狂気の悪夢を見ていたような……」
 思い出そうとしたが、ぼんやりして思い出せない。
 それに、酷く疲れた。彼は思い出すのを止めると、再び眠りについた。
 今度は……夢は見なかった。
大成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【平穏結界】LV1が発生!
【飛翔】LV1が発生!
【隔離眼】がLV2になった!
【罪縛りの鎖】LV1が発生!
【トラップ生成】LV1が発生!
【プラチナチケット】LV1が発生!
【友達催眠】LV1が発生!
効果2【ドレイン】がLV3になった!
【ダブル】がLV3になった!
【命中アップ】がLV2になった!
【能力値アップ】がLV6になった!
【リザレクション】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2025年09月17日