リプレイ

●ファッションを爆破する雑誌
「プロパガンダするための労働おじさん達向け雑誌を作るんだね」
　懐から出したサングラスを付け、敏腕編集者になりきるマリアラーラ・シルヴァ（コキュバス・g02935）。
「記事のアイデアはこれからだけど、おたからプレゼントのはがきをつけてみるの」
　彼女はディアボロスの事務所の宛名をしっかりと印刷した、アンケートを兼ねた懸賞はがきを雑誌に挟み、
「グラビア写真をポスターにしたものや、撮影で使う小物雑貨。それにご飯……」
　プレゼントとして用意する品目を考える。
「グラドルと握手できる権利というのも良さそうなの」
　そんな事を考えながら、売れ行きを左右する大事なグラビア撮影現場へと足を踏み入れた。

「く、うぅぅぅぅっ！」
　現場に響き渡る悲鳴は、音羽・華楠（赫雷の荼枳尼天女・g02883）のものだ。
「……とっても恥ずかしくて、顔が熱いですっ」
　この時代、労働者の大半は成人男性のはず。
　そんな彼らの注目を浴び、世界中の男性たちを虜にした雑誌を先取りすることを、華楠は考えたのだ。
「そして、その雑誌の売りといえば『これ』に尽きます――」
　――美女たちの『ヌードグラビア』。
　最終人類史で売られていた雑誌と比べても過激に攻めた作品であったそれに近づけるため、発案者として体を張り、被写体となろうとする。
「表情はそのままでいいの」
　堂々としていようとするものの、マイクロビキニの水着を身に着け、その部分をさらに石鹸の泡で隠した姿は、『何も着てない』と思わせるに十分で……とても恥ずかしかった。
　そんな華楠に、マリアラーラはそのまま撮影されるように指示を出し、
「でもっ」
「その代わり、マリアの質問に答えてほしいの」
　それで大丈夫なのかと不安がる華楠にインタビューを始める。
「まずは、どんな労働者のおじさんが好きかな？」
　その内容は、好みの男性像について。
　華楠が答える内容をメモして、マリアラーラが更に突っ込んだ質問をしていく。
「……ふむふむ。ありがとうなの」
　そうして完成したグラビアには、理想の男性像を語るインタビューが並べられ、
「理想の男性にこんな姿を見つめられて、恥ずかしい。です」
　という煽り文が添えられて、読者の支配欲をかき立てる内容に仕上げられるのだった。

「わたくしは、スタイルには自信があるわよ？」
　と言うのは、腕を上に伸ばしながら上体を反らしてバストを強調し、同時にヒップを後ろに突き出してこちらも強調するようなポーズを取るレオアリア・フォルシオン（フォルシオン統一王朝初代皇帝『征龍帝』・g00492）。
「ふふっ。一番いい画をお願いね？」
　彼女は肉感的でありながら引き締まったバディを赤ビキニと黒ニーソで包み、そう言いながら前屈みになって胸を突き出し、谷間に小物を挟んで笑顔を浮かべる。
　このビキニも、アンカレジの人々は知らない未知の刺激になる。
　ファッション界に強烈な爆弾のような衝撃をもたらしたこの小さな布地は数十年の時を遡り、アラスカの男を魅了することだろう。
「グラビア撮影位、クロノヴェーダから全てを取り戻すためなら安いものだわ」
　うつ伏せになり、ビキニを外して背中を剥き出しにしながら自信たっぷりに背中と赤ビキニに包まれたヒップを見せつけるレオアリア。
　そのコケティッシュな姿をカメラに収めようと、撮影にも力が入るのだった。
「お疲れ様なの」
　撮影が終わり、彼女はマリアラーラに差し入れしてもらったジュースを飲みながらインタビューに答える。
「いよいよグラビアアイドルとしてデビューよ。みんなに応援してもらわなきゃね」
　好きなもの、好きな男性……好きなシチュエーション。
　そんな質問に答えながら、
「ねぇ、どの写真が一番購買意欲を掻き立てるかしら？」
　逆に編集者に質問をしつつ、記事の内容を決めていくのだった。

「ワールドスターな私のグラビアが欠かせないわよね！」
　そして表紙を飾るのは、宝心・ライラ（笑顔の大サーカス・g01071）の水着姿のグラビアだ。
　星条旗柄のビキニの胸の部分をアップにして、スタイルの良い彼女のボディラインを大胆に見せつける構図となっている。
「星の数を……４９にすればいいのね？」
　実は、当時の星条旗の星の数は『４８』。アンカレジのあるアラスカは星の数に含まれていなかった。
　そこで、写真に映る星の数を調整し、そのうち１つを目立つように輝かせ、
「ここが我々の星よ！」
　彼らが手を取りたくなるよう煽り文を重ねた表紙が作られた。
「あとは、袋とじに全身のグラビアをつけると良いんじゃないかしら？」
　表紙では切り取ってしまいわからない、ライラの全身の姿をデカデカと撮影した写真を見開きの袋とじで隠し、
「プロのカメラマンさん！　よろしくお願いします！」
　足を交差しながら体育座りするポーズや一瞬裸と錯覚させるようなポーズをとって、次々と男心をくすぐる写真をグラビアに添えていく。
「あとは記事の内容ね」
　ライラはマリアラーラと相談し、
「ディアボロス株式会社の商品をグラビアにさり気なく乗せるのね？」
「そう。それをプレゼントに使うの」
　他の商品の宣伝や、
「拝金主義を咎めてミニマリストを推奨するのはどうかしら？」
「いいアイデアだと思うの。編集部にベーダが押しかけてくる良い挑発なの」
　雑誌が目指そうとする男性像の方向性をまとめていった。

「いい感じにまとまったの」
　そして、仲間たちのビキニをメインとした肌色多めなグラビアをメインとした雑誌、ディアボロスマガジン創刊号は完成する。
「目標はグラビアしてくれた皆のアイドル化。新宿島で見た動画制作者やインフルエンサーみたいな影響力を目指すよ」
　そのためには、貧しい労働者のおじさんにも継続的に買ってもらわないといけない。
「みんなの興味をそそるインタビューやエピソードを脚色して載せたし、きっと『この子を幸せにしてあげなきゃ』って思ってくれるの」
　革新的なグラビアで売れることは間違いない。
　その上で、マリアラーラはこれからも売れ続けるための仕掛けをふんだんに用意し、ワイズガイたちを焦らせ、ディアボロスを襲撃するよう仕向けようと企んでいた。








●アンカレジを虜にする雑誌
「何かこれという、大手が気づいていない新商品があれば良いのですが」
　所変わってアンカレジの裏通り。
　力の強いギャングたちから隠れるように生きる人々が、ため息つく口を思わず止めてしまうような、赤髪の美女が彼らに近づいてくる。
「良い新商品なら、あるわよ」
　貴人の様な礼服を纏い、圧倒的な美貌と迫力で男を黙らせるレオアリア・フォルシオン（フォルシオン統一王朝初代皇帝『征龍帝』・g00492）。
　その立ち振舞いと漂うフェロモンに気圧される男たちに、
「――美人の艶姿、よ」
　彼女はディアボロスマガジン創刊号を自らのグラビアを開いた状態で渡し、妖艶な笑みを浮かべて見せた。
「こ、これは……！？」
　見たことのない刺激的なファッションの美女。
　その魅力を余すことなく伝える精巧な印刷物。
　そして、目の前の美女がモデルであることにも気づいた男たちは、レオアリアに荒い鼻息を向けてしまう。
「どうかしら？　この雑誌……売ってもらえない？」
　この状態でそんな提案をされれば、ひとたまりもない。
　男たちは二つ返事で首を縦に振ろうとするが、
「ちょっと待って？」
　レオアリアの背後から現れた、スーツ姿の宝心・ライラ（笑顔の大サーカス・g01071）が待ったをかけ、彼らを品定めするように一瞥する。
「あなた達の組織なら、効果的に私達の雑誌を売りさばいてくれるって見込んでお話ししにきたの」
　そして、一人の購買者として雑誌を欲しそうにしていた彼らに、商売の話だと釘をさしつつ、
「お互い良い商売にしましょ？」
　グラビアの過激さをどう魅せて、できる限り多くの雑誌を売るための商談に誘導した。

　場所を移動して、ギャングの事務所で交渉を始めるディアボロスたち。
（「文字通り、身体を張って創った雑誌……かなり売れそうなものが出来たと自負してはいましたが」）
　音羽・華楠（赫雷の荼枳尼天女・g02883）は、ギャングたちの反応が想像以上であることに手応えを感じつつも、いささか刺激が強すぎたかなと苦笑いする。
「やはり、美人の過激な姿ってのは古今東西男の心を掴むでしょ？」
　人間にとって根源的な欲求の一つである性欲。
　それに逆らうことは難しく、それを煽る商品には必ず手が伸びてしまう。
「それを毎月、小遣いを調整すれば定期的に購入できる値段で売り捌けば……多くの資金だけでなく、其れが定期的にある程度まとまった量で手に入る仕組みが出来るわ」
　レオアリアの言葉に男たちは力強く……もしくは適当に頷きながら、グラビアを食い入るように見つめ続ける。
　それでは交渉がちっとも進まないため、華楠は自分の恥ずかしい姿が映った雑誌を取り上げて、
「おいっ！」
「……続きが見たいなら契約してからにしてくださいな」
　欲望に忠実に反応してしまう彼らに釘を刺した。
　言われなくても彼らは言い値で契約してしまいそうだが、他にも色々と条件をつけたいマリアラーラ・シルヴァ（コキュバス・g02935）が笑顔で交渉のテーブルに加わり、
「マリアたちは、雑誌を沢山の人に見てもらいたいの」
　雑誌自体の値段はけして高いものにはしないことを約束させる。
「だけど……儲ける手段は他にあるの」
　関連グッズとして、グラビアで使ったアクセや小物雑貨の併売。
　雑誌を宣伝するために、グラビアを切り抜いて店頭を飾るＰＯＰの設置。さらには、
「雑誌以外でもアイドルを宣伝する為に、協力してほしいの」
　今回だけでなく、グラビアを撮影した３人を全面的に押し出したいのだと要望した。
「え゛っ？」
　その言葉に華楠はびっくりしたような声を出すが、ギャングたちにとっての収入源ともなるため、とんとん拍子に外堀が埋められていくのだった。

　こうして売り出されたディアボロスマガジン創刊号。
　アンカレジの裏通りから発信された知名度０の新雑誌は、話題が話題を呼んで増刷を繰り返すこととなる。
　当然、ギャングたちを通して大量の利益がディアボロスの元に届き……、
「さて、どんな物があるのかしら？」
　レオアリアは先日同様の出で立ちで街の大通りを闊歩し、買い付けるものに目星をつけようとする。
（「……そうね、インターネットサービスやSNSの代わりになる技術や文化は無いかしら？」）
　彼女が探したのは、そのような情報を掴むシステム。
　だが、店に並ぶものは見た目時代相応の物ばかりで、情報伝達は電話やラジオが目新しい所だろうか。
「私はこれをいただきますね」
　一方、華楠は雑誌を卸したギャングに紹介された店……をあえて外して、『暖房器具』や『加熱用調理器具』をあるだけ購入する。
（「私たちは灯油や木炭も商品とする予定ですし、現地で実際に使われてる、それらを燃料とする道具も確認しておいた方が良いかと」）
　案外、オーバーテクノロジーな品かもしれないと期待ながら、見た目は普通の薪ストーブや石油ストーブを持ち帰る。
（「お代は偽札ですからね。懇意にしてる人たちを泣かすのは少し気が引けますし」）
　それに、作戦を次の段階に進めるためには、ワイズガイに近い組織へ偽札を送りつけるほうが手っ取り早いはずだ。
「ふっふーん、我ながら自信作だわ。これを買わない殿方なんていないんじゃない？」
　一方のライラは、自分のバストアップが増刷されるたび、争うように買われていく様子を満足そうに見つめ、
「いろんな物を買い漁りましょう！」
　とにかく目に付く物を片っ端から買い漁っていく。
「これも出来が良いわね……」
　北米の中では小規模な市場だと思われるアラスカ。
　そんな土地でも、この時代にしては作りが精工すぎる工業製品がたくさん売られているようだ。
「これ……曲馬用の鞍？」
　そんな中、彼女が見つけたのはサーカスなどで馬に乗って行う曲芸のために使われる鞍。
「これ、私の私物にして良い？　だめ？　どうしても？」
　どんな乗り心地なのか純粋に興味があるライラは、これを私物にしようと試みるが、仲間たちに止められてしょんぼりするのだった。

「ふふふ。がっぽがーっぽなの」
　雑誌がとぶように売れ、懐が少し温かい人には関連グッズも売れ。
　グラビアアイドルたちについたファンがお金を落とす場所も好調だ。
「……これで、マリア達の事務所はギャングたちと一緒に大きくなるの」
　早速事務所に届き始めたおたからプレゼントのはがきに目を通すマリアラーラは、
「明日は事務所で握手会。これで更にファンとお金があふれるはず」
　この世の春を謳歌する敏腕プロデューサーの如く笑みを浮かべる。
「…………そうなったら、強いギャングは黙っていないの」
　自分たちの縄張りに突如現れた新興勢力。
　市場を荒らすのであれば、必ず暴力に打って出るだろう。
「そのためにディアボロスの事務所の住所もはっきり書いたから……そろそろかな？」
　握手会のような目立つ場で支持を広げられると手がつけられなくなる。
　……とすれば、襲撃するなら今日しかない。
「ドンドンドン。こんばんわ。雑誌を読んで……いえ、読めないけれどとにかくお邪魔します」
　その予想通り、事務所の入口に招かれざる殺し屋たちが襲来するのだった。






●事務所へかちこみ？
「……ビジネスマナーがなっていないの」
　小さな体をなめられないよう、黒スーツにサングラスで武装するマリアラーラ・シルヴァ（コキュバス・g02935）は、押しかけてきた改造兵『アルケーの目』たちを冷めた目で見つめる。
「ビジネスシーンでのノックは４回だよ？」
　そして、彼らが何かを言うか行動する前に、先手を取って言葉を発し、
「それに「お入りください」も待たず「失礼します」も無い。そもそも敬語も怪しいし……真剣さが感じられないの」
　事務所に用事があって入ろうとする人の態度ではないと厳しく叱責した。
（「来るのが分かってるんだから、準備は万端なの」）
　そう、今やこの事務所はマリアラーラの作り出した強力な固有学会の影響下にある。
　明日の握手会でアイドル達につっかかってけちょんけちょんにされる役の選定のための学会が、ワイズマンたちをエキストラ候補者に仕立て上げてしまったのだ。
「雑誌が読めないという事は、履歴書も書いてないの？」
「……」
「特技は？　みんな同じ顔で個性がないのはちょっと……」
　そうして始まった怒濤の圧迫面接に、アルケーの目たちは何も言い返せずにだんまりしてしまう。
　だが、会場の雰囲気に慣れてくると、
（「別に、黙って面接受ける必要ないよね？」）
　彼らは正気を取り戻し、面接と言いながら罵詈雑言と変わらない言葉でただ精神攻撃をしているだけのマリアラーラを力付くでなんとかしようと殺気を強める。
「それでは面接は終了いたします。合否に関しては（中略）ご活躍をお祈り申し上げますなの」
　だが、その気配を敏感に察知したマリアラーラは面接を切り上げ、適当に理由をつけてお祈りすると事務所の扉を開け、追い出してしまう。
　バタン！
　そして、扉を閉めてお帰りいただくのだった。

●事務所へかちこみ！
　バタン！
「……わたしたちは面接受けに来たわけじゃないよ！」
　次の瞬間、閉じられた扉は力強く開かれ、再びアルケーの目たちが事務所に押しかけてくる。
「来たわね、飛んで火に入るサマーバグ！」
　しかしそこに居たのは、小憎たらしい面接官ではなく、腕自慢の用心棒……風の、宝心・ライラ（笑顔の大サーカス・g01071）。
「……大手のギャングからの殺し屋たちが来たようですが、返り討ちにしてあげますよ！」
　そして、自らの周囲に雷の術によるマイクロ波を纏った音羽・華楠（赫雷の荼枳尼天女・g02883）だった。
「あなた達はお呼びじゃないの。うちのシマ拡大計画の邪魔はさせないわ」
　自分たちが外に出ていた一瞬の間に、こうも事務所の雰囲気が変わるのか。
　目を見開いて戸惑う彼らに、ライラはそれまでの険しい顔から一転。営業用の笑顔を見せて、
「よってらっしゃい見てらっしゃい！　笑顔の握手会のチケットでーす！」
　明日行われる握手会の入場券をばら撒いた。
「！？」
　攻撃かと身構えたアルケーの目たちだが、入場券はただの紙であり、ぺたりと自分たちの服に張り付いただけだった。
「半券と一緒に魂ももぎって、握手会より一足お先に骨抜きにしてあげるわ！」
　だが、ライラが彼らの服についた入場券の半券を次々ともぎり、
「うっ」
「あ……」
「な、何が……！」
　その身も心も骨抜きにしてしまう。
「私の分も残しておいてくださいね？」
　一方、雷のパラドクスを操るアルケーの目に対抗意識を燃やす華楠はやる気に満ち溢れており、
「激しい大いなる怒りの姿をされる不動明王よ。迷いを打ち砕き給え、障りを除き給え、所願を成就せしめ給え……！　急急如律令！！　《雷幻想・煉獄》」
　マイクロ波を周囲に放ち、敵周辺の水分子を振動させ、その摩擦で灼熱を生み出す。
（「同じ雷使いとして絶対に負けるものか！」）
　という、彼女の強い思いが煉獄を苛烈なものに変え、
「わわっ！」
　背面より展開した自在に動くケーブルに雷をまとわせ、振り回して華楠を狙っていたアルケーの目は、みずからが作った雷が暴走して、華楠のパラドクスの熱に取り込まれていくことに動揺する。
「見た目がか弱い女性ばかりで、始末は容易いと思ってましたか？」
　なにせ雑誌のグラビアを飾るような美女揃いだ。
　ディアボロスといっても戦力的には大したことはないのでは？　と油断していたのではないかと、華楠は笑みを浮かべ、
「お生憎様です。むしろ戦闘こそ本業ですよ！」
　ライラのパラドクスで骨抜きになり、天国に登るような心地を味わっている敵とは対照的に、
「『綺麗な薔薇には棘がある』――その言葉の意味を噛み締めて、死になさい！！」
　雷が飛び交う煉獄。そしてその底にぽっかり開いた地獄への釜に叩き込んだ。
「目には見えませんが……なかなか激しい力を感じますね～」
　その様子を後ろから見て……はいないが感じていたらしいヘレン・ケラー。
「いずれにしても～。危険な人たちだというのはわかりました～」
　彼女はそう言うと、営業スマイルで微笑みながら、ディアボロスたちを葬らんと仕掛けてくるのだった。






●お金で買えないものもある
「これは念入りに面接しなきゃだね」
　見えていない。という言葉から○○○枠求職者かな？　と考えていたマリアラーラ・シルヴァ（コキュバス・g02935）。
「まずはこれを感じ取れるかテストするの」
　彼女がそう呟きつつ取り出したのは、雑誌につけたアンケートはがきだ。
「このおはがきは懸賞品が欲しいという欲望。雑誌やアイドルと繋がれるかもという期待。アンケートの形で発露される純粋な応援や明日を希う祈り……」
　それらは人々の気持ちが籠った声。受け取る側のマリアラーラにとっては貴重な「お金のなる木」だ。
「そうですね～。何も感じませんが、とりあえず反応を見ましょうか～」
　しかし、物に宿った情念を明確に感じることは難しいようで、ヘレン・ケラーは専用ドローン＜サリヴァン＞を頭上に掲げると、
「生身の心であれば、これで破壊しますね～。壊れなければ、それがおはがきなのでしょう～」
　脳を灼き、精神を壊す音波を周囲に撒き散らした。
「んー、それってあなただけの思い込みなの」
　割れるような痛みで頭が苦痛に染まりつつも、マリアラーラは出来る限り平然を装って言葉を返し、
「目が見えないベーダにも分かるよう、パラドクスでデータ化したおはがき達を突きつけてあげれば気付くんじゃないかな？」
　経済で吸い上げていた人々の感情を、それ以外の娯楽や偶像で吸い上げることで、お金の価値を貶める。
　そんなアイデアをヘレン・ケラーの脳裏に叩き込みながら、我慢比べに入るのだった。
「……サリヴァン先生がドローンになってる！？」
　そんなヘレン・ケラーの武器に吃驚しながら反応する宝心・ライラ（笑顔の大サーカス・g01071）。
「史実のヘレン・ケラーとサリヴァン先生に対する冒涜がすごいことになってる！　許せないわコーサ・ノストラ！」
　彼女は最終人類史に残される２人の奇跡とも言える物語を汚された気がして、彼女に向けて怒りを顕わにした。
「あなたが音波で来るのなら、私も音波で応戦よ」
　ライラは煮えたぎる感情を笑顔の魔力に変え、指先から繰り出される誘惑のリフレインで周囲の音波に干渉する。
「でも、これじゃああなたには届かないわ」
　視覚も聴覚も失いつつ、力強く生きた偉人であるヘレン・ケラー。
「その分、他の感覚は鋭くなっているはずよ」
　そこでライラは史実の彼女がコミュニケーションの頼りにした『触覚』を乱すため、バンジョー型の剣・ハイファイブを緩急つけて奏で、衝撃波で物理的に弾き飛ばそうとする。
「！！」
　それまでの誘惑する旋律には反応しなかったヘレン・ケラーは明らかに嫌な顔をして、
「大人しくしてください～」
　専用ドローン＜サリヴァン＞の振動を激しくして、ライラの動きを無理やり止めようと試みた。

「……いえ、所詮は歴史侵略者。史実の本当の人物から名を奪っただけの存在」
　激しさを増す敵との戦いの中、音羽・華楠（赫雷の荼枳尼天女・g02883）は、
「そうは解ってるんですが――」
　どうしても口にしなくてはいられない激情が体の中を渦巻いていた。
「……ヘレン・ケラーがギャングの殺し屋とか、世も末過ぎるでしょう！」
　ライラ同様、その物語を良く知る華楠にとっても、今のヘレン・ケラー。そしてサリヴァン先生を認めることは出来ないのだ。
「本物のヘレン・ケラーの為にも、しっかり始末を付けますよ！」
　そう叫びつつ、彼女の動きを俯瞰して、仲間との間合いを巧妙に取りながら攻撃するチャンスを伺う華楠。
「！？」
　すると、ヘレン・ケラーの周囲からバチバチと電撃のようなものが飛び、
「あなたも、電撃のパラドクスを持つんですね」
　華楠は先程のアルケーの目と戦った時同様、雷使いとして負けられない思いを湧き上がらせる。
「……いえ、ここは冷静に行きましょう」
　だが、今回は敢えて雷と雷で勝負するのではなく、試したい大技を繰り出すことで一気に勝負を決めようと陰陽六合符に力をこめた。
「獅子宮、女宮、秤宮、蠍宮、弓宮、磨羯宮、瓶宮、魚宮、羊宮、牛宮、夫婦宮、蟹宮――黄道巡りて、星よ、怒槌と成れ！！」
　そして、占星術によって捕捉した鉄隕石を雷術による超磁力で誘導し、
「派手過ぎて、野次馬を集めてしまったらご容赦を！」
　――《雷幻想・墜星》！！
　華楠の叫びとともに降り注ぐのは、隕石。
「術師の浪漫、隕石落としです……存分に味わって下さいな！」
「ああぁぁぁぁっ！！」
　ギャングで経済を牛耳り、お金で感情を支配すれば安泰と思っていたヘレン・ケラー。
　だが、お金ではどうすることも出来ない宇宙からの一撃に苦悶させられてしまう。
「進化を止めたベーダには、ビジネスシーンから退場してもらうね」
　マリアラーラはアイドルや隕石……回り始めた新機軸を見せつけることで経済の進化をでっち上げ、お金を失う未来を辛辣に宣言し、崩れ落ちそうな彼女を蹴落とした。
「あなたにどこまで五感があるかは知らないけど、私の幸福の旋律はきっとあなたにも届くはず！」
　その一瞬の隙を突いたライラは、ハイファイブをヘレン・ケラーの体の中に突き立てて、
「これが喜びの『音楽』！　笑顔あふれる世界へいってらっしゃいませ！」
　その旋律を直接体内に流し込み、触覚で視覚と聴覚を補う以上の情報量で誘惑の世界にいざなう。
「ああああっ！」
　未知の感覚に触れた彼女は恍惚とした表情で声を上げ、
「拝金主義に囚われたアメリカにお金じゃ買えないもーっと素敵な物を届ける。それがディアボロス株式会社の社訓よ！　こんな事で止まったりしないんだから！」
　そんなライラの言葉に抱かれながら、幸せな世界へと旅立つのだった。
「陰陽師として、あなたの運命の星はもう見えません」
　その先で何が起こるかは、華楠にもわからない。
「機会があれば、あなたの電撃とも力比べをしてみたかったですが――今宵は終幕です」
　だが、今後また現れるであろうヘレン・ケラーの名を奪った存在との再会に、彼女は対抗心を燃やし続け、
「それじゃマリアは握手会の準備に戻るねー」
　という、マリアラーラの言葉にそれまだ続けるんですか？　という顔をするのだった。

最終結果:成功
完成日	2025年03月24日