【ラ・ピュセル奪還戦】共に歩む未来の為に（作者 okina）

3

リプレイ

●避難訓練
「こんにちはー！俺はディアボロスのリオーネ・クアです 」
　明るい挨拶と共に避難訓練の会場に姿を現したのは、中性的な顔立ちのデーモンの青年、リオーネ・クア（ひつじの悪魔・g01176）だ。茶色の髪に、赤い瞳。思い出深い深緑のプルオーバーパーカーを羽織り、足元にはお気に入りの黒のシューズを合わせている。
「こっちは大切な相棒のメーラーデーモンのロッソ。今日はよろしくねー！」
　そう言って、リオーネはフワフワモコモコの羊の着ぐるみを着込んだメーラーデーモンを紹介した。肩からモコモコ質感のミニポシェットを下げ、首元の赤いリボン付きのカウベルを揺らしながら、ロッソが小さな手を振って見せれば、避難訓練の参加者達から黄色い声が上がる。
「いつもディアボロスを信じて、応援してくれてありがとう！ 今回の歴史の奪還戦ではいつも以上に危ない状況になるし、事前避難ではなく、実際に危険な状態になってからの避難をお願いせざるを得ないんだ。同意してくれてありがとう。絶対ディアボロスが守ります！」
　リオーネの精一杯の決意に、人々から感謝と声援の声が返って来た。
「今日のウィッチ役のマリアだよー！」
　続けて、そう自己紹介したのは、まだ幼いサキュバスの少女 ―― マリアラーラ・シルヴァ（コキュバス・g02935）だ。セミロングの銀髪に、天真爛漫な輝きを宿す青い瞳。とても小柄ながら、スタイルの良いその身をガーリーコーデで最大限に可愛く仕上げ、角には大切な青い紐リボン。乳白色の耳元で小さなサファイアのイヤリングがきらめき、辺りにはプラチナコサージュのほのかな香りが漂っている。
「当日はわたしたち復讐者が必ず駆けつけてみせるから……それまで絶対に生き延びられるように、しっかり訓練しようねー！ マリアとの約束だよー！」
　マリアラーラの言葉に、元気良く返事を返す参加者達。今までと比べて遥かに危険度の高い作戦だが、ディアボロス達がこれまで積み上げて来た信頼もあってか、人々の士気は上々と言えるだろう。

「じゃあ、当日の避難経路と避難計画を再確認してみようか。何か気づいた事とか、思いついたアイデアがあったら、なんでもいいから教えてね」
　バックヤードに戻ったリオーネは、受け取った資料をテーブルに並べて、明るい雰囲気で周囲に声を掛ける。三人寄れば文殊の知恵 ―― 見る人が多いほど、良いアイデアが出ると思うから。つまり、ブレインストーミングの時間だ。
「はい！ マリア、演技力で足止めしたら良いと思うの。一秒でも長く時間を稼ぐことができれば、おじーちゃんおばーちゃんや子供達が巻き込まれる可能性を減らせると思うの」
　早速、おりこうさん眼鏡を装着したマリアが挙手して、元気にアイデアを披露する。幼く愛らしいマリアが一番手を務めた事で、程良く緊張が緩み、話しやすい空気が醸し出された。
「――……演技……足止め……。ねぇ、それって逆に、囮に使えないかな？」
　集まったアイデアを要素に分解して、再構築 ―― 新しい形を組み立てながら、リオーネが言葉を紡いでゆく。
「囮？」
　ちょこんと小首を傾げて聞き返すマリアに、
「うん。バリケードの奥にスピーカーか何かを置いて、震える声で『お、お前達なんか、怖くないんだからっ』とか……あとは『赤ちゃんの泣き声と必死であやす母親の声』とか……どうかな？」
　リオーネは新しいアイデアを伝えてみた。
「あっ！ それすごく良い！ たくさん仕掛ければ、避難する人の足音とか、本当に隠れている人の声なんかもごまかせるの！」
　求めるものは避難の為の時間と、守るべき者達から敵の目を逸らす誘導だ。マリアラーラが手と叩いて称賛し、傍に居た職員の一人が「すぐに手配します」と言って、部屋を後にする。
「それなら、余裕のある人達には、おじーちゃんおばーちゃんみたいな避難が大変な人達のサポートをお願いするの。囮があるなら、姿は見せない方が良いから……かくれんぼしながら避難する訓練が必要なの」
　新しい状況を踏まえて、すぐに避難計画を見直してゆく、マリアラーラ。
「じゃあ、同時並行で避難経路沿いに、身を隠せる遮蔽物を置いて行くね。ウィッチ役は任せたよ」
「マリアにおまかせなの！ それじゃ、訓練開始だよ！」
　そんな言葉を交わしながら、二人は資料を片付け、次の行動へと移って行った。


「ディアボロスのラウムだヨ。よろしくネ」
　訓練や下見の為に実際に避難所に訪れた人々を集めて、銀髪碧眼のデーモンの男性 ―― ラウム・マルファス（研究者にして発明家・g00862）は語りかける。
「キマイラウィッチは『復讐心』を煽るんダ。不安や不満に付け込んで、それを『ディアボロスのせいだ』って思わせようとするヨ」
　事象を書き換え物質を変換する魔法が宿った眼鏡を掛け、魔力が宿った白衣を身にまとい、足元にはスタイリッシュでおしゃれな革靴という装いだ。
「そんなこと思わない、って思うかもしれないネ。でも、戦いが始まって避難所に入れば、どうしても不安になル。何かあっても助けに来てくれないんじゃないかって、どうしても思っちゃうよネ。それが見棄てられたかも、自分たちを追い払ったのカモ、って変わるのは、不思議なことじゃないサ」
　万全に万全を重ねても、パラドクスやクロノオブジェクト相手だと、万が一ってこともある。それを見越して、ラウムは優しく言葉を紡ぐ。
「だから不安や不満は、今のうちに教えて欲しイ。そして、避難中に迷いや不安が生まれたら、ディアボロスと一緒に遊んだこととか、今日のコトとか、思い出しテ。そして万が一、姿がキマイラウィッチに変わっても絶望しないデ。心が人なら、助ける手段はあるからネ」
　ラウムの真摯な語りかけに、人々は真剣な表情で耳を傾け、熱心に聞き入った。
「だいじょうブ。何かあれば、助けに来るヨ。いつでもネ」
　最後に誓いの言葉を添えて、人々を送り出す。決戦の後も、再び彼らと会える事を、心の底から祈りながら。


「アンケートにご協力をお願いします。避難中、通りにくい場所や困った事はありませんでしたか？ どんな些細な事でも構いません。筆記が難しい場合は、直接お伺いするので、遠慮なくお声かけ下さい」
　避難訓練を終えた人達にそう声を掛ける和装の少年は、一騎塚・喜一（一騎刀閃・g04498）だ。白い髪に緑の瞳と伊達眼鏡。武士の心を身に宿し、羽織代わりに萌黄の直垂をうち掛けて。下は動きやすさを重視して、小袴に地下足袋をはいている。
「（ご理解・ご協力、ありがとうございます。ご不便な点はございませんか？ 何かご要望がありましたら、私からお伝えさせて頂きます）」
　そして、盲導犬やペットなど、動物を連れた参加者を見つけては、【動物の友】で意思疎通を図り、状況説明と協力を取り付けてゆく。こればかりはディアボロスにしか出来ない仕事だ。
「優先すべきは目や耳、手足などが不自由な方の避難と小さなお子様がいらっしゃるご家族ですね。より段差や危険の少ないルートへの誘導なども考慮に入れて、安全に避難が出来るように手配しなければ……」
　襲撃の大まかな日時や場所は判っている。なにも全員が全員、自宅や職場から避難を始める必要は無い。カフェや公園、図書館など普段から人が集まる場所の中から、避難所に向かいやすい場所に、『なぜか』『運よく』『たまたま』避難が苦手な人が多く居ても、なにも問題はないだろう。要は各地の人口密度が予知した状況から逸脱しなければ良いだけだ。
「他には動物園などの施設の動物たちもですね。普段と違う雰囲気を感じ取って、心細い思いをしているかもしれません」
　時間も人手も有限だが、望む未来を手にする為、喜一は思いつく限りの手を打ってゆく。家族の大切さと、それを失う苦しみは ―― とてもよく、知っているから。


「まさかキマイラウィッチが、最終人類史に転移襲撃を仕掛ける手段を持っていたとはな」
　防衛計画の資料を確認しながら、獅子堂・崇（破界拳・g06749）は眉間に深くしわを寄せる。焦茶色のボサボサ髪に、鋭く輝く黒い瞳。不撓不屈の闘志を胸に秘め、己がすべきことを模索していた。
「ある意味、今までのような大規模攻撃で新宿島を狙われるより厄介だ」
　とにかく、襲撃方法が厄介だった。それでも、平時であれば十分対処可能だろうが、今回は奪還戦との二正面作戦だ。その上、場所では無く一般人を狙って転移して来るので、事前避難もできないときている。
「陽動で敵を引き付ける場所の近くに、ディアボロスが隠れられるスペースを用意して……あとはダミーの避難所を用意して、敵をそっちに誘導すれば時間が稼げるんじゃないか？」
　例えば、決死の覚悟でダミーの施設を庇いながら必死に抵抗する少人数のディアボロス。あるいは、避難民に扮したディアボロスがダミーの施設に逃げ込むことで、敵を引き付けることが出来るかもしれない。
「施設内に引き込めたら、【迷宮化】もいけるか？ 時間が限られているとはいえ、可能な限り犠牲を出さないために、できることはやっておかないとな」
　方針が決まったら、あとは行動するのみ。畳めば帽子にもなる、思い出の詰まったバックパックを背負うと、崇は腕時計で時間を確認し、歩きながら今後の予定を詰めてゆく。バックパックに下げられた、目玉模様のお守りが、力強い足取りに合わせて、ユラユラと揺れていた。


「ハロー、みんな！　作戦に協力してくれてありがとう！」
　防衛戦に備えた準備が着々と進み、決戦の日が間近に迫ったその日。人々への慰労と鼓舞の為に、レディ・スミス（Luv Crazy・g10874）はパンキッシュな『Queen Magenta』をまとってステージの上に立っていた。
「キマイラウィッチは決して油断できない相手だけど……No worry（心配ない）！ わたしたちディアボロスも、全力で戦うからね！」
　長い金髪の中に、一房だけ混じったマゼンタが人々の視線を集め、灰色の瞳には自信に溢れた力強い意志の光が宿っている。
「賛同し、共に在ろうとしてくれる、勇気あるみんなの心意気に、心からの感謝を込めて……元気が出る超ロックな曲を届けるよ！」
　彼女がエレキギターを掲げ、周囲のアンプから破滅的に繊細な音が流れ出せば、それに合わせて人々の歓声も高まってゆく。
「賽は投げられた！ イントロはすでに始まってる！ なら、わたしたちに出来るのは、全身全霊で、ハッピーエンドのエンディングまで曲を完成させること！」
　ピアスで飾られた耳に響くは、魂の拍動。頭で理解していても、怖いって気持ちはきっとある。それでも、恐怖に勝る勇気は心の奥、魂から湧いてくるものだ。自身の根底が奏でる不滅のビートに身を任せ、愛用のエレキを派手にかき鳴らせば、最終人類史に満ちる残留効果も相まって、人々の心に勇気と熱意が満ちてゆく。
「―― No fear, now listen！」
　人々の勇気が力になって、魂が奇跡を起こす ―― そう信じて、彼女は力の限り声を張り上げた。


　ビルの屋上から熱狂的な盛り上がりを見せるライブ会場を遠目に確認し、逆立った黒髪に赤い眼の青年 ―― 西園寺・真哉（人間のカースブレイド・g03199）は緊張に火照る身体を冷ますように、ゆっくりと息を吐いた。
（「思いつく事は出来る限りやったし、最終確認もした……後は当日に備えるだけ、か」）
　彼は一度、敗北した。その過去は未だに夢に見る。彼が失った世界は、護りたかった人々は、もはや彼の側には戻らない。だが、今見下ろしている街に住む人々は ―― 彼が新宿島に流れ着き、仲間と共に大地を取り戻して、そこから一緒に歩んできた人々は ――今、この街で生きて居る。
（「今度こそ……俺は皆と共に、必ず守ってみせる！！」）
　暴れ出しそうな激情を抑え込むように強く拳を握り締め、誓いと共に真哉は第二の故郷となった街並みを ―― これからクロノヴェーダによって無残に破壊されるであろう景色を、しっかりと目に焼き付けてゆく。
　―― 決戦当日まで、あと少し。

最終結果:成功
完成日	2025年04月18日