秘密のリンゴを夜に隠して(作者 秋月諒
11


#最終人類史(新宿島)  #💝最終人類史のバレンタイン2025  #バレンタイン2025  #〜25日朝に届く分まで 

●旅のカラスと夜の帳
 それは星の綺麗な夜のことでした。
 キラキラと光るお星さまと共に、ゆっくりと山の向こうから顔を見せようとした月を前に、旅のカラスが、その翼を広げて立って見せたのです。
「なにをしているんだい? 旅のカラス。それでは、月がみえないじゃないか」
 クロツグミは言います。
 夜更かしのクロツグミは月を眺めて眠るのが好きだったのです。
「ふん、ボクだって月が嫌いなわけじゃない。けれど知っているかね? 月の無い夜は、秘密の願い事にぴったりなのさ!」
 クロツグミたちの問いかけに、旅のカラスは「ひみつだ!」と羽根をばさばさとさせて、街の中で一番大きな家の屋根から追い払いました。
「……そうさ、願い事は秘密で無ければいけない。それが、二人の願い事であるのならば。夜の帷は、ふたりを隠すにはぴったりなのだからな」
 だからこそ、とカラスはぴしり、とその羽根で登りかけた月を指差しました。
「今日はあの果樹園を照らすのは諦めてもらおう。このボクの翼が、君の光から二人を隠して、今日の夜を星だけのものにするのだからな!」
 そうして恋する二人が旅立つのを、旅のせんぱいたるこのボクが見送るのだ。あの子たちは、約束のリンゴを手にしたのだから。
『最初は、どこに行こうか。君と一緒なら、どこにだって行ける』
 さる騎士が手を取る姿を旅のカラスは見送りました。それはそれは言いたいことは山のようにありましたが、果樹園の娘が選んだ相手でしたから、カラスはひとまず黙っててやることにしたのです。
『いっぱい見たいところはあるけど……でも、どこに連れて行きたい?』
 旅するカラスは二人の幸せを願って、月を隠して。みんなが星に願う夜を作ったのですから。

●星の夜と秘密のリンゴ
 ——そんな物語のある街には、リンゴを模した小さなチョコレートが売られている。この季節にだけ、この街唯一のショコラティエが出すパート・ド・フリュイをチョコレートで包んだ品だ。それは、特別な日に贈るプレゼントであり——時に、秘密の約束をする時に贈るものでもある。
 あの旅のカラスの物語は、この町にやってきた作家が聞いた話が元になっているという。
 だから、誰もがこの町で——月の無い夜に、リンゴの形をしたチョコレートを贈るのだと。
「……本当に、少しばかりおばあさんが昔話をしただけだったのよ。わたしも、あの人も、物語の娘さんのようには踏み込めなかったから」
 リンゴのチョコレートを作るショコラティエの女性はそう言った。金色の髪は年を経て、白金に近づき、遠い日の恋の話を店の中に置かれたカラスのぬいぐるみに触れた。
「踏み込んでいたら、何か変わったんじゃ無いかって。そう思いながら、あの人の好きだったチョコレートを作っていただけなのだけれど……ふふ、こんなにいろんなの人に聞いて貰えたのだからお土産話を沢山もっていけそうだわ」
 作家の人に頼んだのはたったひとつ。
 あの日踏み込めなかった二人の代わりに、物語の中では二人が旅に出れるように。大好きなチョコレートと一緒に。

●秘密のリンゴを夜に隠して
「フランスの南部の町に、旅するカラスという物語があるそうです」
 そう話を始めたのは、セド・ファジュル(人間の風塵魔術師・g03577)であった。
「恋する二人のために、旅するカラスが果樹園に差す月明かりを隠すために翼を広げるという話なのだそうですが……、この町は、元々、リンゴを扱う農家が多い土地だそうです」
 その街で作られているのが、パート・ド・フリュイをチョコレートで包んだものだ。小さなリンゴの形に作ったチョコレートを、物語にあるリンゴにたとえて、夜の町で大切な相手に渡すという。
「バレンタインも特別な力があります」
 多くのディアボロスや住民達が、最終人類史のお祭りを楽しむ事で、最終人類史の力が高まり、ディヴィジョンの排斥力を弱められたのだ。
「折角のバレンタインということですし、良ければ、旅のカラスの物語がある町に遊びに行きませんか?」

 町では『リンゴのチョコレート』作りの体験ができる。
「町の特産であるリンゴを使ったピューレで作ったパート・ド・フリュイをリンゴの形に成形して、チョコレートでコーティングしてつくるそうです」
 リンゴの形といっても、その大きさは葡萄の実ほどだ。ジャンドゥーヤとビターなチョコレートや、フルーツの入ったチョコレートでコーティングして作るのだという。
「会場は、町のショコラティエの方が用意してくださいました。旅するカラスの絵が描かれたテントが、目印です」
 仕上がれば、夜を待ってチョコレートを渡すこともできるだろう。
「この町では、月の無い夜に……新月の夜に願い事をするそうです。星に願いを届けるために」
 元々、星がよく見える土地なのだそうだ。
「これまで星は多くの人々の願いや秘密を聞いてきたのでしょう」
 思いを伝えるのも、自分の中の覚悟を確かなものにするために星を眺めるのも良いだろう。
「バレンタインにかける想いは、何であっても良いのですから」
 夜に輝く星々と——そして、チョコレートが共にいるはずだ。
「貴方はどこに行きたいのか。
 心の赴くままでも、届けられぬ先でも。今宵は、どんな秘密も思いも、旅するカラスが隠してくれるでしょうから」
 小さく笑って、セドはディアボロスたちを見た。
「では少し、遊びにいきませんか? 旅するカラスの物語が残る町へ。秘密のリンゴとチョコレートの夜を過ごしに」

「——さて、会場作りは終わったな? リンゴの準備も問題なし、天幕も出来上がって……って、アデルさんまでそんな重いもん持たなくなって!」
 アデル、と呼ばれたのは長い髪を結い上げたショコラティエの女性だった。白金の髪をピン、と弾いてアデルは笑った。
「何言ってるの、お客さんがこの町にチョコを作りに来るんだから。私が一番、あれこれ指示を出したくなっちゃうのよ」
 おばあさんだから、あまり言わないようにしているけどね。とウインクをひとつして、アデルは賑やかな町を見た。
「ディアボロスの皆さんも、この町のリンゴとチョコを気に入ってくれるといいわね」
「そりゃ……大丈夫だっていけるいける! 旅するカラスの話だって、けっこう好きな人いるしさ、チョコは美味しいし……」
 きっと、星に願うには良い日になるさ。
 そう言って花屋の店主は笑みを見せた。
「果樹園は開放されてるんだろう? リンゴの木の下で、チョコを渡す人もいるだろうし……何より、星も綺麗なはずだからさ」
「そうね。とっておきのチョコレートと一緒にお出迎えしなきゃ」
 素敵なバレンタインになるように。


→クリア済み選択肢の詳細を見る


●残留効果

 残留効果は、このシナリオに参加する全てのディアボロスが活用できます。
効果1
効果LV
解説
【傀儡】
1
周囲に、ディアボロスのみが操作できる傀儡の糸を出現させる。この糸を操作する事で「効果LV×1体」の通常の生物の体を操ることが出来る。
【平穏結界】
1
ディアボロスから「効果LV×30m半径内」の空間が、外から把握されにくい空間に変化する。空間外から中の異常に気付く確率が「効果LV1ごとに半減」する。
【修復加速】
1
周囲が、破壊された建造物や物品の修復が容易に行える世界に変わる。修復に必要な時間が「効果LV1ごとに半減」する。
【植物活性】
1
周囲が、ディアボロスが指定した通常の植物が「効果LV×20倍」の速度で成長し、成長に光や水、栄養を必要としない世界に変わる。
【口福の伝道者】
2
周囲が、ディアボロスが食事を摂ると、同じ食事が食器と共に最大「効果LV×400人前」まで出現する世界に変わる。
【通信障害】
1
ディアボロスから「効果LV×1,800m半径内」が、ディアボロスの望まない通信(送受信)及びアルタン・ウルク個体間の遠距離情報伝達が不可能な世界に変わる。
【アイテムポケット】
1
周囲が、ディアボロスが2m×2m×2mまでの物体を収納できる「小さなポケット」を、「効果LV個」だけ所持できる世界に変わる。
【コウモリ変身】
1
周囲が、ディアボロスが小型のコウモリに変身できる世界に変わる。変身したコウモリは最高時速「効果LV×50km」で飛行できるが、変身中はパラドクスは使用できない。
【防衛ライン】
1
戦場が、ディアボロスが地面や床に幅10cm、長さ「効果LV×10m」の白い直線を出現させられる世界に変わる。敵はこの直線を突破できず、上空を飛び越える場合、最低「効果LV」分を要する。直線は戦場で最初に出現した1本のみ有効。

効果2

【能力値アップ】LV2 / 【ガードアップ】LV1 / 【凌駕率アップ】LV2 / 【反撃アップ】LV1 / 【先行率アップ】LV1 / 【ドレイン】LV1 / 【アヴォイド】LV1 / 【グロリアス】LV1

●マスターより

秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしく御願い致します。

パート・ド・フリュイが好きです。

旅するカラスの物語のある町で、リンゴの形をしたチョコレートを作ったり、夜の町でチョコレートを渡したりできます。

●作れるもの
リンゴの形をしたパート・ド・フリュイをチョコレートでコーティングしたもの。
✓葡萄一粒くらいの大きさです
✓二層のチョコでコーティングします。

●作る場所
 町の広場に作られた大きなドームテント
 作業に必要なものは全て揃っています

●プレイングについて
①チョコレート作成メイン
→場所:日中のドームテント

②チョコレートを渡す・星を眺める、願い事をする
→場所:夜の果樹園。星が綺麗だよ。

どちらかを指定してください。


●プレイングについて
先着順ではありません。16日くらいから確認します。
また1日に沢山ご参加があった場合は、内容にかかわらずキャパの関係で採用の打率が下がる場合がございます。
受付終了などについて、詳細はマスターページをご確認ください。

●旅するカラスの物語について
 町にやってきたある作家が、町の人人から色んな話を聞いて作り上げた物語。スランプ解消できたらしい。

●ショコラティエ「アデル」
 ショコラティエのおばあさん。
 旅のカラスの物語のひとつのモデルになった。町を出ること無く、大切な人が好きだったリンゴの形をしたチョコレートを完成させ、ショコラティエになった。

★あわせプレについて
二人まで

★2人以上の参加(併せプレ)について
 迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。日程は揃えて頂けると幸いです。
 また、片方だけにお名前などがある場合は、諸々判断が付かないため事故防止でお返ししています。

★その他
 特定の相手にプレゼントを渡す、デートするという場合は「両方のディアボロスが参加している必要』があります。

*未成年の飲酒、喫煙、他迷惑行為、周りの迷惑になる行為、公序良俗に反する行為などは採用しません。ご容赦下さい。

*また、設定上、どうしても採用が難しい行動(サーヴァント関係)の場合、お返ししています。

また、お声がけがあれば、セド・ファジュル、シーア・フィティア、セヴェーロ・コンティが顔を見せます。
特になければ出てきません(お気になさらずで)

それでは、夜の帷が落ちる星の町にて
チョコレートと共にお待ちしております。
74

このシナリオは完結しました。



発言期間は終了しました。


リプレイ


●秘密の夜と晴れた昼間
 小さなリンゴと、夜に輝く星々はどれだけの秘密と願い事を聞いてきたのだろう。
 冷えた夜の風は雲を散らし、月明かりの無い夜は暗く——けれど、願いを星に告げるにもぴったりの夜だ。
 リンゴの形をしたチョコに唇を寄せて、願いを紡ぐのだろうか。秘密を交わすのだろうか——それとも、覚悟をチョコに見守ってもらうのだろうか。
 どちらにしろ、今日という日は晴れ渡った空の下から始まる。町の広場にはドーム上の大きなテントが張られていた。中には調理用のキッチンが作られ、町の特産品で作られたリンゴのジュレが用意されている。料理が苦手なひとでも、作り慣れない人でもジュレから作るのなら上手くいくはずだ。
「あら、苦手な方でも大丈夫よ。パート・ド・フリュイは一緒に作りましょう?」
 誰かの手伝いが必要ならば、ショコラティエも一緒に手伝ってくれる。菓子作りという一点で言えば、シーアやセド、セヴェーロも憶えがあるようだ。必要なら、手伝わせるのも良いだろう。

 今日はバレンタイン。
 旅するカラスが広げた翼で月の無い夜。
 リンゴの形にしたパート・ド・フリュイをチョコレートで包んで。秘密を甘くつつんだチョコと一緒に——さぁ、どう過ごそうか?



-------------------------------------------------------------------✂

プレイング確認:2月16日〜
他はマスターより、マスターページをご確認ください。

-------------------------------------------------------------------✂
八上・霞
ジェームズ(g10136)と一緒に【2】!

りんごの形のチョコレート。作るの楽しかったね~。小さくて可愛かったし。
美味しかった?ふふ、よかった~。

綺麗だね、星。
月はないみたいだけど、その分かな、いつもよりきらきらして綺麗。
ジェームズはどんな顔してるかなって、ちょっと様子を見たり。
うーん、えっと、君、すぐ月の話するから、月が好きなのかなって。
待って、説明しないで、恥ずかしいから。

……あのね、ジェームズ。前に、私と一緒にいたいって言ってくれたじゃない?
ちゃんとお返事してなかったかも、って思って。
……私も、君と一緒にいたい。いい?
え、う、うん。
(ぎゅっと抱きしめられる)
……あったか……。
ぎゅーっと抱きしめ返す。
……え、えと、うん。
(唇に触れたあたたかさにへにゃりと微笑む)

ね、ジェームズ、私、君のこと幸せに出来るかな?
ふふ、よかった。
……うん。
じゃあ、もうちょっと、こうしてたい。


※アドリブ歓迎


ジェームズ・クロサワ
霞(g00118)と【2】に。

りんごのチョコレート、美味かった。
作ってすぐ渡すもんなのかと少し思ったが、まあ、どうせ貰うものだしな……。

空を見上げる。新月の夜だけあって、月はない。
星に願いか……。
……どうした?
……まあ、嫌いなわけではないが。見えなくて残念、ほど好きなわけでもない。
言葉の綾というか……月はひとつしかないから唯一無二とかいうか……。
むう。

……ん。
……霞。
抱きしめてもいいか?
(ぎゅっと抱きしめる)
小さい……柔らかい……。大事に抱きしめる。
抱きしめ返されて、そっと髪と背中を撫でる。
霞。キスしてもいいか?
了承を得てから、唇に触れるだけの口付けひとつ。
今はまだ、これくらいにしておく。

……もう幸せにしているよ、お前は。
お前のことも、俺が一番幸せにしてやるから、一緒に来い。
もうちょっとと言わずとも、いつでも、いつまででも。


※アドリブ歓迎


●enamored of you
 月明かりの遠い夜だった。夜の暗闇に慣れた瞳は、一歩、二歩とも八上・霞(閃光・g00118)を前に進ませる。木の根に脚を引っかけるような年頃でも無く――いや、ちょっとひっかかりそうになって、後ろを歩いてくるひとにばれないかな、と思ったりもしたが――夜の道は、兼々平穏だった。
『このままうろちょろして、持ち上げて運ばれるのとどっちが良い』
『……普通に歩くことかなー、なんてなーって……』
 見合うこと三秒。
 どっち、の割に片方しか出て無い案とか協議の結果、安全に歩くのが答えになり、辿り着いたのはこの星のよく見える場所だった。夜の冷えた空気を目一杯に吸い込んで、ふぅ、と霞は息を零す。
「りんごの形のチョコレート。作るの楽しかったね~。小さくて可愛かったし」
 ぽんぽん、と霞が芝生を叩くより先にジェームズ・クロサワ(遺薫・g10136)が上着を芝の上にしいていた。
「……うん?」
「ん」
 座れ、ということか。おぉ、なんて揶揄うような頃は過ぎて、何と無く気恥ずかしさが身を灼く。大切にされているのだ、と。そう思う。
「りんごのチョコレート、美味かった」
 ふいにジェームズの声が、耳に届いた。傍らを見れば、赤い瞳に出会う。味を思い出しているのか、ふ、と僅かに綻んだ目元に霞は笑みを零した。
「美味しかった? ふふ、よかった~」
「作ってすぐ渡すもんなのかと少し思ったが、まあ、どうせ貰うものだしな……」
 小さく呟き落とされた言葉に、ふ、と霞が吹き出すようにして笑った。
「綺麗だね、星」
 吐息ひとつ、零すようにして霞は笑った。吹き抜ける夜の風に髪を揺らす侭、空を見上げる。
「……」
 月の無い夜空は深い藍に染まっていた。何処までも深く、澄んだ空に星々が輝いている。星座のひとつひとつ、今なら辿って見れそうな輝きに霞は、そう、と手を伸ばした。
「月はないみたいだけど、その分かな、いつもよりきらきらして綺麗」
 ひとつ、ふたつ。星を辿って、ふ、と霞は笑う。柔く落とした笑みひとつ、ふいに傍らの彼が気になったのは吹く風がその瞳を隠したからだろうか。
「星に願いか……」
「……」
 揺れる風と共に届いた言葉に、ちらり、とジェームズを見る。どんな顔をしてるのだろうかと、ほんの少し伺い見るだけのつもりが――……。
「……どうした?」
「うーん、えっと、君、すぐ月の話するから、月が好きなのかなって」
 膝を抱くようにして座って、霞は顔を上げてみせた。嘘じゃ無い。吹き抜ける風に、そっと髪を押さえながら、すぅ、と息を吸えば、少しばかりジェームズの吐く息が揺れた。
「……まあ、嫌いなわけではないが。見えなくて残念、ほど好きなわけでもない」
「そうなんだ」
 こてり、と首を傾ぐ。これは意外、と舌の上に、言葉を溶かしていれば、ジェームズがひとつ頷いた。
「あぁ、言葉の綾というか……月はひとつしかないから唯一無二とかいうか……」
「待って、説明しないで、恥ずかしいから」
 言わずとも、その先は分かる。
 か、と熱くなる頬を押さえる前に、霞はジェームズの口元を押さえるように手を伸ばした。むう、と眉を寄せて見せたひとが、霞の手を取る。手遊びのように指先で触れて、そうして、そのまま離れていった指先を霞は見る。
「……あのね、ジェームズ。前に、私と一緒にいたいって言ってくれたじゃない?」
 抱えたままの膝を崩す。傍らのひとに向き合うようにして、霞は真っ直ぐにジェームズを見た。
「ちゃんとお返事してなかったかも、って思って」
 薄く唇をひらく。二度、三度、息を吸うのにジェームズは何も言わずに待っていた。
『一緒にいよう、ずっと』
 月明かりの差し込む街のことだった。あの日、言われた言葉を霞は覚えている。あの日だけではなく、ずっと――全部を。
『多分、どっちかが死ぬまで離してやれないと思うが、許せよ』
『……うーん? 私もうしばらく死ぬ予定はないんだけど……。あと、ジェームズのことも、死なないように見張ってるから!』
 あの日、照れ隠しに埋めた顔を今は上げる。真っ直ぐに霞はジェームズを見た。
「……私も、君と一緒にいたい。いい?」
 月明かりの無い夜。暗闇に慣れた目でも、霞の瞳に映っているのはジェームズだけだった。木々のざわめきが遠い。
「……ん」
 赤い瞳が、僅かに伏せられる。小さく零された息は、安堵とも微笑とも似ていた。ただ、柔く霞の元に届いた音は、やがて「……霞」と名前を呼ぶものに変わる。
「抱きしめてもいいか?」
「え、う、うん」
 ぱち、と瞬いた後に霞は頷いた。ほんの少し緊張するような、そんな気持ちにジェームズの笑い声が耳に届く。ふ、と小さな息を零すようにして、肩にぽん、と触れた手が、ゆっくりと背を滑っていく。そうして、ぎゅ、と抱きしめられた。
(「……あったか……」)
 抱きしめられるまま、肩口に頭を置いて。大切だと、伝えてくれる腕を、彼の体温を思う。
「……」
 その熱の中にいたのはジェームズも同じだった。
(「小さい……柔らかい……」)
 大事に、霞を抱きしめる。あの時、空を眺めていた時に思ったのは星にかける願いのことだった。月の無い夜に。あの時、月の下で告げた言葉への応えがやってきた。
(「……霞」)
 死ぬまで離してやれないと、あの時ジェームズは言った。許せと言った、ひどい男の言い分だと思いながら、霞が拒絶することは無いだろうとも思っていたのかもしれない。ずるい言い分に、それでも笑った彼女を覚えている。
(「結局、全部……」)
 追い掛けた日も、去年のバレンタインも。愛情を向けられることが不慣れな彼女のことも、思い出しながら、腕の中、大切に抱きしめれば、ふいに、抱きしめ返された。
「――」
 ぎゅーっと、背に回された腕があたたかい。ふ、と笑って、ジェームズはそっと霞の髪を撫でた。指先で梳くようにして、そう、と撫でて、そのまま背を撫でる。
「霞。キスしてもいいか?」
「……え、えと」
 腕の中、顔を上げた霞の瞳が揺れる。二度、三度と瞬いた瞳の黒が、ひたりとジェームズを見た。
「うん」
 小さく響いた了承に、ジェームズは、そう、と身を寄せた。唇に触れるだけの口付けをひとつ、落とす。頬に触れた髪を払うように、指先でへにゃりと微笑む彼女の、頬に触れた。
「今はまだ、これくらいにしておく」
 頬を撫でる指先に、擽ったそうに霞が笑う。一度、猫のように頬をすり寄せるようにして、顔を上げた。
「ね、ジェームズ、私、君のこと幸せに出来るかな?」
「……もう幸せにしているよ、お前は」
 この胸に灯る想いを、手放せぬ想いをジェームズは知っている。この腕の中、大切に抱きしめた霞との日々を。
「ふふ、よかった」
「お前のことも、俺が一番幸せにしてやるから、一緒に来い」
 腕の中、視線を交わす。いつの間にか、風は止んでいた。月の無い果樹園で、二人の約束を見守るのは星々だけ。
「……うん」
 煌めきは頬に触れずとも、その瞳に映して。小さく、頷いた霞が、ほんの少しの我が侭を唇に乗せた。
「じゃあ、もうちょっと、こうしてたい」
「もうちょっとと言わずとも、いつでも、いつまででも」
 抱きしめた腕の中で。抱きしめ合う腕の中で。
 永遠に幸せに暮らすように。
 二人は、月の無い夜を過ごした。
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【アイテムポケット】LV1が発生!
【防衛ライン】LV1が発生!
効果2【先行率アップ】LV1が発生!
【アヴォイド】LV1が発生!

天音・祈
【蝶桜】②

ありがとう、アル
紳士的だなあ、なんて
そんなところも…ああ、いや
何でもないよ!うん、本当に!

そうだね、夜空といったら月を探したくなる
新月のひかりと星のまたたき
空を見上げるきみの横顔があまりに綺麗で見惚れてしまう

カラスかあ
アルのしあわせを願うだけじゃ
僕はもう満足出来ない

しあわせになってほしいけど
誰かの手じゃなくて
僕の手でしあわせにしたいんだ
この感情に名前をつけるのが怖かった
でも、今は

ありがとう…!
僕からも
これ…貰ってくれる?
同じリンゴ型のチョコレートを差し出す
きみに渡すなら特別なものを
ゆびさきが震える
拒絶されないことを信じてはいても
心臓が飛び出そうなほどうるさくて
頬が熱い
破裂しそうだ
もちろん!食べて?

じゃ、じゃあ
僕もいただくね、アル
月明かりの下
秘め事を交わすようにチョコを齧る
甘酸っぱくておいしいね

僕たちを見守ってる夜空
月が綺麗ですね
…って言葉、知ってる?

ふふ、やっぱり知ってた?
アルは物知りだね
僕はつい最近本を読んで知ったよ

僕は、僕はね
月よりも星よりも
きみが綺麗だなって思うんだ


アルフレド・ティトリー
【蝶桜】②

林檎の木の根本にシートを敷く
どうぞ座って、祈
僕だけなら地べたでも構わないけどね
君に土を付けたくない
うん?そう?

夜空は月を探してしまいがちだけれど…
新月の方が星が良く見えるんだね

アデルさんや街のひとから聞いた物語
昔ならきっと僕はカラスに憧れた
誰かの為に私情を抑え助力し
幸せにと送り出せる人に

でも僕はもう、
『誰か』の幸せを祈るだけでは在れない
祈の隣に自分は居なくてもいいなんてとても
…全く、騎士失格だよ

――そうだ!祈
チョコを用意したんだ、貰ってくれる?
フリュイ入りのリンゴ型チョコレート
この町で、夜で大きな意味を持つから
祈に渡すのなら他にない

君からも?ありがとう!
僅か触れた指が震えていた気がして
安心して欲しくて笑む
ね、食べて良い?

んー!美味しいね!
甘酸っぱい
心が溶ける程に

月が綺麗ですね?
…うん、知ってる
僕も偶然本でね

綺麗、僕が?
今の君こそ心臓が痛くなる程綺麗なのに
その言葉を今言う理由は
嗚、もうチョコの味も分からない

…きみ、が、隣に居るからね
僕にとっては
月より星より照らしてくれるヒトだから


●ふたりのカラス
 冷えた夜の風が、果樹園を駆け抜けた。白い花が咲くにはまだ時があるのだろう。深く濃い影だけを残した林檎の園を、夜闇に漸く慣れだした瞳で歩く。
「……」
 実の所、足元までしっかりと見える程、天音・祈(櫻秘蜜言・g10105)は目が慣れている訳でも無かった。それでも、迷うことなく足を進められるのは、先を歩く彼がいたからだろう。ふわりと揺れる真珠色の髪。美しい羽根が夜の闇に不思議と煌めく。
「どうぞ座って、祈」
 ふわり、落ちてきた葉が祈の髪を撫でる前に手に取ると、アルフレド・ティトリー(湖水蝶・g00302)は林檎の木の根元にシートを敷いた。
「どうぞ座って、祈」
「ありがとう、アル」
 花が綻ぶように祈が微笑んだ。夜の闇に慣れたアルフレドの瞳に、柔らかな彼女の笑みが映る。
「僕だけなら地べたでも構わないけどね。君に土を付けたくない」
「紳士的だなあ。そんなところも……」
「――祈?」
 呟きに似た彼女の声が、揺れた。吹き抜けた風は無く、ただ、ぱっと口元、手で押さえた祈がそうっと右を見て、左を見て――そうして顔を上げる。
「ああ、いや。何でもないよ!」
 それはもう力強い祈の一言に、圧されるようにしてアルフレドは小さく首を傾いだ。
「うん? そう?」
「うん、本当に!」
 そう言うなら、そうなのだろう、とアルフレドは思った。月の無い夜では見つけられぬ白皙を染める赤には出会えぬまま。ひゅう、と風が吹いた。

「夜空は月を探してしまいがちだけれど……新月の方が星が良く見えるんだね」
 冬の風からは遠く、けれど春にはまだ少しかかる。夜の風は、ひんやりと心地良い。空では風が強く吹いたのだろう。雲一つない深い藍の世界に、満天の星空が広がっていた。
「そうだね、夜空といったら月を探したくなる」
 ほう、と傍らの彼女が息を落とした。さわ、さわと揺れる髪を抑えながら、星空を見上げて祈が、そうと指先で空を撫でる。
「……」
 ひとつ、ふたつ。星をつないで、笑う彼女を見ながら、アルフレドが思い出したのは、街のひとから聞いた物語のことだった。
「昔ならきっと僕はカラスに憧れた」
 小さく、アルフレドは呟く。
 誰かの為に私情を抑え助力し、幸せにと送り出せる人に。
(「でも僕はもう、『誰か』の幸せを祈るだけでは在れない」)
 そんなのもう、随分と分かっていた。もしも、を想像した時点で、嫌だと思ってしまったのだから。
(「祈の隣に自分は居なくてもいいなんてとても」)
 隣にいる祈を見る。淡く落ちた影が、彼女の肩に触れていた。
「……全く、騎士失格だよ」
 ほう、と息を落とす。舌の上、溶かすように紡いだ言の葉は風に揺れた。遠く、木々の揺れる音がする。
「カラスかあ」
 ふと、あの物語を思い出していたのは祈も同じだった。月の無い夜。指先に月明かりは触れる事無く――ただ、とぷり、と深い夜に触れる。
(「アルのしあわせを願うだけじゃ、僕はもう満足出来ない」)
 カラスは、恋人達のために月から二人を隠した。その幸いを遠くから願ったのだ。
「……」
 新月のひかりと星のまたたき。
 ちらり、と傍らを見れば、空を見上げるアルフレドに出会った。その横顔があまりに綺麗で、見惚れてしまう。
(「……うん、本当に」)
 幸せを願うだけじゃ、満足できなくなったんだな、と祈は思った。
(「しあわせになってほしいけど、誰かの手じゃなくて僕の手でしあわせにしたいんだ」)
 この感情に名前をつけるのが怖かった。輪郭を得た想いは、祈の中にあり続けて、だからこそ、素直に頷くことは出来なかったのだ。祈は自分という存在を理解している。でも今は――……。
「――そうだ! 祈。チョコを用意したんだ、貰ってくれる?」
「――」
 ふいに、落ちかけた意識を掬い上げるように声がした。気がつけば、美しい瞳の琥珀と出会う。差し出されたのは、綺麗な箱に入ったパート・ド・フリュイ入りのリンゴ型のチョコレートだった。

●心に抱く想いを
 ――リンゴの形をしたチョコレートが、この町で、夜で大きな意味を持つということをアルフレドは分かっていた。
(「祈に渡すのなら他にない」)
 そうして、差し出したチョコレートに、ぱっと顔を上げたのは祈だった。
「ありがとう……! 僕からも、これ……貰ってくれる?」
「君からも? ありがとう!」
 思わず笑みが零れる。騎士としては、もうちょっと落ちついた風でいたいとも思うのに。
 両の手で、大切にチョコレートの入った綺麗な箱を受けとれば、ほんの少しだけ祈の手に触れた。
「……」
 ふと、感じた違和感。僅かに触れた指が震えていた気がして、アルフレドは彼女に安心してほしくて笑みを見せた。
「祈」
 真っ直ぐに、美しい桜の瞳を見る。少しだけ覗き込むようにして。月明かりの無い夜は、頬に落とす影は無い。ただ――そう、ほんの少しだけ近い距離で、吸血姫のほんのりと染まった頬を騎士は知っていた。
「ね、食べて良い?」
「もちろん! 食べて?」
 一口、甘いリンゴを頬張ればパリ、とコーティングのチョコレートが小気味良い音を鳴らす。
「んー! 美味しいね!」
 とろり、と口の中、溶けたパート・ド・フリュイが甘酸っぱい。心が溶ける程に。
「じゃ、じゃあ。僕もいただくね、アル」
 月明かりの下、秘め事を交わすようにチョコを囓る。口の中、広がる甘さと果実に祈は顔を綻ばせた。
「甘酸っぱくておいしいね」
 チョコレートを渡したとき、拒絶されないことを信じてはいても心臓が飛び出そうなほどうるさくて。頬は熱くて、隠すこともできないまま。破裂しそうだった。
(「……けど」)
 微笑んだ彼の顔を祈は思い出す。この甘いチョコレートと一緒に。
 この町で、リンゴ型のチョコレートは特別な日に贈るプレゼントであり――秘密の証だ。
「うん」
 おいしい、ともう一度、零す声は二人で重なった。思わず吹き出すようにしてアルフレドと祈は笑った。柔く、落ちた笑みとその指先にさっき感じた震えは消えていて。ほう、と小さく、アルフレドは安堵の息を零す。
(「……良かった」)
 その不安の意味を、ただ問うてしまうのは簡単なことで。けれど、何でも暴けば良いというものでもなくて。知らず、握った拳を夜の闇に隠せば、アル、と彼女の声がした。
「月が綺麗ですね……って言葉、知ってる?」
「月が綺麗ですね?」
 心臓が、どくり、と跳ねた。青翅が僅かに揺れる。
「……うん、知ってる」
「ふふ、やっぱり知ってた? アルは物知りだね。僕はつい最近本を読んで知ったよ」
 頷いたアルフレドの横で、祈は微笑んでいた。月の無い夜を眺めて、そうして桜は此方を向く。
「僕は、僕はね。月よりも星よりも、きみが綺麗だなって思うんだ」
「綺麗、僕が?」
 それは、息を飲むほどに美しい笑みだった。ふわり、と髪が揺れる。ヴェールを抑えること無く、ただ真っ直ぐに見てくる彼女と出会う。
(「今の君こそ心臓が痛くなる程綺麗なのに」)
 その言葉を今言う理由は――嗚、もうチョコの味も分からない。
「……きみ、が、隣に居るからね」
 アルフレドはそう言って、祈を見た。大切で、手放せなくて、その隣を誰にも譲りたくない彼女を。
「僕にとっては、月より星より照らしてくれるヒトだから」
 ふたり、秘密を交わすように言の葉を紡ぐ。書物に綴られた言葉を、互いの月に添えて。星に変えて。――ただ、あなたといられるから、と。
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【コウモリ変身】LV1が発生!
【植物活性】LV1が発生!
効果2【ドレイン】LV1が発生!
【ガードアップ】LV1が発生!

アルトゥル・ペンドラゴ
【騎士と姫】 (連携アドリブ歓迎)
②夜の果樹園で

日中行われた料理体験に参加させていただいたが、非常に有意義だった
私もコリーン殿も料理の心得があったのもあり、よく出来たと思う

果樹園のベンチに腰掛け、空を仰ぐ
……空気も澄んでいるようで、これは綺麗な星が拝めそうだな
交際を始めたばかりで緊張する場面もあるが、これも時間をかけていけば変わっていくことだろう

……そうだな。こちらが作った物、口に合えば幸いだ――寒いのか? コリーン殿

暦の上では春に差し掛かる時季だが、まだ夜は冷える
(彼女に寄り添うように近付き)互いに近くにいた方が、暖は取れるだろう?
……正直、気恥ずかしさとかで体温が上がっているのは確かだし、近くに寄れば温かいはず

身を寄せ合いつつ、頂いたチョコを口に含む。――うん、美味しい
コリーン殿が作ったものを何度か頂いたが、どれも美味しいという思い出が残る
それに伴うひと時もまた、穏やかで。安らぐというのはこういうことなのだろうか

――こういう思い出が、今後刻まれていくと思うと……胸の内が暖かくなるな


コリーン・アスティレーゼ
【騎士と姫】
②夜の果樹園で

料理の心得がある二人。日中はアデル様に師事して、
パート・ド・フリュイもマスターしました。
これでお菓子作りの幅も広がりますね。

果樹園に設置されたベンチで、二人で空を眺めます。
よく晴れた冬の夜空は澄んでいて、今にも星が降って来そう。
感動もひとしおですが…… 少し寒いかも。

バレンタインデーに私から告白して付き合い始めたものの、
二人とも恋愛は初めてで、まだ緊張気味。
少し間を開けて座っているため、寒さが身に沁みます。

あ、昼間のチョコレート、交換ですね。
ええ、私のは洋酒を少し垂らしましたから、体が温まると思いますよ。
と言葉から寒さを感じているのに気づかれて。
「あ」
身体を寄せてくれるアルトゥル様の体温に身も心も温かくなるのでした。

これはアルトゥル様には内緒。
アデル様に昔の話をお聞きしました。そして私の話も。
「あなたは踏み出せたのね」
頑張るのはこれからよ、と、あの方はそう言って笑いました。

私に寄り添ってくれるアルトゥル様を私も支えたい。
これからも、ずっと。それが、私の願いです。


●二人でいるということ。あなたといること
 吹き抜ける風が、心地良く頬を撫でていく。ほう、と零す息が白く染まったのは、テントでの作業が長く続いていたからだろう。
 リンゴ型のチョコレート作り。
 パート・ド・フリュイをチョコレートで包んだ品は、この地の特別なショコラだった。
「これでお菓子作りの幅も広がりますね」
 甘い香りを思い出すように、柔らかな笑みが隣から零れた。夜の果樹園は、よく風を通す。ふわり、と揺れた金色の髪をそっと押さえたコリーン・アスティレーゼ(カーテシー・g02715)が、ちょうどこちらを向いた所だった。
「アルトゥル様」
「あぁ。私もコリーン殿も料理の心得があったのもあり、よく出来たと思う」
 非情に有意義な経験だったな、とアルトゥル・ペンドラゴ(篝火の騎士・g10746)は思う。自分も、彼女も料理の心得があった分、師として立ったアデルも教えがいがあったようで、随分と色んな種類の作り方も教えて貰ったのだ。
(「おかげで、まだ甘い香りが残っているが……」)
 結局のところ、アルトゥルもコリーンもアデルの『教え甲斐』に応えられたのだ。指先にまだ、チョコレートとリンゴの香りを残しながら、果樹園のベンチに腰掛ける。リンゴの花が咲くには、まだ季節がいるのだろう。
「……」
 月の無い夜は、大地に差し込む光も無く――まるで、冒険譚にある一節のようだ。星々だけが輝く夜。永遠に続く暗がり――けれど、今日、アルトゥルの前に広がるのは、雲一つ無い夜の空と、キラキラと輝く星と、傍らの彼女だ。
「……空気も澄んでいるようで、これは綺麗な星が拝めそうだな」
「はい。よく晴れた冬の夜空は澄んでいて、今にも星が降って来そうです」
 ほう、とコリーンが息を零した。一緒になって空を仰ぎ――そこで、ふつり、と会話が途切れる。
「……」
「……」
 交際を、始めたばかりなのだ。
 どうしたって残る緊張に、アルトゥルはひとり息を吸う。それでも、悪くは無い沈黙だと思うのは、これも時間をかけていけば変わっていくことだろう、とそう思うからだ。
「そういえば、あの時……」
 取り留めの無いことを漸く、話出したところで日中のチョコレート作りへと話が移る。ひとつ、ふたつと、手の込んだチョコレートへと話が辿り着いたところで、コリーンが、ぱ、とこちらを向いた。
「あ、昼間のチョコレート、交換ですね。ええ、私のは洋酒を少し垂らしましたから、体が温まると思いますよ」
「……そうだな。こちらが作った物、口に合えば幸いだ」
 にこり、と微笑んで差し出されたのは綺麗な箱に詰められたリンゴ型のチョコレートだった。ふわりと香る洋酒に、さすが、細かな仕事だと思って――ふと、アルトゥルは気がついた。
「――寒いのか? コリーン殿」
 体が温まると思う、と彼女は言った。思えば、暦の上では春に差し掛かる時季だが、まだ夜は冷える。
(「上着を貸しても寒いだろう。それなら……」)
 少しばかり、アルトゥルは身を浮かす。二人、座っていたベンチの間を無くすように、コリーンへと身を寄せた。
「あ」
「互いに近くにいた方が、暖は取れるだろう?」
 寄り添うようにして、アルトゥルは彼女を見た。
「――」
 ぱち、と瞬いた瞳と出会う。驚いてはいるようだが、嫌がられてはいない、と思う。多分。二人、寄り添っていれば暖かいのは確かだ。触れた肩から、じんわりと熱が溶けていく。
(「……正直、気恥ずかしさとかで体温が上がっているのは確かだし、近くに寄れば温かいはず」)
 そう、ひとは熱を帯びるのだ。
 生きている限り、生きているからこそ――寄り添って、在ることができる。
「……」
 ふ、とアルトゥルは赤い瞳を伏せ、ゆっくりと開いた。バレンタインデーに、コリーンから告げられた言葉を思い出す。恋など、自分にはあり得ないものだと思っていたのに。
「あたたかい、です。アルトゥル様」
「……あぁ、良かった」
 ほう、と落ちる息は安堵に似ていた。二人、熱を分け合うようにして今日の日に作り上げたチョコを口に含む。
「――うん、美味しい」
 コリーンが作ったものを何度か食べた事がある。どれも美味しいという思い出がアルトゥルに残っていた。
(「それに伴うひと時もまた、穏やかで。安らぐというのはこういうことなのだろうか」)
 家を離れ、出自と過去を伏せてアルトゥル・ペンドラゴは生きてきた。穏やかな時を、望むこと無く。けれど今は、あたたかな気持ちがある。
「――こういう思い出が、今後刻まれていくと思うと……胸の内が暖かくなるな」
 小さく、アルトゥルはそう呟いた。夜の風に溶けるような言の葉は、隣のコリーンには聞こえる事はないまま。
「……」
 ただ、コリーンもまた、ひとつの秘密を胸に抱いていた。
『……そう、あなたにはそんなことがあったのね』
 それはパート・ド・フリュイ作りがひと段落した時のことだった。コリーンはアデルと昔の話をしていたのだ。アデルの話を聞いて、そうして自分の話をした。全てを失った娘が、今までどうやって生きてきたのか。誰かを傷つけ傷つけられることは苦手な彼女が、それでもだが戦いに向かう強者の想いは少しだけわかる理由も。
(「自分も強くありたいと思うから」)
 この身は命を繋いで得た。ただ生きていた時から、コリーンは変わった。明日を望み、平和を願い、そうして大切に思うひとに出会った。
『あなたは踏み出せたのね』
 コリーンの話を聞いた時、アデルはそう言った。頑張るのはこれからよ、と微笑んだ人との話は、アルトゥルには内緒だ。
「……星が」
 この町の人々は、月の無い夜に星に願うという。身を寄せてくれるアルトゥルに、身も心も温かくなりながら、夜の星に願った。
(「私に寄り添ってくれるアルトゥル様を私も支えたい。これからも、ずっと」)
 それが、私の願いです。
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【平穏結界】LV1が発生!
【修復加速】LV1が発生!
効果2【グロリアス】LV1が発生!
【能力値アップ】LV1が発生!

朔・彗藍
弥尋(g08834)と②

月の無い今宵に私達だけの星を
独り占め、してるみたいで
素敵ですね
冬の空は私が一番好きな南東に耀く星
三角をなぞって辿るシリウスを指して
此処だよ、って変わらず教えて
瞬いてくれて、安心するのです

そう、ですね
秘密は知られてしまえば
知らない前には戻れない、から
其れが怖いの

ふふ、でも今はーー
カラスさんじゃない、尻尾を広げた
狐さんが隠してくれるなら

(私はね、いつか、星へと還らなきゃいけないから)

弥尋の尻尾をふわりと撫ぜて
ひみつごと
秘めるように人差し指を花唇に
今はまだ、私の精一杯

一粒一粒、丁寧に金をまぶした
小さな林檎のチョコレートを星屑の硝子匣に詰め込んで
弥尋、受け取ってくれる?

貴方の願いごと、これから先
見つかったなら届くように
いつも有難うの感謝を込めて
味には自信があるのですよう……!
星魔女からの林檎は倖せ蜜の味
たんと召し上がれっ

特大の夢だってあなたの為なら
きっと、きっと叶えてあげたい

まだもう少し見上げた星々の物語を
二人で楽しみましょう?


沓水・弥尋

彗藍(g00192)と

今宵のお供は星の魔女さん
冬空に瞬く星達の事を教えて貰うも良いかも知れない
大きなダイヤモンドを探したりとか
月隠しの星空の下どんな話が聞けるだろう

秘密ってさ、ほんとに誰にも知られたくないもの
ほんとは誰かに知ってもらいたいもの
秘密にも色々あると思うんだよね

俺は聞かれれば答えちゃうし
特別秘するような事も持ち合わせてないから
鴉と一緒で覆い隠す側かもね
羽の代わりに大きな尾をゆらり揺らして
大小なり秘め事あれば一緒に隠してしまおうか
星だけに伝える真に秘する事ならば
いつかのよう側でそっと見届けようか
なんて冗談めかし零して

--うん、これは今宵の二人の秘密
しーっ、って指立て真似事を

わ!もらっていいの?
硝子匣を受け取れば
空の星達が手のひらに降りてきたみたい
魔女の林檎には魔法が掛かってそうだけど
これはきっと美味しい幸せの魔法

星の魔女のお墨付きなら
なんだって叶っちゃいそうな気がするな
特大の願い事でも作っちゃおうか
こちらこそ、いつもありがとね、彗藍!

二人再び夜空を眺めては
星の話の続きをしようか


●夜の揺り籠に秘密を隠して
 夜の果樹園には、林檎と星々の囁きが隠されている。ひゅう、と吹く風が木々を揺らせば、遠く潮騒に似た音が二人の耳に届いた。夜闇に慣れた瞳で芝を踏み、寝っ転がってみようか、どうしようかとそんな話になったところで、また、ひゅぅ、と風が吹いた。
「わ」
「おや」
 思わず髪を押さえた魔女がひとり。白灰の耳に手を添えた妖し狐がひとり。互いの影を映す月は無くとも、夜を見通す瞳で二人笑い合いながら夜の空を見上げた。
「月の無い今宵に私達だけの星を独り占め、してるみたいで素敵ですね」
 ふふ、と柔く、朔・彗藍(ベガ・g00192)は笑みを零す。白雪の髪は揺れるがままに、ひとつ、ふたつと星をなぞり見た魔女に、沓水・弥尋(継朱鳥・g08834)は、ゆるりと笑った。
「星の魔女さん。冬空に瞬く星達の事は、知ってる?」
 芝居めいた言の葉を唇に乗せて沓水・弥尋(継朱鳥・g08834)は問う。月隠しの星空の下どんな話が聞けるだろう、と好奇心を隠さぬ瞳は夜の黒とも違う濡羽。艶やかな黒に、彗藍は笑みを零した。
「此処だよ」
 冬の空は私が一番好きな南東に耀く星。三角をなぞって辿るシリウスを彗藍は指差した。
「瞬いてくれて、安心するのです」
「あれが、シリウス……、青星。天狼だっけ」
「はい。シリウスは一番明るい星で、夜明けの前にこの星が見えると強い風が吹くと言われている地域もあるんです」
「……風」
「はい。風で……」
 ひゅう、と吹いた風が弥尋の尻尾を揺らす。今日の風は、雲を散らすだけでは満足しないのか。ぱち、と瞬いて彗藍は笑みを見せた。
「明日は、良い天気になりそうですね」
「確かに。そうみたいだ」
 ふ、と息を吐くようにして弥尋は笑うと、教えて貰ったばかりの星をなぞる。ひとつ、ひとつ、指先で辿って――ふと、この町で聞いた話を思い出した。
「秘密ってさ、ほんとに誰にも知られたくないもの、ほんとは誰かに知ってもらいたいもの。秘密にも色々あると思うんだよね」
「そう、ですね」
 弥尋の言葉に、彗藍は足を止めた。ふわり、と揺れる艶やかな髪が魔女の瞳を隠す。
「秘密は知られてしまえば知らない前には戻れない、から」
 其れが怖いの。
 それは小さく、風に溶けるような声であった。薄紫の双眸を、ただ一度だけ伏せた彗藍は吐息ひとつ零すようにして夜の空を見た。
「……」
 今宵の空に流れる星は無い。
 月明かりの無い夜の空は、星々だけが煌めく世界だ。この黒を、町の人々はカラスの羽根に喩えたのだろうか。
「俺は聞かれれば答えちゃうし、特別秘するような事も持ち合わせてないから鴉と一緒で覆い隠す側かもね」
 溶けるように消えた、最後の言の葉は弥尋の耳に届いていたのだろう。羽の代わりに大きな尾をゆらり、揺らして弥尋は囁くように、秘密ひとつ告げるようにして笑う。
「大小なり秘め事あれば一緒に隠してしまおうか」
 冗談めかして妖し狐は零す。とん、と進めた一歩。踏む影は無くとも、触れる影は足元にあって。その瞳を覗き込むことはしないまま、ただ、こてりと弥尋は首を傾ぐ。
「星だけに伝える真に秘する事ならば、いつかのよう側でそっと見届けようか」
「……」
 静かな微笑と共に届けられた言葉だった。上背のある彼の、柔らかな影に触れる。その優しさに、彗藍は吐息を零すようにして微笑んだ。
「ふふ、でも今はーーカラスさんじゃない、尻尾を広げた狐さんが隠してくれるなら」
 辿る夜の星ではなく、隣にいる弥尋を見る。ん? なんて、笑って待ってくれるひとを。
(「私はね、いつか、星へと還らなきゃいけないから」)
 内緒の言葉を胸にしまって。弥尋の尻尾をふわりと撫ぜる。
「ひみつごと」
「――うん、これは今宵の二人の秘密」
 秘めるように人差し指を花唇に。
(「今はまだ、私の精一杯」)
 しーっ、と指を立てて真似事を返す弥尋に、彗藍は、ふ、と笑みを零すと、ずっと持ってきていたひとつを取り出した。
 それは一粒一粒、丁寧に金をまぶした、小さな林檎のチョコレート。星屑の硝子匣に詰めこんだそれを、掌に載せた。
「弥尋、受け取ってくれる?」
「わ! もらっていいの?」
 思わず、そんな声が出たのは本当に綺麗な硝子匣だったのと――多分、貰えるなんて思ってもみなかったからだろう。
「空の星達が手のひらに降りてきたみたい。魔女の林檎には魔法が掛かってそうだけど……」
 これはきっと美味しい幸せの魔法だ。
 ゆるり、とふかふかの尻尾だって揺れてしまう。知らず零れる笑みと共に弥尋は彗藍を見た。キラキラと輝く、星空を背に立つ彼女を。
「貴方の願いごと、これから先見つかったなら届くように。いつも有難うの感謝を込めて」
 それと、と彗藍は、ぴしり、と指を立てた。
「味には自信があるのですよう……!
 星魔女からの林檎は倖せ蜜の味。たんと召し上がれっ」
「星の魔女のお墨付きなら、なんだって叶っちゃいそうな気がするな」
 ふは、と笑みを零して弥尋は、ぴん、と白灰の耳を立てた。
「特大の願い事でも作っちゃおうか。こちらこそ、いつもありがとね、彗藍!」
「……はい」
 星々の瞬きと共に、彗藍が出会ったのは弥尋の笑顔だった。
(「特大の夢だってあなたの為なら、きっと、きっと叶えてあげたい」)
 気がつけば、風はもう止んでいた。あるのは、ひっそりと眠る果樹園と満天の星空。煌めきのしたのは星魔女と妖し狐だけ。
「まだもう少し見上げた星々の物語を、二人で楽しみましょう?」
「うん。星の話の続きをしようか」
 そうして、星詠みの魔女の話が紡ぐ星々の話を、妖し狐はたん、と聞いたのでした。穏やかな夜と共に。
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【口福の伝道者】LV2が発生!
効果2【凌駕率アップ】LV2が発生!

水上・鏡夜


雪路(g04126)と一緒に
アドリブ歓迎

ん、本当だ
よくビルの屋上から見てるけど、かなり違うね
周りの明かりが少ないからもあるのかな
だね。ロマンチストな烏のおかげでこうしてこれたわけだし、さ
感謝しかないよ

ん、なに……ありがと
私からも、ね、ハッピーバレンタイン
距離を詰めてくる雪路の方を向いて、口に入れてくれたチョコを味わう
お返しに林檎を模したチョコレートを食べさせてあげたい、な
してもらうだけはなんか、やだから、さ

耳元で囁かれて擽ったいけど、秘密の約束を聞いて頬を染める
そ、だね。取り戻してからだけどさ
私の答えはもう決まってるから
雪路に返事を、同じように耳元へ顔を寄せて

もう少し待っていて、必ず守るから
ん、照れるね……一緒に、お願いします

ひひ、うん。二人だけの星空、だね
……ここが一番温かいや
誘ってもらえて嬉しいから
雪路の長いマフラーを一緒に巻いて星を見上げよう


左雨・雪路


鏡夜(g09629)と一緒に
アドリブ歓迎

わぁ、星が綺麗だねぇ。
月の無い夜は、秘密の願い事にぴったり、か。
なんともロマンチストな烏もいたもんだ、ね?

白く染まる息を吐き、傍らにいる鏡夜へと距離を縮めて
リンゴを模したチョコレートを渡そうかな

――――鏡夜。

一口大で丁度いい、返事をしようと開く口の中にチョコをプレゼント

ん、ハッピーバレンタイン。

お返しを貰って微笑む、口の中が甘くて幸せ

ふふ、ありがと。こういうのも嬉しい、ね。
それと……。

耳元へ顔を寄せて
秘密の約束を呟こう

取り戻してからのはなしだけど、さ。
どう、かな?

耳元で囁かれる秘密の返事に、頬が染まる

待ってなんかいないよ、一緒に叶えよう。

ひひ、秘密の約束とはいえ流石に照れます、ね。
頬が熱い、これは真っ赤になってそうだなぁ

もう少し星を見てようか。
寒いでしょ、こっちおいで。

長めのマフラー解き、一緒に入ろうとお誘いを

うん、君の傍が一番温かい。
二人だけの星空、寒いけど心地よい


●夜明から星に告げる
 さく、さくと芝を踏む音が夜の果樹園に響いていた。遊びに来る猫もいないのか。吹き抜ける風だけが、時折、ひゅう、と高く歌う。春を前にした風は、夜空の雲を散らしたのだろう。深い藍色の空は、満天の星空を見せていた。
「わぁ、星が綺麗だねぇ」
 ほう、と左雨・雪路(低血圧系忍者・g04126)が息を落とす。揺れる髪をそのままに、夜闇に慣れた瞳が空を辿っていれば、傍らで柔く音が落ちた。
「ん、本当だ。よくビルの屋上から見てるけど、かなり違うね」
 少しばかり興味深そうに、水上・鏡夜(添星・g09629)が瞳を細める。
「周りの明かりが少ないからもあるのかな」
「そうかもしれない、ね」
 フランスの気候には詳しくは無いが、月の無い深い夜で在れば幾つか憶えがある。影さえ飲み込む夜は、仕事としては良かったが――こうして、ただ大切なひとと過ごす為にいると、この闇も違って見えてくる。
「……」
 来し方を溶かすように、雪路はただ一度だけ息を吐く。ふと思い出したのは、町中で随分とみた鳥の姿だった。
「月の無い夜は、秘密の願い事にぴったり、か。なんともロマンチストな烏もいたもんだ、ね?」
 指先に風が触れた。寒くはないだろうか、とそう思いながら、少しばかり鏡夜の前に立つ。風除けくらいにはなるだろう、とそう思いながら雪路は襟巻きを上げた。
 この町には、一つの物語がある。
 どやっと両の手を広げた姿から、クロツグミたちに語る様まで。町の人々に随分と好かれているあのカラスは、愛し合う恋人達のために、月を隠して夜を招くのだ。
「だね。ロマンチストな烏のおかげでこうしてこれたわけだし、さ」
 感謝しかないよ、と鏡夜は小さく笑う。吐息ひとつ、零すようにして微笑んだ彼女の指先が夜の空を辿った。
「あぁ、見えている星はあまり変わらない……かな?」
「ん。そうだね。それと……」
 吐息を白く染めながら、雪路は傍らの彼女へと距離を縮める。サク、と芝を踏む音と共に、靴先が触れる。
「――――鏡夜」
 薄く残る影がふれ合った。ぱち、と瞬いた金色の瞳に、気だるげな顔を隠した忍びは小さく笑う。
「ん、なに……」
 問う唇が先を紡ぐより先に、リンゴの形をしたチョコレートを届けた。つやり、としたチョコの赤リンゴが鏡夜の唇に触れる。
「一口大で丁度いい」
 美味しい、よ。とそんなことを言い添えたのは、これが今日の日に作った特別なチョコレートだからだろうか。雪路は返事をしようと開く鏡夜の口に、チョコレートをプレゼントした。
「ありがと」
「ん、ハッピーバレンタイン」
 ふわりとチョコレートの甘い香りと、果実の香りが指先から零れ落ちる。リンゴのパート・ド・フリュイだろう。甘酸っぱい香りを纏いながら、つい、と鏡夜が雪路の衣をひく。
「私からも、ね、ハッピーバレンタイン」
 ひとつ、手にしたリンゴの形のチョコレートが雪路の口元に――襟巻きの上から、とん、と触れる。
「お返しに林檎を模したチョコレートを食べさせてあげたい、な」
 指先が襟巻きに触れる。少しだけずらされたそれに、悪戯っぽく笑いながら鏡夜が言った。
「してもらうだけはなんか、やだから、さ」
 あけて、と、つんつん、と触れる指先に、ふ、と笑う。じんわりと頬が染まるような想いより、ただ、彼女を思う心だけが強く残る。
「ふふ、ありがと。こういうのも嬉しい、ね」
 お返しのリンゴ型のチョコレートは口の中で、甘く幸せに溶けていく。柔く一つ、零した笑みと共に雪路は、襟巻きに触れたままの鏡夜の指先を捉えた。
「――雪路?」
「それと……」
 つい、と指先を引く。その付け根を手で撫でるように。彼女の左手に触れて――そう、と耳元へと唇をよせた。
「      」
 それは秘密の約束。
 囁くように告げて、雪路はゆっくりと顔を上げた。
「取り戻してからのはなしだけど、さ。どう、かな?」
「――」
 薄く開いた唇が、雪路、と名を呼んでいた。ん、と雪路は頷く。鏡夜の頬が赤く染まる。月明かりの無い夜、暗がりで雪路の瞳にはよく見えるように。
「そ、だね。取り戻してからだけどさ」
 耳元で囁かれた擽ったさなど、一瞬で飛んで行ってしまった。雪路から紡がれた秘密の約束。染まる頬を隠すことはできないまま、あぁ、けれど隠してしまいたくないとも思う。
「私の答えはもう決まってるから」
 真っ直ぐに鏡夜は雪路を見る。手を取って、共に歩いて――歩いてきてくれたひとを見る。その瞳に、自分が映っている。
「雪路」
 彼の名前を呼ぶ。指先、小さく引いたひとに言の葉を返すように――身を、寄せた。
「          」
「――」
 耳元に唇を寄せる。囁くように告げた秘密の約束への返事。雪路の頬が、赤く染まっているのが見える。
「もう少し待っていて、必ず守るから」
 コツン、と今度は、鏡夜から雪路の靴先に触れた。つま先の触れる距離で、愛おしいひとを見る。鏡夜、と名を呼ばれた。
「うん」
「待ってなんかいないよ、一緒に叶えよう」
 それは二人だけの約束。二人の誓い。
 一緒に叶えていくふたりの時間だ。
「ん、照れるね……一緒に、お願いします」
 空では、星々が輝いていた。遠い日に、絵物語に棲まうカラスが月明かりから隠したように。星の煌めきだけが灯りになる。
「ひひ、秘密の約束とはいえ流石に照れます、ね」
 頬が熱い、これは真っ赤になってそうだなぁ、と雪路は思った。このくらいの暗闇で、鏡夜の目から染まる頬を隠せる気はしない。
「ひひ、うん。二人だけの星空、だね」
 吐息を零すようにして、鏡夜が笑っていた。ほんのりと、息が白く染まる。
「もう少し星を見てようか。寒いでしょ、こっちおいで」
 しゅるり、と雪路は長めのマフラーをといて、一緒に入ろう、と誘う。こくり、と頷いた彼女の頭が、ぽすり、と肩に乗った。
「……ここが一番温かいや」
「うん、君の傍が一番温かい」
 傍らの鏡夜が、長いマフラーを受けとる。しゅるり、と一緒に巻いて。互いの体温を分け合うようにして空を眺めた。
 それは二人だけの星空、寒いけど心地よい世界で、約束を交わした二人は少しばかりの夜を過ごした。
超成功🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
効果1【傀儡】LV1が発生!
【通信障害】LV1が発生!
効果2【反撃アップ】LV1が発生!
【能力値アップ】がLV2になった!

最終結果:成功

完成日2025年02月28日

💝最終人類史のバレンタイン2025

 新宿島及び奪還済みの地域で、バレンタインを楽しみます。
 チョコを作ったり、造ったチョコを渡したりして、楽しいひと時を過ごしましょう。
 チョコを作る場所や材料などは、時先案内人と、新宿島や帰還した地域の人々が用意していますが、特別な材料などを持ち寄っても良いでしょう。心を込めたチョコレートを作ったり、渡したりして、バレンタインを楽しんでください。

※重要1

 多くのディアボロスや住民達が、最終人類史のお祭りを心から楽しむ事で、最終人類史の力はさらに高まり、ディヴィジョンの排斥力を弱められます。
 この効果により【3月1日】に、【2月末日までに完結した『新宿島のバレンタイン2025』のシナリオ数】と同じ日数だけ、その時点で発生している全てのディヴィジョンの全ての事件の【攻略期限】が延長されます。
(例えば【10シナリオ】が完結していれば、全ての事件の攻略期限が【10日】延長されます。なお、3月1日よりも前に攻略期限が来る事件や、攻略期限が無い事件、期限がくれば自動的に成功する事件に影響はありません)

※重要2

 この「💝バレンタインシナリオ」でプレイングが採用された方(トレインチケット含む)には超限定の「アイコンフレーム」をプレゼント!
 アイコンフレームのデザイン等の詳細はこちら

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#最終人類史(新宿島)
🔒
#💝最終人類史のバレンタイン2025
🔒
#バレンタイン2025
#〜25日朝に届く分まで


30




選択肢『最終人類史のバレンタイン』のルール

 最終人類史でバレンタインのイベントを楽しみます。
 時先案内人や、最終人類史の人々がいろいろなイベントの準備を行っていますので、是非、楽しんでください。
 バレンタインという事で、自作或いは購入したチョコレートやプレゼントのプレゼントをしてみるのも良いでしょう。

 詳しくは、オープニングの情報を確認してください。


 オープニングやマスターよりに書かれた内容を参考にしつつ、450文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★1個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は600文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 🎖🎖🎖 🔵🔵🔵🔵🔵
 超成功 🔵🔵🔵🔵🔵
 大成功 🔵🔵🔵🔵
 成功 🔵🔵🔵🔴
 善戦 🔵🔵🔴🔴
 苦戦 🔵🔴🔴🔴
 失敗 🔴🔴🔴🔴
 大失敗 [評価なし]

 👑の数だけ🔵をゲットしたら、選択肢は攻略完了です。
 また、この選択肢には、
『【完結条件】この選択肢の🔵が👑に達すると、シナリオは成功で完結する。』
 という特殊ルールがあります。よく確認して、行動を決めてください。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

『相談所』のルール
 このシナリオについて相談するための掲示板です。
 既にプレイングを採用されたか、挑戦中の人だけ発言できます。
 相談所は、シナリオの完成から3日後の朝8:30まで利用できます。