《戴冠の戦》強行偵察作戦~南極大陸の邂逅
《戴冠の戦》開戦時に行われた
強行偵察作戦で南極大陸の偵察を試みたディアボロス達は、気が付くと謎の空間にいました。
眼の前には、宇宙服を着た謎の人物がいます。
どうやら、この人物が南極各地で偵察を試みていたディアボロス達を集めたようですが……?
●特殊ルール
このシナリオは、
強行偵察作戦で南極大陸の偵察を試みたディアボロスのプレイングが優先的に採用されます。
《戴冠の戦》強行偵察作戦~南極大陸の邂逅(作者 真壁真人)
#最終人類史(新宿島)
#《戴冠の戦》強行偵察作戦~南極大陸の邂逅
#南極
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●《戴冠の戦》強行偵察作戦~南極にて
日本時間にして、2025年8月10日16時頃。
《戴冠の戦》開戦に伴う、全ディヴィジョンの統合現象は発生した。
その時点において、強行偵察作戦に参加するディアボロスは、世界各地の海上にいた。
《戴冠の戦》開戦と共に全ディヴィジョンは決戦時空へ移動し、一つの地球上に複数のディヴィジョンが同時に存在する状態となる。
そのため、理論上、他ディヴィジョンの領域に相当する海上にいれば、統合後に同じ位置にある敵の重要拠点の情報を得られる可能性がある。
統合に伴う時空間移動の衝撃はディアボロスの肉体すらも破壊する。
挑んだ者の多くは、新宿島に再び漂着する結果に終わるだろう。だが、ディアボロス達も、その危険は承知の上だ。
そうした中でも、謎に包まれた南極大陸ディヴィジョンの偵察を望んだディアボロス達は、パラドクストレインを用いて南極大陸になるはずの海上の各地点へと散った。
そして、《戴冠の戦》開戦の刻は訪れ──。
●崩壊した空間での邂逅
ディアボロスは、自分が奇妙な空間に浮かんでいることに気がついた。
どう見ても、雪と氷で閉ざされた南極大陸の地表や火山などではない。
さらに見下ろせば、自身の身体が透き通った姿となっているのが分かる。
近くには南極大陸の別の場所で偵察を行っていたはずの、他のディアボロスの姿もあった。
周囲の状況を確かめるディアボロス達の注意を引いたのは、少し離れた位置に浮かんでいる謎の存在だった。
体の周りに碑文を浮かべた人物は、宇宙服の上に魔法使いのローブを羽織るような、奇妙な装備を身につけていた。
宇宙服のバイザーは周囲の空間を写し、奇妙な色に染まっている。
「はぁ……全く、無茶なことを……。それでこそ、イレギュラーというものかも知れないけどね……」
宇宙服からディアボロス達へ老若男女のいずれともつかない、機械的な声が届いた。
その声音には、宇宙服を通しても隠しきれない消耗の気配が色濃く滲んでいる。
「南極大陸と重なる位置にいた君達は本来、すぐに消滅し、最終人類史に引き戻されるはずだった。
けれど、私が干渉して、一時的に引き止めさせてもらった。
余波で、他のディヴィジョンでも強行偵察が上手くいくような影響が数か所で出ているかも知れない。
詳細は私にも分からないから、最終人類史に戻ってから確認して欲しい」
ディアボロス達がこの空間にいるのは、眼前の人物が原因であることには間違いなさそうだった。
敵対する様子は無いが、時空の流れに抗い、ディアボロスを南極大陸各地から移動させるのは、容易いことでは無いはずだ。宇宙服の人物の疲弊した様子は、それを実行した代償を示すかのようだった。
「《戴冠の戦》開戦の直後……。
今、このタイミングだけが、おそらく私と君達が直接会話できる、最初で最後の機会になる。
色々と疑問はあるだろうが、時間が無い。最初に説明を聞いて欲しい」
●『刻逆』を見守る者
「私には『語れないこと』が数多くある。それが何故かを、私から説明することもできない。
だから、回りくどい言い方になったり、はっきりとした物言いが出来なかったりするんだ。
申し訳ないけれど、そういう相手だと思って欲しい。信用しなくても、それはそれで構わない」
そう前置きして、宇宙服の人物は説明を始めた。
「ここは君達のいた場所に当たる大陸の、どこかだと思ってくれればいい。
君達の時代、『最終人類史』から見て……さしずめ『絶滅人類史』といったところかな。
《戴冠の戦》の外から、人類史改竄術式『刻逆』の観測者として、戦いの行く末を見守る。
私達は、そのためにここで生き恥を晒している」
『観測者』と名乗った相手のいきなりの発言に、ディアボロス達に動揺が走る。
それは、『刻逆』に関する真相の核心部分を知っていると言ったも同然の自己紹介だ。
一方で、言外に伝えられていることもある。
『私達』という言い方から、南極ディヴィジョンこと『絶滅人類史』には観測者の仲間が複数存在すること。
『生き恥を晒す』という発言から……観測者にも『刻逆』を見守る状況は本意ではないこと。
おそらく、それらをはっきり言わないのは、『語れないこと』に影響しているのだろう。
ディアボロスがそうした点を察してくれると考えているのか、観測者は続けて自身のスタンスを語る。
「私の仲間は、君達が『勝利するべきでは無い』と判断している。
でも、勝手な話だと思うだろうけど、私は君達に期待している。君達こそが『人類の希望』なんだと。
たとえ君達が勝利した後、地球がどんな運命を辿るとしても、それを受け入れるべきだと思っている」
南極と崩壊人類史、そこにいる『刻逆』の観測者達。
語られている内容は、それだけで完全な真相に至るには不十分だろう。
だが、これまでの『断片の王』達から得た情報と繋ぎ合わせれば、確実に真相に近づけるものには違いなかった。
●質問と反作用
「君達に来てもらったのは……繰り返しになるけれど、私が君達に期待しているからだ。
時空の奔流が君達をここから追い出してしまうまでに、可能な範囲で質問に答えよう。
ただ、心して欲しい。私から得た情報は、その価値に等しいだけの、反作用をもたらすと。
そして、『観測者』……『見守るだけの存在』である私は、その役割から外れ、過ぎた干渉を行えば……」
言葉が途切れ、観測者が痛みをこらえるような呻き声を響かせる。
元々薄くしか感じられなかった存在感が、さらに大きく薄れたかのようにディアボロス達には感じられた。
「……失礼。私から君達に伝える事の出来る情報は、極めて限定される。
それに、知ってしまったがために、可能性が閉ざされる危険性もある。
それでも、君達なら、この唯一無二の機会を活かしてくれる……。そうだろう?」
弱々しくも、確かに期待を籠めた声で、宇宙服の観測者はディアボロス達に質問を促すのだった。
リプレイ
ジェーン・コーネリアス
海賊ジェーンだ。期待に応えられるよう善処するよ
彼か彼女か分からないが、覚悟が見える
とやかく言うのは野暮だろう
まずは前提の確認をさせて欲しい
今君から聞いた情報、それに僕らがこれまで話した断片の王からの情報
それらを繋ぎ合わせた、過去であり未来の話だ
2025年より未来において、人類史は何かしらの脅威に直面した
自然災害とかじゃなく、敵によるものだ
人類はそれによって滅びを迎えた……が、それに納得をしない者たちが「刻逆」を発明し、使用した
刻逆の目的は、「自分たちでは成し得なかった脅威の打倒を新たな歴史に成し遂げてもらうこと」
ここまでが僕の予測だ。そしてこれが正しいとして、まず君に聞きたいことは「なぜ君以外の観測者は僕らの勝利を望まないか」
おそらくは君以外の観測者は僕らは勝てないと思っている。だから勝利すべきではないと判断している
アーサー王も同じことを口にし、それは一度目の邂逅では復讐心の脆さを、決着の時は群れの力を指摘した
だけど、君たちが考える、僕らが勝てない理由は違うんじゃないかい?
アンネリーゼ・ゾンマーフェルト
ご招待頂きありがとうございます、『観測者』さん
私はアンネリーゼ。技術者のディアボロスよ
……上手くいくか判らない実験を見守る気持ちは、よく分かるわ
今までの戦いの中で、私達は刻逆の目的を理解しつつある
それは、ディヴィジョン同士の戦いで最強のクロノヴェーダを育てること
そして最後に勝ち残った断片の王は、『真の敵』と戦う責務を背負うはず
ナポレオンの言葉が嘘じゃないならね
翻って、復讐者は集団の力でしか戦えない以上、仮に戴冠の戦で勝利しても王なんて生まれない
したがって『真の敵』を討つ条件を満たさない
あなた以外の『観測者』や、断片の王達の理屈はこうなのだろうけれど……その前提が果たしてどんな経験に基づいているのか、私達は未だ知らないの
王を擁さないまま『真の敵』に勝つには、その存在との戦いがどのようなものかを把握し、対策を立てなければならないわ
『観測者』さん。あなたの期待に応えるために……辛い記憶だとしても、どうか教えてほしい
――『真の敵』は一体どこから現れて、どのように人類史を絶滅に至らしめたのかしら?
ラウム・マルファス
知りたいことは色々あるけど、やっぱり未知への恐怖が気になるナ
確かに知らないモノはコワイけど、それだけで人類が負けるっていうのは、研究者のボクとしては信じたくナイ
今までだって未知のディヴィジョンや未知の敵と戦ってきたんダ
コーサノストラのイレギュラーだって、わかってることは少ないけどゼロじゃないし、ボクたちは立ち向かおうとしてル
UFOも含め『未確認』だけど、『既知』でもあると言えるネ
未知に立ち向かえるのはディアボロスの力だけじゃなく、人間の本質のようなものだとボクは思うヨ
ただ、『知ってしまったがために、可能性が閉ざされる』って言い方は気になるネ
もしも未知を既知にすることに、何か弊害があるなら……
「復讐者のラウムだヨ。ゆっくり自己紹介する時間は無さそうだから端的に聞くネ。対峙すべき未知への恐怖は、『既知にしてはいけない何か』なのカナ?」
例えば調べ尽くしても、新たに未知の部分が生み出されるとかネ
反応を観察
この観測者は真摯で素直だと思うから、答えられなくても反応からYesかNoかくらいはわかるカモ
●前提の確認──『刻逆』の目的
「まずは前提の確認をさせて欲しい」
そう声を上げたのはジェーン・コーネリアス(pirate code・g10814)だった。
「今君から聞いた情報、それに僕らがこれまで話した断片の王からの情報、それらを繋ぎ合わせた、過去であり未来の話だ」
これまで4年間の戦いの中で、ディアボロスが倒してきた断片の王達。
その中にはディアボロスと語らう機会があったものも、戦いの中で自身の知る情報を言い残す者もいた。
何も知らないフローラリアの『ダーナ』から、全てを知っていたと称する獣神王朝エジプトの『クフ王』まで持つ情報は様々だったが、それらの情報をつなぎ合わせることで見えて来るものもある。
観測者との話の大前提として、ジェーンはその結果を提示した。
「2025年より未来において、人類史は何かしらの脅威に直面した。
自然災害とかじゃなく、敵によるものだ。
人類はそれによって滅びを迎えた……が、それに納得をしない者たちが『刻逆』を発明し、使用した。
刻逆の目的は、『自分たちでは成し得なかった脅威の打倒を新たな歴史に成し遂げてもらうこと』。
ここまでが僕の予測だ」
2024年以降、ワイルド・カード主導の元で人類史改竄術式『刻逆』に関連する調査が『帰還』済の全域で行われ、以降も継続して調査が行われて来た。だが、いまだ一切の情報は入手出来ずにいる。
その事実は『刻逆』が最終人類史においていまだ存在しないもの……未来に出現するものという予測を裏付けていた。
観測者が『絶滅人類史』という名称を告げた以上、その予測はもはや確信と言ってもよいものであっただろう。
観測者は否定することなく、ジェーンにまっすぐに顔を向けた。
●望まれない勝利の理由
どうやら、自分の予測は大筋では正しいようだと判断し、ジェーンは話を続けた。
「そしてこれが正しいとして、まず君に聞きたいことは『なぜ君以外の観測者は僕らの勝利を望まないか』だ。
おそらく、その理由は単純。
君以外の観測者は、僕らは勝てないと思っているから、勝利すべきではないと判断している」
ジェーンはそこで一度言葉を切り、観測者に否定する様子がないことを見て続けた。
「かつて、幻想竜域キングアーサーの断片の王アーサー・ペンドラゴンも同じことを口にした。
彼は一度目の邂逅では復讐心の脆さを、決着の時は群れの力を指摘したけれど、君たちが考える、僕らが勝てない理由は違うんじゃないかい?」
観測者はその問いかけに、少し考えて短い言葉で回答とした。
「『成長限界』、キツいよね」
「うっ……」
老若男女のいずれともつかない声に、しみじみとした感情が宿る。
ジェーンを含め、その場にいたディアボロスの数名が、思い当たるところがあるのか顔をしかめた。
観測者はさらに続ける。
「『復讐』を成し遂げ続けなければ、ディアボロスの成長は止まる。
その点において、ディアボロスは明白にクロノヴェーダに劣る。
ディアボロスが人類史を救っても、時間は君達を救わない」
クロノヴェーダ勢力(巨獣除く)は時間さえあれば人間の感情エネルギーを集め、その力を増していく。
さらに新たな領域を得た際に、その領域の歴史を書き換えれば、その分の感情エネルギーを得られる。
だが、ディアボロスはそうではない。最終人類史では地獄変や円卓の間などを駆使してはいるもの、極めて限定的な感情エネルギーしか利用できていないのだ。
「キマイラウィッチのように、人類に自分達を憎ませる道を選べば別の可能性もあるかもしれないけど、まあ、そう出来る可能性はほぼ無いか……」
ジェーンは思考を整理するために呟きつつ、再度問いかける。
「アーサー王がかつて語ったという『復讐心の脆さ』と近い回答だね。つまり君も勝てないと思っている点では、同じというわけかな?」
「『私達』は断片の王でなければ、勝利できないと判断しているよ。それでも、『私』は、君達に期待している」
観測者は最初と似た文言を繰り返して、ジェーンへの回答とした。
「期待している。つまり、あなたも『ディアボロスは勝利できない』と判断しているという事なのかな?
そして、その上で、ディアボロスに期待をする……。それは矛盾していないか?」
ジェーンの問いに、観測者は何か応えようとして押し黙る。それは、その言葉を発する事を禁じられたかのように。
その観測者の反応を見てジェーンは、観測者とアーサー・ペンドラゴンとの態様の違いについて考察する。
アーサー王は知識に基づく理屈として語っていたようだ。
だが、ディアボロスの抱える問題について語る観測者からは、妙な実感が感じられた。
(観測者にとって、ディアボロスは『勝てなくても期待する』相手……なら、もしかして単純に……)
そこまで考えて、ジェーンは自分の血の気が引く音を聞いたような錯覚を覚えた。
(これは……情報と反作用とかの話ではなく、僕達さえ『言えない』!
「『刻逆』の関係者が、ディアボロス、あるいはそれに極めて近い存在だ」などと!
最終人類史の人々が知れば、その瞬間に勝てなくなる!)
多くの断片の王は、クロノス級という『ディアボロス排除方法』を予め知り、ディヴィジョン確立前に排除していた。
ディアボロスに関する知識を与えられていたということだ。
観測者や仲間がディアボロスに類する者ならば、あまりにも明白に、それが可能だった理屈が成り立ってしまう。
最終人類史でディアボロスに否定的な主張をする者の中には、ディアボロスを怪しむ者もいる。
今はごく僅かしかいないが、今ジェーンが至った答えを知れば、追随する者も大量に現れうるだろう。
何年もかけて培って来た最終人類史の人々との信頼関係。
現在の最終人類史の防衛体制。
ディアボロスと最終人類史の人々の『奪還の意思』で出現しているパラドクストレイン。
何より、ディアボロスが『復讐』を為そうとする意思。
ジェーンが観測者の回答から導いた結論は、正しいならば、全てが失われかねない危険なものだった。
「推測程度にとどめておいた方が良いこともあるよね。次にいこうか」
ジェーンと観測者の会話を聞いて、同様の理解に至ったディアボロス達が顔色を変えるのを見つつ、観測者は次の質問を促した。
●『真の敵』の影響
ジェーンの問いが思わぬ方向にまで波紋を広げる中、アンネリーゼ・ゾンマーフェルト(シュタールプロフェート・g06305)が口を開いた。
「ご招待いただき、ありがとうございます、『観測者』さん。私はアンネリーゼ、技術者のディアボロスよ」
彼女は、観測者たちが今まさに行われてる実験──あるいは一発勝負の戦い──を見守る立場にあると理解し、共感を抱いていた。そして前提を整理し、改めて問いかける。
「最後に勝ち残った断片の王は、『真の敵』と戦う責務を負うはず。
けれど、ディアボロスは集団でしか戦えない。仮に《戴冠の戦》で勝っても、王なんて生まれない。
『観測者』さん。あなたの期待に応えるために……辛い記憶だとしても、どうか教えて欲しい。
王を擁さず『真の敵』に勝つには、その戦いがどのようなものかを知り、対策を立てる必要があるわ。
──『真の敵』は一体どこから現れて、どのように人類史を絶滅に至らしめたの?」
観測者は少し考え、アンネリーゼの質問を逸らすように答えた。
「もし『刻逆』が起こらず、最終人類史の文明が発展し続けたら……『刻逆』は使えるようになると思うかな?」
アンネリーゼは意表を突かれつつも、技術者として答える。
「現代科学の延長だけでは難しいと思うわ。人類史改竄術式……少なくとも魔術的な要素が入っているのでしょう?
最終人類史に魔術や超能力が実在して未来で実用化される、あるいは進展した科学技術がそう呼ばれるようになる……どちらの可能性も低いと思うわ」
ただし、とアンネリーゼは続ける。
「『断片の王』やクロノヴェーダの技術を考えると、実際に『刻逆』が使われた時点では、魔術や感情エネルギー、クロノ・オブジェクトなど、既存科学の外にある技術も利用可能になっていたはず。
もし《戴冠の戦》後の最終人類史がクロノ・オブジェクトやパラドクス技術の開発を続ければ、理論上は可能になるかもしれないけれど……そこに至るまでの技術発展の過程は、すぐには想像できないわね」
観測者はアンネリーゼの理解を確認し、話題をさらに変える。
「本来、過去の地球へ移動するには、長距離の移動が伴うよね」
「……銀河系の公転の影響ね」
地球は太陽系と共に銀河系を超高速で移動している。
理屈の上では、最終人類史から1億年前のディヴィジョン『巨獣大陸ゴンドワナ大陸』へ移動するには、時間移動だけでなく何万光年という距離も正確に移動しなければならない。
「パラドクストレインやオベリスクはそれを正確に成し遂げて来たわ。
さらに、私達はディヴィジョン境界の霧を越えるだけでも、光年単位の移動を行ってきたことになる。
ましてや現在の地球は異なる時代のディヴィジョンが統合されている……既存理論では説明不能、滅茶苦茶な状態ね」
最終人類史の専門家も、色々と諦めて現在の状況を起こり得る現象として受け入れ、ひたすらデータ収集を続けている。
アンネリーゼの言葉を受け、観測者は、現状を確認するように言った。
「地球は滅茶苦茶な状態になっている。
宇宙的に見れば、地球なんて大して大きくもない惑星の一つにすぎない。
そこで何が起ころうと、宇宙規模では些細な変化かもしれないけれどね」
その言葉が自分に対する回答であると考え、アンネリーゼは悟る。
観測者の言葉は『刻逆』や《戴冠の戦》の状況だけでなく、『真の敵』の影響をも示唆しているのだ。
未来で『真の敵』に抗った者達がいる。
彼らは『真の敵』の影響下で利用可能となった魔術や感情エネルギーといった技術を駆使し、『刻逆』によって人類史を犠牲にしてでも、対抗しうる王を生み出そうとした。
絶滅人類史。
観測者が、あえて最終人類史と似た名を告げた意図が、そこにはあるようにアンネリーゼには感じられた。
(おそらく『観測者』さんにとって、人類史に対する破壊は『刻逆』が初めてではない。
『真の敵』の攻撃で人類史が滅茶苦茶にされ、その中で本来ならばありえない、異常な技術が利用可能になった。
その後、『破壊される前の時間軸』を利用して放たれた反撃……それが『刻逆』。
宇宙の話を持ち出したのは、『真の敵』が宇宙にいることを暗示しているのでしょうね)
●知ってはいけない
ラウム・マルファス(研究者にして発明家・g00862)は、これまでの会話を聞いて、観測者が意図的に回答を避けている事柄に気付いていた。
「『真の敵』……とりあえず前のアンネリーゼさんに合わせるかナ」
アーサー王は、旧き人類は未知のものへの恐怖に呑まれて滅ぼされた様に語っていた。
だが実際の敗北に至る過程は、単純にそればかりではないようだ。
未知への恐怖云々の呼称を今後も使い続けるのは不適切だろう。
ともあれ『刻逆』の目的を考えた時、断片の王などから得られる情報には明白に欠けているものがあった。
「『真の敵』に関する、具体的な戦力情報ダ」
十数体の断片の王を倒して来て、1体として倒すべき敵の詳細情報を持っていない。
ラウムはそこに、意図的なものを感じていた。アンネリーゼとの問答でも、観測者はその回答を避けている。
「『知ってしまったがために、可能性が閉ざされる危険性もある』って言い方……もしも未知を既知にすることに、何か弊害があるなら……」
そこまでを理解した上で、ラウムは懸念を確認するように観測者に鋭く問う。
「ディアボロスのラウムだヨ。ゆっくり自己紹介する時間は無さそうだから端的に聞くネ。
対峙すべき『真の敵』は、『既知にしてはいけない何か』なのカナ?」
観測者はラウムの問いかけに対し、またしても質問を逸らすような話を始める。
「『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』という言葉は、最終人類史でも知られているよね」
「フリードリヒ・ニーチェの有名な格言だネ」
「それは、逆説連鎖戦における真実の一端ではある。
行う側が非攻撃行為であると考えていても、受ける側に『攻撃』と捉えられればパラドクスによる反撃は生じうる」
ディアボロスはクロノヴェーダとの無数の戦いの中で、僅かながらその現象を確認していた。
海中での戦いで、強力なソナー類の発信を攻撃として反撃を受けたケースが存在している。
「ここでその話を持ち出すということは、『同じことをするやつがいる』というわけだネ」
迂遠であるが、観測者はラウムの懸念した内容が正しいことを伝えたい様子だった。
(知ること自体を攻撃として捉える敵……ここまでの回答を踏まえると、認識していることを明確化すると、『刻逆』がまだ途中だろうと、『真の敵』が襲来しかねないのかナ)
それは、誰にとっても危惧すべき事態であろうとラウムには思えた。
ましてや、『刻逆』という技術が『真の敵』による攻撃の影響下で生まれたものならば、感知される可能性は幾らでもありうるだろう。
観測者の回答を踏まえ、そこまで考えて、ラウムはふと別の疑問を抱いた。
(『刻逆』は『真の敵』に気付かれないように行っていて、現在も感知されていないとしテ……。
それなら、空想科学コーサノストラの『イレギュラー』は一体?)
初めて空想科学コーサノストラ勢力と本格交戦した幻想竜域キングアーサー奪還戦において、ディアボロスが遭遇した、あまりにも異質な『何か』のことだ。
ディアボロスの中には、コーサノストラの『イレギュラー』こそ、『刻逆』の決着後に戦うべき『真の敵』の一端ではないかと考える者もいた。
(だけど、ディヴィジョン内に『真の敵』がいれば『刻逆』は成り立たなイ。
観測者も、コーサノストラのイレギュラーの存在は認識しているはずだシ……?)
『刻逆』が『真の敵』に気付かれないように行われてるというならば、コーサノストラの『イレギュラー』は別物ということになる。強力なワイズガイを支配しうる者達。それが何なのか、ただちに明快な答えは出せそうになかった。
●観測者との別離
新たな疑問を生みつつも、ディアボロス達がこの空間にいられる時間的な猶予は終わろうとしていた。
非実体化しているディアボロス達の姿が、次第に透き通っていく。この場にいるディアボロス達はまだ知らないが、他のディヴィジョンへの強行偵察を成功させた3名に生じたのと似た現象だった。
「これで、お別れだね。君達なら、今の話を役立てて……」
別れの言葉を告げかけた観測者の宇宙服の腕部が、不意に音を立てて内側から弾けて散った。
「何……!?」
観測者を案じたディアボロスは思わず手を伸ばす。だが、非実体化した手は、虚しくその宇宙服をすり抜けた。
「大丈夫……少々早かったけれど、予測の範囲内だよ。
本来いるべきでない者が過ぎたる干渉を行おうとすれば、必ず代償が必要になる。それだけだから。
すぐに死にはしない……碑文伝達機能にも問題はないよ」
冷静に言った観測者の宇宙服のあちこちが、あるいはへこみ、あるいは泡のように不自然に膨張する。
こうして話せるのは最初で最後。観測者の最初の宣言が、ディアボロス達の脳裏を過ぎる。
重大な損傷を負いながら、観測者はディアボロス達に告げた。
「『刻逆』を使い、人類史を破壊した者達は、間違いなく全人類と君達の仇だ。
私もまた『刻逆』を許容しておいて、勝手に君達に期待をかけて、ろくに助けもせず見ている唾棄すべき存在だ。
どこまでいっても、それは変わらない。
だから、どうか……正当な怒りを忘れないで欲シイ」
喉がやられたのか、観測者の声が急に聞き取りづらいものになる。
同時にディアボロス達は、自分達がこの空間から押し流されようとしているのを感じていた。
「ソレデモ、君達ニ期待シテイル。ドウカ、コンナ戦イニ、負ケナイデ」
観測者の声が、急激に遠ざかっていく。
僅かな邂逅の刻は終わり、ディアボロス達は時空の奔流によって最終人類史へと引き戻されていくのだった。
大成功🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
効果1【一刀両断】LV1が発生!
【書物解読】LV1が発生!
【強運の加護】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【ダメージアップ】LV1が発生!
【ロストエナジー】LV1が発生!